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特許7270230非水電解質二次電池および非水電解質二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池および非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230428BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230428BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230428BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230428BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230428BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/38 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M4/134
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019568957
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000477
(87)【国際公開番号】W WO2019150902
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2018014428
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤友 千咲希
(72)【発明者】
【氏名】西谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】野崎 泰子
(72)【発明者】
【氏名】出口 正樹
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-537369(JP,A)
【文献】特開2013-152824(JP,A)
【文献】特開2013-251097(JP,A)
【文献】特開2005-129481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび電解液を有し、前記電解液が、溶媒と、溶質と、カルボン酸無水物と、を含み、
前記溶媒が、カルボン酸エステル化合物を含み、
前記溶質が、スルホニルイミド化合物を含み、
前記負極が、リチウムシリケート相および前記リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子を含む複合材料を含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記溶媒に占める前記カルボン酸エステル化合物の割合が、5体積%~80体積%である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記溶媒に占める前記カルボン酸エステル化合物の割合が、20体積%~45体積%である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記電解液における前記カルボン酸無水物の含有量が、3質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記電解液における前記スルホニルイミド化合物の含有量が、0.1mol/リットル~1.1mol/リットルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記カルボン酸無水物が、無水コハク酸、無水マレイン酸およびジグリコール酸無水物よりなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記スルホニルイミド化合物が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiN(SO2F)2を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記カルボン酸エステル化合物が、R1CO-ORで表される低級エステル化合物を含み、
1は、水素原子(H)または炭素数1~3のアルキル基であり、
は、炭素数1~3のアルキル基である、請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記複合材料中の前記シリコン粒子の含有量が、30質量%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記リチウムシリケート相の組成が、式:LiSiOで表わされ、0<y≦8かつ0.5≦z≦6を満たす、請求項1~9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記負極が、前記スルホニルイミド化合物および前記カルボン酸無水物に由来する被膜を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび電解液を有する未充電電池を組み立てる工程と、
前記未充電電池を充電する工程と、を含み、
前記電解液は、溶媒と、溶質と、カルボン酸無水物と、を含み、
前記溶媒が、カルボン酸エステル化合物を含み、
前記溶質が、スルホニルイミド化合物を含み、
前記負極が、リチウムシリケート相および前記リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子を含む複合材料を含み、
前記未充電電池を充電する工程では、前記負極に、前記スルホニルイミド化合物および前記カルボン酸無水物に由来する被膜を形成する、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記電解液における前記カルボン酸無水物の含有量が、3質量%以下である、請求項12に記載の非水電解質二次電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、非水電解質二次電池の電解液の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電解液の溶媒にカルボン酸エステルを用いると、電解液のイオン伝導度が向上することが期待される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-172120号公報
