(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230427BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230427BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230427BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2022540832
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012698
(87)【国際公開番号】W WO2022196800
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2021045986
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】福地 美菜子
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-162821(JP,A)
【文献】特開2013-112853(JP,A)
【文献】特表2021-509154(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160108(WO,A1)
【文献】特開2002-363713(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0074394(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、
sol.Al:0.0001%~3.0000%、
S:0.0003%~0.0100%、
N:0.0100%以下、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、
Cr:0.001%~0.100%、
Sn:0.00%~0.40%、
Sb:0.00%~0.40%、
P:0.00%~0.40%、
B:0.0000%~0.0050%、及び
O:0.0000%~0.0200%、を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm
2の視野中に1個以上存在し、
さらに、鋼板表面に平行な面でEBSDにより観察したときにおいて、全面積をS
tot、{100}方位粒の面積をS
100、以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の面積をS
tyl、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積をS
tra、前記{100}方位粒の平均KAM値をK
100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均KAM値をK
tylとした場合に、以下の(3)~(6)式を満たすことを特徴とする
無方向性電磁鋼板の原板。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
M=(cosφ×cosλ)
-1 ・・・(2)
0.20≦S
tyl/S
tot≦0.85 ・・・(3)
0.05≦S
100/S
tot≦0.80 ・・・(4)
S
100/S
tra≧0.50 ・・・(5)
K
100/K
tyl≦0.990 ・・・(6)
ここで、(2)式中のφは応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角を表し、λは応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角を表す。
【請求項2】
さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均KAM値をK
traとした場合、以下の(7)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
K
100/K
tra<1.010 ・・・(7)
【請求項3】
さらに、{110}方位粒の面積をS
110とした場合に、以下の(8)式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
S
100/S
110≧1.00 ・・・(8)
ここで、(8)式は面積比S
100/S
110が無限大に発散しても成り立つものとする。
【請求項4】
さらに、{110}方位粒の平均KAM値をK
110とした場合に、以下の(9)式を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
K
100/K
110<1.010 ・・・(9)
【請求項5】
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、
sol.Al:0.0001%~3.0000%、
S:0.0003%~0.0100%、
N:0.0100%以下、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、
Cr:0.001%~0.100%、
Sn:0.00%~0.40%、
Sb:0.00%~0.40%、
P:0.00%~0.40%、
B:0.0000%~0.0050%、及び
O:0.0000%~0.0200%、を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm
2の視野中に1個以上存在し、
さらに、鋼板表面に平行な面でEBSDにより観察したときにおいて、全面積をS
tot、{100}方位粒の面積をS
100、以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の面積をS
tyl、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積をS
tra、前記{100}方位粒の平均KAM値をK
100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均KAM値をK
tyl、観察領域の平均結晶粒径をd
ave、前記{100}方位粒の平均結晶粒径をd
100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均結晶粒径をd
tylとした場合に、以下の(10)~(15)式を満たすことを特徴とする
無方向性電磁鋼板の原板。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
M=(cosφ×cosλ)
-1 ・・・(2)
S
tyl/S
tot≦0.70 ・・・(10)
0.20≦S
100/S
tot ・・・(11)
S
100/S
tra≧0.55 ・・・(12)
K
100/K
tyl≦1.010 ・・・(13)
d
100/d
ave>1.00 ・・・(14)
d
100/d
tyl>1.00 ・・・(15)
ここで、(2)式中のφは応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角を表し、λは応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角を表す。
【請求項6】
さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均KAM値をK
traとした場合に、以下の(16)式を満たすことを特徴とする請求項5に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
K
100/K
tra<1.010 ・・・(16)
【請求項7】
さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均結晶粒径をd
traとした場合に、以下の(17)式を満たすことを特徴とする請求項5又は6に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
d
100/d
tra>1.00 ・・・(17)
【請求項8】
さらに、{110}方位粒の面積をS
110とした場合に、以下の(18)式を満たすことを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
S
100/S
110≧1.00 ・・・(18)
ここで、(18)式は面積比S
100/S
110が無限大に発散しても成り立つものとする。
【請求項9】
さらに、{110}方位粒の平均KAM値をK
110とした場合に、以下の(19)式を満たすことを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
K
100/K
110<1.010 ・・・(19)
【請求項10】
前記化学組成が、質量%で、
Sn:0.02%~0.40%、
Sb:0.02%~0.40%、及び、
P:0.02%~0.40%からなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板。
【請求項11】
請求項5~9のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板の製造方法であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板に対して、700~950℃の温度で1秒~100秒の条件で熱処理を行う、
ことを特徴とする
無方向性電磁鋼板の原板の製造方法。
【請求項12】
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、
sol.Al:0.0001%~3.0000%、
S:0.0003%~0.0100%、
N:0.0100%以下、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、
Cr:0.001%~0.100%、
Sn:0.00%~0.40%、
Sb:0.00%~0.40%、
P:0.00%~0.40%、
B:0.0000%~0.0050%、及び
O:0.0000%~0.0200%、を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm
2の視野中に1個以上存在し、
さらに、鋼板表面に平行な面でEBSDにより観察したときにおいて、全面積をS
tot、{100}方位粒の面積をS
100、以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の面積をS
tyl、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積をS
tra、観察領域の平均結晶粒径をd
ave、前記{100}方位粒の平均結晶粒径をd
100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均結晶粒径をd
tylとした場合に、以下の(20)~(24)式を満たす、
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
M=(cosφ×cosλ)
-1 ・・・(2)
S
tyl/S
tot<0.55 ・・・(20)
S
100/S
tot>0.30 ・・・(21)
S
100/S
tra≧0.60 ・・・(22)
d
100/d
ave≧0.95 ・・・(23)
d
100/d
tyl≧0.95 ・・・(24)
ここで、(2)式中のφは応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角を表し、λは応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角を表す。
【請求項13】
さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均結晶粒径をd
traとした場合に、以下の(25)式を満たすことを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板。
d
100/d
tra≧0.95 ・・・(25)
【請求項14】
請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、請求項1~10のいずれか1項に記載の
無方向性電磁鋼板の原板に対して、950℃~1050℃の温度で1秒~100秒の条件、もしくは700℃~900℃の温度で1000秒超の条件で熱処理を行う、
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
本願は、2021年03月19日に、日本に出願された特願2021-045986号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、例えばモータの鉄心に使用され、無方向性電磁鋼板には、その板面に平行な方向において優れた磁気特性、例えば低鉄損及び高磁束密度が要求される。
【0003】
このためには、結晶の磁化容易軸(<100>方位)が板面内方向に一致するように鋼板の集合組織を制御することが有利である。このような集合組織制御に関しては、例えば特許文献1~5に記載の技術のように、{100}方位、{110}方位、{111}方位などを制御する技術が多く開示されている。
【0004】
集合組織を制御する方法としては、様々な方法が考案されているが、その中に「歪誘起粒成長」を活用する技術がある。特定の条件での歪誘起粒成長においては、板面内方向に磁化容易軸を持たない{111}方位の集積を抑制することができるため、無方向性電磁鋼板では有効に活用されている。これらの技術については、特許文献6~10などに開示されている。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、{111}方位の集積を抑制することができるが、{110}<001>方位(以下、Goss方位)が成長してしまう。Goss方位は{111}よりも一方向は磁気特性に優れているが、全周平均では磁気特性がほとんど改善されない。そのため、従来の方法では全周平均で優れた磁気特性が得られないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2017-193754号公報
【文献】日本国特開2011-111658号公報
【文献】国際公開第2016/148010号
【文献】日本国特開2018-3049号公報
【文献】国際公開第2015/199211号
【文献】日本国特開平8-143960号公報
【文献】日本国特開2002-363713号公報
【文献】日本国特開2011-162821号公報
【文献】日本国特開2013-112853号公報
