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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】乾燥収縮ひずみの推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
G01N33/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019047558
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020148678
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三谷 裕二
(72)【発明者】
【氏名】面来 洋児
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-173400(JP,A)
【文献】特開2018-200293(JP,A)
【文献】特開2019-020306(JP,A)
【文献】特開2014-020866(JP,A)
【文献】特開2012-107994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)および(B)の工程を経て取得した乾燥収縮ひずみの終局値に、表1に記載のセメントの種類に応じて選択した係数を乗じて得た値を、JIS A 1129-1、JIS A 1129-2、またはJIS A 1129-3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみの値として推定する、乾燥収縮ひずみの推定方法(ただし、推定対象のコンクリートの骨材と下記供試体の骨材は同一である。)
(A)2個以上のレーザー変位計、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を支持するための正三角形の3つの頂点または正方形の4つの頂点を形成するように配置してなる支持部材、および、該支持部材の一部を埋設してなる台座、を少なくとも含む、乾燥収縮ひずみ測定装置の前記支持部材上に、円板状または四角板状の供試体の中心が、前記支持部材が形成する正三角形または正方形の中心と一致するように載置する、供試体の載置工程
(B)該供試体の周囲の側面に、レーザー変位計からレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定し、該距離が一定に達した時点の供試体の乾燥収縮ひずみを、該供試体の乾燥収縮ひずみの終局値として取得する、乾燥収縮ひずみの終局値の取得工程
[表1]
【請求項2】
2~4個の前記レーザー変位計を、前記支持部材が形成する正三角形または正方形の中心から等間隔の位置に、レーザー照射面を該中心に向けて配置してなる、請求項1に記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
【請求項3】
2~6個の前記レーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが60~300°の角度で交差するように配置してなる、請求項1または2に記載の乾燥収縮ひずの推定方法。
【請求項4】
前記供試体の厚さが5~20mmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
【請求項5】
前記支持部材上に前記供試体を載置したままの状態で、前記供試体を乾燥する、請求項1~4のいずれか1項に記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト硬化体、コンクリート、およびモルタル(以下「セメント質硬化体」という。)の、JIS A 1129-1、JIS A 1129-2、またはJIS A 1129-3(以下「JIS A 1129-1~3」という。)に準拠して測定した、乾燥期間が6か月における乾燥収縮ひずみの値を早期に推定する、乾燥収縮ひずみの推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント質硬化体の乾燥収縮ひずみを測定する方法は、JIS A 1129-1に規定するコンパレータを用いる方法、JIS A 1129-2に規定するコンタクトゲージを用いる方法、およびJIS A 1129-3に規定するダイヤルゲージを用いる方法がある。しかし、これらの方法はいずれも、乾燥期間が6か月における乾燥収縮ひずみの値を得るのに、6か月もの長期間を要するほか、所定の期間毎に、10cm×10cm×40cmの供試体(セメント質硬化体)の長さを測定しなければならず、測定作業に手間がかかった。
【0003】
