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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230428BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230428BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020502084
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2019001805
(87)【国際公開番号】W WO2019163367
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018032472
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 淵龍
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/133107(WO,A1)
【文献】特開2014-063733(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052542(WO,A1)
【文献】特開2014-194930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備え、
前記正極活物質は、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物を有し、
前記非水電解質は、
含フッ素環状カーボネートを含む非水溶媒と、
下式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体と、
【化1】
(式中、Rは-C2n-CH=CHであり、R、Rは独立して、H又は-C2n-CH=CHであり、nは整数である)
下式(2)で表される環状カルボン酸無水物と、
【化2】
(式中、R~Rは独立して、H、アルキル基、アルケン基、又はアリール基であり、mは0、1又は2である)を含み、
前記含フッ素環状カーボネートの含有量は、前記非水溶媒の総体積に対して10体積%以上30体積%以下である非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記複合酸化物は、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が75モル%以上である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記環状カルボン酸無水物の含有量は、前記非水電解質の総質量に対して0.1質量%以上1.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記イソシアヌル酸誘導体の含有量は、前記非水電解質の総質量に対して0.1質量%以上1.5質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記環状カルボン酸無水物は、コハク酸無水物及びグルタル酸無水物のうち少なくともいずれか一方を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記イソシアヌル酸誘導体は、イソシアヌル酸トリアリルを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記複合酸化物は、Co、Al及びMnのうち少なくともいずれか一方を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極と、負極と、非水電解質とを備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極と、負極と、含フッ素環状カーボネートを含む電解液と、を備える非水電解質二次電池が開示されている。特許文献1では、含フッ素環状カーボネートを含む電解液を用いることで、室温でのサイクル特性が改善されることが記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、含フッ素環状カーボネートを含む電解液に、イソシアヌル酸トリアリル等のイソシアネート化合物を添加することで、電池性能を向上させる効果があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-182807号公報
【文献】特開2014-194930号公報
【発明の概要】
【0006】
しかし、含フッ素環状カーボネートとイソシアネート化合物とを含む電解液を用いた非水電解質二次電池では、高温環境下(例えば、45℃以上)での電池容量(初期容量)及び充放電サイクル特性の低下が問題となる。特に、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上であるリチウム複合酸化物を含む正極活物質を用いた非水電解質二次電池においては、上記問題が顕著となる。
【0007】
そこで、本開示は、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物を含む正極活物質を用いても、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制することが可能な非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様に係る非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備え、前記正極活物質は、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物を有し、
前記非水電解質は、
含フッ素環状カーボネートを含む非水溶媒と、
下式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体と、
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは-C2n-CH=CHであり、R、Rは独立して、H又は-C2n-CH=CHであり、nは整数である)
下式(2)で表される環状カルボン酸無水物と、
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R~Rは独立して、H、アルキル基、アルケン基、又はアリール基であり、mは0、1又は2である)を含むことを特徴とする。
【0013】
本開示の一態様に係る非水電解質二次電池によれば、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物を含む正極活物質を用いても、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本開示における非水電解質の作用について)
