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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】ガス蓄圧器
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/00 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
F17C13/00 301Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018195537
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020063778
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】320005154
【氏名又は名称】日本製鋼所M&E株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】細矢 隆史
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋流
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕一
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-016807(JP,A)
【文献】特開2017-155836(JP,A)
【文献】特開2008-101677(JP,A)
【文献】特開2015-158243(JP,A)
【文献】特開2004-144172(JP,A)
【文献】特開2006-132746(JP,A)
【文献】特開2008-261352(JP,A)
【文献】実開昭50-029316(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部と、前記円筒部の開口端から外側に張り出した半球状のドーム部と、前記ドーム部の頂部に設けられた開口の周縁から外側に突出した円筒状の首部と、が一体に形成された胴体部と、
前記首部の内周面に形成された雌ねじ部にねじ止めされた蓋と、
前記ドーム部の前記開口の内周面と前記蓋の外周面との間の隙間をシールする円環状のシール部材と、を備え、水素が充填されるガス蓄圧器であって、
前記ドーム部の前記開口の直径が90mmよりも大きく、
前記雌ねじ部において最も内側のねじ底が、前記ドーム部の外面を前記開口に向かって延長した仮想面よりも内側に設けられていると共に前記ドーム部の内面よりも外側に設けられており、
前記シール部材は、前記雌ねじ部において最も内側のねじ底よりも内側かつ前記ドーム部の内面よりも外側に位置する、
ガス蓄圧器。
【請求項2】
前記ドーム部の肉厚が、前記開口に近付くにつれて大きくなっている、
請求項1に記載のガス蓄圧器。
【請求項3】
充填されるガスの圧力が70MPa以上である、
請求項1又は2に記載のガス蓄圧器。
【請求項4】
前記ドーム部の前記開口の直径が150mm以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のガス蓄圧器。
【請求項5】
充填されるガスが水素である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のガス蓄圧器。
【請求項6】
前記ドーム部の前記開口には、外側よりも内側の直径が小さくなるように段差が形成されており、当該段差に前記蓋が当接しており、
前記ドーム部の前記開口における前記段差よりも内側の直径が90mmよりも大きく、
前記雌ねじ部において最も内側のねじ底は、前記段差よりも外側に設けられている、
請求項1~5のいずれか一項に記載のガス蓄圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス蓄圧器に関し、胴体部の開口端に蓋をねじ止めするガス蓄圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されたガス蓄圧器は、円筒部の端部から半球状のドーム部が外側に張り出すと共に、当該ドーム部の頂部に設けられた開口から円筒状の首部が外側に突出した構造を有している。
【0003】
他方、例えば水素ステーションなどに用いられる高圧ガス蓄圧器では、非特許文献1に開示されているように、シリンダ(円筒胴)の開口端に蓋をねじ止めする構造が採用されている。
なお、非特許文献2については、実施形態の説明において参照する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-291986号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】超高圧ガス設備に関する基準KHKS0220(2010)、平成22年3月31日、高圧ガス保安協会、p.26
