(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】熱収縮性多層フィルム及び熱収縮性ラベル
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230426BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230426BHJP
G09F 3/04 20060101ALI20230426BHJP
B65B 53/00 20060101ALI20230426BHJP
B65D 23/08 20060101ALI20230426BHJP
B65D 77/20 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/30 B
G09F3/04 C
B65B53/00 A
B65B53/00 N
B65D23/08 Z
B65D77/20 S
(21)【出願番号】P 2020528750
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2019022935
(87)【国際公開番号】W WO2020008811
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2018128291
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大野 直樹
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-000898(JP,A)
【文献】特開2009-178887(JP,A)
【文献】特開2011-170379(JP,A)
【文献】特開2012-131169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G09F 3/04
B65B 53/00
B65D 23/08
B65D 77/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂を含有する表裏層と、ポリスチレン系樹脂を含有する中間層とを有する熱収縮性多層フィルムであって、
前記中間層を構成するポリスチレン系樹脂は、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体であり、
前記中間層は、ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)とビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)とを含む混合樹脂を含有し、
荷重0.10Nを負荷しながら、昇温速度5℃/分で30℃から60℃まで昇温し、更に、降温速度5℃/分で60℃から10℃まで冷却した際の熱機械分析(TMA)により測定される式(1)で表されるTD方向の寸法変化量が-55~-1000μmである
ことを特徴とする熱収縮性多層フィルム。
寸法変化量=20℃におけるTD方向の寸法-60℃におけるTD方向の寸法 (1)
【請求項2】
中間層は、ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)を10~50重量%、ビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)を50~90重量%含有することを特徴とする請求項
1記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項3】
ポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とのビカット軟化温度の差が10~25℃であることを特徴とする請求項
2記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項4】
中間層の厚みに対する表裏層の合計厚みの比(表裏層の合計厚み/中間層の厚み)が0.17~0.50であることを特徴とする請求項1、2
又は3記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項5】
表裏層と中間層との間に更に接着層と有することを特徴とする請求項1、2、3
又は4記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4
又は5記載の熱収縮性多層フィルムを含むことを特徴とする熱収縮性ラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾熱収縮用の熱収縮性ラベルとして容器に装着した際に、装着後のシワや緩みを防止することができる熱収縮性多層フィルム及び該熱収縮性多層フィルムをベースフィルムとする熱収縮性ラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットボトル、金属罐等の容器の多くには、熱収縮性樹脂からなるベースフィルムに印刷等を施した熱収縮性ラベルが装着されている。
熱収縮性ラベルを加熱して容器に装着させる方法としては湿熱収縮と乾熱収縮の2種類の方法が広く用いられている。
【0003】
湿熱収縮は、水蒸気を使用して加熱することにより、熱収縮性ラベルを収縮させ、容器に装着する方法である。水蒸気は、熱伝導率が高いことから、短時間で充分な熱量を熱収縮性樹脂フィルムに与えることができ、ラベル装着速度を大幅に高めることができる。また、雰囲気内での熱ムラが発生しにくいことから、装着後に見られる印刷柄の歪みやシワが少なく、収縮仕上り性に優れる。
【0004】
一方、乾熱収縮は、熱風を使用して加熱することにより、熱収縮性ラベルを収縮させ、容器に装着する方法である。乾熱収縮は、湿熱収縮と比較して水蒸気を使用しないことから、衛生面で優れている。また、湿熱収縮に比べ、簡易的な設備で収縮装着させることができるという利点を有している。従って、ロット数の少ない容器に対して装着させる場合や、内容物を充填する前の容器に熱収縮性ラベルの装着を行う場合には、乾熱収縮による装着が一般的に行われている。
【0005】
乾熱収縮による装着を行う際に使用される熱収縮性ラベルとしては、低温収縮性に優れることからポリスチレン系樹脂からなるものが主流である。しかし、ポリスチレン系樹脂フィルムは、フィルムの剛性が低いことから、機械への適性が悪く、ラベル詰まり等の不具合が発生しやすいという問題があった。また、ポリスチレン系樹脂フィルムは耐溶剤性が不充分であることから、油分を含む品物の包装に用いた場合に、油分が付着することによって収縮したり溶解したりすることがあるという問題もあった。
【0006】
一方、ポリスチレン系樹脂フィルムに代えて、耐熱性や耐溶剤性に優れたポリエステル系フィルムを熱収縮性ラベルとして用いる試みもなされている。しかしながら、ポリエステル系フィルムは、低温収縮性が悪く、急激に収縮するため容器に装着した際に印刷柄の歪みやシワが発生しやすいという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献1には、ポリスチレン系樹脂からなる中間層に、オレフィン系樹脂からなる接着層を介してポリエステル系樹脂からなる外面層が積層されてなる硬質多層収縮性フィルムが開示されている。また、特許文献2には、ポリスチレン系樹脂からなる中間層の両側に、特定のモノマーからなるポリエステル系樹脂からなる外面層が積層されたものであって、中間層と外面層とが接着層を介さずに積層されてなるベースフィルムを備えた熱収縮性ラベルが開示されている。更に、特許文献3には、ポリエステル系樹脂からなる表面層、スチレン系樹脂からなる中間層及び接着性樹脂からなる接着層を有する積層フィルムが開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの熱収縮性ラベルを乾熱収縮に用いた場合、ラベル装着直後の仕上り性には優れるものの、ラベル装着直後は容器自体が膨張しており、容器が冷却されるとともに容器が収縮して、ラベルと容器との間に隙間が生じてしまうという問題があった。
特に、トイレタリー用の容器としては、販売促進や類似品との差別化のために意匠性の高い異形容器が用いられるが、このような異形容器は収縮仕上りの難易度が高く、一般的な寸胴の容器よりも長時間熱風下に曝されるため、容器の膨張収縮が大きくなり、容器とラベルとの間に隙間が大きく生じ、その結果、ラベルの緩みやシワが発生して、外観不良が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭61-41543号公報
【文献】特開2002-351332号公報
【文献】特開2006-15745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、乾熱収縮用の熱収縮性ラベルとして容器に装着した際に、装着後のシワや緩みを防止することができる熱収縮性多層フィルム及び該熱収縮性多層フィルムをベースフィルムとする熱収縮性ラベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリエステル系樹脂を含有する表裏層と、ポリスチレン系樹脂を含有する中間層とを有する熱収縮性多層フィルムであって、
前記中間層を構成するポリスチレン系樹脂は、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体であり、
