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特許7270047ガイドワイヤ、及び、ガイドワイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ、及び、ガイドワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
A61M25/09 516
A61M25/09 514
A61M25/09 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021541934
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034187
(87)【国際公開番号】W WO2021038845
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】牛田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】岩田 尚純
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119386(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/139829(WO,A1)
【文献】特開2011-130976(JP,A)
【文献】特開2016-189998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤであって、
超弾性材料で形成された第1コアシャフトと、
前記第1コアシャフトよりも塑性変形しやすい材料で形成され、前記第1コアシャフトの先端部に接合される第2コアシャフトと、
を備え、
前記第1コアシャフトのうち、前記第2コアシャフトが接合される前記先端部は、前記先端部よりも基端側の部分と比較して、引張負荷に対する破断伸びが短い、ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトのうち、前記先端部の引張負荷に対する破断伸び量は、前記先端部よりも基端側の部分と比較して、前記第2コアシャフトの引張負荷に対する破断伸び量に近い、ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトのうち、前記先端部は、前記先端部よりも基端側の部分と比較して、ナノインデンテーション硬さが大きい、ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項3に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトのうち、前記先端部のナノインデンテーション硬さは、前記先端部よりも基端側の部分におけるナノインデンテーション硬さの1.1倍以上である、ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトの前記先端部のナノインデンテーション硬さは、4500N/mm2以上である、ガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトは、さらに、基端側から先端側に向かって外径が縮径した縮径部を有しており、
前記第1コアシャフトの前記先端部は、前記縮径部の先端に接続されている、ガイドワイヤ。
【請求項7】
請求項6に記載のガイドワイヤであって、
前記縮径部の先端部には、基端側から先端側に向かってナノインデンテーション硬さが徐々に大きくなる徐変部が設けられている、ガイドワイヤ。
【請求項8】
ガイドワイヤの製造方法であって、
超弾性材料で形成された第1コアシャフトの先端部をプレス加工、スエージング加工又は絞り加工の少なくとも1の方法による第1加工を行うことによって、前記先端部の引張負荷に対する破断伸びを、前記先端部よりも基端側の部分と比較して短くする工程と、
前記第1加工をされた前記先端部に対して、前記第1コアシャフトよりも塑性変形しやすい材料で形成された第2コアシャフトを接合する工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤ、及び、ガイドワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管にカテーテル等を挿入する際に用いられるガイドワイヤが知られている。このようなガイドワイヤにおいて、血管選択性を向上させて血管内の目的部位までスムーズにガイドワイヤを導くために、ガイドワイヤの先端部分に小さな湾曲等の形状を付す場合がある。例えば、特許文献1~5には、ニッケルチタン合金により形成された長尺状シャフト(ワイヤ本体)の先端に、ステンレス鋼により形成されたリボン(シェーピングリボン)を接合することによって、先端部への形状付けを容易にしたガイドワイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2006-519069号公報
【文献】国際公開第2009/119386号パンフレット
【文献】特表2013-544575号公報
【文献】特開2010-240201号公報
【文献】特開平4-292174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、長尺状シャフトとリボンとは、隣接して配置された長尺状シャフトとリボンとの間にハンダ付けやロウ付けを施すことにより接合されている。ここで、長尺状シャフトを形成するニッケルチタン合金と、リボンを形成するステンレス鋼とは、破断までのひずみ量が大きく異なる。このため、特許文献1~5に記載のガイドワイヤでは、長尺状シャフトとリボンとの接合部に対して負荷(例えば引張負荷)を加えた際、ひずみ量の多いニッケルチタン合金の伸びが発生し、長尺状シャフトが接合部において剥離するという課題があった。
【0005】
なお、このような課題は、血管系に限らず、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官等、人体内の各器官に挿入されるガイドワイヤに共通する。また、このような課題は、ニッケルチタン合金により形成された長尺状シャフトと、ステンレス鋼により形成されたリボンとを備えるガイドワイヤに限らず、破断までのひずみ量が大きく異なる材料により形成された複数のコアシャフトを接合して作成されたガイドワイヤに共通する。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、接合された複数のコアシャフトを備えるガイドワイヤにおいて、負荷が加えられた際に生じる接合部の剥離破壊を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、ガイドワイヤが提供される。このガイドワイヤは、超弾性材料で形成された第1コアシャフトと、前記第1コアシャフトよりも塑性変形しやすい材料で形成され、前記第1コアシャフトの先端部に接合される第2コアシャフトと、を備え、前記第1コアシャフトのうち、前記第2コアシャフトが接合される前記先端部は、前記先端部よりも基端側の部分と比較して、引張負荷に対する破断伸びが短い。この「破断伸び」は、破断に至るまでの「ひずみ量」とも記載される。