【文献】日本国特許第4029430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の問題点を鑑み、全周平均で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、歪誘起粒成長を活用して無方向性電磁鋼板にとって好ましい集合組織を形成するための技術について検討した。その中で、{100}<001>方位(以下、Cube方位)の結晶粒もGoss方位と同じくらい歪の入りにくい結晶粒であることに着目した。つまり、歪誘起粒成長が起こる前の段階で、Goss方位の結晶粒よりもCube方位の結晶粒を多くすることにより、歪誘起粒成長によって主としてCube方位の結晶粒が{111}方位の結晶粒を蚕食し、Cube方位が主方位の無方向性電磁鋼板が製造される。このように、Cube方位を主方位とすれば全周平均(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、及び圧延方向に対して135度の方向、の平均)の磁気特性が改善されることがわかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、さらに検討を行った結果、歪誘起粒成長が起こる前の段階で、Goss方位の結晶粒よりもCube方位の結晶粒を多くするためには、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の酸化物で直径が0.5μm超の、粗大な析出物を生成することが重要であることを見出した。これらの粗大な析出物が存在することにより、歪誘起粒成長時によりCube方位が強化される。これは歪誘起粒成長の要因となるスキンパス圧延時に粗大な析出物の周りに不均一変形領域が生じ、歪が入りやすくなるためと考えられる。さらに、この粗大な析出物は、酸硫化物(硫黄も含んだ酸化物)となることもあり、粒成長を阻害するMnSの生成を抑制する効果もあると考えられる。
【0010】
本発明者らは、このような知見に基づいて更に鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0011】
[1]
本発明の一態様に係る無方向性電磁鋼板の原板は、質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、
sol.Al:0.0001%~3.0000%、
S:0.0003%~0.0100%、
N:0.0100%以下、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、
Cr:0.001%~0.100%、
Sn:0.00%~0.40%、
Sb:0.00%~0.40%、
P:0.00%~0.40%、
B:0.0000%~0.0050%、及び
O:0.0000%~0.0200%、を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm2の視野中に1個以上存在し、
さらに、鋼板表面に平行な面でEBSDにより観察したときにおいて、全面積をStot、{100}方位粒の面積をS100、以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の面積をStyl、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積をStra、前記{100}方位粒の平均KAM値をK100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均KAM値をKtylとした場合に、以下の(3)~(6)式を満たす。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
M=(cosφ×cosλ)-1 ・・・(2)
0.20≦Styl/Stot≦0.85 ・・・(3)
0.05≦S100/Stot≦0.80 ・・・(4)
S100/Stra≧0.50 ・・・(5)
K100/Ktyl≦0.990 ・・・(6)
ここで、(2)式中のφは応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角を表し、λは応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角を表す。
[2]
上記[1]に記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均KAM値をKtraとした場合、以下の(7)式を満たしてもよい。
K100/Ktra<1.010 ・・・(7)
[3]
上記[1]または[2]に記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、{110}方位粒の面積をS110とした場合に、以下の(8)式を満たしてもよい。
S100/S110≧1.00 ・・・(8)
ここで、(8)式は面積比S100/S110が無限大に発散しても成り立つものとする。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、{110}方位粒の平均KAM値をK110とした場合に、以下の(9)式を満たしてもよい。
K100/K110<1.010 ・・・(9)
[5]
本発明の別の態様に係る無方向性電磁鋼板の原板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、
sol.Al:0.0001%~3.0000%、
S:0.0003%~0.0100%、
N:0.0100%以下、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、
Cr:0.001%~0.100%、
Sn:0.00%~0.40%、
Sb:0.00%~0.40%、
P:0.00%~0.40%、
B:0.0000%~0.0050%、及び
O:0.0000%~0.0200%、を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm2の視野中に1個以上存在し、
さらに、鋼板表面に平行な面でEBSDにより観察したときにおいて、全面積をStot、{100}方位粒の面積をS100、以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の面積をStyl、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積をStra、前記{100}方位粒の平均KAM値をK100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均KAM値をKtyl、観察領域の平均結晶粒径をdave、前記{100}方位粒の平均結晶粒径をd100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均結晶粒径をdtylとした場合に、以下の(10)~(15)式を満たす。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
M=(cosφ×cosλ)-1 ・・・(2)
Styl/Stot≦0.70 ・・・(10)
0.20≦S100/Stot ・・・(11)
S100/Stra≧0.55 ・・・(12)
K100/Ktyl≦1.010 ・・・(13)
d100/dave>1.00 ・・・(14)
d100/dtyl>1.00 ・・・(15)
ここで、(2)式中のφは応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角を表し、λは応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角を表す。
[6]
上記[5]に記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均KAM値をKtraとした場合に、以下の(16)式を満たしてもよい。
K100/Ktra<1.010 ・・・(16)
[7]
上記[5]または[6]に記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均結晶粒径をdtraとした場合に、以下の(17)式を満たしてもよい。
d100/dtra>1.00 ・・・(17)
[8]
上記[5]~[7]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、{110}方位粒の面積をS110とした場合に、以下の(18)式を満たしてもよい。
S100/S110≧1.00 ・・・(18)
ここで、(18)式は面積比S100/S110が無限大に発散しても成り立つものとする。
[9]
上記[5]~[7]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の原板は、さらに、{110}方位粒の平均KAM値をK110とした場合に、以下の(19)式を満たしてもよい。
K100/K110<1.010 ・・・(19)
[10]
上記[1]~[9]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の原板は、前記化学組成が、質量%で、
Sn:0.02%~0.40%、
Sb:0.02%~0.40%、及び、
P:0.02%~0.40%からなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。
[11]
本発明の一態様に係る無方向性電磁鋼板の原板の製造方法は、
上記[5]~[9]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の原板の製造方法であって、
上記[1]~[4]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の原板に対して、700~950℃の温度で1秒~100秒の条件で熱処理を行う。
[12]
本発明の別の態様に係る無方向性電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.0100%以下、
Si:1.50%~4.00%、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、
sol.Al:0.0001%~3.0000%、
S:0.0003%~0.0100%、
N:0.0100%以下、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、
Cr:0.001%~0.100%、
Sn:0.00%~0.40%、
Sb:0.00%~0.40%、
P:0.00%~0.40%、
B:0.0000%~0.0050%、及び
O:0.0000%~0.0200%、を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm2の視野中に1個以上存在し、
さらに、鋼板表面に平行な面でEBSDにより観察したときにおいて、全面積をStot、{100}方位粒の面積をS100、以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の面積をStyl、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積をStra、観察領域の平均結晶粒径をdave、前記{100}方位粒の平均結晶粒径をd100、前記テイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均結晶粒径をdtylとした場合に、以下の(20)~(24)式を満たす。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
M=(cosφ×cosλ)-1 ・・・(2)
Styl/Stot<0.55 ・・・(20)
S100/Stot>0.30 ・・・(21)
S100/Stra≧0.60 ・・・(22)
d100/dave≧0.95 ・・・(23)
d100/dtyl≧0.95 ・・・(24)
ここで、(2)式中のφは応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角を表し、λは応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角を表す。
[13]
上記[12]に記載の無方向性電磁鋼板は、さらに、前記テイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均結晶粒径をdtraとした場合に、以下の(25)式を満たしてもよい。
d100/dtra≧0.95 ・・・(25)
[14]
本発明の別の態様に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、
[12]に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の原板に対して、950℃~1050℃の温度で1秒~100秒の条件、もしくは700℃~900℃の温度で1000秒超の条件で熱処理を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、全周平均で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、後述する化学組成を有する溶鋼から所定の厚みの鋳片が製造され、その後、熱間圧延工程、熱間圧延板焼鈍工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、スキンパス圧延工程を経て製造される。
本発明の別の実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、さらにその後、第1の熱処理工程を経て製造される。
本発明の別の実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、熱間圧延工程、熱間圧延板焼鈍工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、スキンパス圧延工程後、必要に応じて第1の熱処理工程を経た後、第2の熱処理工程を経て製造される。
スキンパス圧延後の熱処理により、鋼板は歪誘起粒成長をし、その後正常粒成長をする。正常粒成長は第1の熱処理工程で起きても良いし、第2の熱処理工程で起きても良い。スキンパス圧延後の鋼板は、歪誘起粒成長後の鋼板の原板及び正常粒成長後の鋼板の原板という関係にある。また、歪誘起粒成長後の鋼板は正常粒成長後の鋼板の原板という関係にある。
以下、熱処理前後を問わず、スキンパス圧延後の鋼板、歪誘起粒成長後の鋼板、及び正常粒成長後の鋼板は、いずれも無方向性電磁鋼板として説明する。また、本実施形態では、スキンパス圧延前の鋼板の金属組織において、Goss方位を中心とした結晶粒(以下、{110}方位粒)よりもCube方位を中心とした結晶粒(以下、{100}方位粒)を多くすることで、その後の熱処理工程で{100}方位粒をより増やし、全周の磁気特性を向上させる。
