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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20230428BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20230428BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20230428BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20230428BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/052
H01M4/485
H01M4/70 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020534041
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2019006355
(87)【国際公開番号】W WO2020026483
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018142298
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 朋宏
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-204652(JP,A)
【文献】特開2018-049681(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0587
H01M 10/052
H01M 4/485
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捲回式電極群と、非水電解質と、前記捲回式電極群と前記非水電解質とを収納する電池ケースと、を備え、
前記捲回式電極群は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、前記正極に電気的に接続された正極リードと、前記負極に電気的に接続された負極リードと、を備えるとともに、前記正極と前記負極とが、前記セパレータを介して捲回されることにより形成されており、
前記正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備え、
前記正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含み、
前記正極および前記負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、前記正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下であり、
前記負極は、負極集電体を備え、
前記負極上には、充電時にリチウム金属が析出し、
前記負極集電体の面積は、前記正極合剤層の面積よりも大きく、
前記捲回式電極群の展開状態において、前記正極合剤層を捲回方向に沿って2分割する中心線と、前記負極集電体を前記捲回方向に沿って2分割する中心線とは、同一直線上になく、
前記負極リードの一端は、前記負極集電体の前記正極合剤層に対向しない非対向領域に接続されており、
前記電池ケースは、円筒型である、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記負極集電体は、前記捲回方向に沿う第1端部と前記第1端部に対向する第2端部とを備え、
前記非対向領域は、前記第1端部を含み、かつ、捲回状態において前記正極合剤層と対向しない帯状の第1領域と、前記第2端部を含み、かつ、捲回状態において前記正極合剤層と対向しない帯状の第2領域と、を備え、
前記負極リードの前記一端は、前記第1領域または前記第2領域に接続されている、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記第2領域の捲回軸方向における長さL2は、前記第1領域の前記捲回軸方向における長さL1よりも大きく、
前記負極リードの前記一端は、前記第2領域に接続されている、請求項2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記長さL1に対する前記長さL2の比:L2/L1は、5以上、35以下である、請求項3に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記正極集電体は、主要部と、前記主要部の前記捲回方向に沿う端部の一部から延出する延出部と、を備え、
前記延出部の少なくとも一部は、前記正極合剤層を有さず、かつ、前記負極集電体の前記非対向領域に重複しており、
前記正極リードの一端は、前記延出部に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、パソコンおよびスマートフォン等のICT用、車載用、ならびに蓄電用等の用途に用いられている。このような用途において、非水電解質二次電池には、さらなる高容量化が求められる。高容量の非水電解質二次電池としては、リチウムイオン電池が知られている。リチウムイオン電池の高容量化は、負極活物質として、例えば、黒鉛とケイ素化合物等の合金活物質とを併用することにより達成され得る。しかし、リチウムイオン電池の高容量化は限界に達しつつある。
【0003】
