(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】フランシス型水車用ランナ及びフランシス型水車
(51)【国際特許分類】
F03B 3/12 20060101AFI20230426BHJP
F03B 3/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
F03B3/12
F03B3/02
(21)【出願番号】P 2020000507
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】中薗 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】向井 健朗
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-153011(JP,A)
【文献】特開2005-146934(JP,A)
【文献】特開平08-144924(JP,A)
【文献】特開2014-141903(JP,A)
【文献】特開2005-009321(JP,A)
【文献】米国特許第03764231(US,A)
【文献】米国特許第04420672(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 3/02
F03B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウン、バンド、及び前記クラウンと前記バンドとの間に設けられる羽根を備え、
前記羽根は、入口端部と出口端部とを有するとともに、圧力面及び負圧面のそれぞれにおける前記バンド側に、前記バンドに向けて厚さを次第に増加させて前記バンドに結合する付け根厚肉部を有しており、
前記出口端部は、前記入口端部から前記出口端部に向かう方向へ凸状に湾曲する第1湾曲部と、前記第1湾曲部と前記バンドとを接続し前記出口端部から前記入口端部に向かう方向へ凹状に湾曲する第2湾曲部とを有し、
前記第2湾曲部の底端を形成する極値点が、前記付け根厚肉部の前記クラウン側の端よりも前記バンド側に位置する、フランシス型水車用ランナ。
【請求項2】
前記第1湾曲部と前記第2湾曲部とは変曲点を介して接続されており、
前記変曲点が、前記付け根厚肉部の前記クラウン側の端上又は前記クラウン側の端よりも前記バンド側に位置し、前記極値点が、前記変曲点よりも前記バンド側に位置する、請求項1に記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項3】
前記第2湾曲部の内側及び前記第1湾曲部の前記バンド側を向く部分と前記バンドとの間を埋める翼面形成部材が設けられ、
前記翼面形成部材は、前記第1湾曲部と滑らかに連続して前記バンドに至る出口端部相補部を形成する、請求項1又は2に記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項4】
前記出口端部相補部は、前記出口端部から前記入口端部に向かう方向へ凹状に湾曲する、請求項3に記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項5】
前記出口端部相補部は、前記第1湾曲部と変曲点を介して接続される、請求項4に記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項6】
前記出口端部相補部と前記第1湾曲部との前記変曲点は、前記付け根厚肉部の前記クラウン側の端よりも前記クラウン側に位置する、請求項5に記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項7】
前記第2湾曲部の前記極値点における前記羽根の厚さは、前記付け根厚肉部の前記クラウン側の端における前記羽根の厚さよりも大きい、請求項1乃至6のいずれかに記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項8】
前記第2湾曲部の前記極値点における前記羽根の厚さは、前記付け根厚肉部の前記クラウン側の端における前記羽根の厚さの3倍以上である、請求項7に記載のフランシス型水車用ランナ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のフランシス型水車用ランナを備える、フランシス型水車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、フランシス型水車用ランナ及びフランシス型水車に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は一般的なフランシス型水車用ランナ100(以下、ランナ100)の軸方向に沿う断面図である。
