IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-方向性電磁鋼板の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20230427BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230427BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230427BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230427BHJP
   C23C 22/00 20060101ALI20230427BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C21D9/46 501B
C22C38/00 303U
C22C38/60
C23C22/00 B
H01F1/147 183
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020566455
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001175
(87)【国際公開番号】W WO2020149336
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2019005085
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真介
(72)【発明者】
【氏名】牛神 義行
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-222423(JP,A)
【文献】特開平03-047975(JP,A)
【文献】特開昭64-079381(JP,A)
【文献】特開平07-278676(JP,A)
【文献】特開平09-118922(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102952931(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
C23C 22/00
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成として、質量%で、
C:0.030~0.100%、
Si:0.80~7.00%、
Mn:0.01~1.00%、
S及びSeの合計:0~0.060%、
酸可溶性Al:0.010~0.065%、
N:0.004~0.012%、
Cr:0~0.30%、
Cu:0~0.40%、
P:0~0.50%、
Sn:0~0.30%、
Sb:0~0.30%、
Ni:0~1.00%、
B:0~0.008%、
V:0~0.15%、
Nb:0~0.20%、
Mo:0~0.10%、
Ti:0~0.015%、
Bi:0~0.010%、を含有し、
残部がFeおよび不純物からなる鋼片を、熱間圧延して熱延鋼板を得る熱延工程と、
前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷延工程と、
前記冷延鋼板に脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板を得る脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍板に、焼鈍分離剤を塗布して乾燥させる焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍板に仕上げ焼鈍を行い、仕上げ焼鈍板を得る仕上げ焼鈍工程と、
前記仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を除去する焼鈍分離剤除去工程と、
前記余剰の焼鈍分離剤が除去された前記仕上げ焼鈍板の表面を平滑化する平滑化工程と、
平滑化された前記仕上げ焼鈍板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、
を備え、
前記脱炭焼鈍工程では、
酸化度であるPHO/PHが0.18~0.80である雰囲気下で、焼鈍温度750~900℃で、10~600秒保持を行い、
前記焼鈍分離剤塗布工程では、
前記焼鈍分離剤が、Al と、MgOと、1.5質量%以下の水和水分と、を含有し、且つ残部が不純物からなり、前記MgOと前記Alとの質量比率であるMgO/(MgO+Al)を5~50%とし
前記仕上げ焼鈍工程では、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍板を、体積率で水素を50%以上含む混合ガス雰囲気中で、1100~1200℃の温度で10時間以上保持し、
前記焼鈍分離剤除去工程では、
前記仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を、トリエタノールアミン、ロジンアミン、またはメカプタンの少なくとも1つであるインヒビターを添加した溶液を用いて水洗して除去し、鋼板表面における鉄系水酸化物量及び鉄系酸化物量を片面当り0.9g/m以下にし、
前記平滑化工程では、
化学研磨により、前記余剰の焼鈍分離剤が除去された前記仕上げ焼鈍板の表面を、平均粗さRaが0.1μm以下となるようにし、
前記絶縁被膜形成工程では、
リン酸塩、コロイダルシリカ、および結晶性燐化物を含む被膜形成溶液を塗布して350~1150℃で焼き付け、降温後に、リン酸塩およびコロイダルシリカを含むが結晶性燐化物を含まない被膜形成溶液を塗布して350~1150℃で焼き付けて絶縁被膜を形成する
ことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記熱延工程と前記冷延工程との間に、
前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程、または酸洗を行う熱延板酸洗工程の少なくとも1つを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記脱炭焼鈍工程では、前記冷延鋼板を、アンモニアを含有する雰囲気中で焼鈍する窒化処理を行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷延工程と前記脱炭焼鈍工程との間、前記脱炭焼鈍工程と前記焼鈍分離剤塗布工程との間、前記平滑化工程と前記絶縁被膜形成工程との間、または前記絶縁被膜形成工程後のいずれかに、磁区制御処理を行う磁区制御工程を備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記焼鈍分離剤除去工程では、前記水洗後に、体積比濃度が20%未満の酸性溶液を用いて酸洗を行う
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼片が、化学組成として、質量%で、
Cr:0.02~0.30%、
Cu:0.05~0.40%、
P:0.005~0.50%、
Sn:0.02~0.30%、
Sb:0.01~0.30%、
Ni:0.01~1.00%、
B:0.0005~0.008%、
V:0.002~0.15%、
Nb:0.005~0.20%、
Mo:0.005~0.10%、
Ti:0.002~0.015%、及び
Bi:0.001~0.010%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含有する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
本願は、2019年1月16日に、日本に出願された特願2019-005085号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主として変圧器に使用される。変圧器は据え付けられてから廃棄されるまでの長期間にわたり、連続的に励磁され、エネルギー損失を発生し続けることから、交流で磁化された際のエネルギー損失、即ち、鉄損が、変圧器の性能を決定する主要な指標となる。
