(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】装飾部材及びモジュールのカバー体
(51)【国際特許分類】
B60R 21/215 20110101AFI20230427BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
B60R21/215
B60R21/203
(21)【出願番号】P 2019141588
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】村松 克弥
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-255361(JP,A)
【文献】実開昭56-082309(JP,U)
【文献】特開平09-240411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/215
B60R 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠部と、受け部とを具備し、これら意匠部と受け部とで被取付部を挟んで取り付けられる装飾部材であって、
前記意匠部は、前記被取付部に形成された開口部に挿通される係合部を備え、
前記係合部は、先端側に係合受け部を有し、
前記受け部は、
前記係合部が挿入される穴部と、
この穴部の内縁に形成され、前記係合受け部を介して前記係合部を前記穴部に対し抜け止めする当接部とを備え、
前記当接部は、前記穴部に対する前記係合部の挿脱方向に弾性変形可能な当接片を複数有し、
複数の前記当接片は、前記意匠部と前記受け部との組み付け状態で、いずれかが前記係合受け部と強干渉し、残りの他が前記係合受け部と弱干渉していることで、これら当接片の前記係合受け部への干渉力に強弱差が設定されている
ことを特徴とする装飾部材
。
【請求項2】
車両用のハンドルに取り付けられるモジュールのカバー体であって、
開口部を有する被取付部であるカバー本体部と、
請求項
1記載の装飾部材とを備えている
ことを特徴とするモジュールのカバー体。
【請求項3】
モジュールであるエアバッグ装置に用いられるカバー体である
ことを特徴とする請求項
2記載のモジュールのカバー体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠部と受け部とで被取付部を挟んで取り付けられる装飾部材及びこれを備えたモジュールのカバー体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両用のハンドルであるステアリングホイールには、エアバッグ装置などのモジュールが取り付けられる。このようなモジュールのカバー体としては、エンブレム体とバックプレートとからなる装飾部材としてのエンブレム(オーナメント)を、カバー本体部を挟んで取り付けたものが知られている。この構成では、エンブレム体の裏面側に、先端に拡大部を有する円筒状の係止ピンが突設され、係止ピンと係合するバックプレートの係合孔の内縁の三箇所などの複数箇所に弾性片部が突設され、カバー本体部に挿通されて係合孔に押し込まれた係止ピンの先端側の拡大部が弾性片部を乗り越えて係合孔に挿入されることでエンブレム体とバックプレートとが係合されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-255361号公報 (第3-4頁、
図1-6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように複数の弾性片部を拡大部に当接させる場合、それぞれ略均等に拡大部に当接させてエンブレムをがたつきなく保持させる必要があるとともに、エアバッグ装置のカバー体の場合には、エアバッグの展開応力に対して弾性片部の拡大部の係合が耐え得るようにバランスを取った設計をする必要がある。そのため、開発費が高騰する要因となっている。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、被取付部に低コストで安定的に取り付け可能な装飾部材及びこれを備えたモジュールのカバー体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の装飾部材は、意匠部と、受け部とを具備し、これら意匠部と受け部とで被取付部を挟んで取り付けられる装飾部材であって、前記意匠部は、前記被取付部に形成された開口部に挿通される係合部を備え、前記係合部は、先端側に係合受け部を有し、前記受け部は、前記係合部が挿入される穴部と、この穴部の内縁に形成され、前記係合受け部を介して前記係合部を前記穴部に対し抜け止めする当接部とを備え、前記当接部は、前記穴部に対する前記係合部の挿脱方向に弾性変形可能な当接片を複数有し、複数の前記当接片は、前記意匠部と前記受け部との組み付け状態で、いずれかが前記係合受け部と強干渉し、残りの他が前記係合受け部と弱干渉していることで、これら当接片の前記係合受け部への干渉力に強弱差が設定されているものである。
