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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】腫瘍治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/02 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
A61N1/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019015703
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020121017
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506286928
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪府立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】筒井 藍
(72)【発明者】
【氏名】山地 博之
(72)【発明者】
【氏名】岩松 正
(72)【発明者】
【氏名】今川 佑介
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-136485(JP,A)
【文献】特開2014-241232(JP,A)
【文献】特開2010-267492(JP,A)
【文献】特表2014-530046(JP,A)
【文献】特表2014-505553(JP,A)
【文献】特表2016-532490(JP,A)
【文献】特開2017-006348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N1/04-1/16
A61N1/40-4/44
A61N5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部上に配置された少なくとも1つの電子放出素子と、電源部とを備え、
前記電子放出素子は、下部電極と、前記下部電極に対向する表面電極と、前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層とを備え、
前記基部は、前記表面電極を気相を介して患部と対向させることができるように設けられ、
前記電源部は、前記下部電極と前記表面電極との間に電位差を生じさせるように設けられ、かつ、前記表面電極と前記患部との間に電位差を生じさせるように設けられたことを特徴とする腫瘍治療装置。
【請求項2】
前記基部は、スペーサ部を含み、
前記スペーサ部は、前記表面電極と前記患部との間にすき間が形成されるように設けられた請求項1に記載の腫瘍治療装置。
【請求項3】
前記スペーサ部は、前記電子放出素子を囲むように配置され、かつ、その一部が前記患部を有する生体に接触するように設けられた請求項2に記載の腫瘍治療装置。
【請求項4】
表面電極接続端子をさらに備え、
前記表面電極接続端子は、前記電子放出素子の端部において前記表面電極に接触するように設けられた請求項2又は3に記載の腫瘍治療装置。
【請求項5】
前記スペーサ部は、前記表面電極と前記患部との間隔が0.1mm以上3mm以下となるように設けられた請求項2~4のいずれか1つに記載の腫瘍治療装置。
【請求項6】
複数の前記電子放出素子は、前記基部上に並べて配置された請求項1~5のいずれか1つに記載の腫瘍治療装置。
【請求項7】
前記基部は、生体内部に挿入できるように設けられた細長い挿入部を含み、
前記電子放出素子は、前記挿入部の端部に配置された請求項1~6のいずれか1つに記載の腫瘍治療装置。
【請求項8】
前記電子放出素子は、電子放出領域を規定する開口を有する絶縁層を備え、
前記絶縁層は、前記下部電極と前記中間層との間又は前記中間層と前記表面電極との間に配置された請求項1~7のいずれか1つに記載の腫瘍治療装置。
【請求項9】
前記電源部は、前記表面電極と前記下部電極との間に電圧を印加するように設けられ、かつ、前記表面電極又は前記下部電極とグラウンドとの間に電圧を印加するように設けられ、かつ、前記患部を有する生体をグラウンドに接続するように設けられた請求項1~8のいずれか1つに記載の腫瘍治療装置。
【請求項10】
前記電源部は、前記下部電極と前記表面電極との間に8V以上18V以下の電圧を印加するように設けられた請求項1~9のいずれか1つに記載の腫瘍治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞は身体の細胞の一部が変異して生じ、増殖していく。また、がん細胞はリンパや血液の流れに侵入し身体のほかの部分に転移しやすい。
手術療法により体内のがん細胞をすべて取り除くと「がん」を完全に治すことができるが、細胞レベルのがん細胞は肉眼では見えず離れた部分に転移している場合もあるので、手術により病巣を取り除いてもがん細胞を体内に取り残す場合がある。がん細胞が体内に取り残された場合、このがん細胞が増殖し、「がん」が再発する場合がある。
