(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】ゲルワニス及びスクリーン印刷用インキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/106 20140101AFI20230427BHJP
C09D 11/102 20140101ALI20230427BHJP
C09D 11/08 20060101ALI20230427BHJP
C09D 11/06 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C09D11/106
C09D11/102
C09D11/08
C09D11/06
(21)【出願番号】P 2019201180
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】392008024
【氏名又は名称】十条ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】野上 勝
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友美
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-031688(JP,A)
【文献】特開2001-081371(JP,A)
【文献】特開2016-183342(JP,A)
【文献】特開2006-328278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配合成分として、下記(A)~(D)成分を含有することを特徴とするゲルワニス。
(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂 100重量部
(B)熱可塑性アクリル樹脂 10~30重量部
(C)セルロース樹脂 5~30重量部
(D)ひまし油 5~50重量部
【請求項2】
前記(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)を50,000~100,000の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載のゲルワニス。
【請求項3】
前記(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)を1~4の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のゲルワニス。
【請求項4】
前記(B)熱可塑性アクリル樹脂が、ポリメタクリル酸メチル樹脂であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のゲルワニス。
【請求項5】
前記(C)セルロース樹脂が、セルロースアセテート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、及びセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のゲルワニス。
【請求項6】
前記(D)ひまし油が、水添ひまし油、又は水添ひまし油と、ひまし油との混合物、又は水添ひまし油と、脂肪酸アマイドとの混合物であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のゲルワニス。
【請求項7】
前記ゲルワニスが、(E)成分として有機溶剤を含有し、該ゲルワニス中に含まれる全有機溶剤成分を100%とした場合に、ケトン系有機溶剤、及び炭化水素系有機溶剤の中から選ばれる少なくとも一種の有機溶剤を70%以上含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のゲルワニス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルワニス及びスクリーン印刷用インキに関する。
特に、取扱い性が良好であって、高精細なパターンを含む印刷物を精度よく形成できるスクリーン印刷用インキ等の原料としてのゲルワニス、及び当該ゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーン印刷用インキは、適切な粘度、チクソトロピック性を有することで、スクリーン印刷に適した取扱い性が良好であるとともに、高精細な印刷パターンに適した性能を有することが求められている。
即ち、スクリーン印刷用インキにおいて、スクリーン印刷の際のスキージのストローク時には、チクソトロピック性を発揮して、低粘度化を引き起こし、かつ、スクリーン印刷用刷版のメッシュを通過する際には、所定の流動特性を示すことが求められている。
【0003】
一方、スクリーン印刷用インキにおいて、メッシュを通過した後には、印刷幅が広がらず、スクリーン印刷刷版に形成されたパターン形状を正確に反映することが求められている。
そして、高精細な印刷パターンを形成するためには、微細なスクリーン印刷刷版を使用する必要があるが、その場合、単純にインキ粘度を高めると、ニジミは発生しにくくなるものの、スキージで押圧してもインキをスクリーン印刷刷版のメッシュに十分に落とし込むことが出来ないという問題が生じる、
そのために、印刷パターンに、欠けやかすれが生じやすくなるという問題が生じ、その上、硬化膜の厚さが低下しやすくなって、良好な高精細パターンを形成することは困難になるという問題があった。
【0004】
そこで、高精細な印刷物を作成することが可能となるべく、バインダ成分と、微粒子と、を含有するスクリーン印刷用インキ組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
又、微細開孔パターンを印刷可能であって、スクリーン印刷時のニジミの抑制、レベリング性、及び転写性に優れたスクリーン印刷用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-238876号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2012-017411号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、及び特許文献2に、それぞれ記載されたスクリーン印刷用インキは、いずれも有機微粒子や無機微粒子を含有させることでインキ粘度を高くしたり、更にチクソトロピー性等を与えたりすることによって問題解決を図るものであった。
【0007】
一方、例えば100mm/sec以上のいわゆる高速スクリーン印刷プロセスにおいては、ずり速度が上がるとともに、それに伴い粘度が低下するため、印刷パターンのニジミの発生率が多くなる懸念もあった。
【0008】
更に、インキ粘度を高くした場合、基材との密着性が低下しやすくなるが、線幅やドット径が100μm以下といった高精細なパターンを形成する場合に特に顕著に表れるようになる。
