(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】複室容器
(51)【国際特許分類】
B65D 81/32 20060101AFI20230428BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
B65D81/32 D
A61J1/05 351A
(21)【出願番号】P 2017563829
(86)(22)【出願日】2017-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2017002799
(87)【国際公開番号】W WO2017131109
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2020-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2016013630
(32)【優先日】2016-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591016334
【氏名又は名称】大塚テクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 浩二
(72)【発明者】
【氏名】川井 正臣
(72)【発明者】
【氏名】松尾 裕信
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】内田 博之
【審判官】田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-21504(JP,A)
【文献】特開2000-5276(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172235(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0176016(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合うプラスチックフィルム間に収容部を有し、当該収容部の一部または全部がシール部で区画されている容器本体と、
前記収容部を複数の収容室に仕切っており、前記収容部内の圧力の高まりによって開封される易剥離シール部とを含み、
前記プラスチックフィルムは、少なくとも最内面を形成する3種のポリプロピレン樹脂を含むシール層を有しており、
前記3種のポリプロピレン樹脂は、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを含み、
前記シール層100質量部に対して、
前記低融点ランダム共重合体(ランダムA1)の含有量が26~
54質量部であり、
前記高融点ランダム共重合体(ランダムB1)の含有量が10~30質量部であり、
前記ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の含有量が6~14質量部であり、
前記シール層は、前記シール層100質量部に対して30~50質量部のスチレン系エラストマーを含む、複室容器。
【請求項2】
前記プラスチックフィルムは、シール温度120℃~130℃の範囲で2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を有している、請求項1に記載の複室容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムで構成された複室容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルムで構成され、易剥離シール部(EPS:Easy Peel Seal)によって複数の収容室に区画された複数容器が多数知られている(特許文献1~4)。
【0003】
例えば、特許文献1は、外層、コア層およびシーラント層の三層構造のプラスチックフィルムで構成された二室バッグを開示している。シーラント層は、約45~約54%のポリプロピレン(PP)と、約18~約27%のスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)と、約9~約14%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と、約4.5~約9%のパラフィンオイルと、約9.8%の線状低密度ポリエチレン(LLDPE)と、約2%のABPPとを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3786604号公報
【文献】特許第3609415号公報
【文献】特許第4091685号公報
【文献】特表2008-508000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、易剥離シール部によって仕切られた複室容器は現在まで多数提案されているが、優れた機械的強度を確保しつつ、易剥離シール部を安定して形成できる技術は未だ確立されていない。例えば、易剥離シール部は、5N/15mm~15N/15mmの範囲のシール強度を有することが好ましいが、従来この範囲のシール強度を形成するには、非常に限られた温度でヒートシールする必要があり、精度よく易剥離シール部を形成することが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、優れた機械的強度を確保しつつ、易剥離シール部を安定して形成できる複室容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る複室容器は、互いに向かい合うプラスチックフィルム間に収容部を有し、当該収容部の一部または全部がシール部で区画されている容器本体と、前記収容部を複数の収容室に仕切っており、前記収容部内の圧力の高まりによって開封される易剥離シール部とを含み、前記プラスチックフィルムは、少なくとも最内面を形成する3種のポリプロピレン樹脂を含むシール層を有しており、前記3種のポリプロピレン樹脂は、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを含み、前記シール層100質量部に対して、前記低融点ランダム共重合体(ランダムA1)の含有量が26~56質量部であり、前記高融点ランダム共重合体(ランダムB1)の含有量が10~30質量部であり、前記ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の含有量が6~14質量部である。
