IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ホットスタンプ部材 図1
  • 特許-ホットスタンプ部材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】ホットスタンプ部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20230427BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230427BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230427BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230427BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230427BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230427BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20230427BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20230427BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20230427BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20230427BHJP
   C23C 14/16 20060101ALI20230427BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20230427BHJP
   C25D 5/30 20060101ALI20230427BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20230427BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20230427BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/60
C23C2/12
C23C2/26
C23C4/06
C23C4/18
C23C14/16 A
C23C14/58 A
C25D5/30
C25D5/50
C22C19/05 B
C22C21/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022522187
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018154
(87)【国際公開番号】W WO2021230306
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020084583
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
(72)【発明者】
【氏名】崎山 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】原野 貴幸
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532442(JP,A)
【文献】特開2011-152589(JP,A)
【文献】特表2020-509200(JP,A)
【文献】特表2019-518136(JP,A)
【文献】特表2018-513909(JP,A)
【文献】国際公開第2017/182382(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3489386(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0075682(KR,A)
【文献】国際公開第2019/097440(WO,A1)
【文献】特開平8-60326(JP,A)
【文献】特開平4-246182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C21D 1/18
C21D 9/00
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/60
C23C 2/12
C23C 2/26
C23C 4/06
C23C 4/18
C23C 14/16
C23C 14/58
C25D 5/30
C25D 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、前記母材上に設けられためっき層と、を備えるホットスタンプ部材であって、前記めっき層が、
Ni含有量が50質量%以上であるNiリッチ領域と、
Ni含有量が50質量%未満であり、Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%以下であるAlリッチ領域と、
Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%超であるFeリッチ領域と、を前記めっき層の表面からこの順で有し、
前記めっき層の前記表面~前記めっき層の前記表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、
Ni含有量の最大値が50質量%以上であり、
Fe含有量が10質量%以下であり、
前記めっき層の前記表面から前記厚み方向に100nm位置~前記めっき層の前記表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、
Ni含有量の最大値が5質量%以上であり、
Fe含有量が25質量%以下であり、
前記めっき層の前記表面から前記厚み方向に500nm位置~前記めっき層の前記表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、
Ni含有量の最大値が1質量%以上であり、
Fe含有量が30質量%以下である、
ことを特徴とするホットスタンプ部材。
【請求項2】
前記めっき層の前記表面~前記めっき層の前記表面から前記厚み方向に20nm位置までの領域において、
Ni酸化物およびNi水酸化物の少なくとも一方が存在し、かつ、Ni含有量が30質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のホットスタンプ部材。
【請求項3】
前記母材の化学組成が、質量%で、
C :0.01%以上、0.70%未満、
Si:0.005~1.000%、
Mn:0.15~3.00%、
sol.Al:0.00020%~0.50000%、
P :0.100%以下、
S :0.1000%以下、
N :0.0100%以下、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Nb:0~0.150%、
V:0~1.000%、
Ti:0~0.150%、
Mo:0~1.000%、
Cr:0~1.000%、
B :0~0.0100%、
Ca:0~0.010%、
REM:0~0.300%、および
残部:Fe及び不純物
であることを特徴とする請求項1または2に記載のホットスタンプ部材。
【請求項4】
前記母材の前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.005~1.00%、
Ni:0.005~1.00%、
Nb:0.010~0.150%、
V:0.005~1.000%、
Ti:0.010~0.150%、
Mo:0.005~1.000%、
Cr:0.050~1.000%、
B :0.0005~0.0100%、
Ca:0.001~0.010%、および
REM:0.001~0.300%以下
からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項3に記載のホットスタンプ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ部材に関する。本願は、2020年5月13日に、日本に出願された特願2020-084583号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護及び省資源化の観点から自動車車体の軽量化が求められており、自動車用部材への高強度鋼板の適用が加速している。自動車用部材はプレス成形によって製造されるが、鋼板の高強度化に伴い成形荷重が増加するだけでなく、成形性が低下するため、高強度鋼板においては、複雑な形状の部材への成形性が課題となる。このような課題を解決するため、鋼板が軟質化するオーステナイト域の高温まで加熱した後にプレス成形を実施するホットスタンプ技術の適用が進められている。ホットスタンプは、プレス加工と同時に、金型内において焼入れ処理を実施することで、自動車用部材への成形性と自動車用部材の強度確保とを両立する技術として注目されている。
【0003】
めっきなどを施していない裸材の鋼板に対してホットスタンプを行う場合、加熱時のスケールの形成及び表層脱炭を抑制するために、非酸化雰囲気でホットスタンプを行う必要がある。しかし、非酸化雰囲気でホットスタンプを行っても、加熱炉からプレス機までは、大気雰囲気であるので、ホットスタンプ後の鋼板の表面にはスケールが形成される。この鋼板の表面のスケールは、密着性が悪く、簡単に剥離してしまうため、他工程への悪影響が懸念される。そのため、ショットブラストなどを用いて除去する必要がある。ショットブラストは、鋼板の形状への影響があるという問題がある。また、スケール除去工程によって、ホットスタンプ工程の生産性が低下するという問題がある。
【0004】
鋼板表面のスケールの密着性を改善するために、鋼板の表面にAlめっき又はZnめっきを形成する方法がある。Alめっき又はZnめっきを形成することで、ホットスタンプを行っても鋼板の表面に密着性のよいスケールが形成されるため、スケール除去の工程が不要となる。そのため、ホットスタンプ工程の生産性が改善される。
