(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび酸化物薄膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230427BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/01
(21)【出願番号】P 2019562164
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2018048135
(87)【国際公開番号】W WO2019131876
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/047375
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/038546
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺村 享祐
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111818(JP,A)
【文献】特開2013-177676(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179676(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/112369(WO,A1)
【文献】特開2016-130010(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168906(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132769(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0109688(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0349040(US,A1)
【文献】国際公開第2019/026954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C04B 35/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)と、ガリウム(Ga)と、亜鉛(Zn)と、スズ(Sn)と、アルミニウム(Al)と、酸素(O)と、不可避不純物とからなる酸化物焼結体であって、各元素の原子比が下記式(1)~(4)を満たす酸化物焼結体。
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.98 ・・(1)
0.01≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(2)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(3)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(4)
【請求項2】
各元素の原子比が下記式(5)~(8)を満たす、請求項1に記載の酸化物焼結体。
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(5)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(6)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(7)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(8)
【請求項3】
各元素の原子比が下記式(9)~(12)を満たす、請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
0.80≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(9)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.19 ・・(10)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.07 ・・(11)
0.51≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.80 ・・(12)
【請求項4】
各元素の原子比が、以下の式(13)~(16)を満たす、請求項1~3のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.85≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(13)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.14 ・・(14)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.04 ・・(15)
0.51≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.70 ・・(16)
【請求項5】
各元素の原子比が下記式(17)~(20)を満たす、請求項1~4のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.90≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(17)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.05 ・・(18)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.04 ・・(19)
0.52≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.65 ・・(20)
【請求項6】
各元素の原子比が下記式(21)~(23)を満たす、請求項1~5のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.40≦In/(In+Zn+Sn)≦0.90 ・・(21)
0.05≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.55 ・・(22)
