IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 曽田香料株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】果実感付与又は増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20230427BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20230427BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230427BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20230427BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20230427BHJP
   A61K 8/33 20060101ALI20230427BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20230427BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20230427BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
A23L27/20 F
A23L2/00 B
A23L27/00 C
A61Q13/00 101
A61K8/35
A61K8/33
A61K47/08
C11B9/00 L
C11D3/50
C11B9/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019120694
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021006603
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】葛西 賢造
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 祥子
(72)【発明者】
【氏名】児玉 達哉
(72)【発明者】
【氏名】黒須 利一
(72)【発明者】
【氏名】平野 弘樹
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-081804(JP,A)
【文献】George A. Burdock, PH.D.,Fenaroli's Handbook of Flavor Ingredients Sixth Edition,pp. 1515-1516
【文献】Mariana Buranelo Egea,Food Chemistry,2014年,164,272-277,DOI: 10.1016/j.foodchem.2014.05.028
【文献】宮里博成,唐柚子(Dangyooja)の香気成分,香料,2009年,241,33-42
【文献】Veronika Greger et al.,J. Agric. Food Chem.,2007年,55,5221-5228,DOI: 10.1021/jf0705015
【文献】熊沢賢二、ほか,カンキツ果汁の香気成分と加熱による香気変化,日本食品科学工学会誌,2007年,54,266-273
【文献】John C. Beaulieu,Effect of Cutting and Storage on Acetate and Nonacetate Esters in Convenient, Ready-to eat Fresh-cut Melons and Apples,HORTSCIENCE,2006年,41,65-73
【文献】Yukiko Tokitomo et al.,Odor-Active Constituents in Fresh Pineapple (Ananas Comosus [L.] Merr.) by Qantitative and Sensory Evaluation,Biosci. Biotechnol. Biochem.,2005年,69,1323-1330
【文献】Jianming Lin et al.,J. Agric. Food Chem.,2002年,50,813-819,DOI: 10.1021/jf011154g
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/
A23L
A61K
C11D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン及び4-メトキシトルエンからなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分とする、飲食品の果実感付与又は増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物群から選択される1種以上の化合物を1ppt以上含有する請求項1に記載の果実感付与又は増強剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の果実感付与又は増強剤を添加してなる果実風味を有する飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の果実感付与又は増強剤を添加することにより、請求項1に記載の化合物群から選択される1種以上の化合物を0.01ppt~1ppm含有する請求項3に記載の飲食品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の果実感付与又は増強剤を添加する、果実風味を有する飲食品の果実感付与又は増強方法。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物群から選択される1種以上の化合物を0.01ppt~1ppm添加する、請求項5に記載の果実感付与又は増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は果実感付与又は増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