そこで、特許文献1では、コンクリートの乾燥収縮ひずみを、早期に評価する方法が提案されている。該方法は、温度80℃における乾燥期間28日目の乾燥収縮ひずみの実測値と、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値との関係式、または、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値と、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値との関係を、それぞれ一次式で近似した関係式を用いて、任意の長期材齢におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみを早期に評価する方法である。しかし、この方法では、関係式を得るのに手間がかかるほか、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値と、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値との関係が線形でない場合は、評価の精度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-20866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、JIS A 1129-1~3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみの値を早期に推定する、乾燥収縮ひずみの推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的にかなう乾燥収縮ひずみの推定方法を鋭意検討した結果、特定の乾燥収縮ひずみ測定装置を用いて測定した乾燥収縮ひずみの終局値に特定の係数を乗ずれば、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する乾燥収縮ひずみの推定方法である。
【0007】
[1]下記(A)および(B)の工程を経て取得した乾燥収縮ひずみの終局値に、表1に記載のセメントの種類に応じて選択した係数を乗じて得た値を、JIS A 1129-1、JIS A 1129-2、またはJIS A 1129-3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみの値として推定する、乾燥収縮ひずみの推定方法(ただし、推定対象のコンクリートの骨材と下記供試体の骨材は同一である。)
(A)2個以上のレーザー変位計、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を支持するための正三角形の3つの頂点または正方形の4つの頂点を形成するように配置してなる支持部材、および、該支持部材の一部を埋設してなる台座、を少なくとも含む、乾燥収縮ひずみ測定装置の前記支持部材上に、円板状または四角板状の供試体の中心が、前記支持部材が形成する正三角形または正方形の中心と一致するように載置する、供試体の載置工程
(B)該供試体の周囲の側面に、レーザー変位計からレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定し、該距離が一定に達した時点の供試体の乾燥収縮ひずみを、該供試体の乾燥収縮ひずみの終局値として取得する、乾燥収縮ひずみの終局値の取得工程
[表1]
[2]2~4個の前記レーザー変位計を、前記支持部材が形成する正三角形または正方形の中心から等間隔の位置に、レーザー照射面を該中心に向けて配置してなる、前記[1]に記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
[3]2~6個の前記レーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが60~300°の角度で交差するように配置してなる、前記[1]または[2]に記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
[4]前記供試体の厚さが5~20mmである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
[5]前記支持部材上に前記供試体を載置したままの状態で、前記供試体を乾燥する、前記[1]~[4]のいずれかに記載の乾燥収縮ひずみの推定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乾燥収縮ひずみの推定方法は、JIS A 1129-1~3に準拠して測定した、セメント質硬化体の乾燥期間6か月における乾燥収縮のひずみを、早期に精度よく推定できる。また、本発明で用いる供試体は、JIS A 1129-1~3で用いる供試体に比べ小さく、供試体を動かすなどの作業が容易なため、乾燥収縮ひずみの測定作業の労力を大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】2個のレーザー変位計を、対向して配置してなる乾燥収縮ひずみ測定装置の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
図2】2個のレーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが90°の角度で交差するように配置してなる、乾燥収縮ひずみ測定装置の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、紙面に対し後方に位置するレーザー変位計の記載は省略した。