0.05≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.20 ・・(23)
【請求項7】
各元素の原子比が下記式(24)~(26)を満たす、請求項1~6のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.40≦In/(In+Zn+Sn)≦0.60 ・・(24)
0.15≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.50 ・・(25)
0.08≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.19 ・・(26)
【請求項8】
各元素の原子比が下記式(27)~(29)を満たす、請求項1~7のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.45≦In/(In+Zn+Sn)≦0.55 ・・(27)
0.25≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.40 ・・(28)
0.12≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.18 ・・(29)
【請求項9】
相対密度が95%以上である、請求項1~8のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項10】
比抵抗が10mΩ・cm以下である、請求項1~9のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項11】
ビックスバイト型構造のIn
2O
3相を含む、請求項1~10のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一つに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いる
スパッタリングターゲット。
【請求項13】
インジウム(In)と、ガリウム(Ga)と、亜鉛(Zn)と、スズ(Sn)と、アルミニウム(Al)と、酸素(O)と、不可避不純物とからなる酸化物薄膜であって、各元素の原子比が下記式(1)~(4)を満たす酸化物薄膜。
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.98 ・・(1)
0.01≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(2)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(3)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(4)
【請求項14】
各元素の原子比が下記式(5)~(8)を満たす、請求項13に記載の酸化物薄膜。
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(5)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(6)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(7)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(8)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび酸化物薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)などの酸化物半導体薄膜を成膜するためのスパッタリングターゲットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスパッタリングターゲットで成膜された酸化物半導体薄膜は、キャリア移動度について改善の余地があった。
【0005】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、スパッタリングターゲットに用いて成膜された酸化物半導体薄膜のキャリア移動度を向上させることができる酸化物焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る酸化物焼結体は、インジウム(In)と、ガリウム(Ga)と、亜鉛(Zn)と、スズ(Sn)と、アルミニウム(Al)と、酸素(O)と、不可避不純物とからなる酸化物焼結体であって、各元素の原子比が下記式(1)~(4)を満たす。
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.98 ・・(1)
0.01≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(2)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(3)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(4)
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、成膜された酸化物半導体薄膜のキャリア移動度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1~4および比較例2に係る酸化物半導体薄膜をチャネル層に適用したTFT素子の構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび酸化物薄膜の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施形態の酸化物焼結体は、インジウム(In)と、ガリウム(Ga)と、亜鉛(Zn)と、スズ(Sn)と、アルミニウム(Al)と、酸素(O)と、不可避不純物とからなり、スパッタリングターゲットとして用いることができる。
【0011】
実施形態の酸化物焼結体は、各元素の原子比が、以下の式(1)~(4)を満たす。
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.98 ・・(1)
0.01≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(2)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(3)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(4)
