(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】細胞治療剤の有効性の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230426BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230426BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20230426BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230426BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230426BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230426BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230426BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
A61P19/02
A61K35/32
A61P43/00 107
C12Q1/02
C12N5/10
G01N33/15 Z
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2020522654
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 KR2018007438
(87)【国際公開番号】W WO2019004795
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0083569
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517249886
【氏名又は名称】コーロン ライフ サイエンス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】KOLON LIFE SCIENCE, INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】520000892
【氏名又は名称】コーロン ティシュージーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】キム、スチョン
(72)【発明者】
【氏名】ノ、サンウン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジュンホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒョンヨル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、キョンペク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒョンシク
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-521732(JP,A)
【文献】国際公開第2016/126139(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0055080(US,A1)
【文献】特開2016-136159(JP,A)
【文献】特開2009-137980(JP,A)
【文献】JOU, I. et al.,Thrombospondin 1 as an Effective Gene Therapeutic Strategy in Collagen-Induced Arthritis,ARTHRITIS & RHEUMATISM,2005年01月,Vol.52, No.1,pp.339-344
【文献】LO, W. et al.,Preferential therapy for osteoarthritis by cord blood MSCs through regulation of chondrogenic cytokines,Biomaterials,2013年,Vol.34,pp.4739-4748
【文献】CHOI, K. B. et al.,hChonJb#7 Cells (Chondrocytes Expressing TGF-b1) Reduced Pain in a Rat Osteoarthritis Model,Molecular Therapy,2013年05月,Vol.21, Supplement 1,p.S56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップを含む、骨関節炎細胞治療剤の有効性の評価方法:
(1)(a)TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とをそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)の第1集団及び第2集団をそれぞれバイアル内に充填するステップと、
(3)前記ステップ(2)の第1集団を不活性化するステップと、
(4)前記ステップ(3)の第1集団を培養するステップと、
(5)前記ステップ(4)の前記第1集団からTGF-βの濃度を測定するステップと、
(6)前記ステップ(5)で測定されたTGF-βの濃度に基づいて、
前記第1集団及び前記第2集団からなる細胞組成物
を含む前記骨関節炎細胞治療剤の治療剤としての有効性を評価するステップであり、
前記ステップ(6)でのTGF-βの発現量が0.65ng/10
5cell/24hr以上である場合、
前記細胞組成物を含む前記骨関節炎細胞治療剤が治療剤として有効であると判断する、方法。
【請求項2】
