(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0263 20160101AFI20230427BHJP
H01M 8/1011 20160101ALI20230427BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20230427BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230427BHJP
【FI】
H01M8/0263
H01M8/1011
H01M8/0258
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019189185
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】林 則康
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】久保 厚
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/123284(WO,A1)
【文献】特開2013-97949(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021465(WO,A1)
【文献】特開2002-208419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸又はアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池において、
燃料極触媒層と燃料極拡散層と燃料極集電体とを有する燃料極と、
空気極触媒層と空気極拡散層と空気極集電体とを有する空気極と、
前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層との間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記燃料極集電体は、
前記燃料が供給される燃料流入口と、
前記燃料が排出される燃料流出口と、
前記燃料極拡散層に当接する側の燃料流通面に形成されて前記燃料流入口から前記燃料流出口へと前記燃料を導く燃料流通溝と、
を有し、
前記燃料流通溝は、
前記燃料流通面の一方の側縁側から、前記一方の側縁に対向する他方の側縁側へ延び、互いに所定間隔を空けて並列配置された複数の流通溝部と、
複数の前記流通溝部を前記燃料の流れる方向が逆方向となる互いに隣り合う複数組となるように、隣り合う2組の複数の前記流通溝部の前記一方の側縁側の端部又は前記他方の側縁側の端部を接続する複数の折り返し溝部と、
を有し、
複数の前記折り返し溝部のそれぞれの前記流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部に向かうに従って相対向する前記流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記燃料流通溝は、
前記燃料流入口に接続されると共に、前記燃料が最初に流入する組の複数の前記流通溝部の前記折り返し溝部に対して反対側の端部が接続される流入溝部を有し、
前記流入溝部の前記流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流出側端部に向かうに従って相対向する前記流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池において、
前記燃料流通溝は、
前記燃料流出口に接続されると共に、前記燃料が最後に流入する組の複数の前記流通溝部の前記折り返し溝部に対して反対側の端部が接続される流出溝部を有し、
前記流出溝部の前記流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流入側端部に向かうに従って相対向する前記流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている、
燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池において、
前記燃料流通溝は、
複数の前記流通溝部の間に配置される複数のリブ部を有し、
複数の前記リブ部は、
前記内側壁面部に対向する端部に、隣り合う前記流通溝部よりも外方に向かって平面視円弧状に突出する突出部を有する、
燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池において、
前記折り返し溝部に突出する複数の前記突出部は、前記折り返し溝部の前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部から前記燃料の流れる方向が逆転する2組の複数の前記流通溝部の間に向かうに従って突出高さが徐々に低くなるように形成されている、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池として、ギ酸、メタノール等の液体燃料を用いた燃料電池に関する技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1に記載された燃料電池は、絶縁性を有するセパレータを中心に置いて、その両側に互いに対向して長手方向に一定間隔で配置される複数の電気生成ユニットを備えている。各電気生成ユニットは、セパレータの両側に密着して配置されるアノード部と、このアノード部に密着して配置される膜-電極接合体(MEA)と、このMEAに密着して配置されるカソード部と、から構成されている。
【0003】
アノード部には、縦長矩形状の第1パス部材の長さ方向に沿って任意の間隔をおいて直線状態に配置され、その両端を交互に連結して蛇行形状に形成された厚さ方向に貫通する第1流路が設けられている。第1流路の一側端部(下側の端部)は、セパレータに形成されたマニホールドの流出口と相互に連通されている。また、第1流路の他側端部(上側の端部)は、マニホールドの流入口と相互に連通されている。これにより、燃料は、マニホールドの流入口から蛇行形状に形成された第1流路を通って上方の流出口を経てマニホールドに流れ、MEAの第1電極層に分散供給されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された燃料電池では、第1流路は、両端部が略直角に折れ曲がっているため、燃料が酸化されて発生する二酸化炭素(CO2)と燃料が両端部を上下方向に接続する流路の上方側の角部に滞留して、燃料がスムーズに流れにくくなり、発電量が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、燃料極に形成された燃料流通溝において、燃料と二酸化炭素の滞留を防ぎ、発電量の低下を抑止することができる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の発明は、ギ酸又はアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池において、燃料極触媒層と燃料極拡散層と燃料極集電体とを有する燃料極と、空気極触媒層と空気極拡散層と空気極集電体とを有する空気極と、前記燃料極触媒層と前記空気極触媒層との間に配置された電解質膜と、を備え、前記燃料極集電体は、前記燃料が供給される燃料流入口と、前記燃料が排出される燃料流出口と、前記燃料極拡散層に当接する側の燃料流通面に形成されて前記燃料流入口から前記燃料流出口へと前記燃料を導く燃料流通溝と、を有し、前記燃料流通溝は、前記燃料流通面の一方の側縁側から、前記一方の側縁に対向する他方の側縁側へ延び、互いに所定間隔を空けて並列配置された複数の流通溝部と、複数の前記流通溝部を前記燃料の流れる方向が逆方向となる互いに隣り合う複数組となるように、隣り合う2組の複数の前記流通溝部の前記一方の側縁側の端部又は前記他方の側縁側の端部を接続する複数の折り返し溝部と、を有し、複数の前記折り返し溝部のそれぞれの前記流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部に向かうに従って相対向する前記流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている、燃料電池である。
