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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】固体化レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/28 20060101AFI20230427BHJP
   G01S 13/10 20060101ALI20230427BHJP
   G01S 13/89 20060101ALI20230427BHJP
   G01S 7/12 20060101ALI20230427BHJP
   G01S 13/937 20200101ALI20230427BHJP
   G01S 13/95 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
G01S13/28 200
G01S13/10
G01S13/89
G01S7/12
G01S13/937
G01S13/95
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021558235
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039706
(87)【国際公開番号】W WO2021100402
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019210456
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】城本 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】森垣 亮祐
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125400(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/042134(WO,A1)
【文献】特開2016-206152(JP,A)
【文献】特開2010-133868(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0252606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項12】
前記無変調信号及ぴ前記パルス圧縮信号のいずれか一方に基づいて、第2エコ一画像を生成する第2エコ一画像生成部を更に備え、
前記波浪解析部は、前記第2エコ一画像の一部領域の解析により前記解析結果を算出する、
請求項1又は請求項2に記載の固体化レ一ダ装置。
【請求項15】
周波数が互いに異なるパルス信号である変調信号及び無変調信号を含む電波信号を送受信する処理と、受信した前記電波信号から前記周波数に基づいて前記変調信号及び前記無変調信号をそれぞれ抽出する処理と、前記変調信号をパルス圧縮したパルス圧縮信号を生成する処理と、前記無変調信号及び前記パルス圧縮信号に基づいて、第1エコー画像を生成する処理と、前記無変調信号及び前記パルス圧縮信号のいずれか一方に基づいて、波浪情報の解析結果を算出する処理と、前記第1エコー画像及び前記解析結果の表示信号を生成する処理とを固体化レーダ装置に実行させる、固体化レーダ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体化レーダ装置、並びに、そのレーダ制御方法、及びレーダ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自船周辺の監視に用いられる船舶用のレーダは、送信素子にマグネトロン素子を用いたマグネトロンレーダが主流である。
【0003】
マグネトロンレーダに対して、比較的近年に開発が始まった固体化レーダは、送信素子に半導体を用いており、狭帯域化や、小型化、メンテナンスフリーの利点を有する。しかし、固体化レーダの送信尖頭電力は、送信素子の特性上、マグネトロンレーダの送信尖頭電力と比較して極端に低い。そのため、遠方の物標の観測を行うために、固体化レーダは、周波数変調したパルス状の信号(チャープパルス信号)を送信し、物標からの反射波をパルス圧縮してS/N比を改善する必要がある。
【0004】
また、船舶用のレーダは、自船周辺の監視用途以外に自船周辺の波浪観測にも用いられており、当該波浪観測用として波浪レーダと呼称される。波浪レーダは、自船周辺の海面から返ってきた送信信号の反射波を解析し、波浪の波高や、周期、波長、波向等の波浪情報を出力する。また、波浪レーダは、マグネトロンレーダにより開発が行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】先WO2017-179344
