(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】高分子電解質複合膜、それを用いた膜/電極接合体、燃料電池、及び、高分子電解質複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1058 20160101AFI20230427BHJP
C08G 61/10 20060101ALI20230427BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20230427BHJP
C08J 9/42 20060101ALI20230427BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230427BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20230427BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230427BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20230427BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20230427BHJP
H01M 8/1025 20160101ALN20230427BHJP
H01M 8/1027 20160101ALN20230427BHJP
H01M 8/1032 20160101ALN20230427BHJP
H01M 8/1037 20160101ALN20230427BHJP
【FI】
H01M8/1058
C08G61/10
C08J5/22 101
C08J9/42 CES
H01B1/06 A
H01B1/12 Z
H01M8/10 101
H01M8/1023
H01M8/1039
H01M8/1025
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/1037
(21)【出願番号】P 2019085762
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (i) 発表した刊行物:International Fuel Cell Workshop 2018(国際燃料電池ワークショップ2018)発表プログラム 発行日:平成30年8月23日 (ii) 発表した集会:International Fuel Cell Workshop 2018(国際燃料電池ワークショップ2018) 開催日:平成30年8月23日~24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/セルスタックに関わる材料コンセプト創出(高出力・高耐久・高効率燃料電池材料のコンセプト創出)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻行
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純平
(72)【発明者】
【氏名】日下部 正人
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-008060(JP,A)
【文献】特開2005-038834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質と、多孔質膜とを含む高分子電解質複合膜であって、
前記高分子電解質が、親水性セグメントと、疎水性セグメントとを含む炭化水素系電解質であり、
前記親水性セグメントが、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなり、
前記疎水性セグメントが、実質的にスルホン酸基を有さず、主鎖が主に芳香環からなり、
前記多孔質膜が、ポリオレフィン系多孔質膜であ
り、
前記高分子電解質が、下記式群(3)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する高分子電解質複合膜。
【化1】
(前記式中、xは1~2000の整数、yは1~1500の整数、zは1~2000の整数、dは1~1500の整数、eは0~1500の整数、fは1~1000、gは0~1000の整数を表す。)
【請求項2】
前記ポリオレフィン系多孔質膜の細孔径が、1~50nmである請求項1に記載の高分子電解質複合膜。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系多孔質膜の空隙率が、20~90%である請求項1に記載の高分子電解質複合膜。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の高分子電解質複合膜の製造方法であって、
前記高分子電解質の溶液が含浸されたポリオレフィン系多孔質膜をエラストマー製シートで圧力を加えながら被覆し、加熱乾燥させる高分子電解質複合膜の製造方法。
【請求項5】
前記エラストマー製シートが、シリコーン系エラストマーシートである請求項
4に記載の高分子電解質複合膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の高分子電解質複合膜を用いた膜/電極接合体。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の高分子電解質複合膜を用いた燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に好適な高分子電解質複合膜、それを用いた膜/電極接合体、これらを含む燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。その要求に対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な材料の一つが電解質である。その電解質からなる燃料と酸化剤とを隔てる電解質膜としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。こうした高分子電解質は、固体高分子形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。これら高分子電解質の利用法の中でも、特に、固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、及び民生用小型携帯機器などに実用化されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜としては、1950年代に開発されたスチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。一方、実用的な安定性を有する電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性などの化学的安定性に優れているとされている。しかしながら、ナフィオン(登録商標)は、使用原料が高く、複雑な製造工程を経るため、非常に高価であるという欠点がある。また、電極反応で生じる過酸化水素やその副生物であるヒドロキシラジカルで劣化すると指摘されている。さらに、その構造上、プロトン伝導基であるスルホン酸基の導入には限界がある。
【0004】
このような背景から、再び炭化水素系電解質膜の開発が期待されるようになってきた。その理由としては、炭化水素系電解質膜は化学構造の多様性を持たせやすく、スルホン酸基などのプロトン伝導基の導入の範囲が広く調整でき、他の材料との複合化、架橋の導入などが比較的容易であるという特徴があるからである。
【0005】
近年では、電解質膜にスルホン酸基を多く導入することでプロトン伝導性を改善する例があるが、このような膜は含水状態での膨潤が大きく、含水状態と乾燥状態を繰り返すことで膜の強度が損なわれるという課題があった。
【0006】
そこで、樹脂の膜を多孔質基材で補強することが提案されている。特許文献1には、フッ素系、炭化水素系など様々な高分子電解質を、ガラスクロスなどの無機繊維と加熱圧着によって複合化する方法が示されている。しかしながらここで例示されている高分子電解質では、複合化によって強度の改善はできるものの低加湿でのプロトン伝導度低下が課題である。特許文献2には、ガラス繊維などの強化材を有する高分子電解質膜が示されている。しかしながらここで例示される高分子電解質は、アルカリ性ポリマー、酸性ポリマーであり、やはり複合による低加湿でのプロトン伝導度低下が課題である。特許文献3には、ガラス不織布を強化材として用いる高分子電解質が示されている。ここに例示されている高分子電解質膜においては、水浸漬時の膜の膨潤が抑制されているものの、イオン交換当量の低下に伴い膜のプロトン伝導度が低下するとともに、破断伸度が低下して脆くなるといった課題があった。特許文献4には、ポリベンゾオキサゾール多孔質膜と高分子電解質膜を複合化した高分子電解質膜が記載されているが、やはり、イオン交換容量が低下するため、プロトン伝導性が目標とするレベルに到達しないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-128014号公報
【文献】特表2009-545841号公報
【文献】特開2012-252915号公報
【文献】国際公開WO2000/22684号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の、高いプロトン伝導度、高い水素ガス遮断性を示し、膜の引張破断伸度が改良された、燃料電池用の電解質膜としての使用に好適な、炭化水素系高分子電解質複合膜、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の電解質樹脂をポリオレフィン系多孔質膜とともに製膜した複合膜が、電解質樹脂単独の膜に比較して引っ張り破断伸度に優れ、高いプロトン伝導度やガス遮断性を維持することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、高分子電解質と、多孔質膜とを含み、前記高分子電解質が、親水性セグメントと、疎水性セグメントとを含む炭化水素系電解質であり、前記親水性セグメントが、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなり、前記疎水性セグメントが、実質的にスルホン酸基を有さず、主鎖が主に芳香環からなり、前記多孔質膜が、ポリオレフィン系多孔質膜である高分子電解質複合膜に関する。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、前記ポリオレフィン系多孔質膜の細孔径が、1~50nmである高分子電解質複合膜である。
