(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】毒物に対する細胞の保護剤としてのスクレリチンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20230427BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20230427BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230427BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230427BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20230427BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20230427BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61P39/02
A61P17/16
A61K8/64
A61Q17/00
A61Q17/04
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020535305
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2018074455
(87)【国際公開番号】W WO2019048703
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-25
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520083714
【氏名又は名称】サントル サンティフィーク ドゥ モナコ
(73)【特許権者】
【識別番号】520083725
【氏名又は名称】コラリオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンシャウイア ラシド
(72)【発明者】
【氏名】ブクレ ピエール オリビエ
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1346638(CN,A)
【文献】特開2000-355515(JP,A)
【文献】特開平09-208441(JP,A)
【文献】特表2011-514383(JP,A)
【文献】特表2013-531005(JP,A)
【文献】特開2003-252744(JP,A)
【文献】特表平08-503958(JP,A)
【文献】特表2010-514840(JP,A)
【文献】J. Biol. Chem., 2012, Vol.287, No.23, pp.19367-19376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 8/00- 8/99
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクレリチンを含む、毒物に対する細胞の保護剤として皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項2】
前記毒物は化学物質である、請求項1に記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項3】
前記化学物質は、無機物、揮発性有機化合物、酸化剤、強塩基、強酸、イミダゾール化合物から選択される、請求項2に記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項4】
前記化学物質は、動物性の毒素および毒液を含む生物起源の化学物質から選択される、請求項2に記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項5】
前記化学物質は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アルカロイド薬剤、抗がん抗生物質を含む細胞傷害性化学療法剤から選択される、請求項2に記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項6】
前記毒物は物理的因子である、請求項1に記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項7】
前記物理的因子は紫外線である、請求項6に記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項8】