【文献】超高圧ガス設備に関する基準KHKS0220(2010)、平成22年3月31日、高圧ガス保安協会、p.63-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、特許文献1に開示されたようにドーム部の頂部から突出した首部の内周面に、非特許文献1に開示されたような蓋をねじ止めするガス蓄圧器について検討し、以下の問題点を見出した。
【0007】
ドーム部を備えたガス蓄圧器では、ドーム部の内面に皺が発生し易く、その皺を起点とした割れが発生し、ガス蓄圧器内のガスが漏洩する虞がある。その対策として、ドーム部の内面に発生した皺を除去する加工(例えば機械加工)を行うことが考えられる。特許文献1に開示されたガス蓄圧器のように、首部(すなわちドーム部)の内径が小さいと、ドーム部の内面の加工を行うことが困難であるため、首部の内径を大きくする必要がある。
【0008】
他方、首部の内径すなわち蓋の直径を大きくすると、蓋に加わる荷重が大きくなる。そのため、首部の内周面に形成された雌ねじ部に加わる応力も大きくなり、ねじ底を起点として、首部に割れが発生し易くなるという問題があった。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に係るガス蓄圧器では、ドーム部の開口の直径が90mm以上であって、蓋がねじ止めされる雌ねじ部において最も内側のねじ底が、ドーム部の外面を開口に向かって延長した仮想面よりも内側に設けられている。
【発明の効果】
【0010】
前記一実施形態によれば、ドーム部の内面の皺を除去する加工が可能であると共に、首部のねじ底を起点とした割れを抑制可能なガス蓄圧器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係るガス蓄圧器の断面図である。
図2図1における領域IIの拡大図である。
図3】雌ねじ部10a及びその周辺の拡大断面図である。
図4】ドーム部12の開口径が90mmの実施例1及び比較例1に係るガス蓄圧器の部分断面図である。
図5】ドーム部12の開口径が150mmの実施例2及び比較例2に係るガス蓄圧器の部分断面図である。
図6】内圧82MPaでの雌ねじ部10aに加わる最大応力の距離Cによる変化を示すグラフである。
図7】実施例1、2の疲労寿命を比較例1、2と比較して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。
【0013】
(第1の実施形態)
<ガス蓄圧器の構成>
以下に、図1図2を参照して、第1の実施形態に係るガス蓄圧器の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係るガス蓄圧器の断面図である。図2は、図1における領域IIの拡大図である。図1に示すように、第1の実施形態に係るガス蓄圧器は、胴体部10、蓋20、樹脂製シール部材30を備えている。本実施形態に係るガス蓄圧器は、例えば水素ステーション用の高圧水素蓄圧器である。ガス蓄圧器の設計圧力は、例えば70~120MPa程度である。なお、ガス蓄圧器に充填されるガスは、水素に限定されるものではない。
【0014】
なお、各図面に示した右手系xyz3次元直交座標は、図面間において相互に対応しているが、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、xy平面が水平面を構成しz軸正方向が鉛直上向きとなる。図示した例では、ガス蓄圧器の長手方向がx軸方向に平行である。このように、ガス蓄圧器は、通常、横置きされる。
【0015】
まず、図1を参照して、ガス蓄圧器の全体構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るガス蓄圧器では、内部に水素が充填される胴体部10の両開口端に、それぞれ蓋20が開閉可能にねじ止めされている。ここで、胴体部10は、一体に形成された円筒部11とドーム部12と首部13とから構成されている。
【0016】
詳細には、x軸方向に延びた円筒部11の両開口端からそれぞれ半球状のドーム部12が外側に張り出している。各ドーム部12の頂部には円形の開口が設けられており、当該開口の周縁から円筒状の首部13が外側に突出している。そして、首部13の内周面に蓋20がねじ止めされている。ドーム部12は、鏡部もしくは口絞り部などとも呼ばれる。
【0017】
胴体部10の内面(円筒部11の内周面及びドーム部12の内面)と、2つの蓋20の内側端面とによって囲まれた空間に高圧水素ガスが充填される。ドーム部12の開口の内周面と蓋20の外周面との間に設けられた円環状の樹脂製シール部材30によって、胴体部10の内部がシールされている。
ここで、高圧水素ガスから応力を受ける胴体部10の内面(円筒部11の内周面及びドーム部12の内面)及び蓋20の内側端面は耐圧部と呼ばれる。
【0018】