【0008】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係る燃料電池において、前記燃料流通溝は、前記燃料流入口に接続されると共に、前記燃料が最初に流入する組の複数の前記流通溝部の前記折り返し溝部に対して反対側の端部が接続される流入溝部を有し、前記流入溝部の前記流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流出側端部に向かうに従って相対向する前記流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている、燃料電池である。
【0009】
次に、第3の発明は、上記第1の発明又は第2の発明に係る燃料電池において、前記燃料流通溝は、前記燃料流出口に接続されると共に、前記燃料が最後に流入する組の複数の前記流通溝部の前記折り返し溝部に対して反対側の端部が接続される流出溝部を有し、前記流出溝部の前記流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流入側端部に向かうに従って相対向する前記流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている、燃料電池である。
【0010】
次に、第4の発明は、上記第1の発明乃至第3の発明のいずれか1の発明に係る燃料電池において、前記燃料流通溝は、複数の前記流通溝部の間に配置される複数のリブ部を有し、複数の前記リブ部は、前記内側壁面部に対向する端部に、隣り合う前記流通溝部よりも外方に向かって平面視円弧状に突出する突出部を有する、燃料電池である。
【0011】
次に、第5の発明は、上記第4の発明に係る燃料電池において、前記折り返し溝部に突出する複数の前記突出部は、前記折り返し溝部の前記流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部から前記燃料の流れる方向が逆転する2組の複数の前記流通溝部の間に向かうに従って突出高さが徐々に低くなるように形成されている、燃料電池である。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、燃料極集電体は、燃料極拡散層に当接する側の燃料流通面に、ギ酸又はアルコールを含む燃料を、燃料流入口から燃料流出口まで導く燃料流通溝が形成されている。燃料流通溝は、燃料流通面の一方の側縁側から、一方の側縁に対向する他方の側縁側へ延び、互いに所定間隔を空けて並列配置された複数の流通溝部と、複数の流通溝部を燃料の流れる方向が逆方向となる互いに隣り合う複数組となるように、隣り合う2組の複数の流通溝部の一方の側縁側の端部又は他方の側縁側の端部を接続する複数の折り返し溝部とを有している。そして、複数の折り返し溝部のそれぞれの流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部に向かうに従って相対向する流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている。
【0013】
これにより、燃料極の燃料流通面に形成された複数の折り返し溝部は、流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部に向かうに従って内側壁面部から流通溝部の端部までの距離が狭くなるため、流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部に滞留する燃料や二酸化炭素を少なくすることができる。また、流通溝部から折り返し溝部に流出した燃料は、折り返し溝部の内側壁面部に沿って流れ、下流側の複数の流通溝部にスムーズに流入して流れるため、燃料極触媒層と燃料の反応が増え、発電量の低下を抑止することができる。
【0014】
第2の発明によれば、燃料流通溝は、燃料流入口に接続されると共に、燃料が最初に流入する組の複数の流通溝部の折り返し溝部に対して反対側の端部が接続される流入溝部を有している。そして、流入溝部の流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流出側端部に向かうに従って相対向する流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている。これにより、流入溝部は、流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流出側端部に滞留する燃料や二酸化炭素を少なくすることができ、燃料流入口から流入した燃料をスムーズに複数の流通溝部に導くことができる。その結果、燃料極触媒層と燃料の反応が増え、発電量の低下を抑止することができる。
【0015】
第3の発明によれば、燃料流通溝は、燃料流出口に接続されると共に、燃料が最後に流入する組の複数の流通溝部の折り返し溝部に対して反対側の端部が接続される流出溝部を有している。そして、流出溝部の流通溝部の端部に対向する内側壁面部は、流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流入側端部に向かうに従って相対向する流通溝部の端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている。これにより、流出溝部の流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の流入側端部に滞留する燃料や二酸化炭素を少なくすることができ、複数の流通溝部から流入した燃料をスムーズに燃料流出口に導くことができる。その結果、燃料極触媒層と燃料の反応が増え、発電量の低下を抑止することができる。
【0016】
第4の発明によれば、流通溝部の間に配置される複数のリブ部は、内側壁面部に対向する端部に、隣り合う流通溝部よりも外方に向かって平面視円弧状に突出する突出部を有している。これにより、流通溝部から流出した燃料を突出部の外周面に沿って流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の下流側へスムーズに案内すると共に、下流側に配置された流通溝部内へ、再度スムーズに案内することができ、折り返し溝部、流入溝部、又は、流出溝部の流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の端部に滞留する燃料や二酸化炭素を更に少なくすることができる。
【0017】