リチウムイオン電池を超える高容量の非水電解質二次電池としては、リチウム二次電池(リチウム金属二次電池)が有望である。リチウム二次電池では、充電時に、負極にリチウム金属が析出し、このリチウム金属が放電時に非水電解質中に溶解する。特許文献1は、リチウム二次電池の負極として、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼の箔を用いることを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-243957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、リチウム金属以外の金属箔を負極として用いた捲回式電極群は、充放電を繰り返すうちに損傷する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑み、本発明の一側面は、捲回式電極群と非水電解質とを備え、前記捲回式電極群は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、前記正極に電気的に接続された正極リードと、前記負極に電気的に接続された負極リードと、を備えるとともに、前記正極と前記負極とが、前記セパレータを介して捲回されることにより形成されており、前記正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備え、前記正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含み、前記正極および前記負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、前記正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下であり、前記負極は、負極集電体を備え、前記負極集電体の面積は、前記正極合剤層の面積よりも大きく、前記捲回式電極群の展開状態において、前記正極合剤層を捲回方向に沿って2分割する中心線と、前記負極集電体を前記捲回方向に沿って2分割する中心線とは、同一直線上になく、前記負極リードの一端は、前記負極集電体の前記正極合剤層に対向しない非対向領域に接続されている、リチウム二次電池に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリチウム二次電池によれば、負極の損傷が抑制される。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態にかかる正極、正極リード、負極および負極リードの展開状態を模式的に示す上面図である。
図2】本発明の実施形態に係るリチウム二次電池を模式的に示す縦断面図である。
図3】実施例および比較例における充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態にかかるリチウム二次電池は、捲回式電極群と非水電解質とを備える。捲回式電極群は、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、正極に電気的に接続された正極リードと、負極に電気的に接続された負極リードと、を備えており、正極と負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。
【0010】
正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備える。正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含む。負極は、負極集電体を備えており、負極集電体の面積は、正極合剤層の面積よりも大きい。
【0011】
捲回式電極群の展開状態において、正極合剤層を捲回方向に沿って2分割する中心線と、負極集電体を捲回方向に沿って2分割する中心線とは、同一直線上にない。負極リードは、負極集電体の正極合剤層に対向しない非対向領域に接続されている。
【0012】
ここで、正極および負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下である。つまり、負極は、組立直後において実質的に放電可能なリチウム金属を有さない。言い換えれば、負極は、負極集電体を備える一方、負極活物質層を備えなくてよい。これにより、電池の体積エネルギー密度が高まる。なお、完全放電状態においても、モル比:MLi/MTMは、1.1以下である。
【0013】
リチウム二次電池の完全放電状態とは、電池の定格容量をCとするとき、0.05×C以下の充電状態(SOC:State of Charge)となるまで放電させた状態をいう。例えば0.05Cの定電流で下限電圧まで放電した状態をいう。下限電圧は、例えば2.5V~3.0Vである。
【0014】
リチウム二次電池では、充電により、負極の表面にリチウム金属が析出する。より具体的には、非水電解質に含まれるリチウムイオンが、充電により負極上で電子を受け取ってリチウム金属になり、負極の表面に析出する。これにより、負極が膨張する。捲回式電極群の場合、リチウム金属の析出による負極の膨張によって、負極には、それを面方向に引っ張るような圧力がかかる。
【0015】
リチウム二次電池の負極として、リチウム金属箔あるいは負極集電体とリチウム金属箔との積層体が用いられる場合が多い。リチウム金属箔は、リチウム金属の析出に追随するように延びることができる。そのため、上記圧力は吸収されて、負極の損傷は抑制される。また、負極にリチウム金属箔を用いる場合、負極の表面には、充電前からリチウム析出のための核が一様に存在し、それらが連なっている。そのため、金属リチウムは、負極(リチウム金属箔)上に均一に析出し易い。リチウム金属が均一に析出するほど延性は高くなると考えられ、上記圧力はより吸収され易くなる。
【0016】