前記ステップ(3)の不活性化は、放射線照射によるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射線照射は、ガンマ線、X線または電子線である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)のバイアルは、凍結保存液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(2)の凍結保存液は、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(2)の凍結保存液は、DMSOを5~15体積%で含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(3)の不活性化は、バイアルを凍結する前または後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記凍結は、-20~-196℃で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(4)の培養は、凍結されたバイアルを解凍後に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記解凍は、15~40℃で1~90分間放置する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(4)の培養は、6時間~96時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2集団のTSP-1(thrombospondin-1)の発現有無を確認
し、発現がある場合に前記細胞組成物を含む前記骨関節炎細胞治療剤が治療剤として有効であると判断するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記TSP-1の発現量が31ng/10
5cell/24hr以上である場合、治療剤として有効であると判断する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
次のステップを含む骨関節炎
細胞治療剤の製造方法:
(1)(a)TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とをそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)の第1集団及び第2集団をそれぞれバイアル内の凍結保存液内に充填するステップと、
(3)前記ステップ(2)の第1集団をバイアルを凍結する前または後に不活性化するステップと、
(4)前記ステップ(3)の前記第1集団を解凍するステップと、
(5)前記ステップ(4)の第1集団を培養するステップと、
(6)前記ステップ(5)の第1集団からTGF-βの発現量を測定するステップと、
(7)前記ステップ(6)で測定されたTGF-βの発現量が0.65ng/10
5cell/24hr以上である細胞を選別するステップと、
(8)前記第2集団のTSP-1(thrombospondin-1)の発現
有無を
確認し、発現がある細胞を選別するステップ
と、を含み、
前記骨関節炎細胞治療剤が、前記ステップ(7)で選別された細胞及び前記ステップ(8)で選別された細胞を有効成分として含む、方法。
【請求項15】
前記
ステップ(8)で選別された細胞のTSP-1の発現量が31ng/10
5cell/24hr以上である
、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞治療剤の有効性の評価方法および骨関節炎治療剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
退行性関節炎とも呼ばれる骨関節炎は、軟骨の損傷または退行性変化により、関節をなす骨、軟骨及び靭帯などに損傷が起こり、炎症と痛みが生じる慢性疾患である。骨関節炎は指、膝(膝関節)、尻(股関節)、腰(腰椎関節)、首(頸椎の関節)などの体中のほぼすべての関節で発症する。骨関節炎の発症原因はまだ明確には解明されていないが、年齢、遺伝的素因、外傷、環境的な影響などの複合的な原因で発生することが知られている。過去には、その発生が年齢と関連し、関節の過度の使用や老化による軟骨の摩耗により発生するものと考えられてきたが、軟骨の代謝に関与する様々な物質(サイトカイン、分解酵素など)が明らかになるにつれて、様々な原因によってこれらの物質が軟骨細胞の代謝バランスの異常、炎症免疫反応などを起こして軟骨を損傷させることと理解されている。
【0003】
骨関節炎の主な症状は、反復的な痛み、関節の強直感、機動力の低下および機能喪失である。臨床的な経過は、通常、徐々に進行していく。ある程度病気が進行するにつれて、関節軟骨の消失と変性によって関節面が不規則になると、痛みの程度が増強し、漸進的な運動障害のために日常生活に大きな支障をきたすことになる。また、関節の変形も起こる。軟骨の成長に関連する調節因子(modulator)及び生化学的因子(biochemical factor)を標的とした研究が進行中である。これらの因子は、骨形成の効果的な刺激因子であるBMP(bone morphogenetic protein)、及び細胞成長と細胞外基質(extracellular matrix、ECM)の形成を刺激するTGF-β(transforming growth factor beta)を含む。特に、TGF-βは、コラーゲン(collagen)とプロテオグリカン(proteoglycan)の合成、軟骨細胞の生長及び組織再生に関与することが知られている。また、TGF-βは、免疫抑制および抗炎症機能を有することが知られている。EGF(epidermal growth factor)、IGF-I(insulin-like growth factor I)、BFGF(basic fibroblast growth factor)のような他の成長因子もまた軟骨の再生を刺激するが、これらの成長因子は、軟骨の損傷に効果を示さなかった。
【0004】
前記のような成長因子は、投与において、濃度、放出速度および伝達方法などの決定に困難がある。研究者らは、動物実験で証明された結果に基づいて、これらの因子をリポソーム(liposome)を介して、または培地に溶解して伝達しようとする努力を継続的に行ってきた。しかし、これらの因子の人間への適用は、大きく進んでいない状況である。