【文献】特WO2014-125958
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マグネトロンレーダにおいて、遠方を監視する場合、送信信号は、遠距離観測用の長いパルス幅から成る無変調信号(ロングパルス)に設定される。一方、自船近傍の波浪を観測する場合、送信信号は、短い波長の波に対する十分な分解能を得るため、近距離から中距離観測用の短いパルス幅の無変調信号(ショートパルス又はミドルパルス)に設定される場合が多い。そのため、ショートパルス又はミドルパルスを送信信号に用いて波浪観測及び周辺監視を同時に行う場合、マグネトロンレーダは、遠方の物標を観測できないため、周辺監視の用途を十分に果たせない。
【0007】
以上の理由から、波浪観測中に遠方を含む周辺監視を行うユーザーは、波浪観測用のレーダと物標の観測用のレーダを別々に備える必要があった。
【0008】
本発明は、上述の課題を克服するためになされたもので、波浪観測用及び遠方を含む周辺監視用の機能を同時に果たすことができる固体化レーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明における固体化レーダ装置は、周波数が互いに異なるパルス信号である変調信号及び無変調信号を含む電波信号を送受信する送受信部と、受信した電波信号から周波数に基づいて変調信号及び無変調信号をそれぞれ抽出する周波数フィルタ部と、変調信号をパルス圧縮したパルス圧縮信号を生成するパルス圧縮部と、無変調信号及びパルス圧縮信号に基づいて、第1エコー画像を生成する第1エコー画像生成部と、無変調信号及びパルス圧縮信号のいずれか一方に基づいて、波浪情報の解析結果を算出する波浪解析部と、第1エコー画像及び解析結果の表示信号を生成する表示信号生成部と、を備える。
【0010】
また、方位毎の第1エコー画像が生成される周期に対して、解析結果が算出される周期は長くてもよい。
【0011】
また、送受信部は、更に回転するアンテナを備え、波浪解析部は、アンテナの1回転に対応する第1エコー画像から成るスキャン画像の解析により解析結果を算出してもよい。
【0012】
また、第1エコー画像は、送信位置からの距離に応じた複数の区域に分けられ、区域が無変調信号及びパルス圧縮信号の少なくともいずれか一方に基づいた画像から構成されおり、波浪解析部は、区域のうち、無変調信号及びパルス圧縮信号のいずれか一方で構成された区域を解析してもよい。
【0013】
また、区域のうち少なくともいずれか一つが、無変調信号及びパルス圧縮信号を送受信部からの距離に応じて構成比率を変更した合成の画像から構成されてもよい。
【0014】
また、表示信号生成部は、第1エコー画像及び解析結果が同一の画面内に同時に表示される表示信号を生成してもよい。
【0015】
また、表示信号生成部は、解析結果の少なくとも一部の情報を前記第1エコー画像に重畳した表示信号を生成してもよい。
【0016】
また、表示信号生成部は、波浪情報を解析する領域である解析領域を第1エコー画像に重畳した表示信号を生成してもよい。
【0017】
また、ユーザーからの解析領域の数、位置及び大きさの少なくともいずれか一つの変更の入力を受け付ける解析領域入力部を更に備えてもよい。
【0018】
また、自船の船首方位を算出する船首方位取得部を更に備え、解析結果は、波向の情報を含み、表示信号生成部は、波向及び船首方位との相対角度を示す表示信号を生成してもよい。
【0019】
また、表示信号生成部は、解析結果に基づいて波の映像の表示信号を生成してもよい。
【0020】
また、無変調信号及びパルス圧縮信号のいずれか一方に基づいて、第2エコー画像を生成する第2エコー画像生成部を更に備え、波浪解析部は、第2エコー画像の一部領域の解析により解析結果を算出してもよい。
【0021】
また、送受信部は、回転するアンテナを更に備え、波浪解析部は、アンテナの1回転に対応する第2エコー画像から成るスキャン画像の解析により解析結果を算出してもよい。
【0022】
このような構成により、固体化レーダ装置は、周波数の異なる電波信号を送信し、反射波からそれぞれを分離して処理することで、波浪観測用と監視用の用途を同時に果たすことが可能となる。
【0023】
本発明によれば、一台の固体化レーダ装置で、波浪観測用及び遠方を含む監視用の機能を同時に果たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る固体化レーダ装置の全体構成を示すブロック図。
図2】本発明の実施の形態に係る送信部の詳細を表すブロック図。
図3】本発明の実施の形態に係る周波数フィルタ部の構成を表すブロック図。
図4】無変調信号とパルス圧縮信号から構成される区分を持つ1スキャン分のエコー画像を模式的に表した図。
図5】(A)マグネトロンレーダにおける送信信号の態様を表す図。(B)本発明の実施の形態に係る送信信号の態様を表す図。
