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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】触媒担体および触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/02 20060101AFI20230427BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20230427BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20230427BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20230427BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230427BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230427BHJP
   C01B 3/26 20060101ALI20230427BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20230427BHJP
   C04B 41/90 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
B01J23/02
B01J23/78 M
B01J32/00
B01J35/10 301G
B01J35/10 301J
B01J37/02 301B
B01J37/08
C01B3/26
C04B41/85 D
C04B41/90 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019041412
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020142202
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染川 正一
(72)【発明者】
【氏名】柳 捷凡
(72)【発明者】
【氏名】山中 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-117852(JP,A)
【文献】特開2004-263636(JP,A)
【文献】特開2016-164114(JP,A)
【文献】特表2005-522318(JP,A)
【文献】特開平10-263416(JP,A)
【文献】特開2006-122793(JP,A)
【文献】特開2005-008429(JP,A)
【文献】特開2003-190787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/96
C01B 3/00 - 6/34
C01F 7/00 - 7/788
C04B 35/01
C04B 35/057
C04B 35/10 - 35/106
C04B 35/109 - 35/119
C04B 41/80 - 41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)12CaO・7Al 2 3 化合物粒子を、1~120分、水に分散させて水性スラリーとすることにより、12CaO・7Al 2 3 化合物粒子の表面にカルシウムアルミネート水和物を生成させた後、該カルシウムアルミネート水和物を含む粒子が分散した水性スラリーをセラミックス支持体表面にコーティングする工程と、
(B)前記セラミックス支持体を500~800℃の温度で熱処理して12CaO・7Al23化合物粒子を前記セラミックス支持体上に生成させ、固定化する工程とを含む炭化水素分解用触媒担体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理後の12CaO・7Al23化合物粒子のBET比表面積が3m2/g以上である請求項記載の炭化水素分解用触媒担体の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス支持体が、ハニカム構造を有するセラミックス支持体である請求項1又は2記載の炭化水素分解用触媒担体の製造方法。
【請求項4】
さらに、(C)請求項1~のいずれか1項記載の触媒担体の前記セラミックス支持体上の12CaO・7Al23化合物粒子に遷移金属を担持する工程を含む炭化水素分解用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記工程(C)が、前記セラミックス支持体上の12CaO・7Al23化合物粒子を、遷移金属の0.001μm以上1μm以下の微粒子の分散液又は遷移金属塩の溶液で処理する工程である請求項記載の炭化水素分解用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、12CaO・7Al23化合物が支持体上に固定化された触媒担体を用いた活性の高い触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