図3】4個のレーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが90°の角度で交差するように配置してなる、乾燥収縮ひずみ測定装置の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、紙面に対し前方および後方に位置するレーザー変位計は省略した。
図4】乾燥収縮ひずみ測定装置に、供試体を載置した様子を示す写真である。なお、(A)の台座の中心にあるピンは支持部材ではなく、台座を固定するためのネジである。
図5】実施例の各コンクリート供試体の乾燥収縮ひずみの経時変化を示す図であり、(N)は普通ポルトランドセメント、(BB)は高炉セメントB種、(M)は中庸熱ポルトランドセメント、(L)は低熱ポルトランドセメント、(SR)は収縮低減剤を含むコンクリート供試体の乾燥収縮ひずみ、(EX)は膨張材含有セメント、および(FA30)はフライアッシュセメントC種を用いたコンクリート供試体の乾燥収縮ひずみ、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、前記(A)および(B)の工程を経て取得した乾燥収縮ひずみの終局値に、表1に記載のセメントの種類に応じて選択した係数を乗じて得た値を、JIS A 1129-1~3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみの値として推定する、乾燥収縮ひずみの推定方法である。
以下、本発明について、乾燥収縮ひずみ測定装置、乾燥収縮ひずみの測定と乾燥収縮ひずみの終局値の取得、および、乾燥収縮ひずみの推定方法に分けて詳細に説明する。
【0011】
1.乾燥収縮ひずみ測定装置
該装置は、図1~4に例示するように、(A)2個以上のレーザー変位計、(B)乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を支持するための正三角形の3つの頂点または正方形の4つの頂点を形成するように配置してなる支持部材、および、(C)該支持部材の一部を埋設してなる台座を、少なくとも含む装置である。
【0012】
(A)レーザー変位計
本発明で用いるレーザー変位計は、特に制限されず、反射型や透過型等の市販のレーザー変位計が挙げられる。ちなみに、図4に示す4個のレーザー変位計4は、反射型である。
本発明では、乾燥収縮ひずみの測定精度が向上するため、レーザー変位計を2個以上設置する。レーザー変位計が1個では、乾燥収縮ひずみの測定精度が低下するおそれがある。また、レーザー変位計を増やせばデータ数が増え、その分、さらに測定精度が向上するが、装置はコスト高になる。したがって、本発明において、レーザー変位計は、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個設置する。
レーザー変位計は、乾燥収縮ひずみの測定精度が向上し、また、供試体の載置が容易なため、好ましくは、支持部材が形成する正三角形または正方形の中心から等間隔の位置に、レーザー照射面を該中心に向けて設置する。また、乾燥収縮ひずみの測定精度がさらに向上するため、より好ましくは、2~6個の前記レーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが60~300°の角度で交差するように配置する。
レーザー変位計を設置する態様は、レーザー変位計を2個設置する場合、例えば、図1に示すように、レーザー変位計を対向して設置するか、図2に示すように、レーザーが90°の角度で交差するように設置し、また、レーザー変位計を4個設置する場合、図3に示すように、2組のレーザー変位計を対向して設置する。
【0013】
(B)支持部材
支持部材は、供試体を台座から離して、供試体と台座の間に空間を設けるために用いる。この空間を設けることにより、供試体は均質かつ早期に乾燥するため、乾燥収縮ひずみの終局値を早期に測定できる。支持部材の形状は、特に制限されず、図1等に示す球状や柱状等が挙げられる。なお、支持部材が柱状の場合、供試体と点で接触するように、好ましくは、供試体に接する支持部材の面を半球状にする。
また、支持部材の数は、3点以上あれば供試体を安定して載置できるが、支持部材が多すぎると、装置の製造に手間がかかるため、支持部材の数は、好ましくは3~4個である。また、前記支持部材は、供試体を安定して載置するためには、好ましくは正三角形または正方形を形成するように設置する。図1~3は、支持部材5が正方形を形成するように、支持部材を設置した例である。なお、前記支持部材は、熱や衝撃による変形を防ぐため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0014】
(C)台座
台座は、支持部材の一部(下部)を埋設して固定してなるものである。ちなみに、図1~3に示す台座2は正方形の板状である。また、測定精度を向上させるため、台座は水平に保たれていることが好ましい。なお、前記台座は、熱や衝撃による変形を防ぐため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0015】
