(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】面ファスナーおよび寝具カバー
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20230428BHJP
A47G 9/02 20060101ALI20230428BHJP
A47G 9/10 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A44B18/00
A47G9/02 M
A47G9/10 W
(21)【出願番号】P 2019014451
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】505290531
【氏名又は名称】株式会社エアウィーヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【氏名又は名称】山本 英生
(72)【発明者】
【氏名】高尾 直幹
(72)【発明者】
【氏名】青野 三喜雄
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-285144(JP,A)
【文献】特開2009-112781(JP,A)
【文献】特開2004-313223(JP,A)
【文献】特開2016-202255(JP,A)
【文献】特開2012-090768(JP,A)
【文献】国際公開第2008/007803(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
A47G 9/02
A47G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ繊維層を有する第1生布と、フック繊維層を有する第2生布とを有する面ファスナーであって、
前記ループ繊維層は、第1の仮撚捲縮パイル糸により形成された複数のループ繊維で構成されており、
前記フック繊維層は、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成された複数のフック繊維で構成されており、
第1の仮撚捲縮パイル糸は、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下の樹脂繊維の束が、仮撚係数が20,000
以上32,000
以下、仮撚加工温度が180℃以上230℃以下、および、仮撚延伸倍率が1.2以上1.8以下の条件で仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸であり、
第2の仮撚捲縮パイル糸は、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下の樹脂繊維の束が、仮撚係数が20,000
以上32,000
以下、仮撚加工温度が180℃以上230℃以下、および、仮撚延伸倍率が1.2以上1.8以下の条件で仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸であり、
前記ループ繊維と前記フック繊維が係合することにより、第1生布と第2生布が接合することを特徴とする面ファスナー。
【請求項2】
第1の仮撚捲縮パイル糸および第2の仮撚捲縮パイル糸は、ポリエステル繊維の束が仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸であり、
前記フック繊維は、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成されたループの頂点近傍がカットされたものであることを特徴とする請求項1に記載の面ファスナー。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の面ファスナー、寝具の外周面に固定されるインナーカバー、およびアウターカバーを有する寝具カバーであって、
前記インナーカバーおよび前記アウターカバーの一方には前記面ファスナーの第1生布が、他方には前記面ファスナーの第2生布がそれぞれ設けられ、
第1生布と第2生布が接合することにより、前記アウターカバーが前記インナーカバーの上面に固定されることを特徴とする寝具カバー。
【請求項4】
寝具の外周面に巻き付けられる寝具カバーであって、
前記巻き付けられた状態において対向するように、請求項1または請求項2に記載の面ファスナーの第1生布と第2生布が設けられ、
第1生布と第2生布が接合することにより、前記巻き付けられた状態に固定されることを特徴とする寝具カバー。
【請求項5】
ループ繊維層を有する第1生布とフック繊維層を有する第2生布とを有する面ファスナーの製造方法であって、
単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下の樹脂繊維の束を、仮撚係数が20,000
以上32,000
以下、仮撚加工温度が180℃以上230℃以下、および、仮撚延伸倍率が1.2以上1.8以下の条件で仮撚加工することにより、無撚りの第1の仮撚捲縮パイル糸を得る第1工程と、
第1の仮撚捲縮パイル糸を用いて複数のループ繊維を形成することにより、前記ループ繊維層を形成する第2工程と、
単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下の樹脂繊維の束を、仮撚係数が20,000
以上32,000
以下、仮撚加工温度が180℃以上230℃以下、および、仮撚延伸倍率が1.2以上1.8以下の条件で仮撚加工することにより、無撚りの第2の仮撚捲縮パイル糸を得る第3工程と、
第2の仮撚捲縮パイル糸を用いて複数のフック繊維を形成することにより、前記フック繊維層を形成する第4工程と、を含み、
第4工程において、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成されたループの頂点近傍がカットされることにより、前記フック繊維が形成されることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面ファスナーおよびこれを用いた寝具カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ファスナーを用いて上下のカバー等を接合可能とした寝具カバーが提案されている。例えば特許文献1には、上面カバーの外縁部と下面カバーの外縁部にファスナーを設けることによって、上面カバーと下面カバーをファスナーで接合できるようにした寝具カバーが開示されている。
【0003】
しかし当該寝具カバーによれば、ファスナーの開け閉めによって上面カバーと下面カバーの取り付けや取り外しが可能になるものの、外縁部一周に設けられているファスナーの開け閉めに時間がかかるという欠点があった。これに対して特許文献2には、上面カバーと下面カバーの辺縁近傍にそれぞれファスナーテープ(面ファスナー)を設けて、上面カバーと下面カバーを面ファスナーで接合する寝具カバーが開示されている。
【0004】
