(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】就労支援装置、就労支援方法及び就労支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20230428BHJP
G06Q 50/22 20180101ALI20230428BHJP
【FI】
G06Q10/06
G06Q50/22
(21)【出願番号】P 2019086247
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】515020533
【氏名又は名称】カミエンス・テクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519157705
【氏名又は名称】Zero To Infinity株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 英路
(72)【発明者】
【氏名】佐川 亜希
【審査官】上田 威
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0162992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
就労中の障碍者の各個人
の生体情報、位置情報又は移動情報を含む情報をセンサから取得する個別情報取得手段と、
個別情報取得手段で取得された情報に基づいて、
前記センサが検出する所定値以上の急激な変化又はピーク値の出現に応じた学習で構築される異常判定モデルの判定結果により前記障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力する情報抽出手段と、
前記情報抽出手段が異常であると判定した場合に、前記対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する学習モデル構築手段とを備え
、
前記学習モデル構築手段が、前記障碍者が就労する前に、当該障碍者及び/又は他の障碍者の以前の就労状態に関する情報に基づく適正な作業情報を出力する学習モデルを構築することを特徴とする就労支援装置。
【請求項2】
就労中の障碍者の各個人の生体情報、位置情報又は移動情報を含む情報、及び前記障碍者を管理する管理者に関する情報をセンサから取得する個別情報取得手段と、
個別情報取得手段で取得された情報に基づいて、前記センサが検出する所定値以上の急激な変化又はピーク値の出現に応じた学習で構築される異常判定モデルの判定結果により前記障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力する情報抽出手段と、
前記情報抽出手段が異常であると判定した場合に、前記対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する学習モデル構築手段とを備え、
前記学習モデル構築手段が、
前記結果情報と共に前記管理者に関する情報に基づいて前記学習モデルを構築することを特徴とする就労支援装置。
【請求項3】
就労中の障碍者の各個人の生体情報、位置情報又は移動情報を含む情報をセンサから取得する個別情報取得手段と、
前記障碍者の就労環境に関する情報を前記センサから取得する環境情報取得手段と、
個別情報取得手段で取得された情報に基づいて、前記センサが検出する所定値以上の急激な変化又はピーク値の出現に応じた学習で構築される異常判定モデルの判定結果により前記障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力する情報抽出手段と、
前記情報抽出手段が異常であると判定した場合に、前記対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する学習モデル構築手段とを備え、
前記学習モデル構築手段が、前記結果情報と共に前記
就労環境に関する情報に基づいて前記学習モデルを構築することを特徴とする就労支援装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の就労支援装置において、
前記結果情報が、前記対処情報にしたがって対処した場合における前記個別情報取得手段にて取得された情報を含む就労支援装置。
【請求項5】
請求項
2に記載の就労支援装置において、
前記情報抽出手段が、前記個別情報取得手段で取得された管理者に関する情報に基づいて、前記センサが検出する所定値以上の急激な変化又はピーク値の出現に応じた学習で構築される異常判定モデルの判定結果により前記管理者に異常が生じているかどうかを判定し、異常が生じていると判定した場合に当該異常に対する管理者向けの対処情報を学習モデルから取得して出力すると共に、前記学習モデル構築手段が、前記情報抽出手段で異常が生じていると判定された場合に、前記管理者向けの対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する就労支援装置。
