(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】熱間鍛造非調質部品とその製造方法、および熱間鍛造非調質部品用鋼材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230428BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230428BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20230428BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/60
C21D8/06 A
B21J5/00 A
(21)【出願番号】P 2019045966
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】細野 優維
(72)【発明者】
【氏名】島本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 希生
(72)【発明者】
【氏名】松ヶ迫 亮廣
(72)【発明者】
【氏名】大脇 章弘
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-003386(JP,A)
【文献】特開2018-035408(JP,A)
【文献】特開2007-211314(JP,A)
【文献】特開2008-240130(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110910(WO,A1)
【文献】特開2011-032545(JP,A)
【文献】特開2004-156764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0372146(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01700925(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
B21J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たし、
金属組織が初析フェライトとパーライトを含み、初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上である、0.2%耐力が820MPa以上の熱間鍛造非調質部品。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【請求項2】
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす鋼材を、
熱間鍛造する工程と、
前記熱間鍛造後に切削加工を含む機械加工を行う工程と、
表面のみに高周波焼入れ処理を施す工程と、を含む、
中心部の金属組織が初析フェライトとパーライトを含み、初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上である
、0.2%耐力が820MPa以上の熱間鍛造非調質部品の製造方法。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【請求項3】
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす鋼材を、
熱間鍛造する工程と、
前記熱間鍛造後に、少なくとも800℃~500℃の領域を0.3℃/秒以上1.0℃/秒未満で冷却する工程と、を含む、
中心部の金属組織が初析フェライトとパーライトを含み、初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上である、0.2%耐力が820MPa以上の熱間鍛造非調質部品の製造方法。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【請求項4】
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす、請求項1に記載の熱間鍛造非調質部品を製造するための熱間鍛造非調質部品用鋼材。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造非調質部品とその製造方法、および熱間鍛造非調質部品用鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、産業機械などの機械構造用部品の多くは、素材棒鋼から部品形状に熱間鍛造した後、再加熱し、焼入れ焼戻しの調質処理を施すことによって、高強度および高靱性を付与してきた。近年では、製造コスト低減の観点から、焼入れ焼戻しの調質処理工程の省略が進められており、熱間鍛造のままで調質処理しなくても高強度および高靱性を付与できる熱間鍛造非調質鋼が採用されてきている。
【0003】