一方、特許文献3には、単繊維径が700nm(単糸繊度:約0.005dtex)の編物組織を有する生布aと、シャーリング加工(パイル糸の先端部をカット)された単糸繊維繊度が4.5dtex(直径:約20.4μm)の立毛部と地組織部とで構成される立毛生布bからなる面ファスナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-276867号公報
【文献】特開2012-90768号公報
【文献】特許第5692958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている寝具カバーに使用されるファスナーテープとして、従来の剛直なフック状の突起を有する面ファスナーを用いると、寝具カバーを洗濯機を使って洗濯した場合に寝具カバーの生地が傷みやすい(毛羽立ちやすい)といった課題があった。
【0007】
一方、特許文献3に記載されている面ファスナーにおいては、単繊維径が1μm以下の極細繊維を用いていることから、繊維が切れやすく、毛羽立ちやすいといった課題があった。また当該面ファスナーは、摩擦抵抗が高いために生地が引っかかりやすく、これを用いた寝具カバーにおいては、寝具の上に寝具カバーをセットする際に皺が発生しやすいなど、寝具カバーをスムーズにセットしにくいといった課題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、生地の引っかかりを抑えつつ、洗濯時の生地の傷みを低減できるとともに、高い接合力を得ることが可能となる面ファスナーおよびその製造方法、ならびにこれを用いた寝具カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る面ファスナーは、ループ繊維層を有する第1生布と、フック繊維層を有する第2生布とを有する面ファスナーであって、前記ループ繊維層は、第1の仮撚捲縮パイル糸により形成された複数のループ繊維で構成されており、前記フック繊維層は、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成された複数のフック繊維で構成されており、第1の仮撚捲縮パイル糸は、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下の樹脂繊維の束が、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸であり、第2の仮撚捲縮パイル糸は、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下の樹脂繊維の束が、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸であり、前記ループ繊維と前記フック繊維が係合することにより、第1生布と第2生布が接合する構成とする。
【0010】
本構成によれば、生地の引っかかりを抑えつつ、洗濯時の生地の傷みを低減できるとともに、高い接合力を得ることが可能となる。また上記構成としてより具体的には、第1の仮撚捲縮パイル糸および第2の仮撚捲縮パイル糸は、ポリエステル繊維の束が仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸であり、前記フック繊維は、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成されたループの頂点近傍がカットされたものである構成としてもよい。
【0011】
また本発明に係る寝具カバーは、上記構成の面ファスナー、寝具の外周面に固定されるインナーカバー、およびアウターカバーを有する寝具カバーであって、前記インナーカバーおよび前記アウターカバーの一方には前記面ファスナーの第1生布が、他方には前記面ファスナーの第2生布がそれぞれ設けられ、第1生布と第2生布が接合することにより、前記アウターカバーが前記インナーカバーの上面に固定される構成とする。本構成によれば、上記構成の面ファスナーの利点を享受することが可能となる。
【0012】
また本発明に係る寝具カバーは、寝具の外周面に巻き付けられる寝具カバーであって、前記巻き付けられた状態において対向するように、上記構成の面ファスナーの第1生布と第2生布が設けられ、第1生布と第2生布が接合することにより、前記巻き付けられた状態に固定される構成とする。本構成によれば、上記構成の面ファスナーの利点を享受することが可能となる。
【0013】
また本発明に係る製造方法は、ループ繊維層を有する第1生布とフック繊維層を有する第2生布とを有する面ファスナーの製造方法であって、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下の樹脂繊維の束を、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工することにより、無撚りの第1の仮撚捲縮パイル糸を得る第1工程と、第1の仮撚捲縮パイル糸を用いて複数のループ繊維を形成することにより、前記ループ繊維層を形成する第2工程と、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下の樹脂繊維の束を、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工することにより、無撚りの第2の仮撚捲縮パイル糸を得る第3工程と、第2の仮撚捲縮パイル糸を用いて複数のフック繊維を形成することにより、前記フック繊維層を形成する第4工程と、を含み、第4工程において、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成されたループの頂点近傍がカットされることにより、前記フック繊維が形成される方法とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る面ファスナーによれば、生地の引っかかりを抑えつつ、洗濯時の生地の傷みを低減できるとともに、高い接合力を得ることが可能となる。また本発明に係る寝具カバーによれば、本発明に係る面ファスナーの利点を享受することが可能となる。また本発明に係る製造方法によれば、本発明に係る面ファスナーを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本実施形態に係る寝具カバー(マットレスカバー)の斜視図である。
【
図1B】当該寝具カバーの他の視点による斜視図である。
【
図2】本実施形態に係るインナーカバーに関する説明図である。
【
図3】マットレスが収容された状態の当該インナーカバーの斜視図である
【
図4】本実施形態に係るアウターカバーの斜視図である。
【
図5A】第1生布に係るパイル糸の繊維の特徴形状に関する説明図である。
【
図5B】第1生布に係るグランド糸の編み方に関する説明図である。
【
図5C】第1生布に係るパイル糸の編み方に関する説明図である。
【
図6A】第2生布に係るパイル糸の繊維の特徴形状に関する説明図である。
【
図6B】第2生布に係るグランド糸の編み方に関する説明図である。
【
図6C】第2生布に係るグランド糸の編み方に関する説明図である。
【
図7A】接合状態における第1生布と第2生布の断面写真である。
【
図8A】本実施形態に係る寝具カバー(枕カバー)を用いた枕の斜視図である。