【発明の概要】
【0004】
非水電解質二次電池の電解液にカルボン酸エステルを用いると、電解液の粘性が低下するため、室温におけるサイクル特性が向上する傾向がある。一方、45℃程度の高温では、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0005】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび電解液を有し、前記電解液が、溶媒と、溶質と、カルボン酸無水物と、を含み、前記溶媒が、カルボン酸エステル化合物を含み、前記溶質が、スルホニルイミド化合物を含む、非水電解質二次電池に関する。
【0006】
本発明の別の側面は、正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび電解液を有し、前記電解液が、溶媒と、溶質と、を含み、前記溶媒が、カルボン酸エステル化合物を含み、前記溶質が、スルホニルイミド化合物を含み、前記負極が、スルホニルイミド化合物およびカルボン酸無水物に由来する被膜を有する、非水電解質二次電池に関する。
【0007】
本発明の更に別の側面は、溶媒と、溶質と、カルボン酸無水物と、を含み、前記溶媒が、カルボン酸エステル化合物を含み、前記溶質が、スルホニルイミド化合物を含む、電解液に関する。
【0008】
本発明の更に別の側面は、正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび上記電解液を有する未充電電池を組み立てる工程と、前記未充電電池を充電することにより、前記負極に、スルホニルイミド化合物およびカルボン酸無水物に由来する被膜を形成する工程と、を含む、非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池によれば、45℃程度の高温でも良好なサイクル特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るLSX粒子の構成を示す断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータおよび電解液を有し、電解液は、溶媒と、溶質と、カルボン酸無水物とを含む。ここで、溶媒は、カルボン酸エステル化合物を含み、溶質が、スルホニルイミド化合物を含む。
【0012】
溶媒とは、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状炭酸エステルおよび鎖状カルボン酸エステルならびに25℃で液状を呈するとともに電解液中に3質量%以上含まれる電解液成分である。溶質とは、電解液中でイオン解離する電解質塩である。電解液には、様々な添加剤が含まれ得る。溶媒および溶質以外の成分は添加剤であり、カルボン酸無水物は添加剤に分類される。なお、25℃で単独で固体状態を呈するポリマーは、電解液中での含有量が3質量%以上である場合にも電解液成分には含まない。このようなポリマーは、電解液をゲル化させるマトリックスとして機能する。
【0013】
カルボン酸エステルは、電解液の粘性を低下させるため、室温におけるサイクル特性を向上させるのに有効である。一方、45℃程度の高温では、カルボン酸エステルを含む電解液の分解が進行しやすく、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0014】
これに対し、カルボン酸無水物が含まれ、かつスルホニルイミド化合物が含まれない電解液を用いる場合、カルボン酸無水物は、負極表面に緻密で強固な有機被膜(以下、被膜Aと称する。)を形成する。被膜Aにより、電解液の分解は抑制されるものの、反応抵抗が非常に大きくなるため、容量維持率を十分に改善することは困難である。
【0015】
スルホニルイミド化合物が含まれ、かつカルボン酸無水物が含まれない電解液を用いる場合、スルホニルイミド化合物は、負極表面に疎な被膜(以下、被膜Bと称する。)を形成する。被膜Bは無機被膜であり得る。被膜Bにより、電解液の分解が多少は抑制されるものの、被膜B自体が脆弱であり、やはり容量維持率を十分に改善することは困難である。また、被膜Aに比べると影響は小さいが、反応抵抗も上昇する。
【0016】
一方、電解液が、カルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物の両方を含む場合、負極表面には、被膜Aよりも格段に反応抵抗が小さく、かつ被膜Bよりも反応抵抗が小さいハイブリッド被膜が形成される。疎で脆弱な被膜Bがカルボン酸無水物由来の被膜成分により適度に補強され、被膜A、Bとは大きく異なる組成と密度を有する柔軟な被膜構造が形成されるものと考えられる。ハイブリッド被膜は、リチウムイオンの拡散性に優れ、反応抵抗が低いだけでなく、45℃程度の高温下でも負極表面における電解液(特にカルボン酸エステル)の還元分解を十分に抑制する。また、柔軟なハイブリッド被膜は、負極の膨張収縮に追随しやすく、低粘度な電解液の液回りを向上させるとともに、剥がれにくい。よって、電解液にカルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物とを含ませることで、45℃程度の高温でも非常に良好なサイクル特性を得ることができる。
【0017】
ハイブリッド被膜は、カルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物の両方を含む電解液を有する未充電電池を充電する際に、負極表面に形成される。よって、本発明に係る非水電解質二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータおよびカルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物とを含む電解液を有する未充電電池を組み立てる工程と、未充電電池を充電する工程とを含む製造方法により得ることができる。