【0003】
がん治療方法には、手術療法のほかに抗がん剤を用いる化学療法、放射線を照射してがん細胞を死滅させる放射線療法などがある。放射線はエネルギーの高い光である「光子線」と加速された粒子である「粒子線」に分けられる。粒子線は電気からできるエネルギーの流れで陽子線や重粒子線、電子線などがある。手術療法と化学療法や放射線療法を併用することにより、手術療法で取り残されたがん細胞を死滅させることも可能である。しかし、化学療法、特に細胞傷害性抗がん剤を用いた化学療法では、抗がん剤が健康な細胞にも悪影響を与えるため、様々な副作用があらわれる可能性がある。また、従来の放射線治療ではX線などの光子線が主に用いられるが、X線はからだの中を通り抜ける性質が強く、体内を通過する際にそのエネルギーをその通り道に与えて治療効果を発揮する。X線のエネルギーの分布は体表面から1~2センチメートル下の皮下組織で最も強くなり、その後次第に減衰していくが、からだの反対側に到達しても、約30~60%ものエネルギーが与えられる。そのため、病巣にある程度の放射線量を照射しようとすると、X線の通り道になる病巣の手前の正常組織には常に病巣よりも多い量の放射線が照射されるだけでなく、病巣部を通り過ぎた側にも放射線が照射されることになる。このため、X線による放射線治療を行う場合には、その副作用のため、がん細胞を完全に死滅させるほどの量を照射できないことも多くある。一方、最近では粒子線を用いたがんの放射線治療も行われている。粒子線はX線と異なり、からだの中をある程度進んだあと、急激に高いエネルギーを周囲に与え、そこで消滅する性質を持つ。その性質を利用すると病巣部周囲のみに高いエネルギーを与えることが可能で、通り道に与えるエネルギーを少なくすることができる。このことから、粒子線治療は、X線治療と比較してがん病巣部により高い量の放射線を照射することができるため、より高い治療効果を得ることが期待できる。しかしいずれの放射線療法においても放射線の持つ高いエネルギーの影響により正常な細胞が被爆し、人体に障害が現れる場合がある。
一方、培養液に非平衡大気圧プラズマを照射することにより製造した抗腫瘍水溶液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-169164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、抗腫瘍水溶液を用いて患部のがん細胞を死滅させようとすると、抗腫瘍水溶液が患部以外の部分にまで広がり抗腫瘍効果が減衰する可能性がある。また、患部以外の部分で抗腫瘍水溶液が正常な細胞にダメージを与えるおそれがある。
粒子線治療に用いられる陽子線や重粒子線、電子線などの粒子線は、加速器を用いて高エネルギーの粒子を生成する必要があり、大がかりな装置を用いる必要がある上に、高エネルギー放射線が周囲に与える影響を軽減するために、治療施設周囲を厚い壁で遮蔽するなどの対策が必要である。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、患部以外の部分の正常な細胞にダメージを与えることを抑制することができる小型で簡便な腫瘍治療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基部と、前記基部上に配置された少なくとも1つの電子放出素子と、電源部とを備え、前記電子放出素子は、下部電極と、前記下部電極に対向する表面電極と、前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層とを備え、前記基部は、前記表面電極を気相を介して患部と対向させることができるように設けられ、前記電源部は、前記下部電極と前記表面電極との間に電位差を生じさせるように設けられ、かつ、前記表面電極と前記患部との間に電位差を生じさせるように設けられたことを特徴とする腫瘍治療装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の腫瘍治療装置に含まれる電源部は、電子放出素子の下部電極と表面電極との間に電位差を生じさせるように設けられるため、下部電極と表面電極との間の中間層に電流を流すことができ、表面電極から気相に電子を放出することができる。
前記電源部は、表面電極と患部との間に電位差を生じさせるように設けられ、基部は、表面電極を気相を介して患部と対向させることができるように設けられるため、表面電極から放出させた電子により気相成分から陰イオン、ラジカルを発生させることができ、この陰イオン、ラジカルおよび表面電極より放出された電子を表面電極と対向する患部に連続的に供給することができる。このため、患部に供給された陰イオン、ラジカルやこれらから生成される活性種および表面電極より放出された電子により患部のがん細胞を特異的に死滅させることができる。このことは、本発明者等が行った実験により明らかになった。
