(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】食品加工装置
(51)【国際特許分類】
A23L 3/28 20060101AFI20230428BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A23L3/28
B01J19/12 C
(21)【出願番号】P 2022560799
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2021040501
(87)【国際公開番号】W WO2022097662
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020184171
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】猪野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】橋本 泰宏
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213251(JP,A)
【文献】特開2003-250514(JP,A)
【文献】特開2007-209267(JP,A)
【文献】特開2001-017144(JP,A)
【文献】特開2016-202092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00- 3/3598
A23L 5/00- 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を収容するための空間を有する容器と、
前記空間に接する活性表面を有する触媒膜と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面よりも、前記活性表面の反対側に位置する前記触媒膜の主面に近い位置に配置され、紫外光を前記触媒膜に向かって出射する光源と、を備え、
前記触媒膜における前記紫外光の吸収率は、50%以上であ
り、
前記光源から出射される前記紫外光は、前記空間に到達する前に前記触媒膜に入射する、又は、前記空間に到達しない、
食品加工装置。
【請求項2】
前記触媒膜は、前記紫外光の波長λ[nm]を変数とする下記のF(λ)の値以上であり、かつ、前記紫外光の波長を変数とする下記のG(λ)の値以下である、厚さd[nm]を有する、請求項1に記載の食品加工装置。
F(λ)=45673.65-284.65329×λ+0.44409×λ
2
G(λ)=149923.62-882.77357×λ+1.33037×λ
2
【請求項3】
前記触媒膜は、前記活性表面を含む表面層と、前記主面を含む吸収層とを備える、請求項1又は2に記載の食品加工装置。
【請求項4】
前記触媒膜は、金属酸化物を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の食品加工装置。
【請求項5】
前記金属酸化物は、Ti
mO
nの組成を有し、
前記組成は、1≦m≦2及び2≦n≦3の条件を満たす、
請求項4に記載の食品加工装置。
【請求項6】
前記触媒膜は、前記活性表面を含む表面層と、前記主面を含む吸収層とを備え、
前記吸収層のX線回折パターンにおけるアナターセ相の相対強度I
KA及びルチル相の相対強度I
KRは、0.6≦I
KA≦1.0及びI
KR≦0.2の条件を満たし、
前記表面層は、アナターセ相を含み、ルチル相を実質的に含んでいない、
請求項5に記載の食品加工装置。
【請求項7】
前記表面層のX線回折パターンにおけるアナターセ相の相対強度I
HAは、0<I
HA≦0.6の条件を満たす、請求項6に記載の食品加工装置。
【請求項8】
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面よりも前記主面に近い位置に配置され、前記触媒膜を支持する支持体をさらに備えた、請求項1から7のいずれか1項に記載の食品加工装置。
【請求項9】
前記支持体は、空洞を有し、
前記光源は、前記空洞に配置されている、請求項8に記載の食品加工装置。
【請求項10】
活性表面を有する触媒膜と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面よりも、前記活性表面の反対側に位置する前記触媒膜の主面に近い位置に配置され、紫外光を前記触媒膜に向かって出射する光源と、を備え、
前記触媒膜における前記紫外光の吸収率は、50%以上であり、
請求項1から9のいずれか1項に記載の食品加工装置に用いられる、
触媒付き光源。
【請求項11】
食品を収容するための空間を有する容器と、
前記空間に接する活性表面を有する触媒膜と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面の反対側に配置され、前記触媒膜を支持する支持体と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面よりも、前記支持体に近い位置に配置され、紫外光を前記触媒膜に向かって出射する光源と、を備え、
前記触媒膜における前記紫外光の吸収率は、50%以上であ
り、
前記光源から出射される前記紫外光は、前記空間に到達する前に前記触媒膜に入射する、又は、前記空間に到達しない、
食品加工装置。
【請求項12】
前記触媒膜は、前記紫外光の波長λ[nm]を変数とする下記のF(λ)の値以上であり、かつ、前記紫外光の波長を変数とする下記のG(λ)の値以下である、厚さd[nm]を有する、
請求項11に記載の食品加工装置。
F(λ)=45673.65-284.65329×λ+0.44409×λ
2