一方、本実施形態に係るリチウム二次電池では、負極集電体としてリチウム金属と反応しない金属材料が用いられる。このような金属材料は、一般にリチウム金属に比べて延性に劣るため、リチウム金属の析出に追随できず、捲回軸方向に沿う亀裂が生じ易い。また、上記金属材料を負極集電体に用いる場合、リチウム金属が析出するための核が生成された後、その核からリチウム金属が成長すると考えられる。核は負極集電体上に一様に生成するとは限らず、その結果、リチウム金属はデンドライト状や粒状に析出し易くなる。このような析出形態のリチウム金属は、均一にリチウム金属が析出した場合と比較して延性に乏しい。さらに、負極集電体にかかる上記圧力が不均一になって、負極集電体のひずみも大きくなると考えられる。よって、上記金属材料からなる負極集電体は、リチウム金属の析出によって、特に損傷し易い。本実施形態によれば、このようなリチウム金属を有さない負極を備える捲回式電極群において、負極の損傷を抑制することができる。
【0017】
すなわち、本実施形態では、正極合剤層よりも大きい負極集電体を用いるとともに、捲回式電極群の展開状態において、正極合剤層を捲回方向に沿って2分割する中心線Cpと、負極集電体を捲回方向に沿って2分割する中心線Cnとが、同一直線上にないように、正極および負極を配置する。これにより、負極集電体の正極合剤層に対向しない非対向領域は、正極合剤層の中心線Cpを軸としたとき非対称になる。そのため、例えば、正極合剤層の捲回方向に沿う一方の端部から、これに最も近い負極集電体の捲回方向に沿う一方の端部(第1端部)までの距離より、正極合剤層の捲回方向に沿う他方の端部から、これに最も近い負極集電体の他方の端部(第2端部)までの距離は長くなる。よって、負極が膨張する場合にも、負極集電体の第2端部まで到達する亀裂は生じ難く、負極の損傷は抑制される。
【0018】
さらに、負極リードを、負極集電体の非対向領域に接続する。リチウム金属は、負極集電体の非対向領域には析出し難いため、負極の膨張時、負極リードが負極集電体に与える応力の影響が小さくなる。よって、負極集電体の亀裂はさらに抑制される。負極リードの一端は、例えば溶接により、非対向領域に接合される。
【0019】
正極合剤層の中心線Cpは、正極合剤層の捲回方向における2つの端部の中点同士を結ぶ線である。負極集電体の中心線Cnは、同様に、負極集電体の捲回方向における2つの端部の中点同士を結ぶ線である。負極集電体の捲回方向に沿う第1端部とは、捲回方向に平行であるか、捲回方向に対する鋭角側の角度が30°以下である負極集電体の端部を言う。正極合剤層の捲回方向に沿う端部とは、捲回方向に平行であるか、捲回方向に対する鋭角側の角度が30°以下である正極合剤層の端部を言う。
【0020】
非対向領域は、負極集電体の上記第1端部を含み、かつ、捲回状態においても正極合剤層と対向しない帯状の第1領域と、負極集電体の上記第2端部を含み、かつ、捲回状態においても正極合剤層と対向しない帯状の第2領域と、を備え得る。負極リードの一端は、これら第1領域または第2領域に接続されていてもよい。負極の膨張時、負極リードが負極集電体に与える影響が、さらに小さくなるためである。なかでも、負極リードは、捲回軸方向の長さがより大きい第2領域に接続されてもよい。
【0021】
上記亀裂は、通常、正極リードの近傍で生じ易い。負極の膨張時、負極は正極リードからの応力も受けるためである。そこで、正極集電体に正極合剤層を有さないタブを設け、そのタブに正極リードの一端を接続させてもよい。具体的には、正極集電体を、主要部と、主要部の捲回方向に沿う端部の一部から延出し、かつ、正極合剤層を有さない延出部と、により構成し、延出部に正極リードの一端を接続する。これにより、負極の膨張時、正極リードが負極集電体に与える応力の影響も小さくなって、負極集電体の亀裂はさらに抑制され易くなる。
【0022】
正極集電体の主要部の捲回方向に沿う端部とは、捲回方向に平行であるか、捲回方向に対する鋭角側の角度が30°以下である正極集電体の主要部の端部を言う。正極集電体の主要部の捲回方向に沿う端部と、正極合剤層の捲回方向に沿う端部とは、通常、一致する。
【0023】
主要部は、概ね矩形であり、その全面あるいは少なくとも一部に正極合剤層が形成されている。
延出部は、主要部から延在しており、例えば主要部と一体的に形成されている。延出部の少なくとも一部は正極合剤層を有さず、正極リードの一端は、例えば溶接により、延出部の正極合剤層が形成されていない部分に接合される。また、延出部の少なくとも一部は、負極集電体の非対向領域と重複している。延出部は、非対向領域との重複部において、負極集電体、さらにはセパレータにより補強されており、延出部と主要部との境界における損傷が抑制される。延出部の大きさは特に限定されず、正極リードの一端が接続できる程度であればよい。
【0024】
図1は、本実施形態にかかる正極、正極リード、負極および負極リードの展開状態を模式的に示す上面図である。正極集電体11の主要部11a全面に正極合剤層(図示せず)が形成されている。正極リード13は正極集電体11の中央近傍に接続され、負極リード23は負極集電体21の端部近傍に接続されている。ただし、正極および負極の構成および各リードの位置はこれに限定されるものではない。図1では、便宜的に、負極集電体21の第1領域21Aおよび第2領域21Bにハッチングを付している。
【0025】
負極集電体21は、正極合剤層(正極集電体11)よりも大きく、負極集電体21は、正極合剤層に対向しない非対向領域を有する。非対向領域は、捲回方向Xに沿う第1端部21Taを含み、かつ、捲回状態において正極集電体11(主要部11a)と対向しない帯状の第1領域21Aと、第1端部21Taに対向する第2端部21Tbを含み、かつ、捲回状態において正極集電体11(主要部11a)と対向しない帯状の第2領域21Bと、を備える。負極リード23の一端は、第2領域21Bに接続されている。
【0026】
