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特許7269332環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および光学部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および光学部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20230426BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20230426BHJP
   C08F 232/00 20060101ALI20230426BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C08L45/00
C08K5/353
C08F232/00
G02B1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021522203
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2020019327
(87)【国際公開番号】W WO2020241288
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019098759
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020048237
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】春谷 昌克
(72)【発明者】
【氏名】木津 巧一
(72)【発明者】
【氏名】添田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】奥野 孝行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 啓輔
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/004605(WO,A1)
【文献】特開2007-231168(JP,A)
【文献】特開2006-045545(JP,A)
【文献】国際公開第2006/100974(WO,A1)
【文献】特開2006-143931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系重合体(A)と、
下記一般式(1)で表されるピペリジル基および下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有するヒンダードアミン化合物(Y)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であり、
前記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる前記環状オレフィン系重合体(A)の含有量を100質量部としたとき、前記ヒンダードアミン化合物(Y)の含有量が0.05質量部以上5.0質量部以下であり、
前記ヒンダードアミン化合物(Y)が、下記一般式(3)で示される脂環構造を同一分子内にさらに有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化1】
(前記一般式(1)において、Xは水素原子、オキシラジカル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヒドロキシ基であり、R~Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。)
【化2】
【化3】
(前記一般式(3)において、R 400 ~R 405 の少なくとも1つは結合子であり、結合子以外はそれぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基であり、gは1以上18以下である。)
【請求項2】
請求項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記一般式(3)で示される脂環構造がスピロ結合している環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
環状オレフィン系重合体(A)と、
下記一般式(1)で表されるピペリジル基および下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有するヒンダードアミン化合物(Y)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であり、
前記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる前記環状オレフィン系重合体(A)の含有量を100質量部としたとき、前記ヒンダードアミン化合物(Y)の含有量が0.05質量部以上5.0質量部以下であり、
前記ヒンダードアミン化合物(Y)が下記一般式(4)で表される構造を有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化4】
(前記一般式(1)において、Xは水素原子、オキシラジカル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヒドロキシ基であり、R~Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。)
【化5】
【化6】
(前記一般式(4)において、R ~R の少なくとも1つは結合子であり、結合子以外はそれぞれ独立に、R およびR は水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R は水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基または下記一般式(4-1)で示される構造である。)
【化7】
(前記一般式(4-1)において、nは0~10であり、R は炭素原子数1~20の炭化水素基である。)
【請求項4】
環状オレフィン系重合体(A)と、
下記一般式(1)で表されるピペリジル基および下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有するヒンダードアミン化合物(Y)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であり、
前記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる前記環状オレフィン系重合体(A)の含有量を100質量部としたとき、前記ヒンダードアミン化合物(Y)の含有量が0.05質量部以上5.0質量部以下であり、
前記ヒンダードアミン化合物(Y)が、2,2,4,4-テトラメチル-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ-[5.1.11.2]ヘニコサン-21-オンとエピクロロヒドリンとの重合体および下記一般式(6)で示される化合物から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【化8】
(前記一般式(1)において、Xは水素原子、オキシラジカル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヒドロキシ基であり、R~Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。)