【請求項6】
コンピュータが、
就労中の障碍者の各個人の生体情報、位置情報又は移動情報を含む情報をセンサから取得する個別情報取得ステップと、
個別情報取得ステップで取得された情報に基づいて、前記センサが検出する所定値以上の急激な変化又はピーク値の出現に応じた学習で構築される異常判定モデルの判定結果により前記障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力する情報抽出ステップと、
前記情報抽出ステップにおいて異常であると判定された場合に、前記対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する学習モデル構築ステップとを実行し、
前記学習モデル構築ステップが、前記障碍者が就労する前に、当該障碍者及び/又は他の障碍者の以前の就労状態に関する情報に基づく適正な作業情報を出力する学習モデルを構築することを特徴とする就労支援方法。
【請求項7】
就労中の障碍者の各個人
の生体情報、位置情報又は移動情報を含む情報をセンサから取得する個別情報取得
手段、
個別情報取得手段で取得された情報に基づいて、
前記センサが検出する所定値以上の急激な変化又はピーク値の出現に応じた学習で構築される異常判定モデルの判定結果により前記障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力する情報抽出
手段、
前
記情報抽出手段が異常であると判定した場合に、前記対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する学習モデル構築
手段としてコンピュータを機能させ、
前記学習モデル構築手段が、前記障碍者が就労する前に、当該障碍者及び/又は他の障碍者の以前の就労状態に関する情報に基づく適正な作業情報を出力する学習モデルを構築する就労支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障碍者が適正に就労できるように支援する就労支援装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
障碍者雇用は社会的に大きな問題となっており、就労希望者が多い割には適切な労働ができていないのが現状である。特に障碍者の場合は、体調や感情の変化による労働への影響等が健常者に比べて察知が難しく、ある程度障碍に熟知している管理者が必要になるが、そのような管理者への大きな負担や人材不足といった問題もある。
【0003】
このような障碍者の就労に関して、例えば特許文献1に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、障害者情報データベースに障害者が作業可能な可能作業種別の情報を記憶しておき、要求された作業がある場合に、作業割当処理部が、障害者情報データベースに記憶されている障害者の可能作業種別を参照して、要求された作業が障害者の可能作業種別に適合する場合に当該作業を障害者に割り当てるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように、障碍者は体調や感情の変化による労働への影響等が健常者に比べて察知が難しいことから、特許文献1に示すような障害者情報データベースとのマッチングだけでは適正な作業の割り当てが困難であるという課題を有する。
【0006】
本発明は、障碍者の就労において異常が生じた場合に、その対処情報を当該対処情報にしたがって対処した結果情報と共に学習することで、常にフィードバックを行いながら最適な対処情報を抽出することができる就労支援装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る就労支援装置は、就労中の障碍者の各個人に関する情報をセンサから取得する個別情報取得手段と、個別情報取得手段で取得された情報に基づいて、前記障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力する情報抽出手段と、前記情報抽出手段が異常であると判定した場合に、前記対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で前記学習モデルを構築する学習モデル構築手段とを備えるものである。
【0008】