【0012】
これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された酸化物半導体薄膜のキャリア移動度を向上させることができる。
【0013】
また、実施形態の酸化物焼結体は、各元素の原子比が、以下の式(5)~(8)を満たすことが好ましく、
0.70≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(5)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.29 ・・(6)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.10 ・・(7)
0.50<In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.90 ・・(8)
各元素の原子比が、以下の式(9)~(12)を満たすことがより好ましく、
0.80≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(9)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.19 ・・(10)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.07 ・・(11)
0.51≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.80 ・・(12)
各元素の原子比が、以下の式(13)~(16)を満たすことがさらに好ましく、
0.85≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(13)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.14 ・・(14)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.04 ・・(15)
0.51≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.70 ・・(16)
各元素の原子比が、以下の式(17)~(20)を満たすことがよりさらに好ましい。
0.90≦(In+Zn+Sn)/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.97 ・・(17)
0.02≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.05 ・・(18)
0.01≦Al/(In+Ga+Zn+Sn+Al)≦0.04 ・・(19)
0.52≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.65 ・・(20)
【0014】
これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された酸化物半導体薄膜のキャリア移動度をさらに向上させることができる。
【0015】
また、実施形態の酸化物焼結体は、各元素の原子比が、以下の式(21)~(23)を満たすことが好ましい。
0.40≦In/(In+Zn+Sn)≦0.90 ・・(21)
0.05≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.55 ・・(22)
0.05≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.20 ・・(23)
【0016】
これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された酸化物半導体薄膜をTFT素子1に適用した場合に、伝達特性と信頼性とを高いレベルで両立させることができる。
【0017】
また、実施形態の酸化物焼結体は、各元素の原子比が、以下の式(24)~(26)を満たすことがより好ましく、
0.40≦In/(In+Zn+Sn)≦0.60 ・・(24)
0.15≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.50 ・・(25)
0.08≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.19 ・・(26)
各元素の原子比が、以下の式(27)~(29)を満たすことがより好ましい。
0.45≦In/(In+Zn+Sn)≦0.55 ・・(27)
0.25≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.40 ・・(28)
0.12≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.18 ・・(29)
【0018】
これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された酸化物半導体薄膜をTFT素子1に適用した場合に、伝達特性と信頼性とをより高いレベルで両立させることができる。
【0019】
また、実施形態の酸化物焼結体は、比抵抗が10mΩ・cm以下であることが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0020】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、比抵抗が5mΩ・cm以下であることがより好ましく、比抵抗が3mΩ・cm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
実施形態の酸化物焼結体は、相対密度が95%以上であることが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、DCスパッタリングの放電状態を安定させることができる。なお、実施形態の酸化物焼結体は、相対密度が97%以上であることがより好ましく、相対密度が99%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
相対密度が95%以上であると、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、スパッタリングターゲット中に空隙を少なくでき、大気中のガス成分の取り込みを防止しやすい。また、スパッタリング中に、かかる空隙を起点とした異常放電やスパッタリングターゲットの割れ等が生じにくくなる。
