(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】視神経保護用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/48 20060101AFI20230428BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230428BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230428BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230428BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230428BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230428BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230428BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K36/48
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/16
A61P27/06
A61P27/02
A61P43/00 107
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2022071025
(22)【出願日】2022-04-22
(62)【分割の表示】P 2017528710の分割
【原出願日】2016-07-13
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2015139814
(32)【優先日】2015-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000100492
【氏名又は名称】わかもと製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】中澤 徹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直美
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-504685(JP,A)
【文献】特表2014-510115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61P 27/06
A61P 27/02
A61P 43/00
A61K 9/00-9/72
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インディアンデーツを有効成分として含有する、経口投与用医薬であるか、又は食品の形態である、視神経細胞保護用組成物。
【請求項2】
インディアンデーツを有効成分として含有する、経口投与用医薬であるか、又は食品の形態である、緑内障の予防用又は治療用組成物。
【請求項3】
インディアンデーツを有効成分として含有する、経口投与用医薬であるか、又は食品の形態である、視神経細胞死を抑制するか、網膜神経節細胞死を抑制するか、又はヒトの視力喪失の進行を遅らせるための組成物。
【請求項4】
抗酸化活性、小胞体ストレス抑制、視神経細胞死の抑制、網膜神経節細胞死抑制、ヒトの視野障害の進行抑制及びヒトの視力喪失の進行抑制からなる群から選ばれる少なくとも一種の機能を有する旨の表示を付した請求項1~3のいずれか1項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視神経保護用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜の最内層にある網膜神経節細胞は、網膜細胞に含まれる神経細胞であり、視細胞からの刺激をまとめ、視神経に伝達する役割を担っている。この一連の伝達経路に障害が生じると視機能の低下をもたらすことになる。
日本人の40歳以上の5%が罹患し、失明原因の第一位である緑内障もまた最終的な病態として網膜神経節細胞の細胞死により視神経が障害され、視野障害をきたす疾患である。
そのため、網膜神経節細胞死を予防あるいは最小限に抑える治療を考えることが緑内障治療につながるという考え方が広まっている(非特許文献1)。
しかし、現在、緑内障に対する唯一エビデンスのある治療法は薬物、レーザー、観血手術による眼圧下降療法である。Collaborative Normal-Tension Glaucoma Studyで提唱された通り、視野保持のために眼圧を30%下降させることに重点を置いて治療がなされている。多くの眼圧下降薬の登場により眼圧下降作用による治療効果は向上し、質の高い治療が展開されている。しかし、日本の緑内障患者の多くの病型は、眼圧が正常範囲である正常眼圧緑内障であるため、30%の眼圧下降を得ることが難しい患者や眼圧が十分に低いにもかかわらず視野障害の進行を認める症例も少なくない。したがって、現在行われている眼圧下降のみで緑内障を治療するには限界があり、眼圧以外の危険因子に注目し、それに対応した治療が必要であるといわれている。(非特許文献2)
一方、緑内障の病気進行には、原因の一つとして全身及び網膜視神経における抗酸化システムの破綻が関与していると推定されており、抗酸化物質による緑内障視神経症に対する神経保護効果が示され、抗酸化薬の応用で抗酸化を介した新規神経保護薬の開発が期待されている(非特許文献3)が、現在のところ確立された有効な治療法はない。
さらに近年、緑内障における小胞体ストレスの関与が注目されており、様々な種類の細胞ストレスにより、網膜神経節細胞が細胞死に至る前に小胞体ストレスを誘導することが明らかとなった。また過剰な小胞体ストレスがアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症及びパーキンソン病などの神経性疾患の発症及び進行との関連も示唆されている(非特許文献4)が、こちらについても現在のところ確立された有効な治療法はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】眼科,40,251-273
【文献】日本の眼科,85,6号,762-765
【文献】あたらしい眼科,31,5号,699-700
