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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/22 20060101AFI20230427BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20230427BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20230427BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20230427BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C25D11/22 C
C25D11/04 302
C25D11/04 308
C25D11/16 301
C25D11/18 307
C25D11/12 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019211928
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021085039
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】武田 千広
(72)【発明者】
【氏名】長澤 大介
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3068101(JP,U)
【文献】特開2002-088498(JP,A)
【文献】米国特許第05110371(US,A)
【文献】特開2002-256493(JP,A)
【文献】特開2002-256490(JP,A)
【文献】特開昭58-177497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/02-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の表面に設けられる陽極酸化皮膜とを備え、
前記陽極酸化皮膜は、前記アルミニウム基材の表面に設けられるバリヤ層と、厚み方向に延びる複数の空孔に金属又は金属塩が析出した電解着色層と、をこの順で有し、
前記アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)が0.4~1.0μmであり、
前記バリヤ層の層厚が50~70nmであり、前記電解着色層の層厚が20~120nmであり、前記バリヤ層の層厚と前記電解着色層の層厚との和が70~190nmであり、
前記金属及び前記金属塩はNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むこと、
を特徴とするアルミニウム部材。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜の膜厚が8~15μmであること、
を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム部材。
【請求項3】
値が70~76であり、
値が0.5~2であり、
値が2~6であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項4】
光沢度が35以下であること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材。
【請求項5】
表面において互いに直交する2方向に対して測定した光沢度の差が5以内であること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材。
【請求項6】
前記アルミニウム基材がA6000系合金からなること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材。
【請求項7】
前記陽極酸化皮膜上に電着塗装膜を備えること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材。
【請求項8】
請求項1~のうちのいずれかに記載のアルミニウム部品を備えること、
を特徴とする道路附属物。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム基材に、フッ化物を含むエッチング液を用いてフッ化物エッチング処理を施し、前記アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとするフッ化物エッチング工程と、
前記アルミニウム基材の陽極酸化によって、バリヤ層、及び厚み方向に延びる複数の空孔を有する陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化工程と、
金属又は金属塩を含む電解液中で、前記アルミニウム基材に直流波形を通電して前記バリヤ層を補強し、前記バリヤ層の層厚を50~70nmとする予備電解処理工程と、
前記予備電解処理工程を施した前記アルミニウム基材に通電して前記空孔に前記金属又は前記金属塩を析出させ、層厚が20~120nmの電解着色層を形成させる電解着色工程と、を備え、
前記金属及び前記金属塩はNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むこと、
を特徴とするアルミニウム部材の製造方法。
【請求項10】
前記予備電解処理は、電流密度が10~30A/m2であり、最終到達電圧が45V以上であること、
を特徴とする請求項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項11】
前記電解着色処理は、電流密度が10~15A/m2であり、処理時間が20~120秒であること、
を特徴とする請求項又は10に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項12】
前記フッ化物エッチング工程の後に、前記アルミニウム基材にアルカリ性のエッチング液を用いたアルカリエッチング処理を施すアルカリエッチング工程を備えること、
を特徴とする請求項9~11のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項13】
前記フッ化物エッチング工程の前に、前記アルミニウム基材にアルカリ性のエッチング液を用いたアルカリエッチング処理を施すアルカリエッチング工程を備えること、
を特徴とする請求項9~12のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項14】
前記電解着色工程の後に、前記アルミニウム基材に電着塗装処理を施す電着塗装工程を備えること、
を特徴とする請求項9~13のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項15】
前記フッ化物エッチング処理では、前記エッチング液がフッ化水素アンモニウムを2質量%以上含み、処理温度が30~40℃であり、処理時間が5~30分であること、
を特徴とする請求項9~14のうちのいずれかに記載のアルミニウム部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木製品等に好適に使用することができる景観配慮色を有するアルミニウム部材及びその製造方法に関し、より具体的には、オフグレー(薄灰色)を有するアルミニウム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及びアルミニウム合金は軽量であることに加えて加工性及び耐食性等に優れ、建材、道路附属用部品、車両部品、家電製品及び家具等の多くの分野で大量に使用されている。また、各用途に適した意匠性を付与するために、必要に応じて、可溶性金属塩を含む電解液を用いてアルミニウム部材を電解処理し、これらの金属塩の電解生成物を陽極酸化皮膜の空孔中に析出させる電解着色が利用されている。
【0003】