(D)供試体載置補助治具
本発明で用いる乾燥収縮ひずみ測定装置では、支持部材上への供試体の載置を容易にするため、供試体載置補助治具を用いてもよい。該供試体載置補助治具は、図4に示すような、台座の外側に設置された2本のピンが挙げられる。図4の乾燥収縮ひずみ測定装置の支持部材上に、例えば、直径10cmの円板状の供試体を載置する場合、前記2本のピンと接触するように前記供試体を支持部材上に載置すれば、供試体の中心と支持部材が形成する正方形の中心が一致するように供試体を載置できる。
なお、供試体載置補助治具は、台座上に設置しても良いし、図4に示すように台座の外側に設置しても良い。また、供試体載置補助治具は、熱や衝撃による変形を防ぐため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0016】
本発明で用いる乾燥収縮ひずみ測定装置は、図1~4に示すように、2個以上のレーザー変位計、台座、および、供試体の載置を容易にするために必要に応じて供試体載置補助治具を、一体化して構成することが好ましい。この場合、レーザー変位計と台座を設置するための基盤は、熱や衝撃による変形を防ぐため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0017】
2.乾燥収縮ひずみの測定と乾燥収縮ひずみの終局値の取得
本発明において乾燥収縮ひずみの測定は、まず、前記乾燥収縮ひずみ測定装置の台座上に、円板状または四角板状の供試体を載置する(供試体の載置工程)。
本発明では、(1)別の場所で乾燥している供試体を、所定の乾燥期間毎に台座上に載置して、乾燥収縮ひずみを測る方法と、(2)台座上に供試体を載置したままの状態で、供試体を乾燥して、所定の乾燥期間毎に、乾燥収縮ひずみを測る方法、のいずれも可能であるが、多数の供試体の乾燥収縮ひずみを並行して測定できるため、前記(1)の方法が好ましい。
本発明において、供試体が円板状の場合、供試体の直径は、10~30cmであれば、供試体の製造は容易で、また供試体の乾燥が速くなり好ましい。なお、供試体の直径は、より好ましくは10~20cmである。また、供試体の厚さは、5~20mmであれば供試体は割れ難く、また供試体の乾燥がさらに速くなるため好ましい。なお、供試体の厚さは、より好ましくは6~18mm、さらに好ましくは7~15mm、特に好ましくは8~12mmである。
また、供試体が四角板状の場合、四角板の1辺の長さは、好ましくは10~30cm、より好ましくは10~20cmであり、さらに好ましくは、1辺の長さが10~30cmの正方形、特に好ましくは、1辺の長さが10~20cmの正方形である。1辺の長さが10~30cmであれば、供試体の製造は容易で、また供試体の乾燥が速くなる。また、四角板状の供試体の厚さは、好ましくは5~20mm、より好ましくは6~18mm、さらに好ましくは7~15mm、特に好ましくは8~12mmである。供試体の厚さが5~20mmであれば、供試体は割れ難く、また供試体の乾燥はさらに速くなる。
【0018】
本発明における乾燥収縮ひずみの測定では、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを測る。そして、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離が一定に達した時点の供試体の乾燥収縮ひずみを、該供試体の乾燥収縮ひずみの終局値として取得する(乾燥収縮ひずみの終局値の取得工程)。ここで、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離が一定に達した時点とは、7日間での当該距離の変化量が0.001mm以下になった時点を意味する。
なお、本発明における乾燥収縮ひずみの測定では、乾燥収縮ひずみの測定間隔は任意であるが、乾燥収縮ひずみの終局値を早期に得るためや、測定の手間を軽減するため、好ましくは乾燥期間1~10日毎、より好ましくは乾燥期間1~7日毎である。
【0019】
3.乾燥収縮ひずみの推定方法
本発明の乾燥収縮ひずみの推定方法は、前記(A)および(B)の工程を経て取得した乾燥収縮ひずみの終局値に、表1に記載のセメントの種類に応じて選択した係数を乗じて得た値を、JIS A 1129-1~3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみの値として推定する方法である。
本発明の推定方法によれば、図5に示すとおり、JIS A 1129-1~3に準拠して測定した乾燥期間6か月におけるセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみの値、特に、圧縮強度が18N/mm以上のセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみの値を、100日以内という短期間で精度よく推定できる。
また、本発明の乾燥収縮ひずみの推定方法が適用できるセメント質硬化体の種類は、特に限定されず、普通コンクリートのほか、収縮低減剤または膨張材を含むコンクリート(図5参照)、速硬型コンクリート、軽量コンクリート、および高強度コンクリート等のセメント質硬化体にも適用できる。