また、本発明の腫瘍治療装置を用いると、表面電極と対向する患部にだけ陰イオンやラジカルおよび表面電極より放出された電子を供給することができるため、患部以外の部分の正常な細胞にダメージを与えることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の腫瘍治療装置の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態の腫瘍治療装置の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態の腫瘍治療装置の概略平面図である。
図4図3の破線A-Aにおける腫瘍治療装置の概略断面図である。
図5】本発明の一実施形態の腫瘍治療装置の概略図である。
図6】細胞刺激実験で用いた細胞刺激装置の概略斜視図及び概略断面図である。
図7】細胞刺激実験の結果を示す細胞の写真である。
図8】細胞刺激実験の結果を示すグラフである。
図9】細胞刺激実験において電子放出処理時間を変化させたときの各種細胞の細胞密度比の変化を示すグラフである。
図10】メカニズム分析実験における各活性種の分析結果を示すグラフである。
図11】メカニズム分析実験におけるH22の分析結果を示すグラフである。
図12】メカニズム分析実験における細胞の写真である。
図13】メカニズム分析実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の腫瘍治療装置は、基部と、前記基部上に配置された少なくとも1つの電子放出素子と、電源部とを備え、前記電子放出素子は、下部電極と、前記下部電極に対向する表面電極と、前記下部電極と前記表面電極との間に配置された中間層とを備え、前記基部は、前記表面電極を気相を介して患部と対向させることができるように設けられ、前記電源部は、前記下部電極と前記表面電極との間に電位差を生じさせるように設けられ、かつ、前記表面電極と前記患部との間に電位差を生じさせるように設けられたことを特徴とする。
【0010】
本発明の腫瘍治療装置に含まれる基部はスペーサ部を含むことが好ましく、スペーサ部は表面電極と患部との間にすき間が形成されるように設けられることが好ましい。このことにより、患部と電子放出素子との間に気相を介在させることができる。また、患部と電子放出素子とが接触することを抑制することができる。さらに、患部と電子放出素子との間隔が大きくなりすぎることを抑制することができる。
前記スペーサ部は、表面電極と患部との間隔が0.1mm以上3mm以下となるように設けられることが好ましい。このことにより、電子放出素子が電子を放出することにより気相に生成する陰イオンやラジカルを効率よく患部に供給することができる。
【0011】
複数の電子放出素子が基部上に並べて配置されることが好ましい。このことにより、患部の形状に合わせて複数の電子放出素子の電子放出領域を組み合わせることができ、患部にだけ電子放出処理を施すことができるため、患部以外の正常な細胞が陰イオンやラジカルなどによりダメージを受けることを抑制することができる。また、電子放出素子の一部を覆うことにより電子の放出を妨げることによっても、患部以外の正常な細胞が陰イオンやラジカルなどによりダメージを受けることを抑制することができる。
本発明の腫瘍治療装置を体表面に用いるためには広範囲に電子放出素子を配置することが好ましいが、本発明の腫瘍治療装置を生体内部に用いるためには、基部が電子放出素子を生体内部に挿入できるように設けられた細長い挿入部を含むことが好ましく、電子放出素子は挿入部の端部に配置されることが好ましい。このことにより、挿入部と共に電子放出素子を生体内部に挿入することが可能になり、電子放出素子の表面電極を気相を介して生体内部の患部と対向させることができる。このため、生体内部の患部に対し電子放出処理を施すことができ、がん細胞を特異的に死滅させることができる。
【0012】
前記電子放出素子は、電子放出領域を規定する開口を有する絶縁層を備えることが好ましく、絶縁層は、下部電極と中間層との間又は中間層と表面電極との間に配置されることが好ましい。このことにより、中間層に局所的に電流が流れる電流集中が生じることを抑制することができる。
前記電源部は、下部電極と表面電極との間に8V以上18V以下の電圧を印加するように設けられることが好ましい。この電源部により電圧を印加することにより、患部に過酸化水素などの活性酸素を生じさせることができ、がん細胞を死滅させることができる。
【0013】
以下、複数の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0014】
第1実施形態
図1図2は本実施形態の腫瘍治療装置の概略断面図である。
本実施形態の腫瘍治療装置40は、基部2と、基部2上に配置された少なくとも1つの電子放出素子3と、電源部9とを備え、電子放出素子3は、下部電極4と、下部電極4に対向する表面電極6と、下部電極4と表面電極6との間に配置された中間層5とを備え、基部2は、表面電極6を気相10を介して患部14と対向させることができるように設けられ、電源部9は、下部電極4と表面電極6との間に電位差を生じさせるように設けられ、かつ、表面電極6と患部14との間に電位差を生じさせるように設けられたことを特徴とする。