【0009】
この構成によれば、超弾性材料で形成された第1コアシャフトのうち、第2コアシャフトが接合される先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、引張負荷に対する破断伸びが短い。このため、接合部における第1コアシャフトの伸びを抑制することができ、第1コアシャフトの接合部からの界面剥離を抑制できる。この結果、本構成によれば、接合された第1及び第2コアシャフトを備えるガイドワイヤにおいて、引張負荷が加えられた際に生じる接合部の剥離破壊を抑制できる。
【0010】
(2)上記形態のガイドワイヤにおいて、前記第1コアシャフトの前記先端部の引張負荷に対する破断伸び量は、前記先端部より基端側の部分と比較して、前記第2コアシャフトの引張負荷に対する破断伸び量に近くてもよい。
【0011】
この構成によれば、超弾性材料で形成された第1コアシャフトのうち、第2コアシャフトが接合される先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、第2コアシャフトの引張負荷に対する破断伸び量に近くすることができ、第1コアシャフトと第2コアシャフトとの接合部からの界面剥離を抑制できる。
【0012】
(3)上記形態のガイドワイヤにおいて、前記第1コアシャフトのうち、前記先端部は、前記先端部よりも基端側の部分と比較して、ナノインデンテーション硬さが大きくてもよい。
この構成によれば、超弾性材料で形成された第1コアシャフトのうち、第2コアシャフトが接合される先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、ナノインデンテーション硬さよりが大きい。すなわち、本構成によれば、第1コアシャフトのうち、第2コアシャフトが接合される先端部における、超弾性材料の超弾性特性を消失又は低減できる。このため、接合部における第1コアシャフトの伸びを抑制することができ、第1コアシャフトの接合部からの界面剥離を抑制できる。
【0013】
(4)上記形態のガイドワイヤにおいて、前記第1コアシャフトのうち、前記先端部のナノインデンテーション硬さは、前記先端部よりも基端側の部分におけるナノインデンテーション硬さの1.1倍以上であってもよい。
この構成によれば、第1コアシャフトのうち、先端部のナノインデンテーション硬さを、先端部よりも基端側の部分におけるナノインデンテーション硬さの1.1倍以上とすることにより、超弾性材料の超弾性特性を消失又は低減できる。
【0014】
(5)上記形態のガイドワイヤにおいて、前記第1コアシャフトの前記先端部のナノインデンテーション硬さは、4500N/mm以上であってもよい。
この構成によれば、第1コアシャフトの先端部のナノインデンテーション硬さを、4500N/mm以上とすることにより、超弾性材料の超弾性特性を消失又は低減できる。
【0015】
(6)上記形態のガイドワイヤにおいて、前記第1コアシャフトは、さらに、基端側から先端側に向かって外径が縮径した縮径部を有しており、前記第1コアシャフトの前記先端部は、前記縮径部の先端に接続されていてもよい。
この構成によれば、第1コアシャフトは、さらに、基端側から先端側に向かって外径が縮径した縮径部を有しているため、縮径部において第1コアシャフトの剛性を徐変することができる。この結果、基端側から先端側に向かって徐々に柔軟となるガイドワイヤを提供できる。
【0016】
(7)上記形態のガイドワイヤにおいて、前記縮径部の先端部には、基端側から先端側に向かってナノインデンテーション硬さが徐々に大きくなる徐変部が設けられていてもよい。
この構成によれば、縮径部の先端部には、基端側から先端側に向かってナノインデンテーション硬さが徐々に大きくなる徐変部が設けられている。このため、徐変部において第1コアシャフトの超弾性特性を徐々に低減できる。
【0017】
(8)本発明の一形態によれば、ガイドワイヤの製造方法が提供される。この製造方法では、超弾性材料で形成された第1コアシャフトの先端部をプレス加工、スエージング加工又は絞り加工の少なくとも1の方法による第1加工を行う工程と、前記第1加工をされた前記先端部に対して、前記第1コアシャフトよりも塑性変形しやすい材料で形成された第2コアシャフトを接合する工程と、を備える。
この構成によれば、ガイドワイヤの製造方法は、超弾性材料で形成された第1コアシャフトの先端部をプレス加工、スエージング加工又は絞り加工の少なくとも1の方法による加工をする工程を備える。このため、プレス加工、スエージング加工又は絞り加工によって簡単に、第1コアシャフトの先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、破断伸びを短くでき、またナノインデンテーション硬さを大きくできる。また第1コアシャフトの先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、第2コアシャフトの引張負荷に対する破断伸び量に近付けることができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤに用いられる複数のコアシャフトからなるコアシャフト製品、ガイドワイヤの製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態のガイドワイヤの構成を例示した説明図である。
図2】ガイドワイヤの先端側の構成を例示した説明図である。
図3】ガイドワイヤのA-A線(図2)における断面図である。
図4】引張試験に用いた第1コアシャフトのサンプルの構成を例示した説明図である。
図5】引張試験の試験方法の説明図である。
図6】引張試験の結果の説明図である。
図7】硬さ測定に用いた第1コアシャフトのサンプルの構成を例示した説明図である。
図8】硬さ測定の結果の説明図である。
図9】測定結果に基づくひずみ量の説明図である。
図10】硬さと超弾性特性との相関についての説明図である。
