(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御装置および電動機駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/30 20160101AFI20230428BHJP
H02P 21/20 20160101ALI20230428BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20230428BHJP
H02P 21/09 20160101ALI20230428BHJP
【FI】
H02P21/30
H02P21/20
H02P21/22
H02P21/09
(21)【出願番号】P 2019008557
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2022-01-21
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シュ
(72)【発明者】
【氏名】森藤 力
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ディー ローレンツ
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010311(JP,A)
【文献】特開2013-243876(JP,A)
【文献】特開2018-014854(JP,A)
【文献】特開2012-157155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/30
H02P 21/20
H02P 21/22
H02P 21/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置により駆動される電動機の速度指令値に基づいて前記電力変換装置への第一トルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、
前記第一トルク指令値を受け取り、予め定めた上限トルク指令値算出用の演算式で算出した上限リミッタトルク値と前記上限リミッタトルク値にゼロ又は負の係数を掛けた下限リミッタトルク値とで決まるトルクリミッタ範囲を用いて、前記第一トルク指令値が前記トルクリミッタ範囲内に制限されるように前記第一トルク指令値を修正した値である第二トルク指令値を生成するトルク指令リミット部と、
前記電力変換装置の基本波出力周波数に応じた固定子磁束指令値を生成する磁束指令生成部と、
前記第二トルク指令値と前記固定子磁束指令値とに基づいて前記電力変換装置の出力電圧指令値を演算する出力電圧演算部と、
を備え、
前記トルク指令リミット部は、少なくとも弱め界磁開始点以上の速度領域において、前記基本波出力周波数が大きくなるほど前記上限リミッタトルク値を小さく算出するように構築され
、
前記トルク指令リミット部は、前記弱め界磁開始点よりも高速側に予め定められた境界速度と前記弱め界磁開始点との間の領域である第一速度領域に前記基本波出力周波数が属する場合には予め定めた上限トルク指令値算出用の第一演算式に従って前記上限リミッタトルク値を算出する第一ブロックを含み、
前記第一演算式は、前記固定子磁束指令値の二次項および一次項を含む二次多項式である電力変換装置の制御装置。
【請求項2】
前記弱め界磁開始点よりも低速側の速度領域においても前記第一ブロックが前記トルクリミッタ範囲を決定する
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項3】
前記トルク指令リミット部は、前記弱め界磁開始点よりも高速側に予め定められた境界速度以上に高速側の第二速度領域に前記基本波出力周波数が属する場合には予め定めた上限トルク指令値算出用の第二演算式に従って前記上限リミッタトルク値を算出する第二ブロックを含み、
前記第二演算式は、前記固定子磁束指令値の二次項に予め定めた係数を乗じて得られる単項式である
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、可変電圧可変周波数の電力変換装置の制御装置および電動機駆動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電力変換装置の制御装置を開示する。当該制御装置によれば、応答性のよいブレーキを電動機にかけることができる。また、非特許文献1は電動機を安定運転できる磁束オブザーバについて述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y. Xu, Y. Wang, R. Iida and R.D. Lorenz, "Extending low speed self-sensing via flux tracking with volt-second sensing," 2017 IEEE Energy Conversion Congress and Exposition, Cincinnati, OH, 2017, pp. 1888-1895.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1のシステムでは、弱め界磁が実装されていない。このため、電動機運転範囲の高速域が制限される。
【0006】
弱め界磁の一般的な技術としては、回転速度に反比例させて磁束指令を下げることで、電力変換装置の出力周波数が高くなった際の電圧飽和の影響を抑える方法がある。電力変換装置の出力周波数を、電源角周波数とも称する。
【0007】
単純に周波数に反比例する磁束指令法では、変換器の出力限界が考慮されていない。したがって特許文献1に記載の制御装置においては、弱め界磁領域において急加速や負荷トルク急増などで出力トルクを増大させようとすると、制御安定性を損なう可能性があった。
【0008】
本出願は、上述のような課題を解決するためになされたもので、弱め界磁領域においても制御安定性と出力トルク増大とを両立することができる電力変換装置の制御装置および電動機駆動システムを提供することを目的とする。
【0009】
また、非特許文献1に記載の制御装置においては、磁束オブザーバによって推定した固定子磁束を用いて回転速度を得て、センサレス制御を実現している。しかしこの固定子磁束にはPWM制御に起因する高調波や電流測定ノイズを受け、特に弱め界磁領域では磁束振幅が低下するため、S/N比が厳しくなる。これらの理由から速度推定の精度が低下し安定に運転できない可能性がある。
【0010】
本出願の他の目的は、速度推定値を高精度に演算することができる電力変換装置の制御装置および電動機駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願にかかる第一の電力変換装置の制御装置は、
電力変換装置により駆動される電動機の速度指令値に基づいて前記電力変換装置への第一トルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、
前記第一トルク指令値を受け取り、予め定めた上限トルク指令値算出用の演算式で算出した上限リミッタトルク値と前記上限リミッタトルク値にゼロ又は負の係数を掛けた下限リミッタトルク値とで決まるトルクリミッタ範囲を用いて、前記第一トルク指令値が前記トルクリミッタ範囲内に制限されるように前記第一トルク指令値を修正した値である第二トルク指令値を生成するトルク指令リミット部と、
前記電力変換装置の基本波出力周波数に応じた固定子磁束指令値を生成する磁束指令生成部と、
前記第二トルク指令値と前記固定子磁束指令値とに基づいて前記電力変換装置の出力電圧指令値を演算する出力電圧演算部と、
を備え、
前記トルク指令リミット部は、少なくとも弱め界磁開始点以上の速度領域において、前記基本波出力周波数が大きくなるほど前記上限リミッタトルク値を小さく算出するように構築されたものである。
【0012】
本願にかかる第二の電力変換装置の制御装置は、
電力変換装置に駆動される電動機の速度指令値に基づいて、前記電力変換装置へのトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、
前記トルク指令値演算部により演算されたトルク指令値に基づいて、前記電力変換装置への電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記電力変換装置への前記電圧指令値と前記電動機の固定子電流の実測値とに基づいて次の制御周期における前記電動機の固定子磁束と回転子磁束との推定値を演算する磁束推定部と、
前記磁束推定部により演算された前記回転子磁束の推定値に基づいて次の制御周期における前記電動機の速度推定値を演算する電動機速度推定部と、
を備えている。
【0013】
本願にかかる電動機駆動システムは、
電動機を駆動する電力変換装置と、
前記電力変換装置を制御する上記第一または上記第二の電力変換装置の制御装置と、
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
