(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】ホットスタンピングに使用される鋼、ホットスタンピング方法および成形された構成要素
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230427BHJP
C22C 38/12 20060101ALI20230427BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230427BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230427BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20230427BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/12
C22C38/58
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D9/46 P
(21)【出願番号】P 2020544088
(86)(22)【出願日】2018-10-29
(86)【国際出願番号】 CN2018112367
(87)【国際公開番号】W WO2019085855
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】201711063360.6
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520154944
【氏名又は名称】イージーフォーミング・スティール・テクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EASYFORMING STEEL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】ROOM 1‐8‐2, BUILDING 1, SHUANGFENG RD., YUBEI DISTRICT, CHONGQING 401120, CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】591037096
【氏名又は名称】フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホンリァン
(72)【発明者】
【氏名】ション,シャオチュアン
(72)【発明者】
【氏名】オピッツ,トビアス
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/182596(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131053(WO,A1)
【文献】特開2017-078188(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106906420(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104846274(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106399837(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106929755(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0238715(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/12
C22C 38/58
C21D 9/00
C21D 1/18
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットスタンピングに使用される鋼であって、
重量パーセントで以下の成分、すなわち、0.1%~0.19%のC、5.09%~9.5%のMn、0.25%~0.4%のV、0%~2%のSi+Al、0%~5%のCr、0%~0.2%のTi、0%~0.2%のNb、0%~0.2%のZr、0%~0.005%のB、0%~4%のNi、0%~2%のCu、0%~2%のMo、および0%~2%のWを含み、
残部が鉄および不可避の不純物からなることを特徴とする、ホットスタンピングに使用される鋼。
【請求項2】
C含量は、0.12%~0.17%の範囲であり、Mn含量は、5.09%~8%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンピングに使用される鋼。