【0007】
請求項2記載のモジュールのカバー体は、車両用のハンドルに取り付けられるモジュールのカバー体であって、開口部を有する被取付部であるカバー本体部と、請求項1記載の装飾部材とを備えているものである。
【0008】
請求項3記載のモジュールのカバー体は、請求項2記載のモジュールのカバー体において、モジュールであるエアバッグ装置に用いられるカバー体であるものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の装飾部材によれば、意匠部と受け部との組み付け状態で係合受け部に弱干渉する当接片の係合受け部への干渉力は、係合受け部に強干渉する当接片の強干渉のバランスを崩さない程度で、かつ、外力などによって意匠部や受け部が変形したときに係合受け部に干渉する際の必要強度に応じて設定すればよいから、すべての当接片を係合受け部に均等に当接させるように設計する必要がなく、設計が容易であり、装飾部材を被取付部に低コストで安定的に取り付け可能となる。
【0010】
請求項2記載のモジュールのカバー体によれば、車両用のハンドルに取り付けられるモジュールのカバー体に請求項1記載の装飾部材を適用することで、安価で装飾部材により装飾性を高めたカバー体を備えるハンドルを提供できる。
【0011】
請求項3記載のモジュールのカバー体によれば、請求項2記載のモジュールのカバー体の効果に加えて、エアバッグ装置のカバー体に装飾部材を適用することで、エアバッグの展開圧力に対して、さらに受け部全体の強度を設定することによって、エアバッグの展開圧力に起因する装飾部材の被取付部からの脱落を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態の装飾部材を備えるカバー体の
図2のI-I相当位置の端面図である。
【
図5】同上カバー体を備えるハンドルを模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態の構成について、図面を参照して説明する。
【0014】
図5において、10は車両である自動車用のハンドル(ステアリングハンドル)としてのステアリングホイールである。ステアリングホイール10は、ハンドル本体としてのステアリングホイール本体11と、このステアリングホイール本体11の乗員側に装着されるモジュール12とを備えている。なお、ステアリングホイール10は、通常傾斜した状態で車両に備えられるステアリングシャフトに装着されるものであるが、以下、車両の直進状態を基準とし、ステアリングシャフト側を背面側、乗員側を正面側とし、フロントガラスに向かう方向(矢印A方向)を上側として説明する。
【0015】
そして、ステアリングホイール本体11は、円環状をなす把持部であるグリップ部であるリム部14と、このリム部14の内側に位置するボス部15と、これらリム部14とボス部15とを連結する複数のスポーク部16とから構成されている。スポーク部16は、本実施の形態において、三本のものを図示するが、三本に限定されるものではない。
【0016】
また、図示しないが、ボス部15の背面部には、ステアリングシャフトに嵌着される略円筒状のボスが設けられているとともに、このボスに芯体を構成するボスプレートが一体的に固着されている。そして、このボスプレートから、スポーク部16の芯金が一体に延設され、あるいは溶接などして固着されている。さらに、このスポーク部16の芯金に、リム部14の芯金が溶接などして固着されている。また、これらリム部14の芯金の外周部と、スポーク部16の芯金のリム部14側の部分の外周部とには表皮部が形成され、さらに、この表皮部の外周の全部あるいは一部が、天然あるいは人工の皮革などにより覆われている。
【0017】
一方、モジュール12は、本実施の形態において衝撃吸収装置である。また、モジュール12は、好ましくはエアバッグ装置である。モジュール12は、ステアリングホイール本体11のボス部の正面側を覆うように配置される。モジュール12は、本実施の形態において、被取付部材としてのベースプレート、緩衝体などを備えるとともに、
図2ないし
図4などに示すカバー体18を備えている。モジュール12がエアバッグ装置である場合、緩衝体は袋状のエアバッグであり、このエアバッグを膨張展開させるためのインフレータがモジュール12にさらに備えられる。そして、ベースプレートは、ホーンプレートあるいはブラケット部などを介して
図5に示すステアリングホイール本体11に取り付けられ、このベースプレートに、緩衝体及びカバー体18が取り付けられている。
【0018】
カバー体18は、ケース体、パッド、あるいはモジュールカバーなどとも呼ばれるものである。カバー体18は、例えば被取付部であるカバー本体部19と、このカバー本体部19に取り付けられた装飾部材であるエンブレム20とを備えている。
