(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】オーステナイト系耐熱鋳鋼および排気系部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230427BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2021532566
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2019027742
(87)【国際公開番号】W WO2021009807
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】505295684
【氏名又は名称】ヒノデホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593160002
【氏名又は名称】山形精密鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】戸渡 貴大
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 拓郎
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-167655(JP,A)
【文献】特開2002-194511(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052750(WO,A1)
【文献】特開2005-320606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C22C 30/00
F01N 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3から0.7質量%のC、1.2から1.8質量%のSi、0.6から1.4質量%のMn、0.05から0.25質量%のS、18.0から27.0質量%のCr、13.0から23.0質量%のNi、0.70から1.00質量%のNb、2.0から4.0質量%のW、0.1から0.4質量%のMo、0.1から0.3質量%のN、0.005から0.030質量%のTi、および、Feおよび不可避不純物である残部からなる、オーステナイト系耐熱鋳鋼。
【請求項2】
Tiの含有量は、0.008から0.018質量%である、請求項1に記載のオーステナイト系耐熱鋳鋼。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオーステナイト系耐熱鋳鋼で作られた排気系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、オーステナイト系耐熱鋳鋼および排気系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2000-291430号公報)には、高Cr高Niオーステナイト系耐熱鋳鋼製である、排気系部品が開示されている。特許文献1に開示された排気系部品において、高Cr高Niオーステナイト系耐熱鋳鋼は、質量比で、C:0.2~1.0%,Si:2%以下,Mn:2%以下,P:0.04%以下,S:0.05~0.25%,Cr:20~30%,Ni:16~30%,残部:Feおよび不可避不純物を含む組成からなる。また、特許文献1に開示された排気系部品において、高Cr高Niオーステナイト系耐熱鋳鋼は、質量比で、W:1~4%および/またはNb:1%を超え4%以下を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態の一態様は、0.3から0.7質量%のC、1.2から1.8質量%のSi、0.6から1.4質量%のMn、0.05から0.25質量%のS、18.0から27.0質量%のCr、13.0から23.0質量%のNi、0.70から1.00質量%のNb、2.0から4.0質量%のW、0.1から0.4質量%のMo、0.1から0.3質量%のN、0.005から0.030質量%のTi、および、Feおよび不可避不純物である残部からなる、オーステナイト系耐熱鋳鋼である。
【0005】
上記オーステナイト系耐熱鋳鋼によれば、Nbの含有量の上限を1.00質量%にすることでFe基地中に生成される炭化物量の減少を抑制するとともに、Tiの含有量を0.005から0.030質量%にすることでFe基地中にNbおよびCrの共晶炭化物を網目状に連続的に分布させることができる。このため、Fe基地中における炭化物同士のネットワークを強固にすることができる。したがって、高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。
【0006】
上記オーステナイト系耐熱鋳鋼において、Tiの含有量が0.005質量%を下回ると、Fe基地中にNbおよびCrの共晶炭化物を網目状に連続的に分布させにくくなるため好ましくない。Tiの含有量が0.030質量%を上回ると、Fe基地中における炭化物同士のネットワークが分断されやすくなるため好ましくない。また、Nbの含有量が0.70質量%を下回ると、Fe基地中に生成されるNb炭化物量が減少するため好ましくない。Nbの含有量が1.00質量%を上回ると、Nb炭化物量は増加するもののM23C6型炭化物量が減少することでトータルの炭化物量が減少するため好ましくない。
【0007】
上記オーステナイト系耐熱鋳鋼において、Tiの含有量は、0.008から0.018質量%であることが好ましい。
【0008】
本発明の実施形態の他の態様は、上記オーステナイト系耐熱鋳鋼で作られた排気系部品である。1000℃付近の排気ガスに曝される自動車の排気系部品の高温域における強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の実施例および比較例の組成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例および比較例に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼についての引張試験の結果を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、比較例1に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての観察結果を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、実施例2に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての観察結果を示す図である。
【
図3C】
図3Cは、実施例7に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての観察結果を示す図である。
【
図3D】
