(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/00 20060101AFI20230427BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20230427BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20230427BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230427BHJP
G01N 27/20 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C25D1/00 A
C25D1/04
G01N27/00 L
G01N27/04 Z
G01N27/20
(21)【出願番号】P 2019078827
(22)【出願日】2019-04-17
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】國枝 知徳
(72)【発明者】
【氏名】塚本 元気
(72)【発明者】
【氏名】三好 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】岳辺 秀徳
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-191048(JP,A)
【文献】特開平02-206751(JP,A)
【文献】特開2000-045091(JP,A)
【文献】特開2001-141683(JP,A)
【文献】特開2004-250753(JP,A)
【文献】特開2005-298853(JP,A)
【文献】特開2007-155368(JP,A)
【文献】特開2008-241419(JP,A)
【文献】特開2010-096504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00 - 21/22
G01N 27/00 - 27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用純チタンまたはチタン合金からなる金属箔製造用電着ドラム材または当該金属箔製造用電着ドラム材を備える金属箔製造用電着ドラムの表面に、一対の通電電極探針を接触させて定電流を供給し、前記定電流が供給された前記表面の複数個所について、電位検出探針の対を一定の
前記工業用純チタンまたは前記チタン合金の平均結晶粒径に応じて決定される探針間隔にて接触させることにより、前記表面の前記複数個所についての複数の電圧を検出する第1の工程と、
前記複数の電圧から選択されるいずれか2以上の前記電圧を比較する第2の工程と、を有する、金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記複数の電圧を同時に検出する、請求項1に記載の金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記電位検出探針の対の探針間隔が、前記工業用純チタンまたは前記チタン合金の平均結晶粒径の200倍以上である、請求項
1または2に記載の金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記複数の電圧から選択される2つの電圧の比を算出する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層配線基板、フレキシブル配線板等の配線基板の配線やリチウムイオン電池の集電体等の電子部品の導電部位には、多くの場合、銅箔が原料として利用されている。
【0003】
このような用途に利用される銅箔は、例えば、銅原料を硫酸溶液に溶解させた硫酸銅溶液中に、鉛やチタンなどの不溶性金属の陽極および陰極としての幅1m以上、直径数mのドラムを配置し、ドラムを回転させつつドラム上に銅を連続的に電析させ、析出した銅を連続的に剥離し、ロール状に巻き取ることにより、製造される。
【0004】
ドラムの材料としては、耐食性に優れること、銅箔の剥離性に優れること、などの観点から、チタンが一般に使用されている。しかしながら、耐食性に優れたチタン材を用いた場合であっても、銅箔の製造を長期間にわたり行うと、硫酸銅溶液中でドラムを構成するチタン材の表面が徐々に腐食影響を受ける。そして、腐食影響を受けたドラム表面の状態は、銅箔の製造時に銅箔に転写される。
