(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】珪素含有層形成組成物およびそれを用いたパターン付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/11 20060101AFI20230427BHJP
G03F 7/26 20060101ALI20230427BHJP
C08G 77/24 20060101ALI20230427BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
G03F7/11 503
G03F7/11 502
G03F7/26 511
C08G77/24
G03F7/20 521
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2020503444
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006430
(87)【国際公開番号】W WO2019167771
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018035469
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中辻 惇也
(72)【発明者】
【氏名】山中 一広
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129908(JP,A)
【文献】特開2012-208350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/11
G03F 7/26
C08G 77/24
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される多層膜において、中間層として珪素含有層を形成するための、式(1)で表される構造単位を含むポリシロキサン化合物(A)と、溶剤(B)を含む、珪素含有層形成組成物
であって、
露光により酸を発生する光酸発生剤を含まず、かつ、露光によりインデンカルボン酸を形成するキノンジアジド化合物を含まない、珪素含有層形成組成物。
[(R
1)
bR
2
mSiO
n/2] (1)
[式中、R
1は下式で表される基である。
【化19】
(aは1~5の整数である。波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、bは1~3の整数、mは0~2の整数、nは1~3の整数であり、b+m+n=4である。]
【請求項2】
aが1または2である、請求項1に記載の珪素含有層形成組成物。
【請求項3】
R
1が下記のいずれかである、請求項1または請求項2に記載の珪素含有層形成組成物 。
【化20】
(波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【請求項4】
bが1である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の珪素含有層形成組成物。
【請求項5】
nが1~3である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の珪素含有層形成組成物。
【請求項6】
ポリシロキサン化合物(A)が、さらに、式(2)で表される構造単位を含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の珪素含有層形成組成物。
[Si(R
4)
pO
q/2] (2)
[式中、R
4は互いに独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、pは0~3の整数、qは1~4の整数であり、p+q=4である。]
【請求項7】
基板上に有機層と、有機層上の請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の珪素含有層形成組成物の硬化物を用いた珪素含有中間層と、該珪素含有中間層上の表面のレジスト層からなる3層膜を有する基板。
【請求項8】
基板上に有機層と、有機層上の式(1)で表される構造単位を含むポリシロキサン化合物(A)と溶剤(B)を含む珪素含有層形成組成物の硬化物を用いた珪素含有中間層と、該珪素含有中間層上の表面のレジスト層からなる3層膜を有する基板に対して、フォトマスクを介しレジスト層を高エネルギー線で露光後、レジスト層を塩基水溶液で現像してパターンを得る第1の工程と、
レジスト層のパターンを介して、珪素含有中間層のドライエッチングを行い珪素含有中間層にパターンを得る第2の工程と、
珪素含有中間層のパターンを介して、有機層のドライエッチングを行い有機層にパターンを得る第3の工程と、
有機層のパターンを介して、基板のドライエッチングを行い基板にパターンを得る第4の工程と、を含む、パターン付き基板の製造方法。
[(R
1
)
b
R
2
m
SiO
n/2
] (1)
[式中、R
1
は下式で表される基である。
【化19】
(aは1~5の整数である。波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
R
2
はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、bは1~3の整数、mは0~2の整数、nは1~3の整数であり、b+m+n=4である。]
【請求項9】
第2の工程において、フッ素系ガスにより珪素含有中間層のドライエッチングを行い、
第3の工程において、酸素系ガスにより有機層のドライエッチングを行い、
第4の工程において、フッ素系ガスまたは塩素系ガスにより基板のドライエッチングを行う、請求項8に記載のパターン付き基板の製造方法。
【請求項10】
高エネルギー線が、波長10nm以上、400nm以下の紫外線である、請求項8に記載のパターン付き基板の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程の微細加工に用いられる多層レジスト法における多層膜の中間層に用いることのできる珪素含有層形成組成物およびそれを用いたパターン付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(Large Scale Integration)の高集積化およびパターンの微細化が進んでいる。LSIの高集積化およびパターンの微細化は、リソグラフィにおける光源の短波長化およびそれに対応したレジストの開発によって進んできた。通常、LSI製造において、リソグラフィに従い、基板上に露光現像し形成したレジストパターンを介して、基板を塩素系ガスまたはフッ素系ガスを用いドライエッチングしパターンを転写することで、パターン形成基板が製造される。この際、レジストには、これらガスに対しエッチング耐性を有する化学構造の樹脂が用いられる。
【0003】
このようなレジストには、高エネルギー線の照射により、露光部が可溶化するポジ型レジスト、露光部が不溶化するネガ型レジストがあり、そのいずれかが用いられる。その際、高エネルギー線としては、高圧水銀灯が発するg線(波長463nm)、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザーが発振する波長248nmもしくはArFエキシマレーザーが発振する波長193nmの紫外線、または極端紫外光(以下、EUVと呼ぶことがある)等が用いられる。
【0004】
半導体製造工程においては、基板上に形成したレジストパターンを介して基板をドライエッチングする際に、レジストの厚みによりエッチング時間等のエッチング条件を調製している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の様に、レジストパターンのパターン幅が細くアスペクト比が大きいと、リソグラフィにおいて、アルカリ現像液を用いた現像工程、その後の水洗乾燥工程でパターンが崩壊することがある。また、エッチング時間が長くなると、パターンが崩壊することがある。また、レジストのエッチング耐性を挙げることには限りがある。
【0006】
