(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】匂いセンサ及び匂いセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20230427BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N27/414 301X
G01N27/414 301R
G01N27/414 301U
(21)【出願番号】P 2018132452
(22)【出願日】2018-07-12
【審査請求日】2021-07-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人 科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム 「CMOSセンサ技術とMEMS技術を融合した高精細イオンイメージセンサ開発」 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】若森 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】中東 真一
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和明
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018449(WO,A1)
【文献】特開2012-207991(JP,A)
【文献】特開2010-127757(JP,A)
【文献】特開2012-233876(JP,A)
【文献】特開2007-292734(JP,A)
【文献】特開2012-078180(JP,A)
【文献】特開平08-152423(JP,A)
【文献】特許第6083753(JP,B2)
【文献】新名直也,ポリアニリン感応膜を用いた電荷転送型センサアレイによるガス分布イメージング,第64回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2017年,p.11-330 (16p-416-6)
【文献】新名直也,小型においセンサを目指した微細電位型ガスセンサアレイの作製と応答パターンによるガス識別,Chemical Sensors,2017年,Vol.33 Suuplment B,pp.55-57
【文献】Masato Futagawa,Fabrication of a 128 X 128 Pixels Charge Transfer Type Hydrogen Ion Image Sensor,IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES,2013年,Vol.60 No.8,pp.2634-2639
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の状態に応じて電位を変化させる感応膜が設けられた少なくとも1つのセンシング部を基板上に形成してなるイオンセンサと、
前記感応膜上に配置され、匂い物質を吸着することにより状態を変化させる、前記測定対象としての物質吸着膜と、
前記物質吸着膜に参照電圧を印加する参照電極と、を備え、
前記イオンセンサは、
前記感応膜の前記電位の変化に応じた電荷を蓄積する部分と、
前記感応膜の前記電位の変化に応じた信号を出力するために、前記部分に蓄積された前記電荷を転送するゲート電極と、を有し、
前記参照電極は、前記感応膜から離間すると共に、前記基板の厚み方向から見て前記センシング部
及び前記ゲート電極と重ならないように配置されている、匂いセンサ。
【請求項2】
前記イオンセンサを覆うように設けられたパッシベーション層を更に備え、
前記物質吸着膜は、前記パッシベーション層を覆うように設けられており、
前記感応膜は、前記パッシベーション層に設けられた第1開口を介して前記物質吸着膜と接触しており、
前記参照電極は、前記物質吸着膜と前記基板との間に設けられており、前記パッシベーション層に設けられた第2開口を介して前記物質吸着膜と接触している、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項3】
前記イオンセンサを覆うように設けられたパッシベーション層を更に備え、
前記物質吸着膜は、前記パッシベーション層を覆うように設けられており、
前記感応膜は、前記パッシベーション層に設けられた開口を介して前記物質吸着膜と接触しており、
前記参照電極は、前記基板の厚み方向から見て前記センシング部の外縁部に配置されると共に、前記開口の内部に露出して前記物質吸着膜と接触する部分を含む、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項4】
前記参照電極は、少なくとも前記物質吸着膜の前記基板とは反対側の表面に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の匂いセンサ。
【請求項5】
前記イオンセンサは、前記基板上に一次元状又は二次元状に配列された複数の前記センシング部を有し、
1つの前記物質吸着膜は、2以上の前記センシング部の前記感応膜上に配置されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の匂いセンサ。
【請求項6】
前記イオンセンサは、前記基板上に一次元状又は二次元状に配列された複数の前記センシング部を有し、
複数の前記物質吸着膜が、それぞれ異なる前記センシング部の前記感応膜上に配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の匂いセンサ。
【請求項7】
前記イオンセンサは、前記基板上に一次元状又は二次元状に配列された複数の前記センシング部を有し、
前記参照電極は、前記複数の前記センシング部の各々の前記感応膜と前記参照電極との距離が互いに略同一となるように配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の匂いセンサ。
【請求項8】
測定対象の状態に応じて電位を変化させる感応膜が設けられたセンシング部を基板上に形成してなるイオンセンサが準備される工程と、
匂い物質を吸着することにより状態を変化させる前記測定対象としての物質吸着膜が、前記感応膜上に配置される工程と、
前記物質吸着膜に参照電圧を印加する参照電極が、前記感応膜から離間すると共に、前記基板の厚み方向から見て前記センシング部
及びゲート電極と重ならないように配置される工程と、を含
み、
前記イオンセンサは、前記感応膜の前記電位の変化に応じた電荷を蓄積する部分と前記ゲート電極とを有し、
前記ゲート電極は、前記イオンセンサに設けられ、前記感応膜の前記電位の変化に応じた信号を出力するために、前記部分に蓄積された前記電荷を転送する電極である、匂いセンサの製造方法。
【請求項9】
前記物質吸着膜は、前記参照電極が配置された後に、前記感応膜及び前記参照電極を覆うように設けられる、請求項8に記載の匂いセンサの製造方法。
【請求項10】
前記参照電極が配置された後に、前記参照電極を覆うように前記イオンセンサ上にパッシベーション層が形成される工程と、
前記パッシベーション層に、前記感応膜の少なくとも一部を外部に露出させる第1開口と前記参照電極の少なくとも一部を外部に露出させる第2開口とが形成される工程と、を更に含み、
前記物質吸着膜は、前記第1開口及び前記第2開口が形成された後に、前記パッシベーション層を覆うように設けられ、前記第1開口を介して前記感応膜に接触すると共に前記第2開口を介して前記参照電極に接触する、請求項9に記載の匂いセンサの製造方法。
【請求項11】
前記参照電極が前記基板の厚み方向から見た前記センシング部の外縁部に配置された後に、前記参照電極を覆うように前記イオンセンサ上にパッシベーション層が形成される工程と、
前記パッシベーション層に、前記感応膜の少なくとも一部及び前記参照電極の少なくとも一部を外部に露出させる開口が形成される工程と、を更に含み、
前記物質吸着膜は、前記開口が形成された後に、前記パッシベーション層を覆うように設けられ、前記開口内において前記感応膜及び前記参照電極に接触する、請求項9に記載の匂いセンサの製造方法。
【請求項12】
