IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スラスト軸受 図1
  • 特許-スラスト軸受 図2
  • 特許-スラスト軸受 図3
  • 特許-スラスト軸受 図4
  • 特許-スラスト軸受 図5
  • 特許-スラスト軸受 図6
  • 特許-スラスト軸受 図7
  • 特許-スラスト軸受 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20230428BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
F16C33/78 B
F16C19/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019039529
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020143708
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷村 浩樹
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-026766(JP,Y1)
【文献】特開昭51-101651(JP,A)
【文献】実開昭54-103443(JP,U)
【文献】特開平07-332378(JP,A)
【文献】特開2015-075218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道溝を有する軸軌道盤と、軌道溝を有するハウジング軌道盤と、前記軸軌道盤の軌道溝と前記ハウジング軌道盤の軌道溝との間に介在する転動体と、前記軸軌道盤に嵌り合う筒状のケースとを備え、
前記ケースが前記軸軌道盤の背面を覆う環状の端面部と、前記軸軌道盤に嵌り合う筒状の周壁部と、前記周壁部の周縁部に形成されるカシメ部とを有し、
前記周壁部と前記ハウジング軌道盤との間に、その周壁部とハウジング軌道盤とが相互回転可能となるすき間が形成され、前記ハウジング軌道盤の外周面の背面側に面取り部が形成され、前記面取り部と前記ケースのカシメ部が対向するスラスト軸受において、
前記端面部が前記軸軌道盤の背面に接触する第一シール部を有し、前記カシメ部が前記ハウジング軌道盤の面取り部に摺接する第二シール部を有し、
前記第一シール部が前記端面部の内周部にモールドされた弾性体と、その弾性体から形成されるリップを有し、そのリップが前記軸軌道盤の内周部よりも径方向内側に延び出しており、そのリップが前記弾性体から径方向内向きに突出していることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
前記第二シール部が弾性体から形成される内リップを有することを特徴とする請求項1に記載されたスラスト軸受。
【請求項3】
前記内リップが周方向一部に形成される切り欠き部を有することを特徴とする請求項2に記載されたスラスト軸受。
【請求項4】
前記カシメ部が前記ハウジング軌道盤の面取り部に摺接する第三シール部を有し、前記第三シール部が前記弾性体から形成されるリップを有し、そのリップが周方向の一部に形成される切り欠き部を有し、前記第二シール部の内リップの切り欠き部と、前記第三シール部のリップの切り欠き部は、それぞれ異なる周方向位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載されたスラスト軸受。
【請求項5】
前記内リップが径方向に並んで複数形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載されたスラスト軸受。
【請求項6】
前記第二シール部が前記弾性体から形成される外リップを有し、前記外リップが径方向外向きにかつ軸方向外向きに延び出しており、前記外リップの周縁部が前記ハウジング軌道盤の背面よりも軸方向外側に位置していることを特徴とする請求項2または3に記載されたスラスト軸受。
【請求項7】
前記第一シール部のリップが軸方向に並んで複数形成されていることを特徴とする請求項に記載されたスラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、フォークリフト等のサスペンション、ステアリング等に用いられるキングピン用のスラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、フォークリフト等のサスペンション、ステアリング等に用いられるキングピン部には、キングピンから負荷されるスラスト荷重を受け、このキングピンをキングピン軸に対して回転可能に支持するスラスト軸受が適用されている(例えば、特許文献1の図4参照)。
【0003】
このスラスト軸受は、図7に示すように、軸軌道盤21の軌道溝23とハウジング軌道盤22の軌道溝24との間に玉25を介在し、軸軌道盤21に端面27と周壁28からなるケース26を嵌め合わせたものである。