特許文献1には、パターン崩壊を解決する方法として、多層レジスト法が記載される。多層レジスト法においては、上層をレジスト層としその下側に中間層および下層を有する多層膜を基板上に形成し、露光、現像およびドライエッチングにより基板にパターンを形成する。多層レジスト法は、パターンマスクを介してレジストからなる上層(以下、レジスト層と呼ぶことがある)を露光後、アルカリ水溶液にて現像しレジストパターンを形成した後、レジストパターンを介して露出した中間層をドライエッチングし中間層にパターンを得、さらに中間層のパターンを介して露出した樹脂からなる下層(以下、有機層と呼ぶことがある)をドライエッチングし有機層にパターンを得、さらに有機層のパターンを介して露出した基板をドライエッチングし、最終的に基板にパターンを形成する多段階の方法である。中間層は複数の層であってよく、各々の層を個別にドライエッチングしてもよい。
【0007】
特許文献2~3においては、このような多層レジスト法の中間層として珪素含有層を使用することが記載される。特許文献2においては珪素含有層としてSiO2を使用することが開示され、特許文献3においては珪素含有層にSiONを使用することが開示される。さらに、特許文献2~3の実施例においては、これら珪素含有層を使用し基板にパターンを形成する際はリソグラフィに従い、露光現像して得たレジスト層のパターンを介してフッ素系ガスのプラズマで珪素含有層をドライエッチングして珪素含有中間層にパターンを得、次いで、珪素含有層のパターンを介して酸素系ガスのプラズマで下層のノボラック樹脂層(有機層)をドライエッチングして、ノボラック樹脂層にパターンを得たことが記載される。
【0008】
中間層または下層をドライエッチングする際に微細なパターンを得るために、珪素含有中間層にはフッ素系ガスのプラズマに対してはエッチング速度が速く、酸素系ガスのプラズマに対してはエッチング速度が遅いことが求められる。なお、本明細書において、フッ素系ガスと酸素系ガスのエッチング速度比のことをエッチング選択性と呼び、速度比が大きいことをエッチング選択性に優れるという。
【0009】
特許文献1には、多層レジスト法において珪素含有中間層として用いる、フッ素系ガスのプラズマに対してはエッチング速度が速く、酸素系ガスのプラズマに対してはエッチング速度が遅く、エッチング選択性に優れた熱硬化性ケイ素含有膜形成用組成物が開示されている。
【0010】
特許文献3には、多層レジスト法を用いたリソグラフィにより、レジスト層にパターンを形成する場合、露光時の入射光と、本入射光が中間層、有機層または基板で反射した反射光が干渉し定在波を生じ、レジストパターンにラフネス(凹凸)が発生する問題が記載されている。
【0011】
中間層に反射防止機能を備えることができれば、定在波が生じることなく、ラフネスのない微細なレジストパターンを得ることができる。反射防止機能を持ちながらも、レジスト層とのエッチング速度が異なり、フッ素ガスに対するエッチング速度が速い中間層が求められている。
【0012】
特許文献4には、多層レジスト法に用いる反射防止機能を備える中間層として、光吸収性のある芳香族構造を含有した珪素含有中間層が開示されている。
【0013】
また、特許文献5には、アルカリ現像液に可溶且つ優れた耐熱性を有するヘキサフルオロイソプロパノール基[2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル基](-C(CF3)2OH、以下、HFIP基と呼ぶことがある)含有ポリシロキサン高分子化合物、およびその前駆体としてのHFIP基含有珪素化合物が開示されている。
【0014】
また、特許文献6には、ポジ型感光性樹脂組成物として、分子内に以下の構造を有するポリシロキサン化合物と、光酸発生剤もしくはキノンジアジド化合物と、溶剤とを少なくとも含むポジ型感光性樹脂組成物が開示されており、本ポジ型感光性樹脂組成物を用い形成された膜は耐熱性と耐熱透明性を有することが記載されている。
【化1】
(Xはそれぞれ独立に、水素原子または酸不安定性基であり、aは1~5の整数である。波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2012-53253号公報
【文献】特開平7-183194号公報
【文献】特開平7-181688号公報
【文献】特開2005-15779号公報
【文献】特開2014-156461号公報
【文献】特開2015-129908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。
【0017】
本発明は、多層レジスト法を用いるリソグラフィにおいて、上層レジスト層にレジストパターンを形成した後のドライエッチングでは、フッ素系ガスのプラズマに対してエッチング速度が速く、酸素系ガスのプラズマに対してエッチング速度が遅く、優れたエッチング選択性を有する珪素含有層を形成するための珪素含有層形成組成物を提供することを目的とする。
【0018】
さらに、本発明は、多層レジスト法を用いるリソグラフィにおいて、上層レジスト層に微細なパターン形成を行うために有用な反射防止機能を有する珪素含有層を中間層として形成するための、珪素含有層形成組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
多層レジスト法において、中間層に用いる珪素化合物に芳香族構造を導入することで中間層に反射防止機能を付与することができる(特許文献4)。しかしながら、本発明者が芳香族環を有する珪素化合物を含む珪素含有層形成組成物を調製し、基板上に膜を形成し確認したところ、所望の速度より、フッ素系ガスのプラズマによるエッチング速度が遅く、多層レジスト法の中間層として酸素系ガスのプラズマによるエッチング速度との優れたエッチング選択性が得られなかった([実施例]の表1における比較例1参照)。
【0020】
本発明者らが鋭意検討したところ、さらにHFIP基を導入した芳香族環を有するポリシロキサン化合物を含む珪素含有層形成組成物を調製し、基板上に膜を形成し確認したところ、意外なことに、芳香環にHFIP基を導入していないポリシロキサン化合物を用いた場合に比べ、フッ素系ガスのプラズマによるエッチング速度が速く、酸素系ガスのプラズマによるエッチング速度は同等で、多層レジスト法の中間層としての優れたエッチング選択性が得られた([実施例]の表1における実施例1~3、比較例1参照)。尚、本発明において、シロキサン結合を含む高分子化合物をポリシロキサン化合物と呼ぶ。
【0021】
本発明は、以下の発明1~10を含む。
【0022】
[発明1]
基板上に形成される多層膜において、中間層として珪素含有層を形成するための、式(1)で表される構造単位を含むポリシロキサン化合物(A)と、溶剤(B)を含む、珪素含有層形成組成物。
[(R
1)
bR
2
mSiO
n/2] (1)
[式中、R
1は下式で表される基である。
【化2】
(aは1~5の整数である。波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、bは1~3の整数、mは0~2の整数、nは1~3の整数であり、b+m+n=4である。]
【0023】
[発明2]
aが1または2である、発明1の珪素含有層形成組成物。
【0024】
[発明3]
R
1が下記のいずれかである、発明1または発明2の珪素含有層形成組成物。
【化3】
(波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【0025】
[発明4]
bが1である、発明1~3の珪素含有層形成組成物。
【0026】
[発明5]
nが1~3である、発明1~4の珪素含有層形成組成物。
【0027】
[発明6]
ポリシロキサン化合物(A)が、さらに、式(2)で表される構造単位を含む、発明1~5の珪素含有層形成組成物。
[Si(R4)pOq/2] (2)
[式中、R4は互いに独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、pは0~3の整数、qは1~4の整数であり、p+q=4である。]
【0028】
[発明7]
基板上に有機層と、有機層上の発明1~6の珪素含有層形成組成物の硬化物を用いた珪素含有中間層と、該珪素含有中間層上のレジスト層からなる3層膜を有する基板。