【化9】
【化10】
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
光学部品用樹脂組成物である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系重合体(A)がエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系重合体(A)が前記共重合体(A1)を含み、
前記共重合体(A1)が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位、下記一般式(V)で表される繰り返し単位および下記一般式(VI)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化11】
(前記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化12】
(前記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化13】
(前記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化14】
(前記一般式(IV)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化15】
(前記一般式(V)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
【化16】
(前記一般式(VI)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項8】
請求項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記共重合体(A1)中の前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンおよびベンゾノルボルナジエンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項またはに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記共重合体(A1)中の前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度が130℃以上180℃以下の範囲にある環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項12】
請求項11に記載の成形体を含む光学部品。
【請求項13】
請求項12に記載の光学部品において、
fθレンズ、撮像レンズ、センサー用レンズ、プリズムまたは導光板である光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズの需要が高まっている。車載カメラレンズや携帯機器用のカメラレンズには高い耐熱性が要求され、特に車載カメラレンズ用の材料には、高い耐熱性を有するガラスが用いられることが多い。しかし、コストや軽量化といった観点から、樹脂材料へ代替する要望も強く、各種光学用樹脂が車載カメラレンズに用いられつつある。
【0003】
環状オレフィン系樹脂組成物は光学性能に優れるため、光学用樹脂として用いられている。
光学部品に用いられる環状オレフィン系樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2014-234431号公報)および特許文献2(国際公開第2017/006600号)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、環状オレフィン系樹脂を含む環状オレフィン系樹脂組成物に含有され、上記環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体の透明性を維持する環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤であって、ヒンダードヒドロキシフェニル基を有する3価のリン化合物からなる環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤が記載されている。特許文献1には、このような環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤を用いると、環状オレフィン系樹脂の有する透明性及び耐熱性が損なわれていない環状オレフィン系樹脂組成物、ならびに、当該組成物を用いた光学材料及び光学部品が得られると記載されている。
【0005】
特許文献2には、脂環構造含有重合体、特定の構造を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤、及び特定の構造を有するヒンダードアミン化合物を含有する樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、このような樹脂組成物を用いると、光学特性に優れることに加えて、耐熱黄変性にも優れる樹脂成形体からなる光学部材が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-234431号公報
【文献】国際公開第2017/006600号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂材料は高温により樹脂の劣化が進行しやすく、樹脂材料からなるレンズは、例えば黄色に着色してしまう場合がある。レンズが黄色に着色すると、可視域の青い光がレンズに吸収されることになり、イメージセンサーが認識する画像が劣化して、物体認識という車載カメラの役割に悪影響を与える。よって、車載カメラレンズ等に用いられる光学用樹脂には、高温環境下において着色し難いことが求められる。
一般的に、製造時や出荷後、成形後の長期安定性を確保するため、樹脂には酸化防止剤などの添加剤が添加されている。この酸化防止剤は、高温環境下における樹脂の着色を抑制する役割も有しているが、従来処方の酸化防止剤処方では、高温環境下における樹脂の着色を十分に抑制できないことが多かった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、内部ヘイズが低く、かつ、高温環境下における着色の発生が抑制された光学部品を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、環状オレフィン系重合体に対して特定の構造を有するヒンダードアミン化合物を組み合わせた樹脂組成物を用いることにより、内部ヘイズが低く、かつ、高温環境下における着色の発生が抑制された光学部品を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下に示すとおりである。
【0011】
[1]
環状オレフィン系重合体(A)と、
下記一般式(1)で表されるピペリジル基および下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有するヒンダードアミン化合物(Y)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)において、Xは水素原子、オキシラジカル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヒドロキシ基であり、R~Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。)
【化2】
[2]