皮膚を保護するための、請求項1から7のいずれかに記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項9】
前記細胞は、繊維芽細胞、内皮細胞、または上皮細胞、特にケラチノサイトである、請求項1から8のいずれかに記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項10】
局所投与に適した形態である、請求項1から9のいずれかに記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項11】
前記スクレリチンタンパク質は配列番号3のタンパク質配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1から10のいずれかに記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項12】
前記スクレリチンは、毒物に曝露または接触する前の皮膚に適用するのに適した形態である、請求項1から11のいずれかに記載の皮膚科学的処置において使用するための医薬組成物。
【請求項13】
局所塗布に適合した少なくとも1つの添加物または賦形剤の中にスクレリチンを含
み、皮膚科学的用途または化粧品用途で使用されることを特徴とする、組成物。
【請求項14】
前記組成物は、細胞に関して細胞傷害性を呈することのないように
、4000ng/ml以下の量のスクレリチンを含む、請求項13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクレリチン(Scleritine)、および毒物から細胞を保護する薬剤としてのその使用に関する。
【0002】
本発明の分野は、医薬品工業または化粧品工業に関し、より具体的には、毒物から細胞を保護することを対象とした医薬品組成物または化粧品組成物の処方に関する。
【背景技術】
【0003】
化粧品の分野では、化粧的または皮膚科学的な効果を有する新規な分子が常に探し求められている。市場の需要は、ますます環境および人に優しい天然物に向けられている。
【0004】
サンゴは、その細胞および分子の生理機能がまだ割合に知られておらず、最高で数十年間個別に生存する生物である。サンゴは、細菌、ウイルス、および真菌の攻撃だけでなく、気候の影響による環境の脅威または汚染関連の脅威に常にさらされているにも関わらず、長期間にわたって生き続ける。多くの日和見性または特殊化した寄生性もしくは捕食性の生物もサンゴにとって害となる。したがって、これら全ての有害な影響に対するサンゴの抵抗性は、化粧品、皮膚科学、または医薬の分野において、興味深い効果を有する新規な天然分子の潜在的な源につながる。
【0005】
スクレリチンは、Debreuil et al. ゛Molecular cloning and characterization of first organic matrix protein from sclerites of red coral, Corallium rubrum J Biol Chem.2012 Jun 1; 287 (23): 19367-76 Epub 2012 Apr 13に記載されているように、2012年に初めて単離され特徴づけられたタンパク質である。
【0006】
このタンパク質は、八放サンゴ類、より一般的にベニサンゴとして知られるCorallium rubrumの骨片の有機基質から抽出される。スクレリチンは、有機基質のEDTA可溶性分画中の主なタンパク質である。スクレリチンは、135個のアミノ酸からなる配列および20個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを有する分泌型のリン酸化塩基性タンパク質である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、毒物に対する細胞の保護剤としてのスクレリチンの使用を提案し、すなわち、本発明は、毒物に対する細胞の保護剤として、治療的処置、有利には皮膚科学的処置において使用するためのスクレリチンに関する。
【0008】
本発明は、毒物に対する細胞の予防および保護に使用するためのスクレリチンに関する。
【0009】
驚くべきことに、サンゴ由来のこのタンパク質は、毒物に対して細胞を保護する効果を有する。
【0010】
有利には、毒物は、化学物質または物理的因子などの様々なタイプのものである。
【0011】