正極集電体11を捲回方向Xに沿って2分割する中心線Cpと、負極集電体21を捲回方向Xに沿って2分割する中心線Cnとは、同一直線上にない。そのため、正極集電体11の捲回方向Xに沿う一方の端部から、これに最も近い負極集電体21の第1端部21Taまでの距離L1より、正極集電体11の捲回方向Xの他方の端部から、これに最も近い負極集電体21の第2端部21Tbまでの距離L2は長い(L1<L2)。そのため、負極が膨張する場合にも、捲回軸方向Yに沿い、かつ、負極集電体21の第2端部21Tbまで到達する亀裂は生じ難い。
【0027】
長さL1に対する長さL2の比:L2/L1は、特に限定されない。比:L2/L1は、例えば、5以上、35以下であってもよく、5以上、33以下であってもよく、9以上、20以下であってもよい。負極集電体21および正極集電体11の大きさ、中心線Cpと中心線Cnとのズレ量は、例えば、比:L2/L1を考慮して、適宜設定すればよい。長さL1は、第1領域の任意の5点における捲回軸方向の長さの平均値である。長さL2は、第2領域の任意の5点における捲回軸方向の長さの平均値である。
【0028】
正極集電体11は、主要部11aと、主要部11aの捲回方向Xに沿う端部の一部から延出する延出部11bと、を備える。延出部11bには、正極合剤層が形成されておらず、正極リード13の一端が接続されている。
【0029】
以下、リチウム二次電池の構成について、具体的に説明する。
(負極)
負極は、充電時にリチウム金属が析出する電極である。負極集電体の表面に析出したリチウム金属は、放電により非水電解質中にリチウムイオンとして溶解する。析出するリチウム金属は非水電解質中のリチウムイオンに由来する。非水電解質に含まれるリチウムイオンは、非水電解質に添加したリチウム塩に由来するものであってもよく、充電により正極活物質から供給されるものであってもよく、これらの双方であってもよい。
【0030】
負極は、リチウム金属と反応しない金属材料で構成される負極集電体を備える。
負極集電体を構成する金属材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびこれらの金属元素を含む合金などが挙げられる。合金としては、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好ましい。金属材料としては、導電性の点で、銅および/または銅合金が好ましい。負極集電体中の銅の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であってもよい。金属材料の形態は、例えば、箔状である。負極集電体の厚みは特に限定されず、例えば、5μm~20μmである。
【0031】
[正極]
正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備える。正極合剤層は、正極活物質、結着剤および導電剤などを含む正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0032】
正極活物質として、リチウムおよび遷移金属を含む複合酸化物が用いられる。複合酸化物に含まれるリチウムと遷移金属とのモル比:リチウム/遷移金属は、0.9~1.1である。
【0033】
このような正極活物質としては、層状岩塩型の複合酸化物が挙げられる。具体的には、正極活物質として、例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNib1-bc、LiMPO4、(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも一種である。)が挙げられる。ここで、0<a≦1.1、0≦b≦0.9、2≦c≦2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0034】
なかでも、ニッケル元素を含む層状岩塩型の複合酸化物が好ましい。このような複合酸化物は、LiaNix1-x2(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.1であり、0.3≦x≦1である。)で表される。高容量化の観点から、0.85≦x≦1を満たすことがより好ましい。さらに、結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(NCA):LiaNixCoyAlz2(0<a≦1.1、0.85≦x<1、0<y<0.15、0<z≦0.1、x+y+z=1)がさらに好ましい。NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.052、LiNi0.8Co0.18Al0.022、LiNi0.9Co0.05Al0.052等が挙げられる。
【0035】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴムなどのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0038】
[非水電解質]
非水電解質としては、リチウムイオン伝導性を有するものが使用される。このような非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウムイオンおよびアニオンとを含んでいる。非水電解質は、液状であってもよいし、ゲル状であってもよい。
【0039】
液状の非水電解質は、リチウム塩を非水溶媒に溶解させることにより調製される。リチウム塩が非水溶媒中に溶解することにより、リチウムイオンおよびアニオンが生成するが、非水電解質には、解離していないリチウム塩が含まれていてもよい。
【0040】
ゲル状の非水電解質は、液状の非水電解質と、マトリックスポリマーとを含む。マトリックスポリマーとしては、例えば、非水溶媒を吸収してゲル化するポリマー材料が使用される。このようなポリマー材料としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、および/またはポリエーテル樹脂等が挙げられる。