【0023】
実施形態の酸化物焼結体は、ビックスバイト型構造のIn2O3相を含むことが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いた際、比抵抗が低くなり、放電状態を安定させることができる。
【0024】
また、実施形態の酸化物薄膜は、インジウム(In)と、ガリウム(Ga)と、亜鉛(Zn)と、スズ(Sn)と、アルミニウム(Al)と、酸素(O)と、不可避不純物とからなる酸化物薄膜であって、各元素の原子比が上記式(1)~(4)を満たす。
【0025】
これにより、酸化物半導体薄膜のキャリア移動度を向上させることができる。
【0026】
<酸化物スパッタリングターゲットの各製造工程>
実施形態の酸化物スパッタリングターゲットは、たとえば以下に示すような方法により製造することができる。まず、原料粉末を混合する。原料粉末としては、通常In2O3粉末、Ga2O3粉末、ZnO粉末、SnO2粉末およびAl2O3粉末である。各原料粉末の平均粒径はすべて5μm以下であることが好ましく、また、各原料粉末相互の平均粒径の差は2μm以下であることが好ましい。なお、原料粉末の平均粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50である。
【0027】
各原料粉末の混合比率は、酸化物焼結体における所望の構成元素比になるように適宜決定される。
【0028】
各原料粉末は、事前に乾式混合してもよい。かかる乾式混合の方法には特に制限はなく、たとえば、各原料粉末およびジルコニアボールをポットに入れて混合するボールミル混合を用いることができる。このように混合された混合粉末から成形体を作製する方法としては、たとえばスリップキャスト法や、CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加圧法)などが挙げられる。つづいて、成形方法の具体例として、2種類の方法についてそれぞれ説明する。
【0029】
(スリップキャスト法)
ここで説明するスリップキャスト法では、混合粉末と有機添加物とを含有するスラリーを、分散媒を用いて調製し、かかるスラリーを型に流し込んで分散媒を除去することにより成形を行う。ここで用いることができる有機添加物は、公知のバインダーや分散剤などである。
【0030】
また、スラリーを調製する際に用いる分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水やアルコールなどから適宜選択して用いることができる。また、スラリーを調製する方法にも特に制限はなく、たとえば、混合粉末と、有機添加物と、分散媒とをポットに入れて混合するボールミル混合を用いることができる。このようにして得られたスラリーを型に流し込み、分散媒を除去して成形体を作製する。ここで用いることができる型は、金属型や石膏型、加圧して分散媒除去を行う樹脂型などである。
【0031】
(CIP法)
ここで説明するCIP法では、混合粉末と有機添加物とを含有するスラリーを、分散媒を用いて調製し、かかるスラリーを噴霧乾燥して得られた乾燥粉末を型に充填して加圧成形を行う。ここで用いることができる有機添加物は、公知のバインダーや分散剤などである。
【0032】
また、スラリーを調製する際に用いる分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水やアルコールなどから適宜選択して用いることができる。また、スラリーを調製する方法にも特に制限はなく、たとえば、混合粉末と、有機添加物と分散媒とをポットに入れて混合するボールミル混合を用いることができる。
【0033】
このようにして得られたスラリーを噴霧乾燥して、含水率が1%以下の乾燥粉末を作製し、かかる乾燥粉末を型に充填してCIP法により加圧成形して、成形体を作製する。
【0034】
次に得られた成形体を焼成し、焼結体を作製する。かかる焼結体を作製する焼成炉には特に制限はなく、セラミックス焼結体の製造に使用可能である焼成炉を用いることができる。
【0035】
焼成温度は、1300℃~1600℃が好ましく、1400℃~1500℃がより好ましい。焼成温度が高いほど高密度の焼結体が得られる一方で、焼結体の組織の肥大化を抑制して割れを防止する観点から上記温度以下で制御するのが好ましい。
【0036】
次に得られた焼結体を切削加工する。かかる切削加工は、平面研削盤などを用いて行う。また、切削加工後の表面粗さRaは、切削加工に用いる砥石の砥粒の大きさを選定することにより、適宜制御することができる。
【0037】
切削加工した焼結体を基材に接合することによってスパッタリングターゲットを作製する。基材の材質にはステンレスや銅、チタンなどを適宜選択することができる。接合材にはインジウムなどの低融点半田を使用することができる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
平均粒径が0.6μmであるIn2O3粉末と、平均粒径が2μmであるGa2O3粉末と、平均粒径が0.8μmであるZnO粉末と、平均粒径が0.8μmであるSnO2粉末と、平均粒径が0.5μmであるAl2O3粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。
【0039】
なお、原料粉末の平均粒径は、日機装株式会社製の粒度分布測定装置HRAを用いて測定した。かかる測定の際、溶媒には水を使用し、測定物質の屈折率2.20で測定した。また、以下に記載の原料粉末の平均粒径についても同様の測定条件とした。
【0040】
なお、かかる混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、In:Ga:Zn:Sn:Al=0.46:0.12:0.26:0.13:0.03となるように各原料粉末を配合した。
【0041】
次に、混合粉末が調製されたポットに、混合粉末に対して0.2質量%のバインダーと、混合粉末に対して0.6質量%の分散剤と、分散媒として混合粉末に対して20質量%の水とを加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。
【0042】
次に、調製されたスラリーを、フィルターを挟んだ金属製の型に流し込み、排水して成形体を得た。次に、この成形体を焼成して焼結体を作製した。かかる焼成は大気雰囲気中、焼成温度1400℃、焼成時間10時間、昇温速度300℃/h、降温速度50℃/hで行った。
【0043】
次に、得られた焼結体を切削加工し、表面粗さRaが1.0μmである幅210mm×長さ710mm×厚さ6mmの酸化物焼結体を3枚得た。なお、かかる切削加工には#170の砥石を使用した。