G(λ)=149923.62-882.77357×λ+1.33037×λ
2
【請求項13】
前記触媒膜は、前記活性表面を含む表面層と、主面を含む吸収層とを備える、
請求項11又は12に記載の食品加工装置。
【請求項14】
前記触媒膜は、金属酸化物を含む、
請求項11から13のいずれか1項に記載の食品加工装置。
【請求項15】
前記金属酸化物は、Ti
mO
nの組成を有し、
前記組成は、1≦m≦2及び2≦n≦3の条件を満たす、
請求項14に記載の食品加工装置。
【請求項16】
前記触媒膜は、前記活性表面を含む表面層と、主面を含む吸収層とを備え、
前記吸収層のX線回折パターンにおけるアナターセ相の相対強度I
KA及びルチル相の相対強度I
KRは、0.6≦I
KA≦1.0及びI
KR≦0.2の条件を満たし、
前記表面層は、アナターセ相を含み、ルチル相を実質的に含んでいない、
請求項15に記載の食品加工装置。
【請求項17】
前記表面層のX線回折パターンにおけるアナターセ相の相対強度I
HAは、0<I
HA≦0.6の条件を満たす、
請求項16に記載の食品加工装置。
【請求項18】
前記支持体は、空洞を有し、
前記光源は、前記空洞に配置されている、
請求項11に記載の食品加工装置。
【請求項19】
前記支持体を構成する材料は、ガラスである、
請求項11に記載の食品加工装置。
【請求項20】
活性表面を有する触媒膜と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面の反対側に配置され、前記触媒膜を支持する支持体と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面よりも、前記支持体に近い位置に配置され、紫外光を前記触媒膜に向かって出射する光源と、を備え、
前記触媒膜における前記紫外光の吸収率は、50%以上であり、
請求項11から19のいずれか1項に記載の食品加工装置に用いられる、
触媒付き光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の加工のために光触媒を用いることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光触媒を用いた醸造物の製造方法が記載されている。この製造方法において、醸造物の中の微生物を殺菌する際に、槽に入れた醸造物を常温下で撹拌部材によって撹拌しながら撹拌部材等の所定の部材の表面に担持された光触媒に励起光が照射される。
図7に示す通り、特許文献1には、この醸造物の製造方法の一例である日本酒の製造に用いられる微生物殺菌装置300が記載されている。
図7によれば、微生物殺菌装置300において、励起光の光源310は、槽301の外部に配置されている。加えて、撹拌羽根309の表面にアナターゼ型の酸化チタンの皮膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、光を用いて食品を加工するときに、食品の変質を抑制しつつ反応速度を高める観点から有利な食品加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の食品加工装置は、
食品を収容するための空間を有する容器と、
前記空間に接する活性表面を有する触媒膜と、
前記触媒膜の厚さ方向において、前記活性表面よりも、前記活性表面の反対側に位置する前記触媒膜の主面に近い位置に配置され、紫外光を前記触媒膜に向かって出射する光源と、を備え、
前記触媒膜における前記紫外光の吸収率は、50%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の食品加工装置は、食品の変質を抑制しつつ反応速度を高める観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1の食品加工装置を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、様々な厚さを有する触媒膜の特性を評価するための装置の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す装置で用いた光の強度スペクトルである。
【
図4A】
図4Aは、ギ酸の分解反応の反応速度定数と触媒膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、ギ酸の分解反応の反応速度定数と触媒膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図4C】
図4Cは、ギ酸の分解反応の反応速度定数と触媒膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、触媒膜の厚さの上限値及び下限値と、励起光の波長との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、触媒膜のX線回折(XRD)パターンにおけるアナターセ相及びルチル相の相対強度と焼成温度との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、従来技術に係る微生物殺菌装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
光触媒を用いて食品を加工するときに、食品が収容された容器の外側から容器の内部に配置された光触媒に励起光を照射することが考えられる。例えば、特許文献1に記載の微生物殺菌装置300では、撹拌羽根309の表面に形成されたアナターゼ型の酸化チタンの皮膜に槽301の外部の光源310からの光が照射されている。
【0010】