【0005】
遺伝的に変形された軟骨細胞の利用は、細胞媒介遺伝子治療法と組み合わせて軟骨の再生を成功的に導いた非常に新規な技術である(Lee KHらHum Gene Ther 2001;12:1805-1813、SUN U.SONGらTissue Engineering 2005;11:1516-1526)。この方法は、TGF-β遺伝子を有するレトロウイルスベクターで形質導入(transduction)された同種(allogeneic)ヒト軟骨細胞と同種正常軟骨細胞とを混合して使用する。この方法は、外科的方法を最小限に抑えるとともに、軟骨の再生を誘導することができる。
【0006】
一方、生きている細胞を生産して提供する細胞治療剤の場合、培地変更などの生産条件や温度などの作業環境の変化により、医薬品に差異が発生し得る。このため、細胞治療剤の生産時、実質的に患者に適用可能なレベルで治療有効性が確保されたかを確認するための品質管理基準が不可欠な状況である。しかし、有効性が確保された細胞治療剤であるかを検証できる一貫した手順と技術を確保することは非常に難しい。したがって、各細胞治療剤に適合するように有効性を検証できる方法と基準を確立する段階が必ず必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の下で、本発明者らは、特定の疾患、特に骨関節炎に対する細胞治療剤の有効性を評価する方法を開発し、優れた効果を有する骨関節炎治療剤を製造できる方法を確立するために鋭意努力した。その結果、TGF-βタンパク質を発現するように形質転換した組換え細胞でTGF-βが特定の数値以上の発現量を示す場合に、当該細胞治療剤が骨関節炎の治療に有意な効果を示すことを確認した。また、形質転換していない細胞でTSP-1(thrombospondin 1)が特定の数値以上の発現量を示す場合に、当該細胞治療剤が骨関節炎の治療に有意な効果を奏することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、細胞治療剤の有効性の評価方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、骨関節炎治療剤を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0011】
本発明の一態様によると、本発明は、次のステップを含む細胞治療剤の有効性の評価方法を提供する:
(1)(a)TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とをそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)の第1集団及び第2集団をそれぞれバイアル(vial)内に充填するステップと、
(3)前記ステップ(2)の第1集団を不活性化するステップと、
(4)前記ステップ(3)の第1集団を培養するステップと、
(5)前記ステップ(4)の前記第1集団からTGF-βの濃度を測定するステップと、
(6)前記ステップ(5)で測定されたTGF-βの濃度に基づいて、細胞組成物の治療剤としての有効性を評価するステップであり、
前記ステップ(6)でのTGF-βの発現量が0.65ng/105cell/24hr以上である場合、治療剤として有効であると判断する。
【0012】
これに関し、前記第1集団は、TGF-βで形質転換して遺伝形質が変形された細胞である。このように、遺伝形質が変形された細胞を医薬品として提供するにあたり、予期せぬ状況を防止し、安全性を確保するためには、細胞を複製不能(replication incompetent)状態にする不活性化過程(例えば、放射線照射)を経ることが好ましい。しかし、不活性化の過程は、細胞のTGF-βの分泌および細胞に影響を及ぼすので、不活性化後も治療剤として有効であるか、その有効性を判断するための判断基準が必須的に求められる。
【0013】
したがって、本発明の最大の特徴は、TGF-βで形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とで構成される細胞治療剤(混合細胞)の第1集団内のTGF-β発現量を基準に用いて前記第1集団の品質を確認することにより、細胞治療剤としての有効性有無を決定することにある。
【0014】
本発明において、TGF-βで形質転換した哺乳類細胞の第1集団に含まれる細胞または細胞群は、好ましくは、TGF-β1を発現する細胞または細胞群である。
【0015】
本発明において、本発明の細胞治療剤の有効性を判断する基準となる前記第1集団のTGF-βの発現量は、目的とする効果を達成する限り、これらに限定されないが、好ましくは0.65ng/105cell/24hr以上であり、より好ましくは1.0ng/105cell/24hr以上であり、最も好ましくは1.7ng/105cell/24hr以上である。
【0016】
本発明の一実施形態では、TGF-βの発現量が0.63ng/105cell/24hrのとき、有意な痛みの緩和および軟骨構造の改善効果がないことを確認することにより、少なくとも0.65ng/105cell/24hr以上のTGF-β発現量が求められることを確認した。
【0017】
本発明の細胞治療剤の有効性の指標は、指標としての精度および信頼性に優れるので、骨関節炎治療剤の有効性の決定に用いることができる。
【0018】
本発明で前記TGF-βタンパク質の発現程度を意味する用語としては、発現量または分泌量を使用することができる。
【0019】
本明細書で使用される用語「有効性の判断」は、本願で細胞治療剤の治療効果について有利または不利に反応する可能性を指すのに使用される。本発明で前記判断は、この反応の程度に関するものである。例えば、有効性の判断は、細胞治療剤を処置後の骨関節炎の治療効果の有無、及び/又はその確率に関するものである。
【0020】
本発明の好ましい具現例によると、前記ステップ(3)の不活性化は放射線照射によるものであり、前記放射線照射はガンマ線、X線または電子線であってもよいが、これらに限定されず、当業界で公知の様々な技術を用いて容易に行うことができる。