図11】第2実施形態のガイドワイヤの先端側の横断面図である。
図12】第3実施形態のガイドワイヤの先端側の横断面図である。
図13】第4実施形態の第1コアシャフトの先端側の構成を例示した説明図である。
図14】第5実施形態のガイドワイヤの先端側の構成を例示した説明図である。
図15】第6実施形態のガイドワイヤの先端側の構成を例示した説明図である。
図16】第7実施形態のガイドワイヤの先端側の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のガイドワイヤ1の構成を例示した説明図である。ガイドワイヤ1は、例えば血管等の生体管腔内に、カテーテル等の医療用デバイスを挿入する際に使用される医療器具であり、第1コアシャフト10と、コイル体20と、第2コアシャフト30と、先端側固定部51と、基端側固定部52と、中間固定部61とを備えている。本実施形態のガイドワイヤ1は、第1コアシャフト10のうち、第2コアシャフト30が接合される先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、表1に示す相対的な関係を有することで、第1コアシャフト10と第2コアシャフト30との接合部からの界面剥離を抑制する。
【表1】
【0021】
図1では、ガイドワイヤ1の中心に通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。以降の例では、第1太径部15より基端側の第1コアシャフト10の中心を通る軸と、コイル体20の中心を通る軸は、いずれも軸線Oと一致する。しかし、第1コアシャフト10の中心を通る軸と、コイル体20の中心を通る軸は、それぞれ軸線Oとは相違していてもよい。図1には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸はガイドワイヤ1の長さ方向に対応し、Y軸はガイドワイヤ1の高さ方向に対応し、Z軸はガイドワイヤ1の幅方向に対応する。図1の左側(-X軸方向)をガイドワイヤ1及び各構成部材の「先端側」と呼び、図1の右側(+X軸方向)をガイドワイヤ1及び各構成部材の「基端側」と呼ぶ。また、ガイドワイヤ1及び各構成部材について、先端側に位置する端部を「先端」と呼び、先端及びその近傍を「先端部」と呼ぶ。また、基端側に位置する端部を「基端」と呼び、基端及びその近傍を「基端部」と呼ぶ。先端側は、生体内部へ挿入される「遠位側」に相当し、基端側は、医師等の術者により操作される「近位側」に相当する。これらの点は、図1以降においても共通する。
【0022】
第1コアシャフト10は、基端側が太径で先端側が細径とされた、先細りした長尺状の部材である。第1コアシャフト10は超弾性材料、例えば、NiTi(ニッケルチタン)合金や、NiTiと他の金属との合金により形成されている。第1コアシャフト10は、先端側から基端側に向かって順に、先端部11、第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、第2太径部17を有している。各部の外径や長さは任意に決定できる。また第1コアシャフト10は、擬弾性特性を有するNiTi合金等により形成されても良い。
【0023】
図2は、ガイドワイヤ1の先端側の構成を例示した説明図である。図3は、ガイドワイヤ1のA-A線(図2)における断面図である。図3では、上段にA-A線における断面図を図示し、下段に第1コアシャフト10と第2コアシャフト30とが接合された部分(以降「接合部JP」とも呼ぶ)近傍の部分拡大図を図示する。図2及び図3に示すXYZ軸は、図1のXYZ軸にそれぞれ対応する。この点は、図3以降のXYZ軸を付した図についても同様である。
【0024】
先端部11は、第1コアシャフト10の先端側に配置されており、後述する第2コアシャフト30が接合される部分である。先端部11は、第1コアシャフト10の他の部分(第1縮径部12、第1太径部15等)と比べて、横断面の断面積が最小である。先端部11は、図3に示すように略楕円形状の横断面を有している。先端部11は、図3下段に示すように、第2コアシャフト30との隣接方向(図3の例ではZ軸方向)に短辺L1が位置するようにして配置されている。換言すれば、図示の横断面において、先端部11の幅L1は高さL2よりも短い。幅L1及び高さL2の具体値については任意に決定できる。
【0025】
第1縮径部12は、先端部11と第1太径部15との間に配置されている。第1縮径部12は、基端側から先端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。第1太径部15は、第1縮径部12と第2縮径部16との間に配置されている。第1太径部15は、先端部11の高さL2よりも大きな略一定の外径を有する略円柱形状である。第2縮径部16は、第1太径部15と第2太径部17との間に配置されている。第2縮径部16は、基端側から先端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。第2太径部17は、第1コアシャフト10の基端側に配置されている。第2太径部17は、第1コアシャフト10の他の部分(第2縮径部16、第1太径部15等)よりも大きな略一定の外径を有する略円柱形状である。
【0026】
本実施形態の第1コアシャフト10において、先端部11は、先端部11よりも基端側の部分(すなわち、第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、及び第2太径部17)と比較して、破断伸びが短い。また、先端部11は、先端部11よりも基端側の部分と比較して、表1に示す相対的な関係となる。
【0027】
一実施例として、超弾性特性を有するNiTiで構成された第1コアシャフトにおいて、本実施形態の先端部11のナノインデンテーション硬さは、4500N/mmであり、第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、及び第2太径部17のナノインデンテーション硬さは、それぞれ4000N/mmである。換言すれば、先端部11のナノインデンテーション硬さは、先端部11よりも基端側のナノインデンテーション硬さの1.1倍以上である。硬さ計測の方法については、図7において後述する。
また他の一実施例として、擬弾性特性を有するNiTiで構成された第1コアシャフトにおいて、先端部11のナノインデンテーション硬さは4500N/mmよりも大きな値となると共に、先端部11よりも基端側の部分である第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、及び第2太径部17のナノインデンテーション硬さは、それぞれ4000N/mmよりも大きな値となる。すなわち、第1コアシャフトの材料特性により具体的なナノインデンテーション硬さの値は変化するが、先端部11のナノインデンテーション硬さは、先端部11より基端側の部分のナノインデンテーション硬さより大きな値を持つようにされるとの関係は変化しない。
