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特許7269523耐表面割れ感受性に優れたスラブおよびその連続鋳造方法
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  • 特許-耐表面割れ感受性に優れたスラブおよびその連続鋳造方法 図1
  • 特許-耐表面割れ感受性に優れたスラブおよびその連続鋳造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】耐表面割れ感受性に優れたスラブおよびその連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230427BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230427BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20230427BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20230427BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20230427BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/58
B22D11/00 A
B22D11/12 F
B22D11/124 L
B22D11/22 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022514058
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014469
(87)【国際公開番号】W WO2021206045
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020069306
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 謙治
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-031469(JP,A)
【文献】特開2007-070660(JP,A)
【文献】特開2007-070661(JP,A)
【文献】特開2007-070662(JP,A)
【文献】特開2005-264315(JP,A)
【文献】特開平08-073933(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045219(WO,A1)
【文献】特開2016-196031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
B22D 11/00
B22D 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.02質量%~0.50質量%、Si:0.20質量%~3.00質量%、Mn:0.50質量%~4.00質量%、Ti:0質量%~0.002質量%、Nb:0質量%~0.1質量%、V:0質量%~0.1質量%、B:0質量%~0.005質量%、Cr:0質量%~0.1質量%、Ni:0質量%~0.5質量%、Cu:0質量%~0.5質量%、及び、Al0.2質量%~2.0質量%を含有する高Al鋼のスラブであって、
Zr含有量が以下の(1)式を満たし、
前記スラブの表層部における全窒化物中のZrNの質量比率は50.0質量%以上であることを特徴とするスラブ。
[Zr]≧4/3×[Al]×[N] ・・・(1)
ここで、[Zr]、[Al]、[N]はそれぞれ前記スラブでの含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
請求項1に記載のスラブの連続鋳造方法であって、
前記スラブを矯正する際に、表面温度が800℃~1000℃の範囲で矯正を行うことを特徴とするスラブの連続鋳造方法。
【請求項3】
前記スラブの表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることを特徴とする、請求項2に記載のスラブの連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、Alを多量に含む鋼のスラブおよびその連続鋳造方法に関する。
本願は、2020年4月7日に、日本に出願された特願2020-069306号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄板用の高強度鉄鋼材料として、機械特性を向上させるためにAlを多量含有した合金鋼が多く製造されている。しかしながら、Alを多く添加するほど、連続鋳造において鋳片の表層に横ひび割れが生じやすくなり、操業上および製品の品質上の問題となっている。
