IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サカタインクス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】アンカーコート剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230427BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230427BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230427BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230427BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20230427BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20230427BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D7/61
D21H19/38
D21H19/44
B41M5/00 132
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019005311
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020111708
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】浅田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 玄太
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134914(JP,A)
【文献】特表2013-538132(JP,A)
【文献】特表2013-530071(JP,A)
【文献】特開2018-051872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,D21H,B41M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含み、
前記白色顔料は、酸化チタンであり、
前記イオン塩は、カルシウム塩類であり、
前記白色顔料の含有量が、アンカーコート剤の全質量に対して40~70質量%である
ことを特徴とするアンカーコート剤。
【請求項2】
酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂は、ガラス転移温度が70℃以下である請求項に記載のアンカーコート剤。
【請求項3】
ライナー原紙又は段ボールの一方の面上に塗布することに用いられる請求項1又は2に記載のアンカーコート剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーコート剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、段ボールを中心とした包装容器の分野では、一般的にフレキソ印刷方式が用いられていた。
近年、段ボールを中心とした包装容器の分野においても、付加価値向上の観点から、高品質なデザインを再現することが可能なインクジェット印刷方式に対する関心が高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1では、撥水処理を施したライナー紙に、所定の表面張力を有するアクリル樹脂を含有する水性インキによりアンカーコート層を形成し、該アンカーコート層上に所定の表面張力及び粘度を有する水性インクジェットインキを用いて印刷する印刷物の製造方法に関する技術が開示されている。
【0004】
ところが、特許文献1で開示された技術では、アンカーコート剤の保存安定性、並びに、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、隠蔽性を兼ね備えたアンカーコート層を形成することができず、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-80199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、保存安定性に優れ、かつ、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたアンカーコート層を形成することができるアンカーコート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、白色顔料、イオン塩、及び、所定の酸価を有する水性樹脂を含むアンカーコート剤を用いて形成したアンカーコート層が、上記の課題を全て解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むことを特徴とするアンカーコート剤に関する。
【0009】
本発明のアンカーコート剤において、上記白色顔料は、酸化チタンであることが好ましい。
また、上記イオン塩は、解離性金属塩であることが好ましい。
また、上記イオン塩は、カルシウム塩類であることが好ましい。
また、上記酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂は、ガラス転移温度が70℃以下であることが好ましい。
また、本発明のアンカーコート剤は、ライナー原紙又は段ボールの一方の面上に塗布することに用いられるのが好ましい。
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0010】
