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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230428BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20230428BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20230428BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/85
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019046367
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2019208011
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018101835
(32)【優先日】2018-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】楠本 将平
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107369766(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106784324(CN,A)
【文献】国際公開第2017/170869(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0346031(US,A1)
【文献】特開2004-274006(JP,A)
【文献】GUPTA, Satyajit et al.,How SnF2 Impacts the Material Properties of Lead-Free Tin Perovskites,J. Phys. Chem. C,2018年01月30日,2018, 122, 25,pp.13926-13936,DOI:10.1021/acs.jpcc.8b01045
【文献】KUMAR, Mulmudi Hemant et al.,Lead-Free Halide Perovskite Solar Cells with High Photocurrents Realized Through Vacancy Modulation,Adv. Mater.,2014年09月11日,Volume26, Issue41,pp.7122-7127,DOI:10.1002/adma.201401991
【文献】XIAO, Min et al.,Tin-Based Perovskite with Improved Coverage and Crystallinity through Tin-Fluoride-Assisted Heterogeneous Nucleation,Adv. Optical Mater.,Volume6, Issue1, 1700615,2017年11月30日,pp.1-7,DOI:10.1002/adom.201700615
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
H10K 30/00-30/57
H10K 30/80-39/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池であって、
透光性を有する第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光吸収層、および
前記第1電極および前記光吸収層の間に位置する中間層
を具備し、
ここで、
前記光吸収層は、フッ素化合物および組成式ASnX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記中間層は、金属酸化物、金属硫化物、金属カルコゲナイドおよび金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記中間層の上面は前記光吸収層の下面に接しており
前記中間層が多孔質体から形成され、
前記多孔質体の内部に前記ペロブスカイト化合物が含有されており、
前記光吸収層および前記中間層の間の界面から、前記界面より前記中間層側に10nm離れた位置までの区間において、前記ペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比が49%以上75%以下である、
太陽電池。
【請求項2】
太陽電池であって、
透光性を有する第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光吸収層、および
前記第1電極および前記光吸収層の間に位置する中間層
を具備し、
ここで、
前記光吸収層は、フッ素化合物および組成式ASnX 3 (ここで、Aは1価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記中間層は、金属酸化物、金属硫化物、金属カルコゲナイドおよび金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記中間層の上面は前記光吸収層の下面に接しており、
前記中間層が多孔質体から形成され、
前記多孔質体の内部に前記ペロブスカイト化合物が含有されており、
前記光吸収層および前記中間層の間の界面近傍において、前記ペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比が49%以上75%以下である、
太陽電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の太陽電池であって、