上記第一の電力変換装置の制御装置では、弱め界磁領域において、電力変換装置の基本波出力周波数が増大するほど上限リミッタトルク値が小さく算出される。つまり、基本波出力周波数が増大するほどトルクリミッタ範囲が狭く設定される。基本波出力周波数が大きい高速運転領域ほど、制御安定性を保つことのできるトルク指令値の範囲が狭くなる傾向がある。この傾向に合わせてトルクリミッタ範囲が動的に調節される。トルク指令値は調節されたトルクリミッタ範囲内でのみ変化するので、制御安定性を損なわずにトルク増加を行うことができる。その結果、制御安定性と出力トルク増大とを両立することができる。
【0015】
上記第二の電力変換装置の制御装置によれば、回転子磁束の推定値が演算に使用される。回転子磁束の推定値は固定子磁束の推定値よりもノイズが少ないので、少ないリプルで速度推定値を高精度に演算することができる。トルク指令値のリプルも少なくなる。
【0016】
上記第一の電力変換装置の制御装置を備える上記電動機駆動システムは、弱め界磁領域で電動機を高速運転するときに、制御安定性と出力トルク増大とを両立することができる。上記第二の電力変換装置の制御装置を備える上記電動機駆動システムは、速度推定値を高精度に演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1における電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【
図2】実施の形態1にかかる電力変換装置の制御装置の一部を拡大した構成図である。
【
図3】実施の形態1にかかる電力変換装置の制御装置の一部を拡大した構成図である。
【
図4】電圧制限を考慮した電源(動作)周波数ごとの固定子磁束軌跡を示すグラフである。
【
図5】電流制限を考慮した固定子磁束軌跡を示すグラフである。
【
図6】電圧制限および電流制限を考慮した固定子磁束軌道を示すグラフである。
【
図7】電源周波数1.2puにおける電圧制限・電流制限と各負荷におけるトルク曲線とを示すグラフである。
【
図8】領域Iでの異なる電源角周波数における電圧・電流制限を考慮した最大トルク曲線を考慮したグラフである。
【
図9】領域Iと領域IIの境界速度条件を表すグラフである。
【
図10】領域IIでの異なる電源角周波数における電圧・電流制限を考慮した最大トルク曲線を示すグラフである。
【
図11】実施の形態2における電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【
図12】実施の形態2にかかる電力変換装置の制御装置の一部を拡大した構成図である。
【
図13】実施の形態2における弱め界磁の試験の結果の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態2における弱め界磁の試験の結果の一例を示す図である。
【
図15】実施の形態2における弱め界磁の試験の結果の一例を示す図である。
【
図16】実施の形態2の変形例にかかる電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【
図17】実施の形態2の変形例にかかる電力変換装置の制御装置の一部を拡大した構成図である。
【
図18】実施の形態3にかかる電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【
図19】実施の形態3の変形例にかかる電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【
図20】実施の形態1における電力変換装置の制御装置に適用可能なハードウェア構成図である。
【
図21】磁束を減じていった際の相対RMSノイズを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0019】
以下、記号を説明する。複素ベクトル (Complex vector)は下記のとおりである。
Vqds 固定子電圧複素ベクトル (stator voltage complex vector) [V]
Vqdr 回転子電圧複素ベクトル (rotor voltage complex vector) [V]
iqds 固定子電流複素ベクトル (stator current complex vector) [A]
iqdr 回転子電流複素ベクトル (rotor current complex vector) [A]
λqds 固定子磁束複素ベクトル (stator flux linkage complex vector) [V-sec]
λqdr 回転子磁束複素ベクトル (rotor flux linkage complex vector) [V-sec]
【0020】
スカラー(scalar)は下記のとおりである。
Vqs 固定子q軸電圧 (stator q-axis voltage) [V]
Vds 固定子d軸電圧 (stator d-axis voltage) [V]
Vqr 回転子q軸電圧 (rotor q-axis voltage) [V]
Vdr 回転子d軸電圧 (rotor d-axis voltage) [V]
iqs 固定子q軸電流 (stator q-axis current) [A]
ids 固定子d軸電流 (stator d-axis current) [A]
iqr 回転子q軸電流 (rotor q-axis current) [A]
idr 回転子d軸電流 (rotor d-axis current) [A]
λqs 固定子q軸磁束 (stator q-axis Flux) [V-sec]
λds 固定子d軸磁束 (stator d-axis Flux) [V-sec]
λqr 回転子q軸磁束 (rotor q-axis Flux) [V-sec]
λdr 回転子d軸磁束 (rotor d-axis Flux) [V-sec]
【0021】
Te エアギャップトルク (electromagnetic torque) [N-m]
TL 負荷トルク (load torque) [N-m]
vus u相固定子電圧 (u-phase stator voltage) [V]
vvs v相固定子電圧 (v-phase stator voltage) [V]
vws w相固定子電圧 (w-phase stator voltage) [V]
ius u相固定子電流 (u-phase stator current) [A]
ivs v相固定子電流 (v-phase stator current) [A]
iws w相固定子電流 (w-phase stator current) [A]
【0022】
【0023】
P 極数 (Pole number) P/2 極対数
ts サンプリング時間 (sampling time) [s]
Pcu 誘導機銅損 (IM cupper loss) [W]
Pfe 誘導機鉄損 (IM iron loss) [W]
Ploss 誘導機損失 (IM loss) [W] Ploss=Pcu+Pfe
Pe 電源からの入力電力 (input power) [W] Pe=Ploss+Pstored+Pem
Pstored 誘導機のインダクタンスに蓄積される磁気エネルギーの時間微分 [W]
Pem 機械損 (mechanical loss) [W] (トルクに寄与する電力)
Ke 渦電流損係数 (eddy current coefficient)
Kh ヒステリシス損係数 (hysteresis coefficient)
Req 等価抵抗 (equivalent resistance) [Ω]
τeq 等価時定数 (equivalent time constant) [s]
τr 回転子時定数 (rotor time constant) [s] 所謂、MI_T2 (2次時定数)
ω 角速度 [rad/s] ω=pθ 座標系を特定しない一般的な記述(任意座標系)
θ 角度 [rad] 座標系を特定しない一般的な記述
ωr 回転子角速度(電気角)(rotor electrical angular speed) [rad/s]
ωr=Pωrm/2
【0024】
θr 回転子角度(電気角) (rotor electrical angular position) [rad]
(u相固定子巻線を基準に反時計回りに取ったu相回転子巻線の角度)
ωrm 回転子機械角速度 (rotor mechanical angular speed) [rad/s]
ωrm=2ωr/P (出力軸の回転角速度)
θrm 回転子機械角 (rotor mechanical angle) [rad]
θrm=2θr/P (出力軸の回転角)
ωe 同期角周波数(電源角周波数) (synchronous angular frequency) [rad/s]
ω=pθであるが、同期角周波数一定であれば、ωt=θとも表される。
θe 同期角度 (synchronous angular position)
ωsl すべり角周波数 (slip angular frequency) [rad/s]
ωsl=ωe-ωr
【0025】
【0026】
【0027】
下付き添え字 (Subscripts)の各記号は下記の意味である。
fs 固定子 (stator)
fr 回転子 (rotor)
( )opt 適正値(optimal value)
【0028】
実施の形態1.
