(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】電極製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20230427BHJP
B05C 1/12 20060101ALI20230427BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
H01M4/139
B05C1/12
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2021041686
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】三村 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
(72)【発明者】
【氏名】石山 昌
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129283(JP,A)
【文献】特開2010-170810(JP,A)
【文献】特開2014-176826(JP,A)
【文献】特開2013-198835(JP,A)
【文献】特開2016-222376(JP,A)
【文献】国際公開第2021/140748(WO,A1)
【文献】特開2016-095376(JP,A)
【文献】特開2018-037198(JP,A)
【文献】特開2012-254422(JP,A)
【文献】特開2016-219343(JP,A)
【文献】特開平11-034096(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107457141(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
H01G 13/00
B05C 1/12
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ロールと、
前記第1ロールに隣接して前記第1ロールと略平行に配置された第2ロールと、
前記第2ロールに隣接して前記第2ロールと略平行に配置された第3ロールと
を備え、
前記第1ロールと前記第2ロールとの間に、電極材料を圧延して合材塗膜を形成する圧延ギャップが形成され、かつ、
前記第2ロールと前記第3ロールとの間に、前記合材塗膜と電極集電体とを圧着する圧着ギャップが形成されており、
前記第3ロールを前記第2ロールに向かって付勢するバネ状機構を備えており、前記合材塗膜からの反力の変動に応じて前記圧着ギャップが変動する、電極製造装置。
【請求項2】
前記バネ状機構は、2500N~3500Nの付勢力で前記第3ロールを前記第2ロールに向かって付勢する、請求項1に記載の電極製造装置。
【請求項3】
前記第1ロールと前記第2ロールとが第1方向に沿って略平行に配列され、かつ、前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記第2ロールと前記第3ロールとが略平行に配列される、請求項1または2に記載の電極製造装置。
【請求項4】
前記バネ状機構は、
前記第3ロールを回転可能に支持する軸受部と、
前記第1方向に沿った応力と前記第2方向に沿った応力とを相互に変換する直交スライド機構と、
前記第1方向に沿って伸縮可能に構成された伸縮機構と
を備え、
前記直交スライド機構が弾性材料によって構成されている、請求項3に記載の電極製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の電極集電体の表面に電極合材層が付与された電極を製造する電極製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに用いられている。この種の二次電池の電極の一例として、帯状の電極集電体の表面に電極合材層が付与された電極が挙げられる。かかる構成の電極は、例えば、電極合材層の前駆物質である電極材料を圧延して合材塗膜を形成し、当該合材塗膜を電極集電体の表面に圧着させるという方法で製造される。
【0003】
上記電極の製造方法を実施するための装置(以下、「電極製造装置」という)の一例が特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載の電極製造装置は、3本のロールを備えている。この電極製造装置では、第1ロールと第2ロールとの隙間(以下「圧延ギャップ」ともいう)で電極材料を圧延して合材塗膜を形成し、当該合材塗膜を第2ロールの表面に付着させて搬送する。そして、電極集電体を搬送する第3ロールが第2ロールに近接しているため、第2ロールに搬送される合材塗膜と、第3ロールに搬送される電極集電体とが、第2ロールと第3ロールとの隙間(以下「圧着ギャップ」ともいう)で圧着される。また、特許文献1に記載の製造装置では、第1ロールと第2ロールとの間のギャップ幅に基づいて、第2ロールの回転速度と電極集電体の搬送速度との速度比を変化させている。これによって、合材塗膜(電極合材層)の膜厚のバラつきを抑制し、高品質の電極を安定的に製造できる。
