(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】含フッ素重合体を有効成分とする柔軟性撥水撥油剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20230426BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20230426BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C08J7/046 Z CEQ
(21)【出願番号】P 2022500227
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041315
(87)【国際公開番号】W WO2021161593
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2020020592
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】金海 吉山
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-83011(JP,A)
【文献】特開昭58-90524(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038493(WO,A1)
【文献】特開2003-221406(JP,A)
【文献】特開昭58-164672(JP,A)
【文献】GAO, Yu et al.,Novel Water and Oil Repellent POSS-Based Organic/Inorganic Nanomaterial: Preparation, Characterizati,Polymer,2010年,Vol.51, No.25,pp.5997-6004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C08J7/04-7/06
C08F214/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CH
2=CHCOOCH
2CF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕OC
3F
7および一般式
CH
2=CR
1COOR
2 〔II〕
(ここで、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はアルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基である)で表され、ガラス転移温度Tgが51~120℃である(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を有効成分とする柔軟性撥水撥油剤。
【請求項2】
ガラス転移温度51~120℃の(メタ)アクリル酸エステルがメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルである請求項1記載の柔軟性撥水撥油剤。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステルが共重合体中5~30重量%の割合で共重合された請求項1記載の柔軟性撥水撥油剤。
【請求項4】
有機溶媒溶液として調製された請求項1記載の柔軟性撥水撥油剤。
【請求項5】
含フッ素有機溶媒溶液として調製された請求項4記載の柔軟性撥水撥油剤。
【請求項6】
一般式
CH
2
=CR
1
COOCH
2
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
n
OC
3
F
7
〔I〕
(ここで、R
1
は水素原子またはメチル基であり、nは1~20の整数である)で表されるパーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体および一般式
CH
2
=CR
1
COOR
2
〔II〕
(ここで、R
1
は水素原子またはメチル基であり、R
2
はアルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基である)で表され、ガラス転移温度Tgが51~120℃である(メタ)アクリル酸エステルの共重合体の有機溶媒溶液であって、ゴム製品に適用される柔軟性撥水撥油剤。
【請求項7】
ゴム製品が弾力性樹脂製品である請求項6記載の柔軟性撥水撥油剤。
【請求項8】
請求項6記載の柔軟性撥水撥油剤で表面コーティングされたゴム製品。
【請求項9】
請求項7記載の柔軟性撥水撥油剤で表面コーティングされた弾力性樹脂製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体を有効成分とする柔軟性撥水撥油剤に関する。さらに詳しくは、生体蓄積性が低いといわれている炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体である含フッ素重合体を有効成分とする柔軟性撥水撥油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル基含有アルコールのアクリル酸誘導体、例えばCF3(CF2)7CH2CH2OCOCH=CH2は、繊維用撥水撥油剤を形成する含フッ素共重合体の合成モノマーとして多量に使用されている。また、そのアクリレート化前駆体であるパーフルオロアルキルアルコールは、界面活性剤等として広く使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献2には、基材の表面処理剤におけるパーフルオロアルキル基〔Rf〕含有(メタ)アクリレートの撥水撥油性の発現は、処理膜におけるRf基の配向に起因し、さらにRf基が配向するためにはRf基(炭素数8以上)に由来する微結晶の融点が存在することが必要であるとされ、そのため炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートが使用されてきたと記載されている。また、炭素数8以下のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートを使用して、イソシアネート単量体非含有の場合においては、炭素数8以上でみられる撥水撥油性能への寄与は十分ではないことも示されている。