[実施の形態1の装置の構成]
図1は実施の形態1における電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【0029】
図1において、電動機システム1は、電動機2と電動機駆動システム3とを備える。例えば、電動機2は誘導電動機である。
【0030】
電動機2の出力部は、負荷機械4の入力部に接続される。例えば、負荷機械4は、慣性負荷である。電動機2には回転子の回転速度を検出する速度センサ119が接続されている。
【0031】
電動機駆動システム3の入力部は、交流電源5の出力部に接続される。例えば、交流電源5は、商用電力系統である。
【0032】
電動機駆動システム3は、ダイオード整流器6とコンデンサ7とインバータ8と第一電流検出器9aと第二電流検出器9bと制御装置11とを備える。
【0033】
ダイオード整流器6は、交流電源5から供給された三相交流電力を直流電力に変換する。なお、必要によりダイオード整流器6はPWMコンバータとしてもよい。
【0034】
コンデンサ7は、ダイオード整流器6の出力側の直流リンクに設けられる。コンデンサ7は、直流リンクに印加される直流電圧を平滑化する。
【0035】
インバータ8は、ダイオード整流器6から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。インバータ8は、三相交流電力を電動機2に出力する。インバータ8は、電圧形インバータである。インバータ8は、PWM制御によりVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御される。
【0036】
インバータ8の電力変換回路は、3相回路で構成される。1つの相は、上アームと下アームで構成される。上アーム及び下アームは、少なくとも1つのスイッチング素子を備える。
【0037】
第一電流検出器9aは、インバータ8の出力側のv相に設けられる。第一電流検出器9aは、v相固定子電流Ivsを検出する。第二電流検出器9bは、インバータ8の出力側のw相に設けられる。第二電流検出器9bは、w相固定子電流Iwsを検出する。
【0038】
制御装置11は、速度制御部12とDB-DTFC演算部14と第一座標変換部15とPWM制御部16と第二座標変換部17と電流・磁束推定部20と速度・位相推定部21とトルク指令リミット部13と適正磁束指令生成部18と電源角周波数算出部19と第一すべり角周波数推定部32を備える。
【0039】
【0040】
ここで、dqs軸とは、静止軸系に於いて固定子のU相とq軸が一致するようにして、三相成分を互いに直交するd軸とq軸の二相に分配するものである。
後述する第2座標変換部17は入力された信号を上記の二軸の信号に置き換えるdq軸変換を行う回路である。また、後述する第1座標変換回路15はd軸とq軸に変換された静止軸系の二相信号を静止座標系の三相信号に戻す逆変換回路である。
例えば、固定子dqs軸磁束λS
qdsの右上付き文字sは静止座標系を表し、右下付き文字のqdsは固定子の2相成分を意味する。即ち固定子dqs軸磁束λS
qdsは固定子磁束のd軸成分λS
dsと固定子磁束のq軸成分λS
qsの2つを表す。以降において、右下付き文字のサフィックスqdsが付された符号は、固定子磁束のd軸成分とq軸成分の両者を表す符号である。
また、回転子dqs軸磁束λS
qdrの右上付き文字sは静止座標系を表し、右下付き文字のqdrは回転子磁束のd軸成分λS
drと回転子磁束のq軸成分λS
qrの2つを表す。以降において、右下付き文字のサフィックスqdrが付された符号は、回転子磁束のd軸成分とq軸成分の両者を表す符号である。
【0041】
トルク指令リミット部13は、速度制御部12で演算した第一トルク指令値T
*
em1と適正磁束指令生成部18で生成した固定子磁束指令値λ
s_optと電源角周波数算出部19で算出した電源角周波数ω
eとに基づいて、第二トルク指令値T
*
emを生成する。トルク指令リミット部13の詳細は、
図2を用いて後ほど説明する。
【0042】
【0043】
第一座標変換部15は、固定子dqs軸電圧指令値VS*
qdsを三相固定子電圧指令値V*
us、V*
vs、V*
wsに変換する。第一座標変換部15が行う変換は、dqs軸変換の逆変換である。
【0044】
PWM制御部16は、三相固定子電圧指令値V*
us、V*
vs、V*
wsをpulse width modulationによりインバータ8用のゲートパルスに変換する。PWM制御部16は、当該ゲートパルスをインバータ8に出力する。
【0045】
【0046】
適正磁束指令生成部18は、電源角周波数算出部19で算出した電源角周波数ω
eに基づいて適正な磁束指令値に関する演算を行うことで、固定子磁束指令値λ
s_optを生成する。この適正な値を持つ固定子磁束指令値λ
s_optは、磁束指令値λ
*
SとしてDB-DTFC演算部14へと入力される。適正磁束指令生成部18の詳細は、
図2を用いて後ほど説明する。
【0047】
【0048】
ここで、固定子dqs軸電流実測値is
qdsと固定子dqs軸電圧実測値Vs
qdsとは、三相実測値をdqs変換した値である。尚、インバータ8の出力である3相電流の瞬時値の加算合計値は零である。この性質を使用し実施の形態1では二相の電流を検出し、他の一相分は二相の電流の加算値としその符号を反転させた値を使用している。
【0049】
【0050】
【0051】
速度・位相推定部21は、基本的にはトルク指令値を電動機2の慣性モーメントで除算し、加速度を出力し、加速度を積分して速度を演算し、さらに速度を積分し位相を演算する。速度・位相推定部21では遅延演算子z-1が用いられる。
【0052】
【0053】
積分部21cは、ゲインKioの積分回路である。積分部21cは、演算結果を加算部21fに出力する。比例部21dは、ゲインKSOの増幅を行う。比例部21dは、演算結果を加算部21fに出力する。比例部21eは、ゲインboの増幅を行う。比例部21eは、演算結果を加算部21fに出力する。
【0054】
加算部21fは、積分部21cの出力と比例部21dの出力と比例部21eの出力との加算を行い、演算結果を加算部21gに出力する。加算部21gは、トルク指令リミット部13の出力である第二トルク指令値T*
emと加算部21fの出力とを加算し、演算結果を加速度演算部21hに出力する。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
図2は、実施の形態1にかかる電力変換装置の制御装置の一部を拡大した構成図である。
図2に示すように、制御装置11は、速度制御部12と、トルク指令リミット部13と、適正磁束指令生成部18と、電源角周波数算出部19と、を含んでいる。
【0060】
トルク指令リミット部13は、第一ブロック13aと第二ブロック13bと第三ブロック13cと第四ブロック13dと第五ブロック13eと第六ブロック13fとを備えている。
【0061】
第一ブロック13aは、後述する(30)式に従って、固定子磁束指令値λs_optに基づいて、上限トルク指令値Te_maxを算出する。(30)式は、予め定めた上限トルク指令値算出用の第一演算式である。(30)式における平方根の中の数式を展開することで、固定子磁束指令値λs_optの二次項(λs_opt)2および一次項(λs_opt)を含む二次多項式が導出される。
【0062】
【0063】
第三ブロック13cは、後述する(34)式に従って、境界速度ωe_cを算出する。境界速度ωe_cは、弱め界磁開始点よりも高速側に予め定められる速度であり、(34)式で決定される。弱め界磁開始点は、例えば電動機定格速度としていてもよい。
【0064】
第四ブロック13dは、電源角周波数ωeと境界速度ωe_cとに基づいて、速度領域の判定を実施する。速度領域は、通常運転領域と、領域Iと、領域IIとに区別される。領域Iは、境界速度ωe_cと弱め界磁開始点との間の領域である。領域IIは、境界速度ωe_cよりも高速側の領域である。
【0065】