一方、本発明者らの検討によれば、紫外光を含む励起光が光触媒に入射する前に容器に収容された食品を透過すると、本来起こるべきではない、食品に含まれる成分の紫外光による変質又は劣化が生じうることが分かった。そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、光源から出射された紫外光を触媒膜の活性表面とは反対側の主面から触媒膜に入射させることが食品に含まれる成分の変質又は劣化を防止する観点から有利であることを新たに見出した。本発明者らは、さらに検討進め、触媒膜が所定の条件を満たすことにより、食品の加工のための反応の反応速度を高めることができることを新たに見出した。このような新たな知見に基づき、本発明者らは、本開示の食品加工装置を完成させた。
【0011】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的、又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、及び接続形態、プロセス条件、ステップ、ステップの順序等は一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の食品加工装置1aを模式的に示す断面図である。食品加工装置1aは、容器10と、触媒膜20と、光源30とを備えている。容器10は、食品Fを収容するための空間15を有する。食品Fは、食品原料であってもよい。触媒膜20は、空間15に接する活性表面21aを有する。光源30は、触媒膜20の厚さ方向において、活性表面21aよりも、活性表面21aの反対側に位置する触媒膜20の主面22aに近い位置に配置されている。光源30は、紫外光Uを触媒膜20に向かって出射する。触媒膜20における紫外光Uの吸収率は、50%以上である。
【0013】
触媒膜20の主面22aに入射した紫外光Uの光量の大部分が触媒膜20において吸収される。触媒膜20における紫外光Uの吸収により、触媒膜20において多数の励起子が生成される。例えば、触媒膜20と紫外光Uとの相互作用により、触媒膜20の広い範囲で電子と正孔との対として励起子が生成される。励起子は数ナノ秒から数十ナノ秒の有限の寿命を有し、その寿命の期間に触媒膜20を拡散する。例えば、触媒膜20における励起子の濃度は主面22aから活性表面21aに向かって指数関数的に減少する。励起子の多くはこのような濃度勾配による拡散により、活性表面21aと食品Fとの界面に到達する。この界面に到達した励起子は、食品Fに含まれる酸素分子、水分子、及び反応基質と、触媒膜20との間で、電荷移動反応を生じさせ、活性種を生成する。その結果、食品Fの加工に必要な光化学反応が選択的に進行する。なお、触媒膜20と紫外光Uとの相互作用により生成される励起子が電荷分離し、電子及び正孔等のキャリアとして振る舞ってもよい。
【0014】
食品原料を含む食品は、紫外光の照射に対して敏感である。紫外光が食品に照射されると、食品の変質又は劣化が生じ、食品が本来有するフレーバーとは異なる、腐敗臭、悪臭、及び人工臭等の異臭が感じられることがある。フレーバー、味覚、及び食感は、食品の三大要素である。その中でもフレーバーは重要な要素である。このため、そのような異臭の発生は、食品の価値を大きく下げる要因となりうる。一方、食品加工装置1aによれば、食品Fに紫外光Uが到達する前に触媒膜20において紫外光Uの光量の大部分が吸収されるので、高強度の紫外光が食品Fに照射されにくい。触媒膜20における紫外光Uの吸収率は光源30から出射される紫外光Uの波長に応じて変化させることができる。このため、光源30として、様々な種類の光源を利用できる。このように、食品加工装置1aによれば、紫外光による食品の変質又は劣化を防止でき、主に、食品加工のための目的の反応を促すことができる。
【0015】
食品に含まれる有機物が関与する様々な化学反応のうち、光が重要な働きをする光化学反応がある。固体触媒等と光が相互作用した結果起こる光触媒反応も光化学反応である。固体触媒と光が相互作用した結果起こる光触媒反応と、有機分子と光が直接相互作用した結果起こる光化学反応とを区別するため、ここでは、後者を「有機光化学反応」と呼ぶ。
【0016】
有機光化学反応が起こるには、反応する分子による光吸収が必要である。光吸収は分子を構成する官能基又は分子骨格により起こる。様々な有機分子のうち、波長250nmから450nmの波長域に光吸収をもつものは、ベンゼン類、ピリジン類、チオフェン類、フラン類、及びカルボニル基等の炭素-酸素二重結合を有する化合物である。これらは、人間の嗅覚に対して相互作用を起こす芳香族化合物に含まれうる。食品は多種多様な高分子及び低分子の混成であるので、上記の化合物の個々の有機光化学反応を分子レベルで追跡することは極めて困難である。一方、人間の嗅覚を用いた官能評価で有機光化学反応の起きた食品を調べると、本来食品が有する香りとは異なる異臭の発生の有無を調べることができる。
【0017】
食品加工装置1aを用いてなされる食品Fの加工は、特定の加工に限定されない。この加工は、食品Fの殺菌のための加工であってもよいし、食品Fに含まれる成分を別の成分に変化させる加工であってもよい。食品加工装置1aは、醸造に用いられてもよく、醸造以外の食品製造及び食品加工に用いられてもよい。
【0018】
例えば、触媒膜20における紫外光Uの吸収率が50%以上であるように触媒膜20の厚さが調整されている。触媒膜20の厚さは、例えば、触媒膜20の透過スペクトルに現れる干渉パターンに基づいて決定できる。
【0019】
触媒膜20における紫外光Uの吸収率は、例えば、以下の方法によって求めることができる。光源30における発光スペクトルを取得し、発光スペクトルにおいて最大の光強度に対する半値全幅に対応する波長範囲Δλを特定する。分光光度計を用いて、触媒膜20の吸収スペクトルを測定する。波長範囲Δλにおける発光スペクトルの光強度の積分値IIを求める。触媒膜20の吸収スペクトルに基づき、その波長範囲において触媒膜20によって吸収される光強度の積分値IAを求める。積分値II及び積分値IAに基づき式(1)から吸収率Aを決定する。