前記中間層は、ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)とビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)とを含む混合樹脂を含有し、
荷重0.10Nを負荷しながら、昇温速度5℃/分で30℃から60℃まで昇温し、更に、降温速度5℃/分で60℃から10℃まで冷却した際の熱機械分析(TMA)により測定される式(1)で表されるTD方向の寸法変化量が-55~-1000μmである熱収縮性多層フィルムである。
寸法変化量=20℃におけるTD方向の寸法-60℃におけるTD方向の寸法 (1)
以下、本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは、ポリエステル系樹脂を含有する表裏層と、ポリスチレン系樹脂を含有する中間層とを有する熱収縮性多層フィルムにおいて、熱機械分析(TMA)により測定される寸法変化量を所定の範囲内とすることで、特に乾熱収縮用の熱収縮性ラベルとして容器の装着に用いた場合に、装着後のシワや緩みを防止して、美観に優れるラベル付き容器とすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、表裏層と中間層とを有する。
なお、本明細書中、表裏層とは、表面層と裏面層との両方を意味する。従って、本発明の熱収縮性多層フィルムは、中間層が表面層と裏面層とに挟まれた構造を有する。
【0014】
(表裏層)
上記表裏層は、ポリエステル系樹脂を含有する。
上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分とを縮重合させることにより得られるものが挙げられる。特に上記ジカルボン酸成分として、ジカルボン酸成分100モル%のうち、テレフタル酸が55モル%以上である芳香族ポリエステル系樹脂が好ましい。さらに上記ジカルボン酸成分として、上記テレフタル酸以外に、o-フタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、デカメチレンカルボン酸、これらの無水物及び低級アルキルエステル等を含むことができる。
【0015】
上記ジオール成分としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール)、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール類;2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール類等が挙げられる。
【0016】
上記ポリエステル系樹脂としては、なかでも、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸に由来する成分を含有し、かつ、ジオール成分としてエチレングリコール及び/又は1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する成分を含有するものが好ましい。このような芳香族ポリエステル系ランダム共重合樹脂を用いることにより、熱収縮性フィルムに優れた熱収縮性を付与することができる。
熱収縮性をより高めたい場合には、ジオール成分100モル%のうち、エチレングリコールに由来する成分の含有量が60~80モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する成分の含有量が10~40モル%であるものを用いることが好ましい。
【0017】
このような芳香族ポリエステル系ランダム共重合樹脂は、更に、ジエチレングリコールに由来する成分を0~30モル%、好ましくは1~25モル%、より好ましくは2~20モル%含有していてもよい。ジエチレングリコールを用いることにより、熱収縮性フィルムの主収縮方向の引張破断伸度が高まり、ミシン目を裂いたときに層間剥離が生じて内面側のみが容器に残ってしまうことを防止することができる。ジエチレングリコールに由来する成分が30モル%以下であると、熱収縮性フィルムの低温収縮性を低下させることができ、容器に装着する際のシワの発生を防止することができる。
【0018】
また、上記ジカルボン酸成分としてテレフタル酸に由来する成分を含有するポリエステル系樹脂は、ジオール成分として1,4-ブタンジオールに由来する成分を含有するものを用いることもできる。このようなポリエステル系樹脂は、一般に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂と呼ばれる。
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、上記ジカルボン酸成分としてテレフタル酸に由来する成分を含有し、かつ、ジオール成分としてエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する成分を含有する芳香族ポリエステル系ランダム共重合樹脂と、併用されることが好ましい。このような混合樹脂を用いることでより優れた仕上り性を付与することができる。
【0019】
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、テレフタル酸に由来する成分と1,4-ブタンジオールに由来する成分のみからなるポリブチレンテレフタレート系樹脂のほか、テレフタル酸に由来する成分以外のジカルボン酸成分及び/又は1,4-ブタンジオールに由来する成分以外のジオール成分を含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂であってもよい。
なお、上記テレフタル酸に由来する成分以外のジカルボン酸成分の含有量は、ジカルボン酸成分100モル%のうち、10モル%以下であることが好ましい。10モル%以下であると、上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂の耐熱性を向上させることができる。また、上記1,4-ブタンジオールに由来する成分以外のジオール成分の含有量は、ジオール成分100モル%のうち、10モル%以下であることが好ましい。10モル%以下であると、上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂の耐熱性を向上させることができる。
【0020】
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂の添加量として特に限定されないが、30重量%以下であることが望ましい。30重量%以下であると自然収縮を抑制して、フィルムの剛性の低下を防止することができる。
【0021】
上記表裏層を構成するポリエステル系樹脂のビカット軟化温度の好ましい下限は55℃、好ましい上限は95℃である。上記ビカット軟化温度が55℃未満であると、熱収縮性多層フィルムの収縮開始温度が低くなりすぎたり、自然収縮率が大きくなったりすることがある。上記ビカット軟化温度が95℃を超えると、熱収縮性多層フィルムの低温収縮性及び収縮仕上り性が低下したり、経時での低温収縮性の低下が大きくなったりすることがある。上記ビカット軟化温度のより好ましい下限は60℃、より好ましい上限は90℃である。
なお、上記ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠した方法で測定することができる。
【0022】
上記表裏層を構成するポリエステル系樹脂のガラス転移温度の好ましい下限は55℃、好ましい上限は95℃である。上記ガラス転移温度が55℃以上であると、熱収縮性フィルムの収縮開始温度を充分に高くすることができ、自然収縮を抑制することができる。上記ガラス転移温度が95℃以下であると、熱収縮性フィルムの低温収縮性及び収縮仕上り性を向上させることができるとともに、経時での低温収縮性の低下を抑制することができる。上記ガラス転移温度のより好ましい下限は60℃、より好ましい上限は90℃である。
なお、上記ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)で測定することができる。
【0023】
上記表裏層を構成するポリエステル系樹脂の引張弾性率の好ましい下限は1000MPa、好ましい上限は4000MPaである。上記引張弾性率が1000MPa以上であると熱収縮性フィルムの収縮開始温度を充分に高めて、自然収縮を抑制することができる。上記引張弾性率が4000MPa以下であると、熱収縮性フィルムの低温収縮性及び収縮仕上り性を向上させることができるとともに、経時での低温収縮性の低下を抑制することができる。上記引張弾性率のより好ましい下限は1500MPa、より好ましい上限は3700MPaである。
なお、上記引張弾性率は、ASTM-D882(TestA)に準拠した方法で測定することができる。
【0024】
上記表裏層を構成するポリエステル系樹脂の市販品としては、例えば、「Easter」、「EmbraceLv」(イーストマンケミカル社製)、「ベルペット」(ベルポリエステルプロダクツ社製)、「ノバデュラン」(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)等が挙げられる。
【0025】