第5の発明によれば、折り返し溝部に突出する複数の突出部は、折り返し溝部の流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部から燃料の流れる方向が逆転する2組の複数の流通溝部の間に向かうに従って突出高さが徐々に低くなるように形成されている。これにより、流通溝部から折り返し溝部内に流入した燃料を流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の略中央部にスムーズに流れるように案内することができ、折り返し溝部の流通溝部の延びる方向に対して直交する方向の両端部に滞留する燃料や二酸化炭素を更に少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を説明する斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る燃料電池の構成を説明する分解斜視図である。
【
図3】燃料極集電体を燃料流通面から見た正面図である。
【
図6】
図3に示す燃料極集電体を流れる燃料の流速分布の一例を示す図である。
【
図7】比較例の燃料極集電体を燃料流通面から見た正面図である。
【
図8】
図7のVIII部分を示す拡大斜視図である。
【
図9】
図7に示す燃料極集電体を流れる燃料の流速分布の一例を示す図である。
【
図10】他の第1実施形態に係る燃料極集電体を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る燃料電池を具体化した一実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本実施形態に係る燃料電池7を備えた燃料電池システム1の概略構成について
図1に基づいて説明する。尚、本実施形態にて説明する燃料電池システム1の燃料電池7は、ギ酸またはメタノール等のアルコールの水溶液を燃料とする直接液体型の燃料電池であり、以下の説明ではギ酸を燃料とする直接ギ酸型の燃料電池を例として説明する。
【0020】
ここで、直接液体型の燃料電池とは、液体の燃料を、改質せずに燃料極に直接投入する燃料電池を意味する。そして、直接ギ酸型の燃料電池は、燃料としてギ酸を用い、ギ酸を改質せずに燃料電池7を構成する燃料極10(
図1参照)に直接投入する燃料電池である。尚、各図中のX軸、Y軸、Z軸は、互いに直交しており、Z軸方向は上下方向(鉛直方向)、Y軸方向は厚さ方向、X軸方向は水平幅方向、に対応している。
【0021】
[燃料電池システムの概略構成]
図1に示すように、燃料電池システム1は、燃料タンク50、ポンプ52、燃料電池7、排液タンク60等から構成されている。燃料タンク50には、所定濃度のギ酸を含む溶液(ギ酸水溶液)が蓄えられている。ギ酸水溶液の濃度は、例えば、約10%~約40%である。また、燃料タンク50には、燃料供給管51の一方端が接続されている。燃料供給管51の他方端は、燃料電池7の下端部に開口する燃料流入口17Aに接続されている。ポンプ52は、電動ポンプであり、燃料供給管51の途中に配置されて、燃料タンク50内の燃料を燃料電池7の燃料流入口17Aに供給(圧送)している。
【0022】
排液タンク60には、燃料電池7内で使用された後、排出された燃料と、燃料電池7を構成する空気極20にて発生して回収された水が蓄えられている。排液タンク60には燃料排出配管61の他方端が接続されている。燃料排出配管61の一方端は燃料電池7の上端部に開口する燃料流出口17Bに接続されている。また、排液タンク60には、回収配管62の他方端が接続されている。回収配管62の一方端の側は、空気極20の下方に設けられた空気流出口25Bに接続されている。
【0023】
更に、廃液タンク60の上部には、内部と外部とを連通する排気口(不図示)が設けられている。廃液タンク60内の気体の圧力が所定圧力よりも高くなると、廃液タンク60内の気体が、上部に設けられた排気口(不図示)から廃液タンク60外へ排出される。また、燃料電池7は、燃料流入口17Aから流入して、燃料流出口17Bから排出される燃料を用いて発電する。燃料電池7の構造の詳細について、以下に説明する。
【0024】
[燃料電池の概略構成]
次に、燃料電池7の概略構成について
図1及び
図2に基づいて説明する。
図1及び
図2に示すように、燃料電池7は、空気極20と燃料極10にて厚さ方向に電解質膜30を挟んで一体的に構成されている。空気極20は、電解質膜30の一面に密着される空気極触媒層21と、空気極拡散層22と、空気極集電体23が、この順番で積層されて構成されている。燃料極10は、電解質膜30の他の一面に密着される燃料極触媒層11と、燃料極拡散層12と、燃料極集電体13が、この順番で積層されて構成されている。
【0025】
空気極集電体23は、厚さが約1~10[mm]程度の導電性を有する平板状の金属等で形成されている。空気極集電体23には、
図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の一方端が電気的に接続される。
図2に示すように、空気極集電体23は、空気極拡散層22に当接する空気流通面23Aを有しており、空気流通面23Aには、空気極拡散層22側が開口された空気流通溝23Bが形成されている。
【0026】
空気流通溝23Bは、空気極集電体23の空気流出口25Bに対して対角線上の上方側に形成されて空気流入口25Aから供給(圧送)された空気を、空気極拡散層22に接触させながら空気極集電体23の下方側に形成された空気流出口25Bへ導いている。従って、空気流通溝23B内を流れる空気は、空気極拡散層22中に拡散される。尚、乾燥した酸素を外部から空気流入口25Aに供給(圧送)してもよい。
【0027】
空気流通溝23Bは、空気流流通面23Aの一方の側縁側(例えば、
図2中、左側縁側)から、一方の側縁に対向する他方の側縁側(例えば、
図2中、右側縁側)へ幅方向に沿って延び、互いに所定間隔を空けて並列配置されて、空気が流れる複数の流通溝部23Cが設けられている。また、この流通溝部23Cの上下方向の間には、空気極拡散層22に当接するランド部(リブ部)23Eが、例えば、流通溝部23Cの上下方向の幅とほぼ同じ上下方向の幅で形成されている。ランド部(リブ部)23Eは、空気極集電体23及び空気極拡散層22を導通している。
【0028】
また、空気流入口25Aは、
図2中、左上角部において鉛直方向に延びる流入溝部23Fに接続されている。また、空気流出口25Bは、
図2中、右下角部において鉛直方向に延びる流出溝部23Gに接続されている。そして、複数の流通溝部23Cのそれぞれは、空気極集電体23の一方の側縁、又は、他方の側縁の近傍に形成されて略鉛直方向に延びる各折り返し溝部23D1~23D4にて接続されている。また、複数の流通溝部23Cは、
図2中、左上角部において、流入溝部23Fに接続されており、
図2中、右下角部において、流出溝部23Gに接続されている。
【0029】
従って、空気流入口25Aから流入溝部23Fに流入した空気は、各流通溝部23Cにおいて、一方の側縁から他方の側縁へと導かれ、各折り返し溝部23D1~23D4にて方向転換されることを繰り返して、空気流通溝23B内を流れ、空気極拡散層22中に拡散される。その後、流出溝部23Gに流入した空気は、空気流出口25Bから回収配管62(
図1参照)へ流れる。
【0030】
