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特許7269661Mnフェライト粉末、樹脂組成物、電磁波シールド材、電子材料および電子部品
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  • 特許-Mnフェライト粉末、樹脂組成物、電磁波シールド材、電子材料および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】Mnフェライト粉末、樹脂組成物、電磁波シールド材、電子材料および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20230427BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230427BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230427BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20230427BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20230427BHJP
   H01F 1/37 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C08L101/00
C08K3/22
H01F1/34 140
H01F1/36
H01F1/37
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020500436
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2019004301
(87)【国際公開番号】W WO2019159797
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018023565
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】石井 一隆
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 哲也
(72)【発明者】
【氏名】桑原 翔
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-184840(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212997(WO,A1)
【文献】特開2016-060682(JP,A)
【文献】特開平11-130524(JP,A)
【文献】特開2009-099969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C08L 101/00
C08K 3/22
H01F 1/34
H01F 1/36
H01F 1/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のフェライト粒子を含み、
体積平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)が0.1体積%以上50.0体積%以下であることを特徴とするMnフェライト粉末(但し、タップ密度/真比重の値が0.65以上である磁性粉末を除く)
【請求項2】
BET比表面積が0.35m/g以上9m/g以下である請求項1記載のMnフェライト粉末。
【請求項3】
前記フェライト粒子は、真球状または断面が6角形以上の多角形である形状を有するものである請求項1または2に記載のMnフェライト粉末。
【請求項4】
Mnの含有率が4質量%以上13質量%以下、Feの含有率が60質量%以上68質量%以下であること請求項1~3のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末と、樹脂材料とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末と、樹脂材料とを含む材料で構成されたことを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末を含む材料で構成されていることを特徴とする電子材料。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末を含む材料で構成されていることを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mnフェライト粉末、樹脂組成物、電磁波シールド材、電子材料および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト粉末を電磁波シールド材に用いることが知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0003】
フェライト粉末を用いた電磁波シールド材としては、フェライト粉末を含む樹脂組成物をシート状に成形したものが考えられる。シート状の電磁波シールド材を電磁波の遮蔽を必要とするパソコン、携帯電話等のデジタル電子機器に貼付することにより、電子機器外部への電磁波の漏えいを防止したり、電子機器内部の回路間における電磁波の相互干渉を防止したり、外部の電磁波による電子機器の誤動作を防止したりすることができる。
【0004】
フェライト粉末を電子機器用の電磁波シールドとして用いるには、幅広い周波数帯域の電磁波を遮蔽できることが望まれる。特に、近年、高周波数帯域での優れた電磁波遮蔽性が求められているが、従来の電磁波シールド材では、高周波数帯域(例えば、1GHz超12GHz以下の周波数帯域)での電磁波遮蔽性が不十分であった。
【0005】
また、特定の大きさ、結晶構造のフェライト粒子も知られているが(例えば、特許文献4)、このようなフェライト粒子を用いた場合でも、満足のいく結果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2006-286729号公報
【文献】日本国特開2016-060682号公報
【文献】日本国特開2002-25816号公報
【文献】日本国特開2017-178718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、1GHz以下の低周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有し、かつ1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有するMnフェライト粉末を提供すること、1GHz以下の低周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有し、かつ1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有する電磁波シールド材、電子材料、電子部品を提供すること、また、前記電磁波シールド材、前記電子材料、前記電子部品の製造に好適に用いることができる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
<1>
複数個のフェライト粒子を含み、