【0003】
湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機中の矯正点では、矯正応力が鋳片に付与される。横ひび割れは、鋳片表層の旧オーステナイト粒界に沿って発生することが知られており、AlNやNbC等の析出により脆化したオーステナイト粒界や、旧オーステナイト粒界に沿って生成するフィルム状フェライトに矯正応力が集中することで横ひび割れが発生する。また、この横ひび割れは、特に、オーステナイトからフェライトへの相変態領域よりも少し高い温度域において発生しやすいが、非変態系組成であっても同様に横ひび割れが発生する。したがって、通常は、矯正点では延性が低下する温度域(脆化温度域)を回避するように鋳片の表面温度を制御し、横ひび割れの発生を抑制する方法が採用されている。
【0004】
しかしながら、鋳片の表面温度を制御して脆化温度域を回避するようにすると、操業上大きな制約を受けるため、困難である場合も多い。そこで特許文献1には、Tiを0.010質量%超0.025質量%以下で添加し、鋳片の凝固シェル厚さが10mm~30mmの二次冷却帯上部における鋳片の表面温度をAlNの析出開始温度以上とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6347164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年では、機械特性をより向上させるために、Alを0.20質量%以上含有する高Al鋼の製造も行われている。Al濃度が増加すると、AlNがより高温から析出し、脆化温度域が拡大する。したがって、Alを0.20質量%以上含有すると脆化温度域が顕著に拡大するため、脆化温度域を回避して曲げ及び矯正を行うことは通常の操業上ほぼ不可能であり、横ひび割れを回避することができない。またAlを0.50質量%以上含有すると、脆化温度域が更に顕著に拡大するため、冷却条件を改善した操業でも脆化温度域を回避して曲げ及び矯正を行うことはほぼ不可能であり、横ひび割れを回避することができない。なお、横ひび割れを発生させたスラブは、グラインダーなどの手入れが必要となる他、熱間圧延後の横ひび割れ起因の欠陥が確認され、歩留まりの悪化を回避することができない。本発明は連続鋳造によって得られるスラブに対して横ひび割れ手入れを必要としない製造性に優れたスラブの提供を目的とする。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では、Al濃度が0.063質量%~0.093質量%の低炭素アルミニウムキルド鋼を対象としており、Alを0.20質量%以上含有する高Al鋼ではその効果が不明である。なお、Al濃度の増加に伴ってTiを多く添加することも考えられるが、TiNの粗大化を招き、疲労強度を低下させる原因となるため、Tiの添加量にも限界がある。
【0008】
本発明は前述の問題点を鑑み、Alを0.20質量%以上含有する高Al鋼の鋳片であって、耐表面割れ感受性に優れたスラブ、およびそのスラブの連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高Al鋼の鋳片での高温脆化がAlNの多量析出が要因であることに着目し、窒化物の析出制御を検討した。具体的にはAlよりもN固定能力の高いZrを添加した鋼の高温延性を調査した。その結果、微量のZr添加によって高温延性が大きく改善することを見出した。Zrは凝固直後にZrNを生成し、Nを固定化するため、AlNの粒界への多量析出を抑制し、高Al鋼の高温脆化を抜本的に改善できることが分かった。
【0010】
以上より、本発明は以下の通りである。
(1)
C:0.02質量%~0.50質量%、Si:0.20質量%~3.00質量%、Mn:0.50質量%~4.00質量%、Ti:0質量%~0.002質量%、Nb:0質量%~0.1質量%、V:0質量%~0.1質量%、B:0質量%~0.005質量%、Cr:0質量%~0.1質量%、Ni:0質量%~0.5質量%、Cu:0質量%~0.5質量%、及び、Al:0.20質量%~2.00質量%を含有する高Al鋼のスラブであって、
Zr含有量が以下の(1)式を満たし、
前記スラブの表層部における全窒化物中のZrNの質量比率は50.0質量%以上であることを特徴とするスラブ。
[Zr]≧4/3×[Al]×[N] ・・・(1)
ここで、[Zr]、[Al]、[N]はそれぞれ前記スラブでの含有量(質量%)を表す。
【0013】

上記(1)に記載のスラブの連続鋳造方法であって、
前記スラブを矯正する際に、表面温度が800℃~1000℃の範囲で矯正を行うことを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
【0014】