【0021】
本発明の好ましい具現例によると、前記ステップ(2)のバイアルは、凍結保存液を含み、前記凍結保存液は、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含む。
【0022】
好ましくは、前記凍結保存液は、DMSOを5~15体積%で含むことができる。
【0023】
また、前記ステップ(3)の不活性化は、バイアルを凍結する前または後に行うことができ、前記凍結は-20~-196℃で行うことができる。
【0024】
前記ステップ(4)の培養は、凍結されたバイアルを解凍した後に行われる。前記解凍は15~40℃で1~90分間放置して行うことができる。
【0025】
前記ステップ(4)の培養は、6~96時間行うことができる。
【0026】
本発明の好ましい具現例によると、前記哺乳類細胞は、軟骨細胞または軟骨前駆細胞であってもよい。
【0027】
また、本発明は、さらに、前記第2集団のTSP-1遺伝子の発現有無を確認するステップを含む。例えば、正常な軟骨細胞、軟骨前駆細胞または幹細胞は、TSP-1を発現することが公知されている。本発明の一実施形態では、TSP-1の発現有無が前記第2集団を含む細胞治療剤の治療効果に重要な役割を果たすことを確認した。
【0028】
したがって、前記第2集団内のTSP-1遺伝子の産物であるRNAまたはタンパク質を検出することにより、前記遺伝子の発現有無を確認することができ、第2集団の有効性を評価することができる。
【0029】
本発明の細胞治療剤の有効性を判断する基準となる前記第2集団のTSP-1発現量は、目的とする効果を達成する限り、これらに限定されないが、好ましくは31ng/105cell/24hr以上であり、より好ましくは50ng/105cell/24hr以上であり、最も好ましくは90ng/105cell/24hr以上である。
【0030】
本発明の一実施形態では、TSP-1の発現量が30.53ng/105cell/24hrのとき、有意な痛みの緩和および軟骨構造の改善効果がないことを確認することにより、少なくとも31ng/105cell/24hr以上のTSP-1発現量が求められることを確認した。
【0031】
本発明の一具現例によると、前記(a)TGF-βで形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とで構成される細胞治療剤の前記第1集団内のTGF-β発現量が0.65ng/105cell/24hr以上であり、前記第2集団内のTSP-1発現量が31ng/105cell/24hr以上に検出(確認)された場合、前記細胞治療剤は骨関節炎の治療効果があると判断する。
【0032】
前記検出は、通常、試料からRNAまたはタンパク質を抽出し、抽出物中のRNAまたはタンパク質の特定の部分を検出することにより行うことができる。このRNAまたはタンパク質の検出は、免疫分析学的な方法、ハイブリッド化反応および増幅反応によって測定できるが、これらに限定されず、当業界で公知の様々な技術を用いて容易に行うことができる。
【0033】
前記検出製剤は、前記遺伝子に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド、プライマーペア、プローブ及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。つまり、核酸の検出は、遺伝子を暗号化する核酸分子、または前記核酸分子の相補物にハイブリッド化される1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーを使用する増幅反応によって行うことができる。
【0034】
例えば、プライマーを用いた核酸の検出は、PCR(polymerase chain reaction)などの増幅方法を用いて遺伝子配列を増幅した後、当業界で公知の方法で遺伝子の増幅有無を確認することで行うことができる。
【0035】
また、前記検出製剤は、前記タンパク質のアミノ酸部位に対して特異的に結合する抗体であってもよく、多クローン抗体、単クローン抗体、組換え抗体、及びこれらの組み合わせをすべて含む。
【0036】
前記抗体は、多クローン抗体、単クローン抗体、組換え抗体、および2つの全長の軽鎖および2つの全長の重鎖を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片、例えばFab、F(ab’)、F(ab’)2及びFvをすべて含む。抗体の生産は、当業界で公知の技術を用いて容易に製造することができ、商業的に販売される抗体を用いることができる。
【0037】
また、本発明の他の態様によると、本発明は、次のステップを含む骨関節炎治療剤の製造方法を提供する:
(1)(a)TGF-βで形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とをそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)の第1集団および第2集団をそれぞれバイアル内の凍結保存液内に充填するステップと、
(3)前記ステップ(2)の第1集団をバイアルを凍結する前または後に不活性化するステップと、
(4)前記ステップ(3)の前記第1集団を解凍するステップと、
(5)前記ステップ(4)の第1集団を培養するステップと、
(6)前記ステップ(5)の第1集団からTGF-βの発現量を測定するステップと、
(7)前記ステップ(6)で測定されたTGF-βの発現量が0.65ng/105cell/24hr以上である細胞を選別するステップ。
【0038】
本発明の好ましい具現例によると、前記方法は、ステップ(8)として、前記第2集団のTSP-1の発現量を測定し、前記TSP-1の発現量が31ng/105cell/24hr以上である細胞を選別するステップをさらに含む。
【0039】
すなわち、本発明の方法は、前記第1集団のTGF-β発現量が0.65ng/105cell/24hr以上であり、前記第2集団のTSP-1発現量が31ng/105cell/24hr以上である細胞を選別し、治療剤として有効であると判断して製造する。