前記多孔質体の内部に前記フッ素化合物がさらに含有されている、
太陽電池。
【請求項4】
請求項1または2に記載の太陽電池であって、
前記中間層が電子輸送層として機能する、
太陽電池。
【請求項5】
請求項1または2に記載の太陽電池であって、
前記モル比が50.2%以上66.3%以下である、
太陽電池。
【請求項6】
請求項1または2に記載の太陽電池であって、
前記フッ素化合物がSnF2である、
太陽電池。
【請求項7】
請求項1または2に記載の太陽電池であって、さらに
前記第2電極および前記光吸収層の間に位置する正孔輸送層
を具備する、
太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池が研究および開発されている。ペロブスカイト太陽電池では、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、Bは2価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物が光吸収材料として用いられている。
【0003】
非特許文献1には、ペロブスカイト太陽電池の光吸収材料として、CsSnI3で示されるペロブスカイト化合物を用いること、電子輸送材料としてTiO2を用いること、および、正孔輸送材料としてSpiro-OMETADと呼ばれる有機半導体を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mulmudi Hemant Kumar、外12名、「Lead-free halide perovskite solar cells with high photocurrents realized through vacancy modulation」、Advanced Materials、(英国)、2014年11月、第26巻、第41号、p.7122-7127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、変換効率がさらに向上されたスズ系ペロブスカイト太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による太陽電池は、
透光性を有する第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光吸収層、および
前記第1電極および前記光吸収層の間に位置する中間層
を具備し、
ここで、
前記光吸収層は、フッ素化合物および組成式ASnX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記中間層は、金属酸化物、金属硫化物、金属カルコゲナイドおよび金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記中間層の上面は前記光吸収層の下面に接しており、かつ
前記光吸収層および前記中間層の間の界面において、前記ペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比が49%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、変換効率がさらに向上されたスズ系ペロブスカイト太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の第1実施形態による太陽電池の断面図を示す。
図2図2は、本開示の第2実施形態による太陽電池の断面図を示す。
図3図3は、深さd1を有する孔が光吸収層に形成された太陽電池の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<用語の定義>
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト化合物」とは、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、およびXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト結晶構造体およびそれに類似する結晶を有する構造体を意味する。
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト化合物」とは、スズを含有するペロブスカイト化合物を意味する。
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト太陽電池」とは、スズ系ペロブスカイト化合物を光吸収材料として含む太陽電池を意味する。
【0010】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による太陽電池100の断面図を示す。図1に示されるように、第1実施形態による太陽電池100は、第1電極2、第2電極4、光吸収層3、および中間層7を具備する。
【0012】
光吸収層3は、第1電極2および第2電極4の間に位置する。第1電極2は、光吸収層3が第1電極2および第2電極4の間に配置されるように、第2電極4と対向している。第1電極2は、透光性を有する。本明細書において、「電極が透光性を有する」とは、200ナノメートル以上2000ナノメートル以下の波長を有する光の10%以上が、いずれかの波長において電極を透過することを意味する。
【0013】
中間層7は、第1電極2および光吸収層3の間に位置する。
【0014】
図1に示される太陽電池100は、さらに基板1、電子輸送層5、および正孔輸送層6を具備している。太陽電池100は、基板1を具備しなくてもよい。電子輸送層5は、中間層7および光吸収層3の間に位置している。第2実施形態において説明されるように、中間層7は電子輸送層5を兼ねてもよい。正孔輸送層6は、光吸収層3および第2電極4の間に位置している。太陽電池100は、正孔輸送層6を具備しなくてもよい。