12CaO・7Al23構造を有するカルシウムアルミネートは、格子中にフリー酸素を有するため、酸化触媒、イオン伝導体、助触媒として有用であることが知られている(特許文献1、2)。また、この12CaO・7Al23化合物は、その表面にNiやPt等の遷移金属を担持することにより、アンモニア合成触媒、メタン等の炭化水素ガスから水素製造用触媒等が得られることも知られている(特許文献3、4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-3218号公報
【文献】特開2006-96571号公報
【文献】国際公開第2012/077658号
【文献】特開2018-143940号公報
【文献】特開2018-143941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、環境浄化作用や自動車用も含め、現在産業界で実用化されている触媒のほとんどが粉体では用いず、種々の支持体に担持されて使用される。その理由は、粉体では目詰まりを起こしてガスの流通が困難になることや飛散による環境への影響が懸念されるからである。従って、本発明の触媒も支持体等に担持して使用することが望まれる。しかしながら、12CaO・7Al23化合物微粒子を支持体に担持させる手法については十分な検討がなされていない。従って、本発明の課題は、比表面積の大きい12CaO・7Al23化合物を効率良くセラミックス支持体上に固定化した触媒担体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
12CaO・7Al23化合物をセラミックス支持体上に担持する際、12CaO・7Al23化合物の水和反応を防止するため、12CaO・7Al23化合物粒子を有機溶媒に分散させてセラミックス支持体上にコーティングすることを試みた。しかし、この方法ではセラミックス支持体と有機溶媒との相性が悪く、12CaO・7Al23化合物粒子が付着せず、大部分が容易に剥離してしまう状況が生じた(図1参照)。その解決手段として、12CaO・7Al23化合物の表層だけを水和させた水性スラリーをセラミックス支持体表面にコーティングした後、当該支持体を400~1000℃に加熱処理すれば、セラミックス支持体上に付着したカルシウムアルミネート水和物が12CaO・7Al23化合物に再生され、かつ比表面積の高い12CaO・7Al23化合物が支持体上に固定化された触媒担体が得られ、遷移金属を担持することで触媒活性に優れる触媒が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔7〕を提供するものである。
【0007】
〔1〕(A)カルシウムアルミネート水和物を含む粒子が分散した水性スラリーをセラミックス支持体表面にコーティングする工程と、
(B)前記セラミックス支持体を400~1000℃の温度で熱処理して12CaO・7Al23化合物粒子を前記セラミックス支持体上に生成させ、固定化する工程とを含む触媒担体の製造方法。
〔2〕前記カルシウムアルミネート水和物を含む粒子が、12CaO・7Al23化合物粒子表面上にカルシウムアルミネート水和物が生成している粒子である〔1〕記載の触媒担体の製造方法。
〔3〕前記カルシウムアルミネート水和物を含む粒子が分散した水性スラリーが、12CaO・7Al23化合物粒子を水に分散させて得られた水性スラリーである〔1〕又は〔2〕記載の触媒担体の製造方法。
〔4〕前記12CaO・7Al23化合物粒子のBET比表面積が3m2/g以上である〔2〕又は〔3〕記載の触媒担体の製造方法。
〔5〕前記セラミックス支持体が、ハニカム構造を有するセラミックス支持体である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の触媒担体の製造方法。
〔6〕さらに、(C)〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の触媒担体の前記セラミックス支持体上の12CaO・7Al23化合物粒子に遷移金属を担持する工程を含む触媒の製造方法。
〔7〕工程(C)が、前記セラミックス支持体上の12CaO・7Al23化合物粒子を、遷移金属の0.001μm以上1μm以下の微粒子の分散液又は遷移金属塩の溶液で処理する工程である〔6〕記載の触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、セラミックス支持体への12CaO・7Al23化合物の付着性が良好であり、かつ比表面積の大きい12CaO・7Al23化合物が支持体上に固定化された触媒担体が得られるため、得られた触媒担体の助触媒性能も高くなる。また、担持された12CaO・7Al23化合物層表面上に遷移金属を担持させることにより、工業的に有用な酸化触媒、還元触媒、炭化水素分解用触媒が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】コージェライトセラミックス支持体表面への付着性と走査電子顕微鏡画像を示す。