図6】本発明の実施の形態に係るフローチャートの図。
図7】無変調信号とパルス圧縮信号の合成からなる区分を持つ1スキャン分のエコー画像を模式的に表した図。
図8】本発明の実施の形態に係る波浪の解析結果とエコー画像を同一画面に表示した図。
図9】本発明の実施の形態に係る送信信号の変形態様を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る固体化レーダ装置について図を参照して説明する。本実施形態における固体化レーダ装置は、商船、漁船やプレジャーボート等の舶用レーダとして使用される。
【0026】
<基本構成と基本動作>
以下において、本発明の基本構成と基本動作を説明する。図1は、本実施形態の固体化レーダ装置101の構成を示す図である。
【0027】
図2は、送受信部10の構成である。送受信部10は、アンテナ11、サーキュレータ12、送信部13及び受信部14等から構成される。
【0028】
送信部13は、周波数変調されたパルス信号である変調信号と、無変調のパルス信号である無変調信号を送信信号として交互に生成し、当該送信信号をサーキュレータ12へ出力する。この際、送信部13は、変調信号と無変調信号を互いに周波数帯域が重ならないように異なる周波数の送信信号として生成する。また、図には示されていないが、送信部13は、変調信号に係る送信信号の一部をパルス圧縮部30へ出力する。
【0029】
サーキュレータ12は、送信部13からの送信信号をアンテナ11へ送り、アンテナ11から受信した受信信号を受信部14へ出力する。
【0030】
アンテナ11は、パッチアンテナ等を一列に並べて構成され、回転することで固体化レーダ装置の101の設置面に対する平行面の全方位(360度)に送受信面を向けることができる。アンテナ11は、回転しながら様々な方位の外部の空間に対して送信信号を放射する。送信された送信信号の一部は、海面及び海上に存在する物体等の反射体により反射される。そして、アンテナ11は、回転しながら反射された送信信号の一部を受信信号として受信する。
【0031】
受信部14は、受信信号をダブルスーパーヘテロダイン方式により検波し、アンプにより増幅した後、A/D変換器によりアナログ信号をデジタル信号へ変換する受信処理を行う。
【0032】
図3は、周波数フィルタ部20の構成である。周波数フィルタ部20は、変調信号と無変調信号を周波数に基づいて分離する二つのバンドパスフィルタ(BPF:Band-Pass-Filter)から構成される。
【0033】
受信部14において受信処理された受信信号は、それぞれBPF21及びBPF22へ出力される。BPF21は、変調信号と無変調信号のうち、周波数の低い一方を抽出し、BPF22は、周波数の高いもう一方を抽出する。ここで、それぞれBPF21及びBPF22が、変調信号及び無変調信号のうちどちらを抽出するかは、変調信号及び無変調信号の周波数の設定に依存する。なお、二つのバンドパスフィルタは、変調信号及び無変調信号を分離できればよく、ローパスフィルタ(LPF:Low-pass filter)及びハイパスフィルタ(HPF:High-pass filter)から構成されてもよい。
【0034】
一方のバンドパスフィルタによって抽出された変調信号は、パルス圧縮部30へ出力される。もう一方のバンドパスフィルタによって抽出された無変調信号は、第1エコー画像生成部40へ出力される。
【0035】
パルス圧縮部30は、パルス圧縮処理により変調信号をパルス圧縮信号に変換し、第1エコー画像生成部40へ出力する。ここで、パルス圧縮処理は、従来から知られた処理で良く、例えば、整合フィルタ方式がある。
【0036】
第1エコー画像生成部40は、スイープデータに基づいて、第1エコー画像としてスイープ画像を生成し、波浪解析部50及び表示信号生成部60へ出力する。ここで、スイープデータは、連続した送信パルスに対応する無変調信号及びパルス圧縮信号から生成される特定方向の信号データである。また、スイープ画像は、自船70から一定の距離までを無変調信号、これより遠方をパルス圧縮信号のスイープデータに基づいてピクセル化し、方位方向が1ピクセルであり、距離方向が所定数のピクセルとなる画像である。
【0037】
波浪解析部50は、一回のスキャン分に相当する複数のスイープ画像から一つの極座標系の画像を生成する。そして、波浪解析部50は、極座標系の画像を自船70が中心となるデカルト座標系の画像である一つのスキャン画像に変換する。ここで、スキャンは、電波信号の送受信を行いながらアンテナを360度回転させる動作をいう。なお、電波信号は、変調信号または無変調信号である送信信号や受信信号、送信信号の反射波等の総称である。
【0038】