【0005】
金属材料の腐食は、その金属材料の有する結晶組織、結晶方位、欠陥、偏析、加工歪み、残留歪みなど金属組織に起因する様々な内質要因によって、腐食状態や腐食の程度が異なることが知られている。部位間で金属組織が不均質な金属材料を用いたドラムが、銅箔の製造に伴い腐食影響を受けた場合、ドラムの均質な面状態が維持できなくなり、ドラム表面に不均質な面が生じる。ドラム表面に生じた不均質な面は模様として識別できる。このような不均質な金属組織に起因する模様のうち、比較的面積の大きなマクロ組織に起因し、肉眼で判別できる模様を「マクロ模様」という。そして、ドラム表面に生じたマクロ模様も、銅箔の製造時に銅箔に転写され得る。
【0006】
したがって、高精度かつ均質な厚さの銅箔を製造するためには、ドラムを構成するチタン材のマクロ組織を均質にして、ドラムの均質な腐食を達成することにより、不均質なマクロ組織に起因したマクロ模様を低減することが、重要である。
【0007】
特許文献1には、マクロ模様を抑制するために、質量%で、Cu:0.15%以上、0.5%未満、酸素:0.05%超、0.20%以下、Fe:0.04%以下を含み、残部チタンと不可避不純物からなり、平均結晶粒径が35μm未満のα相均質微細再結晶組織からなることを特徴とする、電解Cu箔製造ドラム用チタン板が提案されている。
【0008】
ところで、ドラムに存在するマクロ模様は、一般に、表面を例えば600番のサンドペーパーで研磨した後の研磨まま状態にて、さらにはそれを硝酸約10%、弗酸約5%、残り水のエッチング液に数十秒~数分間浸漬したエッチング状態にて、目視により確認される。あるいは、ドラムの品質検査は、成分分析、金属組織の結晶粒径、双晶等のミクロ組織の分析、集合組織の分析や、引張試験により行われる。これらの品質検査は、ドラムの一部分のみについて分析・評価が行われるため、さらに、ドラムの分析対象となる部分を採取することが必要となる。一方で、ドラムの定量的かつ非破壊的な検査は、いまだ知られていない。
【0009】
特許文献2には、鋼板の焼き入れ層の深さを非破壊的に測定する鋼材の焼き入れ深さ測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-41064号公報
【文献】特開2004-309355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したように、金属箔製造用電着ドラムの定量的かつ非破壊的な検査は、いまだ知られていない。また、特許文献2に記載の測定装置は、あくまでも鋼板の焼き入れ層の深さを非破壊的に測定する装置であって、金属箔製造用電着ドラムの品質の検査に適用可能には構成されていない。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、非破壊的に金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの全体について品質検査することが可能な、金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、金属箔製造用電着ドラムの研磨ままの状態で存在するマクロ模様や、使用中の不均質な腐食に伴うマクロ模様の発生が、その金属材料の有する化学組成や、結晶組織、結晶方位、欠陥、偏析、加工歪み、残留歪みなどの金属組織に起因する様々な内質要因によって影響を受けることに着目した。そして、金属箔製造用電着ドラムの表面の部位ごとにおける電気抵抗が、これらの内質要因を総合して示し得ることを見出し、本発明に至った。
【0014】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 工業用純チタンまたはチタン合金からなる金属箔製造用電着ドラム材または当該金属箔製造用電着ドラム材を備える金属箔製造用電着ドラムの表面に、一対の通電電極探針を接触させて定電流を供給し、前記定電流が供給された前記表面の複数個所について、電位検出探針の対を一定の前記工業用純チタンまたは前記チタン合金の平均結晶粒径に応じて決定される探針間隔にて接触させることにより、前記表面の前記複数個所についての複数の電圧を検出する第1の工程と、
前記複数の電圧から選択されるいずれか2以上の前記電圧を比較する第2の工程と、を有する、金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