前記参照電極の少なくとも一部は、前記物質吸着膜が配置された後に、前記物質吸着膜の一部を覆うように設けられる、請求項8に記載の匂いセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いセンサ及び匂いセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
匂いに感度を有する匂いセンサとして、非特許文献1に開示されたセンサが知られている。上記センサでは、いわゆる電荷転送型pHイメージセンサのイオン感応膜(Si3N4)上に、ポリアニリン感応膜(匂い物質吸着膜)が成膜されている。上記センサでは、ポリアニリン感応膜への所定の参照電圧(Vgate)の印加とポリアニリン感応膜へのガス曝露(すなわち、匂い物質の吸着)とを両立させるために、ポリアニリン感応膜の表面にメッシュ電極が設けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】新名直也,岩田達哉,橋詰賢一,黒木俊一郎,澤田和明(2017),ポリアニリン感応膜を用いた電荷転送型センサアレイによるガス分布イメージング,第64回応用物理学会春季学術講演会,16p-416-6。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載のセンサでは、センシング部上にもメッシュ電極が設けられている。このため、メッシュ電極直下のセンシング部(画素)において匂いを適切に検出できないという問題がある。
【0005】
本発明の一側面は、好適に匂いを検出することが可能な匂いセンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る匂いセンサは、測定対象の状態に応じて電位を変化させる感応膜が設けられた少なくとも1つのセンシング部を基板上に形成してなるイオンセンサと、感応膜上に配置され、匂い物質を吸着することにより状態を変化させる、測定対象としての物質吸着膜と、物質吸着膜に参照電圧を印加する参照電極と、を備える。参照電極は、感応膜から離間すると共に、基板の厚み方向から見てセンシング部と重ならないように配置されている。
【0007】
上記匂いセンサによれば、物質吸着膜が匂い物質を吸着した際の物質吸着膜の状態の変化に応じた感応膜の電位変化に基づいて、匂いを検出することができる。このような匂い検出(測定)を実施するためには、物質吸着膜に参照電圧を印加する必要がある。このための構成として、例えば、物質吸着膜の上面(基板の厚み方向から見てセンシング部と重なる部分を含む)に電極(例えばメッシュ電極)を配置する構成が考えられる。しかし、この構成では、物質吸着膜の電極直下の部分(電極に隠されてしまい外部に露出しない部分)に匂い物質が吸着され難くなるため、電極直下のセンシング部において適切に匂いを検出できないという問題がある。一方、上記匂いセンサでは、物質吸着膜に参照電圧を印加するための参照電極は、感応膜から離間すると共に、基板の厚み方向から見てセンシング部と重ならないように配置されている。これにより、上述したようなメッシュ電極を配置する場合の問題が解消される。従って、上記匂いセンサによれば、好適に匂いを検出することが可能となる。
【0008】
上記匂いセンサは、イオンセンサを覆うように設けられたパッシベーション層を更に備え、物質吸着膜は、パッシベーション層を覆うように設けられており、感応膜は、パッシベーション層に設けられた第1開口を介して物質吸着膜と接触しており、参照電極は、物質吸着膜と基板との間に設けられており、パッシベーション層に設けられた第2開口を介して物質吸着膜と接触していてもよい。このように、参照電極を物質吸着膜よりも内側に内蔵する構成を採用する場合、例えばCMOSプロセス等を用いてメタル配線を配設することにより、容易に参照電極を作成することが可能となる。これにより、再現性高く参照電極を作成することが可能となる。また、CMOSプロセス内で参照電極を作成することが可能となるため、参照電極を作成するための余分な工数の発生を抑制できる。また、イオンセンサに内蔵されたパッドを介して、参照電極への電圧供給を容易化できる。
【0009】
上記匂いセンサは、イオンセンサを覆うように設けられたパッシベーション層を更に備え、物質吸着膜は、パッシベーション層を覆うように設けられており、感応膜は、パッシベーション層に設けられた開口を介して物質吸着膜と接触しており、参照電極は、基板の厚み方向から見てセンシング部の外縁部に配置されると共に、上記開口の内部に露出して物質吸着膜と接触する部分を含んでもよい。この場合、センシング部上に設けられた開口の内側において、物質吸着膜に対する参照電圧の印加を好適に行うことができる。
【0010】
参照電極は、少なくとも物質吸着膜の基板とは反対側の表面に設けられていてもよい。例えば、上述したような内蔵電極と共に物質吸着膜の外表面(基板とは反対側の表面)に設けられた電極が参照電極として設けられている場合には、物質吸着膜と参照電極との接触面積を増やすことにより、物質吸着膜に対してより確実且つ安定的に参照電圧を印加することができる。一方、参照電極は物質吸着膜の外表面のみに設けられてもよく、この場合には、上述したような内蔵電極の作成及びパッシベーション層の開口(第2開口)の形成等の処理を省略できる。また、内蔵電極を省略できる分だけ基板上のセンシング部の配列ピッチを小さくすることが可能となる。その結果、匂いセンサの小型化を図ることができる。或いは、匂い分布測定(イメージング)を行う場合には、空間分解能の向上を図ることができる。
【0011】
イオンセンサは、基板上に一次元状又は二次元状に配列された複数のセンシング部を有し、1つの物質吸着膜は、2以上のセンシング部の感応膜上に配置されていてもよい。この場合、1つの物質吸着膜に複数のセンシング部を対応させることができる。これにより、例えば複数のセンシング部の出力値の統計値(例えば平均値)を用いることにより、測定における感度のばらつきを低減できる。また、一部のセンシング部が不良である場合であっても、他のセンシング部を使用することにより測定を実施することができる。
【0012】
イオンセンサは、基板上に一次元状又は二次元状に配列された複数のセンシング部を有し、複数の物質吸着膜が、それぞれ異なるセンシング部の感応膜上に配置されていてもよい。この場合、例えばそれぞれ異なる匂い物質に反応する複数の物質吸着膜を1つのイオンセンサ上に設けることにより、各物質吸着膜に対応するセンシング部の出力値に基づいて、複雑な匂いのパターンを検出することが可能となる。なお、それぞれ異なる物質吸着膜が設けられた複数のイオンセンサを用いることも考えられるが、この場合、イオンセンサ間の個体差(感度のばらつき)を考慮して測定を行う必要が生じ得る。また、必要となるイオンセンサの個数が増えることにより、全体としての装置規模が大型化してしまう。一方、上述したように複数の物質吸着膜を1つのイオンセンサ上に配置する構成によれば、このような問題を解消できる。また、複数の同種の物質吸着膜を1つのイオンセンサ上に設ける場合にも、当該イオンセンサにおいて一部の物質吸着膜が適切に機能しないときに、他の物質吸着膜に対応するセンシング部の出力値に基づいて測定を継続することが可能となるという効果が奏される。
【0013】
イオンセンサは、基板上に一次元状又は二次元状に配列された複数のセンシング部を有し、参照電極は、複数のセンシング部の各々の感応膜と参照電極との距離が互いに略同一となるように配置されていてもよい。本発明者らの知見により、センシング部の感度は、当該センシング部の感応膜と参照電極との距離による影響を受け得ることが確認された。従って、上記のように各センシング部の感応膜と参照電極との距離が互いに略同一となるように参照電極が配置されることにより、各センシング部の感度を均一化することができる。
【0014】
本発明の一側面に係る匂いセンサの製造方法は、測定対象の状態に応じて電位を変化させる感応膜が設けられたセンシング部を基板上に形成してなるイオンセンサが準備される工程と、匂い物質を吸着することにより状態を変化させる測定対象としての物質吸着膜が、感応膜上に配置される工程と、物質吸着膜に参照電圧を印加する参照電極が、感応膜から離間すると共に、基板の厚み方向から見てセンシング部と重ならないように配置される工程と、を含む。
【0015】
上記製造方法によれば、上述した効果を奏する匂いセンサを好適に製造することができる。
【0016】
上記製造方法において、物質吸着膜は、参照電極が配置された後に、感応膜及び参照電極を覆うように設けられてもよい。これにより、物質吸着膜の内側に参照電極が内蔵された構造の匂いセンサが得られる。