【0015】
腫瘍治療装置40は、電子放出素子3を用いてがん細胞を含む患部14に向けて電子を放出することにより腫瘍(悪性腫瘍)を治療するための装置である。
腫瘍治療装置40の治療対象となる腫瘍は、患部14に向けて電子を放出することができれば特に限定されないが、例えば、皮膚がん、舌がん、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮体がんなどである。
患部14は、がんの病巣であってもよく、転移の可能性がある病巣の周辺組織やリンパ節などであってもよい。また、患部14は、手術療法により病巣を取り除いた後の病巣の周辺組織であってもよい。また、患部14は、体表面の患部(例えば、皮膚がん、乳がんなど)であってもよく、体内の患部(例えば、胃がん、大腸がん、肺がんなど)であってもよい。
【0016】
電子放出素子3は、表面電極6から気相10に電子を放出する素子である。
電子放出素子3は、下部電極4と、下部電極4に対向する表面電極6と、下部電極4と表面電極6との間に配置された中間層5とを備える。また、電子放出素子3は、電子放出領域8を規定する開口12を有する絶縁層7を備えることができる。絶縁層7は、下部電極4と中間層5との間又は中間層5と表面電極6との間に配置される。
電子放出素子3は、200μm以上2mm以下の厚さを有することができる。また、電子放出素子3の形状は、方形であってもよく円形であってもよい。
【0017】
表面電極6は、電子放出素子3の表面に位置する電極である。表面電極6は、5nm以上100nm以下、好ましくは40nm以上100nm以下の厚さを有することができる。また、表面電極6の材質は、例えば、金、白金である。また、表面電極6は、複数の金属層から構成されてもよい。
表面電極6は、40nm以上の厚さを有する場合であっても、複数の開口、すき間、10nm以下の厚さに薄くなった部分を有してもよい。中間層5を流れた電子がこの開口、すき間、薄くなった部分を通過又は透過することができ、表面電極6の電子放出領域8から電子を気相10に放出することができる。このような開口、すき間、薄くなった部分は、下部電極4と表面電極6との間に電圧を印加すること(フォーミング処理、初期電圧印加)により形成することができる。
【0018】
下部電極4は、中間層5を介して表面電極6と対向する電極である。下部電極4は、金属板であってもよく、絶縁性基板上に形成した金属層又は導電体層であってもよい。また、下部電極4が金属板からなる場合、この金属板は電子放出素子3の基板であってもよい。下部電極4の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどである。下部電極4の厚さは、例えば200μm以上2mm以下である。
【0019】
中間層5は、電源部9を用いて生じさせた表面電極6と下部電極4と間の電界により電流が流れる層である。中間層5は、半導電性を有することができる。中間層5は、絶縁性樹脂、導電性樹脂、絶縁性微粒子のうち少なくとも1つを含むことができる。また、中間層5は導電性微粒子を含むことが好ましい。中間層5の厚さは、例えば、1μm以上3μm以下とすることができる。中間層5を流れた電子が表面電極6の電子放出領域8から気相10に放出されるため、電子放出素子3は、電子放出領域8から電子を面放出することができる。このため、表面電極6の電子放出領域8上の気相10に電子を一様に放出することができる。この電子により気相成分を帯電させる又は分解することができ、陰イオンやラジカルを気相10に発生させることができる。
【0020】
開口12を有する絶縁層7が下部電極4と中間層5との間又は中間層5と表面電極6との間に配置される。絶縁層7は、電子放出領域8を定めるための層である。絶縁層7を用いて電子放出領域8を定めることにより、中間層5に局所的に電流が流れる電流集中が生じることを抑制することができる。
下部電極4と表面電極6との間に絶縁層7が配置されている領域では、絶縁層7に電流が流れないため、電源部9を用いて下部電極4と表面電極6とに電位差を生じさせたとしても中間層5にも電流が流れない。このため、この領域では、電子が放出されず、電子放出領域8とはならない。一方、開口12が配置された領域では、下部電極4と表面電極6との間に絶縁層7が配置されていないため、電源部9を用いて下部電極4と表面電極6とに電位差を生じさせると、中間層5に電流が流れ、表面電極6から電子が気相10に放出される。このため、この領域は電子放出領域8となる。
このように絶縁層7に設けた開口12により電子放出領域8を定めることができ、開口12の位置と電子放出領域8は実質的に一致する。開口12の形状は、方形であってもよく、円形であってもよい。
【0021】
絶縁層7は、電気的に絶縁性を有すればよく、絶縁層7の材料は、例えば、金属酸化物・金属窒化物などの無機材料、またはシリコーン系樹脂、フェノール系樹脂などの有機材料を使用できる。