【0004】
また、複数のロールを備えた電極製造装置の他の例が特許文献2に開示されている。当該特許文献2に記載の電極製造装置(塗工装置)は、塗料(電極材料)を圧延するための二つのロールを備えている。そして、この塗工装置では、上記圧延用のロールのギャップに基材(電極集電体)も供給される。この結果、上記二つのロール間のギャップにおいて、電極材料の圧延と合材塗膜の圧着の両方が実施される。また、この塗工装置では、各々のロールの軸受け部に過大な負荷がかかることを防止するために、各々のロールにバネが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-219343号公報
【文献】特開2012-254422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際の製造現場では、上記従来の製造装置を用いているにもかかわらず、製造後の電極の電極合材層に膜厚のバラつきが生じることがあった。本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、所望の膜厚の電極合材層を有した電極を安定的に製造できる電極製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、ここに開示される技術によって以下の構成の電極製造装置が提供される。
【0008】
ここに開示される電極製造装置は、上述の知見に基づいてなされたものである。かかる電極製造装置は、第1ロールと、第1ロールに隣接して第1ロールと略平行に配置された第2ロールと、第2ロールに隣接して前記第2ロールと略平行に配置された第3ロールと
を備え、第1ロールと第2ロールとの間に、電極材料を圧延して合材塗膜を形成する圧延ギャップが形成され、かつ、第2ロールと第3ロールとの間に、合材塗膜と電極集電体とを圧着する圧着ギャップが形成されている。そして、ここに開示される電極製造装置は、第3ロールを第2ロールに向かって付勢するバネ状機構を備えており、合材塗膜からの反力の変動に応じて圧着ギャップが変動する。
【0009】
本発明者は、種々の検討の結果、3本のロールを備えた電極製造装置を用いて電極を製造した際に電極合材層の膜厚にバラつきが生じる要因を発見した。具体的には、通常の電極製造装置では、圧着ギャップ(第2ロールと第3ロールとのギャップ)において合材塗膜と電極集電体を圧着する際の圧力によって、電極合材層(圧着後の合材塗膜)が薄膜化する。このとき、第2ロールと第3ロールの各々には大きな反力が加わる。ここで、圧延ギャップ(第1ロールと第2ロールとのギャップ)にて形成された合材塗膜の膜厚が変動すると、当該合材塗膜からの反力の変動に第3ロールが追従できずに圧着ギャップが不安定になることがある。この場合、圧着ギャップにおいて押圧不良が生じて電極合材層の膜厚のバラつきが大きくなる。これに対して、ここに開示される電極製造装置では、第3ロールを第2ロールに向かって付勢するバネ状機構が設けられており、合材塗膜からの反力の変動に応じて圧着ギャップが変動する。これによって、圧着ギャップにおける合材塗膜の押圧不良を抑制し、製造後の電極合材層の膜厚のバラつきを低減できる。
【0010】
ここに開示される電極製造装置の一態様では、バネ状機構は、2500N~3500Nの付勢力で第3ロールを第2ロールに向かって付勢する。これによって、電極合材層の膜厚のバラつきをより好適に低減できる。
【0011】
ここに開示される電極製造装置の好適な一態様では、第1ロールと第2ロールとが第1方向に沿って略平行に配列され、かつ、第1方向に直交する第2方向に沿って第2ロールと第3ロールとが略平行に配列される。ここに開示される技術において、第1ロール~第3ロールの各々の配置位置は、圧延ギャップと圧着ギャップが形成されていれば、特に限定されない。各ロールの配置位置の一例として、上述のような逆L字型が挙げられる。
【0012】