【0012】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記ポリオレフィン系多孔質膜の空隙率が、20~90%である高分子電解質複合膜である。
【0013】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記高分子電解質の親水性セグメントを構成する繰り返し単位が、下記式群(1)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する高分子電解質複合膜である。
【化1】
(前記式群(1)中、mは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO
2-、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Dは、-CO-、-SO
2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF
2)
t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF
3)
2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH
2)
o-(oは1~10の整数)、-C(CH
3)
2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar
1は、-SO
3H又は-O(CH
2)
sSO
3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。)
【0014】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記高分子電解質の疎水性セグメントを構成する繰り返し単位が、下記式群(2)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する高分子電解質複合膜である。
【化2】
【0015】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記高分子電解質の疎水性セグメントを構成する繰り返し単位が、下記式(15)で表される構造である高分子電解質複合膜である。
【化3】
【0016】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記高分子電解質の疎水性セグメントを構成する繰り返し単位が、下記式群(8)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する高分子電解質複合膜である。
【化4】
(前記式中、Arは、2価の芳香族基を表す。)
【0017】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記高分子電解質の親水性セグメントと疎水性セグメントが、芳香環の炭素-炭素直接結合で連結されている高分子電解質複合膜である。
【0018】
本発明のさらに好ましい態様としては、前記高分子電解質が下記式群(3)で表される構造群から選択される1以上の構造を有する高分子電解質複合膜である。
【化5】
(前記式中、xは1~2000の整数、yは1~1500の整数、zは1~2000の整数、dは1~1500の整数、eは0~1500の整数、fは1~1000、gは0~1000の整数を表す。)
【0019】
本発明は、また、前記高分子電解質複合膜の製造方法であって、前記高分子電解質の溶液が含浸されたポリオレフィン系多孔質膜をエラストマー系のシートで圧力を加えながら被覆し、加熱乾燥させる製造方法に関する。
【0020】
本発明は、また、本発明の高分子電解質複合膜を用いた膜/電極接合体に関する。
【0021】
本発明は、また、本発明の高分子電解質複合膜を用いた燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定の構造を有する高分子電解質をポリオレフィン系多孔質膜で補強することにより、高いプロトン伝導度とガス遮断性を維持しつつ、膜の引張破断伸度が改良された高分子電解質複合膜を提供することができる。また、ポリオレフィン系多孔質膜の細孔内に電解質が隙間なく含浸し、ボイドのない均一な電解質複合膜を得るための製造方法を提供できる。また、この高分子電解質複合膜を用いることによって、長時間使用における信頼性の高い燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施例1と比較例1の電解質膜のプロトン伝導度を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1と比較例1の電解質膜のガス透過性を示すグラフであり、(a)は水素透過性を示し、(b)は酸素透過性を示す。
【
図3】
図3は、実施例1と比較例1の電解質膜の引張特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2と比較例2の電解質膜のプロトン伝導度を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2と比較例2の電解質膜のガス透過性を示すグラフであり、(a)は水素透過性を示し、(b)は酸素透過性を示す。
【
図6】
図6は、実施例2と比較例2の電解質膜の引張特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3と比較例3の電解質膜のプロトン伝導度を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例3と比較例3の電解質膜の引張特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、電解質複合膜の製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0025】
<高分子電解質>
本発明に用いる高分子電解質、すなわちポリオレフィン系多孔質膜と複合する高分子電解質は、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメント、及び実質的にスルホン酸基を有さず、主鎖が主に芳香環からなる疎水性セグメントからなる炭化水素系電解質である。上記のような親水性セグメントと疎水性セグメントからなる構造にすることにより、低加湿下でのプロトン伝導度が向上する。
【0026】
本発明における親水性セグメントは、スルホン酸基を有し主鎖が主に芳香環からなるものである。スルホン酸基を有するので、高分子電解質のプロトン伝導性が発現し、主鎖が主に芳香環からなるので、高分子電解質は耐熱性、化学的耐久性に優れるものになる。
【0027】
本発明におけるスルホン酸基としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸塩の基、スルホン酸エステル基等が挙げられる。すなわち、スルホン酸基は、例えば、ナトリウム、カリウム等の塩になっていてもよいし、ネオペンチルエステル、メチルエステル、プロピルエステル等のエステル基で保護されていてもよい。特に高分子電解質の合成中や合成後は、塩やエステル等の保護基を有する状態になっているのが好ましいことが多いが、当該高分子電解質が、例えば燃料電池の電解質膜として用いられる場合は、無機酸の水溶液等に浸漬することにより、スルホン酸基に変換して使用されることが多い。よって、本発明においては、スルホン酸基としては、容易にスルホン酸基になる状態の基であれば、塩やエステル等の保護基を有する状態の基も含まれる。
【0028】
スルホン酸基の量は、親水性セグメントを形成する繰り返し単位当たり、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましい。6個よりスルホン酸基の量が多くなると、親水性セグメントの水溶性が高くなり、合成中の取り扱いが難しくなる傾向がある。1個より少ないと十分なプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向がある。
【0029】
本発明における親水性セグメントは、主鎖が主に芳香環からなるものである。ここで「主鎖が主に芳香環からなる」とは、親水性セグメントにおける主鎖の連結基(エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環からなるということを意味する。
【0030】
芳香環としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、硫黄や窒素等を含む芳香族複素環等が挙げられる。
【0031】
主鎖が主に芳香環からなると、化学的熱的な安定性が高い。このような主鎖構造としては、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール等が例示される。
【0032】
当該親水性セグメントの具体的な例としては、下記一般式(4)に記載の構造を繰り返し単位として含むものが挙げられる。
【0033】
【0034】
前記式中、Ar1は、下記式群(5)に記載の構造を有する2価の基を表し、当該2価の基は置換基を有していてもよく、複数あるAr1は互いに同じであっても異なっていてもよい。Ar2は、スルホン酸基を少なくとも1つ有する2価の芳香族基、Xは-O-または-S-を表す。
【0035】
なお、上記一般式(4)の繰り返し単位が複数回繰り返された場合、複数あるAr1は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
