IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学東セロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガスバリア性積層体 図1
  • 特許-ガスバリア性積層体 図2
  • 特許-ガスバリア性積層体 図3
  • 特許-ガスバリア性積層体 図4
  • 特許-ガスバリア性積層体 図5
  • 特許-ガスバリア性積層体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20230426BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20230426BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20230426BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B32B27/34
C08G69/26
C08L33/02
C08L79/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020563256
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050381
(87)【国際公開番号】W WO2020137982
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018243757
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小田川 健二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信悟
(72)【発明者】
【氏名】守屋 英一
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-010857(JP,A)
【文献】特開2014-184678(JP,A)
【文献】特表2015-526534(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/
B32B 27/
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にアンダーコート層を有する基材層と、
前記基材層のアンダーコート層を有する面に設けられ、かつ、ガスバリア性重合体を含むガスバリア層と、
を備えるガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性重合体がポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を加熱硬化してなるガスバリア性重合体であって、
前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の重合体を含み、
前記ポリアミン化合物が、分岐型ポリアミンを含み、
当該ガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルにおいて、
1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを結ぶ直線をベースラインとして設定し、
1660cm-1における吸収強度をI(1660)とし、
1625cm-1における吸収強度をI(1625)としたとき、
下記式(1)で示されるRが1より大きく、
前記ポリカルボン酸の重量平均分子量が5×10 以上2×10 以下であり、
(前記混合物中の前記ポリアミン化合物に含まれる-NH基のモル数および-NH 基のモル数の合計)/(前記混合物中の前記ポリカルボン酸に含まれる-COOH基のモル数)=0.28~0.42である、ガスバリア性積層体。
R=I(1660)/I(1625)-{-0.65×(全アミン/COOH)+0.4225} (1)
(上記式(1)中、「全アミン」は、前記混合物中の前記ポリアミン化合物に含まれる1級、2級および3級アミノ基のモル数の合計であり、「COOH」は、前記混合物中の前記ポリカルボン酸に含まれる-COOH基のモル数である。)
【請求項2】
前記式(1)における前記(全アミン/COOH)が0.4以上0.7以下である、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
前記ガスバリア性重合体の前記赤外線吸収スペクトルにおいて、
1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを結ぶ直線をベースラインとして設定し、
吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、
吸収帯1598cm-1以上1690cm-1以下の範囲における全ピーク面積をBとしたとき、
(B/A)で示されるアミド結合の面積比率が0.370未満である、請求項1または2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記アンダーコート層がエポキシ(メタ)アクリレート系化合物およびウレタン(メタ)アクリレート系化合物から選択される少なくとも1種を硬化してなる層である、請求項1乃至いずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記アンダーコート層の厚さが、コート量として、0.01~100g/mである、請求項1乃至4いずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性重合体およびこれを用いたガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムに関する技術として、特許文献1~3に記載のものがある。
特許文献1(特開2005-225940号公報)には、ポリカルボン酸と、ポリアミンおよび/またはポリオールから製膜されたガスバリア層を有し、ポリカルボン酸の架橋度が40%以上であるガスバリアフィルムについて記載されている。同文献によれば、このようなガスバリア性フィルムは高湿度条件下においても低湿度条件下と同様の優れたガスバリア性を有すると記載されている。
【0003】
特許文献2(特開2013-10857号公報)には、プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸を特定の重量比となるように混合してなる混合物が塗布されたフィルムであって、ボイル処理後の酸素透過度が特定の範囲にあるガスバリア性フィルムに関する技術が記載されている。同文献によれば、上記フィルムにより、ボイル処理後もガスバリア性、特に酸素遮断性に優れ、かつ可撓性、透明性、耐湿性、耐薬品性等に優れたガスバリア層を有し、また環境負荷も小さい包装用材料を、複雑な工程を経ることなく提供することができたとされている。
【0004】
また、特許文献3(特表2015-526534号公報)には、優れた酸素バリア性、特に、追加の保護コーティングを設ける必要なく高湿度環境で優れた酸素バリア性を有する、ポリマー膜を製造できる更なる組成物および方法を提供するための技術として、ポリマー膜に酸素バリア性を付与するための、少なくとも一つのポリアニオンおよび少なくとも一つのポリエチレンイミンを含有する水溶液の使用であって、ポリアニオンは、無機塩基および一価の有機塩基からなる群から選択された少なくとも一つの塩基で中和された酸基含有ポリマーであり、酸基含有ポリマーおよびポリエチレンイミンがそれぞれ特定の質量平均分子量を有する使用について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-225940号公報
【文献】特開2013-10857号公報
【文献】特表2015-526534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によると、上述した特許文献1~3に記載の技術においては、レトルト処理後のバリア性に優れるガスバリア性重合体を生産性良く得るという点において改善の余地があった。
本発明は、生産性に優れるとともに、レトルト処理後のガスバリア性に優れるガスバリア性重合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示すガスバリア性重合体およびガスバリア性積層体が提供される。
[1]
ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を加熱硬化してなるガスバリア性重合体であって、
当該ガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルにおいて、
1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを結ぶ直線をベースラインとして設定し、
1660cm-1における吸収強度をI(1660)とし、
1625cm-1における吸収強度をI(1625)としたとき、
下記式(1)で示されるRが1より大きい、ガスバリア性重合体。
R=I(1660)/I(1625)-{-0.65×(全アミン/COOH)+0.4225} (1)
(上記式(1)中、「全アミン」は、前記混合物中の前記ポリアミン化合物に含まれる1級、2級および3級アミノ基のモル数の合計であり、「COOH」は、前記混合物中の前記ポリカルボン酸に含まれる-COOH基のモル数である。)