【請求項3】
前記ホットスタンピングに使用される鋼は、その表面上にAl-Si被覆、亜鉛めっき被覆および高温酸化被覆を含む群から選択される被覆を備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載のホットスタンピングに使用される鋼。
【請求項4】
前記ホットスタンピングに使用される鋼の成分比は、以下の要件、すなわち、ホットスタンピング後の前記ホットスタンピングに使用される鋼のマルテンサイト変態開始温度の実測値が150℃~280℃であることを満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載のホットスタンピングに使用される鋼。
【請求項5】
ホットスタンピング方法であって、
工程A:請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ホットスタンピングに使用される鋼または前記ホットスタンピングに使用される鋼を予備成形することにより得られる予備成形された構成要素を700℃~890℃の範囲の温度に加熱し、該温度を0.1秒間~10000秒間維持する工程と、
工程B:前記工程Aで処理された前記ホットスタンピングに使用される鋼または前記予備成形された構成要素をスタンピング用ダイに移送して、成形された構成要素を得る工程と、
工程C:前記成形された構成要素を0.1℃/秒~1000℃/秒の平均冷却速度で冷却する工程と、を含むことを特徴とする、ホットスタンピング方法。
【請求項6】
前記工程Aにおいて、加熱温度の範囲は、740℃~850℃であることを特徴とする、請求項5に記載のホットスタンピング方法。
【請求項7】
前記工程Aにおいて、加熱温度の範囲は、740℃~780℃であることを特徴とする、請求項6に記載のホットスタンピング方法。
【請求項8】
工程Cにおいて、平均冷却速度は、1℃/秒から100℃/秒の間であることを特徴とする、請求項6に記載のホットスタンピング方法。
【請求項9】
前記成形された構成要素が、体積基準で以下の組織、すなわち、0.1%~5%のバナジウム炭化物または複合炭窒化物、2%~15%の残留オーステナイト、および、0%~10%のフェライト、を含み、
残部がマルテンサイトからなることを特徴とする、請求項5に記載のホットスタンピング方法。
【請求項10】
重量パーセントで以下の成分、すなわち、0.1%~0.19%のC、5.09%~9.5%のMn、0.25%~0.4%のV、0%~2%のSi+Al、0%~5%のCr、0%~0.2%のTi、0%~0.2%のNb、0%~0.2%のZr、0%~0.005%のB、0%~4%のNi、0%~2%のCu、0%~2%のMo、および0%~2%のWを含み、
残部が鉄および不純物からなり、
6%以上の伸びを有することを特徴とする、成形された構成要素。
【請求項11】
前記成形された構成要素は、体積基準で以下の組織、すなわち、
0.1%~5%のバナジウム炭化物または複合炭窒化物、2%~15%の残留オーステナイト、および、0%~10%のフェライト、を含み、
残部がマルテンサイトからなることを特徴とする、請求項10に記載の成形された構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンピング用の鋼、ホットスタンピング方法および成形された構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業の急速な発展により、安全性および環境汚染の問題が引き起こされている。安全性を確保することを前提に、車両の軽量化はエネルギー消費および排出を効果的に削減し、車両性能を向上させることができる。高強度鋼の利用は、部品の厚さを薄くし、安全性能の要件を満たし得るため、車両の軽量化およびより良い安全性のための主要な道筋である。
【0003】
一般的に言えば、鋼の強度が増すと鋼の成形特性は低下する。ホットスタンピングは、強化前に車両部品を成形することによって超高強度の車両部品を製造する方法であり、その際、強化機構はマルテンサイトの侵入型固溶体強化に基づく。ホットスタンプされた部品は超高強度および形状精度の利点を有し、冷間成形の間の高強度鋼のスプリングバックを効果的に回避することができる。自動車用の現在の高強度鋼のうち、ホットスタンプされた鋼またはプレス硬化鋼(PHS)のみが1500MPa以上の強度を有し得る。
【0004】
更なる減量を実現するためには、車両安全構造用構成要素は、使用される材料が上記現在のPHSの22MnB5と比較してより高い強度およびより優れた延性を有することを必要とする。特に、現在のホットスタンプされた構成要素は伸びが改善し得る。