【0005】
Alめっきを鋼板に施す場合、ホットスタンプ時にAlめっきの表面において、Alと水との反応が起こり、水素が発生する。そのため、鋼板への侵入水素量が多いという問題がある。この鋼板への水素の侵入量が多いと、ホットスタンプ後に応力を負荷すると鋼板が割れてしまう(水素脆化)。
【0006】
Alめっきを付与した鋼板において侵入水素量を低減するために、例えば、特許文献1には、鋼板の表面領域においてニッケルを富化する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、ニッケル及びクロムを含み、重量比Ni/Crが1.5~9の間であるバリアプレコートで鋼板を被覆する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2016/016707号
【文献】国際公開2017/187255号
【文献】日本国特開平11-269664号公報
【文献】日本国特開平4-246182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の鋼板をホットスタンプして、ホットスタンプ部材を作製する場合、ホットスタンプ部材の表面のAlとNiとの間に電位差があることから、ホットスタンプ部材の腐食が進行するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた発明であり、ホットスタンプ部材の表面にNiとAlとを含有するめっき層を有していても、優れた耐食性を有するホットスタンプ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、Ni層をAlめっき層表面に設け、ホットスタンプ時の熱処理を制御することで、ホットスタンプ部材の最表面へのFeの拡散を抑制し、ホットスタンプ部材の腐食を抑制できることを見出した。また、同様に、ホットスタンプ時の熱処理を制御して、AlとNiとを適切に合金化させることで、AlとNiとの電位差による腐食を抑制できることを見出した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を進めてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るホットスタンプ部材は、
母材と、前記母材上に設けられためっき層と、を備えるホットスタンプ部材であって、前記めっき層が、
Ni含有量が50質量%以上であるNiリッチ領域と、
Ni含有量が50質量%未満であり、Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%以下であるAlリッチ領域と、
Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%超であるFeリッチ領域と、を前記めっき層の表面からこの順で有し、
前記めっき層の前記表面~前記めっき層の前記表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、
Ni含有量の最大値が50質量%以上であり、
Fe含有量が10質量%以下であり、
前記めっき層の前記表面から前記厚み方向に100nm位置~前記めっき層の前記表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、
Ni含有量の最大値が5質量%以上であり、
Fe含有量が25質量%以下であり、
前記めっき層の前記表面から前記厚み方向に500nm位置~前記めっき層の前記表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、
Ni含有量の最大値が1質量%以上であり、
Fe含有量が30質量%以下である。
(2)上記(1)に記載のホットスタンプ部材は、
前記めっき層の前記表面~前記めっき層の前記表面から前記厚み方向に20nm位置までの領域において、
Ni酸化物およびNi水酸化物の少なくとも一方が存在し、かつ、
Ni含有量が30質量%以上であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のホットスタンプ部材は、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C :0.01%以上、0.70%未満、
Si:0.005~1.000%、
Mn:0.15~3.00%、
sol.Al:0.00020%~0.50000%、
P :0.100%以下、
S :0.1000%以下、
N :0.0100%以下、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Nb:0~0.150%、
V:0~1.000%、
Ti:0~0.150%、
Mo:0~1.000%、
Cr:0~1.000%、
B :0~0.0100%、
Ca:0~0.010%、
REM:0~0.300%、および
残部:Fe及び不純物
であってもよい。
(4)上記(3)に記載のホットスタンプ部材は、
前記母材の前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.005~1.00%、
Ni:0.005~1.00%、
Nb:0.010~0.150%、
V:0.005~1.000%、
Ti:0.010~0.150%、
Mo:0.005~1.000%、
Cr:0.050~1.000%、
B :0.0005~0.0100%、
Ca:0.001~0.010%、および
REM:0.001~0.300%以下
からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、ホットスタンプ部材の表面にNiとAlとを含有するめっき層を有していても、優れた耐食性を有するホットスタンプ部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るめっき層の深さ方向のプロファイルである。
図2】本発明の実施形態に係るめっき層の表面~めっき層の1000nm位置までのプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ホットスタンプ部材>
本発明者らが鋭意検討した結果、Alめっき層の表面にNiめっき層を備えたAlめっき鋼板とした上で、更にホットスタンプする際の熱処理を適切に行う事で、ホットスタンプ部材のめっき層のAl、Ni、及びFeの深さ方向の分布を制御することが優れた耐食性を得るために重要であることが分かった。
【0016】
本発明者らが、さらに鋭意検討したところ、下記の知見を得た。
(A)ホットスタンプ部材がめっき層を備え、前述のめっき層が、Ni含有量が50質量%以上であるNiリッチ領域と、Ni含有量が50質量%未満であり、Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%以下であるAlリッチ領域と、Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%超であるFeリッチ領域と、を備えることで、ホットスタンプ部材の腐食を抑制することができる。
(B)めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値を50質量%以上、Fe含有量を10質量%以下とすることで、ホットスタンプ部材の腐食を抑制することができる。
(C)めっき層の表面から厚み方向に100nm位置~めっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値を5質量%以上、Fe含有量を25質量%以下とすることで、ホットスタンプ部材の腐食を抑制することができる。
(D)めっき層の表面から厚み方向に500nm位置~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値を1質量%以上、Fe含有量を30質量%以下とすることで、ホットスタンプ部材の腐食を抑制することができる。
【0017】
本実施形態に係るホットスタンプ部材では、上述の知見に基づいて、ホットスタンプ部材の構成を決定した。本実施形態に係るホットスタンプ部材は、上記に記載の構成の相乗効果によって、本発明の目的とする効果が得られる。本実施形態に係るホットスタンプ部材は、母材と母材上に設けられためっき層とを備える。Alめっきの上にNiめっきを施す技術としては、特許文献3および4のように、抵抗溶接の際の電極の摩耗を抑制するために、Alめっきの上にNiめっきを施す技術があった。しかし、Alめっきを施した鋼板をホットスタンプして得たホットスタンプ部材は、表面にAlめっきの表面にAl酸化被膜が形成される。このため、Alめっき鋼板をホットスタンプすれば、溶接用電極(通常はCu-Cr合金が用いられる)側にAlが溶食(拡散)し、溶接用電極の先端部にCu-Al-Fe系の金属間化合物が生成することはない。Alめっき鋼板がホットスタンプされたホットスタンプ部材に対し、抵抗溶接を行っても、溶接用電極は殆ど消耗しない。そのため、特許文献3および4を利用して、Alめっきの上にNiめっきを施された、高価な鋼板を、ホットスタンプに用いる動機がなかった。このため、Alめっきの上にNiめっきを施した鋼板をホットスタンプすることにより製造できるホットスタンプ部材は、存在していなかった。なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。化学組成についての%は全て質量%を示す。
【0018】
(めっき層)