【0004】
しかるに近年、自然界には存在しないパーフルオロオクタン酸(PFOA)あるいは炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有カルボン酸(PFCA)が大気中や河川等でその存在が確認されている。これらの化合物の内炭素数8前後のパーフルオロアルキル基を有する化合物は生体蓄積性が高く、環境に問題がみられるとの報告がなされており、今後はその製造や使用が困難になることが予測されている。
【0005】
ここで、現在撥水撥油剤など表面改質剤の原料として用いられるテロマー化合物の内、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物は、環境中でPFCAとなる可能性が示唆されており、今後はそれの製造、使用が困難となることが予測されている。一方、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下の化合物にあっては、生体蓄積性が低いといわれているものの、炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物では、柔軟性撥水撥油剤等の製品に要求される性能を得ることは困難であるとされている。
【0006】
これに加えて、従来の撥水撥油コーティング剤は、それから形成された被膜に柔軟性がなく、わずかな衝撃や圧力などによって割れが生じてしまうため、使用用途が限定されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭63-22237号公報
【文献】WO2004/035708A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、コーティング剤から形成された被膜がゴムや樹脂の変形に密着、追従し、かつ撥水撥油性を示す柔軟性撥水撥油剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、一般式
CH2=CR1COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕nOC3F7 〔I〕
(ここで、R1は水素原子またはメチル基であり、nは1~20の整数である)で表されるパーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体および一般式
CH2=CR1COOR2 〔II〕
(ここで、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はアルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基である)で表され、ガラス転移温度Tgが51~120℃である(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を有効成分とする柔軟性撥水撥油剤によって達成される。ここで、(メタ)アクリル酸はアクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る柔軟性撥水撥油剤は、コーティング剤から形成された被膜がゴムや樹脂の変形に密着、追従し、かつ撥水撥油性を示し、タック性試験においてもタックフリーである。
【0011】
本発明で用いられる含フッ素共重合体は、共重合体形成時にガラス転移温度Tgを低下させるエーテル結合を多数有するため、柔軟な被膜形成を可能とし、またその表面エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、離型性、防汚性などの撥水撥油剤にとって必要な性能を十分に発揮させることができる。
【0012】
したがって、使用時に変形を伴うゴム製品、柔軟性樹脂製品等の撥水撥油剤として有効に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の撥水撥油剤は、下記〔I〕式で示されるパーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体および下記〔II〕で示される(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を有効成分とする。
CH2=CR1COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕nOC3F7 〔I〕
R1:水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基
n:1~20の整数、好ましくは1~4の整数
CH2=CR1COOR2 〔II〕
R1:水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基
R2:アルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、
アリール基、アラルキル基、好ましくはアルキル基
【0014】
パーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕は公知の化合物であり、例えば特許文献1等に記載されている。かかる化合物としては、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド由来のパーフルオロポリエーテルアルコール C3F7O〔CF(CF3)CF2O〕nCF(CF3)CH2OHを(メタ)アクリル酸ハライドとエステル化反応させて生成する次のような化合物が例示され、
CH2=CR1COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕OC3F7
CH2=CR1COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕2OC3F7