【0003】
方向性電磁鋼板の鉄損を低減するため、今まで、多くの手法が提案されてきた。例えば、鋼板組織に関して、ゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位への集積を高める手法、鋼板に関して、電気抵抗を高めるSi等の固溶元素の含有量を高める手法、鋼板の板厚を薄くする手法等である。
【0004】
また、鋼板に張力を付与することが、鉄損の低減に有効な手法であることが知られている。そのため、通常、鉄損を低下させることを目的として、方向性電磁鋼板の表面には、被膜が形成されている。この被膜は、方向性電磁鋼板に張力を付与することにより、鋼板単板としての鉄損を低下させる。この被膜はさらに、方向性電磁鋼板を積層して使用する際に、鋼板間の電気的絶縁性を確保することにより、鉄心としての鉄損を低下させる。
【0005】
被膜が形成された方向性電磁鋼板としては、母鋼板の表面に、Mgを含有する酸化被膜であるフォルステライト被膜が形成されて、さらに、そのフォルステライト被膜の表面上に絶縁被膜が形成されたものがある。つまり、この場合、母鋼板上の被膜は、フォルステライト被膜と、絶縁被膜とを含む。フォルステライト被膜及び絶縁被膜の各々は、絶縁性機能及び母鋼板への張力付与機能の両方の機能を担っている。
【0006】
Mgを含有する酸化被膜であるフォルステライト被膜は、鋼板に二次再結晶を生じさせる仕上げ焼鈍にて、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤と脱炭焼鈍時に母鋼板上に形成された酸化珪素(SiO)とが、900~1200℃で30時間以上施される熱処理中に反応することにより、形成される。
【0007】
絶縁被膜は、仕上げ焼鈍後の母鋼板に、例えば、リン酸又はリン酸塩、コロイダルシリカ、及び、無水クロム酸又はクロム酸塩を含むコ-ティング溶液を塗布し、300~950℃で10秒以上焼き付け乾燥することにより、形成される。
【0008】
被膜が、絶縁性及び母鋼板への張力付与の機能を発揮するために、これらの被膜と母鋼板との間に高い密着性が要求される。
【0009】
従来、上記密着性は、主として、母鋼板とフォルステライト被膜との界面の凹凸によるアンカー効果によって確保されてきた。しかしながら、近年、この界面の凹凸が、方向性電磁鋼板が磁化される際の磁壁移動の障害にもなるので、低鉄損化を妨げる要因にもなっていることが明らかになった。
【0010】
そこで、さらに低鉄損化するために、Mgを含有する酸化被膜であるフォルステライト被膜を存在させずに、上述の界面を平滑化した状態で絶縁被膜の密着性を確保する技術が、たとえば、特開昭49-096920号公報(特許文献1)及び国際公開第2002/088403号(特許文献2)に提案されている。
【0011】
特許文献1に開示された方向性電磁鋼板の製造方法では、フォルステライト被膜を酸洗等により除去し、母鋼板表面を化学研磨又は電解研磨で平滑にする。特許文献2に開示された方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上げ焼鈍時にアルミナ(Al)を含む焼鈍分離剤を用いて、フォルステライト被膜の形成自体を抑制して、母鋼板表面を平滑化する。
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の製造方法では、母鋼板表面に接触して(母鋼板表面上に直接)絶縁被膜を形成する場合、母鋼板表面に対して絶縁被膜が密着しにくい(十分な密着性が得られない)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】日本国特開昭49-096920号公報
【文献】国際公開第2002/088403号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、フォルステライト被膜を有さず、かつ、磁気特性(特に鉄損)および被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、低鉄損化のために、フォルステライト被膜を生成させず、鋼板表面を平滑化した方向性電磁鋼板用鋼板の表面に、絶縁被膜を形成することを前提とし、鋼板と絶縁被膜との密着性(被膜密着性)を向上させる方法について検討を行った。
【0016】
その結果、所定の工程を適切に組み合わせることで、フォルステライト被膜を有さず、かつ、磁気特性および被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板を製造できることを見出した。
【0017】
本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、
化学組成として、質量%で、
C:0.030~0.100%、
Si:0.80~7.00%、
Mn:0.01~1.00%、
S及びSeの合計:0~0.060%、
酸可溶性Al:0.010~0.065%、
N:0.004~0.012%、
Cr:0~0.30%、
Cu:0~0.40%、
P:0~0.50%、
Sn:0~0.30%、
Sb:0~0.30%、
Ni:0~1.00%、
B:0~0.008%、
V:0~0.15%、
Nb:0~0.20%、
Mo:0~0.10%、
Ti:0~0.015%、
Bi:0~0.010%、を含有し、
残部がFeおよび不純物からなる鋼片を、熱間圧延して熱延鋼板を得る熱延工程と、
前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷延工程と、
前記冷延鋼板に脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板を得る脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍板に、焼鈍分離剤を塗布して乾燥させる焼鈍分離剤塗布工程と、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍板に仕上げ焼鈍を行い、仕上げ焼鈍板を得る仕上げ焼鈍工程と、
前記仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を除去する焼鈍分離剤除去工程と、
前記余剰の焼鈍分離剤が除去された前記仕上げ焼鈍板の表面を平滑化する平滑化工程と、
平滑化された前記仕上げ焼鈍板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、
を備え、
前記脱炭焼鈍工程では、
酸化度であるPHO/PHが0.18~0.80である雰囲気下で、焼鈍温度750~900℃で、10~600秒保持を行い、
前記焼鈍分離剤塗布工程では、
前記焼鈍分離剤が、Al と、MgOと、1.5質量%以下の水和水分と、を含有し、且つ残部が不純物からなり、前記MgOと前記Alとの質量比率であるMgO/(MgO+Al)を5~50%とし
前記仕上げ焼鈍工程では、
前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍板を、体積率で水素を50%以上含む混合ガス雰囲気中で、1100~1200℃の温度で10時間以上保持し、
前記焼鈍分離剤除去工程では、
前記仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を、トリエタノールアミン、ロジンアミン、またはメカプタンの少なくとも1つであるインヒビターを添加した溶液を用いて水洗して除去し、鋼板表面における鉄系水酸化物量及び鉄系酸化物量を片面当り0.9g/m以下にし、
前記平滑化工程では、
化学研磨により、前記余剰の焼鈍分離剤が除去された前記仕上げ焼鈍板の表面を、平均粗さRaが0.1μm以下となるようにし、
