(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】水性液体化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20230428BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230428BHJP
A61K 8/26 20060101ALI20230428BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/02
A61K8/26
A61Q1/10
(21)【出願番号】P 2019091151
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】592106155
【氏名又は名称】ジェイオーコスメティックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089484
【氏名又は名称】和田 靖郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和実
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079147(JP,A)
【文献】特開2018-172617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素化合物含有層で被覆されている薄片状アルミニウム粉末を1~20質量%、(B)質量平均分子量が10,000以下のポリカルボン酸系分散剤を0.5~10質量%、および(C)被膜形成性ポリマーエマルションを固形分基準で1~40質量%の割合で含有
し、かつ、前記成分(A)と前記成分(B)の質量比[(A)/(B)]が1/0.1~1/2である水性液体化粧料。
【請求項2】
さらに、(D)着色顔料を含有する請求項1記載の水性液体化粧料。
【請求項3】
ポリカルボン酸系分散剤が、ポリアクリル酸系分散剤である請求項1~2のいずれかに記載の水性液体化粧料。
【請求項4】
アイメイクアップ化粧料である請求項1~3のいずれかに記載の水性液体化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性液体化粧料に関するものであり、さらに詳しくは、光輝性、発色性ならびに耐摩擦性に優れたアイメイクアップの用途に好適な水性液体化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
アイライナー、アイブロウ、アイカラーなどのように目の周りに適用する化粧料(以下、アイメイクアップ化粧料と称することがある。)には、油性、水性など種々のタイプのものが知られている。このうち、水性の化粧料は、化粧塗膜がにじみにくく落としやすさにも優れており、最近ではその開発が鋭意進められている。アイメイクアップ化粧料は、目元の印象を高める目的で用いられるものであり、目元を大きく見せる効果の高い黒色のものが古くから使われてきていたが、近年においてはその用途も多様化し、より高いファッション性の要求に応えるべく光輝性の高いパール顔料やラメ剤などを配合したものが増加する傾向にある。
【0003】
そのような水性液体化粧料として、たとえば、特許文献1では、マイカ系のパール顔料と、該顔料の分散剤としてキサンタンガムなどのアニオン性高分子化合物を配合した液体化粧料が提案されている。パール顔料は、通常の有機もしくは無機の顔料と比べて粒子が粗大であるために沈降が早く、そのうえ粒子形状が扁平であるために一度沈降した顔料はハードケイクを形成しやすく、再分散が難しいとの問題を有しているが、同文献に記載されている化粧料は、アニオン性高分子化合物を分散剤として配合することにより、その問題点は解決したものである。そして、同文献の実施例には、パール顔料として黒酸化鉄被覆雲母チタンもしくは酸化鉄被覆雲母チタン、分散剤としてキサンタンガム、トラガントガムおよびアクリル酸アルキル共重合体エマルジョンを含む水性化粧料が開示されている(表1参照)。
【0004】
また、特許文献2では、光輝性顔料、カーボンブラック、微生物由来の多糖類、揮発性アルコールおよびアクリル酸アルキル共重合体エマルジョンを含有する水系アイライナー組成物が提案されており、この組成物は、耐摩擦性に優れ、鮮やかな発色と滑らかな書き味を有し、さらに保存安定性が良好であると記載されている。そして、光輝性顔料としては酸化鉄被覆雲母チタンやカルミン被覆雲母チタンのような色素被覆雲母チタンが好ましいこと(段落0015参照)、および微生物由来の多糖類を含まない場合には十分な性能が得られないことが記載されている(表1の比較例2参照)。
【0005】