【
図9A】接合力測定装置を用いた評価の手順に関する説明図である。
【
図9B】接合力測定装置を用いた評価の手順に関する説明図である。
【
図9C】接合力測定装置を用いた評価の手順に関する説明図である。
【
図10】各実施例と各比較例の製造方法および評価結果に関する表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、各図面を参照しながら以下に説明する。なお以下の説明における上下、左右、および前後の各方向(互いに直交する方向)は、各図に示すとおりである。これらの各方向は、以下の説明を理解容易とするために便宜的に定めたものに過ぎない。
【0017】
1.面ファスナーおよび寝具カバーの構成等
図1Aは本実施形態に係る寝具カバー1(マットレスカバー)の斜視図であり、
図1Bは当該寝具カバー1の別の角度から見た場合の斜視図である。寝具カバー1は、直方体のマットレス10(
図2を参照)が収容されるインナーカバー2と、その上面に固定されるアウターカバー3を含む。なお
図1Aおよび
図1Bには、マットレス10が収容された状態の寝具カバー1が示されている。
【0018】
図2はインナーカバー2に対してクッション10が出し入れ可能である様子が示されている。また
図3は、マットレス10が収容された状態のインナーカバー2の斜視図である。インナーカバー2は上面生地21と本体部22を有している。本体部22は、左側の側面生地22a、後側の側面生地22b、右側の側面生地22c、前側の側面生地22d、および下面生地22eを有しており、上側の開口部を介してマットレス10が出し入れ自在となっている。
【0019】
インナーカバー2のサイズはマットレス10にフィットするよう設定されており、本体部22にマットレス10を収容し、更に本体部22の開口部を上面生地21で閉じると、マットレス10全体がインナーカバー2に過不足無く覆われる格好となる。この状態においては、上面生地21はマットレス10の上面を、左側の側面生地22aはマットレス10の左面を、後側の側面生地22bはマットレス10の後面を、右側の側面生地22cはマットレス10の右面を、前側の側面生地22dはマットレス10の前面を、下面生地22eはマットレス10の下面をそれぞれ覆っている。
【0020】
上面生地21と本体部22の境界部には、一対の開閉ファスナー23a、23bが設けられている。より詳細に説明すると、上面生地21の外縁全周に一方の開閉ファスナー23aが設けられている。また、本体部22の開口部の縁の全周(前後左右の全ての側面生地22a~22dの上端)に他方の開閉ファスナー23bが設けられている。
【0021】
開閉ファスナー23a、23bを用いて、上面生地21は本体部22に着脱自在に取付けられる。マットレス10を出し入れする際には、開閉ファスナー23a、23bを開いて本体部22を開口させれば良い。なお本実施形態では、開閉ファスナー23a、23bが開いた状態において上面生地21と本体部22は完全に分離するが、これらは一部が連接していても構わない。例えば、上面生地21の左側の縁が本体部22と連接しており、上面生地21の後側、右側、および前側の縁が、開閉ファスナーを用いて本体部22に接合可能としても良い。
【0022】
なお、インナーカバー2の各生地のうち、上面生地21と下面生地22eについてはダブルラッセル生地が採用されている。一方で、前後左右の各側面生地22a~22dについては、後述する第1生布が採用されている。
【0023】
図4は、アウターカバー3の斜視図である。アウターカバー3は、長方形の外殻上面生地31と、外殻上面生地31の前後左右の各外縁に連接した外殻側面生地32a~32dを有するシート状カバーである。外殻上面生地31の上方視による形状および寸法は、インナーカバー2における上面生地21の上方視による形状および寸法と同等である。なお、外殻上面生地31にはキルティング生地が採用されており、前後左右の各外殻側面生地32a~32dには、後述する第2生布が採用されている。
【0024】
アウターカバー3は、外殻上面生地31が上面生地21の上に重なるように配置され、外殻上面生地31から90°折り曲げられた各外殻側面生地32a~32dをインナーカバー2の各側面生地22a~22dへ接合させることにより、インナーカバー2へ取り付けることができる。なお、外殻上面生地31と各外殻側面生地32a~32dとの境界に相当する折り曲げラインの位置は、上面生地21の外縁の位置に概ね一致する。
【0025】
インナーカバー2の各側面生地22a~22dには第1生布が使用されており、その表側(アウターカバー3と接する側)には後述するループ繊維層が形成されている。アウターカバー3の各外殻側面生地32a~32dには第2生布が使用されており、その裏面(インナーカバー2と接する側)にはフック繊維層が形成されている。第1生布と第2生布が接合することにより、アウターカバー3がインナーカバー2表面に固定される。第1生布と第2生布は、ループ繊維とフック繊維の係合により接合する面ファスナーとして機能する。このようにして、予めマットレス10を収容したインナーカバー2にアウターカバー3を取り付けることにより、マットレス10への寝具カバー1の装着が完了する。
【0026】
この状態の寝具カバー1においては、
図1Aおよび
図1Bに示すように、インナーカバー2の上面生地21に対して90°折れ曲がった各側面生地22a~22dそれぞれが、アウターカバー3の外殻上面生地31に対して90°折れ曲がった各外殻側面生地32a~32dそれぞれに接合している。これにより、使用者の寝返り等によってアウターカバー3の外殻上面生地31に張力が発生しても、各外殻側面生地32a~32dはインナーカバー2から剥離しにくくなっており、アウターカバー3がずれ落ちたり、僅かなずれに起因して皺が発生したりすることを防ぐことできる。
【0027】
なお、各外殻側面生地32a~32dは、何れも、外殻上面生地31に連接した辺を下底とする台形の形状となっている。また、当該台形の上底(下底に平行な対辺)は下底よりも短くなっており、当該台形の高さ寸法は、インナーカバー2の各側面生地22a~22dの上下方向寸法よりも少し小さくなっている。これにより、折り曲げられた各外殻側面生地32a~32dは、各側面生地22a~22dの範囲内に確実に収まるようになっている。
【0028】
但し、外殻側面生地32a~32dの形状は特に制限されず、例えば長方形や円弧状であってもよい。また本実施形態においては、インナーカバー2として、マットレス10を完全に覆う袋状のものを例に挙げたが、上面や側面、あるいは底面の一部に開口部を設けたものとしてもよい。更に本実施形態においては、アウターカバー3として、立体的な角が形成されていない平面状のものを例に挙げたが、立体的な角や曲面が形成された半袋状のものとしてもよい。また、インナーカバー2に用いる第1生布やアウターカバー3に用いる第2生布は、寝具カバー1の側面全体に用いてもよく、当該側面の一部だけに用いてもよい。
【0029】