前記スラブの表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることを特徴とする、上記()に記載のスラブの連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、矯正応力による割れを含まないスラブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】引張温度が700℃~1100℃の範囲での断面収縮率の変化を示す図である。
図2】引張温度が900℃での[Al]×[N]と[Zr]との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「超」または「未満」で示される数値はその値を下限値または上限値として含まない。
Alを0.20質量%以上含有する高Al鋼を製造するためには、連続鋳造中の矯正点での矯正応力によって横ひび割れが発生することを防止する必要がある。矯正点で温度を脆化温度域から外れることは困難であることから、矯正点では一般的な温度域で鋳片の矯正を行うために、本発明者らはZrを添加することを検討した。
【0018】
(第1の実験)
まず、Zrを添加することによりどの程度高温延性が改善するかを確認するための高温引張試験を行った。この試験では、表1に示す鋼種A及び鋼種Bの2種類の鋼(スラブ)で実験を行った。表1中の数値はいずれも質量%(mass%)を示しており、表1に示すように、鋼種AではZrは含まれておらず、鋼種Bでは、Zrが含まれているが、それ以外は鋼種Aとほぼ同じ組成である。なお、いずれも残部はFeおよび不純物からなる。なお、「不純物」とは、スラブを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
【0019】
【表1】
【0020】
次に、引張温度を700℃~1100℃の範囲で変更し、この2種類の鋼で断面収縮率(R.A.:Reduction Area)(%)を求めた。具体的には、JIS G0567:2020に基づき、25kgの真空溶解によって作製した各鋼種をφ15まで鍛伸加工後にφ10の引張試験片(平行部90mm)とした。高温引張試験では、コールドクルーシブルを有した高周波誘導加熱型の高温引張試験装置を用い、引張試験片を溶融後冷却速度1.0℃/sで所定の引張温度まで冷却後、所定の引張温度に保持ながら歪速度3.3×10-4(1/s)で破断まで引張を実施した。試験後の引張試験片の破断面の面積と試験前の試験片横断面積との差を試験前の試験片横断面積で除した値の百分率(%)を断面収縮率(絞り)として求めた。
【0021】
その引張試験結果を図1に示す。図1中の白い丸印は鋼種Aでの断面収縮率を表し、黒い丸印は鋼種Bでの断面収縮率を表す。図1に示すように、Zrを添加すると特に800~1000℃の温度域において断面収縮率が大きくなり、高温延性が改善されることがわかった。ここで、R.A.が50%以上であれば、矯正応力によって横ひび割れが発生しないと考えることができる。矯正点を800~1000℃の範囲で通過させることは操業上容易であることから、脆化温度域を回避するような温度制御を行わなくてもZrを添加することによって横ひび割れを防止できることがわかった。
【0022】
(第2の実験)
続いて、横ひび割れを防止するためにZrをどの程度添加する必要があるかを確認するための試験を行った。具体的には、引張温度を900℃とし、表2に示すようにAl、N、Zr量の異なる複数のサンプル(No.1~No.12)を用意して引張試験を行い、それぞれR.A.(%)を求めた。引張試験の具体的な方法は、第1の実験と同様である。その引張試験結果を表2および図2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
図2において、横ひび割れが発生しないと考えられる目安として、R.A.が50%以上であったものを○、R.A.が50%未満であったものを×とした。その結果、Zrの含有量は、Al含有量とN含有量との積と相関があることがわかった。つまり、Zr含有量が、Al含有量とN含有量との積の4/3倍以上であれば、R.A.が50%以上となり、矯正応力による横ひび割れを防止できることがわかった。
【0025】
以上の実験結果に基づき、本発明に係るスラブの化学組成について説明する。なお、本実施形態に係るスラブは、Alを0.20質量%~2.00質量%含有する高Al鋼であり、主に薄板用を対象としている。Alの好ましい下限値は0.50質量%である。Alの含有量が0.50質量%以上となる場合、上述したように横ひび割れが発生しやすいので、本実施形態の効果がより顕著に得られる。また、上述の第2の実験結果から、本実施形態に係るスラブは、以下の(1)式を満たす量のZrを含む。
[Zr]≧4/3×[Al]×[N] ・・・(1)
ここで、[Zr]、[Al]、[N]はそれぞれスラブ中の含有量(スラブの総質量に対する質量%)を表す。