図2】12CaO・7Al23化合物微粒子を水に分散した際の水との接触時間による結晶構造の変化を示す。
図3】水性スラリーを用いたコーティング処理と熱処理温度による結晶構造の変化を示す。
図4】水性スラリーを用いたコーティング処理と熱処理による支持体への付着性向上の概念図を示す。
図5】水中への分散処理および熱処理による12CaO・7Al23化合物の昇温反応法を用いた助触媒効果の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の触媒の製造方法は、(A)カルシウムアルミネート水和物を含む粒子が分散した水性スラリーをセラミックス支持体表面にコーティングする工程と、
(B)前記セラミックス支持体を400~1000℃の温度で熱処理して12CaO・7Al23化合物粒子を前記セラミックス支持体上に生成させ、固定化する工程とを含む。
【0011】
工程(A)に用いるカルシウムアルミネート水和物を含む粒子は、粒子表面上にカルシウムアルミネート水和物が存在するカルシウムアルミネート粒子であればよいが、12CaO・7Al化合物粒子表面上にカルシウムアルミネート水和物が生成している粒子が好ましい。ここで、カルシウムアルミネート水和物は熱処理により12CaO・7Al23化合物が再生成する水和物を含むことが望ましく、例えばCa3Al26・xH2OやCa2Al25・xH2O、Ca4Al27・xH2Oなどが挙げられる。
【0012】
ここで、12CaO・7Al23化合物は、12CaO・7Al23構造を有するカルシウムアルミネートであり、例えば、カルシウム化合物及びアルミニウム化合物の混合物を加熱することにより製造することができる。
【0013】
原料として用いるカルシウム化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウムが挙げられるが、酸化アルミニウムの結晶構造はα型、γ型のいずれでもよい。また、これらのカルシウム化合物及びアルミニウム化合物は、粉末、固体焼結物、固体単結晶など形状を問わない。原料の混合比率は、酸化物換算のモル比〔(CaO)/(Al23)〕で、1.5以上1.9以下が好ましく、1.6以上1.8以下がより好ましい。
【0014】
カルシウム化合物及びアルミニウム化合物の混合物の加熱は、真空中、不活性ガス雰囲気中、水素雰囲気中、酸素雰囲気中等で行なうことができる。但し、水蒸気を含む雰囲気は好ましくない。酸素濃度21%程度の乾燥空気中でも行うことができる。なお、酸素雰囲気中で加熱製造する場合は、原料の混合比率をモル比〔(CaO)/(Al23)〕で1.5以上1.7以下の範囲にすることが、高純度の12CaO・7Al23化合物を得る観点から好ましい。
加熱条件は、最高温度を原料化合物が反応してカルシウムアルミネートが生成する温度以上とすることが好ましく、1250℃以上2500℃以下とするのがより好ましく、1300℃以上1800℃以下とするのがさらに好ましい。原料化合物を溶融させて12CaO・7Al23化合物を製造する場合は、1400℃以上とすることが好ましい。
【0015】
前記温度に加熱することにより、原料化合物が反応して12CaO・7Al23化合物が生成するので、必要に応じて粉砕し12CaO・7Al23化合物微粒子を得る。溶融した場合は冷却して固化物とし、得られた固化物を粉砕すれば12CaO・7Al23化合物微粒子が得られる。
冷却条件は、特に制限されないが、溶融した場合は溶融後の温度が1200℃以下となるまでは降温速度50℃/時間以上600℃/時間以下が好ましい。
生成した12CaO・7Al23化合物は、結晶質およびガラス質のいずれでもよい。12CaO・7Al23化合物の純度は50%以上でその他のカルシウムアルミネート化合物を含んでもよいが、触媒担体として効果的に性能を発揮するためには、12CaO・7Al23化合物の純度が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい。
12CaO・7Al23化合物の固化物の粉砕工程は、乾式粉砕ならびに12CaO・7Al23化合物の水和を防ぐため有機溶媒を用いた湿式粉砕のいずれかの微粉砕方法を用いることができる。得られる微粒子は、BET比表面積が2m2/g以上の微粉末であることが水性スラリー中での分散の点で好ましい。
【0016】