【0044】
[実施例2~12]
実施例1と同様な方法を用いて、酸化物焼結体を3枚得た。なお、実施例2~12では、混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、表1に記載の原子比となるように各原料粉末を配合した。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様な方法を用いて、酸化物焼結体を3枚得た。なお、比較例1では、混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、In:Ga:Zn:Sn:Al=0.49:0.10:0.20:0.10:0.11となるように各原料粉末を配合した。
【0046】
[比較例2]
平均粒径が0.6μmであるIn2O3粉末と、平均粒径が2μmであるGa2O3粉末と、平均粒径が0.8μmであるZnO粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。
【0047】
なお、かかる混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、In:Ga:Zn=0.33:0.33:0.33となるように各原料粉末を配合した。
【0048】
次に、混合粉末が調製されたポットに、混合粉末に対して0.2質量%のバインダーと、混合粉末に対して0.6質量%の分散剤と、分散媒として混合粉末に対して20質量%の水とを加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。
【0049】
次に、調製されたスラリーを、フィルターを挟んだ金属製の型に流し込み、排水して成形体を得た。次に、この成形体を焼成して焼結体を作製した。かかる焼成は大気雰囲気中、焼成温度1400℃、焼成時間10時間、昇温速度300℃/h、降温速度50℃/hで行った。
【0050】
次に、得られた焼結体を切削加工し、表面粗さRaが1.0μmである幅210mm×長さ710mm×厚さ6mmの酸化物焼結体を3枚得た。なお、かかる切削加工には#170の砥石を使用した。
【0051】
なお、実施例1~12および比較例1、2において、各原料粉末を調製する際に計量した各金属元素の原子比が、得られた酸化物焼結体における各金属元素の原子比と等しいことをICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:誘導結合プラズマ発光分光法)により確認した。
【0052】
つづいて、上記にて得られた実施例1~12および比較例1、2の酸化物焼結体について、相対密度の測定を行った。かかる相対密度は、アルキメデス法に基づき測定した。
【0053】
具体的には、酸化物焼結体の空中質量を体積(焼結体の水中質量/計測温度における水比重)で除し、理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。
【0054】
また、かかる理論密度ρ(g/cm3)は、酸化物焼結体の製造に用いた原料粉末の質量%および密度から算出した。具体的には、下記の式(30)により算出した。
ρ={(C1/100)/ρ1+(C2/100)/ρ2+(C3/100)/ρ3+(C4/100)/ρ4+(C5/100)/ρ5}-1 ・・(30)
【0055】
なお、上記式中のC1~C5およびρ1~ρ5は、それぞれ以下の値を示している。
・C1:酸化物焼結体の製造に用いたIn2O3粉末の質量%
・ρ1:In2O3の密度(7.18g/cm3)
・C2:酸化物焼結体の製造に用いたGa2O3粉末の質量%
・ρ2:Ga2O3の密度(5.95g/cm3)
・C3:酸化物焼結体の製造に用いたZnO粉末の質量%
・ρ3:ZnOの密度(5.60g/cm3)
・C4:酸化物焼結体の製造に用いたSnO2粉末の質量%
・ρ4:SnO2の密度(6.95g/cm3)
・C5:酸化物焼結体の製造に用いたAl2O3粉末の質量%
・ρ5:Al2O3の密度(3.98g/cm3)
【0056】
つづいて、上記にて得られた実施例1~12および比較例1、2のスパッタリングターゲット用酸化物焼結体について、それぞれ比抵抗(バルク抵抗)の測定を行った。
【0057】
具体的には、三菱化学株式会社製ロレスタ(登録商標)HP MCP-T410(直列4探針プローブ TYPE ESP)を用いて、加工後の酸化物焼結体の表面にプローブをあてて、AUTO RANGEモードで測定した。測定箇所は酸化物焼結体の中央付近および4隅の計5か所とし、各測定値の平均値をその焼結体のバルク抵抗値とした。
【0058】
ここで、上述の実施例1~12および比較例1、2について、含有する各金属元素の原子比と、相対密度および比抵抗(バルク抵抗)の測定結果とを表1に示す。なお、比抵抗(バルク抵抗)の測定結果は、3枚ずつ作製した酸化物焼結体における測定結果のうち、もっとも比抵抗(バルク抵抗)の高い酸化物焼結体での値を示している。
【0059】
【0060】
実施例1~12の酸化物焼結体は、比較例2よりも比抵抗が小さい(10(mΩ・cm)以下)ことがわかる。したがって、実施形態によれば、酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0061】
つづいて、上記にて得られた実施例1~12および比較例1、2の酸化物焼結体の表面を、X線回折測定(XRD:X-Ray Diffraction)を用いて得られた回折ピークを解析することにより、構成相を同定した。
【0062】
その結果、実施例1~12、比較例1の酸化物焼結体では、いずれもビックスバイト型構造のIn2O3相が観察されたのに対し、比較例2の酸化物焼結体では、ビックスバイト型構造のIn2O3相が観察されなかった。
【0063】
つづいて、上記にて得られた実施例1~12および比較例1、2の酸化物焼結体から、実施例1~12および比較例1、2のスパッタリングターゲットを作製した。かかるスパッタリングターゲットは、低融点半田であるインジウムを接合材として使用し、上記にて得られた酸化物焼結体を銅製の基材に接合して作製した。
【0064】
つづいて、作製された実施例1~12および比較例1、2のスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件でスパッタリング成膜を行い、厚さ約100nmの薄膜を成膜した。
・成膜装置:トッキ株式会社製SML-464(DCスパッタリング装置)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・スパッタガス:Ar/O2混合ガス