体積平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)が0.1体積%以上50.0体積%以下であることを特徴とするMnフェライト粉末(但し、タップ密度/真比重の値が0.65以上である磁性粉末を除く)。
<2>
BET比表面積が0.35m /g以上9m /g以下である<1>記載のMnフェライト粉末。
<3>
前記フェライト粒子は、真球状または断面が6角形以上の多角形である形状を有するものである<1>または<2>に記載のMnフェライト粉末。
<4>
Mnの含有率が4質量%以上13質量%以下、Feの含有率が60質量%以上68質量%以下であること<1>~<3>のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末。
<5>
<1>~<4>のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末と、樹脂材料とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
<6>
<1>~<4>のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末と、樹脂材料とを含む材料で構成されたことを特徴とする電磁波シールド材。
<7>
<1>~<4>のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末を含む材料で構成されていることを特徴とする電子材料。
<8>
<1>~<4>のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末を含む材料で構成されていることを特徴とする電子部品。
本発明は、上記<1>~<8>に係る発明であるが、以下、それ以外の事項(例えば、下記[1]~[8])についても記載している。
【0009】
[1]
複数個のフェライト粒子を含み、
体積平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)が0.1体積%以上50.0体積%以下であることを特徴とするMnフェライト粉末。
[2]
BET比表面積が0.35m/g以上9m/g以下である[1]記載のMnフェライト粉末。
[3]
前記フェライト粒子は、真球状または断面が6角形以上の多角形である形状を有するものである[1]または[2]に記載のMnフェライト粉末。
[4]
Mnの含有率が4質量%以上13質量%以下、Feの含有率が60質量%以上68質量%以下であること[1]~[3]のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末。
[5]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末と、樹脂材料とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
[6]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末と、樹脂材料とを含む材料で構成されたことを特徴とする電磁波シールド材。
[7]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末を含む材料で構成されていることを特徴とする電子材料。
[8]
[1]~[4]のいずれか1項に記載のMnフェライト粉末を含む材料で構成されていることを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1GHz以下の低周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有し、かつ1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有するMnフェライト粉末を提供すること、1GHz以下の低周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有し、かつ1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有する電磁波シールド材、電子材料、電子部品を提供すること、また、前記電磁波シールド材、前記電子材料、前記電子部品の製造に好適に用いることができる樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2に係る成形体についての電磁波シールド能力(伝送減衰率測定方法)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細な説明をする。
《Mnフェライト粉末》
まず、本発明のMnフェライト粉末について説明する。
【0013】
ところで、フェライト粉末を含む電磁波シールド材が広く用いられているが、従来の電磁波シールド材では、近年の高周波数帯域での電磁波遮蔽性に対する要求に十分に応えることができていなかった。
【0014】
そこで、本発明者は、上記のような問題を解決する目的で鋭意研究を行い、その結果、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明のMnフェライト粉末(以下、単に「フェライト粉末」とも言う)は、複数個のフェライト粒子を含み、体積平均粒径が1μm以上10μm以下であり、2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)が0.1体積%以上50.0体積%以下であることを特徴とする。
【0016】
これにより、1GHzより高い周波数においてμ’が1を下回る周波数のポイントを高い側にシフトさせることができ、結果として、1GHzより高い高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有するフェライト粉末を提供することができる。
また、本発明のフェライト粉末は、1GHz以下の低周波数領域の電磁波に対しても優れた遮蔽性を有する。
【0017】
また、上記のような粒径の条件を満足すると、フェライト粉末や当該フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さを優れたものとすることができる。その結果、例えば、フェライト粉末を含む電磁波シールド材等(電子材料、電子部品等を含む。以下、同様。)の生産性を優れたものとすることができる。また、電磁波シールド材等の各部位での不本意な組成のばらつきの発生を効果的に防止することができる。また、優れた成形性を確保しつつ、電磁波シールド材等におけるフェライト粉末の充填率(含有率)を高いものとすることができる。以上のようなことから、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について遮蔽性に優れた電磁波シールド材等の製造に好適に用いることができる。
【0018】
また、上記のような組成を有することにより、高い透磁率と低い保磁力とを高いレベルで両立することができる。
【0019】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく特性が得られない。
【0020】