【0029】
[発明8]
発明7の基板に対して、フォトマスクを介しレジスト層を高エネルギー線で露光後、レジスト層を塩基水溶液で現像してパターンを得る第1の工程と、
レジスト層のパターンを介して、珪素含有中間層のドライエッチングを行い珪素含有中間層にパターンを得る第2の工程と、
珪素含有中間層のパターンを介して、有機層のドライエッチングを行い有機層にパターンを得る第3の工程と、
有機層のパターンを介して、基板のドライエッチングを行い基板にパターンを得る第4の工程と、を含む、パターン付き基板の製造方法。
【0030】
[発明9]
第2の工程において、フッ素系ガスにより珪素含有中間層のドライエッチングを行い、
第3の工程において、酸素系ガスにより有機層のドライエッチングを行い、
第4の工程において、フッ素系ガスまたは塩素系ガスにより基板のドライエッチングを行う、発明8のパターン付き基板の製造方法。
【0031】
[発明10]
高エネルギー線が、波長10nm以上、400nm以下の紫外線である、発明8のパターン付き基板の形成方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の珪素含有層形成組成物は、HFIP基を導入した芳香族環を持つポリシロキサン化合物を含むことにより、多層レジスト法におけるドライエッチングにおいて、フッ素系ガスのプラズマに対してはエッチング速度が速く、酸素系ガスのプラズマに対してエッチング速度が遅く、優れたエッチング選択性を有する珪素含有中間層を形成することができる。
【0033】
さらに、本発明の珪素含有層形成組成物が含むポリシロキサン化合物は構造中に芳香環を含むので、多層レジスト法を用いたリソグラフィにおいて、上層レジスト層に微細なパターン形成を行うための反射防止機能を有する珪素含有中間層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明における珪素含有層形成組成物、および当該組成物を用いたパターン付き基板の製造方法について詳細に説明する。
【0035】
1.珪素含有層形成組成物
本発明の珪素含有層形成組成物は、式(1)で表される構造単位(以下、構造単位(1)と呼ぶことがある)を含むポリシロキサン化合物(A)と、溶剤(B)を含む。
[(R
1)
bR
2
mSiO
n/2] (1)
[式中、R
1は下式で表される基である。
【化4】
(aは1~5の整数である。波線は交差する線分が結合手であることを示す。本明細書において同じ。)
R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、bは1~3の整数、mは0~2の整数、nは1~3の整数であり、b+m+n=4である。]
【0036】
[ポリシロキサン化合物(A)]
上記式(1)で表されるポリシロキサン化合物(A)において、R
1は下記のいずれかの基であるのが好ましい。
【化5】
(波線は交差する線分が結合手であることを示す。)
【0037】
ポリシロキサン化合物(A)は、以下に示す、式(3)で表されるHFIP基含有芳香族アルコキシシラン類(以下、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)と呼ぶことがある)、または式(4)で表されるHFIP基含有芳香族ハロシラン類(以下、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)と呼ぶことがある)あるいはこれらの混合物を加水分解重縮合することにより得られる。
【化6】
(式中、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、aは1~5の整数、bは1~3の整数、mは0~2の整数、sは1~3の整数、rは1~3の整数であり、b+m+s=4またはb+m+r=4である。)
【0038】
1-1.HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)の合成
最初に、芳香族ハロシラン(5)を原料とし、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)を合成する工程について説明する。反応容器内に芳香族ハロシラン(5)およびルイス酸触媒を採取、混合し、ヘキサフルオロアセトンを導入して反応を行い、反応物を蒸留精製することでHFIP基含有芳香族ハロシラン(4)を得ることができる。
【化7】
(式中、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、aは1~5の整数、bは1~3の整数、mは0~2の整数、sは1~3の整数であり、b+m+s=4である。)
【0039】
[芳香族ハロシラン(5)]
原料として用いられる芳香族ハロシラン(5)は、フェニル基、およびハロゲン原子が珪素原子に直接結合した構造を有する。
【0040】
芳香族ハロシラン(5)は珪素原子に直接結合した基、R2を有していてもよく、R2としては、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上3以下のフルオロアルキル基を挙げることができる。このような基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、1,1,1-トリフルオロプロピル基、パーフルオロヘキシル基またはパーフルオロオクチル基を例示することができる。その中でも、入手のしやすさから、置換基R2としてはメチル基が好ましい。
【0041】
芳香族ハロシラン(5)中のハロゲン原子Xとしてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が上げられるが、入手のし易さおよび化合物の安定性から、Xは塩素原子であることが好ましい。
【0042】
芳香族ハロシラン(5)として、好ましくは以下のハロシランを例示することができる。
【化8】
【0043】
[ルイス酸触媒]
本反応に用いるルイス酸触媒は特に限定はなく、例えば、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、塩化スズ(II)、四塩化チタン、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、フッ化アンチモン、ゼオライト類または複合酸化物が挙げられる。その中でも塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、三フッ化ホウ素が好ましく、さらに本反応での反応性が高いことから、塩化アルミニウムが特に好ましい。ルイス酸触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、式(5)で表される芳香族ハロシラン1モルに対して、0.01モル以上、1.0モル以下である。
【0044】
[有機溶剤]
本反応では原料の芳香族ハロシラン(5)が液体の場合は、特に有機溶媒を使用せずに反応を行うことができる。しかしながら、芳香族ハロシラン(5)が固体の場合または反応性が高い場合は、有機溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、芳香族ハロシラン(5)が溶解し、ルイス酸触媒およびヘキサフルオロアセトンと反応しない溶媒であれば特に制限はなく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、アセトニトリル、ニトロメタン、クロロベンゼンまたはニトロベンゼンを例示することができる。これらの溶媒は単独で、または混合して用いてもよい。
【0045】
[ヘキサフルオロアセトン]
本反応に用いるヘキサフルオロアセトンについては、ヘキサフルオロアセトン、またはヘキサフルオロアセトン3水和物等の水和物が挙げられるが、反応の際に水分が混入すると収率が低下することから、ヘキサフルオロアセトンをガスとして使用することが好ましい。使用するヘキサフルオロアセトンの量は、芳香環に導入するHFIP基の数にもよるが、原料の芳香族ハロシラン(5)中に含まれるフェニル基1モルに対して、1モル当量以上、6モル当量以下が好ましい。また、フェニル基中にHFIP基を3個以上導入しようとする場合、過剰のヘキサフルオロアセトン、多量の触媒、長い反応時間を必要とするため、使用するヘキサフルオロアセトンの量は原料の芳香族ハロシラン(5)中に含まれるフェニル基1モルに対して、2.5モル当量以下にし、フェニル基へのHFIP基導入数を2個以下に抑えることがより好ましい。