表面電極6と表面電極接続端子24との接触点は、絶縁層7上に配置することができる。このことにより、接触点直下の中間層5に電流が流れることを抑制することができ、接触点において表面電極6が電極破壊することを抑制することができる。
【0022】
電子放出素子3は、基部2上に配置される。基部2は、電子放出素子3を支持する部分であり、腫瘍治療装置40の基礎となる部分である。基部2は、電子放出素子3の取り扱い、電子放出素子3と電源部9とを接続する配線の設置などに利用される。基部2は、1つの部材から構成されてもよく、複数の部材から構成されてもよい。例えば、図1に示した腫瘍治療装置40では、基部は、絶縁性部材21とカバー22とを含む。
【0023】
基部2は、表面電極6を気相10を介して患部14と対向させることができるように設けられる。例えば、図1に示したように、基部2を患部14の周辺部に接触させて、表面電極6が気相10を挟んで患部14に対向するように電子放出素子3を配置することができる。このことにより、電子放出素子3が気相10に電子を放出することにより、気相10に形成される陰イオン、ラジカルを患部14に供給することが可能になる。
【0024】
基部2は、表面電極6と患部14との間にすき間が形成されるように設けられたスペーサ部18を有することができる。このことにより、患部14と電子放出素子3とが接触することを抑制することができる。また、患部14と電子放出素子3との間隔が大きくなりすぎることを抑制することができる。
スペーサ部18は、電子放出素子3を囲むように配置することができる。また、スペーサ部18は、スペーサ部18の一部が患部14を有する生体15に接触するように設けることができる。このようなスペーサ部18を設けることにより、表面電極6と患部14との間にすき間が形成することができる。例えば、基部2は、例えば、電子放出素子3を取り付ける平板部と、平板部を囲む周壁のように設けられたスペーサ部18とを有することができる。
スペーサ部18は、例えば、表面電極6と患部14との間隔が0.1mm以上3mm以下となるように設けることができる。このことにより、気相10に形成される陰イオンを患部14に効率よく供給することが可能になる。スペーサ部18で患部14の周りの生体15を押さえると患部14が少し盛り上がる可能性があるため、患部14が盛り上がった場合は、表面電極6と患部14との間隔は、患部14の一番高い部分から表面電極6までの距離とすることができる。
スペーサ部18は、例えば、図1図2に示したようにカバー22の一部であってもよい。
【0025】
電源部9は、下部電極4と表面電極6との間に電位差を生じさせ、表面電極6と患部14との間に電位差を生じさせるための電源部9である。この電源部9により電圧を印加することにより、患部14に陰イオンやラジカルを供給する電子放出処理を行うことができる。
電源部9は、1つの装置から構成されてもよく、複数の装置から構成されてもよい。例えば、図1図2に示した腫瘍治療装置40のように、電源部9は、電源部9aと電源部9bを有することができる。
【0026】
電源部9aは、一方の端子が下部電極接続端子25a、25bを介して電子放出素子3の下部電極4と接続し、他方の端子が表面電極接続端子24を介して表面電極6と接続するように設けることができる。この電源部9aにより電子放出素子3に電圧を印加することにより、表面電極6と下部電極4との間に電界を生じさせることができ、中間層5に電流を流すことができる。中間層5を流れた電子の一部が、表面電極6から気相10に放出され、気相成分を帯電させ又は分解し、気相10に酸素イオンなどの陰イオン、ラジカルなどを生じさせる。電源部9aは、電流が表面電極6から下部電極4に向けて中間層5を流れる(電子は下部電極4から表面電極6に向けて中間層5を流れる)ように表面電極6と下部電極4との間に電圧を印加することができる。
表面電極接続端子24は、電子放出素子3の端部において表面電極6に接触するように設けることができる。また、スペーサ部18は、患部14を含む生体15と表面電極接続端子24との間に配置することができる。このことにより、表面電極接続端子24が患部14又は生体15に接触することを抑制することできる。例えば、図2に示した腫瘍治療装置40のようにスペーサ部18を設けることができる。
電源部9aは、例えば、下部電極4と表面電極6との間に16.5V以上18V以下の電圧を印加することができる。このことにより、酸素イオン、酸素ラジカルなどを気相10に発生させることができる。
また、電源部9aは、PWM回路を含むことができる。このPWM回路により、下部電極4と表面電極6との間に供給する電力を調整することができる。
【0027】
電源部9bは、一方の端子が表面電極6又は下部電極4と接続し、他方の端子が生体15又はグラウンドと接続するように設けることができる。電源部9bの端子がグラウンドと接続する場合、患部14を有する生体15はグラウンドと接続することができる。例えば、バンドなどで生体15にアース線を取り付けてもよく、アース線に接続した導体を生体15が握っていてもよい。生体15をグラウンドと接続することにより、腫瘍治療装置40の安全性を向上させることができる。