【0040】
本発明の骨関節炎治療剤の製造方法は、前述した(a)TGF-βで形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団内のTGF-β及び/又はTSP-1の発現量に基づいて有効性を判断する構成を含むので、重複する内容は、本明細書の過度の複雑さを避けるためにその記載を省略する。
【発明の効果】
【0041】
本発明の細胞治療剤の有効性を判断する基準として、(a)TGF-βで形質転換した哺乳類細胞の第1集団内のTGF-β発現レベルと、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団内のTSP-1発現レベルを用いると、個々の細胞治療剤の治療有効性を、治療開始前に確実に判定することができ、治療効果を向上させることが可能となる。また、効果が得られない細胞治療剤の使用を回避できるので、不必要な手術および副作用を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、TC細胞におけるTGF-β1タンパク質の発現量を示す。
【
図2】
図2は、細胞生産batchごとのTGF-β1の発現量を確認した結果を示す。
【
図3a】
図3aは、MIA誘導骨関節炎動物モデルに混合細胞及び/又はanti-TGF-β1中和抗体(anti-TGF-β1 neutralizing antibody)を処理したときのフォンフレイフィラメント(von Frey filament)テストの結果を示す。
【
図3b】
図3bは、前記フォンフレイフィラメントの結果をAUC(area under the curve)で表すものである。
【
図4】
図4は、HC及びTC細胞におけるTSP-1タンパク質の発現量を示す。
【
図5】
図5は、細胞生産batchごとのTSP-1の発現量を確認した結果を示す。
【
図6a】
図6aは、MIA誘導骨関節炎動物モデルに混合細胞及び/又はanti-TSP-1中和抗体を処理したときのフォンフレイフィラメントテストの結果を示す。
【
図6b】
図6bは、前記フォンフレイフィラメントの結果をAUC(area under the curve)で計数した結果を示す。
【
図7a】
図7aは、MIA骨関節炎動物モデルに様々な値のTGF-β1発現を示す混合細胞を処理したときのフォンフレイフィラメントテストの結果を示す。
【
図7b】
図7bは、前記フォンフレイフィラメントの結果をAUC(area under the curve)で表すものである。
【
図7c】
図7cは、H&E染色組織の分析結果を示す。
【
図8a】
図8aは、TGF-β1の有効最小値を確認するために行った、
TGF-β1
9ng_混合細胞、1.7ng_混合細胞のVFF testの結果を示す。
【
図9a】
図9aは、TSP-1の有効最小値を確認するために行った、
それぞれ異なる
値を示すHCを用いたVFF testの結果を示す。
【
図9c】
図9cは、H&E染色組織の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。本発明による実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲が後述する実施例に限定されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明である。
【0044】
実施例1.細胞治療剤の用意
本発明で用いられる細胞治療剤は、TGF-β1(NCBI Reference Sequence:NM_000660.6)を発現するように形質転換した細胞集団(第1集団;「TC」)と、前記遺伝子で形質転換していない正常な細胞集団(第2集団;「HC」)とを含む混合細胞である。
【0045】
前記TCは、TGF-β1のcDNAを公知の方法により細胞に注入して製造することができる。例えば、TGF-β1のcDNAを、アンピシリン、ネオマイシンなどの抵抗遺伝子を有する公知のベクター[例えば、Promega社製のpCI(アンピシリン抵抗遺伝子を含有)]に含ませて、TGF-β1のcDNAを含むベクターを製造した後、軟骨細胞にリン酸カルシウム(calcium phosphate)方法またはリポペクチン(lipofectin)方法などの公知の方法で前記ベクターを注入することにより製造できる。
【0046】
また、前記HC及びTCは、ヒト由来軟骨細胞であって、HCは正常軟骨細胞であり、TCはTGF-β1が分泌されるように形質転換した軟骨細胞である。HC及びTCの作製方法は、[Cytotherapy,2012 Feb;14(2):247-256]、並びに米国特許第7,005,127号および米国特許第7,282,200号に開示されている。
【0047】
前記HC及びTCの混合比は、細胞数を基準に3:1で混合して以下の実施例に適用した。
【0048】
作製されたTC及びHCは、それぞれバイアルに充填した後、凍結し、混合細胞治療剤としての使用のために準備・保管した。このとき、TCは凍結前または凍結後、放射線照射により不活性化した。
【0049】
実施例2.細胞治療剤におけるTGF-β1の発現の確認
本発明者らは、実施例1と同様にして用意した細胞治療剤である混合細胞に対して、その有効性を判断する基準を構築するために、製造工程に従って製造されたTC細胞がTGF-β1を発現するかどうかを確認した。
【0050】
TC細胞をバイアルに充填した後、凍結させた状態で不活性化を行った。不活性化を行った後、凍結保存中の細胞バイアルを取り出し、37℃水槽で解凍した。その後、細胞をバイアルから取り出し、培地が添加されたコニカルチューブに入れた。細胞を210xgで5分間遠心分離して上澄み液を除去した。細胞沈殿物を十分に混ぜて培養培地で懸濁した後、6-ウェルプレートに1.0x105cells/wellとなるように3つのウェル(well)に接種し、2mL培養培地を入れた後、24時間、37℃のCO2培養器で培養した。
【0051】