【0046】
[反応条件]
本発明のHFIP基含有芳香族ハロシラン(4)を合成する際は、ヘキサフルオロアセトンの沸点が-28℃であるので、ヘキサフルオロアセトンを反応系内に留めるために、冷却装置または密封反応器を使用することが好ましく、特に密封反応器を使用することが好ましい。密封反応器(オートクレーブ)を使用して反応を行う場合は、最初に芳香族ハロシラン(5)とルイス酸触媒を密封反応器内に入れ、次いで、密封反応器内の圧力が0.5MPaを越えないようにヘキサフルオロアセトンのガスを導入することが好ましい。
【0047】
本反応における最適な反応温度は、使用する原料の芳香族ハロシラン(5)の種類によって大きく異なるが、-20℃以上、80℃以下の範囲で行なうことが好ましい。また、芳香環上の電子密度が大きく、求電子性が高い原料ほど、より低温で反応を行なうことが好ましい。可能な限り低温で反応を行なうことで、反応時のPh-Si結合の開裂を抑制することができ、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)の収率が向上する。
【0048】
反応時間に特別な制限はないが、HFIP基の導入量、温度または用いる触媒の量等により適宜選択される。具体的には、反応を十分進行させる点で、ヘキサフルオロアセトン導入後、1時間以上、24時間以下が好ましい。
【0049】
ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、原料が十分消費されたことを確認した後、反応を終了することが好ましい。反応終了後、濾過、抽出、蒸留等の手段により、ルイス酸触媒を除去することで、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)を得ることができる。
【0050】
1-2.HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)
HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)は、HFIP基および珪素原子が芳香環に直接結合した構造を有する。
【0051】
HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)はHFIP基の置換数や置換位置が異なる異性体を複数有する混合物として得られる。HFIP基の置換数や置換位置が異なる異性体の種類およびその存在比は原料の芳香族ハロシラン(5)の構造や反応させたヘキサフルオロアセトンの当量により異なるが、主な異性体として以下のいずれかの部分構造を有する。
【化9】
【0052】
1-3.HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)の合成
次いで、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)を原料とし、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)を得る工程について説明する。具体的には、反応容器内にHFIP基含有芳香族ハロシラン(4)およびアルコール(以下の反応式に記載のR
3OHを指す)を採取、混合し、クロロシランをアルコキシシランに変換する以下の反応を行い、反応物を蒸留精製することでHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)を得ることができる。
【化10】
(式中、R
2、R
3、X、a、b、m、s、rは前述のとおりであり、b+m+s=4またはb+m+r=4である。)
【0053】
原料であるHFIP基含有芳香族ハロシラン(4)は、異性体混合物に精密蒸留等を行ない分離した各種異性体、または分離をせずに異性体混合物をそのままを使用することができる。
【0054】
[アルコール]
アルコールは目的とするアルコキシシランによって、適宜選択される。R3としては、炭素数1~4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよい。具体的には。メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-フルオロエタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、3-フルオロプロパノール、3,3-ジフルオロプロパノール、3,3,3-トリフルオロプロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノールまたは1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールを例示することができる。特に好ましくは、メタノールまたはエタノールである。アルコールを反応させる際に、水分が混入していると、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)の加水分解反応や縮合反応が進行してしまい、目的のHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)の収率が低下することから、含有する水分量の少ないアルコールを用いることが好ましい。具体的には5質量%以下が好ましく、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0055】
[反応]
本発明のHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(4)を合成する際の反応方法は、特に限定されることはないが、典型的な例としてはHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)にアルコール(3)を滴下して反応させる方法、またはアルコール(3)にHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)を滴下して反応させる方法がある。
【0056】
使用するアルコール(3)の量は特に制限はないが、反応が効率よく進行する点で、HFIP基含有芳香族ハロシラン(2)に含まれるSi-X結合に対し1モル当量以上、10モル当量以下が好ましく、さらに好ましくは1モル当量以上、3モル当量以下である。
【0057】
アルコール(3)またはHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の添加時間には特に制限はないが、10分以上、24時間以下が好ましく、30分以上、6時間以下がさらに好ましい。また、滴下中の反応温度については、反応条件によって最適な温度が異なるが、具体的には0℃以上、70℃以下が好ましい。
【0058】
滴下終了後に撹拌を継続しながら熟成を行うことで、反応を完結させることができる。熟成時間には特に制限はなく、望みの反応を十分進行させる点で、30分以上、6時間以下が好ましい。また熟成時の反応温度は、滴下時と同じか、滴下時よりも高いことが好ましい。具体的には10℃以上、80℃以下が好ましい。
【0059】
アルコール(3)とHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の反応性は高く、速やかにハロゲノシリル基がアルコキシシリル基に変換されるが、反応の促進や副反応の抑制のために、反応時に発生するハロゲン化水素の除去を行うことが好ましい。ハロゲン化水素の除去方法としてはアミン化合物、オルトエステル、ナトリウムアルコキシド、エポキシ化合物、オレフィン類等、公知のハロゲン化水素捕捉剤の添加のほか、加熱、または乾燥窒素のバブリングによって生成したハロゲン化水素ガスを系外に除去する方法がある。これらの方法は単独で行なってもよく、あるいは複数組み合わせて行なってもよい。
【0060】