含フッ素環状カーボネートを含む非水電解質では、初期の充電時に、負極表面で、含フッ素環状カーボネートの一部が分解され、負極表面に被膜(SEI被膜)が形成される。通常、含フッ素環状カーボネート由来のSEI被膜が形成されることで、その後の充放電過程で起こる非水電解質の分解が抑制されるが、含フッ素環状カーボネート由来のSEI被膜は、熱的安定性に欠けるため、高温環境下では、当該SEI被膜が破壊される。その結果、充放電過程で起こる非水電解質成分の分解が進行し、電極反応を阻害する副反応生成物が電極上に堆積するため、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下が引き起こされる。
【0016】
ここで、従来、電池性能を向上させることで知られるイソシアヌル酸誘導体を含フッ素環状カーボネートと共存させることで、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制することができるものと考えられるが、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物を含む正極活物質を用いた場合には、依然として上記抑制効果は得られない。これは、正極活物質の表面において、Niとイソシアヌル酸誘導体を含んだ非水電解質との副反応が起こり、これにより生成した可溶解性の反応生成物が負極に泳動して、負極表面の被膜を変質させたためであると推測される。
【0017】
しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、以下の実施形態で説明する環状カルボン酸無水物とイソシアヌル酸誘導体とを共存させることで、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下が抑制されることを見出した。これは、以下で説明する環状カルボン酸無水物とイソシアヌル酸誘導体との共存により、Niに起因した上記副反応により生成した可溶解性の反応生成物に耐性を有する被膜が負極表面に形成されたためであると推測される。具体的には、環状カルボン酸無水物は電解液に含まれる水分を吸収し、電解液中の電解質塩と水分との反応による電解質塩の分解が抑制され、電解質塩分解生成物の生成が減少する。その結果、この負極表面の被膜に含まれる電解質塩分解生成物の割合が減少するので、負極表面被膜の強度が増し、耐性が向上するものと推測される。
【0018】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。
【0019】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。図1に示す非水電解質二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(ラミネート型電池)などが例示できる。
【0020】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0021】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0022】
図1に示す非水電解質二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0023】
正極、負極、セパレータ、非水電解質について詳述する。
【0024】
[水電解質]
非水電解質は、含フッ素環状カーボネートを含む非水溶媒と、イソシアヌル酸誘導体と、環状カルボン酸無水物と、電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0025】
非水溶媒に含まれる含フッ素環状カーボネートは、少なくとも1つのフッ素を含有している環状カーボネートであれば特に制限されるものではないが、例えば、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,2,3-トリフルオロプロピレンカーボネート、2,3-ジフルオロ-2,3-ブチレンカーボネート、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2,3-ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうちでは、高温環境下でのフッ酸の発生量が抑制される点等から、FECが好ましい。
【0026】
含フッ素環状カーボネートの含有量は、例えば、非水溶媒の総体積に対して、0.1体積%以上30体積%以下であることが好ましく、10体積%以上20体積%以下であることがより好ましい。含フッ素環状カーボネートの含有量が0.1体積%未満では、含フッ素環状カーボネート由来のSEI被膜の生成量が少なく、室温でのサイクル特性が低下する場合がある。また、含フッ素環状カーボネートの含有量が30体積%超では、含フッ素環状カーボネート由来のSEI被膜の生成量が多くなり、イソシアヌル酸誘導体及び環状カルボン酸無水物の添加効果が充分に発揮されない場合がある。
【0027】
非水溶媒は、含フッ素環状カーボネート以外にも、例えば、非フッ素系溶媒を含んでいてもよい。非フッ素系溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、カルボン酸エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの混合溶媒が例示できる。
【0028】
上記環状カーボネート類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等が挙げられる。上記鎖状カーボネート類の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0029】
上記カルボン酸エステル類の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0030】
上記環状エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0031】
上記鎖状エーテル類の例としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0032】
非水電解質中に含まれるイソシアヌル酸誘導体は、下式で表される。
【0033】
【化3】
【0034】
式中、Rは-C2n-CH=CHであり、R、Rが独立して、H又は-C2n-CH=CHである。nは整数であり、例えば、1~20が好ましい。なお、イソシアヌル酸と環状カルボン酸無水物とにより、強固な被膜が負極上に形成されるものと考えられるが、さらに、R~Rのうちの少なくとも1つにおける二重結合の存在により、被膜の高分子量化が図られ、より強固な被膜が形成されるものと推察される。
【0035】
非水電解質中に含まれるイソシアヌル酸誘導体は、上式で表される物質であれば特に制限されるものではないが、例えば、イソシアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリブテニル、イソシアヌル酸トリペンテニル、イソシアヌル酸トリヘキセニル等が挙げられる。これらの中では、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制する点等から、イソシアヌル酸トリアリル好ましい。イソシアヌル酸トリアリルは以下の構造式で表される。