【0041】
リチウム塩としては、リチウム二次電池の非水電解質に利用される公知のものが使用できる。具体的には、リチウム塩のアニオンとして、BF4 -、ClO4 -、PF6 -、CF3SO3 -、CF3CO2 -、イミド類のアニオン、オキサレート類のアニオンなどが挙げられる。非水電解質は、これらのリチウム塩を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0042】
イミド類のアニオンとしては、N(SO2m2m+1)(SO2n2n+1-(mおよびnは、それぞれ独立して0以上の整数である。)等が挙げられる。mおよびnは、それぞれ、0~3であってもよく、0、1または2であってもよい。イミド類のアニオンは、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドアニオン(N(SO2CF32 -、TFSI-)、ビスパーフルオロエチルスルホニルイミドアニオン(N(SO2252 -)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(N(SO2F)2 -)であってもよい。特に、TFSI-であってもよい。
【0043】
オキサレート類のアニオンは、ホウ素および/またはリンを含有してもよい。オキサレート類のアニオンは、オキサレート錯体のアニオンであってもよい。オキサレート類のアニオンとしては、ジフルオロオキサレートボレート(BF2(C24-)、ビスオキサレートボレート(LiB(C242 -)、B(CN)2(C24-、PF4(C24-、PF2(C242 -等が挙げられる。
【0044】
リチウム金属がデンドライト状に析出するのをさらに抑制する観点から、非水電解質は、イミド類のアニオンおよびオキサレート類のアニオンの少なくとも一種を含んでもよい。特に、ホウ素を含むオキサレート類のアニオンを含むことが好ましい。オキサレート類のアニオンは、他のアニオンと組み合わせて用いられてもよい。他のアニオンは、PF6 -、および/またはイミド類のアニオンであってもよい。
【0045】
非水電解質中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/L以上、3.5mol/L以下であってもよい。リチウム塩の濃度は、解離したリチウム塩の濃度と未解離のリチウム塩の濃度との合計である。非水電解質中のアニオンの濃度を、0.5mol/L以上3.5mol/L以下としてもよい。
【0046】
非水溶媒としては、例えば、エステル、エーテル、ニトリル、アミド、またはこれらのハロゲン置換体が挙げられる。非水電解質は、これらの非水溶媒を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。ハロゲン置換体としては、フッ化物などが挙げられる。
【0047】
エステルとしては、例えば、炭酸エステル、カルボン酸エステルなどが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、フルオロプロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0048】
エーテルとしては、環状エーテル、および鎖状エーテルが挙げられる。環状エーテルとしては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0049】
ニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられる。アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0050】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを介在させる。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0051】
[リチウム二次電池]
図2は、本発明の一実施形態に係る円筒型のリチウム二次電池の一例の縦断面図である。
リチウム二次電池100は、捲回式電極群40と、図示しない非水電解質とを含む捲回型電池である。捲回式電極群40は、帯状の正極10、帯状の負極20およびセパレータ30を含む。正極10には正極リード13が接続され、負極20には負極リード23が接続されている。
【0052】
正極リード13は、長さ方向の一端部が正極10に接続されており、他端部が封口板90に接続されている。封口板90は、正極端子15を備えている。負極リード23は、一端が負極20に接続され、他端が負極端子になる電池ケース70の底部に接続されている。電池ケース70は、有底円筒型の電池缶であり、長手方向の一端が開口し、他端の底部が負極端子となる。電池ケース(電池缶)70は、金属製であり、例えば鉄で形成されている。鉄製の電池ケース70の内面には、通常、ニッケルめっきが施されている。捲回式電極群40の上下には、それぞれ樹脂製の上部絶縁リング80および下部絶縁リング60が配置されている。
ただし、リチウム二次電池の捲回式電極群以外の構成については、公知のものを特に制限なく利用できる。
【0053】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(1)正極の作製
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.022)と、アセチレンブラックと、PVdFとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、NMPを添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、Al箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、Al箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0055】