【0018】
電池に注液する前の電解液において、カルボン酸無水物の含有量は、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。反応抵抗の低い上質なハイブリッド被膜が形成されやすいからである。同様の観点から、電池に注液する前の電解液におけるカルボン酸無水物の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
【0019】
電解液におけるカルボン酸無水物の含有量は、電解液をガスクロマトグラフィーによって分析することによって測定することができる。
【0020】
電池内に導入された電解液中のカルボン酸無水物の少なくとも一部は、電池を充放電する際に酸化または還元され、ハイブリッド被膜の形成に使用される。よって、電池内に含まれる電解液におけるカルボン酸無水物の含有量は、やはり3質量%以下が好ましく、例えば0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。電池内から採取された電解液におけるカルボン酸無水物の含有量は、例えば0.01質量%以上か、もしくはより少なく、僅かになり得るが、電解液をガスクロマトグラフィーによって分析することによって、少なくとも、その存在を確認することができる。
【0021】
電解液に添加されるカルボン酸無水物が微量である場合、カルボン酸無水物のほとんどがハイブリッド被膜の形成のために消費され得るが、その結果として、負極表面には、スルホニルイミド化合物およびカルボン酸無水物に由来するハイブリッド被膜が形成される。電池内の電解液がカルボン酸無水物を含まない場合でも、負極がスルホニルイミド化合物およびカルボン酸無水物に由来するハイブリッド被膜を有する場合、その実施形態は本発明に包含される。
【0022】
溶媒に占めるカルボン酸エステル化合物の割合は、5体積%以上80体積%以下が好ましく、20体積%以上45体積%以下がより好ましい。電解液の粘度を十分に低下させることができるとともに、サイクル特性を向上させやすいからである。
【0023】
カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水シュウ酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水安息香酸、ジグリコール酸無水物などが挙げられるが、特に限定されない。これらのうちでは、無水コハク酸、無水マレイン酸およびジグリコール酸無水物よりなる群から選択された少なくとも1種を用いることが、緻密で強固な被膜を形成させ得る点で好ましい。カルボン酸無水物に占めるこれらの割合は、90質量%以上が好ましく、100%が無水コハク酸、無水マレイン酸およびジグリコール酸無水物よりなる群から選択された少なくとも1種であってもよい。
【0024】
電解液におけるスルホニルイミド化合物の含有量は、より上質なハイブリッド被膜を形成するとともに電解液のイオン伝導度を高める観点から、例えば0.1mol/リットル~1.5mol/リットルであればよく、0.2mol/リットル~1mol/リットルが好ましい。
【0025】
スルホニルイミド化合物としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiN(SO2F)2(以下、LFSIとも称する。)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:LiN(CF3SO22、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:LiN(SO2F)(CF3SO2)などが挙げられるが、特に限定されない。これらのうちでは、LFSIが特に好ましい。スルホニルイミド化合物に占めるLFSIの割合は、90モル%以上が好ましく、100%がLFSIでもよい。
【0026】
カルボン酸エステル化合物には、電解液の低粘度化、伝導度向上の観点から、R1CO-ORで表される低級エステル化合物が好ましく、カルボン酸エステル化合物の90質量%以上が低級エステル化合物であってもよい。ここで、R1は、水素原子(H)または炭素数1~3のアルキル基であればよく、R2は、炭素数1~3のアルキル基であればよい。カルボン酸エステル化合物の具体例としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどが挙げられる。
【0027】
負極は、リチウムシリケート相およびリチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子を含有する複合材料(以下、「負極材料LSX」、あるいは、単に「LSX」とも称する。)を含んでもよい。負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量が高いほど負極容量が大きくなる。ただし、負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量が高くなると、負極からアルカリ成分が溶出し得る。アルカリ成分は電解液(例えばカルボン酸エステル化合物)の分解反応を促進し得る。これに対し、電解液にカルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物とが含まれる場合、ハイブリッド被膜が負極表面に形成されるため、電解液の分解反応は十分に抑制される。
【0028】
リチウムシリケート相は、好ましくは、組成式がLiSiOで表わされ、0<y≦8かつ0.5≦z≦6を満たす。組成式がLi2uSiO2+u(0<u<2)で表されるものがより好ましい。
【0029】
リチウムシリケート相は、SiO2と微小シリコンとの複合物であるSiOに比べ、リチウムと反応し得るサイトが少なく、充放電に伴う不可逆容量を生じにくい。リチウムシリケート相内にシリコン粒子を分散させる場合、充放電の初期に、優れた充放電効率が得られる。また、シリコン粒子の含有量を任意に変化させることができるため、高容量負極を設計することができる。
【0030】
リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子の結晶子サイズは、例えば5nm以上である。シリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有する。シリコン粒子の結晶子サイズを5nm以上とする場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じにくい。シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0031】
負極材料LSXは、構造安定性にも優れている。シリコン粒子は、リチウムシリケート相内に分散しているため、充放電に伴う負極材料LSXの膨張収縮が抑制されるためである。シリコン粒子自身の亀裂を抑制する観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましい。初回充電後においては、シリコン粒子の平均粒径は、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。シリコン粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、負極材料LSXの構造安定性が更に向上する。
【0032】
シリコン粒子の平均粒径は、負極材料LSXの断面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を観察することにより測定される。具体的には、シリコン粒子の平均粒径は、任意の100個のシリコン粒子の最大径を平均して求められる。シリコン粒子は、複数の結晶子が寄り集まることにより形成されている。
【0033】
負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量は、高容量化の観点からは、例えば30質量%以上であればよく、35質量%以上が好ましい。この場合、リチウムイオンの拡散性が良好であり、優れた負荷特性を得やすくなる。一方、サイクル特性の向上の観点からは、負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量が95質量%以下であることが好ましく、75質量%以下がより好ましい。リチウムシリケート相で覆われずに露出するシリコン粒子の表面が減少し、電解液とシリコン粒子との反応が抑制されやすいからである。
【0034】
シリコン粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
【0035】
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA-400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
リチウムシリケート相LiSiOの組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
【0036】
まず、負極材料LSXの試料の質量を測定する。その後、以下のように、試料に含まれる炭素、リチウムおよび酸素の含有量を算出する。次に、試料の質量から炭素含有量を差し引き、残量に占めるリチウムおよび酸素含有量を算出し、リチウム(Li)と酸素(O)のモル比からyとzの比が求まる。
【0037】
炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEMIA-520型)を用いて測定する。磁性ボードに試料を測り取り、助燃剤を加え、1350℃に加熱された燃焼炉(キャリアガス:酸素)に挿入し、燃焼時に発生した二酸化炭素ガス量を赤外線吸収により検出する。検量線は、例えば、Bureau of Analysed Samples.Ltd製の炭素鋼(炭素含有量0.49%)を用いて作成し、試料の炭素含有量を算出する(高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法)。
【0038】
酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEGMA-830型)を用いて測定する。Niカプセルに試料を入れ、フラックスとなるSnペレットおよびNiペレットとともに、電力5.75kWで加熱された炭素坩堝に投入し、放出される一酸化炭素ガスを検出する。検量線は、標準試料Y23を用いて作成し、試料の酸素含有量を算出する(不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法)。
【0039】
リチウム含有量は、熱フッ硝酸(熱したフッ化水素酸と硝酸の混酸)で試料を全溶解し、溶解残渣の炭素をろ過して除去後、得られたろ液を誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)で分析して測定する。市販されているリチウムの標準溶液を用いて検量線を作成し、試料のリチウム含有量を算出する。
【0040】
負極材料LSXの試料の質量から、炭素含有量、酸素含有量、リチウム含有量を差し引いた量がシリコン含有量である。このシリコン含有量には、シリコン粒子の形で存在するシリコンと、リチウムシリケートの形で存在するシリコンとの双方の寄与が含まれている。Si-NMR測定によりシリコン粒子の含有量が求められ、負極材料LSX中にリチウムシリケートの形で存在するシリコンの含有量が求まる。
【0041】
負極材料LSXは、平均粒径1~25μm、更には4~15μmの粒子状材料(以下、LSX粒子とも称する。)を形成していることが好ましい。上記粒径範囲では、充放電に伴う負極材料LSXの体積変化による応力を緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。LSX粒子の表面積も適度になり、非水電解質との副反応による容量低下も抑制される。
【0042】
LSX粒子の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0043】