【0005】
さらに、現在の被覆PHSは全てAl-Si被覆薄板であり、それらは耐食性能の点で亜鉛めっき薄板よりも能力が低く、溶接するのが難しい。亜鉛めっき薄板は上記ホットスタンピング方法で900℃に加熱すると激しく液化、ガス化、酸化され得ることから、亜鉛めっき薄板をホットスタンピングに適用するには制限が課される。
【0006】
中国特許出願公開第102127675号明細書は、鋼板、温間成形された部材およびその製造方法を提供する。開示された鋼の成分を用いて、望ましい機械的特性を得るために、該方法は、ホットスタンピング温度を下げた条件下で、材料を730℃~780℃の範囲の温度に加熱し、該材料をスタンプして、Ms点より30℃~150℃低い温度に冷却(すなわち、通常は150℃~280℃に冷却される)した後に、該材料を150℃~450℃の範囲の温度に更に加熱し、該温度を1分間~5分間維持して、マルテンサイトから残留オーステナイトへの炭素の分配により該材料を最終状態に安定化させることを含む。上記材料の伸びは、残留オーステナイトの変態誘発塑性(TRIP)効果に基づいて増加し得る。
【0007】
しかしながら、この方法では、上記成分を150℃~280℃の範囲の特定の温度に冷却した後に、150℃~450℃の範囲の温度に加熱して、該温度を維持しなければならないところ、上記温度精度および上記成分の均一性をほとんど制御することができず、その焼入れ温度を制御するのに複雑な製造方法が必要とされ、それは上記ホットスタンプされた構成要素の実際の製造には不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許出願公開第102127675号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ホットスタンピングに使用される鋼、ホットスタンピング方法および上記鋼から作製される成形された構成要素を提供することである。ホットスタンピングに使用される鋼を用いて単純なホットスタンピング方法によって高い伸びを達成することができる。上記成形された構成要素は、優れた降伏強さ、引張強さおよび伸びを有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の技術的解決策1は、重量パーセントで0.1%~0.19%のC、5.09%~9.5%のMn、0.11%~0.4%のVおよび0%~2%のSi+Alを含み、CおよびVの組合せが、以下の二つの要件、すなわち、1)0.1%~0.17%のCおよび0.11%~0.4%のV、ならびに2)0.171%~0.19%のCおよび0.209%~0.4%のV、の一方を満たす、ホットスタンピングに使用される鋼に関する。
【0011】
上記技術的解決策1によれば、上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼は、CおよびMn等のオーステナイト安定化元素を添加することにより、上記材料のマルテンサイト変態開始温度(Ms)およびマルテンサイト変態終了温度(Mf)を下げることで、焼入れ状態で妥当な量の残留オーステナイトを維持するために、確実に焼入れ温度をより低い温度(例えば、100℃未満)に設定することができる。したがって、上記焼入れ温度を室温に設定することができ、上記温度精度および均一性を制御することが容易であり、該方法は非常に簡単である。
【0012】
具体的には、焼入れおよび分配(Q&P)機構を利用する鋼では、初期焼入れ組織は、炭素が炭素分配過程の間にマルテンサイトから残留オーステナイトへと拡散することにより、残留オーステナイトの安定性が高められて材料特性が改善されるように、かなりの量の残留オーステナイトを「シード」として含むことが必要である。上記初期組織がかなりの量の残留オーステナイトを含むことを可能にするためには、上記焼入れ温度(QT)を、上記マルテンサイト変態開始温度(Ms)と上記マルテンサイト変態終了温度(Mf)との間に設定せねばならない。従来のQ&P鋼では、例えば、Msは500℃と等しくなるように設定され、Mfは150℃に等しくなるように設定される。そのような状況下では、上記QTは200℃~300℃の範囲の温度に設定される必要があり、それには焼入れのために塩、油または特殊な焼入れガスのような特定の焼入れ媒体が必要となる。それに対して、本発明では、Mfは室温よりも確実に低い。上記QTが室温または0℃~100℃の範囲の温度(媒体として水を用いる)に設定されても、上記材料特性を保証するために多量の残留オーステナイトを含有する組織を容易に得ることができる。
【0013】