(2)負極の作製
電解銅箔(厚み10μm)を所定の電極サイズに切断した。
【0056】
(3)非水電解質の調製
FECとEMCとDMCとを、FEC:EMC:DMC=20:5:75の容積比で混合した。得られた混合溶媒に、リチウムジフルオロオキサレートボレートを0.3mol/L、LiPF6を1.0mol/Lとなるようにそれぞれ溶解させて、非水電解質を調製した。
【0057】
(4)電池の作製
上記で得られた正極の正極合剤層を部分的に剥離し、形成された剥離部にAl製のリードの一端を取り付けた。上記で得られた負極に、Ni製のリードを取り付けた。不活性ガス雰囲気中で、正極と負極とをポリエチレン薄膜(セパレータ)を介して積層し、積層体を得た。
【0058】
積層体において、正極合剤層を捲回方向に沿って2分割する中心線Cpと、負極集電体を捲回方向に沿って2分割する中心線Cnとは、同一直線上になく、負極は、上記帯状の第1領域と上記帯状の第2領域とを備えていた。L2/L1は9であった。負極リードの一端は、第2領域に接続されていた。
【0059】
得られた積層体を渦巻状に捲回し、捲回型の電極体を作製した。得られた電極体を、Al層を備えるラミネートシートで形成される袋状の外装体に収容し、上記非水電解質を注入した後、外装体を封止してリチウム二次電池T1を作製した。
【0060】
[実施例2]
L2/L1が10になるように積層体を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T2を作製した。
【0061】
[実施例3]
L2/L1が14になるように積層体を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T3を作製した。
【0062】
[実施例4]
L2/L1が22になるように積層体を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T4を作製した。
【0063】
[実施例5]
L2/L1が33になるように積層体を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T5を作製した。
【0064】
[実施例6]
下記以外は、実施例2と同様にしてリチウム二次電池T6を作製した。
正極の作製(1)において、正極合剤層を備えるAl箔を、長方形の主要部と、主要部の一方の長辺の一部から延出した延出部と、を有する形状に裁断した後、延出部の両面に形成された正極合剤層を剥離して、正極を得た。
電池の作製(4)において、延出部にAl製のリードの一端を取り付けた。さらに、延出部の一部を、負極集電体の第1領域に重複させた。
【0065】
[比較例1]
下記以外は、実施例2と同様にしてリチウム二次電池R1を作製した。
電池の作製(4)において、正極合剤層を捲回方向に分割する中心線Cpと、負極集電体を捲回方向に分割する中心線Cnとを、同一直線上に配置した。負極リードの一端を、負極集電体の捲回状態において正極合剤層に対向する位置に接合した。
【0066】
[評価]
得られた電池T1~T6およびR1について、充放電試験を行った。
充放電試験では、25℃の恒温槽内において、以下の条件で電池の充電を行った後、20分間休止して、以下の条件で放電を行った。この充電および放電を1サイクルとし、50サイクルの充放電試験を行った。電池T1~T6について、50サイクルまでの平均充放電効率を算出した。評価結果を表1に示す。電池T2、T6およびR1について、サイクルごとの充放電効率(=nサイクル目の放電容量/nサイクル目の充電容量)を算出した。評価結果を図3に示す。
【0067】
(充電)20mAの電流で電池電圧が4.1Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.1Vの電圧で電流値が2mAになるまで定電圧充電を行った。
(放電)20mAの電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、電池T1~T6の平均充放電効率は、いずれも98.5%以上であった。図3に示すように、電池T2およびT6はいずれも、50サイクルの充放電を行っても充放電効率は高く維持されていた。特に、電池T6は、40サイクル目以降も充放電効率の低下が見られない。一方、電池R1では、4サイクルの充放電で充放電効率は大きく低下した。電池R1を充放電試験後に分解し、負極集電体を確認したところ、亀裂が生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のリチウム二次電池は、放電容量およびサイクル特性に優れるため、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末のような電子機器、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを含む電気自動車、太陽電池と組み合わせた家庭用蓄電池などに用いることができる。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0071】
10:正極
11:正極集電体
11a:主要部
11b:延出部
13:正極リード
15:正極端子
20:負極
21:負極集電体
21Ta:第1端部
21Tb:第2端部
21A:第1領域
21B:第2領域
23:負極リード
30:セパレータ
40:捲回式電極群
60:下部絶縁リング
70:電池ケース
80:上部絶縁リング
90:封口板
100:リチウム二次電池
図1
図2
図3