他の観点から、本発明は、好ましくは毒物から皮膚を保護する有利には皮膚科学的および/または化粧品の組成物に関し、その組成物は、局所適用に適合した少なくとも1つの添加物または賦形剤の中にスクレリチンを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の目的、対象、特徴、および利点は、以下の添付の図面に例証された、本発明の実施方法の詳細な記載によって最もよく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】組換えスクレリチンタンパク質の全体構造の模式図である。最初の20個のアミノ酸はシグナルペプチドを表し、このシグナルペプチドは細胞内でのこのタンパク質の成熟化の過程で切断される(したがって分泌後の成熟タンパク質中には存在しない)。このタンパク質のC末端の6つのヒスチジンは、組換えスクレリチンの精製過程に有用なヒスチジンタグ(HISx6)を表す。
【
図2】3日にわたって異なる用量比率でスクレリチンに曝露したa)内皮細胞、b)ケラチノサイト、c)繊維芽細胞の細胞株の生存率を示すグラフである。
【
図3】用量漸増スクレリチンの存在下、6日間にわたって毒物(最終的に150mMのイミダゾール)に曝露したヒト内皮細胞の生存率を示すグラフである。
【
図4】
図3の条件下での6日目の全生細胞数を示す、
図3から導いたグラフである。
【
図5】紫外線を照射した1日目のヒト繊維芽細胞の倒立位相差顕微鏡画像であり、a)およびb)は4μg/mlのスクレリチンの存在下、c)およびd)は4μg/mlのBSAの存在下、e)およびf)はPBSのみの存在下での画像である(上の写真a、c、およびeでは倍率80X、下の写真b、d、およびfでは倍率200X)。
【
図6】紫外線に曝露した3日目のヒト繊維芽細胞の倒立位相差顕微鏡画像であり、a)およびb)は4μg/mlのスクレリチンの存在下、c)およびd)は4μg/mlのBSAの存在下、e)およびf)はPBSのみの存在下での画像である(上の写真a、c、およびeでは倍率200X、下の写真b、d、およびfでは倍率400X)。
【0014】
配列の簡単な説明
配列番号1:468個のヌクレオチドを含み、NCBI GenBankのカタログにおいて番号JQ652458で呼ばれる、スクレリチンの天然起源のヌクレオチド配列。
【0015】
配列番号2:バキュロウイルス/昆虫細胞産生系による転写処理を向上させることを目的とした、合成により得られる486個のヌクレオチドを含むコドン最適化スクレリチン配列。加えて、それは、その3′末端コード領域に、ヒスチジンタグのための付加的な18個の塩基対を有する。この最適化配列は、ヒスチジンタグを除き、天然配列に対して、全塩基対468個のうちの346個の同一性、すなわち74%のヌクレオチド相同性を有する。
【0016】
配列番号3:天然のスクレリチンの155個のアミノ酸タンパク質配列。
【0017】
配列番号4:最適化配列である配列番号2から符号化された組換えスクレリチンのタンパク質配列。それは、ヒスチジンタグを除いて、天然のタンパク質配列に対して100%の相同性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施する方法を詳細に概説する前に、場合により組み合わせてまたは代替として使用される任意選択の特徴を以下に述べる。
【0019】
まず、毒物から細胞を保護するための薬剤として、スクレリチンの使用を検討するべきである。
【0020】
有利には、好適であるが限定するものではない変形例によれば、本発明は次のようなものである。
-当該毒物は化学物質であり、
-当該化学物質は、無機物、揮発性有機化合物、酸化剤、強塩基、強酸、イミダゾール化合物から選択される。
-当該化学物質は、動物性の毒素および毒液を含む生物起源の化学物質から選択される。
-当該化学物質は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アルカロイド薬剤、抗がん抗生物質を含む細胞傷害性化学療法剤の中から選択される。
-当該毒物は物理的因子であり、
-当該物理的因子は紫外線であり、
-スクレリチンは、4000ng/ml以下の用量では細胞に対して細胞傷害性を示さず、
-当該細胞は動物細胞であり、
-当該細胞は皮膚細胞であり、
-使用は皮膚を保護するためであり、
-当該細胞は、繊維芽細胞、内皮細胞、または上皮細胞、特にケラチノサイトであり、
-使用は局所適用によるものであって、スクレリチンは局所投与に適した形態であり、
-スクレリチンの存在下で毒物に曝露された細胞の生存率は、毒物のみに曝露された、すなわちスクレリチンの非存在下での細胞の生存率より30%高く、
-スクレリチンタンパク質は、配列番号3のタンパク質配列に対して少なくとも90%の相同性を有し、