上記表裏層に含まれるポリエステル系樹脂としては、上述した組成を有するポリエステル系樹脂を単独で用いてもよく、上述した組成を有する2種以上のポリエステル系樹脂を併用してもよい。また、上記ポリエステル系樹脂は、表面層と裏面層とで異なる組成を有するポリエステル系樹脂であってもよいが、フィルムのカール等によるトラブルを抑制するため、同一の組成を有するポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0026】
上記表裏層は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0027】
(中間層)
本発明の熱収縮性多層フィルムは、上記中間層を含有する。
上記中間層は、ポリスチレン系樹脂を含有する。
上記ポリスチレン系樹脂としては、例えば、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体と芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体との混合樹脂、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン等が挙げられる。上記ポリスチレン系樹脂を用いることで、本発明の熱収縮性多層フィルムは低温から収縮を開始することができ、また、高収縮性を有する。
【0028】
本明細書中、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体とは、芳香族ビニル炭化水素に由来する成分と、共役ジエンに由来する成分とを含有する共重合体をいう。
上記芳香族ビニル炭化水素は特に限定されず、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記共役ジエンは特に限定されず、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体は、特に熱収縮性に優れることから、スチレン-ブタジエン共重合体(SBS樹脂)を含有することが好ましい。また、上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体は、よりフィッシュアイの少ない熱収縮性多層フィルムを作製するためには、上記共役ジエンとして2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)を用いたスチレン-イソプレン共重合体(SIS樹脂)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体(SIBS樹脂)等を含有することが好ましい。
なお、上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体は、SBS樹脂、SIS樹脂及びSIBS樹脂のうちのいずれか1つを単独で含有してもよく、複数を組み合わせて含有してもよい。また、SBS樹脂、SIS樹脂及びSIBS樹脂のうちの複数を用いる場合には、各樹脂をドライブレンドしてもよく、各樹脂を特定の組成にて押出機を用いて練り上げペレタイズしたコンパウンド樹脂を用いてもよい。
【0030】
上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体がSBS樹脂、SIS樹脂及びSIBS樹脂を単独又は複数で含有する場合には、特に熱収縮性に優れた熱収縮性多層フィルムが得られることから、上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体100重量%に占めるスチレン含有量が65~90重量%、共役ジエン含有量が10~35重量%であることが好ましい。上記スチレン含有量が90重量%を超えるか、上記共役ジエン含有量が10重量%未満であると、熱収縮性多層フィルムにテンションをかけたときに切れ易くなったり、印刷等の加工時に思いもよらず破断したりすることがある。上記スチレン含有量が65重量%未満であるか、上記共役ジエン含有量が35重量%を超えると、成形加工時にゲル等の異物が発生しやすくなったり、熱収縮性多層フィルムの腰が弱くなったりして、取り扱い性が悪化することがある。
【0031】
本明細書中、芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体とは、芳香族ビニル炭化水素に由来する成分と、脂肪族不飽和カルボン酸エステルに由来する成分とを含有する共重合体をいう。
上記芳香族ビニル炭化水素は特に限定されず、上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体において例示した芳香族ビニル炭化水素と同様の芳香族ビニル炭化水素を用いることができる。上記脂肪族不飽和カルボン酸エステルは特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの両方を示す。
【0032】
上記芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体として、スチレン-ブチルアクリレート共重合体を用いる場合には、上記スチレン-ブチルアクリレート共重合体100重量%に占めるスチレン含有量が60~90重量%、ブチルアクリレート含有量が10~40重量%であることが好ましい。このような組成の芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体を用いることで、熱収縮性に優れた熱収縮性多層フィルムを得ることができる。
【0033】
上記芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体と上記芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体との混合樹脂は特に限定されないが、上記芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体の含有量が80重量%以下である混合樹脂であることが好ましい。
【0034】
上記ゴム変性耐衝撃性ポリスチレンとは、スチレン、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキルの3元共重合体からなる連続相と、共役ジエンを主体とするゴム成分からなる分散相とで構成されるものを基本とするものである。
【0035】
上記連続相を形成するメタクリル酸アルキルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が、アクリル酸アルキルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
上記連続相を形成する共重合体中のスチレンの割合は20~80重量%が好ましく、30~70重量%がより好ましい。メタクリル酸アルキルの割合は10~50重量%が好ましく、15~40重量%がより好ましい。アクリル酸アルキルの割合は1~30重量%が好ましく、5~20重量%がより好ましい。
【0036】
上記分散相を形成する共役ジエンを主体とするゴム成分としては、ポリブタジエン、又は、スチレン含有量が5~30重量%のスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。
上記分散相を形成する共役ジエンを主体とするゴム成分の粒子径は0.1~1.2μmであることが好ましく、更に好ましくは0.3~0.8μmである。粒子径が0.1μmを下回ると、上記ゴム変性耐衝撃性ポリスチレンの耐衝撃性が不充分となることがあり、1.2μmを上回ると、上記中間層の透明性が低下することがある。
【0037】
上記ゴム変性耐衝撃性ポリスチレンにおいて、スチレン、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキルの3元共重合体からなる連続相の割合は70~95重量%、共役ジエンを主体とするゴム成分からなる分散相の割合は5~20重量%が好ましい。上記分散相の割合が5重量%を下回ると、上記ゴム変性耐衝撃性ポリスチレンの耐衝撃性が不充分となることがあり、20重量%を上回ると、上記中間層の透明性が低下することがある。
【0038】
上記ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度の好ましい下限は50℃、好ましい上限は90℃である。上記ビカット軟化温度が50℃以上であると、熱収縮性多層フィルムの低温収縮性を良好なものとして、容器に装着する際のシワの発生を抑制することができる。上記ビカット軟化温度が90℃以下であると、熱収縮性多層フィルムの低温収縮性を充分に高めて、容器に装着する際の未収縮部分の発生を防止することができる。上記ビカット軟化温度のより好ましい下限は55℃、より好ましい上限は85℃である。なお、上記ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠した方法で測定することができる。
【0039】
上記ポリスチレン系樹脂の200℃でのMFR(melt flow rate)の好ましい下限は2g/10分、好ましい上限は15g/10分である。200℃でのMFRが2g/10分以上であると、フィルムの製膜性を向上させることができる。200℃でのMFRが15g/10分以下であると、フィルムの機械的強度を充分に向上させることができる。200℃でのMFRのより好ましい下限は4g/10分、より好ましい上限は12g/10分である。なお、MFRは、ISO 1133に準拠した方法で測定することができる。
【0040】