前記絶縁被膜形成工程では、
リン酸塩、コロイダルシリカ、および結晶性燐化物を含む被膜形成溶液を塗布して350~1150℃で焼き付け、降温後に、リン酸塩およびコロイダルシリカを含むが結晶性燐化物を含まない被膜形成溶液を塗布して350~1150℃で焼き付けて絶縁被膜を形成する。
(2)上記(1)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法では、前記熱延工程と前記冷延工程との間に、前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程、または酸洗を行う熱延板酸洗工程の少なくとも1つを備えてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法では、前記脱炭焼鈍工程で、前記冷延鋼板を、アンモニアを含有する雰囲気中で焼鈍する窒化処理を行ってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法では、前記冷延工程と前記脱炭焼鈍工程との間、前記脱炭焼鈍工程と前記焼鈍分離剤塗布工程との間、前記平滑化工程と前記絶縁被膜形成工程との間、または前記絶縁被膜形成工程後のいずれかに、磁区制御処理を行う磁区制御工程を備えてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法では、前記焼鈍分離剤除去工程で、前記水洗後に、体積比濃度が20%未満の酸性溶液を用いて酸洗を行ってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法では、前記鋼片が、化学組成として、質量%で、
Cr:0.02~0.30%、
Cu:0.05~0.40%、
P:0.005~0.50%、
Sn:0.02~0.30%、
Sb:0.01~0.30%、
Ni:0.01~1.00%、
B:0.0005~0.008%、
V:0.002~0.15%、
Nb:0.005~0.20%、
Mo:0.005~0.10%、
Ti:0.002~0.015%、及び
Bi:0.001~0.010%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記態様によれば、フォルステライト被膜を有さず、かつ、磁気特性および被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、本実施形態にて示す数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」を意味する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法(以下「本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法」ということがある。)はフォルステライト被膜を有さない方向性電磁鋼板の製造方法であって、以下の工程を備える。
(i)所定の化学組成を有する鋼片を、熱間圧延して熱延鋼板を得る熱延工程
(ii)前記熱延鋼板を、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷延工程
(iii)前記冷延鋼板に脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍板を得る脱炭焼鈍工程
(iv)前記脱炭焼鈍板に、AlとMgOとを含有する焼鈍分離剤を塗布して乾燥させる焼鈍分離剤塗布工程
(v)焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍板に仕上げ焼鈍を行い、仕上げ焼鈍板を得る仕上げ焼鈍工程
(vi)前記仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を除去する焼鈍分離剤除去工程
(vii)前記余剰の焼鈍分離剤が除去された前記仕上げ焼鈍板の表面を平滑化する平滑化工程
(viii)平滑化された前記仕上げ焼鈍板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程
【0022】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、さらに以下の工程を備えてもよい。
(I)熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程
(II)熱延鋼板を酸洗する熱延板酸洗工程
(III)磁区制御処理を行う磁区制御工程
【0023】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、上記した工程の内、単に一つの工程を制御すればよいわけではなく、上記した各工程を複合的に且つ不可分に制御する必要がある。各工程のすべてを所定の条件で制御することで、鉄損を低下させ、かつ被膜密着性を向上させることができる。
【0024】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
<熱延工程>
熱延工程では、化学組成として、質量%で、C:0.030~0.100%、Si:0.80~7.00%、Mn:0.01~1.00%、S+Seの合計:0~0.060%、酸可溶性Al:0.010~0.065%、N:0.004~0.012%、Cr:0~0.30%、Cu:0~0.40%、P:0~0.50%、Sn:0~0.30%、Sb:0~0.30%、Ni:0~1.00%、B:0~0.008%、V:0~0.15%、Nb:0~0.20%、Mo:0~0.10%、Ti:0~0.015%、Bi:0~0.010%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼片を、熱間圧延して熱延鋼板を得る。本実施形態では、熱延工程後の鋼板を、熱延鋼板と呼ぶ。
【0026】
熱延工程に供する鋼片(スラブ)の製造方法については限定されない。例えば所定の化学組成を有する溶鋼を溶製し、その溶鋼を用いてスラブを製造すればよい。連続鋳造法によりスラブを製造してもよく、溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。また、他の方法によりスラブを製造してもよい。
【0027】
スラブの厚さは、特に限定されないが、たとえば、150~350mmである。スラブの厚さは好ましくは、220~280mmである。スラブとして、厚さが10~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。
【0028】
まず、鋼片の化学組成の限定理由について説明する。以下、化学組成に関する%は質量%を意味する。
【0029】
[C:0.030~0.100%]
C(炭素)は、一次再結晶組織の制御に有効な元素であるが、磁気特性に悪影響を及ぼすので、仕上げ焼鈍前に脱炭焼鈍で除去する元素である。鋼片のC含有量が0.100%を超えると、脱炭焼鈍時間が長くなり、生産性が低下する。そのため、C含有量は0.100%以下とする。好ましくは0.085%以下、より好ましくは0.070%以下である。
【0030】
C含有量は低い方が好ましいが、工業生産における生産性や製品の磁気特性を考慮した場合、C含有量の実質的な下限は0.030%である。
【0031】
[Si:0.80~7.00%]
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が0.80%未満であれば、仕上げ焼鈍時にγ変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。したがって、Si含有量は0.80%以上である。Si含有量は好ましくは2.00%以上であり、より好ましくは2.50%以上である。
一方、Si含有量が7.00%を超えれば、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。したがって、Si含有量は7.00%以下である。Si含有量は好ましくは4.50%以下であり、さらに好ましくは4.00%以下である。