【0017】
上記製造方法は、参照電極が配置された後に、参照電極を覆うようにイオンセンサ上にパッシベーション層が形成される工程と、パッシベーション層に、感応膜の少なくとも一部を外部に露出させる第1開口と参照電極の少なくとも一部を外部に露出させる第2開口とが形成される工程と、を更に含んでもよい。また、物質吸着膜は、第1開口及び第2開口が形成された後に、パッシベーション層を覆うように設けられ、第1開口を介して感応膜に接触すると共に第2開口を介して参照電極に接触してもよい。この場合、厚み方向から見て参照電極とセンシング部とが比較的離れた位置に配置される場合においても、感応膜上に配置された物質吸着膜に参照電圧を印加することが可能な構成を実現できる。
【0018】
上記製造方法は、参照電極が基板の厚み方向から見たセンシング部の外縁部に配置された後に、参照電極を覆うようにイオンセンサ上にパッシベーション層が形成される工程と、パッシベーション層に、感応膜の少なくとも一部及び参照電極の少なくとも一部を外部に露出させる開口が形成される工程と、を更に含んでもよい。また、物質吸着膜は、開口が形成された後に、パッシベーション層を覆うように設けられ、開口内において感応膜及び参照電極に接触してもよい。この場合、参照電極を厚み方向から見たセンシング部の外縁部に配置することにより、参照電極及び感応膜に共通の開口を形成することで、感応膜上に配置された物質吸着膜に参照電圧を印加することが可能な構成を実現できる。
【0019】
参照電極の少なくとも一部は、物質吸着膜が配置された後に、物質吸着膜の一部を覆うように設けられてもよい。これにより、物質吸着膜の外側に参照電極の少なくとも一部が配置された構造の匂いセンサが得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一側面によれば、好適に匂いを検出することが可能な匂いセンサ及びその製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態の匂いセンサの概略平面図である。
【
図5】比較例の匂いセンサの測定結果と実施例の匂いセンサの測定結果を示す図である。
【
図7】参照電極の第1変形例を含む検出部の断面構成を模式的に示す図である。
【
図8】参照電極の第2変形例を含む検出部の断面構成を模式的に示す図である。
【
図9】参照電極の第3変形例を含む検出部のレイアウト例を示す図である。
【
図10】参照電極の第3変形例を含む検出部の要部断面構成を模式的に示す図である。
【
図11】第2実施形態の匂いセンサの検出部の断面構成を模式的に示す図である。
【
図12】
図11に示される検出部5Aの動作の第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の匂いセンサ1の概略平面図である。同図に示されるように、匂いセンサ1は、イオンセンサ2と、イオンセンサ2上に設けられた複数(ここでは5つ)の物質吸着膜3と、物質吸着膜3に参照電圧Vref(基準電圧)を印加する参照電極4と、を備える。
【0024】
イオンセンサ2は、二次元状に配列された複数の検出部5が半導体基板100上に形成されたセンサである。イオンセンサ2は、いわゆる電荷転送型のCMOSイメージセンサである。複数の検出部5は、イオンセンサ2のチップ上に設けられた画素形成領域A(本実施形態では、チップ中央部に設けられた矩形状の領域)に、M行N列(例えば256行256列)に二次元状に配列されることにより、画素アレイを構成している。M及びNは2以上の整数である。1つの検出部5は、1つの検出単位(画素)に対応している。1つの検出部5のサイズ(画素サイズ)は、例えば30μm×30μmである。
【0025】
各物質吸着膜3は、画素形成領域A内において、複数の検出部5に跨るように配置(成膜)されている。物質吸着膜3は、所定の匂い物質を吸着することにより状態(例えばインピーダンス等の電気的特性)を変化させる薄膜である。ここで、「匂い」とは、人間、動物等の生物の嗅覚を刺激するものであり、「匂い物質」とは、匂いの原因となる化学物質(例えば、特定の分子単体又は分子群が所定の濃度で集合したもの)である。物質吸着膜3としては、例えばポリアニリン感応膜等が用いられ得る。画素形成領域A内に配置された検出部5のうち物質吸着膜3が設けられた検出部5が、匂いを検出可能な単位検出素子として機能する。なお、物質吸着膜3は、画素形成領域Aの全体(すなわち、画素形成領域Aに配置された全ての検出部5)に設けられてもよいし、物質吸着膜3が設けられない検出部5が存在してもよい。
【0026】
図1の右部は、各検出部5に共通のレイアウト例を模式的に示している。
図2は、
図1におけるII-II線に沿った検出部5の断面構成を模式的に示す図である。これらに示されるように、各検出部5は、半導体基板100(基板)の一方の主面側に形成されている。半導体基板100は、例えばシリコンにより形成された第1導電型(一例として、n型)の半導体基板である。各検出部5において、半導体基板100の主面に沿って、それぞれ第1導電型領域であるインジェクションダイオード部21(以下「ID部21」)、フローティングディフュージョン部31(以下「FD部31」)、及びリセットドレイン部41(以下「RD部41」)が形成されている。半導体基板100のID部21とFD部31との間には、第2導電型(一例として、p型)の拡散層11が形成されている。拡散層11の表面には、第1導電型にドープされた第1導電型領域12が形成されている。
【0027】
半導体基板100の主面上には、絶縁性の保護膜110を介して、インプットコントロールゲート電極22(以下「ICG電極22」)、トランスファーゲート電極32(以下「TG電極32」)、及びリセットゲート電極42(以下「RG電極42」)が形成されている。保護膜110としては、例えばSiO2等が用いられ得る。また、半導体基板100の主面上には、FD部31に蓄積された電荷量に応じたout信号を増幅させるアンプ(信号増幅器)33と、アンプ33により増幅されたout信号を図示しない測定部に出力する出力回路34と、が設けられている。
【0028】
ICG電極22とTG電極32との間の領域には、保護膜110を介して感応膜13が設けられている。感応膜13は、感応膜13上に配置された測定対象の状態に応じて電位(膜電位)を変化させる性質を有するイオン感応膜である。本実施形態では、物質吸着膜3が測定対象となる。感応膜13としては、例えばSi3N4等が用いられ得る。感応膜13は、ICG電極22及びTG電極32が物質吸着膜3と接触しないように、ICG電極22及びTG電極32の一部を覆うようにして、ICG電極22からTG電極32にかけてひとつながりに形成されている。ただし、感応膜13は、ICG電極22とTG電極32との間にのみ設けられてもよく、ICG電極22及びTG電極32の一部を覆わないように形成されてもよい。すなわち、感応膜13は、ICG電極22とTG電極32との間において、保護膜110上にのみ形成されてもよい。
【0029】
これらの半導体基板100の主面上に設けられた部材を覆うように、半導体基板100の主面上には、絶縁性のパッシベーション層120が形成されている。パッシベーション層120としては、例えばSi3N4等が用いられ得る。物質吸着膜3は、パッシベーション層120を覆うように設けられている。パッシベーション層120には、感応膜13の上面を外部に露出させるための開口120a(第1開口)が形成されている。感応膜13は、開口120aを介して物質吸着膜3と接触している。
【0030】
参照電極4は、物質吸着膜3の内側(すなわち、物質吸着膜3と半導体基板100との間)に設けられている。
図1及び
図2に示されるように、参照電極4は、感応膜13から離間すると共に、半導体基板100の厚み方向Dから見て、感応膜13と重ならないように配置されている。参照電極4は、例えばCMOSプロセスによって形成されたメタル配線である。
図1に示されるように、各検出部5において、参照電極4は、厚み方向Dから見て、センシング部10(詳しくは後述するが、ICG電極22とTG電極32との間において感応膜13が設けられた領域)の一方側(
図1における左側)において、センシング部10から離間した位置に配置されている。つまり、参照電極4は、センシング部10(主に感応膜13)と物理的に接触しないように配置されている。参照電極4は、センシング部10の一方側の側面と平行となるように、