A[%]=100×IA/II 式(1)
【0020】
触媒膜20における紫外光Uの吸収率は、55%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよい。触媒膜20における紫外光Uの吸収率は、100%であってもよく、98%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
【0021】
物質における光吸収に関し、下記の式(2)に示すLambertの法則が知られている。式(2)において、I0は、物質中を光が伝搬するときの入射光強度であり、Iは、透過光強度であり、αは吸収係数、dは物質の厚さである。吸収係数αは、物質の紫外光に対する応答特性に関連しており、波長の関数である。触媒膜20において、光の波長が短いほど吸収係数αの値が大きくなりやすい。
log(I0/I)=αd 式(2)
【0022】
紫外光と触媒膜との相互作用が強く、触媒膜をなす物質の吸収係数αが大きい場合、触媒膜に入射された紫外光は、触媒膜の一部を伝搬した段階でその光強度が大きく減衰する。このため、紫外光が入射した触媒膜の入射面の反対側の触媒膜の主面まで紫外光が伝播することは難しい。一方、紫外光と触媒膜との相互作用が弱く、触媒膜をなす物質の吸収係数αが小さい場合、触媒膜に入射された紫外光は、紫外光が入射した触媒膜の入射面の反対側の触媒膜の主面まで伝播する。紫外光の光強度はそれほど減衰せず、触媒膜の外部に紫外光が漏れる。触媒膜20は、望ましくは、紫外光Uの波長λに対して所定の範囲の吸収係数α[cm-1]を有する。紫外光Uの波長λにおける吸収係数αは、例えば、波長λが365nmであるときに1971.8cm-1であり、波長λが350nmであるときに7347.3cm-1であり、波長λが330nmであるときに18039.7cm-1である。換言すると、吸収係数αは、例えば、1971.8cm-1から18039.7cm-1である。これにより、触媒膜20における紫外光Uの光強度の減衰が所望の程度に調整されやすい。
【0023】
光源30から出射される紫外光Uの波長は特定の値に限定されず、例えば320nmから375nmである。これにより、触媒膜20において紫外光Uが適切に吸収される。
【0024】
光源30は、特定の光源に限定されず、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、蛍光剤を含む蛍光灯型光源、又は発光ダイオード(LED)でありうる。光源30は、望ましくは単色光源である。この場合、紫外光Uの波長範囲が狭いので触媒膜20の厚さの調整がしやすい。
【0025】
典型的には、触媒膜20の厚さには、上限及び下限が存在する。なぜなら、光源30の発光スペクトルは、デルタ関数として表現されるのではなく、有限のスペクトル幅を有しており、触媒膜20の紫外光応答特性である紫外光吸収スペクトルは連続関数だからである。
【0026】
触媒膜20の厚さは、例えば、紫外光Uの波長を変数とする下記式(3)に示す関数F(λ)の値以上であり、かつ、紫外光Uの波長を変数とする下記式(4)に示す関数G(λ)の値以下である。この場合、紫外光Uが触媒膜20において良好に吸収されて多数の励起子が生成されて触媒膜20を拡散し、食品Fの加工のための反応の反応速度が高くなりやすい。加えて、紫外光Uの触媒膜20への入射に伴う透過光の強度が小さくなりやすく、食品Fが変質又は劣化することを防止できる。F(λ)及びG(λ)の単位は、[nm]であり、F(λ)及びG(λ)にはλを[nm]で表示したときの数値が代入される。
F(λ)=45673.65-284.65329λ+0.44409λ2 式(3)
G(λ)=149923.62-882.77357λ+1.33037λ2 式(4)
【0027】
触媒膜20は、複数層を有する膜であってもよいし、単層膜であってもよい。
図1に示す通り、触媒膜20は、例えば、表面層21と、吸収層22とを有する。表面層21は、活性表面21aを有する。吸収層22は、主面22aを有する。吸収層22は、紫外光Uを吸収して励起子を生成し、生成された励起子を活性表面21aに向かって移動させる役割を担う。表面層21は、活性表面21aと食品Fとの界面で電荷移動反応を生じさせる役割を担う。
【0028】
吸収層22は、紫外光Uの吸収媒体として機能しうる。活性表面21aと食品Fとの界面で起こる電荷移動反応の回数は、触媒膜20で吸収された光子の数より大きくなることはない。このため、食品Fの加工のための反応の反応速度を高めるために、触媒膜20に入射された紫外光Uは、吸収層22の内部で十分に吸収されることが望ましい。例えば、触媒膜20の厚さがF(λ)以上であるように吸収層22の厚さが調整される。吸収層22は、励起子の伝導媒体としても機能しうる。吸収層22の内部で生成した励起子は、数ナノ秒から数十ナノ秒の有限寿命τ(秒)において吸収層22の内部を拡散して活性表面21aと食品Fとの界面に到達しうる。この界面に到達できなかった励起子は励起した電子と正孔との再結合により失活する。この場合、励起子の生成に使用された光エネルギーは、化学反応を生じさせることなく熱エネルギーに変換され、無駄になる。このため、例えば、触媒膜20の厚さがG(λ)以下であるように吸収層22の厚さが調整される。
【0029】
触媒膜20における励起子の拡散速度をv[μm/秒]と表すと、励起子の最大拡散距離はτ×vと近似できる。τは、励起子の励起状態ダイナミクスを反映しており、材料の電子状態及び欠陥密度等の要因の影響を受ける。加えて、触媒膜20における結晶相もτに影響を与えうる。これらを踏まえて吸収層22の材料を調整することにより、食品加工装置1aを用いて食品Fの加工に必要な反応の反応速度をより確実に高めることができる。
