(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】乾燥血液試料保存基材
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230428BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20230428BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
G01N33/48 E
G01N33/48 B
G01N1/10 V
G01N1/28 V
G01N1/28 J
(21)【出願番号】P 2020535929
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2019031713
(87)【国際公開番号】W WO2020032270
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018150523
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 辰雄
(72)【発明者】
【氏名】橋本 喜次郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄文
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-535011(JP,A)
【文献】特表2000-514177(JP,A)
【文献】特開平08-240588(JP,A)
【文献】特開2003-270238(JP,A)
【文献】国際公開第2000/014532(WO,A1)
【文献】特表2001-511882(JP,A)
【文献】特表2014-504356(JP,A)
【文献】特開2018-136294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材であって、
セルロース濾紙製の母材板と、
滴下された血液試料を乾燥状態で保持するセルロース濾紙製の血液保持ディスクと、前記母材板と前記血液保持ディスクとを接続する接続部と、を有し、
前記血液保持ディスクは前記母材板と離隔されて前記接続部により前記母材板に貼り付けられ、
前記母材板には、複数の開口部が設けられ、
前記血液保持ディスクは、前記開口部の内周面から間隔をあけて前記開口部内に配置されている、ことを特徴とする乾燥血液試料保存基材。
【請求項2】
血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材であって、前記接続部は粘着テープであり、
セルロース濾紙製の母材板と、粘着テープと、
滴下された血液試料を乾燥状態で保持するセルロース濾紙製の血液保持ディスクと、を有し、
前記血液保持ディスクは前記母材板と離隔されて前記粘着テープにより前記母材板に貼り付けられ、
前記母材板には、複数の開口部が設けられ、
前記粘着テープは、一方の面に粘着面を有する1つ又は複数の片面テープであり、前記粘着テープは前記母材板の開口部の一方側の開口端に、前記粘着テープと前記開口端との間に空隙部を有するように貼り付けられ、
前記血液保持ディスクは、前記粘着テープの粘着面に、前記開口部の内周面から間隔をあけて前記開口部内に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項3】
前記血液保持ディスクを形成する濾紙は吸水度が18cm/10分、20℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項4】
前記血液保持ディスクは平面視略円形であり、前記血液保持ディスクの直径は4.0mm~12mmであり、前記開口部の内周面と前記血液保持ディスクの外周面との間の距離は0.8mm~1.2mmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項5】
前記血液保持ディスクの直径は4.0mm~8.0mmであることを特徴とする請求項4記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項6】
前記血液保持ディスクは平面視略正方形であり、前記血液保持ディスクの一辺は2.0mm~10mmであり、前記開口部の内周面と前記血液保持ディスクの外周面との間の距離は0.8mm~1.2mmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項7】
前記血液保持ディスクの一辺は4.0mm~8.0mmであることを特徴とする請求項6記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項8】
血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材であって、
前記接続部は、パラフィンが有機溶媒に溶解したパラフィン溶液が付着し前記有機溶媒が蒸発乾燥したセルロール濾紙製の濾紙片であり、
セルロース濾紙製の母材板と、
滴下された血液試料を乾燥状態で保持するセルロース濾紙製の血液保持ディスクと、前記母材板と前記血液保持ディスクとを接続する接続部と、を有し、
前記血液保持ディスクは前記母材板と離隔されて前記接続部により前記母材板に貼り付けられ、
前記母材板には、複数の開口部が設けられ、
前記血液保持ディスクは、前記開口部の内周面から間隔をあけて前記開口部内に配置されている、ことを特徴とする請求項1記載の乾燥血液試料保存基材。
【請求項9】
血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材であって、
セルロース濾紙製の母材板と、
粘着テープと、
滴下された血液試料を乾燥状態で保持するセルロース濾紙製の血液保持ディスクと、を有し、
前記母材板には、複数の開口部が設けられ、
前記粘着テープは、一方の面に粘着面を有する1つ又は複数の片面テープであり、前記粘着テープは前記母材板の開口部の一方側の開口端に、前記粘着テープと前記開口端との間に空隙部を有するように貼り付けられ、
前記血液保持ディスクは、前記粘着テープの粘着面に、前記開口部の内周面から間隔をあけて前記開口部内に配置され、
セルロース濾紙製の補強ブリッジ部が、前記血液保持ディスクと前記母材板とを連絡するように、前記粘着テープの粘着面に貼り付けられている、ことを特徴とする乾燥血液試料保存基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥血液試料保存基材は紙製カード状の基材であり、検体から採取した血液が滴下され、室温で2~3時間放置されて乾燥後、パンチで血液スポットがくり抜かれ、くり抜いたディスクがチューブ等に取りこまれて血液検査に使用される(非特許文献1)。
【0003】
乾燥血液試料保存基材を使用した血液検査では、採血量が比較的低量であり、また全血から薬物を抽出することにより、血しょう分離のための遠心分離が不要である等の利点がある。更には室温保存により、ドライアイスや冷凍庫が不要となり、また遠隔施設から容易に輸送できるという利点もある。
【0004】
乾燥血液試料保存基材には、滴下された血液スポットの中心部をパンチでくり抜く部分パンチ分析法がある(非特許文献2)。しかしながらこの手法では血液のヘマトクリット値により、パンチでくり抜いた部分の血液成分が変動する虞がある。
【0005】
また、定量の血液試料をスポットして、滴下された血液スポットの全体をパンチでくり抜くパンチ分析法がある(非特許文献2)。更には予めカットしたディスクに定量の血液試料をスポットするプリカット分析法がある(非特許文献3)。しかしながらこれらの手法では、定量の血液試料をマイクロピペット等により滴下する必要があり、熟練度や労力を有する。
【0006】
また、濾紙小片に血液を吸収後に乾燥させて採取する定量吸収ミクロサンプル法がある(非特許文献4)。この手法はヘマトクリック値に影響を受けず、しかも血液に濾紙小片を浸すだけで一定量の血液試料が得られる。しかしながらこの手法は器具が複雑である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】A.J. Wilhelm, J.C.G. den Burger, E.L. Swart, Therapeutic drug monitoring by dried blood spot: progress to date and future directions, Clin. Pharmacokinet. 53 (2014) 961-973.