[2]
前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の重合体を含む、上記[1]に記載のガスバリア性重合体。
[3]
前記ポリアミン化合物が、分岐型ポリアミンを含む、上記[1]または[2]に記載のガスバリア性重合体。
[4]
前記式(1)における前記(全アミン/COOH)が0.4以上0.7以下である、上記[1]乃至[3]いずれか1つに記載のガスバリア性重合体。
[5]
(前記混合物中の前記ポリアミン化合物に含まれる-NH基のモル数および-NH2基のモル数の合計)/(前記混合物中の前記ポリカルボン酸に含まれる-COOH基のモル数)=0.28~0.5である、上記[1]乃至[4]いずれか1つに記載のガスバリア性重合体。
[6]
当該ガスバリア性重合体の前記赤外線吸収スペクトルにおいて、
1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを結ぶ直線をベースラインとして設定し、
吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、
吸収帯1598cm-1以上1690cm-1以下の範囲における全ピーク面積をBとしたとき、
(B/A)で示されるアミド結合の面積比率が0.370未満である、上記[1]乃至[5]いずれか1つに記載のガスバリア性重合体。
[7]
基材層と、
前記基材層の少なくとも一方の面に設けられ、かつ、上記[1]乃至[6]いずれか1つに記載のガスバリア性重合体を含むガスバリア層と、
を備えるガスバリア性積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生産性に優れるとともに、レトルト処理後のガスバリア性に優れるガスバリア性重合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態におけるガスバリア性積層体の構成を模式的に示す断面図である。
図2】実施形態におけるガスバリア性積層体の構成を模式的に示す断面図である。
図3】実験例におけるガスバリア性重合体の評価結果を示す図である。
図4】実験例におけるガスバリア性重合体の評価結果を示す図である。
図5】実験例におけるガスバリア性重合体の評価結果を示す図である。
図6】実験例におけるガスバリア性重合体の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。なお、文中の数字の間にある「~」は、断りがなければ、以上から以下を表す。
【0011】
(ガスバリア性重合体)
本実施形態において、ガスバリア性重合体は、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を加熱硬化してなる。そして、かかるガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルにおいて、1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを結ぶ直線をベースラインとして設定し、1660cm-1における吸収強度をI(1660)とし、1625cm-1における吸収強度をI(1625)としたとき、下記式(1)で示されるRが1より大きい。
R=I(1660)/I(1625)-{-0.65×(全アミン/COOH)+0.4225} (1)
(上記式(1)中、「全アミン」は、混合物中のポリアミン化合物に含まれる1級、2級および3級アミノ基のモル数の合計であり、「COOH」は、混合物中のポリカルボン酸に含まれる-COOH基のモル数である。)
【0012】
本実施形態においては、ガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルにおいて、I(1625)に対するI(1660)の強度比を用いて式(1)で示されるRが特定の条件を満たすため、生産性に優れるとともに、レトルト処理後のガスバリア性に優れるガスバリア性重合体を得ることができる。さらに具体的には、Rが特定の条件を満たすことにより、レトルト処理後の酸素ガスバリア性に優れたガスバリア性重合体を短時間の加熱処理で得ることができる。
すなわち、本発明者らは、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を加熱硬化してなるガスバリア性重合体について、生産性およびレトルト処理後のガスバリア性を向上させるために鋭意検討を重ねた。その結果、I(1625)に対するI(1660)の比という尺度が、ガスバリア性重合体の生産性およびレトルト処理後のガスバリア性の向上のための設計指針として有効であることを見出した。
さらに具体的には、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を加熱硬化してなるガスバリア性重合体は、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物の架橋体により構成される。この架橋体には、イオン架橋およびアミド架橋の2種類の架橋構造が存在し、これらの架橋構造の分布状態の制御がガスバリア性能を向上させる観点において重要であることが明らかになった。架橋構造のうち、イオン架橋とは、ポリカルボン酸に含まれるカルボキシル基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基とが酸塩基反応を起こすことによって生成するものである。また、アミド架橋とは、ポリカルボン酸に含まれるカルボキシル基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基とが脱水縮合反応を起こすことによって生成するものである。そして、本発明者らがさらに検討したところ、上記の2種の架橋構造のうち、アミド架橋の形成状態が、架橋体のIRスペクトル中のI(1625)およびI(1660)に反映されること、そして、I(1625)に対するI(1660)の比という尺度を設計指針とすることにより、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成できることが明らかになった。
式(1)において、Rが1より大きいことは、架橋体中にアミド架橋点が好ましい分布状態で形成されており、架橋体のレトルト処理後のガスバリア性に優れるとともに、かかる架橋体が短い熱処理時間で効率良く形成されることを示していると考えられる。
【0013】
ここで、式(1)中、I(1660)およびI(1625)は、具体的には以下の方法で決定される。すなわち、本実施形態のガスバリア性重合体により形成されたガスバリア層から1cm×3cmの測定用サンプルを切り出す。次に、そのガスバリア層の表面の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR-IR法)により得る。次いで、得られた赤外線吸収スペクトル中、1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを直線(ベースライン:N)で結び、得られた赤外線吸収スペクトルとNとの差スペクトルを得てこれをスペクトル(SBN)とする。但し、ガスバリア層の厚みがおおよそ0.5μm以下の場合、測定された赤外線吸収スペクトルにガスバリア層よりも下層の影響を含む。その場合は、ガスバリア層の無い下層のみで構成される基材も測定サンプルとして用意し、同様に基材表面のATR-IRスペクトルを得て、ベースラインNとの差スペクトルを求め、これをスペクトル(SSN)とする。1493cm-1から1780cm-1の波数範囲において、次式に従った差スペクトル解析を行い、基材の影響を除いたスペクトル(SBN')を得る。
<スペクトル(SBN')>=<スペクトル(SBN)>-α*<スペクトル(SSN)>
ここで、αは、基材の影響を除くための係数で、0≦α<1である。αの具体的な決定方法については実施例の項で後述する。そして、上記の解析を通じて有られたスペクトル(SSN')において、1660cm-1におけるIR強度がI(1660)、1625cm-1におけるIR強度がI(1625)である。
【0014】
本実施形態において、赤外線吸収スペクトルの測定(赤外線全反射測定:ATR法)は、たとえば、日本分光社製FT/IR-460装置を用い、多重反射測定ユニットATR PRO410-M(プリズム:Germanium結晶、入射角度45度、多重反射回数=5)を装着して室温、分解能2cm-1、積算回数150回の条件でおこなうことができる。
【0015】
また、式(1)中、「-{-0.65×(全アミン/COOH)+0.4225}」は補正因子である。
(全アミン/COOH)は、ガスバリア性組成物中のカルボキシル基のモル数に対する全アミン成分のモル数の比であり、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物の配合比率から計算することができる。一方、配合比率が不明な場合は、たとえば、ガスバリア性重合体の組成分析により近似的に決定することができる。具体的には、ガスバリア性重合体がポリアクリル酸またはポリメタクリル酸とポリアミン化合物との混合物を加熱硬化して形成されるとき、得られたガスバリア性重合体中のNおよびOの原子比率をX線光電子分光法(XPS)で求めることにより、(全アミン/COOH)を以下の式にて算出することができる。