【0032】
[Mn:0.01~1.00%]
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。また、Mnは、S又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mn含有量が0.01~1.00%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。したがって、Mn含有量は、0.01~1.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.08%であり、さらに好ましくは0.09%である。Mn含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0033】
[S及びSeのいずれかまたは両方の合計:0~0.060%]
S(硫黄)及びSe(セレン)は、Mnと結合して、インヒビターとして機能するMnS及び/又はMnSeを形成する元素である。
S及びSeのいずれかまたは両方の合計(S+Se)が0.060%超であると、熱間圧延後にMnSやMnSeの析出分散が不均一となる。この場合、所望の二次再結晶組織が得られず、磁束密度が低下したり、純化後にMnSが鋼中に残存し、ヒステリシス損が劣化したりする。そのため、SとSeとの合計含有量は、0.060%以下とする。
SとSeとの合計含有量の下限は、特に制限されず、0%であればよい。この下限は、0.003%以上としてもよい。インヒビターとして用いる場合、好ましくは0.015%以上である。
【0034】
[酸可溶性Al(Sol.Al):0.010~0.065%]
酸可溶性Al(アルミニウム)(Sol.Al)は、Nと結合して、インヒビターとして機能するAlNや(Al、Si)Nを生成する元素である。酸可溶性Alが0.010%未満では、効果が十分に発現せず、二次再結晶が十分に進行しない。そのため、酸可溶性Al含有量は0.010%以上とする。酸可溶性Al含有量は好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。
【0035】
一方、酸可溶性Al含有量が0.065%を超えると、AlNや(Al、Si)Nの析出分散が不均一になり、所要の二次再結晶組織が得られず、磁束密度が低下する。そのため、酸可溶性Al(Sol.Al)は0.065%以下とする。酸可溶性Alは好ましくは0.055%以下、より好ましくは0.050%以下である。
【0036】
[N:0.004~0.012%]
N(窒素)は、Alと結合して、インヒビターとして機能するAlNや(Al、Si)Nを形成する元素である。N含有量が0.004%未満では、AlNや(Al、Si)Nの形成が不十分となるので、Nは0.004%以上とする。好ましくは0.006%以上、より好ましくは0.007%以上である。
一方、N含有量が0.012%超であると、鋼板中にブリスター(空孔)が形成されることが懸念される。そのため、N含有量を0.012%以下とする。
【0037】
上記鋼片の化学組成は、上記元素を含み、残部がFe及び不純物からなる。しかしながら、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、Feの一部に代えて、選択元素の1種または2種以上を以下の範囲で含有してもよい。Feの一部に代えて含有される選択元素として、たとえば、Cr、Cu、P、Sn、Sb、Ni、B、V、Nb、Mo、Ti、Biが挙げられる。ただし、選択元素は含まれなくてもよいので、その下限は、それぞれ0%である。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップから、または製造環境等から混入するものを指す。
【0038】
[Cr:0~0.30%]
Cr(クロム)は、Siと同様に、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Crを含有させてもよい。上記効果を得る場合、Cr含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
一方で、Cr含有量が0.30%を超えると、磁束密度の低下が問題となるので、Cr含有量の上限は、0.30%であることが好ましく、0.20%であることがより好ましく、0.12%であることがさらに好ましい。
【0039】
[Cu:0~0.40%]
Cu(銅)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Cuを含有させてもよい。この効果を得る場合、Cu含有量は、0.05%以上であることが好ましく、0.10%以上であることがより好ましい。
一方、Cu含有量が0.40%を超えると、鉄損低減効果が飽和してしまうとともに、熱間圧延時に“カッパーヘゲ”なる表面疵の原因になることがある。そのため、Cu含有量の上限は、0.40%であることが好ましく、0.30%であることがより好ましく、0.20%であることがさらに好ましい。
【0040】
[P:0~0.50%]
P(リン)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Pを含有させてもよい。この効果を得る場合、P含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがより好ましい。
一方、P含有量が0.50%を超えると、圧延性に問題が生じることがある。そのため、P含有量の上限は、0.50%であることが好ましく、0.20%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましい。
【0041】
[Sn:0~0.30%]
[Sb:0~0.30%]
Sn(スズ)およびSb(アンチモン)は、二次再結晶を安定化させ、{110}<001>方位を発達させるのに有効な元素である。従って、SnまたはSbを含有させてもよい。この効果を得る場合、Sn含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。また、Sb含有量は、0.01%以上であることが好ましく、0.03%以上であることがより好ましい。
一方、Snが0.30%超、またはSbが0.30%超となると、磁気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、Sn含有量、Sb含有量の上限をそれぞれ0.30%とすることが好ましい。Sn含有量の上限は、0.15%であることがより好ましく、0.10%であることがさらに好ましい。Sb含有量の上限は、0.15%であることがより好ましく、0.10%であることがさらに好ましい。
【0042】
[Ni:0~1.00%]
Ni(ニッケル)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、Niは、熱延鋼板の金属組織を制御して、磁気特性を高めるうえで有効な元素である。従って、Niを含有させてもよい。上記効果を得る場合、Ni含有量は、0.01%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがより好ましい。
一方、Ni含有量が1.00%を超えると、二次再結晶が不安定になることがある。そのため、Ni含有量を1.00%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがより好ましく、0.10%以下とすることがさらに好ましい。
【0043】
[B:0~0.008%]
B(ボロン)は、Nと結合してインヒビター効果を発揮するBNを形成するのに有効な元素である。従って、Bを含有させてもよい。上記効果を得る場合、B含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0010%以上であることがより好ましい。