例えば、フェライト粉末の体積平均粒径(具体的には、フェライト粉末を構成する粒子全体の体積平均粒径、以下同様)が前記下限値未満であると、フェライト粉末の流動性や、フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性が低下するとともに、粒子の凝集が生じやすくなり、フェライト粉末を用いて製造される電磁波シールド材等の信頼性(1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波についての遮蔽性を含む)を十分に優れたものとすることができない。
【0021】
また、フェライト粉末の体積平均粒径が前記上限値を超えると、フェライト粒子間の空隙が大きくなり、空隙に充填されるフェライト粒子が不足することで空隙が残りやすくなりなってしまい、透磁率が上がりにくくなる。
【0022】
また、体積平均粒径が1μm以上10μm以下でない場合、1MHz~1GHzにおける透磁率も大きくすることができない。
【0023】
また、フェライト粉末において2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)が下限値を下回ると、フェライト粉末としての透磁率を十分に優れたものとすることができなくなり、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波についての吸収性を十分に優れたものとすることができない。
【0024】
また、フェライト粉末において2.106μmにおける積算体積%が前記上限値を超えると、フェライト粉末の流動性や、フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性が低下するとともに、粒子の凝集が生じやすくなり、フェライト粉末を用いて製造される電磁波シールド材等の信頼性(1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波についての遮蔽性を含む)を十分に優れたものとすることができない。
【0025】
また、フェライト粉末において2.106μmにおける積算体積%が前記下限値を下回ると、フェライト粉末としての透磁率を十分に優れたものとすることができず、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波の吸収性を十分に優れたものとすることができない。また、フェライト粉末を用いて製造される電磁波シールド材等において、表面に不本意な凹凸が生じやすくなる。
【0026】
また、フェライト粉末が、Mn系の組成を有していないと、Mnフェライト粉末の製造時において、溶射を行う際にフェライト粒子中にFe2+が大量に生成し、溶射後酸化しやすくなり磁気特性が劣るという問題を生じる。Fe2+の含有量は0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
フェライト粉末中のFe2+の含有量は、過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定により求めるものとする。
【0027】
なお、本明細書に記載の粒度分布は体積粒度分布を意味し、体積平均粒径、および、粒度分布(体積粒度分布)は、以下のような測定により求めるものとする。すなわち、まず、試料としてのフェライト粉末:10gと水:80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴添加する。次いで、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い分散を行う。超音波ホモジナイザーとしてのSMT.Co.LTD.製UH-150型において、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行う。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD-7500nano)に導入し、屈折率1.70-0.50i、吸光度が0.04~0.12の条件で測定し、付属ソフトウエアの粒子径分割101CHで自動的に解析し、体積平均粒径、粒度分布(体積粒度分布)および、2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)の測定を行う。
【0028】
また、周波数が1GHz超12GHz以下の領域における透磁率(複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ’’)は、以下のようにして求めるものとする。
すなわち、エポキシ樹脂30質量部にフェライト粉末70質量部を混合した後、内径1.8mm、長さ100mmの円柱状の金型に注入した後、加熱硬化させる。金型を室温に戻したのち、金型から丸棒状のサンプルを取り出し、透磁率測定用サンプルとする。
そして、前記サンプルを共振器にセットし、空洞共振器(関東電子応用開発社製のSバンド用およびCバンド用)とネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製E5071C)とを用いて透磁率を測定し、得られた値をフェライト粉末の透磁率の値として採用するものとする。
【0029】
フェライト粉末の体積平均粒径は、1μm以上10μm以下であればよいが、1μm以上5μm以下であるのが好ましく、1μm以上3.5μm以下であるのがより好ましく、1μm以上3μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0030】
フェライト粉末中において、2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)は、0.1体積%以上50.0体積%以下であればよいが、0.1体積%以上30.0体積%以下であるのが好ましく、0.1体積%以上20.0体積%以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0031】
フェライト粉末を構成するフェライト粒子の粒径は1nm以上2106nm(2.106μm)以下であることが好ましい。粒径1nm以上2106nm以下のフェライト粒子は、通常、単結晶の粒子(単結晶フェライト粒子)であるが、多結晶の粒子(多結晶フェライト粒子)であっても良い。
単結晶の確認方法はTEMを用いて上記粒径の粒子のみが複数の粒子が存在する視野で制限視野電子回折像を撮影し、得られた画像において斑点状のパターンが円環状のパターンと同等か同等以上に明確に出ていることにより判別することができる。(日立ハイテクノロジーズ社製HF-2100、Cold-FE-TEMを用いてVacc:200kV、100000倍で撮影した。
フェライト粉末を構成する単結晶フェライト粒子の粒径は、1nm以上2000nm以下であるのが好ましく、10nm以上1000nm以下であるのがより好ましく、10nm以上500nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0032】
本発明のフェライト粉末は、Mnの含有率が4質量%以上13質量%以下、Feの含有率が60質量%以上68質量%以下であるのが好ましい。
これにより、焼成時(溶射時)に磁気特性を容易に調整することができる。
【0033】
フェライト粉末中におけるMnの含有率は、4質量%以上13質量%以下であるのが好ましいが、4質量%以上11質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0034】
また、本発明のフェライト粉末中におけるFeの含有率は、60質量%以上68質量%以下であるのが好ましいが、60質量%以上65質量%以下であるのがより好ましく、61質量%以上65質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0035】