ここで、アルミニウム部材に要求される色合いは多種多様であり、従来、電解着色を用いてアルミニウム部材を所望の外観色とする方法が検討されている。例えば、特許文献1(特開2010-229537号公報)においては、アルミニウム合金をシュウ酸電解液中にて電解し、金属表面と陽極酸化皮膜との界面が概ね均一になるように均一皮膜を形成した後に、電圧を降下させることで、前記界面に凹部形状からなる膜質調整部分を形成し、膜質の未調整部分の割合が面積比で90~10%の範囲にすることで界面の未調整部分と調整部分との反射光による干渉によりパール調の色調を得ることを特徴とする、パール調陽極酸化皮膜の形成方法、が開示されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のパール調陽極酸化皮膜の形成方法においては、シュウ酸電解液中にてアルミニウム合金に陽極酸化皮膜を形成する際に、均一皮膜を形成した後に単に電圧降下させるだけでなく、電圧降下により改質される金属表面と皮膜との界面部分の調整部分の割合を制御したことにより、パール調の深みのある皮膜を形成することができる、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2002-212788号公報)においては、ブラック~ブロンズ色に着色した陽極酸化皮膜と、当該陽極酸化皮膜上に成膜され、粒径が0.1μm以上、0.5μm未満の白色顔料を0.15wt%~0.5wt%含有し、さらに粒径が0.01μm~0.5μmの黒顔料を0.01wt%~0.3wt%含有し、さらに粒径が0.01μm~0.5μmで波長570nm~700nmに光線反射率のピークを有する顔料を0.01wt%~0.3wt%含有する茶褐色系の半透明塗料を用いて生成された茶褐色系の半透明塗膜とからなる低彩度の暖色系グレー色複合皮膜を有することを特徴とするアルミニウム材又はアルミニウム合金材、が開示されている。
【0006】
上記特許文献2に記載のアルミニウム材又はアルミニウム合金材においては、茶褐色半透明に調整された電着塗料を、ブラック~ブロンズ色に着色された陽極酸化皮膜と組み合わせることで、生産上起こり得る電解着色の着色度や色調のバラツキの影響をほとんど受けず、しかしながら電解着色の着色度を極端に変化させることで商品として色のバリエーションをもつことが可能な、低彩度の暖色系グレー色の陽極酸化塗装複合皮膜を得ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-229537号公報
【文献】特開2002-212788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
土木製品の色彩は景観に大きな影響を与えることから、景観形成に配慮した色彩が求められる。2004年に策定された「景観に配慮した防護柵の整備ガイドライン」では、良好な景観形成に配慮した道路附属物の色彩として、ダークグレー(濃灰色)、ダークブラウン(こげ茶色)、グレーベージュ(薄灰茶色)の3色が選定されていたが、2017年に策定された「景観に配慮した道路附属物等ガイドライン」では、上記の3色に加えてオフグレー(薄灰色)が追加された。
【0009】
ここで、ダークグレー、ダークブラウン及びグレーベージュの3色はマンセル表色系の10YR系の色相であったのに対して、色味をあまり感じさせない明るく自然な灰色である、オフグレーのアルミニウム部材の需要が高まっているところ、上記特許文献1の方法を含む既存の電解着色では、アルミニウム部材を良好なオフグレーとすることができない。
【0010】
また、上記特許文献2の方法ではグレー系の色合いを出すことができるが、美観に優れたオフグレーを実現することは困難であることに加え、道路附属物には極めて高い耐久性及び耐候性が要求されているところ、顔料を用いた着色は好ましくない。
【0011】
加えて、上記特許文献1及び2の方法はアルミニウム部材の素地由来の光沢感については考慮されておらず、外観に及ぼす当該光沢感の影響が大きい場合は、夜間景観においては光を反射して目立つという問題がある。更に、アルミニウム部材の製造過程で形成される表面形状(押出由来のダイライン等)が残ると、美観に劣るものとなる。
【0012】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、オフグレーの外観色を有し、素地由来の光沢感や表面形状の影響が外観に反映されない程度にまで低減された、耐久性及び耐候性に優れたアルミニウム部材及びその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、電解着色を用いてアルミニウム部材の表面をオフグレーとする方法について鋭意研究を重ねた結果、フッ化物によるフッ化物エッチング処理によりアルミニウム基材の表面の粗さを制御すると共に、電解着色の条件設定によりバリヤ層及び金属析出層の厚さを制御すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、
アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の表面に設けられる陽極酸化皮膜とを備え、
前記陽極酸化皮膜は、前記アルミニウム基材の表面に設けられるバリヤ層と、厚み方向に延びる複数の空孔に金属又は金属塩が析出した電解着色層と、をこの順で有し、
前記アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)が0.4~1.0μmであり、
前記バリヤ層の層厚が50~70nmであり、前記電解着色層の層厚が20~120nmであり、前記バリヤ層の層厚と前記電解着色層の層厚との和が70~190nmであり、
前記金属及び前記金属塩はNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むこと、
を特徴とするアルミニウム部材、を提供する。
【0015】
本発明のアルミニウム部材においては、(1)電解着色層に析出した金属又は金属塩による入射光の吸収、(2)アルミニウム基材表面、バリヤ層表面、及び電解着色層表面での反射に起因する光学的干渉作用、によって色調が決定される。ここで、光の吸収と光学的干渉作用の両方に影響するバリヤ層及び電解着色層の層厚を変化させ、これらの層厚と色調の関係を調査した結果、バリヤ層の層厚を50~70nm、電解着色層の層厚を20~120nmとすることで、オフグレーの外観色を有するアルミニウム部材が得られることが明らかとなった。
【0016】
より具体的には、オフグレー準拠色の色調は、L=71、a=0、b=4(D65光源、CR-400 測定値)、マンセル値:5Y7.0/0.5であるところ、電解着色層の層厚を20~120nmとすることで、L値をオフグレー準拠色の色調に対応する値とすることができる。しかしながら、電解着色層の層厚制御のみでは、a値及びb値をオフグレー準拠色に近づけることができない。
【0017】
これに対し、電解着色層の層厚を20~120nmとした状態で、バリヤ層の層厚を50~70nmとし、バリヤ層の層厚と前記電解着色層の層厚との和を70~190nmとすることで、a値及びb値をオフグレー準拠色に近づけることができる。通常、電解着色では淡色領域での着色を行った場合でも黄色味(b)が大きくなってしまうが、バリヤ層の厚さを一般的な値よりも増加させることで、適当な光学的干渉作用が生じ、b値を低下させてオフグレー準拠色の色調に対応する値とすることができる。ここで、b値と比較すると、a値の調整(完全に0とすること)は困難であるが、バリヤ層及び電解着色層の層厚を制御することで、a値を0.5~2の値とすることができる。これらの結果、従来の電解着色では実現できなかった良好なオフグレーの発色を得ることができる。
【0018】
加えて、アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとすることで、低光沢かつアルミニウム部材の製造過程で形成される表面形状(押出由来のダイライン等)の影響が目立たない外観を得ることができる。アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を0.4μm以上とすることで、光の散乱によってこれらの効果を確実に得ることができる。一方で、アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を1.0μmよりも大きくしてもこれらの効果の増加は認められず、寧ろ美観を損なうおそれがある。