また、蓋20は、詳細には後述するように、蓋本体21とナット22とを備えている。
なお、図1の例は、胴体部10の両方の端部が開口した構成であるが、胴体部10の一方の端部のみが開口した構成であってもよい。また、胴体部10の外面は、例えば炭素繊維強化プラスチック層(不図示)などによって補強されていてもよい。
【0019】
胴体部10及び蓋20(蓋本体21及びナット22)は、例えば、それぞれマンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼などの鋼材からなる。胴体部10、蓋本体21、及びナット22は、同種鋼材から構成されてもよいし、異種鋼材から構成されてもよい。水素誘起割れを抑制する観点から、鋼材の引張強度は980MPa以下であることが好ましい。
【0020】
例えば、円筒部11を構成するシームレス管の両端部を絞り加工することによって、ドーム部12及び首部13を成形する。胴体部10の寸法は、例えば、内容積が50~1000L程度、全長が1800~8000mm程度、円筒部11の内径D1が200~400mm程度、円筒部11の肉厚t(図2参照)が20~80mm程度である。割れの起点となる表面傷を減らすため、胴体部10の内面(特にドーム部12の内面)を機械加工した上で検査することが好ましい。例えば、深さ0.5mm以上、長さ1.5mm以上の表面傷を無くすことが好ましい。
【0021】
次に、図2を参照して、蓋20の詳細について説明する。ここで、図1に示すように、2つの蓋20の構成は同様であるため、図2では、胴体部10のx軸正方向側の蓋20の構成について詳細に説明する。
【0022】
図2に示すように、ドーム部12の開口における外側(x軸正方向側)の部位は、内側(x軸負方向側)の部位よりも拡径されている。そして、ドーム部12の開口において拡径された外側の部位から首部13に亘って、内周面に雌ねじ部10aが形成されている。雌ねじ部10aには、蓋20のナット22が螺合されている。
なお、本明細書では、ドーム部12の開口において拡径されていない内側の部位の直径を、単に「ドーム部12の開口径」という。
【0023】
本実施形態に係るガス蓄圧器では、ドーム部12の開口径D2は、90mm以上である。ドーム部12の開口径D2が90mm以上と大きいため、開口から工具を挿入することができる。すなわち、ドーム部12の内面の表面傷(例えばドーム部12を成形する際に発生する皺)を機械加工等によって容易に除去することができる。また、ドーム部12の内面における表面傷の有無を内視鏡などを用いて容易に検査することができる。
【0024】
他方、ドーム部12の開口径は150mm以下であることが好ましい。ドーム部12の開口径が150mmを超えると、ドーム部12の内面の加工や検査の容易性が変化しなくなるためである。
なお、ドーム部12の開口径が小さい程、雌ねじ部10aのねじ底を起点とした割れの発生を抑制することができる。また、蓋20が小径化、軽量化され、ガス蓄圧器全体を軽量化することができる。
【0025】
蓋本体21及びナット22を備えた蓋20は、高圧ガス保安協会技術基準KHKS0220(非特許文献1)に規定された「ねじ構造」に準拠した構造を有している。
図2に示すように、蓋本体21は、胴体部10と共通な中心軸CAを有する段付き円柱状部材である。蓋本体21は、フランジ部21aを備えている。ここで、蓋本体21において、フランジ部21aよりもx軸負方向側に位置する太径の部位を太径部、フランジ部21aよりもx軸正方向側に位置する細径の部位を細径部と呼ぶ。
【0026】
フランジ部21aの径は、ドーム部12の開口径よりも大きく、首部13の内径よりも小さくなっている。そのため、蓋本体21を首部13からドーム部12の開口の内部に挿入することができる。フランジ部21aは、ドーム部12の開口において拡径された外側の部位と拡径されていない内側の部位との段差10bに当接している。
【0027】
図2に示すように、蓋本体21の太径部は、ドーム部12の開口径と径が略等しく、ドーム部12の開口における内側の部位に嵌入されている。蓋本体21の太径部の外周面には、樹脂製シール部材30を嵌め込むための環状溝21bが形成されている。
【0028】
他方、蓋本体21の細径部は、ナット22の内径と軸径が略等しく、ナット22の貫通孔に嵌入されている。ここで、蓋本体21の細径部とナット22とは、相対的に回転可能である。また、図2の例では、蓋本体21の細径部の長さが、ナット22の高さ(x軸方向の長さ)と略等しくなっている。
【0029】
また、図2に示すように、蓋本体21には中心軸CAに沿った貫通孔21cが形成されている。貫通孔21cを介して、ガス蓄圧器の外部から内部にガスを充填したり、ガス蓄圧器の内部から外部にガスを供給したりする。蓋本体21の外側端面の中央部には、図示しないガス配管を連結するための取付口21dが形成されている。図2に示すように、貫通孔21cと取付口21dとは連通している。
【0030】