(2) 前記第1の工程において、前記複数の電圧を同時に検出する、(1)に記載の金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
(3) 前記第1の工程において、前記電位検出探針の対の探針間隔が、前記工業用純チタンまたは前記チタン合金の平均結晶粒径の200倍以上である、(1)または(2)に記載の金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
(4) 前記第2の工程において、前記複数の電圧から選択される2つの電圧の比を算出する、(1)~(3)のいずれか一項に記載の金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、非破壊的に金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの全体について品質検査することが可能な、金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法を説明するための概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法を説明するための概要図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法における通電電極探針および電位検出探針の配置の一例を示す金属箔製造用電着ドラム材の表面の展開図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法における通電電極探針および電位検出探針の配置の一例を示す金属箔製造用電着ドラム材の表面の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1、
図2は、本実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法を説明するための概要図であり、
図3、
図4は、本実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法における通電電極探針および電位検出探針の配置の一例を示す金属箔製造用電着ドラム材の表面の展開図である。
【0018】
本実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法(以下、単に「本実施形態に係る検査方法」ともいう)は、工業用純チタンまたはチタン合金からなる金属箔製造用電着ドラム材または当該金属箔製造用電着ドラム材を備える金属箔製造用電着ドラムの表面に、一対の通電電極探針を接触させて定電流を供給し、上記定電流が供給された上記表面の複数個所について、電位検出探針の対を一定の探針間隔にて接触させることにより、上記表面の上記複数個所についての複数の電圧を検出する第1の工程と、
上記複数の電圧から選択されるいずれか2以上の上記電圧を比較する第2の工程と、を有する。
【0019】
(1. 金属箔製造用電着ドラム材および金属箔製造用電着ドラム)
まず、各工程の説明に先立ち、本実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法の対象となり得る金属箔製造用電着ドラム1および金属箔製造用電着ドラム材10について説明する。
【0020】
金属箔製造用電着ドラム1は、円筒形状を有し、金属原料を溶解させた溶液中に浸漬されて、当該溶液中で回転しつつ、陰極として金属を連続的に電析させることにより、金属箔を製造するのに用いられる。金属箔製造用電着ドラム1は、工業用純チタンまたはチタン合金からなる円筒状の金属箔製造用電着ドラム材10を有する。
【0021】
当該円筒状の金属箔製造用電着ドラム材10の表面は、金属箔の製造において徐々に腐食影響を受ける。そして、この腐食影響を受けた際に生じる金属箔製造用電着ドラム材10の表面11の状態は、電析する金属箔にも転写される。したがって、金属箔製造用電着ドラム材10の表面11の状態を検査することは、金属箔の品質を管理する上でも重要である。
【0022】
なお、金属箔製造用電着ドラム1によって製造される金属箔については、特に限定されず、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、鉄箔等であることができる。
【0023】