【0019】
本発明のアルミニウム部材は、前記陽極酸化皮膜の膜厚が8~15μmであること、が好ましい。陽極酸化皮膜の膜厚を8μm以上とすることで、当該陽極酸化皮膜自体による光の干渉作用を防止し、色味が悪くなることを抑制することができる。また、陽極酸化皮膜の膜厚を15μm以下とすることで、金属又は金属塩の析出効率の低下及び着色不良を抑制することができる。
【0020】
また、本発明のアルミニウム部材は、前記金属及び前記金属塩がNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含んでいる。金属及び金属塩にNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むことで、オフグレーの外観色を得ることができるが、Niを含むことがより好ましい。ここで、良好なオフグレーを実現するためには、金属及び金属塩に含まれる金属の種類によって、バリヤ層及び電解着色層の層厚を上記数値範囲で適宜調整すればよい。
【0021】
また、本発明のアルミニウム部材は、L値が70~76であり、a値が0.5~2であり、b値が2~6であること、が好ましい。上述の通り、オフグレー準拠色の色調は、L=71、a=0、b=4であり、アルミニウム部材のL値を70~76、a値を0.5~2、b値を2~6とすることで、オフグレーの外観色を実現することができる。
【0022】
また、本発明のアルミニウム部材は、光沢度が35以下であること、が好ましい。光沢度を35以下とすることで、マットな質感が得られると共にシルバー調が低減され、よりオフグレーに近い外観色を得ることができる。
【0023】
また、本発明のアルミニウム部材は、表面において互いに直交する2方向に対して測定した光沢度の差が5以内であること、が好ましい。表面において互いに直交する2方向に対して測定した光沢度の差を5以内とすることで、質感の方向性がなくなり、均質な質感を担保することができる。例えば、押出材の場合は押出方向にダイラインが形成され、当該ダイラインに直交する方向においては、表面の凹凸が最も顕著になる。ここで、押出方向(ダイラインの方向)と当該押出方向に直交する方向に対して測定した光沢度の差が5以内であれば、アルミニウム部材の質感の均質性を確実に担保することができる。
【0024】
更に、本発明のアルミニウム部材は、前記アルミニウム基材がA6000系合金からなること、が好ましい。アルミニウム基材をA6000系合金とすることで、種々の用途(特に土木・建築用途)において十分な強度及び信頼性を担保することができる。
【0025】
また、本発明のアルミニウム部材は、前記陽極酸化皮膜上に電着塗装膜を備えること、が好ましい。電着塗装膜によって、b値を低下させることができ、L値及びa値と共に、全体としてより良好なオフグレーの色合いに調整することができる。
【0026】
また、本発明は、本発明のアルミニウム部材を備えること、を特徴とする道路附属物も提供する。道路附属物は本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の道路附属物を対象としているが、例えば、照明、標識柱、歩道橋、遮音壁及び防護柵等を挙げることができる。
【0027】
本発明の道路附属物は良好なオフグレーの外観色を有していることに加え、十分な強度及び耐候性を有していることから、景観に配慮した道路附属物として好適に用いることができる。
【0028】
更に、本発明は、
アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム基材に、フッ化物を含むエッチング液を用いてフッ化物エッチング処理を施し、前記アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとするフッ化物エッチング工程と、
前記アルミニウム基材の陽極酸化によって、バリヤ層及び厚み方向に延びる複数の空孔を有する陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化工程と、
金属又は金属塩を含む電解液中で、前記アルミニウム基材に直流波形を通電して前記バリヤ層を補強し、前記バリヤ層の層厚を50~70nmとする予備電解処理工程と、
前記予備電解処理工程を施した前記アルミニウム基材に通電して前記空孔に前記金属又は前記金属塩を析出させ、層厚が20~120nmの電解着色層を形成させる電解着色工程と、を備え、
前記金属及び前記金属塩はNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むこと、
を特徴とするアルミニウム部材の製造方法、も提供する。
【0029】
本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、フッ化物エッチング工程によってアルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとし、予備電解処理工程によってバリヤ層の層厚を50~70nmとし、電解着色工程によって金属又は前記金属塩を析出させると共に、層厚が20~120nmの電解着色層を形成させることで、オフグレーの良好な外観色を有するアルミニウム部材を得ることができる。
【0030】
本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記予備電解処理の電流密度を10~30A/m2とし、最終到達電圧を45V以上とすること、が好ましい。このような条件による予備電解処理により、バリヤ層の層厚を容易に50~70nmとすることができる。
【0031】
また、本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記電解着色処理の電流密度を10~15A/m2とし、処理時間を20~120秒とすること、が好ましい。このような条件による電解着色処理により、層厚が20~120nmの電解着色層を効率的に形成させることができる。
【0032】
また、本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記金属及び前記金属塩がNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含んでいる。金属及び金属塩にNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むことで、アルミニウム部材にオフグレーの外観色を付与することができる。
【0033】
また、本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記フッ化物エッチング工程の後に、前記アルミニウム基材にアルカリ性のエッチング液を用いたアルカリエッチング処理を施すアルカリエッチング工程を備えること、が好ましい。フッ化物エッチング工程によってアルミニウム基材の表面が粗面化されるが、粗面化(荒れ方)の状況にムラがある場合は色味が変化する可能性がある。これに対し、フッ化物エッチング工程の後のアルカリエッチング処理によって、粗面化の状況を均質化することができる。
【0034】
また、本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記フッ化物エッチング工程の前に、前記アルミニウム基材にアルカリ性のエッチング液を用いたアルカリエッチング処理を施すアルカリエッチング工程を備えること、が好ましい。フッ化物エッチング工程はアルミニウム基材の表面を粗面化することを目的としているが、アルミニウム合金の種類によっては、フッ化物エッチング工程によるエッチングのされやすさが異なる。ここで、フッ酸によってエッチングされ難いアルミニウム合金の場合、フッ化物エッチング工程の前にアルカリエッチング処理を施すことで、フッ化物エッチング工程におけるエッチングの効果を高めることができる。例えば、A6061アルミニウム合金の場合は、フッ化物エッチング工程の前にアルカリエッチング処理を施すことが好ましい。
【0035】
また、本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記電解着色工程の後に、前記アルミニウム基材に電着塗装処理を施す電着塗装工程を備えること、が好ましい。電着塗装工程によって電着塗装膜を形成させることによって、bを低下させることができ、最終的な外観色を調整し、より良好なオフグレーとすることができる。