空気極拡散層22は、厚さが約0.05~約0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極拡散層22は、水および空気を透過できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。空気極拡散層22は、空気極集電体23の空気流入口25Aから流入した空気(酸素)を、拡散させながら空気極触媒層21に導く。外気の空気に含まれる酸素は、空気極拡散層22に浸透して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。
【0031】
空気極触媒層21は、厚さが約0.05~約0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極触媒層21は、空気極の電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。空気極20の電極触媒粒子は、空気中の酸素を還元する反応の反応速度を促進させる触媒の粒子であり、例えば白金(Pt)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えればよく、例えば、カーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、空気極触媒層21の電極触媒粒子によって、下記式(1)に示す酸化還元反応が進行する。尚、生成された水(H
2O)は、空気流通溝23B内を流れ、空気極集電体23の空気流出口25Bから回収配管62を経由して排液タンク60に導かれる(
図1、
図2参照)。
【0032】
2H++1/2O2+2e- → H2O ・・・(1)
【0033】
燃料極集電体13は、厚さが約1.0~約10[mm]程度の導電性を有する平板状の金属で形成されている。燃料極集電体13は、燃料極拡散層12に当接する燃料流通面13Aを有しており、燃料流通面13Aには、燃料極拡散層12の側が開口された燃料流通溝13Bが形成されている。燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の下方側に形成された燃料流入口17Aから供給された燃料を、燃料極拡散層12に接触させながら燃料極集電体13の上方側に形成された燃料流出口17Bへ導いている。従って、燃料流通溝13B内を流れる燃料は、燃料極拡散層12中に拡散される。
【0034】
燃料流通溝13Bは、燃料流通面13Aの一方の側縁側(例えば、
図2中、右側縁側)から、一方の側縁に対向する他方の側縁側(例えば、
図2中、左側縁側)へ幅方向に沿って延び、互いに所定間隔を空けて並列配置されて、燃料が流れる複数の流通溝部13Cが設けられている。また、この流通溝部13Cの上下方向の間には、電子e
-を回収するために、燃料極拡散層12に当接するリブ状のランド部(リブ部)13Eが、例えば、流通溝部13Cの上下方向の幅とほぼ同じ上下方向の幅で形成されている。燃料極集電体13には、
図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の他方端が接続される。
【0035】
燃料極拡散層12は、厚さが約0.05~約0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極拡散層12は、ギ酸水溶液が内部に浸透できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。燃料極拡散層12は、燃料極集電体13の燃料流通面13Aに形成された燃料流通溝13Bに流される燃料を、拡散させながら燃料極触媒層11に導く。
【0036】
燃料極触媒層11は、厚さが約0.05~約0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極触媒層11は、電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。燃料極10の電極触媒粒子は、燃料であるギ酸の酸化反応の速度を促進させる触媒の粒子であり、例えば、パラジウム(Pd)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えればよく、例えば、カーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、燃料極触媒層11の電極触媒粒子によって、下記式(2)に示す酸化反応が進行する。
【0037】
HCOOH → CO2+2H++2e- ・・・(2)
【0038】
電解質膜30は、厚さが約0.01~約0.3[mm]程度の薄膜状に形成されている。電解質膜30は、燃料極10の燃料極触媒層11と空気極20の空気極触媒層21との間に挟まれており、電子伝導性を持たず、水および水素イオン(プロトン)H+を透過できるプロトン交換膜である。電解質膜30には、例えば、Du Pont社製のNafion(登録商標)等のパーフルオロエチレンスルフォン酸系膜を用いることができる。尚、燃料極触媒層11と、燃料極拡散層12と、電解質膜30と、空気極触媒層21と、空気極拡散層22とが接合されて一体化されていてもよい。
【0039】
[燃料流通溝の構成]
次に、燃料極集電体13に形成された燃料流通溝13Bの構成について
図2乃至
図5に基づいて説明する。
図2及び
図3に示すように、燃料流通溝13Bは、燃料流通面13Aの一方の側縁側(例えば、
図2中、右側縁側)から、他方の側縁側(例えば、
図2中、左側縁側)へ水平幅方向に沿って延び、互いに所定間隔を空けて並列配置されて、燃料が流れる複数の流通溝部13Cが設けられている。
【0040】
そして、下端側の4本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図3中、右側)の各端部は、下端部に形成された燃料流入口17Aから上方に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円の上半分形状の流入溝部13Fに接続されている。また、下端側の4本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図3中、左側)の各端部と、その上側の3本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図3中、左側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円形状の折り返し溝部13D1に接続されている。
【0041】
これにより、燃料流入口17Aから流入溝部13Fに流入した燃料は、下端側の4本の流通溝部13Cに流入して、他方の側縁側(
図3中、左側)へ流れ、折り返し溝部13D1の下方側に流入する。そして、折り返し溝部13D1に流入した燃料は、折り返し溝部13D1の上方側に配置された3本の流通溝部13Cに流入して、一方の側縁側(
図3中、右側)へ流れる。従って、下端側の4本の流通溝部13Cと、その上側の3本の流通溝部13Cとは、燃料の流れる方向が逆方向となる互いに隣り合う2組の流通溝部グループ131、132を構成する。
【0042】
また、流通溝部グループ132を構成する3本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図3中、右側)の各端部と、その上側の3本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図3中、右側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円形状の折り返し溝部13D2に接続されている。
【0043】