【0030】
表面層21は、活性表面21aを有し、触媒反応を促す。触媒反応の素過程は、固体表面で起こる化学反応である。このため、触媒としての性能は、バルクとしての構造ではなく、活性表面21aにおける微細構造によって決まりやすい。活性表面21aは、例えば、表面凹凸等の所定の微細な構造を有する。これにより、活性表面21aの表面積が大きくなりやすい。その結果、活性表面21aへの食品Fに含まれる成分Cの物質輸送速度を十分に高めることにより、食品Fの加工に必要な反応の反応速度をより確実に高めることができる。
【0031】
表面層21の厚さ及び吸収層22の厚さのそれぞれは、触媒膜20における紫外光Uの吸収率が50%以上である限り、特定の値に限定されない。吸収層22の厚さは、例えば表面層21の厚さより大きい。これにより、吸収層22において紫外光Uを良好に吸収できる。表面層21の厚さは、例えば、数ナノメートルから数十ナノメートルであってもよい。表面層21の厚さが数ナノメートルである場合、表面層21は、例えば単一層として形成されうる。表面層21の厚さが数十ナノメートルである場合、表面層21は、例えば複数層として形成されうる。表面層21の厚さ及び吸収層22の厚さのそれぞれは、例えば、触媒膜20の断面の電子顕微鏡像に基づき決定できる。この場合、表面層21の厚さ及び吸収層22の厚さのそれぞれは、無作為に選んだ10箇所以上の厚さの算術平均値として決定できる。
【0032】
触媒膜20は、例えば、金属酸化物を含んでいる。これにより、触媒膜20において紫外光Uが良好に吸収され、食品Fの加工のための反応の反応速度をより確実に高めることができる。
【0033】
触媒膜20に含まれる金属酸化物は、特定の金属酸化物に限定されず、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化シリコン、酸化アルミニウム、又はゼオライトであってもよい。なお、本明細書において、シリコンを含む酸化物は「金属酸化物」に含まれる。
【0034】
触媒膜20に含まれる金属酸化物は、TimOnの組成を有していてもよい。この組成は、1≦m≦2及び2≦n≦3の条件を満たす。この場合、食品Fの加工のための反応の反応速度をより確実に高めることができる。
【0035】
触媒膜20において、表面層21をなす材料と、吸収層22をなす材料とは、同一種類の材料であってもよいし、異なる種類の材料であってもよい。例えば、触媒膜20において、表面層21をなす材料と、吸収層22をなす材料とが異なる材料であると、表面層21の機能をより高めつつ吸収層22の機能をより高めやすい。
【0036】
吸収層22のXRDパターンにおけるアナターセ相の相対強度IKA及びルチル相の相対強度IKRは、例えば0.6≦IKA≦1.0及びIKR≦0.2の条件を満たす。一方、表面層21は、例えば、アナターセ相を含み、ルチル相を実質的に含んでいない。これにより、食品Fの加工のための反応の反応速度をより高めることができる。ルチル相を実質的に含んでいないとは、XRDパターンにおいてルチル相の相対強度がゼロとみなせることを意味する。吸収層22において、励起子の最大拡散距離は、吸収層22のXRDパターンにおけるアナターセ相の相対強度IKAと単純に正の相関があり、ルチル相の相対強度IKRとは単純に負の相関がある。このため、吸収層22が0.6≦IKA≦1.0及びIKR≦0.2の条件を満たすことが有利である。活性表面21aにおける表面積を大きくするためには、表面層21の比表面積を高めることが有利であると考えられる。表面層21が、アナターセ相を含み、ルチル相を実質的に含んでいないと、表面層21の比表面積が高まりやすい。
【0037】
表面層21のX線回折パターンにおけるアナターセ相の相対強度IHAは、0<IHA≦0.6の条件を満たしていてもよい。これにより、表面層21の比表面積が高くなりやすく、食品Fの加工のための反応の反応速度をより高めやすい。
【0038】
吸収層22のXRDパターンにおけるアナターセ相の相対強度IKA及びルチル相の相対強度IKRは、0<IKA<0.6及びIKR≦0.2の条件を満たしていてもよい。表面層21のX線回折パターンにおけるアナターセ相の相対強度IHAは、0.6<IHA≦1.0の条件を満たしていてもよい。表面層21のX線回折パターンにおけるルチル相の相対強度IHRは、IKR≦0.2の条件を満たしていてもよい。
【0039】
図1に示す通り、食品加工装置1aは、例えば、支持体25をさらに備えている。支持体25は、触媒膜20の厚さ方向において、活性表面21aよりも主面22aに近い位置に配置されており、触媒膜20を支持している。これにより、食品加工装置1aにおいて、触媒膜20が安定的に存在しうる。
【0040】
支持体25の材料は、特定の材料に限定されず、例えばガラスである。支持体25は、典型的には、紫外光Uに対する光応答特性が低く、紫外光Uに対し高い透過率を有する。支持体25の材料の例は、石英ガラス及びホウケイ酸ガラスである。
【0041】
支持体25の形状は、触媒膜20を支持できる限り、特定の形状に限定されない。支持体25は、例えば空洞25hを有する。光源30は、例えば、空洞25hに配置されている。支持体25は、例えば筒状である。支持体25は、中空の球状であってもよく、中空の多面体状であってもよい。
【0042】