さらに、上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼にはバナジウム(V)が添加され、オーステナイトからのバナジウム炭化物(VC)またはV、TiおよびNb等から形成される複合炭窒化物の析出はプロセスにより制御され得る。一方で、結晶粒は微細化され、他方で、バナジウム炭化物(VC)または上記複合炭窒化物の上記析出によりマトリックス中の上記C含量は消費され、それにより、ホットスタンピング状態でのマルテンサイト中の上記C含量は減少する。二つの機構、すなわち、結晶粒の微細化およびバナジウム炭化物(VC)または上記複合炭窒化物の析出による上記マトリックス中の上記C含量の減少により、ホットスタンピング後の上記材料の靭性が保証され、伸びが6%以上であることにより、遅延亀裂が回避され、溶接および組立ての要件が満たされる。0.1%~0.17%のCが存在する場合に、0.11%を超えるVは、上記の要件を満たすのに十分なバナジウム炭化物が析出することを確実にすることができ、0.171%~0.19%のCが存在する場合に、バナジウム炭化物の形成のためにより多くのVを添加する必要があり、上記マトリックス中の上記C含量を減少させるという目的を満たすためにはVは0.209%より高くする必要がある。
【0014】
上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼はまた、重量パーセントで以下の成分:0%~5%のCr、0%~0.2%のTi、0%~0.2%のNb、0%~0.2%のZr、0%~0.005%のB、0%~4%のNi、0%~2%のCu、0%~2%のMoおよび0%~2%のWの少なくとも一つを含み得る。
【0015】
上記C含量は、好ましくは0.12%~0.17%の範囲であり、Mn含量は、好ましくは5.09%~8%の範囲である。本発明者らは、上記C含量が0.11%である場合に1100MPaの上記降伏強さを実質的に達成することができるが、0.12%を超える上記C含量は、上記降伏強さが1100MPaより大きいことを更に確実にすることを見出している。他方で、上記C含量が0.19である場合に上記ホットスタンピングの間の脆性亀裂の危険性を実質的に回避することができるが、0.17%未満の上記C含量は、上記材料が上記ホットスタンピングにおいて良好な靭性を有することを更に確実にする。さらに、上記C含量が0.12%~0.17%となるように設定されると、5.09%~8%のMnで、焼入れ温度を室温に設定して部品の製造を最大限容易にするために適切なマルテンサイト変態開始温度を得ることができる。
【0016】
また、上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼は、その表面上にAl-Si被覆、亜鉛めっき被覆および高温酸化被覆を含む群から選択される被覆を備えていてもよい。上記亜鉛めっき被覆と鉄とが合金化されて、約780℃の最高の融点を有する。ホットスタンピングに使用される従来の鋼は、通常、900℃を超えるオーステナイト加熱温度を有する。上記ホットスタンピングの間に亜鉛は蒸発することがあり、亜鉛-鉄被覆は溶融することがあることから、結果として、液体亜鉛により誘起される脆化が生じ、上記ホットスタンピングに使用される鋼の強度および靭性が低下することがある。さらに、液体亜鉛は高温で激しく酸化され、上記表面の上記酸化亜鉛を除去して後続の塗装過程を保証するために、上記ホットスタンプされた構成要素を高コストのドライアイス処理またはショットブラスト処理にかけねばならない。好ましくは、上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼の上記完全オーステナイト化温度は780℃より低く、ホットスタンピングを650℃未満の温度で行うことができるため、亜鉛めっき薄板のホットスタンピング成形の要件が満たされる。
【0017】
好ましくは、上記ホットスタンピングに使用される鋼の成分比は、以下の要件、すなわち、ホットスタンピング後の上記ホットスタンピングに使用される鋼のマルテンサイト変態開始温度(Ms)の実測値が150℃~280℃であることを満たす。
【0018】
これにより、上記部品の製造を容易にするために、焼入れ温度が室温に設定され得ることを更に確実にすることができる。
【0019】
本発明の技術的解決策2は、ホットスタンピング方法であって、上記技術的解決策1に使用される鋼またはその予備成形された構成要素を700℃~890℃の範囲の温度に加熱し、該温度を0.1秒間~10000秒間維持する工程Aと、上記工程Aで処理された上記ホットスタンピングに使用される鋼またはその予備成形された構成要素をスタンピング用ダイに移送して、成形された構成要素を得る工程Bと、上記成形された構成要素を0.1℃/秒~1000℃/秒の平均冷却速度で冷却する工程Cとを含むことを特徴とするホットスタンピング方法に関する。