図6に示すランナ100は、水流によるランナ100の回転を水車主軸に伝えるべく水車主軸に結合される円盤状のクラウン11と、クラウン11から軸方向に離れて配置されクラウン11と向き合う円盤状のバンド12と、クラウン11とバンド12との間に固定される複数の羽根13とを有し、複数の羽根13は周方向に間隔を空けて円形状に並んでいる。
【0003】
ランナ100を回転させる際、水流は、径方向で外側に位置する羽根13の入口端部14からクラウン11とバンド12との間の空間に進入し、羽根13の圧力面に圧力エネルギーを付与した後、径方向で内側に位置する羽根13の出口端部15から下流側に向かう。この際、羽根13には水流からの荷重により曲げモーメント等の負荷がかかるため、羽根13は当該負荷に耐え得るように所定の厚さが必要となる。
【0004】
一方で、損失の低減のためには出口端部15の厚さはなるべく薄いほうが望ましく、羽根13は一般に、その厚さが出口端部15に向けて次第に薄くなるように形成されている。このように羽根13が形成される場合、出口端部15のクラウン11側の端の厚さ及びバンド12側の端の厚さが薄くなるため、羽根13とクラウン11との結合部分及び羽根13とバンド12との結合部分における強度不足が懸念されるが、これら出口端部15の両端側においても適正な強度確保が当然に必要である。
【0005】
上述のようなランナ100を備えるフランシス型水車の通常の運転の際には、出口端部15のバンド12側にかかる負荷よりもクラウン11側にかかる負荷のほうが大きいことが一般に知られており、これまで出口端部15とバンド12との結合部分の強度確保には多くの関心が集まっていなかった。そのため、出口端部15とバンド12との間の強度に関連する公知の技術は多いとは言い難いが、例えば、出口端部のバンド側の部分に上流側に向けて凹となる湾曲部を設ける等の構造がこれまでに提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出口端部のバンド側の部分に上流側に向けて凹となる湾曲部を設ける上述の構造は、通常の運転時には有効であるものの、出口端部のバンド側近傍において生じる突発的な衝撃に対する強度に関しては必ずしも有効であるとは言えないことを本件発明者は知見した。上述の構造では、上記湾曲部のクラウン側の端がバンドから比較的大きく離れた位置に設定されることで、曲げモーメント発生時の出口端部バンド側における応力集中箇所の厚さが一般に小さくなっている。このことが、突発的な衝撃に対する十分な強度を確保し難くしているものと推認される。そのため、本件発明者は出口端部とバンドとの間の部分や出口端部のバンド側の部分に十分な強度を確保する手法を見出すべく鋭意研究を行った。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、羽根の出口端部のバンド側の部分における損傷リスクを低減できるフランシス型水車用ランナ及びフランシス型水車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態にかかるフランシス型水車用ランナは、クラウン、バンド、及び前記クラウンと前記バンドとの間に設けられる羽根を備える。前記羽根は、入口端部と出口端部とを有するとともに、圧力面及び負圧面のそれぞれにおける前記バンド側に、前記バンドに向けて厚さを次第に増加させて前記バンドに結合する付け根厚肉部を有する。前記出口端部は、前記入口端部から前記出口端部に向かう方向へ凸状に湾曲する第1湾曲部と、前記第1湾曲部と前記バンドとを接続し前記出口端部から前記入口端部に向かう方向へ凹状に湾曲する第2湾曲部とを有する。前記第2湾曲部の底端を形成する極値点は、前記付け根厚肉部の前記クラウン側の端よりも前記バンド側に位置している。
【0010】
また、一実施の形態にかかるフランシス型水車は、前記のフランシス型水車用ランナを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、羽根の出口端部のバンド側の部分における損傷リスクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施の形態にかかるフランシス水車の子午面における概略的な断面図である。
【
図2】
図1の矢印IIの方向に見たフランシス水車のランナの図である。
【
図3】
図1に示すフランシス水車のランナの羽根の出口端部及びバンドの斜視図である。
【
図4】
図1に示すフランシス水車のランナの羽根の出口端部及びバンドを羽根の出口端部と向き合う位置から見た図である。
【
図5】第2の実施の形態にかかるフランシス水車のランナの羽根出口端部周辺を示す図である。
【
図6】一般的なフランシス型水車用ランナの軸方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して各実施の形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態の構成部分のうちの