具体的には、第四ブロック13dは、電源角周波数ωeに応じて次のように速度領域を判定する。弱め界磁開始速度をωbaseと定義する。ωe<ωbaseであれば、通常運転領域と判定される。ωbase≦ωe<ωe_cであれば、領域I(第一の弱め界磁領域)と判定される。ωe_c≦ωeであれば、領域II(第二の弱め界磁領域)と判定される。第四ブロック13dは、現在の速度が通常運転領域および領域Iである場合には、0を出力する。第四ブロック13dは、現在の速度が領域IIである場合には、1を出力する。
【0066】
第五ブロック13eは、第四ブロック13dの出力が0である場合には、第一ブロック13aの出力した上限トルク指令値Te_maxを選択する。第五ブロック13eは、第四ブロック13dの出力が1である場合には、第二ブロック13bの出力した上限トルク指令値Te_maxを選択する。第五ブロック13eは、選択した上限トルク指令値Te_maxを第六ブロック13fへと伝達する。
【0067】
第六ブロック13fは、第五ブロック13eから伝達された上限トルク指令値Te_maxを用いて、トルクリミッタ範囲を決定する。トルクリミッタ範囲は、上限リミッタトルク値(+Te_max)と、下限リミッタトルク値(-Te_max)とで決まる範囲である。上限リミッタトルク値には、上限トルク指令値Te_maxが適用される。下限リミッタトルク値は、上限リミッタトルク値に負の係数マイナス1を掛けた値である。なお、この負の係数は、予め定められた値であり、マイナス1以外の値であってもよい。また、この負の係数の代わりに、ゼロを上限リミッタトルク値に掛けることで、下限リミッタトルク値をゼロに設定してもよい。
【0068】
第六ブロック13fは、第一トルク指令値T*
em1がトルクリミッタ範囲内であるときには、第一トルク指令値T*
em1の値をそのまま第二トルク指令値T*
emに代入する。第六ブロック13fは、第一トルク指令値T*
em1が上限リミッタトルク値(+Te_max)よりも大きい場合には、上限リミッタトルク値(+Te_max)を第二トルク指令値T*
emに代入する。第六ブロック13fは、第一トルク指令値T*
em1が下限リミッタトルク値(-Te_max)よりも小さい場合には、下限リミッタトルク値(-Te_max)を第二トルク指令値T*
emに代入する。
【0069】
つまり、第六ブロック13fは、トルクリミッタ範囲内のトルク指令値のみを通過させるフィルタとしての機能を果たす。これにより、第六ブロック13fは、第二トルク指令値T*
emを生成することができる。第二トルク指令値T*
emは、第一トルク指令値T*
em1がトルクリミッタ範囲内に制限されるような修正を第一トルク指令値T*
em1に施した値である。
【0070】
適正磁束指令生成部18は、第一ブロック18aと第二ブロック18bとを備えている。適正磁束指令生成部18は、電源角周波数ωeに応じた固定子磁束指令値λs_optを生成する。
【0071】
第一ブロック18aは、後述する(29)式に従って、固定子磁束指令値λs_optを算出する。第一ブロック18aは、固定子電圧の最大値Vsmaxを電源角周波数ωeで除算した値を算出する。
【0072】
第二ブロック18bは、第一ブロック18aが算出した固定子磁束指令値λs_optを一定範囲に制限する。第二ブロック18bは、予め定められた上リミッタ磁束値を用いて、固定子磁束指令値λs_optを上リミッタ磁束値以下に制限する。上リミッタ磁束値は、実施の形態では、電動機のパラメータの一つである定格磁束であってもよい。
【0073】
【0074】
【0075】
[実施の形態1の装置の動作]
DB-DTFC制御での弱め界磁領域において、出力トルクを増加するための理論を説明する。まず任意の座標系における誘導機の方程式を(1)~(4)式に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
誘導機の同期座標系(電源周波数と同期)における固定子側電圧方程式は(5)式で表すことができる。
【0081】
【0082】
定常状態では微分項を省略して考えることができるため、(5)式は(6)式となる。
【0083】
【0084】
高速域では電源角周波数ωeの項が支配的となるため、最終的には(7)式となる。
【0085】
【0086】
(7)式から明らかであるように、速度をあげていくと電圧上限に達する。この場合、磁束を減少させることで、ωeを増加させることができる。これが弱め界磁である。
【0087】
実施の形態における特徴の一つは、高周波領域での出力トルクの増大を達成する固定子磁束指令を決定する方法である。
【0088】
1. 出力トルク増大手法
本願発明者が鋭意検討を行ったところ新規なトルク出力増大技術が見出されたので、下記にその内容を説明する。
【0089】
【0090】
(7)式はdqs軸の複素ベクトルである。この(7)式より得られる電圧制限式は(8)式で表される。
【0091】
【0092】
図4は、電圧制限を考慮した電源(動作)周波数ごとの固定子磁束軌跡を示すグラフである。電圧制限は
図4に示す円で表される。
図4の円の半径は、許容可能な固定子磁束振幅を意味する。電源(動作)角周波数ω
eが高くなるにつれ、半径(固定子磁束振幅の許容上限)も小さくなる。
図4~
図10それぞれにおいて、縦軸は、一般同期基準フレームλ
e
dsにおける固定子d軸磁束を意味している。横軸は、一般同期基準フレームλ
e
qsにおける固定子q軸磁束を意味している。
【0093】
1.1.2 インバータの許容出力電流による固定子電流の制限(電流制限)について
固定子磁束振幅には、電圧制限に加え、もう一つの制約がある。その制約は、インバータ8の許容出力電流制限および電動機2に流せる許容可能最大電流である。許容可能な最大電流Ismaxは、(9)式で表される。
【0094】
【0095】
固定子磁束を制御に用いるため、固定子電流と固定子磁束の関係式を導出する。定常状態では、回転子側の電圧方程式である(2)式は、(10)式となる。
【0096】
【0097】
(10)式をq軸成分、およびd軸成分に分けて記載すると以下の(11)式および(12)式となる。
【0098】
【0099】
【0100】
(11)式および(12)式を簡略化するため、回転子磁束を(13)式および(14)式となるように座標変換する。
【0101】
【0102】
【0103】
(12)式および(14)式より同期座標系の回転子側d軸電流は(15)式となる。
【0104】
【0105】
ここで(4)式をq軸、d軸にそれぞれ分けて再掲する。
【0106】
【0107】
【0108】
(15)式および(17)式より、d軸側の固定子電流と固定子磁束の関係式(18)を得ることができる。
【0109】
【0110】
次にq軸側の固定子電流と固定子磁束の関係式を求める。(3)式をd軸、q軸にそれぞれ分けて再掲する。
【0111】
【0112】
【0113】
(14)式および(19)式より(21)式が得られる。
【0114】
【0115】
最後に、(16)式と(21)式によってq軸側の固定子電流と固定子磁束の関係式(22)が得られる。σは記号一覧に示した漏洩係数である。
【0116】
【0117】
以上より、電流制限式(9)式にd軸側およびq軸側の電流-電圧関係式(18)式および(22)式を代入することで、最終的に得られる電流制限式は(23)式となる。
【0118】
【0119】
これを固定子磁束平面に描くと、
図5に示すような楕円となる。
図5は、電流制限を考慮した固定子磁束軌跡を示すグラフである。
【0120】
1.1.3 電圧および電流制限
図6は、電圧制限および電流制限を考慮した固定子磁束軌道を示すグラフである。上述したように1.1節および1.2節から、固定子磁束平面では、インバータの電圧制限が円となり、インバータの電流制限が楕円となることが示されている。これらの結果より、理論上の固定子磁束は、
図6に示す電圧制限円と電流制限楕円との共通領域斜線部内に存在する。よって、弱め界磁領域において出力トルクを増大するためには、d軸、q軸磁束指令ベクトルの組み合わせを、この斜線部内の領域から選択する必要がある。