このような熱間鍛造非調質鋼の多くは、中炭素鋼にいわゆる析出硬化型合金元素のV、Nb、Ti、Zr等を微量に添加した析出硬化型非調質鋼である。析出硬化型非調質鋼は、熱間鍛造後の冷却工程において析出硬化型合金元素を炭化物、窒化物あるいは炭窒化物などの形で析出させて、その析出硬化によって高強度及び高靱性を得ようとするものである。特に中炭素鋼にVを添加したV強化型非調質鋼は、比較的高い被削性を有し、加工コスト低減を図る上で有利なので、機械構造用部品に広く用いられている。V強化型非調質鋼は、例えば特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-171334号公報
【文献】特開2010-24503号公報
【文献】国際公開第2009/107282号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば車両のクランクシャフト、ロアアームなどの大型部品にV強化型非調質鋼を適用した場合、熱間鍛造後の冷却速度が、例えばエンジン用のコネクティングロッド(コンロッド)などの小型部品に適用した場合と比較して遅くなる場合がある。冷却速度が遅くなると、フェライト組織の面積率が増大し、最終的に得られる部品の強度が低下し得る。そのため、大型部品にV強化型非調質鋼を適用する場合、部品強度の低下を補償するため、合金添加量(特にV添加量)を増加させる必要がある。
【0006】
しかしながら、合金添加量を増加させた場合、鋳造法として連続鋳造法を採用したときに表面割れ等が発生し、連続鋳造性が悪化する場合があった。また、合金添加量を増加させた場合、焼入れ性が増大し、大型部品における熱間鍛造後の冷却速度でもベイナイト等の過冷組織が発生し、却って部品強度が低下する場合があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、大型部品であっても、高強度を確保しながら優れた連続鋳造性を有する熱間鍛造非調質部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たし、
金属組織が初析フェライトとパーライトを含み、初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上である、0.2%耐力が820MPa以上の熱間鍛造非調質部品である。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【0009】
本発明の態様2は、
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす鋼材を、
熱間鍛造する工程と、
前記熱間鍛造後に切削加工を含む機械加工を行う工程と、
表面のみに高周波焼入れ処理を施す工程と、を含む、
中心部の金属組織が初析フェライトとパーライトを含み、初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上である熱間鍛造非調質部品の製造方法である。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【0010】
本発明の態様3は、
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす鋼材を、
熱間鍛造する工程と、
前記熱間鍛造後に、少なくとも800℃~500℃の領域を0.3℃/秒以上1.0℃/秒未満で冷却する工程と、を含む、熱間鍛造非調質部品の製造方法である。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【0011】
本発明の態様4は、
C :0.40質量%以上、0.60質量%以下、
Si:0質量%超、1.0質量%以下、
Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下、
S :0質量%超、0.20質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、
V :0.30質量%以上、0.38質量%以下、
Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下、
N :0質量%超、0.008質量%以下、
Al:0質量%超、0.1質量%以下、
P :0質量%超、0.20質量%以下、及び
必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす、態様1に記載の熱間鍛造非調質部品を製造するための熱間鍛造非調質部品用鋼材である。
0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)
[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)
ただし、[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大型部品であっても、高強度を確保しながら、連続鋳造性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例における式(1)の値と0.2%耐力との関係を示すグラフ。
【
図2】実施例における式(2)の値と絞り値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の知見を見出した。
<強度について>
(i)V強化型非調質鋼を大型部品に適用する場合、C:0.40質量%以上、Cr:0.5質量%以上、V:0.30質量%以上とすると、高強度(0.2%耐力が820MPa以上)を得られる。