上述したように、寝具カバー1は、第1生布と第2生布を有する面ファスナー、マットレス10(寝具)の外周面に固定されるインナーカバー2、およびアウターカバー3を有し、インナーカバー2およびアウターカバー3の一方には第1生布が、他方には第2生布がそれぞれ設けられている。また寝具カバー1においては、第1生布と第2生布が接合することにより、アウターカバー3がインナーカバー2の上面に固定される。
【0030】
次に、インナーカバー2の各側面生地22a~22dに使用される第1生布(以下、「第1生布LP」と称することがある。)についてより詳細に説明する。
図5Aは、第1生布LPのループ繊維層LP2を構成するパイル糸41の繊維の特徴形状を、模式的に示している。
図5Bは、パイル糸41を固定するグランド層を構成するグランド糸40の編み方を、模式的に示している。
図5Cは、グランド糸40に対するパイル糸41の編み方を模式的に示している。第1生布LPは、2次元方向に広がる生地の主体を形成しているグランド層LP1と、グランド層LP1から垂直方向に伸びる複数のループからなるループ繊維層LP2により構成されている。
【0031】
本実施形態において、第1生布LPは、グランド糸40とパイル糸41を用いて丸編み機で編まれる。グランド層LP1はグランド糸40によって形成され、ループ繊維層LP2はパイル糸41によって形成される。
図5Bに示すように、1列目のグランド糸40aによって形成されたループは2列目のグランド糸40bによって係止され、同様に2列目、3列目と順次係止されていくことによって平面的なグランド層LP1が形成される。
【0032】
また
図5Cに示すように、パイル糸41はグランド糸40と一緒に編みこまれつつ、グランド糸40が形成するループとは別に、パイル糸41のみからなる複数のループ繊維(ループ状係合素子)を形成する。これにより、平面的なグランド層LP1から垂直方向に伸びるループ繊維層LP2が形成される。
【0033】
次に、アウターカバー3の各外殻側面生地32a~32dに使用される第2生布(以下、「第2生布CP」と称することがある。)についてより詳細に説明する。
図6Aは、第2生布CPのフック繊維層CP2を構成するカット後のパイル糸51の繊維の特徴形状を、模式的に示している。
図6Bは、パイル糸51を固定するグランド層を構成するグランド糸50の編み方を、模式的に示している。
図6Cは、グランド糸50に対するパイル糸51の編み方を模式的に示している。
【0034】
なお、パイル糸51は、頂点附近がカットされることにより複数のフック繊維(フック状係合素子)を形成する。第2生布CPは、2次元方向に広がる生地の主体を形成しているグランド層CP1と、グランド層CP1から垂直方向に伸びる複数の繊維からなるフック繊維層CP2により構成されている。
【0035】
本実施形態において、第2生布CPは、グランド糸50とパイル糸51を用いて丸編み機で編まれる。グランド層CP1はグランド糸50によって形成され、フック繊維層CP2はパイル糸51によって形成される。
図6Bに示すように、1列目のグランド糸50aによって形成されたループは2列目のグランド糸50bによって係止され、同様に2列目、3列目と順次係止されていくことによって平面的なグランド層CP1が形成される。
【0036】
また
図6Cに示すように、パイル糸51はグランド糸50と一緒に編みこまれつつ、グランド糸50が形成するループとは別に、パイル糸51のみからなるループを形成する。このループは頂点付近がカットされることによりフック繊維(フック状係合素子)を形成し、平面的なグランド層CP1から垂直方向に伸びるフック繊維層CP2が形成される。
【0037】
図7Aは、ループ繊維層LP2とフック繊維層CP2が接合した状態の面ファスナーにおける、第1生布LPと第2生布CPの断面写真を示す。また、
図7Bは第1生布LPの部分の断面写真を示し、
図7Cは第2生布CPの部分の断面写真を示す。なお
図7Aに示す面ファスナーについて、概ねX1で示す領域は第1生布LPのグランド層LP1であり、概ねX2で示す領域はループ繊維層LP2である。また、概ねY1で示す領域は第2生布CPのグランド層CP1であり、概ねY2で示す領域はフック繊維層CP2である。
【0038】
図7Aに示すように、接合状態においては、ループ繊維層LP2を構成する複数のループ繊維(ループ状係合素子)が緩く解れている状態で集合しており、その隙間にフック繊維層CP2を構成するランダムな螺旋状の複数のフック繊維(フック状係合素子)が、様々な角度で入り込んでいる。複数のフック繊維が様々な角度で複数のループ繊維と係合することにより、水平方向の摩擦力を高めるのみならず垂直方向に対しても適度な接合力が得られる。
【0039】
垂直方向に対しても適度な接合力を得るためには、ループ繊維層LP2を構成する複数のループ繊維が緩く解れていることと、フック繊維層CP2を構成する複数のフック繊維の先端部が様々な角度で突き出ていることとが要求される。
【0040】
当該要求を満たすため、ループ繊維層LP2を形成するパイル糸は、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下であるポリエステル繊維の束を、仮撚係数20,000~32,000で仮撚加工したものとしている。単糸繊度が0.15dtex未満の場合、繊維が切れやすくなるため、摩擦により毛羽立ちやすくなる。一方、繊度が0.7dtexを超える場合、ループ繊維の弾力が大きくなりすぎて、フック繊維がループ繊維の隙間に入りにくくなる。
【0041】
仮撚係数が20,000未満になると、仮撚捲縮糸に十分な捲縮を付与することができず、ループ繊維が解れにくくなり、フック繊維と係合しにくくなる。一方、仮撚係数が32,000を超えると、仮撚捲縮糸の強度が低減したり、ループ繊維の隙間が広がり過ぎて、フック繊維との摩擦力(保持力)が低下したりする。なお本願において、仮撚係数Kの値は、下記の式1を用いて算出される。
(式1) K=T×D0.5
但し、Tは仮撚数(回/m)を、Dは繊度(dtex)をそれぞれ示す。
【0042】
仮撚加工方法としては、一般に用いられるピンタイプ、フリクションディスクタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等、基本的にいかなる方法が採用されてもよい。仮撚加工温度(熱セット温度)は、180℃未満では十分な捲縮が得られず、逆に230℃を超えると繊維が切れやすくなるので、180℃以上230℃以下であることが好ましい。また、仮撚延伸倍率は1.2~1.8であることが好ましい。
【0043】
ループ繊維層LP2を形成するループ繊維の高さは、1mm未満ではフック繊維と係合しにくくなり、3mmを超えるとループ繊維の腰が弱くなり接合力が低下するので、1mm以上3mm以下であることが好ましい。パイル糸41の繊度は特に制限はないものの、グランド糸の繊度と同程度であることが好ましく、例えば40dtex以上120dtex以下の繊度であることが好ましい。
【0044】
また上記要求を満たすため、フック繊維層CP2を形成するパイル糸は、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下であるポリエステル繊維の束を、仮撚係数20,000~32,000で仮撚加工したものとしている。単糸繊度が1.5dtex未満ではフック繊維の弾力が小さいためフック形状を維持しにくくなり、フック繊維がループ繊維の隙間に入りにくくなる。一方、単糸繊度が3.8dtexを超えると強直になりすぎて、洗濯時の生地の傷みや、肌と擦れた際にチクチクした痛みが出やすくなる。