【0019】
図4に示すカバー本体部19は、例えば合成樹脂により形成されている。カバー本体部19は、ボス部15及びスポーク部16(
図5)の一部を覆う被覆部としての表板部21と、この表板部21の背面(裏面)から正面視略角筒状などの筒状に突設された周壁である周板部22とを備えている。そして、表板部21と周板部22とに囲まれた部分が、緩衝体、本実施の形態では折り畳まれたエアバッグを収納する収納部となり、この収納部の正面側に臨む部分が運転席の乗員に対向する装飾部材取付部である正面板部23となる。また、本実施の形態において、表板部21には、収納部に臨み、
図2に示すようにテアライン24が形成され、このテアライン24の開裂によりエアバッグの展開時に複数の扉部が形成される。このテアライン24は、予定線部あるいは破断予定部となどとも呼び得るもので、正面板部23の背面(裏面)側に溝状に形成され、正面板部23の他の部分より脆弱な弱部となっている。このテアライン24は、設定したい扉部の形状及び枚数に応じて、エンブレム20を避ける位置に任意に設定できるが、本実施の形態では、例えば正面板部23の一側部からエンブレム20の下部を経由して他側部に連続するテアライン24と、エンブレム20の下部から下方に延びるテアライン24とが形成されている。
【0020】
さらに、
図4に示すように、表板部21には、エンブレム20を取り付けるための開口部28が開口されている。開口部28は、円形状に形成されており、正面板部23を厚さ方向である前後方向に貫通している。開口部28は、エンブレム20を上下左右にバランスよく固定できれば、その形状などに応じて単数、または複数など適宜設定できる。本実施の形態において、開口部28は、一つ形成されている。なお、エンブレム20が対称な形状である場合、表板部21には、エンブレム20の取り付けの方向性を決めるための位置決め部29が形成されていてもよい。位置決め部29は、任意に形成されていてよいが、本実施の形態では例えば穴部として形成されている。位置決め部29は、開口部28に対して離れた位置にて、表板部21の正面板部23を前後方向に貫通している。また、表板部21には、意匠面である正面側の中央部に、エンブレム20が収納される装飾部材収納部としての取付凹部30が凹設されていてもよい。取付凹部30は、例えばエンブレム20の形状に沿って形成されている。この場合、開口部28は、取付凹部30の底部に配置される。本実施の形態では、位置決め部29も取付凹部30の底部に配置される。
【0021】
周板部22には、ベースプレートとカバー体18とを係合するためのカバー体係合部である係合開口部22aなどが複数設けられている。
【0022】
また、エンブレム20は、オーナメントなどとも呼ばれるものである。エンブレム20は、意匠部であるエンブレム体31と、受け部であるバックプレート32とを備えている。そして、エンブレム20は、エンブレム体31とバックプレート32とによりカバー体18の表板部21(正面板部23)を挟んで取り付けられる。
【0023】
図1、
図3及び
図4に示すエンブレム体31は、デザインオーナメント、アッパプレート、あるいはアッパエンブレムなどとも呼ばれるものである。エンブレム体31は、例えば硬質または軟質の合成樹脂により成形され適宜塗装やメッキなどの表面処理が施されて、エンブレム20の意匠部分を構成している。エンブレム体31は、正面板部23の反エアバッグ側である正面側に取り付けられる。本実施の形態において、エンブレム体31は、取付凹部30に嵌合される。そして、エンブレム体31は、意匠部本体部としてのエンブレム本体部34と、エンブレム本体部34に突設された係合部であるピン35とを一体的に備えている。また、本実施の形態において、エンブレム体31は、カバー本体部19に対する取り付けの方向性を決めるための位置決め部36が形成されている。
【0024】
エンブレム本体部34は、種々の形状とすることができるが、例えば本実施の形態では、略円形状の外形を有している。例えば、エンブレム本体部34は、略円形状の環状部と、この環状部を直径方向に横断する横断部とを備えている。本実施の形態において、エンブレム本体部34は、上下対称に形成されている。エンブレム本体部34は、本実施の形態において、取付凹部30に嵌合される。すなわち、取付凹部30は、円形状に形成されている。また、エンブレム本体部34は、板状に形成されている。
【0025】
ピン35は、開口部28にそれぞれ挿通されバックプレート32に係合されることでエンブレム体31をカバー体18側であるバックプレート32に係合固定するものである。ピン35は、エンブレム本体部34と連続する軸部37と、軸部37の先端側に形成された段差状に拡大された拡大部38とを有している。ここで、ピン35の配置は、エンブレム体31を上下左右にバランスよく支持できれば、その形状などに応じて適宜設定できるが、本実施の形態では、例えばエンブレム本体部34の中央部に一つ配置されている。