上記[1]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
光学部品用樹脂組成物である環状オレフィン系樹脂組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、 上記ヒンダードアミン化合物(Y)が、下記一般式(3)で示される脂環構造を同一分子内にさらに有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化3】
(上記一般式(3)において、R400~R405の少なくとも1つは結合子であり、結合子以外はそれぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基であり、gは1以上18以下である。)
[4]
上記[3]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記一般式(3)で示される脂環構造がスピロ結合している環状オレフィン系樹脂組成物。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記ヒンダードアミン化合物(Y)が下記一般式(4)で表される構造を有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化4】
(上記一般式(4)において、R~Rの少なくとも1つは結合子であり、結合子以外はそれぞれ独立に、RおよびRは水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であり、Rは水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基または下記一般式(4-1)で示される構造である。)
【化5】
(上記一般式(4-1)において、nは0~10であり、Rは炭素原子数1~20の炭化水素基である。)
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記ヒンダードアミン化合物(Y)が、下記一般式(5)で示される化合物および下記一般式(6)で示される化合物から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【化6】
【化7】
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系重合体(A)がエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[8]
上記[7]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系重合体(A)が上記共重合体(A1)を含み、
上記共重合体(A1)が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位、下記一般式(V)で表される繰り返し単位および下記一般式(VI)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化8】
(上記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化9】
(上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化10】
(上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化11】
(上記一般式(IV)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化12】
(上記一般式(V)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
【化13】
(上記一般式(VI)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[9]
上記[8]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記共重合体(A1)中の上記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンおよびベンゾノルボルナジエンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[10]
上記[8]または[9]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記共重合体(A1)中の上記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[11]
上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる上記環状オレフィン系重合体(A)の含有量を100質量部としたとき、上記ヒンダードアミン化合物(Y)の含有量が0.05質量部以上5.0質量部以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
[12]
上記[1]乃至[11]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度が130℃以上180℃以下の範囲にある環状オレフィン系樹脂組成物。
[13]
上記[1]乃至[12]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物を含む成形体。
[14]
上記[13]に記載の成形体を含む光学部品。
[15]
上記[14]に記載の光学部品において、
fθレンズ、撮像レンズ、センサー用レンズ、プリズムまたは導光板である光学部品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部ヘイズが低く、かつ、高温環境下における着色の発生が抑制された光学部品を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。また、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0014】
[環状オレフィン系樹脂組成物]
まず、本発明に係る実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体(A)と、下記一般式(1)で表されるピペリジル基および下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有するヒンダードアミン化合物(Y)と、を含む。
【0015】
【化14】
上記一般式(1)において、Xは水素原子、オキシラジカル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヒドロキシ基であり、R~Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。
【0016】
【化15】
【0017】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物によれば、内部ヘイズが低く、かつ、高温環境下における着色の発生が抑制された光学部品を実現できる。
この理由は明らかではないが、上記一般式(1)で表されるピペリジル基および上記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有するヒンダードアミン化合物(Y)は環状オレフィン系重合体(A)と相溶性がよく、環状オレフィン系重合体(A)中へのヒンダードアミン化合物(Y)の分散性を良好にすることができるからだと考えられる。