本実施形態に係るホットスタンプ部材のめっき層の構造を、図1を用いて説明する。図1は、ホットスタンプ部材のめっき層の深さプロファイルである。図1の縦軸は各元素の含有量(mass%)を示し、横軸はホットスタンプ部材の最表面からの深さを示す(最表面:0μm)。深さプロファイルにおいて、含有量5%以上検出されたFeの含有量、Alの含有量、Niの含有量、Siの含有量、Oの含有量を図1に示す。この例では、Ni含有量が、深さ0.1μm付近で10質量%程度まで低下し、更に深くなるとNi含有量が上昇している。この理由は不明だが、下記の理由が考えられる。ホットスタンプ部材の表面近傍で緻密なNiの酸化被膜が形成され、AlがNiの酸化被膜内に拡散されないため表面は高濃度のNi領域となる。一方、Ni酸化被膜の次の領域ではAlの酸化物が生成されており、酸素が上昇することで、検出元素を100分率とするとNiの含有量の減少が目立つ。Alの方がNiよりも酸素と反応しやすいため、表面にAlが拡散し、その結果、Ni含有量が、深さ0.1μm付近で10質量%程度まで低下し、更に深くなるとNi含有量が上昇するということが考えられる。
【0019】
ホットスタンプ部材のめっき層のNi含有量が50質量%以上となるNiリッチ領域は、図1の領域Aとなる。Ni含有量が50質量%未満であり、Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%以下であるAlリッチ領域は図1の領域Bとなる。Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%超であるFeリッチ領域は図1の領域Cとなる。ホットスタンプ部材の最表面に、Ni含有量が50質量%以上となるNiリッチ領域が存在し、かつ、Niリッチ領域、Alリッチ領域、及びFeリッチ領域がこの順でめっき層に存在することで、ホットスタンプ部材の腐食を抑制することができる。ホットスタンプ部材のめっき層の厚みは、Niリッチ領域、Alリッチ領域、及びFeリッチ領域の各領域の厚みの合計から計算される。
【0020】
次に、本実施形態に係るホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの構造を図2を用いて説明する。図2の縦軸は各元素の含有量(mass%)を示し、横軸はホットスタンプ部材の最表面からの深さを示す(最表面:0μm)。深さプロファイルにおいて、含有量5%以上検出されたFeの含有量、Alの含有量、Niの含有量、Siの含有量、Oの含有量を図2に示す。
【0021】
本実施形態に係るホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域は、図2の領域Dとなる。ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置~めっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域は図2の領域Eとなる。めっき層の表面から厚み方向に500nm位置~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域は図2の領域Fとなる。以下、各領域について説明する。
【0022】
「めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域」
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値は50質量%以上、Fe含有量は10質量%以下である。めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Al含有量は1質量%以上としてもよい。
【0023】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値が50質量%未満の場合、ホットスタンプ部材の最表面のAl含有量又はFe含有量が過度に多くなり、ホットスタンプ部材の耐食性が低下する。そのため、Ni含有量の最大値は50質量%以上である。より好ましいNi含有量の最大値は、70質量%以上である。Ni含有量は90質量%以下としてもよい。
【0024】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Fe含有量が10質量%超の場合、ホットスタンプ部材の腐食の原因となるFeがホットスタンプ部材の最表面に過度に多くなり、ホットスタンプ部材の耐赤錆性が低下する。そのため、Fe含有量は10質量%以下である。より好ましいFe含有量は、5質量%以下である。
【0025】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Al含有量の最大値が1質量%未満である場合、ホットスタンプ部材の耐白錆性を改善するNiとAlとの金属間化合物が形成されない場合がある。そのため、Al含有量の最大値は1質量%以上とすることが好ましい。より好ましいAl含有量の最大値は、5%以上である。Al含有量は80質量%以下であってもよい。めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Cr含有量は6質量%以下、4質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下としてもよく、Ni含有量(質量%)とCr含有量(質量%)との比(Ni/Cr)は,10以上、15以上、30以上又は50以上であってもよい。
【0026】
「めっき層の表面から厚み方向に100nm位置~めっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域」
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値が5質量%以上であり、Fe含有量が25質量%以下である。
【0027】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値が5質量%未満の場合、ホットスタンプ部材の耐白錆性を改善するNiとAlとの金属間化合物が形成されない。そのため、Ni含有量の最大値は5質量%以上である。より好ましいNi含有量の最大値は10%以上である。
【0028】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、Fe含有量が25質量%超の場合、ホットスタンプ部材の最表面におけるFe含有量が過度に多くなる。そのため、Fe含有量は、25質量%以下である。より好ましいFe含有量は、15質量%以下である。
【0029】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、残部は、Al、Si、及び不純物である。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから及び/又は本実施形態に係るホットスタンプ部材を製造する過程で混入し、あるいは意図的に添加したものであって、ホットスタンプ部材の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0030】
「めっき層の表面から厚み方向に500nm位置~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域」
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値は1質量%以上であり、Fe含有量は30質量%以下である。
【0031】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Ni含有量の最大値は1質量%未満の場合、ホットスタンプ時の加熱が十分に行われていない可能性がある。このため、ホットスタンプ後のNiめっきとAlめっきの密着性が不十分となり、剥離する可能性がある。そのため、Ni含有量の最大値は1質量%以上である。より好ましいNi含有量の最大値は5質量%以上である。Ni含有量の最大値は30質量%以下であってもよい。
【0032】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Fe含有量が30質量%超の場合、ホットスタンプ部材の最表面のFe含有量が過度に多くなる。そのため、Fe含有量は、30質量%以下である。より好ましいFe含有量は、20質量%以下である。
【0033】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、残部は、AlとSiと不純物である。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから及び/又は本実施形態に係るホットスタンプ部材を製造する過程で混入し、あるいは意図的に添加したものであって、ホットスタンプ部材の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0034】
ホットスタンプ部材のめっき層の各元素の深さプロファイルはグロー放電発光分析(GDS)で測定することができる。放電条件は35W(定電力モード)、測定時のAr圧力は600Pa、放電範囲は4mmφで測定を行うことができる。電極間距離は0.15mm~0.25mmとし、サンプル背面から高周波あるいは直接グロー、高周波グローなどから選択して印加して測定しても良い。放電電圧は30W~50W(定電力モード)、測定時のAr圧力は500Pa~700Paで測定しても良い。放電範囲は2mmφ~6mmφで測定しても良い。1か所の測定時間は、Feが90質量%以上検出されるようになるまでの時間(αとする)を測定し、その時間の2割程度の時間(α×0.2)をさらに測定(合計α+0.2α)しても良い。ホットスタンプ部材の最表面から母材のFe元素が安定する領域まで測定を行うことで、各元素の深さプロファイルを得ることができる。めっき層の表面からの深さ(nm)は、以下のように求める。まず、測定開始から終了までに削られた深さと測定時間とから、単位時間当たりに削れる深さを算出する。次に、得られた単位時間当たりに削れる深さに測定時間を乗じて、ホットスタンプ部材のめっき層の表面からの深さを計算する。得られた深さプロファイルにおいて、Ni含有量が50質量%以上となる領域をNiリッチ領域、Niリッチ領域に接し、Ni含有量が50質量%未満であり、Al含有量が10質量%以上であり、Fe含有量が50質量%以下である領域をAlリッチ領域とし、Alリッチ領域に接し、Al含有量が10質量%以上、Fe含有量:50質量%超の領域をFeリッチ領域とする。
【0035】
「めっき層の表面のNi酸化物およびNi水酸化物」