【0004】
ケース26は、端面27により軸軌道盤21の背面をカバーし、周壁28により軸軌道盤21およびハウジング軌道盤22の外周面をカバーする。ハウジング軌道盤22は、周壁28との間で相対回転が可能となるわずかなすき間が形成される。ハウジング軌道盤22の外径面とケース26の周壁28との間にシール部材30が介在する。
【0005】
シール部材30は、環状の芯金31の外径面にシール用弾性体32をモールドしたものである。芯金31は、両端部にL形屈曲部31aと逆L形屈曲部31bを有するものである。シール用弾性体32は、ラジアル方向に突き出たリップ32aと、アキシアル方向に突き出た凸部32bを有する。芯金31のL形屈曲部31aがハウジング軌道盤22の外径面に形成された段部22aに係合される。
【0006】
ケース26の周壁28にリップ32aが摺接しており、その周壁28の周縁部に設けたカシメ部29が、シール用弾性体32と非接触状態に加締められている。ケース26のカシメ部29により、軸軌道盤21とハウジング軌道盤22とが相対回転可能に、軸軌道盤21、ハウジング軌道盤22および玉25が一体化される。
【0007】
また、上記スラスト軸受は、軸軌道盤21の内径面の背面側コーナー部とケース26の端面27との間にOリング33が介在している。
【0008】
上記のスラスト軸受は、ケース26の周壁28とリップ32aとの間、凸部32bとハウジング軌道盤22の背面側に取り付けられる相手部材(図示省略)との間、およびケース26とOリング33との間に接触シールが形成されている。これらの接触シールにより、上記スラスト軸受のシール性の向上が図られている。
【0009】
また、図8に示すように、上記スラスト軸受として、ハウジング軌道盤22とケース26のカシメ部29との間、およびハウジング軌道盤22の背面と上述の相手部材との間にOリング34、35を設けたものも従来から知られている(特許文献1の図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-309352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図7に示すスラスト軸受では、その組み立てに手間が掛かるものである。すなわち、まず、ケース26にOリング33および軸軌道盤21を圧入し、複数の玉25を軌道溝23内に配置する。その後、シール部材30を装着したハウジング軌道盤22をケース26内に嵌め合わせ、ケース26の周壁28の周縁部を加締めてカシメ部29を形成する必要があった。
【0012】
また、図8に示すスラスト軸受でも、ハウジング軌道盤22にシール部材30を装着する必要はないが、その代わりにOリング34、35をハウジング軌道盤22に装着する必要があり、その組み立てに手間が掛かるものである。
【0013】
そこで、この発明の課題は、シール性を確保しつつ、容易に組み立てることができるスラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明に係るスラスト軸受は、軌道溝を有する軸軌道盤と、軌道溝を有するハウジング軌道盤と、前記軸軌道盤の軌道溝と前記ハウジング軌道盤の軌道溝との間に介在する転動体と、前記軸軌道盤に嵌り合う筒状のケースとを備え、前記ケースが前記軸軌道盤の背面を覆う環状の端面部と、前記端面部の外周部に設けられ、前記軸軌道盤に嵌り合う筒状の周壁部と、前記周壁部の周縁部に形成されるカシメ部とを有し、前記周壁部と前記ハウジング軌道盤との間に、その周壁部とハウジング軌道盤とが相互回転可能となるすき間が形成され、前記ハウジング軌道盤の外周面の背面側に面取り部が形成され、前記面取り部と前記ケースのカシメ部が対向するスラスト軸受において、前記端面部が前記軸軌道盤の背面に接触する第一シール部を有し、前記カシメ部が前記ハウジング軌道盤の面取り部に摺接する第二シール部を有する構成を採用することができる。
【0015】
この構成のケースを軸軌道盤に嵌め合わせ、転動体およびハウジング軌道盤を嵌め合わせて、ケースのカシメ部を加締めると、ケースの端面部と軸軌道盤の背面との間に第一シール部による接触シールが形成され、カシメ部とハウジング軌道盤の面取り部との間に第二シール部による接触シールが形成される。
【0016】
シール性を効果的に向上させるために、前記第二シール部が弾性体から形成される内リップを有する構成を採用すると、ハウジング軌道盤の回転に伴う、ハウジング軌道盤の面取り部の微小な変位に追従して複数の内リップがそれぞれ摺接する。さらに、シール性の向上を図るために、前記内リップが径方向に並んで複数形成されている構成を採用することができる。
【0017】
上記構成において、前記第二シール部が前記弾性体から形成される外リップを有し、前記外リップが径方向外向きにかつ軸方向外向きに延び出しており、前記外リップの周縁部が前記ハウジング軌道盤の背面よりも軸方向外側に位置している構成を採用することができる。この構成の外リップと、ハウジング軌道盤の背面側に取り付けられる相手部材との間に接触シールが形成される。