さらに、特許文献3では、板状顔料、顔料分散剤、皮膜形成剤、界面活性剤および球状粉体を含む水系液体メイクアップ化粧料が提案されており、この化粧料は、板状顔料の沈降が緩和されており、保管によって沈降を生じても再分散が可能であると記載されている(段落0011参照)。そして、同文献には、板状顔料はパール顔料であり、その具体例はマイカ、雲母チタンなどであること(段落0015参照)、顔料分散剤はアクリル酸、メタクリル酸またはそれらの(C1~C4およびC8)アルキルエステルから選択される単量体の単独重合体もしくは共重合体であり、その具体例はt-ブチルアクリレート、エチルアクリレートおよびメタクリル酸の共重合体であって、該当する市販品としてLuvimer 100P(BASF社製)が挙げられると記載されている(段落0020参照)。
【0006】
一方、アルミニウムおよびアルミニウム合金の粉末またはそれらを成分として含む粉末は、独特の金属光沢をもつ光輝性色材として塗料や化粧品の分野において従来から知られている。たとえば、特許文献2には、光輝性顔料の具体例としてアルミニウムパウダー、酸化鉄被覆アルミニウム末、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末が挙げられており(段落0014参照)、このうち、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末について、雲母チタン系の光輝性顔料とともに配合した具体例が記載されている(表1の実施例2および4参照)。また、特許文献3には板状顔料の例として、マイカやマイカチタンなどとともにアルミニウムコーティングポリエステルフィルム、アルミニウム粉顔料が挙げられているが(請求項2参照)、アルミニウムを成分とする顔料はパール顔料の具体例としては記載されておらず(段落0015参照)、それらを水性液体化粧料に配合した場合にどのような性能を示すかについては何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-247833
【文献】特開2007-153744
【文献】再公表WO2007/123115
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景技術の下に完成したものであり、その目的は、光輝性、発色性および耐摩擦性に優れ、さらに保存安定性にも優れた水性液体化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、水性液体化粧料において、特定の薄片状アルミニウムと特定の分子量を有するポリカルボン酸系分散剤および被膜形成性ポリマーエマルションを組み合わせて使用すると、光輝性、発色性および耐摩耗性に優れる化粧塗膜を得ることができ、さらに保存安定性にも優れた水性液体化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、(A)ケイ素化合物含有層で被覆されている薄片状アルミニウム粉末を1~20質量%、(B)質量平均分子量が10,000以下のポリカルボン酸系分散剤を0.5~10質量%、および(C)被膜形成性ポリマーエマルションを固形分基準で1~40質量%の割合で含有する水性液体化粧料水性液体化粧料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性液体化粧料は、光輝性、発色性および耐摩擦性に優れ、さらに保存安定性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水性液体化粧料において、(A)成分であるケイ素化合物含有層で被覆されている薄片状アルミニウム粉末は、薄片状アルミニウム粉末の表面上に1層または2層以上の被覆層を有する複合粉末であって、被覆層の少なくとも1層がケイ素化合物含有層で構成されている複合粉末である。なお、本発明において用語「アルミニウム粉末」には、アルミニウムを主成分とする合金、たとえば、ケイ素、マグネシウム、マンガン、銅、亜鉛、ニッケル、バナジウム、鉛、アンチモン、スズ、カドミウム、ビスマス、チタン、クロム、鉄から選ばれる少なくとも一種の金属を20質量%以下、とくに10質量%以下の割合で含む合金が含まれる。具体的には、日本工業規格(JIS H 4140)に記載されているもののなかで、腐食安定性に優れるアルミニウム合金を選択すればよい。
【0013】
被覆層が1層の場合、その被覆層はケイ素化合物含有層であり、2層以上の場合は、そのうちの少なくとも1層がケイ素化合物含有層で構成されていればよい。他の被覆層としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄などの金属酸化物の層や、モリブデン含有被膜、リン酸化合物被膜などが例示される。
【0014】
複合粉末の基質となる薄片状アルミニウム粉末は、常法にしたがってアルミニウム片を粉砕することによって得ることができる。具体的には、スタンプミルを用いるスタンプ法や、ボールミル法等によって製造することができる。薄片状アルミニウム粉末の長径の平均粒径は1~300μmが好ましく、より好ましくは5~100μmである。1μm未満では光輝性が低くなり、300μmを越えるとざらついた感触となり易い。薄片状アルミニウム粉末のアスペクト比(長径/厚み)は2~1,000が好ましく、より好ましくは10~500である。アスペクト比が過度に小さいと粉末の光輝性が低くなり、過度に大きいと粉末を均一に分散させることが難しくなる。