(全アミン/COOH)=[N]/{0.5*[O]}
(上記式中、[N]および[O]は、それぞれ、ガスバリア性重合体中のNおよびOの原子比率である。)
【0016】
式(1)で示されるRは、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成する観点から、1より大きく、好ましくは1.01以上、さらに好ましくは1.05以上、よりいっそう好ましくは1.10以上である。
また、Rの上限に制限はないが、ガスバリア性重合体の生産性向上の観点から、Rはたとえば1.50以下、であり、好ましくは1.40以下である。
【0017】
また、式(1)における(全アミン/COOH)は、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成する観点から、好ましくは0.4以上であり、さらに好ましくは0.43以上、よりいっそう好ましくは0.45以上である。
また、同様の観点から、式(1)における(全アミン/COOH)は、好ましくは0.7以下であり、さらに好ましくは0.65以下、よりいっそう好ましくは0.6以下である。
【0018】
本実施形態において、式(1)で示されるRは、ガスバリア性重合体の製造条件を適切に調節することにより制御することが可能である。Rを制御するための因子として、混合物中に配合されるポリカルボン酸の種類、混合物中に配合されるポリアミン化合物の構造および分子量、混合物中のイオン架橋点の濃度を反映した((混合物中のポリアミン化合物に含まれる-NH基のモル数および-NH2基のモル数の合計)/(混合物中のポリカルボン酸に含まれる-COOH基のモル数))(本明細書中、「((NH2+NH)/COOH))」ともいう。)のモル比等が挙げられる。なお、ガスバリア性重合体の製造方法の具体例については後述する。
【0019】
また、ガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルにおける1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを結ぶ直線をベースラインNとしたとき、赤外線吸収スペクトルとNとの差スペクトルにおいて、吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、吸収帯1598cm-1以上1690cm-1以下の範囲における全ピーク面積をBとしたとき、(B/A)で表されるアミド結合の面積比率は、ガスバリア性重合体中のC=O伸縮振動成分のうち、アミド結合由来の成分比率に関係した指標となる。但し、ガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルは、本実施形態のガスバリア性重合体により形成されたガスバリア層の表面の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR-IR法)により得る。また、測定された赤外線吸収スペクトルにガスバリア層よりも下層の影響を含む場合は、前述と同様な解析手法により、下層の影響を除去する。
アミド結合の面積比率は、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成する観点から、好ましくは0.370未満であり、さらに好ましくは0.36以下、よりいっそう好ましくは0.35以下である。
一方、レトルト処理後のガスバリア性が良好な架橋体を得る観点から、上記面積比率(B/A)は、たとえば0.25以上であり、好ましくは0.27以上である。
【0020】
(ガスバリア性重合体の製造方法)
本実施形態に係るガスバリア性重合体の製造方法は、従来の製造方法とは異なるものである。本実施形態に係るガスバリア性重合体を得るためには、混合物中に配合されるポリカルボン酸の種類、混合物中に配合されるポリアミン化合物の構造および分子量、混合物中の((NH2+NH)/COOH)のモル比を高度に制御するとともに、加熱処理の方法・温度・時間等の製造条件を適切に制御することが重要である。
具体的には、((NH2+NH)/COOH)<(全アミン/COOH)を満たすポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物、さらには[((NH2+NH)/COOH)/(全アミン/COOH)]<0.8を満たすポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物が好ましい。
【0021】
以下、本実施形態に係るガスバリア性重合体の製造方法の一例について説明する。
本実施形態において、ガスバリア性重合体は、たとえば、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を調製する工程と、得られた混合物を加熱硬化してガスバリア性重合体を得る工程と、を含む。また、かかる製造方法は、混合物を調製する工程後、加熱硬化する工程の前に、混合物を所定の厚さに塗布する工程をさらに含んでもよい。
【0022】
混合物を調製する工程において用いられるポリカルボン酸およびポリアミン化合物の具体例を以下に示す。
【0023】
(ポリカルボン酸)
ポリカルボン酸は、分子内に2個以上のカルボキシ基を有するものである。ポリカルボン酸の具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸、3-ヘキセン酸、3-ヘキセン二酸等のα,β-不飽和カルボン酸の単独重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。また、上記α,β-不飽和カルボン酸と、エチルエステル等のエステル類、エチレン等のオレフィン類等との共重合体であってもよい。
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸の単独重合体またはこれらの共重合体が好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体から選択される1種または2種以上の重合体であることがより好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸から選択される少なくとも1種の重合体であることがさらに好ましく、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体から選択される少なくとも1種の重合体であることがよりいっそう好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態において、ポリアクリル酸とは、アクリル酸の単独重合体、アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリアクリル酸は、重合体100質量%中に、アクリル酸由来の構成単位を、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
また、本実施形態において、ポリメタクリル酸とは、メタクリル酸の単独重合体、メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリメタクリル酸は、重合体100質量%中に、メタクリル酸由来の構成単位を、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
【0025】
また、本実施形態において、ポリカルボン酸はカルボン酸モノマーが重合した重合体であり、ポリカルボン酸の重量平均分子量は、レトルト処理後のガスバリア性および取扱い性のバランスに優れる観点から、好ましくは5×104以上であり、さらに好ましくは1.5×105以上、よりいっそう好ましくは2×105以上、さらにまた好ましくは5×105以上である。
一方、ガスバリア性重合体の生産性を向上する観点から、ポリカルボン酸の重量平均分子量は、好ましくは2×106以下であり、好ましくは1.5×106以下、より好ましくは1.3×106以下である。
ここで、本実施形態において、ポリカルボン酸の分子量はポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0026】
(ポリアミン化合物)
本実施形態に係るポリアミン化合物は、主鎖あるいは側鎖あるいは末端にアミノ基を2つ以上有するポリマーである。具体的には、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(トリメチレンイミン)等の脂肪族系ポリアミン類;ポリリジン、ポリアルギニンのように側鎖にアミノ基を有するポリアミド類;等が挙げられる。また、アミノ基の一部を変性したポリアミンでもよい。レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成する観点から、ポリアミンは、好ましくは分岐型ポリエチレンイミン(B-PEI)等の分岐型ポリアミンを含み、さらに好ましくは分岐型ポリアミンであり、よりいっそう好ましくは分岐型ポリエチレンイミンである。
【0027】
本実施形態に係るポリアミン化合物の重量平均分子量は、ガスバリア性重合体の生産性とレトルト処理後のガスバリア性とのバランスを向上させる観点から、好ましくは2×103以上であり、さらに好ましくは5×103以上である。