【0014】
まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及びその製造方法で用いられる溶鋼の化学組成について説明する。圧延や熱処理などの工程において、化学組成は変化しないので、以下で説明する化学組成は、溶鋼の化学組成でもあり、無方向性電磁鋼板の化学組成でもある。また、以下の説明において、無方向性電磁鋼板又は溶鋼に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及び溶鋼は、C:0.0100%以下、Si:1.50%~4.00%、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満、sol.Al:0.0001%~3.0000%、S:0.0003%~0.0100%、N:0.0100%以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%、Cr:0.001%~0.100%、Sn:0.00%~0.40%、Sb:0.00%~0.40%、P:0.00%~0.40%、B:0.0000%~0.0050%、及びO:0.0000%~0.0200%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0015】
(C:0.0100%以下)
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.0100%超で顕著である。このため、C含有量は0.0100%以下とする。C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、C含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
【0016】
(Si:1.50%~4.00%)
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。Si含有量は、好ましくは2.00%以上、より好ましくは2.10%以上、さらに好ましくは2.30%以上である。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。
【0017】
(Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上:総計で2.50%未満)
これらの元素は、オーステナイト相(γ相)安定化元素であり、多量に含有すると鋼板の熱処理中にフェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じるようになる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の効果は、鋼板面(鋼板表面)に平行な断面での特定の結晶方位の面積および面積比を制御することで発揮されるものと考えているが、熱処理中にα-γ変態が生じると、変態により上記面積および面積比が大きく変化し、所定の金属組織を得ることができない。このため、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種以上の含有量の総計を2.50%未満と限定する。含有量の総計は、好ましくは2.00%未満、より好ましくは1.50%未満である。これらの元素の含有量の総計の下限は特に限定しない(0.00%でもよい)が、Mnに関しては磁気特性を悪くするMnSの微細析出抑制という理由から、0.10%以上とすることが好ましく、0.20%以上とすることがより好ましい。
【0018】
また、α-γ変態が生じない条件として、さらに以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たすものとする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])≦0.00% ・・・(1)
【0019】
(sol.Al:0.0001%~3.0000%)
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、5000A/mの磁場における磁束密度である。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.3000%以上とする。
一方、sol.Al含有量が3.0000%超では、磁束密度が低下したり、降伏比が低下して、打ち抜き加工性が低下したりする。このため、sol.Al含有量は3.0000%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは、2.5000%以下、さらに好ましくは1.5000%以下である。
【0020】
(S:0.0003%~0.0100%)
Sは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物を形成する元素である。所定の硫化物または酸硫化物を得るため、S含有量を0.0003%以上とする。S含有量は、好ましくは0.0010%以上である。
一方、Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害する。このような再結晶及び結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0020%以下とする。
【0021】
(N:0.0100%以下)
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0022】
(Cr:0.001%~0.100%)
Crは、鋼中の酸素と結合し、Cr2O3を生成する。このCr2O3を集合組織の改善に寄与する。上記効果を得るため、Cr含有量を0.001%以上とする。
一方、Cr含有量が0.100%を超えると、Cr2O3が焼鈍時の粒成長を阻害し、結晶粒径が微細となり、鉄損増加の要因となる。そのため、Cr含有量は0.100%以下とする。
【0023】
(Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種以上:総計で0.0003%~0.0100%)
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は0.5μm超(例えば1~2μm程度)であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、歪誘起粒成長での結晶粒の成長を阻害しにくくなる。また、粗大な析出物が存在することにより、歪誘起粒成長時によりCube方位が強化される。これらの作用効果を十分に得るために、これらの粗大析出物生成元素の含有量の総計を0.0003%以上とする。含有量の総計は、好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0030%以上である。但し、これらの元素の含有量の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の総量が過剰となり、歪誘起粒成長での結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。含有量の総計は、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは0.0060%以下である。
【0024】
(Sn:0.00%~0.40%以下、Sb:0.00%~0.40%、P:0.00%~0.40%)
SnやSbは過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.40%以下とする。また、Pは過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.40%以下とする。
一方、Sn、Sbは、冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる効果を有する。また、Pは、再結晶後の鋼板の硬度を確保するために有効な元素である。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよい。その場合には、0.02%~0.40%のSn、0.02%~0.40%のSb、及び0.02%~0.40%のPからなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0025】
(B:0.0000%~0.0050%)
Bは、少量で集合組織の改善に寄与する。そのため、Bを含有させてもよい。上記効果を得る場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
一方、B含有量が0.0050%を超えると、Bの化合物が焼鈍時の粒成長を阻害し、結晶粒径が微細となり、鉄損増加の要因となる。そのため、B含有量は0.0050%以下とする。
【0026】
(O:0.0000%~0.0200%)
Oは、鋼中のCrと結合し、Cr2O3を生成する。このCr2O3は集合組織の改善に寄与する。そのため、Oを含有させてもよい。上記効果を得る場合、O含有量を0.0010%以上とすることが好ましい。
一方、O含有量が0.0200%を超えると、Cr2O3が焼鈍時の粒成長を阻害し、結晶粒径が微細となり、鉄損増加の要因となる。そのため、O含有量は0.0200%以下とする。
【0027】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の板厚について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の厚さ(板厚)は、0.10mm~0.50mmであることが好ましい。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない場合がある。従って、厚さは0.50mm以下とすることが好ましい。厚さが0.10mm未満であると、無方向性電磁鋼板表面からの磁束漏れ等の影響が大きくなり磁気特性が劣化する場合がある。また、厚さが0.10mm未満であると、焼鈍ラインの通板が困難になったり、一定の大きさの鉄心に必要とされる無方向性電磁鋼板の数が増加して、工数の増加に伴う生産性の低下及び製造コストの上昇が引き起こされたりする可能性がある。従って、厚さは0.10mm以上とすることが好ましい。より好ましくは厚さが0.20mm~0.35mmである。
【0028】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の金属組織について説明する。以下、スキンパス圧延後の無方向性電磁鋼板の金属組織、第1の熱処理後の無方向性電磁鋼板の金属組織、および第2の熱処理後の無方向性電磁鋼板の金属組織のそれぞれにより、各実施形態の無方向性電磁鋼板を特定する。
【0029】
まず、特定する金属組織およびその特定方法について説明する。本実施形態で特定する金属組織は、鋼板の板面に平行な断面で特定されるもので、以下の手順によって特定する。
【0030】
まず、板厚中心が表出するように研磨し、その研磨面(鋼板表面に平行な面)をEBSD(Electron Back Scattering Diffraction)にて2500μm2以上の領域について観察を行う。観察は合計面積が2500μm2以上であれば、いくつかの小区画に分けた数カ所で行っても良い。測定時のstep間隔は50~100nmが望ましい。EBSDの観察データから一般的な方法により、以下の種類の面積、KAM(Kernel Average Misorientation)値及び平均結晶粒径を得る。
【0031】
Stot:全面積(観察面積)
Styl:以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の合計面積
Stra:以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の合計面積
S100:{100}方位粒の合計面積
S110:{110}方位粒の合計面積
Ktyl:以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均KAM値
Ktra:以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均KAM値
K100:{100}方位粒の平均KAM値
K110:{110}方位粒の平均KAM値
dave:観察領域の平均結晶粒径
d100:{100}方位粒の平均結晶粒径
dtyl:以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8超となる方位粒の平均結晶粒径
dtra:以下の(2)式に従うテイラー因子Mが2.8以下となる方位粒の平均結晶粒径
ここで、結晶粒の方位裕度に関しては15°とする。また、以降方位粒が出る際も、方位裕度は15°とする。
【0032】
ここで、テイラー因子Mは、以下の(2)式に従うものとする。
M=(cosφ×cosλ)-1 ・・・(2)
φ:応力ベクトルと結晶のすべり方向ベクトルのなす角
λ:応力ベクトルと結晶のすべり面の法線ベクトルのなす角
【0033】
上記のテイラー因子Mは、結晶のすべり変形がすべり面{110}、すべり方向<111>で起きると仮定し、板厚方向と圧延方向に平行な面内での面内歪において板厚方向への圧縮変形を行う場合のテイラー因子である。以降、特に断らない場合は、(2)式に従うテイラー因子にて、結晶学的に等価なすべての結晶に関して求めた平均値を単に「テイラー因子」と呼称する。
【0034】
次に、以下の実施形態1~3において、上記の面積、KAM値、平均結晶粒径により特徴を規定する。
【0035】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、前述したMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物で直径が0.5μm超の粒子が10000μm2の視野中に1個以上存在する。前述したように、歪誘起粒成長時によりCube方位が強化されるようにするためである。これらの酸化物は、板厚中心が表出するように研磨し、その研磨面をEBSDにて10000μm2の領域について観察を行うことにより特定できる。
上記の硫化物、酸硫化物は、熱処理によって変化しないので、後述する実施形態1~3のいずれの無方向性電磁鋼板においても、直径が0.5μm超の粒子が10000μm2の視野中に1個以上存在する。直径が0.5μm超の粒子は、10000μm2の視野中に4個以上存在してもよく、また、6個以上存在してもよい。
【0036】
(実施形態1)
まず、スキンパス圧延後の無方向性電磁鋼板の金属組織について説明する。この金属組織は、歪誘起粒成長を起こすのに十分な歪を蓄積しており、歪誘起粒成長が起こる前の初期段階の状態と位置付けることができる。スキンパス圧延後の鋼板の金属組織の特徴は、大まかには、目的とする方位の結晶粒が発達するための方位と、歪誘起粒成長を起こすため十分に蓄積された歪に関する条件とで規定される。