そのため、従来手法のように、印刷インキの粘度増加やチクソトロピック性の制御だけでは、高精細な印刷物を実現することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明の発明者らは鋭意研究した結果、配合成分として、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロース樹脂、所定チクソ剤等を、所定割合で配合してなるゲルワニスを作成し、それに由来してなるスクリーン印刷用インキであれば、印刷時の取扱い性が良好であって、高精細パターンであっても精度よく形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、スクリーン印刷時等の取扱い性が良好であって、高精細パターンを精度よく形成できるスクリーン印刷用インキ、及びその原料としてのゲルワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、配合成分として、下記(A)~(D)成分を含有することを特徴とするゲルワニスが提供され、上述した問題を解決することができる。
(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂 100重量部
(B)熱可塑性アクリル樹脂 10~30重量部
(C)セルロース樹脂 5~30重量部
(D)ひまし油 5~50重量部
【0012】
又、本発明のゲルワニスを構成するにあたり、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)を50,000~100,000の範囲内の値とすることが好ましい。
【0013】
又、本発明のゲルワニスを構成するにあたり、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)を1~4の範囲内の値とすることが好ましい。
【0014】
又、本発明のゲルワニスを構成するにあたり、(B)熱可塑性アクリル樹脂が、ポリメタクリル酸メチル樹脂であることが好ましい。
【0015】
又、本発明のゲルワニスを構成するにあたり、(C)セルロース樹脂が、セルロースアセテート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、及びセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
又、本発明のゲルワニスを構成するにあたり、(D)ひまし油が、水添ひまし油、又は水添ひまし油と、ひまし油との混合物、又は水添ひまし油と、脂肪酸アマイドとの混合物であることが好ましい。
【0017】
又、本発明のゲルワニスを構成するにあたり、ゲルワニスが、(E)成分として有機溶剤を含有し、該ゲルワニス中に含まれる全有機溶剤成分を100%とした場合に、ケトン系有機溶剤、及び炭化水素系有機溶剤の中から選ばれる少なくとも一種の有機溶剤を70%以上含有することが好ましい。
【0018】
又、本発明の別の態様は、上述したいずれかに記載のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキである。
すなわち、スクリーン印刷に適したインキとして、ゲルワニスに対して、着色剤等を、所定量配合してなる熱硬化性組成物が、スクリーン印刷用インキであると定義される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のゲルワニス、及びそれに由来してなるスクリーン印刷用インキによれば、スクリーン印刷時の取扱いが良好であるとともに、基材上にスクリーン印刷し、それを熱硬化させることによって、例えば、線幅やドット径が100μm以下の高精細パターン、更にはそれを含む印刷物等を、精度良くかつ迅速に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、本発明のゲルワニスを適用したスクリーン印刷用インキを、細線(格子状)印刷した場合の50枚目の比較図(写真)であり、
図1(b)は、従来のスクリーン印刷用インキを、細線(格子状)印刷した場合の50枚目の比較図(写真)である。
【
図2】
図2(a)は、本発明のゲルワニスを適用したスクリーン印刷用インキを、細線(格子状)印刷した場合の100枚目の比較図(写真)であり、
図2(b)は、従来のスクリーン印刷用インキを、細線(格子状)印刷した場合の100枚目の比較図(写真)である。
【
図3】
図3(a)は、本発明のゲルワニスのずり速度と粘度との関係性を表す図であり、
図3(b)は、従来のスクリーン印刷インキ用ワニスのずり速度と粘度との関係性を表す図である。
【
図4】
図4は、本発明のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキを用いてなる印刷物の形成方法を説明するために供するフロー図である。
【
図5】
図5(a)~(b)は、本発明のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキの外観評価1、及び外観評価2に対する(B)熱可塑性アクリル樹脂の配合量の影響を説明するために供する図である。
【
図6】
図6(a)~(b)は、本発明のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキの耐屈曲性、及び密着性に対する(C)セルロース樹脂の配合量の影響を説明するために供する図である。
【
図7】
図7(a)~(b)は、本発明のゲルワニスのTi値、及びチクソトロピック値に対する(D)水添ひまし油の配合量の影響を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、配合成分として、下記(A)~(D)成分を含有することを特徴とするゲルワニスである。
(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂 100重量部
(B)熱可塑性アクリル樹脂 10~30重量部
(C)セルロース樹脂 5~30重量部
(D)ひまし油 5~50重量部
以下、第1の実施形態であるゲルワニスの構成要件等について、具体的に説明する。
【0022】
1.(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂
(1)意義
第1の実施形態であるゲルワニスは、(A)成分として、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂を含有することを特徴とする。
この理由は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂は、例えばポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の各種の樹脂成分、及びインキ組成物中に含まれるその他成分との相溶性に優れるため、ピンホール等のない高精細パターンを形成するのに適しているためである。
又、塩化ビニル部位の耐薬品性により硬化膜においても耐薬品性が得られるとともに、酢酸ビニル部位の可塑性により、基材に対する密着性を得ることができるためである。
【0023】
(2)各ポリマーの含有比率