LSX粒子は、その表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を具備することが好ましい。リチウムシリケート相は、電子伝導性に乏しいため、LSX粒子の導電性も低くなりがちである。導電性材料で表面を被覆することで、導電性を飛躍的に高めることができる。導電層は、実質上、LSX粒子の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。
【0044】
図1に、負極材料LSXの一例であるLSX粒子20の断面を模式的に示す。
【0045】
LSX粒子20は、リチウムシリケート相21と、リチウムシリケート相21内に分散しているシリコン粒子22とを含み、リチウムシリケート相21およびシリコン粒子22で構成される母粒子23の表面には、導電層24が形成されている。導電層24は、LSX粒子もしくは母粒子23の表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料により形成されている。
【0046】
母粒子23は、例えば海島構造を有し、任意の断面において、リチウムシリケート相21のマトリクス中に、一部の領域に偏在することなく、微細なシリコン(単体Si)粒子22が略均一に点在している。
【0047】
リチウムシリケート相21は、シリコン粒子22よりも微細な粒子から構成されることが好ましい。この場合、LSX粒子20のX線回折(XRD)パターンでは、単体Siの(111)面に帰属される回折ピーク強度は、リチウムシリケートの(111)面に帰属される回折ピーク強度よりも大きくなる。
【0048】
次に、本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池について詳述する。非水電解質二次電池は、例えば、以下のような負極と、正極と、非水電解質とを備える。
【0049】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成され、かつ負極活物質を含む負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0050】
負極合剤は、負極活物質を必須成分として含み、任意成分として、結着剤、導電剤、増粘剤などを含むことができる。
【0051】
負極活物質は、負極の高容量化の観点から、負極材料LSXを含むことが好ましい。ただし、負極材料LSXは、充放電に伴って体積が膨張収縮するため、負極活物質に占めるその比率が大きくなると、充放電に伴って負極活物質と負極集電体との接触不良が生じやすい。よって、負極活物質として負極材料LSXを用いる場合、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する炭素材料を併用することが好ましい。負極材料LSXと炭素材料とを併用することで、シリコン粒子の高容量を負極に付与しながら優れたサイクル特性を達成することが可能になる。負極材料LSXと炭素材料との合計に占める負極材料LSXの割合は、例えば3~30質量%が好ましい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立し易くなる。
【0052】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔など)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシートなど)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、負極の強度と軽量化とのバランスの観点から、1~50μmが好ましく、5~20μmがより望ましい。
【0054】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩などの塩も含む)、メチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキサイドなど)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。
【0058】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0059】
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物を用いることができる。例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNi1-bbc、LiaMn24、LiaMn2-bb4、LiMPO4、Li2MPO4F(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも一種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0060】
中でも、LiNi1-b(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。さらに、結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むLiaNiCoAl2(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)がさらに好ましい。
【0061】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を用いてもよい。
【0062】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0063】
[電解液]
電解液は、溶媒と、溶質と、カルボン酸無水物とを含み、溶媒は、カルボン酸エステル化合物を含み、溶質は、スルホニルイミド化合物を含む。
【0064】
電解液における溶質の濃度は、例えば0.5mol/リットル以上2mol/リットル以下が好ましく、1mol/リットル以上1.5mol/リットル以下がより好ましい。溶質濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。ただし、溶質濃度は上記に限定されない。
【0065】
溶質に占めるスルホニルイミド化合物の割合は、例えば7mol%以上75mol%以下であればよく、10mol%以上60mol%以下が好ましく、15mol%以上55mol%以下がより好ましい。
【0066】