【0037】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では所定の方位粒の面積が、以下の(3)~(5)式を満たす。
0.20≦Styl/Stot≦0.85 ・・・(3)
0.05≦S100/Stot≦0.80 ・・・(4)
S100/Stra≧0.50 ・・・(5)
【0038】
Stylは、テイラー因子が十分に大きい方位の存在量である。歪誘起粒成長過程では、テイラー因子が小さく加工による歪が蓄積しにくい方位が、テイラー因子が大きく加工による歪が蓄積した方位を蚕食しながら優先的に成長する。このため、歪誘起粒成長により特殊な方位を発達させるには、Stylはある程度の量が存在する必要がある。本実施形態においては、全面積に対する面積比Styl/Stotとして規定し、本実施形態では面積比Styl/Stotを0.20以上とする。面積比Styl/Stotが0.20未満では、歪誘起粒成長によって目的とする結晶方位が十分に発達しなくなる。好ましくは面積比Styl/Stotが0.30以上、より好ましくは0.50以上である。
【0039】
面積比Styl/Stotの上限は、以下で説明する歪誘起粒成長過程で発達させるべき結晶方位粒の存在量と関連するが、その条件は単純に優先成長する方位と蚕食される方位の比率のみで決定されるものではない。まず、後述するように、歪誘起粒成長で発達させるべき{100}方位粒の面積比S100/Stotが0.05以上であることから、必然的に面積比Styl/Stotは0.95以下となる。しかし、面積比Styl/Stotの存在量が過多となると、後述する歪との関連で、{100}方位粒の優先成長が起きなくなる。歪量との関連は後で詳述するが、本実施形態においては、面積比Styl/Stotは0.85以下となる。好ましくは面積比Styl/Stotが0.75以下、より好ましくは0.70以下である。
【0040】
その後の歪誘起粒成長過程では、{100}方位粒を優先的に成長させる。{100}方位はテイラー因子が十分に小さく加工による歪が蓄積しにくい方位の1つであり、歪誘起粒成長過程において優先的に成長しうる方位である。本実施形態では、{100}方位粒の存在は必須であり、本実施形態では、{100}方位粒の面積比S100/Stotを0.05以上とする。{100}方位粒の面積比S100/Stotが0.05未満では、その後の歪誘起粒成長によって{100}方位粒が十分に発達しなくなる。好ましくは面積比S100/Stotが0.10以上、より好ましくは0.20以上である。
【0041】
面積比S100/Stotの上限は、歪誘起粒成長で蚕食されるべき結晶方位粒の存在量に応じて決定される。本実施形態では歪誘起粒成長で蚕食されるべきテイラー因子が2.8超となる方位の面積比Styl/Stotが0.20以上であることから、面積比S100/Stotは0.80以下となる。ただし、歪誘起粒成長前の{100}方位粒の存在量が低い方が、効果が顕著となり、{100}方位粒をより発達させることが可能になる。これを考慮すれば、好ましくは面積比S100/Stotは0.60以下、より好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.40以下である。
【0042】
優先的に成長させるべき方位粒として{100}方位粒を中心として説明したが、{100}方位粒と同様にテイラー因子が十分に小さく加工による歪が蓄積しにくい方位であって、歪誘起粒成長において優先的に成長しうる方位粒は他にも多く存在する。このような方位粒は、優先的に成長させるべき{100}方位粒とは競合する。一方でこれら方位粒は、鋼板面内の磁化容易軸方向(<100>方向)が{100}方位粒ほどは多くないため、歪誘起粒成長でこれら方位が発達してしまうと磁気特性が劣化して不都合となる。このため、本実施形態においては、テイラー因子が十分に小さく加工による歪が蓄積しにくい方位の中での{100}方位粒の存在比が確保されるよう規定する。
【0043】
本発明においては、歪誘起粒成長において{100}方位粒と競合すると考えられる方位粒を含む、テイラー因子が2.8以下となる方位粒の面積をStraとする。そして、(5)式に示すように、面積比S100/Straを0.50以上とし、{100}方位粒の成長の優位性を確保する。この面積比S100/Straが0.50未満では、歪誘起粒成長によって{100}方位粒が十分に発達しなくなる。好ましくは面積比S100/Straが0.80以上、より好ましくは0.90以上である。一方、面積比S100/Straの上限は特に限定する必要がなく、テイラー因子が2.8以下となる方位粒がすべて{100}方位粒(すなわちS100/Stra=1.00)であっても構わない。
【0044】
さらに本実施形態では、特に、歪誘起粒成長で成長しやすい方位として知られている{110}方位粒との関係を規定する。{110}方位は、熱間圧延鋼板での結晶粒径を大きくして冷間圧延で再結晶させたり、比較的低い圧下率で冷間圧延して再結晶させたりするなど汎用的な方法においても比較的容易に発達しやすく、優先的に成長させるべき{100}方位粒との競合においては特に配慮すべき方位である。歪誘起粒成長で{110}方位粒が発達してしまうと、特性の鋼板面内異方性が非常に大きくなり不都合となる。このため、本実施形態においては、{100}方位粒と{110}方位粒との面積比S100/S110が(8)式を満足するように制御して、{100}方位粒の成長の優位性を確保することが好ましい。
S100/S110≧1.00 ・・・(8)
【0045】
歪誘起粒成長によって{110}方位粒が不用意に発達してしまうことをより確実に回避するには、面積比S100/S110が1.00以上であることが好ましい。より好ましくは面積比S100/S110が2.00以上、さらに好ましくは4.00以上である。面積比S100/S110の上限は特に限定する必要がなく、{110}方位粒の面積率はゼロであっても構わない。つまり、(8)式は面積比S100/S110が無限大に発散しても成り立つものとする。
【0046】
本実施形態は、上述の結晶方位に加えて、以下に説明する歪を組み合わせることでより優れた磁気特性を得ることができる。本実施形態において、歪に関する規定として、以下の(6)式を満たす必要がある。
K100/Ktyl≦0.990 ・・・(6)
【0047】
歪に関する要件は(6)式によって規定される。(6)式は{100}方位粒に蓄積される歪(平均KAM値)とテイラー因子が2.8超となる方位粒に蓄積される歪(平均KAM値)との比である。ここで、KAM値は同一粒内で隣接する測定点との方位差であり、歪の多い箇所ではKAM値は高くなる。結晶学的な観点において、例えば板厚方向と圧延方向に平行な面内での平面歪状態で板厚方向への圧縮変形を行う場合、つまり鋼板を単純に圧延する場合は、一般的にはK100とKtylとの比K100/Ktylは1よりも小さくなる。しかし現実的には隣接する結晶粒による拘束、結晶粒内に存在する析出物、さらには変形時の工具(圧延ロールなど)との接触を含めたマクロ的な変形変動などの影響のため、ミクロ的に観察される結晶方位に応じた歪は多様な形態となる。このため、テイラー因子による純粋に幾何学的な方位の影響が現れにくくなる。また、例えば、同じ方位の粒であっても、粒径、粒の形態、隣接粒の方位や粒径、析出物の状態、板厚方向での位置などにより非常に大きな変動が形成される。さらに、一つの結晶粒でさえ、粒界近傍と粒内、変形帯などの形成により歪分布は大きく変動する。
【0048】
このような変動を考慮した上で、本実施形態において優れた磁気特性を得るためには、K100/Ktylを0.990以下とする。K100/Ktylが0.990超になると、蚕食されるべき領域の特殊性が失われる。そのため、歪誘起粒成長が起きにくくなる。好ましくはK100/Ktylが0.970以下、より好ましくは0.950以下である。
【0049】
優先的に成長させるべき{100}方位粒との競合において、テイラー因子が2.8以下となる方位粒との関係については、(7)式を満足することが好ましい。
K100/Ktra<1.010 ・・・(7)
【0050】
{100}方位粒が優先的に成長するにはK100/Ktraを1.010未満とすることが好ましい。このK100/Ktraは、歪が蓄積しにくく優先成長する可能性がある方位間の競合に関する指標でもあり、K100/Ktraが1.010以上では、歪誘起粒成長における{100}方位の優先性が発揮されず目的とする結晶方位が発達しない。K100/Ktraは、より好ましくは0.970以下、さらに好ましくは0.950以下である。
【0051】
優先的に成長させるべき{100}方位粒との競合において、{110}方位粒との関係については、面積と同様に歪においても配慮することが好ましい。この関係においては、{100}方位粒と{110}方位粒との平均KAM値のK100/K110が(9)式を満足するように制御し、{100}方位粒の成長の優位性を確保することが好ましい。
K100/K110<1.010 ・・・(9)
【0052】
歪誘起粒成長によって{110}方位粒が不用意に発達してしまうことをより確実に回避するには、K100/K110が1.010未満であることが好ましい。K100/K110は、より好ましくは0.970以下、さらに好ましくは0.950以下である。
【0053】
(9)式において、分母に相当する方位を持つ結晶粒が存在しない場合は、その式については数値による評価は行わず、その式を満足するものとする。
【0054】
本実施形態のスキンパス圧延後の無方向性電磁鋼板の金属組織においては、結晶粒径については特に限定しない。これは、その後の第1の熱処理により適切な歪誘起粒成長が起きる状態において、結晶粒径との関係はそれほど強くないためである。つまり、目的とする適切な歪誘起粒成長が起きるかどうかは、鋼板の化学組成に加え、結晶方位毎の存在量(面積)の関係と、それぞれの方位毎の歪量の関係により、ほぼ決定できる。
【0055】
ただし、結晶粒径があまりに粗大となると、歪により誘起されているものの、実用的な温度域での十分な粒成長は生じにくくなる。また結晶粒径があまりに粗大になると磁気特性の劣化も回避し難くなる。このため実用的な平均結晶粒径は300μm以下とすることが好ましい。より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。結晶粒径が細かいほど、結晶方位および歪の分布が適切に制御された際の歪誘起粒成長による目的とする結晶方位の発達は認識されやすい。ただし、あまりに微細となると、上述のように歪を付与する加工において隣接粒との拘束のため、結晶方位毎の歪量の差異を形成しにくくなる。この観点からは平均結晶粒径は3μm以上であることが好ましく、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。
【0056】
(実施形態2)
次に、スキンパス圧延後の無方向性電磁鋼板にさらに、第1の熱処理を行うことで、歪誘起粒成長が起きた後(かつ歪誘起粒成長が完了する前)の、無方向性電磁鋼板の金属組織について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は歪誘起粒成長により歪の少なくとも一部が解放されており、歪誘起粒成長後の鋼板の金属組織の特徴は、結晶方位、歪および結晶粒径により規定される。
【0057】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、所定の方位粒の面積が、以下の(10)~(12)式を満たしている。これらの規定は、前述のスキンパス圧延後の無方向性電磁鋼板に関する(3)~(5)式と比較して数値範囲が異なっている。歪誘起粒成長に伴い、{100}方位粒が優先成長してその面積が増加するとともに、テイラー因子が2.8超となる方位粒が主として{100}方位粒に蚕食され、その面積が減少しているからである。
Styl/Stot≦0.70 ・・・(10)
0.20≦S100/Stot ・・・(11)
S100/Stra≧0.55 ・・・(12)
【0058】
面積比Styl/Stotの上限は、歪誘起粒成長の進行の程度を示すパラメータの一つとして決定される。面積比Styl/Stotが0.70超であることは、テイラー因子が2.8超となる方位粒の結晶粒が十分に蚕食されておらず、歪誘起粒成長が十分に起きていないことを示している。つまり、発達させるべき{100}方位粒の発達が不十分であるため、磁気特性が十分に向上しない。したがって、本実施形態では面積比Styl/Stotを0.70以下とする。好ましくは面積比Styl/Stotが0.60以下、より好ましくは0.50以下である。面積比Styl/Stotは小さい方が好ましいので下限は規定する必要がなく、0.00であってもよい。
【0059】
また、本実施形態では面積比S100/Stotを0.20以上とする。面積比S100/Stotの下限は、歪誘起粒成長の進行の程度を示すパラメータの一つとして決定され、面積比S100/Stotが0.20未満では、{100}方位粒の発達が不十分であるため、磁気特性が十分に向上しない。好ましくは面積比S100/Stotが0.40以上、より好ましくは0.60以上である。面積比S100/Stotは高い方が好ましいので上限は規定する必要はなく、1.00であってもよい。
【0060】
実施形態1と同様、歪誘起粒成長において{100}方位粒と競合すると考えられる方位粒と{100}方位粒との関係も重要である。面積比S100/Straが大きい場合は{100}方位粒の成長の優位性が確保されており、磁気特性が良好となる。この面積比S100/Straが0.55未満であることは、歪誘起粒成長によって{100}方位粒が十分に発達せず、テイラー因子が2.8超となる方位粒が{100}方位粒以外のテイラー因子が小さな方位により蚕食された状態であることを示している。この場合、磁気特性の面内異方性も大きくなる。したがって、本実施形態では面積比S100/Straを0.55以上とする。好ましくは面積比S100/Straが0.65以上、より好ましくは0.75以上である。一方、面積比S100/Straの上限は特に限定する必要がなく、テイラー因子が2.8以下である方位粒がすべて{100}方位粒であっても構わない。
【0061】
さらに本実施形態では、実施形態1と同様に、{110}方位粒との関係も規定する。本実施形態においては、{100}方位粒と{110}方位粒との面積比S100/S110が以下の(18)式を満たしており、{100}方位粒の成長の優位性が確保されていることが好ましい。
S100/S110≧1.00 ・・・(18)
【0062】
(18)式に示すように、本実施形態においては、面積比S100/S110が1.00以上であることが好ましい。歪誘起粒成長で{110}方位粒が発達し、この面積比S100/S110が1.00未満になると、鋼板面内の異方性が非常に大きくなり特性上不都合となりやすい。より好ましくは面積比S100/S110が2.00以上、さらに好ましくは4.00以上である。面積比S100/S110の上限は特に限定する必要がなく、{110}方位粒の面積率はゼロであっても構わない。つまり、(18)式は面積比S100/S110が無限大に発散しても成り立つものとする。