ハロゲン化水素捕捉剤としては、オルトエステルまたはナトリウムアルコキシドを挙げることができる。オルトエステルとしては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリメチル、またはオルト安息香酸トリメチルを例示することができる。入手が容易であることから、好ましくは、オルトギ酸トリメチルまたはオルトギ酸トリエチルである。ナトリウムアルコキシドとしては、ナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドを例示することができる。
【0061】
アルコール(3)とHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)の反応は、溶媒で希釈してもよい。用いる溶媒は、用いるアルコール(3)およびHFIP基含有芳香族ハロシラン(2)と反応しないものなら特に制限はなく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、または1,4-ジオキサン等を用いることができる。これらの溶媒を単独で、または混合して用いてもよい。
【0062】
ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、原料であるHFIP基含有芳香族ハロシラン(4)が十分消費されたことを確認した後、反応を終了することが好ましい。反応終了後、濾過、抽出、蒸留等の手段により、精製を行なうことで、HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)を得ることができる。
【0063】
HFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)の内、芳香環を1つ含有する、式(3)のbが1である式(3-1)で表されるHFIP基含有芳香族アルコキシシランは、特許文献5に記載の製造方法に従い、HFIP基とY基が置換したベンゼンと、アルコキシヒドロシランを原料とし、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等の遷移金属触媒を用いたカップリング反応でも製造することができる。
【化11】
(式中、R
1Aはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、R
2Aは、それぞれ独立に、炭素数1~4の直鎖状または炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の全てまたは一部がフッ素原子と置換されていてもよく、Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、-OSO
2(p-C
6H
4CH
3)基、または-OSO
2CF
3基であり、aaは1~5の整数、mmは0~2の整数、rrは1~3の整数であり、mm+rr=3である)
【0064】
1-4.ポリシロキサン化合物(A)の合成
前記の方法で合成された、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)、またはHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)、あるいはこれらの混合物を加水分解重縮合することで、ポリシロキサン化合物(A)が得られる。
【0065】
本加水分解重縮合反応は、加水分解性シランの加水分解および縮合反応における一般的な方法で行うことができる。具体的には、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)、またはHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)、あるいはこれらの混合物を反応容器内に採取した後、加水分解するための水、必要に応じて重縮合反応を進行させるための触媒、および反応溶媒を反応器内に加え撹拌し、必要に応じて加熱を行い、加水分解および重縮合反応を進行させることで、ポリシロキサン化合物(A)が得られる。
【0066】
<触媒>
重縮合反応を進行させるための触媒に特に制限はないが、酸触媒、塩基触媒を挙げることができる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、ギ酸、または多価カルボン酸、あるいはこれら酸の無水物を例示することができる。塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または炭酸ナトリウムを例示することができる。
【0067】
<反応溶媒>
前記加水分解および縮合反応では、必ずしも反応溶媒を用いる必要はなく、原料化合物、水、触媒を混合し、加水分解縮合することができる。一方、反応溶媒を用いる場合、その種類は特に限定されるものではない。中でも、原料化合物、水、触媒に対する溶解性から、極性溶媒が好ましく、さらに好ましくはアルコール系溶媒である。アルコール系溶媒しては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、または2-ブタノールを例示することができる。
【0068】
1-5.構造単位(2)
本発明の珪素含有層形成組成物が含むポリシロキサン化合物(A)は、さらに、式(2)で表される構造単位(以下、構造単位(2)と呼ぶことがある)を含んでいてもよい。
[Si(R4)pOq/2] (2)
[式中、R4は互いに独立に、水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、フェニル基、炭素数1以上、3以下のアルコキシ基または炭素数1以上、3以下のフルオロアルキル基であり、pは0~3の整数、qは1~4の整数であり、p+q=4である。]
【0069】
ポリシロキサン化合物(A)の合成において、ポリシロキサン化合物(A)の原料化合物として、HFIP基含有芳香族ハロシラン(4)またはHFIP基含有芳香族アルコキシシラン(3)に、上記の構造単位(2)を与えるクロロシラン、アルコキシシラン、またはシリケートオリゴマーを加えて共重合してもよい。
【0070】
[クロロシラン]
クロロシランとしては、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジプロピルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、イソプロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリフルオロメチルトリクロロシラン、ペンタフルオロエチルトリクロロシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン、またはテトラクロロシランを例示することができる。
【0071】
[アルコキシシラン]
アルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、またはテトライソプロポキシシランを例示することができる。
【0072】
[シリケートオリゴマー]
シリケートオリゴマーはテトラアルコキシシランを加水分解重縮合させることで得られるオリゴマーであり、市販品としては、商品名シリケート40(平均5量体、多摩化学工業株式会社製)、エチルシリケート40(平均5量体、コルコート株式会社製)、シリケート45(平均7量体、多摩化学工業株式会社製)、Mシリケート51(平均4量体、多摩化学工業株式会社製)、メチルシリケート51(平均4量体、コルコート株式会社製)、メチルシリケート53A(平均7量体、コルコート株式会社製)、エチルシリケート48(平均10量体、コルコート株式会社)、EMS-485(エチルシリケートとメチルシリケートの混合品、コルコート株式会社製)等を例示することができる。
【0073】
1-6.溶剤(B)
本発明の珪素含有層形成組成物には、ポリシロキサン化合物(A)に加え溶剤(B)を使用する。溶剤(B)としては、ポリシロキサン化合物(A)を溶解または分散し、析出させるものでなければよく、エステル系、エーテル系、アルコール系、ケトン系、またはアミド系溶剤を挙げることができる。