【0037】
また、上記Ar2は、下記式群(6)に記載の構造を有し、かつ、スルホン酸基を少なくとも1つ有する2価の芳香族基であると、すなわち、下記式群(6)に記載の構造を有する2価の芳香族基にスルホン酸基が少なくとも1つ導入された構造であると、合成が容易で好ましい。
【0038】
【0039】
親水性セグメントの具体例としての、一般式(4)に記載の構造において、ベンゼン環上に置換基を有していてもよい。また、Ar1において、式群(5)に記載の構造を有する2価の基は、置換基を有していてもよい。さらに、Ar2において、式群(6)に記載の構造を有する2価の芳香族基は、スルホン酸基以外に、置換基を有していてもよい。これら置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、炭素数1~6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等)、フェニル基等が挙げられる。また、当該置換基を1個以上有することができる。
【0040】
親水性セグメントは、スルホン酸基を有するものであるが、その主鎖、側鎖、両者(主鎖及び側鎖)のいずれに、スルホン酸基を有していてもよい。
【0041】
一般式(4)の親水性セグメントを構成するモノマーとしては、例えば、下記式で表されるモノマー等が好ましく挙げられる。また、上記一般式(4)においてXが-S-である親水性セグメントを作製する場合には、下記式で表されるモノマーにおいて、-OH基の代わりに-SH基としたモノマー等も挙げられる。
【0042】
【0043】
親水性セグメントのこの他の例としては、下記式群(1)に記載の構造を繰り返し単位として含むものが挙げられる。
【0044】
下記式群(1)の親水性セグメントは、後述のように疎水性セグメントと芳香環の炭素-炭素直接結合で連結することにより、化学的耐久性の高い高分子電解質膜が得られるので好ましい。
【0045】
【0046】
前記式群(1)中、mは1~4の整数を表し、k及びlはそれぞれ0~4の整数を表し、かつk+lは1以上の整数である。pは0~10の整数、qは0~10の整数、rは1~4の整数を表す。Aは、-CO-、-SO2-、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Dは、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-、-(CF2)t-(tは1~10の整数)、及び-C(CF3)2-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Eは直接結合、又は、-(CH2)o-(oは1~10の整数)、-C(CH3)2-、-O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の構造を表す。Ar1は、-SO3H又は-O(CH2)sSO3H(sは1~12の整数)で表される置換基を有する芳香族基を表す。
【0047】
前記式群(1)で表される構造を有するスルホン酸基含有親水性セグメントの繰り返し単位としては、特に限定はないが、具体的には、下記式群(7)で表される構造等が挙げられる。
【0048】
【0049】
親水性セグメントのみのイオン交換容量(以下、イオン交換容量をIECと示すこともある)は、高分子電解質膜としてのIECが高く設定でき、また低加湿下で高いプロトン伝導性を発現することができる点から、4.0meq./g以上であることが好ましい。親水性セグメントのIECは、NMRの分析による計算や、電解質のIEC(従来公知の方法、例えば滴定等により容易に求められる)を、親水性セグメントの重量割合で除すること等により求めることができるが、本発明においては後者の方法により求めるものである。つまり、親水性セグメントのIECは、実施例に記載の高分子電解質膜のIECの測定方法と同様にして求めた高分子電解質のIECを、親水性セグメントの重量割合で除することにより求める。meq./gは、ミリ当量/gを意味する。
【0050】
本発明における疎水性セグメントは、実質的にスルホン酸基を有さないものである。これにより、親水性セグメントと疎水性セグメントが相分離し、親水性セグメントによるプロトン伝導チャンネルが形成されるので、高分子電解質膜の低加湿下でのプロトン伝導性が向上するとともに、膜の強度が向上する。当該疎水性セグメントは、スルホン酸基が全く導入されていないことが好ましいが、親水性セグメントに対して相対的に疎水性であればよく、繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数が親水性セグメントの1/10以下であれば良い。すなわち、「実質的にスルホン酸基を有さない」とは、疎水性セグメントがスルホン酸基を全く有さないか、疎水性セグメントにおける繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数が、親水性セグメントにおける繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数の1/10以下であることを意味する。
【0051】
当該疎水性セグメントは、耐熱性を有する点から、ポリイミド系、ポリベンズイミダゾール系、ポリエーテル系、ポリスルホン系、等で、主鎖が主に芳香環からなる構造が好ましい。ここで「主鎖が主に芳香環からなる」とは、疎水性セグメントにおける主鎖の連結基(エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環からなるということを意味する。このような疎水性セグメントを構成する繰り返し単位としては、例えば下記式群(8)に記載の構造を例示できる。
【0052】
【0053】
前記式中、Arは、2価の芳香族基を表す。
【0054】
なお、上記式群(8)の繰り返し単位が複数回繰り返された場合、複数あるArは互いに同じであっても異なっても良い。Arの2価の芳香族基としては、例えば、下記式(9)で表される基等が好ましく挙げられる。
【0055】
【0056】
また、Arの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、炭素数1~6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等)、フェニル基、シアノ基等が挙げられる。また、当該置換基を1個以上有することができる。疎水性セグメントを構成するモノマーとしては、例えば、上記式群(8)の構造を構成しうるモノマー等が挙げられ、具体的には、下記式で表されるモノマー等が好ましく挙げられる。
【0057】
【0058】
疎水性セグメントとしてはこの他、芳香環が炭素-炭素直接結合で連結されたポリフェニレン骨格を有するものが挙げられる。そのようなポリフェニレン構造を有する疎水性セグメントの具体例としては、下記一般式(10)に示す構造が例示される。但し、芳香環上にアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン、パーフルオロアルキル基から選ばれる置換基を有していてもよい。
【0059】
【0060】
前記式中、a、b、cは0~50の整数である。但し、2≦a+b+c≦50を満足する。nは1~1500の整数である。
【0061】
a+b+cの値は、2~50が好ましく、3~10の範囲がより好ましい。a+b+cが50より大きいと、溶媒に対する溶解度が低くなり、本発明の高分子電解質を製造することが困難となる。nは1~1500であり、好ましくは5~500であり、さらに6~250が好ましい。nが1500を超えると粘度が高くなりすぎ、高分子電解質の製造が困難になる。
【0062】
前記一般式(10)のポリフェニレン系疎水性セグメントは、主鎖に沿って屈曲構造が導入されていることが好ましく、従って、前記一般式(10)におけるbとcの少なくとも一つは、1以上の整数であることが好ましい。bとcがいずれもゼロである場合、疎水性セグメントは、ポリ-p-フェニレン骨格となり、溶媒への溶解性が低下して、ハンドリングが困難になることがある。
【0063】
前記一般式(10)の構造を形成するための繰り返し単位を具体的に例示するならば、以下の式に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
【0065】
これらの中でも、原料の入手性、製造のしやすさ、ハンドリングのしやすさの観点から、下記式群(11)に示す構造のものが好ましい。
【0066】
【0067】
これらの中でも、特に、原料の入手性と製造のしやすさの観点から、下記式群(2)に示す構造のものが好ましい。
【0068】
【0069】
前記一般式(10)に示す疎水性セグメントは、芳香環がすべて炭素-炭素直接結合で連結されており、後述するように親水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマーと反応するための反応部位を有している必要がある。従って、これらの疎水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマーの製造は、それらの条件を満たす反応プロセスと原料を用いる必要がある。
【0070】
そのような疎水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマーの製造法としては特に限定はないが、芳香環の炭素-炭素直接結合を形成させる反応を適切に用いることによって製造することができる。そのような反応としては、ハロゲンを有する芳香族化合物を、金属銅を用い、加熱してカップリングさせるUlmannカップリング反応;ボロン酸を有する芳香族化合物とハロゲンを有する芳香族化合物を、パラジウム系触媒を用いて反応させる鈴木-宮浦カップリング反応;芳香族ハロゲン化物どうしを、ニッケル系化合物を用いてカップリングさせる反応;等が好適に用いられる。これらのうち、反応を穏和な条件で行うことができ、さらに所望の位置に炭素-炭素結合を形成させることができ、かつ、副反応が少ないという点で、パラジウム系触媒や、ニッケル系化合物を用いたカップリング反応が好ましい。また、親水性セグメントとなるモノマーやオリゴマーと反応するための官能基が、カップリング反応時に消費されないことが必要なため、官能基選択性の高いパラジウム系触媒を用いたカップリング反応が好ましい。下記式(12)に、鈴木-宮浦カップリング反応を用いた疎水性セグメント前駆体の合成例を示した。ボロン酸基は臭素と反応するが、塩素とは反応しにくいため、塩素原子が残存し、芳香環が炭素-炭素直接結合で連結した化合物が得られる。末端に残る塩素原子を利用することにより、親水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマーと反応させることが可能になる。