また、本実施形態に係る検査方法の対象となり得る金属箔製造用電着ドラム材10は、上記の金属箔製造用電着ドラム1を構成する円筒状の部材または加工前のチタン板でありうる。以下の説明では、金属箔製造用電着ドラム1について検査する例を挙げ、本実施形態に係る検査方法を説明するが、本発明が以下の説明に限定されず、金属箔製造用電着ドラム1に備え付けられていない状態の金属箔製造用電着ドラム材についても適用可能なことは、いうまでもない。
【0024】
(2. 第1の工程)
第1の工程では、
図1、
図2に示すように、まず、金属箔製造用電着ドラム1の表面11に、一対の通電電極探針20A、20Bを接触させて定電流Iを供給する。これにより、表面11の通電電極探針20A、20Bが接触したa-a’間において定電流Iが流れるとともに、所定の電位差が生じる。
【0025】
なお、a-a’の方向は特に限定されず、例えば、図示のように金属箔製造用電着ドラム材10の最終圧延幅方向(ドラム1の軸方向)と平行であってもよいし、図示の態様に限定されず、金属箔製造用電着ドラム1を構成する金属箔製造用電着ドラム材10の最終圧延方向(ドラム1の円周方向)と平行であってもよいし。さらに、a-a’の方向は、金属箔製造用電着ドラム材10の最終圧延幅方向(ドラム1の軸方向)から所定の角度傾きを有していてもよい。
【0026】
次いで、定電流Iが供給された表面11の複数個所について、電位検出探針30A、30Bの対を一定の探針間隔Lにて接触させることにより、表面11の複数個所についての複数の電圧V1~Vnを検出する。
【0027】
ここで、表面11の複数個所についての複数の電圧V1~Vnを検出する意義について説明する。本発明者らは、金属箔製造用電着ドラム1の研磨ままの状態で存在するマクロ模様や、使用中の不均質な腐食に伴うマクロ模様の発生が、その金属材料の有する結晶組織、結晶方位、欠陥、偏析、加工歪み、残留歪みなど化学組成や金属組織に起因する様々な内質要因によって影響を受けることに着目した。そして、金属箔製造用電着ドラム1の表面の部位ごとにおける電気抵抗が、これらの内質要因を総合して示し得ることを見出した。
【0028】
例えば、化学組成については、金属箔製造用電着ドラム1の表面の電気抵抗率(μΩ・cm)は、O、N、Cの合計濃度、Fe、Cr、Ni、Moの合計濃度および水素濃度とそれぞれ正の一次相関を有すると推定される。
【0029】
また、金属組織については、金属箔製造用電着ドラム1の表面の電気抵抗率(μΩ・cm)は、ひずみ量とは正の一次相関を、電流方向とα相結晶構造のc軸とのなす角とは負の一次相関を有すると推測される。さらには、金属箔製造用電着ドラム1の表面の電気抵抗率(μΩ・cm)は、金属組織中における結晶粒径の逆数にも比例する(結晶粒径と反比例する)と推測される。なお、当然、金属箔製造用電着ドラム1の表面の電気抵抗率(μΩ・cm)は、金属箔製造用電着ドラム1の表面の温度とも相関する。
【0030】
以上、金属箔製造用電着ドラム1の表面の電気抵抗率(μΩ・cm)は、マクロ模様等の模様を生じさせる主な内質要因と相関を有することが推測された。したがって、金属箔製造用電着ドラムの表面の部位ごとにおける電気抵抗を把握することにより、金属箔製造用電着ドラムの表面の部位ごとにおける内質要因のばらつきを把握することが可能となる。
【0031】
そして、金属箔製造用電着ドラムの表面の部位ごとにおける電気抵抗は、定電流Iを供給した際に生じる当該部位ごとの電圧に対応する。したがって、表面11の通電電極探針20A、20Bが接触したa-a’間において、部位b1-b1’~bn-bn’における電圧V1~Vnを測定し、これらを比較することにより、金属箔製造用電着ドラムの表面の部位ごとにおける内質要因のばらつきを把握することが可能となり、ひいては、腐食の均一性および金属箔製造用電着ドラムの品質を評価することが可能となる。
【0032】
例えば、
図2中、部位b
n-b
n’においてマクロ模様等の不均質な部位12が存在する場合、部位b
n-b
n’における電圧V
nは他の部位における電圧と異なる値が検出され、当該部位b
n-b
n’に不均質な部位12が存在することを把握できる。
【0033】
部位b1-b1’~bn-bn’における電圧V1~Vnの測定は、上述したようにbi-bi’間(iは、1~nから選択される整数)について、電位検出探針30A、30Bの対を一定の探針間隔Lにて接触させることにより行われる。ここで、部位b1-b1’~bn-bn’のいずれの部位から電圧V1~Vnの測定が行われてもよい。この場合において、電圧V1~Vnの測定の順序は特に限定されない。
【0034】