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni酸化物及びNi水酸化物の少なくとも一方が存在してもよい。めっき層の表面にNi酸化物及びNi水酸化物の少なくとも一方が存在することで、化成性・電着塗装性が良好となるためである。Ni酸化物としては、NiO又はNiが挙げられる。Ni水酸化物としては、NiOH又はNi(OH)が挙げられる。
【0036】
「めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni含有量が30質量%以上である」
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni含有量が30質量%以上であることが好ましい。Ni含有量が30質量%以上であれば、ホットスタンプ部材の最表面のFe含有量をさらに、抑制することができる。より好ましいNi含有量は、40質量%以上である。
【0037】
Ni酸化物及びNi水酸化物の存在の確認は、X線光電子分光法測定(XPS測定)で行う事が出来る。具体的には、Arスパッタリング(加速電圧20kV、スパッタレート1.0nm/min)でホットスタンプ部材のスパッタリングエッチングを行った後に、XPS測定を行う。XPS測定は、アルバック・ファイ社製のQuantum2000型を用い、線源Al Kα線を用い、出力15kV、25W、スポットサイズ100μm、スキャン回数10回、ホットスタンプ部材の最表面を全エネルギー範囲で走査して測定する。このArスパッタリングエッチングとXPS測定とは交互に行い、めっき層から厚み方向に20nm位置まで、これらの測定を繰り返す。めっき層の表面からの深さは、スパッタリングエッチング時間とスパッタリングレートとから算出する。スパッタエッチングレートはSiO換算で行う。ホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni酸化物又はNi水酸化物の2p軌道に由来する854eV~857eVにピークが検出される場合を、ホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni酸化物及びNi水酸化物の少なくとも一方が存在すると判定する。より具体的には、Ni酸化物やNi水酸化物の有無は、上記の方法での試料のXPS測定後、試料を取り除いた後にバックグラウンドを測定する。その後、試料の測定データからバックグラウンドを除去する。バックグラウンド除去後に、854eV~857eVのNi酸化物やNi水酸化物のピーク該当部分において1000c/s以上のピークが検出される場合を、Ni酸化物やNi水酸化物が存在すると判定する。ホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域におけるNi含有量は、上記のXPS測定で検出された全元素から計算して求める。
【0038】
「めっき層の厚み」
ホットスタンプ部材のめっき層の厚みは、Niリッチ領域、Alリッチ領域、及びFeリッチ領域の厚みの合計とする。ホットスタンプ部材のめっき層の厚みが5μm未満の場合、十分な耐食性が得られない場合がある。そのため、めっき層の厚みは、5μm以上であることが好ましい。めっき層の厚みが200μm超の場合、耐食性向上の効果が飽和する。そのため、めっき層の厚みは200μm以下とすることが好ましい。Niリッチ領域の厚みは、0.025μm以上であることが好ましい。Niリッチ領域の厚みは、2μm以下であることが好ましい。Niリッチ領域の厚みは、0.025μm~2μmであると、ホットスタンプ部材の腐食をより抑制することができる。Niリッチ領域の厚みは、0.03μm以上、0.04μm以上であってもよい。Niリッチ領域は、2μm以下、1μm以下、0.5μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下又は0.10μm以下、0.05μm以下であってもよい。Alリッチ領域の厚みは、5μm以上であることが好ましい。Alリッチ領域の厚みは、140μm以下であることが好ましい。Alリッチ領域の厚みは、5μm~140μmであると、ホットスタンプ部材の腐食をより抑制することができる。Alリッチ領域の厚みは、7μm以上、9μm以上又は12μm以上であってもよい。Alリッチ領域の厚みは、100μm以下、60μm以下、30μm以下、20μm、又は15μm以下であってもよい。Feリッチ領域の厚みは、2μm以上であることが好ましい。Alリッチ領域の厚みは、150μm以下であることが好ましい。Feリッチ領域の厚みは、2μm~150μmであると、ホットスタンプ部材の腐食をより抑制することができる。Feリッチ領域の厚みは3μm以上、5μm以上又は8μm以上であってもよい。Feリッチ領域の厚みは、80μm以下、50μm以下、30μm以下又は20μm以下であってもよい。
【0039】
(母材)
本実施形態に係るホットスタンプ部材の母材は、化学組成が、質量%で、C:0.01%以上、0.70%未満、Si:0.005%~1.000%、Mn:0.15%~3.00%、sol.Al:0.0002%~0.5000%、P:0.100%以下、S:0.1000%以下、N:0.0100%以下、Cu:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Nb:0~0.150%、V:0~1.000%、Ti:0~0.150%、Mo:0~1.000%、Cr:0~1.000%、B:0~0.0100%、Ca:0~0.010%、REM:0%~0.300%、残部:Fe及び不純物であることが好ましい。
【0040】
「C:0.01%以上、0.70%未満」
Cは、焼入れ性を確保するために重要な元素である。母材のC含有量が0.01%未満では、十分な焼入れ性を得ることが困難となり、強度が低下する。そのため、母材のC含有量は0.01%以上とすることが好ましい。母材のC含有量は、0.08%以上、0.18%以上または0.25%以上であってもよい。一方、母材のC含有量が0.70%以上では、粗大な炭化物が生成して脆性破壊が生じやすくなる。そのため、C含有量は0.70%未満とすることが好ましい。母材のC含有量は、好ましくは0.38%以下である。
【0041】
「Si:0.005%~1.000%」
Siは、焼入れ性を確保するために含有させる元素である。母材のSi含有量が0.005%未満では上記効果が得られない。そのため、母材のSi含有量は0.005%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Siを0.100%以上含有させることが好ましい。Cuを含有する場合は、Cuの熱間脆性を抑制するために、Si含有量は0.350%以上が好ましい。一方、鋼中のSi含有量が1.000%を超えると、オーステナイト変態温度(Ac等)が非常に高くなり、ホットスタンプのための加熱に要するコストが上昇したり、ホットスタンプ加熱時にフェライトが残留してホットスタンプ部材の強度が低下したりする場合がある。このため、母材のSi含有量は1.000%以下とすることが好ましい。母材のSi含有量は、好ましくは0.800%以下である。Cuを含有する場合は、オーステナイト変態温度の温度が高くなるので、母材のSi含有量は、0.600%以下が好ましい。Si含有量は、0.400%または0.250%以下であってもよい。
【0042】
「Mn:0.15%~3.00%」
Mnは、焼入れ性に寄与する元素である。母材のMn含有量が0.15%未満では、焼入れ性が低く、ホットスタンプ部材の引張強さが低下する。そのため、母材のMn含有量は0.15%以上とすることが好ましい。母材のMn含有量は、好ましくは0.80%以上である。一方、母材のMn含有量を3.00%超とすると、鋼中に粗大な介在物が生成して脆性破壊が生じやすくなるので、母材のMn含有量は、3.00%以下とすることが好ましい。母材のMn含有量は、好ましくは2.00%以下である。
【0043】
「sol.Al:0.00020%~0.50000%」
Alは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する(鋼にブローホールなどの欠陥が生じることを抑制する)作用を有する元素である。母材のsol.Al含有量が0.00020%未満では、脱酸が十分に行われず上記効果が得られないため、母材のsol.Al含有量は0.00020%以上とすることが好ましい。母材のsol.Al含有量は、好ましくは0.00100%以上、または0.00200%以上である。一方、母材のsol.Al含有量が0.50000%を超えると、鋼中に粗大な酸化物が生成し、引張強度などが低下する。そのため、母材のsol.Al含有量は0.50000%以下とすることが好ましい。母材のsol.Al含有量は、好ましくは0.40000%以下、または0.30000%以下である。なお、母材のsol.Alとは、酸可溶性Alを意味し、固溶状態で鋼中に存在する固溶Alと、AlN等の酸可溶性析出物として鋼中に存在するAlと、の総量のことをいう。
【0044】
「P:0.100%以下」
Pは、粒界に偏析し、粒界の強度を低下させる元素である。母材のP含有量が0.100%を超えると、粒界の強度が著しく低下して、ホットスタンプ部材の強度が低下する。そのため、母材のP含有量は0.100%以下とすることが好ましい。母材のP含有量は、好ましくは0.050%以下である。より好ましい母材のP含有量は、0.010%以下である。母材のP含有量の下限は特に限定しないが、0.0005%未満に低減すると、脱Pコストが大幅に上昇し、経済的に好ましくないため、実操業上、母材のP含有量の下限は0.0005%としてもよい。
【0045】
「S:0.1000%以下」
Sは、鋼中に介在物を形成する元素である。母材のS含有量が0.1000%を超えると、鋼中に多量の介在物が生成し、ホットスタンプ部材の強度が低下する。そのため、母材のS含有量は0.1000%以下とすることが好ましい。母材のS含有量は、好ましくは0.0050%以下である。母材のS含有量の下限は特に限定しないが、0.00015%未満に低減すると、脱Sコストが大幅に上昇し、経済的に好ましくないため、実操業上、母材のS含有量の下限は0.00015%としてもよい。