又、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の種類において、各ポリマーの含有比率につき、塩化ビニル樹脂の比率が80~90%の範囲内の値であり、酢酸ビニル樹脂の比率が10~20%の範囲内の値であることが好ましい。
この理由は、このような範囲内とすることで、硬化膜とした場合に適当な硬さが得られるとともに耐ブロッキング性が得られる。更には本発明のゲルワニスによって得られるスクリーン印刷用インキに顔料を含む場合の顔料分散性が良好となるからである。
【0024】
(3)重量平均分子量(Mw)
又、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)を50,000~100,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、重量平均分子量が50,000未満の値であると、硬化後のインキ塗膜にハンドクリームや日焼け止め剤などが浸透しやすくなり、耐薬品性が得られなくなる場合があるためである。
一方、重量平均分子量が100,000を超えるとインキの粘度が高くなりすぎ、スクリーン印刷適性が得られなくなる場合があるためである。
【0025】
したがって、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)を60,000~90,000の範囲内の値とすることがより好ましく、65,000~85,000の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0026】
(4)分子量分布(Mw/Mn)
又、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))の値を1~4の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量分布をこのような範囲内の値とすることで高精細パターンの印刷物等を形成できるとともに、良好な印刷作業性を得ることができるためである。
したがって、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))を1.1~3.5の範囲内の値とすることがより好ましく、1.2~3.0の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0027】
(5)ガラス転移温度(Tg)
又、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)を50℃~100℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、ガラス転移温度が50℃未満であると印刷後のインキの乾燥性が悪くなり、経済的な印刷ができなくなる場合があるためである。
又、インキの硬化後においても、ブロッキングが発生しやすく、高精細な印刷物が得られにくくなる場合があるためである。
一方、ガラス転移温度が100℃を超えると、硬化後のインキ塗膜が硬くなるために割れや欠けが発生しやすくなるとともに、密着性が得られにくくなる場合があるためである。
したがって、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)を55℃~95℃の範囲内の値とすることがより好ましく、60℃~90℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSCやDTM等の熱分析装置を用いて測定することができる。
【0028】
(6)配合量
又、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の配合量を、ゲルワニスの全体量(100重量%)に対して、5~40重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、硬化後の印刷物に耐薬品性が得られるとともに、各種の基材に対しても密着性が得られるためである。
一方、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂が5重量%未満となると、インキ塗膜に耐薬品性が得られず、40重量%を超えるとインキ粘度が高くなりすぎ、スクリーン印刷適正が得られない場合があるためである。
したがって、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の配合量を、ゲルワニスの全体量(100重量%)に対して、5~35重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、10~30重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0029】
2.(B)熱可塑性アクリル樹脂
(1)意義
本発明のゲルワニスは、(B)成分として熱可塑性アクリル樹脂を含有することを特徴とする。
この理由は、熱可塑性アクリル樹脂を含むことで硬化膜とした場合の耐候性が得られるためである。
【0030】
(2)種類
したがって、本発明で用いる熱可塑性アクリル樹脂の種類としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エチル-アクリル酸2-クロロエチル共重合体、アクリル酸nブチル-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等の少なくとも一つが挙げられる。
そして、中でも、少なくともポリメタクリル酸メチル(PMMA)を好適に用いることが好ましい。
この理由は、かかるポリメタクリル酸メチルは、耐紫外線性、透明性、機械的強度等に優れており、更には、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との相溶性が良好なためである。
なお、かかるポリメタクリル酸メチルは、公知のものでよく、通常、過酸化物、アゾ系の重合開始剤の存在下、メタクリル酸メチルモノマを塊状重合して製造することができる。
【0031】
(3)重量平均分子量(Mw)
又、熱可塑性アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)を50,000~150,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、重量平均分子量がこのような範囲内であると、(A)成分である塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との相溶性が良好となり、硬化膜とした場合の耐候性を更に良好にできるからである。
したがって、熱可塑性アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)を60,000~130,000の範囲内の値とすることがより好ましく、70,000~120,000の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0032】
(4)配合量