【0071】
【0072】
鈴木-宮浦カップリング反応に用いられるパラジウム触媒としては、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム等の0価のパラジウム、酢酸パラジウム等の2価のパラジウム化合物が挙げられる。反応を促進するために、トリフェニルホスフィン、トリス(オルトトリル)ホスフィン等の配位子を添加してもよい。カップリング反応は、溶媒を用いても用いなくともよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、アルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒、等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素、芳香族系炭化水素が挙げられ、例示するならば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、等である。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられ、取り扱いの容易さからジクロロメタンが好ましい。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられ、取り扱いの容易さからクロロベンゼンが好ましい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド等を挙げることができる。
【0073】
また、パラジウム触媒の溶解性を確保するために、水を共存させることも一般的に行われる。
【0074】
鈴木-宮浦カップリング反応の反応温度は、反応に応じて適宜設定すればよく、具体的には0℃~200℃に設定すればよく、より好ましくは50℃~150℃である。0℃よりも低温であれば反応が遅くなり、目的とするカップリング反応が100%まで進行しない傾向があり、200℃よりも高温であれば副反応が起こる傾向がある。
【0075】
反応時間は、使用する化合物の構造により適宜選択され得るが、通常1分間~50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いとカップリング反応が十分進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0076】
ニッケル系化合物を用いるカップリング反応におけるニッケル系化合物としては、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキストリフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル化合物が好適に用いられる。また、臭化ニッケルや、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル等の2価のニッケル化合物を、亜鉛等の還元剤存在下に触媒量使用することもできる。反応を促進するために、トリフェニルホスフィンや、2,2’-ビピリジル等の配位子を併用してもよい。
【0077】
溶媒は用いても用いなくてもよいが、溶媒を用いる場合、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒の他、非プロトン性の極性溶媒を使用することができる。炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、非プロトン性極性溶媒としては、上記の鈴木-宮浦カップリング反応に用いたものを例示することができる。
【0078】
反応温度は使用する化合物の反応性を考慮して決定すればよく、好ましくは、0℃~200℃、さらに好ましくは30℃~100℃である。0℃未満であると、反応が遅くなる傾向があり、200℃を超えると、副反応が起こる傾向がある。
【0079】
反応時間は、使用する化合物の構造により適宜選択され得るが、通常1分間~50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いとカップリング反応が十分進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0080】
疎水性セグメントとしては、さらに、下記一般式(13)に示す芳香環がパーフルオロアルキル基で連結されたものを用いた場合も、高分子電解質の化学的耐久性が高くなり好ましい。
【0081】
【0082】
前記一般式(13)中、Y、Zはそれぞれ独立にフッ素、又はパーフルオロアルキル基を表し、zは1~2000の整数を表し、ベンゼン環上の水素はフッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよい。
【0083】
前記一般式(13)中、zは1~2000の整数であり、好ましくは5~500であり、さらに好ましくは6~250である。zが2000を超えると、高分子電解質が高粘度で溶媒に溶解しにくく、成形が困難になる。
【0084】
前記一般式(13)中、ベンゼン環の水素は、フッ素、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びシアノ基からなる群から選ばれる一つ以上で置換されていてもよいが、入手の容易性から、すべて水素であることが好ましい。
【0085】
前記一般式(13)中、Y及びZは、それぞれ独立にフッ素又はパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基の種類としては特に限定はないが、例えば、炭素数が1~10であってもよく、炭素数が1~5であってもよく、炭素数が1~3であってもよい。パーフルオロアルキル基としては、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が例示され、入手の容易さから、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0086】
前記一般式(13)で表される構造を有する疎水性セグメントとしては、特に限定されないが、具体的には、下記式群(14)で表される構造等が挙げられる。下記式群(14)中、zは1~2000の整数であり、好ましくは5~500であり、さらに好ましくは6~250である。zが2000を超えると、高分子電解質が高粘度で溶解しにくく、成形が困難になる。
【0087】
【0088】
これらの中でも、原料の入手性の観点から、疎水性セグメントを構成する繰り返し単位が、下記式(15)で表される構造であることが好ましい。
【0089】
【0090】
前記一般式(13)で表される構造を有する疎水性セグメントにおいて、2つの芳香環が、-C(Y)(Z)-で表される基で連結されているため、疎水性セグメントは屈曲した構造を有し、溶媒への溶解性が高くなり、フィルム等への成形が容易になる。
【0091】
本発明の高分子電解質は、従来公知の方法により作製することができる。例えば、親水性セグメントとなりうるオリゴマーまたはモノマーを作製後、これと疎水性セグメントとなるオリゴマーまたはモノマーと共重合し、親水性セグメントとなりうる部分のみをスルホン酸化して、親水性-疎水性共重合体とする方法;親水性セグメントとなりうるオリゴマーまたはモノマーを作製後、スルホン酸基を導入し、これと疎水性セグメントとなるユニットを共重合する方法;が挙げられる。
【0092】
このような製造方法について、一例を挙げて説明する。なお、本発明の高分子電解質の製造方法は、以下に限定されるものではない。
【0093】
まず、親水性セグメントとなりうるオリゴマー(スルホン酸化可能な部位を含むオリゴマー)と、疎水性セグメントとなるオリゴマーを調製する。これらを得るには、末端に水酸基等の求核性の置換基を有するモノマーと、末端にハロゲン化合物等の脱離基を有するモノマーを縮合する方法や、脱離基を有するモノマー中に触媒を加えて縮合させる方法等が挙げられる。
【0094】
重合反応(縮合反応)は、溶媒を用いない溶融状態でも行うことは可能であるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えばジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。アミド系溶媒としては、例えばN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えばスルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0095】
反応を促進するために、通常は触媒として塩基性化合物が用いられる。塩基性化合物としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が好適に用いられ、例示するならば、LiOH、NaOH、KOH、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3等である。
【0096】
重合反応工程の反応温度は、重合反応に応じて適宜設定すればよい。具体的には、20℃~250℃に設定すればよく、より好ましくは40℃~200℃である。20℃よりも低温であれば反応が遅くなる傾向があり、250℃よりも高温であれば主鎖が切れやすくなる傾向がある。重合反応工程の反応時間は、特に限定されないが、好ましくは0.1~500時間、より好ましくは0.5~300時間である。
【0097】