【0046】
「N:0.0100%以下」
Nは、不純物元素であり、鋼中に窒化物を形成してホットスタンプ部材の靱性および引張強度を劣化させる元素である。母材のN含有量が0.0100%を超えると、鋼中に粗大な窒化物が生成して、ホットスタンプ部材の強度が著しく低下する。そのため、母材のN含有量は0.0100%以下とすることが好ましい。母材のN含有量は、好ましくは0.0050%以下である。母材のN含有量の下限は特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Nコストが大幅に上昇し、経済的に好ましくないため、実操業上、母材のN含有量の下限は0.0001%としてもよい。
【0047】
本実施形態に係るホットスタンプ部材の母材は、Feの一部に代えて、任意元素として、Cu、Ni、Nb、V、Ti、Mo、Cr、B、Ca及びREMからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量は0%である。
【0048】
「Cu:0~1.00%」
Cuは、ホットスタンプ時にホットスタンプ部材のめっき層まで拡散して、ホットスタンプ部材の製造における、加熱時に侵入する水素を低減する作用を有する。そのため、必要に応じてCuを含有させてもよい。また、Cuは鋼の焼入れ性を高め、焼入れ後のホットスタンプ部材の強度を安定して確保するために有効な元素である。Cuを含有させる場合、上記効果を確実に発揮させるために、Cu含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.150%以上である。一方、1.00%を超えて含有させても上記効果は飽和するため、Cu含有量は1.00%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.350%以下である。
【0049】
「Ni:0~1.00%」
Niは、鋼板製造時のCuによる熱間脆性を抑制し、安定した生産を確保するために、重要な元素であるので、Niを含有させてもよい。Ni含有量が0.005%未満では、上記の効果を十分に得られない場合がある。したがって、Ni含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Ni含有量は0.05%以上が好ましい。一方、Ni含有量が1.00%を超えると、ホットスタンプ用鋼板の限界水素量が低下する。したがって、Ni含有量は1.00%以下とする。Ni含有量は0.60%以下が好ましい。
【0050】
「Nb:0%~0.150%」
Nbは、炭化物を形成して、ホットスタンプ部材の引張強度の向上に寄与する元素である。そのため、必要に応じて含有させても良い。Nbを含有させる場合、上記効果を確実に発揮させるために、母材のNb含有量は0.010%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.030%以上である。一方、0.150%を超えてNbを含有させても上記効果は飽和するので、母材のNb含有量は0.150%以下とすることが好ましい。母材のNb含有量は、より好ましくは0.100%以下である。
【0051】
「V:0~1.000%」
Vは、微細な炭化物を形成し、その細粒化効果や水素トラップ効果により鋼材の限界水素量を向上させる元素である。そのため、Vを含有させてもよい。上記の効果を得るためには、Vを0.005%以上含有させることが好ましく、0.050%以上含有させることがより好ましい。しかしながら、V含有量が1.000%を超えると、上記の効果が飽和して経済性が低下する。したがって、含有させる場合のV含有量は1.000%以下とする。
【0052】
「Ti:0~0.150%」
Tiは、炭化物を形成して、ホットスタンプ部材の引張強度の向上に寄与する元素である。そのため、必要に応じて含有させても良い。Tiを含有させる場合、上記効果を確実に発揮させるために、母材のTi含有量は0.010%以上とすることが好ましい。母材のTi含有量は、好ましくは0.020%以上である。一方、0.150%を超えて含有させても上記効果は飽和するので、母材のTi含有量は0.150%以下とすることが好ましい。母材のTi含有量は、より好ましくは0.120%以下である。
【0053】
「Mo:0~1.000%」
Moは、固溶強化によりホットスタンプ部材の強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Moを含有させる場合、上記効果を確実に発揮させるために、母材のMo含有量は0.005%以上とすることが好ましい。母材のMo含有量は、より好ましくは0.010%以上である。一方、1.000%を超えて含有させても上記効果は飽和するため、母材のMo含有量は1.000%以下とすることが好ましい。母材のMo含有量は、より好ましくは0.800%以下である。
【0054】
「Cr:0~1.000%」
Crは、固溶強化によりホットスタンプ部材の強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Crを含有させる場合、上記効果を確実に発揮させるために、母材のCr含有量は0.050%以上とすることが好ましい。母材のCr含有量は、より好ましくは0.100%以上である。一方、1.000%を超えて含有させても上記効果は飽和するため、母材のCr含有量は1.000%以下とすることが好ましい。母材のCr含有量は、より好ましくは0.800%以下である。
【0055】
「B:0~0.0100%」
Bは、粒界に偏析して粒界の強度を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Bを含有させる場合、上記効果を確実に発揮させるために、母材のB含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。母材のB含有量は、好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0100%を超えて含有させても上記効果は飽和するため、母材のB含有量は0.0100%以下とすることが好ましい。母材のB含有量は、より好ましくは0.0075%以下である。
【0056】
「Ca:0~0.010%」
Caは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用を有する元素である。この作用を確実に発揮させるためには、母材のCa含有量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、0.010%を超えて含有させても上記効果は飽和するため、母材のCa含有量は0.010%以下とすることが好ましい。
【0057】
「REM:0~0.300%」
REMは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用を有する元素である。この作用を確実に発揮させるためには、母材のREM含有量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、0.300%を超えて含有させても上記効果は飽和するため、母材のREM含有量は0.300%以下とすることが好ましい。
なお、本実施形態においてREMとは、Sc、Y及びランタノイドからなる合計17元素を指し、REMの含有量とはこれらの元素の含有量の合計を指す。
【0058】
「残部がFe及び不純物」
本実施形態に係るホットスタンプ部材を構成する母材の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから及び/又は製鋼過程で混入し、あるいは意図的に添加したものであって、本実施形態に係るホットスタンプ部材の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0059】
上述した母材の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。表面のめっき層は機械研削により除去してから化学組成の分析を行えばよい。sol.Alは、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。
【0060】
(ホットスタンプ部材の厚み)
ホットスタンプ部材の厚み(板厚)は、特に限定されないが、例えば、0.4mm以上であることが好ましい。ホットスタンプ部材の厚みは、0.8mm以上、1.0mm以上又は1.2mm以上であることがより好ましい。ホットスタンプ部材の厚みは6.0mm以下であることが好ましい。ホットスタンプ部材の厚みは、5.0mm以下、4.0mm以下、3.2mm以下又は2.8mm以下であることがより好ましい。
【0061】
(引張強さ)
ホットスタンプ部材の引張強さを1600MPa以上としてもよい。必要に応じて、引張強さの下限を、1650MPa、1700MPa、1750MPa又は1800MPaとしてもよく、その上限を2500MPa、2400MPa、2300MPa又は2220MPaとしてもよい。ホットスタンプ部材の引張強さは、ホットスタンプ成形体の任意の位置からJIS Z 2241:2011に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241:2011に記載の試験方法により測定することができる。
【0062】
<ホットスタンプ部材の製造方法>
次に、ホットスタンプ部材の好適な製造方法について説明するが、ホットスタンプ部材の製造方法は下記の方法に限定されない。ホットスタンプ部材は、ホットスタンプ用鋼板をホットスタンプすることで製造することができる。以下、ホットスタンプ用鋼板について説明する。
【0063】
(ホットスタンプ用鋼板)
ホットスタンプ用鋼板は、鋼板、Al-Si合金めっき層、及びNiめっき層を備える。鋼板、Al-Si合金めっき層、及びNiめっき層中の各成分がホットスタンプ時に拡散することで、本実施形態に係るホットスタンプ部材のめっき層の構成を得ることができる。以下、各構成について説明する。
【0064】
「鋼板」