また、ここに開示される電極製造装置の好適な一態様では、バネ状機構は、第3ロールを回転可能に支持する軸受部と、第1方向に沿った応力と第2方向に沿った応力とを相互に変換する直交スライド機構と、第1方向に沿って伸縮可能に構成された伸縮機構とを備え、直交スライド機構が弾性材料によって構成されている。かかる構成のバネ状機構は、直交スライド機構の構成部材が弾性変形することによってバネとしての機能を発揮し、所望の付勢力で第3ロールを第2ロールに向かって付勢することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る電極製造装置を説明する側面図である。
【
図2】他の実施形態に係る電極製造装置を説明する側面図である。
【
図3】他の実施形態に係る電極製造装置のバネ状機構を説明する側面図である。
【
図4】実施例における合材塗膜の膜厚の推移を示すグラフである。
【
図5】実施例における電極合材層の膜厚の推移を示すグラフである。
【
図6】比較例における合材塗膜の膜厚の推移を示すグラフである。
【
図7】比較例における電極合材層の膜厚の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ここで開示される技術の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、電極の材料等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
なお、以下の説明で参照する図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付している。そして、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、
図1~
図3における符号Xは「幅方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。なお、
図1~
図3では図示されていないが、本明細書における「奥行方向」は、これらの図の紙面に対して垂直な方向である。これらの方向は説明の便宜上で定めたものであり、以下で説明する電極製造装置の設置形態を限定することを意図したものではない。
【0016】
<第1の実施形態>
以下、ここに開示される製造方法の一実施形態について図を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る電極製造装置100を説明する側面図である。
【0017】
1.電極製造装置の構成
図1に示すように、本実施形態に係る電極製造装置100は、帯状の電極集電体D1の表面に電極合材層D2が付与された電極Dを製造する。この電極製造装置100は、第1ロール10と、第2ロール20と、第3ロール30とを備えている。そして、第1ロール10と第2ロール20との間には、電極材料Aを圧延して合材塗膜Bを形成する圧延ギャップG
1が形成されている。また、第2ロール20と第3ロール30との間には、合材塗膜Bと電極集電体Cとを圧着する圧着ギャップG
2が形成されている。そして、本実施形態に係る電極製造装置100は、第3ロール30を第2ロール20に向かって付勢するバネ状機構40を備え、合材塗膜Bからの反力の変動に応じて圧着ギャップG
2が変動するように構成されている。以下、かかる電極製造装置100の具体的な構成を説明する。
【0018】
まず、この電極製造装置100は、第1ロール10と、第1ロール10に隣接して第1ロール10と略平行に配置された第2ロール20とを備えている。具体的には、第1ロール10は、回転可能に支持される回転軸12と、当該回転軸12の外側に同心状に設けられた外筒部14とを備えている。また、第1ロール10と同様に、第2ロール20も、回転可能に支持される回転軸22と、当該回転軸22の外側に同心状に設けられた外筒部24とを備えている。そして、第1ロール10と第2ロール20は、第1方向(
図1中の幅方向X)に沿って略平行に配列されている。具体的には、第1ロール10と第2ロール20は、各々の回転軸12、22が奥行方向(
図1の紙面に対して垂直な方向)に沿うように配置される。そして、第1ロール10と第2ロール20は、高さ方向Zにおける位置が略同等になるように配置される。そして、第1ロール10と第2ロール20は、隣接しており、各々の外筒部14、24の間に圧延ギャップG
1が形成される。
【0019】
なお、図示は省略するが、第1ロール10の回転軸12と第2ロール20の回転軸22には駆動機構が取り付けられている。そして、当該駆動機構によって、各ロールが互いに逆方向に回転する(
図1中の矢印参照)。詳しくは後述するが、この逆方向に回転する第1ロール10と第2ロール20との間(圧延ギャップG
1)に電極材料Aを供給することによって、電極材料Aが圧延されて合材塗膜Bが形成される。そして、圧延後の合材塗膜Bは、第2ロール20の外筒部14の表面に付着した状態で搬送される。
【0020】