【0028】
先端部11、第1縮径部12、及び第1太径部15の外側面は、後述するコイル体20によって覆われている。一方、第2縮径部16及び第2太径部17は、コイル体20によって覆われておらず、コイル体20から露出している。第2太径部17は、術者がガイドワイヤ1を把持する際に使用される。
【0029】
コイル体20は、第1コアシャフト10及び第2コアシャフト30に対して、素線21を螺旋状に巻回して形成された略円筒形状である。コイル体20は、1本の素線を単条に巻回して形成される単条コイルであってもよく、複数本の素線を多条に巻回して形成される多条コイルであってもよく、複数本の素線を撚り合せた撚線を単条に巻回して形成される単条撚線コイルであってもよく、複数本の素線を撚り合せた撚線を複数用い、各撚線を多条に巻回して形成される多条撚線コイルであってもよい。コイル体20の素線21の線径と、コイル体20におけるコイル平均径(コイル体20の外径と内径の平均径)とは、任意に決定できる。
【0030】
素線21は、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金、NiTi合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することができる。なお、素線21は、上記以外の公知の材料によって形成されてもよい。
【0031】
第2コアシャフト30は、基端側から先端側に向かって伸びる長尺状の部材である。第2コアシャフト30は、第1コアシャフト10よりも塑性変形しやすい材料、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金により形成されている。第2コアシャフト30は「リボン」とも呼ばれる。第2コアシャフト30は、先端側から基端側に向かって順に、先端部31、中間部32、及び基端部33を有している。各部の外径や長さは任意に決定できる。
【0032】
先端部31は、第2コアシャフト30の先端側に配置されており、先端側固定部51によって固定される部分である。中間部32は、第2コアシャフト30の先端部31と基端部33との間の部分である。基端部33は、第2コアシャフト30の基端側に配置されており、第1コアシャフト10と接合される部分である。
【0033】
なお、第2コアシャフト30は、第1コアシャフト10の先端部11と同様に、略楕円形状の横断面を有する偏平形状であってもよく、横断面形状は特に限定されない。
【0034】
図3に示すように、第1コアシャフト10の先端部11と、第2コアシャフト30の基端部33とは、隣接して配置され接合されている。この接合は、図3下段に示すように、隣接して配置された先端部11と基端部33との間の隙間を、接合剤90で埋め固めることにより実施できる。接合剤90には、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤を使用できる。第1コアシャフト10の先端部11と第2コアシャフト30の基端部33との接合については、接合剤90での接合に限定されず、溶接その他により接合されても良く、どのように接合されたかは限定されない。ここで、第1コアシャフト10は、偏平な先端部11の長手方向(高さL2方向)の側面を第2コアシャフト30に隣接させた状態で配置されている。そうすれば、第1コアシャフト10と第2コアシャフト30との隣接部分の面積を広くできるため、第1コアシャフト10と第2コアシャフト30との接合強度を向上できる。
【0035】
なお、図2に示すように、第1コアシャフト10の先端部11と、第2コアシャフト30の基端部33とは、軸線O方向における基端の位置を合わせた状態で接合されている。しかし、軸線O方向における先端部11の基端と、基端部33の基端との両位置は相違していてもよい。例えば、先端部11の基端は、基端部33の基端から±X軸方向に位置していてもよい。また、例えば、第1コアシャフト10は、偏平な先端部11の短手方向(幅L1方向)の側面を第2コアシャフト30に隣接させた状態で配置され、第2コアシャフト30に接合されていてもよい。
【0036】
先端側固定部51は、ガイドワイヤ1の先端部に配置され、第2コアシャフト30の先端部31と、コイル体20の先端部とを一体的に保持している。先端側固定部51は、任意の接合剤、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤によって形成できる。基端側固定部52は、第1コアシャフト10の第1太径部15の基端部に配置され、第1コアシャフト10と、コイル体20の基端部とを一体的に保持している。基端側固定部52は、先端側固定部51と同様に任意の接合剤によって形成できる。基端側固定部52と先端側固定部51とは、同じ接合剤を用いてもよく、異なる接合剤を用いてもよい。
【0037】
中間固定部61は、コイル体20の軸線O方向の中間部近傍において、コイル体20と、第1コアシャフト10とを一体的に保持している。中間固定部61は、先端側固定部51と同様に任意の接合剤によって形成できる。中間固定部61と先端側固定部51とは、同じ接合剤を用いてもよく、異なる接合剤を用いてもよい。図1では、1つの中間固定部61について例示したが、ガイドワイヤ1には複数の中間固定部61を設けてもよい。又は、ガイドワイヤ1には中間固定部61を設けなくても良い。
【0038】
このようなガイドワイヤ1は、例えば次のようにして製造できる。まず、超弾性材料で形成された第1コアシャフト10aと、第1コアシャフト10aよりも塑性変形しやすい材料で形成された第2コアシャフト30と、を準備する。第1コアシャフト10aは、略一定の外径を有する略円柱形状の(すなわち偏平でない)先端部11aを有している。次に、第1コアシャフト10aの先端部11aをプレス加工することで、第1コアシャフトの基端側の部分と比較して、破断伸び量が短い先端部11を有する第1コアシャフト10が作成される。具体的には、第1コアシャフト10の先端部11は、図1図3で説明した偏平形状、破断伸びが短く、またナノインデンテーション硬さが大きい、との特性の少なくとも一つを有する。次に、第1コアシャフト10の先端部11に対して、第2コアシャフト30の基端部33を接合する。次に、コイル体20を、第1及び第2コアシャフト10,30を覆うように配置する。最後に、先端側固定部51、基端側固定部52、及び中間固定部61を形成する。