-スクレリチンは、毒物に曝露または接触する前の皮膚に適用するのに適した形態である。
【0021】
他の観点から、本発明は、好ましくは毒物から皮膚を保護する有利には皮膚科学的および/または化粧品の組成物に関し、その組成物は、例えば皮膚への局所適用に適合した少なくとも1つの添加物または賦形剤の中にスクレリチンを含むことを特徴とする。
【0022】
1つ可能であることは、当該組成物が、細胞に関して細胞傷害性を呈することのないように、培養培地に4000ng/ml以下の量のスクレリチンを含むことである。
【0023】
他の観点から、本発明は、毒物から皮膚を保護する非治療的方法に関し、この方法は、毒物に曝露または接触する前の皮膚にスクレリチンを含む組成物を適用することを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明は、135個のアミノ酸からなるタンパク質であるスクレリチンに関する。このタンパク質は、配列番号1のヌクレオチド配列遺伝子によってコードされている。そのヌクレオチド配列に関するスクレリチンのアミノ酸配列を
図1に示す。スクレリチンは20個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含む。
【0025】
本発明によれば、スクレリチンは、哺乳類細胞の遺伝子導入、または、好ましくはバキュロウイルス/昆虫細胞系によって産生される。例えば、スクレリチンは、Buclez PO et al. ゛Rapid, scalable, and low-cost purification of recombinant adeno-associated virus produced by baculovirus expression vector system″. Mol Ther Methods Clin Dev. 2016 May 11;3:16035. doi:10.1038/mtm.2016.35の論文に記載されている方法を使用して産生される。産生に関しては、スクレリチンは、「タグ」とも呼ばれる精製標識を含んでもよく、例えば、
図1に示すように、スクレリチンのアミノ酸配列の後に置かれる6個のヒスチジンを含むヒスチジンタグを含んでもよい。加えて、スクレリチン遺伝子には、配列番号2に表されるように、昆虫細胞(Sf9型産生細胞株)の内部環境での転写処理を向上させるために、これら本来のコドンの最適化が行われていてもよい。この最適化は、天然の配列である配列番号1と比較して、ヌクレオチド配列が最大で30%異なることにから生じ得る。
【0026】
本発明は、90%、好ましくは100%の相同性で配列番号3のタンパク質配列を少なくとも含む全てのタンパク質を範囲に含む。
【0027】
本発明によれば、スクレリチンは、毒物から細胞を保護する役割を果たす。
【0028】
有利には、毒物にさらされる細胞のための保護剤とは、細胞が6日目の時点で少なくとも60%の生存率を維持することを可能にする製品を意味すると理解される。その保護剤は毒物の有害な影響を少なくとも部分的に相殺する。したがって、本発明によれば、スクレリチンの存在下で毒物にさらされた細胞と、スクレリチンの非存在下で毒物にさらされた細胞との6日目の細胞生存率の差は、少なくとも30%である。
【0029】
毒物は細胞に有毒な化学物質または物理的因子であり、すなわち、それらは、細胞を損傷し、特にその毒物に曝露された細胞の生存率を減少させる。
【0030】
化学物質は、細胞傷害性薬剤、すなわち細胞を破壊しかねないほど細胞に有毒な物質を含む。
【0031】
例えば、毒物は以下の少なくとも1つから選択される。
-無機物、揮発性有機化合物、酸化剤、強塩基、強酸、イミダゾール化合物を含む化学物質。
-動物性の毒素および毒液を含む生物起源化学物質の化学物質。
-アルキル化剤、代謝拮抗剤、アルカロイド薬剤、抗がん抗生物質を含む細胞傷害性化学療法剤。
【0032】
物理的因子は、放射線、特に紫外線を含み、紫外線は、UVA(すなわち波長が400nmと315nmの間の電磁放射線)、UVB(すなわち波長が315nmと280nmの間の電磁放射線)、およびUVC(すなわち波長が280nmと100nmの間の電磁放射線)を含む。
【0033】
スクレリチンによって保護される細胞は、ヒト細胞を含む動物性真核細胞である。
【0034】
好ましくは、スクレリチンは皮膚保護剤として使用される。
【0035】
例えば、動物細胞は、繊維芽細胞、上皮細胞、優先的に、ケラチノサイト、または内皮細胞を含む。
【0036】
意外にも、スクレリチンは、これらの細胞に対しては細胞傷害性を有しないようである。つまり、半数致死量すなわちLD50は4000ng/mlより大きい。この量は、細胞にとって外来性の物質において非常に高い用量である。この毒性がないということは、重要な利点であり、スクレリチンが化粧品への使用および/または皮膚科学的な使用のために検討され得ることを意味する。