【0036】
更に、本発明のアルミニウム部材の製造方法においては、前記フッ化物エッチング処理では、前記エッチング液がフッ化水素アンモニウムを2質量%以上含み、処理温度が30~40℃であり、処理時間が5~30分であること、が好ましい。このような条件によるフッ化物エッチング処理により、アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmに容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、オフグレーの外観色を有し、素地由来の光沢感や表面形状の影響が外観に反映されない程度にまで低減された、耐久性及び耐候性に優れたアルミニウム部材及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施形態のアルミニウム部材の概略断面図である。
図2】本実施形態の変形例であるアルミニウム部材の概略断面図である。
図3】実施アルミニウム部材1のTEM像及びSTEM像である。
図4】実施アルミニウム部材4のTEM像及びSTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら本実施形態のアルミニウム部材及びその製造方法についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0040】
[1.アルミニウム部材]
本実施形態のアルミニウム部材の概略断面図を図1に示す。アルミニウム部材1は、アルミニウム基材2と、アルミニウム基材2の表面に設けられる陽極酸化皮膜3とを備えている。陽極酸化皮膜3は、アルミニウム基材2の表面に設けられるバリヤ層4と、陽極酸化皮膜3の表面側(アルミニウム基材2と反対側)に設けられ、厚み方向に延びる複数の空孔6を有する多孔質層5とをこの順で有している。また、多孔質層5の底部(バリヤ層4側)には、空孔6に金属又は金属塩が析出した電解着色層8が形成されている。多孔質層5のうち、上部(表面側)において、空孔6に金属又は金属塩が析出していない領域を上層多孔質層7と称する。上述の通り、アルミニウム部材1は、アルミウム基材2、バリヤ層4、電解着色層8、及び上層多孔質層7をこの順で備えている。
【0041】
(1)アルミニウム基材
アルミニウム基材2はアルミニウム又はアルミニウム合金を含み、素材には従来公知の種々のアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。ここで、アルミニウム合金としてはA6000系合金を用いることが好ましい。A6000系合金としては、JIS規格に記載のA6101、A6003、A6005、A6N01、A6061、A6063、及びA6151を例示することができる。中でも、強度に優れる点からA6061が好ましく、電気伝導性に優れ表面処理がし易く、押出加工性にも優れる点からA6063が好ましい。
【0042】
アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)は0.4~1.0μmとなっており、アルミニウム部材1は低光沢かつアルミニウム部材の製造過程で形成される表面形状(押出由来のダイライン等)の影響が目立たない外観となる。アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)を0.4μm以上とすることで、光の散乱によってこれらの効果を確実に得ることができる。一方で、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)を1.0μmよりも大きくしてもこれらの効果の増加は認められず、寧ろ美観を損なうおそれがある。アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.6μm以上である。また、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。
【0043】
(2)陽極酸化皮膜
陽極酸化皮膜3は、バリヤ層4と、空孔6を有する多孔質層5とを有する酸化皮膜である。陽極酸化皮膜3の膜厚は、8~15μmであることが好ましい。陽極酸化皮膜3の膜厚を8μm以上とすることで、陽極酸化皮膜3自体による光の干渉作用を防止し、色味が悪くなることを抑制することができる。また、陽極酸化皮膜3の膜厚を15μm以下とすることで、金属又は金属塩の析出効率の低下及び着色不良を抑制することができる。陽極酸化皮膜3の膜厚は、より好ましくは9μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。また、陽極酸化皮膜3の膜厚は、より好ましくは14μm以下、さらに好ましくは13μm以下である。
【0044】
(3)バリヤ層
バリヤ層4は緻密な酸化物層であり、層厚は50~70nmとなっている。バリヤ層4の厚さは、例えば、金属又は金属塩を含む電解液中で、アルミニウム基材2に直流波形を通電する(パルス波重畳法におけるP処理)ことによって増加させることができる。なお、バリヤ層4は、陽極酸化皮膜3のポーラス領域(多孔質層5)を埋めるように成長し、例えば、通電時間を長くすると厚くなる。
【0045】
従来の一般的なバリヤ層の厚さは30~45nmであるが、バリヤ層4では50~70nmと意図的に層厚を増加させており、当該層厚を有するバリヤ層4による適当な光学的干渉作用が生じ、b値を低下させてオフグレー準拠色の色調に対応する値とすることができる。バリヤ層4の層厚は、好ましくは55nm以上、より好ましくは58nm以上である。また、バリヤ層4の層厚は、好ましくは65nm以下、より好ましくは62nm以下である。
【0046】
(4)電解着色層
電解着色層8は、陽極酸化皮膜3の空孔6に金属又は金属塩が析出した領域である。金属及び金属塩はNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。金属及び金属塩にNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgのうちの少なくとも一つを含むことで、オフグレーの外観色を得ることができるが、Niを含むことがより好ましい。
【0047】
電解着色層8の層厚は20~120nmとなっている。電解着色層8の層厚を20~120nmとした状態で、バリヤ層4の層厚を50~70nmとすることで、アルミニウム部材1の外観をオフグレー準拠色の色調(L=71、a=0、b=4)に対応する値に調整することができる。ここで、良好なオフグレーを実現するためには、金属及び金属塩に含まれる金属の種類によって、バリヤ層4及び電解着色層8の層厚を上記数値範囲で適宜調整すればよいが、金属及び金属塩にNiが含まれることで、容易に調整することができる。電解着色層8の層厚は、好ましくは30nm以上であり、より好ましくは40nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上である。また、電解着色層8の層厚は、好ましくは110nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは90nm以下である。
【0048】
バリヤ層4の層厚と電解着色層8の層厚との和は、70~190nmとなっている。バリヤ層4の層厚と電解着色層8の層厚との和は、好ましくは80nm以上、より好ましくは90nm以上、さらに好ましくは110nm以上である。また、バリヤ層4の層厚と電解着色層8の層厚との和は、好ましくは170nm以下、より好ましくは160nm以下、さらに好ましくは150μm以下である。バリヤ層4の層厚と電解着色層8の層厚が上記範囲内であると、bが低く抑えられて、オフグレー準拠色に近づけることができる傾向にある。
【0049】
(5)アルミニウム部材