本発明のアンカーコート剤は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含有する。
【0011】
上記白色顔料としては、無機白色顔料、及び、有機白色顔料が挙げられる。
上記無機白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、二酸化ジルコニウム、イットリア安定化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化スズ、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、微粉ケイ酸、ケイ酸カルシウム、タルク、及び、クレイ等が挙げられる。
また、上記有機白色顔料としては、特開平11-129613号に示される有機化合物塩、特開平11-140365号、特開2001-234093号に示されるアルキレンビスメラミン誘導体等が挙げられる。
なかでも、隠蔽性を好適に付与し、保存安定性を付与する観点から、ルチル型、アナターゼ型等の各種の酸化チタンが好ましく、表面をアルミナで被覆処理された酸化チタンがより好ましい。
上記酸化チタンを被覆処理する方法としては、例えば、水系処理、気相処理等の公知の方法を用いることができる。
なお、上記白色顔料は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0012】
上記白色顔料の平均粒子径は特に限定されないが、保存安定性と隠蔽性とを好適に付与する観点から、平均粒子径が100~500nmであることが好ましく、150~400nmであることがより好ましい。
なお、平均粒子径は、レーザー回析式粒度測定法、測定装置:ナノトラック(UPA-EX150、日機装社製)で測定した体積平均粒子径を意味する。
【0013】
上記白色顔料は、隠蔽性を好適に付与する観点から、アンカーコート剤の全質量に対して、30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0014】
上記イオン塩としては、有機イオン塩、及び、無機イオン塩が挙げられる。
上記有機イオン塩としては、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加リン酸エステル塩、4級アンモニウム塩、ベタイン等の有機イオン塩が挙げられる。
【0015】
上記無機イオン塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられ、なかでも、インクジェット印刷適性を好適に付与する観点から、解離性金属塩であることが好ましい。
上記解離性金属塩としては、カルシウムやマグネシウム等の塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の無機塩類あるいは酢酸塩、ギ酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。具体的には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、及び、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
なかでも、後述する水性媒体への溶解性が良好であることから、カルシウム塩類であることがより好ましく、塩化カルシウム又は硝酸カルシウムであることが更に好ましく、インクジェット印刷適性をより好適に付与する観点から、塩化カルシウムであることが特に好ましい。
なお、上記イオン塩は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0016】
上記解離性金属塩は、インクジェット印刷適性を好適に付与する観点から、アンカーコート剤の全質量に対して、3~30質量%用いることが好ましく、3~15質量%用いることがより好ましい。
【0017】
上記酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂(以下、単に上記水性樹脂ともいう)としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂等が挙げられる。
なかでも、アンカーコート剤の塗膜の凝集性に優れ、塗膜耐性を好適に付与する観点から、アクリル系樹脂が好ましい。
上記水性樹脂は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0018】
上記水性樹脂は、酸価が50mgKOH/g以下である。
上記水性樹脂の酸価が50mgKOH/gを超えると、アンカーコート剤中の上記イオン塩と、上記水性樹脂との間に相互作用が発生し、上記白色顔料と上記イオン塩との相互作用による塩析効果が低下する傾向があり、インクジェット印刷適性が低下する。また、上記イオン塩との相溶性が低下し、保存安定性を充分に付与することができない。
上記水性樹脂は、酸価が30mgKOH/g以下であることが好ましく、保存安定性を好適に付与する観点から、20mgKOH/g以下であることがより好ましい。
なお、上記水性樹脂の酸価は、電位差滴定法を用いて測定することができる。例えば、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」等に基づいて行うことができる。このような電位差滴定装置として例えば電位差自動滴定装置AT610(京都電子工業社製)が挙げられる。
【0019】
上記水性樹脂は、ガラス転移温度が70℃以下であることが好ましく、保存安定性を好適に付与する観点から、40℃以下であることがより好ましく、塗膜耐性をより好適に付与する観点から、20℃以下であることが更に好ましい。
また、上記水性樹脂のガラス転移温度の下限は、-10℃以上であることが好ましく、保存安定性をより好適に付与する観点から、0℃以上であることがより好ましい。