【0008】
本発明の複室容器では、前記プラスチックフィルムは、シール温度120℃~130℃の範囲で2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を有していてもよい。
【0009】
本発明の複室容器では、前記シール層は、さらに、熱可塑性エラストマー(E)を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の複室容器では、前記熱可塑性エラストマー(E)は、スチレン系エラストマーを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複室容器によれば、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを、所定の質量割合で組み合わせて容器本体のシール層を形成することによって、優れた機械的強度を確保しつつ、易剥離シール部を安定して形成できる複室容器を提供することができる。易剥離シール部に関しては、シール温度120℃~130℃の範囲全域にわたって、易剥離シール部としての好ましい2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を達成することができる。したがって、例えば121℃以上の高温滅菌にも対応可能な複室容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る複室バッグの概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II切断線における前記複室バッグの断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III切断線における前記複室バッグの断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の他の実施形態に係る複室バッグの概略構成図である。
【
図5】
図5は、
図4のV-V切断線における前記複室バッグの断面図である。
【
図6】
図6は、本発明のさらに他の実施形態に係る複室バッグの概略構成図である。
【
図7】
図7は、
図6の複室バッグに使用されるプラスチックフィルムの概略構成図である。
【
図8】
図8は、プラスチックフィルムのシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、プラスチックフィルムのシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、プラスチックフィルムのシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る複室バッグ1の概略構成図である。
図2および
図3は、それぞれ、
図1のII-II切断線およびIII-III切断線における複室バッグ1の断面図である。
【0015】
本発明の複室容器の一例としての複室バッグ1は、内部に収容部2が区画されたバッグ本体3と、バッグ本体3から薬剤を注出するための注出部材4とを含む。
【0016】
バッグ本体3は、互いに向かい合う一対のプラスチックフィルム5,5を貼り合わせることによって形成されている。この実施形態では、バッグ本体3は、扁平な矩形(長方形)袋状に形成されている。バッグ本体3の長さLは、例えば、150~350mmであり、幅Wは、例えば、100~250mmである。
【0017】
一対のプラスチックフィルム5,5は、その周縁部が全体に亘ってヒートシールされることによって互いに接着されている。このプラスチックフィルム5,5の周縁部のヒートシール部分は、プラスチックフィルム5,5の間に収容部2を区画するシール部6である。
【0018】
環状のシール部6は、収容部2の相対向する長辺をシールする一対の縦シール7と、収容部2の相対向する短辺をシールする一対の横シール8とを一体的に含む。一対の縦シール7は、その両方が同じ一定幅を持って一直線に平行に縦に延びている。一対の横シール8は、注出部材4が配置される側の短辺をシールするヘッド側シール81と、収容部2のヘッド側の反対側(ボトム側)の短辺をシールするボトム側シール82とを含む。
【0019】
ヘッド側シール81は、縦シール7よりも幅広なシール幅で横に延びていて、その長さ方向中央に注出部材4が固定されている。ヘッド側シール81には、注出部材4を挟んで横方向両側に、ヒートシールが施されていない非シール部9,9が1つずつ設けられている。
【0020】
ボトム側シール82は、縦シール7よりも幅広なシール幅でヘッド側シール81に平行に横に延びていて、その長さ方向中央に吊下げ孔10が形成されている。ボトム側シール82には、吊下げ孔10を挟んで横方向両側に、ヒートシールが施されていない非シール部11,11が1つずつ設けられている。
【0021】
注出部材4は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のプラスチックからなる。注出部材4は、バッグ本体3の作製時に、一対のプラスチックフィルム5,5の間に挟まれた状態でヒートシールされることによって、プラスチックフィルム5,5に密着してバッグ本体3に固定される。