図3Dは、比較例3に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての観察結果を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、比較例1に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての分析結果を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、実施例2に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての分析結果を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、実施例7に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての分析結果を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、比較例3に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態であるオーステナイト系耐熱鋳鋼について説明する。なお、以下に示す実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.3から0.7質量%のC、1.2から1.8質量%のSi、0.6から1.4質量%のMn、0.05から0.25質量%のS、18.0から27.0質量%のCr、13.0から23.0質量%のNi、0.70から1.00質量%のNb、2.0から4.0質量%のW、0.1から0.4質量%のMo、0.1から0.3質量%のN、0.005から0.030質量%のTi、および、Feおよび不可避不純物である残部からなる。
【0012】
なお、本開示において、「オーステナイト系耐熱鋳鋼」は、主相としてオーステナイト相を含む耐熱鋳鋼を意味する。元素の「質量%」は、オーステナイト系耐熱鋳鋼の質量に対する元素の質量の百分率を意味する。「AからB質量%の元素」の表記は、元素の質量%がA%以上B%以下であることを意味する。「残部」は、オーステナイト系耐熱鋳鋼を構成する成分のうち、列挙された元素以外の成分を意味する。例えば、「・・・C、・・・Si、・・・Mn、・・・S、・・・Cr、・・・Ni、・・・Nb、・・・W、・・・Mo、・・・N、・・・Ti、および、Feおよび不可避不純物である残部からなる、オーステナイト系耐熱鋳鋼」は、オーステナイト系耐熱鋳鋼を構成する成分のうち、C、Si、Mn、S、Cr、Ni、Nb、W、Mo、N、およびTi以外の成分がFeおよび不可避不純物であることを意味する。
【0013】
(C:炭素)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.3から0.7質量%のCを含む。Cの含有量の下限が0.3質量%であるので、Fe基地の固溶強化および炭化物の析出強化によりオーステナイト系耐熱鋳鋼を高強度化することができる。さらに、オーステナイト相の液相線温度の上昇を抑制することによりオーステナイト系耐熱鋳鋼の鋳造性(溶湯の流動性)を向上させることができる。またCの含有量の上限が0.7質量%であるので、過剰な量の炭化物の生成を抑制することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼が塑性変形した際の亀裂の発生を低減することができる。
【0014】
(Si:ケイ素)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、1.2から1.8質量%のSiを含む。Siの含有量の下限が1.2質量%であるので、オーステナイト系耐熱鋳鋼の耐酸化性を向上させることができる。また、Siの含有量の上限が1.8質量%であるので、FeおよびCrの金属間化合物であるσ相(脆化相)の生成を低減することにより、高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の靱性を向上させることができる。
【0015】
(Mn:マンガン)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.6から1.4質量%のMnを含む。Mnの含有量の下限が0.6質量%であるので、Sと結合して硫化物を形成し、硫化物の潤滑作用により耐オーステナイト系耐熱鋳鋼の切削性を向上させることができる。また、Mnの含有量の上限が1.4質量%であるので、過剰な量の硫化物の生成を抑制することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の鋳肌表面における凹凸の発生を低減することができる。
【0016】
(S:硫黄)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.05から0.25質量%のSを含む。Sの含有量の下限が0.05質量%であるので、Mnと結合して硫化物を形成することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の切削性を向上させることができる。また、Sの含有量の上限が1.4質量%であるので、過剰な量の硫化物の析出を低減することにより、1000℃付近の高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。
【0017】
(Cr:クロム)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、18.0から27.0質量%のCrを含む。Crの含有量の下限が18.0質量%であるので、オーステナイト系耐熱鋳鋼の耐酸化性を向上させることができる。また、Crの含有量の上限が27.0質量%であるので、Cr炭化物とオーステナイト相との共晶界面において亀裂の伝搬経路となる脆化相の生成を低減することにより、高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。
【0018】
(Ni:ニッケル)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、13.0から23.0質量%のNiを含む。Niの含有量の下限が13.0質量%であるので、脆化相の生成を低減することにより高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。また、Niの含有量の上限が23.0質量%であるので、Fe基地中へのNi固溶量の減少に伴いC固溶量を増加させ、過剰な量のCr炭化物の晶出を低減することにより、高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。さらに、オーステナイト系耐熱鋳鋼を製造するための費用を低減することができる。
【0019】
(Nb:ニオブ)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.70から1.00質量%のNbを含む。Nbの含有量の下限が0.70質量%であるので、Nb炭窒化物の量を増加させることにより、高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。また、Nbの含有量の上限が1.00質量%であるので、主にCrやFeなどの金属元素MとCとから構成されるM23C6型炭化物量の減少を抑制することにより、Fe基地中におけるトータルの炭化物量の減少を抑制することができる。さらに、フェライト相および脆化相の生成を低減することにより高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。さらに、オーステナイト系耐熱鋳鋼を製造するための費用を低減することができる。