上記のようにして、親水性セグメントとなりうるオリゴマーと、疎水性セグメントとなるオリゴマーを得た後、これらを化学結合させてブロック共重合体化させることにより、ブロック共重合体を得る。これらオリゴマーを化学結合させてブロック共重合体化させる方法としては、特に制限は無く、重合するオリゴマーの反応性によって適宜定めることができる。重合法の詳細は、一般的な方法(「高分子の合成と反応(2)」p.249-255、(1991)共立出版株式会社)を適用することができる。具体的には、例えば、末端に水酸基等の求核性の置換基を有するオリゴマーを調製し、別途調製した末端にハロゲン化合物等の脱離基を有するオリゴマーを塩基存在下に縮合させることにより、ブロック共重合体化させる。
【0098】
次いで、上記のようにして得られたブロック共重合体において、親水性セグメントとなりうるオリゴマー部分のみをスルホン酸化する。この場合、ベンゼン環の電子密度が比較的高い部分がスルホン酸化される。すなわち、当該ブロック共重合体と、スルホン酸化剤を反応させることにより、親水性セグメントと疎水性セグメントからなるブロック共重合体(高分子電解質)を合成することができる。
【0099】
スルホン酸化剤としては、例えばクロロスルホン酸、無水硫酸、発煙硫酸、硫酸、アセチル硫酸等が挙げられ、クロロスルホン酸、発煙硫酸が適度な反応性を有しているために好ましい。
【0100】
スルホン酸化反応において、溶媒は用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、スルホン酸化剤に対して不活性なものであればよく、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素が挙げられ、特に炭素数5~15の直鎖状または分岐状の炭化水素が好ましく、溶解度の点から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンがより好ましい。ハロゲン化炭化水素としては、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられ、取り扱いの容易さからジクロロメタンが好ましい。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられ、取り扱いの容易さからクロロベンゼンが好ましい。
【0101】
スルホン酸化工程の反応温度は、反応に応じて適宜設定すればよく、具体的にはスルホン酸化剤の最適使用範囲である-80℃~200℃に設定すればよく、より好ましくは-50℃~150℃であり、さらに好ましくは-20℃から130℃である。-80℃よりも低温であれば反応が遅くなり、目的とするスルホン酸化が100%まで進行しない傾向があり、200℃よりも高温であれば副反応が起こる傾向がある。
【0102】
スルホン酸化工程の反応時間は、親水性セグメントとなりうるオリゴマーの構造により適宜選択され得るが、通常1分間~50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いと均一なスルホン酸化が進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0103】
スルホン酸化工程におけるスルホン酸化剤の添加量は、親水性セグメントとなりうるオリゴマーに含まれるスルホン酸化される部位の全量を1当量とした場合、1当量~50当量であることが好ましい。1当量より少ないと、スルホン酸化される部位が不均一になる傾向があり、一方、50当量より多いと親水性セグメントとなりうるオリゴマーの主鎖が切断されやすい傾向がある。
【0104】
スルホン酸化工程における親水性セグメントとなりうるオリゴマーの濃度は、スルホン酸化剤と接触させた場合に均一に反応が進行すれば特に限定されないが、親水性セグメントとなりうるオリゴマーが低分子量化反応等の副反応を起こさないことと、溶媒量抑制によるコスト優位性の観点から、スルホン酸化反応に用いた化合物全体の重量に対して1~30重量%であることが好ましい。
【0105】
別の方法として、親水性セグメントとなるオリゴマーまたはモノマーと疎水性セグメントとなるオリゴマーまたはモノマーの末端を、いずれもハロゲンとしておき、遷移金属化合物を用いてカップリングする方法を用いることもできる。このような遷移金属化合物としては、ニッケル系化合物、パラジウム系化合物、銅化合物が好ましく用いられ、好ましくは、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキストリフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル錯体が用いられる。また、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル等の2価のニッケル化合物を、亜鉛等の還元剤の存在下に使用してもよい。0価ニッケル錯体は、カップリング反応の活性が高い半面、高価であり、水分や酸素に対して敏感で取り扱いに注意を要する。一方、2価ニッケル化合物は、活性はやや低いものの安価であり、水分や酸素に対して安定であるため、取り扱いは容易である。
【0106】
また、スルホン酸基含有親水性セグメントの前駆体と、疎水性セグメントの前駆体の一方にボロン酸官能基を導入し、他方にハロゲンを導入しておき、パラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦カップリング反応を用いることもできる。
【0107】
これらの方法によると、高分子電解質の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、芳香環の炭素-炭素直接結合で連結され、化学的な耐久性が高くなるので好ましい。
【0108】
親水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマーの具体例としては、例えば、前記式群(7)に示す構造の芳香環にハロゲンが結合した化合物が挙げられる。
【0109】
また、疎水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマーの具体例としては、例えば、前記の式群(8)、式群(11)、一般式(13)に示す構造の芳香環にハロゲンが結合した化合物が挙げられる。
【0110】
重合反応用溶媒としては、疎水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマー、及びスルホン酸基含有親水性セグメントとなるモノマーまたはオリゴマー等の反応物質、並びに生成する高分子電解質を溶解するものが好ましく、具体例としては、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、生成する高分子電解質の溶解度の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒が好ましい。これら重合反応溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0111】
遷移金属化合物を用いるカップリング反応を行う場合は、反応系を脱水することが好ましい。脱水の方法は特に限定されないが、上記の溶媒に共沸溶媒を混合し、加熱して共沸脱水する方法が好ましく用いられる。
【0112】
共沸溶媒としては特に限定はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等を用いることができ、重合反応用溶媒に応じて、適宜選択される。
【0113】
共沸脱水は、共沸溶媒の沸点に依存するが、100℃~200℃の範囲で行うことが好ましい。100℃未満では脱水速度が遅く実用的でなく、200℃を超えると重合反応用溶媒も留去されてしまうので好ましくない。
【0114】
以上のようにして得られる高分子電解質のうち、化学的耐久性の高さ、原料入手の容易さの視点から、下記式群(3)で表される構造群から選択される構造を有するものが特に好ましい。
【0115】
【0116】
前記式中、xは1~2000の整数、yは1~1500の整数、zは1~2000の整数、dは1~1500の整数、eは0~1500の整数、fは1~1000、gは0~1000の整数を表す。
【0117】
高分子電解質の分子量は、数平均分子量で10,000~300,000g/molが好ましく、合成の容易さと溶媒への溶解度のバランスから、30,000~150,000g/molがより好ましい。上記各セグメント及び高分子電解質の分子量は、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0118】
また、高分子電解質のIECは、1.5~3.5meq./gであると、電解質としての性能を発現し易いために好ましく、1.6~3.0meq./gであると、低加湿下におけるプロトン伝導性と機械強度のバランスに優れるため、より好ましい。当該高分子電解質のイオン交換容量は、実施例に記載の高分子電解質膜のイオン交換容量の測定方法と同様にして求めることができる。
【0119】
また、機械強度をより向上させたり、水分に対する膨潤を抑制するために、高分子電解質に架橋の導入等の化学的変性を行うことも、本発明の範疇である。
【0120】
<ポリオレフィン系多孔質膜>
本発明におけるポリオレフィン系多孔質膜は、その細孔中に高分子電解質が充填される。高分子電解質と一体化して複合膜を形成することにより、ポリオレフィン系多孔質膜は、高分子電解質膜の補強材として機能し、その機械物性、特に引張破断伸度が向上し、炭化水素系電解質膜の課題である脆さを改良することができる。
【0121】
多孔質膜原料樹脂であるポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘプテン等の好適には炭素数2~8のα-オレフィンの単独重合体、または他のα-オレフィンあるいは共重合可能な他の単量体との共重合体が挙げられる。α-オレフィンに基づく単量体の含有量が90重量%以上のものが好ましい。なかでもポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、特にポリエチレンが好ましい。
【0122】
ポリオレフィン系多孔質膜の厚さは、1μm~50μmが好ましく、より好ましくは2μmから25μmである。厚さが1μm未満では強化材としての機械的強度が小さく、50μmを超えるとプロトン伝導抵抗が高くなるという観点から好ましくない。