以上から、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、光学部品用として好適に用いることができる。
【0018】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)の合計含有量の下限は、環状オレフィン系樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)の合計含有量が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)の合計含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0019】
以下、各成分について具体的に説明する。
【0020】
(環状オレフィン系重合体(A))
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体(A)は、環状オレフィンに由来する繰り返し単位を必須構成単位とする重合体である。
環状オレフィン系重合体(A)としては、例えば、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する環状オレフィン化合物は特に限定はされないが、例えば、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマー等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、得られる成形体の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性をさらに向上できたり、成形性を向上できたりする観点から、下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位、下記一般式(V)で表される繰り返し単位および下記一般式(VI)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、を有することが好ましい。
【0023】
【化16】
上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0024】
【化17】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0025】
【化18】
上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0026】
【化19】
上記一般式(IV)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R18~R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0027】
【化20】
上記一般式(V)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0028】
【化21】
上記一般式(VI)において、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0029】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは付加共重合して上記一般式(I)で表される構成単位を形成するものである。具体的には上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーが用いられる。
【0030】
【化22】
上記一般式(Ia)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する成形体を得る観点から、これらのなかでも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
本実施形態に係る環状オレフィン共重合体を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上85モル%以下、特に好ましくは50モル%以上80モル%以下である。
なお、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0031】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマー(b)は付加共重合して上記一般式(II)、上記一般式(III)、上記一般式(IV)、上記一般式(V)または上記一般式(VI)で表される環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)を形成するものである。具体的には、上記一般式(II)、上記一般式(III)、上記一般式(IV)、上記一般式(V)および上記一般式(VI)にそれぞれ対応する一般式(IIa)、(IIIa)、(IVa)、(Va)および(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)が用いられる。
【0032】
【化23】
上記一般式(IIa)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0033】
【化24】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0034】
【化25】
上記一般式(IVa)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R18~R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0035】
【化26】
上記一般式(Va)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0036】
【化27】
【0037】
上記一般式(VIa)において、qは1、2または3であり、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。
32~R39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0038】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIa)、(IIIa)、(IVa)、(Va)または(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)を用いることにより、環状オレフィン系重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0039】
一般式(IIa)、(IIIa)または(Va)で表される環状オレフィンモノマー(b)の具体例については国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0040】
具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体等が挙げられる。
【0041】
一般式(IIa)、(IIIa)、(IVa)、(Va)または(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンが好ましい。
また、一般式(IIa)で表される環状オレフィンと、一般式(IIIa)、(IVa)、(Va)または(VIa)で表される環状オレフィンのいずれかを用いることが好ましい。
【0042】
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および成形体の弾性率が保持され易くなる利点がある。