【0022】
一対のプラスチックフィルム5,5は、さらに、収容部2を複数の収容室に仕切る易剥離シール部12によって互いに接着されている。
図1では、一端および他端がそれぞれシール部6に接続された易剥離シール部12が収容部2を横切っており、収容部2が二つの収容室13,14に仕切られている。収容室13,14には、予め混合もしくは溶解しておくと望ましくない各種薬剤a,bがそれぞれ収納されている。例えば、アミノ酸溶液およびブドウ糖溶液を各々収容することができる。なお、一方の収容室14に固形状もしくは粉末状の薬剤を収納することもできる。
【0023】
ここで、易剥離シール部12とシール部6との違いは、ヒートシール強度の大きさである。例えば、易剥離シール部12は、2つの収容室13,14の少なくとも一方を押圧する等して、収容室13,14内の圧力が高まって所定の圧力に達したときに開封する程度のヒートシール強度を有している。一方、シール部6は、当該圧力の高まりによっては開封しない程度のヒートシール強度を有している。より具体的には、JIS-Z-0238に準拠して測定されるヒートシール強度として、易剥離シール部12は2.5N/15mm~15N/15mmのヒートシール強度を有しているのに対して、シール部6は30N/15mm~75N/15mmのヒートシール強度を有している。
【0024】
そして、易剥離シール部12およびシール部6は、それぞれ、共通のプラスチックフィルム5,5に対して異なる条件(温度、圧力、時間等)でヒートシールを施すことによって、同一の複室バッグ1に共存させることができる。
【0025】
例えば、易剥離シール部12の加熱圧着の条件は、総厚さ180~320μmの多層プラスチックフィルム5を用いる場合において、金型温度が120℃~130℃、圧力(エア圧)が2kgf~6kgf、加圧時間が1.5秒~5.5秒であってもよい。一方、シール部6の加熱圧着の条件は、総厚さ180~320μmの多層プラスチックフィルム5を用いる場合において、金型温度が135℃~155℃、圧力(エア圧)が2kgf~6kgf、加圧時間が1.5秒~5.5秒であってもよい。
【0026】
バッグ本体3を形成するプラスチックフィルム5は、
図2および
図3に示すように、内層51、外層53およびこれらの間の中間層52の3層の積層構造(多層フィルム)からなる。なお、
図2および
図3に示した3層フィルムは、あくまでもプラスチックフィルム5の一例である。プラスチックフィルム5は、例えば、内層51および外層53のみの2層フィルムであってもよいし、4層以上の多層フィルムであってもよい。
【0027】
各層51~53の厚さは、例えば、内層51が20μm~60μmであり、中間層52が145μm~220μmであり、外層53が15μm~40μmであってもよい。プラスチックフィルム5全体の厚さは、例えば、180μm~320μmであってもよい。プラスチックフィルム5全体の厚さが180μm以上であることによって、バッグの内容量の重さに十分耐え得る強度を実現することができる。また、プラスチックフィルム5全体の厚さが320μm以下であることによって、フィルムに十分な柔軟性を付与することができる。
【0028】
中間層52および外層53の構成する樹脂は、特に制限されず、公知の樹脂を適用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、エチレン-テトラシクロドデセン共重合体等のポリ環状オレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等のビニル系重合体樹脂、ナイロン-6、ナイロン-12、ナイロン-6,6等のポリアミド系樹脂等の汎用樹脂を使用できる。これらは単独使用もしくは2種以上併用してもよい。
【0029】
内層51は、複数のポリプロピレン樹脂を含む。当該複数のポリプロピレン樹脂は、少なくとも、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを含む。
【0030】
低融点ランダム共重合体(ランダムA1)および高融点ランダム共重合体(ランダムB1)におけるプロピレン以外のコモノマーとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等のα-オレフィン類が挙げられ、好ましくは、エチレンが挙げられる。また、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)は、プロピレンモノマーと、プロピレン以外のコモノマー(好ましくは、エチレン)とを、メタロセン系触媒の存在下、所定の条件で共重合させることによって得ることができる。
【0031】
また、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の融点は、好ましくは、155℃~170℃である。
【0032】
また、内層51において、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)、高融点ランダム共重合体(ランダムB1)およびポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の好ましい含有割合は、次の通りである。
【0033】