上記中間層を構成するポリスチレン系樹脂の市販品としては、例えば、「クリアレン」(電気化学工業社製)、「アサフレックス」(旭化成ケミカルズ社製)、「Styrolux」(BASF社製)、「PSJ-ポリスチレン」(PSジャパン社製)等が挙げられる。
【0041】
上記中間層は、スチレン系エラストマーを含んでいてもよい。
上記スチレン系エラストマーとしては、ハードセグメントとしてのポリスチレンと、ソフトセグメントとしてポリブタジエン、ポリイソプレン又はポリブタジエンとポリイソプレンとの共重合体とからなる樹脂、及び、これらの水素添加物等が挙げられる。なお、上記水素添加物は、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の一部が水素添加されたものであってもよく、全てが水素添加されたものであってもよい。
【0042】
上記スチレン系エラストマーの市販品としては、例えば、「タフテック」、「タフプレン」(いずれも旭化成ケミカルズ社製)、「クレイトン」(クレイトンポリマージャパン社製)、「ダイナロン」(JSR社製)、「セプトン」(クラレ社製)等が挙げられる。
【0043】
上記スチレン系エラストマーの変性物としては、例えば、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基及び水酸基等の官能基によって変性されたものが挙げられる。
上記スチレン系エラストマーの変性物における上記官能基の含有量の好ましい下限は0.05重量%、好ましい上限は5.0重量%である。上記官能基の含有量が0.05重量%未満であると、熱収縮性多層フィルムの層間強度が低下することがある。上記官能基の含有量が5.0重量%を超えると、上記官能基を付加する際にスチレン系エラストマーが熱劣化し、ゲル等の異物が発生しやすくなることがある。上記官能基の含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は3.0重量%である。
【0044】
上記スチレン系エラストマーのビカット軟化温度は、好ましい下限が65℃、より好ましい下限が70℃、好ましい上限が85℃、より好ましい上限が80℃である。
なお、上記ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠した方法で測定することができる。
【0045】
上記中間層における上記スチレン系エラストマーの含有量は、好ましい上限が15重量%、より好ましい上限が10重量%である。
上記スチレン系エラストマーの含有量の下限は特に限定されないが、好ましい下限が0重量%、より好ましい下限が1.0重量%、更に好ましい下限が1.5重量%である。
【0046】
上記中間層は、ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)を0~60重量%含有することが好ましい。
上記ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)を所定量含有することで、乾熱収縮させた際の緩み防止効果をより向上させることができる。
上記中間層における上記ポリスチレン系樹脂(A)の含有量は、より好ましい下限が10重量%、更に好ましい下限が20重量%、より好ましい上限が50重量%である。
なお、上記ポリスチレン系樹脂(A)のビカット軟化温度の上限は、好ましくは90℃、より好ましくは85℃である。
【0047】
上記中間層は、ビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)を40~100重量%含有することが好ましい。
上記ビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)を所定量含有することで、乾熱収縮させた際の緩み防止効果をより向上させることができる。
上記中間層における上記ポリスチレン系樹脂(B)の含有量は、より好ましい下限が50重量%、より好ましい上限が90重量%、更に好ましい上限が80重量%である。
なお、上記ポリスチレン系樹脂(B)のビカット軟化温度の下限は、好ましくは50℃、より好ましくは55℃である。
【0048】
上記中間層における上記ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)の含有量と上記ビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)の含有量との比(ポリスチレン系樹脂(A)の含有量/ポリスチレン系樹脂(B)の含有量)は、好ましい下限が0/100、より好ましい下限が10/90、更に好ましい下限が20/80、好ましい上限が60/40、より好ましい上限が50/50である。
【0049】
上記ポリスチレン系樹脂(A)と上記ポリスチレン系樹脂(B)とのビカット軟化温度の差は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、25℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。
【0050】
上記中間層が、上記ビカット軟化温度が80℃以上であるポリスチレン系樹脂(A)と上記ビカット軟化温度が80℃未満であるポリスチレン系樹脂(B)とを含む混合樹脂を含有する場合、上記混合樹脂の見掛けのビカット軟化温度は、好ましい下限が65℃、より好ましい下限が68℃、好ましい上限が78℃、より好ましい上限が77℃である。
なお、上記ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠した方法で測定することができる。
【0051】
上記中間層は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0052】
(接着層)
上記表裏層と上記中間層との間により高い層間接着強度が求められる場合には、本発明の熱収縮性多層フィルムは、上記表裏層と上記中間層とが、接着層を介して積層されてなることが好ましい。
上記接着層を構成する接着性樹脂としては、一般的に市販されているものであれば特に限定されないが、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、又は、これらの変性物、或いは、ポリエステル系樹脂とポリスチレン系樹脂との混合樹脂(本明細書中、混合樹脂(a)ともいう)、ポリスチレン系樹脂とポリエステル系エラストマーとの混合樹脂(本明細書中、混合樹脂(b)ともいう)が好ましい。このような接着層は、上記表裏層を構成するポリエステル系樹脂、上記中間層を構成するポリスチレン系樹脂のいずれもと親和性が高く、両者を高い強度で接着することができる。また、上記表裏層を構成するポリエステル系樹脂を溶解する溶剤に溶解又は膨潤することから、センターシール時には、溶剤が熱収縮性多層フィルムの内部にまで浸透することができ、その後の熱収縮時に層間剥離が生じるのを防止することができる。更に、上記中間層と上記表裏層とともに共押出法により成形可能であることから、生産性にも優れる。
【0053】
上記スチレン系エラストマーとしては、ハードセグメントとしてのポリスチレンと、ソフトセグメントとしてポリブタジエン、ポリイソプレン又はポリブタジエンとポリイソプレンとの共重合体とからなる樹脂、及び、これらの水素添加物等が挙げられる。なお、上記水素添加物は、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の一部が水素添加されたものであってもよく、全てが水素添加されたものであってもよい。
【0054】
上記スチレン系エラストマーの市販品としては、例えば、「タフテック」、「タフプレン」(いずれも旭化成ケミカルズ社製)、「クレイトン」(クレイトンポリマージャパン社製)、「ダイナロン」(JSR社製)、「セプトン」(クラレ社製)等が挙げられる。
【0055】
上記スチレン系エラストマーの変性物としては、例えば、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基及び水酸基等の官能基によって変性されたものが挙げられる。
上記スチレン系エラストマーの変性物における上記官能基の含有量の好ましい下限は0.05重量%、好ましい上限は5.0重量%である。上記官能基の含有量が0.05重量%未満であると、熱収縮性多層フィルムの層間強度が低下することがある。上記官能基の含有量が5.0重量%を超えると、上記官能基を付加する際にスチレン系エラストマーが熱劣化し、ゲル等の異物が発生しやすくなることがある。上記官能基の含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は3.0重量%である。
【0056】
上記ポリエステル系エラストマーは、飽和ポリエステル系エラストマーであることが好ましく、特に、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和ポリエステル系エラストマーであることが好ましい。
上記ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和ポリエステル系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとしての芳香族ポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリアルキレンエーテルグリコール又は脂肪族ポリエステルとからなるブロック共重合体が好ましい。更に、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールを有するポリエステルポリエーテルブロック共重合体がより好ましい。