【0037】
加えて、スクレリチンは用量依存性の保護効果を有する。
【0038】
スクレリチンは、有利には、毒物から皮膚を優先的に保護するための化粧品用途および/または皮膚科学的用途で使用され得る組成物に導入される。
【0039】
その組成物は局所的な適用を対象とする。局所的とは、適用の範囲が局部的であることを意味する。好ましくは、吸収は、皮膚もしくは経皮の経路により皮膚を通して、または、耳、鼻、肺、膣/子宮内、もしくは眼の経路により粘膜を通してなされる。
【0040】
当該組成物は、局所適用に適した少なくとも1つの添加物または賦形剤を含む。製剤の所望のタイプ(軟膏、クリーム、ジェル、ペースト、乳液)に応じて、最終組成物は1つまたは複数の以下の添加物を含んでもよい。すなわち、水、ワセリン、パラフィン(固体または液体)、マクロゴール(またはポリエチレングリコール、PEG)、セスキオレイン酸ソルビタンまたはモノステアリン酸グリセロールで水和したワセリン(例えば保存料としてソルビン酸を有する)、緩衝化ケトマクロゴール(例えば保存料としてソルビン酸を有する)、アニオン性親水クリーム(グリセロールを有するまたは有しない)、オレイン酸デシル、カルボマー(例えば安定剤としてアミノメチルプロパノールを有する)、冷却用のろう剤(ハクロウ、セチルエステルワックス)、植物油(例えばゴマ油)、酸化亜鉛(ZnO)、タルク、および医薬製剤に関するヨーロッパ薬局方に好ましく準拠したその他の任意の添加物を含んでもよい。
【0041】
実施例1:スクレリチンの外因的効果-細胞傷害性
様々なヒト細胞株、すなわち内皮細胞、ケラチノサイト、および繊維芽細胞を、0、100ng/ml、および4000ng/mlの用量漸増スクレリチンに接触させた。その結果を
図2のグラフに示す。
【0042】
上記の各細胞を培養プレートウェル中で培養した。t=24hの時点で、(50mMのHEPES緩衝液、50mMのNaCl、pH7.8に処方した)スクレリチンを培養培地1mlあたり0、100ngまたは4000ngの用量で完全培養培地に添加し、細胞をスクレリチンに接触させた。
【0043】
スクレリチンを添加した日を、実施例において0日目とした。
【0044】
毎日、ウェル中の細胞について、トリプシン-EDTA剥離プロトコールおよび自動計数(Countessタイプ、Life Technology社)に従って細胞計数を行った。トリパンブルー(生体染色剤)を細胞懸濁液に添加することにより、細胞生存率をスライド上で定量化した。
【0045】
t=3日目の時点で、スクレリチンに曝露した細胞の生存率は、曝露しなかった対照細胞のものと同等またはそれよりもわずかに低いことがわかった。
【0046】
特に、3日目の内皮細胞については、スクレリチン4000ng/mlに曝露した細胞の生存率は78%であるのに対し、スクレリチン100ng/mlに曝露した細胞または曝露しなかった細胞の生存率は85%である。
【0047】
3日目のケラチノサイトについては、スクレリチン4000ng/mlおよび100ng/mlに曝露した細胞の生存率は90%であるのに対し、曝露しなかった細胞の生存率は92%である。
【0048】
3日目の繊維芽細胞については、4000ng/mlに曝露した細胞の生存率は82%であり、100ng/mlに曝露した細胞の生存率は88%であり、曝露しなかった細胞の生存率は90%である。
【0049】
結論として、(培養培地1mlあたりのスクレリチン用量4000ngまで)確認できる初代ヒト細胞へのスクレリチンの細胞傷害性はなかった。
【0050】
実施例2:スクレリチンの外因的効果-化学物質に対する保護
0.4μg/ml、0.2μg/ml、0.1μg/ml、および0.05μg/mlの用量漸増スクレリチン、ならびにイミダゾール誘導体すなわちイミダゾール(CAS No.288-32-4)の系統に属する毒物に、初代ヒト内皮細胞を接触させた。
【0051】
上記の細胞を培養プレートウェル中で培養した。t=24hの時点で、培養培地1mlあたり各用量で完全培養培地にスクレリチンを添加し、細胞をスクレリチンに接触させた。
【0052】
スクレリチンを添加した日を0日目とした。スクレリチンの添加から24時間後に、培地中の最終濃度150mMまで毒物(イミダゾール)を培養培地に添加した。毒物の添加を行ったのが1日目である。
【0053】
毎日、前述のトリプシンプロトコールに従ってウェル中の細胞を計数した。
【0054】
6日目まで毎日、トリプシンプロトコールの後、細胞を、位相差顕微鏡で観察し、計数した。結果を