(ii)0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V](式(1))を1.03未満にすると、大型部品における熱間鍛造後の通常の冷却条件においてもベイナイトの発生を抑制し、強度低下を抑制することができる。
<連続鋳造性について>
(iii)[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)(式(2))を0.0015未満にすると、鋳造法として連続鋳造法を採用した場合に、連続鋳造の冷却過程におけるV窒化物の生成を抑制することにより、表面割れ及び副次的に内部割れの発生を抑制し、連続鋳造性を向上させることができる。
このように、本発明の実施形態に係る熱間鍛造非調質部品(以下、単に「部品」と呼ぶことがある)は、鋳造法として連続鋳造法を採用した場合に、連続鋳造工程においても十分に製造可能であり、かつ通常の大型部品における鍛造後冷却工程において820MPa以上の0.2%耐力(以下、単に「耐力」と呼ぶことがある)を得られることが分かった。
【0015】
1.化学成分組成
以下に、本発明の実施形態に係る鋼材及び当該鋼材を用いて製造される部品の化学成分組成について説明する。
【0016】
[C:0.40質量%以上、0.60質量%以下]
Cは、強度の確保に必要な元素である。C含有量が少なすぎると強度が低下し、特に大型部品に本発明を適用した場合に、十分な強度が得られない。こうした観点から、C含有量は0.40質量%以上とする必要がある。好ましい下限は0.45質量%で、さらに好ましい下限は0.48質量%である。しかしながら、C含有量が過剰になると、強度が過剰になり被削性及び製造性が劣化する。こうした観点から、C含有量は0.60質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.58質量%であり、より好ましい上限は0.56質量%である。
【0017】
[Si:0質量%超、1.0質量%以下]
Siは、鋼溶製時の脱酸元素として有用であると共に、鍛造品の耐力を高めるためにも有用な元素である。しかしながら、Siは引張強さも同時に高め、含有量が過剰になると、被削性が劣化し得る。また、圧延、鍛造後のスケールが増加し、工具摩耗の原因となり得る。そのため、Si含有量は1.0質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.9質量%であり、より好ましい上限は0.7質量%である。
【0018】
[Mn:0.7質量%超、1.5質量%以下]
Mnは、固溶強化及び組織強化よって部品の耐力を確保することができる。そのため、Mn含有量は、0.7質量%超とする。Mn含有量の下限は、好ましくは0.75質量%であり、より好ましくは0.80質量%である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、焼入れ性が向上し、大型部品における熱間鍛造後の通常の冷却条件でもベイナイトなどの過冷組織が生成し、却って耐力が低下してしまう。こうした観点から、Mn含有量は1.5質量%以下とする必要がある。好ましい上限は1.2質量%であり、より好ましい上限は1.0質量%である。
【0019】
[S:0質量%超、0.20質量%以下]
Sは快削性元素であり、鋼中にほとんど固溶せず、切り屑への応力集中の効果により被削性を高める効果を持つ。過剰なSは、連続鋳造時の表面割れ及び熱間鍛造割れ、疲労強度低下、欠けの誘発の原因となり得るので、S含有量は0.20質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.070質量%であり、より好ましい上限は0.050質量%である。
【0020】
[Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下]
Crは、固溶強化及び組織強化によって部品の耐力を確保することができる。Cr含有量が少なすぎると耐力が低下し、特に大型部品に本発明を適用した場合に、十分な耐力が得られない。そのため、Cr含有量の下限は0.5質量%であり、好ましくは0.6質量%であり、より好ましくは0.7質量%である。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、焼入れ性が向上し、大型部品における熱間鍛造後の通常の冷却条件でもベイナイトなどの過冷組織が生成し、却って耐力が低下してしまう。こうした観点から、Cr含有量は1.5質量%以下とする必要がある。好ましい上限は1.2質量%であり、より好ましい上限は1.0質量%である。
【0021】
[N:0質量%超、0.008質量%以下]
Nは不可避的不純物であり、通常の製鋼技術では約0.003質量%以上は混入し得る。N含有量が過剰になると、熱間加工性を阻害し、製造性が劣化する。こうした観点から、N含有量は0.008質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.007質量%であり、より好ましい上限は0.006質量%である。
【0022】
[V:0.30質量%以上、0.38質量%以下]