【0057】
上記ポリエステルポリエーテルブロック共重合体としては、(i)炭素原子数2~12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、(ii)芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、(iii)ポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させたものが好ましい。
【0058】
上記炭素原子数2~12の脂肪族及び/又は脂環族ジオール、並びに、上記芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとしては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系エラストマーの原料として一般的に用いられるものを用いることができる。
上記ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び/又は1,3-プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコール等が挙げられる。
【0059】
上記ポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量の好ましい下限は400、好ましい上限は6000である。数平均分子量を400以上とすることで、共重合体のブロック性が高くなる。数平均分子量を6000以下とすることで、系内での相分離が起こり難く、ポリマー物性が発現しやすくなる。数平均分子量のより好ましい下限は500、より好ましい上限は3000、更に好ましい下限は600である。
なお、上記数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものをいう。また、上記GPCのキャリブレーションは、例えば、POLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキット(英国POLYMER LABORATORIES社製)を使用することにより行うことができる。
【0060】
上記ポリエステルポリエーテルブロック共重合体における上記ポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量は、好ましい下限が5重量%、好ましい上限が90重量%である。上記ポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量が5重量%以上であると、ブロック共重合体が柔軟性及び耐衝撃性に優れるものとなる。上記ポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量が90重量%以下であると、ブロック共重合体が硬度及び機械強度に優れるものとなる。上記ポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は80重量%であり、更に好ましい下限は55重量%である。
なお、上記ポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量は、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)を用い、水素原子の化学シフトとその含有量に基づいて算出することができる。
【0061】
上記ポリエステル系エラストマーのデュロメーター硬さの好ましい下限は10、好ましい上限は80である。デュロメーター硬さを10以上とすることで、上記接着層の機械的強度が向上する。デュロメーター硬さを80以下とすることで、上記接着層の柔軟性及び耐衝撃性が向上する。デュロメーター硬さのより好ましい下限は15、より好ましい上限は70、更に好ましい下限は20、更に好ましい上限は60である。
なお、上記デュロメーター硬さは、ISO 18517に準拠した方法でデュロメーター タイプDを用いることにより測定することができる。
【0062】
上記ポリエステル系エラストマーの市販品としては、「プリマロイ」(三菱化学社製)、「ペルプレン」(東洋紡績社製)、「ハイトレル」(東レ・デュポン社製)等が挙げられる。
【0063】
上記ポリエステル系エラストマーの変性物(以下、変性ポリエステル系エラストマーともいう)とは、上記ポリエステル系エラストマーを、変性剤を用いて変性させたものである。
上記変性ポリエステル系エラストマーを得るための変性反応は、例えば、上記ポリエステル系エラストマーに変性剤としてのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸を反応させることによって行われる。上記変性反応に際しては、ラジカル発生剤を使用するのが好ましい。
【0064】
上記変性反応においては、上記ポリエステル系エラストマーに上記α,β-エチレン性不飽和カルボン酸又はその誘導体が付加するグラフト反応が主として起こるが、分解反応も起こる。その結果、上記変性ポリエステル系エラストマーは、分子量が低下して溶融粘度が低くなる。
また、上記変性反応においては、通常、他の反応として、エステル交換反応等も起こるものと考えられ、得られる反応物は、一般的には、未反応原料等を含む組成物となる。この場合、得られる反応物中の上記変性ポリエステル系エラストマーの含有量の好ましい下限は10重量%、より好ましい下限は30重量%である。また、上記変性ポリエステル系リラストマーの含有量は、100重量%に近いほど好ましい。
【0065】
上記変性ポリエステル系エラストマーの変性率(グラフト量)の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は10.0重量%である。変性率が0.01重量%以上であることで、上記変性ポリエステル系エラストマーと、ポリエステルとの親和性が高くなる。変性率が10.0重量%以下であることで、変性時の分子劣化による強度低下を小さくすることができる。変性率のより好ましい下限は0.03重量%、より好ましい上限は7.0重量%であり、更に好ましい下限は0.05重量%、更に好ましい上限は5.0重量%である。
【0066】
上記変性ポリエステル系エラストマーの変性率(グラフト量)は、H1-NMR測定により得られるスペクトルから、下記式(2)に従って求めることができる。なお、上記H1-NMR測定に使用する機器としては、例えば、「GSX-400」(日本電子社製)等を用いることができる。
グラフト量(重量%)=100×[(C÷3×98)/{(A×148÷4)+(B×72÷4)+(C÷3×98)}] (2)
式(2)中、Aは7.8~8.4ppmにおける積分値、Bは1.2~2.2ppmにおける積分値、Cは2.4~2.9ppmにおける積分値を表す。
【0067】
上記ポリエステル系樹脂とポリスチレン系樹脂との混合樹脂(本明細書中、混合樹脂(a)ともいう)を構成するポリエステル系樹脂としては、上述した表裏層を構成するポリエステル系樹脂と同様のものを使用してもよく、別のものを使用してもよい。特に、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸に由来する成分を含有し、かつ、ジオール成分としてエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する成分を含有するものが好ましい。このようなポリエステル系樹脂は、更に、ジエチレングリコールに由来する成分を0~30モル%、好ましくは1~25モル%、より好ましくは2~20モル%含有していてもよい。
【0068】
上記ポリエステル系樹脂として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を使用する場合、テレフタル酸に由来する成分と1,4-ブタンジオールに由来する成分のみからなるポリブチレンテレフタレート系樹脂のほか、テレフタル酸に由来する成分以外のジカルボン酸成分及び/又は1,4-ブタンジオールに由来する成分以外のジオール成分を含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂であってもよい。
なお、上記テレフタル酸に由来する成分以外のジカルボン酸成分の含有量は、ジカルボン酸成分100モル%のうち、50モル%以下であることが好ましい。50モル%以下であると、上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂の耐熱性を維持することができる。また、上記1,4-ブタンジオールに由来する成分以外のジオール成分の含有量は、ジオール成分100モル%のうち、50モル%以下であることが好ましい。
【0069】
上記混合樹脂(a)において、上記ポリエステル系樹脂の含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は90重量%である。上記ポリエステル系樹脂の含有量が5重量%未満であると、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。上記ポリエステル系樹脂の含有量が90重量%を超えると、熱収縮性多層フィルムの層間強度が低下することがあり、また、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。上記ポリエステル系樹脂の含有量のより好ましい下限は10重量%、更に好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は75重量%である。