【0015】
第1電極2が透光性を有するため、光は、第1電極2を通って光吸収層3に到達する。
【0016】
(光吸収層3)
光吸収層3は、光吸収材料として、化学式ASnX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物を含有する。Aサイトに位置している1価のカチオンは、限定されない。1価のカチオンの例は、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。有機カチオンの例は、メチルアンモニウムカチオン(すなわち、CH3NH3 +)、ホルムアミジニウムカチオン(すなわち、NH2CHNH2 +)、フェネチルアンモニウムカチオン(すなわち、C65CH2CH2NH3 +)、またはグアニジニウムカチオン(すなわち、CH63 +)である。アルカリ金属カチオンの例は、セシウムカチオン(Cs+)である。Aサイトに位置している1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオンであることが望ましい。Aサイトに位置している1価のカチオンは、2種以上のカチオンから構成されていてもよい。Xサイトに位置しているハロゲンアニオンの例は、ヨウ化物イオンである。Xサイトに位置しているハロゲンアニオンは、2種以上のハロゲンイオンから構成されていてもよい。
【0017】
光吸収層3は、さらにフッ素化合物を含有する。フッ素化合物は、限定されない。フッ素化合物の例は、金属フッ化物である。金属フッ化物の例は、SnF2、SnF4、MgF、NaF、またはKFである。
【0018】
光吸収層3は、上述のとおり、化学式ASnX3で示されるペロブスカイト化合物およびフッ素化合物を含有する。「光吸収層3が、化学式ASnX3で示されるペロブスカイト化合物を含有する」とは、光吸収層3が化学式ASnX3で示されるペロブスカイト化合物を70質量%以上含むことである。例えば、光吸収層3は、ペロブスカイト化合物を80質量%以上含んでいてもよい。光吸収層3は、不純物を含み得る。光吸収層3は、化学式ASnX3で示されるペロブスカイト化合物およびフッ素化合物以外の化合物をさらに含んでいてもよい。
【0019】
光吸収層3の厚さは、例えば100nm以上10μm以下である。光吸収層3の厚さは、100nm以上1000nm以下であってもよい。光吸収層3の厚さは、光吸収層3の光吸収の大きさに依存し得る。光吸収層3は、溶液を用いた塗布法により形成され得る。
【0020】
(中間層7)
中間層7は、金属酸化物、金属硫化物、金属カルコゲナイド、または金属窒化物を含有する。
【0021】
金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。TiO2が望ましい。
【0022】
金属酸化物の他の例は、ペロブスカイト酸化物である。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。
【0023】
金属硫化物の例は、CdS、ZnS、In23、SnS、PbS、Mo2S、WS2、Sb23、Bi23、ZnCdS2、またはCu2Sである。
【0024】
金属カルコゲナイドの例は、CdSe、CsSe、In2Se3、WSe2、HgSe、SnSe、PbSe、またはCdTeである。用語「カルコゲナイド」は、本明細書では、セレン化物またはテルル化物を意味する。
【0025】
金属窒化物の例は、GaNまたはTaNである。
【0026】
中間層7の厚さは、0.01μm以上10μm以下であってもよく、0.1μm以上1μm以下であってもよい。中間層7の表面粗さは大きくてもよい。具体的には、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であってもよく、100以上であってもよい。なお、投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および嵩密度とから計算することができる。比表面積は、例えば窒素吸着法によって測定される。
【0027】
第1実施形態による太陽電池100では、光吸収層3および中間層7の間に界面3aが形成されている。より詳細には、光吸収層3の下面および中間層7の上面は互いに接している。これらの間に界面3aが形成されている。言うまでもないが、光吸収層3は、2つの主面(すなわち、上面および下面)を有する。光吸収層3の下面とは、中間層7に接する主面(すなわち、第1電極2に対向する主面)を意味する。同様に、中間層7もまた、2つの主面(すなわち、上面および下面)を有する。中間層7の上面とは、光吸収層3に接する主面(すなわち、第2電極4に対向する主面)を意味する。
【0028】
第1実施形態による太陽電池100では、界面3aでのペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比は、0.49以上という高い値である。
【0029】
モル比は、X線光電子分光法(以下、「XPS法」という)によって測定された測定結果から、以下の数式(1)に基づいて算出される。
モル比=(区間d2でのフッ素原子のモル数)/{(光吸収層3に含有されるペロブスカイト化合物に含まれるハロゲンアニオン(例えば、ヨウ化物イオン)のモル数)/3} (2)
【0030】
図3に示されるように、エッチングにより深さd1を有する孔3hが光吸収層3に形成され、次いでX線光電子分光測定装置を用いて、区間d2に含まれる元素の組成を測定する。区間d2は、孔3hの底b1および当該底b1よりも深く位置する位置b2の間の距離である。界面3aでのモル比を測定する場合には、深さd1は、光吸収層3の厚みにおおよそ等しい。区間d2の値は、X線光電子分光測定装置の性能に依存する。
【0031】
