(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】XUV放射用のスペクトル選択素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/08 20060101AFI20230427BHJP
G01J 3/26 20060101ALI20230427BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20230427BHJP
G21K 1/06 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G01J3/26
G02B5/26
G21K1/06 B
G21K1/06 K
(21)【出願番号】P 2019528661
(86)(22)【出願日】2017-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2017080549
(87)【国際公開番号】W WO2018099866
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-25
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デルモット,フランク
(72)【発明者】
【氏名】デリンジャー,マエル
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-174897(JP,A)
【文献】特開平03-152426(JP,A)
【文献】特開昭62-226047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0062349(US,A1)
【文献】特開2001-272358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00-5/136
G02B 5/20-5/28
G01J 3/12
G21K 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XUV放射用のスペクトル選択素子(100)であって、
-第1の入射面内にある入力軸に沿ったXUV放射ビーム(I
1)を受光して、前記入射面と実質的に直交する第1の回転軸(12)を含む、入力ミラーと呼ばれる第1の多層ミラー(10)と、
-前記第1のミラーにより反射されたXUV放射ビーム(I
2)を前記スペクトル選択素子の出力軸へ伝送すべく、第2の入射面で受光すると共に、前記第2の入射面と実質的に直交する第2の回転軸(22)を含む、出力ミラーと呼ばれる第2の多層ミラー(20)とを含み、
-前記第1および第2の多層ミラーは、多周期多層ミラーまたは非周期多層ミラーであり、
-前記ミラーの一方が、傾斜の絶対値が0.1eV
-1よりも大きく、且つ低エネルギー遮断性が20を超える、第1の側面と呼ばれる側面を低エネルギー側に有する、エネルギーの関数として反射率に対応する、XUVにおける第1の高域通過エネルギースペクトル応答を有し、
-前記ミラーの他方が、傾斜の絶対値が0.1eV
-1よりも大きく、且つ高エネルギー遮断性が20を超える、第2の側面と呼ばれる側面を高エネルギー側に有する、エネルギーの関数として反射率に対応する、XUVにおける第2の低域通過エネルギースペクトル応答を有し、
各エネルギースペクトル応答は、最大反射率Rmaxに対応するエネルギーE0を呈し、
第1の高域通過エネルギースペクトル応答は、半最大値の全幅FWHM_HPと、低エネルギー側でのRmax/25に等しい反射率に対応するエネルギーE2_HPと、スペクトル範囲[E2_HP-2
*FWHM_HP E2_HP]における最大反射率Rthとを呈し、傾斜は、低エネルギー側でのRmax/2の反射率とRmax/25の反射率との間で定義され、遮断性は、比Rmax/Rthによって定義され、
第2の低域通過エネルギースペクトル応答は、半最大値の全幅FWHM_LPと、高エネルギー側でのRmax/25に等しい反射率に対応するエネルギーE2_LPと、スペクトル範囲[E2_LP E2_LP+2
*FWHM_LP]における最大反射率Rthとを呈し、傾斜は、高エネルギー側でのRmax/2の反射率とRmax/25の反射率との間で定義され、遮断性は、比Rmax/Rthによって定義され、
-前記第1および第2の多層ミラーは、それらのそれぞれのスペクトルエネルギー応答において部分的な重なりだけを有し、エネルギーE2_LPがエネルギーE2_HPより厳密に高いときに重なりが部分的であり、高域通過エネルギースペクトル応答および低域通過エネルギースペクトル応答の交差が、それぞれ前記第1の側面および前記第2の側面上で生じる、
スペクトル選択素子(100)。
【請求項2】
前記第1および第2の入射面が同一面である、請求項
1に記載のスペクトル選択素子。
【請求項3】
前記第1および第2の回転軸の回りの前記第1および第2のミラーの各々の回転を結合して、前記出力軸を前記入力軸と平行に保つようにする手段を含んでいる、請求項
1または2に記載のスペクトル選択素子。
【請求項4】
前記第1および第2のミラーの一方および/または他方を前記入力軸と実質的に平行な軸に沿って並進させて、前記ミラーが回転した際に、前記出力軸を固定された状態に保つようにする手段を更に含んでいる、請求項
3に記載のスペクトル選択素子。
【請求項5】
-前記第1および第2のミラーの少なくとも一方が、前記ミラーの入射面と実質的に直交する方向に横方向の厚さ勾配を有し、
-前記素子が更に、前記ミラーを前記勾配の方向に並進させる手段を含んでいる、請求項1~
4のいずれか1項に記載のスペクトル選択素子。
【請求項6】
所与の方向にXUV放射ビームを放出するXUV放射源と、それ自体の入力軸に沿って前記放射ビームを受光すべく請求項1~
5のいずれか1項に記載のスペクトル選択素子とを含む、可変エネルギーXUV放射ビームを放出するシステム。
【請求項7】
広いスペクトル帯域を有するXUV放射ビーム(I
1)をスペクトル的に選択する方法であって、
-入力ミラーと呼ばれる第1の多層ミラー(10)により、前記XUV放射ビーム(I
1)を第1の入射面内にある入力軸に沿って反射するステップと、
-出力ミラーと呼ばれる第2の多層ミラー(20)により、前記第1のミラーにより反射されたXUV放射ビーム(I
2)を出力軸に向けて反射するステップであって、前記第2のミラーにより反映されたビームおよび前記出力軸が第2の入射面内にあるステップと、