Mnフェライトは、金属成分として、Fe、Mnのみを含むことが望ましい。上記観点から、Mnフェライト中に含まれるFe、Mn、O以外の全成分(元素)の含有率は、不純物量程度を超えて存在しないことが望ましい。
具体的には、Mnフェライト中に含まれるFe、Mn、O以外の全成分(元素)の含有率は、0.1質量%未満であるのが好ましく、0.05質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることが更に好ましい。
【0036】
フェライト粉末を構成する各金属元素の含有量は、ICP分析装置を用いた測定により求めるものとする。
より具体的には、フェライト粉末0.2gを秤量し、純水60mlに1Nの塩酸20mLおよび1Nの硝酸20mLを加えたものを加熱し、フェライト粉末を完全溶解させた水溶液を準備し、その後、当該水溶液について、ICP分析装置(島津製作所製ICPS-1000IV)を用いた測定を行うことにより、各金属元素の含有量を求めることができる。
【0037】
フェライト粒子の形状は、特に限定されないが、真球状または断面が6角形以上の多角形である形状を有するものであるのが好ましい。
【0038】
これにより、フェライト粉末を用いて製造される電磁波シールド材等において、フェライト粉末の充填率をより高くすることができ、電磁波シールド材等についての電磁波の吸収性(特に、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波の吸収性)をより向上させることができる。
【0039】
なお、本明細書において、真球状とは、真球または十分に真球に近い形状のことを言い、具体的には、球状率が1以上1.2以下のことをいう。
球状率は、次のようにして求めるものとする。
【0040】
まず、走査型電子顕微鏡(FE-SEM(SU-8020、日立ハイテクノロジー社製))を用いて、倍率1万~20万倍でフェライト粒子を撮影する。そして、撮影したSEM画像から、フェライト粒子について、外接円直径、内接円直径を求め、その比(外接円直径/内接円直径)を球状率として求める。2つの直径が同一である場合、すなわち、真球である場合、この比が1となる。
【0041】
なお、倍率はフェレ径(粒径)が500nm以下の粒子を撮影する場合は10万倍から20万倍で撮影することが好ましく、フェレ径(粒径)が500nm以上3μm以下の場合は1万倍から10万倍で撮影することが好ましく、3μmよりも大きい粒子を撮影する場合は1000倍から1万倍程度で撮影することが好ましい。
【0042】
さらに、フェライト粉末をエポキシ樹脂等に包埋、硬化させた後、イオンミリング装置を用いてフェライト粉末の断面サンプルを作製し、上記の倍率で撮影し球状率を算出してもよい。
【0043】
また、フェライト粉末を構成する粒子(フェライト粒子)のうち、真球状をなすものの割合は、90個数%以上であるのが好ましく、91個数%以上であるのがより好ましく、93個数%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
上記の割合は、画像解析装置にて求めるものとする。
具体的には、FE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製SU-8020に堀場製作所製E-MAX(EDX)を組み合わせて、EDXの粒子形状測定機能を用いて測定することができる。
【0044】
フェライト粉末を構成する粒子(フェライト粒子)の平均球状率は、1以上1.14以下であるのが好ましく、1以上1.10以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0045】
平均球状率は、フェライト粉末から無作為に抽出した100個の粒子(フェライト粒子)について求めた球状率の平均値を採用することができる。
【0046】
フェライト粒子の形状は、断面が6角形以上の多角形である形状であることが好ましい。
フェライトの断面形状は、フェライト粉末を樹脂に包埋させ、イオンミリング装置で断面加工を行ったものをFE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製SU-8020)により測定するものとする。
【0047】
フェライト粉末のBET比表面積(具体的には、フェライト粉末を構成する粒子全体のBET比表面積、以下同様)は、0.35m/g以上9m/g以下であるのが好ましく、0.35m/g以上8m/g以下であるのがより好ましく、0.5m/g以上8m/g以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
これにより、電磁波の遮蔽性(特に、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波の遮蔽性)を特に優れたものとしつつ、フェライト粉末を用いて製造される電磁波シールド材等において、フェライト粉末と樹脂材料との密着性を特に優れたものとし、電磁波シールド材等の耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0049】
これに対し、フェライト粉末を構成する粒子全体のBET比表面積が前記下限値未満であると、例えば、フェライト粉末を用いて製造される電磁波シールド材等において、フェライト粉末と樹脂材料との密着性を優れたものとすることが困難となり、電磁波シールド材等の耐久性が低下する場合がある。
【0050】
また、フェライト粉末を構成する粒子全体のBET比表面積が前記上限値を超えると、電磁波の遮蔽性(特に、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波の遮蔽性)が低下する可能性がある。
【0051】
なお、BET比表面積は、比表面積測定装置(型式:Macsorb HM model-1208(マウンテック社製))を用いた測定により求めるものとする。
【0052】
フェライト粉末のタップ密度は、0.5g/cm以上3.5g/cm以下であるのが好ましく、0.5g/cm以上3.4g/cm以下であるのがより好ましい。
【0053】
これにより、粒径の小さい粒子と、比較的大きな粒子とを好適に混在させることができ、粒径の大きな粒子の隙間に粒径の小さい粒子を好適に入り込ませ、電磁波シールド材等中におけるフェライト粉末の充填量を高くしやすくなる。
【0054】
なお、本明細書中において、タップ密度とは、JIS Z 2512-2012に準拠した測定により求められる密度のことをいう。
タッピング装置としては、USPタップ密度測定装置(ホソカワミクロン社製パウダテスタPT-X)等を用いるものとする。
【0055】
フェライト粉末の飽和磁化は、45emu/g以上95emu/g以下であるのが好ましい。
このような条件を満足するフェライト粉末は、単位体積当たりの磁気モーメントが大きく、電磁波シールド材等のフィラーとして好適である。
【0056】
フェライト粉末の残留磁化は、0.5以上12emu/g以下であるのが好ましい。
これにより、樹脂組成物としたときのフェライト粉末の分散性をより確実に優れたものとすることができる。
フェライト粉末の保磁力は、25Oe以上80Oe以下であるのが好ましい。
【0057】