モル比を算出する詳細な方法については、後述される実施例も参照せよ。
【0032】
0.49以上という高いモル比は、界面3aでのスズの欠陥密度が低いことを意味する。そのため、第1実施形態の太陽電池100は、従来のペロブスカイト太陽電池に比べて、高い変換効率を有する。
【0033】
モル比は、0.75以下であってもよい。モル比は、0.502以上0.663以下であってもよい。このようなモル比を有する太陽電池は、従来のペロブスカイト太陽電池に比べて、より高い変換効率を有する。
【0034】
中間層7は、多孔質であってもよい。言い換えれば、中間層7は、多孔質体から形成されていてもよい。多孔質体の例は、上記金属酸化物、金属硫化物、または金属カルコゲナイドから形成される複数の粒子が互いに連なった多孔質体である。
【0035】
多孔質体から形成される中間層7に含まれる空孔は、第1電極2と接する部分から、電子輸送層5と接する部分まで繋がっている。光吸収層3の材料は中間層7に含まれる空孔に充填されている。言い換えれば、空孔は、化学式ASnX3で示されるペロブスカイト化合物およびフッ素化合物から選択される少なくとも1つにより充填されている。空孔は、ペロブスカイト化合物およびフッ素化合物の両者によって充填されていてもよい。第1電極2は電子輸送層5に接触しているため、電子は、直接、電子輸送層5から第1電極2に移動する。
【0036】
多孔質体から形成される中間層7によって光散乱が起こる。そのため、光吸収層3を通過する光の光路長が増加し得る。光路長の増加は、光吸収層3中で発生する電子および正孔の量を増加させ得る。
【0037】
中間層7は、光吸収層3の光吸収を阻害しない。中間層7は、光吸収層3から電子輸送層5への電子移動を阻害しない。
【0038】
(基板1)
基板1は、第1電極2、電子輸送層5、光吸収層3、および第2電極4を保持する。基板1は、透明な材料から形成され得る。基板1の例は、ガラス基板またはプラスチック基板である。プラスチック基板の例は、プラスチックフィルムである。第1電極2が十分な強度を有している場合、第1電極2が、電子輸送層5、光吸収層3、および第2電極4を保持するので、太陽電池100は、基板1を有しなくてもよい。
【0039】
(第1電極2および第2電極4)
第1電極2は、導電性および透光性を有する。第2電極4は、導電性を有する。第2電極4は、透光性をさらに有していてもよい。可視領域から近赤外領域の光が、第1電極2を通過する。可視領域から近赤外領域の光は、第2電極4を透過してもよい。
【0040】
第1電極2および第2電極4のそれぞれは、例えば、透明であり導電性を有する金属酸化物および金属窒化物のうち少なくとも1つを用いて形成される。
【0041】
金属酸化物の例は、
(i) リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化チタン、
(ii) 錫およびシリコンからなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化ガリウム、
(iii) インジウム-錫複合酸化物、
(iv) アンチモンおよびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化錫、または
(v) ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化亜鉛
である。
【0042】
2種以上の金属酸化物が組み合わせられて複合物として用いられ得る。
【0043】
金属窒化物の例は、シリコンおよび酸素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた窒化ガリウムである。2種以上の金属窒化物が組み合わせられて用いられ得る。
【0044】
金属酸化物および金属窒化物は組み合わせられて用いられ得る。
【0045】
第1電極2は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンとしては、例えば、線状、波線状、格子状、および多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンが挙げられる。第1電極2がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない材料として、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、およびこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0046】
太陽電池100が正孔輸送層6を有していない場合、第2電極4は、例えば、光吸収層3からの電子に対するブロック性を有する材料で形成されている。この場合、第2電極4は、光吸収層3とオーミック接触しない。光吸収層3からの電子に対するブロック性とは、光吸収層3で発生した正孔のみを通過させ、かつ電子を通過させない性質を意味する。このような性質を有する材料のフェルミエネルギーは、光吸収層3の伝導帯下端のエネルギーよりも低い。上記の材料のフェルミエネルギーは、光吸収層3のフェルミエネルギーよりも低くてもよい。このような材料の例は、白金、金、またはグラフェンのような炭素材料である。太陽電池100が正孔輸送層6を有している場合、第2電極4は、光吸収層3からの電子に対するブロック性を有していなくてもよい。
【0047】
光吸収層3からの電子に対するブロック性を有する材料は、透光性を有さないことがある。そのため、これらの材料から第2電極4が形成される場合、第2電極4は、第2電極4を光が通過するような上述のパターンを有する。
【0048】