【文献】P.M. De Kesel, S. Capiau, W.E. Lambert, C.P. Stove, Current strategies for coping with the hematocrit problem in dried blood spot analysis, Bioanalysis. 6 (2014) 1871-1874.
【文献】N. Youhnovski, A.Bergeron, M.Furtado, F.Garofolo, Pre-cut dried blood spot (PCDBS): an alternative to dried blood spot (DBS) technique to overcome hematocrit impact, Rapid Commun Mass Spectrom. 25 (2011) 2951-2958.
【文献】Spooner N, Denniff P, Michielsen L, De Vries R, Ji QC, Arnold ME, Woods K, Woolf EJ, Xu Y, Boutet V, Zane P, Kushon S, Rudge JB. A device for dried blood microsampling in quantitative bioanalysis: overcoming the issues associated blood hematocrit. Bioanalysis. 7 (2015) 653-659.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ヘマトクリット値に影響を受けずに血液試料を適切に保存でき、しかも簡易な構造で熟練度や労力を要しない乾燥血液試料保存基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる乾燥血液試料保存基材は、血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材であって、セルロース濾紙製の母材板と、滴下された血液試料を乾燥状態で保持するセルロース濾紙製の血液保持ディスクと、前記母材板と前記血液保持ディスクとを接続する接続部と、を有し、前記血液保持ディスクは前記母材板と離隔されて前記接続部により前記母材板に貼り付けられ、前記母材板には、複数の開口部が設けられ、前記血液保持ディスクは、前記粘着テープの粘着面に、前記開口部の内周面から間隔をあけて前記開口部内に配置されている、ことを特徴とする。乾燥血液試料保存基材はエアギャプ型基材と表記されることもある。エアギャプ型基材は、血液保持ディスクの形状により、丸形エアギャプ型基材若しくは角形エアギャプ型基材等と表記される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヘマトクリック値に影響を受けずに血液試料を適切に保存でき、しかも血液試料を保存する際に熟練度や労力を要しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材の概略図である。
【
図2】第2実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材の概略図である。
【
図3】第3実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材の概略図である。
【
図4】第4実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材の概略図である。
【
図5】第5実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材の概略図である。
【
図6】実施例1にかかる血液試料保存基材の写真図であり、(A)血液滴下前の写真図、(B)血液滴下後の写真図、(C)脱着したディスクの写真図である。
【
図7】丸形エアギャプ型基材の血液保持に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図8】クロザピン(CLZ), ノルクロザピン(DMC)、クロザピンN-オキシド(CLZ-NO) 及び内部標準 (IS) のクロマトグラムを示す図である。
【
図9】クロザピン(CLZ)及びその代謝物、ノルクロザピン(DMC)、クロザピンN-オキシド(CMO)の検量線を示す図である。
【
図10】4/6 mm丸形エアギャプ型基材を用いて測定したクロザピン(CLZ) とその代謝物ノルクロザピン(DMC)及びクロザピンN-オキシド(CNO)血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図11】6/8 mm丸形エアギャプ型基材を用いて測定したクロザピン(CLZ) とその代謝物ノルクロザピン(DMC)及びクロザピンN-オキシド(CNO)血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図12】オランザピンの血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図13】リスペリドンの血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図14】アリピプラゾールの血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図15】エアギャプ4ブリッジ型改変基材(Air gap-4 bridge)の写真図であり左側より8/10mm、6/8mm、4/6mmを示す。
【
図16】丸型エアギャプ4ブリッジ型基材の血液保持体積に対するヘマトクリット値の影響を示す。
【
図17】4/6 mm丸型エアギャプ4ブリッジ型基材を用いて測定したクロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す。
【
図18】6/8 mm丸型エアギャプ4ブリッジ型基材を用いて測定したクロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す。
【
図19】8/10 mm丸型エアギャプ4ブリッジ型基材を用いて測定したクロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す。
【