【0063】
次に、本実施形態で満足すべき歪に関する規定について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板での歪量は、実施形態1で説明したスキンパス圧延後の状態での歪量と比較すると大幅に減少し、その中で結晶方位毎の歪量において特徴を有する状態になっている。
【0064】
本実施形態における歪に関する規定は、前述のスキンパス圧延後の鋼板に関する(6)式と比較して数値範囲が異なっており、以下の(13)式を満たしている。
K100/Ktyl≦1.010 ・・・(13)
【0065】
歪誘起粒成長が十分に進行すると、鋼板の歪の大きな部分は解放された状況になり、結晶方位毎の歪は均一化され歪の変動は十分に小さくなり、(13)式に示す比は1に近い値となる。
【0066】
このような変動を考慮した上で、本実施形態において優れた磁気特性を得るためには、K100/Ktylを1.010以下とする。K100/Ktylが1.010超では、歪の解放が十分でないことから、特に鉄損の低減が不十分になる。好ましくはK100/Ktylが0.990以下、より好ましくは0.970以下である。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板が、前述の(6)式を満足する鋼板に対して第1の熱処理がなされて得られたものであるとしても、測定の誤差等により(13)式の値は1.000を超えることも考えられる。
【0067】
優先的に成長させるべき{100}方位粒との競合において、テイラー因子が2.8以下となる方位粒との関係については、(16)式を満足することが好ましい。
K100/Ktra<1.010 ・・・(16)
【0068】
{100}方位粒が優先的に成長するにはK100/Ktraを1.010未満とすることが好ましい。このK100/Ktraが1.010以上では、歪の解放が十分でなく特に鉄損の低減が不十分になる。前述の(7)式を満足する無方向性電磁鋼板に対して第1の熱処理がなされることで、(16)式を満足する無方向性電磁鋼板が得られる。
【0069】
実施形態1では、{110}方位粒の歪との関係について配慮することが好ましいことを説明した。一方で、本実施形態においては、歪誘起粒成長が十分に進行し鋼板の歪の大きな部分は解放された状況である。したがって、{110}方位粒に蓄積される歪に相当するK110の値は、K100と同程度にまで歪が解放された値となっており、(9)式と同様に、(19)式を満たすことが好ましい。
K100/K110<1.010 ・・・(19)
【0070】
つまり、(9)式と同様に、K100/K110が1.010未満であることが好ましい。K100/K110が1.010以上では、歪の解放が十分でなく特に鉄損の低減が不十分になる場合がある。前述の(9)式を満足する無方向性電磁鋼板に対して第1の熱処理がなされることで、(19)式を満足する無方向性電磁鋼板が得られる。
【0071】
(13)式及び(19)式において、分母に相当する方位を持つ結晶粒が存在しない場合は、その式については数値による評価は行わず、その式を満足するものとする。
【0072】
次に、本実施形態で満足すべき結晶粒径に関する規定について説明する。歪誘起粒成長が十分に進行して歪の大きな部分が解放された状況での金属組織においては、結晶方位毎の結晶粒径が磁気特性に大きな影響を及ぼす。歪誘起粒成長により優先的に成長した方位の結晶粒は粗大となり、これに蚕食される方位の結晶粒は微細となる。本実施形態では、平均結晶粒径の関係が(14)式及び(15)式を満たすものとする。
d100/dave>1.00 ・・・(14)
d100/dtyl>1.00 ・・・(15)
【0073】
これらの式は、優先成長した方位である{100}方位粒の平均結晶粒径d100が相対的に大きいことを示している。(14)式及び(15)式におけるこれらの比は、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは2.00以上である。これらの比の上限は特に限定されないが、蚕食される方位の結晶粒も{100}方位粒に比べて成長速度が遅いが第1の熱処理中に粒成長するため、上記の比は過度に大きくなりにくく、実用的な上限は10.00程度である。
【0074】
また、本実施形態において、(17)式を満たすことが好ましい。
d100/dtra>1.00 ・・・(17)
【0075】
この式は、優先成長した方位である{100}方位粒の平均結晶粒径d100が相対的に大きいことを示している。(17)式における比は、より好ましくは1.30以上、さらに好ましくは1.50以上、特に好ましくは2.00以上である。この比の上限は特に限定されないが、蚕食される方位の結晶粒も{100}方位粒に比べて成長速度が遅いが第1の熱処理中に粒成長するため、上記の比は過度に大きくなりにくく、実用的な上限は10.00程度である。
【0076】
また、平均結晶粒径の範囲については特に限定はしないが、平均結晶粒径があまりに粗大になると磁気特性の劣化も回避し難くなる。このため、本実施形態において相対的に粗大な粒である{100}方位粒の実用的な平均結晶粒径は、500μm以下とすることが好ましい。より好ましくは{100}方位粒の平均結晶粒径が400μm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下である。一方、{100}方位粒の平均結晶粒径の下限は、{100}方位の十分な優先成長を確保している状態を想定すれば、{100}方位粒の平均結晶粒径が40μm以上であることが好ましく、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。
【0077】
(15)式において、分母に相当する方位を持つ結晶粒が存在しない場合は、その式については数値による評価は行わず、その式を満足するものとする。
【0078】
(実施形態3)
上述の実施形態1および2では、鋼板の歪をKAM値で特定することで鋼板としての特徴を規定した。これに対し、本実施形態では、実施形態1又は2に記載の鋼板を十分に長時間焼鈍し、さらに粒成長させた鋼板について規定する。このような鋼板は、歪誘起粒成長がほぼ完了し、その結果、歪がほぼ完全に解放されるため、特性としては非常に好ましいものとなる。つまり、歪誘起粒成長で{100}方位粒を成長させ、さらに歪がほぼ完全に解放されるまで第2の熱処理で正常粒成長させた鋼板は、{100}方位への集積がより強い鋼板となる。本実施形態では、実施形態1または2に記載の鋼板を素材として、第2の熱処理を行って得られる鋼板(すなわち、スキンパス圧延後の無方向性電磁鋼板に対し、第1の熱処理を行ってから第2の熱処理を行った無方向性電磁鋼板、または、第1の熱処理は省略して、第2の熱処理を行った無方向性電磁鋼板)の結晶方位、および結晶粒径について説明する。
【0079】
第2の熱処理を行って得られる鋼板(無方向性電磁鋼板)は、各方位粒の面積が、以下の(20)~(22)式を満たす。これらの規定は、前述のスキンパス圧延後の鋼板に関する(3)~(5)式、及び第1の熱処理による歪誘起粒成長後の鋼板に関する(10)~(12)式と比較して数値範囲が異なっている。歪誘起粒成長およびその後の第2の熱処理に伴い、{100}方位粒がさらに成長してその面積が増加するとともに、テイラー因子が2.8超となる方位粒が主として{100}方位粒に蚕食され、その面積がさらに減少している。
Styl/Stot<0.55 ・・・(20)
S100/Stot>0.30 ・・・(21)
S100/Stra≧0.60 ・・・(22)
【0080】
本実施形態では面積比Styl/Stotを0.55未満とする。Stylはゼロであっても構わない。面積比Styl/Stotの上限は{100}方位粒の成長の進行の程度を示すパラメータの一つとして決定される。面積比Styl/Stotが0.55以上であることは、歪誘起粒成長の段階で蚕食されるべきテイラー因子が2.8超となる方位粒が十分に蚕食されていないことを示している。この場合、磁気特性が十分に向上しない。好ましくは面積比Styl/Stotが0.40以下、より好ましくは0.30以下である。面積比Styl/Stotは少ない方が好ましいので、下限は規定されず、0.00であってもよい。
【0081】
また、本実施形態では面積比S100/Stotを0.30超とする。面積比S100/Stotが0.30以下では、磁気特性が十分に向上しない。好ましくは面積比S100/Stotが0.40以上、より好ましくは0.50以上である。面積比S100/Stotが1.00である状況とは、結晶組織のすべてが{100}方位粒であり、その他の方位粒が存在しない状況であるが、本実施形態はこの状況も対象とするものである。
【0082】
実施形態1及び2と同様、歪誘起粒成長において{100}方位粒と競合していたと考えられる方位粒と{100}方位粒との関係も重要である。面積比S100/Straが十分に大きい場合には、歪誘起粒成長後の正常粒成長の状況においても{100}方位粒の成長の優位性が確保されており、磁気特性が良好となる。この面積比S100/Straが0.60未満では、歪誘起粒成長によって{100}方位粒が十分に発達せず、歪誘起粒成長後の正常粒成長の状況において{100}方位粒以外のテイラー因子が小さな方位粒が相当程度に成長したことになり、磁気特性の面内異方性も大きくなる。したがって、本実施形態では面積比S100/Straを0.60以上とする。好ましくは面積比S100/Straが0.70以上、より好ましくは0.80以上である。一方、面積比S100/Straの上限は特に限定する必要がなく、テイラー因子が2.8以下である方位粒がすべて{100}方位粒であっても構わない。
【0083】
歪誘起粒成長およびその後の正常粒成長が十分に進行し、鋼板の歪がほとんど解放された状況での金属組織においても、結晶方位毎の結晶粒径が磁気特性に大きな影響を及ぼす。歪誘起粒成長の時点で優先的に成長した{100}方位粒は、正常粒成長の後も粗大な結晶粒となる。本実施形態では、平均結晶粒径の関係が(23)式及び(24)式を満たすものとする。
d100/dave≧0.95 ・・・(23)
d100/dtyl≧0.95 ・・・(24)
【0084】
これらの式は、{100}方位粒の平均結晶粒径d100が他の粒の平均結晶粒径の0.95倍以上であることを示している。(23)式及び(24)式におけるこれらの比は、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.10以上、さらに好ましくは1.20以上である。これらの比の上限は特に限定されないが、正常粒成長中には{100}方位粒以外の結晶粒も成長するが、正常粒成長に入る時点、すなわち歪誘起粒成長が終了する時点で{100}方位粒は粗大となり、いわゆるサイズアドバンテージを有している。{100}方位粒は正常粒成長過程でも粗大化が有利となるため、上記の比は十分に特徴的な範囲を保つ。したがって、実用的な上限は10.00程度である。これらの比のいずれかが10.00を超えると混粒となり打ち抜き性など加工に関連する問題を生じることがある。
【0085】
さらに、平均結晶粒径の関係で、以下の(25)式も満たしていることが好ましい。
d100/dtra≧0.95 ・・・(25)
【0086】
この式は、優先成長した方位である{100}方位粒の平均結晶粒径d100が相対的に大きいことを示している。(25)式における比は、より好ましくは1.00以上、さらに好ましくは1.10以上、特に好ましくは1.20以上である。この比の上限は特に限定されないが、正常粒成長中には{100}方位粒以外の結晶粒も成長するが、正常粒成長に入る時点、すなわち歪誘起粒成長が終了する時点で{100}方位粒は粗大となり、いわゆるサイズアドバンテージを有している。{100}方位粒は正常粒成長過程でも粗大化が有利となるため、上記の比は十分に特徴的な範囲を保つ。したがって、実用的な上限は10.00程度である。これらの比のいずれかが10.00を超えると混粒となり打ち抜き性など加工に関連する問題を生じることがある。
【0087】
また、平均結晶粒径の範囲については特に限定はしないが、平均結晶粒径があまりに粗大になると磁気特性の劣化も回避し難くなる。このため、実施形態2と同様、本実施形態において相対的に粗大な粒である{100}方位粒の実用的な平均結晶粒径は、500μm以下とすることが好ましい。より好ましくは{100}方位粒の平均結晶粒径が400μm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下である。一方、{100}方位粒の平均結晶粒径の下限は、{100}方位の十分な優先成長を確保している状態を想定すれば、{100}方位粒の平均結晶粒径が40μm以上であることが好ましく、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。
【0088】
(24)式において、分母に相当する方位を持つ結晶粒が存在しない場合は、その式については数値による評価は行わず、その式を満足するものとする。
【0089】
[特性]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記の通り化学組成、金属組織を制御しているので、圧延方向と幅方向の平均だけでなく、全周平均(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、及び圧延方向に対して135度の方向、の平均)で優れた磁気特性を得ることができる。
また、モータへの適用を考慮した場合、鉄損の異方性が小さいことが好ましい。そのためC方向(幅方向)のW15/50と、L方向(圧延方向)のW15/50との比である、W15/50(C)/W15/50(L)が1.3未満であることが好ましい。
【0090】
磁気測定はJIS C 2550-1(2011)及びJIS C 2550-3(2019)に記載の測定方法で行ってもよいし、JIS C 2556(2015)に記載の測定方法で行っても良い。また、試料が微小であり、上記JISに記載の測定が出来ない場合、電磁回路はJIS C 2556(2015)に準じた55mm角の試験片や更に微小な試験片を測定できる装置を用いて測定しても良い。
【0091】
<製造方法>
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されるものではないが、(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法、(B)薄スラブ連続鋳造法、(C)潤滑熱延法、および(D)ストリップキャスティング法等を挙げることができる。
いずれの方法においても、スラブ等の開始材料の化学組成ついては、上記に記載された化学組成である。
それぞれの製造方法について説明する。
【0092】
(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法