アルミニウム部材1は、L値が70~76であり、a値が0.5~2であり、b値が2~6であることが好ましい。アルミニウム部材1のL値、a値、b値が上記範囲内であることにより、オフグレーの外観色を実現することができる。アルミニウム部材1のL値は、より好ましくは71以上、さらに好ましくは72以上である。また、アルミニウム部材1のL値は、より好ましくは75以下、さらに好ましくは74以下である。アルミニウム部材1のa値は、より好ましくは1以上、さらに好ましくは1.2以上である。また、アルミニウム部材1のa値は、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下である。アルミニウム部材1のb値は、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上である。また、アルミニウム部材1のb値は、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5以下である。
【0050】
また、アルミニウム部材1は、光沢度が35以下であることが好ましい。光沢度を上記範囲以下とすることで、マットな質感が得られると共にシルバー調が低減され、よりオフグレーに近い外観色を得ることができる。アルミニウム部材1の光沢度は、より好ましくは25以下、さらに好ましくは15以下、特に好ましくは10以下である。また、アルミニウム部材1の光沢度は、好ましくは0より大きく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上である。
【0051】
また、アルミニウム部材1は、表面において互いに直交する2方向に対して測定した光沢度の差が5以内であることが好ましい。表面において互いに直交する2方向に対して測定した光沢度の差を5以内とすることで、質感の方向性がなくなり、均質な質感を担保することができる。例えば、押出材の場合は押出方向にダイラインが形成され、当該ダイラインに直交する方向においては、表面の凹凸が最も顕著になる。ここで、押出方向(ダイラインの方向)と当該押出方向に直交する方向に対して測定した光沢度の差が5以内であれば、アルミニウム部材の質感の均質性を確実に担保することができる。この光沢度の差は、より好ましくは3以内、さらに好ましくは2以内、特に好ましくは1以内である。なお、アルミニウム部材1は、後述する電着塗装膜9(図2参照)を有さない状態で、上記の光沢度であることが望ましい。
【0052】
従来のアルミニウム基材上にバリヤ層と電解着色層とを設けられたアルミニウム部材では、通常、b値が6よりも大きくなり、黄色味が強い色調となっていた。これは、アルミニウム部材に入射した光によって生じる反射光の光学的干渉作用に起因すると考えられる。具体的には、アルミニウム部材に入射した光は、アルミニウム基材の表面(アルミニウム基材とバリヤ層との界面)、バリヤ層の表面(バリヤ層と電解着色層との界面)、電解着色層の表面(電解着色層と上層多孔質層との界面)において反射することで、それぞれ反射光が発生する。そして、アルミニウム部材から出射するそれぞれの反射光の間では、バリヤ層の層厚と電解着色層の層厚に応じた光路差に基づく位相差が生じる。この位相差によって、反射光に含まれる波長成分のうち、黄色領域の成分が強められることで、黄色味が強い色調となっていたと考えられる。
【0053】
本実施形態のアルミニウム部材1は、アルミニウム基材2と、バリヤ層4と、電解着色層8とを有している。さらに、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)が0.4~1.0μmであり、バリヤ層4の層厚が50~70nmであり、電解着色層8の層厚が20~120nmであり、バリヤ層4の層厚と電解着色層8の層厚との和が70~190nmとなっている。アルミニウム部材1では、電解着色層8を有することで、空孔6に析出した金属又は金属塩の作用により、電解着色を行っていないアルミニウム部材と比して、シルバー調の色味が抑えられた明度の低い落ち着いた色合いに着色されている。これにより、L値が低下したアルミニウム部材1を得ることができる。
【0054】
また、アルミニウム部材1では、バリヤ層4の層厚と電解着色層8の層厚とを所定の範囲にすることで、アルミニウム基材2の表面と、バリヤ層4の表面と、電解着色層8の表面とにおいてそれぞれ発生する各反射光の光路差によって、黄色領域の波長の光が弱められるように各反射光の間で位相差が生じるようになっている。このような反射光の光学的干渉作用によって、アルミニウム部材1では、b値が低下し、黄色味が抑えられた色調になっていると推察される。
【0055】
また、アルミニウム部材1では、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)を所定の範囲にすることで、粗面化されたアルミニウム基材2の表面への入射光が散乱を受けることになる。これにより、通常、アルミニウム部材が有するシルバー調の金属光沢が抑えられるとともに、アルミニウム部材の製造過程で形成される表面形状(押出由来のダイライン等)の影響が目立たなくなることで、光沢度が抑えられたマットな質感を有するアルミニウム部材1を得ることができる。また、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)を所定の範囲とすることで、アルミニウム部材1のL値を低下させる傾向にある。
【0056】
このようにして、アルミニウム部材1は、オフグレーの外観色を有し、素地由来の光沢感や表面形状の影響が外観に反映されない程度にまで低減されたものとなっている。また、アルミニウム部材に対して顔料を用いて着色を行った場合と比して、電解着色層8により着色されているアルミニウム部材1は、耐久性及び耐候性に優れたものとなっている。
【0057】
(6)電着塗装膜
図2に示すように、アルミニウム部材1は、陽極酸化皮膜3の表面側(アルミニウム基材2とは反対側)に、電着塗装膜9をさらに有することが好ましい。電着塗装膜9は、透明(クリアー)の電着塗装膜であることが好ましい。また、電着塗装膜9は、つや消しの電着塗装膜であることが好ましい。電着塗装膜9の膜厚は特に限定されないが、通常、5~20μmである。
【0058】
アルミニウム部材1は、電着塗装膜9を有することで、bが低下する傾向にある。また、アルミニウム部材1は、電着塗装膜9を有することで、L値が上昇する傾向にある。また、アルミニウム部材1は、電着塗装膜9を有することで、光沢度が上昇する傾向にある。このようにして、電着塗装膜9によってアルミニウム部材1の最終的な外観色を調整し、より良好なオフグレーとすることができる。また、電着塗装膜9を有することで、アルミニウム部材1の空孔6に封孔が施され、耐食性、耐汚染性を向上させることができる。
【0059】
[2.道路附属物]
本実施形態の道路附属物は、アルミニウム部材1を備えることを特徴としている。道路附属物は本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の道路附属物を対象としているが、例えば、照明、標識柱、歩道橋、遮音壁及び防護柵等を挙げることができる。特には、防護柵において、隣接する支柱の間に設けられる横張に好適に用いられる。本実施形態の道路附属物は良好なオフグレーの外観色を有していることに加え、十分な強度及び耐候性を有していることから、景観に配慮した道路附属物として好適に用いることができる。また、本実施形態の道路附属物は、光沢感が抑えられていることから、夜間景観においては光の反射を低減して、周囲の景色に溶け込んだ道路附属物として好適に用いることができる。
【0060】
また、本実施形態の道路附属物は、全体がアルミニウム部材1で構成されていてもよく、部分的にアルミニウム部材1が用いられていてもよい。また、アルミニウム部材1はそのまま使用されていてもよく、部分的に又は全体的に更なる塗装が施されていてもよい。
【0061】
[3.アルミニウム部材の製造方法]
本実施形態のアルミニウム部材1の製造方法は、アルミニウム基材2に、フッ化物を含むエッチング液を用いてフッ化物エッチング処理を施し、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとするフッ化物エッチング工程(S01)と、アルミニウム基材2の陽極酸化によって、バリヤ層4及び陽極酸化皮膜3を形成する陽極酸化工程(S02)と、金属又は金属塩を含む電解液中で、アルミニウム基材2に直流波形を通電してバリヤ層4を補強し、バリヤ層4の層厚を50~70nmとする予備電解処理工程(S03)と、アルミニウム基材2に直流パルス波形を通電して層厚が20~120nmの電解着色層8を形成させる電解着色工程(S04)と、を備えている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0062】