次に、この電極製造装置100は、上記第2ロール20に隣接して第2ロール20と略平行に配置される第3ロール30を備えている。第1ロール10や第2ロール20と同様に、この第3ロール30も、回転可能に支持される回転軸32と、当該回転軸32の外側に同心状に設けられた外筒部34とを備えている。また、本実施形態では、第1方向(幅方向X)に直交する第2方向(すなわち、高さ方向Z)に沿って第2ロール20と第3ロール30とが略平行に配列される。具体的には、上述した第1ロール10や第2ロール20と同様に、第3ロール30の回転軸32についても、奥行方向に沿うように配置されている。このため、これらの3つのロールは、略平行に配置される。そして、第3ロール30は、幅方向Xにおける位置が第2ロール20と略同等になり、かつ、第2ロール20よりも下方に位置するように配置される。また、第2ロール20と第3ロール30は、隣接しており、各々の外筒部24、34の間には圧着ギャップG2が形成される。
【0021】
そして、この電極製造装置100において、電極集電体Cは、上述の第3ロール30に案内されながら搬送される。一方、圧延後の合材塗膜Bは、第2ロール20の外筒部14の表面に付着した状態で搬送される。このため、第2ロール20と第3ロール30との間の圧着ギャップG2に合材塗膜Bと電極集電体Cが供給され、これらの部材が圧着される。これによって、電極集電体D1の表面に電極合材層D2が付着した電極Dが製造される。なお、上述した第1ロール10や第2ロール20と同様に、第3ロール30は、回転軸32に駆動機構が取り付けられた駆動ロールである。
【0022】
ここで、本実施形態に係る電極製造装置100は、第3ロール30を第2ロール20に向かって付勢するバネ状機構40を備えており、合材塗膜Bからの反力の変動に応じて圧着ギャップG2が変動するように構成される。これによって、製造後の電極合材層D2の膜厚のバラつきを低減し、所望の膜厚の電極合材層D2を有する電極Dを安定的に製造できる。以下、本実施形態におけるバネ状機構40の具体的な構成と、電極合材層D2の膜厚のバラつきが低減される理由について説明する。
【0023】
まず、
図1に示すように、本実施形態におけるバネ状機構40は、圧着ギャップG
2の大きさを調節するギャップ調節機構の構成部材の一部に弾性材料を使用し、ギャップ調節機構にバネとしての機能を付与したものである。具体的には、このバネ状機構40は、第3ロール30を回転可能に支持する軸受部41と、第1方向(幅方向X)に沿った応力と第2方向(高さ方向Z)に沿った応力とを相互に変換する直交スライド機構43と、第1方向(幅方向X)に沿って伸縮可能に構成された伸縮機構45とを備えており、直交スライド機構43が弾性材料によって構成されている。
【0024】
軸受部41は、第3ロール30の回転軸32を回転可能に支持できればよく、従来公知の軸受構造を特に制限なく使用できる。一例として、軸受部41には、ボールベアリング、ローラベアリング等を用いることができる。そして、この軸受部41は、接続部42を介して直交スライド機構43と接続されている。具体的には、接続部42は、高さ方向Zに延びる棒状の部材である。この接続部42上端は軸受部41に取り付けられており、下端は直交スライド機構43に取り付けられている。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る電極製造装置100では、圧着ギャップG
2において合材塗膜Bと電極集電体Cとを圧着する際に、高さ方向Zの下方に向かう反力Rが第3ロール30に加わる。そして、直交スライド機構43は、幅方向Xに沿った応力と高さ方向Zに沿った応力とを相互に変換するように構成されている。具体的には、直交スライド機構43は、接続部42を介して軸受部41に接続される第1部材43aと、伸縮機構45に取り付けられる第2部材43bとを備えている。そして、第1部材43aの下面43a1には、幅方向Xの左側から右側に向かうにつれて高さ方向Zの上方に傾斜する傾斜面が形成されている。一方、第2部材43bの上面43b1には、第1部材43aの下面43a1と略平行な傾斜面が形成される。換言すると、第2部材43bの上面43b1には、幅方向Xの左側から右側に向かうにつれて高さ方向Zの上方Uに傾斜する傾斜面が形成されている。かかる構成の直交スライド機構43は、各々の傾斜面に沿って第1部材43aと第2部材43bとが摺動することによって、幅方向Xに沿った応力と高さ方向Zに沿った応力を相互に変換できる。
【0026】
伸縮機構45は、上述の通り、第1方向(幅方向X)に沿って伸縮可能に構成された部材であり、直交スライド機構43に取り付けられている。