工程(A)のカルシウムアネミネート水和物を含む粒子が分散した水性スラリーは、前記の如くして得られる12CaO・7Al23化合物粒子を水に分散させて得られた水性スラリーであるのが好ましい。当該スラリーは、水100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部、さらに好ましくは1~10質量部の12CaO・7Al23化合物を添加して混合することにより得るのが好ましい。ここで水性スラリーの調製温度は、0.1℃~30℃であればよい。
12CaO・7Al23化合物粒子を水に分散させて水性スラリーとすることにより、12CaO・7Al23化合物粒子の表面にカルシウムアルミネート水和物が生成する。ここで水に分散させる方法としては、撹拌羽根を用いる撹拌機、スターラー等を用いて弱い力でゆっくり撹拌することが好ましい。12CaO・7Al23化合物粒子の表面が水和して、12CaO・7Al23化合物粒子の表面にカルシウムアルミネート水和物の層が生成すれば十分であることから、必要以上に強い力で撹拌、混合する必要はなく、ましてや、湿式粉砕して水性スラリーを作製することは好ましくない。水との接触時間(撹拌時間)は特に限定されるものではないが、1~120分が好ましく、5~90分がより好ましい。
得られるカルシウムアルミネート水和物を含む粒子のBET比表面積は、5m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。
前記の水性スラリーをセラミックス支持体表面にコーティングする。ここで、セラミックス支持体としては、セラミックペレット、セラミックフォーム、セラミックハニカム、目封じタイプのセラミックハニカム、等が挙げられるが、多量の12CaO・7Al23化合物粒子を固定化できることからハニカム構造を有するセラミックス支持体がより好ましい。ここで、セラミックスとしては、炭化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、ジルコニア、チタニア、リン酸チタン、アルミニウムチタネート、アルミノシリケート等が挙げられる。また、本発明におけるセラミック支持体は、支持体表面がセラミックスとしての性状を有するものも含まれる。例えば、鉄、アルミニウム、クロム、チタンやその合金などの表面に金属酸化物等のセラミックスの不動態膜が形成された金属等も使用可能である。
【0017】
セラミックス支持体表面上に前記水性スラリーをコーティングするには、セラミックス支持体表面に前記水性スラリーを接触させればよい。具体的には、前記水性スラリーをセラミック支持体に塗布又は噴霧する方法、あるいは水性スラリー中にセラミックス支持体を浸漬する方法が挙げられる。浸漬する場合の時間は、10秒程度で十分である。浸漬温度は0.1~30℃が好ましい。浸漬する回数は、複数回とすることが望ましいが、1回を含めていずれの浸漬回数の場合でも工程(B)の熱処理後に12CaO・7Al23化合物粒子が支持体表面上に存在していればよい。
【0018】
このような工程(A)によれば、セラミックス支持体へのカルシウムアルミネートの付着率が極めて高くなる。
【0019】
次いで、表面が水性スラリーでコーティングされたセラミックス支持体を400~1000℃の温度で熱処理して12CaO・7Al23化合物粒子をセラミックス支持体上に生成させ、固定化する(工程(B))。
【0020】
セラミックス支持体の熱処理は、前記カルシウムアルミネート水和物を12CaO・7Al23化合物に変化させる点、及び得られる12CaO・7Al23化合物粒子の比表面積を向上させる点から、400~1000℃であるのが必要であり、400~900℃が好ましく、450~800℃がより好ましく、450~700℃がさらに好ましく、450~600℃がよりさらに好ましい。熱処理時間は、カルシウムアルミネート水和物が12CaO・7Al23化合物に変化すればよく、特に限定されないが、60分程度で十分である。
当該熱処理により、セラミックス支持体上に新たな12CaO・7Al23化合物粒子が生成し、固定化される。ここで、新しく生成した12CaO・7Al23化合物粒子は、12CaO・7Al23化合物コア部の表層に、新たに微細な12CaO・7Al23集合体層が形成された形態となっているのが好ましい。12CaO・7Al23化合物粒子のBET比表面積は3m2/g以上が好ましく、5m2/g以上がより好ましい。また、12CaO・7Al23化合物粒子のBET比表面積の上限は、50m2/g以下が好ましい。
【0021】
かかる工程(B)によれば、セラミックス支持体上への12CaO・7Al23化合物粒子の固定化率が高く、容易に剥離せず、触媒担体(助触媒性能を有す)として特に優れている。
【0022】
得られたセラミックス支持体上に固定化された12CaO・7Al23化合物粒子には、さらに、各種の触媒活性を有する遷移金属を担持させることができる。
遷移金属としては、Ni、Pt、Pd、Ru、Rh、Co等の8族、9族及び10族から選ばれる元素の1種又は2種以上が挙げられる。例えば、二元系、三元系等の不均一触媒でもよい。これらの遷移金属は、目的とする触媒活性により選択することができ、例えば水素製造用触媒の場合には、Ni、Pt、Pd、Ru、Rhがより好ましく、Ptが特に好ましい。