(1)フッ化物エッチング工程(S01)
フッ化物エッチング工程(S01)は、フッ化物を含むエッチング液によってアルミニウム基材2の表面を溶解し、表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとするための工程である。フッ化物エッチング工程(S01)に用いられるエッチング液は、フッ化物を含む水溶液であればよく、エッチング液の組成やエッチング条件は状況に応じて適宜調整すればよい。フッ化物としては、例えば、フッ化水素;フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム等のフッ化物アンモニウム塩;フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム等のフッ化物金属塩:等が挙げられる。
【0063】
中でも、エッチング液にはフッ化水素アンモニウムの水溶液を用いることが好ましい。エッチング液には、オーバーエッチングを防ぐために、硫酸アンモニウム、又はリン酸二水素アンモニウムをさらに含んでいてもよい。アルミニウム基材2をエッチング液に浸漬することで、エッチング処理を施すことができる。
【0064】
フッ化物エッチング処理に用いるエッチング液は、フッ化水素アンモニウムを2質量%以上含むことが好ましい。また、フッ化物エッチング処理では、処理温度が30~40℃であり、処理時間が5~30分であること、が好ましい。このような条件によるフッ化物エッチング処理により、アルミニウム基材2の表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmに容易に調整することができる。フッ化物エッチング処理に用いるエッチング液におけるフッ化水素アンモニウムの含有量の上限は特に限定されないが、過度のエッチングを防ぐ観点から、通常、10質量%以下である。
【0065】
アルミニウム基材2の表面がエッチング液によって溶解され難い場合は、フッ化物エッチング工程(S01)の前処理として、アルミニウム基材2にアルカリ性のエッチング液を用いたアルカリエッチング処理を施すことが好ましい。フッ化物エッチング工程(S01)はアルミニウム基材2の表面を粗面化することを目的としているが、アルミニウム合金の種類によっては、フッ化物エッチング工程(S01)によるエッチングのされやすさが異なる。ここで、フッ酸によってエッチングされ難いアルミニウム合金の場合、フッ化物エッチング工程(S01)の前にアルカリエッチング処理を施すことで、フッ化物エッチング工程におけるエッチングの効果を高めることができる。
【0066】
また、アルミニウム基材2の粗面化が均一に進行しない場合は、フッ化物エッチング工程(S01)の後処理として、陽極酸化工程(S02)の前に、アルミニウム基材2にアルカリ性のエッチング液を用いたアルカリエッチング処理を施すことが好ましい。フッ化物エッチング工程(S01)によってアルミニウム基材2の表面が粗面化されるが、粗面化(荒れ方)の状況にムラがある場合は色味が変化する可能性がある。これに対し、フッ化物エッチング工程の後のアルカリエッチング処理によって、粗面化の状況を均質化することができる。
【0067】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、アルカリエッチング処理に用いるエッチング液及びエッチング条件は特に限定されず、従来公知の種々のエッチング液及びエッチング条件を用いることができるが、例えば、40~80g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、30~70℃で数分のエッチングを施せばよい。
【0068】
(2)陽極酸化工程(S02)
陽極酸化工程(S02)は、表面粗さ(Ra)を0.4~1.0μmとしたアルミニウム基材2に対して陽極酸化処理を施し、陽極酸化皮膜3を形成するための工程である。陽極酸化工程(S02)によって、バリヤ層4と、空孔6を有する多孔質層5とを有する陽極酸化皮膜3が形成される。
【0069】
陽極酸化工程(S02)の条件は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の陽極酸化処理条件を施すことができる。例えば、電解浴として硫酸、シュウ酸、スルホン酸、クロム酸等の酸水溶液を使用し、アルミニウム基材2を陽極とし、これに直流又は交流若しくは直流に交流を重畳した電流を流すことで、アルミニウム基材2の表面にバリヤ層4及び陽極酸化皮膜3を形成させることができる。
【0070】
ここで、陽極酸化処理条件を適当に制御して、陽極酸化皮膜3の膜厚を8~15μmとすることが好ましい。陽極酸化皮膜3の膜厚を8μm以上とすることで、陽極酸化皮膜3自体による光の干渉作用を防止し、色味が悪くなることを抑制することができる。また、陽極酸化皮膜3の膜厚を15μm以下とすることで、金属又は金属塩の析出効率の低下及び着色不良を抑制することができる。
【0071】
(3)予備電解処理工程(S03)
予備電解処理工程(S03)は、アルミニウム基材2に直流波形を通電してバリヤ層4を補強し、バリヤ層4の層厚を50~70nmとするための工程である。
【0072】
陽極酸化工程(S02)における陽極酸化処理を施した状態のバリヤ層4の厚さは15~20nmであるが、電解着色工程(S04)でも用いる金属又は金属塩を含む電解液(電解着色処理浴)中で、アルミニウム基材2に直流波形を通電することで、バリヤ層の層厚を50~70nmとすることができる。
【0073】
ここで、電解着色処理浴は本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知のアルミニウム材用電解着色処理浴を用いることができる。当該電解着色処理浴に含まれる可溶性金属塩についても特に制限はないが、Ni、Co、Cu、Sn、Mn、Fe、Pb、Ca、Zn、Mgの金属の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩酸塩、クロム酸塩等の無機酸塩や、シュウ酸塩、酢酸塩等の有機酸塩等のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0074】
予備電解処理(S03)においては、電流密度及び最終電圧を規制して直流波形を通電することが好ましく、電流密度を10~30A/m2とし、最終到達電圧を45V以上とすることが好ましい。また、予備電解処理(S03)における電流密度の上限は、淡色化されたアルミニウム部材1を得る観点からは、15A/m2以下とすることが好ましい。予備電解処理(S03)における最終到達電圧は、より好ましくは50V以上、さらに好ましくは55V以上である。予備電解処理(S03)における電圧の上限は特に限定されないが、通常、安全上の観点から、60V以下である。このような条件による予備電解処理により、バリヤ層4の層厚を容易に50~70nmとすることができる。なお、予備電解処理(S03)における最終到達電圧が上記下限値を下回る場合には、バリヤ層の厚さは所望の範囲よりも低くなる。そのような従来の予備電解処理を行った場合には、バリヤ層の層厚は30~45nmに留まっていた。
【0075】
(4)電解着色工程(S04)
電解着色工程(S04)は、アルミニウム基材2に通電して、多孔質層5の空孔6に金属又は金属塩を析出させて、層厚が20~120nmの電解着色層8を形成させるための工程である。
【0076】