【文献】脳21,17,4号,459-465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、視神経細胞を保護するために有効な手段を提供し、かつ、視神経細胞死に関連する疾患又は障害、特に緑内障を予防又は治療するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが、緑内障の病態モデルであるマウス視神経挫滅モデル及びマウス視神経挫滅モデルとは異なる細胞障害メカニズムにより細胞死が誘導されるNMDA投与による緑内障病態モデルを用い、経口投与又は眼内投与による各種試験にて鋭意検討した結果、小麦を蒸して乾燥させたもの、脱脂小麦胚芽、脱脂米胚芽、脱脂大豆、発酵ぶどう、ヘスペリジン、乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius、以下「乳酸菌LS」と略す)、ノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末、ケイヒ末の13素材が、それぞれ単独で、網膜神経節細胞における細胞死に対する優れた保護効果を有すること、及びノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末、小麦を蒸して乾燥させたもの、ケイヒ末の7素材が、それぞれ単独で、小胞体ストレスに対する優れた抑制作用を有することを見出した。
すなわち、本発明により、以下の組成物を提供する:
[1]小麦を蒸して乾燥させたもの、脱脂小麦胚芽、脱脂米胚芽、脱脂大豆、発酵ぶどう、ヘスペリジン及び乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウスからなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する視神経細胞保護用組成物。
[2]小麦を蒸して乾燥させたもの、脱脂小麦胚芽、脱脂米胚芽、脱脂大豆、発酵ぶどう、ヘスペリジン及び乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウスからなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する緑内障の予防用又は治療用組成物。
[3]小麦を蒸して乾燥させたもの、脱脂小麦胚芽、脱脂米胚芽、脱脂大豆、発酵ぶどう、ヘスペリジン及び乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウスからなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する、視神経細胞死を抑制するか、網膜神経節細胞死を抑制するか、又はヒトの視力喪失の進行を遅らせるための組成物。
[4]ノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末及びケイヒ末からなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する視神経細胞保護用組成物。
[5]ノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末及びケイヒ末からなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する緑内障の予防用又は治療用組成物。
[6]ノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末及びケイヒ末からなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する、視神経細胞死を抑制するか、網膜神経節細胞死を抑制するか、又はヒトの視力喪失の進行を遅らせるための組成物。
[7]ノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末、小麦を蒸して乾燥させたもの及びケイヒ末からなる群より選ばれる少なくとも一種の有効成分を含有する、小胞体ストレス抑制用組成物。
[8]経口投与用又は眼内投与用医薬である、請求項1~7のいずれか1項記載の組成物。
[9]食品の形態である請求項1~7のいずれか1項記載の組成物。
[10]抗酸化活性、小胞体ストレス抑制、視神経細胞死の抑制、網膜神経節細胞死抑制、ヒトの視野の進行抑制及びヒトの視力喪失の進行抑制からなる群から選ばれる少なくとも一種の機能を有する旨の表示を付した請求項9記載の組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の視神経保護用組成物により、視神経細胞死に関連する眼疾患、特に緑内障を有効に予防又は治療することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、試験1の結果(各成分の抗酸化能)を示す。
【
図2】
図2は、試験2の結果(各成分での網膜神経節細胞生存割合)を示す。
【
図3】
図3は、試験3の結果(酵素処理ヘスペリジン経口投与での網膜神経節細胞生存割合)を示す。
【
図4】
図4は、試験4の結果(酵素処理ヘスペリジン眼内投与での網膜神経節細胞生存割合)を示す。
【
図5】
図5は、試験4の結果(酵素処理ヘスペリジン眼内投与での生存網膜神経節細胞の写真)を示す。
【
図6】
図6は、試験5の結果(酵素処理ヘスペリジン眼内投与での網膜神経節細胞特異的遺伝子の発現量)を示す。
【
図7】
図7は、試験6の結果(酵素処理ヘスペリジンでのRBPMS細胞数生存割合)を示す。
【
図8】
図8は、試験6の結果(酵素処理ヘスペリジン眼内投与でのRBPMS発現細胞の写真)を示す。
【
図9】
図9は、試験7の結果(酵素処理ヘスペリジン眼内投与での電気生理機能評価)を示す。
【
図10】
図10は、試験8の結果(酵素処理ヘスペリジン眼内投与での視力の変化)を示す。
【
図11】
図11は、試験9の結果(各成分でのTrb3発現量割合)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔有効成分〕
本発明は、有効成分として、小麦を蒸して乾燥させたもの、脱脂小麦胚芽、脱脂米胚芽、脱脂大豆、発酵ぶどう、ヘスペリジン、乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウス、ノブドウ、インディアンデーツ、ハスカップ、ザクロ種子、カンゾウ末、ケイヒ末、これらの抽出液及びこれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する。
【0009】
小麦を蒸して乾燥させたものは、公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いることもできる。例えば市販品としては、商品名「こうじむぎ(登録商標)ST」(フレッシュ・フード・サービス株式会社製)等があげられる。
【0010】
脱脂小麦胚芽は、公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いることもできる。例えば市販品としては、商品名「脱脂小麦胚芽フラワーTYPE-R」(株式会社光洋商会製)等があげられる。
【0011】
脱脂米胚芽は、公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いることもできる。公知の方法としては、米胚芽を、n-ヘキサン等の有機溶媒を用いて脂溶性分画を分離(脱脂)することにより、目的物を得ることができる。有機溶媒は、加熱により蒸発させることで除去することができる。
【0012】
