(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】異種金属接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 346
B23K20/12 310
(21)【出願番号】P 2019032971
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596091956
【氏名又は名称】冨士端子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【氏名又は名称】森本 直之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】深見 達也
(72)【発明者】
【氏名】長岡 亨
(72)【発明者】
【氏名】京田 猛
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016119062(DE,A1)
【文献】特開2004-255420(JP,A)
【文献】特表2015-535489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0243714(US,A1)
【文献】特開2003-039183(JP,A)
【文献】特開2013-163208(JP,A)
【文献】特開平10-052769(JP,A)
【文献】特開2007-083242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/20 - 20/26
B23K 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる金属である2つの部材を突き合わせて、摩擦攪拌接合により接合する異種金属接合体の製造方法であって、
上記異なる金属である2つの部材を設置する接地面に凹部を設け、2つの部材の突き合わせ面が当該凹部に沿うように2つの部材を設置し、
上記凹部内に上記2つの部材を構成する金属のいずれかよりも融点の低い金属部材を設置し、
上記突き合わせた境界面上に回転工具の端部が略一致するようにして、回転工具を挿入する
ことを特徴とする異種金属接合体の製造方法。
【請求項2】
上記異なる金属の内、硬度が小さい方の金属で構成される部材側に回転工具の回転中心を挿入する
ことを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合体の製造方法。
【請求項3】
異なる金属である2つの部材を突き合わせて、摩擦攪拌接合により接合する異種金属接合体の製造方法であって、
上記異なる金属である2つの部材を設置する接地面において、2つの部材の突き合わせ面に沿うように
上記2つの部材を構成する金属のいずれかよりも融点の低い金属部材を設置し、
上記突き合わせた境界面上に回転工具の端部が略一致するようにして、回転工具を挿入する
ことを特徴とする異種金属接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる2種の金属を摩擦攪拌接合により接合した接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合とは、円筒状の工具を回転させながら接合箇所へ押し付けることで、回転工具を接合させる部材の接合部に貫入させる。そして、摩擦熱の発生等により部材を軟化させるとともに、回転工具の回転力によって接合部周辺の塑性流動を促進し、複数の部材を一体化させる接合法である。
【0003】
例えば、アーク溶接と比較すると、部材の溶融を伴わず、接合部の熱影響を緩和できる。騒音や粉塵の発生も抑制できる。また、電子ビーム溶接のように、真空を必要としないため、装置の小型化が図れる。
【0004】
例えば、アルミニウム等からなる2枚の板材を、それらの側面を突き合わせて接合する場合、接合線の真上から回転工具を挿入し、接合線に沿って回転工具を移動させることで、2枚の板材を接合することができる(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-35918号公報
【文献】特開2007-136544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2枚の金属の板材を接合する場合、板材を部材設置具に設置し、固定用冶具等で固定して接合を行うが、板材の底面まで回転工具を挿入してしまうと、回転工具の先端が部材設置具表面付近まで達し、板材と部材設置具が接合されてしまうという問題があった。そのため、回転工具は部材設置具表面から僅かに離れたところまでしか挿入できない。そうすると、2枚の板材の突き合わせ部の底面付近(すなわち、回転工具の先端近傍)では塑性流動が不充分となるため、