あるいは、複数部位、例えば全ての部位b1-b1’~bn-bn’について複数の電圧V1~Vnの測定が同時に行われてもよい。このような場合、本実施形態に係る検査方法に要する時間が短縮される。また、金属箔製造用電着ドラム1の表面11の温度の時間経過に依存した変化を小さくすることができ、品質の検査の精度が向上する。
【0035】
また、電圧V
iを測定するための部位b
i-b
i’(iは、1~nから選択される整数)の配列は、いかなるものであってもよい。例えば、
図3に示すように、a-a’間において、ある測定対象の部位b
i-b
i’が、他の測定対象の部位b
m-b
m’(mは、1~nから選択される整数)を結ぶ直線上に配置されてもよい。具体的には、複数の部位b
i-b
i’は、互いに平行かつ一直線上に配置されてもよい。
【0036】
あるいは、
図4に示すように、複数の部位b
i-b
i’(iは、1~nから選択される整数)の配列方向xは、各部位b
i-b
i’を結ぶ方向y
iと交差してもよい。
図4に示す態様では、配列方向xと、各部位b
i-b
i’を結ぶ方向y
iとは直交しているが、これに限定されない。なお、
図4に示す態様においては、複数の部位b
i-b
i’(iは、1~nから選択される整数)について電圧V
1~V
nを測定するために、都度、通電電極探針20A、20Bを、表面11の複数の部位b
i-b
i’を結ぶ延長線上にある地点a
i、a
i’に接触させ、a
i-a
i’間に定電流Iを供給する。
【0037】
また、電位検出探針30A、30B間、すなわち、bi-bi’間の探針間隔Lは、一定であり、通常、同一である。これにより、得られる電圧V1~Vnの比較が容易となる。
【0038】
また、bi-bi’間の探針間隔Lは、特に限定されないが、例えばマクロ模様の大きさに応じて決定される。マクロ模様は、本発明者らの経験的に、2~3mm程度である。そして、本発明者らは、探針間隔Lがマクロ模様の3%以上である際に十分有意に他の部位との電圧の差異を検出できることを見出した。したがって、探針間隔Lは、例えば67mm以下、好ましくは33mm以下であることができる。
【0039】
また、bi-bi’間の探針間隔Lは、例えば、金属箔製造用電着ドラム材10を構成する工業用純チタンまたはチタン合金の平均結晶粒径に応じて決定されることができる。すなわち、金属箔製造用電着ドラム材10の表面11の電気抵抗は、測定部位における工業用純チタンまたはチタン合金の結晶粒界の数にも影響される。したがって、電気抵抗への結晶粒界の影響を平準化する観点から、探針間隔L内において、表面11に十分な数の結晶粒界が含まれることが好ましい。
【0040】
例えば、表面11において観察される結晶粒径が20~40μmの範囲にある場合、2mmのマクロ模様中には、50~100個程度の結晶粒界が存在することとなる。マクロ模様による電気抵抗への影響と結晶粒界の数による影響を十分に分離することを考慮すると、探針間隔L内において、表面11に少なくとも125個程度の結晶粒界が存在することが好ましい。このような観点から、探針間隔Lは、例えば平均結晶粒径の125倍以上、好ましくは140倍以上であることができる。
【0041】
以上、bi-bi’間の探針間隔Lは、金属箔製造用電着ドラム材10を構成する工業用純チタンまたはチタン合金の平均結晶粒径および/またはマクロ模様の大きさに応じて決定することができる。そして、平均結晶粒径およびマクロ模様の大きさを同時に考慮すると、探針間隔Lは、例えば平均結晶粒径の125倍以上かつ67mm以下、好ましくは平均結晶粒径の140倍以上かつ33mm以下であることができる。
【0042】
以上のようにして、定電流Iが供給された表面11の複数個所について、複数の電圧V1~Vnを検出する。
【0043】
(3. 第2の工程)
本工程では、検出された複数の電圧V1~Vnから選択されるいずれか2以上の電圧を比較する。電圧同士の比較は、いかなる方法で行ってもよく、例えば、2つの電圧同士の差および/もしくは比、平均電圧との差および/もしくは比ならびに/または電圧の標準偏差等を算出することにより行ってもよい。
【0044】
上述した中でも、電圧同士の比較は、複数の電圧V1~Vnから選択される2つの電圧の比を算出することにより行うことが好ましい。これにより簡便かつ精度のよい電圧同士の比較が可能となる。
【0045】