【0123】
ポリオレフィン系多孔質膜の空隙率は、使用する高分子電解質のイオン交換当量によって適宜実験的に求められるが、20%~90%が好ましく、より好ましくは30%~90%であり、さらに好ましくは30%~50%である。空隙率が20%未満では電解質溶液が多孔質材料の内部まで充填しにくくなり、プロトンチャンネルが高分子電解質膜の厚み方向に連続的に形成されにくくなる。一方、90%を超えると強化材としての機械的強度が小さくなり好ましくない。
【0124】
また、ポリオレフィン系多孔質膜の細孔径は通常1~1,000nm、好ましくは1~100nm、さらに好ましくは1~50nmである。細孔径が1nm未満では電解質溶液が多孔質材料の内部まで充填しにくくなり、プロトンチャンネルが高分子電解質膜の厚み方向に連続的に形成されにくくなる。また、1,000nmを超えると強化材としての機械的強度が小さくなり好ましくない。
【0125】
本発明におけるポリオレフィン系多孔質膜を製造する方法としては特に限定はないが、例えば、次のような方法で製造できる。
【0126】
超高分子量ポリオレフィンを流動パラフィンのような溶媒中に1~15重量%加熱溶解して均一な溶液とする。この溶液からシートを形成し、急冷してゲル状シートとする。このゲル状シート中に含まれる溶媒を、塩化メチレンのような揮発性溶剤で処理して10~90重量%とする。このゲル状シートをポリオレフィンの融点以下の温度で加熱し、面倍率で10倍以上に延伸する。この延伸膜中に含まれる溶媒を、塩化メチレンのような揮発性溶媒で抽出除去した後に乾燥する。
【0127】
また、ポリオレフィンに被抽出物を添加し、微分散させ、シート化した後に被抽出物を溶剤等で抽出して孔を形成し、必要に応じて抽出前または後に延伸加工を行なう工程を有する抽出法で得られた多孔質材料も使用可能である。また、自己組織化によるハニカム状に開口した多孔質材料や炭酸カルシウムなどの造孔剤を添加し延伸により多孔質化したシートも使用可能である。
【0128】
<本発明の高分子電解質複合膜>
本発明の高分子電解質複合膜は、上記高分子電解質とポリオレフィン系多孔質膜が複合化されてなるものである。すなわち、本発明の高分子電解質複合膜は、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環からなる親水性セグメント、及び実質的にスルホン酸基を有さず、主鎖が主に芳香環からなる疎水性セグメントからなる炭化水素系電解質と、ポリオレフィン系多孔質膜が複合化された高分子電解質複合膜である。
【0129】
複合化の方法は、従来公知の方法を適用しうる。すなわち、高分子電解質溶液とポリオレフィン系多孔質膜が接触するような態様をとればよい。簡易的な方法としては、ガラス等の基板上にポリオレフィン系多孔質膜を固定し、この上に高分子電解質をキャストし、溶媒を除去する方法;ガラス等の基板上にまず高分子電解質の溶液をキャストし、その上にポリオレフィン系多孔質膜を載せ、さらに高分子電解質の溶液をキャストした後に、溶媒を除去する方法;高分子電解質の溶液にポリオレフィン系多孔質膜をディップすることにより、ポリオレフィン系多孔質膜の空隙中に高分子電解質を含浸させ、溶液から、溶液を含んだポリオレフィン系多孔質膜を取り出し、例えば垂直状態で広げた状態で溶媒を除去する方法;等が例示される。このような手法は、多孔質膜と樹脂の複合材料を作製する際に用いられる方法で一般的である。
【0130】
なお、高分子電解質溶液とする場合に用いられる溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。溶媒の除去は、好ましくは10~200℃、より好ましくは20~150℃の温度で乾燥させることにより行う。乾燥時間は、枚葉で乾燥する場合は、乾燥温度を比較的高めに設定し、1分~20時間が好ましい。その他、高分子電解質とポリオレフィン系多孔質膜を加熱圧着する方法;溶媒を含んだ半凝固状態の高分子電解質2枚でポリオレフィン系多孔質膜を挟み込み、プレス、乾燥による方法;等も適用しうる。
【0131】
高分子電解質とポリオレフィン系多孔質膜の親和性を向上させるために、ポリオレフィン系多孔質膜をあらかじめコロナ放電処理、プラズマ放電処理を適宜行なうことも可能である。
【0132】
上記に記載した複合化の方法では、ポリオレフィン系多孔質膜の細孔に高分子電解質溶液が十分に含浸しないことがある。その場合、膜中にボイドが生じ、プロトン伝導度が低くなったり、燃料ガスの透過が大きくなり、好ましくない。また、高分子電解質とポリオレフィン系多孔質膜の親和性が悪い場合は、両者が完全に分離して複合化できないこともある。
【0133】
このような不具合を防ぎ、細孔中に電解質が隙間なく充填され、均一な構造の電解質膜を得るために、ポリオレフィン系多孔質膜に高分子電解質溶液を含浸させた後、エラストマー製シートを用いて、圧力を加えながら被覆する方法を用いることが好ましい。
【0134】
この方法においては、エラストマー製シートで圧力を加えることによりポリオレフィン系多孔質膜の細孔内に高分子電解質溶液が十分に含浸するとともに、溶媒がエラストマー製シートに吸収され、均一な構造の複合膜を得ることができる。
【0135】
エラストマー製シートとしては各種のものを用いることができるが、電解質溶液の溶媒を選択的に吸収するものが好ましく、なかでもシリコーン系エラストマーシートが好ましい。
【0136】
シリコーン系エラストマーシートとしては特に限定されず、種々のものを使用することができる。例えば、分子末端に加水分解縮合が可能な官能基を有するシリコーンを、触媒の存在下に湿気硬化させることにより得られるシート;分子末端にアルケニル基を有するシリコーンと、ヒドロシリル基を有するシリコーンを、ヒドロシリル化触媒の存在下に加熱硬化することにより得られるシート;等が挙げられる。
【0137】
エラストマー製シートで被覆し、乾燥する時の加熱温度は、溶媒の種類に応じて適宜決めればよいが、通常20~150℃であり、好ましくは30~120℃である。20℃未満では乾燥時間が長くなり過ぎ、150℃を超えると発泡や電解質樹脂の分解が起こり好ましくない。
【0138】
以上のように、シリコーン系エラストマーシートで高分子電解質が含浸した補強膜を加圧しながら被覆すると、電解質がポリオレフィン系多孔質膜の細孔に隙間なく含浸するとともに、溶剤が選択的に吸収され、短時間で乾燥した電解質膜を得ることができる。
【0139】
上記のようにして、高分子電解質とポリオレフィン系多孔質膜が複合化されてなる、本発明の高分子電解質複合膜を得ることができる。
【0140】
本発明の高分子電解質複合膜における高分子電解質としては、本発明の上記高分子電解質を単独で用いてもよいし、その他の高分子電解質等を混合して用いてもよい。
【0141】
また、本発明の高分子電解質複合膜は、上記高分子電解質とポリオレフィン系多孔質膜以外の添加物を含んでいてもよい。
【0142】
プロトン伝導性の点から、本発明の高分子電解質複合膜においては、本発明の高分子電解質が、当該高分子電解質膜全体の70重量%以上を占める主成分であることが好ましい。また、製膜時に適当な化学的処理を施してもよい。化学的処理とは、例えば、電解質複合膜の強度を上げるための架橋、伝導度を上げるためのプロトン性化合物の添加、耐久性向上やイオン架橋のための微量の多価金属イオンの添加等が挙げられる。
【0143】
いずれにしても、本発明における高分子電解質を用いて、従来公知の技術と組み合わせて製造される高分子電解質複合膜は、本発明の範疇である。
【0144】
また、本発明の高分子電解質複合膜において、通常用いられる各種添加剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成形加工における取扱いを向上させるための帯電防止剤や滑剤等は、電解質複合膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で適宜用いることができる。
【0145】
本発明の高分子電解質複合膜としての厚さとしては、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、燃料電池として用いる際の高分子電解質複合膜の抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質複合膜の厚さは薄いほどよい。一方、高分子電解質複合膜のガス遮断性、ハンドリング性、電極との接合時の耐破れ性等を考慮すると、高分子電解質複合膜の厚さは薄すぎると好ましくない場合がある。
【0146】
これらを考慮すると、高分子電解質複合膜の厚さは、5μm以上300μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましく、また、燃料電池として出力を重視する場合等は10μm以上50μm以下が特に好ましい。高分子電解質複合膜の厚さが5μm以上300μm以下であれば、製造が容易であり、膜抵抗と機械物性のバランスが取れており、燃料電池材料として加工する際のハンドリング性にも優れる。
【0147】
当該高分子電解質複合膜の厚さは、実施例に記載の測定方法により求めることができる。本発明の高分子電解質複合膜のイオン交換当量(IEC)は、高分子電解質のIECにより調整することができる。例えば、高分子電解質複合膜として、高分子電解質以外の材料を含む場合は、それによって高分子電解質複合膜としてのIECは低下するので、高分子電解質複合膜のIECを高めに設定する等、適宜調整しうる。
【0148】
高分子電解質複合膜としてのIECは、1.0~3.5meq./gが好ましく、1.5~3.0meq./gがより好ましい。IECが1.0meq./gより小さいと、好ましいプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向があり、3.5meq./gより大きいと、水による膨潤で機械的強度が低下し、十分な強度を有しにくくなる傾向がある。当該高分子電解質膜のIECは実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0149】
<本発明の膜/電極接合体、燃料電池>