電源部9bを用いて電圧を印加することにより、表面電極6と患部14との間に電界を生じさせることができ、この電界により気相10に生じさせた陰イオンおよび電子を患部14に連続的に供給することができる。また、陰イオンと共にラジカルも患部14に連続的に供給されると考えられる。さらに患部14に供給された陰イオン又はラジカルは、患部14の成分(例えば、H2O)と反応し、患部14に活性種(例えばH2O2)を生じさせる。このようにして、腫瘍治療装置40を用いて患部14に対し電子放出処理を施すことができる。
電源部9bにより電子放出素子3と生体5又はグラウンドとの間に印加する電圧は、電源部9aが表面電極6と下部電極4との間に印加する電圧よりも大きい電圧とすることができる。この場合、最初に電源部9bにより電子放出素子3と生体5又はグラウンドとの間に電源部9aと同程度の電圧を印加し、電源部9bの印加電圧を徐々に上昇させることができる。
【0028】
患部14に供給された陰イオン、ラジカル又は患部14に生じた活性種により、患部14のがん細胞を特異的に死滅させることができる。このことは、本願発明者等が行った実験により明らかになった。また、本願発明者等が行った実験により、がん細胞の特異的な細胞死にH2O2が関与していることが明らかになった。
【0029】
電子放出素子3の表面電極6(電子放出領域8)から放出させた電子により気相10に生成される陰イオンは、電子放出素子3と患部14との間の電界により患部14へと移動するため、表面電極6と対向する患部14にだけ電子放出処理を施すことができる。このため、患部14以外の部分の正常な細胞にダメージを与えることを抑制することができる。
また、腫瘍治療装置40を用いて患部14に対し電子放出処理を施す時間は、例えば、3分間以上90分間以下とすることができる。このことにより、がん細胞の多くを死滅させることが可能になる。
【0030】
第2実施形態
図3は本実施形態の腫瘍治療装置40の概略平面図であり、図4図3の破線A-Aにおける腫瘍治療装置40の概略断面図である。
本実施形態の腫瘍治療装置40は、複数の電子放出素子3を備える。この複数の電子放出素子3は、基部2上に並べて配置される。このため、複数の電子放出素子3の電子放出領域8を組み合わせることができ、より広い患部14に電子放出処理を施すことができ、がん細胞を特異的に死滅させることができる。
【0031】
本実施形態の腫瘍治療装置40では、患部14の形状に合わせて複数の電子放出素子3を並べて配置することができる。このため、患部14にだけ電子放出処理を施すことができ、患部14以外の正常な細胞が陰イオンやラジカルなどによりダメージを受けることを抑制することができる。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。第1実施形態についての記載は、矛盾がない限り第2実施形態について当てはまる。
【0032】
第3実施形態
図5(a)(b)は本実施形態の腫瘍治療装置40の概略図である。
本実施形態の腫瘍治療装置40では、基部2は、生体内部に挿入できるように設けられた細長い挿入部23を含む。また、電子放出素子3は、挿入部23の端部に配置される。このことにより、挿入部23と共に電子放出素子3を生体内部に挿入することが可能になり、電子放出素子3の表面電極6を気相10を介して生体内部の患部14と対向させることができる。このため、生体内部の患部14に対し電子放出処理を施すことができ、がん細胞を特異的に死滅させることができる。
挿入部23は、例えば、手術器具、カテーテルなどである。
例えば、図5(b)に示したように、電子放出素子3をカメラ43、鉗子44等を備えた内視鏡42に取り付けて、内視鏡42を電子放出素子3と共に生体内部に挿入して患部14に対し電子放出処理を施してもよい。また、多くの手を有する手術支援ロボットに図5(a)に示したような腫瘍治療装置40を取り付けてもよい。
その他の構成は、第1又は第2実施形態と同様である。第1又は第2実施形態についての記載は、矛盾がない限り第3実施形態について当てはまる。
【0033】
第1細胞刺激実験
図6(a)(b)に示したような細胞刺激装置50を用いて、培地35で培養する細胞36に対し電子放出処理を施し、細胞36を刺激する実験を行った。細胞刺激装置50は、本発明の腫瘍治療装置40と基本的な構造は同じであるが、患部14の代わりに培地35中の細胞36に対し電子放出処理を施すように設けられている。また、細胞刺激装置50は、培地35をグラウンドと接続するための電荷回収電極26を備えている。また、実験では、図6(a)に示したような2つの電子放出領域8(絶縁層7の開口12)を有する電子放出素子3を備える細胞刺激装置50を用いた。
【0034】
