(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】乳化イサダオイル
(51)【国際特許分類】
A23D 7/06 20060101AFI20230428BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A23D7/06
A23D7/005
(21)【出願番号】P 2018148427
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-07-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)、「三陸産イサダを全利用した高付加価値素材の効率的生産体系構築」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391003130
【氏名又は名称】甲陽ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 英文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 吉守
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-114247(JP,A)
【文献】特表2010-540636(JP,A)
【文献】特開平08-051928(JP,A)
【文献】特開2017-122067(JP,A)
【文献】特開2003-183691(JP,A)
【文献】特開昭62-011541(JP,A)
【文献】特開2010-142205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00- 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イサダオイルをサポニンで乳化させた、賦形剤を含有する乳化組成物
であって、
乳化組成物の固形分に対し、
イサダオイルが10質量%以上90質量%未満、
サポニンが0.05質量%以上5質量%未満である、乳化組成物。
【請求項2】
乳化組成物の固形分に対し、
イサダオイルが10質量%以上90質量%未満、
サポニンが0.05質量%以上5質量%未満、かつ
賦形剤が40~80質量%である、乳化組成物。
【請求項3】
抗酸化剤をさらに含む請求項1
又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
抗酸化剤がローズマリー抽出物を含む請求項
3に記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記サポニンがキラヤサポニンである請求項1~
4のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の乳化組成物を乾燥してなる粉末。
【請求項7】
イサダオイルをサポニンで乳化させ、賦形剤を含有する乳化組成物を生成する工程
であって、乳化組成物の固形分に対し、イサダオイルが10質量%以上90質量%未満、サポニンが0.05質量%以上5質量%未満である、乳化組成物を生成する工程、
及び
前記乳化組成物を乾燥し、粉末化する工程
を含むイサダオイル含有粉末の製造方法。
【請求項8】
前記乳化組成物の固形分に対し、賦形剤が40~80質量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
乳化が、ホモジナイザーによる機械的乳化を含む請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥が噴霧乾燥を含む請求項
7~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記乳化組成物がローズマリー抽出物をさらに含む請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イサダオイルの乳化に関する。
【背景技術】
【0002】
イサダは三陸地域での呼び名で、和名をツノナシオキアミ(学名 Euphausia pacifica、太平洋オキアミとも言う)と呼び、ツノナシオキアミから抽出された油をイサダオイルという。イサダオイルは特許文献1に記載された方法を始めとする公知の製造方法により製造されている。
【0003】
イサダオイルは、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などのω-3系脂肪酸、リン脂質そしてアスタキサンチンを天然に含有する海洋資源としてその機能性に注目を浴びている油脂である。魚油などにはトリグリセライドに結合した高度不飽和脂肪酸(TG-HUFA)が含まれるのに対して、イサダオイルの約30~65%の脂肪酸はリン脂質に結合した形で存在しており、中でもホスファチジルコリン(PC)に結合した高度不飽和脂肪酸(PC-HUFA)が多く、水に馴染みやすいn-3系高度不飽和脂肪酸(PUFA)の油脂としての特質を持つ。これはリン脂質に結合しているリン酸は親水性であり、脂肪酸部位は疎水性であることから両親媒性を示すことに由来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン脂質に結合するEPA又はDHA等の高度不飽和脂肪酸は二重結合を多く含むため、酸化され易く、酸化すると不快な匂いや味を生じる等、品質の維持が非常に難しいことが食品利用への妨げとなっている。しかしながら、イサダオイルの安定な乳化のための知見が全くないのが現状である。