-前記出力されたXUV放射ビームのエネルギーを変化させるべく、前記第1のミラーを前記第1の入射面と実質的に直交する第1の回転軸(12)の回りに回転させると共に、前記第2のミラーを前記第2の入射面と実質的に直交する第2の回転軸(22)の回りに回転させるステップと
を含み、
-前記第1および第2の多層ミラーは、多周期多層ミラーまたは非周期多層ミラーであり、
-前記ミラーの一方が、傾斜の絶対値が0.1eV
-1よりも大きく、且つ低エネルギー遮断性が20を超える、第1の側面と呼ばれる側面を低エネルギー側に有する、エネルギーの関数として反射率に対応する、XUVにおける第1の高域通過エネルギースペクトル応答を有し、
-前記ミラーの他方が、傾斜の絶対値が0.1eV
-1よりも大きく、且つ高エネルギー遮断性が20を超える、第2の側面と呼ばれる側面を高エネルギー側に有する、エネルギーの関数として反射率に対応する、XUVにおける第2の低域通過エネルギースペクトル応答を有し、
各エネルギースペクトル応答は、最大反射率Rmaxに対応するエネルギーE0を呈し、
第1の高域通過エネルギースペクトル応答は、半最大値の全幅FWHM_HPと、低エネルギー側でのRmax/25に等しい反射率に対応するエネルギーE2_HPと、スペクトル範囲[E2_HP-2
*FWHM_HP E2_HP]における最大反射率Rthとを呈し、傾斜は、低エネルギー側でのRmax/2の反射率とRmax/25の反射率との間で定義され、遮断性は、比Rmax/Rthによって定義され、
第2の低域通過エネルギースペクトル応答は、半最大値の全幅FWHM_LPと、高エネルギー側でのRmax/25に等しい反射率に対応するエネルギーE2_LPと、スペクトル範囲[E2_LP E2_LP+2
*FWHM_LP]における最大反射率Rthとを呈し、傾斜は、高エネルギー側でのRmax/2の反射率とRmax/25の反射率との間で定義され、遮断性は、比Rmax/Rthによって定義され、
-前記第1および第2の多層ミラーは、それらのそれぞれスペクトルエネルギー応答において部分的な重なりだけを有し、エネルギーE2_LPがエネルギーE2_HPより厳密に高いときに重なりが部分的であり、高域通過エネルギースペクトル応答および低域通過エネルギースペクトル応答の交差が、それぞれ前記第1の側面および前記第2の側面上で生じる、
方法。
【請求項8】
前記第1および第2のミラーの回転が結合されて、前記出力軸を前記入力軸と平行に保つことができる、請求項
7に記載のスペクトル選択方法。
【請求項9】
前記ミラーが回転した際に前記出力軸を固定された状態に保つことができるように、前記第1および第2のミラーの一方および/または他方を前記入力軸と実質的に平行な軸に沿って並進させるステップを更に含んでいる、請求項
7または
8に記載のスペクトル選択方法。
【請求項10】
-前記第1および第2のミラーの少なくとも一方が、前記ミラーの入射面と実質的に直交する方向の横方向の厚さ勾配を有し、
前記方法が更に、前記出力されたXUV放射ビームのスペクトル幅を変更すべく前記ミラーを前記勾配の方向に並進させるステップを含んでいる、請求項
7~
9のいずれか1項に記載のスペクトル選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、XUV放射用のスペクトル選択素子、このような素子に適したXUV放射ビームを放出するシステム、およびXUV放射用のスペクトル選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子および分子におけるフェムト秒(fs)またはアト秒(as)タイムスケールでの超高速ダイナミクスの研究は、希釈物質、凝縮物質、およびプラズマの研究で急発展している分野である。これらの研究では、研究対象の物質を超短且つ高強度のレーザー場に晒す必要がある。特に、典型的には12eV~400eV(すなわち3nm~100nmの波長)のエネルギーでの放射を含むXUV(またはEUV、すなわち「極端UV」)領域におけるコヒーレントパルスを用いる物質の分析が特に速いペースで進歩している。具体的には、位相整形されたXUVパルスにより、アト秒(as)(1as=10-18s)時間分解能で物質を刺激することができる。パルス持続時間がより長い(典型的にはps)XUVパルスにより1meV未満のエネルギー分解能で電子構造を調べて、電子-原子核相互作用に関する詳細情報が得られるようになる。
【0003】
XUVパルス源のうち、放出原理が原子または分子との高強度赤外(IR)レーザーの相互作用に基づいている高調和振動発生(HHG)源が知られている。fs~asの範囲のXUVコヒーレントパルスは、非線形プロセスでの入射基本放射の高調和振動の発生を介して得られる。HHG源は、今や技術的に成熟しており、特に研究所スケールでの超高速ダイナミクス研究の実施に適している。プラズマXUVレーザーも知られており、これらはfsまたはpsレーザーを用いて形成されたプラズマによるXUV放射の非コヒーレント放出に基づいている。最後に、放出原理が周期的磁場を有する高エネルギーの電子ビームの相互作用に基づいていて、超短(fs)コヒーレントXUVパルスの発生を可能にする自由電子レーザーがある。
【0004】
XUV源と並行して、パルスを特徴化して制御する光学素子および検出器が開発されている。特に、スペクトル選択素子、またはモノクロメータにより、注目する波長を選択することができる。
【0005】
回折格子により、極めて高いスペクトル分解能を示すモノクロメータの製造が可能になる。しかし、超短パルスの分野での用途に関して、一定の持続時間でパルスを伝送する必要があり、このため特定のスペクトル範囲のパルスが伝送できなければならない。極端UVにおいて、これは1~数電子ボルトのオーダーの帯域幅に対応する。現在、回折格子が、回折効果自体に起因して、必然的にパルスが時間的に拡張されることが知られている。L.Poletto et al.(“Time-compensated extreme-UV and soft x-ray monochromator for ultrashort high-order harmonic pulses”,J.Opt.A:Pure Appl.Opt.3(201)374-379)に記述されているように、斜入射で動作する2つの回折格子を有する構成における時間的分散を補償することが可能である。しかし、このように形成された素子は、不整合、収差、および表面断層の問題に極めて敏感である。更に、所与の角度に関する時間的分散の補償は極めて狭いスペクトル領域で最適であり、すなわち、より広いスペクトル範囲にわたる分散を補償することが望ましい場合にモノクロメータの出力方向を変える必要があることを意味する。