上記一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、式(VIa)中のq=1であるモノマーを用いることが好ましい。これらの環状オレフィンは、ベンゼン環を一つ有するため、二つ以上のベンゼン環を有する場合と比べて着色しにくい樹脂組成物が得られやすくなる利点がある。特に、ベンゾノルボルナジエンを用いることが好ましい。ベンゾノルボルナジエンを用いることの利点は、芳香環を有するため、樹脂組成物の屈折率を高くできることである。
【0043】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、環状オレフィンモノマー(b)由来の繰り返し単位(b)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上60モル%以下、特に好ましくは20モル%以上50モル%以下である。
【0044】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができる観点から、本実施形態に係る共重合体(A1)としてはランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る共重合体(A1)としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体、エチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体およびエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとベンゾノルボルナジエンとのランダム共重合体であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとテトラシクロ[[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとベンゾノルボルナジエンとのランダム共重合体がより好ましい。
【0046】
また、環状オレフィン系重合体(A)としては、環状オレフィンの開環重合体(A2)を用いることができる。
環状オレフィンの開環重合体(A2)としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物等が挙げられる。
【0047】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体、等が挙げられる。
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個または2個以上を有することができる。このような環に置換基を有する誘導体としては、例えば、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン等が挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒;チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;等を用いることができる。
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体等を挙げることができる。
【0049】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物や、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体の水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0050】
本実施形態において環状オレフィン系重合体(A)は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
本実施形態に係る環状オレフィンの開環重合体(A2)は、例えば、特開昭60-26024号公報、特開平9-268250号公報、特開昭63-145324号公報、特開2001-72839号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0052】
ASTM D1238に準拠し、260℃、荷重2.16kgで測定される環状オレフィン系重合体(A)のメルトフローレート(MFR)の下限値は、環状オレフィン系重合体(A)の加工性や製造の容易さ等の観点から、好ましくは5g/10分以上であり、より好ましくは8g/10分以上であり、さらに好ましくは10g/10分以上である。
また、環状オレフィン系重合体(A)のMFRの上限値は、例えば100g/10分以下である。
環状オレフィン系重合体(A)のMFRは、後述する重合反応の際のエチレンフィード量に対する水素フィード量の比等を調整することにより、調整することができる。
【0053】
環状オレフィン系重合体(A)中には炭素-炭素二重結合は含まれないことが好ましいが、含む場合は、環状オレフィン系重合体(A)100g中に0.5g以下であることが好ましい。炭素-炭素二重結合を実質的に含まないことにより樹脂組成物の劣化を抑制できるため、好ましい。環状オレフィン系重合体(A)中の炭素-炭素二重結合の含有量は、JIS K0070に従い、ヨウ素価法(滴定法)で求められる。
【0054】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は130℃以上180℃以下の範囲にあることが好ましい。環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が上記範囲であると、成形体を車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品として使用する際に、十分な耐熱性を得ることができるとともに、良好な成形性を得ることができる。
【0055】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移温度を測定することができる。
【0056】
(ヒンダードアミン化合物(Y))
本実施形態に係るヒンダードアミン系化合物(Y)は、下記一般式(1)で表されるピペリジル基および下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミド基を同一分子内に有する化合物である。1分子あたりの一般式(1)で表されるピペリジル基の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0057】
【化28】
【0058】
【化29】
上記一般式(1)において、Xは水素原子、オキシラジカル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヒドロキシ基であり、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に好ましくは水素原子である。
、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0059】
上記一般式(1)において、Xがアルキル基の場合の炭素数は1~12が好ましく、Xがアルコキシ基の場合の炭素数は1~12が好ましく、Xがアリール基の場合の炭素数は6~12が好ましい。また、Xで示されるアルキル基またはアルコキシ基は、それぞれ独立的に直鎖または環状であり、分岐鎖を有していてもよい。また、Xで示されるアルキル基、アルコキシ基またはアリール基は、それぞれ独立的に置換基を有していてもよく、置換基としてはヒドロキシ基、ベンソイルオキシ基、アセトキシ基等が挙げられる。
【0060】