CH2=CR1COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕3OC3F7
CH2=CR1COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕4OC3F7
好ましくは、
CH2=CHCOOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕OC3F7
CH2=C(CH3)COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕OC3F7
が用いられる。
【0015】
また、(メタ)アクリル酸エステル〔II〕は、ガラス転移温度Tg(ISO 3146に対応するJIS K7121準拠により測定)が51~120℃、好ましくは65~105℃でなければならず、例えばメタクリル酸メチル(Tg:105℃)、メタクリル酸エチル(Tg:65℃)等が用いられる。
【0016】
これよりも高いTgを有するものが用いられると、柔軟性が欠けるようになり、一方これよりも低いTgを有するものが用いられると、流動性が上がり塗膜を維持できなくなる。
【0017】
これらの(メタ)アクリル酸エステル〔II〕は、共重合体中約5~30重量%、好ましくは約5~10重量%を占めるような割合で用いられる。(メタ)アクリル酸エステル〔II〕の共重合割合がこれより少ないと柔軟性効果が発揮されず、一方これよりも多い割合で用いられると撥水撥油性に劣るようになる。
【0018】
共重合反応は、乳化重合法、けん濁重合法によっても行われるが、好ましくは溶液重合法によって行われる。溶液重合法の反応溶媒としては、含フッ素共重合体が溶解する溶媒であれば特に限定されないが、好ましくはフッ素原子を有する有機溶媒がよい。例えば、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3,3-ジクロロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-1,3-ジクロロプロパン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン等のハイドロフルオロカーボンまたはそのハロゲン置換体、3M社のNovec 7200(C4F9OC2H5)、同7300〔C2F5CF(OCH3)C3F7)〕等のハイドロフルオロエーテルなどの含フッ素有機溶媒中で、重合反応が行われる。
【0019】
この他、次のようなハイドロフルオロカーボンやハイドロフルオロエーテル等も用いられる。
【0020】
ハイドロフルオロカーボン:CF3(CF2)2CHF2、CF3(CF2)2CH2F、CF3CF2CH2CF3、F2CH(CF2)2CHF2、F2CHCH2CF2CF3、CF3CHFCH2CF3、CF3CH2CF2CHF2、F2CHCHFCF2CHF2、CF3CHFCF2CH3、F2CH(CHF)2CHF2、CF3CH2CF2CH3、CF3CF2CH2CH3、F2CHCH2CF2CH3、F2CH(CF2)3CF3、CF3(CF2)2CHFCF3、F2CH(CF2)3CHF2、CF3(CHF)2CF2CF3、CF3CHFCF2CH2CF3、CF3CF(CF3)CH2CHF2、CF3CH(CF3)CH2CF3、CF3CH2CF2CH2CF3、F2CHCHFCF2CHFCHF2、F2CH(CF2)2CHFCH3、CF3(CH2)3CF3、F2CHCH2CF2CH2CHF2、CF3(CF2)4CHF2、CF3(CF2)4CH2F、CF3(CF2)3CH2CF3、F2CH(CF2)4CHF2、CF3CH(CF3)CHFCF2CF3、CF3CF2CH2CH(CF3)2、CF3CH2(CF2)2CH2CF3、CF3CF2(CH2)2CF2CF3、CF3(CF2)3CH2CH3、CF3CH(CF3)(CH2)2CF3、F2CHCF2(CH2)2CF2CHF2、CF3(CF2)2(CH2)2CH3等
【0021】
ハイドロフルオロエーテル:CF3CF2CF2OCH3、(CF3)2CFOCH3、CF3(CF2)2OCH2CH3、CF3(CF2)3OCH3、(CF3)2CFCF2OCH3、C(CF3)3OCH3、CF3(CF2)3OCH2CH3、(CF3)2CFCF2OCH2CH3、(CF3)3COCH2CH3、CF3CF(OCH3)CF(CF3)2、CF3CF(OCH2CH3)CF(CF3)2、C5F11OCH2CH3、CF3(CF2)2CF(OCH2CH3)CF(CF3)2、CH3O(CF2)4OCH3、CH3O(CF2)2OCH2CH3、C3H7OCF(CF3)CF2OCH3等
【0022】
パーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸エステルの含フッ素有機溶媒への溶解性が良くない場合は、アルコールと混合させることが好ましい。アルコールは特に限定されないが、得られる含フッ素共重合体の溶解性があり、かつ含フッ素有機溶媒との相溶性がよく、さらにパーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体との相溶性があるものが好ましい。例えば、かかるアルコールとしてイソプロピルアルコール等が用いられる。混合比は、含フッ素有機溶媒:アルコール=95:5~70:30が好ましい。
【0023】
アルコールと同様に、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、ケトン等を用いることもできる。
【0024】
脂肪族炭化水素:n-ペンタン、2-メチルブタン、n-ヘキサン、3-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、n-オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン、n-ノナン、2,2,3-トリメチルヘキサン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ヘキサデカン等
脂環式炭化水素:シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等