【0039】
<効果例>
このように、第1実施形態のガイドワイヤ1では、超弾性材料で形成された第1コアシャフト10のうち、第2コアシャフト30が接合される先端部11は、先端部よりも基端側の部分(第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、及び第2太径部17)と比較して、引張負荷に対する破断伸びが短い。このため、接合部JPにおける第1コアシャフト10の伸びを抑制することができ、第1コアシャフト10の接合部JPからの界面剥離を抑制できる。この結果、第1実施形態によれば、接合された第1及び第2コアシャフト10,30を備えるガイドワイヤ1において、引張負荷が加えられた際に生じる接合部JPの剥離破壊を抑制できる。
【0040】
また、第1実施形態のガイドワイヤ1では、超弾性材料で形成された第1コアシャフト10のうち、第2コアシャフト30が接合される先端部11は、先端部11よりも基端側の部分と比較して、引張負荷に対する破断伸び量が第2コアシャフト30の引張負荷に対する破断伸び量に近い。このため、接合部JPにおける第1コアシャフト10と第2コアシャフト30の伸び量の差を抑制することができ、第1コアシャフト10の接合部JPからの界面剥離を抑制できる。
【0041】
また、第1実施形態のガイドワイヤ1では、超弾性材料で形成された第1コアシャフト10のうち、第2コアシャフト30が接合される先端部11は、先端部11よりも基端側の部分と比較して、ナノインデンテーション硬さが大きい。すなわち、第1実施形態によれば、第1コアシャフト10のうち、第2コアシャフト30が接合される先端部11における、超弾性材料の超弾性特性を消失又は低減できる。このため、接合部JPにおける第1コアシャフト10の、超弾性特性に起因した「伸び」を抑制することができ、第1コアシャフト10の接合部JPからの界面剥離を抑制できる。
【0042】
さらに、第1実施形態のガイドワイヤ1において、第1コアシャフト10は、さらに、基端側から先端側に向かって外径が縮径した第1縮径部12を有しているため、第1縮径部12において第1コアシャフト10の剛性を徐変することができる。この結果、基端側から先端側に向かって徐々に柔軟となるガイドワイヤ1を提供できる。さらに、ガイドワイヤ1の製造方法は、超弾性材料で形成された第1コアシャフト10の先端部11をプレス加工する工程を備える。このため、プレス加工によって簡単に、第1コアシャフト10の先端部11は、先端部11よりも基端側の部分と比較して、引張負荷に対する破断伸びを小さく、またナノインデンテーション硬さを大きくできる。また、第1コアシャフト10の先端部11は、先端部11よりも基端側の部分と比較して、引張負荷に対する破断伸び量を、前記第2コアシャフト30の引張負荷に対する破断伸び量に近くすることができる。
【0043】
<試験結果>
図4図6を用いて、第1実施形態のガイドワイヤ1によって、第1コアシャフト10の先端部11における超弾性特性を消失又は低減できることを説明する。まず、第1実施形態の構成を有する第1コアシャフトを含む、4つの第1コアシャフトのサンプルに対して引張試験を実施した。この引張試験は、第1コアシャフトに負荷が加わった際における、第1コアシャフトの超弾性特性に起因した「伸び」を定量的に測定する試験である。
【0044】
図4は、引張試験に用いた第1コアシャフトのサンプルの構成を例示した説明図である。図4では、各サンプルの先端部の横断面を図示している。全てのサンプルにおいて、横断面積は同じである。第1コアシャフトのサンプルS1は、プレス加工されていない先端部111を有している。先端部111は略円形状の横断面を有しており、幅L11と高さL21とが略同一である。第1コアシャフトのサンプルS2は、プレス加工された先端部112を有している。先端部112は略楕円形状の横断面を有しており、加工率は8%である。加工率は、以下の式(1)により求める。なお、高さL22<幅L12である場合、下記式(1)の「幅L12/高さL22」は、「高さL22/幅L12」と読み替える。
加工率 = 1-(幅L12/高さL22)×100 ・・・(1)
【0045】
第1コアシャフトのサンプルS3は、プレス加工されて、サンプルS2よりも偏平な先端部113を有している。先端部113は略楕円形状の横断面を有しており、加工率は25%である。加工率は、サンプルS2と同様に、上記式(1)を用いて求める。第1コアシャフトのサンプルS4は、プレス加工されて、サンプルS3よりも偏平な先端部114を有している。先端部114は略楕円形状の横断面を有しており、加工率は40%である。加工率は、サンプルS2と同様に、上記式(1)を用いて求める。
【0046】
図5は、引張試験の試験方法の説明図である。図5及び以下の説明では、サンプルS1について例示しつつ説明する。引張試験では、離間して配置された第1チャック201と第2チャック202を使用する。まず、第1チャック201に対してサンプルS1の先端部をロウ剤301により固定し、第2チャック202に対してサンプルS1の略中央部をロウ剤302により固定する。この状態で、第2チャック202を鉛直方向下側(第1チャック201から離間する方向)へと引っ張り、引張荷重(N)と、サンプルS1のひずみ(%)について測定した。引張試験は、サンプルS1が破断するまで継続した。なお、本試験では、ロウ剤301とロウ剤302との中心間の長さ(スパン)を15mmとし、引張速度を5mm/minとした。図4で説明したサンプルS2~S4についても、同様の方法及び条件で試験を行った。
【0047】
図6は、引張試験の結果の説明図である。図6では、縦軸に引張荷重(N)をプロットし、横軸にひずみ(%)をプロットした状態での、サンプルS1~S4の試験結果を表している。図示のように、プレス加工しないサンプルS1では、まず、引張荷重の増加に比例してひずみが増加する(領域R1:オーステナイト相弾性領域)。サンプルS1では、次に、引張荷重が増加してもひずみが略一定に維持され(領域R2:オーステナイト―マルテンサイト相変態、プラトー領域)、引張荷重の増加に比例して緩やかにひずみが増加し(領域R3:マルテンサイト相弾性領域)、引張荷重の増加に比例して更に緩やかにひずみが増加し(領域R4:マルテンサイト相組成領域)、点BPにおいて破断する。このように、プレス加工しないサンプルS1は、超弾性域R1と、塑性域R3及びR4との間に、引張荷重が増加してもひずみが略一定に維持されるプラトー領域R2が存在する、いわゆる「超弾性特性」を有している。以降、破断点BPまでのひずみを「破断伸び」ともいう。