【0015】
被覆層の少なくとも一層を構成するケイ素化合物含有層は、とくにSi-O結合を含む化合物から構成される層(以下「Si-O系被覆層」ともいう。)であることが望ましい。このような層としては、例えば、シラン系化合物およびケイ素酸化物の少なくとも1種を含む層を挙げることができる。すなわち、シラン系化合物[H3SiO(H2SiO)nSiH3](但し、nは任意の正の整数を示す。)を含む層のほか、SiO2、SiO2・nH2O(但し、nは任意の正の整数を示す。)等で示されるケイ素酸化物を含む層が例示される。これらのケイ素化合物は結晶質、非晶質のいずれでもよいが、とくに非晶質であることが好ましい。従って、シリカ等のケイ素酸化物を含む層として、非晶質シリカを含む層が好適に用いられる。
【0016】
また、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤を含む。)を出発原料として形成される層も、Si-O系被覆層として用いることができる。従って、ケイ素化合物含有層は、本発明の効果を本質的に妨げない範囲内において、有機ケイ素化合物またはその由来成分を含んでいてもよい。ケイ素化合物含有層は、ケイ素化合物のみからなる被膜である必要はなく、本発明の特性を本質的に損なわない範囲において、ケイ素化合物以外の添加物、不純物等を含んでいてもよい。
【0017】
(A)成分におけるケイ素化合物含有層の含有量は、水性液体化粧料中におけるアルミニウム粉末の安定性の観点から5質量%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。その含有量が過度に少ない場合には、水性液体化粧料に配合した際に経時的に光沢の消失が生じたり、アルミニウムが水と反応して水素ガスが発生し易くなる。
【0018】
上記ケイ素化合物含有層で被覆されている薄片状アルミニウム粉末は、公知の方法、たとえば、特開2018-172617号公報に記載されている方法にしたがって製造することができる。たとえば、フレーク状のアルミニウムをイソプロパノールに分散させた後、金属モリブデン粉末で第1の被覆層を形成し、次いでテトラエトキシシランを用いて第2の層としてケイ素含有化合物層を形成することにより、薄片状アルミニウム/金属モリブデン層/ケイ素含有化合物層からなる複合粉末が得られる。かかる薄片状アルミニウム粉末の市販品としては、たとえば、Cosmicolor Celeste Frost Silver(東洋アルミニウム製)などを挙げることができる。
【0019】
(A)成分のケイ素化合物含有層で被覆されている薄片状アルミニウム粉末の配合量は、化粧料全体の1~20質量%であり、好ましくは2~15質量%、とくに好ましくは3~10質量%である。1質量%未満では光輝性が低くなり、20質量%を越えると耐摩擦性が低くなる。
【0020】
(B)ポリカルボン酸系分散剤
本発明においては、(A)成分の薄片状アルミニウム粉末の分散性を改良するために、質量平均分子量が10,000以下のポリカルボン酸系分散剤が用いられる。ポリカルボン酸系分散剤は水溶性であり、この分散剤を用いることで薄片状アルミニウム粉末の沈殿が抑制されるとともに、沈殿が生じても再分散がし易いものになる。
【0021】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤とは、エチレン性不飽和カルボン酸の重合単位を分子中に有する水溶性重合体、またはエチレン性不飽和カルボン酸の重合単位を分子中に有する重合体の水溶性塩を有効成分とする分散剤を意味している。ポリカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などの低級エチレン性不飽和脂肪酸系単量体の単独重合体もしくは共重合体、これらの低級エチレン性不飽和脂肪酸系単量体とエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、スチレンなどの不飽和オレフィンとの共重合体などが挙げられる。また、ポリカルボン酸塩の種類は化粧料として許容されるものであればとくに限定されず、その具体例として、たとえば、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などが挙げられる。なかでも、ナトリウム塩やカリウム塩が好ましく用いられる。
【0022】
ポリカルボン酸系分散剤を構成する水溶性重合体の質量平均分子量は、10,000以下であることが重要であり、好ましくは9,000~500、さらに好ましくは7,000~2,000である。質量平均分子量が10,000を超えると粘度が上昇して化粧料の塗布が困難になる。なお、水溶性重合体の質量平均分子量は、分子量既知のポリエチレングリコールを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0023】