第1電極2および第2電極4のそれぞれの光の透過率は、例えば50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。透過すべき光の波長は、光吸収層3の吸収波長に依存する。第1電極2および第2電極4のそれぞれの厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下である。
【0049】
(電子輸送層5)
電子輸送層5は、半導体を含有する緻密な層である。当該半導体は、3.0eV以上のバンドギャップを有する。電子輸送層5が、3.0eV以上のバンドギャップを有する半導体を含む場合、可視光および赤外光が光吸収層3に到達する。半導体の例は、有機または無機のn型半導体である。
【0050】
有機のn型半導体の例は、イミド化合物、キノン化合物、フラーレン、またはフラーレンの誘導体である。無機のn型半導体の例は、金属酸化物、金属窒化物、またはペロブスカイト酸化物である。金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。TiO2が望ましい。金属窒化物の例は、GaNである。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。
【0051】
電子輸送層5は、6.0eVよりも大きなバンドギャップを有する物質を含んでいてもよい。6.0eVよりも大きなバンドギャップを有する物質の例は、(i)フッ化リチウムまたはフッ化カルシウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物、(ii)酸化マグネシウムのようなアルカリ金属酸化物、または(iii)二酸化ケイ素である。この場合、電子輸送層5の電子輸送性を確保するために、電子輸送層5の厚みは、例えば、10nm以下である。
【0052】
電子輸送層5は、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでいてもよい。
【0053】
(正孔輸送層6)
正孔輸送層6は、有機物または無機半導体によって構成される。正孔輸送層6として用いられる代表的な有機物の例は、2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene(以下、「spiro-OMeTAD」という)、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](以下、「PTAA」という)、poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl(以下、「P3HT」という)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)(以下、「PEDOT」という)、または銅フタロシアニン(以下、「CuPC」という)である。
【0054】
無機半導体の例は、Cu2O、CuGaO2、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V25、または酸化グラフェンのようなカーボン材料である。
【0055】
正孔輸送層6は、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでいてもよい。
【0056】
正孔輸送層6の厚さは、1nm以上1000nm以下であってもよく、10nm以上500nm以下であってもよく、または10nm以上50nm以下であってもよい。正孔輸送層6の厚さが1nm以上1000nm以下であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。さらに、正孔輸送層6の厚さが1nm以上1000nm以下であれば、正孔輸送層6の抵抗が低いので、高効率に光が電気に変換される。
【0057】
正孔輸送層6は、支持電解質および溶媒を含有していてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層6中の正孔を安定化させる。
【0058】
支持電解質の例は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(以下、「LiTFSI」という)、LiPF6、LiBF4、過塩素酸リチウム、または四フッ化ホウ素カリウムである。
【0059】
正孔輸送層6に含有される溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。当該溶媒は、水系溶媒または有機溶媒であり得る。溶質の安定化の観点から、有機溶媒であることが望ましい。有機溶媒の例は、tert-ブチルピリジン、ピリジン、またはn-メチルピロリドンのような複素環化合物である。
【0060】
正孔輸送層6に含有される溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体は、単独でまたは他の溶媒と混合されて用いられ得る。イオン液体は、低い揮発性および高い難燃性の点で望ましい。
【0061】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、またはアゾニウムアミン化合物である。
【0062】
電子輸送層5の位置および正孔輸送層6の位置が入れ替わっていてもよい。
【0063】
(太陽電池100の基本的な作用効果)
次に、太陽電池100の基本的な作用効果を説明する。太陽電池100に光が照射されると、光吸収層3が光を吸収し、励起された電子および正孔を発生させる。励起された電子は、電子輸送層5に移動する。一方、光吸収層3で発生した正孔は、正孔輸送層6に移動する。前述のとおり、電子輸送層5および正孔輸送層6は、それぞれ、第1電極2および第2電極4に電気的に接続されているので、負極および正極としてそれぞれ機能する第1電極2および第2電極4から電流が取り出される。
【0064】
<本開示の基礎となった知見>
本開示の基礎となった知見が説明される。