【0048】
加工率8%のサンプルS2では、プラトー領域R2がほぼ消失しているものの、引張荷重に対するひずみの増加量や、破断点BPまでのひずみ(破断伸び)については、プレス加工しないサンプルS1と類似した結果となった。一方、加工率25%のサンプルS3では、プラトー領域R2が消失した上に、破断点BPまでのひずみ(破断伸び)が、プレス加工しないサンプルS1と比較して小さくなった。加工率40%のサンプルS4では、プラトー領域R2が消失した上に、破断点BPまでのひずみ(破断伸び)が、プレス加工しないサンプルS1と比較してさらに小さくなった。以上の結果から、第1コアシャフト10の先端部11をプレス加工することにより、先端部11の超弾性特性が消失又は低減し、破断点BPまでのひずみを小さくできる(すなわち、破断伸びを短くできる)ことが明らかとなった。換言すれば、第1コアシャフト10の先端部11をプレス加工することにより、先端部11の超弾性特性に起因した先端部11の「伸び」を抑制できることが明らかとなった。
【0049】
図6に図示しないが、第2コアシャフト30は、第1コアシャフトのサンプルS1~S4と比較して、領域R1において、引張荷重[N]の大きな増加に対してひずみ[%]は相対的に小さな変化量となる。
【0050】
よって、プレス加工を行ったサンプルS3又はS4は、プレス加工を行わないサンプルS1若しくはプレス加工程度が小さなサンプルS2と比較して、引張荷重[N]対する破断に至るまでのひずみ量[%]の変化は、第2コアシャフト30の引張荷重[N]に対する破断に至るまでのひずみ量[%]の変化に近くなる。
【0051】
図7図8を用いて、第1コアシャフト10の先端部11における超弾性特性と、ナノインデンテーション硬さとの関係について説明する。ここでは、第1実施形態の構成を有する第1コアシャフトを含む、4つの第1コアシャフトのサンプルS1~S4(図4)のナノインデンテーション硬さを求め、求めた硬さと超弾性特性との相関について検証した。
【0052】
図7は、硬さ測定に用いた第1コアシャフトのサンプルの構成を例示した説明図である。図4で説明した4つのサンプルS1~S4を用いた、4つの試験片を作成する。以降、サンプルS1を用いた試験片の作成について説明する。まず、台座401の上に、UV硬化型接着剤402で覆ったサンプルS1を載置する(図7:上段)。次に、台座401に裁置されたサンプルS1を精密バイスで圧着し、サンプルS1の周囲の気泡を除去する。次に、台座401に裁置されたサンプルS1にUVを照射し、UV硬化型接着剤402を硬化させる。次に、バフ砥石とダイヤ1μm砥粒とを用いて、サンプルS1表面のUV硬化型接着剤402を除去する(図7:下段)。このようにして、図7下段に示す試験片を、サンプルS1~S4についてそれぞれ作成する。
【0053】
硬さ測定の方法について説明する。硬さ測定は、エリオニクス社製ENT-1100b超微小押込硬さ試験機と、バーコビッチ圧子とを使用して実施した。本測定では、圧子の押込荷重を100mNとし、押込速度を10mN/secとした。
【0054】
図8は、硬さ測定の結果の説明図である。図8では、各サンプルS1~S4についてのナノインデンテーション(H_IT)硬さ(N/mm)を縦軸にプロットしている。図示のように、サンプルS1のナノインデンテーション硬さは4000N/mmであり、サンプルS2のナノインデンテーション硬さは3800N/mmであり、サンプルS3のナノインデンテーション硬さは4500N/mmであり、サンプルS4のナノインデンテーション硬さは5000N/mmであった。なお、図8では、引張試験において良好な結果が得られなかったサンプルS1,S2は白抜きとし、良好な結果が得られたサンプルS3,S4には斜線ハッチングを付した。
【0055】
図9は、測定結果に基づくひずみ量の説明図である。図9では、サンプルS1の破断に至った時点でのひずみ量を100として、各サンプルS2~S4について、引張試験の結果(図6)で得られたひずみ量を示している。サンプルS1に対してサンプルS2の破断に至った時点のひずみ量は略同じであり、サンプルS3はサンプルS1の略60%、サンプルS4は略50%となっている。
【0056】
図8及び図9に示すように、加工率8%のサンプルS2は、ナノインデンテーション硬さ(図8)と破断に至った時点でのひずみ量(図9)とが共に、プレス加工しないサンプルS1に比べて大きな変化がなかった。一方、加工率25%のサンプルS3は、ナノインデンテーション硬さがプレス加工しないサンプルS1に比べて増加し、破断に至った時点でのひずみ量が減少している。また、加工率40%のサンプルS4は、ナノインデンテーション硬さがプレス加工しないサンプルS1に比べてさらに増加し、破断に至った時点でのひずみ量がさらに減少している。以上の結果から、第1コアシャフト10の先端部11をプレス加工することにより、破断に至るまでのひずみ量は減少し、ナノインデンテーション硬さは増加することが明らかとなった。
【0057】
図8に示す試験結果から、第1コアシャフト10の先端部11のナノインデンテーション硬さは、サンプルS3と同じ4500N/mmとすることが好ましく、4500N/mmより大きな値とするとより好ましいことがわかる。また、第1コアシャフト10の先端部11のナノインデンテーション硬さは、先端部11よりも基端側の部分(第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、及び第2太径部17)のナノインデンテーション硬さの1.1倍とすることが好ましく、1.1倍より大きな値とするとより好ましいことがわかる。
【0058】
図10は、硬さと超弾性特性との相関についての説明図である。図10では、縦軸に硬さ測定の結果(N/mm)をプロットし、横軸に引張試験の結果(破断点BPまでのひずみ、破断伸び:%)をプロットした状態での、サンプルS1~S4の試験結果を表している。図示のように、サンプルS1~S4の試験結果には、直線近似曲線ASを描くことができる。このため、ナノインデンテーション硬さと、破断点BPまでのひずみ(破断伸び)と、には強い相関があることが明らかとなった。
【0059】
<第2実施形態>
図11は、第実施形態のガイドワイヤ1Aの先端側の横断面図である。第実施形態のガイドワイヤ1Aは、第1実施形態の第1コアシャフト10に代えて、第1コアシャフト10Aを備えている。第1コアシャフト10Aは、2方向からのプレス加工を行い、略正方形状の横断面を有する先端部11Aを備えている。すなわち、先端部11Aの幅L16と高さL26とは略同一である。先端部11は、超弾性材料により形成された第1コアシャフト10aの先端部11aを、Z軸方向と、Y軸方向との両方からプレス加工することで形成されている。プレス加工によって先端部11Aは、第1実施形態の先端部11と同じナノインデンテーション硬さとされている。すなわち、第実施形態の第1コアシャフト10Aにおいても、第2コアシャフト30が接合される先端部11Aにおける、超弾性材料の超弾性特性を消失又は低減できる。