脱脂大豆は、公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いることもできる。たとえば市販品としては、商品名「脱脂大豆ハイプロ」(株式会社J-オイルミルズ製)等があげられる。
【0013】
発酵ぶどうは、公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いることもできる。公知の方法としては、例えば、外皮をつけたままのぶどうの実をつぶし、皮についている酵母で発酵させる。ぶどうの果皮や種子のみを発酵させてもよい。また、酵母や乳酸菌を添加しても良い。発酵後のつぶれた実を用いることもできるし、エキスを用いることもできる。ぶどうの種類は特に限定されないが、甲州種が好適である。市販品としては、商品名「発酵ぶどう食品」(株式会社Vino Science Japan製)等があげられる。
【0014】
ヘスペリジンおよび酵素処理ヘスペリジン(酵素を用いてヘスペリジンに糖付加したもの)は、公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いることもできる。ヘスペリジンの市販品としては、商品名「ヘスペリジン」(アルプス薬品工業株式会社製)等が、酵素処理ヘスペリジンの市販品としては、商品名「αGヘスペリジンH」、「αG-ヘスペリジンPA」、「αG-ヘスペリジンPA-T」(東洋精糖株式会社製、グリコ栄養食品株式会社)等があげられる。
【0015】
乳酸菌LSは、例えば生菌体、湿潤菌、乾燥菌、死菌体、培養上清液、培地成分を含む培養物、凍結乾燥した菌体又はその倍散物等が好適に使用できる。乳酸菌LSとしては、例えば、わかもと製薬株式会社が寄託している、ラクトバチルス・サリバリウスWB21株(受託番号 FERM BP-7792)を使用することができる。
【0016】
ノブドウは、例えば外皮を付けたままの果実、果肉、枝や葉、又はその乾燥物や抽出物等が好適に使用できる。市販品としては、例えば商品名「ノブドウ乾燥エキスF」(丸善製薬株式会社製)等があげられる。
【0017】
インディアンデーツは、例えば外皮を付けたままの果実、果肉、果実の種子や種皮、又はその乾燥物や抽出物等が好適に使用できる。市販品としては、例えば商品名「インディアンデーツエキスパウダーMF」(丸善製薬株式会社製)等があげられる。
【0018】
ハスカップは、例えば外皮を付けたままの果実や果肉、又はその乾燥物や抽出物等が好適に使用できる。市販品としては、例えば商品名「ハスカップパウダーS」(日本新薬株式会社製)等があげられる。
【0019】
ザクロ種子は、例えば種子、又はその乾燥物や抽出物等が好適に使用できる。市販品としては、例えば商品名「ザクロ種子乾燥エキス」(アスク薬品株式会社製)等があげられる。
【0020】
カンゾウ末は、例えば根やストロン、又はその乾燥物や抽出物等が好適に使用できる。例えば市販品としては、商品名「食品原料用カンゾウ末」(日本粉末薬品株式会社製)等があげられる。
【0021】
ケイヒ末は、例えば樹皮、又はその乾燥物や抽出物等好適に使用できる。例えば市販品としては、商品名「食品原料用ケイヒ末」(日本粉末薬品株式会社製)等があげられる。
【0022】
抽出液は、例えば、水やエタノール等の薬理学的に許容できる抽出溶媒に、上記有効成分を投入し、各有効成分に含まれる一以上の成分を浸出させることにより調製することができる。
【0023】
本発明の組成物中の小麦を蒸して乾燥させたものの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.05~100質量部である。
【0024】
本発明の組成物中の脱脂小麦胚芽の配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.05~100質量部、より好ましくは0.5~100質量部、さらに好ましくは5~100質量部である。
【0025】
本発明の組成物中の脱脂米胚芽の配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.05~100質量部、より好ましくは0.5~100質量部、さらに好ましくは5~100質量部である。
【0026】
本発明の組成物中の脱脂大豆は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.05~100質量部、より好ましくは0.5~100質量部、さらに好ましくは5~100質量部である。
【0027】
本発明の組成物中の発酵ぶどうの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.05~100質量部、より好ましくは0.5~100質量部である。
【0028】
本発明の組成物中のヘスペリジンの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.01~100質量部である。
【0029】
本発明の組成物中の酵素処理ヘスペリジンの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.025~100質量部である。
【0030】
本発明の組成物中の乳酸菌LSは、組成物100質量部あたり、好ましくは乳酸菌菌数として100万個~100兆個となるように配合するのが良い。
【0031】
本発明の組成物中のノブドウの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.005~100質量部、より好ましくは0.05~100質量部である。
【0032】
本発明の組成物中のインディアンデーツの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.0001~100質量部、より好ましくは0.005~100質量部である。
【0033】
本発明の組成物中のハスカップの配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.005~100質量部、より好ましくは0.05~100質量部である。
【0034】
本発明の組成物中のザクロ種子の配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.005~100質量部、より好ましくは0.05~100質量部である。
【0035】
本発明の組成物中のカンゾウ末の配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.005~100質量部、より好ましくは0.05~100質量部である。
【0036】
本発明の組成物中のケイヒ末の配合量は、組成物100質量部に対し、好ましくは0.005~100質量部、より好ましくは0.05~100質量部である。
【0037】
本発明の組成物は、緑内障―特に、視神経細胞死を原因とするもの―を予防又は治療するための、食品又は医薬品として使用することができる。
食品形態の場合、更に、糖質、脂質、タンパク質、アミノ酸、ビタミン類、その他のミネラル類、ローヤルゼリー、プロポリス、蜂蜜、食物繊維、アスタキサンチン、EPA、DHA、ラクトフェリン、アガリクス、キチン、キトサン、カプサイシン、ポリフェノール、カロテノイド、脂肪酸、ムコ多糖、補酵素、抗酸化物質などを配合することによりサプリメント等の健康食品又は栄養機能食品とすることもできる。