又、熱可塑性アクリル系樹脂の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、10~30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このような配合割合で含むことで硬化膜とした場合の耐候性を維持したまま、得られる印刷インキの耐熱性を良好にできるためである。
したがって、(B)熱可塑性アクリル系樹脂の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、18~28重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、15~25重量部の範囲内の値にすることが更に好ましい。
【0033】
ここで、
図5を参照して、本発明のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキの外観評価1、及び外観評価2に対する(B)熱可塑性アクリル樹脂の配合量の影響を説明する。
すなわち、
図5の横軸に、熱可塑性アクリル樹脂の配合量(重量部)を採って示してあり、縦軸に、外観評価1、及び外観評価2をそれぞれ採って示してある。
かかる
図5に示すスクリーン印刷用インキの外観評価を示す特性曲線から理解されるように、熱可塑性アクリル樹脂の配合量が特定範囲にあることで、外観評価が良くなる傾向がある。
例えば、熱可塑性アクリル樹脂の配合量が10重量部を超えると外観評価が良好な値を示すことが理解される。一方、熱可塑性アクリル樹脂の配合量が30重量部を超えると、急激に外観評価が悪化することが理解される。
したがって、(B)熱可塑性アクリル樹脂の配合量を、得られる硬化膜の外観評価の観点から(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、18~28重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、15~25重量部の範囲内の値にすることが更に好ましい。
【0034】
3.(C)成分:セルロース樹脂
(1)意義
又、第1の実施形態であるゲルワニスは、(C)成分としてセルロース樹脂を含有することを特徴とする。
この理由は、このようにセルロース樹脂を含有することで、塗膜(硬化膜)の表面に平滑性を与えることができるとともに、良好な耐候性、及び無黄変性を与えることができるためである。
【0035】
(2)種類
又、(C)セルロース樹脂の種類としては特に限定されるものでないが、例えば、セルロースアセテート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、及びセルロースアセテートプロピオネート樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
この理由は、かかるセルロース樹脂を用いることによって、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、及び(B)熱可塑性アクリル樹脂成分と適当に相溶し、塗膜(硬化膜)の表面に平滑性を与えることができ、しかも、各種基材に対する密着性、耐候性、及び無黄変性がいずれも良好になるためである。
又、これらのセルロース樹脂の中でも、酢酸酪酸セルロース樹脂として、セルロースアセテートブチレート樹脂、及びセルロースアセテートプロピオネート樹脂、あるいはいずれか一方であることがより好ましい。
この理由は、酢酸酪酸セルロース樹脂であれば、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、及び(B)熱可塑性アクリル樹脂成分と更に良好に相溶でき、塗膜(硬化膜)の表面に更に優れた平滑性を与えることができるためである。
その上、酢酸酪酸セルロース樹脂であれば、各種基材に対する密着性が更に良好になって、長期に渡る耐湿熱性や無黄変性を維持しやすくなるためである。
【0036】
(3)重量平均分子量(Mw)
又、(C)セルロース樹脂の重量平均分子量(Mw)を10,000~50,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる重量平均分子量が10,000未満の値になると、基材との密着不良を起こしやすくなるとともに硬化膜の平滑性が低下するためである。
一方、重量平均分子量(Mw)が50,000を超えると、硬化膜の表面強度が過度に硬くなり柔軟性が低下する場合があるためである。
したがって、セルロース樹脂の重量平均分子量を15,000~45,000の範囲内の値とすることが好ましく、20,000~40,000の範囲内の値とすることが更に好ましい。
尚、セルロース樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値として算出することができる。
【0037】
(4)配合量
又、(C)セルロース樹脂の配合量につき、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、5~30重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる配合量が5重量部未満では基材との密着不良を起こしやすくなるとともに硬化膜の平滑性が得られにくくなるためである。
一方、かかる配合量が30重量部を超えると、硬化膜の柔軟性が低下するとともに、透明性が得られにくくなる場合があるためである。
したがって、酢酸酪酸セルロース樹脂の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、10~25重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、12~22重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0038】
ここで、
図6を参照して、本発明のゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキの耐屈曲性、及び密着性に対する(C)セルロース樹脂の配合量の影響を説明する。
すなわち、
図6の横軸に、セルロース樹脂の配合量(重量部)を採って示してあり、縦軸に、耐屈曲性、及び密着性をそれぞれ採って示してある。
かかる
図6に示すスクリーン印刷用インキの耐屈曲性、及び密着性を示す特性曲線から理解されるように、セルロース樹脂の配合量が特定範囲にあることで、耐屈曲性、及び密着性が良くなる傾向がある。
例えば、セルロース樹脂の配合量が5重量部を超えると耐屈曲性、及び密着性が良好な値を示すことが理解される。一方、セルロース樹脂の配合量が30重量部を超えると、急激に耐屈曲性、及び密着性が悪化することが理解される。
したがって、(B)セルロース樹脂の配合量を得られる硬化膜の耐屈曲性、及び密着性の観点から(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、10~25重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、12~22重量部の範囲内の値にすることが更に好ましい。