【0018】
前記第二シール部の内リップが周方向一部に形成される切り欠き部を有する構成を採用することができる。ここで、ケースのカシメ部を加締める際に、縮径する第二シールの内リップが撓んで波打つことがある。この構成では、内リップの波打ちを防止し、シール性を維持することができる。
【0019】
前記カシメ部が前記ハウジング軌道盤の面取り部に摺接する第三シール部を有し、前記第三シール部が前記弾性体から形成されるリップを有し、そのリップが周方向の一部に形成される切り欠き部を有し、前記第二シール部の内リップの切り欠き部と、前記第三シール部のリップの切り欠き部は、それぞれ異なる周方向位置に配置されている構成を採用することができる。
【0020】
この構成では、カシメ部には、少なくとも第二シール部の内リップおよび第三シール部のリップのいずれか一方が周方向に沿って存在している。このため、カシメ部とハウジング軌道盤との間のシール性を確保することができる。
【0021】
また、前記第一シール部が弾性体から形成されるリップを有し、そのリップが前記軸軌道盤の内周部よりも径方向内側に延び出している構成を採用することができる。この第一シール部のリップがスラスト軸受に挿通する軸体に接触し、その軸体とケースの端面部との間に接触シールが形成される。
【0022】
また、前記第一シール部のリップが軸方向に並んで複数形成されている構成を採用すると、スラスト軸受に挿通する軸体とケースの端面部との間に形成される接触シールのシール性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、ケースの端面部に第一シール部が設けられ、周壁部に第二シール部が設けられているので、ケースの周壁部を軸軌道盤に嵌め合わせて、カシメ部を加締めることにより、シール性を確保しつつ、容易に軸受を組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の第一実施形態に係るスラスト軸受を示す断面図
図2】(a)同上の第一シール部を示す拡大断面図、(b)同上の第二シール部を示す拡大断面図
図3】(a)同上のケースの加工前状態を示す断面図、(b)同上のケースの加工前状態を示す平面図、(c)同上のケースを示す断面図
図4】(a)同上の第一シール部の他の形態を示す拡大断面図、(b)同上の第二シール部の他の形態を示す拡大断面図、(c)同上の第二シール部のさらに他の形態を示す拡大断面図
図5】(a)この発明の第二実施形態に係るスラスト軸受の第二シール部を示す拡大断面図、(b)同上のケースの加工前状態を示す断面図、(b)同上のケースの加工前状態を示す平面図
図6】(a)この発明の第三実施形態に係るスラスト軸受の第二シール部を示す拡大断面図、(b)同上のケースの加工前状態を示す断面図、(b)同上のケースの加工前状態を示す平面図
図7】従来のスラスト軸受を示す断面図
図8】従来のスラスト軸受の他の形態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明の実施形態のスラスト軸受を示す。このスラスト軸受は、軌道溝3を有する軸軌道盤1と、軌道溝4を有するハウジング軌道盤2と、軸軌道盤1の軌道溝3とハウジング軌道盤2の軌道溝4との間に介在する転動体である玉5と、軸軌道盤1に嵌り合うケース6とを備えている。
【0026】
この実施形態は、自動車、フォークリフト等のサスペンション、ステアリング等に用いられるキングピンに適用される。この実施形態は、転動体が玉5であるスラスト軸受であるが、例えば、転動体が円筒ころや円すいころであるスラストころ軸受に適用することができる。
【0027】
ここで、「周方向」とは、特に言及しない限り、軸受中心軸周りの円周方向のことをいう。また、特に言及しない限り、軸受中心軸に沿った方向のことを単に「軸方向」といい、軸受中心軸に対し直角な方向のことを単に「径方向」という。
【0028】
軸軌道盤1は円環状部材からなり、軸方向一方の側面がアキシアル荷重を支持する背面とされ、軸方向他方の側面に軌道溝3が形成されるものである。軌道溝3のアキシアル平面での断面形状は円弧をなしている。
【0029】
ハウジング軌道盤2は円環状部材からなり、軸方向他方の側面がアキシアル荷重を支持する背面とされ、軸方向一方の側面に軌道溝4が形成されるものである。軌道溝4は、軌道溝3に軸方向に対向し、アキシアル平面での断面形状は円弧をなしている。ハウジング軌道盤2の外周部の背面側に面取り部2aが形成されている。面取り部2aは、軸方向他方に向かうに従い径方向内向きに傾斜している。
【0030】
ハウジング軌道盤2の内径寸法は軸軌道盤1の内径寸法よりもわずかに大きい。ハウジング軌道盤2の外径寸法は軸軌道盤1の外径寸法よりもわずかに小さい。
【0031】