食品組成物の形態は特に限定されないが、タブレット、カプセル剤、水や牛乳等に溶かして飲むための粉末剤、飲料、菓子、冷菓等を例示することができる。
【0038】
医薬品形態の場合、薬理学的に許容できる担体又は希釈剤、例えばカルボキシメチルセルロース・エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポテトスターチ・コーンスターチ等の澱粉類、乳糖・ショ糖等の糖類、ピーナツ油・コーン油・ゴマ油等の植物性油、ポリエチレングリコール、アルギン酸、ゼラチン、タルク等と混合し、錠剤・カプセル剤・顆粒剤・散剤等の経口投与する製剤、口腔用錠剤・口腔用半固形剤等の口腔内適用製剤、注射剤、点眼剤、坐剤・注腸剤等の直腸に適用する製剤、軟膏剤・貼付剤等の皮膚などに適用する製剤、エキス剤・丸剤・煎剤等の生薬関連製剤等の剤型とすることができる。本発明の医薬品は、経口的又は非経口的(例えば眼内投与、硝子体内投与)に投与することができる。
【0039】
本発明の組成物は、毎日連続して摂取するのが適当である。体重約60kgの成人が摂取する場合、1回あたりの摂取量は、有効成分量が、好ましくは0.0001~3.3g、より好ましくは0.0003~3.3gであるのが望ましい。体重約60kgの成人が摂取する場合、1日当たりの摂取量は、有効成分量が、0.0003~10g、より好ましくは0.001~10gとなる量であるのが望ましい。
【実施例】
【0040】
試験1.抗酸化能の検討
視神経保護が期待される成分として、各成分を配合した神経細胞用培地で、マウスの網膜単離細胞を培養し、各成分の抗酸化能の有無から、網膜単離細胞への効果を確認した。
【0041】
〔材料及び方法〕
<材料>
視神経保護が期待される成分として、以下の物質又はその抽出液を試験に供した。
小麦を蒸して乾燥させたもの(商品名「こうじむぎ(登録商標)ST」、フレッシュ・フード・サービス株式会社製(以下「小麦」と示す))、脱脂米胚芽(米胚芽を、n-ヘキサン等の有機溶媒を用いて脂溶性分画を分離(脱脂)することにより、目的物を得ることができる。有機溶媒は、加熱により蒸発させることで除去する。)、脱脂大豆(商品名「脱脂大豆ハイプロ」、株式会社J-オイルミルズ製)、発酵ぶどう(商品名「発酵ぶどう食品」、株式会社Vino Science Japan)ヘスペリジン(商品名「ヘスペリジン」、アルプス薬品工業株式会社)、酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンH」、商品名「αG-ヘスペリジンPA」、グリコ栄養食品株式会社)、乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウスWB21株(以下「乳酸菌WB21」と略す。)(受託番号 FERM BP-7792)
【0042】
試験細胞 マウス成体網膜単離細胞
試験培地 神経細胞用培地(組成:Neurobasal-A Medium (1×) , Liquid(Life Technologies)、B-27(登録商標)supplement Minus AO (50×), Liquid(Life Technologies) (以下「B-27 supplement(AO-)」と略す。) 2%、gentamicin 12μg/mL、L-glutamine 2mM、Insulin 1μg/mL)
細胞数調製用培地(組成:Neurobasal-A Medium (1×), Liquid(Life Technologies)、Gentamicin 0.25mg/mL、L-glutamin 0.5mM、insulin0.005mg/mL、B-27 supplement(AO-) 2%
【0043】
<方法>
1.マウス成体網膜単離細胞を用いた各候補健康食品成分の抗酸化能の確認
マウス成体網膜単離細胞の培養は、B-27 supplement (AO-)を添加した神経細胞用培地で行い、細胞は短期間で死滅する条件を選択した。B-27 supplement(AO-)は、フリーラジカルによるニューロンへのダメージを研究する際に影響する5種類の抗酸化物質(vitamin E、 vitamin E acetate、 superoxide dismutase、 catalase、 およびglutathione)が除かれたB-27(登録商標)supplementである。生存細胞は、細胞生存を定量化できるアラマーブルー(AlamarBlue)(商標)アッセイにより解析した。アラマーブルー(Invitrogen、品番 DAL1100)は、生存細胞によって還元され、酸化型である紺青色から還元型である蛍光赤色に変化する。
実験は、各群のサンプル数は4とし、以下の手順で行った。
【0044】
(1)マウス成体網膜単離細胞は、以下の通りgentleMACS(Miltenyi Biotec K. K.)及びNeural Tissue Dissociation Kit(P)(Miltenyi Biotec K. K.)を用いて得た。
1)マウス(雄性C57BL/6系マウス、8-11週齢)を安楽死させ、眼球を摘出し、網膜組織をHBSS (-) with phenol red(和光純薬工業株式会社、コードNo. 084-08345)内に採取した。
2)gentleMACS Tube にNeural Tissue Dissociation Kit(P)のBuffer X 1.9ml及びEnzyme P 50μl並びに網膜4枚を入れた後、MACSmix Tube Rotator にセットし、37℃、CO25%のインキュベーター内において、一番遅いスピードで5分間撹拌した。
3)gentleMACS Octo Dissociator のプログラム”m_brain_01”を実施後、MACSmix(商標)にセットし、37℃、CO25%のインキュベーター内で、一番遅いスピードで3分間撹拌した。
4)gentleMACS のプログラム”m_brain_02”を実施後、Buffer Y 20μl及びEnzyme A 10μlの混合液を添加し、MACSmix にセットし、37℃、CO25%のインキュベーター内において、一番遅いスピードで5分間撹拌した。
5)gentleMACS Octo Dissociator のプログラム”m_brain_03”を実施後、MACSmix Tube Rotator にセットし、37℃、CO25%のインキュベーター内において、一番遅いスピードで5分間撹拌した。
6) 溶液をCell Strainer(φ40μm)で濾過し、遠心して、神経細胞用培地に懸濁した。
7) 細胞溶液の一部を分取して、血球計数盤により、トリパンブルー染色で染まらない生存細胞を計数した。
(2)マウス成体網膜単離細胞を、計数結果に基づき希釈し、生存細胞が1.8×105cell/50μL細胞数調整用培地/ウェルとなるように96穴プレートの各ウェルに播種し、CO25%のインキュベーター内において、37℃で15分間培養し、96穴プレートの各ウェル底面にはりつけた。