【0006】
上で引用したL.Polettoの論文において、回折格子に代えて2つの多層ミラーの使用が推奨されている。
【0007】
多層ミラーは、XUV領域で高い反射率を示すことが知られている。多層ミラーの物理的性質は公知であって、多くの科学出版物(例えばE.Spiller,“Soft X-Rays Optics”,SPIE Optical Engineering Press,Bellingham(1994)参照)に記述されている。多層ミラーは垂直入射または斜入射で用いることができる。これらは、屈折率が極めて対照的な材料の厚さがナノメートル単位の層が交互に積層されたコーティングからなり、典型的には、原子番号が大きい、および小さい材料が交互に積層されている。材料の選択および層の厚さを決定することでミラーの光学特性(最大反射率の波長/エネルギー、帯域幅、反射スペクトル応答の形状)を決定することが可能になる。更に、反射スペクトル応答が入射角に依存するため、ミラーを回転させることにより、各々のミラーにより反映され、従ってモノクロメータの出力端から放出される波長(またはエネルギー)を選択することが可能である。
【0008】
L.Polettoが提案するモノクロメータは従って、出力ビームの方向を一定に保つべく、平行ビームモードで動作し、且つ互いに平行なままでミラー面に平行な垂直軸の回りを回転可能な2つの同一の多層ミラーを含んでいる。回折格子に基づく技術と比較して、上述のモノクロメータにより、注目するスペクトル領域において定常的な出力方向を維持することができる。上述のモノクロメータはまた、より小型且つ時間的分散をより良好に補償する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】L.Poletto et al.(“Time-compensated extreme-UV and soft x-ray monochromator for ultrashort high-order harmonic pulses”,J.Opt.A:Pure Appl.Opt.3(201)374-379)
【文献】E.Spiller,“Soft X-Rays Optics”,SPIE Optical Engineering Press,Bellingham(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、多層ミラーは、所与の入射角に対して最適化された反射率を有し、入射角が変化してエネルギーが変化したならば、反射スペクトル応答の半最大値における全幅として定義される(エネルギー)スペクトル帯域が結果的に広がる。
【0011】
本明細書は、ミラーへの入射角が変化した場合に、反射スペクトル応答の半最大値における出力方向および全幅を維持できるようにする2つの多層ミラーの特定の構成を示すモノクロメータを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様による本明細書の一主題は、XUV放射用のスペクトル選択素子であって、
-所与の第1の入射面内にある入力軸に沿ったXUV放射ビームを受光して、第1の入射面と実質的に直交する第1の回転軸を含む第1の多層ミラーと、
-第1のミラーにより反射されたXUV放射ビームをスペクトル選択素子の出力軸へ伝送すべく、第2の入射面で受光すると共に、第2の入射面と実質的に直交する第2の回転軸を含む第2の多層ミラーとを含み、
-前記ミラーの一方が、急峻性が0.1eV-1よりも大きく、且つ低エネルギー遮断性が20を超える側面を低エネルギー側に有する、第1の高域通過エネルギースペクトル応答を有し、
-前記ミラーの他方が、急峻性が0.1eV-1よりも大きく、且つ高エネルギー遮断性が20を超える側面を高エネルギー側に有する、第2の低域通過エネルギースペクトル応答を有し、
-前記ミラーのスペクトルエネルギー応答の重なりは部分的に過ぎない。
【0013】
本明細書の以下の記述を通じて、第1の高域通過エネルギースペクトル応答を有するミラーを単に「高域通過ミラー」と呼び、第1の低域通過エネルギースペクトル応答を有するミラーを単に「低域通過ミラー」と呼ぶ。
【0014】
用語「ミラーのエネルギースペクトル応答」は、XUV内のエネルギーの関数としてのミラーの反射率曲線を意味するものと理解されたい。
【0015】
出願人らは、本明細書によるスペクトル選択素子により、0.1eVよりも良好な反射スペクトル応答の半最大値で全幅を維持しながら、且つ優れた遮断性を維持しながら、少なくとも20eVのスペクトル範囲にわたり同調性が得られることを示した。この技術的利点は、各々のミラーの応答における唯一の部分的重なりと、各々のミラーの側面の急峻性およびこの側面側で極めて高い遮断性と、を組み合わせた場合のみに得られる。
【0016】
具体的には、上述のように画定されるスペクトル選択素子において、スペクトル帯域は、従前のように単一のミラーのスペクトル帯域ではなく、低域通過ミラーの場合は高エネルギー側の、高域通過ミラーの場合は低エネルギー側の側面の位置により画定される。
【0017】
本明細書において、応答の重なりが「部分的に過ぎない」とは、高エネルギー側の側面における低域通過ミラーの最大反射率の1/25に対応するエネルギーが、低エネルギー側の側面における高域通過ミラーの最大反射率の1/25に対応するエネルギーよりも明らかに高く、且つ低エネルギー側の側面における高域通過ミラーと高エネルギー側の側面における低域通過ミラーの最大反射率の半分に対応する各々のエネルギーの差が、高域通過および低域通過ミラーの(エネルギー)スペクトル応答の半最大値における最小全幅の90%よりも(絶対値が)明らかに小さい場合である。
【0018】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、入力および出力ミラーは多周期、有利な特徴として二周期、または非周期多層ミラーである。
【0019】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、第1の入射面と第2の入射面は同一面である。
【0020】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、本明細書によるスペクトル選択素子は、第1および第2の回転軸の回りの第1および第2のミラーの各々の回転を結合して、出力軸を入力軸と平行に保つようにする手段を含んでいる。従って、一方のミラーの回転は、出力軸を入力軸と平行に保つべく、他方のミラーの回転に依存するように行われる。