【0070】
上記混合樹脂(a)を構成するポリスチレン系樹脂としては、上述した中間層を構成するポリスチレン系樹脂と同様のものを使用してもよく、別のものを使用してもよい。
上記混合樹脂(a)を構成するポリスチレン系樹脂がスチレン-共役ジエン共重合体である場合、上記スチレン-共役ジエン共重合体100重量%に占める共役ジエン含有量が50重量%未満であることが好ましい。上記共役ジエン含有量が50重量%以上であると、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。
【0071】
上記混合樹脂(a)において、上記ポリスチレン系樹脂の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は95重量%である。上記ポリスチレン系樹脂の含有量が10重量%未満であると、熱収縮性多層フィルムの層間強度が低下することがあり、また、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。上記ポリスチレン系樹脂の含有量が95重量%を超えると、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。上記ポリスチレン系樹脂の含有量のより好ましい下限は20重量%、更に好ましい下限が25重量%、より好ましい上限は90重量%、更に好ましい上限は80重量%である。
【0072】
上記ポリスチレン系樹脂とポリエステル系エラストマーとの混合樹脂(本明細書中、混合樹脂(b)ともいう)を構成するポリスチレン系樹脂としては、上述した中間層を構成するポリスチレン系樹脂と同様のものを使用してもよく、別のものを使用してもよいが、中間層を構成するポリスチレン系樹脂よりも柔らかいものが好ましい。
【0073】
上記混合樹脂(b)を構成するポリスチレン系樹脂がスチレン-共役ジエン共重合体である場合、上記スチレン-共役ジエン共重合体100重量%に占める共役ジエン含有量が50重量%未満であることが好ましい。上記共役ジエン含有量が50重量%以上であると、容器装着時に溶剤シール部分から剥離が発生することがあり、また、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。
【0074】
上記混合樹脂(b)において、上記ポリスチレン系樹脂の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は95重量%である。上記ポリスチレン系樹脂の含有量が10重量%未満であると、熱収縮性多層フィルムが強く折られた際に、折り目部分に白色化(白化現象)が生じ、外観が損なわれることがある。上記ポリスチレン系樹脂の含有量が95重量%を超えると、熱収縮性多層フィルムの層間強度が低下することがあり、また、容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。上記ポリスチレン系樹脂の含有量のより好ましい下限は20重量%、更に好ましい下限は25重量%であり、より好ましい上限は90重量%、更に好ましい上限は85重量%である。
【0075】
上記混合樹脂(b)を構成するポリエステル系エラストマーとしては、上述した接着層を構成するポリエステル系エラストマーと同様のものを使用することが好ましい。
【0076】
上記混合樹脂(b)を構成するポリステル系エラストマーの融点は、120~200℃が好ましい。融点が120℃未満であると、熱収縮性多層フィルムの耐熱性が低下し、容器装着時に溶剤シール部分から剥離が発生すること
がある。融点が200℃を超えると、充分な接着強度が得られないことがある。融点のより好ましい下限は130℃、より好ましい上限は190℃である。
なお、上記混合樹脂(b)を構成するポリエステル系エラストマーの融点は、例えば、ハードセグメントである芳香族ポリエステルと、ソフトセグメントであるポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合比率、構造等に起因する。なかでも、上記ポリエステル系エラストマーの融点は、ポリアルキレンエーテルグリコールの共重合量に依存しやすく、ポリアルキレンエーテルグリコールの共重合量が多いと融点が低く、少ないと融点が高くなる。
【0077】
上記混合樹脂(b)において、上記ポリエステル系エラストマーの含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は80重量%である。上記ポリエステル系エラストマーの含有量が5重量%未満であると、熱収縮性多層フィルムの層間強度が低下することがあり、また容器装着後に重ね合わせ部分を引掻いたとき、又は、ミシン目を裂いたときには、熱収縮性多層フィルムの層間剥離が生じることがある。上記ポリエステル系エラストマーの含有量が80重量%を超えると、熱収縮性多層フィルムが強く折られた際に、折り目部分に白色化(白化現象)が生じ、外観が損なわれることがある。上記ポリエステル系エラストマーの含有量のより好ましい下限は10重量%、更に好ましい下限は15重量%であり、より好ましい上限は75重量%、更に好ましい上限は70重量%である。
【0078】
上記接着層は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0079】
本発明の熱収縮性多層フィルム全体の厚さの好ましい下限は20μm、好ましい上限は80μmである。熱収縮性多層フィルム全体の厚さを上記範囲内とすることで、経済性に優れるとともに、取り扱いやすいものとなる。
本発明の熱収縮性多層フィルムの各層の厚み比率は、表面層/中間層/裏面層が1/4/1~1/12/1の範囲、即ち、中間層の厚みに対する表層と裏層との合計厚みの比((表層の厚み+裏層の厚み)/中間層の厚み)が0.17~0.50となることが好ましい。本発明の熱収縮性多層フィルムが上記接着層を有する場合にも、上記表裏層と上記中間層とが上記範囲となることで、熱収縮性ラベルを装着した後のラベルの緩みを抑制することができる。
【0080】
例えば、本発明の熱収縮性多層フィルム全体の厚さが40μmである場合、上記中間層の厚さの好ましい下限は24μm、好ましい上限は34.4μmである。厚さが24μm未満であると、熱収縮性多層フィルムのミシン目におけるカット性が低下することがある。厚さが34.4μmを超えると、熱収縮性多層フィルムの耐熱性が低下することがある。上記中間層の厚さのより好ましい下限は26μm、より好ましい上限は33μmである。
【0081】
また、本発明の熱収縮性多層フィルム全体の厚さが40μmである場合、上記表裏層の厚さ(表面層及び裏面層のそれぞれの厚さ)の好ましい下限は2.8μm、好ましい上限は8μmである。厚さが2.8μm未満であると、熱収縮性多層フィルムの耐溶剤性又は耐熱性が低下することがある。厚さが8μmを超えると、熱収縮性多層フィルムのミシン目におけるカット性が低下することがある。上記表裏層の厚さのより好ましい下限は4μm、より好ましい上限は7μmである。
【0082】
また、本発明の熱収縮性多層フィルム全体の厚さが40μmであって、上記接着層を有する場合、上記接着層の厚さの好ましい下限は0.2μm、好ましい上限は2μmである。厚さが0.2μm未満であると、安定した製膜ができないことがある。厚さが2μmを超えると、熱収縮性多層フィルムの熱収縮特性又は光学特性が悪化することがある。上記接着層の厚さのより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は1.5μmである。
【0083】
本発明の熱収縮性多層フィルムにおいて、主収縮方向における収縮率は70℃10秒間において好ましくは15~50%、より好ましくは20~47%、更に好ましくは25~45%、特に好ましくは30~45%、80℃10秒間において好ましくは50~70%、より好ましくは55~69%、更に好ましくは58~68%、特に好ましくは60~67%、沸騰水10秒間において好ましくは65~85%、より好ましくは70~83%、更に好ましくは75~82%である。このような収縮率とすることにより、乾熱収縮にて優れた収縮仕上がり性を付与出来る。
【0084】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、主収縮方向と直交する方向(MD方向)の層間強度(接着強度)が0.8~2.0N/10mmであることが好ましい。上記層間強度が0.8N/10mm未満であると、熱収縮性ラベルを容器に被せる時に層間剥離が発生することがある。上記層間強度のより好ましい下限は0.9N/10mm、更に好ましい下限は1.0N/10mmである。
また、本発明の熱収縮性多層フィルムは、主収縮方向(TD方向)の層間強度が0.5~2.0N/10mmであることが好ましい。上記層間強度が0.5N/10mm未満であると、容器にラベルを被覆しダンボール輸送をした際に磨耗により層間剥離が発生することがある。上記層間強度のより好ましい下限は0.65N/10mm、更に好ましい下限は0.8N/10mmである。
【0085】