24時間後、培地を入れ替えて、再度37℃のCO2培養器で24時間培養した後、1mLずつ培養液をサンプリングした。このとき、3つのウェルには培地のみを単独で2mL入れ、陰性対照群として用いた。サンプリングした培養液内のTGF-β1の量をELISA方法で測定し、陰性対照群も同様に測定した。TGF-β1分泌水準の計算は、「サンプルのTGF-β1の平均分泌量-陰性対照群のTGF-β1の平均分泌量」より計算した。
【0052】
その結果、
図1及び下記表1に示すように、TC細胞では平均5.07ng/1x10
5cells/24hrのTGF-β1が発現されることを確認することができた。
【0053】
【0054】
実施例3.バッチ(batch)ごとのTGF-β1発現量の確認
TC細胞において、細胞治療剤としての有効性を示すTGF-β1発現の基準を構築するために、製造バッチ(batch)ごとにTGF-β1の発現量を調べた。
【0055】
その結果、
図2及び下記表2に示すように、バッチごとにTGF-β1タンパク質の発現量に差があることが分かった。
【0056】
【0057】
このように、生産バッチごとにTGF-β1タンパク質の発現量に差が生じるので、工程が変わるなどの変化があった場合に、より大きな差が発生する可能性も存在する。したがって、有効な効果を同じように再現できる細胞治療剤の品質管理のためには、TGF-β1発現の基準濃度が構築されるべきである。
【0058】
実施例4.細胞治療剤におけるTGF-β1の発現と治療効果との関連性の検証
本発明者らは、実質的にTCのTGF-β1発現量と治療効果との間に密接な関連性が存在するかどうかを検証するために、MIA骨関節炎動物モデルを作成し、混合細胞および/またはanti-TGF-β1中和抗体を処理し、痛みの変化を観測した。
【0059】
MIA投与2週間後、骨関節炎が誘発された個体を対象に、対照群であるCS-10投与群(vehicle)、またはHCとTCを3:1で混ぜた混合細胞(1.2x106)を左膝の関節腔内に投与した。中和抗体実験のために、対照抗体(IgG、500ng/30μL)及びTGF-β1中和抗体(anti-TGF-β1、500ng/30μL)を、混合細胞投与当日と3日目に左膝の関節腔内に投与した。
【0060】
その後、フォンフレイフィラメントテストを測定した。前記テストでは、1980年Dixon(Chaplan SR et al.,Quantitative assessment of tactile allodynia in the rat paw,Journal of Neuroscience Methods,1994,53:55-63;及び、Dixon WJ,Efficient analysis of experimental observations,Annual Reviews Pharmacology and Toxicology,1980,20:441-62)が確立した50%up&down threshold法を使用した。N値がそれぞれ0.4、0.6、1、2、4、6、8、15gram(g)である合計9つのフィラメントを用いて痛みの反応を調査し、定められたパターンに従って閾値(threshold)を計算した。
【0061】
その結果、
図3a及び
図3bに示すように、実験後7日目にCS-10投与群(vehicle)で1.46±0.54、混合細胞投与群で4.87±0.8の測定結果を確認した。このような鎮痛効果は、細胞投与後42日目まで類似した傾向で見られ、CS-10投与群と比較して、すべての測定値から統計的有意性のある鎮痛効果が観察された(P<0.05)。
【0062】
また、混合細胞投与時、TCから分泌されるTGF-β1が鎮痛効果にどのような影響を及ぼすかを確認するために、TGF-β1タンパク質の活性を中和および抑制してその効果を遮断するanti-TGF-β1中和抗体を共に処理した。このとき、混合細胞投与群で示された痛みの治療効果は、投与後7日目にTGF-β1中和抗体投与群(混合細胞+anti-TGF-β1)で1.43±0.38であり、CS-10投与群と類似した程度の痛みが示されることを確認でき、42日目まで差が見られなかった。これに対して、対照抗体(IgG)を使用した群(混合細胞+IgG)は、混合細胞投与群と類似した程度の痛みの治療効果を維持した。
【0063】
前述のことから、TCから分泌されるTGF-β1が骨関節炎の治療に重要な影響を及ぼすことが分かる。
【0064】
実施例5.細胞治療剤におけるTSP-1の発現の確認
HC及びTC細胞におけるTSP-1(NCBI Reference Sequence:NM_003246.3)タンパク質の発現有無および発現量を調査するために、前記実施例2と同様にして凍結保存中の各細胞バイアルを解凍し、ELISA方法でTSP-1の量を測定した。
【0065】
その結果、
図4及び下記表3に示すように、HC細胞では180.37ng/1x10
5cells/24hrのTSP-1が発現されたが、TC細胞では0.29ng/1x10
5cells/24hrであり、TSP-1の発現が阻害されることが確認できた。
【0066】
【0067】
実施例6.バッチ(batch)ごとのTSP-1発現量の確認
HC細胞において、細胞治療剤としての有効性を示すTSP-1発現の基準を構築するために、前記実施例2と同様にして細胞培養バッチ(batch)ごとにTSP-1の発現量を調べた。
【0068】
その結果、
図5及び下記表4に示すように、バッチごとにTSP-1の発現量に差があることが分かった。
【0069】
【0070】
このように、生産バッチごとにTSP-1タンパク質の発現量に差が生じるので、工程が変わるなどの変化があった場合に、より大きな差が発生する可能性も存在する。したがって、有効な効果を同じように再現できる細胞治療剤の品質管理のためには、TSP-1の発現の基準濃度が構築されるべきである。
【0071】
実施例7.細胞治療剤におけるTSP-1の発現と治療効果との関連性の検証
本発明者らは、混合細胞の治療効果を検証するために、前記実施例4と同様にしてMIA骨関節炎動物モデルを作成した後、混合細胞およびanti-TSP-1中和抗体を処理し、痛みの変化を観測した。
【0072】
その結果、