スルホニルイミド化合物以外の溶質としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)などが使用できる。これら1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、LiPF6が好ましい。
【0067】
溶質に占めるスルホニルイミド化合物(特にLFSI)とLiPF6との合計量の割合は、80mol%以上が好ましく、90mol%以上がより好ましい。スルホニルイミド化合物(特にLFSI)とLiPF6の割合を上記範囲に制御することで、長期サイクル特性に優れた電池を得やすくなる。
【0068】
溶媒としては、カルボン酸エステル化合物のほか、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0070】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0071】
図2は、本発明の一実施形態に係る角形の非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0072】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および非水電解質(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0073】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接などにより取り付けられている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接などにより取り付けられている。負極リード3の他端は、ガスケット7を介して封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続される。正極リード2の他端は、正極端子を兼ねる電池ケース4(封口板5)に電気的に接続される。電極群1の上部には、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離する樹脂製の枠体が配置されている。そして、電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。
【0074】
なお、非水電解質二次電池の構造は、金属製の電池ケースを具備する円筒形、コイン形、ボタン形などでもよく、バリア層と樹脂シートとの積層体であるラミネートシート製の電池ケースを具備するラミネート型電池でもよい。
【0075】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1~13>
[負極材料LSXの調製]
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Liが1.05となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、式:Li2Si25(u=0.5)で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0077】
平均粒径10μmのリチウムシリケート(Li2Si25)と、原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、45:55の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。
【0078】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中、ホットプレス機による圧力を印加した状態で、800℃で4時間焼成して、混合物の燒結体(負極材料LSX)を得た。
【0079】
その後、負極材料LSXを粉砕し、40μmのメッシュに通した後、得られたLSX粒子を石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、LSX粒子の表面を導電性炭素で被覆して導電層を形成した。導電層の被覆量は、LSX粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、導電層を有する平均粒径5μmのLSX粒子を得た。
【0080】
LSX粒子のXRD分析によりSi(111)面に帰属される回折ピークからシェラーの式で算出したシリコン粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0081】
リチウムシリケート相の組成を上記方法(高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES))により分析したところ、Si/Li比は1.0であり、Si-NMRにより測定されるLi2Si25の含有量は45質量%(シリコン粒子の含有量は55質量%)であった。
【0082】
[負極の作製]
導電層を有するLSX粒子と黒鉛とを5:95の質量比で混合し、負極活物質として用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを、97.5:1:1.5の質量比で混合し、水を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、銅箔の表面に1m2当りの負極合剤の質量が190gとなるように負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cm3の負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0083】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0084】
[非水電解液の調製]
溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)および所定のカルボン酸エステル化合物を表1に示す体積比で含む混合溶媒を用いた。溶質には、表1に示す割合で、LFSIとLiPF6とを併用した。得られた電解液に対し、表1に示す割合で、所定のカルボン酸無水物を含ませた。
【0085】
カルボン酸エステル化合物としては、以下を用いた。