上記飽和磁化、残留磁化、保磁力は、振動試料型磁気測定装置(型式:VSM-C7-10A(東英工業社製))を用いた測定により求めるものとする。より具体的には、まず、測定試料を、内径5mm、高さ2mmのセルに詰めて振動試料型磁気測定装置にセットし、その後、印加磁場を加え、5K・1000/4π・A/m(=5kOe)まで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、記録紙上にヒステリシスカーブを作製する。そして、このカーブのデータから印加磁場が5K・1000/4π・A/mにおける飽和磁化、残留磁化、保磁力を求めることができる。
【0058】
フェライト粉末の25℃における電気抵抗率(「体積抵抗」ともいう)は、1×10~1×1012Ω・cmであるのが好ましく、1×10~1×1010Ω・cmであるのがより好ましい。
体積抵抗の値は、以下のようにして求めた。すなわち、まず、内径22.5mmの底部に電極を有するテフロン製シリンダーに得られたフェライト粉末を高さが4mmになるように投入し、内径と同じサイズの電極を上部より差し込み、さらに上から1kgの荷重をかけた状態で底部と上部の電極を測定装置(ケースレー社製6517A型を用いた)に接続し、抵抗を測定した。当該測定により得られた抵抗値、内径および厚さを用いて体積抵抗を算出した。
【0059】
これにより、例えば、樹脂中にフェライト粒子を分散させて電磁波シールド材等(樹脂成形体)を製造した場合に、当該電磁波シールド材等の体積抵抗を高い状態を維持することがき、電圧がかかる場所の近傍で使っても電流がリークしにくい。
【0060】
本発明のフェライト粉末中において、2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)は、0.1体積%以上50.0体積%以下であるが、粒径が2.106μm(2106nm)より大きいフェライト粒子を含んでいても良い。
粒径が2106nmより大きいフェライト粒子としては、特に限定されないが、例えば、粒径2106μmより大きいフェライト粒子を挙げることができ、多結晶フェライト粒子が好ましい。
【0061】
フェライト粉末は、フェライト粒子以外の粒子を含んでいても良く、含んでいなくても良い。
フェライト粉末を構成する粒子全体は、フェライト粒子のみからなることが好ましい。
【0062】
フェライト粒子は、その表面に被膜(表面処理層)が設けられていてもよい。
これにより、例えば、フェライト粒子(フェライト粉末)の絶縁性を向上させることができる。また、例えば、フェライト粉末の樹脂等への分散性を向上させることができる。
【0063】
例えば、フェライト粒子は、カップリング剤で表面処理されたものであってもよい。
これにより、例えば、フェライト粉末の樹脂等への分散性を高めることができる。
【0064】
カップリング剤としては、例えば、各種シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等を用いることができる。
【0065】
特に、フェライト粒子がシランカップリング剤で処理されたものであると、フェライト粉末は、電気抵抗率について好適な条件をより確実に満足するものとなる。また、フェライト粒子の凝集をより効果的に防止することができ、フェライト粉末や当該フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さを特に優れたものとすることができる。また、シランカップリング剤と前述したフェライトとの親和性との関係から、母粒子としてのフェライト粒子に対して、各部位に対しより均一にシランカップリング剤による表面処理を施すことができる。
【0066】
シランカップリング剤としては、例えば、シリル基および炭化水素基を有するシラン化合物を用いることができるが、特に、前記アルキル基として炭素数が8以上10以下のアルキル基を有するものであるのが好ましい。
【0067】
これにより、フェライト粉末は、電気抵抗率について好適な条件をさらに確実に満足するものとなる。また、フェライト粒子の凝集をさらに効果的に防止することができ、フェライト粉末や当該フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをさらに優れたものとすることができる。また、シランカップリング剤と前述したフェライトとの親和性との関係から、母粒子としてのフェライト粒子に対して、各部位に対しさらに均一にシランカップリング剤による表面処理を施すことができる。
【0068】
シランカップリング剤による表面処理量は、シランカップリング剤換算で、フェライト粒子(母粒子)に対して0.05質量%以上2質量%以下であるのが好ましい。
【0069】
また、フェライト粒子は、表面をAl化合物で表面処理されていてもよい。
これにより、フェライト粉末を用いて成形された成形体(例えば、電磁波シールド材等)中においてフェライト粒子同士が接触しにくくなるので電気抵抗を高めることができる。
【0070】
Al化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0071】
Al化合物による表面処理量は、Al換算で、フェライト粒子(母粒子)に対して0.2質量%以上1質量%以下であるのが好ましい。
【0072】
また、フェライト粒子の表面処理に用いることのできるその他の表面処理剤としては、例えば、リン酸系化合物、カルボン酸、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0073】
リン酸系化合物としては、例えば、ラウリルリン酸エステル、ラウリル-2リン酸エステル、ステアレス-2リン酸、2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸のリン酸エステル等を挙げることができる。
【0074】
カルボン酸としては、例えば、炭化水素基と、カルボキシル基とを有する化合物(脂肪酸)を用いることができる。このような化合物の具体例としては、デカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、cis-9-オクタデセン酸等を挙げることができる。
【0075】
フッ素系化合物としては、例えば、上述したようなシランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された構造を有する化合物(フッ素系シラン化合物、フッ素系リン酸化合物、フッ素置換脂肪酸)等が挙げられる。
【0076】
《フェライト粉末の製造方法》
次に、本発明に係るフェライト粉末の製造方法について説明する。
本発明のフェライト粉末は、いかなる方法で製造してもよいが、例えば、以下に述べるような方法により、好適に製造することができる。
【0077】
本発明のフェライト粉末は、例えば、所定の組成に調製したフェライト原料を、大気中で溶射して、次いで急冷凝固することにより好適に製造することができる。
この方法では、フェライト原料としては、造粒物を好適に用いることができる。
【0078】
フェライト原料を調製する方法は、特に限定されず、例えば、乾式による方法を用いてもよいし、湿式による方法を用いてもよい。
【0079】
フェライト原料(造粒物)の調製方法の一例を挙げると以下の通りである。
すなわち、製造すべきフェライト粉末の組成に対応するように、金属元素を含む複数種の原料を秤量、混合した後、水を加えて粉砕しスラリーを作製する。作製した粉砕スラリーをスプレードライヤーで造粒して、分級して所定粒径の造粒物を調製する。
【0080】