(3)実験群には表1の通り神経細胞用培地を用いて調製した各成分を、小麦、脱脂米胚芽、脱脂大豆、発酵ぶどう、αG-ヘスペリジンH、αG-ヘスペリジンPA-T、乳酸菌WB21の対照群には神経細胞用培地のみを、ヘスペリジンの対照群には終濃度としてジメチルスルホキシド(和光純薬工業株式会社)が0.1%となるよう神経細胞用培地で希釈したものを(2)の各ウェルに50μL加えて、37℃、CO25%のインキュベーター内で2時間培養を行った。
【0045】
【0046】
(4)アラマーブルーを(3)の各ウェルに10μL追加し、CO25%のインキュベーター内において、37℃で約24時間の発色反応を行った。
(5)発色反応後、蛍光強度(励起波長544-570nm、測定波長590nm)を測定することで、生存細胞数を評価した。
【0047】
結果として、対照群における蛍光強度の測定値を1とした場合、実験群8種におけるそれぞれの蛍光強度の測定値の比を
図1に示した。実験群8種のすべてにおいて、対照群に比べ、測定値は高値であった。これより、実験群における生存細胞数は、対照群における生存細胞数と比べて多いため、表1に示した各成分は抗酸化能を有することがわかった。よって、表1に示した各成分は視神経保護効果を有していると推測できる。
【0048】
試験2.マウス緑内障モデルでの視神経保護効果の検討
各成分について、げっ歯類の緑内障の病態モデルであるマウス視神経挫滅モデルを用いて、神経保護効果を確認した。
【0049】
〔材料及び方法〕
<材料>
成分
視神経保護が期待される成分として、以下の物質を試験に供した。
酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社製)、発酵ぶどう(商品名「発酵ぶどう食品」、株式会社Vino Science Japan)、小麦を蒸して乾燥させたもの(商品名「こうじむぎ(登録商標)ST」、フレッシュ・フード・サービス株式会社製(以下「小麦」と示す))、脱脂小麦胚芽(商品名「脱脂小麦胚芽フラワーTYPE-R」、株式会社光洋商会製、脱脂米胚芽(米胚芽を、n-ヘキサンの有機溶媒を用いて脂溶性分画を分離(脱脂)することにより、目的物を得ることができる。有機溶媒は、加熱により蒸発させることで除去する。)、脱脂大豆(商品名「脱脂大豆ハイプロ」、株式会社J-オイルミルズ製)、乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウスWB21株(以下「乳酸菌WB21」と略す。)(受託番号 FERM BP-7792))
試験動物 雄性C57BL/6系マウス,9-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数は8とし、以下の方法で行った。
【0050】
<方法>
(1)網膜神経節細胞をラベルするため、視神経挫滅手術の1週間前に、麻酔下で1%フルオロゴールド(Fluorochrome, LLC)をマウスの脳の上丘に注入した。
(2)実験群のマウスには表2の通り調製した各成分を、表2の通りの投与量で、対照群のマウスには蒸留水又はリン酸緩衝生理食塩水(Ca, Mg 不含、pH7.4、以下「PBS(-)」と略す)100μLを、視神経挫滅処置1週間前より1日1回経口投与した。
【0051】
【0052】
(3)マウスの視神経挫滅処置は、ケタミン(100mg/kg)及びキシラジン(5mg/kg)投与による麻酔下で実施した。片眼のみ視神経挫滅処置を行い、僚眼は無処置とした。視神経挫滅処置終了後、抗菌剤眼軟膏をマウスの眼に点入した。
(4)視神経挫滅処置翌日より、実験群のマウスには表2の各成分を、対照群のマウスには蒸留水又はPBS(-)100μLを、1日1回経口投与した。
(5)視神経挫滅処置後10日目にマウスの網膜を摘出し、網膜を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業株式会社)で固定した後、蛍光用封入剤であるVECTASHIELD Mounting Medium(Vector Laboratories、商品コードH-1000)で封入した。
(6)1網膜上に500ピクセル平方の12か所を撮影した。
(7)フルオロゴールドでラベルされた細胞数を数えて12か所の平均数を求め、これを1平方ミリメートル当たりの生存網膜神経節細胞数とし、群毎にその平均を求めた。
【0053】
結果として、対照群における1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数を1とした場合の、実験群における1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数の比を、
図2に示す。実験群における生存網膜神経節細胞数は、対照群の1平方ミリメートル当たりの生存網膜神経節細胞数に比べ多かった。つまり、表2に示した各成分が、視神経挫滅により誘導した網膜神経節細胞死を抑制したことがわかった。実施した各成分すべてにおいて、視神経保護効果を有していることが確認された。
【0054】
試験3.酵素処理ヘスペリジンの経口投与による網膜神経節細胞保護効果の検討
視神経挫滅以外の緑内障モデルである、7N-メチル-D-アスパラギン酸(以下「NMDA」と称す。)投与により神経節細胞死を誘導するモデルにて、酵素処理ヘスペリジンの細胞保護作用を検討した。
【0055】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社)
使用動物:C57BL/6マウス 雄 8-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数を5とし、以下の方法で行った。
<方法>
(1)マウス入荷後、1週間の馴化期間をおいた。その期間は水と餌は自由摂取とした。
(2)実験群のマウスには、20%(w/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを添加したりん酸緩衝生理食塩水 (KCl不含) (pH 7.2) (ナカライテスク、製品番号11480-35)(以下「PBS」と称す。)を200μL、対照群のマウスにはPBSを200μL、1日3回、7日間経口ゾンデを用いて経口投与した。
(3)マウスへ、7日間経口投与後、10%ネンブタールを0.3mL大腿部に筋中投与し、全身麻酔を行った。
(4)マウスの角膜輪部下方を30ゲージ針により穿孔した。
(5)15μMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL、ハミルトンシリンジと32ゲージ針を用いて、マウスの硝子体内に投与した。
(6)マウスの結膜を整復し、抗菌剤眼軟膏を点入した。片眼のみ処置を行い、僚眼は無処置とした。保温処置をし、覚醒を待った。
(7)翌日より、実験群のマウスには20%(w/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを添加したPBSを200μL、対照群のマウスにはPBSを200μL、1日3回、経口ゾンデを用いて経口投与した。
(8)NMDA硝子体内投与3日後に、網膜神経節細胞をラベルするため、麻酔下で1%フルオロゴールド(Fluorochrome, LLC)をマウスの脳の上丘に注入した。