【0006】
本発明が解決すべき課題は、安定性に優れたイサダオイルの乳化組成物、粉末、及び粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
【0008】
項1.イサダオイルをサポニンで乳化させてなる乳化組成物。
【0009】
項2.抗酸化剤をさらに含む項1に記載の乳化組成物。
【0010】
項3.前記サポニンがキラヤサポニンである項1又は2に記載の乳化組成物。
【0011】
項4.項1~3のいずれかに記載の乳化組成物に賦形剤を加え、乾燥してなる粉末。
【0012】
項5.イサダオイルをサポニンで乳化させ、乳化組成物を生成する工程、及び
前記乳化組成物を乾燥し、粉末化する工程を含むイサダオイル含有粉末の製造方法。
【0013】
項6.前記乳化がホモジナイザーによる機械的乳化を含む項5に記載の方法。
【0014】
項7.前記乾燥が噴霧乾燥を含む項5又は6に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乳化組成物及び粉末は、安定性、特には乳化安定性と酸化安定性に優れているため、食品(飲料、特定保健用食品、特定健康食品、サプリメントを含む)、一般用医薬品(大衆薬、OTC)、医薬部外品、化粧品等に広く使用することができる。
【0016】
また、本発明のイサダオイル含有粉末の製造方法によれば、イサダオイルを効果的に乳化させることができるため、安定性に優れたイサダオイル含有粉末を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】各種乳化剤を用いて調製したイサダオイルを含有する水中油滴型エマルションの経時的状態を示す写真。(a)キラヤニン, (b)カゼインナトリウム, (c)エマルアップ, (d)アラビアガム , (e)修飾デンプン。
【
図2】各種乳化剤により調製したエマルション溶液中の油滴径分布のグラフ。
【
図3】25℃におけるイサダオイルと抗酸化剤添加オイルの経時的な酸化安定性を示すグラフ。(a)EPA残留率。(b)DHA残留率。
【
図4】90℃におけるイサダオイルと抗酸化剤添加オイルの経時的な酸化安定性を示すグラフ。(a)EPA残留率。(b)DHA残留率。
【
図8】各種粉末の表面構造。左:機械的乳化7500rpm 右:抗酸化剤添加 7500rpm
【
図9】各種粉末の破断面構造。左:機械的乳化7500rpm 右:抗酸化剤添加 7500rpm
【
図10】抗酸化剤無添加及び添加粉末の吸光度を示すグラフ。
【
図11】50℃におけるオイル及び作製粉末の酸化安定性。(a)EPA残留率。(b)DHA残留率。
【
図12】オイル及び作製粉末のアスタキサンチンの退色変化。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、イサダオイルをサポニンで乳化させてなる乳化組成物を包含する。
【0019】
イサダオイルは、ツノナシオキアミから抽出された油であればよく、抽出方法は特に限定されない。例えば、イサダオイルは、特表2004-534800、再表2010/035749等の公知のオキアミオイルの抽出方法を用いて製造することができる。また、好ましいイサダオイルの製造方法の例が特許文献1に記載されている。
【0020】
乳化組成物中のイサダオイルの量は、乳化組成物の全質量に対して5~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることが好ましい。また、乳化組成物の固形分100質量%に対し、イサダオイルの量は10質量%以上90質量%未満であることが好ましく、50質量%より多く80質量%未満であることが好ましい。
【0021】
サポニンは、植物に広く分布する、ステロイドやトリテルペンに糖が結合した配糖体であって、泡立つコロイド水溶液を作る化合物の総称である。サポニンは乳化剤として公知であり、本願発明者らは、サポニンがイサダオイルを乳化させるのに特に優れた乳化剤であることを見出した。サポニンとしては、例えばキラヤサポニン、ユッカサポニン、ダイズサポニン、ニンジンサポニン、キキヨウサポニン、セネガサポニン等が挙げられ、イサダオイルの長時間の乳化安定化の点で、キラヤサポニンが好ましい。キラヤサポニンは、バラ科植物シャボンノキ(学名Quillaja saponaria Mol.)の樹皮に含まれるサポニンであり、商品名「キラヤニンC-100」(丸善製薬株式会社)、商品名「キラヤニン」(十全株式会社)等として商業的に利用可能である。通常、市販のキラヤ抽出物及びユッカ抽出物中のサポニンの含有量は1~10質量%である。なお、本発明において用いられるサポニンには、サポニンが部分的に加水分解された部分加水分解サポニンも含まれる。