【0021】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、スペクトル選択素子は更に、第1および第2のミラーの一方および/または他方を入力軸と平行な軸に沿って並進させて、ミラーが回転した際に、出力軸を固定された状態に保つようにする手段を含んでいる。
【0022】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、
-第1および第2のミラーの少なくとも一方が、ミラーの入射面と実質的に直交する方向に横方向の厚さ勾配を有し、
-素子が更に、前記ミラーを勾配の方向に並進させる手段を含んでいる。
【0023】
本明細書の以下の記述を通じて、ある軸または表面/平面が別の軸または表面/平面と実質的に平行であると言えるのは、平行性からの逸脱が3°未満の場合である。同様に、ある軸または表面/平面が別の軸または表面/平面と実質的に垂直であると言えるのは、垂直性からの逸脱が3°未満の場合である。
【0024】
第2の態様による本明細書の別の主題は、所与の方向にXUV放射ビームを放出するXUV放射源と、それ自体の入力軸に沿って前記放射ビームを受光すべく第1の態様によるスペクトル選択素子とを含む、XUV放射ビームを放出するシステムである。
【0025】
本明細書に記述するスペクトル選択素子の用途は特に、XUVコヒーレント源への実装である。本明細書に記述するスペクトル選択素子は特に、HHG源に結合された場合に、一定の帯域幅を有するエネルギーを選択して、1つ以上の例示的な実施形態に従い、エネルギーおよびパルス持続時間を独立に調整できるため、有利である。素子はまた、他のXUV源にモノクロメータとして適用することもできる。
【0026】
スペクトル選択素子はまた有利な特徴として、他の種類の発生源(プラズマ、シンクロトロン放射等)、例えば天体物理学(非コヒーレント放射)の極端UV分光、シンクロトロン源への実装、または高密度プラズマのX線分光にも用いることができる。特に、素子の(エネルギーおよび帯域幅)の両面での同調性により、現在利用されている解決策に利点をもたらす。
【0027】
第3の態様による本明細書の別の主題は、広いスペクトル帯域を有するXUV放射ビーム(I1)をスペクトル的に選択する方法であって、
-第1の多層ミラーにより、XUV放射ビームを第1の入射面内にある入力軸に沿って反射するステップと、
-第2の多層ミラーにより、第1のミラーにより反射されたXUV放射ビームをスペクトル選択素子の出力軸に向けて、第2のミラーにより反映されたビームおよび出力軸が第2の入射面内にあるように反射するステップと、
-出力されたXUV放射ビームのエネルギーを変化させるべく、第1のミラーを第1の入射面と実質的に直交する第1の回転軸の回りに回転させると共に、第2のミラーを第2の入射面と実質的に直交する第2の回転軸の回りに回転させるステップとを含み、
-前記ミラーの一方が、急峻性が0.1eV-1よりも大きく、且つ低エネルギー遮断性が20を超える側面を低エネルギー側に有する、第1の高域通過エネルギースペクトル応答を有し、
-前記ミラーの他方が、急峻性が0.1eV-1よりも大きく、且つ高エネルギー遮断性が20を超える側面を高エネルギー側に有する、第2の低域通過エネルギースペクトル応答を有し、
-前記ミラーのスペクトルエネルギー応答の重なりは部分的に過ぎない。
【0028】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、第1および第2のミラーの回転が結合されて、出力軸を入力軸と平行に保つことができる。結合は、結合手段を用いて手動で、または自動的に実行することができる。
【0029】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、本方法は更に、ミラーが回転した際に出力軸を固定された状態に保つことができるように、第1および第2のミラーの一方および/または他方を入力軸と実質的に平行な軸に沿って並進させるステップを含んでいる。
【0030】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、第1および第2のミラーの少なくとも一方が、ミラーの入射面と実質的に直交する方向の横方向の厚さ勾配を有し、本方法は更に、出力されたXUV放射ビームのスペクトル幅を変更すべく前記ミラーを勾配の方向に並進させるステップを含んでいる。
【0031】
上述の技術的解決策の他の利点および特徴は、図面を参照しながら以下の詳細説明を精査すれば明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1A】第1のミラーにより、第1の入射角を形成する入力軸に沿ったXUV放射ビームを受光する、本明細書の例示的な一実施形態によるスペクトル選択素子を模式的に示す。
【
図1B】第1のミラーにより、第1の入射角とは異なる第2の入射角を形成する入力軸に沿ったXUV放射ビームを受光する同一素子を模式的に示す。
【
図2A】本明細書による「高域通過」多層ミラーの反射率の例示的なエネルギースペクトル応答曲線を説明目的で示す。
【
図2B】本明細書による例示的な一スペクトル選択素子における各々「高域通過」および「低域通過」である2つの多層ミラーの反射のエネルギースペクトル応答曲線の例を説明目的で示す。
【
図2C】
図2Bに示す応答を有する高域通過および低域通過ミラーを組み合わせた素子の反射のエネルギースペクトル応答曲線を示す。
【
図3A】入射角を変化させた際の、
図2Bに示す応答を有する高域通過および低域通過ミラーを組み合わせた素子の反射のエネルギースペクトル応答曲線を示す。
【
図3B】入射角を変化させた際の、従来技術によるスペクトル選択素子における反射のエネルギースペクトル応答曲線を比較目的で示す。
【
図4A】第1および第2のミラーの一方が厚さ勾配を有する、本明細書によるスペクトル選択素子の例示的な一実施形態を示す。
【
図4B】第1および第2のミラーの一方が厚さ勾配を有する、本明細書によるスペクトル選択素子の例示的な一実施形態を示す。
【
図5A】
図4Aに示すような素子の反射スペクトル応答曲線を、厚さ勾配を有するミラーにおける放射ビームの様々な位置について示す。
【
図5B】
図4Aに示すような素子の反射スペクトル応答曲線を、厚さ勾配および様々な入射角を有するミラーにおける放射ビームの様々な位置について示す。
【
図6A】本明細書によるスペクトル選択素子の、HHG源の調和振動の選択への適用を示す。
【
図6B】本明細書によるスペクトル選択素子の、HHG源の複数の調和振動の選択への適用を示す。