芳香族炭化水素:ベンゼン、トルエン、キシレン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等
エステル:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ペンチル等
ケトン:アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン等
【0025】
共重合反応は、重合転化率が90%以上となるように行われるので、仕込み各単量体重量比がほぼ生成共重合体の共重合組成重量比となる。
【0026】
得られる共重合体中には、さらに他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、(メタ)アクリロニトリル、アクリル酸アミド、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ピペリレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン等を、本発明共重合体の柔軟性を損なわない割合で共重合させることができる。
【0027】
さらに、必要に応じて、混練加工性や押出加工性などを改善する目的で、側鎖にグリコール残基を有する多官能性(メタ)アクリレートまたはオリゴマー、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール等のアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、3-アクリロイルオキシグリセリンモノメタクリレート等をさらに共重合して用いることもできる。
【0028】
その他市販品である昭和電工製品カレンズMOI-BP(2-〔(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ〕エチルメタクリレート等も用いられる。
【0029】
共単量体総量に対して約0.1~4重量%、好ましくは約1~2重量%の割合で用いられる開始剤としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等が用いられ、具体的にはイソブチリルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、ビス(ヘプタフルオロブチリル)パーオキサイド、ペンタフルオロブチロイルパーオキサイド、ビス(4-第3ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の有機過酸化物が用いられ、重合反応によってはアゾ化合物や無機過酸化物またはそれのレドックス系も用いられる。反応条件や組成比によっては重合反応が進行し難い場合もあるが、その場合には重合反応の途中で再度重合開始剤を追加して用いることもできる。
【0030】
また、分子量の調整を行うため、必要に応じて連鎖移動剤を用いることもでき、連鎖移動剤としては、例えばジメチルエーテル、メチル第3ブチルエーテル、炭素数1~6のアルカン類、メタノール、エタノール、2-プロパノール、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、メタン、酢酸エチル、マロン酸エチル、アセトン等が挙げられる。
【0031】
共重合反応は、これらの反応溶媒、反応開始剤等を用いて、好ましくは約60~80℃の反応温度で、約10~24時間行われる。反応終了後、固形分濃度が約5~40重量%の共重合体溶液が得られ、この反応混合物から溶媒を除去することにより、含フッ素共重合体が得られる。
【0032】
共重合反応に用いられたパーフルオロポリエーテルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕は、未反応の残留共単量体をガスクロマトグラフィーで分析した結果殆ど完全に共重合されていることが確認される。
【0033】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体の製造方法は、かかる溶液重合法に限定されず、例えば水を分散媒とし、ノニオン界面活性剤および/またはカチオン界面活性剤を含むけん濁重合法、乳化重合法なども用いられる。
【0034】
このようにして得られるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体は、蒸発乾固する方法、無機塩等の凝集剤を添加して凝集させる方法などにより分離され、溶媒等で洗浄する方法により精製される。得られた共重合体の重量平均分子量Mwは、高速液体クロマトグラフィー法によって示され、その値は約2,000~2,000,000となる。
【0035】
溶液重合法により得られた重合体溶液は、さらに1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の含フッ素有機溶媒、好ましくは重合反応に用いられたものと同じ含フッ素有機溶媒によって、その固形分濃度が約0.01~30重量%、好ましくは約0.05~15重量%に希釈した上で、コーティング剤として用いられる。
水系の乳化重合法、けん濁重合法などによって得られる重合物については、そのままあるいは水で固形分濃度を約0.1~10重量%に希釈した上で水性分散液として、
または重合反応液に凝集剤を添加して重合物を凝集させ、水または有機溶媒で洗浄して分離された共重合体を水に分散または含フッ素有機溶媒に溶解させることにより、その水性分散液または有機溶媒溶液として、
コーティング剤を調製することもできる。水性分散液としては、好ましくは界面活性剤および水溶性有機溶媒を20重量%以下含有させたものが用いられる。
【0036】
この共重合体の水性分散液またはこれらの含フッ素有機溶媒溶液よりなる重合体溶液中には、さらに他の添加剤としてメラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックドイソシアネート等の架橋剤、重合体エクステンダー、シリコーン樹脂、またはオイル、ワックス等の他の撥水剤、防虫剤、帯電防止剤、染料安定剤、防皺剤、ステインブロッカー等の表面処理剤用途に必要な添加剤を添加することができる。
【0037】