(9)フルオロゴールドラベル7日後にマウスを頸椎脱臼し、眼球を摘出し、網膜を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業株式会社)で2時間固定した後、DPBS(Gibco、製品番号14190-144)で洗浄し、蛍光用封入剤であるVECTASHIELD Mounting Medium(Vector Laboratories、商品コードH-1000)で封入した。
(10)蛍光顕微鏡で1網膜上に500ピクセル平方の12か所を撮影した。
(11)フルオロゴールドラベルされた細胞数を数えて12か所の平均数を求め、これを1平方ミリメートル当たりの生存網膜神経節細胞数とし、群毎にその平均を求めた。
【0056】
結果として、対照群における1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数を1とした場合の、実験群における1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数の比を、
図3に示す。実験群(
図3中「障害+酵素処理ヘスペリジン」)における1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数は、対象群の1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数に比べ多かった。つまり、この試験より、酵素処理ヘスペリジンの経口投与が、NMDAにより誘導される網膜神経節細胞死を抑制したことが分かった。
【0057】
試験4.酵素処理ヘスペリジン眼内投与による網膜神経節細胞保護効果の検討
NMDA投与により神経節細胞死誘導を行うモデルにて、酵素処理ヘスペリジンの細胞保護作用を検討した。
【0058】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社)
使用動物:C57BL/6マウス 雄 8-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数を4-6とし、以下の方法で行った。
【0059】
<方法>
(1)マウスの大腿部に10%ネンブタール0.3mLを筋中投与し、全身麻酔を行った。
(2)マウスの角膜輪部下方を30ゲージ針により穿孔した。
(3)実験群のマウスには、15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を及び17%(w/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを添加したPBSを2μL、硝子体内に投与した。一方、対照群のマウスには、15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL、硝子体内に投与した。マウスは、片眼のみ処置を行い、僚眼は無処置とした。投与には、ハミルトンシリンジと32ゲージ針を用いた。
(4)マウスの結膜を整復し、抗菌剤眼軟膏を点入した。保温処置し、覚醒を待った。
(5)NMDA硝子体内投与3日後に、生存網膜神経節細胞をラベルするため、麻酔下で2%フルオロゴールド(Fluorochrome, LLC)を2μL、マウスの脳の上丘に注入した。
(6)フルオロゴールドによるラベル7日後にマウスを頸椎脱臼し、眼球を摘出し、網膜を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業株式会社、販売元コード163-20145)で2時間固定した後、DPBS(Gibco、製品番号14190-144)で洗浄し、蛍光用封入剤であるVECTASHIELD Mounting Medium(Vector Laboratories、商品コードH-1000)で封入した。
(7)蛍光顕微鏡で1網膜上に500ピクセル平方の12か所を撮影した。
(8)フルオロゴールドでラベルされた細胞数を数えて12か所の平均数を求め、これを1平方ミリメートル当たりの生存網膜神経節細胞数とし、群毎にその平均を求めた。
【0060】
結果として、対照群の1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数を1とした場合の、実験群の1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数の比を、
図4に示す。実験群(
図4中「酵素処理ヘスペリジン」)における1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数は、対照群(
図4中「対照」)の1平方ミリメートル当たりの平均生存網膜神経節細胞数に比べ多かった。この試験より、酵素処理ヘスペリジンの眼内投与が、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死を抑制したことが分かった。
生存網膜神経節細胞の写真を
図5に示す。
【0061】
試験5.酵素処理ヘスペリジンの眼内投与による網膜神経節細胞保護効果の検討
試験物質について、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死の抑制作用を確認した。RT-PCRにより、網膜神経節細胞特異的遺伝子Rbpms、Brn3b及びBrn3cの発現を検討した。
【0062】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社)
試験動物:C57BL/6マウス 雄 8-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数は5-6とし、以下の方法で行った。
【0063】
<方法>
(1)実験群のマウスには、17%(w/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを及び15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL、ハミルトンシリンジと32ゲージ針を用いて、右眼硝子体内に投与した。対照群のマウスには、15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL、ハミルトンシリンジと32ゲージ針を用いて、右眼硝子体内に投与した。無処置群のマウスには、右眼硝子体内に何も投与しなかった。
(2)24時間後、マウスを頚椎脱臼し、眼球を摘出し、網膜を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業株式会社)で固定した。
(3)miRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、Total RNA抽出を行った。
(4)SuperScriptIII(Invitrogen)を用いて、cDNA合成を行った。リアルタイムPCRはTaqman probe法を用い、サーマルサイクラ―FAST7500(ABI)とMaster Mix(ABI)を使用した。プローブはいずれもABI社のプレデザインされたプローブを購入し使用した。下記に使用したプライマーを示す。Rbpms(Mm00803908_m1)、Brn3b (Mm00454754_S1)、Brn3c(Mm04213795_s1)、Gapdh(Mm99999915_g1)。