図1における上下方向に沿って延びている。厚み方向Dから見たセンシング部10と参照電極4との距離d1は、例えば3μmである。参照電極4の幅w1(すなわち、参照電極4を構成するメタル配線の幅)は、例えば10.5μmである。参照電極4は、例えば、ICG電極22、TG電極32、RG電極42等に電圧を供給するための図示しないメタル配線が設けられる第1配線層よりも半導体基板100の主面から離れた第2配線層に配設される。つまり、参照電極4は、第1配線層よりもパッシベーション層120の外表面に近い第2配線層に配設されている。
【0031】
参照電極4は、物質吸着膜3に接触して電圧を印加することが可能な材料で形成されていればよい。参照電極4としては、例えばAl-Si-Cu等が用いられ得る。参照電極4には、イオンセンサ2が備える図示しない電極パッドから参照電圧Vrefが供給される。パッシベーション層120には、参照電極4の上面を外部に露出させるための開口120b(第2開口)が形成されている。参照電極4は、開口120aを介して物質吸着膜3と接触している。これにより、参照電極4と物質吸着膜3との接触部において、物質吸着膜3に参照電圧Vrefが印加される。なお、
図2の例では、参照電極4の上面は、パッシベーション層120の上面よりも半導体基板100側に窪んだ位置に位置している。また、開口120bの開口幅w2(参照電極4の外部に露出する部分の幅)は、参照電極4の幅w1より小さくされている。開口幅w2は、例えば8μmである。ただし、参照電極4は、参照電極4の上面がパッシベーション層120の開口120bが形成されていない部分と連続するように(フラットに接続されるように)設けられてもよい。この場合、参照電極4の幅w1と開口幅w2とは一致する。
【0032】
開口120aの深さは、開口120bの深さよりも大きい。すなわち、感応膜13は、参照電極4よりも半導体基板100側に窪んだ位置に配置されている。
【0033】
次に、検出部5の機能構成及び動作原理について説明する。検出部5は、センシング部10と、供給部20と、移動・蓄積部30と、除去部40と、を備える。なお、本実施形態では、電荷は電子である。
【0034】
センシング部10は、パッシベーション層120の開口120aを介して感応膜13が外部に(すなわち、物質吸着膜3に対して)露出した領域である。より具体的には、センシング部10は、ICG電極22とTG電極32との間において、感応膜13が保護膜110を介して第1導電型領域12と対向する領域である。すなわち、センシング部10は、上述した拡散層11、第1導電型領域12、保護膜110及び感応膜13が積層されることによって構成されたセンシング領域である。物質吸着膜3が所定の匂い物質を吸着すると、物質吸着膜3の状態(例えばインピーダンス)の変化が生じる。そして、感応膜13において、当該状態の変化に応じた電位変化が生じる。この感応膜13の電位変化に応じて、感応膜13と対向する拡散層11のポテンシャル井戸14の深さが変化する。
【0035】
供給部20は、上述したID部21及びICG電極22により構成される。ID部21は、ポテンシャル井戸14に電荷を注入するための部分である。ICG電極22は、ID部21からポテンシャル井戸14への電荷注入量を制御する部分である。例えば、ID部21のポテンシャル(電位)を下げると共にICG電極22の電圧を調節することにより、ID部21にチャージされる電荷をポテンシャル井戸14に供給することができる。
【0036】
移動・蓄積部30は、TG電極32及びFD部31により構成される。TG電極32は、ポテンシャル井戸14からFD部31に電荷を転送するための部分である。FD部31は、ポテンシャル井戸14から転送された電荷を蓄積する部分である。具体的には、TG電極32の電圧を変化させることにより、半導体基板100においてTG電極32と対向する領域(以下「TG領域」)のポテンシャルを変化させ、ポテンシャル井戸14に充填された電荷をFD部31に転送及び蓄積することができる。
【0037】
除去部40は、RG電極42及びRD部41により構成される。除去部40は、FD部31に蓄積された電荷をリセット(除去)するための部分である。具体的には、RG電極42の電圧を変化させることにより、半導体基板100においてRG電極42と対向する領域(以下「RG領域」)のポテンシャルを変化させ、FD部31に蓄積された電荷をRD部41(VDD)へと排出することができる。
【0038】
図3は、検出部5の基本動作例を示す図である。
図3の(A)に示されるように、測定対象である物質吸着膜3において匂い物質が吸着された部分の状態(例えばインピーダンス)が変化すると、当該部分の直下に位置する感応膜13の電位変化が生じ、当該電位変化に応じてポテンシャル井戸14の深さが変化する。続いて、
図3の(B)に示されるように、ID部21のポテンシャルが下げられることにより、ID部21に電荷がチャージされる。ID部21にチャージされた電荷は、半導体基板100においてICG電極22と対向する領域(以下「ICG領域」)を超えて、ポテンシャル井戸14へと注入される。このとき、TG領域のポテンシャルは、ID部21のポテンシャルよりも低くなるように制御される。従って、ポテンシャル井戸14へ注入される電荷がTG領域を超えてFD部31に達することはない。
【0039】
続いて、
図3の(C)に示されるように、ID部21のポテンシャルが元に戻される(引き上げられる)ことにより、ID部21から電荷が引き抜かれる。その結果、ICG領域によってすり切られた電荷がポテンシャル井戸14に残る。ポテンシャル井戸14に残された電荷量は、ポテンシャル井戸14の深さ(すなわち、物質吸着膜3のインピーダンス変化)に対応している。
【0040】
続いて、
図3の(D)に示されるように、TG電極32の電圧が上げられることにより、ポテンシャル井戸14に残された電荷がFD部31に転送される。その後、TG電極32の電圧が元に戻されることにより、
図3の(E)に示される状態となる。このような状態において、FD部31に蓄積された電荷量に応じた信号(out信号)が、アンプ33及び出力回路34を介して図示しない測定部に出力される。これにより、測定部において、物質吸着膜3において検出された匂い(すなわち、物質吸着膜3に吸着された匂い物質)が、出力電圧の変化として測定される。続いて、
図3の(F)に示されるように、RG電極42の電圧が上げられることにより、FD部31に蓄積された電荷がRD部41に排出される。RD部41は、VDD電源に接続されている。これにより、RD部41において、負にチャージされた電荷が吸い上げられる。
【0041】
なお、上述した
図3の(B)~(E)の動作は、複数回繰り返されてもよい。これにより、FD部31に蓄積される電荷量を増大させ、繰り返し回数だけout信号を増幅させることができる。また、このような繰り返し動作によってout信号を増幅させることにより、アンプ33が省略されてもよい。
【0042】
ただし、ポテンシャル井戸14への電荷注入方法は、上述した
図3の例に限られない。例えば、
図4に示されるように、ID部21のポテンシャルを一定とし、ICG電極22の電圧を調整することにより、ポテンシャル井戸14にID部21と同等のポテンシャルの電荷が注入されてもよい。具体的には、
図4の(A)に示されるように、ID部21のポテンシャルは、ポテンシャル井戸14のポテンシャルよりも低く且つTG領域のポテンシャルよりも高い一定の値に設定される。一方、ICG領域のポテンシャルは、ID部21のポテンシャルよりも低くされる。続いて、
図4の(B)に示されるように、ICG領域のポテンシャルをポテンシャル井戸14のポテンシャルよりも高くすることにより、ID部21からポテンシャル井戸14へと電荷が供給される。続いて、
図4の(C)に示されるように、再びICG領域のポテンシャルをID部21のポテンシャルよりも低くすることにより、ICG領域によってすり切られた電荷がポテンシャル井戸14に残る。以上により、ポテンシャル井戸14にID部21と同等のポテンシャルの電荷が蓄積される。なお、
図4の例におけるその後の動作は、
図3の(D)~(F)の動作と同様である。
【0043】