【
図7A】本明細書によるスペクトル選択素子を得ることに適した、各々二周期的および非周期的である多層ミラーの例示的な実施形態を示す。
【
図7B】本明細書によるスペクトル選択素子を得ることに適した、各々二周期的および非周期的である多層ミラーの例示的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1A、1Bに、本明細書による例示的な一スペクトル選択素子100の動作を示す。
【0034】
上述の例において、XUV放射ビームI
1が、第1のミラーが回転した状態で、第1のミラー10(本出願では入力ミラーとも称する)の法線Δ
1に対する入射角θ
1(
図1A)または入射角θ
2(
図1B)を各々形成する入力軸に沿って伝送される。
【0035】
これらの図に、第1のミラーまたは入力ミラー10の基準系に含まれるXYZ座標系を示す。
【0036】
図1Aに示すように、スペクトル選択素子100は、第1のミラーの表面の法線Δ
1をも含んでいる所与の第1の入射面Π内の入力軸に沿ったXUV放射ビームI
1を受光する表面11を有する第1の多層ミラー10(入力ミラー)を含んでいる。入力軸は一般に所定の、固定された軸であるため、スペクトル選択素子を、所与の用途を目的として、例えばXUV放射源を更に含むシステム内に容易に組み込むことができる。スペクトル選択素子100は更に、第1のミラー10により反映されたXUV放射ビームI
2を、スペクトル選択素子の出力軸へ放射ビームI
3の形式で伝送すべく、受光する表面21を有する第2の多層ミラー20(出力ミラー)を含んでいる。出力軸は、反射ビームI
2および第2のミラーの表面の法線Δ
2を含む平面として定義される、第2のミラーの入射面である第2の入射面内にある。表面は、
図1A、1Bに示すように平坦であっても、または特にXUV放射ビームを収束/発散させたい場合に湾曲していてもよい。
【0037】
実際には、
図1A、1Bに示すように、単一の入射面Πを形成すべく、第1の入射面と第2の入射面を一致させなければならない。特に、これによりミラーの設計が極めて簡単になる。これを実現するには、表面が平坦ならばミラー10と20の表面が互いに実質的に平行であるか、または表面が湾曲していれば入射放射ビームの軸との交点におけるこれらの表面の接線が互いに実質的に平行であることが保証されなければならない。
【0038】
第1および第2の多層ミラー10、20は各々、ミラーの入射面と直交する回転軸を含んでおり、
図1A、1Bに各々参照番号12、22で示す。図に示すように、各々のミラーの回転軸は例えば、放射ビームを受光すべきミラーの表面に実質的に接している。各々のミラーの回転軸が、放射ビームの軸とミラーの表面との交点付近に位置する点を通ることが一般に求められ、これによりミラーが回転した際にミラー上でのビームの変位を制限することが可能になる。
【0039】
例示的な一実施形態によれば、スペクトル選択素子は更に、出力軸の方向を実質的に一定且つ入力軸と平行に保つべくミラーが付随的に回転できるように、入力10および出力20ミラー(図示せず)の回転を結合する手段を含んでいる。従って、
図1Bで明らかなように、入力ミラー10の回転軸12の回りの回転は、入力ミラー10への入射角が第1のミラー10の回転に起因して変化しても、素子から出力された放射I
3の軸の方向が一定のままであるように、出力ミラー20の回転軸22の回りの回転と同時に生起する。このように、入力および出力ミラーの各々へのXUV放射の入射角は実質的に同一であるため、ミラーが回転するにつれて各々のミラーへの入射角を同様に変化させることも可能になり、そのためスペクトル帯域の半最大値における全幅の保持性が向上する。実際にはミラーの回転が結合されるため、入力/出力10、20のミラーの表面は各々、表面が平坦ならば実質的に平行なままであり、表面が湾曲していれば入射放射ビームの軸との交点におけるこれらの表面の接線は平行に保たれていれば。
【0040】
例示的な一実施形態によれば、スペクトル選択素子は更に、入力10および出力20ミラー(
図1A、1Bに示さず)の一方および/または他方を入力軸と実質的に平行な軸に沿って並進させる手段を含んでいる。入力および出力ミラーの回転が、出力軸の方向を固定された状態に保つべく結合されている場合、ミラーが回転しても固定されたままであるように出力軸の変位を修正すべく一方のミラーを並進させることも有利であろう。これは、所定の軸に沿って可変エネルギーXUV放射ビームを受光する必要があるシステム内にスペクトル選択素子が組み込まれている場合に特に有用である。
【0041】
従来技術のスペクトル選択素子とは異なり、第1および第2の多層ミラー10、20は同一でない。
図1A、1Bの曲線15、25により模式的に示すように、これらは各々高域通過および低域通過反射エネルギースペクトル応答を有している。具体的には、出願人らは、曲線105上に模式的に示すこれら2つのミラーの組み合わせから生じる応答が、同一の反射エネルギー応答を有する2つのミラーの組み合わせから生じる応答に比べて、半最大値における全幅の変化が極めて小さいことを示した。
【0042】
本明細書によるスペクトル選択素子の形成に適した高域フィルタの例示的な反射エネルギー応答を
図2Aにより詳細に示す。
【0043】
曲線(C_HP)は、モリブデン702(Mo)とシリコン701(Si)が交互に積層された、
図7Aに示す種類の二周期多層ミラーについて計算されている。基板73側の下部多層(
図7Aの71)は、厚さ2.175nmのMo層と厚さ7.55nmのSi層とが68回積層された構成を含んでいる。表面側の上部多層(
図7Aの72)は、厚さ3.025nmのMo層と厚さ6.3nmのSi層とが6回積層された構成をなしている。
【0044】
一般的に、本明細書によるスペクトル選択素子に適したミラーのエネルギーの関数として反射率を与える応答曲線上の以下の点、すなわち
-最大反射率Rmaxを表す横座標E0上のP0(E0、Rmax)点、
-本明細書で当該側では応答の「急峻な側面」と呼ばれる、高域通過(または低域通過)ミラーの低(または高)エネルギー側で反射率Rmax/2を示す横座標E1上のP1(E1、Rmax/2)点、
-高域通過(または低域通過)ミラーの低(または高)エネルギー側、すなわち急峻な側面側で反射率Rmax/25を示す横座標E2上のP2(E2、Rmax/25)点、
-高域通過ミラーのスペクトル範囲[E2-2*FWHM;E2]、または低域通過ミラーの[E2;E2+2*FWHM]にわたり最大反射率Rthを示す横座標E3上のP3(E3、Rth)点(ここに、FWHMはミラーの応答のエネルギーの半最大値の全幅)