一方、B含有量が0.008%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、B含有量の上限は、0.008%であることが好ましく、0.005%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましい。
【0044】
[V:0~0.15%]
[Nb:0~0.20%]
[Ti:0~0.015%]
V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、及びTi(チタン)は、NやCと結合してインヒビターとして機能する元素である。従って、V、Nb、またはTiを含有させてもよい。上記効果を得る場合、V含有量は、0.002%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがより好ましい。Nb含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.020%以上であることがより好ましい。Ti含有量は、0.002%以上であることが好ましく、0.004%以上であることがより好ましい。
一方、鋼片がVを0.15%超、Nbを0.20%超、Tiを0.015%超の範囲で含有すると、これらの元素が最終製品に残留して、最終製品として、V含有量が0.15%を超え、Nb含有量が0.20%を超え、またはTi含有量が0.015%を超える場合がある。この場合、最終製品(電磁鋼板)の磁気特性が劣化するおそれがある。
そのため、V含有量の上限は、0.15%であることが好ましく、0.10%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。Ti含有量の上限は、0.015%であることが好ましく、0.010%であることがより好ましく、0.008%であることがさらに好ましい。Nb含有量の上限は、0.20%であることが好ましく、0.10%であることがより好ましく、0.08%であることがさらに好ましい。
【0045】
[Mo:0~0.10%]
Mo(モリブデン)も、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。従って、Moを含有させてもよい。上記効果を得る場合、Mo含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましい。
一方、Mo含有量が0.10%を超えると、鋼板の圧延性に問題が生じることがある。そのため、Mo含有量の上限は、0.10%であることが好ましく、0.08%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
【0046】
[Bi:0~0.010%]
Bi(ビスマス)は、硫化物等の析出物を安定化してインヒビターとしての機能を強化するのに有効な元素である。従って、Biを含有させてもよい。上記効果を得る場合、Bi含有量は、0.001%以上であることが好ましく、0.002%以上であることがより好ましい。
一方、Bi含有量が0.010%を超えると、磁気特性に悪影響を及ぼすことがある。そのため、Bi含有量の上限は、0.010%であることが好ましく、0.008%であることがより好ましく、0.006%であることがさらに好ましい。
【0047】
上記した化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、sol.Alは、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。また、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0048】
続いて、上記鋼片を熱間圧延する際の条件について説明する。
熱間圧延条件については特に限定されない。例えば、以下の条件である。
熱間圧延に先立ちスラブを加熱する。スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。1つの方法として、スラブを1280℃以下に加熱する。スラブの加熱温度を1280℃以下とすることにより、たとえば、1280℃よりも高い温度で加熱した場合の諸問題(専用の加熱炉が必要なこと、及び溶融スケール量の多さ等)を回避することができる。スラブの加熱温度の下限値は特に限定されない。加熱温度が低すぎる場合、熱間圧延が困難になって、生産性が低下することがある。したがって、加熱温度は、1280℃以下の範囲で生産性を考慮して設定すればよい。スラブの加熱温度の好ましい下限は1100℃である。スラブの加熱温度の好ましい上限は1250℃である。
【0049】
また、別の方法として、スラブを1320℃以上の高い温度に加熱する。1320℃以上の高温まで加熱することにより、AlN、Mn(S,Se)を溶解させ、その後の工程で微細析出させることにより、二次再結晶を安定的に発現することができる。
スラブ加熱工程そのものを省略して、鋳造後、スラブの温度が下がるまでに熱間圧延を開始することも可能である。
【0050】
次に、加熱されたスラブに対して、熱間圧延機を用いた熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。熱間圧延機はたとえば、粗圧延機と、粗圧延機の下流に配置された仕上げ圧延機とを備える。粗圧延機は、一列に並んだ粗圧延スタンドを備える。各粗圧延スタンドは、上下に配置された複数のロールを含む。仕上げ圧延機も同様に、一列に並んだ仕上げ圧延スタンドを備える。各仕上げ圧延スタンドは、上下に配置される複数のロールを含む。加熱された鋼材を粗圧延機により圧延した後、さらに、仕上げ圧延機により圧延して、熱延鋼板を製造する。
熱延工程における仕上げ温度(仕上げ圧延機にて最後に鋼板を圧下する仕上げ圧延スタンドの出側での鋼板温度)は、たとえば700~1150℃である。以上の熱延工程により、熱延鋼板を製造する。
【0051】
<熱延板焼鈍工程>
熱延板焼鈍工程では、必要に応じて、熱延工程によって得られた熱延鋼板に対して、焼鈍(熱延板焼鈍)を行って熱延焼鈍板を得る。本実施形態では、熱延板焼鈍工程後の鋼板を、熱延焼鈍板と呼ぶ。
【0052】
熱延板焼鈍は、熱間圧延時に生じた不均一組織をできるだけ均一化し、インヒビターであるAlNの析出を制御し(微細析出)、第二相/固溶炭素を制御すること等を目的として行う。焼鈍条件は、目的に応じて公知の条件を選択すればよい。例えば熱間圧延時に生じた不均一組織を均一化する場合、熱延鋼板を、焼鈍温度(熱延板焼鈍炉での炉温)が、750~1200℃で、30~600秒保持する。
熱延板焼鈍は必ずしも行う必要がなく、熱延板焼鈍工程の実施の有無は、最終的に製造される方向性電磁鋼板に要求される特性及び製造コストに応じて決定すればよい。
【0053】
<熱延板酸洗工程>
熱延板酸洗工程では、熱延工程後の熱延鋼板、または熱延板焼鈍を行った場合には、熱延板焼鈍工程後の熱延焼鈍板に対し、必要に応じて、表面に生成したスケールを除去するため、酸洗を行う。酸洗条件については特に限定されず、公知の条件で行えばよい。
【0054】
<冷延工程>
冷延工程では、熱延工程後、熱延板焼鈍工程後、または熱延板酸洗工程後の熱延鋼板または熱延焼鈍板に対し、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して冷延鋼板とする。本実施形態では、冷延工程後の鋼板を、冷延鋼板と呼ぶ。
【0055】
最終の冷間圧延における好ましい冷間圧延率(中間焼鈍を行わない累積冷間圧延率、または中間焼鈍を行った後の累積冷間圧延率)は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。最終の冷間圧延率の好ましい上限は95%である。
【0056】
ここで、最終の冷間圧延率(%)は次のとおり定義される。
最終の冷間圧延率(%)=(1-最終の冷間圧延後の鋼板の板厚/最終の冷間圧延前の鋼板の板厚)×100
【0057】