図1に示す伸縮機構45は、駆動軸45aと、モーター45bとを備えている。駆動軸45aは、幅方向Xに沿って延びる棒状の部材である。この駆動軸45aの一方の端部は直交スライド機構43の第2部材43bに取り付けられており、他方の端部はモーター45bに取り付けられている。また、モーター45bは、駆動軸45aを任意の長さに伸縮できるように構成される。モーター45bの具体的な構造は、特に限定されず、従来公知の構造を適宜採用できる。一例として、モーター45bには、サーボモータ等を用いることができる。そして、このモーター45bが駆動軸45aの長さを変更すると、直交スライド機構43の第2部材43bに幅方向Xに沿った応力が加わる。かかる幅方向Xに沿った応力は、第2部材43bの上面43b1に沿って第1部材43aが摺動することによって、高さ方向Zに沿った応力に変換される。そして、かかる高さ方向Zに沿った応力は、接続部42を介して軸受部41に伝達される。これによって、第3ロール30の高さ方向Zにおける位置が変更され、圧着ギャップG
2の大きさが調節される。
【0027】
そして、上述した通り、本実施形態に係る電極製造装置100では、上記構成のギャップ調節機構の一部に弾性材料を使用し、ギャップ調節機構をバネ状機構40としての機能させている。具体的には、本実施形態では、直交スライド機構43を構成する部材(第1部材43aおよび第2部材43b)が弾性材料によって構成されている。そして、伸縮機構45は、当該直交スライド機構43における弾性力を考慮し、第3ロール30から第2ロール20に向かって所定の付勢力が加わるように駆動軸45aの長さ(圧着ギャップG2の大きさ)を調節する。これによって、ギャップ調節機構をバネ状機構40として機能させ、合材塗膜Bからの反力Rの変動に追従するように第3ロール30の高さ位置(圧着ギャップG2の大きさ)を変動させることができる。なお、直交スライド機構43に使用する弾性材料は、所定の弾性を有していれば特に限定されず、従来公知の材料を特に制限なく使用できる。例えば、直交スライド機構43に使用する弾性材料は、ゴムなどの弾性樹脂であってもよいし、一定以上の弾性限界を有する金属材料(例えば、Ti-Ni合金、Cu-Al-Ni合金、Cu-Zn-Al合金など)であってもよい。後述する試験例に記載の通り、電極合材層D2の膜厚は、数μmレベルで変動するものであり、実際の第3ロール30の高さ位置の変動は非常に小さいものである。このため、ここに開示される技術では、一定以上の弾性限界を有していれば、金属材料を弾性材料として使用することができる。この場合でも、直交スライド機構43にバネとしての性質を充分に付与することができる。さらに、直交スライド機構43に金属材料を使用することによって、第1部材43aと第2部材43bが摺動する際の摩耗の抑制にも貢献できる。
【0028】
なお、第3ロール30を第2ロール20に向かって付勢する際の付勢力は、2500N以上が好適であり、2600N以上がより好適であり、2700N以上がさらに好適であり、2800N以上が特に好適である。これによって、第3ロール30への付勢力が大きくなるにつれて、圧着ギャップG2において合材塗膜Bへの押圧力が強くなるため、圧着後の電極合材層D2をより薄膜化できる。一方、第3ロール30への付勢力の上限は、3500N以下が好適であり、3400N以下がより好適であり、3300N以下がさらに好適であり、3200N以下が特に好適である。第3ロール30への付勢力が小さくなるにつれて、合材塗膜Bからの反力の変動に第3ロール30の位置(圧着ギャップG2の大きさ)が追従しやすくなるため、電極合材層D2の膜厚のバラつきをさらに好適に低減できる。
【0029】
2.電極の製造方法
次に、上記構成の電極製造装置100を用いた電極の製造方法について説明する。この製造方法は、(a)圧延工程と、(b)塗膜搬送工程と、(c)集電体搬送工程と、(d)圧着工程とを備えている。
【0030】
(a)圧延工程
本工程では、回転する第1ロール10と、回転する第2ロール20の間に電極材料Aを供給する。上述の通り、第1ロール10と第2ロール20は逆方向に回転しているため、電極材料Aが第1ロール10と第2ロール20との隙間(圧延ギャップG1)に運ばれる。そして、この圧延ギャップG1において電極材料Aが圧延されることによって合材塗膜Bが形成される。なお、圧延ギャップG1の大きさは、所望の膜厚を有する合材塗膜Bが形成されるように、電極材料Aの成分や形態などを考慮して適宜調節される。かかる電極材料Aは、電極合材層の前駆体であり、電極活物質を主成分とした材料である。また、電極材料Aは、電極活物質の他に、バインダ、増粘剤、導電材などの各種添加剤を含んでいてもよい。なお、電極材料Aの成分は、従来公知の二次電池において使用され得るものを二次電池の種類に応じて適宜選択して使用でき、ここに開示される技術を限定するものではないため具体的な説明を省略する。なお、本明細書における「二次電池」とは、電解質を介して一対の電極(正極と負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる蓄電デバイス一般をいう。かかる二次電池は、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池の他に、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。