(5)それぞれの標的遺伝子発現量は、ΔΔCt法(比較Ct法)により、Gapdhを内在性コントロールとして補正し、相対定量した。各群において、遺伝子発現量の平均と標準偏差を求めた。
【0064】
結果として
図6の通り、対照群(
図6中「PBS」)に比べ、実験群(
図6中「Hes」)では網膜神経節細胞特異的遺伝子であるRbpms、Brn3b及びBrn3cの発現量が多かった。これは、実験群では、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死を酵素処理ヘスペリジンが抑制したために、対照群と比べて、網膜神経節細胞特異的遺伝子の発現量の減少が抑制されたためと考えられた。この試験から、眼内投与による酵素処理ヘスペリジンの神経保護作用が示唆された。
【0065】
試験6.酵素処理ヘスペリジン眼内投与による網膜神経節細胞保護効果の検討
試験物質について、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死の抑制作用を確認した。抗RBPMS抗体を用いて網膜神経節細胞数を評価した。RBPMSは網膜神経節細胞のマーカー蛋白質である。
【0066】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社)
試験動物:C57BL/6マウス 雄 8-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数を5-6とし、以下の方法で行った。
【0067】
<方法>
(1)実験群のマウスの右眼硝子体内に、15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を及び17%(w/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを添加したPBSを2μL投与した。対照群のマウスの右眼硝子体内に、15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL投与した。無処置群のマウスの右眼硝子体内には、何も投与しなかった。投与には、ハミルトンシリンジと32G針を用いた。
(2)24時間後、マウスを頚椎脱臼し、右眼球を摘出し、網膜を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業株式会社)で固定した。
(3)スクロース置換とOCT包埋により網膜の凍結切片を作製し、切片を、0.04%(v/v)となるようTween-20を添加したPBS(以下「Tw-PBS」と称す。)で5分間×3回洗った。
(4)切片を、0.5%(v/v)となるようポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(和光純薬工業株式会社、販売元コード168-11805)を添加したTw-PBS中で10分間反応させた後、Tw-PBSで5分間×3回洗った。
(5)Tw-PBSに10%(v/v)となるようDonkey Serum(biowest、#S2170-100)を添加し調製したブロッキング液を、1切片につき50μL添加し、室温で1時間静置した。
(6)切片を、前出のブロッキング液:Anti-RBPMS 抗体(Abcam ab194213)=1:200となるよう調製した溶液中で、室温で1時間静置した(一次抗体反応)後、Tw-PBSで5分間×3回洗った。
(7)切片を、前出のブロッキング液:Donkey anti-Rabbit IgG (H+L) Secondary Antibody, Alexa Fluor(登録商標)488 conjugate(Molecular Probe、#A21206)=1:500となるよう調製した溶液中で、室温で1時間静置した(二次抗体反応)後、Tw-PBSで5分間×3回洗った。
(8)切片をDAPI含有封入剤(Vector Laboratories、製品名:VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI)で封入し、トップコートでカバーガラスの周囲を固定した。
(9)蛍光顕微鏡で撮影を行った。網膜全体のRBPMS発現細胞数を計測し、群毎にその平均を求め、これを1眼あたりの生存網膜神経節細胞数とした。
【0068】
結果として、無処置群(
図7中「無処置」)における1眼あたりの生存網膜神経節細胞数を1とした場合の、対照群(
図7中「対照」)及び実験群(
図7中「酵素処理ヘスペリジン」)における1眼あたりの生存網膜神経節細胞数の比を、
図7に示す。実験群における1眼あたりの生存網膜神経節細胞数は、対照群の1眼あたりの生存網膜神経節細胞数に比べ多かった。これより、酵素処理ヘスペリジンの眼内投与が、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死を抑制したことが分かった。また、
図8は、RBPMS発現細胞(免疫染色)の写真である。
【0069】
試験7.酵素処理ヘスペリジン眼内投与による網膜神経節細胞保護効果の検討
NMDA投与により網膜神経節細胞死を誘導するモデルにて、酵素処理ヘスペリジンの電気生理機能評価を検討した。
【0070】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社)
使用動物:C57BL/6マウス 雄 8-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数を8-10とし、以下の方法で行った。
【0071】
<方法>
(1)マウスに、メデトミジン(株式会社 明治)を0.6mg/kgの用量で及びケタミン(第一三共株式会社)を36mg/kgの用量で腹腔内注射して、麻酔を行った。
(2)マウスの頭皮を切開して頭蓋を露出させた後、微小電極(stainless steel pan-head screws M0.6x3.0mm in length)を埋め込んだ。電極は、ブレグマを基準として2mm前方に陰電極を、3.6mm後方に正中から2.3mmの位置に左右それぞれに陽電極を1mmの深さで埋め込んだ。
(3)続いて、固定用のポリカーボネートねじを頭頂部に固定し、最後に歯科用セメント(GC dental products、製品名:GC Unifast III)で露出した頭蓋とねじの根元を覆い固定した。マウスは、手術中はヒートパッドの上で常に保温し、終了後はメデトミジン拮抗薬のアチパメゾール( Meiji Seika ファルマ株式会社)を0.35mg/kgの用量で腹腔内注射し、麻酔から回復させた。
(4)微小電極埋め込みの7日後に、マウスの右眼硝子体内に、対照群では15mMとなるようにNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL投与し、実験群では15mMとなるようにNMDA(Sigma-aldrich)を及び17%(v/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを添加したPBSを2μL投与した。左眼は無処置とした。