【0020】
工程Aにおいて、上記温度が700℃未満である場合にオーステナイト化が不十分に起こることがあり、0%~10%であるフェライトの要件を満たすことができず、他方で、上記温度が890℃を超える場合に、結晶粒成長ならびにバナジウム炭化物の溶解および成長が引き起こされ、その結果として性能が不十分となる。さらに、工程Cでの平均冷却速度を0.1℃/秒~1000℃/秒に設定することで、フェライト、パーライト、ベイナイトのような非マルテンサイト組織を避けることができ、こうして良好な硬化性を有する材料が得られる。
【0021】
好ましくは、工程Aでは、技術的解決策1の上記ホットスタンピングに使用される鋼またはその予備成形された部品は740℃~850℃の範囲の温度に加熱され、該温度に維持される。上記加熱温度が740℃を超えると、加熱にかかる時間はより短くなり、生産効率が増加し得る。上記温度が850℃未満である場合に、それはより良好な結晶粒制御およびバナジウム炭化物の析出に有益となる場合があり、好ましくは、上記温度維持時間は10秒間~800秒間続き、加熱時間が短いほど不均一かつ不安定な加熱が引き起こされる場合があり、加熱時間が長いほど生産効率が不十分となる場合がある。更に好ましくは、工程Aでは、技術的解決策1の上記ホットスタンピングに使用される鋼またはその予備成形された部品は740℃~780℃の範囲の温度に加熱され、該温度に維持される。上記加熱温度が780℃未満であると、ホットスタンピングの間の亜鉛めっき薄板の液化および酸化をより良く抑えることができる。
【0022】
より好ましくは、工程Cでは、上記平均冷却速度は1℃/秒から100℃/秒の間である。冷却速度が遅いほど冷却時間が長くなり、生産効率が不十分となるが、より高い冷却速度で上記ホットスタンピング方法を実施することは非常に困難である。
【0023】
本発明の技術的解決策3は、上記技術的解決策1のホットスタンピングに使用される鋼または上記ホットスタンピングに使用される鋼を予備成形することによって作製された予備成形された構成要素をホットスタンピングすることによって得られる成形された構成要素に関する。
【0024】
好ましくは、上記成形された構成要素は、体積基準で0.1%~5%のバナジウム炭化物または複合炭窒化物、2%~15%の残留オーステナイト、0%~10%のフェライト、残部のマルテンサイトを含む。
【0025】
上記本発明の技術的解決策3に従って得られる上記成形された構成要素は6%以上の伸びを有し、これは遅延亀裂および溶接亀裂の防止に関する要件を満たすことができる。
【0026】
好ましくは、上記成形された構成要素は140℃~220℃の範囲内の温度に加熱されて温度維持され、上記加熱および温度維持のための時間は1秒間~100000秒間である。
【0027】
好ましくは、上記成形された構成要素は車両構成要素として使用され、上記加熱および温度維持は、上記車両生産手順の塗料焼付けの間に5分間~30分間にわたって行われる。
【0028】
したがって、追加の熱処理過程を伴わずに、上記車両組立て手順の上記焼付け工程および被覆工程で炭素分配を実現することができ、上記被覆され焼付けられた材料は、衝突性能の要件を満たすように伸びおよび靭性の点で改善される。
【0029】
好ましくは、上記成形された構成要素は、上記加熱および温度維持の処理後に、体積基準で以下の組織、すなわち、0.1%~2%のバナジウム炭化物または複合炭窒化物、5%~25%の残留オーステナイト、0%~10%のフェライト、残部のマルテンサイトを含む。
【0030】
上記成形された構成要素は、上記加熱および温度維持の処理後に1100MPa以上の降伏強さ、1400MPa以上の引張強さ、および10%以上の伸びを有し、それらは衝突性能要件を満たすことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、鋼の上記成分を設定することにより、初期マルテンサイト中の上記C含量を低減し、焼入れされたマルテンサイトの脆性を低減または回避し、それにより、ホットスタンピング状態での上記構成要素の安定した性能及びおよび6%以上の伸びが確実となり、遅延亀裂が妨げられ、溶接組立てのための上記要件が満たされ、さらに、ホットスタンピング状態下の上記材料は、焼付け過程および塗装過程の後に、マルテンサイトから残留オーステナイトへの炭素分配と、一部のマルテンサイトのオーステナイトへの逆変態とが発生することから、最終的に5%を超える残留オーステナイト、安定した性能、1100MPa以上の降伏強さ、1400MPa以上の引張強さ、および10%以上の伸びを有する成形された構成要素が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【発明を実施するための形態】