このように、本発明に係る就労支援装置においては、就労中の障碍者の各個人に関する情報をセンサから取得し、取得された情報に基づいて、障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力し、異常であると判定した場合に、対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で学習モデルを構築するため、障碍者の就労において異常が生じた場合に、常にフィードバックを行いながら最適な対処情報を取得することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る就労支援装置を用いた就労支援システムのハードウェア構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係る就労支援装置のハードウェア構成図である。
【
図3】第1の実施形態に係る就労支援装置全体の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る就労支援装置における管理データベースの構成を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る就労支援装置における登録処理部の構成を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る就労支援装置における対処情報抽出部の構成を示す図である。
【
図7】第1の実施形態に係る就労支援装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】第2の実施形態に係る就労支援装置における管理データベースの構成を示す図である。
【
図9】第3の実施形態に係る就労支援装置における管理データベースの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0011】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る就労支援装置について、
図1ないし
図7を用いて説明する。本実施形態に係る就労支援装置は障碍者の就労を支援するものであり、特にコミュニケーションを取るのが難しい身体障碍者やコミュニケーションを取るのが難しい知的障害者、発達障害者、精神障害者および複合的に精神疾患を抱えるような障碍者に対して、機械学習(例えば、ディープラーニング)を利用することでAIにより適正な作業を割り振ることを可能とするものである。
【0012】
図1は、本実施形態に係る就労支援装置を用いた就労支援システムのハードウェア構成図である。就労支援システム1は、就労支援装置10と、就労者である障碍者に関する情報、就労者を管理する管理者の情報、就労環境に関する情報等をセンシングするセンサ部11と、就労支援装置10の演算結果等を出力するためのディスプレイ12とを備える。
【0013】
就労支援装置10には、就労者が本装置の管理下となる前提として、当該就労者が過去に就労していた場合の就労記録を元に適正な作業情報を出力する学習モデルとして就労レシピモデルが構築されている。就労記録には、例えば以前行ったことがある作業、向いている作業等の就労に関する様々な情報を含むことができる。また、就労中に何か異常が発生した場合に、その異常に対する適正な対処情報を出力する学習モデルとして対処モデルが構築されている。対処情報には、例えば、本人の病歴、障碍の特徴など医学的な情報を含んでおり、更に就労中に何か異常が発生した場合の適正と思われる対処方法、休憩の取り方、注意の仕方、食事の取り方、落ち着かせ方、宥め方などの様々な対処情報が含まれてもよい。
【0014】
センサ部11は、例えばイメージセンサ、温度センサ、湿度センサ、音センサ、加速度センサ、磁気センサ、圧力センサ、位置センサ、他様々なセンサ及びそれらの組み合わせからなり、就労者や管理者の心拍、血圧、体温、声などの生体情報、位置情報、移動情報などが測定される。また必要に応じて、就労している作業現場における環境(例えば、環境音、温度、湿度、天気、季節、日照状態等)の情報が検知される。センサ部11で測定された情報は就労支援装置10のデータベースに登録され、監視される。
【0015】
就労支援装置10が、センサ部11の測定結果から就労中に何か異常が生じたと判断した場合には、対処モデルから適正な対処情報が抽出されると共に、その対処情報にしたがって対処を行った結果が対処モデルにフィードバックされる。すなわち、就労支援装置10は常に機械学習を行うことで、AIにより適正な対処情報を抽出して対処することが可能になる。
【0016】
なお、
図1に示すように、結果情報として、作業日報、毎日の体調申告・服薬申告、就労中の障碍者の各個人に関する職場での情報等を含む外部情報を就労支援装置10に入力し、就労レシピモデルや対処モデル等の学習モデルに反映するようにしてもよい。
【0017】
図2は、本実施形態に係る就労支援装置のハードウェア構成図である。就労支援装置10のコンピュータは、CPU21、RAM22、ROM23、ハードディスク(HDとする)24、通信I/F25及び入出力I/F26を備える。ROM23やHD24には、オペレーティングシステム、プログラム、データベース等が格納されており、必要に応じてプログラムがRAM22に読み出され、CPU21により実行される。