例えば、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)の含有量は、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、26~56質量部であり、好ましくは、26~54質量部であり、さらに好ましくは、31~44質量部であり、とりわけ好ましくは、35~42.5質量部である。また、高融点ランダム共重合体(ランダムB1)の含有量は、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、10~30質量部であり、好ましくは、15~30質量部であり、さらに好ましくは、20~28質量部である。また、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の含有量は、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、6~14質量部であり、好ましくは、7.5~12.5質量部である。これらの範囲のうち、最も好ましい組み合わせは、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)が35~42.5質量部、高融点ランダム共重合体(ランダムB1)が20~28質量部、およびポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)が7.5~12.5質量部の組み合わせである。
【0034】
また、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)、高融点ランダム共重合体(ランダムB1)およびポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)は、総量で、内層51を構成する樹脂100質量部に対して60~100質量部の割合で含有されていることが好ましく、60~80質量部の割合で含有されていることが、さらに好ましい。
【0035】
なお、前述の本発明の目的を達成する他の形態として、内層51の複数のポリプロピレン樹脂が、高融点ランダム共重合体(B1)を含まず、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)との2種のポリプロピレン樹脂からなっていてもよい。
【0036】
この場合、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)の含有量は、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、42~58質量部であり、好ましくは、45~55質量部である。また、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の含有量は、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、12~28質量部であり、好ましくは、15~25質量部である。これらの範囲のうち、最も好ましい組み合わせは、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)が45~55質量部、およびポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)が15~25質量部の組み合わせである。
【0037】
また、内層51は、複数のポリプロピレン樹脂の他、熱可塑性エラストマー(E)を含んでいてもよい。
【0038】
内層51に含まれる熱可塑性エラストマー(E)は、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーであってもよい。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。これらのうち、内層51は、スチレン系エラストマーを含んでいることが好ましい。スチレン系エラストマーは、低融点ランダム共重合体、高融点ランダム共重合体およびポリプロピレンホモポリマーと相溶性が高いので、界面乖離の発生や透明性の悪化を抑えることができる。また、熱可塑性エラストマー(E)の含有量は、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、例えば、10~50質量部であり、好ましくは、12~48質量部であり、さらに好ましくは、17~37.5質量部である。なお、最も好ましいのは、内層51を構成する樹脂100質量部に対して、低融点ランダム共重合体(ランダムA1)が35~42.5質量部、高融点ランダム共重合体(ランダムB1)が20~28質量部、およびポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)が7.5~12.5質量部の組み合わせと、17~37.5質量部のスチレン系エラストマーとの組み合わせである。
【0039】
そして、複室バッグ1を製造するには、例えば、内層51同士が向かい合うように2枚のプラスチックフィルム5を重ね合わせる。
【0040】
次に、重ね合わせた2枚のプラスチックフィルム5を、金型で挟み込み、挟み込んだ状態で金型を加熱する。このときの金型温度は、上記の通りである。これにより、プラスチックフィルム5に、複数分の複室バッグ1のシール部6を同時に施す。
【0041】
次に、各複室バッグ1の中央部を溶着させることによって、易剥離シール部12を形成する。
【0042】
次に、不要なプラスチックフィルム5をカットすることによって、個々の複室バッグ1を一括して打ち抜く。その後、各複室バッグ1に注出部材4をヒートシールによって取り付ける。これにより、
図1の複室バッグ1が得られる。
【0043】
以上、複室バッグ1によれば、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを所定の質量割合で組み合わせてバッグ本体3の内層51を形成することによって、優れた機械的強度を確保しつつ、易剥離シール部12を安定して形成できる複室バッグ1を提供することができる。
【0044】