図20】実施例4にかかる血液試料保存基材の写真図であり、(A)血液滴下前の写真図、(B)血液滴下後の写真図、(C)脱着したディスクの写真図である。
【
図21】角形エアギャプ型基材を用いて測定した血液保持体積に対するヘマトクリットの影響を示す図である。
【
図22】実施例5にかかる血液試料保存基材の写真図であり、左側は血液滴下前の写真図、右側は血液滴下後の写真図である。
【
図23】カフェイン及びその代謝物の血中濃度の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
(1)第1実施形態
本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材900は
図1に示される丸形エアギャプ型基材である。
【0014】
乾燥血液試料保存基材900は、母材板100と、粘着テープ200と、血液保持ディスク300と、を有する。
【0015】
母材板100はセルロース濾紙で形成されており、1つ又は複数の開口部500が設けられている。母材板100の寸法は特に限定されるものではないが、例えば縦65mm~85mm、横95mm~115mm、厚さ0.87mm~1.07mmであり、好ましくは縦75mm、横105mm、厚さ0.97mmである。開口部500の形状は特に限定されるものではなく、例えば直径6.0mm~14mmの円形であり、好ましくは直径10mmの円形である。なお、開口部の形状は円形に限定されるものではなく、例えば、楕円形、卵形、洋梨形等とすることも可能である。
【0016】
セルロース濾紙は厚さが厚く、濾過速度の速い濾紙を使用することが好ましい。セルロース濾紙は、α-セルロース99%以上のセルロース繊維を原料とすることが好ましい。セルロース濾紙は、例えば、アドバンテック社のペーパークロマトグラフィー用濾紙を採用することができ、例えば質量285g/m3、濾水時間20秒(JIS P 3801により、ヘルツベルヒ濾過速度試験器を使用し、10cm2の濾紙面において、20℃、100mLの蒸留水を0.98Paの圧力にて濾過する時間である。)、灰分0.1%、湿潤破裂強さ10kPaの濾紙を使用できる。
【0017】
また、セルロース濾紙の吸水度は、20℃で例えば17cm/10分~19cm/10分であるが、好ましくは18cm/10分である。セルロース濾紙の吸水量は、例えば5分で960~1000(ml/m2)であり、好ましくは989ml/m2である。直径5.5mmの円形の血液保持ディスク300の場合、吸水量は5分で22.5~24.5μlであり、好ましくは23.5μlである。
【0018】
母材板100の開口部500の一方側の開口端には1つ又は複数の粘着テープ200が貼り付けられている。粘着テープの形状は特に限定されるものではないが、例えば線分形状である。粘着テープは特に限定されるものではないが、例えばセロハンテープ、ガムテープ等であり、好ましくはセロハンテープである。粘着テープは、例えば3Mジャパン社のスコッチテープを使用することができ、品番としては例えばNo.811を使用できる。
【0019】
粘着テープ200の粘着面には、母材板100の開口部500の内周面から間隔をあけて開口部500内の略中央に配置されるように血液保持ディスク300が貼り付けられている。また粘着テープ200は、粘着テープ200と開口端との間に空隙部600を有するように、母材板100の開口部500の一方側の開口端に貼り付けられている。空隙部600を通して母材板100の上面と下面とで空気が挿通可能であるため、空隙部600はエアギャプ600と称することも可能である。
図1においては、1つの粘着テープ200が開口部500の一方側の開口端に貼り付けられている場合と、2つの粘着テープ200が開口部500の一方側の開口端に貼り付けられている場合とが記載されている。血液保持ディスク300は、例えば母材板100と同様のセルロース濾紙製であり、滴下された血液試料を乾燥状態で保持する。滴下される血液試料は特に限定されるものではなく、例えば静脈血や抹消血である。
【0020】
血液保持ディスク300の形状は特に限定されるものではないが、例えば直径4.0mm~12mmの円形であり、好ましくは直径4.0mm~8.0mmの円形であり、より好ましくは直径8.0mmの円形である。なお、血液保持ディスク300の形状は円形に限定されるものではなく、例えば楕円形、卵形、洋梨形等とすることも可能である。開口部500の形状と血液保持ディスク300の形状とは同一の形状とすることが好ましい。例えば開口部500の形状が直径10mmの円形で、血液保持ディスク300の形状が直径8.0mmの円形で、空隙部600は幅1.0mmの円弧形状とすることが可能である。例えば開口部500の形状が直径8.0mmの円形で、血液保持ディスク300の形状が直径6.0mmの円形で、空隙部600は幅1.0mmの円弧形状とすることが可能である。例えば開口部500の形状が直径6.0mmの円形で、血液保持ディスク300の形状が直径4.0mmの円形で、空隙部600は幅1.0mmの円弧形状とすることが可能である。血液保持ディスク300の厚さは例えば0.87mm~1.07mmであり、好ましくは0.97mmである。開口部500の内周面と血液保持ディスク300の外周面との間の距離(即ち、円弧形状の空隙部600の幅)は0.8mm~1.2mmであることが可能であり、好ましくは0.9mm~1.1mmであり、更に好ましくは1.0mmである。
【0021】
なお、母材板100には、その上面及び下面にクラフト紙からなる補強板が貼り付けられて挟持されることが可能である。補強板は母材板100の開口部500を露出するようにクラフト開口部を有する。なお、クラフト開口部の形状は円形に限定されるものではなく、例えば楕円形等とすることも可能である。
【0022】
次に本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材900の使用形態を説明する。
【0023】
血液試料をスポイトで血液保持ディスク300上に例えば1乃至3ドロップを滴下する。スポイトで滴下する血液試料の合計のドロップ体積は、特に限定されるものではないが例えば25~75μlである。滴下された血液試料は血液保持ディスク300に吸収されて保持される。この時、余分の血液試料は、血液保持ディスク300の外周面と母材板100の開口部500の内周面との間の間隙を通り超えて、血液保持ディスク300の周りの母材板100に吸収される。また、血液保持ディスク300の外周面と母材板100の開口部500の内周面との間の間隙があるから、仮に血液試料が低ヘマトクリック値であっても過剰に血液保持ディスク300の周りの母材板100に吸収されにくい。