【0121】
1.2 トルク増大を達成する固定子磁束
前節で述べたように固定子磁束指令ベクトル(d軸およびq軸)の組み合わせは、インバータの電流制限および電圧制限によって限られる。達成可能なトルクは固定子磁束指令ベクトルによって異なる。そこで、本節ではトルク増大を達成する固定子磁束を導出する。
【0122】
1.2.1 トルク式(固定子磁束のみの表現)
トルク式は(24)式のように表される。トルクを固定子磁束のdqs軸平面に描写するため、これを固定子磁束のみで表現する。
【0123】
【0124】
(15)式、(18)式、および(20)式より(25)式が得られる。
【0125】
【0126】
(14)式、(24)式、および(25)式によって、固定子磁束のみで表現したトルク式(26)式が得られる。
【0127】
【0128】
(26)式より、トルク一定の条件において、dqs軸磁束平面上で取りうる固定子磁束軌道は双曲線となる。
【0129】
図7は、電源周波数1.2puにおける電圧制限・電流制限とトルク曲線とを示すグラフである。
図7には、一例として、電源周波数1.2puでの電圧制限・電流制限とともに、大きさの異なる3つのトルク曲線が描かれている。
【0130】
電源周波数が1.2puの場合、TL=1.0puでは電圧・電流制限を満たす固定子磁束の組み合わせは無数にある。しかしTL=1.7puでは1つのみである。これが理論上達成できる最大トルクとなる。TL=2.3puでは両方を満足できないため、このトルクは達成不可能である。
【0131】
また電源周波数が高くなればなるほど電圧制限円の半径が縮小する。これにより、電流制限楕円と電圧制限円との共通領域にトルクカーブが存在しなくなる。トルクカーブと電圧制限円との接点がトルク最大達成点となる。後述するがこれが領域Iから領域IIへの移行点となる。
【0132】
つまり固定子磁束の制約は、特定の領域では、電流制限および電圧制限という2つの制約である。これに対し、他の領域では、固定子磁束の制約が、電圧制限という一つの制約のみになる。このような制約の違いがあるので、それぞれの領域において磁束指令を考える必要がある。
【0133】
上述した2つの弱め界磁領域を、領域Iおよび領域IIとも称す。領域I、領域II、およびこれらの境界点について、説明する。用語の説明を兼ねて、各領域と速度の関係を下記に示す。
【0134】
ωe<ωbase : 通常運転領域
ωbase≦ωe<ωe_c: 領域I(第一の弱め界磁領域)
ωe_c≦ωe : 領域II(第二の弱め界磁領域)
ωe_c : 領域Iと領域IIの境界速度
ωbase : 弱め界磁開始速度
【0135】
【0136】
弱め界磁開始点ωbaseは固定子電圧と定格磁束とにより求まる。なお、実施の形態1では、弱め界磁は電圧飽和時に自動開始するものとする。
【0137】
1.2.2 領域Iにおける固定子磁束(ω
base<ω
e<ω
e_c)
図8は、領域Iでの異なる電源角周波数における電圧・電流制限を考慮した最大トルク曲線を示すグラフである。領域Iは、電源(動作)角周波数ω
eが定格速度を越えた場合を表している。
【0138】
図8に示すように、電源角周波数(動作周波数)が高過ぎない場合は、λ
e
ds=λ
e
qsの直線より上側に電流制限楕円と電圧制限円との交点が存在する。この動作周波数帯を領域Iと定義する。
【0139】
領域Iにおいて、最大トルクを達成する固定子磁束は、電流制限楕円と電圧制限円との交点となる。
図8の動作点Aの場合は、ω
e=1.2puの場合の、動作点Bの場合はω
e=1.8puでの達成可能な最大トルクである。
【0140】
この交点を満たす固定子磁束指令ベクトルは電圧制限,電流制限により(27)式および(28)式となる。
【0141】
【0142】
【0143】
一方、固定子磁束の振幅は電圧制限の半径である(29)式によって制限される。
【0144】
【0145】
(26)式~(29)式より弱め界磁領域Iにおける最大トルクは、(30)式で求まる。
【0146】
【0147】
1.2.3 領域IIにおける固定子磁束(ωe_c<ωe)
速度が増加するにつれ、楕円と円の交点が、λe
ds=λe
qsの直線より下側に存在するようになり、さらに速度が増加すると交点が存在しなくなる。これらの現象が起きる動作周波数帯を領域IIと定義する。
【0148】
この領域Iと領域IIの境界速度条件を
図9に示す。
図9は、領域Iと領域IIの境界速度条件を表すグラフである。境界速度ω
e_cは以下の(31)~(33)式より求められる。
ここで、固定子磁束、λ
e
qds_cのうち、境界速度条件での固定子磁束におけるq軸成分をλ
e
qs_cと表し、d軸成分をλ
e
ds_cと表している。
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
最終的に得られる境界速度ωe_cは(34)式となる。
【0153】
【0154】
図10は、領域IIでの異なる電源角周波数における電圧制限および電流制限を考慮した最大トルク曲線を示すグラフである。異なる動作速度においてそれぞれ達成可能な最大トルクは
図10の点C、点Dそれぞれとなる。領域IIで最大トルクを達成する固定子磁束指令ベクトルは(35)式より得られる。
【0155】
【0156】
固定子磁束指令値振幅は、領域Iと同様に、(29)式によって制限される。弱め界磁領域IIにおいて達成可能な最大トルクは、(36)式で表される。(36)式は、(26)式、(29)式、および(35)式から導出される。
【0157】
【0158】
領域Iと領域IIで異なる点の一つは、領域IIで達成可能な最大トルク条件により、常に電流が電流制限(上限)より低いことである。結論としては、最大トルクを達成する固定子磁束振幅は、領域Iおよび領域IIの両方で電圧制限円の半径により決定される。
【0159】
1.2.4 トルク増加の制御ブロック
前述した制御の全体像が、
図1~
図3に示されている。固定子磁束指令は、適正磁束指令生成部18の内部の第一ブロック18aにおいて電源周波数と固定子電圧に基づいて(29)式に従って生成される。
【0160】
ただし、第二ブロック18bにより固定子磁束指令値の上限には一定の制限が設けられる。達成可能なトルク指令は、この固定子磁束指令を用いて、トルク指令リミット部13の内部で(30)式および(36)式に従って計算される。前述のように弱め界磁領域Iと弱め界磁領域IIでそれぞれ達成可能なトルクは異なる。
【0161】
以上で説明した実施の形態1によれば、次のような動作が実現される。
【0162】
適正磁束指令生成部18の第一ブロック18aによれば、電源角周波数ωeが大きくなるほど固定子磁束指令値λs_optが小さく算出される。
【0163】
なお、第二ブロック18bによれば、電源角周波数ωeが小さい低速域においては固定子磁束指令値λs_optが定格磁束(λrate)で一定値にリミットされる。しかし、電源角周波数ωeが大きい高速域においては第二ブロック18bの制限はかからない。少なくとも弱め界磁開始点以上の速度領域では、第二ブロック18bの制限はかからない。第二ブロック18bの制限がかからないので、電源角周波数ωeが大きくなるほど固定子磁束指令値λs_optが小さく算出される。
【0164】
(30)式および(36)式からわかるように、固定子磁束指令値λs_optが小さいほど、上限トルク指令値Te_maxが小さく算出される。上限トルク指令値Te_maxが小さいほど、上限リミッタトルク値(+Te_max)と下限リミッタトルク値(-Te_max)との間の幅は小さくなる。
【0165】
トルク指令リミット部13は、ある程度高速の領域においては、電源角周波数ωeが大きくなるほど上限トルク指令値Te_maxを小さく算出することができる。上限トルク指令値Te_maxが小さく算出されると、上限リミッタトルク値(+Te_max)と下限リミッタトルク値(-Te_max)との間の幅が狭く設定される。
【0166】