易剥離シール部12に関しては、シール温度120℃~130℃の範囲全域にわたって、易剥離シール部12としての好ましい2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を達成することができる。したがって、例えば121℃以上の高温滅菌にも対応可能な複室バッグ1を提供することができる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
【0046】
例えば、
図4および
図5に示す複室バッグ21として実施することもできる。複室バッグ21では、薬剤a,bの注出方向に沿う方向に易剥離シール部12が形成されることによって、収容部2は縦方向に仕切られている。また、
図1の注出部材4に代えて、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の可撓性部材からなるチューブ状の注出部材22が、収容室13,14に一つずつ設けられている。
【0047】
また、
図6に示す複室バッグ31として実施することもできる。複室バッグ31では、収容部2の全周に亘ってシール部が形成されておらず、収容部2のヘッド側シール81およびボトム側シール82が選択的に形成されている。収容部2の長辺側は、重なり合うプラスチックフィルムが連続的に繋がった折れ線部71として形成されている。これにより、収容部2は、折れ線部71およびシール81,82によって区画されている。このような複室バッグ31は、例えば、
図7に示すようにチューブ状であって、前述の内層51、中間層52および外層53の積層構造を有するプラスチックフィルム32の軸方向一方側の開放部33および他方側の開放部34を、それぞれヒートシールしてシール81,82を形成することによって得ることができる。
【0048】
例えば、本発明の複室容器は、前述した医療用薬剤バッグの他、食品用包装容器等の他の用途に使用することもできる。
【0049】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0050】
例えば、前述の実施形態の内容から、内層51の複数のポリプロピレン樹脂が、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)との2種のポリプロピレン樹脂を含む形態として、以下のような特徴が抽出され得る。
【0051】
互いに向かい合うプラスチックフィルム間に収容部を有し、当該収容部の一部または全部がシール部で区画されている容器本体と、
前記収容部を複数の収容室に仕切っており、前記収容部内の圧力の高まりによって開封される易剥離シール部とを含み、
前記プラスチックフィルムは、少なくとも最内面を形成する2種のポリプロピレン樹脂を含むシール層を有しており、
前記2種のポリプロピレン樹脂は、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを含み、
前記シール層100質量部に対して、
前記低融点ランダム共重合体(ランダムA1)の含有量が42~58質量部であり、
前記ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)の含有量が12~28質量部である、複室容器。
【0052】
この複室容器によれば、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを、所定の質量割合で組み合わせて容器本体のシール層を形成することによって、優れた機械的強度を確保しつつ、易剥離シール部を安定して形成できる複室容器を提供することができる。易剥離シール部に関しては、シール温度120℃~130℃の範囲全域にわたって、易剥離シール部としての好ましい2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を達成することができる。
【0053】
本出願は、2016年1月27日に日本国特許庁に提出された特願2016-013630号に対応しており、この出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を実施例、比較例および参考例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
(1)多層フィルムの製造
各実施例、各比較例および各参考例に関して、下記表1~表3に示す配合割合(質量部)に基づいて溶融混合することにより内層51、中間層52および外層53それぞれを構成する樹脂材料を作製した。そして、これらの樹脂材料を、水冷共押出しインフレーション成形することにより、下記表1~表3に示す層構成の3層フィルムを作製した。なお、表1~表3に記載の樹脂材料の情報は次の通りである。
<ランダム共重合体A>
・ランダムA1(エチレン・プロピレンランダム共重合体)
(融点127℃ MFR:7.0 日本ポリプロ社製)
<ランダム共重合体B>
・ランダムB1(エチレン・プロピレンランダム共重合体)
(融点147℃ MFR:1.8 李長栄化学工業社製)
・ランダムB2(エチレン・プロピレンランダム共重合体)
(融点137℃ MFR:1.5 バゼル社製)
<プロピレンホモポリマー>
・PPホモ(融点166℃ 李長栄化学工業社製)
<熱可塑性エラストマーE>
・スチレン系E1(クレイトン社製)
・スチレン系E2(クレイトン社製)
・オレフィン系E1(三井化学社製)
<PPコンパウンド-1>
・ランダムB2/スチレン系E1=90:10(配合割合)
<PPコンパウンド-2>
・PPホモ/ランダムB1/オレフィン系E1/スチレン系E1=20:40:30:10(配合割合)
(2)評価試験
(ア)耐圧試験
実施例、比較例および参考例で得られた各フィルムを1辺14cmの正方形に切り出し、4辺を所定の温度でヒートシールし、中に薬液を充填した状態で121℃、15分間滅菌することによってサンプルを作製した。各サンプルを、室温で耐圧試験機に設けた17mmの隙間にセットした。セット後サンプル内にエアを注入して内圧を200kPaに上昇させ、15分間にサンプルが破裂するかどうかを確認した。結果を下記表1~表3に示す。表1において、「○」はサンプルが破裂しなかったことを示し、「×」はサンプルが破裂したことを示している。