理論的には、スズ系ペロブスカイト太陽電池は、高い変換効率を有する。しかし、スズ系ペロブスカイト化合物の欠陥密度が高いため、実際には、スズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率は低い。非特許文献1は、スズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率が低い理由が、スズ系ペロブスカイト化合物におけるスズの欠陥密度が高いからためであることを開示している。さらに、非特許文献1は、スズ系ペロブスカイト化合物におけるスズの欠陥密度を低減するために、ドーパントとしてフッ化スズを用いることを開示している。スズ系ペロブスカイト化合物の前駆体およびフッ化スズを含有する溶液を用いてスズ系ペロブスカイト化合物を調製すると、スズ系ペロブスカイト化合物におけるスズの欠陥密度が低減する。
【0065】
スズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率は、スズ系ペロブスカイト化合物を含有する光吸収層および当該光吸収層に隣接する層の間の界面でのスズの欠陥密度と密接に関係している。スズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率を上昇させるためには、この界面での欠陥密度を低減する必要がある。しかし、スズ系ペロブスカイト化合物の前駆体およびフッ化スズを含有する溶液を用いる方法で、光吸収層および当該光吸収層に隣接する層の間の界面でのスズの欠陥密度を低減することには限界がある。フッ化スズは絶縁体であるため、光吸収層におけるフッ化スズの濃度が高すぎると、フッ化スズが光吸収層中の電子または正孔の輸送を阻害するという問題もある。
【0066】
上述のとおり、光吸収層3および中間層7の間の界面3aでの欠陥密度をさらに低減させると、スズ系ペロブスカイト太陽電池の変換効率がさらに向上する。本開示においては、後述される実施例でも実証されているように、界面3aにおけるペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比が49%以上であるので、界面3aでの欠陥密度が低減されている。その結果、本開示による太陽電池100は、高い変換効率を有する。
【0067】
(太陽電池100の作製方法)
太陽電池100は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、基板1の表面に第1電極2を、化学気相蒸着法(以下、「CVD法」という)またはスパッタ法により形成する。次に、第1電極2の上に、電子輸送層5をスパッタ法により形成する。
【0068】
次に、電子輸送層5の上に中間層7が形成される。
【0069】
中間層7は、電子輸送層5の上に形成される。まず、金属酸化物、金属硫化物、または金属カルコゲナイドの粉末が分散媒に分散され、ペーストを調製する。分散媒の例は、エチルセルロースである。調製されたペーストは、塗布法によって電子輸送層5上に塗布され、次いで焼成されることにより、中間層7が形成される。
【0070】
多孔質体から形成される中間層7は、光吸収層3の形成を容易にする。光吸収層3の材料が、中間層7の空孔の内部にしみこむ。そのため、光吸収層3の材料が、多孔質体から形成される中間層7の表面で弾かれたり、または凝集したりする可能性が小さくなる。したがって、中間層7が、光吸収層3の足場となり、そして光吸収層3を均一な膜として形成することができる。光吸収層3は、溶液をスピンコート法にて中間層7上に塗布し、加熱することによって形成され得る。
【0071】
光吸収層3は、次の方法によって形成され得る。一例として、(HC(NH221-x(C65CH2CH2NH3xSnI3(ここで、0<x<1、以下、「FA1-xPEAxSnI3」と省略することがある)で示されるペロブスカイト化合物およびフッ素化合物を含有する光吸収層3の形成方法が説明される。
【0072】
まず、第1有機溶媒にフッ素化合物を添加し、第1溶液を得る。第1有機溶媒の例は、ブタノールのようなアルコール、ジエチルエーテルのようなエーテル、ラクトン、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)のようなアルキルスルホキシド、またはN,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)のようなアミドである。2種類以上の第1有機溶媒が混合されて用いられ得る。
【0073】
次に、中間層7の上に第1溶液をスピンコート法にて塗布し、塗布膜を形成する。ホットプレートのような加熱装置を用いて、形成された塗布膜を、摂氏75度以上摂氏85度以下の温度で、25分以上35時間以下の間、加熱する。これにより、フッ素化合物層が形成される。一部の第1溶液は多孔質体から形成される中間層7の内部にしみこむが、第1溶液は中間層7の上にも形成され、その後固化して中間層7の上面をカバーするフッ素化合物層となる。フッ素化合物層の厚さは、例えば、5ナノメートル以上15ナノメートル以下である。
【0074】
次に、第2有機溶媒に、SnI2、SnF2、HC(NH22I(以下、「FAI」という)、およびC65CH2CH2NH3I(以下、「PEAI」という)が添加され、第2溶液を得る。第2有機溶媒の例は、DMSOおよびDMFの混合液(DMSO:DMF=1:1(体積比))である。
【0075】
SnI2のモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、または0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。
【0076】
SnF2のモル濃度は、0.01mol/L以上1.0mol/L以下であってもよく、または0.01mol/L以上0.5mol/L以下であってもよい。