本実施形態に係るホットスタンプ用鋼板の基材となる鋼板(母材)の化学組成は、例えば、質量%で、C:0.01%以上、0.70%未満、Si:0.005%~1.000%、Mn:0.15%~3.00%、sol.Al:0.0002%~0.5000%、P:0.100%以下、S:0.1000%以下、N:0.0100%以下、Cu:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Nb:0~0.150%、V:0~1.000%、Ti:0~0.150%、Mo:0~1.000%、Cr:0~1.000%、B:0~0.0100%、Ca:0~0.010%、REM:0%~0.300%および、残部:Fe及び不純物であってもよい。
【0065】
「鋼板の金属組織」
ホットスタンプ用鋼板の基材となる鋼板(母材)の金属組織は、断面の面積率において、フェライトの面積率は20%以上であってもよい。より好ましいフェライトの面積率は30%以上である。断面の面積率において、フェライトは80%以下であってもよい。より好ましいフェライトの面積率は70%以下である。断面の面積率において、パーライトの面積率は20%以上であってもよい。より好ましいパーライトの面積率は30%以上である。パーライトの面積率は、80%以下であってもよい。より好ましいパーライトの面積率は70%以下である。断面の面積率において、残部がベイナイト、マルテンサイトまたは残留オーステナイトであってもよい。残部の面積率は5%未満であってもよい。
【0066】
鋼板(母材)の厚みは、例えば、0.4mm以上である。よりこのましい鋼板(母材)の厚みは、0.8mm以上、1.0mm以上又は1.2mm以上である。鋼板(母材)の厚みは、6.0mm以下であることが好ましい。より好ましい鋼板(母材)の厚みは5.0mm以下、4.0mm以下、3.2mm以下又は2.8mm以下である。
【0067】
「Al-Si合金めっき層」
ホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層は、鋼板(母材)の上層として設けられている。Al-Si合金めっき層は、Al及びSiを主成分とするめっきである。ここで、Al及びSiを主成分とするとは、少なくともAl含有量が75質量%以上であり、Si含有量が3質量%以上であり、かつ、Alの含有量とSiの含有量との合計が95質量%以上であることをいう。Al-Si合金めっき層中のAl含有量は、80質量%以上であることが好ましい。Al-Si合金めっき層中のAl含有量は95質量%以下であることが好ましい。
【0068】
Al-Si合金めっき層中のSi含有量は、3質量%以上である。より好ましくは、Al-Si合金めっき層中のSi含有量は6質量%以上である。Al-Si合金めっき層中のSi含有量は、20質量%以下である。より好ましくは、Si含有量は、12質量%以下である。Al-Si合金めっき層中のSi含有量が3質量%以上であれば、Fe-Alの合金化を抑制することができ、Alの拡散を抑制することができる。ホットスタンプ時に、Al-Si合金めっき層中のSi含有量が20質量%以下であれば、Feの拡散を十分に抑制することができる。Alの含有量とSiの含有量との合計は、97質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であってもよい。Al-Si合金めっき層中の残部は、Fe及び不純物である。不純物としては、Al-Si合金めっき層の製造中に混入する成分や鋼板(母材)中の成分等が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係るホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層の平均厚みは7μm以上である。何故なら、Al-Si合金めっき層の平均厚みが7μm未満であると、ホットスタンプ時のスケールの形成を十分に抑制できない場合があるためである。より好ましいAl-Si合金めっき層の平均厚みは12μm以上、15μm以上、18μm以上又は22μm以上である。上限についてはAl-Si合金めっき層の平均厚みは148μm以下であってもよい。何故なら、Al-Si合金めっき層の平均厚みが148μm超であると、上記の効果が飽和することに加え、コストが高くなるためである。より好ましいAl-Si合金めっき層の平均厚みは100μm以下、60μm以下、45μm以下、37μm以下である。
【0070】
「Niめっき層」
ホットスタンプ用鋼板のNiめっき層は、Al-Si合金めっき層の上層として設けられている。Niめっき層の平均厚みが200nm以下であると、ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Fe含有量の拡散を十分に抑制できない場合がある。このため、Niめっき層の平均厚みは、200nm超である。より好ましいNiめっき層の平均厚みは、280nm以上、350nm以上、450nm以上、560nm以上又は650nm以上である。Niめっき層の平均厚みが2500nm超であると、コストが高くなるため、Niめっき層の平均厚みは2500nm以下であってもよい。より好ましいNiめっき層の平均厚みは、1500nm以下、1200nm以下又は1000nm以下である。
【0071】
Niめっき層中のNi含有量が90質量%以下であると、ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Feの拡散を十分に抑制できない。このため、Niめっき層中のNi含有量は、90質量%超である。より好ましいNi含有量は、92質量%以上又は94質量%である。より好ましいNi含有量は、96質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上である。さらに好ましいNi含有量は、94質量%以上である。Niめっき層の(Niを除く)残部の化学組成は、特に限定されない。Niめっき層中にCrを含有してもよいが、Ni/Crの比が9よりも大きいことが好ましく、この比が15以上または30以上であることがより好ましい。Niめっき層中のCr含有量は6.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下または3.0%質量%以下であることがより好ましい。さらに好ましくはNiめっき層のCr含有量は、2.0質量%以下である。Cr含有量を低減することで、耐食性を向上することができる。
【0072】
(ホットスタンプ用鋼板の製造方法)
ホットスタンプ用鋼板の製造方法を説明するが、本実施形態に係るホットスタンプ部材に用いられるホットスタンプ用鋼板の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0073】
上記の化学組成を有するスラブを熱間圧延し、冷却し巻き取ることでホットスタンプ用鋼板の基材となる鋼板(母材)を得る。熱間圧延に供するスラブは、常法で製造したスラブであればよく、例えば、連続鋳造スラブ、薄スラブキャスターなどの一般的な方法で製造したスラブであればよい。熱間圧延、熱間圧延後の冷却及び巻取りも一般的な方法で行えばよく、特に限定しない。
【0074】
巻取り後、必要に応じて、さらに冷間圧延を行ってもよい。冷間圧延における累積圧下率は特に限定しないが、鋼板(母材の形状安定性の観点から、40~60%とすることが好ましい。
【0075】
「Al-Si合金めっき」
上記の熱延鋼板をそのまま、もしくは冷間圧延を施した後、Al-Si合金めっきを施し、Al-Si合金めっき層を形成する。Al-Si合金めっき層の形成方法は、特に限定されるものではなく、溶融めっき法、電気めっき法、真空蒸着法、クラッド法、溶射法等を用いることができる。特に好ましくは、溶融めっき法である。
【0076】
溶融めっき法で、Al-Si合金めっき層を形成する場合は、少なくともSiの含有量が3質量%以上で、Alの含有量とSiの含有量との合計が95質量%以上となるように成分を調整しためっき浴に上記の鋼板(母材)を浸漬することでAl-Si合金めっき鋼板を得る。めっき浴の温度は660℃~690℃の温度域が好ましい。Al-Si合金めっき層を施す前に、650℃~780℃の近傍まで鋼板(母材を昇温してからめっきを行ってもよい。めっき浴の浸漬時間とワイピングによって、Al-Si合金めっき層の平均厚みを調整する。
【0077】
また、溶融めっきを行う場合、めっき浴にはAlやSiの他に不純物としてFeが混入している場合がある。また、Siの含有量が3質量%以上、かつ、Alの含有量とSiの含有量との合計が95質量%以上となる限り、さらにめっき浴にはNi、Mg、Ti、Zn、Sb、Sn、Cu、Co、In、Bi、Ca、ミッシュメタル等を含有していてもよい。
【0078】
「Niめっき」
Al-Si合金めっき層を形成後、Niめっき層を形成することでホットスタンプ用鋼板を得る。Niめっき層は、電気めっき法、真空蒸着法などで形成してもよい。電気めっきでNiめっき層を形成する場合は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、及びホウ酸からなるめっき浴にAl-Si合金めっき層を形成後の鋼板を浸漬し、アノードに可溶性のNiを用い、電流密度及び通電時間を適宜制御して、平均厚みが200nm超、2500nm以下となるようにNiめっき層を形成することができる。Niめっきの後、累積圧下率で0.5~2%程度の調質圧延を行ってもよい(特に、上記のめっき原板が冷間圧延された鋼板である場合)。
【0079】
<ホットスタンプ工程>
上記で製造したホットスタンプ用鋼板をホットスタンプすることで、ホットスタンプ部材を得る。以下、ホットスタンプの条件の一例を説明するが、ホットスタンプ条件はこの条件に限定されない。
【0080】
上述のホットスタンプ用鋼板を加熱炉に入れて、加熱速度2.0℃/秒~10.0℃/秒で、Ac点以上の温度(到達温度)まで加熱する。加熱温度が2.0℃/秒~10.0℃/秒であれば、Feの表面拡散を防止することができる。到達温度がAc点以上であれば、スプリングバックを抑制することができるので、好ましい。なお、Ac点(℃)は下記(1)式で表される。
Ac=912-230.5×C+31.6×Si-20.4×Mn-14.8×Cr-18.1×Ni+16.8×Mo-39.8×Cu・・・(1)