【0018】
通信I/F25は、装置間の通信を行うためのインタフェースである。入出力I/F26は、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力機器からの入力を受け付けたり、プリンタやディスプレイ等にデータを出力するためのインタフェースである。この入出力I/F26は、必要に応じて光磁気ディスク、CD-R、DVD-R等のリムーバブルディスク等に対応したドライブを接続することができる。各処理部はバスを介して接続され、情報のやり取りを行う。なお、上記ハードウェアの構成はあくまで一例であり、必要に応じて変更可能である。
【0019】
図3ないし
図6は、本実施形態に係る就労支援装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3に就労支援装置の全体構成を示す。就労支援装置10は、様々な障碍者の過去の就労記録の情報(以下、就労記録情報13という)に基づいて就労レシピモデルを構築すると共に、就労前に予め判明している医学情報を含む対処情報、後述する情報抽出部34が抽出した就労中に取得された対処情報、当該対処情報に基づいて対処を行った結果を示す結果情報14等を用いて対処モデルを構築し、後述する管理データベース33に格納する学習モデル構築部32と、センサ部11からの測定結果を入力し、当該測定結果を管理データベース33に登録する個別情報取得部31と、各就労者及び管理者の就労状態や就労環境に関するセンサ部11からの測定結果を格納すると共に、学習モデル構築部32が構築した学習モデル(就労レシピモデル、対処モデル等)を記憶する管理データベース33と、センサ部11で測定された測定結果を監視して異常の有無を判断すると共に、異常が発生したと判断した場合に当該異常に対する適正な対処情報を管理データベース33の対処モデルから抽出してディスプレイ12に提示する情報抽出部34とを備える。なお、情報抽出部34は、就労する障碍者個人の就労記録情報13に基づいて就労レシピモデルから適正な作業情報を抽出してディスプレイ12に提示するようにしてもよい。
【0020】
管理データベース33には、就労者が管理下に入る前に、就労記録情報13に基づいて適正な作業情報を出力する就労レシピモデルが構築されて格納されている。就労レシピモデルは、当人以外の様々な障碍者の過去の就労実績や専門家の意見を集約して予め構築されている。しかしながら、これらの就労レシピモデルの出力結果だけでは十分な対処ができない可能性もあるため、就労しながらより多くのデータを蓄積して学習することで、就労者に、より適正な作業を割り振ることが可能となる。例えば、一例として、就労前はこれまでの実績から事務作業に向いていると判断された障碍者に対して、就労中の生体情報や作業結果などを監視した結果、心拍数や血圧の上昇が見られ強いストレスを受けていたり、作業が著しく捗っていない(異常が発生している)ことがわかった場合、何かしらの対処情報が抽出されるが(対処情報の抽出については、詳細を後述する)、このような障碍者は、実は事務作業に向いていないことや、他にどのような作業に向いていたかといった結果情報を管理者が登録することで、学習モデル構築部32が、より成長した就労レシピモデルを構築する。
【0021】
同様に、例えば就労中に就労者が過度なストレスを受けていると判断されたような場合に、そのストレスを解消するための対処情報が対処モデルから取得され管理者に提示される。このとき、個別情報取得部31から収集された大量のデータ(所謂ビッグデータ)に基づいて学習モデル構築部32が構築した対処モデルにより、対象となっている障碍者に対応する適正な対処情報(例えば、「1時間に1度は体を動かす作業を入れる」、「水分補給を行う」等)が抽出される。管理者は抽出された対処情報にしたがって対処を実行し、その結果を対処情報と共に結果情報として学習モデル構築部32に渡す。学習モデル構築部32は、新たなデータの蓄積とその結果により、更に高精度な機械学習を行うことが可能となる。
【0022】
ここで、各処理部の構成について、より詳細に説明する。
図4は、本実施形態に係る就労支援装置における管理データベース33の構成を示す図である。管理データベース33は、センサ部11からの測定情報を就労者ごとに時系列で記憶する個別データ記憶部33aと、就労記録情報13に基づいて適正な作業情報を出力する就労レシピモデル331と、就労中に発生する異常や問題点に対して適正な対処情報を出力する対処モデル332とを備える。
【0023】