図9に示すようなキッシングボンドと呼ばれる未接合領域が生じてしまう。最終的には、この未接合領域の厚さだけ、切削加工等により削除することで全体としてしっかりと接合された2枚の板材が得られるが、切削加工等の不要なプロセスが必要となり、且つ材料ロスも生じてしまう。
【0007】
この未接合領域が生じることをできるだけ軽減するために、上述した特許文献1あるいは2に開示されているように、回転工具の回転軸と2枚の金属の板材の付き合わせた箇所とを一致する状態で加工することが行われている。しかし、2枚の金属が異種の金属である場合、2種の金属が互いに相手側に流動し、2種の金属が不均一に混在する領域が生じてしまう。このような領域ではボイド等の欠陥が生じることが多く、また異種の金属が混在しているため、超音波等を用いた非破壊のボイド検査を行うことができない。
さらに、2種の金属は硬度や塑性流動時の粘性が異なる。回転工具を硬度や粘度の異なる境界に挿入し、境界線に沿って移動させると、移動方向に直交した方向に力が掛かる等、回転工具に大きな負荷が掛かってしまう。また、塑性流動時の粘性が高い金属が回転工具に付着するといった問題も生じる。
【0008】
以下、本発明が解決しようとする課題についてまとめる。
摩擦攪拌接合は技術の革新期にあり、未だに解決されていない、あるいは十分に認識すらされていない課題が存在する。上述した課題もそういった課題の一つである。
特に、異種金属の接合において、この課題は顕著になる。すなわち、底面付近に大きな未接合部分であるキッシングボンドが生じることもクリミティブな課題であるが、それに加えて、底面付近だけではなく、接合部全体に渡り接合強度の低下を引き起こす可能性がある。接合部全体に渡り、異種金属が混在する領域が生じることがその要因である。性質の異なる異種金属が混在すると、ボイド等の金属接合を弱体化する欠陥が生じやすくなるため、接合強度が低下する。それだけではなく、この欠陥の存在により、接合の経時劣化が助長される可能性もあり、長期的な安定性が求められる接合技術においては致命的な課題と言える。非破壊検査を行うことが困難になることも、さらに問題を深刻化している。
このような重大な課題が存在するにもかかわらず、現時点において、十分に有効な対策は提案されていない。
【0009】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、異種の金属を接合する場合であっても、良好な接合が得られる異種金属接合体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る第1の異種金属接合体の製造方法は、異なる金属である2つの部材を突き合わせて、摩擦攪拌接合により接合するものであって、
上記異なる金属である2つの部材を設置する接地面に凹部を設け、2つの部材の突き合わせ面が当該凹部に沿うように2つの部材を設置し、
上記凹部内に上記2つの部材を構成する金属のいずれかよりも融点の低い金属部材を設置し、
上記突き合わせた境界に回転工具の端部が略一致するようにして、回転工具を挿入することを特徴とするものである。
この発明に係る第2の異種金属接合体の製造方法は、異なる金属である2つの部材を突き合わせて、摩擦攪拌接合により接合する異種金属接合体の製造方法であって、
上記異なる金属である2つの部材を設置する接地面において、2つの部材の突き合わせ面に沿うように上記2つの部材を構成する金属のいずれかよりも融点の低い金属部材を設置し、
上記突き合わせた境界面上に回転工具の端部が略一致するようにして、回転工具を挿入することを特徴とするものである。
【0011】
また、この発明に係る異種金属接合体の製造方法は、上記異なる金属の内、硬度が小さい方の金属で構成される部材側に回転工具の回転中心を挿入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
上述した重大な課題を解決するため、まず、異種金属が混在する領域が生じることを抑制することを勘案した。すなわち、回転工具の端部を突き合わせた2つの部材の境界付近までずらして接合を行った。その結果、混在領域を十分に小さくなるまで抑制することが可能となり、2つの部材の上方ではボイド等の欠陥の少ない良好な結合が得られた。しかし、予想しなかった別の問題が生じてしまった。それは、底面部分では、未接合部分であるキッシングボンドが拡大してしまうという新たな課題である。これは、回転工具位置をずらしたために、回転工具が挿入できない底面付近では、2つの部材間の流動が制限され、底面よりかなり高い位置まで未接合、あるいは接合が不十分な領域が拡大したと考えられる。