【0024】
このように本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材900では、血液試料をスポイトで血液保持ディスク300上に1乃至3ドロップを滴下するだけで、血液試料のヘマトクリック値に影響されること無く、一定量の血液が血液保持ディスク300に保持される。
【0025】
余分の血液試料が吸収された母材板100と血液試料がドロップされた血液保持ディスク300は、例えば室温にて乾燥されて、乾燥状態で保存、輸送される。血液試料の分析時には、血液保持ディスク300を粘着テープ200から剥がして使用される。
【0026】
(2)第2実施形態
本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材910は
図2に示される丸形エアギャプ4ブリッジ型改変基材である。本実施形態においては、セルロース濾紙製の補強ブリッジ部400が、血液保持ディスク300と母材板100とを連絡するように、粘着テープ200の粘着面に貼り付けられている。それ以外については第1実施形態と同様である。第2実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材910では、補強ブリッジ部400が粘着テープ200の粘着面に貼り付けられているため、粘着テープ200が物理的衝撃から保護される。
【0027】
(3)第3実施形態
本実施形態においては、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、粘着テープ200を使用しない。即ち、本実施形態にかかる乾燥血液保存基材は、血液試料を乾燥状態で保存する乾燥血液試料保存基材であって、セルロース濾紙製の複数の開口部が設けられている母材板と、滴下された血液試料を乾燥状態で保持するセルロース濾紙製の血液保持ディスクと、前記血液保持ディスクと前記母材板とを接続するセルロース濾紙製の極小体積の複数の接続部と、を有し、前記複数の接続部は、血液保持ディスクを前記開口部の内周面から間隔をあけて前記開口部内に配置されるように、前記血液保持ディスクと前記母材板とを接続している。本実施形態によれば、血液が保持された血液保持ディスクを例えば指等により押すことにより、接続部が破壊されて血液保持ディスクと母材板との接続が解除されて簡単に血液保持ディスクを母材板から取り外すことができる。
【0028】
更に具体的には本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材920は
図3に示される。
【0029】
接続部420はセルロール濾紙製の濾紙片である。接続部420には、パラフィンが有機溶媒に溶解したパラフィン溶液が付着し、その後にその有機溶媒が蒸発乾燥することでパラフィンが付着している。パラフィンは、炭素原子の数が20以上のアルカンの総称である。パラフィンは、例えばLunaflex(登録商標)(Fuller製)およびDeawax(登録商標)(DEA Mineraloel AG製)という商標名で入手することができる。有機溶媒は特に限定されるものではなく例えばヘプタン、ヘキサン等が挙げられる。なお本実施形態では、接続部はパラフィン溶液が付着し有機溶媒が蒸発乾燥したセルロール濾紙製の濾紙片であるが、このような実施形態に限定されるものではなく、セルロール濾紙製の濾紙片にパラフィンが付着しているものであれば用いることが可能である。
【0030】
接続部420は、セルロース濾紙製の母材板100とセルロース濾紙製の血液保持ディスク300とを接続する。血液保持ディスク300は母材板100と離隔されて接続部420により母材板100に貼り付けられている。母材板100には、複数の開口部500が設けられている。
【0031】
血液保持ディスク300は、開口部500の内周面から間隔をあけて開口部500内に配置されている。そのため血液保持ディスク300と母材板100の開口部500の内周面との間には空隙部が存在する。接続部420は一つ又は複数設けられる。
図3において接続部420は120度間隔で均等に設けられている。接続部420は、血液保持ディスク300及び母材板100と一体的に設けられる。なお、接続部420は、血液保持ディスク300及び母材板100と別部材にて設け、母材板100と接続部420とを接着剤にて接着し、接続部420と血液保持ディスク300とを接着剤にて接着することで、接続部420がセルロース濾紙製の母材板100とセルロース濾紙製の血液保持ディスク300とを接続することも可能である。
【0032】
(4)第4実施形態
本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材911は
図4に示される角形エアギャプ型基材である。本実施形態では開口部の平面視における形状及び血液保持ディスクの平面視における形状は、それぞれ、正方形や長方形等の四角形である。
【0033】
乾燥血液試料保存基材911は、母材板101と、粘着テープ201と、血液保持ディスク301と、を有する。
【0034】
母材板101はセルロース濾紙で形成されており、1つ又は複数の開口部501が設けられている。母材板101の寸法は特に限定されるものではないが、第1実施形態と同様に例えば縦65mm~85mm、横95mm~115mm、厚さ0.87mm~1.07mmであり、好ましくは縦75mm、横105mm、厚さ0.97mmである。開口部501の形状は本実施形態では一辺が4.0mm~12mmの正方形であり、好ましくは一辺が4.0mm~8.0mmの正方形であり、より好ましくは一辺が6.0mmの正方形である。なお、開口部の形状は正方形に限定されるものではなく、例えば、長方形、平行四辺形、菱形等とすることも可能である。
【0035】
セルロース濾紙は第1実施形態と同様にアドバンテック社のペーパークロマトグラフィー用濾紙を採用することができる。
【0036】
母材板101の開口部501の一方側の開口端には1つ又は複数の粘着テープ201が貼り付けられている。粘着テープの形状は特に限定されるものではないが、例えば線分形状である。粘着テープは特に限定されるものではないが、第1実施形態と同様に例えばセロハンテープである。
【0037】