【0077】
FAIのモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、または0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。
【0078】
PEAIのモル濃度は、0.1mol/L以上0.3mol/L以下であってもよく、または0.1mol/L以上0.5mol/L以下であってもよい。
【0079】
次に、加熱装置を用いて、第2溶液が摂氏40度以上摂氏180度以下の温度に加熱される。これにより、SnI2、SnF2、FAIおよびPEAIが溶解した混合溶液を得る。続いて、得られた混合溶液は室温で放置される。
【0080】
フッ素化合物層の上に混合溶液をスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する。次いで、塗布膜を、摂氏40度以上摂氏100度以下の温度で、15分以上1時間以下の時間、加熱する。これにより、光吸収層3を得ることができる。スピンコート法にて混合溶液を塗布する場合には、スピンコート中に貧溶媒を滴下してもよい。貧溶媒の例は、トルエン、クロロベンゼン、またはジエチルエーテルである。フッ素化合物層に含まれるフッ素化合物(例えばSnF2)は、混合溶液に溶解または分散する。そのため、フッ素化合物層上に塗布された混合溶液中では、フッ素化合物の濃度勾配が形成される。その結果、光吸収層3の下部から上部に向かう方向に(すなわち、中間層7から第2電極4に向かう方向に)フッ素化合物の濃度が徐々に低下するように、光吸収層3においてフッ素化合物の濃度勾配が形成される。言い換えれば、光吸収層3の下部においてフッ素化合物の濃度は高く、一方で光吸収層3の上部においてフッ素化合物の濃度は低い。このようにして、界面3aにおいて、化学式ASnX3で示されるペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比が増加する。
【0081】
第2溶液は、フッ化スズのようなクエンチャー物質を含有していてもよい。クエンチャー物質の濃度は、0.05mol/L以上0.4mol/L以下の濃度であってもよい。クエンチャー物質は、光吸収層3内に欠陥が生成することを抑制する。光吸収層3内の欠陥生成の理由は、例えば、Sn4+の量が増えることで、Sn空孔が増えることが挙げられる。
【0082】
光吸収層3の上に、正孔輸送層6が形成される。正孔輸送層6の形成方法の例は、塗布法または印刷法である。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。複数の材料を混合して正孔輸送層6を形成し、次いで正孔輸送層6を加圧または焼成してもよい。正孔輸送層6が有機の低分子物質または無機半導体から形成される場合には、真空蒸着法によって正孔輸送層6が形成され得る。
【0083】
次に、正孔輸送層6の上に第2電極4が形成される。このようにして、太陽電池100が得られる。第2電極4は、化学気相蒸着法またはスパッタ法により形成され得る。
【0084】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態による太陽電池100の断面図を示す。第2実施形態においては、中間層7は、緻密な層から形成される電子輸送層5である。言い換えれば、電子輸送層5は、中間層7を兼ねる。第2実施形態において、電子輸送層5は、金属酸化物から形成される。中間層7を兼ねる電子輸送層5は、TiO2から形成されることが望ましい。
【0085】
(実施例)
以下の実施例を参照しながら、本開示がより詳細に説明される。
【0086】
[実施例1]
(ペロブスカイト太陽電池の作製)
実施例1では、図1に示されるペロブスカイト太陽電池200が以下のように作製された。
【0087】
インジウムによってドープされたSnO2層を表面に有するガラス基板(日本板硝子製)が用意された。ガラス基板およびSnO2層は、それぞれ、基板1および第1電極2として機能した。ガラス基板は、1ミリメートルの厚みを有していた。
【0088】
第1電極2上に、電子輸送層5として、厚さ約10nmの酸化チタン層をスパッタ法により形成した。
【0089】
次に、平均1次粒子径30nmの高純度酸化チタン粉末をエチルセルロース中に分散させ、酸化チタンペーストを調製した。
【0090】
調製された酸化チタンペーストを電子輸送層5の上にスクリーン印刷法で塗布し、次いで乾燥した。さらに、摂氏500度で30分間、空気中で酸化チタンペーストを焼成することによって、200ナノメートルの厚みを有する多孔質酸化チタン層から形成された中間層7を形成した。
【0091】
次に、N2で満たされたグローブボックス内で、SnF2を含有するDMSO溶液(80マイクロリットル)を中間層7上に滴下しながら、スピンコート法で中間層7上にDMSO溶液を塗布することによって、塗布膜を形成した。グローブボックス内の酸素濃度は、0.1ppm以下であった。DMSO溶液は、0.1mol/LのSnF2濃度を有していた。摂氏80度に維持されたホットプレート上で塗布膜を加熱することによって、SnF2を含有する層(すなわち、フッ素化合物層)を形成した。多孔質酸化チタンの空孔は、SnF2を部分的に含んでいた。
【0092】
次に、SnI2、SnF2、FAI(すなわち、HC(NH22I)、およびPEAI(すなわち、C65CH2CH2NH3I)を、DMSOおよびDMFの混合溶媒に添加し、混合溶液を得た。混合溶媒におけるDMSO:DMFの体積比は1:1であった。混合溶液における、SnI2、SnF2、FAI、およびPEAIの濃度は、それぞれ、1.5mol/L、0.15mol/L、1.5mol/L、および0.3mol/Lであった。
【0093】