上記(B)成分がポリカルボン酸塩である場合、通常は予め塩基によって中和されたポリカルボン酸塩として用いられるが、所望により化粧料の製造工程中にポリカルボン酸と塩基性物質を個別に添加し、製造工程内でポリカルボン酸塩を形成してもよい
【0024】
上記(B)成分の具体例としては、ジュリマー AC-10P(ポリアクリル酸水溶液、平均分子量:9,000、固形分:7質量%)、ジュリマー AC-10SL(ポリアクリル酸水溶液、平均分子量:3,000、固形分:40%)、ジュリマー AC-103(ポリアクリル酸ナトリウム水溶液、平均分子量:6,000、固形分:40%)、アロン A-6001(カルボン酸系共重合体ナトリウム水溶液、平均分子量:8,000、固形分:40%)(いずれも東亜合成製)、アクアリック DL-40(ポリアクリル酸ナトリウム水溶液、平均分子量:3,500、固形分:40%)、アクアリック YS-100(ポリアクリル酸ナトリウム水溶液、平均分子量:5,500、固形分:45%)(いずれも日本触媒製)などを挙げることができる。なかでも、ポリアクリル酸またはその塩を有効成分とするアクリル酸系分散剤を用いることが好ましい。
【0025】
(B)成分の配合量は固形分換算濃度で化粧料全体に対し0.5~10質量%であり、好ましくは0.5~7.5質量%である。配合量が過度に少ないと再分散性が低下する。一方、配合量が過度に多くなると粘度が上昇し塗布することが難しくなる。
【0026】
本発明においては、(A)成分の(B)成分に対する使用比率[(A)/(B)]を質量比で1/0.1~1/2、好ましくは1/0.15~1/1.5、さらに好ましくは1/0.2~1/1とすることが必要である。(A)成分の比率が過度に高い場合は再分散性が低下し、逆に、過度に低い場合は塗布が難しくなる。
【0027】
(C)被膜形成性ポリマーエマルション
本発明においては(C)成分として、皮膜形成性ポリマーエマルションが用いられる。これは水に不溶性の高分子の水分散物である。その具体例としては、アクリル酸アルキル共重合体エマルション、メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、スチレン・アクリル酸アルキル共重合体エマルション、スチレン・メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、酢酸ビニル重合体エマルション、ビニルピロリドン・スチレン共重合体エマルション、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルション、メタクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルション、アクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体エマルション、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、メタクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体エマルション、メタクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、アクリル酸アルキルジメチコン共重合体エマルション等が挙げられる。また、(C)成分は、エチレン性不飽和カルボン酸系モノマーとスチレン系モノマーのコポリマーと他の重合体および/または共重合体からなるコアシェル型ポリマーエマルションのような複合型ポリマーのエマルションであってもよい。
【0028】
上記アクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体エマルションの具体例としては、(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー(INCI名:ACLYLATES/ETHYLHEXYL ACRYLATE COPOLYMER)を挙げることができ、その市販品としては、ダイトゾール5000SJ(大東化成工業社製)等が挙げられる。また、上記スチレン・アクリル酸アルキル共重合体エマルションの具体例としては、(スチレン/アクリレーツ)コポリマー(INCI名;Styrene/Acrylates Copolymer)と称されるものを挙げることができる。なお、このコポリマーは、医薬部外品原料規格2006において(アクリル酸アルキル/スチレン)コポリマーエマルションとも称されている。かかるポリマーの市販品としては、ヨドゾールGH41F(アクゾノーベル社製)、ダイトゾール5000STY(大東化成工業社製)等が挙げられる。
【0029】
また、エチレン性不飽和カルボン酸系モノマーとスチレン系モノマーのコポリマーと他の重合体および/または共重合体からなるコアシェル型ポリマーエマルションのような複合型ポリマーのエマルションの具体例としては、アクリル酸・アクリル酸-2-エチルヘキシル・メタクリル酸メチル・α-メチルスチレンのコア-シェル型共重合体のエマルションであるエマポリーCE-119N(岐阜セラック社製)が挙げられる。