粘着テープ201の粘着面には、母材板101の開口部501の内周面から間隔をあけて開口部501内の略中央に配置されるように血液保持ディスク301が貼り付けられている。また粘着テープ201は、粘着テープ201と開口端との間に空隙部601を有するように、母材板101の開口部501の一方側の開口端に貼り付けられている。空隙部601を通して母材板101の上面と下面とで空気が挿通可能であるため、空隙部601はエアギャプ601と称することも可能である。
図4においては、1つの粘着テープ201が開口部501の一方側の開口端に貼り付けられている場合と、2つの粘着テープ201が開口部501の一方側の開口端に貼り付けられている場合とが記載されている。血液保持ディスク301は、例えば母材板101と同様のセルロース濾紙製であり、滴下された血液試料を乾燥状態で保持する。滴下される血液試料は特に限定されるものではなく、例えば静脈血や抹消血である。
【0038】
血液保持ディスク301の形状は特に限定されるものではないが、例えば一辺が2.0mm~10mmの正方形であり、好ましくは一辺が4.0mmの正方形である。なお、血液保持ディスク301の形状は正方形に限定されるものではなく、例えば長方形、平行四辺形、菱形等とすることも可能である。開口部501の形状と血液保持ディスク301の形状とは同一の形状とすることが好ましい。例えば開口部501の形状が一辺12mmの正方形で、血液保持ディスク301の形状が一辺10mmの正方形で、空隙部601は幅1.0mmの正方形とすることが可能である。例えば開口部501の形状が一辺10mmの正方形で、血液保持ディスク301の形状が一辺8.0mmの正方形で、空隙部601は幅1.0mmの正方形とすることが可能である。例えば開口部501の形状が一辺8.0mmの正方形で、血液保持ディスク301の形状が一辺6.0mmの正方形で、空隙部601は幅1.0mmの正方形とすることが可能である。例えば開口部501の形状が一辺6.0mmの正方形で、血液保持ディスク301の形状が一辺4.0mmの正方形で、空隙部601は幅1.0mmの正方形とすることが可能である。例えば開口部501の形状が一辺4.0mmの正方形で、血液保持ディスク301の形状が一辺2.0mmの正方形で、空隙部601は幅1.0mmの正方形とすることが可能である。血液保持ディスク301の厚さは第1実施形態と同様に例えば0.87mm~1.07mmであり、好ましくは0.97mmである。開口部501の内周面と血液保持ディスク301の外周面との間の距離(即ち、空隙部601の幅)は0.8mm~1.2mmであることが可能であり、好ましくは0.9mm~1.1mmであり、更に好ましくは1.0mmである。
【0039】
なお、母材板101には、その上面及び下面にクラフト紙からなる補強板が貼り付けられて挟持されることが可能である。補強板は母材板101の開口部501を露出するようにクラフト開口部を有する。なお、クラフト開口部の形状は正方形に限定されるものではなく、例えば長方形等とすることも可能である。
【0040】
なお、第4実施形態においては開口部の平面視における形状及び血液保持ディスクの平面視における形状は、それぞれ、長方形、平行四辺形、菱形等の四角形であるが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、例えば三角形、五角形、六角形等の多角形とすることも可能である。
【0041】
(5)第5実施形態
本実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材912は
図5に示される角形エアギャプ4ブリッジ型改変基材である。本実施形態においては、セルロース濾紙製の補強ブリッジ部401が、血液保持ディスク301と母材板101とを連絡するように、粘着テープ201の粘着面に貼り付けられている。それ以外については第4実施形態と同様である。第5実施形態にかかる乾燥血液試料保存基材912では、補強ブリッジ部401が粘着テープ201の粘着面に貼り付けられているため、粘着テープ201が物理的衝撃から保護される。
【実施例】
【0042】
1.実施例1
1-1.乾燥血液試料保存基材の作成
セルロース濾紙として、アドバンテック社製のペーパークロマトグラフィー用濾紙No.590(厚さ:0.97 mm、吸水速度:18 cm/10分、20℃)を使用した。このセルロース濾紙を使用して、横105mm縦75mm厚さ0.97mmの母材板を作成した。母材板には直径6mmの円形の開口部を格子状に6個作成し、更には直径4mmの円形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(4/6mm丸形エアギャプ型基材)。また、母材板には直径8mmの円形の開口部を格子状に6個作成し、更には直径6mmの円形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(6/8mm丸形エアギャプ型基材)。空隙部即ちエアギャプの幅は1mmであった。粘着テープとして、3Mジャパン社製のスコッチテープNo.811を使用した。粘着テープの幅は1mmとした。粘着テープは母材板の開口部の一方側の開口端に、粘着テープと開口端との間に空隙部を有するように貼り付けられた。血液保持ディスクは、粘着テープの粘着面に、開口部の内周面から間隔をあけて開口部内の中央に配置された。
【0043】
1-2.基材の品質と性能
1-2-1.基材の重量
直径4 mmと6 mm のディスクの重量をBD210 微量天秤あるいは Type 4431 超ミクロ天秤 (ザリトリウス)で秤量し、測定結果を表1に示す。ディスクの重量は、4 mm : 3.44 ± 0.23 mg、6 mm: 7.87 ± 0.47 mg (平均±標準偏差、n = 15) で、製品のバラツキを示す相対標準偏差(%RSD)は5%に近く、品質は均一である。
【0044】
【0045】
1-2-2.血液密度
検査室から譲渡された廃棄血液を匿名化して用いた。採血は2K-EDTA採血管を用い、採血2?3日の血液を使用した。10-20本の血液を混合し、12,000
rpm, 4℃、5分間遠心分離し、血清と血球に分離、重量法で30%、40%、50%、60%のヘマトクリット血液を調整した。血液の密度は、各血液5mlを栓つきバイアルに入れ、100μlのギルソンピペットで吸引し、減少量を秤量した。ピペット体積は純水(水の密度0.99704 g/cm3 , 25℃)で補正した。ピペットの体積補正値は0.100772 mLであった。
【0046】
ヘマトクリット、30%、40%、50%、60%の血液密度を表2に示す。