軌道溝3および軌道溝4のアキシアル平面での断面形状の円弧は同じ半径であり、転動体である玉5の半径よりもわずかに大きい。
【0032】
ケース6は、円環状の金属板を折り曲げ加工した筒状部材である。ケース6は、軸軌道盤1の背面を覆う円環状の端面部7と、軸軌道盤1の外周部に圧入により嵌め合わされる円筒状の周壁部8と、周壁部8の軸方向他方の周縁部に形成されるカシメ部9とを有している。
【0033】
端面部7はその内周部に第一シール部10を有する。端面部7の内周部は軸軌道盤1の内周部よりも径方向外側に位置している。図2(a)に示すように、第一シール部10は、端面部7の内周部の全周にモールドした弾性体11と、その弾性体11で形成されるリップ11aとを有する。第一シール部10の弾性体11が軸軌道盤1の背面に接触する状態となっている。
【0034】
リップ11aは弾性体11から径方向内向きに全周にわたり突出している。リップ11aの内縁部が、軸軌道盤1の内周部よりも径方向内側に位置している。弾性体11は、例えば、ニトリルゴム、耐熱ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等の耐油性又は耐熱性に優れたゴムを素材としている。
【0035】
周壁部8は、軸軌道盤1に圧入により嵌め合わされ、軸軌道盤1と一体化している。周壁部8とハウジング軌道盤2との間に、周壁部8とハウジング軌道盤2とが相対回転可能となる径方向のすき間が形成されている。
【0036】
カシメ部9は、軸方向他方に向かうに従い径方向内向きに傾斜する状態に形成されている。カシメ部9がハウジング軌道盤2の面取り部2aとすき間をもって対向している。カシメ部9の径方向内面に第二シール部12が形成されている。
【0037】
図2(b)に示すように、第二シール部12は、カシメ部9の径方向内面の全周にモールドした弾性体13と、その弾性体13から形成される複数の内リップ13aとを有する。それぞれの内リップ13aは、カシメ部9に沿って全周に径方向に並んで配置され、面取り部2aに向かって延び出している。
【0038】
それぞれの内リップ13aの内縁部が全周にわたってハウジング軌道盤2の面取り部2aに摺接している。第二シール部12の弾性体13は、第一シール部10の弾性体11と同じ素材が使用可能である。なお、第二シール部12は、弾性体13から単一の内リップ13aを形成してもよい。
【0039】
この実施形態のスラスト軸受は、以上のように構成される。以下に、このスラスト軸受の組み立て方法を説明する。
スラスト軸受の組み立て前に、予めケース6を製作する。ケース6は、図3(a)、(b)に示す円環状の金属板部材Wを素材としており、その円環状の金属板部材Wの内周部に上述の第一シール部10を設け、外周部の軸方向他方側の表面に上述の第二シール部12を設ける。
【0040】
次に、図3(c)に示すように、金属板部材Wの径方向途中位置の全周において、外周部を軸方向他方へ折り曲げ加工を行い、端面部7、周壁部8およびカシメ部9を有するケース6を製作する。
【0041】
この状態のケース6は、カシメ部9が周壁部8に沿う円筒状をなしている。このケース6に対して、端面部7側に軸軌道盤1の背面が位置する状態で、軸軌道盤1を周壁部8に圧入により嵌め合わせる。この嵌め合わせにより、ケース6の第一シール部10の弾性体11がケース6の端面部7と軸軌道盤1の背面に接触する。
【0042】
続いて、軸軌道盤1の軌道溝3内に複数の玉5を入れ、軸方向一方側に軌道溝4が位置する状態でハウジング軌道盤2を周壁部8内に入れる。このとき、ケース6の周壁部8により、軸軌道盤1およびハウジング軌道盤2の外周部が覆われる状態となる。その後、カシメ部9を径方向内向きに加締め、カシメ部9をケース6からのハウジング軌道盤2の抜け止めとする。
【0043】
また、カシメ部9を加締める際、第二シール部12のそれぞれの内リップ13aをハウジング軌道盤2の面取り部2aに接触する状態とする。この状態では、ケース6の周壁部8とハウジング軌道盤2とが相対回転可能となっている。
【0044】
以上のようにこの実施形態のスラスト軸受は組み立てられる。このスラスト軸受は上述のように組み立てることで、端面部7と軸軌道盤1の背面との間に第一シール部10の弾性体11が設けられ、カシメ部9の第二シール部12の内リップ13aがハウジング軌道盤2の面取り部2aに摺接する状態となる。
【0045】
すなわち、この実施形態のスラスト軸受は、従来のように、別途、Oリングやシール部材の取り付け作業が不要であり、シール性を確保しつつ、容易に組み立てることができる。
【0046】
なお、第一シール部10としては、図4(a)に示すように、弾性体11から軸方向に並ぶ二列のリップ11aを形成することができる。この場合、それぞれのリップ11aは、この実施形態のスラスト軸受を取り付ける軸体Sに摺接する。
【0047】