【0026】
軸部37は、カバー本体部19の開口部28に挿通可能な太さに形成されている。軸部37は、エンブレム本体部34の外面側に、このエンブレム本体部34の厚み方向に突設されている。軸部37には、軸方向すなわち突出方向に沿ってリブが外面に形成されていてよい。
【0027】
拡大部38は、軸部37に対し、ピン35の突出方向と交差する方向に拡大されている。拡大部38は、カバー本体部19の開口部28に挿通可能な太さに形成されている。拡大部38には、エンブレム本体部34側に、バックプレート32と係合される係合受け部40が形成されている。係合受け部40は、ピン35の開口部28への挿脱方向に対して交差する方向に沿って面状に形成されている。係合受け部40は、ピン35の挿入側から見てアンダー形状となっている。
【0028】
位置決め部36は、任意に形成されていてよいが、本実施の形態では例えばカバー本体部19の位置決め部29に挿入される突起部として形成されている。位置決め部36は、ピン35から離れた位置にて、エンブレム本体部34の背面側に、このエンブレム本体部34の厚み方向に突設されている。
【0029】
図1、
図2及び
図4に示すバックプレート32は、ロワエンブレムなどとも呼ばれるものである。バックプレート32は、例えば硬質の合成樹脂により成形されている。バックプレート32は、エンブレム体31を表板部21(正面板部23)に固定できれば種々の形状とすることができるが、本実施の形態では、例えば左右方向に長軸方向を有する長円または楕円形状に形成されている。また、バックプレート32は、正面板部23のエアバッグ側である背面側に取り付けられる。本実施の形態において、バックプレート32は、取付凹部30の背面側に配置される。また、バックプレート32は、取付凹部30の背面側に位置するリブ状の規制部46により外形位置が規制されている。さらに、バックプレート32は、カバー本体部19の表板部21(正面板部23)に対し、支持部47と当接している。支持部47は、表板部21(正面板部23)の背面側にリブ状に突設されている。さらに、バックプレート32には、エンブレム体31のピン35がそれぞれ挿入される穴部48が形成されている。穴部48は、例えば円形状に形成されている。また、穴部48は、ピン35の配置に対応して配置されている。本実施の形態において、穴部48は、バックプレート32の中央部に配置されている。穴部48は、ピン35の軸部37より大きく、かつ、拡大部38より小さい外形を有する。さらに、穴部48には、挿入されたピン35を係止するための当接部49が形成されている。当接部49は、穴部48の内縁に形成された爪部である。当接部49は、ピン35の突出方向である穴部48に対するピン35の挿脱方向(矢印Xに示す)に厚み方向を有して、この厚み方向に弾性変形可能な板状となっている。当接部49は、本実施の形態において、穴部48に三つ形成されており、穴部48の周方向に互いに離れて等配されている。そのため、隣り合う当接部49,49間は、穴部48の径方向に沿って放射状の溝部である切欠部50となっている。したがって、本実施の形態において、切欠部50は、穴部48に三つ形成されている。
【0030】
当接部49は、ピン35の係合受け部40に係合されてエンブレム体31をバックプレート32に係止するとともに、穴部48へのピン35の挿入を容易にするものである。当接部49は、例えば穴部48の内縁から周方向に沿って一定に突出する帯状に形成されている。また、当接部49は、基端部から先端部に向かい、穴部48へのピン35の挿脱方向に沿って湾曲されている。すなわち、当接部49は、基端側がカバー本体部19の表板部21(正面板部23)から離れる方向に向かって湾曲された弾性付与部49aであり、先端側がピン35の挿脱方向に沿う当接本体部49bである。
【0031】
また、当接部49には、複数の当接片が設定されている。本実施の形態において、当接部49には、(第一)当接片である第一弾性片部52と、(第二)当接片である第二弾性片部53とがそれぞれ少なくとも一つ設定されている。第一弾性片部52と、第二弾性片部53とには、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で、ピン35の係合受け部40への干渉力に強弱差が設定されている。第一弾性片部52は、係合受け部40への干渉力が相対的に大きく、第二弾性片部53は、係合受け部40への干渉力が相対的に小さい。すなわち、第一弾性片部52は、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で、係合受け部40に対し強干渉し、第二弾性片部53は、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で、係合受け部40に対し弱干渉、または、干渉しないようになっている。つまり、本実施の形態において、干渉力の強弱とは、弱いほうの干渉力が0のものも含む。第二弾性片部53が、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で、係合受け部40に対し弱干渉する場合には、強干渉する第一弾性片部52の干渉力のバランスを崩さない程度に干渉力を設定する。