また、同様の観点から、ポリアミン化合物の重量平均分子量は、好ましくは1×105以下であり、さらに好ましくは8×104以下、よりいっそう好ましくは5×104以下である。
ここで、本実施形態において、ポリアミン化合物の分子量は沸点上昇法や粘度法を用いて測定することができる。
【0028】
本実施形態において、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成する観点から、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物の組み合わせは、好ましくはポリアクリル酸および分岐型ポリアミンであり、さらに好ましくはポリアクリル酸および分岐型ポリエチレンイミンである。
また、ポリアクリル酸および分岐型ポリエチレンイミンの組み合わせにおける、ポリアクリル酸の重量平均分子量は、同様の観点から、5×104以上であり、さらに好ましくは1.5×105以上、よりいっそう好ましくは2×105以上、さらにまた好ましくは5×105以上であり、また、好ましくは2×106以下であり、好ましくは1.5×106以下、より好ましくは1.3×106以下である。
また、ポリアクリル酸および分岐型ポリエチレンイミンの組み合わせにおける、分岐型ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、同様の観点から、好ましくは2×103以上であり、さらに好ましくは5×103以上であり、また、好ましくは1×105以下であり、さらに好ましくは8×104以下、よりいっそう好ましくは5×104以下である。
【0029】
また、((NH2+NH)/COOH))のモル比は、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を短時間で効率良く形成する観点から、好ましくは0.28以上であり、さらに好ましくは0.30以上、よりいっそう好ましくは0.31以上である。
また、同様の観点から、上記モル比((NH2+NH)/COOH)は、好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.48以下、よりいっそう好ましくは0.46以下、さらにまた好ましくは0.42以下である。
【0030】
ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物は、たとえば以下のようにして得ることができる。
まず、ポリカルボン酸に、塩基を加えることによりポリカルボン酸のカルボキシ基を完全にまたは部分的に中和する。次いで、カルボキシ基を完全にまたは部分的に中和したポリカルボン酸にポリアミン化合物を添加する。このような手順でポリカルボン酸およびポリアミン化合物を混合することにより、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物の凝集物の生成を抑制でき、均一な混合物を得ることができる。これにより、ポリカルボン酸に含まれる-COOH基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応をより効果的に進めることが可能となる。
【0031】
ここで、塩基によってポリカルボン酸を中和することにより、ポリアミン化合物とポリカルボン酸とを混合する際に、ゲル化が起こることを抑制することができる。したがって、ポリカルボン酸において、ゲル化防止の観点から塩基によってカルボキシ基の部分中和物または完全中和物とすることが好ましい。中和物は、ポリカルボン酸のカルボキシ基を塩基で部分的にまたは完全に中和することにより、すなわち、ポリカルボン酸のカルボキシ基を部分的または完全にカルボン酸塩とすることにより得ることができる。また、必要に応じて、完全中和より過剰な塩基を添加してもよい。これにより、ポリアミン化合物を添加する際、ゲル化を防止できる。中でも、高分子量のポリカルボン酸を用いる場合、完全中和より過剰な塩基の添加は、ゲル化を防止に有用である。
ポリカルボン酸の中和物は、ポリカルボン酸の水溶液に塩基を添加することにより調製するが、ポリカルボン酸と塩基の量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。本実施形態においてはポリカルボン酸の塩基による中和度は、ポリアミン化合物のアミノ基との中和反応に起因するゲル化を十分に抑制する観点から、好ましくは30~400当量%であり、より好ましくは40~300当量%、さらに好ましくは50~250当量%である。
【0032】
塩基としては、任意の水溶性塩基を用いることができる。水溶性塩基として、揮発性塩基と不揮発性塩基のいずれかまたは双方を使用することができるが、残存した遊離塩基によるガスバリア性低下を抑制する観点から乾燥・硬化の際に除去が容易な揮発性塩基であることが好ましい。
揮発性塩基としては、たとえば、アンモニア、モルホリン、アルキルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、N-メチルモノホリン、エチレンジアミン、トリエチルアミン等の三級アミンまたはこれらの水溶液、あるいはこれらの混合物が挙げられる。良好なガスバリア性を得る観点から、アンモニア水溶液が好ましい。
不揮発性塩基としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムまたはこれらの水溶液、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
また、混合物中の固形分濃度は、混合物を塗工する際の塗工性を向上させる観点から、0.5~15質量%に設定することが好ましく、1~10質量%に設定することがさらに好ましい。
【0034】
また、混合物には、混合物を基材に塗布する際にはじきが発生するのを防止する観点から、界面活性剤をさらに添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は、混合物の固形分全体を100質量%としたとき、0.01~3質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。
【0035】
本実施形態において、界面活性剤としては、たとえば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、良好な塗工性を得る観点から、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類がより好ましい。
【0036】
非イオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、含フッ素界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等を挙げることができる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類を挙げることができる。
ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル等を挙げることができる。
ソルビタン脂肪酸エステル類としては、たとえば、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等を挙げることができる。
シリコーン系界面活性剤としては、たとえば、ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。
アセチレンアルコール系界面活性剤としては、たとえば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3オール等を挙げることができる。
含フッ素系界面活性剤としては、たとえば、フッ素アルキルエステル等を挙げることができる。
【0038】
また、混合物は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の添加剤を含んでもよい。たとえば、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤、多価金属化合物等の各種添加剤を添加してよい。
【0039】
得られた混合物は、たとえばガスバリア性塗材として用いることができる。具体的には、ガスバリア性塗材を基材上に所定の厚さに塗布することにより、塗工層を得ることができる。
混合物の塗工方法は、限定されず、通常の方法を用いることができる。たとえば、メイヤーバーコーター、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター、アプリケーター等種々公知の塗工機を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0040】
塗工層の厚み(ウエット厚み)は、得られるガスバリア性重合体のバリア性能をより良好なものとする観点から、好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは1μm以上である。
また、得られるガスバリア性重合体がカールすることを抑制する観点、および、ポリカルボン酸に含まれる-COOH基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応をより効果的に進める観点から、ウエット厚みは、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下、よりいっそう好ましくは30μm以下である。
