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特許7270158圧縮機用モータ、圧縮機、および、圧縮機用モータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】圧縮機用モータ、圧縮機、および、圧縮機用モータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/50 20060101AFI20230428BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20230428BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20230428BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230428BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20230428BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
H02K3/50 A
F04B39/00 106A
H02K7/14 B
F25B1/00 396A
F25B1/00 396B
H01R4/18 A
H01R4/62 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018029703
(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2019146406
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-11-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】簗島 俊人
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 好彦
(72)【発明者】
【氏名】小礒 繁美
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033158(JP,A)
【文献】特開2010-166643(JP,A)
【文献】特開2015-070652(JP,A)
【文献】特公昭45-020870(JP,B1)
【文献】特開昭47-009385(JP,A)
【文献】特開平10-009139(JP,A)
【文献】実開昭53-030189(JP,U)
【文献】特開2015-171173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/50
F04B 39/00
H02K 7/14
F25B 1/00
H01R 4/18
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード線と、
表面に絶縁被膜を有する銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線が巻き付けられた固定子と、
前記固定子内で回転する回転子と、
内面に突起を有し、該突起により前記リード線と前記固定子巻線とを圧着させる導電性を有する接続部材と、
を備え、
前記リード線は、前記固定子巻線の一方側に配置されて前記接続部材により前記固定子巻線の前記一方側の面と圧着されており、
前記突起は、前記固定子巻線の他方側において、前記銅クラッドアルミニウム線の前記絶縁被膜および銅の層を突き破ってアルミニウムの領域にまで達しており、
前記銅クラッドアルミニウム線の断面積に対する該銅クラッドアルミニウム線の銅材部分の断面積が10%以上30%以下であることを特徴とする
圧縮機用モータ。
【請求項2】
前記接続部材は、黄銅またはリン青銅により形成されている請求項1に記載の圧縮機用モータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧縮機用モータを備える冷媒圧縮用の圧縮機。
【請求項4】
圧縮される冷媒がR410A、R404A、R448A、R449A、R407H、R32、R134aであり、前記冷媒と混合して循環する潤滑油がエーテル系の油であることを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
圧縮される冷媒がR22であり、前記冷媒と混合して循環する潤滑油が鉱油系の油であることを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【請求項6】
内部で回転子を回転させる固定子に、表面に絶縁被膜を有する銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線を巻き付ける巻き付け工程と、