【0022】
本発明の乳化組成物は、乳化剤としてサポニンを使用しているため、乳化組成物を、水相中に油滴が分散した状態で長期間安定に維持することができる。一実施形態では、本発明の乳化組成物は、25℃、大気圧(ほぼ一気圧)でのホモジェナイザーによる8000rpm、3分間の攪拌後、1時間後も水相中に油滴が分散した安定な状態であり、好ましくは2時間後も安定であり、さらに好ましくは3時間後も安定である。
【0023】
サポニンの配合量は特に限定されないが、乳化組成物の全質量に対して1~5質量%が好ましく、3質量%以下がより好ましい。また、乳化組成物の固形分100質量%に対し、サポニンの量は0.05質量%以上5質量%未満であることが好ましく、0.05~3質量%がより好ましい。
【0024】
本発明の乳化組成物は、抗酸化剤をさらに含んでもよい。抗酸化剤としてはローズマリー抽出物、アスコルビン酸ナトリウム等、任意の公知の抗酸化剤を使用してもよいが、イサダオイルの酸化安定化、EPA及びDHAの残留率の向上の点で、ローズマリー抽出物が好ましい。
【0025】
抗酸化剤の配合量は特に限定されないが、乳化組成物の全質量に対して1~6質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。また、乳化組成物の固形分100質量%に対し、抗酸化剤の量は0.05質量%以上6質量%未満であることが好ましく、0.05~3質量%がより好ましい。
【0026】
乳化組成物が水中油滴型乳化物(エマルション)である場合、エマルション中の平均油滴径は3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
乳化組成物は、サポニン以外の乳化剤、着色剤、フレーバー等の添加剤を含んでもよい。
【0028】
本発明は、上記乳化組成物に賦形剤を加え、乾燥してなる粉末も包含する。イサダオイルに賦形剤を加えて粉末化することは、イサダオイルの酸化安定性、取り扱い性、成形性の向上等の点で好ましい。
【0029】
賦形剤は、成形性の向上のために添加される添加剤であり、任意の公知の賦形剤を使用してもよいが、糖類が好ましく、多糖類がより好ましい。多糖類としては、増粘多糖類、でんぷん、マルトデキストリン(DE 10~20程度、DEはデキストロース当量)、及びデキストリン(DE 10 以下)から成る群から選択される少なくとも一つが挙げられ、マルトデキストリンが好ましい。 賦形剤の配合量は特に限定されないが、成形性向上の点で、乳化組成物の固形分質量に対して40~80質量%が好ましく、50~60質量%がより好ましい。
【0030】
該粉末の質量に対し、イサダオイルの量は10~50質量%が好ましく、30~40質量%がより好ましい。
【0031】
該粉末の粉末径は1~1000μmであることが好ましく、10~200μmであることがさらに好ましい。
【0032】
該粉末を蒸留水に入れて油滴を分散させた後に測定した平均油滴径である再構成油滴径は、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明は、イサダオイルをサポニンで乳化させ、乳化組成物を生成する工程、及び乳化組成物を乾燥し、粉末化する工程を含むイサダオイル含有粉末の製造方法を包含する。
【0034】
イサダオイルの乳化条件は特に限定されないが、乳化後のエマルションの油滴径及び粉末から再構成した油滴径を小さくするには高圧乳化が好ましく、酸化安定性のためには機械的乳化が好ましい。高圧乳化は、大気圧よりも高い圧力下での乳化であり、イサダオイル及びサポニンを含む試料へ適用する圧力は10MPa以上1000Mpa以下であることが好ましい。機械的乳化はホモジェナイザー、ボルテックス等を初めとする攪拌装置による乳化である。攪拌装置の回転速度は5000~10000rpmであることが好ましく、攪拌時間は30秒~3分であることが好ましい。
【0035】
乳化組成物の乾燥方法は特に限定されないが、噴霧乾燥、溶媒を用いた乾燥、凍結乾燥等が挙げられ、イサダオイル及びイサダオイル含有粉末の酸化安定性の点で、噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥は、気体中に乳化組成物を噴霧し、噴霧した乳化組成物を乾燥させることを含む。
【0036】
本発明のイサダオイルを含有する乳化組成物及び該乳化組成物を乾燥してなる粉末は安定性に優れているため、食品(飲料、特定保健用食品、特定健康食品、サプリメントを含む)、一般用医薬品(大衆薬、OTC)、医薬部外品、化粧品等に広く使用することができる。本発明のイサダオイルを含有する乳化組成物及び該乳化組成物を乾燥してなる粉末は、乳化安定性に優れる上、酸化安定性に優れたものとすることができる。