【0041】
次に、混合物を加熱硬化する方法について説明する。具体的には、上述した塗工層を加熱することにより、ポリカルボン酸に含まれるカルボキシル基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基とを脱水縮合反応させて、アミド結合を有するガスバリア性重合体を硬化物として得る。本実施形態においては、短時間での加熱硬化により、架橋体中にアミド架橋点が好ましい分布状態で形成されて、レトルト処理後のガスバリア性に優れる架橋体を得ることができる。
【0042】
加熱硬化における加熱処理の方法・温度・時間は、短時間での加熱硬化により、架橋体中にアミド架橋点が好ましい分布状態で形成されるように設定される。
加熱処理の方法については、上記の観点から選択され、たとえば、混合物を硬化させられるもの、硬化したガスバリア用塗材を加熱できる方法であればよい。具体例として、オーブン、ドライヤー等の対流伝熱によるもの、加熱ロール等の伝導伝熱によるもの、赤外線、遠赤外線・近赤外線のヒーター等の電磁波を用いる輻射伝熱によるもの、マイクロ波等内部発熱によるものが挙げられる。乾燥、加熱処理に使用する装置としては製造効率の観点から乾燥と加熱処理の双方をおこなえる装置が好ましい。その中でも具体的には乾燥、加熱、アニーリング等に利用できるという観点から熱風オーブンを用いることが好ましく、また、フィルムへの熱伝導効率に優れているという観点から加熱ロールを用いることが好ましい。また、乾燥、加熱処理に使用する方法を適宜組み合わせてもよい。熱風オーブンと加熱ロールを併用してもよく、たとえば、熱風オーブンで混合物を乾燥後、加熱ロールで加熱処理をおこなえば加熱処理工程が短時間となり製造効率の観点から好ましい。また、熱風オーブンのみで乾燥と加熱処理をおこなうことが好ましい。熱風オーブンを用いて、混合物を乾燥させる場合、加熱処理温度は160~250℃、加熱処理時間は1秒~10分、好ましくは加熱処理温度が180~240℃、加熱処理時間が2秒~8分、より好ましく加熱処理温度が200℃~230℃、加熱処理時間が2秒~6分、さらに好ましくは加熱処理温度が200℃~220℃、加熱処理時間が3秒~5分の条件で加熱処理をおこなうことが望ましい。さらに上述したように加熱ロールを併用することで短時間での加熱処理が可能となる。なお、ポリカルボン酸に含まれる-COOH基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応を効果的に進める観点から、加熱処理温度および加熱処理時間は、混合物のウエット厚みに応じて調整することが重要である。
【0043】
塗工層の乾燥・硬化後の厚みは、レトルト処理後のガスバリア性を向上させる観点から、好ましくは0.01μm以上であり、さらに好ましくは0.05μm以上、よりいっそう好ましくは0.1μm以上である。また、ガスバリア性重合体の生産性を向上させる観点から、上記厚みは好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下、よりいっそう好ましくは1μm以下である。また、上記厚みは、具体的には、後述するガスバリア性積層体における、ガスバリア層の厚みである。
【0044】
乾燥および熱処理は、乾燥後、熱処理をおこなってもよいし、乾燥と熱処理を同時におこなってもよい。乾燥、熱処理する方法は、本発明の目的を達成することができる方法であれば制限はされないが、乾燥、加熱、アニーリング等種々に利用できるという観点から、オーブンによる方法が好ましく、また、加熱目的ではフィルムへの熱伝導効率に優れているという観点から、加熱ロールによる方法がさらに好ましい。
【0045】
以上の製造方法において、混合物中に配合されるポリカルボン酸の種類、混合物中に配合されるポリアミン化合物の構造および分子量、混合物中の((NH2+NH)/COOH)のモル比を高度に制御するとともに、加熱処理の方法・温度・時間等の製造条件を適切に制御することにより、初めて本実施形態におけるガスバリア性重合体を得ることができる。
本実施形態において得られるガスバリア性重合体は、生産性に優れるとともに、レトルト処理後のガスバリア性に優れるものである。さらに具体的には、本実施形態により、レトルト処理後の酸素ガスバリア性に優れるガスバリア性重合体を短時間の加熱処理で得ることができる。
【0046】
本実施形態において得られるガスバリア性重合体は、単独で用いてもよいが、強度向上の観点から、好ましくは他の材料と組み合わせて用いられ、たとえばガスバリア性積層体とすることができる。これらは、たとえば前述したガスバリア性重合体の製造方法に準じて得ることができる。
以下、ガスバリア性積層体の具体例を示す。
【0047】
(ガスバリア性積層体)
図1および図2は、本実施形態のガスバリア性積層体100の構造の一例を模式的に示した断面図である。
ガスバリア性積層体100は、基材層101と、基材層101の少なくとも一方の面に設けられ、かつ、本実施形態におけるガスバリア性重合体を含むガスバリア層103と、を備える。
また、図2に示すように、ガスバリア性積層体100において、無機物層102が基材層101とガスバリア層103との間にさらに積層されていてもよい。これにより、酸素バリア性や水蒸気バリア性等のバリア性能をさらに向上させることができる。
また、ガスバリア性積層体100において、基材層101と、ガスバリア層103または無機物層102との接着性を向上させる観点から、基材層101上にアンダーコート層がさらに積層されていてもよい。
以下、各層の構成をさらに具体的に説明する。
【0048】
(ガスバリア層)
ガスバリア層103は、基材層101の少なくとも一方の面に設けられ、前述した本実施形態におけるガスバリア性重合体を含むものである。
ガスバリア層103は、具体的には、前述した混合物からなるガスバリア用塗材により形成されたものであり、ガスバリア用塗材を、基材層101や無機物層102に塗布した後、乾燥、熱処理をおこない、ガスバリア用塗材を硬化させることによって得られるものである。
【0049】
ガスバリア層103の厚み1μmにおける20℃、90%RHでの酸素透過度は、良好なガスバリア性を得る観点から、好ましくは40mL/(m2・day・MPa)以下であり、より好ましくは30mL/(m2・day・MPa)以下、さらに好ましくは20mL/(m2・day・MPa)以下である。
なお、酸素透過度は、JISK7126に準じ、温度20℃、湿度90%RHの条件で測定する。
【0050】
(基材層)
基材層101は、たとえば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、または紙等の有機質材料により形成されており、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂から選択される少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0051】
熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミドが挙げられる。
【0052】
熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂、たとえば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、フッ素樹脂あるいはこれらの混合物が挙げられる。
これらの中でも、透明性を良好にする観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドから選択される1種または2種以上が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選択される1種または2種以上がより好ましい。
また、熱可塑性樹脂により形成された基材層101は、ガスバリア性積層体100の用途に応じて、単層であっても、二種以上の層であってもよい。
【0053】
また、上記熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂により形成されたフィルムを少なくとも一方向、好ましくは二軸方向に延伸して基材層101としてもよい。
【0054】
本実施形態の基材層101としては、透明性、剛性、耐熱性に優れる観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドから選択される1種または2種以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選択される1種または2種以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムがより好ましい。
【0055】
また、基材層101の表面に、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニアルコール共重合体、アクリル樹脂、ウレタン系樹脂等がコーティングされていてもよい。
さらに、基材層101はガスバリア層103との接着性を改良するために、表面処理をおこなってもよい。具体的には、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理をおこなってもよい。
【0056】
基材層101の厚さは、良好なフィルム特性を得る観点から、1~1000μmが好ましく、1~500μmがより好ましく、1~300μmがさらに好ましい。