【0086】
酢酸メチル(MA)
酢酸エチル(EA)
酢酸プロピル(PA)
プロピオン酸メチル(MP)
プロピオン酸エチル(EP)
プロピオン酸プロピル(PP)
ブタン酸メチル(MB)
ブタン酸エチル(EB)
ブタン酸プロピル(PB)
カルボン酸無水物としては、以下を用いた。
【0087】
無水コハク酸(SUA)
無水マレイン酸(MAA)
ジグリコール酸無水物(DIGA)
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、電池A1~A13を得た。
【0088】
<比較例1>
溶質に、LiPF6を単独で使用し、かつカルボン酸無水物を用いないこと以外、実施例と同様に、比較例1の電池B1を作製した。
【0089】
<比較例2>
溶質に、LiPF6を単独で使用したこと以外、実施例と同様に、比較例2の電池B2を作製した。
【0090】
<比較例3>
カルボン酸無水物を用いないこと以外、実施例と同様に、比較例3の電池B3を作製した。
【0091】
<比較例4>
溶媒に、表1に示すように、カルボン酸エステル化合物を含まない溶媒を用い、溶質に、LiPF6を単独で使用し、かつカルボン酸無水物を用いないこと以外、実施例1と同様に、比較例4の電池B4を作製した。
【0092】
【表1】
【0093】
[評価1:電池中の電解液の分析]
作製後の各電池について、25℃の環境下で、0.3It(800mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.015It(40mA)になるまで定電圧充電した。その後、0.3It(800mA)の電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。
【0094】
充電と放電との間の休止期間は10分とし、上記充放電条件で充放電を5サイクル繰り返した。その後、電池を取り出して分解し、電解液の成分をガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS)により分析した。
【0095】
電解液の分析に用いたGCMSの測定条件は以下の通りである。
【0096】
装置:島津製作所製、GC17A、GCMS-QP5050A
カラム:アジレントテクノロジー社製、HP-1(膜厚1.0μm×長さ60m)
カラム温度:50℃→110℃(5℃/min,12min hold)→250℃(5℃/min,7min hold)→300℃(10℃/min,20min hold)
スプリット比:1/50
線速度:29.2cm/s
注入口温度:270℃
注入量:0.5μL
インターフェース温度:230℃
質量範囲:m/z=30~400(SCANモード)、m/z=29,31,32,43,45,60(SIMモード)
分析の結果、電池A1~A13、B2においては、カルボン酸無水物の存在が確認された。
【0097】
【表2】
【0098】
実施例1~13の電池A1~A13および比較例1~4の電池B1~B4について、以下の方法で評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0099】
[評価2:45℃サイクルにおける容量維持率]
45℃環境下で、評価1と同じ充放電条件で充放電を繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する250サイクル目の放電容量の割合を、容量維持率(R45)として求めた。
【0100】
[評価3:25℃サイクルにおける容量維持率]
25℃環境下で、評価1と同じ充放電条件で充放電を繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する250サイクル目の放電容量の割合を、容量維持率(R25)として求めた。
【0101】
[評価4:反応抵抗]
評価1と同じ充放電条件で充放電を5サイクル繰り返した後、25℃環境下で、50%の充電状態(SOC50%)における電池の反応抵抗を交流インピーダンス測定により求めた。
【0102】
表2において、比較例1と比較例4との対比から、25℃程度では、カルボン酸エステルを含む電解液を用いると、サイクル特性が顕著に向上することが理解できる。一方、45℃程度の高温では、むしろカルボン酸エステルを含まない方が、容量維持率が高く、カルボン酸エステルを含む電解液を用いるとサイクル特性が顕著に低下することが理解できる。ところが、電池A1~A13の結果が示すように、カルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物とを含む電解液を用いる場合、45℃でも高い容量維持率を実現できることが理解できる。
【0103】
上記に対し、比較例1と比較例2との対比からわかるように、カルボン酸無水物が含まれ、かつスルホニルイミド化合物が含まれない電解液を用いる場合、45℃では容量維持率の改善がほとんど見られない。この結果は、反応抵抗の相違と合致しており、カルボン酸無水物が高抵抗な被膜Aを負極表面に形成しているためと考えられる。
【0104】
また、比較例1と比較例3との対比からわかるように、スルホニルイミド化合物が含まれ、かつカルボン酸無水物が含まれない電解液を用いる場合にも、45℃では容量維持率の大きな改善は見られない。この結果も反応抵抗の相違と概ね合致している。
【0105】
電池A1~A13では、電池B2~B3のいずれに対しても反応抵抗が相当低くなっている。この結果は、カルボン酸無水物とスルホニルイミド化合物の両方に由来するハイブリッド被膜の反応抵抗が、被膜A、Bよりも相当に小さく、特異的な性質を有することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係る非水電解質二次電池によれば、45℃程度の高温でも良好なサイクル特性を得ることができる。本発明に係る非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 電極群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 封口板
6 負極端子
7 ガスケット
20 LSX粒子
21 リチウムシリケート相
22 シリコン粒子
23 母粒子
24 導電層
図1
図2