次に、匂いセンサ1の製造方法の一例について説明する。まず、感応膜13が設けられたセンシング部10を半導体基板100上に形成してなるイオンセンサ2が準備される。続いて、参照電極4が、感応膜13から離間すると共に、厚み方向Dから見てセンシング部10と重ならないように配置される。続いて、イオンセンサ2上(すなわち、半導体基板100の主面上)に、パッシベーション層120が形成される。なお、パッシベーション層120は、複数回に分けて段階的に形成されてもよい。例えば、半導体基板100及び感応膜13を覆う第1のバッシベ―ション層が形成された後に、当該第1のパッシベーション層の上に参照電極4が配設され、その後参照電極4を覆う第2のバッシベ―ション層が形成されることにより、パッシベーション層120が形成されてもよい。このようにして、参照電極4を覆うようにイオンセンサ2上にパッシベーション層120が形成される。続いて、パッシベーション層120に、感応膜13の少なくとも一部(本実施形態では、感応膜13の上面の一部)を外部に露出させる開口120aと参照電極4の少なくとも一部(本実施形態では、参照電極4の上面の一部)を外部に露出させる開口120bがエッチング等により形成される。続いて、物質吸着膜3が、感応膜13上に配置される。より具体的には、物質吸着膜3は、パッシベーション層120を覆うように設けられ、開口120aを介して感応膜13に接触すると共に開口120bを介して参照電極4に接触する。このように、上記製造方法では、物質吸着膜3は、参照電極4が配置された後に、感応膜13及び参照電極4を覆うように設けられる。以上により、
図2に示した構造(すなわち、物質吸着膜3よりも内側に参照電極4が内蔵された構造)を有する複数の検出部5を備えた匂いセンサ1が得られる。また、上記製造方法では、厚み方向Dから見て参照電極4とセンシング部10とが比較的離れた位置に配置される場合においても、参照電極4及び感応膜13のそれぞれに対応する開口120a及び開口120bを形成することにより、感応膜13上に配置された物質吸着膜3に参照電圧Vrefを印加することが可能な構成を実現できる。
【0044】
次に、匂いセンサ1の作用効果について説明する。上述した匂いセンサ1によれば、物質吸着膜3が匂い物質を吸着した際の物質吸着膜3の状態の変化(例えばインピーダンスの変化)に応じた感応膜13の電位変化に基づいて、匂いを検出することができる。このような匂い検出(測定)を実施するためには、物質吸着膜3に参照電圧Vrefを印加する必要がある。このための構成として、例えば、非特許文献1に記載された構成のように、物質吸着膜3の上面(厚み方向Dから見てセンシング部10と重なる部分を含む)に電極(例えばメッシュ電極)を配置する構成(
図5の(A)参照)が考えられる。しかし、この構成では、物質吸着膜3の電極直下の部分(電極に隠されてしまい外部に露出しない部分)に匂い物質が吸着され難くなるため、電極直下のセンシング部10において適切に匂いを検出できないという問題がある。一方、匂いセンサ1では、物質吸着膜3に参照電圧Vrefを印加するための参照電極4は、感応膜13から離間すると共に、厚み方向Dから見てセンシング部10と重ならないように配置されている。これにより、上述したようなメッシュ電極を使用する場合の問題が解消される。
【0045】
また、例えば、匂いに対する感度が物質吸着膜3のインピーダンスの変化に起因する場合には、感応膜13と参照電極4とを近づけすぎると、匂いに対する感度が失われる可能性が高い。一方、匂いセンサ1では、参照電極4が、感応膜13から離間すると共に、厚み方向Dから見てセンシング部10と重ならないように配置されることにより、感応膜13と参照電極4とが近づきすぎることを防止できる。その結果、感応膜13と参照電極4とが近すぎることが原因で感応膜13において適切に匂いを検出できなくなることを抑制できる。従って、匂いセンサ1によれば、好適に匂いを検出することが可能となる。
【0046】
ここで、仮に、参照電極4をICG電極22又はTG電極32と対向するように配置した場合、ICG電極22又はTG電極32(特に、FD部31への電荷の転送前後においてパルス状に電圧を変化させるTG電極32)によって、参照電極4の電位(Vref)が乱される可能性がある。一方、
図1及び
図2に示されるように、匂いセンサ1では、参照電極4は、厚み方向Dから見てICG電極22及びTG電極32のいずれとも重ならないように配置されている。これにより、上述したような問題の発生を抑制することができる。
【0047】
また、匂いセンサ1では、物質吸着膜3は、パッシベーション層120を覆うように設けられている。感応膜13は、パッシベーション層120に設けられた開口120aを介して物質吸着膜3と接触している。参照電極4は、物質吸着膜3と半導体基板100との間に設けられており、パッシベーション層120に設けられた開口120bを介して、当該開口120b内に入り込んだ物質吸着膜3と接触している。このように、参照電極4を物質吸着膜3よりも内側に内蔵する構成を採用する場合、例えばCMOSプロセス等を用いてメタル配線を配設することにより、容易に参照電極4を作成することが可能となる。これにより、再現性高く参照電極4を作成することが可能となる。また、CMOSプロセス内で参照電極4を作成することが可能となるため、参照電極4を作成するための余分な工数の発生を抑制できる。また、イオンセンサ2に内蔵された電極パッド(不図示)を介して、参照電極4への電圧供給を容易化できる。
【0048】
また、匂いセンサ1では、イオンセンサ2は、半導体基板100上に二次元状に配列された複数のセンシング部10(検出部5)を有している。1つの物質吸着膜3は、2以上のセンシング部10上に配置されている。すなわち、1つの物質吸着膜3は、複数の単位検出素子(画素)に跨るように配置されている。この場合、1つの物質吸着膜3に複数のセンシング部10を対応させることができる。これにより、例えば複数のセンシング部10の出力値(out信号)の統計値(例えば平均値)を用いることにより、測定における感度のばらつきを低減できる。また、1つの物質吸着膜3に対応する一部のセンシング部10が不良である場合(すなわち、不良画素が発生した場合)であっても、他のセンシング部10(すなわち、他の検出部5)を使用することにより当該物質吸着膜3を用いた測定(匂い検出)を実施することができる。また、複数のセンシング部10の出力値に基づいて、イメージング測定(匂いの二次元分布の測定)を行うことも可能となる。これにより、例えば、匂いの拡散方向を把握したり、匂いセンサ1の近くにサンプルを配置することにより、サンプルにおける匂いの発生源を発見したりすること等が可能となる。
【0049】
また、匂いセンサ1では、複数の物質吸着膜3が、それぞれ異なるセンシング部10(検出部5)上に配置されている。すなわち、1つのイオンセンサ2(すなわち、1つのセンサチップ)上に、複数(本実施形態では5つ)の物質吸着膜3が、互いに独立して形成されている。例えば、それぞれ異なる匂い物質に反応する複数の物質吸着膜3(すなわち、互いに特性の異なる複数の物質吸着膜)を1つのイオンセンサ2上に設けることにより、各物質吸着膜3に対応するセンシング部10の出力値(out信号)に基づいて、複雑な匂いのパターンを検出することが可能となる。なお、それぞれ異なる物質吸着膜3が設けられた複数のイオンセンサを用いることも考えられるが、この場合、イオンセンサ間の個体差(感度のばらつき)を考慮して測定を行う必要が生じ得る。また、必要となるイオンセンサの個数が増えることにより、全体としての装置規模が大型化してしまう。一方、上述したように複数の物質吸着膜3を1つのイオンセンサ2上に配置する構成によれば、このような問題を解消できる。また、複数の同種の物質吸着膜3を1つのイオンセンサ2上に設ける場合にも、当該イオンセンサ2において一部の物質吸着膜3が適切に機能しないときに、他の物質吸着膜3に対応するセンシング部10の出力値に基づいて測定を継続することが可能となるという効果が奏される。
【0050】
ここで、1つのイオンセンサ2上に設けられる複数の物質吸着膜3は、同一の材料(本実施形態ではポリアニリン)の成分量(含有量)が互いに異なる複数の物質吸着膜であってもよいし、互いに異なる材料で形成された複数の物質吸着膜であってもよい。このように成分量又は材料が互いに異なる複数の物質吸着膜3を用いることにより、各物質吸着膜3の測定結果の組み合わせに基づいて、様々な匂い物質を検出することが可能となる。例えば、複数の物質吸着膜の測定結果の組み合わせと特定の匂い物質とを対応付けたテーブル情報(匂いデータベース)が予め用意されている場合、当該テーブル情報を参照することにより、複数の物質吸着膜3の各々の測定結果の組み合わせに対応する匂い物質を特定することが可能となる。