これにより、流通溝部グループ132を構成する3本の流通溝部13Cから折り返し溝部13D2の下方側に流入した燃料は、折り返し溝部13D2の上方側に配置された3本の流通溝部13Cに流入して、他方の側縁側(
図3中、左側)へ流れる。従って、流通溝部グループ132を構成する3本の流通溝部13Cの上側に配置された3本の流通溝部13Cは、流通溝部グループ132の上側に隣り合って配置されて、燃料の流れる方向が逆方向となる1組の流通溝部グループ133を構成する。
【0044】
また、流通溝部グループ133を構成する3本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図3中、左側)の各端部と、その上側の3本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図3中、左側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円形状の折り返し溝部13D3に接続されている。
【0045】
これにより、流通溝部グループ133を構成する3本の流通溝部13Cから折り返し溝部13D3の下方側に流入した燃料は、折り返し溝部13D3の上方側に配置された3本の流通溝部13Cに流入して、一方の側縁側(
図3中、右側)へ流れる。従って、流通溝部グループ133を構成する3本の流通溝部13Cの上側に配置された3本の流通溝部13Cは、流通溝部グループ133の上側に隣り合って配置されて、燃料の流れる方向が逆方向となる1組の流通溝部グループ134を構成する。
【0046】
また、流通溝部グループ134を構成する3本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図3中、右側)の各端部と、その上側の4本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図3中、右側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円形状の折り返し溝部13D4に接続されている。
【0047】
これにより、流通溝部グループ134を構成する3本の流通溝部13Cから折り返し溝部13D4の下方側に流入した燃料は、折り返し溝部13D4の上方側に配置された4本の流通溝部13Cに流入して、他方の側縁側(
図3中、左側)へ流れる。従って、流通溝部グループ134を構成する3本の流通溝部13Cの上側に配置された4本の流通溝部13Cは、流通溝部グループ134の上側に隣り合って配置されて、燃料の流れる方向が逆方向となる1組の流通溝部グループ135を構成する。
【0048】
そして、流通溝部グループ135を構成する4本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図3中、左側)の各端部は、燃料極集電体13の上端部に形成された燃料流出口17Bから下方に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円の下半分形状の流出溝部13Gに接続されている。これにより、流通溝部グループ135を構成する4本の流通溝部13Cから流出溝部13Gに流入した燃料は、燃料流出口17Bから燃料排出配管61(
図1参照)へ流れる。
【0049】
ここで、折り返し溝部13D4の構成について
図4及び
図5に基づいて説明する。尚、折り返し溝部13D2は、折り返し溝部13D4とほぼ同じ構成である。流入溝部13Fは、折り返し溝部13D4の上下方向における上半分とほぼ同じ構成である。また、各折り返し溝部13D1、13D3は、折り返し溝部13D4の鉛直線に対して線対称な構成とほぼ同じ構成である。流出溝部13Gは、折り返し溝部13D4の鉛直線に対して線対称な構成の下半分とほぼ同じ構成である。
【0050】
図4及び
図5に示すように、折り返し溝部13D4は、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視半楕円形状に形成され、各流通溝部13Cの深さに対して約2倍の深さで厚さ方向に窪んでいる。また、各流通溝部13Cの一方の側縁側(
図4中、右側)の端部に対向する内側壁面部15は、折り返し溝部13D4の上下方向中央部から、折り返し溝部13D4の上下方向の両端部に向かうに従って相対向する流通溝部13Cの端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている。
【0051】
具体的には、例えば、折り返し溝部13D4の内側壁面部15は、上端に位置する流通溝部13Cの上側の側壁部71から、下端に位置する流通溝部13Cの下側の側壁部72までの距離の約1/2の長さを長半径R1とし、折り返し溝部13D4の深さの約2倍、つまり、各流通溝部13Cの深さに対して約4倍の長さを短半径R2とする正面視半楕円形状に形成されている。
【0052】
また、各ランド部(リブ部)13Eの内側壁面部15に対向する各端部には、折り返し溝部13D4の底面から各ランド部13Eの全高さに渡って、隣り合う流通溝部13Cよりも幅方向外方に向かって平面視円弧状に突出する突出部73が形成されている。また、平面視半楕円形状の内側壁面部15の長径は、例えば、各突出部73の先端部を通るように配置されている。
【0053】
これにより、流通溝部グループ134の各流通溝部13Cを流れる燃料が、各突出部73と内側壁面部15の下方側部分とによって案内されて、折り返し溝部13D4内の下方側にスムーズに流入する。そして、折り返し溝部13D4内に流入した燃料が、各突出部73と内側壁面部15の上方側部分とによって折り返し溝部13D4内を上方へ案内されて、流通溝部グループ135の各流通溝部13C内に流入する。
【0054】
次に、上記のように構成された燃料電池7の燃料極集電体13に濃度約10%~40%のギ酸水溶液の燃料を供給(圧送)した際の、CAE(Computer Aided Engineering)解析による流体解析を行った燃料の流速分布の結果の一例を
図6に基づいて説明する。
図6に示すように、燃料極集電体13の下端部に形成された燃料流入口17Aから流入溝部13Fに流入した燃料は、ほぼ停滞することなく流通溝部グループ131を構成する4本の各流通溝部13Cに流入している。
【0055】
そして、流通溝部グループ131を構成する4本の各流通溝部13Cから折り返し溝部13D1に流入した燃料は、折り返し溝部13D1内にほぼ停滞することなく、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cに流入している。従って、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ131を構成する4本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速よりも少し速くなっている。
【0056】
続いて、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部13D2に流入した燃料は、折り返し溝部13D2内にほぼ停滞することなく、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cに流入している。従って、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速とほぼ同じ流速である。
【0057】