このような動作によって、少なくとも弱め界磁領域I、IIにおいて、電源角周波数ωeが増大するほどトルクリミッタ範囲を狭く設定することができる。電源角周波数ωeが増大するほど、制御安定性を保つことのできる許容トルク範囲が狭くなる傾向がある。実施の形態1によれば、このような傾向に合わせてトルクリミッタ範囲が動的に調節される。
【0167】
トルク指令値は適正範囲に調節されたトルクリミッタ範囲内でのみ変化するので、制御安定性を損なわずにトルク増加を行うことができる。その結果、弱め界磁領域で電動機を高速運転するときに、制御安定性と出力トルク増大とを両立することができる。
【0168】
また、実施の形態1では、境界速度ωe_cよりも低い速度では、第一ブロック13aの(30)式が適用される。固定子磁束指令値λs_optの二次多項式に従って適切な傾向で上限トルク指令値Te_maxを変化させることができる。
【0169】
また、実施の形態1では、境界速度ωe_c以上の速度では、第二ブロック13b(36)式が適用される。固定子磁束指令値の二次項(λs_opt)2の単項式に従って、(30)式とは異なる傾向で、適切に上限トルク指令値Te_maxを変化させることができる。
【0170】
これにより、弱め界磁領域I、IIそれぞれにおいて、上限トルク指令値Te_maxを適切な傾向で変化させることができる。
【0171】
また、実施の形態では、トルク指令リミット部13が第五ブロック13eを含んでいる。このため、電源角周波数ωeに応じて、第一ブロック13aで算出した上限トルク指令値Te_maxと第二ブロック13bで算出した上限トルク指令値Te_maxとを選択的に切り替えることができる。
【0172】
また、実施の形態1では、第四ブロック13dが設けられている。このため、領域Iと通常運転領域の両方において第一ブロック13aつまり(30)式を適用するように構築されている。これにより、通常運転領域から弱め界磁領域にわたって、上限トルク指令値Te_maxの算出をシームレスに行うことができる。
【0173】
また、実施の形態1では、適正磁束指令生成部18が第二ブロック18bを含む。電源角周波数ωeが小さい低速域において(29)式が適用されると、固定子磁束指令値λs_optが過度に大きく算出されてしまう。第二ブロック18bは、上限リミッタをかけることで、固定子磁束指令値λs_optが大きくなりすぎることを防止できる。
【0174】
次に、
図20を用いて、制御装置11の例を説明する。
図20はこの発明の実施の形態1における電力変換装置の制御装置に適用可能なハードウェア構成図である。
図20に示すハードウェア構成は、後述する実施の形態2、3に対しても同様に適用することができる。
【0175】
図20に示されるように、制御装置11の各機能は、処理回路により実現し得る。処理回路は、プロセッサ30aとメモリ30bとを備える。
【0176】
例えば、プロセッサ30aは、中央処理装置、処理装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ又はDSPなどのCPU(Central Processing Unit)である。
【0177】
例えば、メモリ30bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDである。
【0178】
処理回路において、メモリ30bに格納されたプログラムがプロセッサ30aによって実行される。
【0179】
実施の形態2.
[実施の形態2の装置の構成]
図11は、実施の形態2における電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。実施の形態1と実施の形態2との違いを述べると、実施の形態1は速度センサ119を用いるセンサ付システムだったのに対し、実施の形態2は速度センサを用いないセンサレスシステムである。
【0180】
実施の形態2では、速度センサ119が省略されており、速度・位相推定部21が速度・位相推定部121に置換されている。また、第一すべり角周波数推定部32が第二すべり角周波数推定部33に置換されている。その他の構成要素は、実施の形態1と同様である。
【0181】
【0182】
図12は、実施の形態2にかかる電力変換装置の制御装置の一部を拡大した構成図である。
図12を用いて、電流・磁束推定部20と速度・位相推定部121とを説明する。
【0183】
図12に示されるように、電流・磁束推定部20は、電流観察部22と第一磁束推定部23と第二磁束推定部24とを備える。
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
具体的には、電流観察部22は、第一ブロック22aと第二ブロック22bと第三ブロック22cと第四ブロック22dと第五ブロック22eと第六ブロック22fと第七ブロック22gとを備える。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
第五ブロック22eは、電圧指令値VS*
qdsと第二ブロック22bにより演算された値と第三ブロック22cにより演算された値と第四ブロック22dにより演算された値とを足し合わせた値を演算する。
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
具体的には、第一磁束推定部23は、第一ブロック23aと第二ブロック23bと第三ブロック23cとを備える。
【0200】
【0201】
第一ブロック23aの出力は、第二ブロック23bの入力である。
【0202】
第二ブロック23bは、第一ブロック23aにより演算された値と次の(39)式で表される伝達関数G3とを乗じることにより一次ホールドの固定子dqs軸磁束推定値を演算する。
【0203】
【0204】
第二ブロック23bの出力は、第三ブロック23cの入力である。
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
具体的には、第二磁束推定部24は、第一ブロック24aと第二ブロック24bと第三ブロック24cと第四ブロック24dと第五ブロック24eと第六ブロック24fと第七ブロック24gと第八ブロック24hと第九ブロック24iと第十ブロック24jを備える。
【0209】
【0210】
【0211】
第三ブロック24cは、第一ブロック24aにより演算された値を電圧指令値VS*
qdsから差し引いた値を演算する。
【0212】
第四ブロック24dと第五ブロック24eと第六ブロック24fとは、遷移周波数決定部24kとして機能する。遷移周波数決定部24kは、第一磁束推定部23と第二磁束推定部24との間の遷移周波数を決定する。
【0213】
具体的には、第四ブロック24dは、第二ブロック24bにより演算された値と比例ゲインK1とを乗じた値を演算する。
【0214】
第五ブロック24eは、ゲインK2の積分回路である。第五ブロック24eは、第二ブロック24bの出力の積分値を演算する。
【0215】
第六ブロック24fは、第三ブロック24cにより演算された値と第四ブロック24dにより演算された値と第五ブロック24eにより演算された値とを足し合わせることにより電動機2の入力電圧の値を演算する。
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
例えば、電動機2の回転子磁束の周波数が遷移周波数よりも低い場合、第一磁束推定部23が支配的となる。例えば、電動機2の回転子磁束の制御周波数が遷移周波数よりも高い場合、第二磁束推定部24が支配的となる。その結果、固定子dqs軸磁束推定値が正確に演算される。
【0223】
速度・位相推定部121は、位相推定部25とすべり角度推定部26と磁束ベクトル回転部27と位相誤差推定部28と速度・位置観察部29とを備える。
【0224】
【0225】
具体的には、位相推定部25は、次の(42)式を用いて、電源位相の推定値ejθeを演算する。
【0226】
【0227】
【0228】
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