【0026】
また、Zr含有量の上限は特に限定されないが、0.1質量%を超えるZrを含有しても効果が飽和し、無駄なコストアップを招くため、Zr含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。Zr含有量の下限も特に限定されないが、(1)式から決定され、Zr含有量は0.0010質量%以上であることが好ましい。また、N含有量の上限及び下限も特に限定されないが、意図的にN含有量を増加させずに、通常の精錬工程、連続鋳造工程を経て含まれる範囲として、N含有量は0.0080質量%以下とすることが好ましい。また、精錬工程でのコストを踏まえると、N含有量は0.0010質量%以上とすることが好ましい。また、高Al鋼を対象としているが、Al含有量が2.00質量%を超えると(1)式よりZr含有量も増加し、無駄にコストアップを招く。したがって、Al含有量は0.20~2.00質量%であり、好ましくは0.50~2.00質量%、より好ましくは0.55~2.00質量%、更に好ましくは0.60~2.00質量%である。
【0027】
以上のように本実施形態に係るスラブでは、Zr、Al、Nの含有量の関係が上述の(1)式の条件を満たすものとする。一方、その他の元素の含有量については特に限定しないが、C、Si、Mnは以下の範囲で含有することが好ましく、本願において明細書に示したC、Si、Mn等の範囲であれば、発明の課題を解決できる事を確認した。
【0028】
<C:0.02質量%~0.50質量%>
Cは鋼の強度向上元素であり、C含有量が0.02質量%未満であると高強度鋼板としての用途を満たさない。また、C含有量が0.50質量%を超えると硬度が高くなりすぎ、必要な曲げ性を担保できない。したがって、C含有量は0.02質量%~0.50質量とする。
【0029】
<Si:0.20質量%~3.00質量%>
Siは鋼の強度向上元素であり、Si含有量が0.20質量%未満であると高強度鋼板としての用途を満たさない。また、Si含有量が3.00質量%を超えると溶接性に悪影響を及ぼす。したがって、Si含有量は0.20質量%~3.00質量%とすることが好ましい。
【0030】
<Mn:0.50質量%~4.00質量%>
Mnは鋼の強度向上元素であり、Mn含有量が0.50質量%未満であると高強度鋼板としての用途を満たさない。また、Mn含有量が4.00質量%を超えると、Mnは偏析元素であるため、鋳片や鋼板において強度ムラの発生を引き起こす可能性がある。したがって、Mn含有量は0.50質量%~4.00質量%とすることが好ましい。上記以外の残部は鉄及び不純物であるが、鉄の一部に代えていくつかの成分を含んでもよい。ここで、「不純物」とは、上述したように、スラブを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。したがって、本実施形態に係るスラブは、例えば、質量%でAl:0.20~2.00%、Zr:0.1%以下、N:0.0010~0.0080%、C:0.02~0.50%、Si:0.20~3.00%、Mn:0.50~4.00%、P:0.0005~0.1%、S:0.0001~0.05%、Mo:0~0.1%、Nb:0~0.1%、V:0~0.1%、B:0~0.005%、Cr:0~0.1%、Ni:0~0.5%、Cu:0~0.5%を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、さらに上述した(1)式を満たす。
【0031】
さらに、上述したように、Zrは凝固直後にZrNを生成し、Nを固定化するため、AlNの粒界への多量析出を抑制し、高Al鋼の高温脆化を抜本的に改善でき、スラブの横ひび割れを回避することが可能となる。このような観点から、スラブ表面組織が一様に存在する5mmの表層部における全窒化物中のZrNの質量比率は50.0質量%以上であることが好ましく、60.0質量%以上であることがさらに好ましく、75.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
ここで、スラブの表層部におけるZrNの質量比率は以下の方法で測定される。製造したスラブから鋳片表層観察用のサンプル(例えば鋳片幅中央より25mm幅25mm長25mm厚)を切り出し、鋳片の表面から5mm深さ位置における面を鏡面研磨し、観察面を調製する。ついで、露出面(観察面)をSEM/EDS(エネルギー分散型X線分析装置搭載走査型電子顕微鏡)で観察する。これにより、観察面における元素マッピングを行い、観察面における大きさ200~5000nm(円相当径)の全窒化物を特定する。ここで、観察されうる窒化物としては、例えば、ZrN、AlN、TiN、NbN、BN、VN等が挙げられる。そして、特定結果に基づいて得られた全窒化物中のZrNの面積比率から、スラブ表層部における全窒化物が一様に分布しているとの仮定から、面積比率を体積比率とみなすことができ、体積比から全窒化物中のZrNの質量比率を求める。なお、ZrNは、Zrを窒化物粒子の総質量に対して50質量%以上含む窒化物として定義される。