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0038】
実施例1 イサダオイルの乳化に適した乳化剤の選択
1.各種乳化剤によるイサダオイル乳化の観察
実験方法
ステンレスビーカーに秤量した蒸留水を注ぎ、秤量した賦形剤、秤量した乳化剤を順に溶解させて水溶性画分とし、これに秤量したイサダオイルを油溶性画分として加えた。イサダオイル、賦形剤、乳化剤、及び蒸留水は表2及び表3に示した組成で混合し、ポリトロンホモジェナイザー(PT10-35, Kinematica GA, Littau, Switzerland)で3分間、8000 rpm乳化操作した直後、1時間後、2時間後、3時間後のエマルション溶液の状態を肉眼で観察した。各試薬の入手先は下記の通りである。
【0039】
イサダオイル 商品名「コーヨークリルGT」、甲陽ケミカル株式会社 イサダオイルの組成は表1に示す通りであった。
【0040】
賦形剤 マルトデキストリン(DE19)、商品名 「パインデックス#4」(DE19) 、松谷化学工業株式会社)
乳化剤 キラヤニン (キラヤサポニンを含有)
カゼインナトリウム 商品名「B-100D」、三菱化学フーズ株式会社
牛乳カゼインの酵素分解物 商品名「エマルアップ」 森永乳業株式会社
アラビアガム 商品名「アラビアガム」 小川香料株式会社
修飾デンプン 商品名「PURITY GUM BE」 イングレディオン・ジャパン株式会社
【0041】
結果
エマルションの安定性を
図1に示す。キラヤニン
図1(a)を用いて調製したエマルションでは、期せずして、澱状の固形物が見られず、3時間経過しても相分離することなく安定であった。一方で、カゼインナトリウム(
図1(b))、エマルアップ(
図1(c))、アラビアガム(
図1(d))を乳化剤とした場合、エマルションが均一ではなく、溶液の上部に澱状の固形物が浮いているのが分かる。カゼインナトリウム、エマルアップ、アラビアガムのようにタンパク質系の乳化剤によって乳化した場合は澱状の固形物が生じたことから、イサダオイルに含まれるリン脂質と乳化剤のタンパク質が反応し複合体を形成したものと推察される。澱が形成されたままイサダオイルを含有する粉末を作製すると、粉末表面や内部に澱の一部が混入することでその部分が酸素の通り道となり、酸化安定性の低い粉末となることが考えられる。よって、カゼインナトリウム、エマルアップ及びアラビアガムは乳化イサダオイルの調製に用いる乳化剤としては適していない。また、修飾デンプンによりエマルションを調製した場合(
図1(e))、澱状の固形物が形成されることはなかったが(
図1(e)左)、赤い浮遊物質がエマルション上部に浮き
図1(e)中央)、ここで、エマルションを分取し蒸留水に溶かしたところ赤い浮遊物質が浮いてきた(
図1(e)右)。この結果から、修飾デンプンは澱を形成することなく乳化可能であるが、その乳化能は本実験においては十分でないことが判明した。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
2.イサダオイルを含有するエマルションの油滴径分布
実験方法
実施例1の1.で各種乳化剤を用いて調製した、イサダオイル含有エマルション中の油滴径をレーザー回折式粒度分布測定装置 (SALD-7100,島津製作所, Japan)により測定した。油滴を分散させるのに蒸留水を使用した。吸光度は1.70-0.20iで測定した。本実験では平均粒子径を油滴径の大きさとし、サンプルそれぞれ3回ずつ測定しその平均を求めた。油滴径測定の際、澱を形成したエマルションでは澱を避け、下部の均一な部分を分取して測定した。また、修飾デンプンを用いて調製したエマルション溶液では赤い浮遊物質を避けて分取測定した。
【0046】
結果
エマルション溶液中の油滴の平均径を下の表4に、油滴径分布を
図2に示す。
図2によると、カゼインナトリウムとアラビアガムを使用したイサダオイル含有エマルション中の油滴には非常に径が大きなものがあり、カゼインナトリウムとアラビアガムは本実験においては乳化能が十分でないことが示された。また、
図2の修飾デンプンの油滴径分布は、油滴径分布が広く均一な油滴径でないことがわかる。よって、修飾デンプンも本実験においては乳化能が十分でないことが示された。キラヤニンとエマルアップに関しては油滴径分布もシャープであり、均一なエマルションであることが言えるが、しかし、エマルアップは1.で前述した通り澱を形成するため、イサダオイルの乳化に用いる乳化剤には適さず、キラヤニンが適していることが示された。
【0047】
【0048】
実施例2.イサダオイル及び作製粉末の酸化安定性の検討
1.イサダオイルの安定性に抗酸化剤が与える影響
実験方法