なお、上記水性樹脂のガラス転移温度は、例えば、JIS K 7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」等に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により行うことができる。
【0020】
上記水性樹脂は、アンカーコート剤の全質量に対して、固形分で3~20質量%含有されていることが好ましい。上記水性樹脂の含有量が3質量%未満であると、アンカーコート剤の塗膜の凝集力が低下して、塗膜耐性が低下することがある。一方、上記エマルションの含有量が20質量%を超えると、顔料その他の成分を配合する余地が減少し、発明の効果が不充分になりうる。
上記水性樹脂は、塗膜耐性と保存安定性を好適に付与する観点から、アンカーコート剤の全質量に対して、固形分で7~15質量%含有されていることがより好ましい。
【0021】
上記水性樹脂としては、例えば、上記水性樹脂を低分子の乳化剤を用いて後述する水性媒体中に乳化させた物、高分子の乳化剤を用いて後述する水性媒体中に乳化させた物、自己乳化によって後述する水性媒体に乳化させた物等が挙げられる。
上記水性樹脂としては、上記イオン塩との混和性に優れることから、低分子の乳化剤を用いて各種ポリマーを水性媒体中に乳化させた物が好ましい。
【0022】
上記低分子の乳化剤としては、単糖又は多糖の脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、脂肪酸アミドアミン、アルキルピリジニウム塩、アルキルベタイン、及び、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0023】
上記水性媒体としては、水又は水と水混和性溶剤との混合物が挙げられる。水混和性溶剤としては、例えば、低級アルコール類、多価アルコール類、及び、それらのアルキルエーテルまたはアルキルエステル類等が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール等の低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及び、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0024】
上記水性媒体は、流動性を好適に付与する観点、アンカーコート剤の塗膜に耐摩耗性を好適に付与する観点から、アンカーコート剤の全質量に対して、1~50質量%含有されていることが好ましく、2~40質量%含有されていることがより好ましい。
【0025】
本発明のアンカーコート剤は、上記水性樹脂に含まれる水性媒体に加えて、他の水性媒体を加えてもよい。
上記他の水性媒体としては、上記水性樹脂に含まれる水性媒体と同様のものが挙げられるが、取扱上の安全性の観点から、水が好ましい。
本発明のアンカーコート剤に含まれる水性媒体(上記水性樹脂に含まれる水性媒体、及び、他の水性媒体)は、アンカーコート剤の全質量に対して、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明のアンカーコート剤は、上記白色顔料を分散させ、保存安定性を好適に付与する観点から、顔料分散剤を含有することが好ましい。
上記顔料分散剤としては、カルボジイミド系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤、脂肪酸アミン系分散剤、ポリアクリレート系分散剤、ポリ(スチレン-マレイン酸)系分散剤、変性ポリウレタン系分散剤、多鎖型高分子非イオン系分散剤、高分子イオン活性剤等が挙げられる。
なかでも、保存安定性をより好適に付与する観点からの観点から、ポリアクリレート系分散剤及びポリ(スチレン-マレイン酸)系分散剤が好ましい。
なお、上記顔料分散剤は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0027】
本発明のアンカーコート剤に含まれる分散剤は、上記白色顔料の質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。
【0028】
本発明のアンカーコート剤は、アンカーコート剤の塗膜に塗膜耐性を好適に付与する観点から、ポリオレフィンワックスを含有することが好ましい。
上記ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造したワックス及びそのコポリマーが挙げられ、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。
なかでも、アンカーコート剤の塗膜に塗膜耐性をより好適に付与する観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。
ポリオレフィンワックスとしては、市販されているものを利用することができ、例えば、ノプコートPEM17(サンノプコ社製)、ケミパールW400、ケミパールW4005(三井化学社製)、AQUACER515、AQUACER593(ビックケミー・ジャパン社製)等を用いることができる。
【0029】
本発明のアンカーコート剤に含まれるポリオレフィンワックスは、アンカーコート剤の全質量に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがより好ましい。
【0030】
本発明のアンカーコート剤には、上記に示した成分以外に、必要に応じて、顔料分散助剤、湿潤剤、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤等種々の添加剤を適宜選択して使用することができる。
【0031】