まず、上述の化学組成を有する溶鋼から、製鋼工程でスラブを製造する。そして、スラブを再加熱炉で加熱した後、連続的に粗圧延および仕上げ圧延し、熱間圧延鋼板を得る(熱間圧延工程)。熱間圧延工程での条件は特に制限しないが、一般的な製造方法として、まず、スラブを1000~1200℃に加熱し、その後、熱間圧延工程で、粗圧延を行って、700~900℃で仕上げ圧延を完了させ、500~700℃で巻き取る方法でもよい。
【0093】
次に、熱間圧延鋼板に対して、熱間圧延板焼鈍を実施する(熱間圧延板焼鈍工程)。熱間圧延板焼鈍により、再結晶させ、結晶粒を、結晶粒径が300~500μmとなるまで粗大に成長させる。
熱間圧延板焼鈍は、連続焼鈍でも、バッチ焼鈍でもよいが、コストの観点から、熱間圧延板焼鈍は連続焼鈍で実施するのが好ましい。連続焼鈍を実施するには、高温短時間で結晶粒成長させる必要がある。連続焼鈍の場合、熱間圧延板焼鈍の温度は例えば1000℃~1100℃とし、焼鈍時間は20秒~2分とする。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、化学組成において、(1)式を満たすので、上記のような高温で熱間圧延板焼鈍を行っても、フェライト-オーステナイト変態が生じない。
【0094】
次に、熱間圧延板焼鈍を行った鋼板に対して、冷間圧延前の酸洗を実施する(酸洗工程)。
酸洗は、鋼板表面のスケールを除去するために必要な工程である。スケール除去の状況に応じて、酸洗条件を選択する。酸洗の代わりに、グラインダでスケールを除去してもよい。
【0095】
次に、スケールを除去した鋼板に対して、冷間圧延を実施する(冷間圧延工程)。
ここで、Si含有量の高い高級無方向性電磁鋼板では、結晶粒径を粗大にしすぎると鋼板が脆化し、冷間圧延での脆性破断懸念が生じる。そのため、通常の場合は、冷間圧延前の鋼板の平均結晶粒径を200μm以下に制限する。一方、本実施形態では、高温の熱間圧延板焼鈍を行い、冷間圧延前の平均結晶粒径を300~500μmとしている。本実施形態の冷間圧延工程では、このような平均結晶粒径を有する鋼板に、冷間圧延を圧下率88~97%で実施する。
冷間圧延の代わりに、脆性破断回避の観点から、材料の延性/脆性遷移温度以上の温度で、温間圧延を実施しても良い。
その後、後述の条件で中間焼鈍を実施すると、ND//<100>再結晶粒が成長する。それにより、{100}面強度が増加し、{100}方位粒の存在確率が高まる。
【0096】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う(中間焼鈍工程)。本実施形態では、中間焼鈍を650℃以上の温度で行う。中間焼鈍の温度が650℃未満であると、再結晶が生じず、{100}方位粒が十分に成長せず、磁束密度が高くならない場合がある。したがって、中間焼鈍の温度は650℃以上とする。中間焼鈍の温度の上限は限定されないが、結晶粒微細化の点で、800℃以下であってもよい。
また、焼鈍時間は1秒~60秒とすることが好ましい。焼鈍時間が1秒未満では、再結晶を生じさせるための時間が少なすぎることから、{100}方位粒が十分に成長しない可能性がある。また、焼鈍時間が60秒を超えると、いたずらにコストがかかるため望ましくない。
【0097】
中間焼鈍が終了すると、次にスキンパス圧延を行う(スキンパス圧延工程)。上述したように{100}方位粒が多い状態で圧延を行うと、{100}方位粒がさらに成長する。スキンパス圧延の圧下率は5%~30%とする。圧下率が5%未満や30%超では、歪誘起粒成長が十分に生じない。
【0098】
無方向性電磁鋼板において、前述した歪の分布を有するようにする場合には、スキンパス圧延時の圧下率(%)をRsとした場合に、5<Rs<20を満たすようにスキンパス圧延の圧下率を調整することが好ましい。
【0099】
スキンパス圧延工程後、上述した実施形態1に係る無方向性電磁鋼板が得られる。
【0100】
続いて、歪誘起粒成長を促進するための第1の熱処理を行う(第1の熱処理工程)。第1の熱処理は700~950℃で1秒~100秒行うことが好ましい。
熱処理温度が700℃未満では、歪誘起粒成長が発生しない。一方、950℃超では、歪誘起粒成長だけでなく正常粒成長が起きて、上述した実施形態2に記載の金属組織を得られなくなる。
また、熱処理時間(保持時間)が100秒超では、生産効率が著しく落ちるため、現実的ではない。保持時間を1秒未満とすることは工業的に容易ではないため、保持時間を1秒以上とする。
【0101】
第1の熱処理工程後、上述した実施形態2に係る無方向性電磁鋼板が得られる。
【0102】
スキンパス圧延工程後、または第1の熱処理後工程後の鋼板に、第2の熱処理を行う(第2の熱処理工程)。第2の熱処理は950~1050℃の温度範囲とする場合には1秒~100秒、もしくは700~900℃の温度範囲とする場合には1000秒超行うことが好ましい。
スキンパス圧延工程後、第1の熱処理を行った鋼板に第2の熱処理を行ってもよいし、スキンパス圧延工程後、第1の熱処理を省略して、第2の熱処理を行っても良い。
上記温度範囲及び時間で熱処理を行うことで、第1の熱処理を省略した場合は、歪誘起粒成長後に正常粒成長し、第1の熱処理を実施した場合は、正常粒成長する。また、第1の熱処理の条件によってはその後の第2の熱処理で歪誘起粒成長をすることもある。
【0103】
第2の熱処理工程後、上述した実施形態3に係る無方向性電磁鋼板が得られる。
【0104】
(B)薄スラブ連続鋳造法
薄スラブ連続鋳造法では、上述の化学組成を有する溶鋼から、製鋼工程で30~60mm厚さの薄スラブを製造し、熱間圧延工程の粗圧延を省略する。この製造方法では薄スラブで十分に柱状晶を発達させ、熱間圧延で柱状晶を加工して得られる{100}<011>方位粒を熱間圧延板に残すようにすることが好ましい。この過程で、{100}面が鋼板面に平行になるように柱状晶が成長する。この目的のためには連続鋳造での電磁撹拌を実施しないようにすることが好ましい。また、凝固核生成を促進させる溶鋼中の微細介在物は極力低減することが好ましい。
そして、薄スラブを再加熱炉で加熱した後、熱間圧延工程で連続的に仕上げ圧延し、約2mm厚さの熱間圧延鋼板を得る。粗圧延は行われないが、薄スラブを加熱する場合には、加熱温度は例えば1000~1200℃とし、その後、700~900℃で仕上げ圧延を完了させ、500~700℃で巻き取る。
【0105】
その後、熱間圧延鋼板に対して、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法」と同様にして、熱間圧延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、中間焼鈍、スキンパス圧延、第1の熱処理、および第2の熱処理を実施する。ただし、第1の熱処理は省略してもよい。また、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法」と異なる点として、冷間圧延の圧下率は65~80%とすることが好ましい。
以上の工程を経て、上述した無方向性電磁鋼板が得られる。
【0106】
(C)潤滑熱間圧延法
潤滑熱間圧延法では、まず、上述の化学組成を有する溶鋼から、製鋼工程でスラブを製造する。そして、スラブを再加熱炉で加熱した後、熱間圧延工程で連続的に粗圧延および仕上げ圧延し、熱間圧延鋼板を得る。
ここで、熱間圧延は、通常無潤滑で実施するが、潤滑熱間圧延法では、適切な潤滑条件で熱間圧延する。適切な潤滑条件で熱間圧延を実施すると、鋼板表層近傍に導入される剪断変形が低減する。それにより、通常鋼板中央で発達するαファイバと呼ばれるRD//<011>方位粒を持つ加工組織を鋼板表層近傍まで発達させることができる。例えば、特開平10-36912号公報に記載のように、熱間圧延時に潤滑剤として熱間圧延ロール冷却水に0.5~20%の油脂を混入し、仕上げ熱間圧延ロールと鋼板との平均摩擦係数を0.25以下にすることで、αファイバを発達させることができる。このときの温度条件は特に指定しないが、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法」と同様の温度でもよい。
【0107】
その後、得られた熱間圧延鋼板に対して、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷延強圧下法」と同様にして、熱間圧延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、中間焼鈍、スキンパス圧延、第1の熱処理、および第2の熱処理を実施する。ただし、第1の熱処理は省略してもよい。また、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法」と異なる点として、冷間圧延の圧下率は65~80%とすることが好ましい。
以上の工程を経て、上述した無方向性電磁鋼板が得られる。
【0108】
(D)ストリップキャスティング法
まず、上述の化学組成を有する溶鋼から、製鋼工程で、ストリップキャスティング法により直接1~3mm厚さの熱間圧延鋼板相当厚さの鋼板を製造する。
ストリップキャスティング法では、溶鋼を水冷した1対のロール間で急速に冷却することで、上記の厚さの鋼板を得ることができる。その際、水冷ロールに接触している鋼板最表面と溶鋼との温度差を十分に高めることで、表面で凝固した結晶粒が鋼板垂直方向に成長し、柱状晶を形成する。
【0109】
BCC構造を持つ鋼では、柱状晶は{100}面が鋼板面に平行になるように成長する。これにより{100}面強度が増加し、{100}方位粒の存在確率が高まる。そして、変態、加工又は再結晶で、{100}面からなるべく変化させないことが重要である。具体的には、フェライト促進元素であるSiを含有させ、オーステナイト促進元素であるMnの含有量を制限することで、高温でオーステナイト相を生成させずに、凝固直後から室温までをフェライト単相とすることが重要である。
α-γ変態が生じても一部{100}面は維持されるが、(1)式を満たすことで、高温でα-γ変態を起こさない成分にすることが好ましい。
【0110】
次に、ストリップキャスティング法により得られた鋼板を熱間圧延する。その後、得られた熱間圧延鋼板を焼鈍(熱間圧延板焼鈍)する。熱間圧延および熱間圧延板焼鈍は実施せず、そのまま後工程を実施してもよい。また、熱間圧延を行った場合でも熱間圧延板焼鈍を実施せずに、そのまま後工程を実施してもよい。ここで、熱間圧延で鋼板に30%以上の歪みを導入した場合、550℃以上の温度で熱間圧延板焼鈍を実施すると歪み導入部から再結晶が生じ、結晶方位が変化することがある。そのため、熱間圧延で30%以上の歪みを導入した場合、熱間圧延板焼鈍は、実施しないか、再結晶しない温度(550℃未満)で実施する。
【0111】
その後、熱間圧延鋼板に対して、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法」と同様にして、酸洗、冷間圧延、中間焼鈍、スキンパス圧延、第1の熱処理、および第2の熱処理を実施する。ただし、第1の熱処理は省略してもよい。また、上記「(A)高温熱間圧延板焼鈍+冷間圧延強圧下法」と異なる点として、冷間圧延の圧下率は65~80%とすることが好ましい。
以上の工程を経て、上述した無方向性電磁鋼板が得られる。
【0112】
以上のように本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造することができる。ただし、この製造方法は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造する方法の一例であり、製造方法を限定するものではない。
【実施例】
【0113】
次に、本発明の無方向性電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の無方向性電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、本発明の無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0114】
(第1の実施例)
溶鋼の連続鋳造を行い、下記表1Aに示す化学組成を有する250mm厚のスラブを準備した。ここで、(1)式左辺とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。
次いで、上記スラブに対し、熱間圧延を施し表1Bに記載の熱間圧延板を作製した。その時のスラブ再加熱温度は1200℃、仕上げ圧延での仕上げ温度は850℃、巻き取り時の巻き取り温度は650℃であった。1.0mm未満の板厚の材料は1.0mmの板厚の材料を作成後、両側研削により狙いの板厚にした。
【0115】
次に、上記熱間圧延板において、熱間圧延板焼鈍として、1050℃で1分間の焼鈍を行い、酸洗によりスケールを除去し、表1Bに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表1Bに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表1Bに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0116】
次に、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面(鋼板表面に平行な面)についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、表2に示す種類の面積および平均KAM値を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0117】
また、鋼板に第2の熱処理として、800℃で2時間の焼鈍を行った。
【0118】
第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、磁気特性の鉄損W10/400(最大磁束密度1.0T、周波数400Hzで励磁時に試験片で生じたエネルギー損失の圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(最大磁束密度1.0T、周波数400Hzで励磁時に試験片で生じたエネルギー損失の圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)(最大磁束密度1.5T、周波数50Hzで励磁時に試験片で生じたエネルギー損失の幅方向の値)、W15/50(L)(最大磁束密度1.5T、周波数50Hzで励磁時に試験片で生じたエネルギー損失の圧延方向の値)をJISC2556(2015)に準じて測定した。また、W15/50(C)をW15/50(L)で割り、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。
測定結果を表2に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