【0045】
仮撚係数が20,000未満になると、仮撚捲縮糸に十分な捲縮を付与することができず、フック繊維が解れにくくなり、ループ繊維の隙間に入りにくくなる。一方、32,000を超えると、仮撚捲縮糸の強度が低減したり、フック繊維の先端が曲がり過ぎて、ループ繊維の隙間に入り込みにくくなったりする。
【0046】
仮撚加工方法としては、一般に用いられるピンタイプ、フリクションディスクタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等、基本的にいかなる方法が採用されてもよい。仮撚加工温度(熱セット温度)は、180℃未満では十分な捲縮が得られず、逆に230℃を超えると繊維が切れやすくなるので、180℃以上230℃以下であることが好ましい。また、仮撚延伸倍率は1.2~1.8であることが好ましい。
【0047】
フック繊維層CP2を形成するフック繊維の高さは、0.5mm未満ではフック繊維と係合しにくくなり、2mmを超えるとループ繊維の腰が弱くなり接合力が低下するので、0.5mm以上2mm以下であることが好ましい。ループ繊維の高さに対するフック繊維の高さの比は、0.3以上0.8以下であることが好ましい。
【0048】
パイル糸51の繊度は特に制限はないものの、グランド糸の繊度と同程度が好ましく、例えば40dtex以上120dtex以下の繊度であることが好ましい。本実施形態においては、インナーカバー2に第1生布を使用し、アウターカバー3に第2生布を使用しているが、その代わりに、インナーカバー2に第2生布を使用し、アウターカバー3に第1生布を使用してもよい。
【0049】
また、インナーカバー2に第2生布と第1生布の両方を使用し、インナーカバー2の第2生布と第1生布の配置に対応させて、アウターカバー3に、第1生布と第2生布の両方を配置してもよい。例えば、インナーカバー2の身長方向の両端部側面(頭部側と脚部側)に第1生布を使用し、幅方向の両端部(右手側と左手側)に第2生布を使用し、アウターカバー3の身長方向の両端部側面(頭部側と脚部側)に第2生布を使用し、幅方向の両端部(右手側と左手側)に第1生布を使用した構成を採用してもよい。これにより、アウターカバー3の取付け方向を限定することができる。
【0050】
身長方向と幅方向の長さが同程度となるダブルベッド用のマットレスカバーにおいては、アウターカバーの方向を間違って(90度ずれた状態で)設置するケースが想定される。しかしこのようなケースでも当該構成を採用していれば、インナーカバーとアウターカバーの第1生布どうし、あるいは第2生布どうしでは十分な接合力が得られないので、ユーザーは取付け方向が間違っていることに気付きやすくなる。
【0051】
以上、第1生布と第2生布により構成される面ファスナーを利用した寝具カバーについて説明したが、当該面ファスナーはその他の種類の寝具カバー、および寝具カバー以外の様々な物品に適用することも可能である。次に、当該面ファスナーを適用した他の種類の寝具カバーについて、枕カバーの形態としたもの(寝具カバー120)を例に挙げて説明する。
【0052】
図8Aは、クッション110(枕本体)と寝具カバー120を用いて形成された枕100の斜視図である。
図8Bは、クッション110から取り外された状態における寝具カバー120の斜視図である。
【0053】
寝具カバー120は、略直方体のクッション110の外周面に巻き付けられて固定される略長方形の平面状の枕カバーであり、枕上面生地121、第1端部生地122、および第2端部生地123を有する。第1端部生地122は、枕上面生地121の長手方向の一端に連接しており、第2端部生地123は、枕上面生地121の長手方向の他端に連接している。
【0054】
枕上面生地121はニット生地により形成され、第1端部生地122は表面にループ繊維層を有する第1生布により形成され、第2端部生地123は裏面にフック繊維層を有する第2生布により形成されている。寝具カバー120をクッション110の外周面に巻き付けると、第1端部生地122の表面と第2端部生地123の裏面とが対向する。この対向した面どうしは面ファスナーとして機能し、第1端部生地122における第1生布のループ繊維層と第2端部生地123における第2生布のフック繊維層が接合することにより、寝具カバー120がクッション110の外周面に固定される。
【0055】
このようにして、枕上面生地121に対して概ね180°折れ曲がった位置で、第1端部生地122と第2端部生地123が接合する。これにより、使用者の寝返り等によって、寝具カバー120の枕上面生地121に張力が発生しても、第1端部生地122と第2端部生地123が剥離しにくく、寝具カバー120がずれ落ちたり、皺が発生したりすることを防止できる。なお寝具カバー120においては、第1端部生地122を第1生布のみで構成し、第2端部生地123を第2生布のみで構成しているが、第1端部生地122および第2端部生地123の一方または両方を、第1生布と第2生布の両方で構成してもよい。
【0056】
上述したように寝具カバー120は、クッション110(寝具)の外周面に巻き付けられるものであって、当該巻き付けられた状態において対向するように第1生布と第2生布が設けられ、第1生布と第2生布が接合することにより、当該巻き付けられた状態に固定される。
【0057】
2.面ファスナーの評価評価
本実施形態に係る面ファスナー(第1生布と第2生布の組合せによる面ファスナー)の性能を評価するため、出願人は、実施例1の面ファスナーを製造して評価試験を行った。以下、実施例1に係る製造方法および評価試験について詳細に説明する。
【0058】
[実施例1に係る製造方法]
第1生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、84T288fil(単糸繊度:約0.29T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。この仮撚加工は、仮撚係数23,000、延伸倍率1.32倍、およびヒーター温度(熱セット温度)210℃の条件で行われた。
【0059】
第1生布についてのグランド糸としては、ポリエステルを紡糸延伸して得た撚数が800t/mのポリエステル繊維からなるマルチフィラメント糸84T288filを用いることとした。これらのパイル糸とグランド糸を用いて丸編み機で編むことにより、パイル長(ループ高さ)1.8mmの第1生布A1を製造した。
【0060】
一方、第2生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、110T36fil(単糸繊度:約3.06T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。この仮撚加工は、仮撚係数23,000、延伸倍率1.32倍、およびヒーター温度(熱セット温度)210℃の条件で行われた。
【0061】