【0051】
また、本発明者らの知見により、センシング部10の感度は、当該センシング部10の感応膜13と参照電極4との距離による影響を受け得ることが確認された。そこで、匂いセンサ1では、参照電極4は、複数のセンシング部10の各々の感応膜13と参照電極4との距離が互いに略同一となるように配置されている。具体的には、上述したように、各検出部5において、参照電極4は、厚み方向Dから見たセンシング部10と参照電極4との距離d1が一定(例えば3μm)となるように配置されている。これにより、各センシング部10の感度を均一化することができる。
【0052】
図5を参照して、上記効果について補足する。
図5の(A)は、比較例に係る匂いセンサ(以下単に「比較例」)にアンモニアガスを曝露した際における各画素(各センシング部)の測定結果(感度)を濃淡によって表した図である。
図5の(B)は、実施例に係る匂いセンサ(以下単に「実施例」)にアンモニアガスを曝露した際における各画素(各センシング部)の測定結果(感度)を濃淡によって表した図である。比較例は、非特許文献1に記載の構造のようにメッシュ電極MEを物質吸着膜3上に配置した匂いセンサである。実施例は、上述した匂いセンサ1と同様に内蔵電極(参照電極4)を採用した匂いセンサである。
図5において、最も薄い色(白に近い色)の高感度領域p1と黒色に近い低感度領域p2は、一定以上の感度を示したセンシング部に対応する領域(すなわち、アンモニアガスの匂いが検出された領域)である。高感度領域p1は、低感度領域p2よりも大きい感度を示した領域である。一方、高感度領域p1よりも若干濃い色で表された不感領域p3は、感度を示さなかったセンシング部(不感画素)に対応する領域である。
【0053】
図5の(A)に示されるように、比較例では、不感領域p3が網目状に形成された。このような網目状の不感領域p3は、メッシュ電極MEに覆われた部分に対応する領域である。物質吸着膜3においてメッシュ電極MEに覆われた部分に匂い物質が吸着されないため、このような網目状の不感領域p3が形成されたと考えられる。一方、メッシュ電極MEに覆われていない部分に対応する領域においては、匂いに関する感度が得られた。しかし、メッシュ電極MEから遠い部分(四方をメッシュ電極MEに包囲された領域の中心部)に低感度領域p2が形成され、メッシュ電極MEから比較的近い部分(四方をメッシュ電極MEに包囲された領域の縁部)に高感度領域p1が形成された。つまり、メッシュ電極MEから比較的近い位置に配置されたセンシング部とメッシュ電極MEから比較的遠い位置に配置されたセンシング部との間で感度差が生じることが確認された。
【0054】
一方、
図5の(B)に示されるように、メッシュ電極が設けられておらず、且つ、各センシング部10の感応膜13と参照電極4との距離が略同一となるように構成された実施例では、ほぼ一様な高感度領域p1が形成された。このような測定結果から、複数のセンシング部10の各々の感応膜13と参照電極4との距離が互いに略同一となるように配置することによる効果が確認された。
【0055】
なお、より具体的には、本実施形態及び上記実施例では、
図1の右部に示したレイアウトの検出部5が二次元状(格子状)に配列されることにより、
図6の(A)に示すように、厚み方向Dから見て、互いに平行に延びる一対の参照電極4が、1つのセンシング部10の両側を挟むように配置されている。また、一の検出部5のセンシング部10と当該一の検出部5の右隣りの検出部5上を通るように配置された参照電極4との距離d2は、距離d1と略同一となるように調整されている。
【0056】
ただし、参照電極4のレイアウトは、上記例に限られない。例えば、
図6の(B)に示されるように、参照電極4は、厚み方向Dから見て、各検出部5のセンシング部10の四方を包囲するように配置されてもよい。また、
図6の(C)に示されるように、厚み方向Dから見て、2行2列に配置された4つのセンシング部10(4画素)毎に、当該4画素からなる領域の中心位置に、共通の参照電極4(例えば厚み方向Dから見て矩形状に形成された電極)が配置されてもよい。いずれのレイアウトによっても、各センシング部10(各画素)の感応膜13と参照電極4との位置関係が共通化される。これにより、各センシング部10の感応膜13と当該感応膜13に近接する参照電極4との距離を略同一にすることができる。その結果、各センシング部10の感度を均一化することができる。ただし、各センシング部10の感度を均一にする必要がない場合、或いはあえてセンシング部10間で感度差(感度勾配)を持たせたい場合等には、参照電極4は、センシング部10毎(画素毎)に感応膜13と参照電極4との位置関係(距離)が異なるように配置されてもよい。
【0057】
(参照電極の第1変形例)
図7は、第1変形例の参照電極200を含む検出部5の断面構成を模式的に示す図である。第1変形例の参照電極200は、上述した参照電極4と同様に構成された第1電極201に加えて、第2電極202及び第3電極203を有する。
【0058】
第2電極202は、物質吸着膜3の外表面3a(すなわち、半導体基板100とは反対側の表面)に設けられている。第2電極202は、物質吸着膜3の外表面3aに沿って形成されたメンブレン構造(膜状)の電極部材である。第2電極202は、例えばMEMSプロセスを用いて作成される。第2電極202には、センシング部10に対応する物質吸着膜3の部分を外部に露出させるための開口202aが形成されている。本実施形態では、開口202aは、厚み方向Dから見て、センシング部10、ICG電極22及びTG電極32を包含するように設けられている。すなわち、第2電極202は、厚み方向Dから見て、センシング部10、ICG電極22及びTG電極32と重ならないように配置されている。第2電極202は、例えば、
図6の(B)に示したように、厚み方向Dから見て、各センシング部10の四方を取り囲むように格子状に形成され得る。
【0059】
第3電極203は、パッシベーション層120の開口120bを介して第1電極201と第2電極202とを電気的に接続すると共に、第2電極202を支持する電極部材である。一例として、第3電極203は、第1電極201の幅方向中央部に配置され、第1電極201に沿って延びる壁状部材である。或いは、第3電極203は、一以上の柱状部材によって構成されてもよい。このような参照電極200を含む匂いセンサは、例えば、上述した参照電極4を含む匂いセンサ1の製造方法を実施した後に、更に第2電極202及び第3電極203をMEMSプロセス等によって形成する工程を実施することにより得られる。すなわち、参照電極200を含む匂いセンサの製造方法においては、参照電極の少なくとも一部(ここでは第2電極202及び第3電極203)は、物質吸着膜3が配置された後に、物質吸着膜3の一部を覆うように設けられる。これにより、物質吸着膜3の外側に参照電極の少なくとも一部が配置された構造の匂いセンサが得られる。
【0060】
第1変形例の参照電極200によれば、物質吸着膜3と参照電極との接触面積を増やすことにより、物質吸着膜3に対してより確実且つ安定的に参照電圧Vrefを印加することができる。
【0061】
(参照電極の第2変形例)
図8は、第2変形例の参照電極300を含む検出部5の断面構成を模式的に示す図である。第2変形例の参照電極300は、参照電極200の第2電極202及び第3電極203と同様に構成された第1電極301及び第2電極302を有する。一方、参照電極300では、CMOSプロセスの段階で、上述した参照電極4及び第1電極201のような内蔵電極が作成されていない。このため、第2電極302の下端は、パッシベーション層120の上面に配置されている。参照電極300では、第1電極301は、イオンセンサ2における画素アレイ外の任意の場所に設けられた電極パッドPに電気的に接続されることにより、電極パッドPから参照電圧Vrefが印加される。
【0062】
参照電極300を含む匂いセンサは、例えば、上述した参照電極4を含む匂いセンサ1の製造方法において、参照電極4を配置する工程及び開口120bを形成する工程を省略する一方で、第1電極301及び第2電極302をMEMSプロセス等によって形成する工程を実施することにより得られる。すなわち、参照電極300を含む匂いセンサの製造方法においては、参照電極の少なくとも一部(ここでは第1電極301及び第2電極302)は、物質吸着膜3が配置された後に、物質吸着膜3の一部を覆うように設けられる。これにより、物質吸着膜3の外側に参照電極の少なくとも一部が配置された構造の匂いセンサが得られる。