【0039】
4.(D)ひまし油
(1)意義
又、第1の実施形態のゲルワニスは、適当なチクソトロピック性を与えることを目的に、所定の(D)ひまし油を含有することを特徴とする。
すなわち、かかる(D)ひまし油であれば、(A)~(C)成分中でチクソトロピック性を、より少量の配合で、効果的に付与することができるためである。
【0040】
(2)種類
(D)ひまし油としては、精製ひまし油や、精製ひまし油と、エステル系合成油との混合物などが挙げられるが、より具体的には、ひまし油(主成分がリシノール酸の不乾性油)の水添品である水添ひまし油が挙げられる。
これらひまし油(水添ひまし油を含む。)は、材料中に分散した状態で温度をかけることによって膨潤し、網目構造を形成することによってチクソトロピック性等を発現するためである。
また、水添ひまし油であれば、通常、室温で個体であり、印刷時には適当なチクソトロピック性を発揮し、スクリーン印刷刷版上でさらに安定した取扱い性を有するスクリーン印刷用インキを得ることができるため、より好適である。
その上、本発明においては水添ひまし油と、ひまし油との混合物(例えば、重量比8:2~2:8)や、水添ひまし油と、脂肪酸アマイドの混合物(例えば、重量比7:3~3:7)である水添ひまし油アマイドワックスであることがより好ましい。
【0041】
(3)配合量
又、(D)ひまし油の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して5~50重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる配合量が5重量部未満では添加効果が現れず、所望のチクソトロピック性等が得られない場合があるためである。
一方、かかる配合量が50重量部を超えると、塗膜(硬化膜)にタックやブロッキング等の不具合が発生する場合があるためである。
したがって、(D)ひまし油の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、8~45重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、10~40重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0042】
ここで、
図7を参照して、本発明のゲルワニスのTi値、及びチクソトロピック値に対する(D)ひまし油(水添ひまし油)の配合量の影響を説明する。
すなわち、
図7の横軸に、水添ひまし油の配合量(重量部)を採って示してあり、縦軸に、Ti値、及びチクソトロピック値をそれぞれ採って示してある。
かかる
図7に示すゲルワニスのTi値、及びチクソトロピック値を示す特性曲線から理解されるように、水添ひまし油の配合量が特定範囲にあることで、Ti値、及びチクソトロピック値が特定範囲を示す傾向がある。
例えば、水添ひまし油の配合量が5重量部を超えると、Ti値、及びチクソトロピック値が良好な値を示すことが理解される。一方、水添ひまし油の配合量が50重量部を超える値となると、Ti値、及びチクソトロピック値に変化が見られなくなることが理解される。
したがって、(D)水添ひまし油の配合量を、得られるゲルワニスのTi値、及びチクソトロピック値の観点から(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、8~45重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、10~40重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0043】
5.(E)有機溶剤
(1)意義
第1の実施形態のゲルワニスは、(E)成分として有機溶剤を含有することが好ましい。
この理由は、(E)有機溶剤を含有することにより、スクリーン印刷をする際の取扱い性を向上させ、更には、配合成分(A)~(D)の均一混合性を著しく向上させるためである。
したがって、例えば、ゲルワニスの粘度が適当範囲(例えば、10,000~50,000mPa・s(25℃測定))であれば、取扱い性を良好にすることができると言える。
【0044】
(2)種類
又、(E)有機溶剤の種類としては、特に制限されるものではないが、通常、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、コールタールナフサ等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルセロアセ)、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート(ソルフィットAC)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)等のエーテル系溶剤の少なくとも一種が挙げられる。
【0045】
(3)配合量
又、(E)有機溶剤の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して50~500重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる配合量が50重量部未満では組成物の粘度が高くなりすぎて、取扱い性が低下する場合があるためである。
一方、有機溶剤の配合量が500重量部を超えると、逆に、粘度が低くなりすぎて取扱い性が低下するとともに、高精細な印刷物が得られにくいためである。
したがって、有機溶剤の配合量を、(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して、100~450重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、150~400重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0046】
なお、(E)有機溶剤の配合量に関し、ケトン系溶剤、及び炭化水素系溶剤の中から選ばれる一種、又は二種以上の有機溶剤を、用いる有機溶剤の全体量を100%とした場合に70%以上を適用することが好ましい。
この理由は、(A)~(D)成分等の更に良溶媒となるとともに、スクリーン印刷する際の取扱い性等を、更に良好なものとすることができるためである。
したがって、(E)有機溶剤の配合量に関し、ケトン系溶剤、及び炭化水素系溶剤の中から選ばれる一種、又は二種以上の有機溶剤を、用いる有機溶剤の全体量を100%とした場合に80%以上を適用することがさらに好ましい。
【0047】
(4)沸点
又、(E)有機溶剤の沸点(大気圧下)が100℃以上であることが好ましい。
この理由は、所定沸点を有する有機溶剤を使用することによって、スクリーン印刷版上での乾燥を遅らせることができるため、組成物の取扱い、及び印刷作業性が良好となるとともに、印刷時には適当な乾燥条件、例えば、80℃、10~60分の範囲を採用できるためである。
したがって、有機溶剤の沸点を100℃~300℃の範囲内とすることがより好ましく、130℃~270℃の範囲内とすることが更に好ましい。
【0048】