第2生布についてのグランド糸としては、ポリエステルを紡糸延伸して得た撚数が800t/mのポリエステル繊維からなるマルチフィラメント糸84T288filを用いることとした。これらのパイル糸とグランド糸を用いて丸編み機で編むことによりパイル長1mmの生布を製造した後、シャーリング加工を行い、カット高さ0.6mmの第2生布B1を製造した。
【0062】
以上のようにして製造された第1生布A1と第2生布B1による面ファスナーを、実施例1の面ファスナーとした。また当該面ファスナーについて、以下のとおり、接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行った。
【0063】
[接合力の評価手順]
面ファスナーの接合力について、接合力測定装置を用いて以下の手順で評価を行った。
図9A~
図9Cは、2枚の生地(第1生布と第2生布)の接合力を評価する様子を示している。これらの図に示すように、接合力測定装置200は、台座201と落下板202を有する。台座201は、それぞれ四角形の水平面を有する第1水平板201aと第2水平板201b、およびこれらの水平板201a、201bを固定する柱201cを有する。接合力測定装置200は、各水平板201a、201bの平行状態を維持したまま、上下が反転するように回転可能である。
【0064】
第1水平板201aと第2水平板201bは、一辺が15cmの正方形の水平面を有する直方体の形状を有するアルミ部材である。柱201cは、長さ15cmの円柱形のアルミ部材からなり、第1水平板201aと第2水平板201bを30cmの間隔で平行に保持している。落下板202は、一辺が10cmの正方形面を有する厚さ1mmのアクリル板により形成されている。落下板202の材質としては、ある程度の剛性が得られる部材であれば、アクリル板の代わりにコルク材やバルサ材などの板を用いてもよい。
【0065】
接合力測定装置200を用いた評価は以下の方法で行われる。2枚の生地は、それぞれ10cm×10cmの四角形に予め切断される。そして
図9Aに示すように、重ね合わせた2枚の生地の一方を両面テープで第1水平板201aに固定し、他方を両面テープで落下板202に固定する。この時、落下板202に固定した方の生地の重さが、落下板202と生地の重さとの合計が18gになるように、落下板202の裏面(生地の反対側)に図示しないウェイトを貼り付けて重さを調整する。また
図9Aに示す状態において、落下板202の上に100gのウェイトを30秒間載せて2枚の生地を接合させる。
【0066】
その後、
図9Bに示すように、台座201を上下反転させることにより接合力の評価を行う。反転させてから1分後の時点において、
図9Bの状態が維持されていれば接合力を「GOOD」と判定し、
図9Cに示すように、落下板202が落下していれば接合力を「NO GOOD」と判定する。実施例1に係る面ファスナー(第1生布A1と第2生布B1)について、このような手順で接合力の評価を行ったところ、
図9Bの接合状態が維持されており「GOOD」の判定が得られた。
【0067】
[耐洗濯摩耗性の評価手順]
面ファスナーの耐洗濯摩耗性(第1生布と第2生布の耐洗濯摩耗性)について、以下の手順で評価を行った。直径15cm高さ20cmのステンレス製の有底円筒形の回転筒に、10cm×10cmの四角形に切断した1枚の第1生布と、10cm×10cmの四角形に切断した1枚の第2生布と、1リットルの水を入れて蓋を閉める。その後、当該回転筒をボールミルの上で、1秒間に1回転の回転数で1時間回転させることによって、耐洗濯摩耗性テストを行う。この耐洗濯摩耗性テストの前後における第1生布および第2生布の光沢度変化を測定する。
【0068】
なお、第1生布および第2生布の光沢度は、測定装置として光沢度計(日本電色社製VG-1D)を使用し、投光角度および受光角度を60°に設定して測定する。光沢度変化の測定値が10%以下の場合を「GOOD」と判定し、光沢度変化の測定値が10%を超える場合を「NG(NO GOOD)」と判定する。実施例1に係る面ファスナー(第1生布A1と第2生布B1)について、このような手順で耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、光沢度変化の測定値は小さく「GOOD」の判定が得られた。
【0069】
また出願人は、上述した実施例1に加え、後述する実施例2~実施例9の面ファスナー(本実施形態に係る面ファスナーの具体例)を製造し、それぞれについて同様の評価試験を行った。以下、実施例2~実施例9に係る製造方法および評価結果について説明する。なお、各実施例についての製造方法および評価結果の概要は、
図10の表に示すとおりである。
【0070】
<実施例2>
実施例1で使用した第1生布A1の代わりに、
図10の表に示すパイル糸太さおよび単糸繊度の異なる第1生布A2を製造し、第1生布A2と第2生布B1の組合わせである実施例2の面ファスナーを得た。すなわち実施例2では、第1生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、100T96fil(単糸繊度:約0.69T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。その他の第1生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0071】
このようにして得られた第1生布A2、および第2生布B1(実施例1の場合と同じ第2生布)の組合わせを、実施例2の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0072】
<実施例3>
実施例1で使用した第1生布A1の代わりに、
図10の表に示すパイル糸太さおよび単糸繊度の異なる第1生布A3を製造し、第1生布A3と第2生布B1の組合わせである実施例3の面ファスナーを得た。すなわち実施例3では、第1生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、36T244fil(単糸繊度:約0.17T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。その他の第1生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0073】
このようにして得られた第1生布A3、および第2生布B1(実施例1の場合と同じ第2生布)の組合わせを、実施例3の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0074】
<実施例4>
実施例1で使用した第2生布B1の代わりに、
図10の表に示すパイル糸太さおよび単糸繊度の異なる第2生布B2を製造し、第1生布A1と第2生布B2の組合わせである実施例4の面ファスナーを得た。すなわち実施例4では、第2生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、90T24fil(単糸繊度:約3.75T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。その他の第2生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0075】