【0057】
基材層101の形状は、限定されないが、たとえば、シートまたはフィルム形状、トレー、カップ、中空体等の形状が挙げられる。
【0058】
(無機物層)
無機物層102を構成する無機物は、たとえば、バリア性を有する薄膜を形成できる金属、金属酸化物、金属窒化物、金属弗化物、金属酸窒化物等が挙げられる。
無機物層102を構成する無機物としては、たとえば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素;チタン、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、タンタル等の周期表遷移元素;亜鉛等の周期表2B族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表3A族元素;ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表4A族元素;セレン、テルル等の周期表6A族元素等の単体、酸化物、窒化物、弗化物、または酸窒化物等から選択される1種または2種以上を挙げることができる。
なお、本実施形態では、周期表の族名は旧CAS式で示している。
【0059】
さらに、上記無機物の中でも、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、アルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上の無機物が好ましい。
なお、酸化ケイ素には、二酸化ケイ素の他、一酸化ケイ素、亜酸化ケイ素が含有されていてもよい。
【0060】
無機物層102は上記無機物により形成されている。無機物層102は単層の無機物層から構成されていてもよいし、複数の無機物層から構成されていてもよい。また、無機物層102が複数の無機物層から構成されている場合には同一種類の無機物層から構成されていてもよいし、異なった種類の無機物層から構成されていてもよい。
【0061】
無機物層102の厚さは、バリア性、密着性、取扱い性等のバランスの観点から、通常1nm以上1000nm以下であり、好ましくは1nm以上500nm以下である。
本実施形態において、無機物層102の厚さは、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察画像により求めることができる。
【0062】
無機物層102の形成方法は限定されず、たとえば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成長法、物理気相蒸着法、化学気相蒸着(CVD)法、プラズマCVD法、ゾルゲル法等により基材層101の片面または両面に無機物層102を形成することができる。中でも、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、物理気相蒸着(PVD)法、プラズマCVD法等の減圧下での製膜が望ましい。これにより、窒化珪素や酸化窒化珪素等の珪素を含有する化学的に活性な分子種が速やかに反応することにより、無機物層102の表面の平滑性が改良され、孔を少なくすることができるものと予想される。
これらの結合反応を迅速におこなうには、その無機原子や化合物が化学的に活性な分子種もしくは原子種であることが望ましい。
【0063】
(アンダーコート層)
ガスバリア性積層体100において、基材層101と、ガスバリア層103または無機物層102との接着性を向上させる観点から、基材層101の表面にアンダーコート層、好ましくはエポキシ(メタ)アクリレート系化合物またはウレタン(メタ)アクリレート系化合物のアンダーコート層を形成させておくことが好ましい。
上記アンダーコート層としては、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物およびウレタン(メタ)アクリレート系化合物から選択される少なくとも1種を硬化してなる層が好ましい。
【0064】
エポキシ(メタ)アクリレート系化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物等のエポキシ化合物とアクリル酸またはメタクリル酸を反応させて得られる化合物、さらには上記エポキシ化合物をカルボン酸またはその無水物と反応させて得られる酸変性エポキシ(メタ)アクリレートが例示される。これらのエポキシ(メタ)アクリレート系の化合物は、光重合開始剤および必要に応じて他の光重合開始剤あるいは熱反応性モノマーからなる希釈剤と共に、基材層101の表面に塗布され、その後紫外線等を照射して架橋反応によりアンダーコート層が形成される。
【0065】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物としては、たとえば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物からなるオリゴマー(以下、ポリウレタン系オリゴマーとも呼ぶ。)をアクリレート化したもの等が挙げられる。
ポリウレタン系オリゴマーは、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との縮合生成物から得ることができる。具体的なポリイソシアネート化合物としては、メチレン・ビス(p-フェニレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート・ヘキサントリオールの付加体、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンのアダクト体、1,5-ナフチレンジイソシアネート、チオプロピルジイソシアネート、エチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート二量体、水添キシリレンジイソシアネート、トリス(4-フェニルイソシアネート)チオフォスフェート等が例示でき、また、具体的なポリオール化合物としては、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール、ポリアジペートポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリエステル系ポリオール、アクリル酸エステル類とヒドロキシエチルメタアクリレートとのコポリマー等がある。アクリレートを構成する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が例示できる。
これらのエポキシ(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、必要に応じて、併用される。また、これらを重合させる方法としては、公知の種々の方法、具体的には電離性放射線を含むエネルギー線の照射または加熱等による方法が挙げられる。
【0066】
アンダーコート層を紫外線で硬化して形成する場合は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミフィラベンゾイルベンゾエート、α-アミロキシムエステルまたはチオキサントン類等を光重合開始剤として、また、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、トリn-ブチルホスフィン等を光増感剤として混合して使用するのが好ましい。また、本実施形態では、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物とウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、併用することもおこなわれる。
【0067】
また、これらのエポキシ(メタ)アクリレート系化合物やウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、(メタ)アクリル系モノマーで希釈することがおこなわれる。このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が例示できる。
中でもアンダーコート層としてウレタン(メタ)アクリレート系化合物を用いた場合は、得られるガスバリア性積層体100の酸素ガスバリア性がさらに改良される。
本実施形態のアンダーコート層の厚さは、コート量として、通常、0.01~100g/m2、好ましくは0.05~50g/m2の範囲にある。
【0068】
また、基材層101とガスバリア層103との間に接着剤層を設けてもよい。なお、上記接着剤層から上記アンダーコート層は除かれる。
接着剤層は、公知の接着剤を含むものであればよい。接着剤としては、有機チタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性シリコーン樹脂およびアルキルチタネート、ポリエステル系ポリブタジエン等から組成されているラミネート接着剤、または一液型、二液型のポリオールと多価イソシアネート、水系ウレタン、アイオノマー等が挙げられる。または、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂等を主原料とした水性接着剤を用いてもよい。