図6a及び6bに示すように、投与後7日目にCS-10投与群(Vehicle)で1.19±0.23、混合細胞投与群で6.79±1.03の測定結果を確認した。このような痛みの治療効果は、混合細胞投与後42日目まで類似した傾向で見られ、CS-10投与群と比較して、すべての測定値から統計的有意性のある鎮痛効果が観察された(P<0.05)。
【0073】
また、混合細胞投与時、HCから分泌されるTSP-1が鎮痛効果にどのような影響を及ぼすかを確認するために、TSP-1タンパク質の活性を中和および抑制してその効果を遮断するanti-TSP-1中和抗体を共に処理した。このとき、混合細胞投与群で示された痛みの治療効果は、投与後7日目にTSP-1中和抗体投与群(anti-TSP-1+混合細胞)で2.28±0.54であり、CS-10投与群と類似した程度の痛みが示されることを確認でき、42日目まで類似した傾向が維持された。これに対して、対照抗体(IgM)を使用した群(IgM+混合細胞)では、混合細胞投与群と類似した程度の鎮痛効果が示された(p<0.05)。
【0074】
このことから、HCから分泌されるTSP-1が骨関節炎の治療に重要な影響を及ぼすことが分かる。
【0075】
実施例8.細胞治療剤におけるTGF-β1の最小容量の検証
本発明者らは、混合細胞の構成細胞であるTCのTGF-β1の最小値を確認するために、MIA投与2週間後、骨関節炎が誘発された個体を対象に、それぞれ異なるTGF-β1の値を示すTCを用いて、HCとTCを3:1の細胞数の割合で混ぜた混合細胞(2.8x105cells)を処理し、痛みの変化を観察した。
【0076】
このとき、互いに異なる条件などの影響でTGF-β1発現量が異なるTCの状況を具現するために、それぞれ異なるTGF-β1の値を示すTCを用意した。それぞれTGF-β1に対するshRNA処理および150Gyガンマ線照射を用いて作製し、表5に示すようなTGF-β1(ng/1x105cells/24hr)の平均値を確認した。
【0077】
【0078】
その結果、
図7a及び
図7bに示すように、実験後14日目にCS-10投与群(Vehicle)で1.17±0.53、混合細胞投与群で6.06±1.91の測定結果を確認した。このような痛みの治療効果は、細胞投与後42日目まで類似した傾向で見られ、CS-10投与群と比較して、すべての測定値から統計的有意性のある鎮痛効果が観察された(P<0.05)。
【0079】
また、細胞投与後14日目にshRNA control(shCON)処理投与群で6.21±1.59、150 Gyガンマ線照射されたTCを用いた混合細胞投与群で1.39±0.23、TGF-β1に対するshRNAを共に処理した混合細胞投与群で0.86±0.49の測定結果を確認した。このような効果は、細胞投与後42日目まで類似した傾向で見られた。
【0080】
フォンフレイフィラメントの測定結果をAUC値で表示した場合にも、対照群であるCS-10投与群(Vehicle)に比べて、混合細胞投与群とshRNA対照群(shCON)処理投与群で統計的に有意な結果を確認した(p<0.05 )。
【0081】
同じ動物モデルから分離した組織のH&E染色分析の結果、
図7cに示すように、混合細胞投与群とshCON処理投与群で軟骨構造の改善が観察された。
【0082】
これに対して、対照物質であるCS-10投与群(Vehicle)とTGF-β1に対するshRNAを共に処理した混合細胞投与群、および150 Gyガンマ線照射されたTCを用いた混合細胞投与群では、軟骨構造の改善が観察されなかった。
【0083】
さらに、TCから分泌されるTGF-β1の痛み緩和および軟骨構造改善の有効最小値を確認するために、別のバッチで生産されたTCを用いた混合細胞の鎮痛効果および軟骨構造の改善を確認した。
【0084】
用意したTCのTGF-β1の値は、9ng/1x105cells/24hrおよび1.7ng/1x105cells/24hrであり、これらをそれぞれ混合細胞の調製に使用した。調製された混合細胞は、それぞれ9ng_混合細胞および1.7ng_混合細胞で表示した。
【0085】
その結果、
図8a及び
図8bに示すように、9ng_混合細胞、1.7ng_混合細胞および対照群であるCS-10投与群(Vehicle)において、投与後14日目にCS-10投与群(Vehicle)で1.48±0.26、9ng_混合細胞で5.57±1.13、1.7ng_混合細胞で7.41±1.21の測定結果を確認した。細胞投与後42日目まで類似した傾向が見られ、CS-10投与群と比較して、9ng_混合細胞および1.7ng_混合細胞投与群の両方において、統計的有意性のある測定値が得られた(P<0.05)。
【0086】
フォンフレイフィラメントの測定結果をAUC値で表示した場合にも、対照群であるCS-10投与群(Vehicle)と比較して、9ng_混合細胞および1.7ng_混合細胞投与群で統計的有意性が観察された(p<0.05)。
【0087】
したがって、TCから分泌されるそれぞれ異なるTGF-β1を用いた混合細胞を投与して確認した結果、痛みの緩和および軟骨構造改善に有効なTGF-β1の最小値は、150 Gyガンマ線照射-混合細胞投与群で確認された0.63ng/1x105cells/24hrよりも大きい値、すなわち0.65ng/1x105cells/24hr以上と確認された。
【0088】
実施例9.細胞治療剤におけるTSP-1の最小容量の検証
本発明者らは、混合細胞の構成細胞であるHCのTSP-1の最小値を確認するために、MIA投与2週間後、骨関節炎が誘発された個体を対象に、それぞれ異なるTSP-1の値を示すHCを用いて、HCとTCを3:1で混ぜた混合細胞(2.8x105)を処理し、痛みの変化を観測した。
【0089】
このとき、互いに異なる条件などの影響でTSP-1の発現量が異なるHCの状況を具現するために、それぞれ異なるTSP-1発現を示すHCを用意した。
【0090】
それぞれ異なるTSP-1の値のHCは、TSP-1に対するsiRNAを用いて作製し、表6に示すようなTSP-1(ng/1x105cells/24hr)の平均値を確認した。
【0091】
【0092】
その結果、
図9a及び