又、より具体的には、エステル系溶剤の沸点が192℃のエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルセロアセ)、146℃のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ケトン系溶剤の沸点が215℃のイソホロン、155℃のシクロヘキサノン、及び炭化水素系溶剤の沸点が175~290℃の重質芳香族系石油ソルベントナフサの中から選ばれる有機溶剤を使用することが好適である。
【0049】
6.ゲルワニスの性状
又、第1の実施形態であるゲルワニスの粘度(測定温度:25℃)を50,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックス(Ti値)を6.0以下の値とすることが好ましい。
そして、0.1/secから100/secへと、ずり速度を上昇させながらせん断した後、100/secから0.1/secへと、ずり速度を降下させながらせん断したときの、0.1/sec時の行きと戻りの粘度の差(以下チクソトロピック値と称する)を2,000mPa・s以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるゲルワニスの粘度、Ti値、及びチクソトロピック値をこのような範囲内の値に調整することによって、スクリーン印刷用インキとした場合のスクリーン印刷適正を良好なものとすることができるためである。
そればかりか、再現性が良く、文字の潰れ、ニジミの発生のない印刷インキを得ることができるためである。
【0050】
したがって、ゲルワニスの粘度を10,000~40,000mPa・sの範囲内の値、Ti値を5.0以下の値とすることがより好ましい。
そして、ずり速度と粘度との関係において、行きと戻りの粘度差(チクソトロピック値)を1,500mPa・s以下の値とすることが更に好ましい。
尚、本発明においてゲルワニスとは、前記の性状を有するものであって、比較的低粘度でありながら流動性の乏しい性状のものをいう。
【0051】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態で得られたゲルワニスに由来してなるスクリーン印刷用インキである。
そして、
図4に示すように、所定のゲルワニスを適用したスクリーン印刷用インキに由来した硬化膜を表面に備えてなる印刷物、及びその製造方法であって、下記工程S1~S4を含むことを特徴とする。
S1:ゲルワニスの準備工程
S2:スクリーン印刷用インキの準備工程
S3:スクリーン印刷用インキの印刷工程
S4:スクリーン印刷用インキの加熱乾燥工程
以下、本発明の第2の実施形態について、
図4に適宜言及しつつ、具体的に述べる。
【0052】
1.ゲルワニスの準備工程(S1)
図4の工程S1で示されるゲルワニスの準備工程(製造方法)は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明のゲルワニスの(A)~(D)成分を配合した後、(E)成分である有機溶剤中にてバタフライミキサー、プラネタリーミキサー、ディゾルバーなどの撹拌機を用いて、撹拌、溶解することにより製造することができる。
尚、その際、撹拌時の熱で60℃まで昇温後、温度をキープしたまま60分以上かけて(D)成分であるひまし油を膨潤溶解させることが好ましい。
又、製造時の作業性を考慮して(A)~(D)成分は、流動性を与えるために(E)成分である有機溶剤の一部を用いてそれぞれ溶解しておくこともできる。
又、濾過工程を行うことによって粗粒子や異物を除去することで、更に均一、高品質なゲルワニスとすることもできる。
【0053】
2.スクリーン印刷用インキの準備工程(S2)
次いで、
図4の工程S2で示されるゲルワニスを適用したスクリーン印刷用インキの準備工程であって、下記(F)~(H)成分を含有するスクリーン印刷用インキである。
(F)着色剤
(G)微粒子
(H)その他(添加剤等)
以下、各構成要件について具体的に説明する。
【0054】
スクリーン印刷用インキには、装飾や隠蔽を目的に(F)成分として着色剤を含有することができる。
着色剤としては、特に限定されるものでなく、有機、無機の何れの顔料も着色剤として用いることができ、白色顔料として例えば、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、タルク、酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム、カオリンクレー、水酸化アルミニウム、アルミナ等を用いることができる。
【0055】
又、黒色顔料としてのカーボンブラック、酸化鉄黒顔料等、赤色顔料としてのキナクリドン系顔料、クロムフタール系顔料、アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料等、黄色顔料としてのアゾ系顔料、イミダゾロン系顔料、チタン黄色顔料等、オレンジ顔料としてのインダスレン系顔料、アゾ系顔料等、青色系顔料としてのフタロシアニン系顔料、群青、紺青等、緑色顔料としてのフタロシアニン系顔料等、紫色顔料としてのジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、パール顔料、蓄光顔料、グリッター、アルミ顔料等を挙げることができ、これら着色剤の一種、又は二種以上を、任意の配合で調色し、所望の色彩にして用いることができる。
又、これら着色剤の配合量は、例えばスクリーン印刷インキ用ゲルワニス100重量部に対して10~70重量部の範囲内とすることができる。
【0056】
又、本発明のスクリーン印刷用インキには、粘性やチクソトロピック性を調整することを目的に有機、無機微粒子を含有することも好ましい。
有機微粒子としては、例えば平均粒径1~15μmのポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ナイロン、アクリル、ポリスチレン、ポリエチレン、及びポリプロピレン等を用いることができる。
【0057】
又、無機微粒子としては、酸化ケイ素微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子などの金属酸化物微粒子、ケイ酸アルミニウム微粒子、ケイ酸マグネシウム微粒子などのケイ酸化合物微粒子、炭酸カルシウム微粒子、炭酸バリウム微粒子などの炭酸金属塩微粒子、窒化チタン微粒子、窒化ケイ素微粒子などの窒化物微粒子、石膏微粒子、クレー微粒子、タルク微粒子、天然雲母微粒子の少なくとも一つが挙げられる。
【0058】
これらの中でも、酸化ケイ素微粒子である含水のシリカ微粒子、又は無水のシリカ微粒子を、より好適に用いることができる。
したがって、その配合量を、スクリーン印刷インキ用ゲルワニス100重量部に対して、1.0~10.0重量部の範囲内とすることができる。
【0059】
又、本発明のスクリーン印刷用インキには粘度、及び印刷適正を調整する目的に、(H)成分として、界面活性剤、表面調整剤、消泡剤、レベリング剤、硬化促進剤、分散剤、光安定剤、流動調整剤、重合禁止剤、酸化重合防止剤等の少なくとも一種の添加剤を使用することができる。