<脱炭焼鈍工程>
脱炭焼鈍工程では、冷延工程により製造された冷延鋼板に対して、必要に応じて磁区制御処理を行った後、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶させる。また、脱炭焼鈍では、磁気特性に悪影響を及ぼすCを鋼板から除去する。本実施形態では、脱炭焼鈍工程後の鋼板を、脱炭焼鈍板と呼ぶ。
【0058】
上記の目的のため、脱炭焼鈍では、酸化度であるPHO/PHが0.18~0.80である雰囲気下で、焼鈍温度750~900℃で、10~600秒保持を行う。なお、酸化度であるPHO/PHは、雰囲気中の水蒸気分圧PHO(atm)と水素分圧PH(atm)との比によって定義できる。
【0059】
酸化度(PHO/PH)が、0.18未満であると、外部酸化型の緻密な酸化珪素(SiO)が急速に形成され、炭素の系外への放散が阻害されるため、脱炭不良が生じる。一方、0.80超であると、鋼板表面の酸化被膜が厚くなり除去が困難になる。
また、焼鈍温度が750℃未満であると、脱炭不良が生じ、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。一方、900℃超であると一次再結晶粒径が所望のサイズを超えてしまうため、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。
また、保持時間が10秒未満であると、脱炭を充分に行うことができない。一方、600秒超であると、一次再結晶粒径が所望のサイズを超えてしまうため、仕上げ焼鈍後の磁性が劣化する。
【0060】
なお、上記の酸化度(PHO/PH)に応じて、焼鈍温度までの昇温過程における加熱速度を制御してもよい。例えば、誘導加熱を含む加熱を行う場合には、平均加熱速度を、5~1000 ℃/秒とすればよい。また、通電加熱を含む加熱を行う場合には、平均加熱速度を、5~3000℃/秒とすればよい。
【0061】
また、脱炭焼鈍工程では、さらに、上記の保持の前、途中、後のいずれか一つ、または二つ以上の段階で、アンモニアを含有する雰囲気中で焼鈍して冷延鋼板を窒化する、窒化処理を行ってもよい。スラブ加熱温度が低い場合には脱炭焼鈍工程が窒化処理を含むことが好ましい。脱炭焼鈍工程にて、さらに窒化処理を行うことで、仕上げ焼鈍工程の二次再結晶前までにAlNや(Al,Si)N等のインヒビターが生成するので、二次再結晶を安定的に発現させることができる。
【0062】
窒化処理の条件については特に限定されないが、窒素含有量が0.003%以上、好ましくは0.005%以上、更に好ましくは0.007%以上増加するように窒化処理を行うことが好ましい。窒素(N)含有量が、0.030%以上となると効果が飽和するので、0.030%以下となるように窒化処理を行ってもよい。
【0063】
窒化処理の条件については特に限定されず、公知の条件で行えばよい。
例えば、窒化処理を、酸化度(PHO/PH)を0.01~0.15、750℃~900℃で10~600秒保持した後に行う場合には、冷延鋼板を室温まで冷却することなく、降温の過程でアンモニアを含有する雰囲気中で保持して窒化処理を行う。降温の過程で酸化度(PHO/PH)を0.0001~0.01の範囲とすることが好ましい。窒化処理を、酸化度(PHO/PH)を0.01~0.15、750~900℃で10~600秒の保持中に行う場合には、この酸化度の雰囲気ガスにアンモニアを導入すればよい。
【0064】
<焼鈍分離剤塗布工程>
焼鈍分離剤塗布工程では、脱炭焼鈍工程後の脱炭焼鈍板(窒化処理を行った脱炭焼鈍板も含む)に対し、必要に応じて磁区制御処理を行った後、AlとMgOとを含有する焼鈍分離剤を塗布し、塗布した焼鈍分離剤を乾燥させる。
【0065】
焼鈍分離剤が、MgOを含み、Alを含まない場合、仕上げ焼鈍工程にて、鋼板上にフォルステライト被膜が形成される。一方、焼鈍分離剤がAlを含み、MgOを含まない場合には、鋼板にムライト(3Al・2SiO)が形成される。このムライトは、磁壁移動の障害となるので、方向性電磁鋼板の磁気特性の劣化の原因となる。
【0066】
そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、焼鈍分離剤として、AlとMgOとを含有する焼鈍分離剤を用いる。AlとMgOとを含有する焼鈍分離剤を用いることで、仕上げ焼鈍後に、表面にフォルステライト被膜が形成されず、かつ平滑な表面の鋼板を得ることができる。
【0067】
焼鈍分離剤は、MgOとAlとの質量比率であるMgO/(MgO+Al)を5~50%とし、水和水分を1.5質量%以下とする。
MgO/(MgO+Al)が5%未満では、多量のムライトが形成されるため、鉄損が劣化する。一方、50%超では、フォルステライトが形成されるため、鉄損が劣化する。
また、焼鈍分離剤における水和水分が1.5質量%超であると、二次再結晶が不安定になったり、仕上げ焼鈍中に鋼板表面が酸化され(SiOが形成され)、鋼板表面の平滑化が困難となる場合がある。水和水分の下限は、特に制限されないが、例えば0.1質量%とすればよい。
【0068】
焼鈍分離剤は、水スラリー塗布又は静電塗布等で鋼板表面に塗布する。焼鈍分離剤塗布工程では、さらに、窒化マンガン、窒化鉄や窒化クロムなど仕上げ焼鈍工程で二次再結晶前に分解して脱炭鋼板または脱炭窒化板を窒化する窒化物を焼鈍分離剤に添加してもよい。
【0069】
<仕上げ焼鈍工程>
上記焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍板に仕上げ焼鈍を行い、仕上げ焼鈍板とする。焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍板に仕上げ焼鈍を施すことで、二次再結晶が進行し、結晶方位が{110}<001>方位に集積する。本実施形態では、仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、仕上げ焼鈍板と呼ぶ。
【0070】
具体的には、この仕上げ焼鈍工程では、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍板を、体積率で水素を50%以上含む混合ガス雰囲気中、1100~1200℃の温度で10時間以上保持する。焼鈍時間の上限は、特に制限されないが、例えば30時間とすればよい。このような仕上げ焼鈍により、脱炭焼鈍板で上述した二次再結晶が進行し、結晶方位が{110}<001>方位に集積する。
【0071】
<焼鈍分離剤除去工程>
焼鈍分離剤除去工程では、仕上げ焼鈍後の鋼板(仕上げ焼鈍板)の表面から、仕上げ焼鈍で鋼板と反応しなかった未反応の焼鈍分離剤等の余剰な焼鈍分離剤を水洗除去する。
【0072】
この際、水洗除去後の鉄の腐食を防止する観点から、インヒビター(防食剤)として、トリエタノールアミン、ロジンアミン、またはメカプタンの少なくとも1つを添加した水溶液を用いて洗浄除去する。この洗浄処理により、鋼板表面における鉄系水酸化物量及び鉄系酸化物量を合計で片面当り0.9g/m以下に制御することが重要である。
【0073】
鋼板表面の余剰な焼鈍分離剤の除去が不十分であり、鋼板表面における鉄系水酸化物量及び鉄系酸化物量の合計が片面当り0.9g/m超の場合、地鉄面の露出が不十分となるため、鋼板表面の鏡面化を十分に行えない場合がある。なお、鉄系水酸化物量及び鉄系酸化物量の下限は、特に制限されないが、例えば0.01g/mとすればよい。
【0074】
余剰な焼鈍分離剤を除去するため、上述のインヒビターを含む溶液による洗浄に加えて、さらにスクラバーを用いて除去を行ってもよい。スクラバーを用いることで、絶縁被膜形成工程での濡れ性を悪化させる余剰な焼鈍分離剤の除去を、確実に行うことができる。
【0075】