【0032】
第一弾性片部52は、係合受け部40との強干渉によって、エンブレム体31を背面側へと引き込む強設定爪である。すなわち、第一弾性片部52は、エンブレム体31を背面側に引き込むのに必要な撓み強度が設定されている。
【0033】
第二弾性片部53は、本実施の形態において、エンブレム20(バックプレート32)が緩衝体と接触したときに係合受け部40と干渉して係合受け部40を支持するものである。また、本実施の形態において、第二弾性片部53は、係合受け部40に対して隙間が設定された隙設定爪である。
【0034】
第一弾性片部52は、本実施の形態において、エンブレム20の下側に一つ配置され、第二弾性片部53は、エンブレム20の上側の左右両側に配置されている。つまり、本実施の形態において、第一弾性片部52は、一つ設定され、第二弾性片部53は、複数、例えば二つ設定されている。
【0035】
そして、カバー体18の製造の際には、カバー本体部19を予め合成樹脂により射出成形した後、別途成形したエンブレム体31を、カバー本体部19の表板部21の正面板部23の正面側に配置して、ピン35を開口部28に挿通し、別途成形したバックプレート32を表板部21の正面板部23の背面側に配置して、このバックプレート32の穴部48に対して、開口部28から突出するエンブレム体31のピン35を嵌挿(圧入)する。この結果、ピン35の拡大部38が当接部49の第一弾性片部52及び第二弾性片部53をそれぞれ弾性変形させ、これら当接部49の第一弾性片部52及び第二弾性片部53を拡大部38が通過した位置で当接部49の第一弾性片部52及び第二弾性片部53が復帰変形し、第一弾性片部52が係合受け部40に強干渉するとともに、第二弾性片部53が係合受け部40に弱干渉、または、係合受け部40に干渉しない位置となる。第一弾性片部52は、係合受け部40との強干渉によって撓み、エンブレム体31をカバー本体部19の内方、つまり背面側へと引き込んで、エンブレム体31ががたつきなく保持及び位置規制される。このため、エンブレム体31とバックプレート32とにより、表板部21の正面板部23が正面背面方向に挟み込まれた状態でエンブレム20が強固に固定される。また、この状態で、エンブレム20は、当接部49の第一弾性片部52によりエンブレム体31が引き込まれて取付凹部30に収納され、この取付凹部30の周囲の正面板部23の表面から大きく突出することなく配置される。
【0036】
カバー体18を備えたモジュール12をステアリングホイール10に備えた自動車が衝突などすると、本実施の形態では、制御装置がインフレータを作動させ、エアバッグにガスを供給する。すると、エアバッグが急速に膨張展開し、この膨張展開する圧力でカバー本体部19の表板部21をテアライン24に沿ってエンブレム20を迂回した位置で破断し、扉部を形成し、この扉部がヒンジ部を軸として回動してエアバッグを膨出させる開口である突出口を形成し、この突出口からエアバッグが乗員の前方に展開し、乗員を保護する。
【0037】
このとき、エアバッグと対向するエンブレム20のバックプレート32は、エアバッグの展開圧力を受けることで撓み、エンブレム体31のピン35の当接部49の第二弾性片部53も係合受け部40に当接し、すべての弾性片部52,53によってピン35を係合保持して、エアバッグの展開圧力によるエンブレム20のカバー本体部19からの脱落を防止する。
【0038】
このように、一実施の形態によれば、係合受け部40を介してピン35を穴部48に対し抜け止めする当接部49に、穴部48に対するピン35の挿脱方向に弾性変形可能な第一弾性片部52と第二弾性片部53とを設定し、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態での第一弾性片部52と第二弾性片部53との係合受け部40への干渉力に強弱差が設定されているため、すべての弾性片部を係合受け部40に均等に当接させるように設計する必要がなく、設計が容易であり、エンブレム20を表板部21に低コストで安定的に取り付け可能となる。
【0039】
また、バックプレート32と表板部21の支持部47とを強干渉させ、当接部49の弾性片部を係合受け部40に強干渉させることでエンブレム20を表板部21に保持する構成では、バックプレート32自体の撓み(しなり)と弾性片部の強度とのバランスを取るように設計する必要があるのに対し、本実施の形態では、当接部49の第一弾性片部52が係合受け部40に強干渉するから、上記のようなバランスを取る必要がなく、設計工数を削減して、より低コストでエンブレム20を表板部21に安定的に取り付け可能となる。
【0040】