Vは、強度の確保に必要な元素である。V含有量が少なすぎると耐力が低下し、特に大型部品に本発明を適用した場合に、十分な耐力が得られない。そのため、V含有量は0.30質量%以上とする必要がある。好ましい下限は0.31質量%で、さらに好ましい下限は0.32質量%である。しかしながら、V含有量が過剰になると、上記の効果が飽和し、添加コストに見合わなくなる。また、V含有量が過剰になると、焼入れ性が向上し、大型部品における熱間鍛造後の通常の冷却条件でもベイナイトなどの過冷組織が生成し、却って耐力が低下してしまう。さらに、V含有量が過剰になると、鋳造法として連続鋳造法を採用した場合に、連続鋳造性(耐表面割れ)も低下する。こうした観点から、V含有量は0.38質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.37質量%であり、より好ましい上限は0.36質量%である。
【0023】
[Ti:0.001質量%以上、0.030質量%以下]
Tiは、鋼中で窒化物を形成する(すなわち、鋼中の固溶N量を減少させる)ことで、連続鋳造性を改善する重要な元素であり、Ti含有量は0.001質量%以上とする必要がある。好ましい下限は0.0012質量%で、さらに好ましい下限は0.0015質量%である。しかしながら、Ti含有量が過剰になると、硬質介在物を形成し被削性を劣化させてしまう。こうした観点から、Ti含有量は0.030質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.025質量%であり、より好ましい上限は0.020質量%である。
【0024】
[P:0質量%超、0.20質量%以下]
Pは、鋳造法として連続鋳造法を採用した場合に、連続鋳造時の表面割れなどの鋳造欠陥を誘発する場合がある。こうした観点から、P含有量は0.20質量%以下とする。P含有量は、好ましくは0.10質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。
【0025】
[Al:0質量%超、0.1質量%以下]
Alは、鋼溶製時の脱酸元素として有用である。また、適当な量のAlを添加することで、被削性に有効なAl-Si-Caの複合酸化物を形成する。こうした観点から、Alを好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量以上添加する。しかしながら、過剰になるとAl単独の硬質な酸化物を形成し被削性が悪化する。こうした観点から、Al含有量は0.1質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.05質量%であり、より好ましい上限は0.03質量%である。
【0026】
[必要に応じて、Cu:0質量%超、0.05質量%以下、Ni:0質量%超、0.1質量%以下、Mo:0質量%超、0.1質量%以下及びCa:0質量%超、0.01質量%以下からなる群から選択される1種以上]
本発明の実施形態に係る鋼材及び当該鋼材を用いて製造される部品は、必要に応じて、Cu、Ni、Mo及びCaからなる群から選択される1種以上を含む。以下に、これらの元素について説明する。
【0027】
[Cu:0質量%超、0.05質量%以下]
Cuは、鋼材の焼入れ性を向上させることで安定した部品の強度を得ることができる。こうした観点から、Cuを好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量以上添加してもよい。しかしながら、Cu含有量が過剰になると、熱間加工性を阻害し、製造性が劣化し得る。こうした観点から、Cuを添加する場合、Cu含有量は0.05質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.04質量%であり、より好ましい上限は0.03質量%である。
【0028】
[Ni:0質量%超、0.1質量%以下]
Niは、鋼材の焼入れ性を向上させることで安定した部品の強度を得ることができる。こうした観点から、Niを好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量以上添加してもよい。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、強度が過剰に高くなり、被削性を劣化させ得る。こうした観点から、Niを添加する場合、Ni含有量は0.1質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.05質量%であり、より好ましい上限は0.03質量%である。
【0029】
[Mo:0質量%超、0.1質量%以下]
Moは、鋼材の焼入れ性を向上させることで安定した部品の強度を得ることができる。こうした観点から、Moを好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上添加してもよい。しかしながら、Mo含有量が過剰になると、強度が過剰に高くなり、被削性を劣化させ得る。こうした観点から、Moを添加する場合、Mo含有量は0.1質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.05質量%であり、より好ましい上限は0.03質量%である。
【0030】
[Ca:0質量%超、0.01質量%以下]