【0020】
(W:タングステン)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、2.0から4.0質量%のWを含む。Wの含有量の下限が2.0質量%であるので、Fe基地の固溶強化およびW炭化物の析出強化により高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。また、Wの含有量の上限が4.0質量%であるので、過剰な量のW炭化物の生成を抑制することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼が塑性変形した際の亀裂の発生を低減することができる。さらに、オーステナイト系耐熱鋳鋼を製造するための費用を低減することができる。
【0021】
(Mo:モリブデン)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.1から0.4質量%のMoを含む。Moの含有量の下限が0.1質量%であるので、Fe基地の固溶強化およびMo炭化物の析出強化により高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。また、Moの含有量の上限が0.4質量%であるので、過剰な量のMo炭化物の生成を抑制することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼が塑性変形した際の亀裂の発生を低減することができる。さらに、オーステナイト系耐熱鋳鋼を製造するための費用を低減することができる。
【0022】
(N:窒素)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.1から0.3質量%のNを含む。Nの含有量の下限が0.1質量%であるので、Fe基地の固溶強化およびNb炭窒化物の析出強化により高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。また、Nの含有量の上限が0.3質量%であるので、オーステナイト系耐熱鋳鋼を鋳造する際にピンホールやブローホール等のガス欠陥の発生を低減することができる。
【0023】
(Ti:チタン)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、0.005から0.030質量%のTiを含む。Tiの含有量の下限が0.005質量%であるので、Fe基地中にNbおよびCrの共晶炭化物を網目状に連続的に分布させることができる。また、Tiの含有量の上限が0.030質量%であるので、Fe基地中における炭化物同士のネットワークの分断を抑制することができる。このように、Tiの含有量を0.005から0.030質量%にすることにより、Fe基地中における炭化物同士のネットワークを強固にすることができる。したがって、高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。
【0024】
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼において、Tiの含有量の下限は、0.0065質量%であることが好ましく、0.008質量%であることがさらに好ましい。Fe基地中に網目状に分布するNbおよびCrの共晶炭化物の連続性を向上させることができる。さらに、Tiの含有量の上限は、0.026質量%であることが好ましく、0.022質量%であることがさらに好ましく、0.018質量%であることがさらに好ましい。Fe基地中における炭化物同士のネットワークを確実に維持することができる。
【0025】
(Fe:鉄、不可避不純物)
本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼における残部は、Feおよび不可避不純物である。残部に含まれるFeは、面心立方格子構造を有するγ鉄である。残部に含まれる不可避不純物としては、例えば、P(リン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、V(バナジウム)、Co(コバルト)、As(ヒ素)、Sn(スズ)、Ca(カルシウム)、B(ホウ素)、Pb(鉛)、Sb(アンチモン)、Zr(ジルコニウム)、Ce(セリウム)、Te(テルル)、La(ランタン)、Bi(ビスマス)、およびZn(亜鉛)等の元素が挙げられる。不可避不純物の含有量は、合計で1.0質量%以下であることが好ましく、合計で0.8質量%以下であることがさらに好ましく、合計で0.7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
このように、本実施形態によれば、Nbの含有量の上限を1.00質量%にすることでFe基地中に生成される炭化物量の減少を抑制するとともに、Tiの含有量を0.005から0.030質量%にすることでFe基地中にNbおよびCrの共晶炭化物を網目状に連続的に分布させることができる。このため、Fe基地中における炭化物同士のネットワークを強固にすることができる。したがって、1000℃付近の高温域におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の強度を向上させることができる。さらに、Nbの含有量の上限を1.00質量%に抑えつつ、Tiの添加量を微量(0.005から0.030質量%)に抑えることができるため、高温域における強度を向上させたオーステナイト系耐熱鋳鋼を安価に提供することができる。
【0027】
したがって、本実施形態のオーステナイト系耐熱鋳鋼を材料として使用することにより、高温域における強度を向上させた様々なオーステナイト系耐熱鋳鋼品を製造することができる。典型的なオーステナイト系耐熱鋳鋼品は、1000℃付近の排気ガスに曝される自動車の排気系部品である。排気系部品の一例は、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、およびウェイストゲートバルブ等である。
【0028】
(実施例)
図1に、本実施形態に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の実施例および比較例の組成を示す。実施例および比較例として、
図1に示す元素の組成(C、Si、Mn、S、Cr、Ni、Nb、W、Mo、N、およびTi)を含むオーステナイト系耐熱鋳鋼を製造した。なお、実施例および比較例において、
図1に示す元素以外の残部は、鉄および微量の不可避不純物である。
【0029】
図2に、実施例および比較例に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼についての引張試験の結果を示す。
図2における試験温度(℃)、引張強さ(MPa)および0.2%耐力(MPa)は、オーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片についてJIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に従って測定された値である。
【0030】
(実施例1~9と比較例1との対比)
図1に示すように、実施例1~9は、Tiの含有量の下限が0.005質量%である。一方、比較例1は、Tiを含まないものである。