図6を用いて説明したフランシス型水車用ランナの構成部分と同一のものには、同一の符号が付されている。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態にかかるフランシス型水車の一形態であるフランシス水車1の子午面における概略的な断面図である。なおフランシス型水車とは、本明細書においてフランシス水車又はフランシス型ポンプ水車のことを意味する。
【0015】
図1に示すフランシス水車1は、クラウン11、バンド12、クラウン11とバンド12との間に設けられる複数の羽根13を有するフランシス型水車用ランナ10(以下、ランナ10)を備える。
図1においては、フランシス水車1の構成部材である水車主軸2と吸出し管3とが二点鎖線で示されている。
【0016】
ランナ10には図示しないケーシングからの水流が矢印Aの方向に沿って進入し、ランナ10はこの水流によって中心軸線Cを中心に回転する。以下の説明においては、単に軸方向と言う場合、その方向はランナ10の中心軸線C上を延びる方向又は中心軸線Cに平行な方向を意味する。また、単に径方向と言う場合、その方向は、中心軸線Cに直交するいずれかの方向を意味する。また、周方向と言う場合、その方向は、中心軸線Cを中心とするランナ10の回転方向に沿う方向を意味する。
【0017】
クラウン11は、ランナ10の回転を水車主軸2に伝えるべく水車主軸2に結合される円盤状の部材であり、バンド12は、クラウン11から軸方向に離れて配置されクラウン11と向き合う円盤状の部材である。正確には、バンド12は中空の円盤状であり、また吸出し管3側(下流側)に向けて先細りとなる筒状をなすとも言える。複数の羽根13は周方向に間隔を空けて円形状に並んでおり、各羽根13は、径方向で外側に位置する入口端部14と、径方向で内側に位置する出口端部15とを有している。
【0018】
図2は
図1の矢印IIの方向に見たランナ10の図であり、羽根13の出口端部15のバンド12側の周辺の領域Rの拡大図を併せて示している。
図3は羽根13の出口端部15及びバンド12の斜視図である。
図4は羽根13の出口端部15及びバンド12を、出口端部15と向き合う位置から見た図である。
【0019】
図2乃至
図4に示すように、本実施の形態における羽根13の出口端部15は、入口端部14から出口端部15に向かう方向へ凸状に湾曲する第1湾曲部151と、第1湾曲部151とバンド12とを接続し出口端部15から入口端部14に向かう方向へ凹状に湾曲する第2湾曲部152とを有している。また羽根13は、その圧力面13Pのバンド12側にバンド12に向けて厚さを次第に増加させてバンド12に結合する付け根厚肉部16Pを有するとともに、その負圧面13Nのバンド12側にバンド12に向けて厚さを次第に増加させてバンド12に結合する付け根厚肉部16Nを有する。付け根厚肉部16P,16Nは入口端部14から出口端部15にかけて長尺に延び、入口端部14側に近づくに従い及び出口端部15側に近づくに従い厚さを漸減させるように形成されている。
【0020】
ここで
図2乃至
図4における符号15Bは第2湾曲部152の底端を形成する極値点を示しており、本実施の形態ではこの極値点15Bが付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端よりもバンド12側に位置する。なお、極値点は、バンド12の羽根13側の面側に進むに従い入口端部14側に近づく方向への傾きと、バンド12の羽根13側の面側に進むに従い出口端部15側に近づく方向への傾きとの切り替え点である。また符号20は第1湾曲部151と第2湾曲部152との接続位置に設定される湾曲部接続変曲点を示しており、第1湾曲部151と第2湾曲部152は湾曲部接続変曲点20を介して連続する。本実施の形態ではこの湾曲部接続変曲点20が付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端上又はクラウン11側の端よりもバンド12側(本例では、クラウン11側の端上)に位置しており、上記の極値点15Bは湾曲部接続変曲点20よりもさらにバンド12側に位置する。
【0021】
以上のように極値点15B及び湾曲部接続変曲点20がバンド12に近い側に配置されることで、本実施の形態では、
図4に示すように第2湾曲部152の極値点15Bにおける羽根13の厚さT1が付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端における羽根13の厚さT2よりも大きくなる。
【0022】
詳しくは、第2湾曲部152の極値点15Bは付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端よりもバンド12側に位置しており、厚さT1は付け根厚肉部16P、16Nの例えば中腹部の表面間の厚さになり、これにより厚さT1は付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端又はこの周辺における羽根13の厚さT2よりも大きくなる。なお、厚さT1は厚さT2の3倍以上であることが好ましい。羽根13は詳しくは、クラウン11及びバンド12間に設けられる板状の羽根本体部分と、羽根本体部分のバンド12側に設けられる付け根厚肉部16P,16Nとを有するものである。