また、第二シール部12としては、図4(b)に示すように、弾性体13から内リップ13aを径方向に並んで3箇所に形成してもよい。カシメ部9とハウジング軌道盤2の面取り部2aとの間のシール性を維持することができれば、例えば、内リップ13aを径方向に並んで4箇所以上の複数形成することができる。
【0048】
さらに、図4(c)に示すように、第二シール部12としては、カシメ部9の先端縁部を覆う状態に弾性体13をモールドし、カシメ部9の径方向内面の弾性体13から内リップ13aを三箇所に形成し、カシメ部9の径方向外面の弾性体13から外リップ13bを形成してもよい。
【0049】
外リップ13bは、カシメ部9から径方向外向きにかつ軸方向外向きに延び出している。外リップ13bの周縁部はハウジング軌道盤2の背面よりも軸方向外側に位置している。このため、外リップ13bがハウジング軌道盤2の背面側に取り付けられる相手部材Xに接触する。これにより、カシメ部9と相手部材Xとの間に接触シールが形成される。
【0050】
この発明の第二実施形態に係るスラスト軸受を図5(a)に示す。第二実施形態のスラスト軸受は、第二シール部12の内リップ13aが切り欠き部14を有している点で、第一実施形態の構成と相違している。その他の構成において、第一実施形態と同一の構成は同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
この実施形態のスラスト軸受では、第二シール部12の径方向に並んで二箇所に内リップ13aが形成され、それぞれの内リップ13aが周方向の複数箇所で切り欠き部14を有するものである。それぞれの内リップ13aの切り欠き部14は、同じ周方向の位置に形成されている。なお、内リップ13aの切り欠き部14は、周方向の1箇所のみに形成してもよい。
【0052】
この実施形態の第二シール部12は、上述の第一実施形態のスラスト軸受と同様に、図5(b)、(c)に示すように、ケース6として製作される金属板部材Wの外周部の軸方向他方側の表面に設けられる。
【0053】
ここで、金属板部材Wからケース6を製作し、カシメ部9を加締める際に、縮径する内リップ13aが撓んで波打つことがある。この実施形態では、図5(c)に示すように、第二シール部12の内リップ13aの切り欠き部14が周方向に等間隔に形成されている。このため、内リップ13aの撓みを切り欠き部14へ逃がすことができ、内リップ13aの波打ちを防止することができる。その結果、第二シール部12でのシール性を確保することができる。
【0054】
この発明の第三実施形態に係るスラスト軸受を図6(a)に示す。第三実施形態のスラスト軸受は、第二シール部12の内リップ13aが切り欠き部14を有している点、ケース6のカシメ部9がさらに第三シール部15を有する点、第三シール部15の弾性体16から形成されるリップ16aが周方向一部に切り欠き部17を有する点で第一実施形態の構成と相違している。その他の構成において、第一実施形態と同一の構成は同一の符号を付してその説明を省略する。
【0055】
この実施形態のスラスト軸受の第二シール部12は、弾性体13から形成される単一の内リップ13aを有している。第二シール部12の内リップ13aは、周方向の複数箇所に切り欠き部14を有している。
【0056】
ケース6のカシメ部9の径方向内面に第三シール部15が形成されている。図6(a)に示すように、第三シール部15は、カシメ部9の径方向内面および先端面の全周にモールドした弾性体16と、弾性体16から形成されるリップ16aとを有している。第三シール部15のリップ16aは、周方向複数箇所に形成される切り欠き部17を有する。
【0057】
この実施形態の第二シール部12および第三シール部15は、上述の第一実施形態のスラスト軸受と同様に、図6(b)、(c)に示すように、ケース6として製作される金属板部材Wの外周部の軸方向他方側の表面に設けられる。
【0058】
第二シール部12の内リップ13aと第三シール部15のリップ16aは、それぞれの切り欠き部14と切り欠き部17とが周方向に異なる位置となるように配置されたものである。
【0059】
これにより、ケース6のカシメ部9には、第二シール部12の内リップ13aおよび第三シール部15のリップ16aの少なくとも一方が周方向に沿って存在している。このため、ケース6のカシメ部9とハウジング軌道盤2の面取り部2aとの間に、シール性を確保することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 軸軌道盤
2 ハウジング軌道盤
2a 面取り部
3、4 軌道溝
5 玉
6 ケース
7 端面部
8 周壁部
9 カシメ部
10 第一シール部
11、13、16 弾性体
11a、16a リップ
13a 内リップ
13b 外リップ
12 第二シール部
14、17 切り欠き部
15 第三シール部
S 軸体
W 金属板部材
X 相手部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8