Caは快削性元素であり、ベラーグ(工具保護膜)生成などの効果により被削性を高める効果を持つ。また、硫化物系介在物を球状化して脆化を促進する効果も持つ。こうした観点から、Caを好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0003質量以上添加してもよい。しかしながら、Caを過剰に添加しても該効果が飽和し、コスト上昇を招く。こうした観点から、Caを添加する場合、Ca含有量は0.01質量%以下とする必要がある。好ましい上限は0.004質量%であり、より好ましい上限は0.003質量%である。
【0031】
[残部]
本実施形態では、残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Snなど)の混入が許容される。なお、例えばPのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避的不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避的不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
【0032】
本発明の実施形態ではさらに、下記式(1)及び式(2)を満たさなければならない。
なお、下記式(1)及び式(2)における[Mn],[Cr],[V],[N]及び[Ti]は、Mn,Cr,V,N及びTiの各含有量(質量%)を示す。
【0033】
[0.5×[Mn]+0.3×[Cr]+0.9×[V]<1.03・・・(1)]
式(1)は、焼入れ性(ベイナイトの発生のし易さ)を表す式である。式(1)中のMn、Cr及びVは、焼入れ性への影響が特に大きい元素である。また、[Mn]、[Cr]及び[V]の各係数「0.5」、「0.3」及び「0.9」は、本発明者らが鋭意検討して実験的に求めたものである。式(1)の値が大きすぎると、焼入れ性が過剰に増大し、大型部品における熱間鍛造後の通常の冷却条件でもベイナイトのような過冷組織が生成し得る。その結果、耐力が低下し得る。そのため、式(1)の値は、1.03未満、好ましくは1.00以下、さらに好ましくは0.99以下とする。また、式(1)の値は、実験結果より、0.90より大きいことが好ましい。より好ましくは、0.91以上である。
【0034】
[[V]×([N]-[Ti]×14.0/47.9)<0.0015・・・(2)]
鋳造法として連続鋳造法を採用した場合の連続鋳造工程における表面割れは、1000℃~800℃における絞り値の低下が原因である。部品強度確保のためVを増量すると、800℃付近において特に著しく絞り値が低下し、表面割れのリスクが増大する。これは、800℃付近でVにNが結合し、粒界に沿ってV窒化物(或いはV炭窒化物)が析出し、粒界を脆化させるためと考えられる。
【0035】
本発明者らが鋭意研究した結果、表面割れは、Vと結合しようとする固溶NをTiと結合させてTiNとして減少させることにより、著しく改善し得ることが分かった。さらに、Tiと結合しなかった固溶N量(=[N]-Ti×14.0/47.9)とV含有量(=[V])との関係が、式(2)を満たすと、表面割れのリスクをさらに低下させることが分かった。なお、式(2)を満たすと表面割れのリスクを低下させることができるが、副次的な効果として、内部割れのリスクも低下させることができる。また、式(2)中の数値「14.0」は、Nの原子量である。また、式(2)中の数値「47.9」は、Tiの原子量である。つまり、式(2)中の「[N]-Ti×14.0/47.9」は、Tiと結合しなかった固溶N量を表す。
【0036】
以上説明したように、式(2)は、連続鋳造工程における表面割れのリスクを表す式である。式(2)の値が高すぎると、連続鋳造工程で表面割れが発生するリスクが高まるため、式(2)の値は、0.0015未満とし、好ましくは0.0014以下、さらに好ましくは0.0013以下とする。式(2)の下限は、特に限定されない。
【0037】
2.金属組織
以下に本発明の実施形態に係る熱間鍛造非調質部品の金属組織について説明する。
【0038】
[初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上]
Vの析出硬化を積極的に活用するためには少なくとも初析フェライトとパーライトが主体の組織でなければならない。ベイナイトなどの過冷組織の析出で強度(0.2%耐力)が低下してしまう。したがって、組織全体に対する初析フェライトとパーライトの分率は、90%以上とする。好ましくは、95%以上であり、さらに好ましくは97%以上とする。最も好ましくは100%である。初析フェライトとパーライト以外の残部組織は、例えばベイナイトである。なお、後述する高周波焼入れを部品表面のみに施す場合、高周波焼入れが施された表面以外の部分(例えば、部品の中心部)は、上記所望の金属組織を有している。
【0039】
3.機械的特性
本発明の実施形態に係る熱間鍛造非調質部品は、0.2%耐力が820MPa以上である。0.2%耐力は、好ましくは840MPa以上、より好ましくは860MPa以上である。0.2%耐力の測定方法は、後述する。
【0040】
4.製造方法
次に本発明の実施形態に係る熱間鍛造非調質部品の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の実施形態に係る熱間鍛造非調質部品の製造方法は、上述の化学成分組成を有する鋼を、鋳造、熱間圧延(分塊圧延)、熱間鍛造及び機械加工する工程を含む。
【0042】
(鋳造、熱間圧延)