次に、波浪解析部50は、時間的に連続した複数のスキャン画像の無変調信号又はパルス圧縮信号によって生成された区域の領域中から、同一のピクセルサイズの一部領域である解析領域71を設定する。ここで、図4は、一つのスキャン画像における無変調信号から成る領域中に解析領域71を設定した例である。解析領域71の位置に対応する複数の画像の強度情報は、三次元の行列として扱われる。そして、波浪解析部50は、当該三次元の行列をフーリエ変換した結果に基づいて、波高、周期、波長及び向き等の波浪情報を解析結果として算出し、表示信号生成部60へ出力する。なお、本態様において、解析結果が算出される周期は、スイープ画像の生成の周期に対して長くなる。
【0039】
表示信号生成部60では、スイープ画像及び波浪の解析結果を含む画面の表示信号を生成する。なお、固体化レーダ装置101は、表示信号生成部60が生成した表示信号を表示する表示部を更に備えても良い。
【0040】
次に、基本構成における作用効果を説明する。
【0041】
<マグネトロンレーダと固体化レーダの送受信処理の差異>
マグネトロンレーダの送信部は、マグネトロン素子を有しており、固体化レーダの固体化素子に対して高い尖頭電力のパルス信号を送信できる。一方、固体化レーダの送信部は、固体化素子の特性上、送信信号の尖頭電力が低いため、マグネトロンレーダと同等の電力を持つパルス信号を送信できない。そのため、固体化レーダは、マグネトロンレーダと同じパルス幅では探知距離を確保できない。そこで、固体化レーダの送信部は、時間的に長い周波数変調したパルス信号(変調信号)を送信し、受信時にパルス圧縮処理を施すことでS/N比を担保し、探知距離を確保している。
【0042】
ここで、固体化レーダは、変調信号を送信中、送信信号の一部が受信部14へ漏洩するため、変調信号の送信中に変調信号の反射波を受信できない。固体化レーダの変調信号は、パルス圧縮処理によるS/N比改善を前提としているため、マグネトロンレーダの送信信号に比べて長い。そのため、変調信号を受信できない時間は、比較的長く、自船近傍の物標を観測できない時間となる。以降、この変調信号の反射波を受信できない領域を不感領域と呼ぶ。例えば、変調信号のパルス幅が約10μ秒の場合、不感領域は、自船から半径約1500mの範囲となる。
【0043】
ここで、不感領域は、自船70からの距離が短く、電波信号が送信部から物標との往復時に比較的減衰しない。そのため、固体化レーダは、平均電力が低くパルス幅の短い無変調信号を送信し、当該受信信号に基づいて不感領域のエコー画像を生成することで、変調信号の不感領域を補間している。
【0044】
上述より、固体化レーダは、送信信号に変調信号及び無変調信号の両方を使用することにより、自船の近傍から遠方の物標を観測できる。
【0045】
<本構成のメリット>
マグネトロンレーダは、マグネトロン素子の特性上、送信信号の周波数を適宜調整することが困難である。一方、固体化レーダは、変調信号と無変調信号の送信信号をそれぞれ異なる周波数に設定できるため、それぞれの受信信号をバンドパスフィルタにより容易に分離することができる。
【0046】
ここで、仮に、マグネトロンレーダがショートパルスとロングパルスを交互に送信する場合、当該マグネトロンレーダは、波浪解析用と周辺監視用の兼用レーダになり得る。より詳細には、図5(A)に示すように、マグネトロンレーダは、ショートパルスの受信信号に基づいて波浪を解析し、ロングパルスの受信信号に基づいて、遠方のエコー画像を生成できる。
【0047】
マグネトロンレーダは、送信信号が受信側に漏洩することにより、一方の送信中にもう一方の信号を受信できない。そのため、上述のマグネトロンレーダの兼用態様において、送信部は、それぞれの送信パルスの受信時間を個別に確保するために、各送信パルスの繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)を下げる必要がある。しかし、PRFの低下は、ショートパルスとロングパルスのそれぞれの方位分解能を下げることとなり、またターゲットのヒット数も下がるため、特に遠方の物標の探知能力の低下を招く。
【0048】
一方、固体化レーダは、送信信号の周波数の変更が容易であるため、異なる周波数の変調信号と無変調信号を連続して送信することができる。そのため、図5(B)に示すように、固体化レーダは、変調信号と無変調信号の受信信号をバンドパスフィルタで分離することで、送信信号の漏洩を気にすることなく他方の送信中にもう一方を受信できる。よって、固体化レーダは、送信信号のPRFを下げる必要がない。
【0049】
ここで、本形態において波浪解析部50は、第1エコー画像生成部40において生成した第1エコー画像から成る画像の一部の領域を解析することで解析結果を算出する。そのため、送信部10は、自船近傍の波浪の解析に用いる送信信号と、自船周辺の画像としての表示信号の生成に用いる送信信号とを別々に送信する必要が無い。よって、波浪情報の解析を行う本形態においても、固体化レーダは、送信信号のPRFを下げる必要がない。