電解着色工程(S04)では、予備電解処理工程(S03)で用いた電解着色処理浴をそのまま用いて通電すればよい。電解着色工程(S04)では、アルミニウム基材2にカソード電流が流れるものであればよく、直流電流であっても交流電流であってもよい。また、電解着色工程(S04)では、矩形波や正弦波の連続波、若しくは矩形波や正弦波のパルス波、またはこれらに類似する波形、或いは各種波形を組み合わせた波形を使用することができる。中でも、カソード直流に矩形波状のアノードパルス波を重畳した直流パルス波形を通電する、パルス波重畳法(ユニコール法)を利用することが好ましい。ここで、電解着色の処理条件は本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の処理条件を用いることができるが、電流密度を10~15A/m2とし、処理時間を20~120秒とすることが好ましい。電解着色工程(S04)における処理時間は、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは40秒以上である。また、電解着色工程(S04)における処理時間は、より好ましくは100秒以下、さらに好ましくは80秒以下である。このような条件による電解着色処理により、層厚が20~120nmの電解着色層を効率的に形成させることができる。
【0077】
電解着色工程(S04)で直流パルス波形を通電することにより(パルス波重畳法を用いることにより)、着色均一性(つきまわり性)に優れた電解着色を実現することができる。また、陽極酸化皮膜3の空孔6に析出する金属又は金属塩によって着色されるため、耐久性及び耐候性に優れた電解着色層8を得ることができる。
【0078】
(5)電着塗装工程
本実施形態のアルミニウム部材の製造方法においては、電解着色工程(S04)の後に、アルミニウム基材2に電着塗装処理を施す電着塗装工程を備えることが好ましい。電着塗装工程で電着塗装膜9を形成させることによって、bを低下させることができ、アルミニウム部材1の最終的な外観色を調整し、より良好なオフグレーとすることができる。電着塗装は、公知の手法を利用することができ、カチオン電着塗装法によって行ってもよく、アニオン電着塗装法によって行ってもよい。電着塗装は、透明(クリアー)の電着塗装を行うことが好ましい。また、電着塗装膜9は、つや消しの電着塗装を行うことが好ましい。電着塗装は、例えば、エポキシ樹脂系塗料を用いて行うことができる。
【0079】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0080】
≪実施例1≫
供試材として、50mm×100mm×5mmの外形寸法を有するJIS H0001に示された調質記号T5で処理したJISA6063アルミニウム合金(JIS A6063-T5)板材を用いた。
【0081】
100g/Lの硫酸水溶液を用いて10分間の脱脂を行った後、水洗し、エッチング液として、40g/Lのフッ化水素アンモニウムを含む水溶液を用いてフッ化物エッチング工程(S01)を施した。処理温度は34℃とし、処理時間は7分35秒とした。
【0082】
次いで、60g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリエッチング処理を施した。処理温度は50℃とし、処理時間は2分とした。
【0083】
次いで、20%硫酸水溶液を電解浴として用い、A6063アルミニウム合金板を陽極とし、これに直流電流を流すことで、A6063アルミニウム合金板の表面にバリヤ層及び陽極酸化皮膜を形成させた(S02)。処理条件は、電流密度:100A/m2、処理温度:20℃、処理時間:1470秒とした。陽極酸化後のA6063アルミニウム合金板を、硫酸によりpH1~2、pH3~4、pH5~7にそれぞれ調整した水溶液に順に浸漬することで水洗を行った。
【0084】
次いで、15%硫酸ニッケル六水和物を含む電解着色処理浴を用い、電流密度を14A/m2、処理温度を30℃、最終電圧を45Vとして予備電解処理工程(S03)を施した。
【0085】
次いで、同じ電解着色処理浴を用いて、処理温度を30℃、電流密度を14A/m2として直流パルス波形を通電し、40秒間の電解着色工程(S04)を施し、実施アルミニウム部材1を得た。
【0086】
≪実施例2≫
フッ化物エッチング工程(S01)の処理時間を5分とした以外は実施例1と同様にして、実施アルミニウム部材2を得た。
【0087】
≪実施例3≫
フッ化物エッチング工程(S01)の処理時間を15分とした以外は実施例1と同様にして、実施アルミニウム部材3を得た。
【0088】
≪実施例4≫
供試材として、50mm×100mm×5mmの外形寸法を有するJISH0001に示された調質記号T6で処理したJIS A6061アルミニウム合金(JIS A6061-T6)板材を用いた。
【0089】
100g/Lの硫酸水溶液を用いて10分間の脱脂を行った後、水洗し、フッ化物エッチング工程(S01)の前処理として、60g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリエッチング処理を施した。処理温度は40℃とし、処理時間は5分とした。アルカリエッチング処理後、200g/Lの硫酸水溶液を用いて10分間のデスマットを行った。
【0090】
次いで、エッチング液として、40g/Lのフッ化水素アンモニウムを含む水溶液を用いてフッ化物エッチング工程(S01)を施した。処理温度は34℃とし、処理時間は7分35秒とした。
【0091】
次いで、60g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリエッチング処理を施した。処理温度は40℃とし、処理時間は2分とした。
【0092】
次いで、20%硫酸水溶液を電解浴として用い、A6061アルミニウム合金板を陽極とし、これに直流電流を流すことで、A6061アルミニウム合金板の表面にバリヤ層及び陽極酸化皮膜を形成させた(S02)。処理条件は、電流密度:120A/m2、処理温度:20℃、処理時間:1470秒とした。また、陽極酸化後のA6061アルミニウム合金板の水洗を行った。
【0093】
次いで、15%硫酸ニッケル六水和物を含む電解着色処理浴を用い、電流密度を14A/m2、処理温度を30℃、最終電圧を50Vとして予備電解処理工程(S03)を施した。
【0094】
次いで、同じ電解着色処理浴を用いて、処理温度を30℃、電流密度を14A/m2として直流パルス波形を通電し、20秒間の電解着色工程(S04)を施し、実施アルミニウム部材4を得た。
【0095】
≪比較例1≫
フッ化物エッチング工程(S01)を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較アルミニウム部材1を得た。
【0096】
≪比較例2≫
予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較アルミニウム部材2を得た。
【0097】
≪比較例3≫
予備電解処理工程(S03)において、最終電圧を40Vとした以外は実施例1と同様にして、比較アルミニウム部材3を得た。
【0098】
≪比較例4≫
フッ化物エッチング工程(S01)、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較アルミニウム部材4を得た。
【0099】
≪比較例5≫
フッ化物エッチング工程(S01)の処理時間を2分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較アルミニウム部材5を得た。
【0100】
≪比較例6≫
フッ化物エッチング工程(S01)の前処理としてアルカリエッチング処理を施さなかったこと以外は実施例4と同様にして、比較アルミニウム部材6を得た。
【0101】
≪比較例7≫
フッ化物エッチング工程(S01)を施さなかったこと以外は実施例4と同様にして、比較アルミニウム部材7を得た。
【0102】
≪比較例8≫
予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなかったこと以外は実施例4と同様にして、比較アルミニウム部材8を得た。
【0103】
≪比較例9≫
予備電解処理工程(S03)において、最終電圧を40Vとした以外は実施例4と同様にして、比較アルミニウム部材9を得た。
【0104】
≪比較例10≫
フッ化物エッチング工程(S01)、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなかったこと以外は実施例4と同様にして、比較アルミニウム部材10を得た。
【0105】
[評価]
1.色調