鋳造方法は、連続鋳造法が好ましい。本発明は、連続鋳造法を採用した場合に、発明の効果を最大限に発揮することができる。しかし、上記所望の金属組織を有する部品を得られるのであれば、鋳造方法は、連続鋳造法以外の方法を採用してもよい。また、鋳造条件は特に限定されず、通常の条件とすればよい。熱間圧延条件も特に限定されず、通常の条件とすればよい。また、熱間圧延による加工は、熱間圧延に代えて、熱間鍛造によって行ってもよい。以上のようにして、本発明の実施形態に係る部品に用いられる鋼材が製造される。
【0043】
製造される鋼材の形状は、丸棒、角棒などの任意の形状とすることができる。丸棒の場合、好ましくは直径50mm以上、より好ましくは直径70mm以上である。また、角棒の場合、好ましくは一片40mm以上、より好ましくは一片60mm以上である。
【0044】
(熱間鍛造)
続いて、上記熱間圧延後の鋼材を熱間鍛造する。熱間鍛造の加熱温度は、1000℃~1300℃とすることが好ましい。熱間鍛造を行うに当たっての加熱温度が低いと、上記所望の金属組織が得られない場合がある。そのため、加熱温度の下限は、1100℃とすることがより好ましく、更により好ましくは1150℃とする。一方、加熱温度は高いほど良いが、エネルギーコストの上昇を抑制する観点から、加熱温度の上限は1275℃とすることがより好ましく、更により好ましくは1250℃とする。
【0045】
熱間鍛造後の冷却は、例えば、衝風冷、放冷などの鍛造後冷却方法を採用する。等温変態などの特殊な熱処理及び加工は、設備コストを増大させる要因となるため、好ましくない。冷却速度は遅すぎると初析フェライトが増えすぎてしまい、強度が低下するため、少なくとも800℃~500℃の領域を0.3℃/秒以上とする。好ましくは0.4℃/秒以上であり、さらに好ましくは0.5℃/秒以上である。また、冷却速度は速いほど強度が向上するが、速すぎるとベイナイトが析出してしまい、V強化型非調質鋼では却って強度が低下してしまう。そのため、冷却速度は、少なくとも800℃~500℃の領域を1.0℃/秒未満とする。好ましくは0.9℃/秒以下であり、さらに好ましくは0.8℃/秒以下である。なお、熱間鍛造後の加熱温度~800℃の領域の冷却速度は、特に限定されないが、例えば0.1℃/秒~3.0℃/秒程度である。
【0046】
(機械加工)
冷却後の鍛造材を機械加工することにより、所定形状の部品が製造される。機械加工は、切削加工等の既知の方法を採用することができる。大型部品に本発明を適用した場合、製造される部品の厚みは、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上である。
【0047】
(高周波焼入れ)
本発明の実施形態に係る部品は、上記機械加工後に焼入れ及び焼戻し処理が行われなくても(すなわち非調質でも)、高強度及び高靱性の特性を得られる。しかし、本発明の実施形態では、部品表面のみに高周波焼入れ(部分高周波焼入れ)をさらに施してもよい。高周波焼入れにより、表面のみに焼入れを施し、さらに部品表面に圧縮残留応力を付与して、強度をさらに高めることができる。高周波焼入れは、強度を高めるため、非調質部品に対して従来から行われてきたプロセスである。高周波焼入れの条件は、従来の条件を採用することができる。また、高周波焼入れ後の部品表面の焼入れ深さは、0.5~4.0mmであることが好ましい。
【0048】
以上説明した本発明の実施形態に係る熱間鍛造非調質部品の製造方法に接した当業者であれば、試行錯誤により、上述した製造方法と異なる製造方法により本発明に係る熱間鍛造非調質部品を得ることができる可能性がある。
【実施例】
【0049】
1.サンプル作製
小型溶解炉(容量150kg/1ch)を用いて、表1に示す化学成分組成の鋼種A~D,F~Iを通常の溶製方法に従って溶解し、鋳造した。鋳造は、鋳片上部の直径がφ245mm、鋳片下部の直径がφ210mmであり、鋳片の高さが480mmとなるような鋳型に、溶解した金属を流しこんで鋳片を作製した。その後、加熱温度1200℃にて分塊圧延に相当する熱間鍛造を行ない、一辺:20~40mmの角棒(以下、この角棒を「試験用角棒」と呼ぶ)を得た。これらの角棒の一部から切削加工により所定の試験片形状に加工し、連続鋳造を行っていた場合の連続鋳造性の表面割れにおける指標として、後述する高温延性試験を行った。なお、表1に示されている「-」は、対応する元素が、含有されていないまたは不純物レベルで含有されている可能性があることを示している。
【0050】
続いて、高温延性試験を行わなかった残りの角棒を長手方向に対して垂直に切断し、長さ100mmの角棒とした。40mm角の角棒は1250℃で60分間保持後、炉から取出し、すぐに圧延方向に対して垂直な方向に60%圧縮のプレス鍛造(熱間圧延後で機械加工前に実施する熱間鍛造に相当)を実施した。その後、800℃~500℃の領域を0.7~0.8℃/秒で放冷により冷却をし、さらに常温まで冷却して、サンプルを作製した。また、20mm角の角棒は1250℃で10分間保持後、炉から取出し、すぐに圧延方向に対して垂直な方向に60%圧縮のプレス鍛造(熱間圧延後で機械加工前に実施する熱間鍛造に相当)を実施した後、800℃~500℃の領域を2.0℃/秒で放冷により冷却をし、さらに常温まで冷却して、サンプルを作製した。なお、後述する表2のNo.1~8が40mm角の角棒を使用し、No.9が20mm角の角棒を使用した。表1及び後述する表2において、下線を付した数値は、本発明の実施形態の範囲から外れていることを示している。