本発明にかかる膜/電極接合体(以下、「MEA」と表記する)は、本発明の高分子電解質複合膜に電極触媒を塗布することにより得られる。本発明で使用される電極触媒とは、文字通り、当業者にとって従来公知の電極触媒であればよく、導電性触媒担体と当該導電性触媒担体に担持された触媒活性物質を含むものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。具体的には、燃料電池の電極反応に対して活性な触媒が使用される。アノード側では、燃料(水素やメタノールなど)の酸化能を有する触媒が使用される。
【0150】
導電性触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、ケッチェンブラック、活性炭、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブなどの高表面積のカーボン担体が挙げられ、触媒担持能や電子伝導性、電気化学的安定性などから、これらの材料が好ましい。
【0151】
触媒活性物質としては、具体的には、白金、コバルト、ルテニウム等が例示でき、これらを単独で、あるいはこれらの少なくとも一種を含んだ合金、さらには任意の混合物として使用しても構わない。特に燃料の酸化能、酸化剤の還元能、耐久性を考慮すると、白金または白金を含む合金であることが好ましい。これらは必要に応じて、安定化や長寿命化のために、鉄、錫、希土類元素等を用い、3成分以上で構成してもよい。
【0152】
電極触媒層は、高分子電解質、電極触媒および溶媒を含む触媒インクを支持体上に塗布し、溶媒を除去することによっても調製することができる。
【0153】
溶媒としては、高分子電解質を溶解でき、燃料電池用触媒を被毒しないものであれば何ら制限なく使用可能である。
【0154】
当該触媒インクは、必要に応じて非電解質バインダー、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤などの添加剤を含んでいても構わない。また、これらの添加剤は、当業者にとって従来公知のものが使用可能であり、その他の具体的な構成については特に限定されない。
【0155】
前記組成および方法で調製された触媒インクは、粘度や基材の種類に応じて、下記に示すような塗布方法が利用できる。前記触媒インクの基材への塗布方法としては、当業者にとって従来公知の塗布方法であればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷などを利用する方法が列挙できるが、これらに限定されるものではない。
【0156】
基材として高分子フィルムを使用した場合には、燃料電池用触媒層転写シートが、基材として導電性多孔質シートを使用した場合には、燃料電池用ガス拡散電極が、それぞれ製造できる。MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン酸化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン酸化ポリエーテルスルホン、スルホン酸化ポリスルホン、スルホン酸化ポリイミド、スルホン酸化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。かかるMEAは、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池に用いることができる。
【実施例】
【0157】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0158】
各測定は以下のように行った。
【0159】
(分子量の測定)
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通りである。
(1)カラム:Shodex K-805L(昭和電工株式会社製)
(2)検出器:Jasco 805UV
(3)カラム温度:50℃
(4)移動相溶媒:ジメチルホルムアミド、LiBrを0.01Mになるように添加
(5)標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0160】
(イオン交換容量の測定)
測定サンプルとして、酸処理後の膜を10~20mg切り出し、80℃で減圧乾燥し、乾燥重量(Wdry)を測定した。この膜を、飽和NaCl水溶液(30mL)に室温で24時間浸漬させることで、イオン基をH+型からNa+型へ変換した。その後得られた溶液に含まれるHClを、電位差自動滴定装置「AT-510」(京都電子工業株式会社製)を用いて0.01MのNaOH水溶液により定量し、以下の式を用いてイオン交換容量IEC値を算出した。同一の膜について2サンプル作製し、2回の測定の平均値を滴定による算出IEC値とした。
【0161】
【0162】
(プロトン伝導度)
高分子電解質複合膜のプロトン伝導度測定は、日本ベル株式会社製の電解質評価装置「MSB-AD-V-FC」を用いて行った。チャンバー内温度は80℃一定で、相対湿度(RH)20%、RH40%、RH60%、RH80%、及び、RH90%の条件下で行った。測定は、RH20%→RH40%→RH60%→RH80%→RH90%→RH80%→RH60%→RH40%→RH20%を1サイクルとして、2サイクル目の湿度降下時の値を測定結果として用いた。高分子電解質複合膜のサンプルのサイズは1.0cm×3.0cm、Auプローブ間の距離は1.0cmとし、「Solartron 1255B/1287」(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、交流4端子法(300mV、1-100000Hz)により測定を行った。インピーダンスZはボードプロットにより位相角が0°に近い値でかつ1000Hzに近い値を用いた。導電率σ(S/cm)は次式により計算した。
【0163】
σ=(L/Z)×1/A
ここで、LはAuプローブ間の距離(1.0cm)、Aはサンプルの断面積(1cm×膜厚Xcm)である。
【0164】
(ガス透過性)
水素及び酸素透過性は、GTR-tech製のガス透過性試験機「GTR-20XFYC」を用い、Porapak Qカラムと熱伝導検知器を備えたYanaco製のガスクロマトグラフ試験機「G2700T」を検出器として測定した。アルゴンとヘリウムを、それぞれ水素及び酸素透過性測定のキャリアガスとして用いた。高分子電解質複合膜をガス入り口と出口を有するセルの中心部に設置し、テストガスを高分子電解質複合膜の一方の面に、キャリアガスを他方の面に供給した。高分子電解質複合膜の湿度を均一に保つために、テストガスとキャリアガスの湿度条件は同一に設定した。フローガスのサンプルを採取し、高分子電解質複合膜を透過したテストガスをガスクロマトグラフを用いて定量した。高分子電解質複合膜のガス透過係数Q[cm3(STD)cm・cm-2・S-1・cmHg-1]は、以下の式に従い計算した。
【0165】
Q=273/T×1/A×B×1/t×l×1/(76-PH2O)
ここで、T(K)は絶対温度、A(cm2)は透過面積、B(cm3)は、透過したガスの体積、t(s)はサンプリング時間、l(cm)は、膜厚、PH2O(cmHg)は水蒸気圧を表す。
【0166】
(引張試験)
温度・湿度制御チャンバー(Bethel-3A,Toshin Kogyo)を備えた引張試験機「AGS-J500N,Shimadzu」を測定に用いた。ダンベル状に膜サンプルをカットし(DIN-53504-S3,35mm×6mm(total),12mm×2mm(test area))、応力ひずみ曲線を得た。測定条件は、60%RHかつ80℃において、引張速度10mm/minとした。なお、引張試験は、ポリエチレン系多孔質膜のMD方向(Machine Direction)とTD方向(Transverse Direction)の両方で行ったが、以下の実施例、比較例においては、いずれもTD方向のデータを記載してある。
【0167】
(製造例1)
リービッヒ冷却管とディーンスタークトラップ、メカニカルスターラーを備え、窒素パージした三口フラスコ中に4,4’-dichlorodiphenyl sulfone(8.61g、30mmol)、4,4’-dihydroxybenzophenone(5.35g、25mmol)とK2CO3(10.4g、75mmol)を加え、脱水DMAc(55ml)中に溶解し、共沸剤として脱水toluene(10ml)を加え、反応温度160℃で20時間反応を行った。その後、4,4’-dichlorodiphenyl sulfone(1.15g、4.0mmol)を加え3時間撹拌した(エンドキャップ)。反応混合液をメタノール中に滴下し、固体を沈殿させた。得られた沈殿物を吸引ろ過により回収し、温塩酸洗浄3回、温純水洗浄3回行い、真空乾燥(80℃、12時間)することでスルホンケトンオキシフェニレンオリゴマーを白色固体として得た(16.4g、収率89.1%)。得られた生成物のGPCから、分子量はMn=3.33kDa、Mw=8.29kDaであった。また、1H NMRより鎖長を算出したところn=5.96であった。反応式は、下記のとおりである。
【0168】
【0169】
(製造例2)
300ml三ツ口フラスコに1,4-phenylenediboronic acid(1.86g、11.3mmol)、1-bromo-3-iodobenzene(12.7g、45.0mmol)、Tris(2-methylphenyl)phosphine(0.342g、1.12mmol)、2MのK2CO3水溶液(25ml)、toluene(80ml)、ethanol(30ml)を加えた。15分間N2パージした後にPalladium acetate(50.5mg、0.0250mmol)を加え油浴の温度を80℃に設定し、18時間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却しtoluene(100ml)、水(50ml)を加えて溶液を薄めた。得られた生成物をセライトろ過し、濾液を分液ロートで二層に分けた後に水層中の有機層をtolueneで三回抽出し、得られた有機層をエバポレーターで濃縮した。ブライン洗浄をし、硫酸マグネシウムで乾燥した後にエバポレーターで濃縮し得られた黄褐色の生成物を60℃で真空乾燥させた。生成物をメタノールで3回洗浄した。60℃真空乾燥することで3,3”-dibromo-para-terphenylを黄色の固体として得た(3.01g、収率69%)。反応式は、下記のとおりである。