図1に示す通り、食品加工装置1aは、撹拌器40をさらに備えていてもよい。撹拌器40は、例えば、回転軸と、回転軸に取り付けられた撹拌翼とを備えている。食品Fの加工のための反応の反応速度を高めるために、食品Fを触媒膜20の活性表面21aに高速で輸送することが有利である。物質移動としては、濃度勾配に伴う拡散移動と、場の流れに乗って移動する対流移動とがある。撹拌器40の作動により、食品Fにおいて物質輸送速度が高くなる。撹拌器40の作動により、触媒膜20と食品Fとの界面で食品に含まれる成分Cの濃度が高く保たれやすい。加えて、撹拌器40の作動により、容器10の空間15における食品Fの場の流れの発達を促すことができる。撹拌器40の回転軸は容器10の上方又は下方から挿入されうる。
【0043】
図1に示す通り、触媒付き光源2を提供できる。触媒付き光源2は、触媒膜20と、光源30を備えている。触媒付き光源2は、食品加工装置1aに用いられる。
【実施例】
【0044】
実施例により本開示の食品加工装置をより詳細に説明する。なお、本開示の食品加工装置は、以下の実施例に限定されない。
【0045】
<実施例1>
図1に示す食品加工装置1aと同様の構成を有する、ベンチトップ型の実施例1に係る食品加工装置を作製した。この食品加工装置の容器には、300cm
3の液体を収容することが可能であった。支持体として石英ガラス製のスリーブを用いた。このスリーブは、長さ210mm及び外径54mmの円筒状であり、スリーブの長さ方向の一端は閉じられていた。セン特殊光源社製の高圧水銀ランプHL100をスリーブの内部に光源として配置した。光源の消費電力は100Wであった。光源のバルブ長さは12.7cmであり、その発光部の長さは8.5cmであった。光源の出射光の波長は365nmであった。光源の出射光の光強度は光源からの距離に反比例して減少し、ランプ表面から20mm離れた位置における出射光の光強度は、100mW/cm
2であった。容器の底面には、磁気撹拌子を配置した。
【0046】
スリーブの外面にゾルゲル法により触媒膜を形成した。0.092mol(21g)のチタニウムエトキシドを撹拌しながら、チタニウムエトキシドに20%の質量濃度の塩酸14.6cm3を徐々に加え、混合液を得た。得られた混合液に、6gの界面活性剤プルーロニクP123と74cm3の1-ブタノールとを混和した溶液を加えて3時間撹拌し、ゾルAを得た。プルーロニクP123の平均分子量は5800であった。3000回転毎分(rpm)及び30秒間のスピンコーティングによって、ゾルAをスリーブの外面に塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を500℃の電気炉中で2時間焼成し、約400nmから500nmの厚さの触媒薄膜を得た。この塗膜の形成及び塗膜の焼成からなる工程を4回繰り返して、実施例1に係る吸収層を得た。3000回転毎分(rpm)及び30秒間のスピンコーティングによって、実施例1に係る吸収層の上にゾルAを塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を500℃の電気炉中で2時間焼成して実施例1に係る表面層を形成し、吸収層及び表面層によって構成された実施例1に係る触媒膜を得た。
【0047】
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いて、実施例1に係る触媒膜の波長200nmから2500nmの範囲における透過スペクトルを取得した。この透過スペクトルに現れる干渉パターンから、日本分光社提供の膜厚計算プログラムを用いて実施例1に係る触媒膜の厚さを求めた。その結果、実施例1に係る触媒膜の厚さは、2028.0nmであった。
【0048】
紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いて、波長365nm、350nm、及び330nmにおける実施例1に係る触媒膜の光吸収率を求めた。その結果、実施例1に係る触媒膜の光吸収率は、表1に示す通りであった。
【0049】
【0050】
実施例1に係る食品加工装置の容器に10質量%の酵母水溶液を入れた。酵母水溶液の温度は5℃に調整した。食品加工装置の光源を96時間点灯させ、その後光源を消灯した。光源の点灯中に磁気撹拌子を回転させて酵母水溶液を撹拌した。フナコシ社提供のLipid Hydroperoxide Assay Kitを用いて、光源の点灯直前の酵母水溶液及び光源の消灯直後の酵母水溶液から採取した液体サンプルにおける過酸化脂質濃度を比色法に従って求めた。その結果、反応生成物である過酸化脂質の濃度は、光源の消灯直後において、光源の点灯直前に比べて増加していることが確認された。
【0051】
実施例1に係る食品加工装置の容器に、モデル食品原料水溶液として、10mg/リットルの濃度のギ酸水溶液を入れた。ギ酸水溶液の温度は室温に調整した。光源を点灯させ、所定時間経過後に光源を消灯させ、ギ酸水溶液の一部を液体サンプルとして採取した。液体サンプルにおけるギ酸の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。この測定結果から得られた反応速度に関するデータと、1次の反応速度式を用いて、光触媒反応の反応速度定数kを求めた。その結果、k=6.4[h-1]であった。本明細書において「h」は時間を意味する。反応したギ酸の量は、3.7mg/リットルであった。
【0052】