図3の破線部分は、付け根厚肉部16P,16Nに覆われた羽根本体部分のバンド12側の部分を示している。上記厚さT1は、極値点15Bを通り且つ羽根本体部分の厚さ方向に平行な直線が、付け根厚肉部16P,16Nの表面と交差する2点の間の距離である。
【0023】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0024】
フランシス水車1では、水流が羽根13の入口端部14からクラウン11とバンド12との間の空間に進入し、羽根13の圧力面に圧力エネルギーを付与することでランナ10が回転する。このような運転の際、羽根13には水流からの荷重により曲げモーメント等の負荷がかかり、また突発的な荷重による曲げモーメントが羽根13にかかる場合もある。
【0025】
ここで本実施の形態では、第2湾曲部152の底端を形成する極値点15Bが付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端よりもバンド12側に位置する。これにより第2湾曲部152の極値点15Bにおける羽根13の厚さT1は、付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端における羽根13の厚さT2よりも大きくなる。
【0026】
そのため、上記曲げモーメントが生じた場合には、第2湾曲部152の極値点15Bである底端の周辺部分に応力集中が生じ得るが、当該底端の周辺部分では厚さを大きく確保し得るため、曲げモーメントによる応力集中に耐え得る強度を確保し易くなる。すなわち、一般的な構成においては、第2湾曲部152に相当する湾曲部のクラウン側の端がバンドから比較的大きく離れて位置に設定され、且つ極値点に対応する位置もバンドから大きく離れ、応力集中箇所における厚さが大きく確保されていないことが通常である。このような構成よりも、本実施の形態の構成では曲げモーメント発生時の応力集中に耐え得る強度を確保し易くなる。
【0027】
したがって、本実施の形態にかかるランナ10によれば、羽根13の出口端部15のバンド12側の部分における損傷リスクを低減できる。
【0028】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態について
図5を参照しつつ説明する。第2の実施の形態における構成部分のうちの第1の実施の形態の構成部分と同一のものには同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0029】
本実施の形態における羽根13の出口端部15の形状は第1の実施の形態と同じである。一方で、
図5に示すように羽根13には、第2湾曲部152の内側及び第1湾曲部151のバンド12側を向く部分とバンド12との間を埋める翼面形成部材30が設けられている。この翼面形成部材30は、羽根13、バンド12、クラウン11とは別体で形成されたものであり、これらとは構造強度上独立したものである。翼面形成部材30は、第1湾曲部151と滑らかに連続してバンド12に至る出口端部相補部31を形成する。このような翼面形成部材30を形成する材料は特に限られるものではないが、樹脂等を含む硬化型の充填材等でもよい。
【0030】
また、図示の出口端部相補部31は出口端部15から入口端部14に向かう方向へ凹状に湾曲している。また、出口端部相補部31は第1湾曲部151と変曲点32を介して第1湾曲部151と滑らかに接続される。この変曲点32は、付け根厚肉部16P,16Nのクラウン11側の端よりもクラウン11側に位置しており、湾曲部接続変曲点20よりもクラウン11側である。
【0031】
このような第2の実施の形態では、水流の乱れを抑制しつつ、出口端部15のバンド12側周辺における損傷リスクを低減できる。
【0032】
以上、各実施の形態を説明したが、上記の各実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述の実施の形態及びその他の変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0033】
例えば上述の各実施の形態ではフランシス水車を説明したが、フランシス型ポンプ水車に上述の各実施の形態で説明した構成が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…フランシス水車、2…水車主軸、3…吸出し管、10…フランシス型水車用ランナ、11…クラウン、12…バンド、13…羽根、14…入口端部、15…出口端部、15B…極値点、151…第1湾曲部、152…第2湾曲部、16P,16N…付け根厚肉部、20…湾曲部接続変曲点、30…翼面形成部材、31…出口端部相補部、32…変曲点