また、フェライト原料(造粒物)の調製方法の他の一例を挙げると以下の通りである。
すなわち、製造すべきフェライト粉末の組成に対応するように、金属元素を含む複数種の原料を秤量、混合した後、乾式粉砕を行い、各原材料を粉砕分散させ、その混合物をグラニュレーターで造粒し、分級して所定粒径の造粒物を調製する。
【0081】
上記のようにして調製された造粒物を大気中で溶射してフェライト化する。
溶射には、可燃性ガス燃焼炎として燃焼ガスと酸素との混合気体を用いることができる。
【0082】
燃焼ガスと酸素との容積比は、1:3.5以上1:6.0以下であるのが好ましい。
これにより、揮発した材料の再析出による粒径が比較的小さいフェライト粒子の形成を好適に進行させることができる。また、最終的に得られるフェライト粒子の形状(例えば、BET比表面積等)を好適に調整することができる。また、後の工程での分級等の処理を省略または簡略化することができ、フェライト粉末の生産性をさらに優れたものとすることができる。また、後の工程での分級により除去する粒子の割合をより少ないものとすることができ、フェライト粉末の収率をさらに優れたものとすることができる。
【0083】
例えば、燃焼ガス10Nmhrに対して酸素35Nmhr以上60Nmhr以下の割合で用いることができる。
【0084】
溶射に用いる燃焼ガスとしては、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等が挙げられる。中でも、プロパンガスを好適に用いることができる。
【0085】
また、造粒物を可燃性ガス中に搬送するために、造粒物搬送ガスとして窒素、酸素、空気等を用いることができる。
【0086】
搬送される造粒物の流速は、20m/秒以上60m/秒以下であるのが好ましい。
また、前記溶射は、温度1000℃以上3500℃以下で行うのが好ましく、2000℃以上3500℃以下で行うのがより好ましい。
【0087】
上記のような条件を満足することにより、揮発した材料の再析出による粒径が比較的小さいフェライト粒子の形成をさらに好適に進行させることができる。また、最終的に得られるフェライト粒子の形状(例えば、BET比表面積等)をさらに好適に調整することができる。また、後の工程での分級等の処理を省略または簡略化することができ、フェライト粉末の生産性をさらに優れたものとすることができる。また、後の工程での分級により除去する粒子の割合をより少ないものとすることができ、フェライト粉末の収率をさらに優れたものとすることができる。
【0088】
このようにして溶射してフェライト化されたフェライト粒子は、水中または大気で急冷凝固され、これをフィルターによって捕集する。
【0089】
その後、捕集用フィルターで回収したフェライト粒子は、必要に応じて分級を行う。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法など用いて所望の粒径に粒度調整する。なお、サイクロン等で粒径の大きい粒子と分離して回収することも可能である。
【0090】
上記のような方法により、前述したような粒径の条件を満足するフェライト粉末を効率よく製造することができる。また、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の造粒法とは異なり、最終的に得られるフェライト粉末に、酸やアルカリが由来の不純物等が残存することを効果的に防止することができ、フェライト粉末やフェライト粉末を用いて製造される樹脂組成物、成形体(電磁波シールド材等)の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。
【0091】
なお、本発明のフェライト粉末は、別途異なる方法で製造した複数種の粉末(例えば、粒径が1nm以上2000nm以下の複数個の単結晶フェライト粒子を含む単結晶フェライト粉末と、粒径が2000nmより大きい複数個の多結晶体フェライト粒子を含む多結晶体フェライト粉末)を混合して調製してもよい。
【0092】
《樹脂組成物》
本発明の樹脂組成物は、前述した本発明のフェライト粉末と、樹脂材料とを含むものである。
【0093】
これにより、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有する電磁波シールド材等の製造に好適に用いることができる樹脂組成物を提供することができる。また、例えば、後述するような電磁波シールド材等(成形体)の成形性を優れたものとすることができる。また、このようにして得られる樹脂組成物は、フェライト粉末の不本意な凝集が長期間にわたって安定的に防止されたものとなる。また、樹脂組成物中におけるフェライト粉末の凝集や不本意な組成のばらつきが防止されたものとなるため、樹脂組成物を用いて製造される電磁波シールド材等(成形体)における不本意な組成のばらつきを効果的に防止することができる。
【0094】
樹脂組成物を構成する樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、各種変性シリコーン樹脂(アクリル変性、ウレタン変性、エポキシ変性、フッ素)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
また、樹脂組成物は、フェライト粉末、樹脂材料以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0096】
このような成分としては、例えば、溶媒、充填剤(有機充填剤、無機充填剤)、可塑剤、酸化防止剤、分散剤、顔料等の着色剤、熱伝導性粒子(熱伝導性の高い粒子)等が挙げられる。
【0097】
樹脂組成物中における全固形分に対するフェライト粉末の比率(含有率)は、50質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、80質量%以上95質量%以下であるのがより好ましい。
【0098】
これにより、樹脂組成物中におけるフェライト粉末の分散安定性、樹脂組成物の保存安定性、樹脂組成物の成形性等を優れたものとしつつ、樹脂組成物を用いて製造される成形体(電磁波シールド材等)の機械的強度、電磁波の遮蔽性等をより優れたものとすることができる。
【0099】
樹脂組成物中における全固形分に対する樹脂材料の比率(含有率)は、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、5質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。
【0100】
これにより、樹脂組成物中におけるフェライト粉末の分散安定性、樹脂組成物の保存安定性、樹脂組成物の成形性等を優れたものとしつつ、樹脂組成物を用いて製造される成形体(電磁波シールド材等)の機械的強度、電磁波の遮蔽性等をより優れたものとすることができる。
【0101】
《電磁波シールド材》
本発明の電磁波シールド材(成形体)は、本発明のフェライト粉末と、樹脂材料とを含む材料で構成されたものとすることができる。
【0102】
これにより、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有する電磁波シールド材を提供することができる。また、前述したような条件を満足するフェライト粉末は、優れたフィラー効果を発揮することができ、電磁波シールド材(成形体)の機械的強度等を特に優れたものとすることができる。
【0103】