上記一般式(1)で表されるピペリジル基のうち、R、R、RおよびRがすべてメチル基である基を有する化合物が、価格や入手性の点から好ましい。また、Xがメチル基あるいは水素原子であるピペリジル基を有する化合物が、価格や入手性の点から好ましい。
【0061】
本実施形態に係るヒンダードアミン系化合物(Y)は、ラジカル捕捉作用を有しうる。それにより、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の製造時や成形時、成形物の使用環境下で受ける熱や光で発生するラジカルを捕捉し、当該製造時や成形時の環状オレフィン系重合体の酸化劣化や熱分解、熱や光による成形物中の環状オレフィン系重合体の酸化劣化、分解を抑制しうる。
【0062】
本実施形態に係るヒンダードアミン化合物(Y)は、下記一般式(3)で示される脂環構造を同一分子内にさらに有することが好ましい。これにより、環状オレフィン系重合体(A)との相溶性をさらに良好にすることができ、その結果、環状オレフィン系重合体(A)中へのヒンダードアミン化合物(Y)の分散性をより一層良好にすることができる。
また、環状オレフィン系重合体(A)との相溶性をさらに良好にする観点から、下記一般式(3)で示される脂環構造がスピロ結合していることが好ましい。
【0063】
【化30】
上記一般式(3)において、R400~R405の少なくとも1つは結合子であり、結合子以外はそれぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基、好ましくは水素原子または炭素原子数1~2の炭化水素基、より好ましくは水素原子である。gは1以上18以下、好ましくは5以上15以下、さらに好ましくは8以上13以下、特に好ましくは9以上12以下である。
【0064】
本実施形態に係るヒンダードアミン化合物(Y)は、下記一般式(4)で表される構造を有することがさらに好ましい。これにより、環状オレフィン系重合体(A)との相溶性をさらに良好にすることができ、その結果、環状オレフィン系重合体(A)中へのヒンダードアミン化合物(Y)の分散性をより一層良好にすることができる。
【0065】
【化31】
上記一般式(4)において、R~Rの少なくとも1つは結合子であり、結合子以外はそれぞれ独立に、RおよびRは水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であり、RおよびRは互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、RおよびRは互いに結合して上記一般式(3)で示される脂環構造を形成していることが好ましい。
また、Rは水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基または下記一般式(4-1)で示される構造である。
【0066】
【化32】
上記一般式(4-1)において、nは0~10、好ましくは1~6であり、Rは炭素原子数1~20の炭化水素基、好ましくは炭素原子数8~16の炭化水素基である。
【0067】
本実施形態に係るヒンダードアミン系化合物(Y)としては、下記一般式(5)で示される化合物および下記一般式(6)で示される化合物等が挙げられる。ここで、下記一般式(5)で示される化合物は、
【0068】
【化33】
nは、例えば1~20、好ましくは1~15である。ここで、上記一般式(5)で示される化合物は、上記2つのモノマーが反応して重合体を作っている構造であり、2,2,4,4-テトラメチル-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ-[5.1.11.2]ヘニコサン-21-オンとエピクロロヒドリンとの重合体を示す。
【0069】
【化34】
【0070】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系重合体(A)の含有量を100質量部としたとき、当該環状オレフィン系樹脂組成物中のヒンダードアミン系化合物(Y)の含有量は好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.10質量部以上である。ヒンダードアミン系化合物(Y)の含有量が上記下限値以上であると、高温環境下における光学部品の着色の発生をより一層抑制することができる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系重合体(A)の含有量を100質量部としたとき、当該環状オレフィン系樹脂組成物中のヒンダードアミン系化合物(Y)の含有量は好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下である。ヒンダードアミン系化合物(Y)の含有量が上記上限値以下であると、高温環境下における光学部品の着色の発生をより一層抑制することができる。
【0071】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物には、環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)以外に、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、二次抗酸化剤、滑剤、離型剤、防曇剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
【0072】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系重合体(A)およびヒンダードアミン化合物(Y)の溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0073】
[成形体および光学部品]
次に、本発明に係る実施形態の成形体について説明する。
本実施形態に係る成形体は本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を含んでいる。
本実施形態に係る成形体は本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を含むため、光学性能に優れている。そのため像を高精度に識別する必要がある光学系において、光学部品として好適に用いることができる。光学部品とは光学系機器等に使用される部品であり、具体的には、各種センサー用レンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタレンズ、プリズム、fθレンズ、撮像レンズ、導光板、ヘッドマウントディスプレイ用レンズ等が挙げられ、本実施形態に係る効果の観点から、fθレンズ、撮像レンズ、センサー用レンズ、プリズムまたは導光板に好適に用いることができる。
【0074】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を成型して成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0075】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。
【0077】
<環状オレフィン系重合体(A-1)(付加重合体)の合成>
(触媒の調製)
VO(OC)Clをシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-シクロヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
【0078】
(重合)
攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。