を定義することが可能である。
【0045】
図2Bに、高域通過フィルタ(曲線C_HP)、および高域通過フィルタと組み合わせて動作するのに適した低域通過フィルタ(曲線C_LP)の例示的な反射エネルギー応答を示す。高域通過フィルタ(曲線C_HP)は応答を
図2Aに示すものと同一である。
【0046】
曲線C_LPは、モリブデン702(Mo)とシリコン701(Si)とが交互に積層された、
図7Aに示す種類の二周期多層ミラーについて計算されている。基板側の下部多層(
図7Aの71)は、厚さ2.8nmのMo層と厚さ7.4nmのSi層とが68回積層された構成をなしている。表面側の上部多層(
図7Aの72)は、厚さ2.425nmのMo層と厚さ8.0nmのSi層とが6回積層された構成をなしている。
【0047】
図2Bに示すように、高域通過ミラー(または低域通過ミラー)に対応する点P1、P2およびP3をより具体的にP1_HP(またはP1_LP)、P2_HP(またはP2_LP)およびP3_HP(またはP3_LP)と表記する。
【0048】
図2Cに、
図2Bに示す応答を有する高域通過および低域通過ミラーを組み合わせたスペクトル選択素子の反射のエネルギー応答を示す。
【0049】
本明細書によるスペクトル選択素子を製造すべく、急峻性が0.1eV-1よりも大きく、且つ低エネルギー遮断性が20を超える低エネルギー側に側面(急峻な側面)を有する高域通過ミラーが選択され、急峻性が0.1eV-1よりも大きく、且つ高エネルギー遮断性が20を超える高エネルギー側に側面(急峻な側面)を有する低域通過ミラーが選択される。更に、高域通過および低域通過ミラーの各々のスペクトルエネルギー応答の重なりは部分的に過ぎない。高域通過ミラー(または低域通過ミラー)が等しく入力ミラーまたは出力ミラーであってよい点に留意されたい。
【0050】
本明細書において、急峻な
側面の急峻性は、点P1およびP2を接続している傾斜の絶対値により定義される(
図2A)。
【0051】
遮断性は、Rthに対するRmaxの比として定義される。
【0052】
重なりが「限定的に過ぎない」のは、高エネルギー側の側面における低域通過ミラーの最大反射率の1/25に対応するエネルギーが、低エネルギー側の側面における高域通過ミラーの最大反射率の1/25に対応するエネルギーよりも明らかに高く、且つ低エネルギー側の側面における高域通過ミラーおよび高エネルギー側の側面における低域通過ミラーの各々最大反射率の半分に対応するエネルギーの差が各々、高域通過および低域通過ミラーの(エネルギー)スペクトル応答の半最大値における最小全幅の90%よりも(絶対値が)明らかに小さい場合、すなわち、
E2_HP<E2_LP、且つ
ABS(E1_HP-E1_LP)<0.9*MIN[FWHM_HP,FWHM_LP]
が成り立つ場合である。
【0053】
図2Bから分かるように、高域通過ミラーの場合における高エネルギー側での、または低域通過ミラーの場合における低エネルギー側での反射率の低下はさほど重要ではなく、むしろ重要なのは、各々のミラーの応答に充分な非対称性があり、入射角が変化した(これによりミラーのエネルギー応答がシフトする)場合に各々の応答の急峻な
側面の急峻性および遮断性が維持され、且つ応答の充分な重なりが維持されことである。
【0054】
従って、全幅を半最大値に維持しながら対称な反射エネルギー応答を得ることが求められる従来技術によるスペクトル選択素子の多層ミラーとは異なり、本明細書による素子では、高い遮断性を示す単一の急峻な
側面を有する応答、および応答の重なりが部分的に過ぎないことが各々のミラーに求められる。各々のミラーの応答の半最大値における全幅が入射角に伴い変化することはさほど重要でない。具体的には、スペクトル選択素子の応答(
図2Cの曲線C参照)がここで各々のミラーの応答の急峻な
側面の各々により画定される。
【0055】
当業者には、以下により詳細に述べるように、公知の設計ツールを用いて、上述の寸法上の制約を解決する多層ミラーを設計することが全く可能であることに留意されたい。
【0056】
図3Aに、2つの多層ミラーを
図2Bに示す応答と組み合わせたスペクトル選択素子の反射率応答曲線を、一例を用いて示す。曲線C
1~C
3は、入力ミラー(および出力ミラー)への入射角θ
1=19°、θ
1=33.75°およびθ
1=45.25°に各々対応している。半最大値での全幅は各々、2.10eV、2.03eVおよび2.10eVである。応答の半最大値での全幅は従って、これらの曲線間で0.07eV、すなわち3.5%未満変化する。
【0057】
比較として、
図3Bに、2つの同一の多層ミラーを組み合わせたスペクトル選択素子の反射率応答曲線を示す。
【0058】
図3Bに示す曲線の計算に用いる多層ミラーは、θ
1=45.25°での動作に最適化されている。これは、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)とが交互に積層された周期多層ミラーである。多層は、厚さ3.925nmのMo層と厚さ6.075nmのSi層とが40回積層された構成をなしている。
【0059】
図3Bにおいて、曲線C’
1~C’
3は、
図3Aと同様に入力ミラー(および出力ミラー)への入射角θ
1=19°、θ
1=33.75°およびθ
1=45.25°について各々計算されている。半最大値での全幅が各々4.80eV、5.63eVおよび6.45eVであることが分かる。応答の半最大値での全幅は従って、これらの曲線間で1.65eV、すなわち34.4%変化する。
【0060】
反射率は、2つの同一の周期的ミラーを設けた方が高いが、本明細書に従い寸法決めされたスペクトル素子では、スペクトル幅の選択性および安定性が実質的に優れていることが分かる。
【0061】
図4A、4Bに、スペクトル選択素子の2つのミラー10、20の少なくとも一方が、入射面と直交する方向に横方向の厚さ勾配を有する別の例示的な実施形態を示す。
図4Aの例において、厚さ勾配を有するのは出力ミラー20である。
【0062】
次いで、スペクトル選択素子(曲線105)の反射エネルギー応答の幅が、出力ミラー20へ放射I
2が入射する高さに依存していることを示しており、この高さは、勾配の軸と平行な軸に沿って、すなわちここでは入射面と直交する軸zに沿って画定されている。
図4A、4Bの囲みに示すように、ビームから見た層の厚さはその高さに応じて異なる。表面全体にわたる厚さの変化は数パーセントのオーダーである。この結果、多層の周期がその表面に沿って徐々に変化し、従って(ブラッグの法則によればλ=2d