本発明の電磁波シールド材(成形体)は、前述したような本発明の樹脂組成物を用いて好適に製造することができる。
【0104】
電磁波シールド材(成形体)の成形方法としては、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、各種塗布法等が挙げられる。また、電磁波シールド材(成形体)は、例えば、電磁波シールド材(成形体)を形成すべき部材上に、直接樹脂組成物を付与することにより形成するものであってもよいし、別途作製した後に目的とする部材(例えば、プリント配線基板や金属箔(例えば、銅箔等)等)上に設置されるものであってもよい。
【0105】
なお、本発明に係るフェライト粉末は、樹脂等に混合、分散して焼成等の工程を行わずに使用してもよく、例えば、フェライト粒子を所望の形に成型、造粒、塗工等の工程を行った後、焼成を行い、焼結体としての成形体(電磁波シールド材)の製造に用いるものであってもよい。
【0106】
《電子材料、電子部品》
本発明の電子材料、電子部品は、本発明のフェライト粉末と、樹脂材料とを含む材料で構成されたものとすることができる。
【0107】
これにより、1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有する電子材料、電子部品を提供することができる。また、前述したような条件を満足するフェライト粉末は、優れたフィラー効果を発揮することができ、電子材料、電子部品の機械的強度等を特に優れたものとすることができる。
【0108】
本発明の電子材料としては、例えば、電子基板、LSI封止剤、ノイズ抑制用ペースト、ノイズ抑制シート、モールド用ペースト等が挙げられる。
【0109】
また、本発明の電子部品としては、例えば、インダクター、リアクトル等が挙げられる。
【0110】
本発明の電子材料、電子部品は、前述したような本発明の樹脂組成物を用いて好適に製造することができる。
【0111】
電子材料、電子部品の成形方法としては、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、各種塗布法等が挙げられる。また、電子材料、電子部品は、例えば、電子材料、電子部品を形成すべき部材上に、直接樹脂組成物を付与することにより形成するものであってもよいし、別途作製した後に目的とする部材上に設置されるものであってもよい。
【0112】
なお、本発明に係るフェライト粉末は、樹脂等に混合、分散して焼成等の工程を行わずに使用してもよく、例えば、フェライト粒子を所望の形に成型、造粒、塗工等の工程を行った後、焼成を行い、焼結体としての電子材料、電子部品の製造に用いるものであってもよい。
【0113】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0114】
例えば、本発明のフェライト粉末の製造方法では、必要に応じて、前述した工程に加えて、他の工程(前処理工程、中間工程、後処理工程)を有していてもよい。
【0115】
また、本発明のフェライト粉末は、前述したような方法で製造されたものに限定されず、いかなる方法で製造されたものであってもよい。
【0116】
また、前述した実施形態では、本発明のフェライト粉末、樹脂組成物を、電磁波シールド材、電子材料、電子部品の製造に用いる場合について代表的に説明したが、本発明のフェライト粉末、樹脂組成物は、これら以外の製造に用いてもよい。
【実施例
【0117】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の説明で、特に温度条件を示していない処理、測定については、室温(25℃)で行った。
【0118】
《1》フェライト粉末の製造
各実施例および各比較例のフェライト粉末を以下のようにして製造した。
【0119】
(実施例1)
まず、原料としてのFeおよびMnを所定の割合で混合し、ヘンシェルミキサーで15分間混合した。
このようにして得られた粉砕物を、ローラコンパクターを用いてペレット化した後、大気中、900℃で5時間ロータリーキルンを用いて仮焼成を行った。
【0120】
仮焼成後、水を加えて粉砕(湿式粉砕)し、スラリーを得た。スラリー中に含まれる粉末状の仮焼成体(仮焼粉)(原料粉ともいう)の体積平均粒径は、1.5μmであった。
【0121】
次に、得られたスラリーをスプレードライヤーで造粒し、分級して体積平均粒径5μmの造粒物を得た。
【0122】
その後、得られた造粒物を用いて、プロパン:酸素=10Nm/hr:35Nm/hrの可燃性ガス燃焼炎中に流速40m/秒の条件で溶射を行った。このとき、造粒物を連続的に流動させながら溶射したため、溶射、急冷後の粒子は互いに結着することなく独立していた。続いて、冷却された粒子を気流の下流側に設けたフィルター(バグフィルター)によって捕集して、気流分級装置にて分級して、所定の体積平均粒径及び粒度分布を有するフェライト粉末(Mnフェライト粉末)を得た。
【0123】
なお、フェライト粉末の体積平均粒径、および、粒度分布(体積粒度分布)は、以下のような測定により求めた。すなわち、まず、試料としての粉末:10gと水:80mlと100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い分散を行った。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD-7500nano)に導入し、前期条件で測定を行った。なお、後に述べる各実施例および各比較例についても同様にして求めた。
【0124】
また、フェライト粉末について、透過型電子顕微鏡(TEM)(HF-2100 Cold-FE-TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製))による倍率10万倍および倍率50万倍における電子線回折像の観察を行ったところ、単結晶フェライト粒子および多結晶体フェライト粒子を含むことが確認された。
【0125】
得られたフェライト粉末の体積平均粒径は2.84μm、BET比表面積は5.57m/gであった。また、得られたフェライト粉末は、2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)が9.71体積%であった。
【0126】
BET比表面積は、比表面積測定装置(型式:Macsorb HM model-1208(マウンテック社製))を用いた測定により求めた。より具体的には、測定試料を比表面積測定装置専用の標準サンプルセルに約5g入れ、精密天秤で正確に秤量し、測定ポートに試料(フェライト粉末)をセットし、測定を開始した。測定は1点法で行い、測定終了時に試料の重量を入力すると、BET比表面積が自動的に算出された。なお、測定前に前処理として、測定試料を薬包紙に20g程度を取り分けた後、真空乾燥機で-0.1MPaまで脱気し-0.1MPa以下に真空度が到達していることを確認した後、200℃で2時間加熱した。測定環境は、温度:10~30℃、湿度:相対湿度で20~80%で、結露なしの条件とした。
【0127】
また、得られたフェライト粉末のタップ密度は2.23g/cmであった。
タップ密度は、タッピング装置(USPタップ密度測定装置、ホソカワミクロン社製パウダテスタPT-X)を用い、JIS Z 2512-2012に準拠した測定により求めた。タッピングは、100回/分で3分間行った。
【0128】
(実施例2、3)
分級条件を変更した以外は前記実施例1と同様にフェライト粉末を製造した。
【0129】
(比較例1、2、3)