【0030】
(C)成分の皮膜形成性ポリマーエマルションは、通常、樹脂分が水性成分中に固形分として20~60質量%の濃度で微細に分散しているものである。その配合量は固形分換算濃度で化粧料全体に対し1~40質量%であり、好ましくは2~35質量%であり、より好ましくは3~30質量%である。配合量が過度に少ないと耐摩擦性が低下し、逆に、過度に多くなると化粧料の粘度が上昇し、塗布することが難しくなる。
【0031】
本発明の水性液体化粧料は水媒体中に上記の(A)~(C)の成分を含むものであるから、化粧料全体のなかに多量の水を含んでいる。その量は配合処方に応じて適宜選択されるが、通常は40質量%以上、好ましくは50~80質量%である。
【0032】
(D)着色顔料
本発明の水性液体化粧料には、(D)成分として着色顔料を配合することができる。着色顔料としては、無機着色顔料および有機着色顔料のいずれもが用いられる。着色顔料は、化粧料の分野で一般に使用されているものであれば、形状、粒子径、粒子構造によりとくに限定されない。
【0033】
無機着色顔料としては、たとえば、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機白色顔料;酸化鉄、水酸化鉄、チタン酸鉄等の無機赤色系顔料;γー酸化鉄等の無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボンブラック等の無機黒色顔料;マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色系顔料;水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルト等の無機緑色系顔料;紺青、群青等の無機青色系顔料;酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、有機顔料処理雲母チタン、酸化チタン・酸化鉄被覆ガラス末等の光輝性着色粉体類;等を例示することができる。
【0034】
有機着色顔料としては、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、黄色205号、青色404号等;赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、緑色3号、青色1号などの水溶性染料のレーキ類(ジルコニウムレーキ、バリウムレーキ、アルミニウムレーキなど);クロロフィル、β-カロチン等の天然色素およびそれらのレーキ類;染料等が挙げられる。これらの着色顔料は、単独で使用してもよく、2種以上を併用することもできる。
【0035】
(D)着色顔料の配合量は、適宜選択することができる。好ましくは0.01~15質量%であり、さらに好ましくは0.05~10質量%である。色材の配合量が過度に多くなると、耐摩擦性が低下し易く、逆に、過度に少ないと色材の効果が不十分となる場合がある。
【0036】
本発明の水性液体化粧料は、前記成分のほか、通常の化粧料に用いられる成分、例えば、多価アルコール類、顔料分散剤、粉体、pH調整剤、水溶性増粘剤、低級アルコール、油性成分、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、保湿剤、香料、酸化防止剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、消泡剤、繊維、染料、各種エキス等の添加剤を本発明の効果を本質的に損なわない範囲で含有することができる。
【0037】
多価アルコールは、化粧品に一般的に用いられているものであればとくに限定されず、その具体例として、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、及びテトラグリセリンなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。多価アルコールは化粧料全量に対して0.1~20質量%が好ましく、より好ましくは1~15質量%である。多価アルコールを含むことにより、防腐力が向上するとともに、ペン型容器で使用する場合、ペン先や筆先の乾燥を防止することができる。
【0038】
(A)成分以外の顔料を含む場合、その顔料用の分散剤として親水性界面活性剤、たとえば、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。しかし、化粧料が多量の親水性界面活性剤を含むと耐水性が低下するので、その配合量は化粧料全体に対して5質量%以下、とくに3質量%以下とすることが好ましい。
【0039】