この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。
また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cmGとして連続的に共重合反応を行った。
【0079】
(脱灰)
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%のNaOH溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した。
【0080】
(脱溶媒)
熱源として20kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体(環状オレフィン系重合体(A-1))を得た。
【0081】
(押出)
ベント付二軸混練押出機を用い、上記の溶融状態の環状オレフィン系重合体(A-1)を押出機の樹脂装入部より装入した。次いで、ベント部分より揮発物を除去する目的で、トラップを介し真空ポンプで吸引しつつ、押出機ダイバーター部樹脂温度の最大値と最小値の差が3℃以内になるように押出機条件を調整した。次いで、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥した。環状オレフィン系重合体A-1のガラス転移温度(Tg)は151℃、MFRは28g/10分(260℃、2.16kg荷重)であった。
【0082】
<環状オレフィン系重合体(A-2)(開環重合体)の合成>
(重合)
十分に窒素置換されたガラス反応器にテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、脱水トルエンおよびヘキサジエンを入れ、50℃まで昇温して攪拌した。触媒としてGrubbs Catalyst(登録商標)2nd Generationを入れ、攪拌しながら反応させ、10分後にブチルアルデヒドを滴下して反応を終了させた。
反応後に得られた溶液約をアセトンに滴下して晶析、ろ過後、80℃で減圧乾燥させることで樹脂a’を得た。
【0083】
(水素添加)
十分に窒素置換したオートクレーブに、樹脂a’、シクロヘキサン、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドおよびエチルビニルエーテルを入れ、水素圧8気圧をかけ、120℃まで昇温して10時間反応を行った。
反応終了後、反応溶液をアセトンに滴下して晶析、濾過後、80℃で減圧乾燥させることで環状オレフィン系重合体(A-2)を得た。
環状オレフィン系重合体(A-2)をH-NMRで観測すると、芳香環やその他の二重結合由来のプロトンのピークが消失していることを確認できた。
【0084】
(押出)
環状オレフィン系重合体(A-2)をプラスチック工学研究所製の2軸押出機BT-30(スクリュー径30mmφ、L/D=46)を用い、設定温度270℃、樹脂押出量80g/minおよびスクリュー回転数200rpmの条件で造粒し、ペレットを得た。環状オレフィン系重合体A-2のガラス転移温度(Tg)は174℃、MFRは30g/10分(260℃、2.16kg荷重)であった。
【0085】
<環状オレフィン系重合体(A-3)(付加重合体)の合成>
(重合)
攪拌装置を備えた0.5mの耐圧反応容器に不活性ガスとして窒素を300Nl/hの流量で60分流通させた後、シクロヘキサン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(40mol、以下テトラシクロドデセン)、およびベンゾノルボルナジエン(88mol、以下BNBD)を加えた。次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを150Nl/h、水素を6.0Nl/hの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、ポリメチルアルミノキサン(PMAO)(1.8mol)、触媒として次の式で表わされる遷移金属化合物(1)(0.0030mol)を耐圧反応容器に添加し、重合を開始した。遷移金属化合物(1)は特開2004-331965号公報に記載の方法により合成した。
【化35】
【0086】
(脱灰・脱溶媒)
重合開始から10分間経過した後、イソブチルアルコールを5L添加して重合を停止させ、エチレン、テトラシクロドデセン、BNBDの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、2mの容器に重合溶液を移液し、水1Lに対して濃塩酸5mLを添加した水溶液と重合溶液を1対1の割合でホモミキサーを用いて強攪拌下で2時間接触させ、触媒残渣を水相へ移行させた。この接触混合液を静置した後、水相を分離除去し、さらに蒸留水で2回水洗を行い、重合液相を分離した。この分離精製した重合溶液に対して、3倍量のアセトンを含む攪拌装置を備えた容器に脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させた。析出した共重合体に対し、ろ過によりろ液を分離し、アセトンに溶かしたペンタエリスリトール テトラキス(3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASFジャパン社製;Irganox1010)を添加し、130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・テトラシクロドデセン・BNBD共重合体4.5kgを得た。
【0087】
<実施例1>
環状オレフィン系重合体(A-1)100質量部に対して、ヒンダードアミン化合物として2,2,4,4-テトラメチル-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ-[5.1.11.2]ヘニコサン-21-オンとエピクロロヒドリンとの重合体(クラリアントケミカルズ社製;HOSTAVIN N30、以下ヒンダードアミン化合物(b1))を0.4質量部添加して混合した。
同方向回転、スクリュー径Φ44mm、L/D=30の二軸押出機の樹脂装入部へ混合物を装入し、スクリュー回転数150rpm、モーター動力30kWの条件で溶融混錬し、押し出されたストランドをペレタイザーでカッティングして環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b1)を含むペレット状の樹脂組成物D1を得た。
【0088】
<実施例2>
ヒンダードアミン化合物(b1)の添加量を環状オレフィン系重合体(A-1)100質量部に対して0.2質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b1)を含む樹脂組成物D2を得た。
【0089】
<実施例3>
環状オレフィン系重合体(A-1)の代わりに環状オレフィン系重合体(A-2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-2)とヒンダードアミン化合物(b1)を含む樹脂組成物D3を得た。
【0090】
<実施例4>
ヒンダードアミン化合物(b1)の添加量を環状オレフィン系重合体(A-2)100質量部に対して0.2質量部に変更した以外は実施例3と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-2)とヒンダードアミン化合物(b1)を含む樹脂組成物D4を得た。
【0091】
<実施例5>