導電性を有する接続部材の内面にある突起を用いてリード線と前記固定子巻線とを圧着させる圧着工程とを含み、
前記圧着工程では、前記リード線が前記固定子巻線の一方側に配置されて前記接続部材により前記固定子巻線の前記一方側の面と圧着されており、かつ、前記突起が前記固定子巻線の他方側において、前記銅クラッドアルミニウム線の前記絶縁被膜および銅の層を突き破ってアルミニウムの領域にまで達するように前記リード線と前記固定子巻線とを圧着させており、
前記銅クラッドアルミニウム線の断面積に対する該銅クラッドアルミニウム線の銅材部分の断面積が10%以上30%以下であることを特徴とする
圧縮機用モータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機用モータ、圧縮機、および、圧縮機用モータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉容器内にスクロールやロータリ等の圧縮要素とモータ(電動要素)を収納し、このモータにより圧縮要素を駆動して冷媒を圧縮する圧縮機が用いられている。モータは、コアに固定子巻線が巻装された固定子と、この固定子内で回転する回転子とから構成され、回転子に嵌合された回転軸により圧縮要素を回転駆動する。
【0003】
従来の圧縮機用モータでは、固定子巻線として銅線とアルミニウム線の二種類が採用されており、これらの上に耐冷媒性の絶縁皮膜がコーティングされていた。一般には、電気導電度を重視する場合に銅線が採用され、コストダウンや軽量化を重視する場合にアルミニウム線が採用されていた。
【0004】
固定子巻線としてアルミニウム線が採用される場合、アルミニウムと絶縁被膜との密着性は銅と絶縁被膜の密着性よりも悪いため、絶縁被膜がはがれることにより短絡が生じる可能性がある。
【0005】
特に、モータのコイルに対してワニス含浸処理を行う場合、加熱乾燥が行われるため、アルミニウムの表面に酸化膜ができやすく、絶縁被膜がはがれやすい。そのため、固定子巻線としてアルミニウム線が採用される場合、品質を担保することが難しくなる。
【0006】
このような課題を解決する技術として、特許文献1には、銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線を用いた圧縮機用モータが開示されている。アルミニウム線の周りを銅で被覆した銅クラッドアルミニウム線を用いることにより、固定子巻線の品質を保ちつつ、コストダウンや軽量化を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-33158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような固定子巻線とリード線との接続は、一般にははんだ付けにより行われるが、より効率的にモータを製造するにはこの工程には依然として改善の余地がある。また、固定子巻線とリード線とを接続する場合、両者が機械的に強い力で接するだけでなく、できるだけ電気抵抗が小さくなるようにする必要がある。
【0009】
本発明は、短絡が生じることを防止するとともに、固定子巻線とリード線との機械的接続および電気的接続を、工数を増やすことなく確実かつ効率的に行うことができる圧縮機用モータ、圧縮機、および、圧縮機用モータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧縮機用モータは、リード線と、表面に絶縁被膜を有する銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線が巻き付けられた固定子と、前記固定子内で回転する回転子と、内面に突起を有し、該突起により前記リード線と前記固定子巻線とを圧着させる導電性を有する接続部材と、を備え、前記リード線は、前記固定子巻線の一方側に配置されて前記接続部材により前記固定子巻線の前記一方側の面と圧着されており、前記突起は、前記固定子巻線の他方側において、前記銅クラッドアルミニウム線の前記絶縁被膜および銅の層を突き破ってアルミニウムの領域にまで達しており、前記銅クラッドアルミニウム線の断面積に対する該銅クラッドアルミニウム線の銅材部分の断面積が10%以上30%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の圧縮機は、上記圧縮機用モータを備える冷媒圧縮用の圧縮機である。
【0012】