表1A、表1B及び表2中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109~No.112、No.119~No.136、No.149~No.151は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.108およびNo.113~No.117は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍での温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(3)式~(6)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.118は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
比較例であるNo.137~148では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(3)式、(4)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0123】
(第2の実施例)
溶鋼の連続鋳造を行い、下記表3Aに示す化学組成を有する30mm厚の薄スラブを準備した。
次いで、上記薄スラブに対し、熱間圧延を施し表3Bに記載の熱間圧延板を作製した。その時のスラブ再加熱温度は1200℃、仕上げ圧延での仕上げ温度は850℃、巻き取り時の巻き取り温度は650℃であった。1.0mm未満の板厚の材料は1.0mmの板厚の材料を作成後、両側研削により狙いの板厚にした。
【0124】
次に、上記熱間圧延板において、熱間圧延板焼鈍として、1000℃で1分間の焼鈍を行い、酸洗によりスケールを除去し、表3Bに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表3Bに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表3Bに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0125】
次に、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面について上述した要領でEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、表4に示す種類の方位粒の面積および平均KAM値を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0126】
また、鋼板に第2の熱処理として、800℃で2時間の焼鈍を行った。第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表4に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
表3A、表3B及び表4中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.201~No.207、No.209~No.210、No.217~No.235、No.248~No.250は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.208およびNo.211~No.215は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍での温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(3)式~(6)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.216は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
比較例であるNo.236~247では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(3)式、(4)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0131】
(第3の実施例)
溶鋼の連続鋳造を行い、下記表5Aに示す化学組成を有する250mm厚のスラブを準備した。
次いで、上記スラブに対し、熱間圧延を施し、表5Bに2.0mm厚の熱間圧延板を作製した。その時のスラブ再加熱温度は1200℃、仕上げ圧延での仕上げ温度は850℃、巻き取り時の巻き取り温度は650℃であった。さらに、熱間圧延時はロールとの潤滑性を上げるため、潤滑剤として熱延ロール冷却水に10%の油脂を混入し、仕上げ熱間圧延ロールと鋼板との平均摩擦係数を0.25以下にした。1.0mm未満の板厚の材料は1.0mmの板厚の材料を作成後、両側研削により狙いの板厚にした。
【0132】
次に、上記熱間圧延板において、熱間圧延板焼鈍として、1000℃で1分間の焼鈍を行い、酸洗によりスケールを除去し、表5Bに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表5Bに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表5Bに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0133】
次に、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、表6に示す種類の方位粒の面積および平均KAM値を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0134】
また、鋼板に第2の熱処理として、800℃で2時間の焼鈍を行った。第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表6に示す。
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
表5A、表5B及び表6中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.301~No.307、No.309~No.310、No.317~No.335、No.348~No.350は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.308およびNo.311~No.315は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍での温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(3)式~(6)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.316は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
比較例であるNo.336~347では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(3)式、(4)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0139】
(第4の実施例)
溶鋼をストリップキャスティング法(双ロール法)により急冷凝固させて鋳造し、以下の表7Aに示す化学組成を有する鋳片を作製した。そして、一部の鋳片においては凝固後800℃になった時点で表7Bの圧下率で熱間圧延を実施した。冷間圧延前の板厚(急冷凝固後の鋳片厚、もしくは熱間圧延した材料は圧延後の材料厚)を表7Bに示す。
【0140】
次に、上記鋳片において、酸洗によりスケールを除去し、表7Bに示す圧下率で冷間圧延を行った。ただし、No.411のみ酸洗の前に熱間圧延板焼鈍として、1000℃で1分間の焼鈍を行った。そして、表7Bに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表7Bに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0141】
次に、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、表8に示す種類の方位粒の面積および平均KAM値を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0142】
また、鋼板に第2の熱処理として、800℃で2時間の焼鈍を行った。第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表8に示す。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
表7A、表7B及び表8中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.401~No.407、No.409~No.413、No.420~438、No.451~No.453は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.408およびNo.414~No.418は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍での温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(3)式~(6)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.419は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
比較例であるNo.439~450では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(3)式、(4)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0147】
(第5の実施例)
溶鋼の連続鋳造を行い、下記表9Aに示す化学組成を有する30mm厚の薄スラブを準備した。
次いで、上記薄スラブに対し、熱間圧延を施し表9Bに記載の熱間圧延板を作製した。その時のスラブ再加熱温度は1200℃、仕上げ圧延での仕上げ温度は850℃、巻き取り時の巻き取り温度は650℃で行った。1.0mm未満の板厚の材料は1.0mmの板厚の材料を作成後、両側研削により狙いの板厚にした。
【0148】
次に、上記熱間圧延板において、熱間圧延板焼鈍として、1000℃で1分間の焼鈍を行い、酸洗によりスケールを除去し、表9Bに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表9Bに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表9Bに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0149】
スキンパス圧延後の鋼板の集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、所定の方位粒の面積および平均KAM値を求め、Styl/Stot、S100/Stot、S100/Stra、K100/Ktylを求めた。結果を表9Bに示す。
【0150】
次に、第1の熱処理を表9Bに示す条件で行った。
第1の熱処理後、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察を行った。EBSD観察により、表10Aに示す種類の方位粒の面積、平均KAM値及び平均結晶粒径を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0151】
また、鋼板に第2の熱処理として、800℃の温度で2時間の焼鈍を行った第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表10Bに示す。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
表9A、表9B及び表10A、表10B中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.501~No.507、No.509~No.510、No.518~No.536、No.549~No.552は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.508およびNo.511~No.516は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍での温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率、第1の熱処理での温度の何れかが最適ではなかったため、(10)式~(15)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.517は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
また、比較例であるNo.537~548では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(10)式、(11)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0157】
(第6の実施例)
溶鋼の連続鋳造を行い、下記表11Aに示す化学組成を有する30mm厚の薄スラブを準備した。
次いで、上記薄スラブに対し、熱間圧延を施し表11Bに記載の熱間圧延板を作製した。その時のスラブ再加熱温度は1200℃、仕上げ圧延での仕上げ温度は850℃、巻き取り時の巻き取り温度は650℃で行った。1.0mm未満の板厚の材料は1.0mmの板厚の材料を作成後、両側研削により狙いの板厚にした。
【0158】
次に、上記熱間圧延板において、熱間圧延板焼鈍として、1000℃で1分間の焼鈍を行い、酸洗によりスケールを除去し、表11Bに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表11Bに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表11Bに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0159】
スキンパス圧延後の鋼板の集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、所定の方位粒の面積および平均KAM値を求め、Styl/Stot、S100/Stot、S100/Stra、K100/Ktylを求めた。結果を表11Bに示す。
【0160】