このようにして得られる共重合体溶液は、各種ゴム製品、弾力性樹脂製品等に撥水撥油剤として有効に適用される。適用方法としては、塗布、浸漬、吹き付け、パッディング、ロールコーティングあるいはこれらの組合せ方法が一般に用いられ、例えば浴の固形分濃度を約0.1~10重量%とすることにより、パッド浴として使用される。このパッド浴に被処理材料をパッドし、必要に応じて絞りロールで過剰の液を取り除いて乾燥し、被処理材料に対する付着含フッ素共重合体量が約0.01~10重量%の割合になるように付着せしめる。その後、被処理材料の種類にもよるが、一般には約100~200℃の温度で約1分間乃至約2時間程度の乾燥が行われ、撥水撥油処理が終了する。
【実施例】
【0038】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0039】
実施例1
コンデンサおよび温度計を備えた容量50mlのガラス製反応容器に、
CH2=CHCOOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕OC3F7 〔PO-3-AC〕 8.04g
CH2=C(CH3)COOCH3 (Tg:105℃) 0.64g
溶媒(3M社製品Novec7300;C4F9OCH3) 17.72g
アゾビスイソブチロニトリル 44.3mg
を仕込み、攪拌しながら70℃で21時間共重合反応を行い、固形分濃度28.6重量%の重合反応溶液を得た。
【0040】
この重合反応溶液に同じ溶媒を加え、その固形分濃度を10重量%に調整し、これを15.0×30.0×2.0mmのEPDM製基板に、回転数1000rpmで10秒間スピンコートし、120℃で10分間オーブン中で焼付けを行い、試験サンプルとした。この試験サンプルについて、柔軟性試験、撥水撥油試験およびタック性試験を行い、次の評価段階で評価した。
柔軟性試験方法:
試験サンプルを引張試験機で10~80%引き伸ばし、その途中経過
をマイクロスコープを用いて観察し、被膜の亀裂などの観察を行
い、次のような段階評価を行った。
◎:0%戻り時、亀裂、しわはない
+40%引き伸ばし時、亀裂はない
○:0%戻り時、亀裂、しわはない
+20%引き伸ばし時、亀裂はない
△:0%戻り時、亀裂、しわはない
+10%引き伸ばし時、亀裂はない
×:0%戻り時、亀裂、しわあり
撥水撥油試験方法:
試験サンプルについて、協和界面科学製Dropmaster DM500を用い
、接触角測定法で行った。試験液は、水またはヘキサデカンの2
種類が用いられた。段階評価は、次の如くである。
撥水試験(純水)
◎:接触角110°以上
○:接触角105°~109°
△:接触角100°~104°
×:接触角99°以下
撥油試験(ヘキサデカン)
◎:接触角70°以上
○:接触角65°~69°
△:接触角60°~64°
×:接触角59°以下
タック性試験方法:
試験サンプルを指で軽く触ったときの被膜の状態を、次の評価段
階で評価した。
◎:タックフリー
○:指紋が残る程度
△:若干の粘着感がある
×:糸を引く程度
【0041】
実施例2
実施例1において、PO-3-ACの代わりに、
CH2=C(CH3)COOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕OC3F7 〔PO-3-MAC〕
が8.25g用いられた。また、溶媒量は18.15gに、重合開始剤量は44.2mgにそれぞれ変更され、固形分濃度31.3重量%の重合反応溶液が得られた。
【0042】
実施例3
実施例2において、メチルメタクリレートの代わりに、エチルメタクリレート(Tg:65℃)が0.73g用いられた。また溶媒量は18.35gに、重合開始剤量は44.0mgにそれぞれ変更され、固形分濃度31.3重量%の重合反応溶液が得られた。
【0043】
実施例4
実施例2において、PO-3-MAC量が8.26gに変更され、さらに2-〔(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ〕エチルメタクリレート〔昭和電工製品 カレンズMOI-BP〕54.8mgが架橋性モノマーとして用いられた。また、溶媒量は18.26gに、重合開始剤量は44.7mgにそれぞれ変更され、固形分濃度31.9重量%の重合反応溶液が得られた。
【0044】
比較例1
実施例1において、PO-3-ACの代わりに、
CH2=CH(CH3)COOC5F10CH2C6F13 〔含フッ素系モノマー A〕
が10.73g用いられ、メチルメタクリレートは用いられなかった。また、溶媒量は21.83gに、重合開始剤量は37.1mgにそれぞれ変更され、固形分濃度33.0重量%の重合反応溶液が得られた。
【0045】
比較例2
実施例1において、PO-3-ACの代わりに、
CH2=CHCOOCH2CH2C6F13 〔FAMAC-6〕
が8.26g用いられ、メチルメタクリレートは用いられなかった。また、溶媒量は26.45gに、重合開始剤量は61.9mgにそれぞれ変更され、固形分濃度34.6重量%の重合反応溶液が得られた。
【0046】
比較例3
実施例2おいて、さらに架橋性モノマーとして2-ヒドロキシエチルアクリレート〔2HEA〕28.1mgが追加して用いられた。また、溶媒量は18.21gに、重合開始剤量は44.6mgにそれぞれ変更されたが、2HEAは溶媒Novec 7300との相溶性が低いため、生成物は白濁固化して、諸特性の測定ができなかった。
【0047】
比較例4
実施例1において、メチルメタクリレートの代わりに、n-ブチルアクリレート(Tg:-49℃)が0.82g用いられた。また、溶媒量は18.09gに変更されたが、生成物は固形分を有しない液状物であり、諸特性の測定ができなかった。
【0048】
比較例5
実施例2において、メチルメタクリレートの代わりに、n-ブチルメタクリレート(Tg:20℃)が0.91g用いられた。また、溶媒量は17.91gに変更され、固形分濃度27.6重量%の重合反応溶液が得られた。
【0049】
以上の実施例1~4および比較例1~2、5で得られた結果は、次の表に示される。
表
例 柔軟性試験 撥水試験 撥油試験 タック性試験
実施例1 ◎ ◎ ◎ △
〃 2 ○ ◎ ○ ◎
〃 3 ○ ◎ ◎ ◎
〃 4 ○ ○ ○ ◎
比較例1 × ◎ ◎ ◎
〃 2 × ◎ ◎ ◎
〃 5 × ◎ ○ ○