【0074】
[エステル系溶剤]
エステル系溶剤としては、酢酸エステル類、塩基性エステル類または環状エステル類を挙げることができる。酢酸エステル類としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと呼ぶことがある)、塩基性エステル類として乳酸エチル、環状エステル類としてγ―ブチロラクトンを例示することができる。
【0075】
[エーテル系溶剤]
エーテル系溶剤としては、ブタンジオールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ブタンジオールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ブタンジオールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを例示することができる。
【0076】
[アルコール系溶剤]
アルコール系溶剤には、グリコール類を挙げることができる。グルコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオールを例示することができる。
【0077】
[ケトン系溶剤]
ケトン系溶剤としては、環状ケトンであるシクロヘキサノンを例示することができる。
【0078】
[アミド系溶剤]
アミド系溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンを例示することができる。
【0079】
本発明の珪素含有層形成組成物が含む溶剤(B)としては、半導体産業で一般的に使用されることより、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(以下、PGMEAと呼ぶことがある)を用いることが好ましい。
【0080】
本発明の珪素含有層形成組成物が含む溶剤(B)の量は、ポリシロキサン化合物(A)100質量部に対して200質量部以上、100,000質量部以下であり、好ましくは、400質量部以上、50,000質量部以下である。200質量部より少ないと、ポリシロキサン化合物(A)が析出することがあり、100,000質量部より多いと薄すぎて中間層を形成することが容易ではない。
【0081】
1-7.その他の成分
本発明の珪素含有層形成組成物の成分として、ポリシロキサン(A)、溶剤(B)の他に、必要に応じて他の成分を加えてもよい。他の成分としては界面活性剤、シランカップリング剤を挙げることができ、これらの他の成分を複数含んでいてもよい。
【0082】
本発明の珪素含有層形成組成物の成分として、界面活性剤は、膜形成時の消泡およびレベリングの効果が期待でき、シランカップリング剤は上層のレジスト層、下層の有機層との密着性が期待できる。
【0083】
[界面活性剤]
界面活性剤としては非イオン性のものが好ましく、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール、フッ素化アルキルエステル、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、または含フッ素オルガノシロキサン系化合物を挙げることができる。
【0084】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル) エチルトリエトキシシラン、[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]プロピルトリメトキシシラン、[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]プロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸、またはN-tert-ブチル-3-(3-トリメトキシシリルプロピル)コハク酸イミドを例示することができる。
【0085】
また、本発明の珪素含有層形成組成物は、多層膜レジスト法のレジスト層としても用いることができる。本発明の珪素含有層形成組成物をレジスト層に用いる場合は、露光により酸を発生する光酸発生剤、酸の拡散を抑制する塩基性物質、露光によりインデンカルボン酸を形成するキノンジアジド化合物、酸の作用によりベースポリマーと反応する架橋剤等をさらなる成分として加える。このようにして、露光によってレジストとしての機能を発現するようにし、前記有機層と組み合わせる。リソグラフィに従い、本発明の珪素含有層組成物を含むレジスト層に露光によりパターンを得た後、パターンを介して、酸素系ガスのプラズマによりドライエッチングを行い、有機層にパターンを形成し、パターン形成された有機層を介して、フッ素系ガスまたは塩素系ガスのプラズマにより基板のドライエッチングを行うことにより、目的物であるパターンが形成された基板が得られる。
【0086】
2.珪素含有層形成組成物を用いたパターン付き基板の製造方法
多層レジスト法においては、レジスト層(上層)、中間層および有機層(下層)からなる多層膜を、基板上に形成し、パターン付き基板を製造する。前述したように、リソグラフィに従い、レジスト層のパターン形成後、前記パターンをマスクとし、中間層、有機層へのドライエッチングを経て、最終的にパターンが転写された基板が得られる。本発明の珪素含有層形成組成物は、上記中間層として用いることができる。
【0087】
すなわち、本発明のパターン付き基板の製造方法は、
有機層と、有機層上に本発明の珪素含有層形成組成物の硬化物を用いて形成された珪素含有中間層と、該珪素含有中間層上に形成されたレジスト層からなる3層膜を有する多層膜付き基板に対して、フォトマスクを介しレジスト層を高エネルギー線で露光後、レジスト層を塩基水溶液で現像してパターンを得る第1の工程と、
レジスト層のパターンを介して、珪素含有中間層のドライエッチングを行い珪素含有中間層にパターンを得る第2の工程と、
珪素含有中間層のパターンを介して、有機層のドライエッチングを行い有機層にパターンを得る第3の工程と、
有機層のパターンを介して、基板のドライエッチングを行い基板にパターンを得る第4の工程と、を含む。
【0088】
第2の工程において、フッ素系ガスにより珪素含有中間層のドライエッチングを行うことが好ましい。第3の工程において、酸素系ガスにより有機層のドライエッチングを行うことが好ましい。第4の工程において、フッ素系ガスまたは塩素系ガスにより基板のドライエッチングを行うことが好ましい。
【0089】
以下、各要素について、詳細に説明する。
【0090】
[基板]
基板材料としては、シリコン、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、シリコン酸化物、窒化シリコン、酸化窒化シリコン等からなる板、これら板上に、タングステン、タングステン-シリコン、アルミニウム、銅等の金属膜を形成した板、低誘電率膜、絶縁膜を形成した板が挙げられる。板上に形成される膜は、通常、50nm以上、20000nm以下の膜厚である。
【0091】
これら板上に、前記多層膜として、有機層(下層)、その上に本発明の珪素含有層形成組成物を用いた中間層、その上にレジスト層(上層)を順次形成し、上記多層膜付き基板を得る。
【0092】
[有機層(下層)]
基板上に、有機層として、ビスフェノール構造またはフルオレン構造を有する、ノボラック樹脂あるいはポリイミド樹脂からなる膜を有機層として最初に形成する。これら樹脂を含む有機層形成組成物をスピンコート等で基板上に塗布することで有機層の形成が可能である。有機層に芳香環を構造中に有することで、レジスト層にパターン形成するためレジスト層を露光する際の反射防止機能だけでなく、その後の工程であるレジスト層に得られたパターンを介してフッ素系ガスによる中間層をドライエッチングする際にフッ素系ガスのプラズマに対する十分なエッチング耐性を発現する。有機層の厚みは、ドライエッチングの際のエッチング条件により異なり、特に限定されるものではないが、通常、5nm以上、20000nm以下に形成する。
【0093】
[中間層]