ヒンダードアミン化合物(b1)の代わりにn-ドデシル/n-テトラデシル 3-(2,2,4,4-テトラメチル-21-オキソ-7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ-[5.1.11.2]ヘニコサン-20-イル)プロパノエート(クラリアントケミカルズ社製;HOSTAVIN 3050、以下ヒンダードアミン化合物(b4))を使用した以外は実施例1と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b4)を含む樹脂組成物D5を得た。
【0092】
<実施例6>
ヒンダードアミン化合物(b4)の添加量を環状オレフィン系重合体(A-1)100質量部に対して0.2質量部に変更した以外は実施例5と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b4)を含む樹脂組成物D6を得た。
【0093】
<実施例7>
環状オレフィン系重合体(A-3)100質量部に対して、ヒンダードアミン化合物(b1)を0.4質量部添加して混合した。260℃に設定した二軸混錬機(東洋精機製作所社製;ラボプラストミル4C150-01)を用いて、回転数50rpmで10分間、上記混合物を混錬し、環状オレフィン系重合体(A-3)とヒンダードアミン化合物(b1)を含む樹脂組成物D7を得た。
【0094】
<実施例8>
ヒンダードアミン化合物(b1)の添加量を環状オレフィン系重合体(A-3)100質量部に対して0.2質量部に変更した以外は実施例7と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-3)とヒンダードアミン化合物(b1)を含む樹脂組成物D8を得た。
【0095】
<比較例1>
ヒンダードアミン化合物(b1)の代わりにコハク酸ジメチル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重合体(BASF社製;Tinuvin622、以下ヒンダードアミン化合物(b2))を使用し、環状オレフィン系重合体(A-1)100質量部に対してヒンダードアミン化合物(b2)を0.8質量部添加した以外は実施例1と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b2)を含む樹脂組成物E1を得た。
【0096】
<比較例2>
ヒンダードアミン化合物(b2)の添加量を環状オレフィン系重合体(A-1)100質量部に対して0.4質量部に変更した以外は比較例1と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b2)を含む樹脂組成物E2を得た。
【0097】
<比較例3>
ヒンダードアミン化合物(b2)の代わりに2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノール、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニルエステル、β,β,β’,β’-テトラメチルの重合体(ADEKA社製;LA-68、以下ヒンダードアミン化合物(b3))を使用した以外は比較例2と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)とヒンダードアミン化合物(b3)を含む樹脂組成物E3を得た。
【0098】
<比較例4>
環状オレフィン系重合体(A-1)に何も添加せずに、実施例1と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-1)を押出機に通し、ペレタイズして樹脂A’を得た。
【0099】
<比較例5>
ヒンダードアミン化合物(b1)の代わりにヒンダードアミン化合物(b2)を使用した以外は実施例7と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-3)とヒンダードアミン化合物(b2)を含む樹脂組成物E5を得た。
【0100】
<比較例6>
ヒンダードアミン化合物(b2)の代わりにヒンダードアミン化合物(b3)を使用した以外は比較例5と同様の方法で環状オレフィン系重合体(A-3)とヒンダードアミン化合物(b3)を含む樹脂組成物E6を得た。
【0101】
実施例1~6および比較例1~4について、以下の評価方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0102】
(樹脂組成物のガラス転移温度(Tg))
以下の条件でDSC測定を行い、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を測定した。
DSC6220(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用い、窒素雰囲気下で30℃温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持した。次いで、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持した。その後、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する過程のDSC曲線を取得した。
2回目の昇温過程で得られたDSC曲線について、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。
【0103】
(成形体の評価方法)
(1)角板成形
射出成形機(住友重機械工業社製;SE30DUZ)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度126℃で実施例1~6および比較例1~4で得られた樹脂組成物を射出成形し、35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。
【0104】
(2)内部ヘイズ
上記で得られた35mm×65mm×厚み3mmtのテストピースについて、ベンジルアルコールを使用し、JIS K-7105に基づいてヘイズメータにより測定した。
【0105】
(3)耐熱試験
上記で得られた35mm×65mm×厚み3mmtのテストピースを大気下で温度125℃のオーブンに1008時間静置した。
【0106】
(4)透過率測定
紫外可視分光光度計を用いて、上記耐熱試験前と後のテストピースの全光線透過率をそれぞれ測定した。波長450nmにおける試験前の透過率(%)と試験後の透過率の変化量((試験後の透過率(%))-(試験前の透過率(%)))をΔ透過率(%)として評価した。
【0107】
【表1】
【0108】
実施例7および8、比較例5および6について、以下の評価方法により評価した。評価結果を表2に示す。
【0109】
(樹脂組成物のガラス転移温度(Tg))
実施例1~6および比較例1~4と同様の方法で測定した。
【0110】
(成形体の評価方法)
(1)角板成形
実施例7、8および比較例5、6で得られた樹脂組成物に対して、260℃に設定した油圧式ハンドプレス機(東洋精機製作所社製;MINI TEST PRESS-10)を用いて、10MPaの圧力でプレス成形し、30mm×60mm×厚み3mmtのテストピースをそれぞれ作製した。
【0111】
(2)内部ヘイズ
実施例1~6および比較例1~4と同様の方法で測定した。
【0112】
(3)耐熱試験
上記で得られた30mm×60mm×厚み3mmtのテストピースを大気下で温度125℃のオーブンに1008時間静置した。
【0113】
(4)透過率測定
実施例1~6および比較例1~4と同様の方法で測定ならびに評価した。
【0114】
【表2】
【0115】
この出願は、2019年5月27日に出願された日本出願特願2019-098759号および2020年3月18日に出願された日本出願特願2020-048237号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。