このようにして得られた第2生布B2、および第1生布A1(実施例1の場合と同じ第1生布)の組合わせを、実施例4の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0076】
<実施例5>
実施例1で使用した第2生布B1の代わりに、
図10の表に示すパイル糸太さおよび単糸繊度の異なる第2生布B3を製造し、第1生布A1と第2生布B3の組合わせである実施例5の面ファスナーを得た。すなわち実施例5では、第2生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、110T72fil(単糸繊度:約1.53T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。その他の第2生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0077】
このようにして得られた第2生布B3、および第1生布A1(実施例1の場合と同じ第1生布)の組合わせを、実施例5の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0078】
<実施例6>
実施例1で使用した第1生布A1の代わりに、
図10の表に示す仮撚係数の異なる第1生布A4を製造し、第1生布A4と第2生布B1の組合わせである実施例6の面ファスナーを得た。すなわち実施例6では、第1生布についてのパイル糸を得るためのマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工において、仮撚係数を20,000とした。その他の第1生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0079】
このようにして得られた第1生布A4、および第2生布B1(実施例1の場合と同じ第2生布)の組合わせを、実施例6の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0080】
<実施例7>
実施例1で使用した第1生布A1の代わりに、
図10の表に示す仮撚係数の異なる第1生布A5を製造し、第1生布A5と第2生布B1の組合わせである実施例7の面ファスナーを得た。すなわち実施例7では、第1生布についてのパイル糸を得るためのマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工において、仮撚係数を32,000とした。その他の第1生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0081】
このようにして得られた第1生布A5、および第2生布B1(実施例1の場合と同じ第2生布)の組合わせを、実施例7の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0082】
<実施例8>
実施例1で使用した第2生布B1の代わりに、
図10の表に示す仮撚係数の異なる第2生布B4を製造し、第1生布A1と第2生布B4の組合わせである実施例8の面ファスナーを得た。すなわち実施例8では、第2生布についてのパイル糸を得るためのマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工において、仮撚係数を20,000とした。その他の第2生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0083】
このようにして得られた第2生布B4、および第1生布A1(実施例1の場合と同じ第1生布)の組合わせを、実施例8の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0084】
<実施例9>
実施例1で使用した第2生布B1の代わりに、
図10の表に示す仮撚係数の異なる第2生布B5を製造し、第1生布A1と第2生布B5の組合わせである実施例9の面ファスナーを得た。すなわち実施例9では、第2生布についてのパイル糸を得るためのマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工において、仮撚係数を32,000とした。その他の第2生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0085】
このようにして得られた第2生布B5、および第1生布A1(実施例1の場合と同じ第1生布)の組合わせを、実施例8の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、何れについても「GOOD」の判定が得られた。
【0086】
更に出願人は、上述した各実施例に加え、後述する比較例1~比較例5の面ファスナーを製造し、それぞれについて同様の評価試験を行った。以下、比較例1~比較例5に係る製造方法および評価結果について説明する。なお、各比較例についての製造方法および評価結果の概要は、
図10の表に示すとおりである。
【0087】
<比較例1>
実施例1の第2生布B1の代わりに、実施例1の第1生布A1を用いて、第1生布A1どうしの組合わせである比較例1の面ファスナーを得た。すなわち本実施形態のフック繊維層の代わりにループ繊維層が配置され、ループ繊維層どうしが接触する形態の面ファスナーを比較例1とした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、耐洗濯摩耗性については「GOOD」の判定が得られたものの、接合力については「NG」(接合力不足)の判定が得られた。
【0088】
<比較例2>
実施例1の第1生布A1の代わりに、実施例1の第2生布B1を用いて、第2生布B1どうしの組合わせである比較例2の面ファスナーを得た。すなわち本実施形態のループ繊維層の代わりにフック繊維層が配置され、フック繊維層どうしが接触する形態の面ファスナーを比較例2とした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、耐洗濯摩耗性については「GOOD」の判定が得られたものの、接合力については「NG」(接合力不足)の判定が得られた。
【0089】
<比較例3>
実施例1で使用した第2生布B1の代わりに、
図10の表に示すパイル糸太さおよび単糸繊度の異なる第2生布B6を製造し、第1生布A1と第2生布B6の組合わせである比較例3の面ファスナーを得た。すなわち比較例3では、第2生布についてのパイル糸として、ポリエステルを紡糸延伸して得たマルチフィラメント延伸糸の仮撚加工を行い、120T18fil(単糸繊度:約6.67T)の無撚りの仮撚捲縮糸を得た。その他の第2生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0090】
このようにして得られた第2生布B6、および第1生布A1(実施例1の場合と同じ第1生布)の組合わせを、比較例3の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、接合力については「GOOD」の判定が得られたものの、耐洗濯摩耗性については「NG」の判定が得られた。