本発明の圧縮機用モータの製造方法は、内部で回転子を回転させる固定子に、表面に絶縁被膜を有する銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線を巻き付ける巻き付け工程と、導電性を有する接続部材の内面にある突起を用いてリード線と前記固定子巻線とを圧着させる圧着工程とを含み、前記圧着工程では、前記リード線が前記固定子巻線の一方側に配置されて前記接続部材により前記固定子巻線の前記一方側の面と圧着されており、かつ、前記突起が前記固定子巻線の他方側において、前記銅クラッドアルミニウム線の前記絶縁被膜および銅の層を突き破ってアルミニウムの領域にまで達するように前記リード線と前記固定子巻線とを圧着させており、前記銅クラッドアルミニウム線の断面積に対する該銅クラッドアルミニウム線の銅材部分の断面積が10%以上30%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短絡が生じることを防止するとともに、固定子巻線とリード線との機械的接続および電気的接続を、工数を増やすことなく確実かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図
図2】本実施の形態に係るスクロール圧縮機の横断面図
図3】本実施の形態に係る固定子巻線の断面図
図4】リード線と固定子巻線との接続状態を示す図
図5図4に示すA-A’線で接続部を切断した断面図
図6】接続部の一例を示す平面図
図7】接続部の一例を示す側面図
図8図6に示すB-B’線で接続部を切断した断面図
図9】接続部により固定子巻線とリード線とがかしめられた状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下では、圧縮機がスクロール圧縮機である場合を例に挙げて説明を行うが、圧縮機の種類はスクロール圧縮機に限定されない。
【0016】
図1は、本実施の形態に係るスクロール圧縮機1の縦断面図、図2は、本実施の形態に係るスクロール圧縮機1の横断面図である。スクロール圧縮機1は、内部高圧型の圧縮機であり、図1に示すように、鋼板からなる縦型円筒状の密閉容器2、密閉容器2の内部に収納されたモータ(電動要素)20、および、モータ20の上側に位置して当該モータ20の回転軸22により駆動されるスクロール圧縮要素10を備える。
【0017】
密閉容器2は、底部をオイル溜6とし、モータ20およびスクロール圧縮要素10を収納する容器本体4、容器本体4の上部開口を閉塞するよう取り付けられた椀状のエンドキャップ4A、および、容器本体4の底部開口を閉塞するよう取り付けられた椀状のボトム4Bを備える。
【0018】
密閉容器2の内部には、上支持フレーム(支持フレーム)28が設けられており、この上支持フレーム28によって、密閉容器2の内部は、吐出室42とモータ室43とに区画されている。
【0019】
吐出室42は、上支持フレーム28のエンドキャップ4A側(上側)、モータ室43は上支持フレーム28のボトム4B側(下側)に形成されている。具体的には、吐出室42は、スクロール圧縮要素10とエンドキャップ4Aとの間に形成されている。
【0020】
この場合、上支持フレーム28の周縁部には、モータ20側に突出する複数(本実施の形態では4箇所)の台座部28Aが形成されており、各台座部28Aを溶接Wにより密閉容器2の容器本体4に固定している。
【0021】
また、上支持フレーム28の軸受部30近傍に対応する位置にある容器本体4(密閉容器2)には、金属管にて構成された吐出管50が溶接固定されており、この吐出管50は容器本体4の内部に所定の長さだけ延在し、上支持フレーム28下側のモータ室43内に開口している。
【0022】
また、スクロール圧縮要素10は、上支持フレーム28に固定された固定スクロール12、固定スクロール12に対して自転せずに旋回運動する揺動スクロール14を備える。固定スクロール12と揺動スクロール14は互いに噛み合わされた状態において、圧縮空間16(圧縮室)は、当該固定スクロール12と揺動スクロール14との間に形成されている。
【0023】
固定スクロール12は、円板状の鏡板12A、および、鏡板12Aに直立し、インボリュート曲線あるいはこれに近似する曲線状に形成されたラップ12Bを備える。また、固定スクロール12は、その中心部に吐出口17、外周部に吸込口18を備える。
【0024】
この吸込口18には、密閉容器2のエンドキャップ4Aを貫通して吸込管51が垂直方向から接続されている。また、吐出口17が連通している吐出室42の内部は、スクロール圧縮要素10(固定スクロール12と揺動スクロール14)と密閉容器2の内面(エンドキャップ4A及び容器本体4の内面)間に構成された連通路34を介して、モータ室43の内部に連通している。
【0025】
また、揺動スクロール14は、円板状の鏡板14A、鏡板14Aに直立し、固定スクロール12のラップ12Bと同一の形状に形成されたラップ14B、および、鏡板14Aのラップ14Bと反対面に突出するよう形成され、中心にボス孔を備えたボス29を備える。そして、上支持フレーム28の中央部には、下方に延在する軸受部30が形成されており、軸受部30に回転軸22の上部が支持されている。
【0026】
回転軸22の下部にはオイルポンプ76が設けられている。オイルポンプ76は回転軸22の回転によって密閉容器2のオイル溜6に溜まった潤滑油を吸い上げ、回転軸22の内部に形成されたオイル通路22Bを介してスクロール圧縮機1の摺動部(回転軸22と軸受部30との間、偏心軸22Aとボス29との間、揺動スクロール14と上支持フレーム28との間など)に潤滑油を供給する。