前記有機層の上に、本発明の珪素含有層形成組成物をスピンコート等で塗布することで中間層の形成が可能である。形成後は、有機層(下層)と中間層が混じり合うミキシング防止のため、100℃以上、400℃以下に加熱し、硬化させることが好ましい。中間層の厚みは、ドライエッチングの際に用いるフッ素系ガスの種類およびエッチング条件により異なり、特に限定されるものではないが、通常、5nm以上、200nm以下に形成する。
【0094】
本発明の珪素含有層形成組成物を用い形成された中間層は構造中に芳香環を有することから、レジスト層の露光時に充分な反射防止機能を発現し、レジスト層にラフネスを抑えたパターンが得られる。さらに、中間層は構造中にHFIP基を有しHFIP基中の水酸基がパターン形成されたレジスト層との密着性に寄与することから、パターンが微細、またはアスペクト比が大きくてもパターン崩壊が起こり難い。
【0095】
[レジスト層(上層)]
前記中間層の上に、レジスト組成物をスピンコート等で製膜してレジスト層を形成することで多層膜が完成する。リソグラフィに従い、得られたレジスト層に、フォトマスクを介して、高エネルギー線、例えば、前述のg線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザーまたはEUV等の紫外線を用い露光し、露光部を現像液に可溶化(ポジ型レジストの場合)、または不溶化(ネガ型の場合)することで、レジスト層にパターンを得る。ポジ型レジストにおいて、通常、現像液にはテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いる。レジスト組成物としては前記紫外光に対して感度のあるレジスト層を形成できればよく、紫外光の波長によって適宜選択することができる。本発明のパターン付き基板の形成方法において、上記高エネルギー線が、波長10nm以上、400nm以下の紫外線であることが好ましい。
【0096】
レジスト組成物は、レジストベース樹脂に加え、露光により酸を発生する光酸発生剤、酸の拡散を抑制する塩基性物質を加えた公知のレジストを使用することができる。ベース樹脂に加え、露光により酸を発生する光酸発生剤、酸の拡散を抑制する塩基性物質を加えた公知のレジストを使用することができる。
【0097】
ベース樹脂としては、ポリメタクリレート、環状オレフィンとマレイン酸無水物の共重合体、環状オレフィンとマレイン酸無水物の共重合体、ポリノルボルネン、ポリヒドロキシスチレン、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、ポリシロキサン、またはポリシルセスキオキサンを例示することができる。
【0098】
光酸発生材としては、露光によりインデンカルボン酸を形成するキノンジアジド化合物を例示することができる。ネガ型レジストの場合は、酸の作用によりベース樹脂と反応する架橋剤等の添加剤を加える。
【0099】
[パターン形成]
レジスト層に形成されたパターンにおいて、現像液に溶解除去された部位は中間層が露わになっている。中間層が露わになった部位に、フロン系ガス等のフッ素系ガスのプラズマにより、ドライエッチングを行う。ドライエッチングにおいて、本発明の珪素含有層形成組成物から形成された中間層は、フッ素系ガスのプラズマに対するエッチング速度が速く、パターンを形成するレジスト層はエッチング速度が遅く、充分なエッチング選択性が得られる。
【0100】
次いで、レジスト層に形成されたパターンをマスクとして用いることで、パターンを中間層に転写する。
【0101】
次いで、パターン形成された中間層をマスクとして、エッチングガスには、酸素系ガスのプラズマを用い、有機層のドライエッチングを行う。この様にして、有機層に転写されたパターンが形成される。
【0102】
最後に、パターン形成された有機層を、フッ素系ガスまたは塩素系ガスのプラズマにより基板のドライエッチングを行うことにより、目的物であるパターンが形成された基板が得られる。
【0103】
[エッチングガス]
本発明のパターン付き基板の製造方法で使用されるフッ素系ガスとしては、炭化水素の水素原子をフッ素原子で置換したガスを挙げることができ、CF4、CHF3を例示することができる。酸素系ガスとしては、O2、CO、CO2を挙げることができ、安全性から、O2、CO、CO2が好ましい。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0105】
本実施例で得られたポリシロキサン化合物の分析は以下の方法で行った。
【0106】
[核磁気共鳴(NMR)]
共鳴周波数400MHzの核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、機器名、JNM-ECA400)を使用し、ポリシロキサン化合物の1H-NMR、19F-NMRを測定した。
【0107】
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
ガスクロマトグラフに、株式会社島津製作所製、機器名Shimadzu GC-2010、キャピラリーカラムにアジレント社 形式DB1(長さ60mm×内径0.25mm×膜厚1μm)を用い、ポリシロキサン化合物の同定を行った。
【0108】
[ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)]
東ソー株式会社製高速GPC装置、機器名、HLC-8320GPCを用い、ポリスチレン換算により、ポリシロキサン化合物の重量平均分子量の測定を行った。
【0109】
1.ポリシロキサン化合物の合成
<3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンの合成>
300mLの撹拌機付きオートクレーブに、フェニルトリクロロシラン126.92g(600mmol)、塩化アルミニウム8.00g(60.0mmol)を加えた。次いで、窒素置換を実施した後、オートクレーブ内温を40℃まで昇温し、ヘキサフルオロアセトン119.81g(722mmol)を2時間かけ徐々に加た後、3時間攪拌を継続した。反応終了後、得られた反応液から加圧濾過にて固形分を除去し、次いで反応液を精密蒸留し、無色液体として3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼン146.01g(収率64.8%、GC純度98%)を得た。以下に本反応の反応式を示す。
【化12】
得られた3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼンについて、
1H-NMRおよび
19F-NMRの測定を行った。
1H-NMR(溶媒CDCl
3,TMS):δ 8.17(s,1H),7.96-7.89(m,
2H),7.64-7.60(dd,J=7.8Hz,1H),3.42(s,1H)
19F-NMR(溶媒CDCl
3,CCl
3F):δ -75.44(s,12F)
【0110】
<3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンの合成>
容量1Lの温度計、撹拌機およびジムロート還流管付き4つ口フラスコ内を、窒素置換した後、無水エタノール47.70g(1035mmol)、トリエチルアミン81.00g(801mmol)、トルエン300gを室温(25℃)で仕込み、攪拌しながら0℃に冷却した。次いで、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼン 100.00gを液温が15℃以下となるように氷浴で冷却しつつ、1時間かけて、徐々に滴下した。滴下終了後、室温まで昇温した後30分攪拌し、反応液を得た。次いで、反応液を吸引濾過した後、分液ロートに移液し、各回300gの水を用いて有機層の水洗を3回繰り返した後、ロータリーエバポレータでトルエンを留去した。このようにして、3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン49.49g(GC純度97%)を無色透明液体として得た。フェニルトリクロロシランを基準とした収率は39%であった。以下に本反応の反応式を示す。
【化13】
得られた3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼンについて、
1H-NMR、