親水性アニオン界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸のような脂肪酸の無機及び有機塩、アルキルベンゼン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、α-スルホン化脂肪酸塩、アシルメチルタウリン塩、N-メチル-N - アルキルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸塩、N-アシルアミノ酸塩、N-アシル-N-アルキルアミノ酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリアスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、顔料分散性が良好なことから、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩およびポリアスパラギン酸塩が好ましく用いられる。
【0040】
親水性非イオン性界面活性剤は、その具体例として、例えば、グリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビタン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビトールの脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラノリンのアルキレングリコール付加物、ポリオキシアルキレンアルキル共変性オルガノポリシロキサン、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。これらの中でも、顔料分散性が良好なことから、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく用いられる。
【0041】
粉体は、化粧料に使用されるものであれば特に限定されない。例えば、板状、紡錘状、針状等の形状、多孔質、及び無孔質等の粒子構造等を有するものであってよい。例えば、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、及び複合粉体類等が挙げられる。より詳細には、酸化アルミニウム、酸化セリウム、無水ケイ酸、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素等の無機粉体類、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、無水ケイ酸被覆雲母チタン、酸化チタン被覆ガラス末、酸化チタン・無水ケイ酸被覆ガラス末等の光輝性粉体類、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、N-アシルリジン、ナイロン等の有機粉体類、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末等が挙げられる。これらを1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
pH中和剤としては例えばクエン酸、アスコルビン酸、炭酸ナトリウム、AMPなどが挙げられる。防腐剤としては例えばフェノキシエタノール、ペンチレングリコール、エタノールなどが挙げられる。水溶性増粘剤としては例えばヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、などが挙げられる。これらの含有量は特に制限されるものでなく、本発明の効果を本質的に損ねない範囲において適宜調整されればよい。
【0043】
本発明の水性液体化粧料は、常法にしたがって調製することができる。たとえば、プロペラ式撹拌機などの公知の攪拌方法によって攪拌しながら、全原料を均一に撹拌することにより製造することができる。また、着色顔料類と一部の水性成分および/または顔料分散剤成分とを予め混合した後、その余の成分と混合することにより得ることもできる。
【0044】
本発明の水性液体化粧料は、上記の原料の組成を適宜調整することにより、アイライナー、アイブロウ、アイカラーなどのアイメイク化粧料として好適に使用できる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の記載における処方中の配合量は、とく断りのない限り全量に対する質量%である。
【0046】
また、以下の実施例および比較例における水性液体化粧料の評価方法は、以下のとおりである。
(光輝性および発色性)
試料を筆穂が装着されたディッピング容器に充填し、筆穂を用いて、黒色人工皮膚(ビューラックス社製バイオスキンプレート#BK)の裏面上の2cm×2.5cm角の面に隙間なく塗布し(約20mg/cm2)、室温で3時間放置して乾燥後、光輝性および発色性を評価した。
【0047】
光輝性-I(目視):
黒色人工皮膚の塗布面を専門評価者10名が目視で観察し、下記(1)に示す評価基準に基づき1~4の4段階で評点を付けた。評価者10名の評点の合計を算出し、下記(2)に示す4段階判定基準により輝きの程度を判定した。Aがもっとも優れており、Dがもっとも劣ることを示している。