また、ガスバリア性積層体100の用途に応じて、接着剤に硬化剤、シランカップリング剤等の他の添加物を添加してもよい。ガスバリア性積層体100の用途が、レトルト等の熱水処理に用いられるものである場合、耐熱性や耐水性の観点から、ポリウレタン系接着剤に代表されるドライラミネート用接着剤が好ましく、溶剤系の二液硬化タイプのポリウレタン系接着剤がより好ましい。
【0069】
本実施形態のガスバリア性積層体100は、ガスバリア性能に優れており、包装材料、中でも高いガスバリア性が要求される内容物の食品包装材料を始め、医療用途、工業用途、日常雑貨用途等さまざまな包装材料としても好適に使用し得る。
また、本実施形態のガスバリア性積層体100は、たとえば、高いバリア性能が要求される、真空断熱用フィルム;エレクトロルミネセンス素子、太陽電池等を封止するための封止用フィルム;等として好適に使用することができる。
【0070】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0071】
以下、本実施形態を、実験例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実験例の記載に何ら限定されるものではない。
【0072】
はじめに、各例で用いたポリカルボン酸およびポリアミンの試料を説明する。
(溶液(Z1)の作製):PAA10万
ポリアクリル酸アンモニウム(東亜合成社製、製品名:アロンA-30、30%水溶液、重量平均分子量:1×105)の混合物に精製水を添加して10%溶液にしたポリアクリル酸アンモニウム水溶液を得た。
(溶液(Z2)の作製):PAA80万
ポリアクリル酸(東亜合成社製、製品名:ジュリマーAC-10H、20%水溶液、重量平均分子量:8×105)に精製水を添加して10%のポリアクリル酸水溶液を得た。
【0073】
(溶液(Y1)の作製):B-PEI1800
分岐型ポリエチレンイミン(日本触媒社製、製品名:エポミンSP-018、数平均分子量:1.8×103)に精製水を添加して10%溶液にした分岐型ポリエチレンイミン水溶液Y1を得た。配合の計算に用いる分岐型ポリエチレンイミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:1.0:0.9とした。
(溶液(Y2)の作製):B-PEI5000
分岐型ポリエチレンイミン(BASF社製、製品名:Lupasol G 100、50%水溶液、重量平均分子量:5×103)に精製水を添加して10%溶液にした分岐型ポリエチレンイミン水溶液Y2を得た。配合の計算に用いる分岐型ポリエチレンイミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:1.0:0.7とした。
(溶液(Y3)の作製):B-PEI1万
分岐型ポリエチレンイミン(日本触媒社製、製品名:エポミンSP-200、数平均分子量:1×104)に精製水を添加して10%溶液にした分岐型ポリエチレンイミン水溶液をY3得た。配合の計算に用いる分岐型ポリエチレンイミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:1.0:0.9とした。
(溶液(Y4)の作製):B-PEI2.5万
分岐型ポリエチレンイミン(BASF社製、製品名:Lupasol WF、重量平均分子量:2.5×104)に精製水を添加して10%溶液にした分岐型ポリエチレンイミン水溶液Y4を得た。配合の計算に用いる分岐型ポリエチレンイミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:1.0:0.7とした。
(溶液(Y5)の作製):B-PEI3万
分岐型ポリエチレンイミン(日本触媒社製、製品名:エポミンHM-2000、含水率約7%、数平均分子量:3×104)に精製水を添加して10%溶液にした分岐型ポリエチレンイミン水溶液Y5を得た。配合の計算に用いる分岐型ポリエチレンイミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:1.0:0.9とした。
(溶液(Y6)の作製):B-PEI7万
分岐ポリエチレンイミン(日本触媒社製、製品名:エポミンP-1000、数平均分子量:7×104)に精製水を添加して10%溶液にした分岐型ポリエチレンイミン水溶液Y6を得た。配合の計算に用いる分岐型ポリエチレンイミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:2.0:1.0とした。
(固体試料(Y7)の準備):L-PEI2.5万
直鎖型ポリエチレンイミン(L-PEI)として、Alfa Aesar社製、重量平均分子量:2.5×104を固体試料(Y7)として使用した。
(溶液(Y8)の作製):L-PAAm2.5万
直鎖型ポリアリルアミン(L-PAAm)(ニットーボーメディカル社製、製品名:PAA-25、10%水溶液、重量平均分子量:2.5×104)を希釈せずそのまま用い、直鎖型ポリアリルアミン水溶液Y8とした。配合の計算に用いる直鎖型ポリアリルアミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:0:0とした。
(溶液(Y9)の作製):L-PVAm6万
直鎖型ポリビニルアミン(L-PVAm)(三菱ケミカル社製、製品名:PVAM-0595B、12%水溶液、重量平均分子量:6×104)から、特開2000-239634の実施例を参考に、副成分として含まれる蟻酸ナトリウムを除去した。具体的には、PVAM-0595Bにメタノールとイソプロピルアルコールを添加して、濾別、濃縮、静置を2回繰り返し、10%の分直鎖型ポリビニルアミン溶液Y9を得た。配合の計算に用いる直鎖型ポリアリルアミンのアミン比率は、1級:2級:3級=1.0:0:0とした。
【0074】
次に、ガスバリア層の作製に用いた塗工液の作製方法を説明する。表1に、以下の例で用いた塗工液におけるポリカルボン酸とポリアミン化合物との組み合わせを示す。
【0075】
【表1】
【0076】
(塗工液(X1)の作製)
((NH2+NH)/COOH)が、0.385となるように、溶液(Z1)に溶液(Y1)を添加し、撹拌して透明均一な混合液を得た。さらに上記混合液の固形分濃度が2.5質量%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した後、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製、商品名:エマルゲン120)を混合液の固形分に対して0.3質量%となるように混合し、塗工液(X1-2)を調製した。
(塗工液(X2)の作製)
((NH2+NH)/COOH)が、それぞれ0.315、0.385、0.455となるように、溶液(Z1)に溶液(Y2)を添加し、撹拌して透明均一な混合液を得た。さらに上記混合液の固形分濃度が2.5質量%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した後、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製、商品名:エマルゲン120)を混合液の固形分に対して0.3質量%となるように混合し、塗工液(X2-1~X2-3)を調製した。
(塗工液(X3)の作製)
溶液(Y2)を溶液(Y3)にした以外は塗工液(X2)と同様にして、塗工液(X3-1~X3-3)を調製した。
(塗工液(X4)の作製)
溶液(Y2)を溶液(Y4)にした以外は塗工液(X2)と同様にして、塗工液(X4-1~X4-3)を調製した。
(塗工液(X5)の作製)
溶液(Y2)を溶液(Y5)にした以外は塗工液(X2)と同様にして、塗工液(X5-1~X5-3)を調製した。
(塗工液(X6)の作製)
溶液(Y2)を溶液(Y6)にし、((NH2+NH)/COOH)が、それぞれ0.385、0.455となるようにした以外は塗工液(X2)と同様にして、塗工液(X6-2、X6-3)を調製した。
(塗工液(X7)の作製)
((NH2+NH)/COOH)が、それぞれ0.315、0.385、0.455となるように、溶液(Z1)に固体試料(Y7)と、精製水を加え、50℃に加熱しながら撹拌し、固形分濃度が10%の透明均一な混合液を得た。なお、配合の計算に用いる直鎖型ポリエチレンインのアミン比率は、1級:2級:3級=0:1.0:0とした。さらに、上記混合液の固形分濃度が2.5質量%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した後、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製、商品名:エマルゲン120)を混合液の固形分に対して0.3質量%となるように混合し、塗工液(X7-1~X7-3)を調製した。
(塗工液(X8)の作製)
((NH2+NH)/COOH)が、それぞれ0.315、0.385、0.455となるように、溶液(Z1)に溶液(Y8)を添加し、さらに溶液(Z1)のカルボン酸のモル数に対し7当量の過剰なアンモニア水を添加し、撹拌して透明均一な混合液を得た。さらに上記混合液の固形分濃度が2.5質量%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した後、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製、商品名:エマルゲン120)を混合液の固形分に対して0.3質量%となるように混合し、塗工液(X8-1~X8-3)を調製した。
(塗工液(X9)の作製)