【0031】
また、電極材料Aの形態は、特に制限されず、ペースト、スラリー、粉体、および造粒体などの形態をとり得る。上述の電極材料Aのうち、湿潤造粒体は、電極活物質を含む固形分に少量(例、10質量%以上30質量%以下)の溶媒を添加して成形した造粒体である。かかる湿潤造粒体を圧延した合材塗膜Bは、圧延後の膜厚の変動が比較的に生じやすいため、後述する圧着ギャップG2における膜厚調節の効果が大きくなる傾向がある。このため、ここに開示される技術は、電極材料Aとして湿潤造粒体を用いた製造方法に特に好適に適用できる。また、湿潤造粒体は、マイグレーションによる電極合材層D2の不均一化が生じにくいという利点も有している。なお、湿潤造粒体は、第1ロール10と第2ロール20との隙間(圧延ギャップG1)よりも小さいことが好ましい。例えば、湿潤造粒体の粒径は、数十μm程度(例えば20μm以上30μm以下)であり得る。
【0032】
(b)塗膜搬送工程
本工程では、合材塗膜Bを第2ロール20に付着させて搬送する。なお、本工程では、圧延ギャップG1にて圧延された合材塗膜Bを第2ロール20の外筒部24に付着させる必要がある。このように合材塗膜Bを第2ロール20に選択的に付着させる手段は、特に限定されず、従来公知の手段を特に制限なく採用できる。例えば、第2ロール20の回転速度を、第1ロール10の回転速度よりも速くするという手段が挙げられる。これによって、相対的に回転速度が速い第2ロール20の方に、圧延後の合材塗膜Bを付着させることができる。また、第2ロール20の外筒部24に、合材塗膜Bの付着性が向上するような表面処理を施すという手段も採用できる。そして、第2ロール20の外筒部24に付着した合材塗膜Bは、第2ロール20の回転に伴って、第2ロール20と第3ロール30との間に形成された圧着ギャップG2に搬送される。
【0033】
(c)集電体搬送工程
本工程では、回転する第3ロール30で電極集電体Cを圧着ギャップG2に搬送する。電極集電体Cは、長尺な帯状の金属箔である。電極集電体Cは、二次電池の種類に応じて適切な金属箔を適宜選択できる。例えば、リチウムイオン二次電池の正極を製造する場合には、電極集電体Cとしてアルミニウム箔を使用することが好ましい。また、負極を製造する場合には、電極集電体Cとして銅箔を使用することが好ましい。また、電極集電体Cの厚みも、目的とする電池の構成に応じて適宜変更できるため、特に限定されない。一例として、電極集電体Cの厚みは、5μm以上35μm以下であり、7μm以上20μm以下である。
【0034】
(d)圧着工程
本工程では、第2ロール20と第3ロール30との間の圧着ギャップG2に合材塗膜Bと電極集電体Cを通過させる。これによって、電極集電体Cと合材塗膜Bとが圧着され、電極集電体D1の表面に電極合材層D2が付着した電極Dを製造できる。なお、本工程では、第2ロール20の表面に付着している合材塗膜Bを電極集電体Cに圧着(転写)させるための種々の手段が実施されていることが好ましい。例えば、第3ロール30の回転速度を第2ロール20の回転速度よりも大きくすると共に、第2ロール20と第3ロール30との隙間を一定以下に設定する。これによって、第2ロール20に付着していた合材塗膜Bを電極集電体Cに圧着(転写)させることができる。
【0035】
そして、本工程において合材塗膜Bを圧着する際の圧力によって、圧着後の電極合材層D2が薄膜化する。通常は、この圧着工程における合材塗膜Bの薄膜化によって、合材塗膜Bの膜厚のバラつきが低減され、所望の膜厚の電極合材層D2を得ることができる。しかし、この圧着工程では、合材塗膜Bから第3ロールに大きな反力Rが加わる。ここで、圧延ギャップG1から供給される合材塗膜Bの膜厚にバラつきがあると、当該合材塗膜Bから第3ロール30に加わる反力Rが不安定になる。このとき、第3ロール30が固定されていると、合材塗膜Bからの反力Rの変動に第3ロール30が追従できず、圧着ギャップG2が不安定になるため、押圧不良が生じて圧着後の電極合材層D2の膜厚にバラつきが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態では、バネ状機構40によって第3ロール30を第2ロール20に向かって付勢しているため、合材塗膜Bからの反力Rの変動に追従するように、第3ロール30の高さ位置を上下させて圧着ギャップG2を変動させることができる。この結果、圧着ギャップG2における押圧不良を抑制し、圧着後の電極合材層D2の膜厚のバラつきを低減できる。このため、本実施形態に係る電極製造装置100によると、所望の膜厚の電極合材層D2を有した電極Dを安定的に製造できる。