この場合において、比較される電圧同士は、隣接する部位における電圧であることが好ましい。すなわち、互いに最も近い位置にある部位における電圧について比較を行うことが好ましい。銅箔における模様の発生は、局所的な組織の変化に起因する。このため、離れた位置にある部位における電圧について比較するよりも、隣接する部位における電圧について比較を行うことにより、より精度よく局所的な組織の変化を検出することが可能となる。
【0046】
具体的には、例えば
図3、
図4においては、部位b
i-b
i’(iは、1~nから選択される整数)の電圧V
iは、隣接する部位b
i-1-b
i-1’の電圧V
i-1および部位b
i+1-b
i+1’の電圧V
i+1とそれぞれ比較される。例えば、電圧を比により比較する場合、V
i/V
i-1およびV
i+1/V
i(またはV
i-1/V
iおよびV
i/V
i+1)が算出される。
【0047】
このようにして、比較された電圧の評価については、金属箔製造用電着ドラム1によって製造される金属箔に要求される品質に応じて適宜設定できる。
【0048】
一例を挙げると、Vi+1/Viについては、例えば0.95以上1.05以下の範囲、好ましくは0.97以上1.03以下の範囲、好ましくは0.98以上1.02以下の範囲内である場合に、部位同士が均質であると判断することができる。そして、この評価をi=1よりi=n-1まで行い、すべての部位同士が均質である場合に、金属箔製造用電着ドラム1として良好な品質を有すると評価することができる。
【0049】
以上の本実施形態に係る金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの検査方法によれば、非破壊的に金属箔製造用電着ドラム材10または金属箔製造用電着ドラム1の全体について品質検査することが可能である。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例を示しながら、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0051】
(1.母材の準備)
まず、母材として表1に示す組成を有する基準となるチタンの熱間圧延板(100mm厚)を複数用意した。
【0052】
(2.化学成分の変化部の模擬)
次いで、ベースとなる母材(熱間圧延板)の表面に、人工的に化学成分が異なる部位を作製した。具体的には、熱間圧延板の表面にφ30mm深さ30mmのドリル穴をあけて真空中電子ビーム溶接にてO濃度やFe濃度、さらにはCr,Ni濃度が異なるチタンを肉盛して穴を塞いだ。そして、この穴あけ肉盛部の位置を記録した。その後、10mm厚まで熱間熱延し、焼鈍、研磨を施した。この穴あけ肉盛部は母材と化学成分が異なる部位となる。Fe、Cr、Ni濃度が高い穴あけ肉盛部では、結晶粒径が母材部よりも小さい場合がある。その例を、表1の穴あけ肉盛部1~8に示す。
【0053】
(3.ひずみの変化部の模擬)
次に、部分的にひずみ量が異なる部位を模擬的に作製した。10mm厚の板形状まで鍛造、熱延、焼鈍、酸洗を施した母材を用いて、その母材表面に、グラインダを用いて部分的に研磨を施して、幅3~10mmの研磨痕を導入した。このグラインダによる研磨痕の部位は、他部に比べてひずみ量が大きい部位となる。研磨によってひずみが導入されているため、同時にある程度は結晶方位と結晶粒径も未研磨部からは変化している。その例を、表1の部分グラインダ1~3に示す。
【0054】
(4.実際のマクロ模様の特定)
母材を研磨したのち、目視観察によりマクロ模様を5か所確認した。これらを表1のマクロ模様1~5に示す。
【0055】
(5.電圧測定)
次に、母材の表面に一対の通電電極探針を接触させて定電流を供給した。次いで、
図1~3に示すような配列で、電位検出探針の対を5mmの探針間隔として母材表面に接触させ、電圧を測定した。なお、母材の表面における平均結晶粒径は、33μmである。そして、上述した穴あけ肉盛部1~8、部分グラインダ1~3およびマクロ模様1~5を含む部位における電圧を、母材の基準となる部位における電圧V
0と対比した。結果を表1に合わせて示す。電流は1Aとした。
【0056】
【0057】
表1に示すように、穴あけ肉盛部1~8、部分グラインダ1~3およびマクロ模様1~5を含む部位における電圧は、基準となる母材における電圧から変化していた。このことから、本実施形態に係る検査方法により、金属箔製造用電着ドラム材または金属箔製造用電着ドラムの品質を精度よくかつ非破壊に検査できることが理解できる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。