【0050】
波浪解析部50は、第1エコー画像における無変調信号及びパルス圧縮信号のいずれか一方で構成される区域において波浪情報を解析する。波浪解析部50は、無変調信号及びパルス圧縮信号のそれぞれの信号から構成される部分を重複して含まないように解析領域71を設定することで、波浪の解析用に別のエコー画像を生成せずとも波浪情報の解析が可能となる。無変調信号及びパルス圧縮信号は、パルスの性質が異なり、それぞれから成るエコー画像の性質も異なるためである。なお、無変調信号のパルス幅を波浪情報の解析にとって十分に短いパルス幅に設定することで、波浪情報の解析結果は、精度の高い結果となる。
【0051】
本発明の実施形態におけるフローチャート図6を説明する。
【0052】
送受信部10は、変調信号と無変調信号の送信信号を生成する(ステップS1)。次に、送受信部10は、生成した送信信号をサーキュレータ12及び回転するアンテナ11を介して外部の空間に放射する送信処理を行う(ステップS2)。次に、送受信部10は、送信信号が反射体から反射して返ってきた反射波を、アンテナ11を介して受信し、受信処理を行う(ステップS3)。
【0053】
周波数フィルタ部20は、バンドパスフィルタを用いて受信信号から変調信号と無変調信号をそれぞれ抽出する(ステップS4)。周波数フィルタ部20は、受信信号のうち変調信号をパルス圧縮部30へ出力する(ステップS5)。周波数フィルタ部20は、受信号が変調信号でなければ、即ち無変調信号であれば、当該受信信号を第1エコー画像生成部40へ入力する(ステップS5)。パルス圧縮部30は、変調信号をパルス圧縮処理し、第1エコー画像生成部40へ出力する(ステップS6)。
【0054】
第1エコー画像生成部40は、変調信号及び無変調信号のスイープデータに基づいてエコー画像を生成する(ステップS7)。そして、波浪解析部50において第1エコー画像を使用する場合、第1エコー画像生成部40は、波浪解析部50へ第1エコー画像を出力する(ステップS8)。また、波浪解析部50において第1エコー画像を使用しない場合、第2エコー画像生成部41は、第2エコー画像を生成し、波浪解析部50へ出力する(ステップS9)。
【0055】
波浪解析部50は、無変調信号及びパルス圧縮信号の少なくともいずれか一方に基づいて波浪情報の解析を行い、波高、周期、波長、向き等の波浪の解析結果を表示信号生成部60へ出力する(ステップS10)。
【0056】
表示信号生成部60は、前述した波浪の解析結果と第1エコー画像を表示する表示信号を生成する(ステップS11)。
【0057】
次に、各種の詳細の実施態様について説明する。
【0058】
<エコー画像の区域>
第1エコー画像生成部40は、第1エコー画像を生成する際に、距離方向に対して複数の区域に分けて生成できる。図4において、自船近傍の区域は、無変調信号で構成され、自船遠方の区域は、パルス圧縮信号により構成される。そして、波浪解析部50は、当該区域のうち自船近傍の無変調信号で構成された区域の中に解析領域71を設定し、波浪情報を解析する。
【0059】
図7中の合成による区域において、第1エコー画像生成部40は、複数に分けた区域のうち、無変調信号とパルス圧縮信号の各々から構成された区域の間に、無変調信号とパルス圧縮信号の合成により構成された区域を有する第1エコー画像を生成する。当該合成の処理は、送受信部からの距離が大きくなるにつれて、無変調信号による構成比率を低くする処理である。これにより第1エコー画像は、二つの信号の区域の継ぎ目が目立たずシームレスな画像となる。
【0060】
<表示の態様>
図8における表示画面61は、第1エコー画像に基づく自船の周辺画像62を左側に配置し、解析結果の一部である波高、周期、波向の情報を右側の波浪情報エリア63内に配置し、周辺画像62及び波浪情報エリア63を同一の表示画面に同時に表示している。また、表示画面61は、第1エコー画像に基づく周辺画像62に解析領域71を重畳して表示している。更に、表示画面61は、周辺画像62上に解析結果の一部である波ベクトル73を表示している。なお、表示信号生成部60は、第1エコー画像と解析結果をそれぞれ異なる二つの表示画面に表示する二種類の表示信号を生成できる。
【0061】
図9における固体化レーダ装置102は、更に船首方位取得部80を備えている。船首方位取得部80は、自船の位置情報を取得するGPSセンサ又はジャイロコンパス等のセンサ情報から自船の船首方位を算出し、表示信号生成部60へ出力する。図8における表示画面61は、波浪解析結果の一部である波向及び自船の船首方位の相対角度72の情報を表示した画面である。
【0062】