【0047】
【0048】
1-2-3.基材に保持される血液の体積
4/6mm丸形エアギャプ型基材、6/8mm丸形エアギャプ型基材の各基材に血液をスポットした。1mlのディスポーザブルスポイドを用い、4/6 mmには1-2滴、6/8 mmには2-3滴をスポットした。この操作で、基材の周辺まで血液は広がる。スポットしてから5分後にディスクを脱着、その重量を測定して、保持される血液の体積(血液含有量)を下記の計算式から算出した(表3、4)。計算式は、血液保持体積(μl) =(総重量(mg) ? 空重量(mg))/ 血液密度(g/mL)であった。なお、
図6に、(A)血液滴下前の写真図、(B)血液滴下後の写真図、(C)脱着したディスクの写真図を示す。
【0049】
【0050】
【0051】
これらの結果から、エアギャプ型基材の血液含有量の相対標準偏差は5%前後であり、さらに、ヘマトクリットによる変動幅も1個の値を除けば5%以内である。従って、これらの基材を用いスポイドで血液を滴下するだけで、ヘマトクリット値の影響を受けずに一定容量の血液を採取できることが証明された。
図7に結果を示す。
【0052】
2.実施例2
実施例2ではエアギャプ型基材の第二世代抗精神病薬への応用例を示す。
【0053】
2-1.抗精神病薬の血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)
抗精神病薬の血中濃度と臨床効果との間には一貫した相関関係が認められ、血中濃度モニタリングの有効性が示唆されている。さらに、AGNP ガイドラインは、薬剤の狭い治療域と重大な副作用によってTDMを強力に推奨している。従って、エアギャプ型基材の有効性を確認するために、第二世代の抗精神病薬、クロザピン(clozapine)、オランザピン (olanzapine)、リスペリドン (risperidone) 及びアリピプラゾール (aripiprazole) の血中濃度を測定した。治療抵抗性統合失調症に使用されるクロザピンについては、本基材の使用によって静脈血の採血が回避できる等、患者のストレスや不安を解消できるメリットが推定され、代謝産物をも含めて詳細に検討した。さらに、対象とした抗精神病薬は薬剤治療の大部分を占めており、入院患者のみならず、外来患者、在宅患者の自己採血にも利用できると推定される。
【0054】
2-2.乾燥血液スポットの作製と薬剤の抽出
ヘマトクリット、30%、 40%、 50%、 60% の血液に最終濃度が250-2,000 ng/mLになるように各薬剤をスパイクした。基材にスポイドで2-3滴の血液を滴下して、4時間あるいは一晩室温で乾燥した。
【0055】
乾燥血液ディスクはピンセットで2mlエッペンドルフチューブに入れる。このチューブに0.1M炭酸ナトリウム (pH11.7) 水溶液500μlを加え、ボルテックスで撹拌する。このチューブに1000 ng/ml の内部標準液20μlを加え、ボルテックスで撹拌、5分間(クロザピン、オランザピン)あるいは15分間(リスペリドン、アリピプラゾール )超音波処理をする。このエッペンドルフチューブに酢酸エチル800μlを加え、60秒間ボルテックスで撹拌、遠心分離後(12,000 回転/分、5分間、4 ℃)、上清400μl を取りサンプルチューブに入れる。窒素気流(40℃、20 分間)で溶媒を完全に蒸発する。このチューブに移動相溶液60μlを加えてボルテックスで撹拌し、オートサンプラーで20μlを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入測定する。
【0056】
2-3.HPLC-Coulochem IIによる血中薬剤の分析
HPLCの分離カラムにはC18逆相カラム、 Eicompak ODS-C18,5μm,150 x 4.5mm,ガードセル(ODS C-18) ((株)エイコム)、あるいはGemini C18、 00F-4435-E0、150x4.5mm、ガードカートリッジC18、AJO-4287、4.0mm x 3.0mmID、ホルダーアッセンブリーキットKJO- 4282、カラム内径、2.0mm-8.0mmID((株)島津ジーエルシー)を用いた。移動相には、メタノールと50 mM リン酸緩衝溶液 (pH 2.1)の混合溶液を用いた。薬剤定量にはCoulochem II (ESA)を用い、Model 5011 分析セル及びModel 5020 ガードセルを装着した。各薬剤に対する分離条件とクーロケムの負荷電圧は表5に示す。クロザピンと代謝物のクロマトグラフィを
図8に示す。
【0057】
【0058】
2-4.クロザピンと代謝物の検量線
クロザピン(CLZ)及びその代謝物、ノルクロザピン(DMC)、クロザピンN-オキシド(CMO)を血液にスパイクした後、エアギャプ型基材に滴下、乾燥し、それらの濃度を3日後に測定した。検量線を
図9に示す。4/6 mm 及び6/8 mmエアギャプ型基材には、薬剤とそのシグナルの間に極めて良好な相関関係(R>0.99)が認められ、各基材が定量的に血液を保持していること、血中濃度の測定には支障がないことが証明された。
【0059】
2-5.クロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響
ヘマトクリット値、30、40、50、60%の血液にクロザピン(CLZ)及びその代謝物、ノルクロザピン(DMC)、クロザピンN-オキシド(CMO)をそれぞれ750 ng/ml スパイクし、4/6 mm及び6/8 mmエアギャプ型基材に滴下した。乾燥し3日後に分析した(
図10、11)。これらの結果から、薬剤の血中濃度にヘマトクリット値による統計的に有意な差異は認められず、ヘマトクリット 30~60%の変動は±10%以内であり、
±15%の基準値以内であった。ヘマトクリットによる血中濃度の変化は認められなかったが、
図10、11に示すように、全ての薬剤の血中濃度がヘマトクリット値の上昇に従って低下する傾向が見られた。この原因として高ヘマトクリットにおける薬剤の回収率の低下が考えられたので、抽出時間や液-液抽出の条件を検討した。 超音波抽出の時間を5分から15分に延長した結果、高いヘマトクリット値における薬剤の血中濃度の低下は認められなかった。このことから、抽出時間を延長することで、ヘマトクリットの影響は無視できると推定される。結論として、ヘマトクリット値による分析値の変動幅は許容範囲にあり、エアギャプ型基材はクロザピン及びその代謝物の血中濃度測定に有効であることが認められた。