本発明の熱収縮性多層フィルムでは、MD方向の層間強度が、TD方向の層間強度より高いことが好ましい。ラベラー(熱収縮性ラベルを容器に被せる機器)を用いて熱収縮性ラベルを装着する場合、MD方向に力が掛かることが多いため、MD方向の層間強度が高いことで、好適に熱収縮性ラベルを容器に装着することができる。
なお、上記層間強度は、例えば、測定サンプルについて、MD方向、TD方向に層間を180度方向に剥離させたときの層間強度を剥離試験機を用いて測定することができる。
【0086】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、熱機械分析(TMA)により測定される式(1)で表されるTD方向の寸法変化量の下限が-55μm、上限が-1000μmである。
上記寸法変化量は、20℃におけるTD方向の寸法と60℃におけるTD方向の寸法の差を意味し、以下の式により算出することができる。
寸法変化量=20℃におけるTD方向の寸法-60℃におけるTD方向の寸法 (1)
なお、変化量が-55~-1000μmであるとは、熱収縮性多層フィルムが収縮していることを意味する。
上記TMAによる寸法変化量が-55μm以上であると、容器とラベルとの隙間を少なくして、ラベルの緩みを抑制することができる。上記TMAによる寸法変化量が-1000μm以下であると、乾熱乾燥後に容器が潰れることを防止することができる。
上記TMAによる寸法変化量は、-55~―800μmであることが好ましく、-55~―600μmであることがより好ましい。
上記寸法変化量は具体的には以下の方法により測定することができる。
熱収縮性多層フィルムを、TD方向(主収縮方向)が長さ方向となるように、測定基準長さ16mm×幅4.7mmの大きさに切り出して試料を作製し、得られた試料について、熱機械分析装置(TAインスツルメント社製、TMA Q400)を用い、荷重0.1N、昇温速度5℃/分で30℃から60℃まで昇温し、その後、降温速度5℃/分で60℃から10℃まで冷却して、60℃における試料の長さと、20℃における試料の長さに基づいて算出することができる。
また、上記寸法変化量は、任意の長さの試料を作製し、測定基準長さ16mmとした測定箇所について、荷重0.1N、昇温速度5℃/分で30℃から60℃まで昇温し、その後、降温速度5℃/分で60℃から10℃まで冷却した際の60℃における測定箇所の測定基準長さからの寸法変化量と、20℃における測定箇所の測定基準長さからの寸法変化量との差に基づいて算出することもできる。
【0087】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、上記測定基準長さに対する上記寸法変化量の割合(寸法変化量÷測定基準長さ×100)が0.34~6.9%であることが好ましく、0.34~5.0%であることがより好ましく、0.34~3.8%であることが更に好ましい。
【0088】
上記TMAにより測定される寸法変化量は、例えば、原料樹脂の配合割合、各層の層比率又は製膜条件(延伸温度、延伸倍率等)により達成することができる。
【0089】
本発明の熱収縮性多層フィルムを製造する方法は特に限定されないが、共押出法により各層を同時に成形する方法が好ましい。上記共押出法がTダイによる共押出である場合、積層の方法は、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式、又は、これらを併用した方法のいずれであってもよい。
【0090】
本発明の熱収縮性多層フィルムを製造する方法としては、具体的には、例えば、上記表裏層、上記中間層及び上記接着層を構成する原料をそれぞれ押出機に投入し、多層ダイスによりシート状に押出し、引き取りロールにて冷却固化した後、1軸又は2軸に延伸する方法が挙げられる。
上記延伸の方法としては、例えば、ロール延伸法、テンター延伸法又はこれらの組み合わせを用いることができる。延伸温度はフィルムを構成する樹脂の軟化温度、熱収縮性多層フィルムに要求される収縮特性等に応じて変更されるが、好ましい下限は65℃、好ましい上限は120℃、より好ましい下限は70℃、より好ましい上限は115℃である。主収縮方向の延伸倍率はフィルムを構成する樹脂、延伸手段、延伸温度等に応じて変更されるが、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上であって、好ましくは7倍以下、より好ましくは6倍以下である。このような延伸温度及び延伸倍率とすることにより、優れた厚み精度を達成することができ、また、ミシン目を裂いたときに層間剥離が生じて内面側の表裏層のみが容器に残ってしまうことを防止することができる。
【0091】
本発明の熱収縮性多層フィルムの用途は特に限定されないが、本発明の熱収縮性多層フィルムは、乾熱収縮用の熱収縮性ラベルとして容器に装着した際に、装着後のシワや緩みを防止することができることから、例えば、特にボディケア用品、スキンケア用品、ヘアケア用品、入浴剤等の意匠性が高いトイレタリー用の容器に装着される熱収縮性ラベルのベースフィルムとして好適に用いられる。本発明の熱収縮性多層フィルムを含む熱収縮性ラベルもまた本発明の1つである。
【発明の効果】
【0092】
本発明によれば、乾熱収縮用の熱収縮性ラベルとして容器に装着した際に、装着後のシワや緩みを防止することができる熱収縮性多層フィルム及び該熱収縮性多層フィルムをベースフィルムとする熱収縮性ラベルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0093】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
実施例、参考例及び比較例においては、以下の原料を用いた。
【0094】
(ポリエステル系樹脂)
・ポリエステル系樹脂A:ジカルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%を用い、ジオール成分としてエチレングリコールに由来する成分を65モル%、ジエチレングリコールに由来する成分を20モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する成分を15モル%含有するポリエステル系樹脂(ガラス転移温度69℃)
・ポリエステル系樹脂B:ジカルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%を用い、ジオール成分として1,4-ブタンジオールに由来する成分を100モル%含有するポリエステル系樹脂(融点223℃)
・ポリエステル系樹脂C:ジカルボン酸成分としてテレフタル酸70モル%、イソフタル酸30モル%を用い、ジオール成分とし1,4-ブタンジオールに由来する成分を100モル%含有するポリエステル系樹脂(融点170℃)
(ポリスチレン系樹脂)
・ポリスチレン系樹脂A:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン81.3重量%、ブタジエン18.7重量%、ビカット軟化温度81℃)
・ポリスチレン系樹脂B:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン79重量%、ブタジエン21重量%、ビカット軟化温度59℃)
・ポリスチレン系樹脂C:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン77.7重量%、ブタジエン22.3重量%、ビカット軟化温度71℃)
・ポリスチレン系樹脂D:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン72重量%、ブタジエン28重量%、ビカット軟化温度76℃)
・ポリスチレン系樹脂E:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン80重量%、ブタジエン20重量%、ビカット軟化温度74℃)
・ポリスチレン系樹脂F:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン82重量%、ブタジエン18重量%、ビカット軟化温度75℃)
・ポリスチレン系樹脂G:スチレン-ブタジエン共重合体(スチレン82重量%、ブタジエン18重量%、ビカット軟化温度76℃)
(ポリエステル系エラストマー)
・ポリエステル系エラストマーA:ハードセグメントとしてのポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリエーテルとから構成される無変性ポリエステル・ポリエーテルブロック共重合体(東レデュポン社製、ハイトレル2521、デュロメーター硬さ55)
・ポリエステル系エラストマーB:ハードセグメントとしてのポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリエーテルとから構成される変性ポリエステル・ポリエーテルブロック共重合体エラストマー(三菱化学社製、プリマロイAP、デュロメーター硬さ40)
(ポリスチレン系エラストマー)
・ポリスチレン系エラストマー:スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン40重量%、ブタジエン60重量%、ビカット軟化温度76℃)
【0095】