【0063】
第2変形例の参照電極300によれば、CMOSプロセスにおいて、上述した参照電極4及び第1電極201のような内蔵電極の作成及び開口120bの形成等の処理を省略できる。また、内蔵電極を省略できる分だけ半導体基板100上のセンシング部10(検出部5)の配列ピッチを小さくすることが可能となる。その結果、匂いセンサ1の小型化を図ることができる。或いは、匂い分布測定(イメージング)を行う場合には、空間分解能の向上を図ることができる。
【0064】
(参照電極の第3変形例)
図9及び
図10を参照して、参照電極の第3変形例について説明する。
図9は、第3変形例の参照電極400を含む検出部5のレイアウト例を示す図である。
図9に示されるように、参照電極400は、厚み方向Dから見てセンシング部10の外縁部(外周部)に配置される。すなわち、各検出部5において、上述した参照電極4及び開口120bが形成されない代わりに、センシング部10を包囲するように環状に形成された参照電極400(メタル配線)が配設されている。
【0065】
図10は、参照電極400を含む検出部5の要部(センシング部10の周辺部分)の断面構成を模式的に示す図である。
図10に示されるように、パッシベーション層120には、厚み方向Dから見てセンシング部10を包含するように形成された開口121が形成されている。感応膜13は、当該開口121を介して、当該開口121内に入り込んだ物質吸着膜3と接触している。開口121は、第1開口部121aと第2開口部121bとからなる。第1開口部121aは、パッシベーション層120の上面から参照電極400の上面400aまで達している。第2開口部121bは、第1開口部121aと連通し、感応膜13の上面(半導体基板100とは反対側の面)まで達している。
【0066】
参照電極400は、開口121の内部に露出して物質吸着膜3と接触する部分を含む。本実施形態では、参照電極400の上面400aの一部と内側面400bとが、開口121の内部に露出しており、物質吸着膜3に接触している。参照電極400の上面400aの一部は、第1開口部121aの底面の一部を構成している。参照電極400の内側面400bは、第2開口部121bの内面の一部を構成している。
【0067】
一例として、参照電極400は、ICG電極22に電圧を印加するためのメタル配線E1及びTG電極32に電圧を印加するためのメタル配線E2と同じレイヤ(例えば、上述した第1配線層)に設けられている。このように、参照電極400をメタル配線E1,E2と同一のレイヤに設けることにより、第1配線層よりも上のレイヤ(例えば、上記実施形態において参照電極4が配設される第2配線層)を、RD部41又はRG電極42等に電圧を印加するためのメタル配線を配設するためのレイヤとして活用することが可能となる。これにより、メタル配線の設計自由度を向上させることができる。また、半導体基板100の主面に近い第1配線層にメタル配線を配設した方が、半導体基板100の主面から遠い第2配線層にメタル配線を配設する場合よりも、メタル配線を高い位置精度で形成することができる。従って、第1配線層に参照電極400を配設することにより、参照電極400の位置精度を向上させることができる。また、参照電極400の複数の面(上面400a及び内側面400b)を物質吸着膜3と接触させることにより、物質吸着膜3と参照電極400とをより確実に接触させることができる。
【0068】
次に、参照電極400を含む匂いセンサの製造方法の一例について説明する。まず、感応膜13が設けられたセンシング部10を半導体基板100上に形成してなるイオンセンサ2が準備される。続いて、半導体基板100(イオンセンサ2)上に、厚み方向Dから見たセンシング部10の外縁部において、感応膜13から離間するように参照電極400が配置される。続いて、半導体基板100(イオンセンサ2)及び参照電極400を覆うパッシベーション層120が形成される。なお、パッシベーション層120は、複数回に分けて段階的に形成されてもよい。例えば、半導体基板100及び感応膜13を覆う第1のバッシベ―ション層が形成された後に、当該第1のパッシベーション層の上に参照電極400が配設され、その後参照電極400を覆う第2のバッシベ―ション層が形成されることにより、パッシベーション層120が形成されてもよい。このようにして、参照電極4を覆うようにイオンセンサ2上にパッシベーション層120が形成される。
【0069】
続いて、パッシベーション層120をエッチングすることにより、感応膜13の少なくとも一部(本実施形態では、感応膜13の上面の一部)及び参照電極400の少なくとも一部(本実施形態では、上面400aの一部及び内側面400b)を外部に露出させるための開口121が形成される。
【0070】
続いて、少なくとも第2開口部121bの内側において、参照電極400から感応膜13にかけて、物質吸着膜3が形成される。本実施形態では、
図10に示されるように、物質吸着膜3は、パッシベーション層120を覆うように設けられ、開口121内において感応膜13及び参照電極400に接触する。つまり、開口121に入り込んだ物質吸着膜3の一部により、参照電極400(上面400aの一部及び内側面400b)とセンシング部10に設けられた感応膜13とが接続される。すなわち、物質吸着膜3は、少なくとも、参照電極400からセンシング部10に設けられた感応膜13まで繋がった状態となる。このように、上記製造方法では、物質吸着膜3は、参照電極400が配置された後に、感応膜13及び参照電極400を覆うように設けられる。以上により、
図10に示した構造(すなわち、物質吸着膜3よりも内側に参照電極400が内蔵された構造)を有する複数の検出部5を備えた匂いセンサが得られる。また、この場合、参照電極400を厚み方向Dから見たセンシング部10の外縁部に配置することにより、参照電極400及び感応膜13に共通の開口121を形成することで、感応膜13上に配置された物質吸着膜3に参照電圧Vrefを印加することが可能な構成を実現できる。
【0071】
以上述べた第3変形例の参照電極400によれば、センシング部10上に設けられた開口121の内側において、物質吸着膜3に対する参照電圧Vrefの印加を好適に行うことができる。例えば、開口121とは別の開口(上述した開口120bのような開口)を介して参照電極と物質吸着膜3とを接続する場合、物質吸着膜3を介した参照電極から感応膜13への経路中に、山部(参照電極から上記別の開口を介してパッシベーション層120の上面へと向かう部分)と谷部(パッシベーション層120の上面から開口121を介して感応膜13へと向かう部分)とが含まれることになる。その結果、物質吸着膜3に段切れが発生するおそれが高くなる。一方、参照電極400によれば、物質吸着膜3と参照電極400とを開口121内で接続させることができる。すなわち、物質吸着膜3を介した参照電極400から感応膜13への経路中に上述した山部及び谷部等が含まれない。これにより、上述したような物質吸着膜3の段切れの発生を抑制できる。
【0072】
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態の匂いセンサの検出部5Aの断面構成を模式的に示す図である。第2実施形態の匂いセンサは、いわゆる電荷転送型のCMOSイメージセンサであるイオンセンサ2に代えて、いわゆるISFET型のイオンセンサ2Aを備える点で、第1実施形態の匂いセンサ1と相違している。その他の構成については、匂いセンサ1と同様である。イオンセンサ2Aは、単位検出素子として、電荷転送型の測定方式が採用された検出部5に代えてISFET型の測定方式が採用された検出部5Aを備える点で、イオンセンサ2と相違している。
【0073】