これら添加剤の配合量は、添加剤の種類等によって適宜調整されるが、例えば本発明のゲルワニス100重量部に対して1~10重量部の範囲内とすることができる。
【0060】
又、本発明のスクリーン印刷インキの粘度が50,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックス(Ti値)が6.0以下であることが好ましい。
この理由は、スクリーン印刷インキの粘度、及びTi値がこのような値であればスクリーン印刷適正を良好なものとすることができるとともに、高精細なパターンを含む印刷物をより経済的に得ることができるためである。
したがって、スクリーン印刷用インキの粘度を1,000~45,000mPa・sの範囲内の値とすることが好ましく、5,000~40,000mPa・sの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0061】
又、スクリーン印刷用インキの準備工程(製造方法)は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明のゲルワニスに対して(F)~(H)成分を配合した後、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、ディゾルバーなどの撹拌機を用いて、撹拌、混合することにより製造することができる。
次いで、ビーズミル、3本ロールミルなどの分散機を用いて、更に均一に分散することによって、均一な特性を有するスクリーン印刷用インキを製造することができる。
又、濾過工程を行うことによって粗粒子や異物を除去することで、更に均一、高品質なスクリーン印刷用インキとすることもできる。
【0062】
3.スクリーン印刷用インキの印刷工程(S3)
図4の工程S3で示されるスクリーン印刷用インキを基材上に印刷する場合は、印刷作業性の観点から更に有機溶剤を加えて適性粘度(例えば、10,000~35,000mPa・s(25℃測定))に調整することが好ましい。
尚、スクリーン印刷用インキを印刷するに当たっては、必要に応じて、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー塗布処理等の易接着処理を行ってもよい。又、基材フイルムと本発明のスクリーン印刷用インキとの間に他の層(例えば接着層)を有していてもよい。
【0063】
又、本発明のスクリーン印刷用インキの粘性を調整することで、スクリーン印刷以外の塗布方法を採用することもできる。
より具体的には、公知な印刷方法、例えば、スピンコート法、スプレー法、スライドコート法、ディップ法、バーコート法、ロールコーター法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等を適用することが可能である。
【0064】
又、スクリーン印刷用インキを積層する基材の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、アート紙、コート紙等の紙基材、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アイオノマー樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、TAC(トリアセチルセルロース)樹脂等のプラスチックフイルム、又はガラスから選ばれる少なくとも一種が使用できる。
【0065】
4.スクリーン印刷用インキの加熱乾燥工程(S4)
図4の工程S4で示される加熱乾燥工程は、例えば、熱風乾燥、及び赤外線乾燥等の加熱乾燥方法を選択することができる。
又、乾燥時の加熱温度は、スクリーン印刷用インキを印刷する基材の耐熱性に応じて適宜設定されるが、例えば50℃~150℃の範囲内が好ましく、60℃~120℃の範囲内がより好ましい。
又、乾燥時の加熱時間は、加熱温度等にもよるが、通常、5~120分の範囲であって、10~100分であることがより好ましく、20~90分であることが更に好ましい。
そして、かかる乾燥工程の前、即ち、硬化前の積層厚さを、通常、5~50μmの範囲内とすることが好ましい。
【0066】
又、スクリーン印刷用インキに由来した硬化膜の厚さは、各種用途に応じて適宜変更することができるが、通常、1~30μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、硬化膜の厚さが1μm未満になると、隠蔽性が低下したり、成形加工を施した場合に、塗膜が途切れることなく追従することが困難となる場合があるためである。
一方、硬化膜の厚さが30μmを超えると、レベリング性が著しく低下したり、均一な厚さに硬化させることが困難となる場合があるためである。
したがって、スクリーン印刷用インキに由来した硬化膜の厚さを2~25μmの範囲内とすることがより好ましく、3~20μmの範囲内とすることが更に好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、特に理由なく、これら実施例の記載によって本発明は限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
1.ゲルワニスの製造
(A)成分100重量部に対して、(B)~(E)を下記の割合で含むゲルワニスを、プロペラ攪拌装置を用いて、液温60℃まで昇温させた。
次いで、液温を60℃に維持したまま、60分間の撹拌を行って均一溶液とし、実施例1のゲルワニスとした。
(A)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂 100重量部
(B)熱可塑性アクリル樹脂 20重量部
(C)酢酸酪酸セルロース樹脂 15重量部
(D)水添ひまし油 25重量部
(E)有機溶剤(イソホロン) 300重量部
【0069】
2.スクリーン印刷用インキの製造
次いで、得られたゲルワニス100重量部に対して、(F)~(H)を下記の割合で含むスクリーン印刷用インキを、プロペラ撹拌装置を用いて15分間の撹拌を行った後に3本ロールミルによる混錬を経て実施例1のスクリーン印刷用インキとした。
(F)着色剤(カーボンブラック) 20重量部
(G)消泡剤(シリコン系消泡剤) 1重量部
(H)微粒子(含水シリカ) 1重量部
【0070】
3.印刷物の作成
次いで、得られたスクリーン印刷用インキを、基材として処理PETフィルム(東山フィルム(株)製)に対して、スクリーン印刷した。
すなわち、スクリーン印刷機((株)セリアコーポレーション製半自動スクリーン印刷機)を用い、420メッシュのスクリーン(線幅60μm以下の線画を含む)を使用して、スキージ速度150mm/sec、スキージ印厚0.2MPaでスクリーン印刷を行った。
次いで、80℃、30分間の加熱乾燥を行って、硬化膜を形成し、高精細パターンを含む印刷物を作成した。
【0071】
4.評価
(1)粘度、Ti値、チクソトロピック値の測定
得られたゲルワニスの粘度は、粘度計(ブルックフィールド社製、B型粘度計)にて、回転数6rpmで、Ti値は、同粘度計にて、回転数6rpmと回転数60rpmとの比から求めた(共に測定温度は25℃)。