次に、第1の熱処理を行わずに第2の熱処理を表11Bに示す条件で行った。第2の熱処理後、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察を行った。EBSD観察により、表12に示す種類の面積及び平均結晶粒径を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0161】
また、上記の第2の熱処理後に、第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表12に示す。
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
表11A、表11B及び表12中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.601~No.607、No.609~No.610、No.617~No.635、648は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.608及びNo.611~No.615は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(20)式~(24)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.616は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
また、比較例であるNo.636~647では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(20)式、(21)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0166】
(第7の実施例)
溶鋼の連続鋳造を行い、下記表13A、表13Bに示す化学組成を有する30mm厚の薄スラブを準備した。次いで、上記薄スラブに対し、熱間圧延を施し表13Cに記載の熱間圧延板を作製した。その時のスラブ再加熱温度は1200℃、仕上げ圧延での仕上げ温度は850℃、巻き取り時の巻き取り温度は650℃で行った。1.0mm未満の板厚の材料は1.0mmの板厚の材料を作成後、両側研削により狙いの板厚にした。
【0167】
次に、上記熱間圧延板において、熱間圧延板焼鈍として、1000℃で1分間の焼鈍を行い、酸洗によりスケールを除去し、表13Cに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表13Cに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表13Cに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0168】
次に、第1の熱処理を800℃で30秒の条件で行った。
第1熱処理後の鋼板の集合組織を評価するため、第1の熱処理後の鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、所定の方位粒の面積、平均KAM値及び平均結晶粒径を求め、Styl/Stot、S100/Stot、S100/Stra、K100/Ktyl、d100/dave、d100/dtylを求めた。結果を表13Cに示す。
【0169】
また、第1熱処理後の鋼板に、第2の熱処理を表13Cに示す条件で行った。第2の熱処理後、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察を行った。EBSD観察により、表14に示す種類の面積及び平均結晶粒径を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0170】
また、上記の第2の熱処理後に、第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表14に示す。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
表13A~表13C及び表14中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.701~No.707、No.709~No.710、No.717~No.735、No.748は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.708及びNo.711~No.715は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(20)式~(24)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.716は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
また、比較例であるNo.736~747では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(20)式、(21)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0176】
(第8の実施例)
溶鋼をストリップキャスティング法(双ロール法)により急冷凝固させて鋳造し、以下の表15A、表15Bに示す化学組成を有する鋳片を作製し、凝固後800℃になった時点で表15Cの圧下率で熱間圧延を実施した。冷間圧延前の鋳片厚(熱間圧延後の材料厚)を表15Cに示す。
【0177】
次に、上記鋳片において、酸洗によりスケールを除去し、表15Cに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表15Cに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表15Cに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0178】
スキンパス圧延後の鋼板の集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、所定の方位粒の面積および平均KAM値を求め、Styl/Stot、S100/Stot、S100/Stra、K100/Ktylを求めた。結果を表15Cに示す。
【0179】
次に、第1の熱処理を行わずに第2の熱処理を表15Cに示す条件で行った。第2の熱処理後、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察を行った。EBSD観察により、表16に示す種類の面積及び平均結晶粒径を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0180】
また、上記の第2の熱処理後に、第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表16に示す。
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
発明例であるNo.801~No.831、No.844は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.832~843では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、(20)式、(21)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0186】
(第9の実施例)
溶鋼をストリップキャスティング法(双ロール法)により急冷凝固させて鋳造し、以下の表17A、表17Bに示す化学組成を有する鋳片を作製し、凝固後800℃になった時点で表17Cの圧下率で熱間圧延を実施した。冷間圧延前の鋳片厚(熱間圧延後の材料厚)を表17Cに示す。
【0187】
次に、上記鋳片において、酸洗によりスケールを除去し、表17Cに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表17Cに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表17Cに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0188】
スキンパス圧延後の鋼板の集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、所定の方位粒の面積および平均KAM値を求め、Styl/Stot、S100/Stot、S100/Stra、K100/Ktylを求めた。結果を表17Cに示す。
【0189】
次に、表17Cの条件で第1の熱処理を行った。
第1の熱処理後、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察を行った。EBSD観察により、表18Aに示す種類の方位粒の面積、平均KAM値及び平均結晶粒径を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0190】
また、鋼板に第2の熱処理として、800℃の温度で2時間の焼鈍を行った。第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表18Bに示す。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
発明例であるNo.901~No.913、No.915~No.916、No.924~No.941、No.954~No.957では、いずれの例でも、鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.914およびNo.917~No.922は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍での温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率、第1の熱処理での温度の何れかが最適ではなかったため、(10)式~(15)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.923は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
また、比較例であるNo.942~953では、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(10)式、(11)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
【0197】
(第10の実施例)
溶鋼をストリップキャスティング法(双ロール法)により急冷凝固させて鋳造し、以下の表19A、表19Bに示す化学組成を有する鋳片を作製し、凝固後800℃になった時点で表19Cの圧下率で熱間圧延を実施した。冷間圧延前の鋳片厚(熱間圧延後の材料厚)を表19Cに示す。
【0198】
次に、上記鋳片において、酸洗によりスケールを除去し、表19Cに示す圧下率で冷間圧延を行った。そして、表19Cに示す温度の無酸化雰囲気中で中間焼鈍を30秒行い、次いで、表19Cに示す圧下率で2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0199】
次に、第1の熱処理を800℃で30秒の条件で行った。
第1熱処理後の鋼板の集合組織を評価するため、第1の熱処理後の鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察(step間隔:100nm)を行った。EBSD観察により、所定の方位粒の面積、平均KAM値及び平均結晶粒径を求め、Styl/Stot、S100/Stot、S100/Stra、K100/Ktyl、d100/dave、d100/dtylを求めた。結果を表19Cに示す。
【0200】
また、第1熱処理後の鋼板に、第2の熱処理を表19Cに示す条件で行った。第2の熱処理後、集合組織を調査するため、鋼板の一部を切除し、その切除した試験片を1/2の厚みに減厚加工し、その加工面についてEBSD観察を行った。EBSD観察により、表20に示す種類の面積及び平均結晶粒径を求め、さらにMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物のうち、直径が0.5μm超の粒子の10000μm2あたりの個数も特定した。
【0201】
また、上記の第2の熱処理後に、第2の熱処理後の鋼板から、測定試料として、55mm角の試料片を採取した。この際に、試料片の一辺が圧延方向と平行になる試料と、圧延方向に対し45度傾きを持つ試料を採取した。また、試料採取はせん断機を用いて実施した。そして、第1の実施例と同様に磁気特性の鉄損W10/400(圧延方向と幅方向の平均値)、W10/400(全周)(圧延方向、幅方向、圧延方向に対して45度の方向、圧延方向に対して135度の方向、の平均値)、W15/50(C)、W15/50(L)を測定し、W15/50(C)/W15/50(L)を求めた。測定結果を表20に示す。
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
発明例であるNo.1001~1013、No.1015~No.1016、No.1023~No.1041、No.1054は、いずれも鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
一方、比較例であるNo.1014及びNo.1017~No.1021は、(1)式を満たさないか、中間焼鈍温度、冷間圧延での圧下率、スキンパス圧延での圧下率の何れかが最適ではなかったため、(20)式~(24)式の少なくとも1つを満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。また、比較例であるNo.1022は、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdのいずれも含まれていなかったため、これらの元素の硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物は確認できず、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
また、比較例であるNo.1042~1053は、化学組成が本発明範囲を外れたことで、冷間圧延時に割れが発生するか、(20)式、(21)式を満たさず、その結果、鉄損W10/400、W10/400(全周)が高かった。
いずれの例でも、鉄損W10/400、W10/400(全周)は良好な値であった。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明によれば、全周平均で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することができる。そのため、本発明は、産業上の利用可能性が高い。