【0060】
このように、第1コアシャフト10Aの先端部11Aは、略正方形状や、略長方形状のように、略多角形状の横断面を有していてもよい。このような第2実施形態のガイドワイヤ1Aによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態のガイドワイヤ1Aによれば、第1コアシャフト10Aと第2コアシャフト30との隣接部分の面積をより広くできるため、第1コアシャフト10Aと第2コアシャフト30との接合強度を向上できる。また、2方向からのプレス加工に限定されず、多方向からのプレス加工を行っても良い。
【0061】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態のガイドワイヤ1Bの先端側の横断面図である。第3実施形態のガイドワイヤ1Bは、第1実施形態の第1コアシャフト10に代えて、第1コアシャフト10Bを備えている。第1コアシャフト10Bは、略円形状の横断面を有する先端部11Bを備えている。すなわち、先端部11Bの幅L15と高さL25とは略同一である。先端部11Bは、超弾性材料により形成された第1コアシャフト10Bの先端部11Bを、スエージング加工又は絞り加工することにより形成されている。スエージング加工又は絞り加工によって先端部11Bは、第1実施形態の先端部11と同じナノインデンテーション硬さとされている。すなわち、第3実施形態の第1コアシャフト10Bにおいても、第2コアシャフト30が接合される先端部11Bにおける、超弾性材料の超弾性特性を消失又は低減できる。
【0062】
このように、第1コアシャフト10Bの先端部11Bは、スエージング加工又は絞り加工によって、横断面形状は略真円形状を有し、先端部11Bのナノインデンテーション硬さを大きくしてもよい。この場合、第1縮径部12をスエージング加工又は絞り加工により先端に向けて縮径させ、先端部11Bを形成しても良い。このような第3実施形態のガイドワイヤ1Bによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第3実施形態のガイドワイヤ1Bによれば、第1縮径部12は基端側から先端側に向かって加工率が高くなるため、先端部11Bでの破断伸びは漸次小さく、またナノインデンテーション硬さは漸次大きくなる。
【0063】
<第4実施形態>
図13は、第4実施形態の第1コアシャフト10Cの先端側の構成を例示した説明図である。第4実施形態のガイドワイヤ1Cは、第1実施形態の第1コアシャフト10に代えて、第1コアシャフト10Cを備えている。第1コアシャフト10Cは、先端部に徐変部121が形成された第1縮径部12Cを備えている。徐変部121では、基端側から先端側に向かって、ナノインデンテーション硬さが徐々に大きくなる。徐変部121の基端側の部分P1と、中央部分P2と、先端側の部分P3と、先端部11と、の各ナノインデンテーション硬さを比較すると、基端側の部分P1<中央部分P2<先端側の部分P3<先端部11となる。徐変部121は、第1コアシャフト10aをプレス加工する際に、第1縮径部12の先端部が治具の端部に挟まれることにより形成される。なお、徐変部12
1は、端部にRの付与された治具を用いて形成されてもよい。
【0064】
このように、第1コアシャフト10Cの構成は種々の変更が可能であり、徐変部121が形成された第1縮径部12Cを備えていてもよい。徐変部121が形成される範囲(軸線O方向の長さ)は任意に決定でき、図13で説明した先端側の一部分ではなく、第1縮径部12Cの全体が徐変部121とされてもよい。このような第4実施形態のガイドワイヤ1Cによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第4実施形態のガイドワイヤ1Cによれば、第1縮径部12Cの先端部には、基端側から先端側に向かってナノインデンテーション硬さが徐々に大きくなる徐変部121が設けられている。このため、徐変部121において第1コアシャフト10Cの超弾性特性を徐々に低減できる。
【0065】
<第5実施形態>
図14は、第5実施形態のガイドワイヤ1Dの先端側の構成を例示した説明図である。第5実施形態のガイドワイヤ1Dは、被覆部40を備えている。先端側固定部51Dは、第2コアシャフト30の先端部31と、コイル体20の先端部、及び被覆部40とを一体的に保持している。
【0066】
被覆部40は、1本の素線を用いて形成された単条コイル、又は複数本(例えば8本)の素線を多条巻きにした多条コイルであってもよく、チューブ状に形成された樹脂や金属からなる管状部材であってもよい。
【0067】
<第6実施形態>
図15は、第6実施形態のガイドワイヤ1Eの先端側の構成を例示した説明図である。第6実施形態のガイドワイヤ1Eは、第1実施形態で説明した第1コアシャフト10に代えて第1コアシャフト10Eを備え、第2コアシャフト30に代えて第2コアシャフト30Eを備え、さらに第5実施形態で説明した被覆部40を備えている。
【0068】
第1コアシャフト10Eは、第1実施形態で説明した先端部11、第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、及び第2太径部17を備えておらず、軸線O方向の全体が略一定の外径を有する略円柱形状である。第1コアシャフト10Eのうち、第2コアシャフト30Eが接合されている先端部は、先端部よりも基端側の部分と比較して、ナノインデンテーション硬さが大きく、破断までのひずみ量は小さい。第1コアシャフト10Eの先端部のナノインデンテーション硬さ及び破断までのひずみ量の調整は、例えば、上述したプレス加工により実施できる。第2コアシャフト30Eは、第1実施形態で説明した先端部31、中間部32、及び基端部33を備えておらず、軸線O方向の全体が略一定の外径を有する略円柱形状である。
【0069】
このように、第1コアシャフト10Eと、第2コアシャフト30Eとの少なくとも一方の構成は種々の変更が可能であり、上述した各部(先端部11、第1縮径部12、第1太径部15、第2縮径部16、第2太径部17、先端部31、中間部32、及び基端部33)のうちの少なくとも一部が省略されていてもよい。このような第6実施形態のガイドワイヤ1Eによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0070】