【0091】
<比較例4>
実施例1で使用した第1生布A1の代わりに、
図10の表に示す仮撚加工しない第1生布A6を製造し、第1生布A6と第2生布B1の組合わせである比較例4の面ファスナーを得た。すなわち比較例4では、第1生布についてのパイル糸を得るためのマルチフィラメント延伸糸について、仮撚加工を行わないこととした。その他の第1生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0092】
このようにして得られた第1生布A6、および第2生布B1(実施例1の場合と同じ第2生布)の組合わせを、比較例4の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、耐洗濯摩耗性については「GOOD」の判定が得られたものの、接合力については「NG」の判定が得られた。
【0093】
<比較例5>
実施例1で使用した第2生布B1の代わりに、
図10の表に示す仮撚加工しない第2生布B7を製造し、第1生布A1と第2生布B7の組合わせである比較例5の面ファスナーを得た。すなわち比較例5では、第2生布についてのパイル糸を得るためのマルチフィラメント延伸糸について、仮撚加工を行わないこととした。その他の第2生布の製造に関する条件については、実施例1の場合と同様である。
【0094】
このようにして得られた第2生布B7、および第1生布A1(実施例1の場合と同じ第1生布)の組合わせを、比較例5の面ファスナーとした。この面ファスナーについて、先述した接合力および耐洗濯摩耗性の評価を行ったところ、耐洗濯摩耗性については「GOOD」の判定が得られたものの、接合力については「NG」の判定が得られた。
【0095】
3.その他
本実施形態に係る面ファスナーは、ループ繊維層を有する第1生布と、フック繊維層を有する第2生布とを有する。ループ繊維層は、第1の仮撚捲縮パイル糸により形成された複数のループ繊維で構成されており、フック繊維層は、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成された複数のフック繊維で構成されている。
【0096】
第1の仮撚捲縮パイル糸は、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下のポリエステル繊維(樹脂繊維)の束が、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸である。第2の仮撚捲縮パイル糸は、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下のポリエステル繊維の束が、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工された無撚りの仮撚捲縮パイル糸である。なおフック繊維は、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成されたループの頂点近傍がカットされたものである。
【0097】
本実施形態に係る面ファスナーは、このようなループ繊維とフック繊維が係合することにより、第1生布と第2生布が接合するようになっている。このような構成である当該面ファスナーは、単繊維径が1μm以下の極細繊維を用いることなく、生地の引っかかりを抑えつつ、洗濯時の生地の傷みを低減できるとともに、高い接合力を得ることが可能となっている。
【0098】
本実施形態では、面ファスナーの第1生布に設けられるループ繊維層が、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下のポリエステル繊維からなるループ繊維で構成されているとともに、面ファスナーの第2生布に設けられるフック繊維層が、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下のポリエステル繊維からなるフック繊維で構成されている。そのため、生地の引っかかりを抑えつつ、洗濯時の生地の傷みを低減することができる。なお本実施形態では、樹脂繊維としてポリエステル繊維を採用しているが、本発明の趣旨を逸脱しない限り他の樹脂の繊維を採用してもよい。
【0099】
さらに、ループ繊維層が、仮撚係数が20,000以上32,000以下の条件で仮撚加工することによって得られる無撚りの仮撚捲縮パイル糸から得られる複数のループ繊維で構成されていることから、隣接するループ繊維どうしが密着する力が弱く、隙間が生じやすい。その上、フック繊維層が、仮撚係数が20,000以上32,000以下の条件で仮撚加工することによって得られる無撚りの仮撚捲縮パイル糸の頂点近傍を切断して得られる複数のフック繊維で構成されていることから、隣接するフック繊維の先端が広がりやすい。その結果、解れたフック繊維がループ繊維の隙間に入り込み易くなり、高い接合力が得られる。また、本実施形態の寝具カバー1、120は、このような面ファスナーを用いることから、生地の引っかかりや洗濯時の生地の傷みが少なく、接合面が外れにくくなっている。
【0100】
なお本実施形態に係る面ファスナーの製造方法は、単糸繊度が0.15dtex以上0.7dtex以下のポリエステル繊維の束を、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工することにより、無撚りの第1の仮撚捲縮パイル糸を得る第1工程と、第1の仮撚捲縮パイル糸を用いて複数のループ繊維を形成することにより、ループ繊維層を形成する第2工程と、単糸繊度が1.5dtex以上3.8dtex以下のポリエステル繊維の束を、仮撚係数が20,000~32,000の条件で仮撚加工することにより、無撚りの第2の仮撚捲縮パイル糸を得る第3工程と、第2の仮撚捲縮パイル糸を用いて複数のフック繊維を形成することにより、フック繊維層を形成する第4工程と、を含む。なお第4工程において、第2の仮撚捲縮パイル糸により形成されたループの頂点近傍がカットされることにより、フック繊維が形成される。そのためフック繊維を比較的容易に形成することが可能となっている。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、寝具カバー等に使用される面ファスナーに利用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 寝具カバー(マットレスカバー)
2 インナーカバー
3 アウターカバー
10 マットレス
21 上面生地
22 本体部
22a~22d 側面生地
22e 下面生地
23a、23b 開閉ファスナー
31 外殻上面生地
32a~32d 外殻側面生地
40 第1生布のグランド糸
41 第1生布のパイル糸
50 第2生布のグランド糸
51 第2生布のパイル糸
100 枕
110 クッション
120 寝具カバー(枕カバー)
121 枕上面生地
122 第1端部生地
123 第2端部生地
200 接合力測定装置
LP 第1生布
LP1 第1生布のグランド層
LP2 ループ繊維層
CP 第2生布
CP1 第2生布のグランド層
CP2 フック繊維層