【0036】
なお、本実施形態に係る電極製造装置100は、様々な寸法の電極Dの製造に広く使用することができる。例えば、本実施形態に係る電極製造装置100は、電極合材層D2の膜厚が1μm以上1000μm以下の電極Dを製造できる。但し、この電極製造装置100は、電極合材層D2の膜厚が10μm以上100μm以下の範囲内の電極Dの製造に特に好適に使用できる。このような電極Dの製造においては、電極合材層D2の膜厚を±数μm以下の精度で制御することが求められる。本実施形態に係る電極製造装置100は、製造結果に基づいたギャップ幅のフィードバック制御などの制御的な要素ではなく、バネ状機構40からの付勢力という機械的な要素によって、合材塗膜Bからの反力Rの変動に応じた圧着ギャップG2の調節を行うことができるため、このような±数μm以下のレベルの膜厚のバラつきにも好適に対応できる。このため、本実施形態に係る電極製造装置100は、電極合材層D2の膜厚が薄い電極Dの製造においても、所望の膜厚の電極合材層D2を安定的に形成できる。
【0037】
<他の実施形態>
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は、ここに開示される技術が適用される一例を示したものであり、ここに開示される技術を限定するものではない。以下、ここに開示される技術の他の実施形態について説明する。
【0038】
(1)電極製造装置の構成
ここに開示される電極製造装置は、少なくとも第1ロール~第3ロールを備えていればよく、各ロールの位置関係は上述の実施形態に限定されない。例えば、第1の実施形態に係る電極製造装置100では、
図1に示すように、第1ロール10~第3ロール30が逆L字型に配置されている。しかし、
図2に示すように、第1ロール10~第3ロール30の3つのロールのすべてが幅方向Xに沿って配列された構成を採用することもできる。かかる電極製造装置100Aにおいても、第3ロール30を第2ロール20に向かって付勢するバネ状機構40を設け、合材塗膜Bからの反力Rの変動に応じて圧着ギャップG
2を変動させることによって、圧着後の電極合材層D2の膜厚のバラつきを低減できる。なお、電極製造装置に設けられるロールの数は、3個に限定されず、4個以上のロールを備えていてもよい。
【0039】
(2)バネ状機構の構造
また、第1の実施形態に係る電極製造装置100では、
図1に示すように、直交スライド機構43に弾性材料を使用することによって、第3ロール30を付勢するバネ状機構40を構築している。しかし、バネ状機構は、第3ロールを第2ロールに向かって付勢することができれば、その具体的な構造は特に限定されず、種々の構造を採用することができる。例えば、
図1中の軸受部41、接続部42、駆動軸45aの何れかに弾性材料を使用した場合も、第1の実施形態と同様に、バネ状機構40として機能するギャップ調整機構を構築することができる。但し、合材塗膜Bからの反力Rへの追従しやすさや圧着の安定性などを考慮すると、第1の実施形態のように、直交スライド機構43を構成する第1部材43aと第2部材43bに弾性材料を使用することが好ましい。
【0040】
また、ここに開示される技術におけるバネ状機構の他の例として、
図3に示すバネ状機構40Aが挙げられる。このバネ状機構40Aは、第3ロール30を回転可能に支持する軸受部41と、第2ロール側(高さ方向Zの上方)に向かって摺動可能に軸受部41を保持する保持部47と、軸受部41を第2ロール側に向けて付勢する弾性部材49とを備えている。具体的には、このバネ状機構40Aの保持部47は、地面等に固定されたベース部47aを備えている。このベース部47aの幅方向Xの両端部は、高さ方向Zの上方に向かって突出している。そして、当該ベース部47aの両端部の上面に、上板47bが取り付けられている。この上板47bには、一対の挿通孔が形成されており、高さ方向Zに沿って延びるガイド軸47cが各々の挿通孔に挿通されている。