本発明のアンカーコート剤を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記白色顔料、上記分散剤及び上記水性媒体を加えて混錬した後、上記水性樹脂、上記イオン塩及び上記ポリオレフィンワックス、必要に応じて添加剤等を加えてさらに混錬する方法等が挙げられる。
【0032】
本発明のアンカーコート剤は、ライナー原紙又は段ボールの一方の面上に塗布することに用いられるのが好ましい。
本発明のアンカーコート剤を塗布して形成されたアンカーコート層は、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れる。
【0033】
上記ライナー原紙としては、特に限定されず、例えば、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ等の一種、又は、二種以上を適宜混合されて得られるライナー原紙が挙げられる。更に、二層以上のパルプ層を抄き合わせて多層構成になる原紙等も使用することもできる。また、上記段ボールとしては、上記ライナー原紙を使用した段ボールを使用することができる。
【0034】
本発明のアンカーコート剤の塗布方法としては、公知の印刷又は塗工方式を用いることができ、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷及びインクジェット印刷等の印刷方式や、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター、エアードクターコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレイコータ及びスロットオリフィスコーター等の塗工方式を用いることができる。
【0035】
本発明のアンカーコート剤の塗布量としては、固形分で0.1~20g/mとすることが好ましく、塗膜耐性を好適に付与する観点から、固形分で0.1~15g/mとすることがより好ましい。
本発明のアンカーコート剤の塗布量が0.1g/m未満であると、本発明の効果が充分に得られないことがあり、上記アンカーコート剤の塗布量が20g/mを超えると、バックトラッピングが発生しやすく、塗膜耐性を充分に付与できないこともある。
【0036】
本発明のアンカーコート剤が塗布された塗布面の乾燥方法としては、この分野で使用されている一般的な乾燥機、例えば、熱風乾燥機が挙げられる。なお、上記アンカーコート剤が塗布された塗布面は、完全に乾燥された状態であっても、半乾燥状態であってもよい。
【0037】
本発明のアンカーコート剤を塗布して形成されたアンカーコート層上に、公知のインクを用いて、公知の印刷方法により印刷した印刷層を形成することにより、印刷物を得ることができる。
公知の印刷方法としては、上述したアンカーコート剤の塗布方法で記載したものを用いることができる。なかでも、インクジェット印刷により印刷物を得ることが好ましい。
上記アンカーコート層上にインクジェット印刷したとしても、上記アンカーコート層に含まれるイオン塩による塩析作用が好適に働き、インクジェット印刷用インキに含まれる顔料やバインダー樹脂等の成分が原紙に浸透しにくくすることができるので、インクジェット印刷適性に優れ、高精細な印刷物を得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、保存安定性に優れ、かつ、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたアンカーコート層を形成することができるアンカーコート剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0040】
下記の実施例及び比較例において、アンカーコート剤を調製するために用いた材料は以下の通りである。
<白色顔料>
酸化チタン(テイカ社製、チタニックス JR-809)
<分散剤>
Tego Dispers 750W(Evonik社製、固形分40%)
<水性樹脂>
アクリル樹脂エマルション(P-1)(日本カーバイド社製、FX2043、酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)
その他のアクリル樹脂エマルションは以下の手順に従って合成した。
アクリル酸1.5質量部、メタクリル酸メチル68.5質量部、アクリル酸ブチル30質量部からなる単量体の混合物に、界面活性剤としてアクアロンHS-10(第一工業製薬社製)を3質量部加え、更に蒸留水46質量部に過硫酸カリウム0.3質量部を溶解した水溶液を加え、撹拌機であらかじめ乳化した。撹拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた重合容器に蒸留水20質量部を入れ、窒素置換し80℃に昇温したところへ、上記単量体の乳化液を3時間かけて滴下し、さらに2時間反応させて重合を終えた。ただし、重合後期に少量の過硫酸カリウムを添加して残存単量体を消費させた。得られたエマルションに水酸化ナトリウムを加えてpHを7に調整したのち、固形分濃度が50質量%となるように蒸留水を加えて、アクリル樹脂エマルション(P-2)(酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度30℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸1.5質量部、メタクリル酸メチル89.5質量部、アクリル酸ブチル9質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-3)(酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度70℃、固形分50%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸1.5質量部、メタクリル酸メチル40質量部、アクリル酸ブチル58.5質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-4)(酸価10mgKOH/g、ガラス転移温度-10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸4質量部、メタクリル酸メチル53質量部、アクリル酸ブチル43質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-5)(酸価30mgKOH/g、ガラス転移温度10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