【0027】
モータ20はACモータ(誘導モータ)であり、複数枚の固定子鉄板が積層されたコア21に固定子巻線24が巻き付けられ、容器本体4の内面に焼き嵌めなどにより固定された固定子23、および、固定子23の内部で回転する回転子25を備える。回転子25の中心には、回転軸22が嵌合されている。
【0028】
回転軸22の下部(回転子25のボトム4B側)は、副軸受となる下支持フレーム52により支持されている。下支持フレーム52は、モータ20の下側で密閉容器2の容器本体4に溶接Wにより固定されている。
【0029】
モータ20を構成する回転軸22の上部先端には、回転軸22の軸芯と所定の距離だけ軸芯がずれた偏心軸(ピン)22Aが設けられており、偏心軸22Aは、揺動スクロール14のボス29のボス孔内に回転可能に挿入されている。
【0030】
固定スクロール12は、上支持フレーム28に複数本のボルト78(図1では1本のボルト78のみ図示している。)によって固定されており、揺動スクロール14はオルダムリング41、および、オルダムキーよりなるオルダム機構40によって上支持フレーム28に支持されている。これにより、揺動スクロール14は、固定スクロール12に対して、自転せずに旋回運動を行う。
【0031】
すなわち、回転軸22の軸芯に対して偏心した偏心軸22Aにより、回転軸22の軸芯に対して偏心して挿入されたボス29が駆動され、揺動スクロール14は、オルダムリング41により、固定スクロール12に対して自転しないように円軌道上を公転する。
【0032】
そして、この公転により、ラップ12Bとラップ14Bとの間に形成された三日月状の複数の圧縮空間16は徐々に縮小する。これによって、冷媒ガスは吸込管51から圧縮空間16に吸い込まれ、吸い込まれた冷媒ガスは次第に圧縮されて高圧ガスとなり、吐出口17から吐出室42に吐出される。
【0033】
モータ20を構成する固定子23は、密閉容器2(容器本体4)の内面に固定される。固定子23の周縁部と容器本体4の内壁との間には、所定の隙間23A(空間)が設けられている。隙間23Aは、固定子23の周囲の4箇所に略等間隔で形成され、隙間23A以外の箇所で、固定子23の周縁部が容器本体4の内面に固定されている。
【0034】
そして、モータ室43は、固定子23と密閉容器2内面との間の隙間23A(通路)を介して下部のオイル溜6に連通している。また、モータ室43の空間上部は密閉容器2を貫通して軸受部30の近傍で開口する吐出管50に連通している。
【0035】
また、上支持フレーム28の下面には、上支持フレーム28からモータ20側に延在して軸受部30の周囲を囲む遮蔽板54が設けられている。遮蔽板54は、軸受部30の外側に所定の距離だけ離れて設けられている。具体的には、遮蔽板54は、固定子23の固定子巻線24のコイルエンド24Aの内側で、回転子25の上方、もしくは、回転子25よりも外側に設けられている(図1参照)。
【0036】
回転子25の上面で遮蔽板54の内側には、バランサBが取り付けられている。また、密閉容器2には、密閉容器2を立設するための支持脚70が複数設けられている(図1では、支持脚70が2個だけ図示されている。)。
【0037】
さらに、モータ20を構成する固定子23には、モータ20に過電流が流れたときにモータ20に対する通電を停止して保護するための過電流保護装置(インターナルプロテクタ)26が設けられている(図2参照)。
【0038】
この過電流保護装置26は、遮蔽板54の外側に形成した連通路34から吐出管50に至るガス経路Pに配置されている。具体的には、過電流保護装置26は、図2に示すように、固定子23の固定子巻線24のコイルエンド24Aに設けられ、コイルエンド24Aの上支持フレーム28側に固定されている。
【0039】
連通路34の下側には、ガイド部材44(ガス流偏向部材)が設けられている。ガイド部材44は、吐出口17から吐出室42の内部に吐出され、連通路34を介して下方に向かう冷媒ガスの流れる方向を、遮蔽板54の方向、および、容器本体4(密閉容器2)の内周に沿った水平方向の少なくとも一方に変更する。これにより、冷媒ガスは、遮蔽板54と容器本体4(密閉容器2)の内面との間のガス経路Pを介して、吐出管50の方向に導かれる。
【0040】
吐出管50は、図示しない外部の凝縮器の入口側に接続され、吸込管51は、図示しない外部の蒸発器の出口側に接続されている。本実施形態におけるスクロール圧縮機1と凝縮器、図示しない減圧装置、蒸発器により冷媒回路が構成される。
【0041】
また、この冷媒回路には所定量の冷媒ガスが封入される。そして、スクロール圧縮要素10の吐出口17から吐出された冷媒ガスは、吐出室42、および、連通路34を通ってモータ室43の内部に至り、吐出管50から凝縮器、減圧装置、蒸発器に順次流入し、吸込管51からスクロール圧縮要素10の吸込口18に戻る。