また、上記処理を行っても十分に余剰な焼鈍分離剤を除去できない場合は、水洗除去後に酸洗を行っても良い。酸洗を行う場合は、体積比濃度が20%未満の酸性溶液を用いて酸洗を行えばよい。例えば、酸として、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、塩素酸、酸化クロム水溶液、クロム硫酸、過マンガン酸、ペルオキソ硫酸及びペルオキソリン酸のうち1種または2種以上を合計で20体積%未満含有させた溶液を用いることが好ましく、より好ましくは10体積%未満である。体積比濃度の下限は、特に制限されないが、例えば0.1体積%とすればよい。このような溶液を用いることで、鋼板表面の余剰な焼鈍分離剤を効率的に除去することができる。なお、体積%は、室温での体積を基準とした比率とすればよい。
【0076】
また、酸洗を行う場合、溶液の液温を20~80℃とすることが好ましい。液温を上記範囲とすることで、鋼板表面の余剰焼鈍分離剤を効率的に除去することができる。
【0077】
<平滑化工程>
上記のような水洗を行うことで地鉄を露出させた後に、化学研磨により平均粗さRaを0.10μm以下に調整することで表面(地鉄面)が平滑化された仕上げ焼鈍板を得る。平均粗さRaの下限は、特に制限されないが、例えば0.01μmとすればよい。
【0078】
平滑面を得るための化学研磨として知られているものの一つに電解研磨がある。電解研磨の方法としては、例えばリン酸と無水クロム酸の電解液中で電気的に研磨することで鋼板表面の平滑化が達成できる。また、過酸化水素水中に少量の弗酸を添加した液を使用する方法もある。
【0079】
仕上げ焼鈍板の表面に凸凹が存在する場合、その凸凹により磁壁の移動が妨げられることに起因して鉄損が増大する。しかしながら、仕上げ焼鈍板の表面を十分に露出させた後に上述した平滑化処理を行うことで、極めて平坦度の高い平滑状態が得られ、磁壁の移動がスムーズに行われることにより高い鉄損改善効果を得られる。
【0080】
<絶縁被膜形成工程>
絶縁被膜形成工程では、平滑化された仕上げ焼鈍板の表面に、必要に応じて磁区制御処理を行った後、絶縁被膜を形成する。本実施形態では、絶縁被膜形成工程後の鋼板を、方向性電磁鋼板と呼ぶ。
【0081】
この絶縁被膜は、方向性電磁鋼板に張力を付与することにより、鋼板単板としての鉄損を低下させるとともに、方向性電磁鋼板を積層して使用する際に、鋼板間の電気的絶縁性を確保することにより、鉄心としての鉄損を低下させる。
【0082】
絶縁被膜は、仕上げ焼鈍板の表面に、リン酸塩、コロイダルシリカ、および結晶性燐化物を含む被膜形成溶液(被膜形成溶液1)を塗布して350~1150℃で焼き付け、降温後に、リン酸塩およびコロイダルシリカを含むが結晶性燐化物を含まない被膜形成溶液(被膜形成溶液2)を塗布して350~1150℃で焼き付けることにより形成される。
【0083】
結晶性燐化物は、化学組成として、Fe、Cr、P、およびOの合計含有量が70原子%以上かつ100原子%以下であり、Siが10原子%以下に制限される化合物を用いればよい。なお、この化合物の上記化学組成の残部は不純物であればよい。例えば、結晶性燐化物は、FeP、FeP、FeP、FeP、Fe、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)、の1種又は2種以上であることが好ましい。結晶性燐化物の平均直径は、10~300nmであることが好ましい。また、被膜形成溶液1中の結晶性燐化物は、質量比で3~35%であることが好ましい。
【0084】
この被膜形成溶液1は、上記の結晶性燐化物を制御する以外は、被膜形成溶液2と同等の溶液とすればよい。例えば、被膜形成溶液1は、リン酸塩またはコロイダルシリカを主成分とすればよい。
【0085】
被膜形成溶液1の焼き付けは、焼付温度が350~1150℃であればよい。また、焼付時間が5~300秒であることが好ましく、雰囲気の酸化度PHO/PHが0.001~1.0の水蒸気-窒素-水素の混合ガスであることが好ましい。この熱処理で、結晶性燐化物含有層を有する絶縁被膜を形成することができる。絶縁被膜の密着性を再現性よく発揮するには、酸化度PHO/PHを0.01~0.15、焼付温度を650~950℃、保持時間を30~270秒とすることがより好ましい。熱処理後は、結晶性燐化物が化学変化しないように(冷却時に結晶性燐化物が水分を取り込んで変質しないように)、雰囲気の酸化度を低く保持して、鋼板を冷却する。冷却雰囲気は、酸化度PHO/PHが0.01以下の雰囲気が好ましい。
【0086】
被膜形成溶液1の焼付けを行い、例えば室温(約25℃)まで降温後に、リン酸塩とコロイダルシリカとを主体とし結晶性燐化物を含まない被膜形成溶液2を塗布してさらに焼付ける。
【0087】
被膜形成溶液2の焼付けは、焼付温度が350~1150℃であればよい。また、焼付時間が5~300秒であることが好ましく、雰囲気の酸化度PHO/PHが0.001~1.0の水蒸気-窒素-水素の混合ガスであることが好ましい。この熱処理で、結晶性燐化物含有層を有する絶縁被膜上に、結晶性燐化物含有層を有さない絶縁被膜を形成することができる。絶縁被膜の密着性を再現性よく発揮するには、酸化度PHO/PHを0.01~0.15、焼付温度を650~950℃、保持時間を30~270秒とすることがより好ましい。熱処理後は、結晶性燐化物が化学変化しないように(冷却時に結晶性燐化物が水分を取り込んで変質しないように)、雰囲気の酸化度を低く保持して、鋼板を冷却する。冷却雰囲気は、酸化度PHO/PHが0.01以下の雰囲気が好ましい。
【0088】
上記の2回の焼付け焼鈍によって、結晶性燐化物含有層と、結晶性燐化物含有層上に接する結晶性燐化物を含有しない絶縁被膜とを形成することができる。
【0089】
被膜形成溶液1および被膜形成溶液2は、例えば、ロールコーター等の湿式塗布方法で鋼板表面に塗布することができる。
【0090】
<磁区制御工程>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、冷延工程と脱炭焼鈍工程との間(第1)、脱炭焼鈍工程と焼鈍分離剤塗布工程との間(第2)、平滑化工程と絶縁被膜形成工程との間(第3)、または絶縁被膜形成工程後(第4)のいずれかに、磁区制御処理を行う磁区制御工程を備えてもよい。
【0091】
磁区制御処理を行うことで、方向性電磁鋼板の鉄損をより低減させることができる。磁区制御処理を、冷延工程と脱炭焼鈍工程との間、脱炭焼鈍工程と焼鈍分離剤塗布工程との間、平滑化工程と絶縁被膜形成工程との間に行う場合には、圧延方向に交差する方向に延びる線状、または点状の溝部を、圧延方向に沿って所定間隔で形成することにより、180°磁区の幅を狭く(180°磁区を細分化)すればよい。
【0092】
また、磁区制御処理を絶縁被膜形成工程後に行う場合には、圧延方向に交差する方向に延びる線状、または点状の応力歪部や溝部を、圧延方向に沿って所定間隔で形成することにより、180°磁区の幅を狭く(180°磁区を細分化)すればよい。
【0093】
応力歪部を形成する場合には、レーザビーム照射、電子線照射などが適用できる。また、溝部を形成する場合には、歯車などによる機械的溝形成法、電解エッチングによって溝を形成する化学的溝形成法、および、レーザ照射による熱的溝形成法などが適用できる。 応力歪部や溝部の形成によって絶縁被膜に損傷が発生して絶縁性等の特性が劣化するような場合には、再度絶縁被膜を形成して損傷を補修してもよい。
【0094】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一例を図1に示す。実線で囲まれた工程は必須工程、破線で囲まれた工程は任意の工程であることを示す。
【0095】
本実施形態に係る製造方法で製造した方向性電磁鋼板は、フォルステライト被膜を有さない。具体的には、この方向性電磁鋼板は、母鋼板と、母鋼板上に接して配された中間層と、中間層上に接して配されて最表面となる絶縁被膜とを有する。
【0096】