個別情報取得部31は、常時又は定期的もしくは不定期にセンサ部11の測定情報を取得して個別データ記憶部33に書き込む。個別データ記憶部33に書き込まれた測定情報を情報抽出部34が参照し、測定情報の監視を行う。具体的には、上述したような就労者の生体情報、位置情報、移動情報などの急激な変化の有無を監視し、所定の条件下で急激な変化が生じた場合に異常が発生したと判断する。そして、その異常に対する適正と思われる対処情報を対処モデル332から取得し、管理者に提示する。抽出された対処情報は、その対処を行った結果情報(例えば、行った対処に対しての結果を示す5段階評価等)と発生した異常に関する異常情報と共に学習モデル構築部32に渡されて対処モデル332が更新され、また場合によっては就労レシピモデル331が更新される。
【0024】
図5は、本実施形態に係る就労支援装置における学習モデル構築部32の構成を示す図である。学習モデル構築部32は、基本的に就労レシピモデル331や対処モデル332の構築を行う処理部となっており、他の障碍者の過去の就労記録情報13、結果情報14、及び情報抽出部34からの異常情報や対処情報を入力する入力部32aと、就労記録情報13等を元に就労レシピモデル331を構築すると共に、異常情報や当該異常に対して行った対処に関する対処情報、当該対処情報にしたがって対処した結果に関する結果情報14を全て対応付けて対処モデル332を構築する構築部32bとを備える。
【0025】
ここで、就労記録情報13に基づいて就労レシピモデル331から出力される適正な作業情報について、就労者が就労支援装置10の管理下に入る際に、就労記憶情報13に基づいた作業の割り当てが行われるが、この作業の割り当ては専門家や管理者がこれまでの知識や経験に基づいて行われてきた。そのため、作業割り当ての精度はある程度適正なものであるが、実際の就労現場においては必ずしも適合しない場合があり、就労者にとっても管理者にとっても負担が大きくなってしまう。そこで、就労レシピモデル331を成長させて常に更新することで、より適正な就業管理および作業割り当てを可能とする。特に、最初に構築された就労レシピモデル331をベースにして、実環境レベルの異常情報、対処情報及び結果情報を蓄積し、それらを常時機械学習することで、就労レシピモデル331を成長させて就労者や管理者によってより負担のない作業を割り当てることが可能となる。
【0026】
図6は、本実施形態に係る就労支援装置における情報抽出部34の構成を示す図である。情報抽出部34は、個別データ記憶部33aに記憶されたセンサ部11の測定情報を常時又は定期もしくは不定期に読み出して入力する入力部61と、入力されたセンサ部11の測定情報に基づいて就労者に異常が発生しているかどうかを判定する異常判定部62と、異常が発生していると判定された場合に、異常情報を入力として当該異常情報に適正に対応する対処情報を対処モデル332から取得すると共に、就労者が就労を開始する際には就労レシピモデル331から当該就労者に適正な作業情報等を取得する取得処理部63と、取得された対処情報や作業情報等をディスプレイ12に出力して管理者に提示すると共に、異常判定部62で判定された異常情報と取得した対処情報とを対応付けて学習モデル構築部32に出力する出力制御部64とを備える。
【0027】
なお、就労記録情報13に基づいて就労レシピモデル331で特定された作業情報は、基本的には管理者に提示され、管理者の配下で就労が行われるが、就労者によっては管理者ではなく医師、介護士、補助者、公的機関等の管理者以外に情報を提示したほうがいい場合もある。つまり、出力制御部64が、作業分担の内容や就労レシピモデル331の出力結果によって出力する宛先を適宜演算して出力するようにしてもよい。また、出力する宛先を学習して出力先モデルを構築して管理データベース33に登録するようにしてもよい。
【0028】
異常判定部62は、例えば時系列に記憶されている就労者ごとの測定情報を監視し、所定値以上の急な変化やピーク値が現れた場合に異常が発生したと判定する。なお、測定情報を監視する場合には、必要に応じて所定の条件下におけるパラメータを複合的に判断することが望ましい。例えば、単に場所を移動しただけで異常と判定するのではなく、血圧の上昇に伴って場所を移動したような場合に、怒り状態やトラブルなどの異常が発生していると判定する。また、声が上ずったことだけで異常と判定するのではなく、心拍数の上昇に伴って声が上ずったような場合に、極度の緊張状態などの異常が発生していると判定する。
【0029】
なお、異常判定部62における判定処理の精度を向上させるために、異常状態を学習し管理データベース33に異常判定モデルを構築するようにしてもよい。すなわち、センサからの測定情報を入力として異常状態の有無や異常の種別を出力するような異常判定モデルを備える構成であってもよい。
【0030】