実施アルミニウム部材1~4、比較アルミニウム部材1~10について、色調を測定した(コニカミノルタ社製、D65光源、CR-400)。得られたL値、a値、b値を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示さているとおり、実施アルミニウム部材1~4については、L値が70~76、a値が0.5~2、b値が2~6の範囲となっている。これに対し、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施していない比較アルミニウム部材2~4、8~10ではこれらの数値範囲を満たすことができていない。当該結果より、オフグレーの外観色を実現するためには、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)によるバリヤ層及び電解着色層の層厚制御が極めて重要であることが分かる。中でも、予備電解処理工程(S03)を施さずに、電解着色工程(S04)を施した比較アルミニウム部材3では、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなった比較アルミニウム部材2と比して、電解着色によりL値が低下するものの、b値が上昇していることが分かる。さらに、実施アルミニウム部材1では、比較アルミニウム部材3と比してb値が低下していることから、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施すことで、L値を低下させるとともに、b値を低下させることができていることが分かる。比較アルミニウム部材9と、比較アルミニウム部材8と、実施アルミニウム部材4との対比からも同様に、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施すことで、L値を低下させるとともに、b値を低下させることができていることが分かる。
【0108】
2.光沢度
実施アルミニウム部材1~4、比較アルミニウム部材1~10について、最終状態における光沢度及び陽極酸化処理(S02)後の光沢度をそれぞれ測定した。光沢度の測定は、ハンディ光沢計(スガ試験機社製、Gloss Mobile GM-I)を用いて、入射角60度において測定を行った。得られた結果を表2に示す。ここで、表2中のLはアルミニウム合金板材の押出方向に関する光沢度、Ltは当該押出方向に直交する方向に関する光沢度である。
【0109】
【表2】
【0110】
表2に示さているとおり、実施アルミニウム部材1~4については、光沢度が35以下となっており、アルミニウム部材の素地由来の光沢感が抑制され、マットな質感が実現されていることが分かる。一方で、フッ化物エッチング工程(S01)を施していない比較アルミニウム部材1,4,10については、光沢度が35よりも大きくなっている。また、実施アルミニウム部材1~4については、LとLtの差が5以内となっている。中でも、フッ化物エッチング工程(S01)を施さなかった比較アルミニウム部材1では、アルミニウム部材のダイラインに起因して、押出方向と直交する方向との光沢度の差が大きく開いているのに対して、実施アルミニウム部材1では、フッ化物エッチング工程(S01)を施すことで、光沢度の差が小さくなり、質感の均質性が増していることが分かる。比較アルミニウム部材7と、実施アルミニウム部材4との対比からも同様に、フッ化物エッチング工程(S01)を施すことで、光沢度の差が小さくなり、質感の均質性が増していることが分かる。
【0111】
3.表面粗さ(Ra)
実施アルミニウム部材1~4、比較アルミニウム部材1~10について、フッ化物エッチング工程(S01)後の表面粗さ及び/又はフッ化物エッチング工程(S01)とアルカリエッチング処理を施した後の表面粗さを測定した。表面粗さ(Ra)の測定は、白色光干渉顕微鏡(ブルカー社製、GT-I)を用いて、非接触法により行った。得られた結果を表3に示す。ここで、表3中のL方向はアルミニウム合金板材の押出方向、Ltは当該押出方向に直交する方向であり、数値の単位はμmである。
【0112】
【表3】
【0113】
実施アルミニウム部材1~4については、陽極酸化工程(S02)前のアルミニウム基材の表面粗さが0.4~1.0μmの範囲となっている。これに対し、A6063アルミニウム合金板の場合は、フッ化物エッチング工程(S01)を施していない比較アルミニウム部材1,4、及びフッ化物エッチング工程(S01)の処理時間が短い比較アルミニウム部材5について、アルミニウム基材の表面粗さが0.4μmよりも小さくなっている。また、A6061アルミニウム合金板の場合は、アルミニウム基材の表面粗さを0.4~1.0μmの範囲とするためには、フッ化物エッチング工程(S01)とアルカリエッチング処理を適当に組み合わせる必要があることが分かる。
【0114】
4.質感及び美観
実施アルミニウム部材1~4、比較アルミニウム部材1~10について、目視にて外観を観察し、質感及び美観を評価した。質感は、アルミニウム部材の製造工程に起因するダイラインの有無を評価した。ダイラインが視認できる場合は質感を×、ダイラインが視認できないマットな表面となっている場合は質感を○とした。また、美観は、質感に加えて、アルミニウム部材の色味を含めた外観を評価したものである。ダイラインが視認できる場合は美観を×、ダイラインが視認できないマットな表面となっているものの、アルミニウム基材に特有のシルバー調の外観、またはやや黄色味を帯びた外観が認められた場合は美観を○、ダイラインが視認できないマットな表面となっており、オフグレー色の外観が認められた場合は美観を◎とした。得られた結果を表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
実施アルミニウム部材1~4については、質感及び美観が共に良好な外観が得られている。特に、実施アルミニウム部材1~4ではダイラインが視認できないマットな質感であり、極めて良好なオフグレーの外観となっていた。これに対して、フッ化物エッチング工程(S01)を施さなかった、又はフッ化物エッチング工程(S01)の処理時間が短かった比較アルミニウム部材1,4,5,7,10ではダイラインが視認でき、質感が劣っていた。また、フッ化物エッチング工程(S01)の前処理としてアルカリエッチング処理を施さなかった比較アルミニウム部材6ではダイラインが視認でき、質感が劣っていた。また、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなかった比較アルミニウム部材2では、シルバー調の外観となっていた。また、フッ化物エッチング工程(S01)と電解着色工程(S04)を施したが、予備電解処理工程(S03)において、所望の層厚のバリヤ層を得ることのできる最終電圧よりも低い条件で行った比較アルミニウム部材3,9では、マットな質感であるが、黄色味を帯びた外観となっていた。また、フッ化物エッチング工程(S01)を施したが、予備電解処理工程(S03)及び電解着色工程(S04)を施さなかった比較アルミニウム部材8では、マットな質感であるが、シルバー調の外観となっていた。
【0117】
5.バリヤ層及び電解着色層の層厚測定
TEM及びSTEM(日本エフイー・アイ(サーモフィッシャーサイエンティフィック))社製、Tecnai G2)、並びにFIB(日立ハイテクノロジーズ製社製、MI4050)を用いて、実施アルミニウム部材1及び実施アルミニウム部材4のバリヤ層及び電解着色層を観察した。TEM観察条件は加速電圧を200kV、STEM観察条件は加速電圧を200kVとした。実施アルミニウム部材1のTEM像及びSTEM像を図3に示す。また、実施アルミニウム部材4のTEM像及びSTEM像を図4に示す。
【0118】
図3に示すように、実施アルミニウム部材1におけるバリヤ層の層厚は55nm、電解着色層(Ni析出層)の層厚は94nmとなっている。また、図4に示すように、実施アルミニウム部材4におけるバリヤ層の層厚は58nm、電解着色層(Ni析出層)の層厚は27nmとなっている。これらの結果から、実施アルミニウム部材1及び4では、バリヤ層の層厚が50~70nmの範囲となっており、電解着色層の層厚が20~120nmの範囲となっていることが分かる。
【符号の説明】
【0119】
1・・・アルミニウム部材、
2・・・アルミニウム基材、
3・・・陽極酸化皮膜、
4・・・バリヤ層、
5・・・多孔質層、
6・・・空孔、
7・・・上層多孔質層、
8・・・電解着色層、
9・・・電着塗装膜。
図1
図2
図3
図4