そこで、接地面に凹部を設ける等により、回転工具をより深く挿入できるようにした。これにより、上面から底面に至るまで良好な接合ができることを見出した。
【0015】
良好な接合が得られるだけではなく、さらに副次的な効果も得られた。
まず、回転工具を突き合わせ面に沿って移動する際に抵抗を小さくする等の理由で、回転工具を少し傾けて挿入することが行われている。これにより回転工具の劣化を抑制できる。しかし、回転工具を傾けて挿入すると底面付近でキッシングボンドが拡大してしまう。特に異種金属の接合では顕著になる。そこで、回転工具をより深く挿入できるようにしたことで、この問題も解決できた。
また、異種金属の接合では、それぞれの金属の流動時の粘性等が異なるため、回転工具に移動方向に直交する方向の力が生じ、回転工具の劣化を早めやすい。しかし、回転工具の位置をずらして、ほぼ一方の金属にだけ挿入することで、回転工具に掛かる垂直方向の力を大きく緩和し、劣化を抑制できる。
そして、流動時の粘性の小さい金属だけに回転工具を挿入できるため、回転工具への金属の付着も抑制できる。すなわち、付着した金属を除去する等のメンテナンスの頻度を減らすことができる。
また、上記2つの部材を構成する金属のいずれかよりも融点の低い金属部材を用いるため、2種の接合部材はしっかりと底部まで接合が行え、一方、これらの部材と犠牲材とした上記金属部材は接合しないという好適な状況を実現できる場合が多い。
【0016】
以上のように、「接地面に凹部を設けること」と「突き合わせた境界に回転工具の端部が略一致するようにしたこと」により、異種金属においても底面まで良好な接合が得られただけではなく、回転工具への負担を減らし、且つメンテナンス性を向上するという効果も得られた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る異種金属接合体の製造方法において、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入する前の様子を表す模式的斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る異種金属接合体の製造方法において、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入した状態を表す模式的斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る異種金属接合体の製造方法において、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入し掃引している状態を表す模式的斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係る異種金属接合体の製造方法において、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入し掃引している状態を表す模式的側面透過図である。
【
図5】本発明の実施の形態1に係る異種金属接合体の製造方法において、接合箇所を表す上面図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係る異種金属接合体の製造方法において、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入し掃引している状態を表す模式的斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態2に係る異種金属接合体の製造方法において、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入し掃引している状態を表す模式的側面透過図である。
【
図8】本発明の実施の形態1に係る異種金属接合体の製造方法において、接合完了後の接合された部材の斜視図である。
【
図9】参考図であり、従来の異種金属接合体の製造方法において、底面側に生じたキッシングボンドを観察した側面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の異種金属接合体の製造方法について、以下に良好な2つの実施の形態を開示する。これらの実施の形態は本発明を良好に実施するための良好な製造方法の例を開示するものであり、本発明をこれらの実施の形態に示す製造方法に具体的に限定するものではない。
【0019】
実施の形態1.
まず、図を用いて、異種金属を接合する際の接合動作について説明する。