(イ)シール曲線
次に、実施例、比較例および参考例で得られた各フィルムが、シール温度120℃~130℃の範囲全域にわたって易剥離シール部としての好ましい2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を達成できるかどうかを、各フィルムのシール曲線を作成することで評価した。
【0055】
より具体的には、実施例、比較例および参考例で得られた各フィルムを、それぞれ一対ずつ準備し、ヒートシール機を使用し、シールバーの方向がフィルムのTD方向(横方向)となるように(後述する剥離試験でMD方向(フィルムの流れ方向)に剥離できるように)ヒートシールした。このときのヒートシールの条件は、次の通りである。
・温度:100℃~160℃までの5℃きざみ
・圧力:エア圧で4.0kgf
・加圧時間:2.5秒
・シールバーの大きさ:幅×長さ=20mm×190mm
そして、各温度のヒートシール部を、直角方向に幅15±0.1mmの短冊状に5枚ずつ切り取り、これをサンプルとした。その後、サンプルを、23±2℃、50±5%RHの環境下に4時間以上放置した。
【0056】
次に、各サンプルの剥離試験を行った。剥離試験では、まず、サンプルを取り、ヒートシール部を中心に180°の角度となるように開き、サンプルの両端を引張り試験機の治具(治具間隔50mm)に設置した。次に、ヘッドスピード300±20mm/minで剥離試験を行い、そのときの最大負荷をシール強度として記録した(破断の場合は破断と記録した)。そして、得られた剥離試験のデータに基づいて、横軸にシール温度、縦軸にシール強度(剥離強度)を設定してシール曲線としてグラフ化した。そのグラフを
図8~
図10に示す。また、シール温度=120℃、130℃におけるシール強度(N/15mm)を、表1~表3に示す。
(ウ)評価結果
まず、表1および表2に示すように、3種のポリプロピレン樹脂(PP3元系)および2種のポリプロピレン樹脂(PP2元系)を内層51に採用した実施例1~3および参考例1~3の結果では、前述の実施形態に規定の割合で各ポリプロピレン樹脂を含有することによって優れた機械的強度(耐圧性)を確保できることが分かった。
【0057】
さらに、
図8および
図9を参照すると、実施例1~3および参考例1~3のシール曲線は、シール温度120℃~130℃の範囲全域にわたってシール曲線の傾きがなだらかであり、かつ、表1および表2から、易剥離シール部としての好ましい2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を達成することができた。
【0058】
一方、内層51において、実施例1~3および参考例1~3と共通のポリプロピレン樹脂で構成されていても、比較例1および3のようにポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)が少ないと、機械的強度は確保できるが、シール温度120℃以下の領域からシール曲線の傾きが急峻になり、シール温度120℃~130℃の範囲でシールされたヒートシール部は、もはや易剥離シール部とは言えないほどシール強度が高くなっていた。
【0059】
また、内層51において、比較例2および4のようにポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)が多いと、機械的強度が低いだけでなく、シール温度120℃~130℃の範囲でシール曲線の傾きがなだらかではあるものの、シール強度が小さすぎることが分かった。このようなシール強度では、当該プラスチックフィルムを使用して複室バッグを形成しても、小さな圧力で易剥離シール部が開封するおそれがあり、実用上好ましくない。
【0060】
そして、
図8および
図9を比較すると明らかであるが、実施例1および参考例1のシール曲線、実施例2および参考例2のシール曲線、ならびに実施例3および参考例3のシール曲線が、それぞれ、同一のカーブを描いていることが分かる。
【0061】
これは、シール温度120℃~130℃の範囲で2.5N/15mm~20N/15mmのシール強度を満たす、或るシール曲線を示すプラスチックフィルムの組成は1通りではなく、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)および/または140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを少なくとも含むという条件を満たしていれば何通りも存在することを示している。
【0062】
表3および
図10は、上記の事実を補足するための結果である。すなわち、実施例4,5、参考例4および比較例5は、使用したポリプロピレン樹脂の種類の数およびそれらの配合割合が異なっているにも関わらず、全て、同一のカーブを描いていることが分かる。
【0063】
上記のことから、前述の実施形態では、110℃~135℃の融点を有する低融点ランダム共重合体(ランダムA1)および/または140℃~155℃の融点を有する高融点ランダム共重合体(ランダムB1)と、ポリプロピレンホモポリマー(PPホモ)とを少なくとも含むという条件の下、所望の機械的強度およびシール曲線が得られるよう、様々な設計変更を施すことが可能であると言える。
【0064】
【0065】
【0066】
【符号の説明】
【0067】
1 複室バッグ
2 収容部
3 バッグ本体
5 プラスチックフィルム
6 シール部
12 易剥離シール部
13 収容室
14 収容室
21 複室バッグ
31 複室バッグ
32 プラスチックフィルム
51 内層