19F-NMRの測定を行った。
1H-NMR(溶媒CDCl
3,TMS):δ8.00(s,1H), 7.79-7.76(m,
2H),7.47(t,J=7.8Hz,1H),3.87(q,J=6.9Hz,6H),3.61(s,
1H),1.23(t,J=7.2Hz,
9H)
19F-NMR(溶媒CDCl
3,CCl
3F):δ-75.99(s,6F)
【0111】
実施例1(ポリシロキサン化合物(1)の合成)
50mLのフラスコに、合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン8.1g(20mmol)、水、1.08g(60mmol)、酢酸、0.06g(1mmol)を加え、100℃で24時間攪拌した。攪拌終了後、フラスコ内にトルエンを加え、フラスコ底部を温度150℃に付け、ディーン・スターク装置により、還流させることにより、水、酢酸、および副生したたエタノールを留去した。続いてロータリーエバポレータで減圧しつつトルエンを留去し、ポリシロキサン化合物(1)、16.15gを白色固体として得た。前記GPC装置で重量平均分子量を測定したところ、Mw=1650であった。以下に本反応の反応式を示す。
【化14】
【0112】
実施例2(ポリシロキサン化合物(2)の合成)
50mLのフラスコに、合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリクロロシリルベンゼン7.6g(20mmol)、に対し、氷浴で冷却しながら、水、1.08g(60mmol)を滴下した後、室温で1時間攪拌した。反応終了後、減圧して残存する水、塩化水素を留去することにより、ポリシロキサン化合物(2)5.13gを白色固体として得た。GPCで重量平均分子量を測定した結果、Mw=5151であった。以下に本反応の反応式を示す。
【化15】
【0113】
実施例3(ポリシロキサン化合物(3)の合成)
50mLのフラスコに、合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン4.06g(10mmol)、フェニルトリエトキシシラン2.40g(10mmol)水、1.08g(60mmol)、酢酸、0.06g(1mmol)を加え、100℃に加温した後、24時間攪拌した。攪拌後、内容物にトルエンを加え、フラスコ底部を150℃に加温したバスに付け、ディーン・スターク装置を用いて還流させ、水、酢酸、副生するエタノールを留去した。続いて減圧しつつロータリーエバポレータを用いてトルエンを留去することにより、ポリシロキサン化合物(3)、3.92gを白色固体として得た。GPCで重量平均分子量を測定した結果、Mw=2100であった。以下に本反応の反応式を示す。
【化16】
【0114】
実施例4(ポリシロキサン化合物(4)の合成)
50mLのフラスコに、合成した3-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)-トリエトキシシリルベンゼン8.13g(20mmol)、シリケート40(平均5量体、多摩化学工業株式会社製)2.98g(20mmol)水、0.97g(54mmol)、酢酸、0.12g(2mmol)を加え、40℃に加温した後、1時間攪拌した。その後、70℃に昇温し、2時間攪拌した。攪拌後、減圧しつつロータリーエバポレータを用いて水、酢酸、副生するエタノールを留去することにより、ポリシロキサン化合物(4)、6.63gを白色固体として得た。GPCで重量平均分子量を測定した結果、Mw=1860であった。以下に本反応の反応式を示す。
【化17】
【0115】
比較例1(ポリシロキサン化合物(5)の合成)
50mLのフラスコに、フェニルトリエトキシシラン、4.80g(20mmol)、水、1.08g(60mmol)、酢酸、0.06g(1mmol)を加え、100℃で24時間攪拌させた。反応終了後、この反応物にトルエンを加え、フラスコ底部を150℃に加温したバスに付け、ディーン・スターク装置を用いて還流させ、水、酢酸、副生したエタノールを留去した。続いて減圧しつつロータリーエバポレータを用いてトルエンを留去し、ポリシロキサン化合物(5)、3.24gを白色固体として得た。GPCで重量平均分子量を測定した結果、Mw=3000であった。以下に本反応の反応式を示す。
【化18】
【0116】
2.エッチング速度およびエッチング選択性の測定
実施例1~3で得られたポリシロキサン化合物(1)~(5)、および比較例で得られたポリシロキサン化合物(5)、各々1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、4gに完全に溶解させ、ポアサイズ0.22μmのフィルターで濾過して、ポリシロキサン化合物溶液(1)~(5)を調製した。
ポリシロキサン化合物溶液(1)~(5)を、株式会社SUMCO製の直径4インチ(10.16mm)、厚み525μmのシリコンウエハー上に、回転数500rpmでスピンコートした後、シリコンウエハーをホットプレート上で90℃、1分間乾燥させた後、加温し180℃で1時間焼成させた。このようにして、シリコンウエハー上に膜厚1.7~2.0μmのポリシロキサン化合物(1)~(5)による膜を形成した。
得られたポリシロキサン化合物(1)~(5)膜付きシリコンウエハーを、フッ素系ガス(CF4およびCHF3)、酸素系ガス(CO2またはO2)でドライエッチングし、各々ガスに対するエッチング速度を測定し、エッチング選択性を算出した。エッチング条件(1)~(3)を以下に示す(以下、エッチング速度を単に速度、エッチング条件を単に条件とすることがある)。
【0117】
[条件(1)]フッ素系ガスとしてCF4およびCHF3使用
CF4流量:150sccm
CHF3流量:50sccm
Ar流量:100sccm
チャンバー圧力:10Pa
印加電力:400W
温度:15℃
【0118】
[条件(2)]酸素系ガスとしてCO2使用
CF4およびCHF3流量:300sccm
Ar流量:100sccm
N2流量:100sccm
チャンバー圧力:2Pa
印加電力:400W
温度:15℃
【0119】
[条件(3)]酸素系ガスとしてO2使用
O2流量:400sccm
Ar流量:100sccm
チャンバー圧力:2Pa
印加電力:400W
温度:15℃
【0120】
実施例1~4で得たポリシロキサン化合物(1)~(4)、比較例1で得たポリシロキサン化合物(5)による膜を形成した各々のシリコンウエハ、および多重レジスト法で上層に使われるフッ化アルゴンレーザー用のレジストの膜に対する、エッチング条件(1)~(3)でのエッチング速度の測定値、およびそれから求めたエッチング選択性を表1に示す。エッチング速度比Aは、条件(1)による速度の測定値を条件(2)による速度の測定値で割った値であり、エッチング速度比Bは条件(1)による速度の測定値を条件(3)による速度の測定値で割った値である。
【表1】
【0121】
表1に示すように、実施例1~4に記載のHFIP基を含むポリシロキサン化合物(1)~(4)のエッチング速度比(A)は各々39、37、33、46であり、比較例1のHFIP基を含まないポリシロキサン化合物(5)の27よりも大きく、ポリシロキサン化合物(1)~(4)は、ポリシロキサン化合物(5)に対し、エッチング速度比が大きくフッ素系ガスと酸素系ガスのエッチング選択性に優れていた。
【0122】
エッチング速度比(B)においても、表1に示すように、実施例1~4に記載のポリシロキサン化合物(1)~(4)は各々16、15、13、18であり、比較例1のポリシロキサン化合物(5)の10よりも大きく、ポリシロキサン化合物(1)~(4)は、ポリシロキサン化合物(5)に対し、エッチング速度比が大きく、フッ素系ガスと酸素系ガスのエッチング選択性に優れていた。
【0123】
表1に示すように、実施例1~4のポリシロキサン化合物(1)~(4)の膜のエッチング速度は、酸素系ガスに対する条件(2)、(3)で各々2nm/min、5nm/minであり、ArFレジストの条件(2)、(3)でのエッチング速度は171nm/min、296nm/minであり、ポリシロキサン化合物(1)~(4)の膜は、多重レジスト法で上層に使われるArFレジストよりも酸素系ガスに対し高いエッチング耐性を示すことがわかった。