すなわち、本実施の形態の場合、第一弾性片部52は、エンブレム体31の引き込みに必要な撓み強度を設定し、第二弾性片部53は、非撓み状態の強度を設定すればよく、これらの設定は個々に設定可能であるから、互いの強度のバランスを取るための設計工程などが不要で、低コストで製造できる。
【0041】
また、エンブレム20は、汎用することが多く、バックプレート32と表板部21の支持部47とを強干渉させ、当接部49の弾性片部を係合受け部40に強干渉させることでエンブレム20を表板部21に保持する構成の場合、意匠が異なるカバー本体部19や同意匠の増し型時には、支持部47の金型を玉成することで支持部47の高さを調整して設計されたバランスの維持が必要になるのに対し、本実施の形態では、当接部49の第一弾性片部52が係合受け部40に強干渉するから、このような工程が不要となる。そのため、カバー本体部19の設計自由度や多様なカバー体18の意匠への汎用性が高まる。
【0042】
例えば、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で、第一弾性片部52を係合受け部40と干渉させ、残りの他である第二弾性片部53を係合受け部40に対し非接触とする場合には、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で係合受け部40に干渉しない第二弾性片部53は、外力などによってエンブレム体31やバックプレート32が変形したときに係合受け部40に干渉する際の必要強度に応じて設定すればよいから、設計が極めて容易で、エンブレム20を表板部21に低コストで安定的に取り付け可能となる。
【0043】
また、エンブレム体31とバックプレート32との組み付け状態で、第一弾性片部52を係合受け部40と強干渉させ、残りの他である第二弾性片部53を係合受け部40と弱干渉させる場合には、第二弾性片部53の係合受け部40への干渉力は、係合受け部40に強干渉する第一弾性片部52の強干渉のバランスを崩さない程度で、かつ、外力などによってエンブレム体31やバックプレート32が変形したときに係合受け部40に干渉する際の必要強度に応じて設定すればよいから、設計が容易で、エンブレム20を表板部21に低コストで安定的に取り付け可能となる。
【0044】
したがって、エンブレム20は、部品点数を増やすことなく細部の玉成も不要な、簡素な構成で、高い係合力を有し、安価で保証を高めることができる。
【0045】
また、車両用のステアリングホイール10に取り付けられるモジュール12のカバー体18に上記のエンブレム20を適用することで、安価でエンブレム20により装飾性を高めたカバー体18を備えるステアリングホイール10を提供できる。
【0046】
特に、モジュール12がエアバッグ装置である場合、エアバッグ装置のカバー体18に上記のエンブレム20を適用することで、エアバッグの展開圧力に対して、さらにバックプレート32全体の強度を設定することによって、エアバッグの展開圧力に起因するエンブレム20のカバー本体部19の表板部21からの脱落を防止できるとともに、この強度設定は、エンブレム体31の引き込みに必要な第一弾性片部52の撓み強度とは別個に設定できるので、互いの強度のバランスを取るための設計工程などが不要で、低コストで製造できる。
【0047】
なお、一実施の形態において、係合受け部40は、拡大部38のエンブレム本体部34側に形成されるものに限られず、例えばピン35の先端側に、ピン35の突出方向に対して交差する方向に窪んだ溝状などに形成されていてもよい。
【0048】
また、当接片は、本実施の形態において三つ設定されているが、これに限られず、二つのものや四つ以上のものなどでもよい。
【0049】
エンブレム20は、その成形型構造が成り立つ限りにおいては、形状やピン35の数を問わずに実施できる。
【0050】
また、モジュール12は、エアバッグを備えない構成としてもよい。例えば、エアバッグに代えて、緩衝体として、EA体などの衝撃吸収体を用いてもよい。
【0051】
さらに、モジュール12は、緩衝体を備えるものに限られず、例えばステアリングホイール10に備えられるホーン作動装置を動作させるためのホーンパッドなどでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、自動車のハンドル(ステアリングホイール)に用いられるモジュールとしてのエアバッグ装置のカバー体や、その他の部材に取り付けられるエンブレムに適用できる。
【符号の説明】
【0053】
10 ハンドルとしてのステアリングホイール
12 モジュール
18 カバー体
19 被取付部であるカバー本体部
20 装飾部材であるエンブレム
28 開口部
31 意匠部であるエンブレム体
32 受け部であるバックプレート
35 係合部であるピン
40 係合受け部
48 穴部
49 当接部
52 当接片である第一弾性片部
53 当接片である第二弾性片部