図9bに示すように、投与後14日目にCS-10投与群(Vehicle)で0.6±0.19、混合細胞投与群で4.7±1.03、混合細胞+siRNA Control投与群で4.7±1.67の測定結果を確認した。このような効果は、細胞投与後42日目まで類似した傾向で見られ、CS-10投与群と比較して、測定値から統計的有意性のある鎮痛効果が観察された(P<0.05)。
【0093】
また、細胞投与後14日目に混合細胞+siRNA 1投与群で3.95±0.94、混合細胞+siRNA 2投与群で1.89±0.9の測定結果を確認した。CS-10投与群と比較して、混合細胞+siRNA 1投与群で統計的有意性のある鎮痛効果が観察された。このような痛みの治療効果は、細胞投与後42日目まで類似した傾向で見られた。
【0094】
また、フォンフレイフィラメントの測定結果をAUC値で表示した場合にも、対照群であるCS-10投与群(Vehicle)に比べて、混合細胞投与群、siRNA control処理投与群、および混合細胞+siRNA 1投与群で統計的に有意な結果を確認した(p<0.05)。
【0095】
さらに、同じ動物モデルから分離した組織のH&E染色分析の結果、
図9cに示すように、混合細胞投与群とsiRNA control処理投与群、混合細胞+siRNA 1投与群で軟骨構造の改善が観察された。これに対して、対照群であるCS-10投与群(Vehicle)と混合細胞+siRNA 2投与群では、軟骨構造の改善が観察されなかった。
【0096】
これらのことから、HCから分泌されるTSP-1の痛みの緩和および軟骨構造改善の有効最小値は、混合細胞+siRNA 2投与群で確認された30.53ng/1x105cells/24hrよりも大きい値、すなわち31ng/1x105cells/24hr以上と確認された。
【0097】
結論として、本発明に基づいて確立された、(a)第1集団であるTGF-βで形質転換した哺乳類細胞の特定のレベルのTGF-β発現量と、(b)第2集団である前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の特定のレベルのTSP-1の発現量に基づいて骨関節炎細胞治療剤の有効性を評価する方法を用いると、個々の細胞治療剤の有効性を治療開始前に確実に判定することができ、均一な治療効果を示すようにすることができる。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
次のステップを含む細胞治療剤の有効性の評価方法:
(1)(a)TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とをそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)の第1集団及び第2集団をそれぞれバイアル内に充填するステップと、
(3)前記ステップ(2)の第1集団を不活性化するステップと、
(4)前記ステップ(3)の第1集団を培養するステップと、
(5)前記ステップ(4)の前記第1集団からTGF-βの濃度を測定するステップと、
(6)前記ステップ(5)で測定されたTGF-βの濃度に基づいて、細胞組成物の治療剤としての有効性を評価するステップであり、
前記ステップ(6)でのTGF-βの発現量が0.65ng/105cell/24hr以上である場合、治療剤として有効であると判断する、方法。
<2>
前記ステップ(3)の不活性化は、放射線照射によるものである、<1>に記載の方法。
<3>
前記放射線照射は、ガンマ線、X線または電子線である、<2>に記載の方法。
<4>
前記ステップ(2)のバイアルは、凍結保存液を含む、<1>に記載の方法。
<5>
前記ステップ(2)の凍結保存液は、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含む、<4>に記載の方法。
<6>
前記ステップ(2)の凍結保存液は、DMSOを5~15体積%で含む、<5>に記載の方法。
<7>
前記ステップ(3)の不活性化は、バイアルを凍結する前または後に行われる、<1>に記載の方法。
<8>
前記凍結は、-20~-196℃で行われる、<7>に記載の方法。
<9>
前記ステップ(4)の培養は、凍結されたバイアルを解凍後に行われる、<7>に記載の方法。
<10>
前記解凍は、15~40℃で1~90分間放置する、<9>に記載の方法。
<11>
前記ステップ(4)の培養は、6時間~96時間行われる、<1>に記載の方法。
<12>
前記治療は、骨関節炎の治療である、<1>に記載の方法。
<13>
前記第2集団のTSP-1(thrombospondin 1)の発現量を確認するステップをさらに含む、<1>に記載の方法。
<14>
前記TSP-1の発現量が31ng/105cell/24hr以上である場合、治療剤として有効であると判断する、<13>に記載の方法。
<15>
前記形質転換した哺乳類細胞は、軟骨細胞または軟骨前駆細胞である、<1>に記載の方法。
<16>
次のステップを含む骨関節炎治療剤の製造方法:
(1)(a)TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞の第1集団と、(b)前記遺伝子で形質転換していない哺乳類細胞の第2集団とをそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)の第1集団及び第2集団をそれぞれバイアル内の凍結保存液内に充填するステップと、
(3)前記ステップ(2)の第1集団をバイアルを凍結する前または後に不活性化するステップと、
(4)前記ステップ(3)の前記第1集団を解凍するステップと、
(5)前記ステップ(4)の第1集団を培養するステップと、
(6)前記ステップ(5)の第1集団からTGF-βの発現量を測定するステップと、
(7)前記ステップ(6)で測定されたTGF-βの発現量が0.65ng/105cell/24hr以上である細胞を選別するステップ。
<17>
前記方法は、ステップ(8)として、前記第2集団のTSP-1(thrombospondin-1)の発現量を測定し、前記TSP-1の発現量が31ng/105cell/24hr以上である細胞を選別するステップをさらに含む、<16>に記載の方法。