・スパッタガス圧:0.4Pa
・O2ガス分圧:10%
・基板:ガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA-10)
・基板温度:室温
・スパッタリング電力:3W/cm2
【0065】
なお、実施例1~12および比較例1、2において、スパッタリングターゲットに用いられた酸化物焼結体における各金属元素の含有率が、得られた酸化物半導体薄膜における各金属元素の原子比と等しいことをICP-AESにより確認した。
【0066】
つづいて、成膜されたそれぞれのスパッタリング薄膜を、ガラス基板から10mm×10mm角に切り出し、ホットプレート上で300℃、1時間、大気中でポストアニールを行った後に、下記の条件でホール効果測定を行い、キャリア移動度を算出した。
・測定装置:ナノメトリクス・ジャパン株式会社製HL5500PC
・測定方法:van der Pauw法
【0067】
ここで、上述の実施例1~12および比較例1、2について、含有する各金属元素の原子比と、キャリア移動度との測定結果を表1に示す。
【0068】
上述の式(1)~(4)を満たす実施例1~12と、式(1)~(4)を満たさない比較例1、2との比較により、式(1)~(4)を満たすことによって、スパッタリング成膜される酸化物半導体薄膜のキャリア移動度を向上させることができる。
【0069】
さらに、上述の式(17)~(20)を満たす実施例2~4、9、11、12と、式(17)~(20)を満たさない実施例5、6との比較により、式(17)~(20)を満たすことによって、スパッタリング成膜される酸化物半導体薄膜のキャリア移動度をさらに向上させることができる。
【0070】
つづいて、上述の酸化物半導体薄膜をチャネル層40としたTFT素子1を、フォトリソグラフィー法により作製した。
図1は、実施例1~4および比較例2に係る酸化物半導体薄膜をチャネル層40に適用したTFT素子1の構造を示した断面図である。
【0071】
TFT素子1の作製は、
図1に示すように、最初に、ガラス基板10上にゲート電極20としてCu薄膜をDCスパッタリング装置を用いて成膜した。次に、ゲート絶縁膜30としてSiO
x薄膜をプラズマCVD装置を用いて成膜した。
【0072】
次に、チャネル層40として実施例1~4および比較例2に係る酸化物半導体薄膜をDCスパッタリング装置を用いて成膜した。ここでのスパッタガス圧は0.4Pa、スパッタリング電力3W/cm2である。
【0073】
次に、エッチングストッパー層50として、SiOx薄膜をプラズマCVD装置を用いて成膜した。次に、ソース電極60およびドレイン電極61としてCu薄膜をDCスパッタリング装置を用いて成膜した。最後に、保護層70として、SiOx薄膜をプラズマCVD装置を用いて成膜して、実施例1~4および比較例2に係る酸化物半導体薄膜を適用したTFT素子1を得た。
【0074】
つづいて、上記にて得られた実施例1~4および比較例2に係る酸化物半導体薄膜を適用したTFT素子1について、伝達特性の測定を行った。測定した伝達特性は、電界効果移動度、SS(Subthreshold Swing)値およびしきい電圧である。また、伝達特性の測定は、Agilent Technologies株式会社製Semiconductor Device Analyzer B1500Aにより測定した。
【0075】
なお、電界効果移動度とは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)動作の線形領域において、ドレイン電圧を一定としたときのゲート電圧に対するドレイン電流の変化から求めたチャネル移動度のことであり、値が大きいほど伝達特性が良好である。
【0076】
また、SS値とは、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧のことであり、値が小さいほど伝達特性が良好である。さらに、しきい電圧とは、ドレイン電極61に正電圧をかけ、ゲート電極20に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧であり、値が小さいほど伝達特性が良好である。
【0077】
さらに、上記にて得られた実施例1~4および比較例2に係る酸化物半導体薄膜を適用したTFT素子1について、信頼性の評価を行った。かかる信頼性の評価は、正バイアス温度負荷(Positive Bias Temperature Stress:PBTS)テストと、負バイアス温度負荷(Negative Bias Temperature Stress:NBTS)テストとにより行った。
【0078】
PBTSテストでは、正バイアス+20V、温度60℃の条件下で3600秒負荷をかけた前後におけるしきい電圧のシフト量を測定した。また、NBTSテストでは、負バイアス-20V、温度60℃の条件下で3600秒負荷をかけた前後におけるしきい電圧のシフト量を測定した。すなわち、PBTSテストおよびNBTSテストの値がゼロに近いほど、負荷をかけた前後でのしきい電圧の変動が小さく、信頼性が良好である。
【0079】
ここで、上述の実施例1~4および比較例2について、TFT素子1の伝達特性および信頼性の評価結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
上述の式(21)~(23)を満たす実施例1~4と、式(21)~(23)を満たさない比較例2との比較により、式(21)~(23)を満たすことによって、成膜された酸化物半導体薄膜をTFT素子1に適用した場合に、伝達特性と信頼性とを両立させることができる。
【0082】
また、下記の式(31)を満たす実施例3、4と、式(31)を満たさない実施例1、2との比較により、式(31)を満たすことによって、成膜された酸化物半導体薄膜をTFT素子1に適用した場合に、電界効果移動度およびSS値を向上させることができる。
0.55≦In/(In+Ga+Zn+Al)≦0.65 ・・(31)
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。たとえば、実施形態では、板状の酸化物焼結体を用いてスパッタリングターゲットが作製された例について示したが、酸化物焼結体の形状は板状に限られず、円筒状など、どのような形状であってもよい。
【0084】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 TFT素子
10 ガラス基板
20 ゲート電極
30 ゲート絶縁膜
40 チャネル層
50 エッチングストッパー層
60 ソース電極
61 ドレイン電極
70 保護層