【0033】
上記本発明の技術的解決策を実施形態を参照して説明する。
【0034】
本発明のホットスタンピングに使用される鋼は、重量パーセントで以下の成分:0.1%~0.19%のC、5.09%~9.5%のMn、0.11%~0.4%のV、および0%~2%のSi+Alを含む。上記ホットスタンピングに使用される鋼はまた、以下の成分:0%~5%のCr、0%~0.2%のTi、0%~0.2%のNb、0%~0.2%のZr、0%~0.005%のB、0%~4%のNi、0%~2%のCu、0%~2%のMoおよび0%~2%のWの少なくとも一つを含み得る。上記含量も重量パーセントにより計算される。上記ホットスタンピングに使用される鋼の成分比は、ホットスタンピング後の上記ホットスタンピングに使用される鋼のマルテンサイト変態開始温度(Ms)の実測値が150℃~280℃であるようにする。
【0035】
上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼の上記化学的成分は、上記の理由のために以下の通りに列記される。
【0036】
C:0.1%~0.19%
炭素は、侵入型固溶体によって鋼の上記強度を大きく高めることができる最も安価な強化元素である。そして上記炭素含量が増加すると、完全オーステナイト化温度(Ac3)が大幅に低下するため、加熱温度は低下し、エネルギーが節約される。炭素は上記マルテンサイト変態開始温度を大幅に下げ得るが、上記マルテンサイト変態開始温度が280℃以下である場合の合金設計の要件と、上記鋼の微細構造についての要件とを満たさねばならず、炭素は最も重要な侵入型固溶体強化元素であり、したがって、炭素含量の下限は0.1%である。しかしながら、過度に高い炭素含量は、鋼の上記機械的性能に大きく影響し、強度の大幅な増加を引き起こし、上記鋼の靭性を低下させるため、炭素の上限は0.19%であり、上記値よりも高い上記炭素含量は、ホットスタンピング状態下に鋼の脆性亀裂を引き起こすことがある。より好ましくは、上記C含量は0.12%~0.17%の範囲である。
【0037】
Mn:5.09%~9.5%
Mnは本発明における重要な元素である。Mnは良好な脱酸剤および脱硫剤である。Mnは上記オーステナイト領域を拡大し、上記Ac3温度を下げることができるオーステナイト安定化元素である。Mnは、オーステナイトからフェライトへの上記変態の抑制および鋼の硬化性の改善に良好な効果を有する。上記熱処理の間の上記加熱温度を下げるために、Mnの下限を5.09%に設定することで、上記マルテンサイト変態開始温度は確実に280℃以下となり、一方で、上記材料の上記完全オーステナイト化温度(Ac3)は780℃以下であることが保証されることで、ホットスタンピングによる上記亜鉛めっき薄板の成形が容易になる。Mnの添加量が多すぎると、焼入れ後の上記材料は脆いξマルテンサイトの形成をもたらす場合があるため、Mnの上限は9.5%である。より好ましくは、上記Mn含量は5.09%~8%の範囲である。
【0038】
V:0.11%~0.4%
バナジウムは強力な炭化物として析出する。バナジウム炭化物の析出により、結晶粒微細化および強度向上の効果が達成され得る。バナジウム炭化物は、オーステナイト化段階および上記ホットスタンピング段階の間にバナジウムから析出し、それは一方で当初のオーステナイト粒子を微細化し、他方で上記マトリックス中の上記炭素含量を減らし、それによりホットスタンピング後のマルテンサイト中の上記炭素含量は低い水準に保たれる。本発明は、バナジウム元素を添加し、バナジウム炭化物を析出させることにより、ホットスタンピング後のマルテンサイト中の上記炭素含量を制御し、こうして上記ホットスタンプされた材料の上記伸びおよび上記伸び安定性が保証される。0.11%未満のVは、明らかな効果を達成することができず、上記本発明の材料設計の要件を満たすことができない。しかしながら、バナジウム元素を多量に添加することにより、VCのサイズは増大し、鋼のコストが上昇する。ホットスタンピング後の初期鋼の安定的な伸びを保つために、上記V含量は0.4%以下であるものとする。
【0039】
Si+Al:0%~2%