図3のグラフに示す。
【0055】
6日目において、イミダゾールのみに曝露した細胞の生存率は10%近くであるが、一方、スクレリチンの存在下でイミダゾールに曝露した細胞の生存率は58%から68%の間であり、イミダゾールおよびスクレリチンが無い対照細胞の生存率は78%である。これらの結果を
図3に示す。
【0056】
図4において、6日目の生細胞の数を異なる条件下で比較する。イミダゾールのみでの生細胞の数とスクレリチン存在下での生細胞の数の違いは極めて明らかである。
【0057】
したがって、スクレリチンは、イミダゾールから細胞を保護する役割を果たしている。
【0058】
実施例3:スクレリチンの外因的効果-物理的因子に対する保護
スクレリチンの存在または非存在下でヒト初代繊維芽細胞を紫外線に曝露した。
【0059】
上記の細胞を培養プレートウェル中で培養した。t=24hの時点で、(可能性としてあり得る可溶性血清タンパク質のUV減衰効果を回避するため)培養培地を除去して1X PBSに置換した。1X PBS中で最終濃度4μg/mlでスクレリチンにその細胞を接触させた。その細胞を37℃で30分間インキュベートした。次に、1000μJ/cm2の出力で254nmの紫外線C波をその細胞に照射した。照射後5分で、完全培養培地をウェルに添加し、37℃、CO25%でインキュベーターにてその細胞を培養した。
【0060】
スクレリチンを添加した日を0日目とした。UVC照射を行ったのも0日目である。
【0061】
ウェル中の細胞をJ1およびJ3で制御した。
【0062】
図5は、照射後1日目の繊維芽細胞プラークの倒立位相差顕微鏡画像(
図5のa、c、およびeでは倍率80X、ならびに
図5のb、d、およびfでは倍率200X)を示し、
図5のa)およびb)は4μg/mlのスクレリチン存在下、
図5のc)およびd)は4μg/mlのBSA存在下、
図5のe)およびf)はPBSのみでの画像である。
【0063】
PBSのみまたはBSAを補充したPBSでは、繊維芽細胞が損傷を受けていることがわかるが、一方、スクレリチンの存在下では、その外観が繊維芽細胞にふさわしいままである。
【0064】
図6は、照射後3日目の繊維芽細胞プラークの倒立位相差顕微鏡画像(
図6のa、c、およびeでは倍率200X、
図6のb、d、およびfでは倍率400X)を示し、
図6のa)およびb)は4μg/mlのスクレリチン存在下、
図6のc)およびd)は4μg/mlのBSA存在下、
図6のe)およびf)はPBSのみでの画像である。
【0065】
1日目には、スクレリチンの存在下で照射を受けた繊維芽細胞は、典型的な繊維芽細胞の外観、すなわち非常に細い伸長部分を有する紡錘形または星形を示している。BSAのみでは、繊維芽細胞は凝縮され、伸長部分は減少しているか存在すらしていない。同様に、PBSのみでは、繊維芽細胞は凝縮され、伸長部分は減少している。1日目から、PBSのみまたはBSAのみの存在下で照射を受けた繊維芽細胞は、アポトーシス小体(プログラム細胞死)に典型的な外観を示している。この段階で、BSAまたはPBSのみでの条件における生細胞の濃度を定量化する試みは、細胞がおそらく照射プロトコールによってかなり傷害を受けており、計数可能な細胞がないため、うまくいかない。PBSのみまたはBSAのみでは、繊維芽細胞が損傷を受けていることがわかるが、一方、スクレリチンの存在下では、その外観が繊維芽細胞にふさわしいままである。
【0066】
3日目には、その観察結果は、同様であるか、よりいっそう強調され、つまり、スクレリチンの存在下で照射を受けた繊維芽細胞は、典型的な繊維芽細胞の外観、すなわち非常に細い伸長部分を有する紡錘形または星形を示している。BSAのみでは、繊維芽細胞は凝縮され、伸長部分は減少しているか存在すらしていない。同様に、PBSのみでは、繊維芽細胞は凝縮され、伸長部分はなくなっている。PBSのみまたはBSAのみの存在下で照射を受けた繊維芽細胞は、アポトーシス小体に典型的な外観を示している。この段階で、BSAまたはPBSのみでの条件における生細胞の濃度を定量化する試みは、細胞がおそらく照射プロトコールによってかなり傷害を受けており、計数可能な細胞がないために、うまくいかない。
【0067】
したがって、スクレリチンは、紫外線C波から細胞を保護する役割を果たしている。紫外線C波は、短い波長の放射線であり、したがって極めて高いエネルギーを有する。このエネルギーは、生体分子を変化させる相当な能力を紫外線C波に与える。UVC放射線に対するスクレリチンの強い保護効果は、より低いエネルギーを有するUVB放射線およびUVA放射線に対するスクレリチンの効果も関心の対象となることを示唆している。
【配列表】