また、コンクリートが収縮低減剤を含む場合、収縮低減剤の単位量は、好ましくは12kg/m以下、より好ましくは9kg/m以下、さらに好ましく6kg/m以下であり、また、コンクリートが膨張材を含む場合、膨張材の単位量は、好ましくは30kg/m以下、より好ましくは25kg/m以下、さらに好ましく20kg/m以下である。
また、セメントが高炉セメントである場合、該セメントは、好ましくは高炉セメントA種またはB種である。セメントがシリカフュームを含む場合、セメント中のシリカフュームの含有率は、好ましくは20質量%以下である。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント(太平洋セメント社製)
(i)普通ポルトランドセメント(略号:NC)
(ii)高炉セメントB種(略号:BB)
(iii)中庸熱ポルトランドセメント(略号:MC)
(iv)低熱ポルトランドセメント(略号:LC)
(v)フライアッシュセメントC種(略号:FA)
ブレーン比表面積は3300cm/g、フライアッシュの含有率は30質量%である。
(2)細骨材(略号:S)
山砂(表乾密度2.56g/cm
(3)粗骨材(略号:G)
砂岩砕石(表乾密度2.61g/cm
(4)水(略号:W)
水道水
(5)AE減水剤(略号:LS)
リグニンスルホン酸系AE減水剤、商品名 ポゾリスNo.70[登録商標](BASF社製)
(6)AE剤
商品名 マスターエア404[登録商標](BASF社製)
(7)収縮低減剤(略号:SR)
商品名 テトラガードAS21(太平洋マテリアル社製)
(8)膨張材(略号:EX)
太平洋ハイパーエクスパン(太平洋マテリアル社製)
【0021】
2.乾燥収縮ひずみ測定用の供試体の作製
表2に示す配合に従い、前記の各材料を容量50リッターのパン型ミキサに一括して投入し、2分間混練した後、混練物を内径10cm、高さ20cmの型枠に打設し成形してコンクリートを得た。次に、該コンクリートを20℃で1日間湿空養生した後に脱型し、さらに20℃で7日間水中養生した。水中養生した後、コンクリートの高さ方向の中央部付近を切断して、直径10cm、厚さ10mmの乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を各3個作製した。
なお、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験」に準拠して測定したコンクリートA、D、およびFの材齢28日の圧縮強度は、それぞれ47N/mm、40N/mm、および46N/mmであった。
【0022】
【表2】
【0023】
3.供試体の乾燥収縮ひずみの測定
乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を、図1に示す乾燥収縮ひずみ測定装置の台座に固定した支持部材に、該供試体の中心と支持部材が形成する正方形の中心が一致するように載置したまま、室温20±2℃、相対湿度60±5%の条件で乾燥した。そして、乾燥期間7日毎に、対向する2組のレーザー変位計を用いて、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定して平均値を求め、この平均値と乾燥開始直前におけるレーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離との差を、乾燥開始直前における供試体の直径で除した値を当該供試体の乾燥収縮ひずみとして算出し、さらに、この3個の供試体の乾燥収縮ひずみ(平均値)を平均して、全体の乾燥収縮ひずみを算出した。その結果を表3と図4に示す。
ただし、表3中の数値の意味は以下のとおりである。
(i)「ひずみの終局値 本発明」欄内の数値は、図1の乾燥収縮ひずみ測定装置を用いて測定した乾燥収縮ひずみの終局値を示す。
(ii)「ひずみの終局値 JIS法」欄内の数値は、JIS A 1129-2「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法 第2部:コンタクトゲージ方法」(以下「JIS法」という。)に準拠して測定した、乾燥収縮ひずみの終局値を示す。
(iii)「乾燥期間6か月のひずみの実測値」欄内の数値は、前記JIS法に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみの値(実測値)を示す(比較例)。
(iv)「乾燥期間6か月のひずみの推定値」欄内の数値は、実施例として、乾燥収縮ひずみの終局値に、表1から供試体中のセメントの種類に応じて選択した係数を乗じて得た値(推定値)を示す(実施例)。
【0024】
【表3】
【0025】
表3に示すように、本発明によれば、乾燥収縮ひずみの終局値に、供試体中のセメントの種類に応じて係数を乗じるだけで、JIS法に準拠して測定した乾燥期間6か月の乾燥収縮ひずみの値を、誤差が3.1%以内という高い精度で、労せず早期に推定できる。また、本発明の高い推定精度はセメントの種類に依らないため、汎用性が高い。
【符号の説明】
【0026】
1 供試体
2 台座
4 レーザー変位計(ただし、黒色の矢印はレーザーを示す。)
5 支持部材
図1
図2
図3
図4
図5