又、チクソトロピック値は0.1/secから100/secへと、ずり速度を上昇させながらせん断した後、100/secから0.1/secへと、ずり速度を降下させながらせん断したときの、0.1/sec時の行きと戻りの粘度の差として算出した。
【0072】
(2)印刷物の外観評価1
得られたスクリーン印刷用インキにつき、半自動スクリーン印刷機を用い、線幅60μm以下の線画を含む所定印刷を繰り返した。
そして、得られた50枚目の印刷物の外観を光学顕微鏡(KEYENCE社製、倍率:×100倍)にて観察し、下記基準に沿って評価した。
◎:印刷物に、ニジミ、欠けが無く良好である。
○:わずかに印刷物のニジミ、欠けがあるが良好である。
△:印刷物にニジミ、欠けがあり不良である。
×:印刷物にニジミ、欠けが目立ち不良である。
【0073】
(3)印刷物の外観評価2
得られたスクリーン印刷用インキにつき、半自動スクリーン印刷機を用い、線幅60μm以下の線画を含む所定印刷を繰り返した。
そして、得られた100枚目の印刷物の外観を光学顕微鏡(KEYENCE社製、倍率:×100倍)にて観察し、下記基準に沿って評価した。
◎:印刷物に、ニジミ、欠けが無く良好である。
○:わずかに印刷物のニジミ、欠けがあるが良好である。
△:印刷物にニジミ、欠けがあり不良である。
×:印刷物にニジミ、欠けが目立ち不良である。
【0074】
(4)スクリーン印刷用インキの取扱い性の評価
得られたスクリーン印刷用インキにつき、半自動スクリーン印刷機を用い、線幅60μm以下の線画を含む所定印刷を100枚以上繰り返した。
次いで、半自動スクリーン印刷機による印刷作業を中断し、スクリーン刷版上にインキを被せた状態で60分間放置後に、所定印刷を再開させて、スクリーン印刷用インキの取扱い性を下記基準に沿って評価した。
◎:インキの版乾きが無く、問題なく作業が再開できた。
○:わずかなインキの版乾きはあったが、問題なく作業が再開できた。
△:インキの版乾きがあり、印刷物が不良であった。
×:インキの版乾きにより、印刷再開が困難であった。
【0075】
(5)密着性の評価
JIS-K5600-5-6(1999)に準拠した付着性クロスカット法に準じ、得られた硬化膜の密着性の評価を行った。
即ち、得られた硬化膜のベタパターンと細線パターンの混在する箇所に、1mm幅で10×10(合計100個)の碁盤目をカッターで形成した。
次いで、碁盤目部分にセロハンテープ(登録商標)を貼着し、更に引き剥がした後、碁盤目の剥離具合から、以下の基準で密着性を評価した。
◎:碁盤目の剥離が0個/100個であった。
○:碁盤目の剥離が1~10個/100個であった。
△:碁盤目の剥離が11~71個/100個であった。
×:碁盤目の剥離が70個/100個以上であった。
【0076】
(6)耐屈曲性(成形加工性)の評価
JIS K5600-5-1:1999に準拠した円筒形マンドレル法に準じ、直径10mmの鉄棒(10本)に硬化膜が外側になるように折り返して巻きつけ、その巻きつけた部分の硬化膜にクラックが生じるか否かを目視で観察し、以下の基準に沿って耐屈曲性(成形加工性)を評価した。
◎:全ての鉄棒(10本)において、クラックが確認されなかった。
〇:ほぼ全ての鉄棒(8~9本/10本)において、クラックが確認されなかった。
△:概ねの鉄棒(5~7本/10本)において、クラックが確認されなかった。
×:わずかな鉄棒(0~4本/10本)において、クラックが確認されなかった。
【0077】
[実施例2~8、比較例1~6]
実施例2~8、及び比較例1~6において、表1、及び表2に示すように、配合組成や配合種類を変えて、所定のゲルワニスに由来したスクリーン印刷用インキを調整した後、実施例1と同様に硬化膜を形成し、評価した。
なお、用いた原材料を下記に記す。
A-1:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体
(Mw75,000、Mw/Mn2.1、Tg70℃)
A-2:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体
(Mw70,000、Mw/Mn2.5、Tg78℃)
B-1:ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
(Mw95,000、Tg100℃)
C-1:セルロースアセテートブチレート樹脂
(Mw35,000、Tg130℃)
C-2:セルロースアセテートプロピオネート樹脂
(Mw40,000、Tg150℃)
D-1:水添ひまし油系増粘剤(凝固点85℃)
D-2:脂肪酸アマイド系増粘剤
D-3:精製ひまし油(凝固点-22℃)
E-1:イソホロン(ケトン系、沸点215℃)
E-2:重質芳香族系石油ソルベントナフサ(炭化水素系、沸点240~290℃)
E-3:メチルエチルケトン(ケトン系、沸点80℃)
【0078】
【0079】
【0080】
すなわち、表1に示すように、実施例1~8によれば、本発明の所定配合組成、及び配合量の構成要件を満足することから、スクリーン印刷時等の作業性が良好になって、線幅が60μm程度の高精細パターンを含む印刷物であっても精度よく形成することができた。
【0081】
それに対して、表2に示すように、比較例1は、熱可塑性アクリル樹脂の配合量が過度に少ないことから、外観評価において満足する結果を得られなかった。
又、同じく表2に示すように、比較例2は、セルロース樹脂の配合量が多量であることから、硬化膜を形成した際の密着性として、良好な結果を得られなかった。
又、同じく表2に示すように、比較例3は、ひまし油の配合量が極端に少なく、好適なチクソトロピック性等を得られなかったため、外観評価及び取扱性の評価において満足する結果を得られなかった。
又、同じく表2に示すように、比較例4は、ひまし油の配合量が多量であり、硬化膜形成時に、タックやブロッキング等の不具合が発生したため、外観評価等において満足する結果を得られなかった。
又、比較例5は、同じく表2に示すように、セルロース樹脂の配合量を非常に少量としたことで、硬化膜の平滑性が低下し、外観評価や、硬化膜の耐屈曲性の評価において、良好な結果を得られなかった。
又、比較例6は、熱可塑性アクリル樹脂の配合量が多量であることから、外観評価及び取扱性の評価において満足する結果を得られなかった。
すなわち、比較例1~6においては、本発明のゲルワニスの配合組成、及び配合量に関する構成要件を満たさないスクリーン印刷用インキを用いることとなり、表2に示すように、各種評価の全てを満足する結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のゲルワニス、及びそれに由来してなるスクリーン印刷用インキによれば、印刷時の取扱い性に優れるとともに、例えば、線幅やドット径が100μm以下の高精細パターンを含む印刷物であっても精度よく形成することが可能となった。
したがって、特に、表面加飾が求められる物品、例えば、携帯情報端末、パソコン、エアコン、テレビ、カメラなどの筐体、各種家電製品の操作パネル、自動車内外装材、オートバイや自転車の外装材、化粧品容器、トイレタリー用品、玩具、などに、好適に用いることが期待される。