そして、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部13D3に流入した燃料は、折り返し溝部13D3内にほぼ停滞することなく、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cに流入している。従って、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速とほぼ同じ流速である。
【0058】
続いて、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部13D4に流入した燃料は、折り返し溝部13D4内にほぼ停滞することなく、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cに流入している。従って、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速よりも少し遅くなっている。
【0059】
そして、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cから流出溝部13Gに流入した燃料は、流出溝部13G内にほぼ停滞することなく、燃料流出口17Bに流入し、排出されている。従って、燃料流出口17Bを流れる燃料の流速は、燃料流入口17Aを流れる燃料の流速とほぼ同じ流速である。
【0060】
以上のように、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gは、上下方向のそれぞれの端部に向かうに従って、内側壁面部15から流通溝部13Cの端部までの距離が狭くなっている。このため、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gは、上下方向のそれぞれの端部における燃料の流速がゼロ[m/sec]となって滞留する箇所が、ほぼ無くなると推測される。
【0061】
その結果、上記式(2)に示すギ酸の酸化反応によって生成される二酸化炭素(CO2)が、ギ酸水溶液の燃料と共にスムーズに各流通溝部13Cを流れるため、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gにおいて、二酸化炭素が集まって気泡となり、燃料(ギ酸水溶液)と二酸化炭素が滞留することを抑止することができる。つまり、燃料極触媒層11の電極触媒粒子による燃料(ギ酸水溶液)の酸化反応が増え、燃料電池7の発電量の低下を抑止することができる。
【0062】
[比較例]
ここで、燃料電池7の燃料極集電体13の比較例としての燃料極集電体81について
図7乃至
図9に基づいて説明する。尚、以下の説明において、前記実施形態に係る燃料極集電体13の構成等と同一符号は、前記実施形態に係る燃料極集電体13の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
【0063】
先ず、燃料極集電体81の構成について
図7及び
図8に基づいて説明する。
図7及び
図8に示すように、燃料極集電体81の構成は、燃料極集電体13の構成とほぼ同じ構成である。但し、
図7に示すように、燃料極集電体81は、燃料流通溝13Bに替えて燃料流通溝81Bが設けられている点で異なっている。また、各ランド部(リブ部)13Eの水平幅方向の両端部に、突出部73が形成されていない点でも異なっている。
【0064】
具体的には、燃料流通溝81は、燃料流通面13Aの一方の側縁側(例えば、
図7中、右側縁側)から、他方の側縁側(例えば、
図7中、左側縁側)へ幅方向に沿って延び、互いに所定間隔を空けて並列配置されて、燃料が流れる複数の流通溝部13Cが設けられている。そして、下端側の4本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図7中、右側)の各端部は、下端部に形成された燃料流入口17Aから上方に延びて上端部が閉塞された正面視縦長略矩形状の流入溝部81Fに接続されている。また、下端側の4本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図7中、左側)の各端部と、その上側の3本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図7中、左側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状の折り返し溝部81D1に接続されている。
【0065】
これにより、燃料流入口17Aから流入溝部81Fに流入した燃料は、下端側の4本の流通溝部13Cに流入して、他方の側縁側(
図7中、左側)へ流れ、折り返し溝部81D1の下方側に流入する。そして、折り返し溝部81D1に流入した燃料は、折り返し溝部81D1の上方側に配置された3本の流通溝部13Cに流入して、一方の側縁側(
図7中、右側)へ流れる。従って、下端側の4本の流通溝部13Cと、その上側の3本の流通溝部13Cとは、燃料の流れる方向が逆方向となる互いに隣り合う2組の流通溝部グループ131、132を構成する。
【0066】
また、流通溝部グループ132を構成する3本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図7中、右側)の各端部と、その上側の3本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図7中、右側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状の折り返し溝部81D2に接続されている。
【0067】
これにより、流通溝部グループ132を構成する3本の流通溝部13Cから折り返し溝部81D2の下方側に流入した燃料は、折り返し溝部81D2の上方側に配置された3本の流通溝部13Cに流入して、他方の側縁側(
図7中、左側)へ流れる。従って、流通溝部グループ132を構成する3本の流通溝部13Cの上側に配置された3本の流通溝部13Cは、流通溝部グループ132の上側に隣り合って配置されて、燃料の流れる方向が逆方向となる1組の流通溝部グループ133を構成する。
【0068】
また、流通溝部グループ133を構成する3本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図7中、左側)の各端部と、その上側の3本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図7中、左側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状の折り返し溝部81D3に接続されている。
【0069】
これにより、流通溝部グループ133を構成する3本の流通溝部13Cから折り返し溝部81D3の下方側に流入した燃料は、折り返し溝部13D3の上方側に配置された3本の流通溝部13Cに流入して、一方の側縁側(
図3中、右側)へ流れる。従って、流通溝部グループ133を構成する3本の流通溝部13Cの上側に配置された3本の流通溝部13Cは、流通溝部グループ133の上側に隣り合って配置されて、燃料の流れる方向が逆方向となる1組の流通溝部グループ134を構成する。
【0070】
また、流通溝部グループ134を構成する3本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図7中、右側)の各端部と、その上側の4本の流通溝部13Cの一方の側縁側(
図7中、右側)の各端部は、例えば、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状の折り返し溝部81D4に接続されている。