方向性電磁鋼板がフォルステライト被膜を有さないことは、X線回折によって確認すればよい。例えば、方向性電磁鋼板から絶縁被膜を除去した表面に対してX線回折を行い、得られたX線回折スペクトルをPDF(Powder Diffraction File)と照合すればよい。例えば、フォルステライト(MgSiO)の同定には、JCPDS番号:34-189を用いればよい。本実施形態では、上記X線回折スペクトルの主な構成がフォルステライトでない場合に、方向性電磁鋼板がフォルステライト被膜を有さないと判断する。
【0097】
なお、方向性電磁鋼板から絶縁被膜のみを除去するには、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:30質量%+HO:70質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で20分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、方向性電磁鋼板から絶縁被膜を除去できる。通常、アルカリ溶液によって絶縁被膜のみが溶解され、塩酸などの酸性溶液によってフォルステライト被膜が溶解される。
【0098】
本実施形態に係る製造方法で製造した方向性電磁鋼板は、フォルステライト被膜を有さないので磁気特性(鉄損特性)に優れ、且つ製造工程それぞれを最適に制御しているので被膜密着性にも優れる。
【実施例1】
【0099】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得るものである。
【0100】
表1に示す化学組成の鋼スラブのうち、No.A13及びNo.a11を、1350℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.6mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、一回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して、最終板厚0.22mmの冷延鋼板とした。板厚0.22mmの冷延鋼板に対し、脱炭焼鈍工程として、表2~4に示す条件で脱炭焼鈍を施した。
【0101】
また、表1に示す化学組成の鋼スラブのうち、No.A13及びNo.a11以外を、1150℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.6mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、一回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して、最終板厚0.22mmの冷延鋼板とした。板厚0.22mmの冷延鋼板に対し、脱炭焼鈍工程として、表2~4に示す条件で脱炭焼鈍を施し、降温途中でアンモニアを含有する雰囲気中で保持する窒化処理を施した。
【0102】
なお、No.B5については、熱延後の熱延鋼板に対し1100℃で焼鈍し、引き続き900℃で焼鈍する熱延板焼鈍を施した後、酸洗を行って表面に生成したスケールを除去してから冷間圧延を行った。
【0103】
また、脱炭焼鈍の際、焼鈍温度までの昇温過程における平均加熱速度は、15℃/秒未満であった。
【0104】
上記した脱炭焼鈍後の脱炭焼鈍板に対し、AlとMgOとの比率(MgO/(Al+MgO))および水和水分が表2~4に示す条件の焼鈍分離剤を塗布して乾燥させた。
【0105】
焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍板に対し、1100℃もしくは1200℃で仕上げ焼鈍を行った。仕上げ焼鈍条件は表5~7に記載の通りとした。
【0106】
仕上げ焼鈍後、表5~7に示すように、仕上げ焼鈍板の表面から余剰の焼鈍分離剤を、トリエタノールアミン、ロジンアミン、またはメカプタンの少なくとも1つであるインヒビターを添加した溶液を用いて水洗除去した。
【0107】
また、上記の水洗後に必要に応じて酸洗を行った。例えば、表中で酸洗「有」の実施例については、余剰の焼鈍分離剤を硫酸水溶液中(硫酸の体積比濃度:1体積%)に浸漬することで酸洗を行った。
【0108】
仕上げ焼鈍板から余剰の焼鈍分離剤を除去した後、リン酸と無水クロム酸の電解液中での化学研磨(電解研磨)によって、仕上げ焼鈍板の表面を表8~10に示す平均粗さRaとした。
【0109】
その後、リン酸マグネシウムおよびコロイダルシリカを含み、必要に応じて無水クロム酸を含む水溶液の100質量部に、結晶性燐化物の微粉末10質量部を攪拌混合した被膜形成溶液(被膜形成溶液1)を塗布し、表8~10に示す温度で焼付けた。降温後さらに、結晶性燐化物を含まず、コロイダルシリカとリン酸塩とを主体とし、必要に応じて無水クロム酸を添加した被膜形成溶液(被膜形成溶液2)を塗布し、表8~10に示す温度で焼き付けた。これらの焼き付けを行って絶縁被膜を形成させた。
【0110】
なお、被膜形成溶液1に混合した結晶性燐化物は、FeP、FeP、FeP、FeP、Fe、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)P、(Fe、Cr)、のうちの少なくとも1種であった。
【0111】
また、各実施例では、表11~13に示すように、冷延工程と脱炭焼鈍工程との間(第1)、脱炭焼鈍工程と焼鈍分離剤塗布工程との間(第2)、平滑化工程と絶縁被膜形成工程との間(第3)、または絶縁被膜形成工程後(第4)のいずれかの時点で磁区制御処理を行った。磁区制御処理では、機械的、または化学的に溝を形成するか、レーザを用いて、応力歪部または溝部を形成した。
【0112】
得られた方向性電磁鋼板No.B1~B41、b1~b31について、鉄損及び被膜密着性を評価した。
【0113】
<鉄損>
作製した方向性電磁鋼板から採取した試料に対し、JIS C 2550-1:2000に基づき、エプスタイン試験により励磁磁束密度1.7T、周波数50Hzにおける鉄損W17/50(W/kg)を測定した。磁区制御を行った方向性電磁鋼板については、鉄損W17/50が0.7W/kg未満の場合を合格と判断した。また、磁区制御を行わない方向性電磁鋼板については、鉄損W17/50が1.0W/kg未満の場合を合格と判断した。
【0114】
<被膜密着性>
製造した方向性電磁鋼板から採取した試験片を、直径20mmの円筒に巻き付け(180°曲げ)、曲げ戻した時の被膜残存面積率で、絶縁被膜の被膜密着性を評価した。絶縁被膜の被膜密着性の評価は、目視で絶縁被膜の剥離の有無を判断した。鋼板から剥離せず、被膜残存面積率が90%以上を◎(VERY GOOD)、85%以上90%未満を〇(GOOD)、80%以上85%未満を△(POOR)、80%未満を×(NG)とした。被膜残存面積率が85%以上の場合(上記の◎または〇)を合格と判断した。
その結果を表11~13に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
【0119】
【表5】
【0120】
【表6】
【0121】
【表7】
【0122】
【表8】
【0123】
【表9】
【0124】
【表10】
【0125】
【表11】
【0126】
【表12】
【0127】
【表13】
【0128】
表1~13から分かるように、発明例であるNo.B1~B41はすべての工程条件が本発明範囲を満足しており、鉄損が低かった。また、被膜密着性にも優れていた。
これに対し、比較例であるNo.b1~b31については、1つ以上の工程条件が本発明範囲を外れており、鉄損及び/または被膜密着性が劣っていた。なお、比較例No.b23については、圧延ができなかったので、それ以降の評価を行っていない。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の上記態様によれば、フォルステライト被膜を有さず、かつ、磁気特性および被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法を提供できる。得られた方向性電磁鋼板は、磁気特性および被膜密着性に優れるので、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1