図1は、2つの部材を接合するに際して、回転工具1bを挿入する前の様子を表す模式的斜視図である。
図2は、回転工具を挿入した状態を表す模式的斜視図である。そして、
図3は、回転工具を挿入し掃引している状態を表す模式的斜視図である。
【0020】
本実施の形態に係る異種金属接合体の製造方法は、異なる金属である2つの部材2、3を突き合わせて、摩擦攪拌接合により接合するものであり、上記異なる金属である2つの部材2、3を設置する部材設置部4の接地面に凹部4aを設け、2つの部材2、3の突き合わせ面が当該凹部4aに沿うように2つの部材2、3を設置し、上記突き合わせた境界に回転工具1bの端部が略一致するようにして、回転工具1bを挿入する。
【0021】
摩擦攪拌接合を行うための摩擦攪拌接合装置挿入部1は、安定した大きなトルクを生じるために大きな回転モーメントを有するショルダー部1aと、回転工具1bからなる。回転工具1bは、ショルダー部1aと中心軸を一にし、ショルダー部1aの下方に設けられ、直径が数mmから10mm程度の細い部位である。摩擦攪拌接合装置挿入部1は、例えば、1000から2000rpm程度で回転する。そして、
図1の白抜き矢印の方向、すなわち、下方の部材2、3に向かって下降する。
【0022】
そして、
図2に示すように、回転工具1bが部材2、3に挿入される。挿入時に、回転工具1bは回転抵抗を受けるが、ショルダー部1aが大きな回転モーメントを有しているため、回転速度はほとんど減速せずに、回転工具1bは部材2、3に挿入される。
【0023】
挿入後、摩擦攪拌接合装置挿入部1は、
図2の白抜き矢印の方向に移動する。すなわち、部材2、3の突き合わせ面に沿って移動する。移動時の様子を
図3に示す。回転工具1bが通過した個所は接合6が施される。回転工具1bが端部まで移動すれば、接合は完了する。移動速度は、部材の厚みによっても異なるが、厚み10mmの場合に、毎分150mmから250mm程度である。
【0024】
図4は、2つの部材を接合するに際して、回転工具を挿入し掃引している状態を表す模式的側面透過図である。
図1から
図3の右側の側面方向から見た透過図である。この図から分かるように、摩擦攪拌接合装置挿入部1は、点線で示す鉛直方向(部材面に垂直な方向)に対して3°程度傾いている。回転工具1bの下方が移動方向に突き出す向きに傾いている。このように、摩擦攪拌接合装置挿入部1をわずかに傾ている理由は二つある。
【0025】
第一の理由は、移動時の抵抗が小さくなり、回転工具1bの損傷や劣化を抑制できるためである。
第二の理由は、回転工具1bの回転による塑性流動した部材の一部が、飛び出すのを抑制するためである。
図4において、塑性流動した部材の一部の飛び出しは、摩擦攪拌接合装置挿入部1を傾けたことにより、回転工具1bの左側で多く生じる。この飛び出しは、ショルダー部1aがある程度抑えることが可能である。
ただし、このように摩擦攪拌接合装置挿入部1を傾けると、接合体上面に少し凹みが生じることがあり、接合体の使用目的に応じては、摩擦攪拌接合装置挿入部1を傾けないで接合しても良い。
【0026】
回転工具1bの下端は、凹部4aを設けたことで、部材2、3を厚み方向に貫いて挿入することができる。部材2、3を厚み方向に貫いても、凹部4aの効果で、部材2,3と部材設置部4の表面が接合されることは無い。
【0027】
なお、回転工具1bは、部材2、3を厚み方向に完全に貫く必要は無く、回転工具1bの下端が部材2,3の底部に接する程度に挿入することでも良好な接合が可能である。
【0028】
図5は、接合箇所6を表す上面図である。点線は、部材2と部材3の接合面、すなわち、突き合わせた境界を表している。この境界に回転工具1bの端部が略一致するようにして、回転工具を挿入する。
図5(a)は、回転工具1bの端部が0.1mm程度、部材2に入り込んだ状態であり、
図5(b)は、回転工具1bの端部が部材2に入り込まず、ほぼ境界位置から0.1mm程度右側にある状態である。
図5(a)、(b)ともに良好な接合が可能であり、このように、境界に回転工具1bの端部が略一致していればよい。
【0029】
図5(a)、(b)ともに、回転工具1bの回転中心は部材3内に位置している。回転工具1bの回転中心が位置する部材は、硬度が小さい部材の方が良い。例えば、部材2をCu、部材3をAlとした場合、Alの方が硬度が小さく、その場合には、回転工具1bの回転中心は部材3内に位置させる。
【0030】
以上のように、回転工具1bの大部分を硬度の小さい部材側に位置させることで、回転工具1bの挿入、および境界に沿った移動が容易になり、回転工具1bの劣化も抑制できる。