図2に示すように、1000℃の試験温度において、実施例1~9の引張強さは、比較例1の引張強さよりも大きい。また、1000℃の試験温度において、実施例1~9の0.2%耐力は、比較例1の0.2%耐力よりも大きい。このように、Tiの含有量の下限が0.005質量%である場合には、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力を向上させることができることを確認することができた。
【0031】
(実施例1~9と比較例2および3との対比)
図1に示すように、実施例1~9は、Tiの含有量の上限が0.030質量%である。一方、比較例1は、0.030質量%を超えるTiを含む。
図2に示すように、1000℃の試験温度において、実施例1~9の引張強さは、比較例2または比較例3の引張強さよりも大きい。また、1000℃の試験温度において、実施例1~9の0.2%耐力は、比較例2または比較例3の0.2%耐力よりも大きい。このように、Tiの含有量の上限が0.030質量%である場合には、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力を向上させることができることを確認することができた。
【0032】
(実施例2~7と実施例1との対比)
図1に示すように、実施例2~7は、Tiの含有量の下限が0.008質量%である。一方、実施例1は、Tiの含有量が0.008質量%未満である。
図2に示すように、1000℃の試験温度において、実施例2~7の引張強さは、実施例1の引張強さよりも大きい。また、1000℃の試験温度において、実施例2~7の0.2%耐力は、実施例1の0.2%耐力よりも大きい。このように、Tiの含有量の下限が0.008質量%である場合には、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力をさらに向上させることができることを確認することができた。
【0033】
(実施例2~7と実施例6および7との対比)
図1に示すように、実施例2~7は、Tiの含有量の上限が0.018質量%である。一方、実施例6および7は、Tiの含有量が0.018質量%を超える。
図2に示すように、1000℃の試験温度において、実施例2~7の引張強さは、実施例6または実施例7の引張強さよりも大きい。また、1000℃の試験温度において、実施例2~7の0.2%耐力は、実施例6または実施例7の0.2%耐力よりも大きい。このように、Tiの含有量の上限が0.018質量%である場合には、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力をさらに向上させることができることを確認することができた。
【0034】
(オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織についての観察)
図3A、
図3B、
図3C、および
図3Dに、オーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての観察結果を示す。
図3A、
図3B、
図3C、および
図3Dは、それぞれ、比較例1、実施例2、実施例7、および比較例3に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のミクロ組織について、走査型電子顕微鏡により観察された結果を示す図である。
【0035】
比較例1は、Tiを含まないものである(
図1参照)。このため、
図3Aに示すように、比較例1においては、Fe基地中に生成する炭窒化物が分断され、非連続的に分布している。この結果、
図2に示すように、比較例1においては、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力を向上させることが困難となっている。
【0036】
実施例2は、Tiの含有量が0.008質量%であり、実施例7は、Tiの含有量が0.018質量%である(
図1参照)。このため、
図3Bおよび
図3Cに示すように、実施例2および実施例7においては、Fe基地中に生成する炭窒化物が網目状に連続的に分布している。この結果、
図2に示すように、実施例2および実施例7においては、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力を向上させることができている。
【0037】
比較例3は、Tiの含有量が0.130質量%である(
図1参照)。このため、
図3Dに示すように、Fe基地中に生成する炭窒化物の連続性が失われ、非連続的に分布している。この結果、
図2に示すように、比較例3においては、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力を向上させることが困難となっている。
【0038】
(オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織についての分析)
図4A、
図4B、
図4C、および
図4Dに、オーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織についての分析結果を示す。
図4A、
図4B、
図4C、および
図4Dは、それぞれ、比較例1、実施例2、実施例7、および比較例3に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のFe基地中におけるNb炭化物10およびCr炭化物20の分布状態について、EPMA(電子線マイクロアナライザ)により分析された結果を示す図である。
【0039】
比較例1は、Tiを含まないものである(
図1参照)。このため、
図4Aに示すように、比較例1においては、Fe基地中に生成するNb炭化物10とCr炭化物20とが分離して分布している。このため、炭化物同士のネットワークを形成することが困難となっている。
【0040】
実施例2は、Tiの含有量が0.008質量%であり、実施例7は、Tiの含有量が0.018質量%である(
図1参照)。このため、
図4Bおよび
図4Cに示すように、実施例2および実施例7においては、Fe基地中に生成するNb炭化物10とCr炭化物20とが、オーステナイト相の結晶粒界に沿って共存するように共晶炭化物として析出している。このため、NbおよびCrの共晶炭化物が網目状に連続的に分布することで、炭化物同士の強固なネットワークを形成することができている。
【0041】
比較例3は、Tiの含有量が0.130質量%である(
図1参照)。このため、
図4Dに示すように、NbおよびCrの共晶炭化物の連続性が失われ、非連続的に分布している。このため、炭化物同士のネットワークが分断されてしまっている。
【0042】
このように、オーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片の組織について分析した結果、Tiの含有量を0.005から0.030質量%にすることでFe基地中にNbおよびCrの共晶炭化物を網目状に連続的に分布させ、Fe基地中における炭化物同士のネットワークを強固にすることができることを確認することができた。この結果、
図2に示すように、実施例1~実施例9においては、1000℃の試験温度におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さおよび0.2%耐力を向上させることができている。
【符号の説明】
【0043】
10 Nb炭化物
20 Cr炭化物