取得処理部63は、異常判定部62で異常が発生したと判断された場合に、発生した異常に関する異常情報を入力とし、それに対応する適正と思われる対処情報を対処モデル332から取得する。取得した対処情報は出力制御部64により管理者に提示され、管理者はその対処情報に従った対処を行う。例えば、心拍数の上昇に伴って声が上ずるような緊張状態の異常が発生したと判定された場合に、心拍数と声の周波数とを入力とし、そのような状態に対応する適正な対処情報として「リラックスするために部屋を替える」「外出を促す」「トイレ休憩を取る」等の情報(優先度の情報を含んでもよい)が出力として管理者に提示される。管理者は、提示された対処情報から実際に行う対処を選択し実行する。また、取得処理部63は、就労者が就労を開始する際に就労レシピモデル331から当該就労者に適正な作業情報等を取得する。就労作業は、この就労レシピモデル331から取得した作業情報をベースに開始される。
【0031】
出力制御部64は対処情報や就労者に適正な作業情報を管理者に提示すると共に、管理データベース33の学習モデルを更新するために、発生した異常に関する異常情報と抽出された(又は管理者に選択入力された)対処情報とを学習モデル構築部32に送って学習モデルを更新する。同時に、管理者が対処を実行した結果を示す結果情報を学習モデル構築部32に入力し、出力制御部64から送られた異常情報や対処情報と関連付けて学習モデルを更新する。これらの最新のデータで学習モデルが構築されることで、常に学習モデルが成長し高精度な情報取得が可能となる。
【0032】
例えば上記の例で言うと、「1.リラックスするために部屋を替える」「2.外出を促す」「3.トイレ休憩を取る」の優先順位で対処情報が提示され、管理者が実際に「1.リラックスするために部屋を替える」を実行したとする。その結果、緊張状態が全く解消されなかった場合には、結果情報として例えば5段階評価の1(一番悪い結果)が上記の異常情報及び対処情報に対応付けて送信され、学習モデルが更新される。その結果、次に同様の異常が発生した場合には、上記の結果情報が考慮されて、例えば「1.外出を促す」「2.トイレ休憩を取る」「3.リラックスするために部屋を替える」の優先順位で対処情報が提示される。すなわち、「1.リラックスするために部屋を替える」では対処の効果がなかったので優先順位が下がり、AIが他の対処情報を優先して勧めるようになる。
【0033】
このようにして、実際の対処情報や結果情報で学習モデルを常に更新して機械学習を行うことで、より適正な対処情報を抽出して提示することができるようになる。
【0034】
なお、結果情報として管理データベース33の個別データ記憶部33aの情報を用いるようにしてもよい。すなわち、上述したような5段階評価の場合は、管理者の恣意的な意見が反映される場合があるため、客観的なデータとして個別データ記憶部33aの情報を関連付けることで、より正確な結果情報とすることが可能になる。つまり、管理者が5段階評価の5(一番良い結果)で評価したとしても、対処された就労者の状態(生体情報等)に改善が見られなければ、管理者が行った評価を低い方に補正するといったことが行われるようにしてもよい。
【0035】
また、異常が発生したかどうかの判断や、発生した異常に対する対処に効果があったかどうかの判断については、AIで行うようにしてもよいし、専門家や管理者の判断で行うようにしてもよいし、家族の判断を仰ぐようにしてもよい。すなわち、一見すると異常と思える状態が発生したとしても、家庭においては普段の行動として正常と判断できる場合がある。そのような場合には、家庭における親、兄弟、子供等の家族の判断を優先するようにしてもよい。また、家族としても、就労者の様子を伺うことができるため、安心感を得ることができる。家族への連絡は、例えば動画で異常が発生していると思われる様子を撮像して送ったり、口頭で伝えるようにしてもよい。
【0036】
次に、本実施形態に係る就労支援装置の動作について説明する。
図7は、本実施形態に係る就労支援装置の動作を示すフローチャートである。動作の前提として、就労レシピモデル331や対処モデル332等の学習モデルのベースが、過去の実績に基づいてある程度構築されており、また、就労レシピモデル331の出力結果に基づいて、既に就労者には作業が割り振られ、実際に就労が行われている状態とする。まず、就労者ごとに生体情報や就労状態などの個別情報をセンサ部11で測定し、時系列で個別データ記憶部33aに記憶する(S1)。異常判定部62が、個別データ記憶部33aに記憶された情報に基づいて、就労状態に異常が発生したかどうかを判定する(S2)。異常が発生していないと判断した場合は、継続して就労状態を監視する。異常が発生していると判断した場合は、取得処理部63が、発生している異常に関する異常情報に基づいて適正な対処情報を対処モデル332から取得する(S3)。出力制御部64が、取得された対処情報をディスプレイ12に出力して管理者に提示する(S4)。また、出力制御部64は、発生した異常に関する異常情報、取得した対処情報を学習モデル構築部32に渡し、学習モデル構築部32が対処モデル332を更新する(S5)。このとき併せて、管理者や家族により行われた異常に対する対処の評価を結果情報14として学習モデル構築部32に渡し、学習モデル構築部部32が学習モデルの更新を行う。