第1細胞刺激実験では、がん細胞株である、マウスメラノーマ細胞(B16F1細胞)、ヒト肺がん細胞(NCI-H460細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(HeLa細胞)、ヒト大腸がん細胞(HT-29細胞)の各種細胞に対して電子放出処理を施した。また、第1細胞刺激実験では、正常細胞である、初代培養マウス胎仔線維芽細胞(Primary MEF細胞)、マウス大動脈平滑筋細胞(mVSMC細胞)の各種細胞についても行った。
【0035】
まず、上記の6種類の細胞の細胞培養をそれぞれ行った。培地にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又はRPMI1640培地を用いた。
細胞培養した後、各種細胞について、0.25%トリプシン/EDTAを用いて剥離させ、細胞計数、希釈を行い、細胞懸濁液を調製した。そして、各種細胞懸濁液をウェルプレートに播種し、播種した細胞を24時間培養した。その後、ウェルプレートに図6に示したような細胞刺激装置50を装着し、ウェル内の細胞に対し60分間電子放出処理を施した。電子放出処理では、下部電極と表面電極との間に印加する電圧Vdが16.5Vとなり、下部電極と表面電極との間に流れる電流Idが5μAとなり、グラウンドと表面電極との間に印加する電圧Veが120Vとなるように電源部を調整した(電荷回収電極はグラウンドに接続する)。
【0036】
その後、ウェル中の培地を除去し、平衡塩溶液を用いて洗浄してウェル内の剥離した細胞を除去した。そして、ウェル内にクリスタルバイオレット染色液を加えることにより、接着している細胞の固定及び染色を行った。染色後、洗浄することにより余分な染色液を除去し、ウェルの撮影を行った。
各種細胞のウェルの写真を図7に示す。また、比較のために、電子放出処理を施していないこと以外は同じ方法で培養、固定、染色した細胞の比較ウェル(未処理)の写真も図7に示す。さらに、電子放出領域直下の領域37、比較領域38及び電荷回収電極が接触する領域39の位置を示した図も図7に示す。
【0037】
さらに、撮影した写真から、電子放出領域直下の領域(照射領域)37の色の濃さを測定し細胞の密度を数値化した。また、電子放出領域直下の領域37から離れた比較領域38の色の濃さも測定し細胞の密度を数値化した。さらに、領域37、38の細胞密度を、上記比較ウェル(未処理)の写真から算出した細胞の密度で割ることにより、細胞密度比を算出した。算出した細胞密度比を図8に示す。
【0038】
図7に示した円形のウェルの色が濃い部分は染色された細胞が存在している領域である。ウェル内の部分的に色が薄くなっている部分は、電子放出処理により細胞死が起こり、細胞が剥がれて細胞密度が低下している領域である。色の濃さが細胞の密度に比例している。
がん細胞のウェルの写真の四角に色が薄くなっている部分は、電子放出領域の直下の領域(照射領域)37とほぼ重なる。この照射領域37では、図8に示したように細胞密度が低下している。この細胞密度の低下は細胞の種類により異なっており、HeLa細胞において細胞密度の低下が顕著に観察され、ついでNCI-H460細胞、B16F1細胞の順で細胞密度の低下が大きかった。HT-29細胞においては細胞密度の低下は小さかった。
一方、比較領域38では、細胞密度比が0.8~1.0であり細胞密度の低下はほとんどなかった。このため、電子放出処理により、照射領域37のがん細胞を選択的に死滅させることができることがわかった。
また、各種正常細胞のウェルでは、照射領域37において染色された細胞が若干少なくなっているが、がん細胞と比較して細胞密度の低下はわずかだった。このため、電子放出処理により、がん細胞を特異的に死滅させることができることが示唆された。
【0039】
第2細胞刺激実験
第2細胞刺激実験では、がん細胞である、マウスメラノーマ細胞(B16F1細胞)、ヒト肺がん細胞(NCI-H460細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(HeLa細胞)、ヒト大腸がん細胞(HT-29細胞)の各種細胞に対して電子放出処理を施した。また、電子放出処理を施す時間を15分間、30分間、60分間又は90分間とした。電子放出処理を施す時間を変えたこと以外は、第1細胞刺激実験と同様の方法で実験を行った。図9は、電子放出処理を施す時間を変えたときの細胞密度比の変化を示すグラフである。
図9に示したように、電子放出処理時間が長くなるにつれて、細胞密度比が下がり、死滅する細胞が増加していることが確認された。細胞死が始まる電子放出処理時間は細胞種により異なり、電子放出処理の影響を受けやすいがん細胞、受けにくいがん細胞が存在すると考えられるが、HT-29細胞のように感受性が低い細胞においても、処理時間を長くすることで死滅させることができる。
【0040】
メカニズム分析実験
電子放出処理によりがん細胞の細胞死が引き起こされるメカニズムを探る実験を行った。
電子放出処理により電子放出素子の電子放出領域から気相に放出される電子は気相の酸素分子や窒素分子と衝突しラジカルや陰イオンを発生させると考えられる。気相のラジカルや陰イオンは、表面電極と培地との間に発生させた電界により培地に供給され、活性種となる又は培地の成分と反応して活性種を発生させると考えられる。この活性種を確認する実験を行った。