<実施例2>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る食品加工装置を作製した。0.025mol(2.52g)のアセチルアセトン及び0.05mol(17.50g)のチタニウムブトキシドをこの順で32cm3の1-ブタノールに混和し、室温で1時間撹拌して、混合液を得た。この混合液に、0.15mol(9.05g)のイソプロパノール及び3.64cm3の水を混合した液を混和し、更に1時間撹拌し、混合液を得た。この混合液に0.04mol(1.66g)のアセトニトリルを加えて1時間撹拌し、ゾルBを得た。ゾルBを6000rpm及び30秒間のスピンコーティングにより吸収層の表面に塗布し、600℃の電気炉中で2時間焼成して実施例2に係る表面層を形成し、吸収層及び表面層によって構成された実施例2に係る触媒膜を得た。実施例2に係る触媒膜の厚さを実施例1に係る触媒膜と同様にして測定した。その結果、実施例2に係る触媒膜の厚さは、2156.0nmであった。紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いて、波長365nm、350nm、及び330nmにおける実施例2に係る触媒膜の光吸収率を求めた。その結果、実施例2に係る触媒膜の光吸収率は、表2に示す通りであった。これらの波長における実施例2に係る触媒膜の光吸収率は、50%以上であった。
【0053】
【0054】
実施例1に係る食品加工装置の代わりに、実施例2に係る食品加工装置を用いた以外は、実施例1と同様にして、10mg/リットルの濃度のギ酸水溶液を用いて光触媒反応の反応速度定数kを求めた。その結果、k=9.6[h-1]であった。
【0055】
<比較例1>
下記の点以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る食品加工装置を作製した。触媒膜の形成において、実施例1に係る吸収層に相当する層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る触媒膜を形成した。比較例1に係る触媒膜の厚さは、実施例1に係る触媒膜と同様の方法で測定したところ、79.7nmであった。紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いて、波長365nm、350nm、及び330nmにおける比較例1に係る触媒膜の光吸収率を求めた。その結果、比較例1に係る触媒膜の光吸収率は、表3に示す通りであった。これらの波長における比較例1に係る触媒膜の光吸収率は、50%未満であった。
【0056】
【0057】
実施例1に係る食品加工装置の代わりに、比較例1に係る食品加工装置を用いた以外は、実施例1と同様にして、10mg/リットルの濃度のギ酸水溶液を用いて光触媒反応の反応速度定数kを求めた。その結果、k=1.1[h-1]であった。反応したギ酸の量は、0.3mg/リットルであった。
【0058】
表4に示す通り、実施例1及び2に係る食品加工装置における光触媒反応の反応速度定数は、比較例1に係る食品加工装置における光触媒反応の反応速度定数より高かった。紫外光の波長における触媒膜の光吸収率が50%以上であることが光触媒反応の反応速度定数を高めるうえで有利であることが理解される。
【0059】
【0060】
<触媒膜の厚さについての評価>
図2に示す装置3を作製した。装置3は、容器31と、撹拌器33と、Oリング35と、サンプルSと、ミラー38とを備えていた。容器31は、中央に貫通孔を有する板状の上部部材31aと、中央に凹部を有する板状の下部部材31bとを有していた。サンプルSは、石英ガラス製の支持板25sと、支持板25s上に形成された触媒膜20sとを有していた。支持板25sは、平面視で30mm平方の正方形状であった。サンプルSは、触媒膜20sが支持板25sの上方に位置するように下部部材31bの凹部に収容されていた。上部部材31aと下部部材31bとの間にOリング35を配置して上部部材31a及び下部部材31bを組み付けて容器31を構成した。Oリング35は、上部部材31aの下面において中央開口に接する縁及び触媒膜20sの周縁に接触しており、これらの隙間をシールしていた。ミラー38は、水平方向にミラー38に入射した紫外光UをサンプルSに導くように容器31の下方に配置されていた。
【0061】
サンプルSにおける触媒膜20sは、ゾルゲル法によって形成した。ゾルAと同一の条件でゾルを調製し、このゾルを支持板25sにスピンコーティングにより塗布して塗膜を形成した。この塗膜を500℃の電気炉中で2時間焼成し、触媒膜20sを得た。塗膜の形成及び焼成の回数を調整することにより、厚さの異なる触媒膜20sを有する9つのサンプルSを準備した。これらのサンプルにおける触媒膜20sの厚さは、411.5nm、828.0nm、1151.0nm、1511.5nm、2156.0nm、2826.5nm、3490.5nm、4154.5nm、及び4819.0nmであった。各サンプルSにおける触媒膜20sの厚さは、実施例1に係る触媒膜の厚さと同様にして決定した。
【0062】
朝日分光社製のキセノンランプMAX303と単色化用バンドパスフィルターとを組み合わせて、中心波長が330nm、350nm、及び365nmである3種類の単色化された紫外光を調整した。単色化された紫外光の光強度スペクトルを
図3に示す。これらの紫外光のバンド幅は中心波長±5nmであった。朝日分光社製のロッドレンズである光強度空間均一化レンズを用いて、紫外光Uの照射面における光強度が均一になるように単色化された紫外光の光強度を調整した。その結果、触媒膜20sの表面における光強度は、3mW/cm
2であり、触媒膜20sの表面の全体において均一であった。
【0063】
10mg/リットルの濃度のギ酸水溶液を容器31の内部に入れた。ギ酸水溶液の容量は5ミリリットルであった。撹拌器33を回転させてギ酸水溶液を撹拌した。上記の様に調整された紫外光Uを容器31の底面に導き支持体25sを通過させて触媒膜20sに照射した。紫外光Uを触媒膜20sに照射してから所定時間経過後のギ酸水溶液から採取した液体サンプルにおけるギ酸の濃度をHPLCによって測定した。この測定結果から得られた反応速度に関するデータと、1次の反応速度式を用いて、光触媒反応の反応速度定数を求めた。紫外光Uの調整のために、中心波長が365nm、350nm、及び330nmである3種類の単色化された紫外光を用いた場合の結果をそれぞれ