グローブボックス内で、フッ素化合物層の上に混合溶液(80マイクロリットル)をスピンコート法で塗布し、300ナノメートルの厚みを有する塗布膜を得た。次に、塗布膜を摂氏80度に維持したホットプレート上で加熱した。このようにして、300ナノメートルの厚みを有する光吸収層3を形成した。光吸収層3は、化学式FA0.83PEA0.17SnI3のペロブスカイト化合物を主として含んでいた。
【0094】
次に、グローブボックス内で、PTAA(すなわち、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine])を10ミリグラム/ミリリットルの濃度で含有するトルエン溶液(80マイクロリットル)を光吸収層3上にスピンコート法により塗布し、10ナノメートルの厚みを有する正孔輸送層6を形成した。
【0095】
最後に、正孔輸送層6上に金を100nmの厚さになるように蒸着し、第2電極4を作製した。このようにして、実施例1による太陽電池を得た。
【0096】
(モル比の測定)
実施例1による太陽電池について、光吸収層3および中間層7の間の界面3aでのペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比を次の方法によって測定した。
【0097】
まず、第2電極4から光吸収層3の厚さ方向に光吸収層3をエッチングしながら、エッチングされた光吸収層3の元素組成を、XPS法(すなわち、X線光電子分光法)によってX線光電子分光測定装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:PHI 5000 VersaProbe)を用いて測定した。
【0098】
図3に示されるように、エッチングにより、深さd1を有する孔3hが光吸収層3に形成された。X線光電子分光測定装置を用いて、区間d2に含まれる元素の組成を測定した。区間d2は、孔3hの底b1および当該底b1よりも深く位置する位置b2の間の距離である。本実施例において用いられたX線光電子分光測定装置では、区間d2(すなわち、深さd2)は10ナノメートルであった。言い換えれば、本実施例において用いられたX線光電子分光測定装置は、10ナノメートルの分光能を有していた。
【0099】
エッチングは、アルゴンを用いたスパッタリング法によって行った。
X線源はAlであった。
X線は、単色化されていた。
X線の出力は、24.8Wであった。
【0100】
測定された元素組成を用いて、深さd1におけるペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比を以下の数式(2)に基づいて算出した。
モル比=(区間d2でのフッ素原子のモル数)/{(光吸収層3に含有されるペロブスカイト化合物に含まれるヨウ化物イオンのモル数)/3} (2)
【0101】
上記の通り、光吸収層3は、300ナノメートルの厚みを有していた。したがって、深さd1が300ナノメートルに等しい場合のモル比が、光吸収層3および中間層7の間の界面3aでのペロブスカイト化合物に対するフッ素原子のモル比である。
【0102】
(変換効率の測定)
ソーラーシミュレータを用いて、実施例1による太陽電池に100mW/cm2の照度の擬似太陽光を照射し、実施例1による太陽電池の変換効率を測定した。
【0103】
[実施例2]
実施例2では、以下の事項(i)を除き、実施例1と同様の実験が行われた。
(i) SnF2を含有するDMSO溶液が、0.3mol/LのSnF2濃度を有していたこと。
【0104】
[実施例3]
実施例3では、以下の事項(i)を除き、実施例1と同様の実験が行われた。
(i) SnF2を含有するDMSO溶液が、0.7mol/LのSnF2濃度を有していたこと。
【0105】
[実施例4]
実施例4では、以下の事項(i)を除き、実施例1と同様の実験が行われた。
(i) SnF2を含有するDMSO溶液が、1.0mol/LのSnF2濃度を有していたこと。
【0106】
[比較例1]
比較例1では、以下の事項(i)を除き、実施例1と同様の実験が行われた。
(i) SnF2を含有するDMSO溶液を中間層7上に滴下しなかったこと。
【0107】
表1および表2は、実施例1~実施例4および比較例1において得られた結果を示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
表1および表2から明らかなように、DMSO溶液におけるSnF2濃度の増加に伴い、モル比が増加した。
【0111】
実施例1~実施例4による太陽電池では、界面3aでのモル比(すなわち、300ナノメートルの深さd1でのモル比)が0.49以上であるため、実施例1~実施例4による太陽電池は、比較例1による太陽電池よりも高い変換効率を有していた。
【0112】
実施例1~実施例4による太陽電池では、光吸収層3に含有されるペロブスカイト化合物中のSn空孔がSnF2で置換され、変換効率が上昇したと本発明者は考えている。
【0113】
一方、実施例1および実施例2を実施例3および実施例4と比較すれば明らかなように、界面3aでのモル比の大幅な増加に伴い、変換効率は低下する。
【0114】
変換効率の低下の理由は、(i)SnF2が絶縁体であること、および(ii)SnF2が光吸収層3において電子または正孔の移動を阻害したためであると本発明者は考えている。
表1および表2から明らかなように、界面3aでのモル比が0.502以上0.663以下である場合、太陽電池は4.11%以上という特に高い変換効率を有している。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本開示の太陽電池は、例えば、屋根上に設置する太陽電池として有用である。
【符号の説明】
【0116】
1 基板
2 第1電極
3 光吸収層
4 第2電極
5 電子輸送層
6 正孔輸送層
7 中間層
100 太陽電池
図1
図2
図3