果実系香料は日常生活における身近な商材に幅広く使用されている。例えば、食品香料としてはジュースや菓子など、香粧品香料としては芳香剤や洗剤などに使用され、商材に果実の風味や香気を与える上で非常に重要である。一方、飲食品や香粧品などに対する消費者のニーズは年々多様化しており、果実の風味や香気を有する飲食品や香粧品などについては、果実の本物らしさ、しぼりたて感、つみたて感といった要素が求められる傾向にある。しかし、このような効果をもたらす香料素材はあまり知られていない。
【0003】
一方、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン及び4-メトキシトルエンは香料化合物として公知であるが、刺激臭が強く、日本人になじまないアニス様香気と消毒液様のクレゾール臭も強いことから、香料としての使い勝手が非常に悪いため、実態としてはほとんど使用されておらず、果実の風味や香気の本物らしさの付与や増強効果に関する報告もなされていない。
【0004】
また、1,5-オクタジエン-3-オンは脂質の酸化臭の主香成分であり、その匂いは極めて強く、水溶液中での閾値は4pptとされ、微量でも不快臭を感じる。当該物質は味噌又は味噌含有飲食品の香味改善剤(特許文献1)、菊花風味を有する飲食品の香味改善剤(特許文献2)、茶フレーバー組成物(特許文献3)、エビフレーバー組成物及びエビ風味増強剤(特許文献4)、イグサ様香料組成物(特許文献5)などの用途が公知であるが、果実の風味や香気の本物らしさの付与や増強効果に関しては報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-028102号公報
【文献】特開2017-046598号公報
【文献】特開2005-143467号公報
【文献】WO2014/054705号公報
【文献】特開2011-068836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、果実感を付与又は増強する香料素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意研究の結果、本発明者らは2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、1,5-オクタジエン-3-オンが果実感の付与又は増強効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン及び1,5-オクタジエン-3-オンからなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分とする果実感付与又は増強剤。
(2)(1)に記載の化合物群から選択される1種以上の化合物を1ppt以上含有する(1)に記載の果実感付与又は増強剤。
(3)(1)又は(2)に記載の果実感付与又は増強剤を添加してなる果実風味を有する飲食品又は果実香気を有する香粧品。
(4)(1)又は(2)に記載の果実感付与又は増強剤を添加することにより、(1)に記載の化合物群から選択される1種以上の化合物を0.01ppt~1ppm含有する(3)に記載の飲食品又は香粧品。
(5)(1)又は(2)に記載の果実感付与又は増強剤を添加する、果実風味を有する飲食品又は果実香気を有する香粧品の果実感付与又は増強方法。
(6)(1)に記載の化合物群から選択される1種以上の化合物を0.01ppt~1ppm添加する、(5)に記載の果実感付与又は増強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、1,5-オクタジエン-3-オンを有効成分とする果実感付与又は増強剤は、飲食品や香粧品の風味や香気に悪影響を及ぼすことなく果実感を付与又は増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン及び1,5-オクタジエン-3-オンからなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分とする果実感付与又は増強剤であり、また、当該果実感付与又は増強剤を含有する果実風味を有する飲食品又は果実香気を有する香粧品である。
【0011】
本発明における果実とは、リンゴ、ナシ、カリン、モモ、ウメ、アンズ、サクランボ、アメリカンチェリー、スモモ、アーモンド、クリ、クルミ、ブドウ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、クランベリー、キウイフルーツ、カキ、カシス、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ライム、ユズ、スダチ、カボス、バナナ、パイナップル、パパイア、マンゴー、ココナッツ、アセロラ、グアバ、ライチ、マンゴスチン、パッションフルーツ、ビワ、オリーブ、イチゴ、メロン、スイカなどを指すが、これらに限定はされない。
【0012】
本発明における果実感とは、本物の果実が有する果肉感、果皮感、果汁感、フレッシュ感などの要素を総合的に捉えた要素のことを示す。また、本発明における果実感には、加工過程を経た果実の香味を想起させる要素も含まれる。この加工過程を経た果実の香味とは、人によってはそれが本物の果実の香味と認識していることもある缶詰の果実などの香味のことを指す。よって、果実感の付与や増強は、対象の飲食品や香粧品が有する果実風味や香気の本物らしさの向上につながる。なお、果実感の付与とは、例えば、明らかに人工的な果実風味や香気しか有していない香料に、実際に果実を使用した飲食品を想起させる印象を付与することを指す。また、果実感の増強とは、例えば、ある程度本物らしい果実風味や香気を有している飲食品や香粧品に対し、その本物らしさを底上げすることを指す。
【0013】
本発明の果実感付与又は増強剤に用いられる前述の各化合物は全て公知の方法で製造できる他、市販品を購入して使用することができる。
【0014】
本発明の果実感付与又は増強剤に用いられる前述の各化合物は単独でも使用できる他、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明の果実感付与又は増強剤は果実風味を有する飲食品や果実香気を有する香粧品に使用することで果実感を付与又は増強することができる。果実感の具体例としては、果汁の瑞々しさを想起させる要素、新鮮な果実を想起させる要素、果実の内皮を想起させる要素、果実をかじったとき、咀嚼しているとき、皮をむいたとき、切ったとき、すりおろしたとき、絞ったときなどを想起させる要素、缶詰にされた果実を想起させる要素、果肉飲料にされた果実を想起させる要素などが挙げられるが、当然これらに限定されるものではない。なお、本発明の有効成分である前述の各化合物は、それ自体の香気が果実様の香気とは異なるため、本発明の果実感付与又は増強剤のみでは果実様の風味や香気を形成しない。よって、本発明を使用する上では、本発明の果実感付与又は増強剤以外に果実風味や果実香気を有するものが共存する必要がある。