溶液(Y8)を溶液(Y9)に、カルボン酸のモル数に対し3当量とした以外は塗工液(X8)と同様にして、塗工液(X9-1~X9-3)を調製した。
【0077】
(塗工液(V1)の作製)
溶液(Z2)のカルボン酸のモル数に対し1.5当量、すなわち完全中和より0.5当量分多いアンモニア水を添加し、撹拌混合した。これに、((NH2+NH)/COOH)が、それぞれ0.315、0.385、0.455となるように溶液(Y1)を添加し、撹拌して透明均一な混合液を得た。さらに上記混合液の固形分濃度が2.5質量%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した後、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製、商品名:エマルゲン120)を混合液の固形分に対して0.3質量%となるように混合し、塗工液(V1-1~V1-3)を調製した。
(塗工液(V2)の作製)
溶液(Y1)を溶液(Y2)にした以外は塗工液(V1)と同様にして、塗工液(V2-1~V2-3)を調製した。
(塗工液(V3)の作製)
溶液(Y1)を溶液(Y3)にした以外は塗工液(V1)と同様にして、塗工液(V3-1~V3-3)を調製した。
(溶液(V4)の作製)
溶液(Y1)を溶液(Y4)にした以外は塗工液(V1)と同様にして、塗工液(V4-1~V4-3)を調製した。
【0078】
(実験例1)
得られた塗工液(X1~X9およびV1~V4)を、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、商品名PET12)のコロナ処理面に、バーコーターを用いて乾燥後の塗工量が0.1g/m2となるように塗工し、120℃の熱風乾燥機にて5分間乾燥した。さらに、これを200℃の熱風乾燥器にて、所定の時間熱処理することにより、基材層であるPET基材に、ガスバリア性重合体からなるガスバリア層を形成したガスバリア性積層体(以下、単に「積層体」とも呼ぶ。)を得た。
得られた積層体について、以下の評価をおこなった。評価結果を表2および表3にあわせて示す。表2および表3には、ポリカルボン酸として、それぞれ、重量平均分子量10万および80万のものを用いた場合を示す。
【0079】
(IR測定および解析方法)
得られた積層体について、それぞれ1cm×3cmの測定用サンプルを切り出した。次に、その積層体のガスバリア性重合体層側表面の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR-IR法)により得た。測定には、日本分光社製FT/IR-460装置を用い、多重反射測定ユニットATR PRO410-M(プリズム:Germanium結晶、入射角度45度、多重反射回数=5)を装着し、室温で、分解能2cm-1、積算回数150回で測定した。PET基材も測定サンプルとして用意し、同じようにして、PET基材表面の赤外線吸収スペクトルを測定した。
得られた積層体の赤外線吸収スペクトルには、PET基材の影響を含むため、一般的な差スペクトル解析法によりPET基材の影響を除いた。具体的には、以下に示す手法を用いた。
積層体とPET基材の赤外線吸収スペクトルは、1493cm-1における測定点と1780cm-1における測定点とを直線(ベースライン:N)で結び、1493cm-1~1780cm-1の波数範囲において、赤外線吸収スペクトルとNとの差スペクトルを得て、それぞれスペクトル(SBN)、スペクトル(SSN)とした。さらに、積層体とPET基材の赤外線吸収スペクトルの1325cm-1における測定点と1355cm-1における測定点とを直線(ベースライン:M)で結び、1325cm-1~1355cm-1の波数範囲において、得られた赤外線吸収スペクトルとMとの差スペクトルを得て、それぞれスペクトル(SBM)、スペクトル(SSM)とした。スペクトル(SBM)のIRピークは、PET基材だけの影響で現れるIRピークとなるように波数範囲を選び、スペクトル(SBN)におけるPET基材の影響を除くための基準ビークとした。スペクトル(SBM)及びスペクトル(SSM)について、1325cm-1以上1355cm-1以下のピーク面積をそれぞれ面積(ABM)、面積(ASM)とし、係数αを次式から計算した。係数αは、0≦α<1となる。
α=面積(ABM)/面積(ASM
この係数αを使って、1493cm-1から1780cm-1の波数範囲において、次式に従った差スペクトル解析を行い、PET基材の影響を除いたスペクトル(SBN')を得た。
<スペクトル(SBN')>=<スペクトル(SBN)>-α*<スペクトル(SSN)>
そして、上記の解析を通じて有られたスペクトル(SBN')の1660cm-1におけるIR強度をI(1660)、1625cm-1におけるIR強度をI(1625)とし、IR強度比I(1660)/I(1625)を計算した。
また、スペクトル(SBN')において、1493cm-1以上1780cm-1以下の波数範囲における全ピーク面積をA、1598cm-1以上1690cm-1以下の波数範囲における全ピーク面積をBとしたとき、アミド結合の面積比率を(B/A)として計算した。
【0080】
(酸素透過度[mL/(m2・day・MPa)])
厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製 商品名:RXC-22)の片面に、エステル系接着剤(ポリウレタン系接着剤(三井化学社製 商品名:タケラックA525S):9質量部、イソシアネート系硬化剤(三井化学社製 商品名:タケネートA50):1質量部及び酢酸エチル:7.5質量部)を塗布し乾燥後、各配合に基づき得られた積層体のバリア面と貼り合わせ(ドライラミネート)、多層フィルムを得た。
上記で得られた多層フィルムを無延伸ポリプロピレンフィルムが内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした後、内容物として水を入れ、もう1方をヒートシールにより袋を作製し、これを高温高圧レトルト殺菌装置で130℃、30分間の条件でレトルト処理を行った。レトルト処理後、内容物の水を抜き、レトルト処理後の多層フィルムを得た。
そして、レトルト処理後の各多層フィルムの酸素透過性を、モコン社製OX-TRAN2/21を用いて、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度90%RHの条件で測定した。結果を図3図4、表2および表3に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
(実験例2)
実験例1に準じて、各種ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を混合し、塗工液塗工後の加熱時間をいずれも240秒として積層体を作製し、評価した。結果を表4および図5に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
(実験例3)
本例では、無機物層を含むガスバリア性積層体を作製し、評価した。
基材層としては、以下のいずれかを用いた。
基材層1:PETフィルム
基材層2:アンダーコート層付きPETフィルム
なお、基材層1は、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、商品名PET12)を用いた。基材層2は、下記の手順で作成した。まず、ロールコーターにより、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、商品名PET12)のコロナ処理面に、乾燥後の塗工量が0.2g/m2になるように、ウレタン系のアンダーコート層を塗工し、アンダーコート層付きPETフィルムを得た。
さらに、基材層1のコロナ処理面に、高周波誘導加熱方式のロール蒸着装置により、アルミニウムを加熱蒸発させ、酸素を導入しながら蒸着することで、無機物層として厚さ7nmの酸化アルミニウム膜を形成させた。また、基材層2のアンダーコート層上にも、基材層1と同条件で無機物層を形成させた。
実験例1に準じて、塗工液(X3-2)および(V3-2)を調製した。基材層1または基材層2の無機物層を形成した面にエアーフローティング型の加熱炉を備えたロールコーターを用いて塗工液を所定量塗布し、210℃にて所定時間熱処理してガスバリア層を形成し、無機物層を含むガスバリア性積層体を得た。尚、熱処理時間は、210℃に設定した加熱ゾーンの通過時間とし、加熱ゾーンの長さと基材の搬送速度から計算した。
得られたガスバリア性積層体は、実験例1と同様にして、IR測定及び解析を行った。但し、基材の影響を除去する差スペクトル解析には、PET基材に代えて、無機物層を形成した基材1及び基材2を用いた。また、実験例1と同様にして、厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムと貼り合わせた多層フィルムを作製し、レトルト処理後の酸素透過性を評価した。結果を表5および図6に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
この出願は、2018年12月26日に出願された日本出願特願2018-243757号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0088】
100 ガスバリア性積層体
101 基材層
102 無機物層
103 ガスバリア層
図1
図2
図3
図4
図5
図6