【0060】
2-6.オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール 血中濃度に対するヘマトクリットの影響
ヘマトクリット値、30、40、50、60%の血液にオランザピン、リスペリドン、アリピプラゾールをそれぞれの最終濃度が1000-2000 ng/ml になるようにスパイクし、4/6 mm及び6/8 mmエアギャプ型基材に滴下して、乾燥後血中濃度を測定した(
図12、13、14)。これらの結果から、エアギャプ型血液試料乾燥保存基材の使用によって、ヘマトクリット値による分析値の変動幅は許容範囲に、同一条件での測定値のばらつきは基準値以下に抑えられることが確認された。
【0061】
3.実施例3
実施例3では、セルロース濾紙製の補強ブリッジ部が、血液保持ディスクと母材板とを連絡している乾燥血液試料保存基材(なお、エアギャプブリッジ型改変基材と称することも可能であり、エアギャプブリッジ型改変基材は例えば丸形エアギャプ4ブリッジ型改変基材や角形エアギャプ4ブリッジ型改変基材等である。)について示す。
【0062】
3-1.乾燥血液試料保存基材の作成
実施例1と同様に、セルロース濾紙として、アドバンテック社製のペーパークロマトグラフィー用濾紙No.590(厚さ:0.97 mm、吸水速度:18 cm/10分、20℃)を使用した。そして、実施例1と同様に、このセルロース濾紙を使用して、横105mm縦75mm厚さ0.97mmの母材板を作成した。母材板には直径6mmの円形の開口部を格子状に6個作成し、更には直径4mmの円形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(4/6mmエアギャプ型基材)。また、母材板には直径8mmの円形の開口部を格子状に6個作成し、更には直径6mmの円形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(6/8mmエアギャプ型基材)。また、母材板には直径10mmの円形の開口部を格子状に6個作成し、更には直径8mmの円形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(8/10mmエアギャプ型基材)。空隙部即ちエアギャプの幅は1mmであった。実施例1と同様に粘着テープとして、3Mジャパン社製のスコッチテープNo.811を使用した。粘着テープの幅は1mmとした。粘着テープは母材板の開口部の一方側の開口端に、粘着テープと開口端との間に空隙部を有するように貼り付けられた。血液保持ディスクは、粘着テープの粘着面に、開口部の内周面から間隔をあけて開口部内の中央に配置された。そして実施例1と異なり、セルロース濾紙製(アドバンテック社製のペーパークロマトグラフィー用濾紙No.590)の補強ブリッジ部を、血液保持ディスクと母材板とを連絡するように、粘着テープの粘着面に貼り付けた(
図15)。
図15は、丸形エアギャプ4ブリッジ型改変基材(Air gap-4 bridge)の写真図であり左側より8/10mm、6/8mm、4/6mmを示す。
【0063】
3-1-1. 丸形エアギャプ4ブリッジ型改変基材の血液保持体積
図15の基材にヘマトクリット(HCT)値30、40、50、60%の血液をスポットし、5分後に重量を測定、含有血液量を求め(表6、7、8)、これらの結果を
図16に示した。
図16は、丸型エアギャプ4ブリッジ型改変基材の血液保持体積に対するヘマトクリット値の影響を示す。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
3-1-2.クロザピン及びその代謝産物の血中濃度
丸型エアギャプ4ブリッジ型改変基材、4/6mm、6/8mm及び8/10mmに、それぞれ1000 ng/ml、500 ng/ml、及び250 ng/mlのクロザピン(clozapine: CLZ)、代謝産物のノルクロザピン(desmethylclozapine:DMC) 、クロザピンN-オキシド(clozapine N-oxide: CNO)をスパイクした血液をスポットし、各化合物血中濃度に対するヘマトクリット値の影響を調べた(
図17、
図18、
図19)。
図17は、4/6 mmエアギャプ4ブリッジ改変型基材を用いて測定したクロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す。
図18は、6/8 mmエアギャプ4ブリッジ改変型基材を用いて測定したクロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す。
図19は、8/10 mmエアギャプ4ブリッジ改変型基材を用いて測定したクロザピン及び代謝物血中濃度に対するヘマトクリットの影響を示す。これらの結果から、CLZ及びCNOについては、ヘマトクリット(HCT)の影響は用いた全ての基材で認められなかった。
【0068】
4.実施例4
4-1.乾燥血液試料保存基材の作成
セルロース濾紙として、アドバンテック社製のペーパークロマトグラフィー用濾紙No.590(厚さ:0.97 mm、吸水速度:18 cm/10分、20℃)を使用した。このセルロース濾紙を使用して、横105mm縦75mm厚さ0.97mmの母材板を作成した。母材板には一辺4mmの正方形の開口部を格子状に作成し、更には一辺2mmの正方形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(2/4mm角形エアギャプ型基材)。母材板には一辺6mmの正方形の開口部を格子状に作成し、更には一辺4mmの正方形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(4/6mm角形エアギャプ型基材)。母材板には一辺8mmの正方形の開口部を格子状に作成し、更には一辺6mmの正方形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(6/8mm角形エアギャプ型基材)。母材板には一辺10mmの正方形の開口部を格子状に作成し、更には一辺8mmの正方形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(8/10mm角形エアギャプ型基材)。母材板には一辺12mmの正方形の開口部を格子状に作成し、更には一辺10mmの正方形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(10/12mm角形エアギャプ型基材)。空隙部即ちエアギャプの幅は1mmであった。粘着テープとして、3Mジャパン社製のスコッチテープNo.811を使用した。粘着テープの幅は1mmとした。粘着テープは母材板の開口部の一方側の開口端に、粘着テープと開口端との間に空隙部を有するように貼り付けられた。血液保持ディスクは、粘着テープの粘着面に、開口部の内周面から間隔をあけて開口部内の中央に配置された。