なお、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量であり、含有しない場合は0を代入する。
【0081】
到達温度になった後の保持時間は、5秒以上、300秒以下とすることが好ましい。保持時間が5秒以上、300秒以下であれば、Feのホットスタンプ表面への拡散を抑制することができるので、好ましい。
【0082】
保持後の鋼板をホットスタンプし、室温まで冷却してホットスタンプ部材を得る。ホットスタンプ後(成型後)から室温までの冷却速度は、5℃/秒以上が好ましい。冷却速度が5℃/秒以上であれば、Feのホットスタンプ部材最表面への拡散を抑制することができる。
【0083】
450℃以上の温度域での滞留時間(加熱-保持-冷却の間に、450℃以上に滞留する時間)は、7.0分以内である。より好ましくは、3.5分以内、さらに好ましくは、2.1分以内である。450℃以上の温度域での滞留時間が7.0分超の場合、Feがホットスタンプ部材の最表面まで拡散する場合がある。
【0084】
また、必要に応じて、ホットスタンプ後に焼き戻しを行ってもよい。例えば、250℃で30分間保持してもよい。
【0085】
上述の製造方法で製造したホットスタンプ用鋼板を、大気等を含む環境において上述の条件でホットスタンプすることにより、めっき層の表面から(めっき層から前記厚み方向に)20nm位置までの領域において、ホットスタンプ部材の表層付近のNiを大気中の酸素および水分などと反応させることができ、ホットスタンプ部材のめっき層の表層付近にNi酸化物およびNi水酸化物の少なくとも一方を形成することができ、かつ、ホットスタンプ部材のめっき層の表層付近のNi含有量を30質量%以上にすることができる。
【実施例
【0086】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0087】
(鋼板の製造)
表1A及び1Bに示す化学組成の溶鋼を鋳造して製造したスラブに、Ac~1400℃の温度域まで加熱して熱間圧延を行い、表2A、2B、2C及び2Dに記載の冷却条件で冷却し、表2A、2B、2C及び2Dに記載の巻取り開始温度で巻取ることにより、熱延鋼板(鋼板)を得た。なお、鋼板No.91~No.102は、熱延後3.2mmtから厚さ1.6mmに冷間圧延を行い、冷延鋼板を得た。その他の鋼板は、熱間圧延で厚さ1.6mmまで圧延した。
【0088】
【表1A】
【0089】
【表1B】
【0090】
【表2A】
【0091】
【表2B】
【0092】
【表2C】
【0093】
【表2D】
【0094】
(Al-Si合金めっき)
上記で製造した鋼板に対し、Al-Si合金めっきを施し、Al-Si合金めっき層を形成した。Al-Si合金のめっき浴は、表2A、2B、2C及び2Dに記載のAl含有量及びSi含有量となるように、めっき浴の成分を調整した。成分を調整しためっき浴に上記の方法により製造した鋼板を浸漬し、表2A、2B、2C及び2Dに記載のAl-Si合金めっき鋼板を得た。
【0095】
表2A、2B、2C及び2D中のめっき方法の欄に溶射と記載されている場合は以下の方法でAl-Si合金めっき層を形成した。各元素を配合した溶射材料を用意した(50μm~200μm程度の粉末)。溶射方法はプラズマアーク溶射法を用いた。作動ガスをAr-Hガスとして生成させたプラズマ中に目的の粉末をアルゴンガスによって供給した。溶射ガンと鋼板との距離を100mmに設定し、鋼板の温度が200℃を超えないように溶射ガンを移動させ、溶射を繰り返すことでAl-Si合金めっき層の厚みを制御した。
【0096】
表2A、2B、2C及び2D中のめっき方法の欄に蒸着と記載されている場合は以下の方法で、Al-Si合金めっき層を形成した。蒸着金属源から鋼板までの距離は0.6mとし、蒸着中の真空度は5.0×10-3Pa~2.0×10-5Pa、蒸着方法は電子線とし、電子線照射条件は、電圧10V(固定)、電流0.7~1.5Aとし、鋼板温度は、200℃とした。
【0097】
(Niめっき)
次に、Al-Si合金めっき鋼板に対し、Niめっきを施し、Niめっき層を形成した。Niめっき浴には、硫酸ニッケル200~400g/L、塩化ニッケル20~100g/L、ほう酸5~50g/Lを含むWatt浴を用いた。表2A、2B、2C及び2Dに記載のNi含有量となるように、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、及びホウ酸の比率を調整し、pH=1.5~2.5、浴温45℃~55℃に調整した。アノードは可溶性のNiを用い、電流密度2A/dmとし、表2A、2B、2C及び2Dに記載の平均厚みとなるように、通電時間を制御して、ホットスタンプ用鋼板を得た。なお、表2A、2B、2C及び2D中の蒸着と記載があるものは電気めっきではなく、蒸着でNiめっき層を形成した。蒸着めっきは、蒸着中の真空度5.0×10-3~2.0×10-5Paで実施し、蒸着のための熱源には電子線(電圧10V、電流1.0A)を用いた。
【0098】
(ホットスタンプ)
次に、表3A、3B及び3Cに記載の通りの条件でホットスタンプ用鋼板をホットスタンプし、ホットスタンプ部材を得た。実験No.9、No.79およびNo.96については、焼戻しを行った。具体的には、ホットスタンプ後のホットスタンプ部材を250℃の加熱炉に入れ30分間保持し焼き戻しを行った。
【0099】
【表3A】
【0100】
【表3B】
【0101】
【表3C】
【0102】
(Al-Si合金めっき層の平均厚み)
ホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層の平均厚みは以下のように測定した。上記の製造方法で得られたホットスタンプ用鋼板を板厚方向に切断した。その後、ホットスタンプ用鋼板の断面を研磨し、研磨したホットスタンプ用鋼板の断面を、電解放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)により、ホットスタンプ用鋼板の表面から鋼板までを線分析し、検出された成分中のAl濃度及びSi濃度を測定した。測定条件は、加速電圧15kV、ビーム径100nm程度、1点あたりの照射時間1000ms、測定ピッチ60nmとした。Niめっき層、Al-Si合金めっき層及び鋼板が含まれる範囲で測定を行った。Al含有量が75質量%以上であり、Si濃度が3質量%以上であり、かつ、Al濃度とSi濃度との合計が95質量%以上である領域をAl-Si合金めっき層と判定し、Al-Si合金めっき層の厚みは、上記の領域の板厚方向の長さとした。5μm間隔ずつ離れた5箇所の位置でAl-Si合金めっき層の厚みを測定し、求めた値の算術平均をAl-Si合金めっき層の平均厚みとした。評価結果を表2A、2B、2C及び2Dに示す。
【0103】
(Al-Si合金めっき層中のAl含有量及びSi含有量測定)
ホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層中のAl含有量及びSi含有量は、JIS K 0150(2005)に記載の試験方法に従って、試験片を採取し、Al-Si合金めっき層の厚さの1/2位置のAl含有量及びSi含有量を測定することで、ホットスタンプ用鋼板におけるAl-Si合金めっき層中のAl含有量及びSi含有量を得た。得られた結果を表2A、2B、2C及び2Dに示す。
【0104】
(Niめっき層の平均厚み)
ホットスタンプ用鋼板のNiめっき層の平均厚みは、ArスパッタリングエッチングとX線光電子分光法(XPS)測定とを交互に繰り返すことで、測定した。具体的には、Arスパッタリング(加速電圧20kV、スパッタレート1.0nm/min)でホットスタンプ部材のスパッタリングエッチングを行った後に、XPS測定を行った。このArスパッタリングエッチングとXPS測定とは交互に行い、XPS測定でNiの2p軌道の結合エネルギー852.5eV~852.9eVのピークが現れてからなくなるまで、これらの測定を繰り返した。Niめっき層の厚みは、スパッタリングを開始して初めてNiの含有量が10atomic%以上となる位置から、Niの含有量が10atomic%未満となる位置までの上記の範囲のピークが現れてからなくなるまでのスパッタリングエッチング時間とスパッタエッチングレートとから算出した。スパッタエッチングレートはSiO換算で行った。Niめっき層4の平均厚みは、2箇所で測定した算術平均値とした。評価結果を表2A、2B、2C及び2Dに示す。
【0105】
(Niめっき層のNi含有量)
Niめっき層中のNi含有量は、Niめっき層の平均厚みの測定において得られたNiめっき層の板厚方向の中心位置におけるNi濃度をNi含有量とした。Ni含有量は、上記の2箇所で測定した値の算術平均値とした。得られた結果を表2A、2B、2C及び2Dに示す。
【0106】
(めっき層の深さプロファイル)
ホットスタンプ部材のめっき層の各元素の深さプロファイルはGDSで測定することで得た。条件は電極間距離を0.19mmとし、サンプル背面から高周波を印加した。放電電圧は35W(定電力モード)、測定時のAr圧力は600Pa、放電範囲は4mmφで測定した。1か所の測定時間は約12分程度であり、約50μmほどエッチングした。めっき層の深さは、上述の方法で算出した。ホットスタンプ部材の表面から母材のFe元素が安定する領域まで測定を行うことで、各元素の深さプロファイルを得た。
【0107】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域において、Fe含有量が5質量%以下の場合をIとし、10質量%以下の場合をIIとし、10質量%超の場合をIIIとした。また、Ni含有量の最大値が70質量%以上の場合をIとし、50質量%以上70質量%未満の場合をIIとし、50質量%未満の場合をIIIとし、Al含有量の最大値が5質量%以上である場合をIとし、1質量%以上5質量%未満の場合をIIとし、1質量%未満の場合をIIIとした。
【0108】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域において、Fe含有量が15質量%以下の場合をIとし、25質量%以下の場合をIIとし、25質量%超の場合をIIIとした。また、Ni含有量の最大値が10質量%以上の場合をIとし、5質量%以上10質量%未満の場合をIIとし、5質量%未満の場合をIIIとした。