【0042】
つぎに、スクロール圧縮機1の冷媒ガスおよびオイルの流れの概略を説明する。密閉容器2に取り付けられたターミナル49(図2参照)からモータ20に設けられた固定子23の固定子巻線24に通電され、回転子25が起動して回転軸22が回転すると、前述のように揺動スクロール14が公転する。
【0043】
この揺動スクロール14の公転により、吸込管51より吸込口18へ導かれた冷媒ガスは、スクロール圧縮要素10の圧縮空間16で圧縮された後、吐出口17から吐出室42へ吐出され、連通路34を介してモータ室43内に流入する。
【0044】
そして、冷媒ガスはガイド部材44の内部に流入し、冷媒ガスの方向が変わって冷媒ガスからの潤滑油の分離作用が高まる。ガイド部材44の内部に流入した冷媒ガスは流れ方向が変更され、上下方向および密閉容器2の中心方向(回転軸22の方向)に吐出されるが、モータ室43の上方には上支持フレーム28、下方には固定子23が存在するので、ほとんどの冷媒ガスは回転軸22の方向に向かって進む。
【0045】
ガイド部材44の内側(回転軸22の方向)には遮蔽板54を設けているので、回転軸22の方向に吐出された冷媒ガスは、遮蔽板54に衝突して乱流となる。このとき、ガス経路Pの内部の冷媒ガスは、図2の反時計方向に回転する回転子25により、ガイド部材44側から吐出管50の方向にガス経路Pの内部を移動する。その途中で冷媒ガスは、過電流保護装置26に衝突する。
【0046】
このように、冷媒は、容器本体4の内面だけでなく、ガイド部材44、遮蔽板54、過電流保護装置26などに衝突するので、冷媒ガス中に含まれるミスト状の潤滑油は、これらの部分に効率よく捕捉される。そのため、冷媒ガスからの潤滑油の分離作用が高まる。
【0047】
冷媒ガスからほとんどの潤滑油が分離された冷媒ガスは、その後吐出管50に至り、吐出管50からスクロール圧縮機1の外(密閉容器2の外)へ吐出される。
【0048】
冷媒ガスから捕捉された潤滑油は、固定子23と密閉容器2の内面との間の隙間23Aなどを通ってオイル溜6まで落下し、再びオイルポンプ76によって前述した摺動部に供給される。
【0049】
次に、図3を参照して本実施の形態にかかる圧縮機用モータ20の固定子巻線24について説明する。本実施の形態では、固定子巻線24に銅クラッドアルミニウム線Lを採用している。
【0050】
銅クラッドアルミニウム線Lは、図3に示すように、比重の小さいアルミニウムまたはアルミニウム合金を基体45とし、基体45を銅膜46で被覆し、さらに銅膜46を絶縁被膜47で被覆して形成されている。
【0051】
銅膜46とアルミニウムの基体45とは、製造工程の伸張により冷間圧接されて原子結合されている。また、銅クラッドアルミニウム線Lの比重は3.63で、銅線の比重8.89に対して極めて軽量となる。導電率比は、銅線1に対して銅クラッドアルミニウム線Lは0.68である。また、モータ20の固定子23の固定子巻線24にはワニス含浸処理が施される。
【0052】
つぎに、固定子スロットから引き出された固定子巻線24とリード線55との接続について説明する。図4は、固定子巻線24とリード線55との接続状態を示す図である。図5は、図4に示すA-A’線で接続部56を切断した断面図である。
【0053】
図4、および、図5に示すように、固定子巻線24とターミナル49に接続されるリード線55とは、導電性を有する接続部56によりかしめられて接続される。ここで、接続部56によりかしめられるリード線55の部分は、絶縁被膜55aが除去されて銅線55bが露出している。また、接続部56によりかしめられる部分以外の固定子巻線24は引出線用保護チューブ57で覆われている。
【0054】
なお、図4、および、図5の例では、リード線55、および、固定子巻線24が複数本の場合を示したが、リード線55、および、固定子巻線24は1本であってもよい。
【0055】
また、図6は、固定子巻線24とリード線55とをかしめる前の接続部56の構成の一例を示す平面図であり、図7は、接続部56の一例を示す側面図であり、図8は、図6に示すB-B’線で接続部56を切断した断面図である。また、図9は、接続部56により固定子巻線24とリード線55とがかしめられた状態を示す図である。
【0056】
図6図8、および、図9に示すように、接続部56は、内面に突起(セレーション)56aを有し、突起により銅線55bと絶縁被膜を表面に有する固定子巻線24とを圧着している。
【0057】
また、接続部56の突起は、銅線55bが設けられていない側から銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線24に接触し、固定子巻線24の絶縁被膜47および銅の層46を突き破って、アルミニウムの領域45にまで達している。
【0058】
このような接続部56を有する構成は、以下のようにして製造される。まず、内部で回転子25を回転させる固定子23に、表面に絶縁被膜を有する銅クラッドアルミニウム線からなる固定子巻線24をコイル状に巻き付け、固定子23をインサータ方式で固定子スロットに挿入する。