検出部5Aでは、半導体基板100の一方の主面側に、3つの第1導電型(ここではn型)のn+型領域131~133が形成されている。また、半導体基板100の主面上には、絶縁性の保護膜110を介して、2つのゲート電極134,135が形成されている。ゲート電極134は、n+型領域131とn+型領域132との間に位置している。n+型領域131、n+型領域132及びゲート電極134により、MOSトランジスタが構成されている。n+型領域131には、図示しない制御部からID信号(電圧)が与えられる。ゲート電極135は、n+型領域132とn+型領域133との間に位置している。ゲート電極135には、図示しない制御部からTG信号(電圧)が与えられる。n+型領域133は、図示しない測定回路と電気的に接続されている。感応膜13が載置される導電部材136が、導電性の接続部材137を介してゲート電極134と電気的に接続されている。導電部材136上に感応膜13が設けられた部分が、センシング部10Aとして機能する。センシング部10Aは、後述するパッシベーション層120の開口120aを介して感応膜13が外部に(すなわち、物質吸着膜3に対して)露出した領域である。導電部材136は、例えば、厚み方向Dから見て、感応膜13とほぼ同じ大きさの矩形状をなしている。導電部材136の上面に感応膜13が成膜されている。
【0074】
第1実施形態の検出部5と同様に、上述したような半導体基板100の主面上に設けられた部材を覆うように、半導体基板100の主面上には、絶縁性のパッシベーション層120が形成されている。また、物質吸着膜3は、パッシベーション層120を覆うように設けられている。パッシベーション層120には、感応膜13の上面を外部に露出させるための開口120aが形成されている。感応膜13は、開口120aを介して物質吸着膜3と接触している。また、参照電極4は、半導体基板100の厚み方向Dから見て、感応膜13及びゲート電極135と重ならないように配置されている。また、各検出部5Aに対して
図11に示した構造が共通的に適用されることにより、厚み方向Dから見た各センシング部10Aの感応膜13と参照電極4との距離(位置関係)は、略同一とされている。参照電極4は、パッシベーション層120に設けられた開口120bを介して物質吸着膜3と接触している。なお、
図11の例では、感応膜13の上面及び参照電極4の上面は、パッシベーション層120の上面よりも半導体基板100側に窪んだ位置に位置しているが、感応膜13又は参照電極4は、感応膜13又は参照電極4の上面がパッシベーション層120の開口120a,120bが形成されていない部分と連続するように(フラットに接続されるように)設けられてもよい。
【0075】
次に、検出部5Aの動作原理について説明する。まず、動作原理の概要について説明する。物質吸着膜3に匂い物質が吸着すると、物質吸着膜3の特性変化が生じ、これに応じて感応膜13の膜電位が変化する。その結果、感応膜13と電気的に接続されたゲート電極134の電位が変化する。物質吸着膜3において検出された匂い(すなわち、物質吸着膜3に吸着された匂い物質)は、このようなゲート電極134の電位変化に応じた信号(out信号)の電流又は電圧の変化として測定される。そして、例えば、このような測定結果と上述したような匂いデータベースとを照合することにより、検出された匂い物質を特定することができる。以下、検出部5Aの動作(駆動方法)の第1~第3の例について説明する。ただし、検出部5Aの駆動方法としては、これらの例以外の方法が用いられてもよい。
【0076】
(第1の例)
第1の例は、ISFETにおいて一般に採用される駆動方法である。第1の例は、上述したゲート電極134の電位変化に応じてn+型領域131とn+型領域132との間に流れる電流の大きさが変化することに着目した駆動方法である。すなわち、上述した物質吸着膜3の特性変化に応じて、ゲート電極134の電位が変化すると、n+型領域131とn+型領域132との間に流れる電流の大きさが変化する。ここで、ゲート電極135をスイッチとして使用し、ゲート電極135に与えるTG信号を変化させることにより、スイッチをONにする。すなわち、n+型領域132の電荷がゲート電極135と対向する領域(以下「TG領域」)を介してn+型領域133に流れる状態に切り替えられる。これにより、n+型領域131とn+型領域132との間に流れる電流は、TG領域及びn+型領域133を介してout信号として出力される。その後、例えば、out信号は図示しない測定部において電圧に変換される。その結果、物質吸着膜3の特性変化が、out信号の電圧変化として測定される。
【0077】
(第2の例)
第2の例では、ゲート電極135のスイッチをONにした状態で、n+型領域131に与えるID信号を変化させることにより、n+型領域131に対して電荷が注入される。その後、n+型領域131への電荷の注入が停止され、電荷の注入が停止された際のout信号の電圧が測定部によって測定される。その結果、測定部において、物質吸着膜3の特性変化が、out信号の電圧変化として測定される。
【0078】
(第3の例)
第3の例は、概略的には、半導体基板100においてゲート電極134と対向する領域(以下「ゲート領域」)を、上述した電荷転送型の検出部5におけるICG領域として機能させると共に、n
+型領域132を、検出部5におけるFD部31として機能させる方式である。
図12を参照して、第3の例について詳細に説明する。
図12の(A)に示されるように、ゲート領域のポテンシャル井戸の深さは、感応膜13の電位変化に応じて変化する。
図12の(B)に示されるように、ID信号を制御することにより、n
+型領域131(
図12における「ID」)のポテンシャルが下げられる。これにより、n
+型領域131に電荷がチャージされる。n
+型領域131にチャージされた電荷は、ゲート領域を超えてn
+型領域132へと注入される。このとき、TG領域のポテンシャルは、n
+型領域131のポテンシャルよりも低くなるように制御される。従って、n
+型領域132へ注入される電荷がTG領域を超えてn
+型領域133(
図12における「out」)に達することはない。
【0079】
続いて、
図12の(C)に示されるように、n
+型領域131のポテンシャルが元に戻される(引き上げられる)ことにより、n
+型領域131から電荷が引き抜かれる。その結果、ゲート領域によってすり切られた電荷がn
+型領域132に残る。n
+型領域132に残された電荷量は、ゲート領域のポテンシャル井戸の深さ(すなわち、物質吸着膜3のインピーダンス変化)に対応している。
【0080】
続いて、
図12の(D)に示されるように、ゲート電極135の電圧が上げられることにより、n
+型領域132に残された電荷がn
+型領域133に転送される。その後、ゲート電極135の電圧が元に戻されることにより、
図12の(E)に示される状態となる。このような状態において、n
+型領域133に蓄積された電荷量に応じた信号(すなわち、物質吸着膜3の特性変化に応じた信号)がout信号として測定部に出力される。
【0081】
上述したような検出部5Aを単位検出素子として備えるイオンセンサ2Aをベースとして第2実施形態の匂いセンサを構成した場合においても、上述した匂いセンサ1と同様の効果を奏することができる。また、第2実施形態の匂いセンサは、上述した匂いセンサ1の製造方法と同様の製造方法により得られる。なお、導電部材136及び接続部材137は省略されてもよい。その場合、センシング部10Aを構成する感応膜13は、ゲート電極134上に直接的に形成されてもよい。ただし、導電部材136及び接続部材137を設けることにより、感応膜13の上面をパッシベーション層120の表面に近づけることができ、開口120aの深さを小さくできるという効果が奏される。
【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明されたが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、イオンセンサにおいて、複数のセンシング部(検出部)は、二次元状に配列されてもよいし、一次元状に配列されてもよい。また、イオンセンサは、1つのセンシング部(検出部)のみを有してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、センシング部10が形成された基板として半導体基板100が用いられたが、センシング部10が形成された基板は必ずしも半導体基板でなくてもよく、例えば表面に半導体領域(例えば半導体膜等)が形成された半導体以外の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…匂いセンサ、2,2A…イオンセンサ、3…物質吸着膜、4,200,300,400…参照電極、5,5A…検出部、10,10A…センシング部、13…感応膜、100…半導体基板、120…パッシベーション層、120a…開口(第1開口)、120b…開口(第2開口)、121…開口、121a…第1開口部、121b…第2開口部。