図3に示す構造では、このガイド軸47cに沿って摺動可能に軸受部41が取り付けられている。そして、このバネ状機構40Aでは、ガイド軸47cにバネ部49が取り付けられており、軸受部41を高さ方向Zの上方に向かって付勢している。かかる構成のバネ状機構40Aを採用した場合であっても、第3ロール30を第2ロール(高さ方向Zの上方)に向けて付勢できるため、合材塗膜からの反力の変動に応じて第3ロール30の高さ位置を変動させて電極合材層の膜厚のバラつきを低減できる。なお、
図3に示す構成のバネ状機構40Aを採用する場合には、第2ロール(図示省略)の方にギャップ調節機構を取り付け、第3ロール30からの付勢力が所定の値になるように圧着ギャップを調節することが好ましい。
【0041】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下の説明は、ここに開示される技術を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0042】
1.サンプルの準備
(1)実施例
実施例では、
図1に示す構成の電極製造装置100を用いて、リチウムイオン二次電池用の正極を作製した。本試験における電極材料Aには、正極活物質と、導電材と、バインダとを含む湿潤造粒体(平均粒子径:12μm)を用いた。なお、正極活物質には、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)を使用した。また、導電材にはアセチレンブラック(AB)を使用し、バインダにはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用した。また、電極集電体Cには、厚み12μmのアルミニウム箔を使用した。そして、製造後の正極合材層D2の膜厚の目標値を23.5μmに設定し、第1~第3ロールの各々の配置位置を調節した。具体的には、圧延後の合材塗膜Bの膜厚の中央値が47μm程度となり、圧着後の電極合材層D2の膜厚の中央値が23.5μm程度となるように圧延ギャップG
1と圧着ギャップG
2の大きさを設定した。
【0043】
そして、圧延ギャップG
1において電極材料Aを圧延して合材塗膜Bを形成した後に、圧着ギャップG
2において合材塗膜Bと電極集電体とを圧着した。ここで、実施例では、
図1中の直交スライド機構43の第1部材43aと第2部材43bに、弾性材料であるTi-Ni合金を使用した。そして、第2ロールに向けて第3ロールが3000Nの付勢力で付勢されるように駆動軸45aの長さを調節した。
【0044】
(2)比較例
直交スライド機構43に高剛性の材料であるステンレス鋼を使用し、第3ロールからの付勢力を5000Nに調節した点を除いて、実施例と同様の手順で正極を製造した。
【0045】
2.評価試験
圧着前の合材塗膜Bの膜厚(μm)と、圧着後の電極合材層D2の膜厚(μm)を測定し、圧着後の電極合材層D2において膜厚のバラつきが低減された度合いを評価した。結果を
図4~
図7に示す。
図4は実施例における合材塗膜の膜厚を示すグラフであり、
図5は実施例における電極合材層の膜厚を示すグラフである。一方、
図6は比較例における合材塗膜の膜厚を示すグラフであり、
図7は比較例における電極合材層の膜厚を示すグラフである。なお、
図4~
図7に示すように、本試験では、電極合材層D2の膜厚がある程度安定する成膜距離35m以降から評価を開始した。
【0046】
図4および
図6に示すように、実施例と比較例の何れにおいても、電極集電体Cに圧着する前の合材塗膜Bの膜厚が44μm~50μmの範囲内で大きなバラつきが生じていた。しかし、
図5に示すように、実施例では、圧着後の電極合材層D2の膜厚が23μm~24μmの範囲内に収束しており、膜厚のバラつきが低減されていた。一方、
図7に示すように、比較例では、圧着後の電極合材層D2もおいても、22.5μm~24.5μmの範囲内で膜厚がバラついていた。このことから、実施例のように、第3ロール30にバネ状機構40を取り付け、第2ロール20に向けて第3ロール30を付勢しながら合材塗膜Bを圧着することによって、圧着工程において電極合材層D2の膜厚のバラつきを低減できることが分かった。これは、実施例では、合材塗膜Bからの反力Rの変動に追従するように第3ロール30の高さ位置Z(圧着ギャップG2の大きさ)が変動し、合材塗膜Bを適切に押圧できるためと推測される。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10 第1ロール
20 第2ロール
30 第3ロール
40、40A バネ状機構
41 軸受部
42 接続部
43 直交スライド機構
45 伸縮機構
47 保持部
49 弾性部材
100、100A 電極製造装置
A 電極材料
B 合材塗膜
C 電極集電体
D 電極
D1 電極集電体
D2 電極合材層
G1 圧延ギャップ
G2 圧着ギャップ