【0033】
次に、上述のスラブの連続鋳造方法について説明する。本実施形態では、脆化温度域を回避する必要がないことから、連続鋳造においては特に一般的な方法を用いることができる。上述の第1の実験の結果から、鋳片を矯正する際に、鋳片の表面温度が800℃~1000℃となっている状態で矯正を行う場合に、特に効果が顕著になるため好ましい。
【0034】
ここで、スラブの表層部における平均冷却速度を120℃/min以下とすることが好ましく、60℃/min以下とすることがより好ましい。この場合、表層部におけるZrNの質量比率を50.0質量%以上にすることができる。特に、スラブの表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることで、表層部におけるZrNの質量比率を60.0質量%以上にすることができる。スラブの表層部における平均冷却速度は以下の方法で測定される。すなわち、スラブの幅方向中央部の表面の温度を熱電対等で測定し、その位置から深さ5mmの位置(測定位置)における1450~1000℃までの平均冷却速度を二次元の伝熱計算により算出する。具体的には、これらの温度の差分(450℃)を、測定位置の温度を1450℃から1000℃まで冷却するのに要した時間で除する。これにより、スラブの表層部における平均冷却速度を測定する。スラブの表層部における平均冷却速度は、二次冷却水量によって調整することが可能である。平均冷却速度の下限値は例えば20℃/minであればよい。
【実施例
【0035】
次に、本発明の実施例について説明するが、この条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この実施例の記載に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する種々の手段にて実施することができる。
【0036】
C含有量が0.3質量%、Si含有量が1.5質量%、Mn含有量が2.0質量%で、Al含有量、N含有量及びZr含有量がそれぞれ異なる16種類の溶鋼を用意し、それぞれ鋳型に流し込み、連続鋳造機にて連続鋳造を行った。なお、連続鋳造機は、鋳型サイズ250mm厚み×1200mm幅の垂直曲げ型の連続鋳造機を使用し、鋳造速度を1.2m/minとした。また、矯正点では、いずれも鋳片の表面温度を850℃とした。また、表層部における平均冷却速度を表3に示す値(60℃/minまたは120℃/min)とした。
【0037】
以上の条件で作製したそれぞれのスラブにおいて、上述した方法によりスラブの表層部におけるZrNの質量比率を測定した。さらに、一部のスラブにおいては、第1の実験と同様に900℃における断面収縮率(R.A.)(%)を求めた。さらに、スラブの横ひび割れに関しては、以下の評価基準で評価した。すなわち、スラブの表裏面を0.7mmグラインダー後、目視で横ひび割れの有無を確認した。さらに、横ひび割れを確認できなかったスラブを疵の手入れをすることなく、熱延工程の加熱炉で1200℃に加熱し、粗圧延後、仕上げ温度880℃、板厚2.8mmの条件で熱間圧延し、熱間圧延後の横ひび割れに起因する欠陥の有無を目視で確認した。熱間圧延後も横ひび割れに起因する欠陥がなかったスラブをVG(Very Good)、熱間圧延後に横ひび割れに起因する欠陥が確認できたスラブをG(Good)、熱間圧延前に横ひび割れが確認できたスラブをB(Bad)と評価した。実験結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3中の下線は、本発明の条件を満たさなかった例である。表3に示すように、(1)式の条件を満たす場合には、AlやNの含有量によらず、横ひび割れは存在しなかった。一方、(1)式を満たさなかった場合は、Zrが不足し、AlNが多く残存していたと考えられ、横ひび割れが発生していた。(1)式を満たさなかった場合、スラブの表層部におけるZrNの質量比率も50.0質量%を下回っていた。
【0040】
さらに、スラブの表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることでスラブの表層部におけるZrNの質量比率を60質量%以上とすることができた。この場合、熱間圧延後も横ひび割れに起因する欠陥が確認されなかった。一方、スラブの表層部における平均冷却速度が120℃/minとなる場合、スラブの表層部におけるZrNの質量比率は50.0質量%以上60.0質量%未満となった。この場合、熱間圧延前には横ひび割れが確認されなかったが、熱間圧延後に横ひび割れに起因する欠陥が確認された。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1
図2