*sin(θ))、ミラーのスペクトル応答の最大反射率の波長/エネルギーの面から位置が変化する。この効果により、勾配を有しているミラーをこの勾配の軸に沿って動かすことにより、2つのミラーのスペクトル応答の重なりを調整し、従ってスペクトル幅および素子の応答の最大反射率に作用することが可能になる。
【0063】
従って、
図5Aに3つの曲線C
A、C
BおよびC
Cを示し、これらは勾配値0%、2.5%および5%(値は厚さの百分率の変化として表されている)に対応する3つの高さ値に対するスペクトル選択素子の反射エネルギー応答を各々示している。半最大値で得られた全幅は各々0.9eV、2.4eVおよび4.25eVである。
【0064】
図5A、5Bに示す例は、以下に特徴を述べる2つの「高域通過」および「低域通過」多層ミラーの構成を用いて作成された。
【0065】
「低域通過」多層ミラーは、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)とが交互に積層された、
図7Aに示す種類の二周期多層ミラーである。基板73側の下部多層(
図7Aの71)は、厚さ2.45nmのMo層と厚さ5.9nmのSi層とが68回積層された構成を含んでいる。表面側(Si層はMo層上に堆積されている)の上部多層(
図7Aの72)は、厚さ2.55nmのMo層と厚さ6.1nmのSi層とが6回積層された構成を含んでいる。
【0066】
「高域通過」多層ミラーは、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)とが交互に積層された、
図7Aに示す種類の二周期多層ミラーである。基板側の下部多層(
図7Aの71)は、厚さ2.6nmのMo層と厚さ5.4nmのSi層とが68回積層された構成を含んでいる。表面側(Si層はMo層上に堆積されている)の上部多層(
図7Aの72)は、厚さ3.0nmのMo層と厚さ4.65nmのSi層とが6回積層された構成を含んでいる。
【0067】
上述の例において、勾配は低域通過ミラーにある。
図5において、曲線C
Aは上述の厚さに対応している。曲線C
BおよびC
Cは各々、低域通過ミラーの所与のコーティングの厚さを2.5%および5%低下させることにより得られる。
【0068】
厚さ勾配を有する多層ミラーの設計のより完全な記述は、例えばMoraweらによる論文(“Design and performance of graded multilayers as focusing elements for x-ray optics”,Rev Sci Instrum,70(8),(1999))に見られる。
【0069】
図5Bに上述の3つの曲線を再び、但し今回は入射角の関数としても示す。より具体的には、A、BおよびCと表記した曲線の各々は、上で指定したような厚さ勾配に対応し、1~6と表記した各曲線は各々、入射角5°、15°、25°、30°、35.5°および37.5°に対応している。
【0070】
素子のエネルギー同調可能範囲全体にわたり、勾配効果により帯域幅を制御可能であることが分かる。
【0071】
本明細書に記述するスペクトル選択素子への適用として特にXUVコヒーレント源への実装が挙げられるが、他の種類の発生源(プラズマ、シンクロトロン放射等)、例えば天体物理学(非コヒーレント放射)の極端UV分光、シンクロトロン源への実装、または高密度プラズマのX線分光にも用いることができる。特に、素子の(エネルギーおよび帯域幅)の両面での同調性により、現在利用されている解決策に利点をもたらす。
【0072】
例えば、
図6Aに示すように、本明細書によるスペクトル選択素子により、高調和振動発生(HHG)源からのXUV放射の光線のうち1本を選択し、スペクトル幅を増やすことなくミラーへの入射角を変化させることにより、選択された光線を変えることが可能である。
【0073】
また、
図6Bに示すように、選択のスペクトル幅を選び、複数の調和振動、またはより一般により広いスペクトル範囲を選択することも可能であるため、時間的により短いパルスを伝送できるようになる。従って、試験持続時間を適切に選び、研究対象の各プロセスについてこの持続時間を最適化することにより、超短波プロセスの試験を行うことが可能である。
【0074】
図7A、7Bに、例示的な二周期および非周期多層ミラーを各々示す。出願人らは、これらのミラーが本明細書によるスペクトル選択素子の製造に適した候補であることを示した。
【0075】
二周期多層ミラーは例えば、J.Gautier et al.(“Two channel multilayer mirrors for astrophysics”Optics Communications 281,3032-3035(2008))に記述されている。
【0076】
各々のフィルタは、ソフトウェアIMD(http://www.rxollc.com/idl/から無料で入手可能)を用いて別個に製造することができる。
【0077】
図7Aに示すように、二周期多層ミラー70
Aは、例示的な一実施形態によれば、基板73、例えばシリコンまたはシリカ製の基板と、基板上に堆積された、本明細書で「下部多層」と称する、第1の多層スタック71と、本明細書で「上部多層」と称する第2の多層スタック72と、を含んでいる。第1の多層スタック71は、第1の材料製の層と第2の材料製の層とが第1の周期d
1分周期的に積層された構成を含んでいる。第2の多層スタック72は、第1の材料製の層と第2の材料製の層とが第2の周期数d
2分周期的に積層された構成を含んでいる。
図7Aの例において、下部および上部多層の第1および第2の材料は同一であり、図中701および702で示す。これにより、エネルギーの観点から極めて近いが僅かにシフトしている2つのスペクトル応答をモデル化することが可能になる。異なる材料を用いてもよい。
【0078】
本明細書によるスペクトル選択素子の製造に適した二周期低域通過および高域通過ミラーを設計する一方法は例えば以下の通りである。
【0079】
最初に、層の初期厚さおよび材料が、所与のエネルギーで最適化された周期ミラー用に選択される。
【0080】
材料の選択は、所望のエネルギー範囲に依存し、所望のエネルギー範囲で最適な反射率が得られる材料を選択すべきである。以下の表1に、一例として、所望のスペクトル範囲に応じて使用できる材料を数組示す。
【0081】
【0082】
元素記号は各々Cr(クロミウム)、Sc(スカンジウム)、W(タングステン)、C(炭素)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、La(ランタン)、B4C(炭化ホウ素)、Mo(モリブデン)、Y(イットリウム)、Sr(ストロンチウム)、Be(ベリリウム)、Si(シリコン)、SiC(炭化ケイ素)、Gd(ガドリニウム)、Zr(ジルコニウム)、Mg(マグネシウム)およびAl(アルミニウム)である。