【0036】
【化4】
【0037】
非水電解質中に含まれるイソシアヌル酸誘導体の含有量は、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制する等の点で、例えば、非水電解質の総質量に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲が好ましく、0.25質量%以上1質量%以下の範囲がより好ましく、0.25質量%以上0.5質量%以下の範囲がより好ましい。含有量が0.1質量%未満では高温環境下での充放電サイクル特性の低下を抑制する効果が小さくなる場合があり、1.5重量%を超えると高温環境下での電池容量の低下を抑制する効果が小さくなる場合がある。これは、活物質表面への被膜生成が多くなりすぎ、活物質でのリチウムイオンの吸蔵放出を阻害して電池容量低下するためであると考えられる。
【0038】
非水電解質中に含まれる環状カルボン酸無水物は、下式で表される。
【0039】
【化5】
【0040】
(式中、R~Rが独立して、水素、アルキル基、アルケン基、又はアリール基であり、mは0、1又は2である)。
【0041】
非水電解質中に含まれる環状カルボン酸無水物としては、上式で表される物質であれば特に制限されるものではないが、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制する等の点で、コハク酸無水物、グルタル酸無水物のうち少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。これらの中では、高温環境下でのガス発生を抑制する等の点で、コハク酸無水物が好ましい。
【0042】
コハク酸無水物は以下の構造式で表される。
【0043】
【化6】
【0044】
グルタル酸無水物は以下の構造式で表される。
【0045】
【化7】
【0046】
非水電解質中に含まれる環状カルボン酸無水物の含有量は、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制する等の点で、例えば、非水電解質の総質量に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲が好ましく、0.25質量%以上1質量%以下の範囲がより好ましく、0.25質量%以上0.75質量%以下の範囲がより好ましい。含有量が0.1質量%未満では高温環境下での充放電サイクル特性の低下を抑制する効果が小さくなる場合があり、1.5重量%を超えると高温環境下での電池容量の低下を抑制する効果が小さくなる場合がある。
【0047】
非水電解質に含まれる電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩には、従来の非水電解質二次電池において支持塩として一般に使用されているものを用いることができる。具体例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0048】
[正極]
正極11は、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極11は、例えば、正極活物質、結着材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極活物質層を正極集電体上に形成することにより作製できる。
【0049】
正極活物質層は、正極活物質を含む。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、結着材や導電材を含むことが好適である。
【0050】
正極活物質は、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物(以下、単に複合酸化物と称する)を含む。Niの割合が33モル%以上である複合酸化物を含む正極活物質では、既述したように、ニッケルの酸化物に起因した副反応生成物の被膜が生成、成長するため、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性が低下する傾向にある。しかし、本実施形態のように、上記イソシアヌル酸誘導体及び環状カルボン酸無水物を共存させた電解液を適用することで、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制することが可能となる。複合酸化物粒子の含有量は、例えば、正極活物質の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0051】
複合酸化物のNiの割合は、リチウムを除く金属元素の総モル数に対して33モル%以上であればよいが、電池の高容量化を図る等の点で、75モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。
【0052】
複合酸化物は、例えば、一般式LixNiy(1―y)2{0.1≦x≦1.2、0.33≦y≦1、Mは少なくとも1種の金属元素}で表される複合酸化物であることが好適である。金属元素Mとしては、Co、Mn、Mg、Zr、Al、Cr、V、Ce、Ti、Fe、K、Ga、In等が挙げられる。これらの中では、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。特に、電池容量等の観点から、Co及びAlを含むことが好ましい。
【0053】
正極活物質は、上記複合酸化物以外のリチウム複合酸化物を含んでいてもよく、例えば、LiCoOやLiMn等のNi非含有の複合酸化物、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%未満である複合酸化物等が挙げられる。
【0054】
導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末を単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
結着材としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
[負極]
負極12は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、負極活物質を含み、その他に、増粘材、結着材を含むことが好適である。負極12は、例えば、負極活物質と、増粘材と、結着材とを所定の重量比として、水に分散させた負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極活物質層を負極集電体上に形成することにより作製できる。
【0057】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料や非炭素材料等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、繊維状炭素、コークス及びカーボンブラック等が挙げられる。非炭素系材料として、シリコン、スズ及びこれらを主とする合金や酸化物等が挙げられる。