ナット22は、胴体部10と共通な中心軸CAを有する雄ねじナットである。すなわち、ナット22の外周面がねじ切られている。ナット22の貫通孔に蓋本体21の細径部を挿入させつつ、首部13からドーム部12の開口に亘って形成された雌ねじ部10aにナット22をねじ込むことによって、胴体部10に蓋20が固定される。
【0031】
詳細には、ナット22をねじ込むと、ナット22がx軸負方に前進する。ナット22がフランジ部21aをドーム部12の開口に形成された段差10bに押し付けると、ナット22はそれ以上前進しなくなり、胴体部10に蓋本体21及びナット22が固定される。このように、フランジ部21aは、ナット22をねじ込む際のストッパとして機能する。
【0032】
樹脂製シール部材30は、例えばOリングであって、胴体部10と共通な中心軸CAを有する円環状の樹脂部材である。樹脂製シール部材30は、図2に示すように、胴体部10の内周面と蓋20の外周面との間に設けられている。より詳細には、図2に示すように、蓋本体21の太径部の外周面に形成された環状溝21bに、樹脂製シール部材30が嵌め込まれている。すなわち、胴体部10の本体部の内周面と蓋本体21の太径部の外周面との間に設けられた樹脂製シール部材30によって、胴体部10の内部がシールされている。
【0033】
次に、図3を参照して、雌ねじ部10aについてより詳細に説明する。図3は、雌ねじ部10a及びその周辺の拡大断面図である。図3に示すように、本実施形態に係るガス蓄圧器では、雌ねじ部10aにおいて最も内側(x軸負方向側)のねじ底(第1ねじ底)が、ドーム部12の外面を開口に向かって延長した仮想面Bよりも内側に設けられている。図3において、ドーム部12の外面を延長した仮想面Bは、二点鎖線によって示されている。
【0034】
換言すると、雌ねじ部10aの第1ねじ底は、首部13の内周面ではなくドーム部12の内周面に形成されており、ドーム部12によって補強されている。そのため、雌ねじ部10aに加わる最大応力が小さくなり、ねじ底を起点とした割れの発生を抑制することができる。
【0035】
後述するシミュレーション試験の結果、仮想面Bとナット22の外径線Aとの交点から第1ねじ底までのx軸負方向の距離Cの大きさが大きい程、雌ねじ部10aに加わる最大応力が小さくなった。なお、通常、第1ねじ底において割れが発生し易い。
【0036】
また、図2に示すように、ドーム部12の肉厚は、開口に近付くにつれて大きくなっていることが好ましい。距離Cの大きさを大きくし、ドーム部12によって補強された雌ねじ部10aの領域を拡大することができる。
【0037】
<実施例>
次に、第1の実施形態に係るガス蓄圧器の実施例及び比較例について説明する。図3に示した仮想面Bとナット22の外径線Aとの交点から第1ねじ底までのx軸負方向の距離Cを変化させ、雌ねじ部10aに加わる最大応力及び疲労寿命をシミュレーション試験によって求めた。
【0038】
<試験条件>
以下に試験条件について説明する。便宜的に、図3に示すように、仮想面Bとナット22の外径線Aとの交点を原点として、第1ねじ底がx軸負方向に位置すれば距離Cは負の値、第1ねじ底がx軸正方向に位置すれば距離Cは正の値とした。すなわち、実施例は距離Cが負の値、比較例は距離Cが0以上の値となる。
ドーム部12の開口径は、90mmと150mmの2種類とした。ここで、図4図5を参照して、実施例及び比較例に係るガス蓄圧器の形状及び寸法について説明する。
【0039】
図4は、ドーム部12の開口径が90mmの実施例1及び比較例1に係るガス蓄圧器の部分断面図である。図4には、ドーム部12の開口径が90mmの実施例1及び比較例1に係るガス蓄圧器について、胴体部10(円筒部11、ドーム部12、首部13)及び蓋20の各寸法を示した。実施例1及び比較例1において、距離C以外の寸法は同じである。具体的には、比較例1の距離Cは36.182mm、実施例1の距離Cは-19.325mmである。すなわち、実施例1は比較例1に比べ、首部13が短く、全長も小さいため、ガス蓄圧器が小型化されている。
【0040】
実施例1及び比較例1において共通な距離C以外の寸法について説明する。図4に示すように、円筒部11の内径は316mm、外径は406.4mmである。ドーム部12の内面は半径158mmの球面形状を有している。ドーム部12の外面の断面は半径250mmの円弧形状を有している。ドーム部12の外面の中心は、内面の中心から円筒部11の半径方向に46.8mmずれている。このように、ドーム部12の肉厚は、円筒部11との接続部位から開口に向かって徐々に大きくなっている。
首部13の外径は140mm、ナット22の外径は110mmである。
【0041】
また、図5は、ドーム部12の開口径が150mmの実施例2及び比較例2に係るガス蓄圧器の部分断面図である。図5には、ドーム部12の開口径が150mmの実施例2及び比較例2に係るガス蓄圧器について、胴体部10(円筒部11、ドーム部12、首部13)及び蓋20の各寸法を示した。具体的には、比較例2の距離Cは16.182mm、実施例2の距離Cは-16.818mmである。すなわち、実施例2は比較例2に比べ、首部13が短く、全長も小さいため、ガス蓄圧器が小型化されている。