(実施例1)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂A50重量%とポリスチレン系樹脂B50重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂A59重量%とポリエステル系樹脂C10重量%とポリスチレン系樹脂D31重量%とを含む混合樹脂を用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが50μmであり、表裏層(7μm)/接着層(1μm)/中間層(34μm)/接着層(1μm)/表裏層(7μm)の5層構造であった。
【0096】
(実施例2)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂A30重量%とポリスチレン系樹脂C70重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーA65重量%とポリスチレン系樹脂D35重量%とを含有する混合樹脂を用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが50μmであり、表裏層(7μm)/接着層(1μm)/中間層(34μm)/接着層(1μm)/表裏層(7μm)の5層構造であった。
【0097】
(参考例3)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂A80重量%とポリエステル系樹脂B20重量%とを含む混合樹脂を用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂D32重量%とポリスチレン系樹脂E68重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーBを用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが40μmであり、表裏層(5.7μm)/接着層(0.7μm)/中間層(27.2μm)/接着層(0.7μm)/表裏層(5.7μm)の5層構造であった。
【0098】
(参考例4)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂D40重量%とポリスチレン系樹脂G54.3重量%とポリスチレン系エラストマー5.7重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーBを用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが35μmであり、表裏層(3.8μm)/接着層(0.5μm)/中間層(26.4μm)/接着層(0.5μm)/表裏層(3.8μm)の5層構造であった。
【0099】
(実施例5)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂A30重量%とポリスチレン系樹脂C70重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーA30重量%とポリスチレン系樹脂D70重量%とを含む混合樹脂を用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが40μmであり、表裏層(5.7μm)/接着層(0.7μm)/中間層(27.2μm)/接着層(0.7μm)/表裏層(5.7μm)の5層構造であった。
【0100】
(実施例6)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂A30重量%とポリスチレン系樹脂F70重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーB60重量%とポリスチレン系樹脂D40重量%とを含む混合樹脂を用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが40μmであり、表裏層(5.7μm)/接着層(μm)/中間層(27.2μm)/接着層(0.7μm)/表裏層(5.7μm)の5層構造であった。
【0101】
(実施例7)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂A30重量%とポリスチレン系樹脂F70重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーAを含む樹脂を用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが35μmであり、表裏層(3.8μm)/接着層(0.5μm)/中間層(26.4μm)/接着層(0.5μm)/表裏層(3.8μm)の5層構造であった。
【0102】
(参考例8)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂D40重量%とポリスチレン系樹脂G54.3重量%とポリスチレン系エラストマー5.7重量%とを含む混合樹脂を用いた。接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーBを用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが40μmであり、表裏層(5μm)/接着層(0.5μm)/中間層(29μm)/接着層(0.5μm)/表裏層(5μm)の5層構造であった。
【0103】
(参考例9)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂Eを用いた。接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーAを用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが40μmであり、表裏層(5.7μm)/接着層(0.7μm)/中間層(27.2μm)/接着層(0.7μm)/表裏層(5.7μm)の5層構造であった。
【0104】
(比較例1)
表裏層を構成する樹脂として、ポリエステル系樹脂Aを用いた。
中間層を構成する樹脂として、ポリスチレン系樹脂D40重量%とポリスチレン系樹脂G54.3重量%とポリスチレン系エラストマー5.7重量%とを含む混合樹脂を用いた。
接着層を構成する樹脂として、ポリエステル系エラストマーBを用いた。
これらをバレル温度が160~250℃の押出機に投入し、250℃の多層ダイスから5層構造のシート状に押出し、30℃の引き取りロールにて冷却固化した。次いで、予熱ゾーン105℃、延伸ゾーン90℃、熱固定ゾーン85℃のテンター延伸機内で延伸倍率6倍にて延伸した後、巻き取り機で巻き取ることにより、主収縮方向と直交する方向がMD、主収縮方向がTDとなる熱収縮性多層フィルムを得た。
得られた熱収縮性多層フィルムは、総厚さが25μmであり、表裏層(5μm)/接着層(0.5μm)/中間層(14μm)/接着層(0.5μm)/表裏層(5μm)の5層構造であった。
【0105】
(評価)
実施例、参考例及び比較例で得られた熱収縮性多層フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0106】
(1)熱機械分析(TMA)
実施例1、2、5~7、参考例3、4、8、9及び比較例1で得られた熱収縮性多層フィルムを、TD方向(主収縮方向)が長さ方向となるように、長さ26mm×幅4.7mmの大きさに切り出して、測定基準長さ16mmの測定箇所を有する試料を作製した。
得られた試料について、熱機械分析装置(TAインスツルメント社製、TMA Q400)を用い、荷重0.1N、昇温速度5℃/分で30℃から60℃まで昇温した。
その後、降温速度5℃/分で60℃から10℃まで冷却した際の60℃における測定箇所の測定基準長さからの寸法変化量と、20℃における測定箇所の測定基準長さからの寸法変化量との差を測定し、次式により寸法変化量を算出した。
寸法変化量(μm)=20℃における測定基準長さからの寸法変化量(μm)-60℃における測定基準長さからの寸法変化量(μm)
【0107】
(2)ズレ幅評価
実施例1、2、5~7、参考例3、4、8、9及び比較例1で得られた熱収縮性多層フィルムを用いて、折径132mm、長さ90mmのラベルを作製した。
カブセ式シュリンクトンネルK-1000(協和電気社製)をトンネル温度90℃、風量20Hz、ベルト速度25Hz(通過時間25秒)に設定して、トンネル1とした。
また、カブセ式シュリンクトンネルK-100(協和電気社製)をトンネル温度100℃、風量40Hz、ベルト速度25Hz(通過時間25秒)に設定して、トンネル2とした。
次いで、スプレーボトル(カビキラー(登録商標)スプレーボトル:容量400ml、幅102mm、奥行き57mm、高さ164mm)に、得られたラベルを装着し、トンネル1を通過し、常温雰囲気下を7秒通過した後、トンネル2を通過させてラベルを収縮させて、更に24時間放置した。
得られたラベル付き容器のラベルに対して、周方向に最大10Nの荷重を加え、容器の周方向へのラベルのズレ幅を測定した。なお、ズレ幅が0~10mmであれば、フィルムの緩みを充分に抑制できるといえる。
【0108】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、乾熱収縮用の熱収縮性ラベルとして容器に装着した際に、装着後のシワや緩みを防止することができる熱収縮性多層フィルム及び該熱収縮性多層フィルムをベースフィルムとする熱収縮性ラベルを提供することができる。