【0069】
4-2.基材の品質と性能
4-2-1.基材の重量
一辺が2mm,4mm,6mm,8mm,10mmの正方形の血液保持ディスクの重量をBD210 微量天秤あるいは Type 4431 超ミクロ天秤 (ザリトリウス)で秤量した。測定結果を表9に示す。単位はmgである。下記表9に示すように製品のバラツキを示す相対標準偏差(%RSD)はほぼ5%前後であり、品質は均一であった。
【0070】
【0071】
4-2-2.血液密度
検査室から譲渡された廃棄血液を匿名化して用いた。採血は2K-EDTA採血管を用い、採血2?3日の血液を使用した。10-20本の血液を混合し、12,000
rpm, 4℃、5分間遠心分離し、血清と血球に分離、重量法で30%、40%、50%、60%のヘマトクリット血液を調整した。血液の密度は、各血液7mlを栓つきバイアルに入れ、100μlのギルソンピペットで吸引し、減少量を秤量した。ピペット体積は純水(水の密度0.99704 g/cm3 , 25℃)で補正した。ピペットの体積補正値は0.100772 mLであった。ヘマトクリット、30%、40%、50%、60%の血液密度を表10に示す。
【0072】
【0073】
4-2-3.基材に保持される血液の体積
2/4mm角形エアギャプ型基材、4/6mm角形エアギャプ型基材、6/8mm角形エアギャプ型基材、8/10mm角形エアギャプ型基材の各基材に血液をスポットした。1mlのディスポーザブルスポイドを用い、2/4 mmには先端を軽く触れるだけ、4/6 mmには1滴、6/8 mmには2滴、8/10 mmには3滴、10/12 mmには3滴をスポットした。この操作で、基材の周辺まで血液は広がる。スポットしてから5分後にディスクを脱着、その重量を測定して、保持される血液の体積(血液含有量)を下記の計算式から算出した(表11,12,13,14)。計算式は、血液保持体積(μl)=(総重量(mg) ? 空重量(mg))/ 血液密度(g/mL)であった。
図20は、4/6mm角形エアギャプ型基材と6/8mm角形エアギャプ型基材とを一枚の母材板に有する角形エアギャプ型基材の写真図である。
図20は、(A)血液滴下前の写真図、(B)血液滴下後の写真図、(C)脱着したディスクの写真図を示す。
【0074】
表11は2/4mm角形エアギャプ型基材の血液保持体積に対するヘマトクリット値の影響を示す。
【0075】
【0076】
表12は4/6mm角形エアギャプ型基材の血液保持体積に対するヘマトクリット値の影響を示す。
【0077】
【0078】
表13は6/8mm角形エアギャプ型基材の血液保持体積に対するヘマトクリット値の影響を示す。
【0079】
【0080】
表14は8/10mm角形エアギャプ型基材の血液保持体積に対するヘマトクリット値の影響を示す。
【0081】
【0082】
図21は、2/4mm角形エアギャプ型基材、4/6mm角形エアギャプ型基材、6/8mm角形エアギャプ型基材、8/10mm角形エアギャプ型基材の各基材において、血液保持体積に対するヘマトクリックの影響を示す図である。基材に保持される血液量がヘマトクリットに影響されないことは、基材の最も重要な条件である。
図21に示されるように血液保持体積に対するヘマトクリットの有意な影響は認められなかった。
【0083】
5.実施例5
5-1.乾燥血液試料保存基材の作成
実施例1と同様に、セルロース濾紙として、アドバンテック社製のペーパークロマトグラフィー用濾紙No.590(厚さ:0.97 mm、吸水速度:18 cm/10分、20℃)を使用した。そして、実施例1と同様に、このセルロース濾紙を使用して、横105mm縦75mm厚さ0.97mmの母材板を作成した。母材板には直径6mmの円形の開口部を格子状に6個作成し、更には直径4mmの円形の血液保持ディスクを開口部内の中央に配置した(4/6mmエアギャプ型基材)。空隙部即ちエアギャプの幅は1mmであった。母材板と血液保持ディスクとを接続する接続部は、120度間隔で均等に3箇所設けられた。接続部の形状は直方体であり、平面視での長さは1mmであり平面視での幅は0.3mmであった。
【0084】
本実施例にかかる乾燥血液試料保存基材は、接続部は血液保持ディスク及び母材板と一体的に設けられるものであった。本実施例にかかる乾燥血液試料保存基材は、例えば、平面視長方形のセルロール濾紙に対して、120度間隔で均等に配置された円弧状凸部をプレスすることによりその円弧状凸部に対応する部分が平面視長方形のセルロール濾紙からそれぞれ打ち抜きされ、これにより血液保持ディスクは母材板と離隔されて接続部により母材板に貼り付けられる。
【0085】
そしてパラフィンLunaflex(登録商標)(Fuller製)をヘプタン(n-Heptane)に溶解させて常温でパラフィンが飽和するパラフィン濃度の溶液を調整した。この溶液の0.5-1μLをピペットでそれぞれの接続部に付着させその後風乾させた(
図22左側)。乾燥するとパラフィンは目視できなくなったが、血液試料を血液保持ディスクにスポットすると、血液保持ディスクから接続部を超えて通過する血流は遮断されることが判明した(
図22右側)。
【0086】
5-2.基材に保持される血液の体積
スポットされた血液試料の乾燥を確認した後に、ハサミで母材板から血液保持ディスクを切り離して、カフェインとその代謝物濃度を測定した(
図23)。全ての化合物の血中濃度は30%および60%ヘマトクリットの血液中で完全に一致した。この方法によって、スポイトで血液を滴下するという簡単な操作で、ヘマトクリットに影響されず、一定量の血液が採取されることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
乾燥血液試料の保存や運搬に使用できる。
【符号の説明】
【0088】
100,101:母材板
200,201:粘着テープ
300,301:血液保持ディスク
400,401:補強ブリッジ部
420:接続部
500,501:開口部
600,601:空隙部(エアギャプ)
900,901,911,912:乾燥血液試料保存基材