【0042】
実施例2及び比較例2において共通な距離C以外の寸法について説明する。図5に示すように、首部13の外径及びナット22の外径以外の寸法は、図4に示した実施例1及び比較例1と同じである。実施例2及び比較例2では、実施例1及び比較例1に比べ、ドーム部12の開口径を90mmから150mmに拡大しているため、首部13の外径及びナット22の外径も拡大している。
具体的には、首部13の外径は220mm、ナット22の外径は170mmである。
【0043】
次に、シミュレーション試験条件について説明する。
有限要素法解析ソフトであるANSYS18.0を用いて、図4図5に示すように、二次元軸対称弾性解析を行った。要素としては、四角形8節点要素を用いた。
内圧を受ける耐圧部は図4図5において太線で示した。具体的には、図4図5に示すように、円筒部11の内周面、ドーム部12の内面、蓋本体21の内側端面などが耐圧部に該当する。内圧は50MPa及び82MPaとした。
【0044】
胴体部10を構成する材料として、Cr-Mo鋼(JIS規格 SCM435)を想定し、胴体部10のヤング率を205GPa、ポアソン比を0.3とした。また、胴体部10の降伏応力は785MPa、引張強度は930MPaとした。
蓋本体21及びナット22を構成する材料として、Ni-Cr-Mo鋼(ASME規格 SA-723M グレード3 クラス2)を想定し、胴体部10のヤング率を191GPa、ポアソン比を0.3とした。
上記材料特性はいずれも室温(20℃)における値を使用した。
【0045】
次に解析手順を示す。
まず、内圧82MPaでの応力分布を上述の有限要素法解析によって求めた。これによって、雌ねじ部10aに加わる最大応力を求めた。
次に、内圧82MPaの応力分布から、内圧50MPaにおける応力分布を線形補完によって算出した。ここで、弾性変形範囲内かつ微小変形であるので、内圧と応力分布に比例関係が成立する。
そして、高圧ガス保安協会技術基準KHKS0220の「付属書V(規定) 最適疲労曲線を用いた疲労解析」(非特許文献2)に準拠して、疲労寿命を計算した。
【0046】
<試験結果>
次に、図6図7を参照して、シミュレーション試験結果について説明する。図6は、内圧82MPaでの雌ねじ部10aに加わる最大応力の距離Cによる変化を示すグラフである。図7は、実施例1、2の疲労寿命を比較例1、2の疲労寿命と比較して示したグラフである。
【0047】
まず、図6について説明する。図6の横軸は距離C(mm)、縦軸は雌ねじ部10aに加わる最大応力(MPa)を示している。図6には、ドーム部12の開口径が90mmの場合と150mmの場合とが並べて示されている。図6には、図4に示した比較例1及び実施例1のデータと、図5に示した比較例2及び実施例2のデータが示されている。図6に示すように、距離Cの大きさが負側に大きくなると、雌ねじ部10aに加わる最大応力が急激に小さくなった。雌ねじ部10aがドーム部12によって補強される領域が拡大するためであると推察される。
【0048】
次に、図7について説明する。図7の横軸は開口径(mm)、疲労寿命(回)を示している。図7には、図4に示した比較例1及び実施例1のデータと、図5に示した比較例2及び実施例2のデータが示されている。
なお、実施例1は、10回において未破断である。すなわち、実施例1の疲労寿命は10回より大きい。
【0049】
ここで、図6に示すように、比較例1に比べ実施例1では、雌ねじ部10aに加わる最大応力が小さい。そのため、図7に示すように、比較例1に比べ実施例1は、疲労寿命が向上した。同様に、図6に示すように、比較例2に比べ実施例2では、雌ねじ部10aに加わる最大応力が小さい。そのため、図7に示すように、疲労寿命が向上した。
なお、疲労寿命は例えば3×10回以上であることが好ましい。実施例1、2はいずれも疲労寿命が3×10回を超えている。
【0050】
以上に説明した通り、距離Cが負の値となる実施例では、雌ねじ部10aがドーム部12によって補強される。そのため、図6に示すように、実施例では比較例に比べて雌ねじ部10aに加わる最大応力が急激に小さくなった。その結果、図6に示すように、実施例では比較例に比べて疲労寿命が向上した。
また、実施例は、比較例に比べ、首部13が短く、全長も小さいため、ガス蓄圧器を小型化することができる。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0052】
10 胴体部
10a 雌ねじ部
10b 段差
11 円筒部
12 ドーム部
13 首部
20 蓋
21 蓋本体
21a フランジ部
21b 環状溝
21c 貫通孔
21d 取付口
22 ナット
30 樹脂製シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7