【0037】
なお、客観的な結果情報として個別情報取得部31が取得した測定結果を学習モデル構築部32に渡すようにしてもよい。また、必要に応じて、対処モデル332だけではなく就労レシピモデル331も併せて更新するようにしてもよい。すなわち、異常状態が長期的に続いていたり、様々な対処を行っても一向に改善されないような場合には、そもそも最初に割り振った作業分担に問題がある場合がある。つまり、就労レシピモデル331の学習が不十分である可能性があるため、就労レシピモデル331を成長させるためにも、異常情報、結果情報、対処情報等を利用して就労レシピモデル331を更新するようにしてもよい。さらに、異常が発生した場合のみ学習モデルを更新するのではなく、正常の状態であっても正常であることを学習するために常に学習モデルを更新することが望ましい。
【0038】
図7に戻って、管理を継続するかどうかを判断し(S6)、継続する場合はステップS1に戻る。継続しない場合は処理を終了する。
【0039】
このように、本実施形態に係る就労支援装置においては、就労中の障碍者の各個人に関する情報をセンサから取得し、取得された情報に基づいて、障碍者の就労状態が正常か異常かを判定し、異常であると判定した場合に当該異常に対する対処情報を学習モデルから取得して出力し、対処情報と共に当該対処情報にしたがって対処した結果を示す結果情報で学習モデルを更新するため、障碍者の就労において異常が生じた場合に、常にフィードバックを行いながら最適な対処情報を抽出することができる。
【0040】
また、必要に応じて、障碍者が就労する前に、当該障碍者の以前の就労状態に関する情報に基づく適正な作業情報を出力する学習モデルを構築するため、過去の就労状態などを参考にして、障碍者ができるだけ快適な状態で就労を開始することができる。
【0041】
さらにまた、必要に応じて、結果情報が対処情報にしたがって対処した場合における個別情報取得部31にて取得された情報を含むため、センサで取得された客観的な情報に基づいた結果情報を得ることができる。
【0042】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る就労支援装置について、
図8を用いて説明する。本実施形態に係る就労支援装置は前記第1の実施形態に係る就労支援装置に基づくものであり、異常が発生した際に、そのときの管理者の測定情報及び/又は就労場所における環境情報も併せて取得して学習することで、より高精度に発生した異常に対応する対処情報を取得することができるものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0043】
図8は、本実施形態に係る就労支援装置における管理データベース33の構成を示す図である。
図4に示す管理データベース33の構成に加えて、管理者の心拍、血圧、体温、声などの生体情報、位置情報、移動情報などを記憶する管理者情報記憶部33cと、就労している作業現場における環境(例えば、環境音、温度、湿度、天気、季節、日照状態等)の情報を記憶する環境情報記憶部33dとを備える。なお、学習モデルとしては、前記第1の実施形態の場合と同様で就労レシピモデル331と対処モデル332とを備える構成である。
【0044】
情報抽出部34の異常判定部62は、個別データ記憶部33aの情報に基づいて異常が発生しているかどうかを判定し、異常が発生していると判断した場合にその異常情報と共に、異常が発生したタイミングにおける管理者情報記憶部33cの情報と環境情報記憶部33dの情報とを管理データベース33から読み出し、出力制御部64に渡す。そして、出力制御部64は、学習モデル構築部32に異常情報と対処情報とを渡す際に、併せて管理者情報記憶部33cの情報及び環境情報記憶部33dの情報を渡す。学習モデル構築部32は、異常情報、対処情報及び結果情報に基づいて対処モデル332を更新する際に、併せて管理者情報記憶部33cの情報及び環境情報記憶部33dの情報を登録する。
【0045】
なお、本実施形態においては、上述したように、管理者情報記憶部33c及び環境情報記憶部33dの両方を有する構成としてもよいし、いずれか一方のみを有する構成としてもよい。いずれか一方のみを有する場合は、対処モデル332の学習もいずれか一方の情報を考慮した学習モデルとなる。
【0046】