【0071】
これにより、流通溝部グループ134を構成する3本の流通溝部13Cから折り返し溝部81D4の下方側に流入した燃料は、折り返し溝部81D4の上方側に配置された4本の流通溝部13Cに流入して、他方の側縁側(
図7中、左側)へ流れる。従って、流通溝部グループ134を構成する3本の流通溝部13Cの上側に配置された4本の流通溝部13Cは、流通溝部グループ134の上側に隣り合って配置されて、燃料の流れる方向が逆方向となる1組の流通溝部グループ135を構成する。
【0072】
そして、流通溝部グループ135を構成する4本の流通溝部13Cの他方の側縁側(
図7中、左側)の各端部は、燃料極集電体81の上端部に形成された燃料流出口17Bから下方に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状の流出溝部81Gに接続されている。これにより、流通溝部グループ135を構成する4本の流通溝部13Cから流出溝部81Gに流入した燃料は、燃料流出口17Bから燃料排出配管61(
図1参照)へ流れる。
【0073】
ここで、折り返し溝部81D4の構成について
図7及び
図8に基づいて説明する。尚、折り返し溝部81D2は、折り返し溝部81D4とほぼ同じ構成である。流入溝部81Fは、折り返し溝部81D4の上下方向における上半分とほぼ同じ構成である。また、各折り返し溝部81D1、81D3は、折り返し溝部81D4の鉛直線に対して線対称な構成とほぼ同じ構成である。流出溝部81Gは、折り返し溝部81D4の鉛直線に対して線対称な構成の下半分とほぼ同じ構成である。
【0074】
図7及び
図8に示すように、折り返し溝部81D4は、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状に形成され、各流通溝部13Cの深さに対して約2倍の深さで厚さ方向に窪んでいる。また、各流通溝部13Cの一方の側縁側(
図8中、右側)の端部に対向する内側壁面部83は、相対向する流通溝部13Cの端部までの距離が、上下方向全長に渡ってほぼ一定となるように形成されている。
【0075】
具体的には、例えば、折り返し溝部81D4は、上端に位置する流通溝部13Cの上側の側壁部71から、下端に位置する流通溝部13Cの下側の側壁部72までの距離の長さを上下方向の一辺とし、折り返し溝部81D4の深さの約2倍、つまり、各流通溝部13Cの深さに対して約4倍の長さを左右幅方向の一辺とする正面視縦長略矩形状に形成されている。
【0076】
従って、各ランド部(リブ部)13Eの内側壁面部83に対向する各端部は、各流通溝部13Cの内側壁面部83に対向する各端部と共に、内側壁面部83に対して平行な壁面部を形成している。つまり、各ランド部(リブ部)13Eの内側壁面部83に対向する各端部には、平面視円弧状の突出部73が設けられていない点でも、燃料流通溝13Bの構成と異なっている。従って、流通溝部グループ134の各流通溝部13Cを流れる燃料が、折り返し溝部81D4内の下方側に流入する。そして、折り返し溝部81D4内に流入した燃料が、内側壁面部83の上方側部分によって折り返し溝部81D4内を上方へ案内されて、流通溝部グループ135の各流通溝部13C内に流入する。
【0077】
次に、上記のように構成された燃料電池7の燃料極集電体81に濃度約10%~40%のギ酸水溶液の燃料を供給(圧送)した際の、CAE(Computer Aided Engineering)解析による流体解析を行った燃料の流速分布の結果の一例を
図9に基づいて説明する。
図9に示すように、燃料極集電体81の下端部に形成された燃料流入口17Aから流入溝部81Fに流入した燃料は、流入溝部81Fの幅方向外側(
図9中、右側)の上端角部に流速がほぼゼロ[m/sec]となる滞留領域85Aを形成しつつ、流通溝部グループ131を構成する4本の各流通溝部13Cに流入している。
【0078】
そして、流通溝部グループ131を構成する4本の各流通溝部13Cから折り返し溝部81D1に流入した燃料は、折り返し溝部81D1の幅方向外側(
図9中、左側)の下端角部と上端角部のそれぞれに、流速がほぼゼロ[m/sec]となる各滞留領域85B、85Cを形成しつつ、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cに流入している。また、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ131を構成する4本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速よりも少し速くなっている。
【0079】
続いて、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部81D2に流入した燃料は、折り返し溝部81D2の幅方向外側(
図9中、右側)の下端角部と上端角部のそれぞれに、流速がほぼゼロ[m/sec]となる各滞留領域85D、85Eを形成しつつ、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cに流入している。また、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ132を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速とほぼ同じ流速である。
【0080】
そして、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部81D3に流入した燃料は、折り返し溝部81D3の幅方向外側(
図9中、左側)の下端角部と上端角部のそれぞれに、流速がほぼゼロ[m/sec]となる各滞留領域85F、85Gを形成しつつ、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cに流入している。また、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ133を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速とほぼ同じ流速である。
【0081】
続いて、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部81D4に流入した燃料は、折り返し溝部81D4の幅方向外側(
図9中、右側)の下端角部と上端角部のそれぞれに、流速がほぼゼロ[m/sec]となる各滞留領域85H、85Iを形成しつつ、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cに流入している。また、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速は、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cを流れる燃料の流速よりも少し遅くなっている。
【0082】
そして、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cから流出溝部81Gに流入した燃料は、流出溝部81Gの幅方向外側(
図9中、左側)の下端角部に流速がほぼゼロ[m/sec]となる滞留領域85Jを形成しつつ、燃料流出口17Bに流入し、排出されている。従って、燃料流出口17Bを流れる燃料の流速は、燃料流入口17Aを流れる燃料の流速とほぼ同じ流速である。