波浪解析部50は、解析領域71の3次元行列をフーリエ変換し、解析結果の波の周波数に基づいて波以外の成分をフィルタリングにより除去した後、逆フーリエ変換することで、通常のエコーと比較して波の情報を際立たせた二次元の画像を波の映像として生成してもよい。波の映像は、見た目から波高、波長、波向等が一見して把握できるような3次元の映像であって、予め波の情報の数値と共に記憶されており、波浪解析部50は、解析結果に近い波の情報の数値を有する当該記憶された波の映像を抽出する方式であってもよい。そして、表示信号生成部60は、当該波浪の映像と第1エコー画像を重畳した表示信号を生成できる。
【0063】
<ユーザーインターフェース>
図9に示すように、固体化レーダ装置102は、更に解析領域入力部51を備えることができる。波浪解析部50は、ユーザーの入力に応じて解析領域71の位置、大きさ及び数を変更する。
【0064】
<クラッタ処理>
アンテナ11より送信された送信信号は、その一部が海面から反射され、その一部の反射波がアンテナ11により受信される。受信された反射波の強度は、海面に対する入射角度に依存するため、送受信部10から距離の近い方が強い。そのため、波浪情報は、自船近傍付近からの反射波に多く含まれる。
【0065】
ここで、レーダのエコー画像は、他船等の物標をより鮮明に映すために、いくつかの信号処理を施されることが一般的である。その一つとして、海面反射(シークラッタ)の抑制方法であるSTC(Sensitivity Time Control)処理がある。STC処理は、近距離からの強い反射波に対しては利得を下げて近くからの海面反射の影響を抑制することで、距離に寄らず一様な映像に変換する処理である。
【0066】
一方、波浪の解析に用いるレーダのエコー画像は、反射波に含まれる波浪情報を解析するため、一般的にSTC処理を施されない。シークラッタは、波浪解析部50における解析対象であり、波浪情報を減衰させる必要がないためである。
【0067】
そのため、第1エコー画像生成部は、表示用と同様のノイズの抑制処理等を施さない第1エコー画像を生成し、波浪解析部50へ出力してもよい。
【0068】
<波浪解析用エコー画像の生成>
図9において、固体化レーダ装置102は、第2エコー画像生成部41を更に備える。第2エコー生成部41は、第1エコー画像の代わりに波浪解析部50で用いる第2エコー画像を生成し、波浪解析部50へ出力する。第2エコー画像は、無変調信号及びパルス圧縮信号の少なくともいずれか一方から構成される。そして、波浪解析部50は、当該第2エコー画像の領域のうち無変調信号及びパルス圧縮信号のいずれか一方が構成する区域に解析領域71を設定し、波浪情報を解析する。このように、第2エコー画像生成部41は、第1エコー画像を構成する共通の受信信号を用いつつ、波浪情報の解析により適した第2エコー画像を生成することができる。なお、本文中に記載の第1エコー画像生成部40の有する処理について、第2エコー画像生成部41は、同等の処理が可能である。
【0069】
ここで、第2エコー画像生成部41は、無変調信号のみから第2エコー画像を生成できる。この場合、第2エコー画像が構成する全ての領域は、無変調信号により構成されるため、波浪解析部50は、通常、パルス圧縮信号から構成される区域に関係なく、解析領域71を設定できる。そのため、波浪解析部50は、エコーが映る範囲において遠方の波浪情報を解析できる。また、この場合、パルス圧縮部30は、パルス圧縮信号を第2エコー画像生成部へ出力しない構成にできる。
【0070】
<変形の態様>
[固体化レーダ装置の搭載の態様]
固体化レーダ装置は、構成を満たすものであれば、陸上に設置されるものであってもよい。
【0071】
[デジタル及びアナログの態様]
送受信部10における処理として説明した受信信号のA/D変換処理は、どの過程で行ってもよい。そのため、図1に係る周波数フィルタ部20及びパルス圧縮部10の各処理は、CPU(Central Processing Unit)により処理してもよいし、FPGA(Field-Programmable Gate Array)により行ってもよいし、アナログ回路により処理してもよい。
【0072】
[波浪解析の態様]
波浪解析の処理は、エコー画像から波浪情報の解析結果が算出できればよく、その方法は問わない。例えば、波浪解析部50は、時間的に連続するスキャン画像の相関を取って解析し、又はこれらのクロススペクトルを計算することによって波浪情報を解析し、解析結果を算出してもよい。
【0073】
<本文の解釈>
[構成の変形態様]
各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0074】
[語句の解釈]
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0075】
11 アンテナ
12 サーキュレータ
61 表示画面
62 エコー画像
63 波浪情報エリア
70 自船
71 解析領域
72 相対角度
73 波ベクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9