【0059】
固定子スロットに挿入された固定子巻線24のコイルエンド部における内径側部分、外径側部分、および、高さは、規定の形状となるよう成形する。そして、接続部56を用いて、固定子巻線24をリード線55の銅線55bの部分に電気的に接続する。例えば、このリード線55は、ターミナル49に接続されるリード線、および、プロテクタ用リード線である。
【0060】
具体的には、接続部56の内部に設けられた突起56aにより銅線55bと固定子巻線24とを圧着させる。その際、突起56aに固定子巻線24が接触するように固定子巻線24の一方に銅線55bを配置する。このように、突起56aと固定子巻線24とが確実に接触するように固定子巻線24と銅線55bとを分離して配置する。
【0061】
そして、図9に示すように、突起56aが固定子巻線24の絶縁被膜47および銅の層46を突き破ってアルミニウムの領域45にまで達するように銅線55bと固定子巻線24とを圧着させる。
【0062】
なお、銅線55bは細線を束ねた構造を有し、1本の細線の径は、セレーションによる断線防止のため0.3mm以上とすることが好ましい。
【0063】
このような構成により、銅線55bと固定子巻線24との間の圧着強度を大きくすることができる。
【0064】
また、突起56aが固定子巻線24の銅の層46を引き延ばしつつアルミニウムの領域45にまで達し、突起56aと、銅の層46、および、アルミニウムの領域45とが接するようになるため、突起56aと銅の層46との間の接触面積が大きくなり、接続部56と固定子巻線24との間の接触抵抗を小さくすることができる。
【0065】
その結果、固定子巻線とリード線との機械的接続および電気的接続を確実かつ効率的に行うことができる。また、圧着時に、固定子巻線24の絶縁被膜をはがす処理を行わないため、工数を増やすこともない。
【0066】
また、固定子巻線24として、表面に絶縁被膜を有する銅クラッドアルミニウム線を用いているため、表面に絶縁被膜を有するアルミニウム線を用いる場合のように、応力緩和(流間流れ)による接触不良を発生することを防止できる。
【0067】
さらに、圧着部位(面)が完全に封止されることにより、置かれる環境により生じる腐食等をも防止することができる。
【0068】
なお、上述したスクロール圧縮機1で用いられる潤滑油の種類については、圧縮される冷媒がR410A、R404A、R448A、R449A、R407H、R32、R134aである場合は、エーテル系の潤滑油を用いることが好ましい。これらの冷媒と溶解するエーテル系の潤滑油を用いることにより、環境に対する影響が少ない上記冷媒を効果的に使用することができる。
【0069】
一方、圧縮される冷媒がR22である場合には、鉱油系の潤滑油を用いることが好ましい。R22と溶解する鉱油系の潤滑油を用いることにより、熱に対して高い安定性を有し、優れた性能を有するR22を冷媒として効果的に使用することができる。
【0070】
また、図4に示した接続部56では、リード線55の銅材と、銅クラッドアルミニウム線の銅材およびアルミニウム材とがむき出しになるが、上述した冷媒と潤滑油の組み合わせはこれらの品質に悪影響を与えるものではないため、図4に示した接続部56を有するスクロール圧縮機1における使用に好適である。
【0071】
また、内面に突起を有する接続部56は、黄銅、または、リン青銅により形成されていることが好ましい。これらの材料を用いることにより、固定子巻線24の絶縁被膜および銅の層を突き破ってアルミニウムの領域にまで達するために十分な強度を有する突起を容易に形成することができる。
【0072】
さらに、銅クラッドアルミニウム線の断面積に対する銅クラッドアルミニウム線の銅材部分の断面積は、10%以上30%以下であることが好ましい。銅材部分の断面積をこのような範囲とすることにより、モータ20の重量が大きくなることを防止しつつ、冷媒を圧縮するモータ20に必要とされる十分な導電性を得ることができる。
【0073】
また、銅材部分の断面積が10%未満であると、銅材部分の厚さにばらつきが大きくなり、30%を超えると固定子巻線24の材料コストが銅線を用いた場合の材料コストの約60%以上になるので、銅クラッドアルミニウム線を用いるメリットが少なくなる。このようなことからも、銅材部分の断面積は、上記範囲内であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、圧縮機用モータ、圧縮機、および、圧縮機モータの製造方法に好適である。
【符号の説明】
【0075】
1 スクロール圧縮機
10 スクロール圧縮要素
20 モータ
21 コア
23 固定子
24 固定子巻線
25 回転子
55 リード線
56 接続部
図1
図2
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図9