図4A、
図4B、及び
図4Cに示す。
【0064】
図4A、
図4B、及び
図4Cにおいて、触媒膜の厚さに対する反応速度定数がプロットされている。
図4A、
図4B、及び
図4Cにおけるプロットは、上に凸のピーク形状を有していた。加えて、紫外光Uの波長が長いほど、プロットのピークが長波長側にシフトする傾向がみられた。
図4A、
図4B、及び
図4Cに示すグラフのそれぞれにおいて、Giddingsのピーク関数を用いてデータを最小二乗フィッティングした。このフィッティングにより得られた関数を
図4A、
図4B、及び
図4Cにおいて実線のグラフで示している。フィッティングにより得られた関数において反応速度定数が最大値の70%以上を示す波長の上限値及び下限値を特定した。得られた上限値及び下限値と紫外光Uの波長との関係を
図5に示す。上限値と紫外光Uの波長との関係及び下限値と紫外光Uの波長との関係のそれぞれを二次関数A+B×λ+C×λ
2で近似した。この近似により、上記の式(3)に示すF(λ)及び式(4)に示すG(λ)が得られた。
【0065】
<実施例4から6>
所定の基板上にゾルAをスピンコーティングにより塗布して塗膜を形成し、400℃から1000℃の範囲の所定の温度に設定された電気炉によってこの塗膜を2時間焼成し、XRD測定用膜を形成した。リガク社製のXRD装置RINT-TTR IIIを用い、XRD測定用膜のXRDパターンを得た。X線としてCu-Kα線を用いた。得られたXRDパターンからアナターセ相の相対強度及びルチル相の相対強度を求めた。これらの相対強度と塗膜の焼成温度との関係を
図6に示す。得られたXRDパターンにおいて、アナターセ相の(101)面に由来する25.3°付近のピークの面積を、最大強度を示すピークの面積で除してアナターセ相の相対強度を求めた。また、ルチル相の(110)面に由来する27.5°付近のピークの面積を、最大強度を示すピークの面積で除してルチル相の相対強度を求めた。
【0066】
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例4、5、及び6に係る食品加工装置を作製した。触媒膜の形成において吸収層のためのゾル塗膜の焼成温度及び表面層のためのゾル塗膜の焼成温度を表5に示す通り調整した。実施例4、5、及び6に係る食品加工装置における触媒膜の厚さは、実施例1に係る触媒膜と同様にして測定したところ、約2100nmであった。実施例1と同様にして、波長365nm、350nm、及び330nmにおける実施例4、5、及び6に係る食品加工装置における触媒膜の光吸収率を求めた。その結果、実施例4、5、及び6に係る触媒膜の光吸収率は、表6に示す通りであった。これらの波長における各触媒膜の光吸収率は、50%以上であった。
【0067】
【0068】
【0069】
実施例1に係る食品加工装置の代わりに、実施例4、5、及び6に係る食品加工装置を用いた以外は、実施例1と同様にして、10mg/リットルの濃度のギ酸水溶液を用いて光触媒反応の反応速度定数kを求めた。
図6に示す関係から推定される吸収層のXRDパターンのアナターセ相及びルチルの相対強度、
図6に示す関係から推定される表面層のXRDパターンのアナターセ相及びルチルの相対強度、及び反応速度定数kの関係を表7に示す。表7において、I
KA及びI
KRは、それぞれ、吸収層のXRDパターンのアナターセ相及びルチルの相対強度を示し、I
HA及びI
HRは、それぞれ、吸収層のXRDパターンのアナターセ相及びルチルの相対強度を示す。なお、吸収層は、表面層を形成するときに、表面層を形成するためのゾルの塗膜によって覆われている。このため、吸収層のXRDパターンのアナターセ相及びルチルの相対強度は、表面層の形成のための焼成の影響をほとんど受けない。
【0070】
【0071】
<異臭の発生有無の評価>
装置3における石英ガラス製の支持板25sの上に、ゾルAと同様にして調製したゾルをスピンコーティングにより塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を500℃の電気炉中で2時間焼成した。塗膜の形成及び塗膜の焼成を4回繰り返して吸収層を形成した。吸収層の上に、ゾルAと同様にして調製したゾルをスピンコーティングにより塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を500℃の電気炉中で2時間焼成し、表面層を形成した。このようにして、サンプルJを作製した。支持板25sは、平面視で30mm平方の正方形状であった。
【0072】
サンプルJにおける吸収層に相当する層を形成しなかったこと以外は、サンプルJと同様にしてサンプルKを作製した。支持板25sをそのままサンプルLとして使用した。
【0073】
装置3において、サンプルSの代わりにサンプルJ、K、Lのそれぞれを用い、かつ、ギ酸水溶液の代わりに酵母水溶液を用いた以外は、サンプルSを用いた場合と同様にして10mg/リットルの濃度の酵母水溶液を反応させた。反応後の液体サンプルにおける異臭の有無につき、3名の評価者によって2点式別試験法に従った官能評価を実施した。その結果、サンプルJを用いた場合には、3名の評価者の全員が反応後の液体サンプルにつき異臭を感じなかった。一方、サンプルK及びLを用いた場合には、3名の評価者の全員が反応後の液体サンプルにつき異臭を感じた。サンプルJを用いた場合、酵母水溶液に含まれる成分の紫外光による劣化は起こっておらず、サンプルK及びLを用いた場合には、酵母水溶液に含まれる成分の紫外光による劣化が起こっていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示の食品加工装置は、食品原料を含む様々な食品の加工において有用である。