上記アクリル樹脂エマルション(P-2)の合成において、単量体の混合物をアクリル酸9.0質量部、メタクリル酸メチル44.7質量部、アクリル酸ブチル46.3質量部からなる構成に変更することで、アクリル樹脂エマルション(P-6)(酸価70mgKOH/g、ガラス転移温度10℃、固形分50質量%、水性媒体は水)を得た。
<ポリオレフィンワックス>
ポリエチレン系ワックス(三井化学社製、ケミパールW-400)
<イオン塩>
塩化カルシウム
【0041】
(実施例1)
表1に記載の配合比にて、酸化チタン、分散剤及び水を撹拌混合し、ビーズミルを使用して常法に従い混練後、アクリル樹脂エマルション(P-1)、ポリエチレン系ワックス、及び、塩化カルシウムを添加してさらに混錬を行い、アンカーコート剤を得た。
【0042】
(実施例2~7、比較例1~3)
表1に記載の配合に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アンカーコート剤を得た。
【0043】
(保存安定性評価)
実施例1~7、比較例1~3で得られたアンカーコート剤を密閉容器内にて、40℃で7日間保存し、増粘、分離及び沈降の有無を確認し、以下の基準で評価した。
◎:増粘、分離、沈降がほとんどない
○:◎よりも、増粘、分離、沈降がみられる
△:〇よりも、増粘、分離、沈降がみられるが運用上は問題が無い程度であった
×:強い増粘や多量の分離、沈降があり使用が困難
【0044】
<アンカーコート層の形成>
ライナー原紙(Kライナー、坪量140g/m、茶系ライナ)の一方の面上に、実施例1~7、比較例1~3で得られたアンカーコート剤のそれぞれについて、ハンドプルーファー(165線)を用いて、固形分5g/mとなるように塗布し、ドライヤーにて乾燥させてアンカーコート層を形成した。
【0045】
(インクジェット印刷適性評価)
実施例1~7、比較例1~3で得られたアンカーコート剤を用いて形成したアンカーコート層上に、インクジェット印刷用のプリンター(エプソン社製、PX105)により、インクジェット用インク(エプソン社製、IC4CL69)を用いて、0.3mmの細線を印刷し、滲みによる太りを観察し、以下の基準で印刷適性を評価した。を印刷し、目視にて観察し、以下の基準でインクジェット印刷適性を評価した。
〇:印刷が鮮明で滲みが全くない
△:印刷に僅かな滲みはあるが、2倍以上の太りは観察されなかった
×:印刷に部分的な滲みと2倍以上の太りが観察された
××:滲みと2倍以上の太りが非常に多く、使用が困難
【0046】
(塗膜耐性評価)
実施例1~7、比較例1~3で得られたアンカーコート剤を用いて形成したアンカーコート層を有するライナー原紙を2.5cm×25cmに切断し、サンプルピースを得た。
学振型耐摩擦試験機(テスター産業社製)を用いて、得られたサンプルピース表面(アンカーコート層側面)を、水を5滴滴下したカナキン綿布を当紙として、200g加重で2往復した。
その後、サンプルピースの表面を目視にて観察し、以下の基準で塗膜耐性を評価した。
◎:塗膜取られなし
〇:当紙にわずかに白色顔料が付着。アンカーコート層の白色顔料がわずかに取られている
△:当紙全面に白色顔料が付着。アンカーコート層の白色顔料が取られ、一部原紙が見える。
×:当紙全面に白色顔料が濃く付着。アンカーコート層の白色顔料が取られ、原紙の大部分が見える
【0047】
(隠蔽性評価)
実施例1~7、比較例1~3で得られたアンカーコート剤を用いて形成したアンカーコート層について、目視にて観察し、以下の基準で隠蔽性を評価した。
◎:塗膜が充分に白く、下地のライナー原紙が見えない
○:塗膜は白いが、下地のライナー原紙が完全には隠蔽されていない
△:塗膜がやや白い程度で、下地のライナー原紙の茶色が見える
×:塗膜が透明で、下地のライナー原紙がそのまま透けて見える
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、実施例1~7のアンカーコート剤は、保存安定性に優れ、かつ、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたアンカーコート層を形成できることが確認された。
特に、酸価が20mgKOH/g以下、ガラス転移温度が40℃以下である水性樹脂を固形分で5~15質量%用いた実施例1、2及び7では、保存安定性に特に優れることが確認され、実施例5では、分散剤を用いなくても充分な保存安定性を有することが確認された。
また、ガラス転移温度が20℃以下である水性樹脂を用いた実施例1、5~7では、塗膜耐性に特に優れたアンカーコート層を形成できることが確認された。
一方で、所定の酸価を有する水性樹脂を含有しない比較例1では、保存安定性において劣っていた。また、イオン塩を含有しない比較例2では、インクジェット印刷適性において劣っていた。また、白色顔料を含有しない比較例3では、隠蔽性において劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、保存安定性に優れ、かつ、インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたアンカーコート層を形成することができるアンカーコート剤を提供できる。