原料の比率、仮焼成の条件、スプレードライヤーでの造粒条件、溶射処理条件、分級条件を表1に示すように調整することにより、フェライト粉末の条件を表2に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にフェライト粉末を製造した。
【0130】
(実施例4)
前記実施例3で得られたフェライト粉末と、前記比較例1で得られたフェライト粉末とを、質量比で、80:20の割合で混合することにより、本実施例のフェライト粉末を製造した。
【0131】
前記各実施例および各比較例のフェライト粉末の製造条件を表1にまとめて示し、前記各実施例および各比較例のフェライト粉末の構成を表2にまとめて示した。
【0132】
フェライト粉末を構成する各金属元素の含有量は、ICP分析装置を用いた測定により求めるものとする。
より具体的には、フェライト粉末0.2gを秤量し、純水60mlに1Nの塩酸20mLおよび1Nの硝酸20mLを加えたものを加熱し、フェライト粉末を完全溶解させた水溶液を準備し、その後、当該水溶液について、ICP分析装置(島津製作所製ICPS-1000IV)を用いた測定を行うことにより、各金属元素の含有量を求めた。
【0133】
フェライト粉末中のFe2+の含有量は、過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定により求めた。
フェライト粉末を構成する粒子のうち、真球状をなすものの割合は、上記のように求めた。
【0134】
また、真密度はJIS Z 8807:2012に準拠して、マウンテック社製全自動真密度測定装置Macpycnoを用いて測定した。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
《2》粘度測定
前記各実施例および前記各比較例のフェライト粉末70質量部とポリビニルアルコール(PVA)水溶液(固形分10質量%)30質量部とを、自転公転型ミキサーで3分間分散混合したのち、得られた混合物の粘度をB型粘度計で測定した。粘度の測定に関しては最初の1回転目の粘度と10回転目の粘度を測定し、評価した。
【0138】
《3》フェライト粉末の透磁率(1MHz~1GHz)
前記各実施例および前記各比較例のフェライト粉末について、以下のようにして透磁率を測定した。透磁率の測定は、アジレントテクノロジー社製E4991A型RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ 16454A磁性材料測定電極を用いて行った。まず、フェライト粉末4.5gとフッ素系粉末樹脂0.5gとを100ccのポリエチレン製容器に収容し、100rpmのボールミルで30分間撹拌して混合した。撹拌終了後、得られた混合物0.8g程度を、内径4.5mm、外径13mmのダイスに充填し、プレス機で40MPaの圧力で1分間加圧した。得られた成形体を熱風乾燥機によって温度140℃で2時間加熱硬化させることにより、測定用サンプルを得た。そして、測定用サンプルを測定装置にセットする共に、事前に測定しておいた測定用サンプルの外径、内径、高さを測定装置に入力した。測定は、振幅100mVとし、周波数1MHz~3GHzの範囲を対数スケールで掃引し、透磁率(複素透磁率の実部μ’)を測定した。
【0139】
《4》1GHz超12GHz以下における透磁率測定
エポキシ樹脂30質量部にフェライト粉末70質量部を混合後、内径1.8mm、長さ100mmの円柱状の金型に注入した後、加熱硬化させた。金型を室温に戻したのち、金型から丸棒状のサンプルを取り出し、透磁率測定用サンプルとした。
得られたサンプルを共振器にセットし、透磁率を空洞共振器(Sバンド用およびCバンド用(いずれも関東電子応用開発社製))とネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製E5071C)とを用いて測定した。
【0140】
《4-1》μ’が1以下になる周波数
上記の測定結果から、周波数が1GHz超12GHz以下の領域において、μ’が1以下になる周波数を求めた。
【0141】
《5》飽和磁化、残留磁化、保磁力
前記各実施例および各比較例のフェライト粉末について、飽和磁化、残留磁化、保磁力を求めた。
【0142】
飽和磁化、残留磁化、保磁力は以下のようにして求めた。すなわち、まず、内径5mm、高さ2mmのセルにフェライト粉末を詰めて振動試料型磁気測定装置(東英工業社製 VSM-C7-10A)にセットした。次に、印加磁場を加え、5K・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製した。その後、このカーブのデータより飽和磁化、残留磁化および保磁力を求めた。
【0143】
《6》体積抵抗
体積抵抗の値は、以下のようにして求めた。すなわち、まず、内径22.5mmの底部に電極を有するテフロン製シリンダーに得られたフェライト粉末を高さが4mmになるように投入し、内径と同じサイズの電極を上部より差し込み、さらに上から1kgの荷重をかけた状態で底部と上部の電極を測定装置(ケースレー社製6517A型を用いた)に接続し、抵抗を測定した。当該測定により得られた抵抗値、内径および厚さを用いて体積抵抗を算出した。
【0144】
これらの結果を表3にまとめて示す。
【0145】
【表3】
【0146】
表3から明らかなように、本発明では、優れた結果が得られたのに対し、比較例では満足のいく結果が得られなかった。
【0147】
また、前記各実施例について、フェライト粉末と樹脂材料としての粉末PVAと、溶媒としての水とを、質量比で、70:30:270で分散、混合して、樹脂分散液を得た。
【0148】
その後、これらの樹脂分散液を用いて、平板状の成型容器に流し込み、溶媒を除去することにより、厚さ1mmのシート状の成形体(電磁波シールド材)を得た。
【0149】
得られた成形体(電磁波シールド材)について、電磁波シールド能力の評価を行ったところ、本発明では優れた結果が得られた。具体的には上記で得られた成型体を縦200mm×横200mm×厚み5mmに切り出し、IEC62333に準拠した伝送減衰率測定方法(マイクロストリップライン)にて測定した。
【0150】
(測定範囲)
1~18GHz
(測定用冶具)
マイクロストリップライン冶具
(ネットワークアナイライザ)
Anritsu37247C
【0151】
代表的に、実施例2のフェライト粉末を用いて製造された成形体についての測定結果を図1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明のMnフェライト粉末は、複数個のフェライト粒子を含み、体積平均粒径が1μm以上10μm以下であり、2.106μmにおける体積基準の積算分布(フルイ下)を0.1体積%以上50.0体積%以下であることを特徴とする。そのため、1GHz以下の低周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有し、かつ1GHz超12GHz以下の高周波領域の電磁波について優れた遮蔽性を有するフェライト粉末を提供することができる。従って、本発明のフェライト粉末は、産業上の利用可能性を有する。
【0153】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年2月13日出願の日本特許出願(特願2018-023565)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1