さらに、回転工具1bの大部分がひとつの部材側に位置していることで、2つの部材が流動し、混在する領域が広がることも抑制できる。また、Cuのように粘性の高い部材は、回転工具1bに付着するが、それも最小限に抑えることができる。回転工具1bにCuが大量に付着すると、次の接合前にCuを切削除去する必要が生じるが、その作業を行わなくて済むというメリットが生じる。これらの効果は、回転工具1bの全てがひとつの部材側に位置することでより顕著になるため、
図5(b)がより望ましい。
なお、接地面に設けた凹部4aは、接合箇所6の幅方向をカバーできる幅を有していれば良い。そして、2つの部材2、3を設置する際には、接合箇所6を予め考慮し、予定されている接合箇所6の幅方向の中心位置と凹部4aの幅方向の中心位置とが略一致するように、且つ、2つの部材2、3の突き合わせ面が当該凹部4aに沿うように、2つの部材2、3を設置するのが良い。
【0031】
一方、回転工具1bの大部分がひとつの部材側に位置することの懸念点は、部材の底部側の接合が困難になることである。しかし、凹部4aを設けたことにより、
図4に示すように、回転工具1bを深く挿入可能であり、底部まで良好な接合が可能となり、
図9において観察されるキッシングボンドが生じることの無い良好な接合が可能である。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態1においては、部材設置部4に凹部4aを設けたことで、異種金属であっても良好な接合が可能であることを示した。
本実施の形態においては、この凹部4aに犠牲材を設けることでも、良好な接合が得られることを以下に示す。
【0033】
実施の形態1と異なる点は、
図6に示すように、凹部4aに犠牲材を設けている点のみである。また、接合の手順等は、実施の形態1で示した手順等と同様であり、それに関しての説明は省略する。
【0034】
図7は、実施の形態1における
図4に相当する図であり、回転工具1bを挿入し掃引している状態を表す模式的側面透過図である。凹部4a内には犠牲材5が設置されている。
接合に際して、回転工具1bの先端が犠牲材5の表面に当たるか当たらないか、あるいは、わずかに挿入される程度が望ましい。いずれの場合も、実施の形態1と同様に、部材2,3の底部まで良好な接合が行える。
【0035】
接合が完了すると、
図8に示すように、犠牲材5が部材2,3の底面に接合された状態になる場合がある。この場合には、犠牲材5を切削加工によりすべて削ればよい。犠牲材5は、部材2,3に比べて面積はわずかであるため、容易に削り落とすことができる。
【0036】
犠牲材は、部材2や部材3のいずれかと同種の金属であっても良い。あるいは、部材2、部材3のいずれか一方よりも低融点の材料を用いても良い。
例えば、部材2がCu(融点 1085℃)、部材3がAl(融点 660℃)である場合には、例えば、黄銅を犠牲材5として用いても良い。特に、Znの比率を増やして融点を700℃から800℃程度にすると、部材2、3と接合されず、犠牲材の切削削除の加工が不要であった。このように、部材2、3のいずれか一方よりも低融点の材料からなる犠牲材を用いれば、2種の接合部材はしっかりと底部まで接合が行え、一方、これらの部材と犠牲材は接合しないという好適な状況を実現できる場合が多い。
【0037】
この理由については明確ではないが、低融点材料は回転工具1bの回転により流動しやすく、周辺に逃げやすくなる。このため、仮に接合しても欠陥が多い接続となり、結果的に接合しないことが起こっている可能性が高いと思慮している。
【0038】
<本発明のまとめ>
以上、2つの実施の形態において、異種の金属部材を接合する場合であっても、部材の底部に至るまでしっかりと接合できる良好な接合が可能な異種金属接合体の製造方法について詳述した。
【0039】
この発明に係る異種金属接合体の製造方法の有する特長を以下に列挙する。
第一に、異種の金属部材を接合する場合であっても、部材の底部に至るまでしっかりと接合できる。すなわち、上部から底部に至るまで、いわゆるキッシングボンドが生じない良好な接合が可能である。
【0040】
第二に、2種の金属部材それぞれが互いに攪拌し、不均質に混在する領域が生じない。したがって、接合部近傍にボイド等の欠陥が生じにくく、また超音波等を用いた非破壊試験でボイドの存在等の検査が容易に行える。
【0041】
第三に回転工具に掛かる負荷が小さく、工具の劣化を抑制できる。また、粘性が大きい金属の回転工具への付着も抑制できる。
【符号の説明】
【0042】
1 摩擦攪拌装置挿入部
1a ショルダー部
1b 回転工具(プローブ部)
2 部材A
3 部材B
4 部材設置部
4a 凹部
5 犠牲材
6 接合済箇所