イサダオイルの安定性に抗酸化剤が与える影響について検討するため、25℃においてイサダオイルの貯蔵実験を行った。抗酸化剤としてイサダオイル(商品名「コーヨークリルGT」、甲陽ケミカル株式会社)中にローズマリー抽出物(商品名「RMキーパーOSE」、三菱ケミカルフーズ株式会社)を5wt%加えた。イサダオイル約0.2gを秤量し、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を2ml入れてオイルを溶解させた。ヘキサンを2ml入れボルテックスミキサー(G-560型, エムエス機器)で攪拌し、油分を抽出した。その後、ヘキサン層を回収し、0.5mlを分取して脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク株式会社)によってメチルエステル化し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MSQP5050A, 島津製作所, Japan)によってスペクトル解析し、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)のピーク面積を記録した。貯蔵前のEPA及びDHAのピーク面積で貯蔵後のEPA及びDHAのピーク面積を除した値をEPA及びDHAのそれぞれの残留率とし、その経日的な変化を観察することでイサダオイルの酸化安定性を評価した。
さらに、イサダオイルを90℃において1~2時間保持した場合のEPA及びDHAの残留率も調べた。
【0049】
結果
実験の結果を
図3に示す。
図3(a)において、EPAでは7日経過後の残留率は抗酸化剤無添加オイルが約79%で抗酸化剤添加オイルが約89%であった。つまり、EPAに関して抗酸化剤添加オイルは室温で1週間放置した状態でも90%近く残留し、抗酸化剤無添加オイルよりも残留率が10%程度高かった。
図3(b)において、DHAでは、7日経過後の残留率は抗酸化剤無添加オイルが約75%で抗酸化剤添加オイルが約87%であった。
【0050】
さらに、イサダオイルを90℃において1~2時間保持した場合のEPA及びDHAの残留率の結果を
図4に示す。抗酸化剤の添加によりEPA及びDHAの残留率が向上しており、短時間の高温保持において抗酸化剤の添加は有用であることが示された。
【0051】
2.抗酸化剤を用いたエマルション溶液の乳化及び噴霧乾燥による粉末の作製
実験方法
表5に示す組成表に基づいてエマルション溶液に抗酸化剤を添加し、ポリトロンホモジナイザーによる7500rpm、3分間の機械的乳化の乳化条件により噴霧乾燥粉末を作製した。噴霧条件は入口温度140 oC、流量25mL/min、風量110 kg/h、アトマイザー回転速度10,000 rpmとした。
【0052】
乳化後溶液の平均油滴径、乳化後溶液の粘度、作製粉末の含水率、作製粉末の再構成油滴径、及び作製粉末の粉末径を測定した。
【0053】
結果
表6に乳化後溶液の平均油滴径、乳化後溶液の粘度、作製粉末の含水率、作製粉末の再構成油滴径、及び作製粉末の粉末径を示す。
図5に乳化後溶液の油滴径分布、
図6に作製粉末の再構成油滴径分布、そして
図7に作製粉末径分布を示した。さらに、作製した粉末のSEM(JSM-6060, 日本電子株式会社JEOL, Japan)による表面構造及び破断面構造の観察結果を
図8, 9に示した。表6より、乳化後油滴径及び再構成油滴径ともに油滴径は同程度であった。粉末径に関しても、どちらの粉末も約58μmの大きさのものが作製できた。さらに、
図8より表面構造はどの粉末も凹凸やしわが多く見られた。
図9からは粉末内に包括されたイサダオイルが見られ、中実なものが複数観察された。
【0054】
【0055】
【0056】
3.抗酸化剤が作製粉末の経日的な酸化安定性に与える影響
実験方法
以上の2.の2種類の作製粉末について、抗酸化剤添加が粉末の酸化安定性に及ぼす影響について検討した。
図10に抗酸化剤無添加及び添加粉末の吸光度測定結果を、
図11にEPA及びDHA含量の経日的な残留率を、
図12にアスタキサンチンの退色変化を示した。
【0057】
アスタキサンチンの退色変化は、イサダオイル約0.2g又は粉末約0.5gを秤量し、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を2ml入れてオイル及び粉末を溶解させた。その後、溶解液を20μl分取してエタノール2mlで100倍希釈した。そして、遠心分離機(KUBOTA2010, 久保田製作所) によって4000rpmで5分間遠心し糖を除去した。そして紫外可視分光光度計によって478nmの吸光度を記録した。
【0058】
結果
図10より、抗酸化剤添加の有無に関わらず、貯蔵前の粉末では吸光度のスペクトルに殆ど差は見られなかった。しかし、2週間後のスペクトルを抗酸化剤の有無で比較すると、478nm付近において、抗酸化剤無添加粉末ではピークが消失しているが、抗酸化剤添加粉末では2週間が経過してもピークがまだ残っていることが確認された。また、
図11(a),(b)よりEPA及びDHAの2週間後の残留率が向上した。特にDHAの検討結果でより顕著に表れた。さらに、
図12より抗酸化剤を添加した作製粉末でアスタキサンチンの退色が非常に抑えられるという結果が得られた。したがって、抗酸化剤を添加することで作製粉末の酸化安定性に寄与することが示唆された。