【0109】
ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に500nm位置~ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Fe含有量が20質量%以下の場合をIとし、20質量%以上30質量%以下の場合をIIとし、30質量%超の場合をIIIとした。また、Ni含有量の最大値が5質量%以上の場合をIとし、1質量%以上5質量%未満の場合をIIとし、1質量%未満の場合をIIIとした。
表4A、4B、及び4C中の表面から1000nmまでの領域の判定は、各領域で全てI又はIIの場合を合格としてGとした。Fe含有量、Ni含有量の判定において、1つでもIIIがある場合を不合格としてBとした。
【0110】
結果を表4A、4B、及び4Cに示す。No.85については、急速加熱で外観が不良となったので、測定しなかった。なお、表4A、4B、及び4C中の領域(0-100nm)は、めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に100nm位置までの領域を意味する。表4A、4B、及び4C中の領域(100-500nm)は、めっき層の表面から厚み方向に100nm位置~めっき層の表面から厚み方向に500nm位置までの領域を意味する。表4A、4B、及び4C中の領域(500-1000nm)は、めっき層の表面から厚み方向に500nm位置~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域を意味する。
【0111】
(めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域におけるNi酸化物及びNi水酸化物)
めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域におけるNi酸化物及びNi水酸化物の存在の確認は、X線光電子分光法測定(XPS測定)で行った。具体的には、Arスパッタリング(加速電圧20kV、スパッタレート1.0nm/min)でホットスタンプ部材のスパッタリングエッチングを行った後に、XPS測定を行った。XPS測定は、アルバック・ファイ社製のQuantum2000型を用い、線源Al Kα線を用い、出力15kV、25W、スポットサイズ100μm、スキャン回数10回、ホットスタンプ部材の最表面を全エネルギー範囲で走査して測定した。このArスパッタリングエッチングとXPS測定とは交互に行い、めっき層から厚み方向に20nm位置まで、これらの測定を繰り返した。めっき層の表面からの深さは、スパッタリングエッチング時間とスパッタリングレートとから算出した。ホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni酸化物又はNi水酸化物の2p軌道に由来する854eV~857eVにピークが検出される場合を、めっき層の表面にNi酸化物及びNi水酸化物の少なくとも一方が存在すると判定する。スパッタエッチングレートはSiO換算で行った。また、ホットスタンプ部材のめっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域におけるNi含有量は、XPS測定で検出された全元素から計算して求めた。No.85については、急速加熱で外観が不良となったので、測定しなかった。
【0112】
(表面から20nm位置までの領域の判定)
めっき層の表面~めっき層の表面から厚み方向に20nm位置までの領域において、Ni酸化物及びNi水酸化物の少なくとも一方が存在し、且つNi含有量が30質量%以上の場合をGとし、それ以外の場合をBとした。結果を表4A、4B及び4Cに示す。No.85については、急速加熱で外観が不良となったので、判定しなかった。
【0113】
(各リッチ領域の判定)
ホットスタンプ部材のめっき層の各元素の深さプロファイルのGDS測定結果から、めっき層のNiリッチ領域(Ni含有量:50質量%以上)、Alリッチ領域(Ni含有量:50質量%未満、Al含有量:10質量%以上、Fe含有量:50質量%以下)、Feリッチ領域(Al含有量:10質量%以上、Fe含有量:50質量%超)の各領域をめっき層の表面からこの順で備えていた場合(各リッチ領域の判定)をG、これらの各領域を備えていなかった場合は、Bとした。No.85については、急速加熱で外観が不良となったので、判定しなかった。
【0114】
(耐食性)
ホットスタンプ部材の耐食性はJIS H 8502:1999の8.1に基づいて中性塩水噴霧サイクル試験(CCT)で評価した。ただし、前記規格の8.1.2 b)については、塩化ナトリウムが試験液1リッター当たり10gになるように溶解させることに変更した。具体的には、CCT3サイクル、CCT9サイクル、CCT15サイクル、CCT30サイクルでホットスタンプ部材を取り出し、下地の金属光沢の維持率を評価した。CCT30サイクルまで下地の金属光沢を60%以上維持する場合をA、CCT15サイクルまで下地の金属光沢を60%以上維持する場合をB、CCT9サイクルまで下地の金属光沢を60%以上維持する場合をC、CCT3サイクルまで下地の金属光沢を60%以上維持する場合をD、CCT3サイクルまで下地の金属光沢が60%以上維持できない場合をEとした。A~Dを合格、Eを不合格とした。結果を表4A~4Cに示す。なお、実験No.85については、外観不良となったので、耐食性試験を行わなかった。
【0115】
【表4A】
【0116】
【表4B】
【0117】
【表4C】
【0118】
表4A,4B及び4Cに示す通り、本発明例に係る実験No.2~53、55~59、61、62、64~69、73~83、86~88、91~98、100、101は、優れた耐食性を示した。また、本発明例に係る実験No.2~53、55~59、61、62、64~69、73~83、86~88、91~98、100、101は、めっき層のNiリッチ領域(Ni含有量:50質量%以上)、Alリッチ領域(Ni含有量:50質量%未満、Al含有量:10質量%以上、Fe含有量:50質量%以下)、Feリッチ領域(Al含有量:10質量%以上、Fe含有量:50質量%超)の各領域をめっき層の表面からこの順で備えていた。
【0119】
実験No.1は、ホットスタンプ用鋼板のNiめっき層の厚みが200nm超では無かったので、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.1の耐食性は低かった。
【0120】
実験No.54は、ホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層のSi含有量が3%未満であったので、FeとAlとの合金化が過剰に進んだ。そのため、実験No.54の耐食性は低かった。
【0121】
実験No.60は、ホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層のSiが20%超であったので、FeとAlとの合金層の主体がFeAlSiとなり、Fe-Alの合金層が棒状に成長した。そのため、Feがホットスタンプ部材の表面に拡散しやすくなった。よって、実験No.60は、耐食性が低かった。
【0122】
実験No.63は、ホットスタンプ用鋼板のAl-Si合金めっき層の厚みが7μm未満であったので、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.63の耐食性は低かった。
【0123】
実験No.70は、ホットスタンプ用鋼板のNiめっき層のNi含有量が90%超では無かったので、ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.70は、耐食性が低かった。
【0124】
実験No.71は、ホットスタンプ用鋼板にNiめっき層が無かったので、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.71は、耐食性が低かった。
【0125】
実験No.72は、ホットスタンプ用鋼板のNiめっき層の厚みが200nm超ではなかった。そのため、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.72は、耐食性が低かった。
【0126】
実験No.84は、ホットスタンプ時の加熱速度が1.2℃/秒であったので、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.84の耐食性は低かった。
【0127】
実験No.85は、ホットスタンプ時の加熱速度が10.8℃/秒であったので、外観が悪かった。
【0128】
実験No.89は、ホットスタンプ時の保持時間及び450℃以上の温度域での加熱経過時間が長かったので、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.89の耐食性は、低かった。
【0129】
実験No.90は、Al-Si合金めっき層がなかったので、Alリッチ領域がなく、また、Feの拡散を十分に抑制できなかった。そのため、実験No.90の耐食性は、低かった。
【0130】
実験No.99は、Niめっき層のNi含有量が90質量%だったので、ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Feの拡散を十分に抑制できなかった。このため、耐食性が、低かった。
【0131】
実験No.102は、Niめっき層のNi含有量が88質量%だったので、ホットスタンプ部材のめっき層の表面から厚み方向に100nm~めっき層の表面から厚み方向に1000nm位置までの領域において、Feの拡散を十分に抑制できなかった。このため、耐食性が、低かった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明によれば、ホットスタンプ部材の表面にNiとAlとを含有するめっき層を有していても、耐食性に優れるので、産業上の利用可能性が高い。
図1
図2