<第7実施形態>
図16は、第7実施形態のガイドワイヤ1Fの先端側の横断面図である。第7実施形態のガイドワイヤ1Fは、第3実施形態の第2コアシャフト30に代えて、第2コアシャフト30Fを備えている。第2コアシャフト30Fは、略正方形状の横断面を有する基端部33Fを備えている。基端部33Fは、第1コアシャフト10Bよりも塑性変形しやすい材料により形成された第2コアシャフト30aの基端部33aを、Z軸方向と、Y軸方向との両方からプレス加工することで形成されている。
【0071】
このように、第2コアシャフト30Fの構成は種々の変更が可能であり、先端部31、中間部32、及び基端部33Fの少なくとも一部は、略正方形状や、略長方形状のように、略多角形状の横断面を有していてもよい。このような第7実施形態のガイドワイヤ1Fによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第7実施形態のガイドワイヤ1Fによれば、第1コアシャフト10Bと第2コアシャフト30Fとの隣接部分の面積をより広くできるため、第1コアシャフト10Bと第2コアシャフト30Fとの接合強度を向上できる。
【0072】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0073】
[変形例1]
上記第1~7実施形態では、ガイドワイヤ1,1A~1Fの構成を例示した。しかし、ガイドワイヤの構成は種々の変更が可能である。例えば、上記各実施形態のガイドワイヤは、血管にカテーテルを挿入する際に使用される医療器具として説明したが、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官等、人体内の各器官に挿入されるガイドワイヤとして構成することもできる。例えば、ガイドワイヤは、第2縮径部及び第2太径部を備えず、第1コアシャフトの全体がコイル体に覆われた構成であってもよい。例えば、ガイドワイヤは、先端側が予め湾曲された状態で製品化されてもよい。
【0074】
[変形例2]
上記第1~7実施形態では、第1コアシャフト10,10A~10C,10Eの構成と、第2コアシャフト30,30E,30Fの構成とを例示した。しかし、第1コアシャフト及び第2コアシャフトの構成は種々の変更が可能である。例えば、第1コアシャフトの先端部のナノインデンテーション硬さは、先端部よりも基端側の部分におけるナノインデンテーション硬さの1倍以上、かつ、1.1倍未満であってもよい。この構成によっても、ナノインデンテーション硬さの相違によって、第1コアシャフトの先端部の超弾性特性を低減できるため、ガイドワイヤに負荷が加えられた際に生じる接合部の剥離破壊を抑制できる。また、例えば、第1コアシャフトの先端部のナノインデンテーション硬さは、4500N/mmよりも小さくてもよい。
【0075】
例えば、第1コアシャフトの先端部は、第1縮径部と同様に略円錐台形状であってもよい。例えば、第1コアシャフトの先端部には、プレス加工が施されていてもよい。例えば、第1コアシャフトは、ナノインデンテーション硬さの異なる複数の部材が接合されることにより形成されていてもよい。この場合、第1コアシャフトの先端部に対するプレス加工は省略してもよい。
【0076】
例えば、第2コアシャフトの基端部は、一方向(例えばZ軸方向)にのみプレス加工され、第1実施形態の第1コアシャフトの先端部と同様に、略楕円形状の横断面を有していてもよい。例えば、接合部JP(図3等)において、第1コアシャフトと第2コアシャフトとは、図3等で説明したZ軸方向ではなく、Y軸方向に隣接して配置されていてもよい。例えば、接合部JP(図3等)において、第1コアシャフトと第2コアシャフトの配置は逆にしてもよい。
【0077】
[変形例3]
上記第1~7実施形態では、コイル体20の構成の一例を示した。しかし、コイル体の構成は種々の変更が可能である。例えば、コイル体は、隣接する素線の間に隙間を有さない密巻きに構成されてもよく、隣接する素線の間に隙間を有する疎巻きに形成されてもよく、密巻きと疎巻きとが混合された構成であってもよい。また、コイル体は、例えば、疎水性を有する樹脂材料、親水性を有する樹脂材料、またはこれらの混合物によってコーティングされた樹脂層を備えていてもよい。例えば、コイル体の素線の横断面形状は、略円形でなくてもよい。
【0078】
[変形例4]
上記第1~7実施形態のガイドワイヤ1,1A~1Fの構成、及び上記変形例1~3のガイドワイヤの構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第7実施形態で説明した第2コアシャフト(略多角形状の横断面を有する例)と、第2,3,4実施形態で説明した第1コアシャフトとを組み合わせてガイドワイヤを構成してもよい。例えば、第6実施形態で説明した第2コアシャフト(先端部、中間部、基端部を有さない例)と、第1,2,3,4実施形態で説明した第1コアシャフトとを組み合わせてガイドワイヤを構成してもよい。例えば、第6実施形態で説明した第1コアシャフト(先端部、第1縮径部、第1太径部、第2縮径部、第2太径部を有さない例)と、第1,7実施形態で説明した第2コアシャフトとを組み合わせてガイドワイヤを構成してもよい。
【0079】
上記第1~7実施形態では、基端側端部まで第1コアシャフト10が配置されているが、第1コアシャフト10の基端側にSUS等からなる第3コアシャフトを有しても良い。かかる構成の場合、第1コアシャフト10の先端部11、11A、11Bのナノインデンテーション硬さおよび破断までのひずみ量は、第1コアシャフト10が配置される範囲において比較されることが必要である。
【0080】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0081】
1,1A~1F…ガイドワイヤ
10,10A~10C,10E…第1コアシャフト
11,11A,11B…先端部
12,12C…第1縮径部
15…第1太径部
16…第2縮径部
17…第2太径部
20…コイル体
21…素線
30,30E,30F…第2コアシャフト
31…先端部
32…中間部
33,33F…基端部
40…被覆部
51,51D…先端側固定部
52…基端側固定部
61…中間固定部
90…接合剤
111,112,113,114…先端部
121…徐変部
201…第1チャック
202…第2チャック
301,302…ロウ剤
401…台座
402…UV硬化型接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図16