遷移金属の粒子径は、触媒活性の点、触媒担体表面への高い分散度を確保する点から、小さいことが好ましく、メジアン径として0.001μm以上1μm以下が好ましく、0.001μm以上0.1μm以下がより好ましく、0.001μm以上0.01μm以下がさらに好ましい。ここで、メジアン径は、動的光散乱法による累積頻度が50%となる粒径値である。
【0023】
セラミックス支持体上に12CaO・7Al23化合物粒子を固定化した触媒担体への遷移金属の担持は、例えば有機溶媒を用いた含浸法で行うことができる。具体的には、遷移金属のヘキサン等の有機溶媒分散液中に前記触媒担体を投入後、撹拌し、溶媒を蒸発させればよい。ここで、遷移金属の担持量は、触媒担体に対して、0.1~40質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0024】
本発明方法によれば、セラミックス支持体上の12CaO・7Al23化合物粒子の付着性が向上しており、さらに比表面積も高くなっているとともに、剥離せず固定化性も向上している。従って、12CaO・7Al23化合物の助触媒性能の増大を全て同時に実現するものであって、実用的に重要である。コーティングした膜の表面上にNi、Pt等の目的に応じた金属触媒を担持させることで、12CaO・7Al23化合物の助触媒作用を有したペレット型やハニカム型の機能性触媒が作製でき、工業的な実用現場で使用できるようになることで、応用範囲の拡大が期待できる。応用例としては、メタン直接分解による水素製造が挙げられ、この方法はCO2を出さず、カーボンが生成されるが、ハニカム型支持体を使用することで、析出したカーボンがハニカムの通気口に溜まり、振動やエアブロー等で除去しやすい。
【実施例
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0026】
実施例1
(12CaO・7Al23化合物微粒子の作製)
酸化カルシウムとα型酸化アルミニウムがモル比〔(CaO)/(Al23)〕=1.63となる混合粉末を酸化マグネシウム坩堝に入れ、酸素濃度21%の乾燥空気中で昇温速度400℃/時間で1440℃まで昇温し、溶融させた状態で3時間保持した後、降温速度150℃/時間で室温まで徐冷して12CaO・7Al23化合物を作製した。微粉砕処理にはジェットミル粉砕法を用い、ナノジェットマイザーNJ-50-C型((株)アイシンナノテクノロジーズ製)を使用した。この時、得られた12CaO・7Al23化合物微粒子の比表面積は2.1m2/gであった。比表面積測定にはN2ガス吸着測定装置(マイクロトラックベル(株)製BELsorp MAX)を用いBET比表面積として算出した。
【0027】
(水性スラリーによるコーティング処理)
得られた12CaO・7Al23化合物微粒子を蒸留水100質量部に対して2質量部添加し、1時間撹拌して水性スラリーを作製した。支持体として、1平方インチ当たり目の数が400のハニカム型コージェライトを用い、ハニカム面の鉛直方向に3cm×3cmで水平方向に5cmに切り出して使用した。このハニカム支持体(□3cm×5cmH)を水性スラリーに10秒間浸漬させ、大気雰囲気にて100℃で1時間乾燥させた後再度水性スラリーに10秒間浸漬し、大気雰囲気にて500℃で1時間熱処理を行いハニカム支持体に12CaO・7Al23化合物微粒子を担持した触媒担体を作製した。なお、得られた触媒担体を蒸留水の入った超音波洗浄機に浸漬させ周波数40kHzの出力で1分間超音波振動を与えた後、担持した12CaO・7Al23化合物微粒子の重量減少を確認したところ5%以下であった。
【0028】
(Ni触媒の作製)
得られた触媒担体をヘキサン中にNiを5質量%分散させた液に10秒間浸漬させ、大気雰囲気にて400℃で1時間熱処理を行った後、水素雰囲気にて400℃で1時間熱処理を行いNi触媒を作製した。
【0029】
(メタン直接分解反応による触媒性能評価)
Ni触媒を流通式反応管内で700℃に加熱した状態でメタンガスを4.5L/hrで流通させ、その時の水素生成特性をガスクロマトグラフィーにて計測した。その結果、メタン流通初期のメタン転化率が37.4%、水素濃度が53.6%であった。
【0030】
実施例2
(水性スラリーによるコーティング処理)
実施例1と同様の方法で作製したハニカム支持体(□3cm×5cmH)を水性スラリーに10秒間浸漬させ、大気雰囲気にて100℃で1時間乾燥させた後再度水性スラリーに10秒間浸漬し、大気雰囲気にて800℃で1時間熱処理を行いハニカム支持体に12CaO・7Al23化合物微粒子を担持した触媒担体を作製した。
【0031】
(Ni触媒の作製)
得られた触媒担体をヘキサン中にNiを5質量%分散させた液に10秒間浸漬させ、大気雰囲気にて400℃で1時間熱処理を行った後、水素雰囲気にて400℃で1時間熱処理を行いNi触媒を作製した。