具体的には、速度/位置観察部29は、第一ブロック29aと第二ブロック29bと第三ブロック29cと第四ブロック29dと第五ブロック29eと第六ブロック29fと第七ブロック29gと第八ブロック29hと第九ブロック29iと第十ブロック29jと第十一ブロック29kとを備える。
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
第四ブロック29dは、第一ブロック29aにより演算された値と第二ブロック29bにより演算された値とを足し合わせた値を演算する。
【0237】
【0238】
【0239】
【0240】
【0241】
【0242】
【0243】
[実施の形態2の装置の動作]
1.セルフセンシングにおける弱め界磁領域拡大
実施の形態2のシステムは、速度センサを用いないセンサレスシステムであるとともに、システム内の各種パラメータを用いて速度などを推定する自己推定機能を有する。この自己推定機能を、「セルフセンシング」とも称する。
【0244】
実施の形態1で前述したように、弱め界磁領域において固定子磁束指令ベクトルの組み合わせを選択することによって、出力トルクを増加することができる。これにより負荷トルクが大きい場合でも高速運転が可能となり、結果として弱め界磁領域の拡大に繋がる。セルフセンシングでの弱め界磁領域拡大に関連した検討について本節で説明する。
【0245】
図11および
図12に示す実施の形態2のシステムでは、第1磁束推定部と第2磁束推定部により磁束オブザーバが構成されている。電流・磁束推定部20の磁束オブザーバ機能を用いて、速度・位相推定部121が速度推定を行う。この磁束オブザーバ機能を用いた速度推定は、固定子磁束推定値と回転子磁束推定値とのうち一方の値を用いて行うことができる。
【0246】
更に速度・位相推定部121の入力としてすべり角周波数もある。このすべり角周波数の推定も、固定子磁束推定値と回転子磁束推定値との一方の値を用いて行うことができる。つまり、速度推定とすべり角周波数推定に用いる入力値として、固定子磁束推定値と回転子磁束推定値とのいずれかを選ぶ選択肢がある。
【0247】
図12の速度・位相推定部121における速度/位置観察部29は、モーションオブザーバと等価である。
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
2.ローパスフィルタ効果
固定子磁束に比べ、回転子磁束のほうがノイズの少ない磁束が得られる。回転子磁束は、PWMによる電圧に含まれる高周波成分の影響が少ないからである。この点について、固定子磁束式である(45)式と、回転子磁束式である(46)式とを用いて説明する。
【0252】
【0253】
【0254】
固定子磁束は、(45)式から分かるように電圧が入力となっている。従って、PWMに基づく電圧の高周波成分が直接影響する。一方、回転子磁束はフィルタによりこの影響が軽減される。このフィルタ作用について説明する。
【0255】
(46)式をラプラス変換し、右辺の固定子磁束および回転子磁束の係数をそれぞれA、Bと置いて数式を変形していく。
【0256】
【0257】
【0258】
【0259】
【0260】
最終的に、下記の(47)式が導出される。
【0261】
【0262】
(47)式から明らかなように、回転子磁束は固定子磁束にローパスフィルタを通したことと等価である。回転子磁束は固定子磁束に基づいて求まる値であり、固定子磁束は電圧高周波成分の影響を受ける。しかしながら、回転子磁束では、上記のローパスフィルタ効果により電圧ノイズの影響が軽減される。
【0263】
弱め界磁で磁束振幅が小さくなる場合、S/N比が悪化する。これに加えて固定子磁束を位相推定に用いたセルフセンシングの場合、回転子磁束の場合と比較して制御不安定になりやすい。固定子磁束は、電圧高周波成分の影響を直接受けるからである。
【0264】
図12に示す第二磁束推定部24のうち、特に第八ブロック24hと第九ブロック24iと第十ブロック24jとによって、上記のローパスフィルタ効果が得られる。
【0265】
3.試験結果
図13~
図15は、実施の形態2における弱め界磁の試験結果の一例を示す図である。速度指令を0.1puから2.0puまで上昇させた時の応答が示されている。何れの図も横軸は時間軸である。
【0266】
【0267】
推定トルクは、固定子磁束推定値と回転子磁束推定値との積から求められている。
図13に示すように、電動機2が安定に2.0puの速度まで加速している。また、
図14により、加速中は電動機2の推定トルクはトルクリミット値と等しいが、加速が終了すると電動機2の推定トルクはトルクリミット値より小さくなっている。
【0268】
この性能は、それぞれのオブザーバの内部比例積分ゲインで求まるバンド幅に依存する。このバンド幅を比較的低めに抑えることで、高周波帯ノイズ成分が推定速度に含まれないようにすることができる。
【0269】
弱め界磁運転では、推定速度に含まれるノイズを抑制するために、速度・位相推定部121のバンド幅を比較的低めに設定することが好ましい。セルフセンシングのための速度(位相)は、電流、電圧、磁束など様々な波形から求めることができる。
【0270】
以上で説明した実施の形態2には、少なくとも二つの特徴的構成が含まれている。
【0271】
第一特徴的構成は、速度・位相推定部121を設けたことである。これにより、実施の形態1にかかるシステムと同様のシステムをセンサレスで実現できる。センサレスとすることで、実施の形態1で得られた弱め界磁領域におけるトルクリミット調節などの技術的メリットを得つつ、速度センサを省略することができる。
【0272】
【0273】
[実施の形態2の変形例]
図16は、実施の形態2の変形例にかかる電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
図16に示す変形例では、速度・位相推定部121と電流・磁束推定部20との間に、切替ブロック122が設けられている。さらに、
図16に示す変形例では、第一すべり角周波数推定部32と第二すべり角周波数推定部33とこれらに接続された切替ブロック123とが設けられている。
【0274】
【0275】
【0276】
【0277】
【0278】
【0279】
この
図17の変形例では、前述した「回転子磁束による速度推定値の演算精度向上およびセンサレス弱め界磁領域拡大」という効果は得られない。しかしながら、その効果が得られなくとも、
図17に示す変形例は、「実施の形態1と同様のトルク増加」および「センサレスシステムなので速度センサが不要」という利点を持っている。
【0280】
なお、実施の形態2にかかる制御装置11も、
図20のハードウェア構成図に示された構造を用いて実現することができる。
【0281】
図21は、磁束を減じていった際の相対RMSノイズを表すグラフである。
図21に示すように、磁束を減じていけばいくほど、推定速度に含まれる相対的なRMS誤差が増えている。これは回転子速度が増加するにつれ、磁束振幅は小さくなっていくもののPWM高調波および電流測定ノイズなどの振幅が一定であるからである。
【0282】
【0283】
低い振幅磁束(つまり高速域)でのノイズの影響を抑えることが好ましい。そのためには、
図3、
図12、および
図17に示した速度・位相推定部21、121において回転子磁束ベース速度推定を行うときに、制御器ゲインbo、Kso、Kioを低く設定することが好ましい。
【0284】
図12および
図17においてboは、第三ブロック29cのゲインである。Ksoは、第二ブロック29bのゲインである。Kioは、第一ブロック29aのゲインである。制御器ゲインbo、Kso、Kioが、フィルタのような役割を果たす。
【0285】
制御器ゲインbo、Kso、Kioを低くすることは、フィルタのカットオフ周波数を下げることと等価である。これにより、オブザーバの回転子磁束入力に含まれる高周波成分のノイズを抑制することができる。
【0286】
実施の形態3.