【0083】
以上のように、流入溝部81F、各折り返し溝部81D1~81D4、及び、流出溝部81Gは、上下方向に延びると共に幅方向外方へ突出する正面視縦長略矩形状に形成されている。このため、流入溝部81F、各折り返し溝部81D1~81D4、及び、流出溝部81Gは、幅方向外側の上端角部と下端角部に、燃料の流速がほぼゼロ[m/sec]となる各滞留領域85A~85Jが形成されていると推測される。
【0084】
そのため、上記式(2)に示すギ酸の酸化反応によって生成される二酸化炭素(CO2)が、各滞留領域85A~85Jにおいてギ酸水溶液の燃料と共に滞留して気泡となり、燃料極触媒層11の電極触媒粒子(例えば、Pd)の表面上にとどまる虞がある。その結果、二酸化炭素が燃料極触媒層11の電極触媒粒子(例えば、Pd)の表面上にとどまると、ギ酸が電極触媒粒子表面に吸着しにくくなるため、上記式(2)に示すギ酸の酸化反応の進行が阻害され、燃料電池7の発電量が低下する虞がある。
【0085】
以上詳細に説明したとおり、本実施形態に係る燃料電池7では、燃料極集電体13の燃料流通溝13Bを構成する流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gは、上下方向のそれぞれの端部に向かうに従って、内側壁面部15から流通溝部13Cの端部までの距離が狭くなっている。つまり、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gの内側壁面部15は、上下方向の両端部に向かうに従って相対向する流通溝部13Cの端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている。
【0086】
これにより、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gは、上下方向のそれぞれの端部における燃料の流速がゼロ[m/sec]となって滞留する箇所が、ほぼ無くなっている。その結果、上記式(2)に示すギ酸の酸化反応によって生成される二酸化炭素(CO2)が、ギ酸水溶液の燃料と共にスムーズに各流通溝部13Cを流れるため、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gにおいて、二酸化炭素が集まって気泡となり、燃料(ギ酸水溶液)と二酸化炭素が滞留することを抑止することができる。つまり、燃料極触媒層11の電極触媒粒子による燃料(ギ酸水溶液)の酸化反応が増え、燃料電池7の発電量の低下を抑止することができる。
【0087】
また、流通溝部13Cの間に配置される複数のランド部13Eは、内側壁面部15に対向する端部に、隣り合う流通溝部13Cよりも外方に向かって平面視円弧状に突出する突出部73を有している。これにより、流通溝部13Cから流出した燃料を突出部73の外周面に沿って上方へスムーズに案内すると共に、上方に配置された流通溝部13C内へ、再度スムーズに案内することができ、各折り返し溝部13D1~13D4、流入溝部13F、又は、流出溝部13Gの上下方向の端部に滞留する燃料や二酸化炭素を更に少なくすることができる。
【0088】
尚、本発明は前記実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形、追加、削除が可能であることは勿論である。尚、以下の説明において上記
図1乃至
図6の前記実施形態に係る燃料電池システム1の構成等と同一符号は、前記実施形態に係る燃料電池システム1の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
【0089】
[他の第1実施形態]
(A)例えば、燃料極集電体13に替えて、
図10に示す燃料極集電体91を用いてもよい。燃料極集電体91の構成について
図10に基づいて説明する。
図10に示すように、燃料極集電体91は、燃料極集電体13とほぼ同じ構成であるが、各ランド部13Eの水平幅方向の両端部に突出部73が形成されていない点で異なっている。従って、各ランド部(リブ部)13Eの内側壁面部15に対向する各端部は、各流通溝部13Cの内側壁面部15に対向する各端部と共に、鉛直方向に沿った平面部92を形成している。
【0090】
また、
図10に示すように、平面部92に対向する内側壁面部15は、折り返し溝部13D4の上下方向中央部から、折り返し溝部13D4の上下方向の両端部に向かうに従って相対向する流通溝部13Cの端部までの距離が徐々に狭くなる曲面状に形成されている。これにより、流通溝部グループ134の各流通溝部13Cから折り返し溝部13D4内に流入した燃料は、平面部92と内側壁面部15とによって上方へ案内されて、流通溝部グループ135の各流通溝部13C内に流入する。
【0091】
従って、流通溝部グループ134を構成する3本の各流通溝部13Cから折り返し溝部13D4に流入した燃料は、折り返し溝部13D4内にほぼ停滞することなく、流通溝部グループ135を構成する4本の各流通溝部13Cに流入する。同様に、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13G(
図3参照)は、上下方向のそれぞれの端部に向かうに従って、内側壁面部15から流通溝部13Cの端部までの距離が狭くなっている。このため、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gは、上下方向のそれぞれの端部における燃料の流速がゼロ[m/sec]となって滞留する箇所が、ほぼ無くなると推測される。
【0092】
その結果、上記式(2)に示すギ酸の酸化反応によって生成される二酸化炭素(CO2)が、ギ酸水溶液の燃料と共にスムーズに各流通溝部13Cを流れるため、流入溝部13F、各折り返し溝部13D1~13D4、及び、流出溝部13Gにおいて、二酸化炭素が集まって気泡となり、燃料(ギ酸水溶液)と二酸化炭素が滞留することを抑止することができる。つまり、燃料極触媒層11の電極触媒粒子による燃料(ギ酸水溶液)の酸化反応が増え、燃料電池7の発電量の低下を抑止することができる。
【0093】
[他の第2実施形態]
(B)また、例えば、各ランド部13Eの水平幅方向の両端部から各折り返し溝部13D1~13D4内へ突出する突出部73の水平幅方向外方への突出高さが、各折り返し溝部13D1~13D4の上下方向両端部から、燃料の流れる方向が逆転する隣り合う各流通溝部グループ131~135の間に向かうに従って、徐々に低くなるように形成してもよい。これにより、各流通溝部13Cから各折り返し溝部13D1~13D4内に流入した燃料を上下方向略中央部にスムーズに流れるように案内することができ、各折り返し溝部13D1~13D4の上下方向の両端部に滞留する燃料や二酸化炭素を更に少なくすることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 燃料電池システム
7 燃料電池
10 燃料極
11 燃料極触媒層
12 燃料極拡散層
13、81、91 燃料極集電体
13A 燃料流通面
13B、81B 燃料流通溝
13C 流通溝部
13D1~13D4、81D1~81D4 折り返し溝部
13E ランド部(リブ部)
13F、81F 流入溝部
13G、81G 流出溝部
15、83 内側壁面部
17A 燃料流入口
17B 燃料流出口
20 空気極
21 空気極触媒層
22 空気極拡散層
23 空気極集電体
30 電解質膜
73 突出部
85A~85J 滞留領域
92 平面部
131~135 流通溝部グループ