【0032】
(メタン直接分解反応による触媒性能評価)
Ni触媒を流通式反応管内で700℃に加熱した状態でメタンガスを4.5L/hrで流通させ、その時の水素生成特性をガスクロマトグラフィーにて計測した。その結果、メタン流通初期のメタン転化率が31.1%、水素濃度が46.0%であった。
【0033】
比較例1
実施例1と同様の方法で得られた12CaO・7Al23化合物微粒子をヘキサン中に2質量%添加し、5分間撹拌させスラリーを作製した。このスラリーにハニカム支持体(□3cm×5cmH)を10秒間浸漬させ、大気雰囲気にて100℃で1時間乾燥させた後再度スラリーに10秒間浸漬し、大気雰囲気にて500℃で1時間熱処理を行いハニカム支持体に12CaO・7Al23化合物微粒子を担持した触媒担体を作製した。なお、得られた触媒担体を蒸留水の入った超音波洗浄機に浸漬させ周波数40kHzの出力で1分間超音波振動を与えた後、担持した12CaO・7Al23化合物微粒子の重量減少を確認したところ90%以上であり、12CaO・7Al23化合物微粒子の安定したコーティングが困難であった。
【0034】
比較例2
(Ni触媒の作製)
実施例1と同様の方法で得られた12CaO・7Al23化合微粒子を、ヘキサン中にNiを5質量%分散させた液中にて撹拌し溶媒揮発後に、大気雰囲気にて400℃で1時間熱処理を行った後、水素雰囲気にて400℃で1時間熱処理を行い粉末状のNi触媒を作製した。
【0035】
(メタン直接分解反応による触媒性能評価)
Ni触媒を流通式反応管内で700℃に加熱した状態でメタンガスを4.5L/hrで流通させ、その時の水素生成特性をガスクロマトグラフィーにて計測した。その結果、メタン流通初期のメタン転化率が26.2%、水素濃度が25.3%であった。
【0036】
参考例1
水性スラリーを用いたコーティング処理と熱処理による12CaO・7Al23化合物の物性変化を明確にするため、結晶構造や比表面積をそれぞれX線回折装置((株)リガク製SmartLab)やN2ガス吸着測定装置(マイクロトラックベル(株)製BELsorp MAX)を用いて解析した。
【0037】
各実施例および比較例で用いたジェットミル粉砕処理後の12CaO・7Al23化合物微粒子を蒸留水中で撹拌した際の水との接触時間による結晶構造の変化を図2に、比表面積の変化を表1に示す。接触時間5分の時点で結晶構造が変化し、12CaO・7Al23化合物以外にカルシウムアルミネート水和物のスペクトルが確認されたが、接触時間を延ばしてもそれ以上の大きな変化は見られなかった。比表面積は水との接触時間が長くなるにつれ増加した。
【0038】
12CaO・7Al23化合物微粒子を蒸留水中で1時間撹拌した後の熱処理温度による結晶構造の変化を図3に、比表面積の変化を表2に示す。図3より500℃および800℃で熱処理することでカルシウムアルミネート水和物のスペクトルが消失し12CaO・7Al23化合物のスペクトルが成長したことが確認できる。また、表2に示すように水中での撹拌後熱処理により比表面積は低下したが、水性スラリーによるコーティング処理を行うことでジェットミル粉砕処理のみ(水接触なし)と比較して比表面積が大きい結果となった。
【0039】
図4に水性スラリーを用いたコーティング処理と熱処理による支持体への付着性向上の概念図を示す。参考例1に示した通り、水性スラリー作製時にカルシウムアルミネート水和物が生成することで、支持体と水酸基を介した結合状態を形成すると推察される。これにより、その後の熱処理を行うことで支持体上に固定化されるものと考えられる。
【0040】
参考例2
水中への分散処理および熱処理による12CaO・7Al23化合物微粒子の助触媒効果の変化を明確にするため、有機化合物ガス(エタノール)を完全燃焼する際の反応温度を昇温反応法により測定することで間接的に評価した。具体的には流通式反応管にサンプル(0.2g)を詰め、約500ppmのエタノールを含む乾燥空気(100mL/min)を流しながら温度を少しずつ上昇させ(3℃/min)、残留している有機物とエタノール燃焼で発生した二酸化炭素を出口側に設置したガスクロマトグラフにて計測した。
【0041】
図5に水中への分散処理および熱処理による12CaO・7Al23化合物の昇温反応法を用いた助触媒効果の評価結果を示す。横軸を反応温度で、縦軸を二酸化炭素濃度とした。通常メタノールの分解温度は800℃程度だが、ジェットミル粉砕処理後の12CaO・7Al23化合物微粒子を触媒として用いることでメタノールの分解開始温度は約350℃まで低下した。また、この12CaO・7Al23化合物微粒子を水中で30分撹拌し、800℃で熱処理した場合、さらに分解開始温度が約300℃まで低下した。このことから、水中への分散処理および熱処理により12CaO・7Al23化合物微粒子の助触媒効果が向上することが確認された。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5