【0016】
本発明の果実感付与又は増強剤が適用される飲食品は、果実風味を有する飲食品であれば何でもよく、例えば、果実飲料、果汁入り飲料、野菜ジュース、発泡性飲料、濃縮ジュース、凍結ジュース、スポーツドリンク、栄養ドリンク、その他の機能性ドリンク、フレーバードティー、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳類などの飲料一般、ヨーグルト、ゼリー、ムース、デザート類、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、シャーベットなどの冷菓並びに氷菓、ケーキ、クッキー、ビスケット、パイ、煎餅、その他の米菓などといった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子などの菓子類、パン、スナック類、チューインガム、ハードキャンディ、ソフトキャンディー、ゼリービーンズ、グミ、錠菓などを含む糖菓一般、クリーム、果実フレーバーソース、ジャムやマーマレード、甘味料、シロップ、缶詰、冷凍食品などが挙げられ、口腔衛生製品としては、口内清涼剤、うがい剤、歯磨きなどの医薬品部外品、シロップ剤などの医薬品を挙げることができる。
【0017】
また、本発明の果実感付与又は増強剤が適用される香粧品は、果実香気を有する香粧品であれば何でもよく、例えば、香水、コロン、オードトワレ、化粧水、基礎化粧料、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント剤、整髪料、洗顔剤、身体洗浄剤、食器用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、清掃用品、芳香剤、消臭剤、線香、インセンス、皮膚外用剤、インク、匂い付き文具、玩具などを挙げることができる。
【0018】
本発明の果実感付与又は増強剤の好適な添加量は添加対象の飲食品や香粧品によって異なるため目的に応じて適宜調整すればよいが、有効成分である前述の各化合物が飲食品や香粧品に対し質量比で0.01ppt~1ppm含まれるのが好ましい。なお、化合物自体の香気が飲食品や香粧品の風味や香気に悪影響を与えないよう、0.1ppt~100ppb含まれるのがより好ましく、1ppb~100ppb含まれるのが更に好ましい。
【0019】
本発明の果実感付与又は増強剤は、使用時の利便性のため適宜溶剤などで希釈されてもよい。希釈に用いる溶剤などは香料組成物に常用されるものであれば特に制限はない。また、あらかじめ香料製剤とすることもでき、香気又は香味に悪影響のない範囲であれば、香料以外の成分として常用される他の添加物や添加剤を加えた組成物としてもよい。さらに、本発明においては香料一般に適用される製剤化技術の適用も可能であり、粉末化、カプセル化など、状況により所望の形態に調整することもできる。なお、果実感付与又は増強効果が得られるよう、いずれの形態でも、有効成分である前述の化合物を1ppt以上含有するよう調製するのが好ましい。
【0020】
本発明の果実感付与又は増強剤は、飲食品や香粧品中に均等に混合することができれば、製造工程のどの時点で添加しても構わない。
【実施例
【0021】
(アップル風味飲料ベースの調製)
グラニュー糖12質量%、クエン酸0.12質量%となるよう調製した糖酸液に、一般的な処方で調整したアップルフレーバーを0.1%添加して、アップル風味飲料ベースを調製した。
(ピーチ風味飲料ベースの調製)
グラニュー糖12質量%、クエン酸0.12質量%となるよう調製した糖酸液に、一般的な処方で調整したピーチフレーバーを0.1%添加して、ピーチ風味飲料ベースを調製した。
(バナナ風味飲料ベースの調製)
グラニュー糖10質量%、クエン酸0.05質量%となるよう調製した糖酸液に、一般的な処方で調整したバナナフレーバーを0.1%添加して、バナナ風味飲料ベースを調製した。
(レモン風味飲料ベースの調製)
レモンオイル10gに95%エタノール67.6gと水32.4gを加えて調整した溶液をマイナス3℃で18時間静置後に濾過することでレモンフレーバーを調製した。このレモンフレーバーをグラニュー糖7%、クエン酸0.12%となるよう調製した糖酸液に0.1%添加して、レモン風味飲料ベースを調製した。
(官能評価の方法)
官能評価は、前述の果実風味飲料ベースに有効成分である化合物を添加した評価用サンプルと無添加の飲料ベースを比較し、果実感が変わらないものを1点、果実感が最も強くなったものを5点とした1~5点の5段階評価とし、訓練された社内パネル4名で行った。
【0022】
(実施例1)
前述の各飲料ベースに2-メトキシトルエンを所定の濃度となるよう添加して評価用サンプルを調製し、無添加の飲料ベースと比較した官能評価を行った。結果を表1に示した。官能評価の結果、2-メトキシトルエンに果実感付与又は増強効果が認められた。
【0023】
【表1】
【0024】
(実施例2)
前述の各飲料ベースに3-メトキシトルエンを所定の濃度となるよう添加して評価用サンプルを調製し、無添加の飲料ベースと比較した官能評価を行った。結果を表2に示した。官能評価の結果、3-メトキシトルエンに果実感付与又は増強効果が認められた。
【0025】
【表2】
【0026】
(実施例3)
前述の各飲料ベースに4-メトキシトルエンを所定の濃度となるよう添加して評価用サンプルを調製し、無添加の飲料ベースと比較した官能評価を行った。結果を表3に示した。官能評価の結果、4-メトキシトルエンに果実感付与又は増強効果が認められた。
【0027】
【表3】
【0028】
(実施例4)
前述の各飲料ベースに1,5-オクタジエン-3-オンを所定の濃度となるよう添加して評価用サンプルを調製し、無添加の飲料ベースと比較した官能評価を行った。結果を表4に示した。官能評価の結果、1,5-オクタジエン-3-オンに果実感付与又は増強効果が認められた。
【0029】
【表4】