【0048】
(1)評価基準
(評点):(評価)
4:輝きを強く感じる
3:輝きを感じる
2:やや輝きを感じる
1:輝きを感じない
【0049】
(2)4段階判定基準
(判定):(評点の合計点)
A:合計点が14以上
B:合計点が10以上14未満
C:合計点が6以上10未満
D:合計点が6未満
【0050】
光輝性-II(機器測定):
光沢度計 (Glossy meter GL200(Courage+Khazakaelectronic社製)を用いて、試料表面に対し入射角60°、受光角60°の条件で光の強さ(強度A)を測定した。屈折率1.567の黒色鏡面ガラスについて同一条件下で光の強さ(強度B)を測定し、下記式(I)にしたがって光沢度を算出した。
光沢度=強度A/強度B×100 ・・・ (I)
得られた光沢度から次の基準により光輝性の良否を判定した。
(判定):(光沢度)
A:28以上
B:22以上28未満
C:18以上22未満
D:18未満
【0051】
発色性:
塗布面を色差計(日本電色工業社製色彩白色度計NW-12)にて測色し、得られた彩度C*から次の基準により判定した。彩度C*は、CIE1976L*a*b*表色系で規定される彩度であり、C*=(a*2+b*2)1/2で表される。
(判定):(彩度C*)
A:25以上
B:20以上25未満
C:10以上20未満
D:10未満
【0052】
(耐摩耗性)
試料を筆穂が装着されたディッピング容器に充填し、筆穂を用いて黒色人工皮膚(ビューラックス社製バイオスキンプレート#BK)上に2mmの太さで20mm長の線を描き、3時間乾燥後、指サックをした指を線上に軽く押し当て、30往復擦った後の線の状態から、次の基準により判定した。
(判定):(線の状態)
A:変化なし
B:線の端がわずかに掠れる
C:線の2割以上が掠れる
D:線の5割以上が掠れる
【0053】
(安定性)
試料を筆穂が装着されたディッピング容器に充填し、50℃の恒温槽に7日間保存した後、筆穂を用いて保存後の試料をコピー紙上に塗布し、上記の方法にしたがって光沢を測定し、その結果を保存前の試料の光沢の値と比較した。
(判定):(光沢)
A:変化なし
B:光沢が消失
【0054】
(再分散性)
試料20gを30mLのスクリュー管に詰め、室温で7日間保存した後、手で上下に振とうし、底に沈降した粉体が再分散するまでの往復振とう回数を記録し、次の基準により判定した。
(判定):(振とう回数)
A:10回未満
B:10回以上20回未満
C:20回以上30回未満
D:30回以上
【0055】
実施例1~2及び比較例1~5
<アイライナー>
表1に示す処方のアイライナーを下記の製造手順に従って調製し、光輝性、発色性、耐摩擦性、安定性、再分散性について上記の方法により評価した。その結果も併せて表1に示す。
(製造手順)
(1)表1に示す成分7~11および14~15を成分6の精製水に溶解させた後、成分1~5の干渉顔料および成分13の無機顔料を加え、十分に撹拌して干渉顔料および無機顔料を含む水分散液を調製した。
(2)得られた水分散液に成分12のポリマーエマルションを加え、よく混合してアイライナーを得た。
【0056】
【0057】
表1の結果から明らかなように、実施例1~2のアイライナーは、光輝性、発色性、耐摩擦性、安定性、および再分散性のすべての評価項目において優れていた。一方、(A)成分に代えて光輝性粉体である酸化チタン被覆合成マイカ、コンジョウ被覆雲母チタンまたは酸化チタン被覆板状ガラスを使用した比較例1~4のアイライナーは、光輝性が不足し、耐摩耗性も実施例1~2のアイライナーに比較して劣っていた。また、ケイ素化合物含有層で被覆されていない薄片状アルミニウム粉末を配合したアイライナーは、光輝性には優れているものの安定性の点で著しく劣るものであった(比較例5)。
【0058】
実施例3~6及び比較例6~9
<アイライナー>
表2に示す処方のアイライナーを下記の製造手順に従って調製し、光輝性、耐摩擦性、再分散性について上記の方法により評価した。その結果も併せて表2に示す。
(製造手順)
(1)表2に示す成分3~7および14~17を成分2の精製水に溶解させた後、成分1の干渉顔料および成分10~13の無機顔料を加え、十分に撹拌して干渉顔料および無機顔料を含む水分散液を調製した。
(2)得られた水分散液に成分8~9のポリマーエマルションを加え、よく混合してアイライナーを得た。
【0059】
【0060】
表2の結果から明らかなように、実施例3~6のアイライナーは、光輝性、耐摩擦性、再分散性のすべての評価項目に優れていた。これに対して、(B)成分を含有しない比較例6~8のアイライナーは再分散性が著しく劣り、(C)成分を含有しない比較例9のアイライナーは、耐摩擦性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の水性液体化粧料は、光輝性、発色性および耐摩擦性に優れ、且つ、保存安定性や再分散性にも優れた性能を示すので、アイライナー、アイブロウ、アイカラーなどのアイメイクアップ化粧用途に好適に使用される。