SiおよびAlは両者とも炭化物の上記形成を抑えることができる。室温まで焼入れした後に上記鋼をAc1温度未満の温度範囲で維持すると、SiおよびAlは両者ともマルテンサイト中の炭化物の析出を抑え、炭素を残留オーステナイトに分配することで、オーステナイトの上記安定性が向上し、鋼の強度と伸びとの積が向上する。工業生産ではAlが多すぎると連続鋳造においてノズルを塞ぎ得ることから、連続鋳造の困難さが増し、Alは上記材料の上記マルテンサイト変態開始温度および完全オーステナイト化温度を高めることがあり、それは上記本発明の鋼の組織の温度制御の要件を満たさない。Si含量が高いと、鋼内により多くの不純物がもたらされる。本発明は140℃~220℃の範囲の低い温度での炭素分配を採用する。低い温度範囲では、セメンタイトの形成は抑制され、遷移炭化物の一部しか形成され得ないが、上記炭化物の一部は上記材料の上記靭性に大きな影響を与えない。SiおよびAlを多量に添加すると、遷移炭化物の生成は抑制され得ないため、本発明はSi+Alの添加に依存しない。本発明におけるSi+Alの上記含量は2%以下である。
【0040】
Cr:0%~5%
Crはまた、材料の硬化性を改善し、上記マルテンサイト変態開始温度を下げることができる元素である。したがって、鋼中のMnおよびCrの上記パーセンテージは、上記マルテンサイト変態開始温度および鋼中の上記炭素含量についての合金設計の要件に従って決定される。MnおよびCrは単独または両方のいずれかで添加される。好ましくは、Crはコストが高いため添加されない。
【0041】
Ti、Nb、Zr:0%~0.2%
Ti、NbおよびZrは、鋼の結晶粒を微細化し、鋼の上記強度を高め、上記鋼に良好な熱処理特性を与える。Ti、NbおよびZrの濃度が過度に低いと機能しないが、それらが0.2%を超えると不必要なコストが増加することとなる。上記本発明の鋼はCおよびMnの合理的な設計のため、1600MPaを超える強度および良好な伸びを得ることができるため、好ましくは、コスト削減のために余分なTi、NbおよびZrを添加する必要はない。
【0042】
B:0%~0.005%
オーステナイト粒界でのBの偏析は、フェライトの核生成を防ぎ、それは鋼の硬化性を大幅に改善し、上記熱処理後の鋼の上記強度を大幅に改善することができる。0.005%を超えるB含量は明らかな改善をもたらすことができない。本発明の鋼における高いMn含量の上記設計は高い硬化性を有するので、好ましくは、コスト削減のために余分なBを添加する必要はない。
【0043】
Ni:0%~4%;Cu:0%~2%
Niは鋼の強度を高め、鋼の良好な塑性および靭性を維持することができる。Niの濃度が4.0%を超えるとコストが増加する。Cuは強度および靭性、特に大気腐食抵抗を高めることができる。Cu含有量が2%を超えると加工性が低下することがあり、熱間圧延の間に液相が形成される結果、亀裂が発生することがある。高いCu含量は不必要なコストの増加を引き起こす場合もある。上記本発明の鋼はCおよびMnの合理的な設計のため、1600MPaを超える強度および良好な伸びを得ることができるので、好ましくは、コスト削減のために余分なNiおよびCuを添加する必要はない。
【0044】
MoおよびW:0%~2%
MoおよびWは鋼の上記硬化性を改善し、鋼の上記強度を効果的に高めることができる。さらに、高温成形法の間に上記鋼が上記ダイとのその不安定な接触のために十分に冷却されない場合でも、該鋼は、MoおよびWによりもたらされる硬化性の増加のため、依然として適切な強度を有し得る。MoおよびWが2%を超える場合に、追加の効果は達成され得ず、その代わりにコストが上昇する。本発明の鋼における高いMn含量の上記設計は、高い硬化性を有するので、好ましくは、コスト削減のために余分なMoおよびWを添加する必要はない。
【0045】
P、SおよびN等の不可避の不純物
一般に、Pは鋼中の有害な元素であり、鋼の冷間脆性を増加させ、溶接性を悪化させ、塑性を低下させ、冷間曲げ特性を低下させ得る。一般的に言うと、Sも有害な元素であり、鋼の高温脆性を引き起こし、鋼の上記伸びおよび溶接性を低下させ得る。Nは鋼中での不可避の元素である。Nは機能の点で炭素に類似しており、焼付け硬化において有益である。
【0046】
上記本発明のホットスタンピングに使用される鋼またはその予備成形された構成要素は、ホットスタンプされる。
【0047】
一実施形態では、上記ホットスタンピングに使用される鋼またはその予備成形された構成要素を、700℃~890℃の範囲の温度に加熱し、該温度を0.1秒間~10000秒間維持する(工程A)。上記実験で使用される方法では、上記加熱温度は750℃~840℃の範囲であり、上記温度を5分間維持する。