【0051】
2.高温延性試験
連続鋳造を行っていた場合の連続鋳造性を評価するため、高温延性試験を行った。具体的には、上記分塊圧延に相当する熱間鍛造を行った後の試験用角棒の長手方向中央部で、且つ厚さ方向の中央部、幅方向の中央部を満たす部位から鋼を採取し、平行部がφ6mm×15mmで、つかみ部を加えた全長が68mmになるように加工した。長手方向は、試験片の長手方向と試験用角棒の長手方向が一致するようにし、引張力を印加する向きも同一の向きとした。高温延性試験は、Ar雰囲気中で1300℃に一旦加熱保持後、800℃に保持した状態において定歪速度0.01mm/秒で引張力を試験片が破断するまで与えた。破断後は冷却し、試験片の破断後の絞り値(800℃絞り値)を計測した。そして、絞り値が18%以上のものを合格とした。合格サンプルは、連続鋳造により鋳造した場合に、表面割れのリスクが低く、連続鋳造性が高いサンプルである。試験結果を表2に示した。
【0052】
3.引張試験
上記作製したサンプルの長手方向の中央部で、且つ厚さ方向の中央部、幅方向の中央部を満たす部位から鋼を採取し、JIS Z 2241(2005)に示される14B号試験片に加工した。試験片の長手方向は、角棒の長手方向と一致する向きとし、引張力を印加する向きも同一の向きとした。引張試験は、JIS Z 2241 (2005)に従い、常温で実施し、一般的に高強度と言われる0.2%耐力が820MPa以上のものを合格とした。試験結果を表2に示した。
【0053】
4.組織評価
上記作製したサンプルを切削し、長手方向の中央部で、且つ厚さ方向の中央部、幅方向の中央部を満たす部位が観察できるように、長手方向に垂直な断面から試験片を採取した。この試験片の表面を鏡面研磨した後、ナイタールで腐食させて組織観察用試験片を用意した。そして光学顕微鏡を用い、1視野の写真サイズ:9cm×7cmとして400倍で撮影し、得られた写真(1視野の視野領域の全領域)から、初析フェライト、パーライト及びベイナイトそれぞれの分率(面積率)の測定を行なった。各分率の測定は、フェライト、バーライト部分を着色し、着色された金属組織の画像をもとに、画像解析ソフト(「粒子解析III for Windows. Version3.00」、SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製)を用いて着色された部分の面積率を求めた。そして、それぞれの組織分率は、試験片表面における任意の5視野から測定し、その平均値を計算した。試験結果を表2に示した。
【0054】
【0055】
【0056】
表2の結果を考察する。
サンプルNo.1,2は、本発明の実施形態における要件を全て満足する発明例である。すなわち、サンプルNo.1は、本発明の実施形態における化学成分組成及び式(1)を満足し、かつ初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上であったため、0.2%耐力が820MPa以上で高強度であった。さらに、サンプルNo.1は、式(2)を満足したため、800℃絞り値が18%以上であり、連続鋳造性に優れるサンプルであった。また、サンプルNo.2は、本発明の実施形態における化学成分組成及び式(1)を満足し、かつ初析フェライトとパーライトが占める面積率が90%以上であったため、0.2%耐力が820MPa以上で高強度であった。
【0057】
一方、サンプルNo.3~9は、本発明の実施形態における要件のいずれかを満足しない比較例である。
すなわち、サンプルNo.3,4は、式(1)を満たさなかったため、焼入れ性が増大し、ベイナイトが多量に生成した。その結果、0.2%耐力が劣っていた。
サンプルNo.5は、C含有量が低かったため、0.2%耐力が劣っていた。
サンプルNo.6は、Cr含有量が低かったため、0.2%耐力が劣っていた。
【0058】
サンプルNo.7は、Tiが未添加で式(2)を満たさなかったため、800℃絞り値が18%未満であり、連続鋳造性が劣っていた。
サンプルNo.8は、C、Cr及びVの各含有量が低かったため0.2%耐力が劣ると推定されるサンプルであるが、式(2)を満足したため、800℃絞り値は18%以上であり、連続鋳造性は良好であった。
サンプルNo.9は、式(1)を満たすものの、熱間鍛造後の冷却速度が速すぎたため、ベイナイトが多量に生成し、0.2%耐力が劣ると推定されるサンプルである。
【0059】
図1は、C、Cr及びVの各含有量が本発明の実施形態の範囲内にある鋼種A,B,C,DおよびHにおける式(1)と0.2%耐力との関係を示したグラフである。
図1から分かるように、式(1)を満たすことにより、0.2%耐力が820MPa以上となり、高強度となることが分かる。また、
図2は、式(2)と高温延性試験における絞り値との関係を示したグラフである。
図2から分かるように、式(2)を満たすことにより、絞り値が18%以上となり、連続鋳造性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の熱間鍛造非調質部品は、熱間鍛造後の冷却速度が遅い太物部品、例えば、車両などに用いられるエンジン部品(クランクシャフト等)、足回り部品(ロアアーム)などに特に有用である。