図18は、実施の形態3における電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
図18に記載の実施の形態3にかかる電動機システムでは、実施の形態1、2で設けられていたトルク指令リミット部13と適正磁束指令生成部18と電源角周波数算出部19とが省略されている。これ以外の点は、実施の形態2と同様である。
【0287】
これらの構成の省略に伴い、
図18では、DB-DTFC演算部14に入力される値が変更される。まず、第二トルク指令値T
*
emではなく、速度制御部12で演算した第一トルク指令値T
*
em1がDB-DTFC演算部14に入力される。また、適正磁束指令生成部18で生成した固定子磁束指令値λ
s_optではなく、定格固定子磁束λ
rateがDB-DTFC演算部14に入力される。
【0288】
実施の形態3では、トルク指令リミット部13などが省略されたので、実施の形態1よりも「より広い周波数領域において高出力で運転する」という利点は制限される。
【0289】
【0290】
[実施の形態3の変形例]
図19は、実施の形態3の変形例にかかる電力変換装置の制御装置が適用される電動機システムの構成図である。
【0291】
図18では電圧指令値を生成するためにPI電流制御器を用いないデッドビート直接トルク&磁束制御(DB-DTFC)方式を用いている。
しかし実施の形態3で開示された構成は、DB-DTFC方式のみならず、磁界方向制御(Field Oriented Control)方式にも適用することができる。磁界方向制御方式を、以降はFOC方式とも称す。
【0292】
FOC方式とは、トルク(回転力)を発生する電流成分と磁束を発生する電流成分とを互いに分解し、それぞれの電流成分を直流量として独立に制御する方式である。
【0293】
FOC方式の一つは、DFOC(Direct Field Oriented Control)方式である。DFOC方式は、磁束ベクトルを磁束センサあるいは磁束オブザーバにて直接推定して制御する方式である。
図19は、実施の形態3における電力変換装置の制御装置が適用されるDFOC制御を適用した際の電動機システムの構成図である。
【0294】
FOC方式の他の一つは、IFOC(Indirect Field Oriented Control)方式である。IFOC方式は、磁束推定あるいは検出によらず誘導機のすべりを制御する間接型ベクトル制御(滑り周波数型ベクトル制御とも呼ぶ)を用いる方式である。
【0295】
図19の変形例では、DB-DTFC演算部14に変えてDFOC演算部314が設けられている。第1座標変換部15に変えて第五座標変換部15aが設けられている。
【0296】
制御装置11は、第三座標変換部17aと第四座標変換部17bとを備えている。第三座標変換部17aには、v相固定子電流Ivsとw相固定子電流Iwsとが入力される。第四座標変換部17bには、第五座標変換部15aの出力である三相固定子電圧指令値V*
us、V*
vs、V*
wsが入力される。
【0297】
【0298】
【0299】
基準信号の位相を適切に選択することにより、γ成分を基準と同相成分、δ成分を基準と直交する成分とすることができる。第三座標変換部17aは、座標変換したγ軸固定子電流iγとδ軸固定子電流iδをDFOC演算部314に入力する。
【0300】
第五座標変換部15aは、上記とは逆に、DFOC演算部314からの出力であるγ成分の電圧指令値V*
γとδ成分の電圧指令値V*
δとを固定座標系の三相固定子電圧指令値V*
us、V*
vs、V*
wsに変換する。第五座標変換部15aの出力は、PWM制御部16と第四座標変換部17bとに入力される。
【0301】
第四座標変換部17bは、入力された固定座標系の三相固定子電圧指令値V*
us、V*
vs、V*
wsをdqs軸の2軸成分の電圧指令値VS*
qdsとして変換する。第四座標変換部17bで変換された値は、電流・磁束推定部20に入力される。
【0302】
【0303】
実施の形態3変形例ではトルク指令リミット部13などが省略されたので、実施の形態1よりも「より広い周波数領域において高出力で運転する」という利点は制限される。
【0304】
【0305】
尚、
図19ではDB―DTFC演算部14がDFOC演算部314で置き換えられているが、同様にDB―DTFC演算部14がFOC演算部あるいはIFOC演算部に置き換えられてもよい。
【0306】
なお、実施の形態3およびその変形例にかかる制御装置11も、
図20のハードウェア構成図に示された構造を用いて実現することができる。
【符号の説明】
【0307】
1 電動機システム、2 電動機、3 電動機駆動システム、4 負荷機械、5 交流電源、6 ダイオード整流器、7 コンデンサ、8 インバータ、9a 第一電流検出器、9b 第二電流検出器、11 制御装置、12 速度制御部、13 トルク指令リミット部、14 DB-DTFC演算部、15 第一座標変換部、15a 第五座標変換部、16 PWM制御部、17 第二座標変換部、17a 第三座標変換部、17b 第四座標変換部、18 適正磁束指令生成部、19 電源角周波数算出部、20 電流・磁束推定部、21、121 速度・位相推定部、22 電流観察部、23 第一磁束推定部、24 第二磁束推定部、25 位相推定部、26 すべり角度推定部、27 磁束ベクトル回転部、28 位相誤差推定部、29 速度・位置観察部、30a プロセッサ、30b メモリ、32 第一すべり角周波数推定部、33 第二すべり角周波数推定部、119 速度センサ、122、123 切替ブロック、314 DFOC演算部、ωbase 弱め界磁開始点、ωe 電源角周波数、ωe_c 境界速度