図1に示されるように、上記加熱温度は780℃であってよく、上記温度を5分間維持する。次いで、上記ホットスタンピングに使用される鋼またはその予備成形された構成要素をホットスタンピング用ダイへと移送し(工程B)、上記成形された構成要素を空気または他の手段によって0.1℃/秒~1000℃/秒の平均冷却速度で100℃未満の温度に冷却する(工程C)。或る期間の後に、上記処理された構成要素を、炭素分配処理のために140℃~220℃の温度範囲内で加熱し、該温度を1秒間~100000秒間維持した後に室温に冷却した。冷却媒体には、限定されるものではないが、空気、水、油およびダイ表面が含まれ得る。上記実験で使用される方法では、150℃~210℃の温度内で5分間~30分間にわたり上記加熱および温度維持を行う。
図1に示されるように、上記車両生産手順の塗料焼付けの間に上記加熱および温度維持を行うことができる。
【0048】
表1は、一実施形態で使用される鋼の成分を示す。上記鋼は以下の方法によって薄板にすることができる、すなわち、鋳造ブランクを1200℃の温度で3時間維持して、次に薄板ブランクへと鍛造し、該薄板ブランクを1200℃の温度で10時間維持してから均質化処理を行い、その表面の脱炭層を取り除くために研削し、その後に1200℃に加熱し、該温度を1時間維持してから、800℃~1200℃の範囲の温度で熱間圧延して、熱間圧延された薄板を形成する。熱間圧延して酸洗された薄板をフード型焼鈍を模擬するために600℃の温度で10時間維持して、冷間圧延のために上記熱間圧延された薄板の上記強度を低下させ、該熱間圧延して酸洗されて焼鈍された薄板を、例えば1.5mmの厚さになるまで冷間圧延して、工業的な冷間圧延した薄板の連続的焼鈍または被覆薄板の生産方法を模擬するために該冷間圧延した薄板を焼鈍して、ホットスタンピングに使用される鋼板を得る。
【0049】
上記表において、BTシリーズは上記本発明の鋼であり、CTシリーズは比較用の鋼であり、該CTシリーズの鋼の上記成分は本発明の範囲を逸脱している。
【0050】
表2は採用された上記方法を示し、表3は表1の上記鋼を表2に示される上記方法によって処理することによって得られる上記成形された構成要素の上記特性を示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
上記加熱および温度維持処理(焼付け処理)が行われていない上記成形された構成要素は、体積基準で以下の組織、すなわち、0.1%~5%のバナジウム炭化物または複合炭窒化物、2%~15%の残留オーステナイト、0%~10%のフェライト、残部のマルテンサイトを含む。表3の1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、2-1、2-2、2-3、2-4、3-1および4-1から分かるように、これらの成形された構成要素の全ては、6%を超える伸びを有する。
【0055】
上記加熱および温度維持が行われた上記成形された構成要素は、体積基準で以下の組織、すなわち、0.1%~2%のバナジウム炭化物または複合炭窒化物、5%~25%の残留オーステナイト、0%~10%のフェライト、残部のマルテンサイトを含む。表3の1-1-200、1-2-200、1-5-170、2-4-180、3-1-200および4-1-200から分かるように、これらの成形された構成要素の全ては、1100MPaを超える降伏強さ、1400MPaを超える引張強さ、および10%を超える伸びを有する。
【0056】
それに対して、熱処理方法に関係なく、上記比較例の上記鋼CT1、CT2、CT3は全て上記本発明の鋼の四つの特性、すなわち、ホットスタンピング状態下(炭素分配の前)での6%以上の伸び、1100MPa以上の降伏強さ、1400MPa以上の引張強さ、および炭素分配(例えば、塗料焼付け)後の10%以上の伸び、を満たすことができない。特に、CT1-1、CT1-2、CT2-1、CT2-2、CT3-1、CT3-2から分かるように、上記比較例の上記鋼CT1、CT2およびCT3は、炭素分配前に脆性亀裂を被る可能性が非常に高いが、一方で、上記本発明の鋼は、炭素分配の前に6%以上の伸びを有し、それは脆性亀裂を回避するのに有益であり、溶接組立てのための上記要件を満たすことができる。
【0057】
上記本発明の成形された構成要素は、限定されるものではないが、Bピラー補強材、バンパー、車両ドア衝突防止ビームおよびホイールスポークを含む陸上車両用の高強度構成要素として使用することができる。
【0058】
上記の実施形態および実験データは、本発明を例示的に説明することを目的している。当業者であれば、本発明がこれらの実施形態に限定されず、本発明の保護範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを理解するであろう。