学習モデル構築部32は、異常情報、対処情報及び結果情報に加えて、管理者情報記憶部33cの情報及び/又は環境情報記憶部33dの情報を加味した学習モデルを構築する。管理者情報記憶部33cの情報は、管理者に関する情報であり就労者の直接的な測定情報ではないものの、就労者に何らかの異常が発生するような場合においては、管理者の行動や言動と連動することが多い。例えば、管理者が就労者のミスを配慮なく注意した場合に、注意された側の就労者に極度の恐怖心が生じる場合がある。このような場合には注意の仕方を工夫するような対処や別の対処が必要であり、上記のような機械学習を重ねることで適正な対処情報を取得することが可能となる。
【0047】
また、環境情報記憶部33dの情報についても同様で、就労者の直接的な測定情報ではないものの、就労者に何らかの異常が発生するような場合においては、作業現場における環境が影響していることがある。例えば、近所で行われている工事の音が気になって作業に集中できなかったり、窓から入射する光が強すぎてパニックを起こしたりする場合がある。このような場合には、管理者や専門家であっても異常の原因を特定するのは難しいが、機械学習で経験を重ねることで管理者や専門家でも気づかないような対処を行うことが可能になる。
【0048】
このように、本実施形態に係る就労支援装置においては、障碍者を管理する管理者に関する情報をセンサから取得し、結果情報と共に管理者に関する情報を学習することで、就労中の障碍者へ精神的及び/又は肉体的に大きな影響を及ぼす管理者の情報を加味した機械学習が行われ、より適正に対処情報を取得することが可能になる。
【0049】
また、障碍者の就労環境に関する情報をセンサから取得し、結果情報と共に就労環境に関する情報を学習することで、就労中の障碍者へ精神的及び/又は肉体的に大きな影響を及ぼし得る就労環境の情報(例えば、音、光、人の出入り、人の有無等)を加味した機械学習が行われ、より適正に対処情報を取得することが可能になる。
【0050】
(本発明の第3の実施形態)
以下、その他の実施形態について説明する。上記第2の実施形態においては、就労者の異常が発生した場合における管理者の測定情報を対処モデル332に組み込む構成について説明したが、本実施形態においては、管理者の測定情報に基づいて、管理者に異常が発生しているかどうかを判定し、管理者に異常が発生している場合には、管理者向けの対処情報を出力する。障碍者の就労を管理する現場においては、管理者自身も体調を壊しやすく、辞めていく人も多い。就労者が障碍者なので、障碍者のケアに目が行ってしまいがちであるが、管理者にとっても特異な環境下での就労となるため、管理者のケアも極めて重要である。なお、本実施形態において前記各実施形態を重複する説明は省略する。
【0051】
図9は、本実施形態に係る就労支援装置における管理データベース33の構成を示す図である。構成上は、第2の実施形態における
図8の構成において、管理データベース33に管理者用対処モデル333を備える点が異なっており、異常判定部64は管理者の測定情報に基づいた異常判定処理を行い、管理者に異常が発生していると判断される場合は、その異常に対応する管理者向けの対処情報が取得処理部63により管理データベース33の管理者用対処モデル333から取得される。管理者用の対処情報は、異常が発生している管理者本人に提示されるようにしてもよいし、上述したように、医師、公的機関、管理者の上司等に提示されるようにしてもよい。
【0052】
管理者用対処モデル333の学習モデル構築については、前記各実施形態の場合と同様に学習モデル構築部32で行われる。学習に用いる情報は、監視者に生じた異常に関する異常情報、管理者用対処モデル333から取得した対処情報、対処を行った結果情報であり、必要に応じて、異常発生時の就労者の測定情報(個別データ記憶部33aの情報)や就労場所における環境情報が用いられるようにしてもよい。
【0053】
このように、管理者の異常も常時監視し、管理者の就労状態もケアすることで、就労者にとっても管理者にとっても働きやすい環境に近づけることができる。
【0054】
なお、上記各実施形態において、対処情報に基づいく対処を就労支援装置が行うようにしてもよい。例えば、対処の種類によっては管理者ではなく、就労支援装置で行うことが可能である。具体的には、例えば音声信号による注意喚起の出力、リラックスできる音楽や映像の出力、特有のこだわりに対応した映像等の出力、家族との映像、音声、文字による通信、作業に対するアドバイスの出力等が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 就労支援システム
10 就労支援装置
11 センサ部
12 ディスプレイ
13 就労記録情報
14 結果情報
21 CPU
22 RAM
23 ROM
24 HD
25 通信I/F
26 入出力I/F
31 個別情報取得部
32 登録処理部
32a 入力部
32b 書込部
33 管理データベース
33a 個別データ記憶部
33b 対処情報記憶部
33c 管理者情報記憶部
33d 環境情報記憶部
34 対処情報抽出部
61 入力部
62 異常判定部
63 解析処理部
64 出力制御部