(5)NMDA投与10日後に、マウスを、2.5%フェニレフリンと1.0%トロピカミドを点眼して散瞳させた後、固定装置に乗せ頭頂部のネジで固定し自由に動ける状態にした。
(6)陽電極をマウスの左右の視覚野に、陰電極をマウスの前頭部に、グランド電極(アース)をマウスの尾に取り付け、記録システム(有限会社メイヨー、製品名:誘発反応記録装置ピュレック)と接続した。
(7)マウスをGanzfeldドーム(有限会社メイヨー、製品名:ミニガンツ)の球面に両目が位置するように置き、LED刺激装置(有限会社メイヨー、製品名:LED発光装置 LS-100)により刺激光を与え、視覚誘発電位を記録した。最初に暗順応下で-7.0、-6.0、-5.0、-4.0、-3.0、-2.0、-1.0 log cd.s/m2 の強さの光刺激で測定したのち、明順応下(白色光30 cd/m2)で0、0.5、1.0、1.5、2.0 log cd-s/m2で測定した。シグナルは0.3Hzと50Hzのバンドパスフィルターを通した。
【0072】
結果として
図9の通り、対照群(
図8中「対照」)の右眼(
図8中「NMDA」)は、無処置とした左眼(
図8中「無処置」)と比べ、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死によって脳の電気生理機能がなくなっていたのに対し、実験群(
図8中「酵素処理ヘスペリジン」)の右眼(
図8中「NMDA」)では、無処置とした左眼(
図8中「無処置」)とほぼ同様の電気生理機能が保持されていた。これより、酵素処理ヘスペリジンが、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死を抑制したことが示唆された。
【0073】
試験8. 酵素処理ヘスペリジン眼内投与による網膜神経節細胞保護効果の検討
NMDA投与により網膜神経節細胞死を誘導するモデルにて、視力を検討した。
【0074】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:酵素処理ヘスペリジン(商品名「αG-ヘスペリジンPA-T」、グリコ栄養食品株式会社)
使用動物:C57BL/6マウス 雄 8-12週齢 約25g
実験は、各群のサンプル数を3-4とし、以下の方法で行った。
【0075】
<方法>
(1)マウスの右眼硝子体内に、実験群には15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を及び17%(w/v)となるよう酵素処理ヘスペリジンを添加したPBSを2μL投与し、対照群には15mMとなるようNMDA(Sigma-aldrich)を添加したPBSを2μL投与した。無処置群のマウスの右眼硝子体内には、何も投与しなかった。投与には、ハミルトンシリンジと32G針を用いた。
(2)(1)の操作の11日後、12日後及び13日後に、マウスの視力を1日1回、3日連続して測定し、各群の平均視力を求めた。視力はOptoMotry(CerebralMechanics Inc.)を用いて測定した。
【0076】
結果として、
図10の通り、視力の結果から、酵素処理ヘスペリジンが、NMDA投与により誘導される網膜神経節細胞死を抑制したことが示唆された。
【0077】
試験9. 小胞体ストレス抑制効果の検討
ツニカマイシン刺激により小胞体ストレスを検知する遺伝子Trb3を導入した網膜細胞をツニカマイシンで刺激し、小胞体ストレスの抑制が期待できる成分を検討した。
【0078】
〔材料及び方法〕
<材料>
試験物質:小麦を蒸して乾燥させたもの(商品名「こうじむぎ(登録商標)ST」、フレッシュ・フード・サービス株式会社製(以下「小麦」と示す))、ノブドウ(商品名「ノブドウ乾燥エキスF」、丸善製薬株式会社製)、ハスカップ(商品名「ハスカップパウダーS」、日本新薬株式会社製)、ザクロ種子(商品名「ザクロ種子乾燥エキス」、アスク薬品株式会社製)、カンゾウ末(商品名「食品原料用カンゾウ末」、日本粉末株式会社製)、インディアンデーツ(商品名「インディアンデーツエキスパウダーMF」、丸善製薬株式会社製)、ケイヒ末(商品名「食品原料用ケイヒ末」、日本粉末株式会社製)
試験細胞:RGC-Trb3 stable cells
試験培地:10%となるようウシ胎児血清を添加したDMEM(Gibco、製品番号11995-073)に、2μg/mLとなるようツニカマイシン(和光純薬工業株式会社)を添加し調製した。
【0079】
<方法>
(1)24ウェルプレートに、2.83×104cell/300μLとなるよう試験培地で調製したRGC-Trb3 stable cellsを、1つのウェルにつき300μL播種し、37℃、-CO2の条件下で一晩インキュベーションした。
(2)実験群は、試験物質5mgを500μLの試験培地に添加し1%に調製後、試験培地で終濃度0.25%まで希釈した溶液を、1つのウェルにつき75μL添加し、37℃、-CO2の条件下で24時間培養した。対照群は、DMEMに0.5%となるようにジメチルスルホキシドを添加した溶液を1つのウェルにつき75μL添加し、37℃、-CO2の条件下で24時間培養した。
(3)1つのウェルにつき、DPBS(Gibco、製品番号14190-144)500μLで洗った後に、DPBSを取り除き、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN)700μLを添加し、セルスクレーパーでウェル内の細胞をかきとりエッペンチューブに回収した。
(4)miRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出後、SuperScriptIII(Invitrogen)を用いてcDNA合成を行った。
(5)SuperScriptIII First-Strand Synthesis SuperMix for qRT-PCR、TaqMan Fast Universal PCR Master Mix (2×), No AmpErase UNG、プライマーmouse Trb3(Life Technologies、Mm00454879_m1)、Gapdh用プライマー(Life Technologies、Mm99999915_g1)を用いてリアルタイムPCRを実施した。
(6)Trb3発現量は、ΔΔCt法(比較Ct法)により、Gapdhを内在性コントロールとして補正し、相対定量した(各群n=4)。対照群及び実験群7種において、Trb3発現量の平均をそれぞれ求めた。
【0080】
結果として、対照群における平均Trb3発現量を1としたときの、実験群7種におけるそれぞれの平均Trb3発現量の相対値を
図11に示した。実験群7種すべてにおいて、対照群に比べ平均Trb3発現量が低値であった。これにより、Trb3は小胞体ストレスにより発現が誘導される遺伝子であるため、実験群において小胞体ストレス抑制効果があったことが分かった。よって、全ての試験物質が、視神経保護作用を有していることが示唆された。