【0058】
結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。増粘材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、一般式LiNi0.8Co0.15Al0.05で表されるリチウム複合酸化物を用いた。当該正極活物質が95質量%、導電材としてのアセチレンブラックが3質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンが2質量%となるように混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて正極合材スラリーを調製した。次いで、正極合材スラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を圧延して、正極集電体の両面に厚さ70μmの正極活物質層を形成した。これを正極とした。
【0062】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛が97質量%、増粘材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)が2質量%、結着材としてのスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)が1質量%となるように混合し、水を加えて負極合材スラリーを調製した。次いで、負極合材スラリーを厚さ10μmの銅製の負極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を圧延して、負極集電体の両面に厚さ100μmの負極活物質層を形成した。これを負極とした。
【0063】
[電解液の調製]
フッ素化エチレンカーボネート(FEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、20:80の体積比で混合した混合溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度となるように溶解させ、さらに、イソシアヌル酸トリアリル0.5質量%、コハク酸無水物0.5質量%を溶解させて電解液を調製した。
【0064】
[非水電解質二次電池の作製]
上記の正極及び負極を、それぞれ所定の寸法にカットして電極タブを取り付け、セパレータを介して巻回することにより巻回型の電極体を作製した。次に、電極体の上下に絶縁板を配置した状態で、直径18mm、高さ65mmのNiめっきを施したスチール製の外装缶に電極体を収容し、負極タブを電池外装缶の内側底部に溶接すると共に、正極タブを封口体の底板部に溶接した。そして、外装缶の開口部から、上記の電解液を注入し、封口体で外装缶を密閉して、非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
<実施例2>
電解液の調製において、コハク酸無水物をグルタル酸無水物に変更したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
<比較例1>
電解液の調製において、イソシアヌル酸トリアリル及びコハク酸無水物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
<比較例2>
電解液の調製において、コハク酸無水物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0068】
[高温充放電試験]
実施例及び比較例の各電池について、45℃の温度条件下、0.5It相当の充放電電流で、充電終止電圧4.1V、放電終止電圧3.0Vでの充放電を1サイクル行った。なお1Itは電池の定格容量を1時間で放電する電流値である。比較例1の電池の放電容量を基準として、実施例1、2及び比較例2の電池の放電容量の差分を算出した。その結果を表1に示す。
【0069】
[高温サイクル試験]
実施例及び比較例の各電池について、45℃の高温環境下で、0.5It相当の充放電電流で、充電終止電圧4.1V、放電終止電圧3.0Vでの充放電を100サイクル行った。100サイクル後の減少放電容量を算出した(1サイクル目の放電容量-100サイクル目の放電容量)。その結果を表1に示す。
【0070】
[平均作動電圧変化量]
各電池において、上記高温サイクル試験における100サイクル目の平均作動電圧から1サイクル目の平均作動電圧を差し引き、各電池の平均作動電圧変化量を求めた。その結果を表1に示す。なお、平均作動電圧は以下の式により求められる。
【0071】
平均作動電圧(mV)=放電容量(Wh)/放電容量(Ah)
[高温保存試験]
各電池について、0.5It相当の充放電電流で、充電終止電圧4.1Vまで充電した各電池を、80℃の恒温槽で3日間保存後、電池内のガス量をガスクロマトグラフィーで測定し、測定したガス量を高温保存後のガス発生量とした。表1に、比較例1の電池の高温保存後のガス発生量を基準(100%)として、実施例1、2及び比較例2の電池の高温保存後のガス発生量を相対的に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1及び2の電池は、比較例1及び2の電池より、高温環境下での放電容量が増加し、充放電サイクル特性の低下が抑制された。これらの結果から、上記イソシアヌル酸誘導体及び環状カルボン酸無水物の両方を電解液中に添加することで、Ni及びLiを含み、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が33モル%以上である複合酸化物を有する正極活物質を用いた非水電解質二次電池において、高温環境下での電池容量及び充放電サイクル特性の低下を抑制することができると言える。
【0074】
また、表1の平均作動電圧変化量の結果から分かるように、実施例1及び2の電池では、1サイクル目の平均作動電圧より100サイクル目の平均作動電圧が増加した。一方、比較例1の電池では、1サイクル目の平均作動電圧より100サイクル目の平均作動電圧は低下した。電池の平均作動電圧が下がることは電池の抵抗が上がることを意味しているため、実施例1及び2の電池は、比較例1の電池より、高温環境下での電池抵抗の上昇が抑制されたと言える。
【0075】
実施例1及び2の電池の中では、環状カルボン酸無水物としてコハク酸無水物を用いた実施例1が、グルタル酸無水物を用いた比較例2より、高温環境下でのガス発生量が抑制された。
【符号の説明】
【0076】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 ケース本体
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 張り出し部
23 フィルタ
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
図1