【0041】
ESR測定を行った。まず、ウェルプレートの各ウェルに純水を注入し、この純水中にスピントラップ剤DMPOを添加し、ウェルプレートに図6(a)(b)に示したような細胞刺激装置50を装着させた。そして、処理時間を15分間、30分間又は60分間としてウェル内のDMPOを添加した純水に対し電子放出処理を施した。電子放出処理では、下部電極と表面電極との間に印加する電圧Vdが16.5Vとなり、下部電極と表面電極との間に流れる電流Idが5μAとなり、グラウンドと表面電極との間に印加する電圧Veが120Vとなるように電源部を調整した(電荷回収電極はグラウンドに接続する)。
その後、電子放出処理を施したウェル内のDMPOを添加した純水を電子スピン共鳴装置を用いて分析した。ESR測定の結果を図10に示す。電子放出処理により、純水中にヒドロキシルラジカル(・OH)、水素ラジカル(・H)、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2 -)が存在することが明らかになった。また、・OHの濃度が特に高いことがわかった。
【0042】
次に、過酸化水素検出試薬を用いて過酸化水素の定量分析を行った。まず、ウェルプレートの各ウェルに脱イオン水を注入し、ウェルプレートに図6(a)(b)に示したような細胞刺激装置50を装着させた。そして、処理時間を15分間、30分間又は60分間としてウェル内の脱イオン水に対し電子放出処理を施した。電子放出処理では、下部電極と表面電極との間に印加する電圧Vdが16.5Vとなり、下部電極と表面電極との間に流れる電流Idが5μAとなり、グラウンドと表面電極との間に印加する電圧Veが120Vとなるように電源部を調整した(電荷回収電極はグラウンドに接続する)。
その後、電子放出処理を施した脱イオン水中の過酸化水素を過酸化水素検出試薬を用いて定量した。分析結果を図11に示す。電子放出処理を30分間施した脱イオン水中には、約30μMの過酸化水素が産生されていることがわかった。
従って、電子放出処理により液中に活性種として主にH2O2, ・HO, O2 -, ・Hが生じることが分かった。
【0043】
次に、上記の活性種のうち何ががん細胞の細胞死に寄与しているかについて調べるために、電子放出処理前に培地に各活性種の消去剤又は消化酵素を添加して細胞刺激実験を行った。
実験方法は、電子放出処理前に培地に消化酵素又は消去剤を添加したこと以外は上記の第1細胞刺激実験と同様である。また、細胞には、がん細胞であるマウスメラノーマ細胞(B16F1細胞)、ヒト肺がん細胞(NCI-H460細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(HeLa細胞)、ヒト大腸がん細胞(HT-29細胞)を用いた。
消化酵素には、H2O2の消化酵素であるカタラーゼを用い、消化剤には、水溶性ビタミンE誘導体であるTrolox又はN-アセチルシステイン(NAC)を用いた。また、コントロールでは、消化酵素又は消化剤の代わりに生理食塩水を培地に加えた。
【0044】
カタラーゼを培地に添加した実験での染色後のウェルの写真及びコントロールのウェルの写真を図12に示す。また、写真から算出した細胞密度比のグラフを図13に示す。
コントロールでは、電子放出領域直下の領域37において、細胞密度の低下が観察されたが、カタラーゼを添加した培地では、電子放出領域直下の領域37における細胞密度の低下はほとんどなかった。このため、H2O2の消化酵素であるカタラーゼを培地に添加することによりがん細胞の細胞死が阻害されたことが確認された。このことから、電子放出処理により培地中に生じるH2O2ががん細胞の特異的な細胞死に関与していることが示唆された。
【0045】
また、Trolox又はNACを培地に添加した実験では、電子放出領域直下の領域37において細胞密度の低下が観察された。このため、これらの消去剤では電子放出処理によるがん細胞の細胞死は阻害されないと考えられる。
従って、電子放出処理によるがん細胞の特異的な細胞死には、H2O2が主に関与していることが示唆された。
【符号の説明】
【0046】
2:基部 3、3a~3d:電子放出素子 4、4a、4b:下部電極 5、5a、5b:中間層 6、6a~6d:表面電極 7、7a、7b:絶縁層 8、8a~8d:電子放出領域 9、9a、9b:電源部 10:気相 12、12a~12d:絶縁層の開口 14:患部 15:生体 18:スペーサ部 21:絶縁性部材 22:カバー 23:挿入部 24、24a、24b:表面電極接続端子 25、25a~25d:下部電極接続端子 26:電荷回収電極 31:表面電極用端子 32:ウェルプレート 33:ウェル 34:蓋部材 35:培地 36:細胞 37:電子放出領域直下の領域(照射領域) 38:比較領域 39電荷回収電極が接触する領域 40:腫瘍治療装置 42:内視鏡 43:カメラ 44:鉗子 50:細胞刺激装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13