【0170】
【0171】
(製造例3)
300ml三ツ口フラスコに製造例2で得られた3,3”-dibromo-para-terphenyl(3.01g、7.76mmol)、3-chlorophenylboronic acid(12.7g、45.0mmol)、Na2CO3(3.29g、31.0mmol)、DMF(23ml)、純水(30ml)を加え、15分間N2パージした後にPalladium acetate(17.4mg、0.0776mmol)を加えた。油浴の温度を60℃に設定し、24時間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却しtoluene(100ml)、純水(50ml)を加えて溶液を薄めた。得られた生成物をセライトろ過し、濾液を分液ロートで二層に分けた後に水層中の有機層をtolueneで三回抽出し、得られた有機層をエバポレーターで濃縮した。ブライン洗浄をし、硫酸マグネシウムで乾燥した後にエバポレーターで濃縮し得られた灰色粉末を60℃で真空乾燥させた。生成物をメタノールで3回洗浄した後に60℃真空乾燥することで3,3’’’’-Dichloro-1,1’:3’,1’’:4’’,1’’’:3’’’,1’’’’-quinquephenylを白色の固体として得た(2.65g、収率75%)。反応式は、下記のとおりである。
【0172】
【0173】
(製造例4)
製造例1で合成したスルホンケトンオキシフェニレンオリゴマーとスルホフェニレンモノマーを用いた共重合体の合成を行った。仕込み値はIEC=3.5meq/gを目指した。リービッヒ冷却器とディーンスタックトラップを備え、窒素パージした三口フラスコ中へ、2,5-Dichlorobenzenesulfonic acid dihydrate(0.762g、2.90mmol)とスルホケトンオキシフェニレンオリゴマー(0.375g、0.0750mmol)、2,2’-bipyridine(2.98g、19.1mmol)、K2CO3(0.973g、0.954mmol)を加え、DMSO(36.7ml)へ溶解した。脱水操作のために、共沸剤として脱水toluene(10ml)を加えた。最初に170℃へと昇温させ2時間脱水を行った後、80℃へと温度を下げ、Ni(cod)2(5.00g、18.2mmol)を加え、Ullmannカップリング反応を開始させた。3時間反応後放冷し、メタノール中へと滴下した。得られた黒色固体を6M塩酸洗浄3回、純水洗浄3回行い、真空乾燥(80℃、12時間)することで黒色固体(1.27g、収率77.5%)を得た。得られた生成物のGPCから、分子量は、Mn=35.7kDa、Mw=605kDaであった。1H NMR測定、及び滴定によって求めたIEC値はそれぞれ、2.27、2.92であった。反応式は、下記のとおりである。
【0174】
【0175】
(製造例5)
製造例3で合成した3,3’’’’-Dichloro-1,1’:3’,1’’:4’’,1’’’:3’’’,1’’’’-quinquephenylとスルホフェニレンモノマーを用いた共重合体の合成を行った。仕込み値はIEC=3.1meq/gを目指した。リービッヒ冷却器とディーンスタックトラップを備え、窒素パージをした三口フラスコ中へ、Dichlorobenzenesulfonic acid dihydrate(1.11g、4.22mmol)、3,3’’’’-Dichloro-1,1’:3’,1’’:4’’,1’’’:3’’’,1’’’’-quinquephenyl(0.828g、1.83mmol)、2,2’-bipyridine(2.98g、19.1mmol)、K2CO3(0.642g、4.65mmol)を加え、DMSO(36mL)へ溶解させた。脱水操作のために共沸剤として脱水toluene(10mL)を加えた。最初に170℃へと昇温し、脱水操作を2時間行い、水とトルエンを除去後、80℃へと温度を下げ、Ni(cod)2(5.00g、18.2mmol)を加えてUllmannカップリング反応を開始した。3時間反応後放冷し、メタノール中へと滴下した。得られた黒色固体を6M塩酸洗浄3回、純水洗浄3回行い、真空乾燥(80℃、一晩)することで生成物を1.48g(収率108%)得た。得られた生成物のGPCから、分子量は、Mn=6.99kDa、Mw=109kDaであった。1H NMR測定、及び滴定によって求めたIEC値はそれぞれ、2.40、2.31であった。反応式は、下記のとおりである。
【0176】
【0177】
(製造例6)
製造例3で合成した3,3’’’’-Dichloro-1,1’:3’,1’’:4’’,1’’’:3’’’,1’’’’-quinquephenylとスルホフェニレンモノマーを用い、製造例3とIECの異なる共重合体の合成を行った。仕込み値はIEC=4.8meq/gを目指した。リービッヒ冷却器とディーンスタックトラップを備え、窒素パージをした三口フラスコ中へ、Dichlorobenzenesulfonic acid dihydrate(3.00g、13.2mmol)、3,3’’’’-Dichloro-1,1’:3’,1’’:4’’,1’’’:3’’’,1’’’’-quinquephenyl(0.800g、1.77mmol)、2,2’-bipyridine(6.00g、38.4mmol)、K2CO3(3.50g、25.4mmol)を加え、DMSO(110mL)へ溶解させた。脱水操作のために共沸剤として脱水toluene(17mL)を加えた。最初に160℃へと昇温し、脱水操作を2時間行い、水とトルエンを除去後、80℃へと温度を下げ、Ni(cod)2(10.0g、36.4mmol)を加えて85℃でUllmannカップリング反応を開始した。3時間反応後放冷し、メタノール中へと滴下した。得られた黒色固体を6M塩酸洗浄3回、純水洗浄3回行い、真空乾燥(50℃、一晩)することで生成物を2.2g(収率81%)得た。得られた生成物のGPCから、分子量は、Mn=10.8kDa、Mw=75.4kDaであった。1H NMR測定、及び滴定によって求めたIEC値はそれぞれ、4.0、3.9であった。
【0178】
(実施例1)
製造例4で得られた高分子電解質をDMSOに溶解し、80℃に加熱しながら攪拌し、電解質溶液を作製した。その後、
図9に示すように、以下の手順で補強電解質膜(電解質複合膜)を作製した。
(1)得られた電解質溶液をガラス基板上に滴下した。
(2)東レ株式会社製ポリエチレン系多孔質膜(SETELA、膜厚:9μm、空隙率:32%、細孔径:23nm)の両面を予め、1分間プラズマ処理した後、クリップで挟んで電解質溶液に両面を浸漬させた。浸漬時間は1~3分程度とした。電解質溶液が含浸したポリエチレン系多孔質膜をガラス基板上に皺にならないように広げた。
(3)その上にシリコーンシート(5cm×5cm、厚み1mm)を、気泡を追い出しながら5~10mm/s程度の速度で被覆した。
(4)被覆したシリコーンシートの上からガラス棒で10mm/s程度の速度で電解質溶液を広げた。
(5)室温~50℃で2~12時間乾燥させた。得られた膜をガラス基板及びシリコーンシートから剥がし、1M硫酸で処理、さらに純水で洗浄することにより、ポリエチレン多孔質膜で補強された電解質複合膜を得た。
【0179】
この方法により、膜厚の異なる補強電解質膜を5水準得た(13μm、15μm、24μm、26μm、28μm)。これら5水準のうち、膜厚が26μmのものについてプロトン伝導度を、膜厚が28μmのものについてガス透過性を測定した。また、膜厚が13μm、15μm、24μm、26μmのものについて引張試験を実施した。その結果を
図1、
図2、
図3にそれぞれ示した。
【0180】
(実施例2)
製造例4の電解質の代わりに製造例5の電解質を用いる以外は実施例1と同様にして、膜厚の異なる補強電解質膜を5水準得た(12μm、16μm、19μm、21μm、26μm)。これら5水準のうち、膜厚が21μmのものについてプロトン伝導度を、膜厚が16μmのものについてガス透過性を測定した。また、膜厚が12μm、16μm、19μm、26μmのものについて引張試験を実施した。その結果を
図4、
図5、
図6にそれぞれ示した。
【0181】
(実施例3)
製造例4の電解質の代わりに製造例6の電解質を用いる以外は実施例1と同様にして、膜厚の異なる補強電解質膜を5水準得た(14μm、17μm、21μm、23μm、32μm)。これら5水準のうち、膜厚が21μmのものについてプロトン伝導度を、膜厚が17μm、21μmのものについて引張試験を実施した。その結果を
図7、
図8にそれぞれ示した。
【0182】
(比較例1)
製造例4の電解質をDMSOに溶解し、そのまま製膜して非補強電解質膜を得た(膜厚20μm)。プロトン伝導度、ガス透過性、引張試験の結果を
図1、
図2、
図3にそれぞれ示した。
【0183】
(比較例2)
製造例5の電解質をDMSOに溶解し、そのまま製膜して非補強電解質膜を得た(膜厚29μm)。プロトン伝導度、ガス透過性、引張試験の結果を
図4、
図5、
図6にそれぞれ示した。
【0184】
(比較例3)
製造例6の電解質をDMSOに溶解し、そのまま製膜して非補強電解質膜を得た(膜厚 45μm)。プロトン伝導度、引張試験の結果を
図7、
図8にそれぞれ示した。
【0185】
(比較例4)
実施例1において、シリコーンシートで被覆することをせずに製膜したところ、電解質とポリエチレン系多孔質膜が分離してしまい、複合化した膜が得られなかった。
【0186】
図1、
図4、
図7から明らかなように、実施例1、2、3の電解質膜は、ポリエチレン系多孔質膜と複合化しているため、比較例1、2、3の電解質膜に比較してそれぞれ若干、プロトン伝導度が低くなっているものの、依然として高いレベルを保っている。
【0187】
図2、
図5から明らかなように、実施例1、2の電解質膜は、複合化されていない電解質膜と同等のガス透過性を示し、多孔質膜の細孔内に電解質が隙間なく充填された充実構造となっていることがわかる。
【0188】
図3、
図6、
図8からわかるように、実施例1、2、3の電解質膜は、比較例1、2、3の電解質膜に比較して破断強度は同等で破断伸度が改良されている。特に膜厚が薄いものほど改良効果が大きい。