【0083】
多層構成の周期は概ねブラッグの法則に従う。
λ=2d.sin(θ)
ここで、λは反映される放射の波長、dは多層の周期、θは(ミラーの表面への)入射角である。従って、多層構成の周期は、10%以内まで、入射度および最適化エネルギー/波長の関数として上式により定義される。1周期での材料の各々の厚さは一般に、最も吸収性が高い材料が厚さの20%~50%を占めるように選択される。材料の厚さの正確な値は、反射率を最大化すべく最適化することができる。これらのパラメータは、同調性範囲の中心に来るように選択されてよく、従って、最適化エネルギーは、素子がカバーすべきスペクトル範囲の平均エネルギーに対応している。例えば、θ=45°は角変化の最大振幅を可能にすべく選択されてよい。
【0084】
上述のパラメータが決定されたならば、フィルタのスペクトルの形状、側面の急峻性、および遮断率は、二周期ミラーの上部多層スタックの周期および各種材料間の厚さ(γ)と層数の比を調整することにより得られる。これらの調整は、例えばソフトウェアIMDを用いて行われる。ユーザーは、各種パラメータの複数の値についてシミュレーションを実行し、次いで最適と思われる値を選択すべく各種結果をランク付けすることができる。多層スタックで有用な層の総数は、材料内での放射の吸収により制約される。XUV放射が最後の有用な層に到達してそこから戻らなければならないことを考慮して、多層スタックの半長における平均吸収に対応するスタックの全厚を選択すべきである。これは層の厚さおよび仕事エネルギーに応じて数十~数百層に対応しており、これは厚さが1~数百ナノメートルの範囲のスタックに概ね対応する。数層~約20層の範囲の上部多層スタック内の層数は、入射放射を吸収し過ぎることなく、ミラーの特性に影響を及ぼす程度に充分高くなければならない。
【0085】
二周期ミラーの下部多層スタックの周期に作用することにより、フィルタをエネルギーの観点から配置することができる。具体的には、最終的なスペクトル選択素子は、スペクトル応答が部分的に重なる2つの多層ミラーを含んでいる。従って、低域通過(または高域通過)多層は、設計段階での初期周期ミラーよりも僅かに低い(または僅かに高い)エネルギーで最大反射率を示す。この初期ミラーの応答のエネルギーは有利な特徴として、低域通過および高域通過ミラーの応答を組み合わせたものと同じである。
【0086】
従って一つの可能な方法は、ミラーの応答に非対称性を生じさせるべく二周期構造の上部および下部多層スタックのスペクトル応答のエネルギーを僅かにシフトさせ、フィルタの性能(側面の急峻性、遮断率)を最適化すべくパラメータを改良するものである。これらの最適化は手動で行えるが、TFCalc(商標)等の市販の最適化ソフトウェアを用いて自動的に行うこともできる。
【0087】
2つの低域通過および高域通過フィルタは、同一プロセスを用いて製造することができる。
【0088】
上述のステップに加えて、厚さ勾配を追加する必要がある場合の更なるいくつかの詳細事項について以下に述べる。最初に、厚さ勾配を有する(すなわち、上述のように入射角を変える必要無しに波長/エネルギーの観点からそれ自体のスペクトル応答をシフトすることができる)1つ以上のミラーを選択する。次に、固定された角度で、引き続きソフトウェアIMDを用いて、1つ以上スペクトル応答で所望のシフトを得るべく、1つ以上の多層スタックの全厚を何パーセント増大または減少させる必要があるかを決定するのが最も簡単である。スペクトル応答は常に部分的に重なる必要があるため、一般に数(高々5~10)パーセントで充分である。
【0089】
二周期多層ミラーの特定のケースで具体例を与えたが、他の種類の多周期多層ミラーを用いてもよい。この場合、多層ミラーの特性の寸法を決定する手順、断面数が2より大きいこと以外は二周期ミラーと同じ規則に従う。例えば、より多くの層を含む第1の下部多層スタックがあってよく、より薄い他のスタックは上述の方法論を用いて製造することができる。上部多層スタックを用いて、ミラーのスペクトル応答の形状をより微細にモデル化することができる。スタック数が(極めて少ない数を超える程度に)顕著になった場合、これにより、本方法では、これを自動的に行うソフトウェアを用いて層を1つずつ寸法決めする必要がある、完全に非周期的なミラーの寸法を決めることになる。
【0090】
図7Bに示すように、非周期多層ミラー70
Bは、例示的な一実施形態によれば、基板73、例えば、シリコンまたはシリカ製の基板と、基板上に堆積された、各種材料、例えば第1の材料701および第2の材料702の層の非周期的積層を形成する多層スタック74と、を含んでいる。
【0091】
本明細書によるスペクトル選択素子の製造に適した高域通過ミラーまたは低域通過ミラーの特徴を示す非周期多層ミラーは例えば、多層ミラーをシミュレートして最適化するソフトウェア、例えばTFCalc(商標)等の市販ソフトウェアにより製造することができる。
【0092】
図7Bに示すように、非周期的装置の一つの利点は、たとえ設計および製造が例えば二周期ミラーの場合よりも困難であっても、傾斜の急峻性およびミラーの遮断性が向上することであろう。
【0093】
例示的な一実施形態によれば、例えば上述の方法により設計された二周期的構造を出発点として用いることができる。次いで、シミュレーションソフトウェアにより、最適化パラメータを調整して、例えば傾斜を改善する、すなわち最大反射率の中間値と最小反射率との間での反射率の変化をなるべく狭いスペクトル帯域で生じさせることができる。これは、傾斜に沿って「目標」の位置決めを行うことにより実現できる。ソフトウェアによる最適化プロセスは、所与のエネルギーおよび入射角でユーザーにより画定される目標の周辺での性能指数を最小化することにより生じる。また各目標には、最適化プロセスとの関連で目標反射率に関連付けられている。
【0094】
本明細書との関連で例示的に用いられた非周期多層は、厚さが1~50nmの約100~120個の層を有している。ミラーの全厚は有利な特徴として、多層スタック内の放射の減衰長の半分のオーダーである。
【0095】
スペクトル選択素子およびこの素子の製造方法は、特定数の例示的実施形態を介して記述してきたが、当業者には明らかであろう異なる変型、変更および改良を含んでおり、これらの異なる変型、変更および改良が、以下の請求項により規定される本発明の範囲内に含まれることを理解されたい。